(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-27
(45)【発行日】2025-03-07
(54)【発明の名称】熱収縮性多層フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20250228BHJP
B29C 61/02 20060101ALI20250228BHJP
B29C 61/06 20060101ALI20250228BHJP
G09F 3/04 20060101ALI20250228BHJP
C08F 297/04 20060101ALN20250228BHJP
【FI】
B32B27/30 B
B29C61/02
B29C61/06
G09F3/04 C
C08F297/04
(21)【出願番号】P 2021530725
(86)(22)【出願日】2020-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2020026771
(87)【国際公開番号】W WO2021006307
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019128869
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 友哉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 準
(72)【発明者】
【氏名】澤里 正
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-094520(JP,A)
【文献】特開2004-099749(JP,A)
【文献】特開平02-227412(JP,A)
【文献】特開平11-231792(JP,A)
【文献】特開2004-269743(JP,A)
【文献】国際公開第2020/026969(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B29C 61/02,61/06
G09F 3/04
C08F 297/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類の層を有する熱収縮性多層フィルムであって、
ビニル芳香族炭化水素単量体単位(X
i)と共役ジエン単量体単位(Y
i)とを含むブロック共重合体樹脂(I)を、前記熱収縮性多層フィルムの少なくとも1つの表面層に含み、
かつ、
ビニル芳香族炭化水素単量体単位(X
ii
)と共役ジエン単量体単位(Y
ii
)とを含む、ブロック共重合体樹脂(II)を、前記ブロック共重合体樹脂(I)を含む前記表面層以外の少なくとも1つの層に含み、
前記ブロック共重合体樹脂(I)が、下記(i-1)~(i-4)を満た
し、
前記ブロック共重合体樹脂(II)が、下記(ii-1)~(ii-3)を満たす、熱収縮性多層フィルム。
(i-1)前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(X
i)と前記共役ジエン単量体単位(Y
i)との合計(100質量%)に対する、前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(X
i)の質量割合が60質量%以上82質量%以下であり、前記共役ジエン単量体単位(Y
i)の質量割合が18質量%以上40質量%以下である。
(i-2)GPC測定で得られる重量平均分子量(Mw
i)が、100,000以上300,000以下である。
(i-3)動的粘弾性測定において、昇温速度4℃/分、周波数1Hz、室温~130℃の温度範囲で測定した損失正接値(tanδ
i)が、前記温度範囲で少なくとも1つの極大値を有し、前記損失正接値(tanδ
i)が最大の極大値を示す温度T
i(℃)が、90℃以上120℃以下の温度範囲に存在する。
(i-4)前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(X
i)を主成分とする硬質相と、前記共役ジエン単量体単位(Y
i)を主成分とする軟質相とが、ラメラ構造のミクロ相分離構造を有する。
(ii-1)前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(X
ii
)と前記共役ジエン単量体単位(Y
ii
)の合計(100質量%)に対する、前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(X
ii
)の質量割合が70質量%以上84質量%以下であり、前記共役ジエン単量体単位(Y
ii
)の質量割合が16質量%以上30質量%以下である。
(ii-2)GPC測定で得られる重量平均分子量(Mw
ii
)が、100,000以上300,000以下である。
(ii-3)動的粘弾性測定において、昇温速度4℃/分、周波数1Hz、室温~130℃の温度範囲で測定した損失正接値(tanδ
ii
)が、前記温度範囲で少なくとも1つの極大値を有し、前記損失正接値(tanδ
ii
)が最大の極大値を示す温度T
ii
(℃)は、T
i
(℃)との関係において、下記式(1)、(2)を満たす。
T
i
>T
ii
・・・(1)
15≦(T
i
-T
ii
)≦35 ・・・(2)
【請求項2】
前記ブロック共重合体樹脂(I)が、分岐構造のブロック共重合体を含むブロック共重合体樹脂である、請求項1に記載の熱収縮性多層フィルム。
【請求項3】
前記ブロック共重合体樹脂(II)が、分岐構造のブロック共重合体を含むブロック共重合体樹脂である、請求項
1または2に記載の熱収縮性多層フィルム。
【請求項4】
70℃以上100℃以下の温度範囲におけるMD方向の熱収縮率の最大値が5%以下、最小値が-3%以上である、請求項1から
3のいずれか一項に記載の熱収縮性多層フィルム。
【請求項5】
80℃におけるTD方向の熱収縮率が30%以上であり、100℃におけるTD方向の熱収縮率が65%以上である、請求項1から
4のいずれか一項に記載の熱収縮性多層フィルム。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の熱収縮性多層フィルムの製造方法であって、
前記ブロック共重合体樹脂(I)を少なくとも1つの表面層に含む未延伸の多層フィルムを、
動的粘弾性測定において、昇温速度4℃/分、周波数1Hz、室温~130℃の温度範囲で測定した、前記ブロック共重合体樹脂(I)の損失弾性率(E’’
i)が最大の極大値を示す温度T
icに対して、(T
ic-25)℃以上(T
ic+15)℃以下の温度範囲で、前記未延伸の多層フィルムをMD方向に1.00倍以上1.30倍以下の範囲で延伸し、TD方向に3.0倍以上8.0倍以下の範囲で延伸する工程を含む、熱収縮性多層フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の熱収縮性多層フィルムを用いてなる、熱収縮性ラベル。
【請求項8】
請求項
7に記載の熱収縮性ラベルを熱収縮することによる、ラベルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性多層フィルム及びその製造方法に関する。また、本発明は、前記熱収縮性多層フィルムを用いてなる熱収縮性ラベル、前記熱収縮性ラベルを熱収縮させて得られるラベル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱収縮性フィルムは、加熱により収縮する特性を有するフィルムであり、例えば、シュリンク包装等に用いられる。シュリンク包装に熱収縮性フィルムを用いる場合、必要に応じて印刷を施した熱収縮性フィルムを被包装体の一面または全面に仮装着し、これを熱収縮させることにより、被包装体の形状に密着させるようにして包装する。
ペットボトル等の飲料容器のラベルには、熱収縮性フィルムの表面にさらに印刷等を施した熱収縮性ラベルが広く使われており、シュリンクラベルとも呼ばれている。
近年では、熱収縮性フィルムに求められる諸物性がより高度化してきたことにより、特性や化学的組成の異なる複数の層を積層させた、多層構造を有する熱収縮性多層フィルムが提案されている。
【0003】
熱収縮性フィルムに求められる諸物性としては、例えば、シュリンクラベルの印刷意匠を活かすためのフィルムの透明性や、耐自然収縮性等が挙げられる。ここで、「耐自然収縮性」とは、温度管理が十分ではない環境下で、熱収縮性フィルムを保管又は輸送した際に、前記フィルムが意図せず収縮してしまう現象(自然収縮)を起こし難い特性を、予め備えている物性を示す。
また、熱収縮性フィルムに求められるその他の物性としては、例えば、ペットボトル等の飲料容器に、スリーブ状にしたシュリンクラベルを仮装着した際(熱収縮させる前)、シュリンクラベルの自重等によって前記ラベル自身が折れ曲がることを抑制するためのフィルム剛性、さらに加熱収縮中のフィルムにシワや緩み、折れ曲がり等が発生して、収縮後も残ることを抑制するための熱収縮仕上がり性等が挙げられる。
【0004】
上記のような諸物性を満たすことのできる熱収縮性フィルムとして、例えば、特許文献1~3には、ビニル芳香族炭化水素単量体単位と共役ジエン単量体単位からなり、特定の化学構造を有するブロック共重合体を含む樹脂を用いて製造された熱収縮性フィルムが記載されている。
【0005】
近年、熱収縮性フィルムの被包装体として用いられるペットボトル等の飲料容器においては、その意匠性を高めるため、容器形状の多様化・複雑化が進んでおり、これらをシュリンク包装するための熱収縮性フィルムには、より高度な熱収縮仕上がり性が求められている。さらに、近年におけるシュリンクラベルの薄膜化に伴い、印刷インキに含まれる有機溶剤(以下、単に「溶媒」と記載することもある)によるフィルム強度の低下等の影響を受けやすくなっており、印刷面におけるインキの有機溶剤に対する耐性(以下、「耐溶剤性」と記載する)が従来以上に求められるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-213520号公報
