(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-27
(45)【発行日】2025-03-07
(54)【発明の名称】プリント基板におけるレーザー加工による切り抜き部あるいは切り欠き部の形成方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/00 20060101AFI20250228BHJP
B23K 26/38 20140101ALN20250228BHJP
【FI】
H05K3/00 N
B23K26/38 Z
(21)【出願番号】P 2021068365
(22)【出願日】2021-04-14
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】512052904
【氏名又は名称】大船企業日本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100767
【氏名又は名称】湯浅 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100141210
【氏名又は名称】藤木 良幸
(72)【発明者】
【氏名】金谷 保彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 和久
(72)【発明者】
【氏名】波多 泉
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/128929(WO,A1)
【文献】特開2015-044230(JP,A)
【文献】特開2018-181938(JP,A)
【文献】特開2016-175100(JP,A)
【文献】特開2019-111809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/00 - 3/46
B23K 26/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント基板において、レーザー加工によって切り抜き部あるいは切り欠き部(以下、「切り抜き部等」という。)を形成するに際して、
該プリント基板上の設計位置に、設計寸法の切り抜き部等を示す加工線(以下、「目標加工線S1」という。)を該プリント基板上に設定し、
該目標加工線S1を基準として、レーザー加工後に製品となる側とは反対側に複数の加工線(以下、「補助加工線S2、…、Sn」といい、nは「目標加工線と補助加工線の合計本数」である。)を設定した上で、
該目標加工線S1及び補助加工線S2、…、Snにおいて、互いに隣接する目標加工線S1及び補助加工線S2、…Sn-1、Sn間の各離間距離(以下、「シフト量」という。)を、該補助加工線Sn、Sn-1、…、S2、から目標加工線S1へとレーザー光を順次照射することで形成される各縦断面略V字形状の溝において、隣接する縦断面略V字形状の溝をなすテーパ面のうち、隣り合うテーパ面同士が重複する範囲とするものであって、
当該補助加工線S2、…、Sn-1、Snのうち目標加工線S1から最も離れた補助加工線Snの位置から目標加工線S1の位置へと順次レーザー加工を行うこと(以下、「1加工サイクル」という。)を反復することで、最終的に目標加工線S1の位置でのプリント基板の切断により、切り抜き部等を形成する
ことを特徴とする、プリント基板におけるレーザー加工による切り抜き部あるいは切り欠き部の形成方法。
【請求項2】
上記プリント基板を載置する下板の表面において、プリント基板に設定された目標加工線S1及び補助加工線S2、…Sn-1、Snの位置の直下に逃げ溝を配設する
ことを特徴とする請求項1記載のプリント基板におけるレーザー加工による切り抜き部あるいは切り欠き部の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、単層又は多層のプリント基板(以下、単に「プリント基板」という。)において、該プリント基板に半田ボール端子の半導体その他電子部品(以下、「半導体等」という。)を実装するために使用する切り抜き部あるいは切り欠き部をレーザー加工によって形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やパーソナルコンピュータ等の電子製品では高性能化とともに、薄型化並びに小型化が進んでいる。