【文献】特開2003-313259号公報
【文献】国際公開第2012/117964号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、フィルム強度、透明性、耐自然収縮性、フィルム剛性といった諸物性を維持しつつ、従来よりも耐溶剤性に優れ、また良好な熱収縮仕上がり性を有する熱収縮性多層フィルム及びその製造方法の提供を目的とする。また、前記熱収縮性多層フィルムを備える熱収縮性ラベル、前記熱収縮性ラベルを熱収縮させて得られるラベル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち本発明は、以下の態様を有する。
[1]少なくとも2種類の層を有する熱収縮性多層フィルムであって、
ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)と共役ジエン単量体単位(Yi)とを含むブロック共重合体樹脂(I)を、前記熱収縮性多層フィルムの少なくとも1つの表面層に含み、
前記ブロック共重合体樹脂(I)が、下記(i-1)~(i-4)を満たす、熱収縮性多層フィルム。
(i-1)前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)と前記共役ジエン単量体単位(Yi)との合計(100質量%)に対する、前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)の質量割合が60質量%以上82質量%以下であり、前記共役ジエン単量体単位(Yi)の質量割合が18質量%以上40質量%以下である。
(i-2)GPC測定で得られる重量平均分子量(Mwi)が、100,000以上300,000以下である。
(i-3)動的粘弾性測定において、昇温速度4℃/分、周波数1Hz、室温~130℃の温度範囲で測定した損失正接値(tanδi)が、前記温度範囲で少なくとも1つの極大値を有し、前記損失正接値(tanδi)が最大の極大値を示す温度Ti(℃)が、90℃以上120℃以下の温度範囲に存在する。
(i-4)前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)を主成分とする硬質相と、前記共役ジエン単量体単位(Yi)を主成分とする軟質相とが、ラメラ構造のミクロ相分離構造を有する。
[2]前記ブロック共重合体樹脂(I)が、分岐構造のブロック共重合体を含むブロック共重合体樹脂である、[1]に記載の熱収縮性多層フィルム。
[3]ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xii)と共役ジエン単量体単位(Yii)とを含む、ブロック共重合体樹脂(II)を、前記ブロック共重合体樹脂(I)を含む前記表面層以外の少なくとも1つの層に含み、
前記ブロック共重合体樹脂(II)が、下記(ii-1)~(ii-3)を満たす、[1]又は[2]に記載の熱収縮性多層フィルム。
(ii-1)前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xii)と前記共役ジエン単量体単位(Yii)の合計(100質量%)に対する、前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xii)の質量割合が70質量%以上84質量%以下であり、前記共役ジエン単量体単位(Yii)の質量割合が16質量%以上30質量%以下である。
(ii-2)GPC測定で得られる重量平均分子量(Mwii)が、100,000以上300,000以下である。
(ii-3)動的粘弾性測定において、昇温速度4℃/分、周波数1Hz、室温~130℃の温度範囲で測定した損失正接値(tanδii)が、前記温度範囲で少なくとも1つの極大値を有し、前記損失正接値(tanδii)が最大の極大値を示す温度Tii(℃)は、Ti(℃)との関係において、下記式(1)、(2)を満たす。
Ti>Tii ・・・(1)
15≦(Ti-Tii)≦35 ・・・(2)
[4]前記ブロック共重合体樹脂(II)が、分岐構造のブロック共重合体を含むブロック共重合体樹脂である、[3]に記載の熱収縮性多層フィルム。
[5]70℃以上100℃以下の温度範囲におけるMD方向の熱収縮率の最大値が5%以下、最小値が-3%以上である、[1]から[4]のいずれか一項に記載の熱収縮性多層フィルム。
[6]80℃におけるTD方向の熱収縮率が30%以上であり、100℃におけるTD方向の熱収縮率が65%以上である、[1]から[5]のいずれか一項に記載の熱収縮性多層フィルム。
[7][1]から[6]のいずれか一項に記載の熱収縮性多層フィルムの製造方法であって、前記ブロック共重合体樹脂(I)を少なくとも1つの表面層に含む未延伸の多層フィルムを、動的粘弾性測定において、昇温速度4℃/分、周波数1Hz、室温~130℃の温度範囲で測定した、前記ブロック共重合体樹脂(I)の損失弾性率(E’’i)が最大の極大値を示す温度Ticに対して、(Tic-25)℃以上(Tic+15)℃以下の温度範囲で、前記未延伸の多層フィルムをMD方向に1.00倍以上1.30倍以下の範囲で延伸し、TD方向に3.0倍以上8.0倍以下の範囲で延伸する工程を含む、熱収縮性多層フィルムの製造方法。
[8][1]から[6]のいずれか一項に記載の熱収縮性多層フィルムを用いてなる、熱収縮性ラベル。
[9][8]に記載の熱収縮性ラベルを熱収縮することによる、ラベルの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フィルム強度、透明性、耐自然収縮性、フィルム剛性といった諸物性を維持しつつ、従来よりも耐溶剤性に優れ、また良好な熱収縮仕上がり性を有する熱収縮性多層フィルム及びその製造方法を提供できる。また、前記熱収縮性多層フィルムを備える熱収縮性ラベル、前記熱収縮性ラベルを熱収縮させて得られるラベル及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の熱収縮性多層フィルムの1つの態様を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。但し本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
[熱収縮性多層フィルム]
本発明の実施形態である熱収縮性多層フィルムは、少なくとも2種類の層を有する熱収縮性多層フィルムであって、ビニル芳香族炭化水素単量体単位(X
i)と共役ジエン単量体単位(Y
i)とを含むブロック共重合体樹脂(I)を、前記熱収縮性多層フィルムの少なくとも1つの表面層に含み、前記ブロック共重合体樹脂(I)が、下記(i-1)~(i-4)を満たすことを特徴とする。
(i-1)前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(X
i)と前記共役ジエン単量体単位(Y
i)との合計(100質量%)に対する、前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(X
i)の質量割合が60質量%以上82質量%以下であり、前記共役ジエン単量体単位(Y
i)の質量割合が18質量%以上40質量%以下である。
(i-2)GPC測定で得られる重量平均分子量(Mw
i)が、100,000以上300,000以下である。
(i-3)動的粘弾性測定において、昇温速度4℃/分、周波数1Hz、室温~130℃の温度範囲で測定した損失正接値(tanδ
i)が、前記温度範囲で少なくとも1つの極大値を有し、前記損失正接値(tanδ
i)が最大の極大値を示す温度T
i(℃)が、90℃以上120℃以下の温度範囲に存在する。
(i-4)前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(X
i)を主成分とする硬質相と、前記共役ジエン単量体単位(Y
i)を主成分とする軟質相とが、ラメラ構造のミクロ相分離構造を有する。
図1は、本発明の熱収縮性多層フィルムの1つの態様を表す断面図である。熱収縮性多層フィルム10は、表面層1と表面層2とを有する。本発明の熱収縮性多層フィルムは、少なくとも1つの表面層に、ビニル芳香族炭化水素単量体単位(X
i)と共役ジエン単量体単位(Y
i)とを含むブロック共重合体樹脂(I)を含む。
【0013】
<表面層>
本発明の熱収縮性多層フィルムは、少なくとも2種類の層を有し、このうち、少なくとも1つの表面層に、ブロック共重合体樹脂(I)を含む。なお、本発明において、「2種類の層」とは、組成の異なる2種類の層を意味する。また、本発明において、「表面層」とは、熱収縮性多層フィルムの最外層のことを意味する。本発明の1つの使用形態において、前記表面層の上に、さらに印刷やコーティングを施すこともあるが、これらは本発明の「層」として含めない。一般にシュリンクラベルでは、被包装体(例えば、ペットボトル等の飲料容器)と接する側の表面層の上に印刷を施す内側印刷である。本発明の1つの態様においては、印刷を施す側の表面層に、ブロック共重合体樹脂(I)が含まれることが好ましく、両表面層にブロック共重合体樹脂(I)が含まれていることがより好ましい。
また、本発明の1つの態様においては、表面層はブロック共重合体樹脂(I)から構成されていることが好ましい。なお、後述する通り、ブロック共重合体樹脂(I)には、任意の成分が含まれていてもよい。
【0014】
<表面層以外の層(中間層)>
本発明において、本発明の熱収縮性多層フィルムが3層以上で構成される場合、表面層以外の層を「中間層」と記載する。本発明の1つの好ましい態様においては、中間層にブロック共重合体樹脂(II)を含む。なお、熱収縮性多層フィルムの総積層数は使用用途によって適宜選択することができるが、生産性の面から、単一の中間層の両面に同一の表面層が設けられた2種3層の構成であることが好ましく、その厚み比(両表面層の厚みの合計/中間層の厚み)は、全厚み(100)に対して、10以上50以下/50以上90以下であることが好ましい。
【0015】
(ブロック共重合体樹脂(I))
本実施形態にかかる熱収縮性多層フィルムは、ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)と共役ジエン単量体単位(Yi)とを含むブロック共重合体樹脂(I)を、前記熱収縮性多層フィルムの少なくともひとつの表面層に含み、前記ブロック共重合体樹脂(I)が、上記の(i-1)~(i-4)を満たすことを特徴とする。
【0016】
本実施形態において、ブロック共重合体樹脂(I)は、ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)と共役ジエン単量体単位(Yi)とを含むブロック共重合体を含む樹脂である。本発明の1つの態様において、ブロック共重合体樹脂(I)は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとをアニオン重合させて得られるものであることが好ましい。
ブロック共重合体樹脂(I)は、全体として上記の(i-1)~(i-4)を満たしていれば、1種類のブロック共重合体で構成されていてもよく、2種類以上のブロック共重合体が混合して構成されているものであってもよい。
【0017】
ここで、「1種類のブロック共重合体」とは、例えば、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを主原料として用い、バッチ式のアニオン重合(以下、単に「重合」と記載することもある)により、1回の開始反応と1回の停止反応のみで重合を完結させた場合に得られるブロック共重合体のことである。厳密には、重合の途中で意図しないアニオン重合活性の失活等が起こり、分子量や化学構造の異なる重合体が少量副生することもあるが、このような重合体は含まないものとする。
【0018】
また、「2種類以上のブロック共重合体」とは、例えば、アニオン重合において、初回の開始反応以外に複数回の開始反応を実施した場合や、複数回の停止反応の操作を実施した場合、またアニオン重合の途中でカップリング反応の操作を実施した場合、これらの操作をさらに組み合わせて実施した場合等に得られる複数種のブロック共重合体の混合物、又は、異なるバッチの重合で製造された2種類以上のブロック共重合体を混合して得たブロック共重合体のことである。
【0019】
ブロック共重合体樹脂(I)において、分子鎖内のビニル芳香族炭化水素単位(Xi)及び共役ジエン単量体単位(Yi)の連続性が同じであるもの(基本的な分子鎖構造が同じであるブロック共重合体)は、同じ種類として扱うことができる。なお、同じ種類のブロック共重合体においては、重合反応に伴う不可避的な分子量のばらつきを有していてもよい。
また前記ブロック共重合体樹脂(I)の分子は、「ブロック共重合体」と称しているが、その中に含まれる「ブロック」は、純粋にビニル芳香族炭化水素または共役ジエンのどちらか単一の単量体単位で構成された「ブロック」である必要はない。「ブロック」が、主に前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)を主成分としていれば硬質相を形成し、前記共役ジエン単量体単位(Yi)を主成分としていれば軟質相を形成する。またブロック共重合体の分子中には、後述する重合開始剤やカップリング剤に由来する単位成分が含まれていてもよい。以下、本明細書では、ビニル芳香族炭化水素及び共役ジエンをまとめて「主原料」と記載することがあり、またその他製造に係る原材料をまとめて「副原料」と記載することがある。
【0020】
(ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)、共役ジエン単量体単位(Yi))
本明細書において「ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)」(以下、「単量体単位(Xi)」と記載することもある)とは、ブロック共重合体樹脂(I)の分子鎖中におけるビニル芳香族炭化水素に基づく構造単位のことを意味する。同様に、「共役ジエン単量体単位(Yi)」(以下、「単量体単位(Yi)」と記載することもある)とは、ブロック共重合体樹脂(I)の分子鎖中における共役ジエンに基づく構造単位のことを意味する。
【0021】
ビニル芳香族炭化水素としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。中でもスチレン、及びα-メチルスチレンからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0022】
共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。中でも1,3-ブタジエン、及びイソプレンからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0023】
ブロック共重合体樹脂(I)は、特開2003-313259号公報等に示されるような公知の方法で得られる。具体的には、目的とするブロック共重合体樹脂(I)の分子や組成が形成される処方に従い、重合開始剤の存在下で、ビニル芳香族炭化水素、及び共役ジエンをそれぞれ単独で又は同時に重合反応の系内に添加し、アニオン重合させることで得ることができる。ビニル芳香族炭化水素、及び共役ジエンの添加方法としては、一度に全量を添加する一括添加、複数回に分けて添加する逐次添加、一定流量で連続的に添加する分添などが挙げられる。
【0024】
前記ブロック共重合体樹脂(I)のより具体的な製造方法としては、十分に脱水し、必要に応じてランダム化剤が共存している有機溶剤中で、有機リチウム化合物を重合開始剤として、ビニル芳香族炭化水素及び共役ジエンをアニオン重合し、失活処理により重合を完了させた後に、さらに有機溶剤を除去してブロック共重合体樹脂(I)を得る方法等が挙げられる。
【0025】
前記有機溶剤としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、イソペンタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、あるいはベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素等が使用できる。中でもシクロヘキサンが好ましい。
【0026】
前記有機リチウム化合物は、分子中に1個以上のリチウム原子が結合した有機化合物であり、例えば、1分子につきひとつの重合活性末端を生じさせる、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム等のような単官能性の有機リチウム化合物の他、ヘキサメチレンジリチウム、ブタジエニルジリチウム、イソプレニルジリチウム等のような多官能性の有機リチウム化合物(多官能有機リチウム化合物)も使用することができる。例示した中では、n-ブチルリチウムが好ましい。重合開始剤を添加するタイミングとしては、重合開始初期に一括して添加してもよいし、重合途中で追加することもできる。
【0027】
前記ランダム化剤は、アニオン重合の活性末端に対する、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンの反応性比を調整するための化合物である。ランダム化剤としては、例えばテトラヒドロフラン(THF)が好ましく用いられるが、その他に、エーテル類、アミン類、チオエーテル類、ホスホルアミド、アルキルベンゼンスルホン酸塩、カリウム又はナトリウムのアルコキシド等も使用できる。
エーテル類としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等が挙げられる。アミン類は、第三級アミン、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミンの他、環状アミン等も使用できる。その他にトリフェニルホスフィン、ヘキサメチルホスホルアミド、アルキルベンゼンスルホン酸カリウム又はナトリウム、カリウム又はナトリウムブトキシド等がランダム化剤として使用することができる。
【0028】
これらのランダム化剤の添加量としては、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンの全仕込み合計100質量部に対し、10質量部以下であり、0.001~8質量部が好ましい。添加時期は重合反応の開始前でもよいし、重合途中でもよい。又、必要に応じて追加添加することもできる。
【0029】
(分岐構造を含むブロック共重合体樹脂(I))
例えば、n-ブチルリチウムに代表される単官能性の重合開始剤のみを用いると、ブロック共重合体樹脂(I)は分岐を持たない直線的な化学構造(直鎖構造)を形成し、そのままアニオン重合の活性末端を失活させるのに十分量の重合停止剤を添加して、重合反応を完結させることもできる。この場合、ブロック共重合体樹脂(I)の各分子は直鎖構造になる。他方、重合の中間段階において、分子のアニオン重合の活性末端が全て又は一部存在する状態(リビング状態)で、さらにカップリング剤と呼称する化合物を添加して反応させた場合、又は3官能性以上の多官能重合開始剤を用いた場合は、ブロック共重合体樹脂(I)の全部又は一部の分子が、分岐構造を有するものとなる。
【0030】
本発明に係るブロック共重合体樹脂(I)は、直鎖構造、分岐構造のいずれの分子構造であってもよく、直鎖構造と分岐構造の両方の分子構造を有していてもよい。本発明の1つの態様においては、ブロック共重合体樹脂(I)の分子構造は、分岐構造を含むことが好ましく、直鎖構造と分岐構造の両方を有していることがより好ましい。ブロック共重合体樹脂(I)が分岐構造を含むことにより、熱収縮性多層フィルムの耐溶剤性がより良好となる。