そのため、該電子製品内に取り付けられるプリント基板では、同様に高性能化とともに、特に薄型化並びに小型化が求められることとなった。その結果、該プリント基板に半導体等を実装するに当たって切り抜き部あるいは切り欠き部が用いられるに際しては、より精密な加工が可能となるレーザー加工の方法が用いられるようになった(特許文献1参照)。
特に、プリント基板に実装される半導体等は、その半導体等の実装されたプリント基板全体の薄型化並びに小型化に影響を与えるため、該切り抜き部及び切り欠き部には高い位置精度や寸法精度が必要になるものである。
【0003】
ところが、プリント基板において、所定位置に所定寸法の切り抜き部や切り欠き部をレーザー加工によって形成する場合に、当該所定位置に所定寸法で設定された切断予定線に対してエネルギー強度の低いレーザー光を多数回照射して当該切り抜き部や切り欠き部を形成しようとしても、一定深さ以上には加工ができず、結果的に切り抜き部や切り欠き部が形成できないでいた。そのため、その使用するレーザー光は比較的エネルギー強度の高いものとならざるを得なかった。
しかし、比較的エネルギー強度の高いレーザー光を照射する場合、その照射したレーザー光の熱により、プリント基板の切断部ではプリント基板の基材の加工粉や蒸気が爆発的に発生することとなった。
そのため、プリント基板の切断部では、その切断面が荒れて平滑さが失われるとともに、プリント基板表面に加工粉や蒸気が付着してしまうものとなる。
従って、上記レーザー加工による切断部の切断面が平滑ではないことから、該切り抜き部や切り欠き部に半導体等を実装しようとしても正確な位置に取り付けることができないため、該半導体等に求められる高い位置精度や寸法精度は確保できないものとなっていた。
【0004】
また、上記プリント基板に対するレーザー加工時に、プリント基板だけでなく下板にまでレーザー光が到達することで生じる加工粉や蒸気がプリント基板表面に付着してしまうと、プリント基板又は該プリント基板を取り付ける電子製品の故障を招く恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする課題は、プリント基板において、半導体等を実装するために使用する切り抜き部及び切り欠き部をレーザー加工によって形成する際、レーザー光の熱により切断部における切断面の平滑さが失われるので、プリント基板の切り抜き部や切り欠き部に半導体等が実装された際に求められる高い位置精度や寸法精度を確保できず、しかもプリント基板及び該プリント基板を載置する下板から発生する加工粉や蒸気がプリント基板表面へ付着すると、プリント基板のみならず、該プリント基板を取り付ける電子製品自体の故障を招く恐れがあることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の特徴として、
プリント基板において、レーザー加工によって切り抜き部あるいは切り欠き部(以下、「切り抜き部等」という。)を形成するに際して、
該プリント基板上の設計位置に、設計寸法の切り抜き部等を示す加工線(以下、「目標加工線S1」という。)を設定し、
該目標加工線S1を基準として、レーザー加工後に製品となる側とは反対側に複数の加工線(以下、「補助加工線S2、…、Sn」といい、nは「目標加工線と補助加工線の合計本数」である。)を設定した上で、
該目標加工線S1及び補助加工線S2、…、Snにおいて、互いに隣接する目標加工線S1及び補助加工線S2、…Sn-1、Sn間の各離間距離(以下、「シフト量」という。)を、該補助加工線Sn、Sn-1、…、S2から目標加工線S1へとレーザー光を順次照射することで形成される各縦断面略V字形状の溝において、隣接する縦断面略V字形状の溝をなすテーパ面のうち、隣り合うテーパ面同士が重複する範囲とするものであって、
当該補助加工線S2、…、Sn-1、Snのうち目標加工線S1から最も離れた補助加工線Snの位置から目標加工線S1の位置へと順次レーザー加工を行うこと(以下、「1加工サイクル」という。)を反復することで、最終的に目標加工線S1の位置でのプリント基板の切断により、切り抜き部等を形成するものである。