ブロック共重合体樹脂(I)中の分岐構造の有無については、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)、又はGPCと光散乱検出器(MALS)とを組み合わせた分析法等によって確認することができる。
【0031】
前述のカップリング剤としては、例えば、エポキシ基、エステル基、カルボキシ基、ケトン基、ビニル基、クロロシリル基、及びシリルエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種類以上の官能基を、3官能基以上有する化合物等を使用することができる。中でも、テトラクロロシラン、テトラアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアルコキシシラン、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等が一般的に使用することができ、中でもエポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、テトラアルコキシシランが好ましい。添加形態としては、カップリング剤単独で添加してもよいし、前記の脱水された有機溶剤で希釈したカップリング剤を添加してもよい。
【0032】
アニオン重合の活性末端は、水、アルコール、二酸化炭素等の重合停止剤を、重合活性末端を不活性化させるのに十分な量を添加することにより不活性化される。前記工程によって最終的に重合が完結されることによりブロック共重合体樹脂(I)が形成される。但しこの場合、ブロック共重合体樹脂(I)は、有機溶剤中に溶解した状態で存在している。そのため、有機溶剤を除去する工程を設け、一般に利用しやすい形態としてブロック共重合体樹脂(I)を得ることができる。
有機溶剤を除去する方法としては、ブロック共重合体樹脂(I)を含む有機溶剤を、例えばメタノール等の貧溶媒に投入して、ブロック共重合体樹脂(I)を析出させて分別する方法(再沈殿法)、加熱ロール等により有機溶剤を蒸発させて析出させる方法(ドラムドライヤー法)、濃縮器により有機溶液を濃縮した後に、例えばベント式押出機で脱気押出しして有機溶剤を除去する方法(脱気押出法)、ブロック共重合体樹脂(I)を含む有機溶剤を温水中に分散させ、さらに水蒸気を吹き込んで有機溶剤を加熱除去する方法(スチームストリッピング法)等、任意の方法が使用できる。
【0033】
また本発明では、必要に応じ、ブロック共重合体樹脂(I)に、本発明の要件や効果を損なわない範囲で、その他の樹脂や各種添加剤をさらに含有させてもよい。本明細書では前記その他の樹脂や各種添加剤を含有させたものもブロック共重合体樹脂(I)と称する。
【0034】
(その他の樹脂)
ブロック共重合体樹脂(I)には、必要に応じ、本発明の実施態様である熱収縮性多層フィルムに必要な諸物性を実用上損なわない範囲で、その他の樹脂を含有することができる。具体的には、以下に示すビニル芳香族炭化水素系重合体(a)~(d)から選ばれる少なくとも1種類の重合体や、ポリオレフィン(PO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアセタール(POM)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)等を含有することができる。これらその他の樹脂は、ブロック共重合体樹脂(I)の総質量に対して、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、さらにより好ましくは25質量%以下を混合して使用することができる。50質量%を超えると透明性、強度、熱収縮性等の物性が低下し易くなるため、本発明の目的が達成できない。
(a)ビニル芳香族炭化水素重合体
(b)ビニル芳香族炭化水素と(メタ)アクリル酸エステルからなる共重合体
(c)ビニル芳香族炭化水素-共役ジエン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体
(d)ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなるブロック共重合体の水添物
【0035】
(a)ビニル芳香族炭化水素重合体としては、ポリスチレン、ポリα-メチルスチレン、シンジオタクチックポリスチレン等が挙げられ、中でも汎用ポリスチレン(GPPS)等のポリスチレンを好適に使用することができる。
【0036】
(b)~(d)の各共重合体で使用されるビニル芳香族炭化水素や共役ジエンは、ブロック共重合体樹脂(I)の主原料として用いることが可能な化合物が好ましく用いられる。
【0037】
(b)、及び(c)の各共重合体で使用される(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸(2-エチル)ヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸(2-エチル)ヘキシル等が挙げられる。
【0038】
(d)ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなるブロック共重合体の水添物としては、ビニル芳香族炭化水素を主体とする硬質ブロックと、共役ジエンを主体とする軟質ブロックとを含むブロック共重合体の水添物を挙げることができる。前記水添物は、例えば、公知の方法による重合法で得られた前記ブロック共重合体を、触媒の存在下で水素添加することで得ることができる。触媒としては、例えば、ニッケル、ルテニウム、パラジウム、白金系触媒が一般的に使用される他、チタノセン化合物あるいは還元性有機金属化合物等も使用することができる。
【0039】
(各種添加剤)
ブロック共重合体樹脂(I)に含有させることができる添加剤の種類としては、酸化防止剤(熱安定剤)、紫外線吸収剤(耐候剤)、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、着色剤等が一般的なものとして挙げられる。
【0040】
酸化防止剤としては、例えば、2-tert-ブチル-6-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート、n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤や、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系酸化防止剤等を用いることができる。
【0041】
紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤や、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイロキシ)エトキシ]フェノール等のトリアジン系紫外線吸収剤、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート等のヒンダートアミン型耐侯剤が例として挙げられる。さらにホワイトオイルや、シリコーンオイル等も加えることができる。
【0042】
滑剤としては、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド、グリセリン脂肪酸エステル(グリセライド)、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等の他、ポリエチレンワックス、ポリプロピレン等のポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等が挙げられる。
【0043】
可塑剤としては、流動パラフィンが一般的であり、その他、アジピン酸エステル等の有機酸エステル等も用いることができる。
【0044】
帯電防止剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等の界面活性剤が主に使用される。予め樹脂に練り込んでから使用してもよいし、各種フィルムに成形した後、表面塗布してもよい。
【0045】
防曇剤としては、前述のグリセライドの他、ソルビタン脂肪酸エステルや、ショ糖脂肪酸エステル、界面活性剤等を使用することができる。これら防曇剤は、予め樹脂と混合してから使用してもよいし、各種フィルムに成形した後、表面塗布してもよい。
【0046】
着色剤としては、例えば黄色度の調整を目的にアントラキノン系化合物等の染料が用いられる他、遮光性を付与する目的では酸化チタン、タルク、カーボンブラック等の有機または無機顔料が用いることができる。
【0047】
上記添加剤の添加量は、ブロック共重合体樹脂(I)の総質量に対して、0.01~10質量%の範囲であることが好ましい。添加剤の含有率を0.01~10質量%の範囲にすることで、酸化防止性能、耐候性、滑性等の諸物性をバランス良くすることができるとともに、熱収縮性多層フィルムの透明性、熱収縮性、強度等が低下することを抑制しやすくなる。添加剤の含有割合は、より好ましくは0.05~5質量%であり、さらに好ましくは、0.1~3質量%である。
【0048】
ブロッキング防止剤としては、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、ビニル芳香族炭化水素-(メタ)アクリル酸エステル、及び(メタ)アクリル酸共重合体からなる群より選択される少なくとも1つの架橋ビーズ、ビニル芳香族炭化水素共重合体の架橋ビーズ等の有機系充填材の他、シリカビーズ、石英ビーズ等が挙げられる。良好な透明性を得るには、HIPS、ビニル芳香族炭化水素-(メタ)アクリル酸エステル、及び(メタ)アクリル酸共重合体からなる群より選択される少なくとも1つの架橋ビーズ、ビニル芳香族炭化水素共重合体の架橋ビーズを使用することが好ましい。ブロッキング防止剤の含有率はブロック共重合体樹脂(I)の総質量に対し、0.01~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~5質量%である。