【0008】
そのため、目標加工線S1から最も離れた補助加工線Snの位置から順次レーザー加工を行うと、照射するレーザー光の中心が最もエネルギー強度が高いので、補助加工線Snの位置では縦断面略V字形状の溝が形成される。
そして、次の補助加工線Sn-1は、該補助加工線Sn-1へレーザー光を照射することで形成される縦断面略V字形状の溝が、補助加工線Snにおいて先にレーザー光が照射されることによって形成される縦断面略V字形状の溝をなすテーパ面のうち、隣り合うテーパ面同士が重複する範囲のシフト量の位置に設定されている。
そのため、補助加工線Sn-1の位置に対してレーザー光を照射すると、補助加工線Sn-1の位置に対するレーザー光の照射によって形成される縦断面略V字形状の溝をなすテーパ面は、補助加工線Snの位置に対するレーザー光の照射によって形成された縦断面略V字形状の溝をなす隣り合うテーパ面と重複しながら合体して、略同様の深さの位置に連続して頂点を有するものの、複数回の加工サイクルを行うことにより、プリント基板内の底面が略平坦状となる縦断面略逆台形形状の溝を形成することになる。
さらに、補助加工線Sn-2の位置から目標加工線S1の位置まで、同様にレーザー光を順次照射すると、順番に略同様の深さの位置に頂点を有する縦断面略逆台形状の溝が形成され、補助加工線Sn側では補助加工線Sn-1とは反対側に、目標加工線S1側では補助加工線S2とは反対側にそれぞれテーパ面を有する縦断面略逆台形状の広幅の溝が形成されることになる。
この縦断面略逆台形状の広幅の溝が形成されることで、上記補助加工線Snの位置から目標加工線S1の位置までのレーザー加工を複数加工サイクル反復することによって、徐々に各加工線Sn、…S1の位置に形成される縦断面略V字形状の溝を深くすることができ、最終的に目標加工線S1の位置においてプリント基板を切断することができる。その際、場合によっては補助加工線Sn、…、S2の位置でもプリント基板の切断が生じることがあるが、それらの切断位置は切り抜き部等として不要な部分となることから、最終的に目標加工線S1の位置でプリント基板が切断されることで、当該プリント基板の所定の設計位置に、設計寸法通りの切り抜き部等が形成されることとなる。
ここで、プリント基板1における切り抜き部等の切断は、上記補助加工線Sn、…、S2及び目標加工線S1に対してレーザー光を順次照射する加工サイクルを反復して行うものである。そのため、1回に照射するレーザー光のエネルギー強度を低くすることで、プリント基板の切断面であるテーパ面の平滑さを確保することができる。
【0009】
目標加工線S1の位置におけるレーザー加工は、補助加工線Sn乃至S2の位置におけるレーザー加工によってプリント基板に形成された縦断面略逆台形状の溝のテーパ面の内、隣り合うテーパ面が重複する範囲での加工となる。そしてその際、それら各線Sn乃至S1の位置に対するレーザー光の照射によってそれぞれ形成されるとともに連続した縦断面略V字形状の溝からなる縦断面略逆台形状の溝は、目標加工線S1の側から見て、補助加工線Sn方向に偏って開口していることとなる。そのため、レーザー光の照射によってプリント基板から発生する加工粉や蒸気は補助加工線Sn側、すなわちプリント基板の切り抜き部等の、製品とはされない側により多く排出される一方で、製品となるプリント基板側では少なくなるので、製品となるプリント基板側にはダレが生じ難く、また該プリント基板表面への加工粉や蒸気の付着を防止することができる。
【0010】
なお、上記補助加工線の本数は、プリント基板の板厚や材質等によっても変わることになるが、主としてレーザー加工に要する作業時間とエネルギーとのバランスから、目標加工線も含めて5~10本が適当である。
すなわち、上記目標加工線及び補助加工線の合計が5本未満であると、レーザー加工の作業時間は短くなるが、補助加工線Snから目標加工線S1へと順次レーザー光を照射した際に形成されることになる縦断面略V字形状の溝における頂点の位置をより深くしなければならず、レーザー光のエネルギー強度を高くする必要があり、切断面の品質が低下してしまい、製品としてのプリント基板に不具合が生じてしまう。
一方、上記目標加工線及び補助加工線の合計が10本を超過すると、目標加工線及び補助加工線間のシフト量は小さくなって、レーザー加工でのレーザー光のエネルギー強度を低くすることができるが、加工サイクルの反復数は増加して作業時間は増大するという欠点が生じる。
【0011】
また、補助加工線Snの位置から目標加工線S1の位置まで順次レーザー光を照射することによって形成される縦断面略逆台形状の溝の底面が、加工サイクルを複数回行うことで略平坦状となるように、上記シフト量は、該補助加工線Sn、Sn-1、…、S2から目標加工線S1へとレーザー光を順次照射することで形成される各縦断面略V字形状の溝において、隣接する縦断面略V字形状の溝をなすテーパ面のうち、隣り合うテーパ面同士が重複する範囲となるように設定する必要がある。
すなわち、各線Sn乃至S1のシフト量が、該補助加工線Sn、Sn-1、…、S2から目標加工線S1へとレーザー光を順次照射することで形成される各縦断面略V字形状の溝において、隣接する縦断面略V字形状の溝をなすテーパ面のうち、隣り合うテーパ面同士が重複する範囲外であると、順次レーザー光を補助加工線及び目標加工線の各位置に照射しても、それぞれ単純にプリント基板の表面の各加工線の位置に対してレーザー光を照射しているに過ぎず、いずれの加工線の位置においても同様の形状、深さの縦断面略V字形状の溝が加工されるに過ぎなくなる。そのため、レーザー光を照射してプリント基板を切断することは不可能となる。
なお、上記シフト量は、レーザー光のエネルギー強度の通常86%を占めるレーザー光のスポット径を基準にして、±30%前後に該当するものである。ここで、該シフト量は加工材の材質によって変動させるものであり、例えば該加工材の材質が硬質であればシフト量を狭く(マイナス側)調整し、また軟質であればシフト量を広く(プラス側)調整する。
【0012】
さらに、レーザー加工における加工サイクルは、プリント基板の板厚や材質等によっても変わることになるが、主としてレーザー加工に要するエネルギー、作業時間、及びプリント基板の切断面での品質とのバランスから、20~100サイクルが適当である。
すなわち、加工サイクルが20サイクル未満になると、レーザー加工に要する作業時間は短くできるが、レーザー加工で照射するレーザー光のエネルギー強度を高くせざるを得なくなり、レーザー光のエネルギー強度を高くすると、切断面の品質が低下してしまい、製品としてのプリント基板に不具合が生じてしまう。一方、加工サイクルが100サイクルを超過すると、レーザー光のエネルギー強度は低くできて、切断面の品質の低下を防止できるが、レーザー加工に要する作業時間が不必要に増大し、製造コストの増大を招来する。
【0013】
第1の特徴を踏まえて、第2の特徴として、
上記プリント基板を載置する下板の表面において、プリント基板に設定される目標加工線S1及び補助加工線S2、…、Snの位置の直下に逃げ溝を配設するものである。
【0014】
そのため、プリント基板を載置する下板の表面において、プリント基板に設定された目標加工線S1及び補助加工線S2、…、Snの位置の直下に逃げ溝が配設されているので、レーザー光が目標加工線S1の位置で最終的にプリント基板を切断した際、あるいは補助加工線Sn、…、S2の位置においてもプリント基板の切断が生じた場合に、下板に照射されて発生する大量の加工粉や蒸気は、該逃げ溝内に収容することができ、プリント基板の切断部からの噴出を抑制することができるものである。
その結果、該加工粉や蒸気がプリント基板表面に付着して、プリント基板のみならず該プリント基板を取り付ける電子製品の故障をも防止できるものである。
【0015】
ここで、下板の表面に配設される逃げ溝の深さ及び幅の寸法は、下板に載置されるプリント基板を吸着、固定する吸入口との干渉、レーザー光の照射によって下板から発生する加工粉や蒸気の量、及び下板にプリント基板を載置した際のズレへの対応との間でのバランスから、各1mm程度が適当である。