【0049】
(物性的な要件)
本発明に係るブロック共重合体樹脂(I)は、ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)と共役ジエン単量体単位(Yi)とを含み、以下に記載する(i-1)~(i-4)を満たすブロック共重合体樹脂である。
(i-1)前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)と前記共役ジエン単量体単位(Yi)との合計(100質量%)に対する、前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)の質量割合が60質量%以上82質量%以下であり、前記共役ジエン単量体単位(Yi)の質量割合が18質量%以上40質量%以下である。
(i-2)GPC測定で得られる重量平均分子量(Mwi)が、100,000以上300,000以下である。
(i-3)動的粘弾性測定において、昇温速度4℃/分、周波数1Hz、室温~130℃の温度範囲で測定した損失正接値(tanδi)が、前記温度範囲で少なくとも1つの極大値を有し、前記損失正接値(tanδi)が最大の極大値を示す温度Ti(℃)が、90℃以上120℃以下の温度範囲に存在する。
(i-4)前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)を主成分とする硬質相と、前記共役ジエン単量体単位(Yi)を主成分とする軟質相とが、ラメラ構造のミクロ相分離構造を有する。
【0050】
シュリンクラベルをスリーブ方式(円筒状にした熱収縮性多層フィルムを被包装体に被せた後、シュリンク装着する方式)で被包装体に装着させる際、MD方向に膨張が起きると収縮シワが発生しやすく、過剰な収縮が起きるとフィルム端部が弧状になり、外観を損ないやすくなる。また、収縮が開始する温度付近でTD方向に急激な収縮が起きると、温度ムラによって収縮シワが発生しやすくなる。よって、熱収縮仕上り性を良好とするためには、装着時の温度領域におけるMD方向の寸法変化が小さく、TD方向の熱収縮が緩やかであることが好ましい。
【0051】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、ブロック共重合体樹脂(I)を少なくとも1つの表面層に含み、ブロック共重合体樹脂(I)が、前記(i-1)~(i-4)の要件を満たすことにより、良好な収縮特性が付与される。すなわち、熱収縮性多層フィルムをシュリンクラベルとして飲料容器に装着する時の収縮温度である70~100℃の温度領域において、そのMD方向における寸法変化の様相が小さく、TD方向に緩やかに収縮していく収縮特性が付与される。これにより、本発明の熱収縮性多層フィルムを、例えばシュリンクラベルとして使用する際、シワ等による外観不良が発生しにくくなり、良好な熱収縮仕上がり性を実現することができる。なお、本明細書において、熱収縮性多層フィルムの「MD方向」とは、連続的なフィルム製造工程における樹脂の流れに沿った方向を意味する。また、「TD」方向とは、フィルム上における、前記流れに沿った方向に対して直交する方向を意味する。
【0052】
また本発明の熱収縮性多層フィルムは、前記(i-1)~(i-4)を満足することで、シュリンクラベル印刷時の印刷インキに含まれる有機溶剤によるケミカルアタックに対して白化を起こしにくくなり、耐溶剤性も向上する。これはブロック共重合体の分子鎖の配向が小さくなることで、有機溶剤によるクラックの生成を抑制し、フィルムの白化が抑制できたことによるものと推察される。さらに、本実施形態に係るブロック共重合体樹脂(I)は、フィルムの伸び率に優れ、印刷後においてもフィルムが破断しにくいといった、実用上必要となる耐溶剤性を満足できる。以下、(i-1)~(i-4)について詳しく述べる。
【0053】
(i-1)本発明に係るブロック共重合体樹脂(I)においては、前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)と前記共役ジエン単量体単位(Yi)の合計(100質量%)に対する、前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)の質量割合は、60質量%以上82質量%以下であり、66質量%以上80質量%以下が好ましく、70質量%以上79質量%以下がより好ましい。また、前記共役ジエン単量体単位(Yi)の質量割合は、18質量%以上40質量%以下であり、20質量%以上34質量%以下が好ましく、21質量%以上30質量%以下がより好ましい。前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)と前記共役ジエン単量体単位(Yi)の質量割合が前記範囲を満たすと、剛性や伸びのバランスが良好となるとともに、ラメラ構造のミクロ相分離構造を形成しやすくなるため好ましい。
【0054】
なおブロック共重合体樹脂(I)中に含まれるビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)と前記共役ジエン単量体単位(Yi)の質量割合は、ブロック共重合体樹脂(I)が、アニオン重合により製造されるものであれば、一般にこれを製造する際の各モノマーの仕込み量(質量)から算出することができる。また、前記単量体単位(Yi)の質量割合は、公知のハロゲン付加法を用いて測定することができる。
【0055】
前記ハロゲン付加法による共役ジエン単量体単位の質量割合の一般的な測定手順を以下に記す。
精秤した試料を完全に溶解することが可能な有機溶剤に溶解させて被検溶液を得た後、過剰量の一塩化よう素/四塩化炭素溶液を前記被検溶液に添加して十分反応させる。その後、液中に残留している未反応の一塩化よう素を、チオ硫酸ナトリウム/エタノール溶液で逆滴定して試料中の二重結合量を測定し、単量体単位(Yi)の割合を算出する。一般に、加えた主原料が一部失われてしまう場合もあることから、共役ジエン単量体単位(Yi)の質量割合をハロゲン付加法で求め、それ以外をビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)の質量割合とすることが好ましい。
【0056】
ブロック共重合体樹脂(I)中に含まれる共役ジエン単量体単位(Yi)の質量割合を前記範囲内とすることで、熱収縮性多層フィルムの強度及び剛性のバランスが良好となる。また、ラメラ構造のミクロ相分離構造が得られやすくなり、熱収縮性多層フィルムとした際に、熱収縮仕上がり性や耐溶剤性が良好となる。共役ジエン単量体単位(Yi)の質量割合が18質量%を下回ると、強度が低下し、フィルムが脆くなり易くなる。また、熱収縮性多層フィルムとした際に、ラメラ構造のミクロ相分離構造が得られ難くなる。共役ジエン単量体単位(Yi)の質量割合が40質量%を超えると、熱収縮性多層フィルムの剛性が低下し過ぎてしまい、フィルムの延伸が困難になる。また、シュリンクラベルをスリーブ方式で被包装体に装着させる際、荷重(シュリンクラベルの自重)でフィルムが折れ曲がり、被包装体への装着不良を起こし易くなる。
【0057】
(i-2)本発明に係るブロック共重合体樹脂(I)においては、GPC測定で得られる重量平均分子量(Mwi)が、100,000以上300,000以下であり、より好ましくは100,000以上2500,00以下である。Mwiが100,000を下回ると、フィルムを押出成形する際、流動性が高くなり過ぎてしまい、フィルムの幅や厚みが不均一になり易くなる他、機械的強度も低下し易くなる。Mwiが300,000を超えると、流動性が低下し過ぎてしまい、過剰なせん断応力の発生に伴ってブロック共重合体樹脂(I)の温度が上昇し、ブロック共重合体樹脂(I)の劣化が生じ易くなる。なお、ブロック共重合体樹脂(I)の流動性の範囲としては、ISO1133に記載の測定方法に準拠して測定した、200℃、5kg荷重下で測定されるメルトマスフローレート(MFR)が、1g/10min以上30g/10min以下であることが好ましく、より好ましくは5g/10min以上15g/10min以下である。
【0058】
Mwiは、一般的なカラムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により示差屈折(RI)検出器で測定されるポリスチレン換算分子量として得られる値である。ポリスチレン換算分子量は、予め既知の分子量の標準ポリスチレンを用いて、分子量と検出に要する時間との関係から検量線を作成し、前記検量線を用いて得られたブロック共重合体樹脂(I)の分子量分布から算出することができる。
【0059】
(i-3)本発明に係るブロック共重合体樹脂(I)においては、動的粘弾性測定において、昇温速度4℃/分、周波数1Hz、室温~130℃の温度範囲で測定した損失正接値(tanδi)が、前記温度範囲で少なくとも1つの極大値を有し、前記損失正接値(tanδi)が最大の極大値を示す温度Ti(℃)が、90℃以上120℃以下の温度範囲に存在する。前記の通り、損失正接値(tanδi)が、室温~130℃の温度範囲で少なくとも1つの極大値を有し、Tiが90℃以上120℃以下の温度範囲に存在することにより、熱収縮性多層フィルムにおけるTD方向の収縮が緩やかとなる収縮特性が付与され、熱収縮時にシワ等ができにくくなる。
【0060】
ブロック共重合体樹脂(I)の動的粘弾性測定で得られる損失正接値(tanδi)が極大値を示す温度は、一定周波数の変位を加えることのできる動的粘弾性測定装置を用い、昇温速度4℃/分、周波数1Hzで、室温~130℃の温度範囲でブロック共重合体樹脂(I)の動的粘弾性を測定することにより求めることができる。
【0061】
(i-4)本発明に係るブロック共重合体樹脂(I)においては、前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)を主成分とする硬質相と、前記共役ジエン単量体単位(Yi)を主成分とする軟質相が、ラメラ構造のミクロ相分離構造を有する。ラメラ構造のミクロ相分離構造では、硬質相及び軟質相の両者が連続相を形成するため、フィルムの強度が良好となる他、インキ溶剤によるケミカルアタックでクラックを生じにくくなる。その結果、耐溶剤性が良好となる。なお、「ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)を主成分とする」とは、前記硬質相中に、60質量%以上、好ましくは80質量%以上、ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xi)が含まれていることを意味する。同様に、「共役ジエン単量体単位(Yi)を主成分とする」とは、前記軟質相中に、60質量%以上、好ましくは80質量%以上、共役ジエン単量体単位(Yi)が含まれていることを意味している。
ラメラ構造のミクロ相分離構造は、「単量体単位(Xi)を主成分とする硬質相」及び「単量体単位(Yi)を主成分とする軟質相」の比率が50:50に近い場合に形成されやすい。硬質相及び軟質相は、重合反応に用いるモノマーの仕込み量を調整することの他、任意の量のモノマーを一括添加することによっても形成することができる。即ち、ビニル芳香族炭化水素(例えばスチレン)よりも共役ジエン(例えばブタジエン)の方が、消費速度が速いため、任意の量のビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを一括添加すると、初期は共役ジエンが主として反応して軟質相が形成され、重合が進むにつれて徐々にビニル芳香族炭化水素の比率が上がっていき、硬質相が形成される。
【0062】
ブロック共重合体樹脂(I)中のミクロ相分離構造の有無や様相は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)等を用いて、熱収縮性多層フィルムを観察することによって目視確認することができる。具体的には、四酸化オスミウムにより共役ジエン中の不飽和結合を染色することによって確認できる。このとき、軟質相は染色が濃く、硬質相は染色が薄く目視観察される。なおラメラ構造とは、軟質相(染色が濃い部分)と硬質相(染色が薄い部分)とが、連続した層構造を形成するように観察される構造である。軟質相と硬質相とが作る「ラメラ構造」以外の構造の例としては、全面的に連続した硬質相(即ち海状の硬質相)の中に、独立した島状の軟質相が存在している「球構造(海島構造ともいう)」や、全面的に連続した硬質相の中に、円柱状の軟質相が存在する「シリンダー構造」などがある。
【0063】
(ブロック共重合体樹脂(II))
本発明の実施形態である熱収縮性多層フィルムは、前記ブロック共重合体樹脂(I)を含む表面層以外の少なくとも1つの層に、ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xii)と共役ジエン単量体単位(Yii)とを含む、ブロック共重合体樹脂(II)を含むことが好ましい。また、前記ブロック共重合体樹脂(II)は、下記(ii-1)~(ii-3)を満たすブロック共重合体樹脂である。
(ii-1)前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xii)と前記共役ジエン単量体単位(Yii)の合計(100質量%)に対する、前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xii)の質量割合が70質量%以上84質量%以下であり、前記共役ジエン単量体単位(Yii)の質量割合が16質量%以上30質量%以下である。
(ii-2)GPC測定で得られる重量平均分子量(Mwii)が、100,000以上300,000以下である。
(ii-3)動的粘弾性測定において、昇温速度4℃/分、周波数1Hz、室温~130℃の温度範囲で測定した損失正接値(tanδii)が、前記温度範囲で少なくとも1つの極大値を有し、前記損失正接値(tanδii)が最大の極大値を示す温度Tii(℃)は、Ti(℃)との関係において、下記式(1)、(2)を満たす。
Ti>Tii ・・・(1)
15≦(Ti-Tii)≦35 ・・・(2)
【0064】
本実施形態の熱収縮性多層フィルムは、前記ブロック共重合体樹脂(I)を含む表面層以外の少なくとも1つの層にブロック共重合体樹脂(II)を含むことにより、収縮不足による弛みが生じない十分な熱収縮性を有し、耐自然収縮性の特性もより良好となりやすい。
ブロック共重合体樹脂(II)を含む層は、2層以上で構成されていてもよい。生産性の観点から、ブロック共重合体樹脂(II)を含む層は、1層であることが好ましい。
【0065】
ブロック共重合体樹脂(II)は、ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xii)と共役ジエン単量体単位(Yii)とを含み、前記(ii-1)~(ii-3)を満たすブロック共重合体樹脂である。本実施形態に係るブロック共重合体樹脂(II)は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを含むモノマーを重合することによって得られ、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを重合させて得られるものであることが好ましい。
また、本発明の1つの態様において、ブロック共重合体樹脂(II)のミクロ相分離構造はラメラ構造以外の構造であることが好ましい。
【0066】
ブロック共重合体樹脂(II)を構成するためのビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xii)及び共役ジエン単量単位(Yii)は、ブロック共重合体樹脂(I)を構成するものと同様の単量体単位が挙げられ、好ましい例もまた同様である。また、ブロック共重合体樹脂(II)を製造する方法も、ブロック共重合体樹脂(I)と同じ方法を取ることができ、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとをアニオン重合させて得られるものであることが好ましい。従って、その製造に際して用いることのできる有機溶剤、重合開始剤、ランダム化剤、カップリング剤、重合停止剤の種類や添加割合もブロック共重合体樹脂(I)で用いたものと同様のものを用いることができ、これら主原料や副原料を添加する順序や割合等に特に制約はない。
ブロック共重合体樹脂(II)のミクロ相分離構造に特に限定はないが、ラメラ構造ではない、即ち球構造(海島構造)やシリンダー構造であることが好ましい。ラメラ構造を形成させない方法としては、例えば軟質相よりも硬質相の比率が高くなるように重合反応に用いるモノマーの仕込み量を調整する方法等が挙げられる。
【0067】
ブロック共重合体樹脂(II)には、ブロック共重合体樹脂(I)、前記のその他の樹脂、及び各種の添加剤、即ち酸化防止剤(熱安定剤)、紫外線吸収剤(耐候剤)、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、着色剤等をブロック共重合体樹脂(I)の場合と同様に添加して組成物となすことができる。本明細書では前記組成物もブロック共重合体樹脂(II)と称する。
【0068】
本発明の熱収縮性多層フィルムにおいて好ましく用いられるブロック共重合体樹脂(II)は、ブロック共重合体樹脂(I)と同様に、直鎖構造のまま反応を完結させることもでき、分岐構造とすることもできる。本実施形態においては、ブロック共重合体樹脂(II)は、分岐構造のブロック共重合体を含むことが好ましい。ブロック共重合体樹脂(II)が分岐構造のブロック共重合体を含むことにより、膜厚精度の保持や、熱収縮率、耐自然収縮性のフィルム特性が向上する効果が得られやすくなる。
【0069】
本発明に係るブロック共重合体樹脂(II)は、ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xii)と共役ジエン単量体単位(Yii)とを含み、以下に記載する(ii-1)~(ii-3)を満たすブロック共重合体樹脂である。以下、(ii-1)~(ii-3)について詳しく述べる。
【0070】
(ii-1)本発明に係るブロック共重合体樹脂(II)においては、前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xii)と前記共役ジエン単量体単位(Yii)の合計(100質量%)に対する、前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xii)の質量割合が、70質量%以上84質量%以下であり、73質量%以上81質量%以下がより好ましい。また、前記共役ジエン単量体単位(Yii)の質量割合は、16質量%以上30質量%以下であり、19質量%以上27質量%以下がより好ましい。前記ビニル芳香族炭化水素単量体単位(Xii)と前記共役ジエン単量体単位(Yii)の質量割合が前記範囲を満たすと、熱収縮性多層フィルムの剛性と伸びのバランスが図れるため好ましい。
【0071】
(ii-2)本発明に係るブロック共重合体樹脂(II)においては、GPC測定で得られる重量平均分子量(Mwii)が、100,000以上300,000以下であり、より好ましくは100,000以上250,000以下である。ブロック共重合体樹脂(I)の(i-2)と同様に、Mwiiを前記範囲内とすることで、フィルムを押出成形する際、フィルムの幅や厚みが均一になり易くなる他、機械的強度も低下しにくくなる。なおMwiiも、前記Mwiと同様の測定方法により算出することができる。
【0072】