すなわち、逃げ溝の深さ及び幅の寸法が1mmより大幅に小さいと、下板に載置されるプリント基板を吸着、固定する吸入口との干渉は少なくなるので、逃げ溝における設計の自由度は高くなるが、レーザー光の照射によって下板から発生した大量の加工粉や蒸気を確実に収容できず、さらに下板にプリント基板を載置した際の、下板とプリント基板とのズレにも対応し難くなるという欠点が生じる。一方、1mmを大幅に超過すると、レーザー光の照射によって下板から発生した加工粉や蒸気は、該逃げ溝に確実に収容できるとともに、下板にプリント基板を載置した際に発生するズレにも確実に対応できるが、下板に配置するプリント基板を吸着、固定する吸入口との干渉が増加し、逃げ溝における設計の自由度が低くなるという欠点が生じる。
【0016】
なお、下板において配置される逃げ溝の幅や深さは、プリント基板に設定された目標加工線及び補助加工線のシフト量から見て、極めて大きな空間と見做すことができ、レーザー光の照射により下板から発生した加工粉や蒸気を十分収容できる可能性があるので、該逃げ溝内に収容された加工粉や蒸気を積極的に外部へ排出する機構は特に必要はないものである。
ただ、プリント基板に切り欠き部を形成する場合には、該切り欠き部の一面はプリント基板の端面ともなるので、該逃げ溝の両端は必然的に開口することとなるため、逃げ溝の両端に開口する排出口から該加工粉や蒸気は外部へ自然に排出されるものとなる。
【発明の効果】
【0017】
本願発明は、プリント基板の切断時に、目標加工線の位置におけるレーザー加工に伴って生じる縦断面略V字形状の溝のテーパ面は、複数の補助加工線の位置におけるレーザー光の照射によって連続して形成された縦断面略V字形状の溝と合体し、結果として縦断面略逆台形状の溝の一部となることから、エネルギー強度の低いレーザー光を多数回照射することによって、レーザー光によるプリント基板の切り抜き部等の形成が可能となり、平滑な切断面を得ることができる。更に、各加工線の位置におけるレーザー光の照射によって該プリント基板から発生する加工粉や蒸気は、製品とはならない側である、補助加工線側に主として排出されるので、製品となるプリント基板の切断面において形成されるテーパ面の平滑さは失われない上、プリント基板表面への加工粉や蒸気の付着を防ぐので、プリント基板の切り抜き部等は設計位置に設計通りに形成されるとともに、プリント基板の故障を防止するものとなる。その結果、高い位置精度で、かつ高い寸法精度をもって半導体等を実装することができるとともに、レーザー加工によって切り抜き部等を形成するプリント基板の歩留まりを向上させることができる優れた効果を有するものである。
【0018】
その上、下板に対してレーザー光が照射された際に、下板から大量の加工粉や蒸気が発生しても、該大量の加工粉や蒸気は下板の逃げ溝内に収容されるので、該加工粉や蒸気がプリント基板の切断部から噴出することが抑制される。その結果、プリント基板の切断面の他、プリント基板表面への加工粉や蒸気の付着を防ぐので、プリント基板のみならず電子製品の故障をも防止できる優れた効果をも有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、切り抜き加工を行うプリント基板の正面図である。
【
図2】
図2は、切り欠き加工を行うプリント基板の正面図である。
【
図4】
図4は、プリント基板に対する加工サイクルを示す模式図である。
【
図5】
図5は、プリント基板において切り抜き部を形成する最終加工サイクルを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
プリント基板に半導体等を実装するために使用する切り抜き部や切り欠き部をレーザー加工によって形成する場合、該プリント基板の設計位置に設計寸法通りに切り抜き部等を形成するために設定された目標加工線を基準として、上記レーザー加工後に製品となる部分の反対側に、該補助加工線から目標加工線へとレーザー光を順次照射することで形成される各縦断面略V字形状の溝において、隣接する縦断面略V字形状の溝をなすテーパ面のうち、隣り合うテーパ面同士が重複する範囲のシフト量を以て複数の補助加工線を設定する。そして、当該目標加工線から最も離れた補助加工線から目標加工線へと、順次レーザー加工を行うことを反復することによって、該レーザー加工によって発生する加工粉や蒸気を補助加工側へ排出しながら最終的に目標加工線でプリント基板を切断して、プリント基板の設計位置に設計寸法通りの切り抜き部及び切り欠き部を形成するものである。