(ii-3)本発明に係るブロック共重合体樹脂(II)においては、動的粘弾性測定において、昇温速度4℃/分、周波数1Hz、室温~130℃の温度範囲で測定した損失正接値(tanδii)が、前記温度範囲で少なくとも1つの極大値を有し、前記損失正接値(tanδii)が最大の極大値を示す温度Tii(℃)は、Ti(℃)との関係において、下記式(1)、(2)を満たす。
Ti>Tii ・・・(1)
15≦(Ti-Tii)≦35 ・・・(2)
なお(Ti-Tii)は、18以上30以下であることがより好ましい。
TiおよびTiiが式(1)、(2)の関係を共に満たすことで、収縮仕上り性と熱収縮性のバランスがより良好となる。このようなtanδiiを実現する方法としては、例えば、ブロック共重合体樹脂(II)を製造する際に、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンを一定割合で同時添加する工程において、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンの添加比率を変化させることで調整することが可能である。なおtanδiiは、前記tanδiと同様の測定方法にて算出することができる。
【0073】
[熱収縮性多層フィルムの製造方法]
本発明の熱収縮性多層フィルムの製造方法の1つの態様は、前記ブロック共重合体樹脂(I)を少なくとも1つの表面層に含む未延伸の多層フィルムを、動的粘弾性測定において、昇温速度4℃/分、周波数1Hz、室温~130℃の温度範囲で測定した、前記ブロック共重合体樹脂(I)の損失弾性率(E’’i)が最大の極大値を示す温度Ticに対して、(Tic-25)℃以上(Tic+15)℃以下の温度範囲で、前記未延伸の多層フィルムをMD方向に1.00倍以上1.30倍以下の範囲で延伸し、TD方向に3.0倍以上8.0倍以下の範囲で延伸する工程を含む、熱収縮性多層フィルムの製造方法である。
ここで、ブロック共重合体樹脂(I)の損失弾性率(E’’i)は、前記の動的粘弾性測定と同様の装置及び測定方法にて算出することができる。
【0074】
より具体的には、ブロック共重合体樹脂(I)や、他の樹脂をそれぞれ押出機で可塑化させ(可塑化工程)、前記ブロック共重合体樹脂(I)が少なくとも1つの表面層に含まれるように、公知のTダイ法等で連続的に多層押出しして2層以上に積層させた未延伸の多層フィルムを得る工程(積層工程)の後、これをMD方向及びTD方向に延伸させる工程(逐次延伸工程)を含む方法を好ましく挙げることができる。前記Tダイ法で一般的に用いられるTダイの仕様としては、樹脂の流動の停滞および滞留が生じ難い仕様であれば、特に制限を受けるものでは無いが、コートハンガー方式のTダイを使用することが好ましい。Tダイの流路面の素材としては、樹脂の剥離性が良好で、樹脂の停滞および滞留を生じ難い素材であれば、限定を受けるものではない。一般的なものとしては、硬質クロムメッキが使用される。
【0075】
逐次延伸工程をさらに具体的に説明すると、前記積層工程で得た多層フィルムを、好ましい温度範囲に保ちながら、回転差のあるロールを有する装置を用いて、MD方向に連続的に延伸し、次いで多層フィルムの両端部をクリップで挟み、TD方向にも連続的に延伸する製造方法、即ち縦延伸機と横延伸機を有する逐次延伸装置による逐次延伸工程(逐次延伸法)が一般的に好ましく採用される。なお、本発明の熱収縮性多層フィルムの製造方法においては、前記好ましい温度範囲とは、動的粘弾性測定において、昇温速度4℃/分、周波数1Hz、室温~130℃の温度範囲で測定した、前記ブロック共重合体樹脂(I)の損失弾性率(E’’i)が最大の極大値を示す温度Ticに対して、(Tic-25)℃以上(Tic+15)℃以下の温度範囲である。
前記温度範囲は、より好ましくは、Ticに対して、(Tic-20)℃以上(Tic+10)℃以下である。このような温度範囲で延伸することによって、熱収縮率と自然収縮率のバランスや厚み精度がより良好となりやすい。
また本発明の熱収縮性多層フィルムの製造方法においては、延伸倍率は、前記多層フィルムのMD方向に1.00倍以上1.30倍以下、好ましくは1.00倍を超え1.20倍以下である。また、前記TD方向の延伸倍率は、3.0倍以上8.0倍以下、好ましくは4.0倍以上6.0倍以下である。延伸倍率を前記の範囲とすることにより、熱収縮率が良好となりやすい。前記ロールとテンターを用いる逐次延伸工程では、MD方向及びTD方向の延伸倍率を前記範囲内に設定することにより、熱収縮性及び熱収縮仕上がり性のバランスのとれた熱収縮性多層フィルムが得られやすくなる。
【0076】
本発明の熱収縮性多層フィルムの厚みは、本発明の効果を有する限り特に限定されない。例えば、ペットボトル等の飲料容器の包装用途で使用されるシュリンクラベルにおいては、一般的な印刷設備、印刷方式、装着方式等を考慮した場合、厚み40~50μmでも使用することが可能である。熱収縮性多層フィルムの使用方法によっては、更なる薄膜化も可能であり、例えば、20μm以上40μm未満の範囲とすることもできる。
【0077】
但し熱収縮性多層フィルムの厚みが不均一であると、前記フィルムを巻き取りしたロールに瘤、フレアー等が発生し、フィルム外観を損なう恐れがある。そのため、TD方向の厚み変動を、厚み平均値±10%の範囲に、より好ましくは厚み平均値±5%の範囲に抑えることが好ましい。熱収縮性多層フィルムの厚みを均一化するためには、例えば押出時においては自動Tダイの使用等により未延伸フィルムの厚みの均一化を図る、また延伸時のフィルム温度分布を均一化するといった方策が挙げられる。
【0078】
<熱収縮性多層フィルムの評価>
本発明は、従来よりも耐溶剤性に優れ、また良好な熱収縮仕上がり性を有する熱収縮多層フィルムを得ることを目的とするものである。従って、本発明の熱収縮性多層フィルムは、フィルムの熱収縮特性に優れている必要がある。また、それ以外にも、フィルム強度、透明性、耐自然収縮性、フィルム剛性といった熱収縮性フィルムの特性を基本的に備えていることが前提となる。なお、本発明は熱収縮性多層フィルムの発明であるが、以降の説明においては簡単のため、「熱収縮性フィルム」や単に「フィルム」と記載することがある。
【0079】
(フィルム強度)
前記フィルム強度とは、例えばフィルム製造時やこれをロール状に巻き取りする時に、フィルムに掛かる張力に対して求められる強度である。但し強度値そのものよりも、得られたフィルムの常温域での引張り測定で得られる、引張破断伸び率の値がフィルム強度の指標となる。工業的には逐次延伸法によるフィルム製造法を採用する場合がほとんどであるため、この場合にはフィルムのMD方向の強度が求められる。本発明の1つの態様において、熱収縮多層フィルムのMD方向の引張り測定における、フィルムの引張破断伸び率は200%以上であることが好ましく、300%以上であることがより好ましい。引張破断伸び率が200%未満であると、フィルムの破断が起こりやすくなるため、製造に支障を来たす場合がある。
【0080】
(フィルムの透明性)
本実施形態に係る熱収縮性多層フィルムは、例えば、その表面層に印刷を施して熱収縮性ラベルとして用いる場合、フィルムの透明性として、そのHAZE値が10%以下であることが好ましい。その結果、フィルムの白濁度が目立つのを防ぎ、熱収縮性ラベルの意匠性を維持することができる。
【0081】
(耐自然収縮性)
本発明の熱収縮性多層フィルムにおいては、例えば、保管中や輸送中にフィルムが意図せず収縮して印刷ズレ等の問題を引き起こすことを避けるため、耐自然収縮性の指標となる自然収縮率はなるべくゼロに近い数値であることが望ましい。実用的には、自然収縮率は0%以上4%以下の範囲に収まることが好ましく、0%以上2%以下の範囲に収まることがさらに好ましい。前記自然収縮率は、製造直後のフィルムを一定期間恒温恒湿槽内に保管し、フィルム上に定めた2点間の基準直線距離を保管前後で測定し、保管後に生じた収縮長さを保管前の長さで除することで算出することができる。即ち自然収縮率は、保管前の基準直線距離をL1とし、保管後の基準直線距離をL2とした場合、下記の数式(4)によって算出することができる。
(L1-L2)/(L1)×100 ・・・(4)
前記恒温恒湿槽内部の内部温度及び湿度は、実用上想定される過酷な条件が一般的に採用される。本発明の1つの態様においては、40℃の恒温高湿槽内で7日間保管した際の自然収縮率が、2%以下であることが好ましい。なお、前記ロールとテンターを用いて逐次延伸法で製造される熱収縮性フィルムでは、MD方向よりもTD方向の方が、延伸倍率が高く設定されることが多く、通常はTD方向の自然収縮率の値である。
【0082】
(フィルム剛性)
本発明の熱収縮性多層フィルムは、通常、前記逐次延伸法で製造される。これを、例えば、飲料容器用の熱収縮性ラベルとして用いる場合は、一般に熱収縮性多層フィルムの表面に商品名や表示名等の印刷を施して熱収縮性ラベルとし、その後、前記熱収縮性ラベルを飲料容器の胴体部周囲より太く、TD方向を周方向とする容器毎の形状に合わせた筒状に一旦加工し、さらに前記筒状とした熱収縮性ラベルを飲料容器に仮装着する。次いで熱収縮性ラベルを加熱収縮させることにより、複雑な曲面で構成される飲料容器の形状にラベルが密着するように収縮させて用いる。熱収縮させる前の熱収縮性ラベルのフィルム剛性が不足していると、熱収縮性ラベルを筒状に加工する工程で支障が生じたり、容器に筒状の熱収縮性ラベルを仮装着した際に、熱収縮させるまで筒状を保ち難くなる。そのため、例えば筒状としたフィルムの端部が湾曲したり、不要なシワや波打ちが熱収縮前のフィルムに発生し、熱収縮仕上がり性に支障が生じることがある。そのため、熱収縮性フィルムの基本特性として、適度なフィルム剛性を有する必要がある。なおフィルム剛性は、前記MD方向のフィルム引張り試験の弾性率を指標とすることができる。引張り弾性率は、フィルムに用いられるブロック共重合体樹脂の化学組成等により変化するが、その適度な範囲として900MPa以上2000MPa以下となることが好ましく、950MPa以上1500MPa以下となることがより好ましい。