【実施例】
【0021】
図1において示すのは、本願発明のプリント基板におけるレーザー加工による切り抜き部及び切り欠き部の形成方法によって、プリント基板1に半導体等を実装するために使用する切り抜き部2を形成しようとする板厚0.8mmのガラス繊維強化エポキシ樹脂製のプリント基板1である。
【0022】
そして、上記プリント基板1に対して本願発明を実施するにあたり、レーザー加工機(図示せず)内の加工テーブル(図示せず)に、予めプリント基板1を下板9に載置した上で固定し、レーザー光の照射を行うものである。
【0023】
さらに、上記下板9の表面には、プリント基板1に設定される、後述の長方形状に設定された目標加工線S1及び補助加工線S2、…、S5の直下に、同形状に幅及び深さとも1mmの逃げ溝10を配設するものである。
【0024】
そこで、本願発明のプリント基板におけるレーザー加工による切り抜き部及び切り欠き部の形成方法を実施して、上記プリント基板1の設計位置に設計寸法通りの切り抜き部2を形成するに当たっては、次のように行うものである。
【0025】
まず、上記プリント基板1において、設計位置に設計寸法通りに形成される切り抜き部2の形状を指示する目標加工線S1を設定する。
そして、上記目標加工線S1を基準として、レーザー加工によって切り抜き部2として切り抜かれる側、すなわちプリント基板の製品とはならない側に、4本の補助加工線S2、…、S5を設定する。このとき、合わせて5本の目標加工線S1及び補助加工線S2、…、S5の各離間距離であるシフト量は、該補助加工線S5、S4、…、S2から目標加工線S1へとレーザー光を順次照射することで形成される後記各縦断面略V字形状の溝3、4、5、6、7において、隣接する縦断面略V字形状の溝3、4、5、6、7をなすテーパ面3a’、3a”、…、7a’、7a”のうち、隣り合うテーパ面同士3a”と4a’、4a”と5a’、…、6a”と7a’が重複する範囲とする必要があり、本実施例では7μmとするものである。尚、当該シフト量は全て同一の数値としてもしなくともよいが、本実施例においては全て同一とする。
その上で、上記プリント基板1に設定した、合わせて5本の目標加工線S1及び補助加工線S2、…、S5のうち、目標加工線S1から最も離れた補助加工線S5の位置から目標加工線S1の位置へと、順次レーザー加工を行うものである。なお、照射するレーザーはUVレーザ(図示せず)であって、その照射条件は、レーザー光のスポット径を15μm、レーザー周波数を50kHz、エネルギーを100μj、及び加工ピッチを10μmとし、加工サイクルを50回とするものである。
そのため、補助加工線S5の位置では、レーザー光の熱によりプリント基板1から加工粉や蒸気が発生するとともに、レーザー光のうち最もエネルギー強度が高い中心、すなわちレーザー光中心がプリント基板1の最も深い位置にまで到達することで、到達したレーザー光中心を頂点として2つのテーパ面3a’、3a”からなる縦断面略V字形状の溝3が形成される。
その上で、上記補助加工線S4、…、S2及び目標加工線S1の位置に対して順次レーザー加工を行うと、上記補助加工線S4、…、S2及び目標可能線S1の位置においてそれぞれレーザー光が照射されることよって、該レーザー光の中心が略同様の深さの位置にまで到達して行き、この到達したレーザー光の中心を頂点として、同様の縦断面略V字形状の溝4、…、7を形成して行くことになる。その際、補助加工線S5、…、S2及び目標加工線S1間の各シフト量が、該補助加工線S5、S4、…、S2から目標加工線S1へとレーザー光を順次照射することで形成される後記各縦断面略V字形状の溝3、4、5、6、7において、隣接する縦断面略V字形状の溝3、4、5、6、7をなすテーパ面3a’、3a”、…、7a’、7a”のうち、隣り合うテーパ面同士3a”と4a’、4a”と5a’、…6a”と7a’が重複する範囲に設定されていることから、レーザー光の照射によって形成される各々の縦断面略V字形状の溝4、…、7は、その隣接するもの同士合体して、目標加工線S1側から見て、補助加工線S5側に広く開口した、複数回の加工サイクルの行使によって底面が略平坦状である縦断面略逆台形状の溝8が形成されるものとなる。
そして、プリント基板1から切り抜き部2を切り抜くに当たっては、上記補助加工線S5、…、S2及び目標加工線S1に対してレーザー光を順次照射する加工サイクルを50サイクル反復して行う。そのため、1回に照射するレーザー光のエネルギー強度を低くすることで、製品となるプリント基板1の切断面であるテーパ面7a“の平滑さを確保することができる。
また、プリント基板1へのレーザー光の照射によって発生する加工粉や蒸気は、補助加工線S5方向側からより多く排出され、その反対側では少なくなる。その結果、補助加工線S5の位置から目標加工線S1の位置へと順次レーザー加工を行うと、レーザー光の照射によってプリント基板1から発生する加工粉や蒸気は補助加工線S5側、すなわちプリント基板1の切り抜き部2等の、製品とはされない側に主として排出され、製品となるプリント基板1側では極めて少なくなるので、製品となるプリント基板1側の切断面や表面には加工粉や蒸気が付着することはなく、また、それらによって生じるテーパ面のダレ12も、製品とはされない側のテーパ面3a’に専ら生じることとなる。その結果、最終的に目標加工線S1の位置でプリント基板1が切断されると、上記テーパ面7a”を切断面として有する切り抜き部2を、該プリント基板1の設計位置に設計寸法通りに形成することができるとともに、プリント基板1自体の、また、そこに実装される半導体等の故障を防止できるものである。
このように、最終的に目標加工線S1の位置でプリント基板1が切断されると、上記テーパ面7a”を切断面として有する切り抜き部2を、該プリント基板1の設計位置に設計寸法通りに形成することができ、しかも、該切り抜き部2の切断面では平滑さは失われていないので、この切り抜き部2において半導体等を正確に実装できるものである。
【0026】
その上、レーザー照射によってプリント基板1が切断される際に、レーザー光が下板9に照射されて大量の加工粉や蒸気が発生しても、該下板9の表面には、上記プリント基板1に設定された、合わせて5本の目標加工線S1及び補助加工線S2、…、S5の直下に逃げ溝10が配設されている。
そのため、上記加工粉や蒸気は逃げ溝10内に収容され、プリント基板1の切断部から噴出してしまうことはなく、プリント基板1の切断部や表面に付着することを確実に防止できるものである。
なお、下板9に配設される逃げ溝10の幅及び深さは1mmであって、合わせて5本の目標加工線S1及び補助加工線S2、…、S5の幅よりも極めて大きく、該逃げ溝10自体が極めて大きい空間と見做すことができるので、あえて加工粉や蒸気を外部へ放出する機構は不要となる。
【0027】
また、プリント基板1において切り欠き部2’を形成する場合、その構造上、逃げ溝10’の両端で必然的に外部へ開口する排出口11が形成されるので、該逃げ溝10’内に収容した加工粉や蒸気は排出口11から外部へ自然に排出されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0028】
プリント基板に設定する補助加工線から目標加工線に向かって順次レーザー加工を行う加工サイクルを反復してプリント基板を切断するので、正確な位置に正確な寸法の切り抜き部等が形成される上、その切断部のテーパ面の平滑さが確保される。従って、あらゆる材質のプリント基板の設計位置に設計寸法通りの切り抜き部及び切り欠き部を形成することができるので、該切り抜き部及び切り欠き部に半導体等を正確に実装できるようになり、あらゆる電子製品に取り付けられるプリント基板に対するレーザー加工を行う装置に適用できるものである。
【符号の説明】
【0029】
1 プリント基板
2 切り抜き部
2’ 切り欠き部
3、4、5、6、7 縦断面略V字形状の溝
3a’、3a” テーパ面
4a’、4a” テーパ面
5a’、5a” テーパ面
6a’、6a” テーパ面
7a’、7a” テーパ面
8 縦断面略逆台形状の溝
9、9’ 下板
10、10’ 逃げ溝
11 排出口
12 ダレ
S1 目標加工線
S2、S3、S4、S5 補助加工線