【0083】
(耐溶剤性)
本発明の熱収縮性多層フィルムは、従来よりも耐溶剤性が向上し、有機溶剤を含むインキによる印刷を経た後も、有機溶剤によるフィルムへの浸食を受けにくい。従ってフィルム強度の低下が小さく、白化や収縮といった現象も起きにくい。なおフィルムの耐溶剤性の指標には、イソプロピルアルコールと酢酸エチルの混合溶液を滴下した際に白化が起きない最大の酢酸エチル濃度を用い、これが高いほど耐溶剤性が良好であることを示す。
【0084】
(熱収縮仕上がり性)
本発明の熱収縮性多層フィルムは、従来よりも耐溶剤性の向上に加えて、熱収縮仕上がり性にも優れる。熱収縮仕上り性は、70℃以上100℃以下の温度範囲におけるMD方向の寸法変化が小さいほど、複雑な形状を有する被包装体を包装する際に、シワやフィルム端部の外観不良が発生しにくい。すなわち、本発明の1つの態様において、70℃以上100℃以下の温度範囲におけるMD方向の熱収縮率の最大値が5%以下、かつ最小値が-3%以上であることが好ましく、前記熱収縮率の最大値が3%以下、かつ最小値が-2%以上であることがより好ましい。
【0085】
また、熱収縮性ラベルの熱収縮率が低い場合には、被包装体とラベルとの間に隙間(弛み)等が生じる場合がある。そのため、本発明の1つの態様においては、熱収縮性多層フィルムの80℃におけるTD方向の熱収縮率が30%以上であり、100℃における熱収縮率が65%以上であることが好ましい。
【0086】
(用途)
本発明の実施形態である熱収縮性多層フィルムは、前述の通り熱収縮性ラベルとして好適に用いることができる。また、本発明の熱収縮性多層フィルムは、前記熱収縮性ラベル以外の用途、例えば、熱収縮キャップシール、オーバーパックフィルム等、様々な包装形態として使用することができる。
【0087】
[熱収縮性ラベル]
本発明の熱収縮性ラベルは、前述の熱収縮性多層フィルムを備えるものである。また、前記熱収縮性ラベルは、熱収縮性多層フィルムの樹脂(I)を含む表面層の上に、印刷層が積層された構成であることが好ましい。
本発明の熱収縮性多層フィルムを備える熱収縮性ラベルは、複雑な形状であってもシワを生じることなく密着し、かつ印刷時にも有機溶剤による影響を受けにくいため、意匠性に優れている。
【0088】
[ラベルの製造方法]
本発明のラベルとは、前記熱収縮性ラベルを熱収縮させて得られるものを指す。即ち本発明の1つの態様は、前記熱収縮性ラベルを熱収縮させることによる、ラベルの製造方法である。
本発明のラベルの製造方法は、前記ラベルを装着する被包装体によって適宜調製される。例えば、ペットボトル等の飲料容器に用いる場合、前記熱収縮性ラベルを60℃以上110℃以下の温度で熱収縮させたものであることが好ましい。
【0089】
また、前記ラベルは容器の包装用として好ましく用いられる。本発明の熱収縮性多層フィルムから得られるラベルは、例えば、ぶりき製、無スズ鋼(TFS)製、アルミニウム製、ステンレス製等の金属容器(3ピース缶及び2ピース缶、又は蓋付きのボトル缶等)、ガラス製の容器、又はポリエチレンテレフタレート(PET)製、ポリエチレン製、ポリプロピレン製等のプラスチック容器等に用いることができる。本実施形態の熱収縮性多層フィルムは、複雑な形状を有する被包装体のシュリンクラベルとして用いた場合でも、フィルムにシワ等が発生せず、熱収縮仕上がり性に優れる。また、印刷時の有機溶剤によるケミカルアタックに対して白化を起こし難く、フィルム強度も維持されやすいため、従来よりも耐溶剤性が向上している。
【実施例】
【0090】
以下に、実施例に基づいて本発明より詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
なお、表1には以下で製造した各ブロック共重合体の化学組成及び諸物性を示した。また、表2~3には、各実施例及び比較例で用いたブロック共重合体樹脂の配合割合、諸物性、及び評価結果を示した。
また、表2~3中の「表面層」及び「中間層」の欄には、各層で使用したブロック共重合体樹脂の種類を記載した(表2~3中の「ブロック共重合体樹脂の種類」の欄を参照)。すなわち、各実施例及び比較例で用いたブロック共重合体樹脂が、本発明のブロック共重合体樹脂(I)の構成を満たす場合は、前記ブロック共重合体樹脂の種類の欄に「(I)」と記載し、ブロック共重合体樹脂(II)の構成を満たす場合は、「(II)」と記載した。ブロック共重合体樹脂(I)及び(II)のいずれにも該当しない場合は、「(-)」と記載した。
【0091】
<ブロック共重合体の製造>
本発明の熱収縮性多層フィルムの効果を実証する上で、ブロック共重合体樹脂(I)及びブロック共重合体樹脂(II)を構成するための例として、参考例1~8のブロック共重合体(A)~(H)を調製した。以下にその手順を示す。
【0092】
(参考例1)ブロック共重合体(A)の製造
(1)1m3の反応容器に467kgのシクロヘキサンと、70.1gのテトラヒドロフランを充填し、内温30℃で攪拌しながら、1260mLのn-ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)を添加した。
(2)内温30℃で、82.2kgのスチレンを添加し、昇温して重合させた。内温は67℃まで上昇した。
(3)内温45℃で、4170mLのn-ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)を添加した後、69.8kgのスチレンを添加し、昇温して重合させた。内温は75℃まで上昇した。
(4)内温50℃で、48.0kgのブタジエンを添加し、昇温して重合させた。内温は81℃まで上昇した。
(5)内温75℃で、600gのエポキシ化大豆油を添加した後、75℃で10分間攪拌し、重合を完結させた。
(6)水300gを添加することで全ての重合活性末端を失活させ、ブロック共重合体(A)を含む重合液を得た。
(7)この重合液を脱気押出機で溶融ペレット化することにより、ブロック共重合体(A)を得た。
【0093】
(参考例2)ブロック共重合体(B)の製造
(1)1m3の反応容器に500kgのシクロヘキサンと、75gのテトラヒドロフランを充填し、内温30℃で攪拌しながら、1320mLのn-ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)を添加した。
(2)内温30℃で、15.6kgのスチレンを添加し、昇温して重合させた。内温は52℃まで上昇した。
(3)内温50℃で、65.2kgのスチレンと48.0kgのブタジエンを添加し、昇温して重合させた。内温は104℃まで上昇した。
(4)内温60℃で、水9.0gを添加し十分反応させた後、71.2kgのスチレンを添加し、昇温することで重合を完結させた。内温は87℃まで上昇した。
(5)水300gを添加することで全ての重合活性末端を失活させ、ブロック共重合体(B)を含む重合液を得た。
(6)この重合液を脱気押出機で溶融ペレット化することにより、ブロック共重合体(B)を得た。
【0094】
(参考例3)ブロック共重合体(C)の製造
(1)1m3の反応容器に467kgのシクロヘキサンと、70.1gのテトラヒドロフランを充填し、内温30℃で攪拌しながら、1390mLのn-ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)を添加した。
(2)内温30℃で、93.8kgのスチレンを添加し、昇温して重合させた。内温は73℃まで上昇した。
(3)内温45℃で、3800mLのn-ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)を添加した後、42.2kgのスチレンを添加し、昇温して重合させた。内温は66℃まで上昇した。
(4)内温を80℃に保ちながら、総量8.0kgのスチレン、及び総量2.0kgのブタジエンを、それぞれ48.0kg/h、12.0kg/hの一定添加速度で同時に添加し、添加終了後10分間内温を80℃で保持した。
(5)内温50℃で、50.0kgのブタジエンを添加し、昇温して重合させた。内温は82℃まで上昇した。
(6)内温60℃で、4.0kgのスチレンを添加し、内温を75℃まで昇温して重合させた。
(7)内温75℃で、570gのエポキシ化大豆油を添加した後、75℃で10分間攪拌し、重合を完結させた。
(8)水300gを添加することで全ての重合活性末端を失活させ、ブロック共重合体(C)を含む重合液を得た。
(9)この重合液を脱気押出機で溶融ペレット化することにより、ブロック共重合体(C)を得た。
【0095】
(参考例4)ブロック共重合体(D)の製造
(1)1m3の反応容器に490kgのシクロヘキサンと73.5gのテトラヒドロフランを充填し、内温30℃で攪拌しながら、960mLのn-ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)を添加した。
(2)内温30℃で、105.0kgのスチレンを添加し、昇温して重合させた。内温は83℃まで上昇した。
(3)内温55℃で、1260mLのn-ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)を添加した後、23.1kgのスチレンを添加し、昇温して重合させた。内温は62℃まで上昇した。
(4)内温45℃で、48.3kgのスチレンと33.6kgのブタジエンを添加し、昇温することで重合を完結させた。内温は88℃まで上昇した。
(5)水300gを添加することで全ての重合活性末端を失活させ、ブロック共重合体(D)を含む重合液を得た。
(6)この重合液を脱気押出機で溶融ペレット化することにより、ブロック共重合体(D)を得た。
【0096】
(参考例5)ブロック共重合体(E)の製造
(1)1m3の反応容器に490kgのシクロヘキサンと、73.5gのテトラヒドロフランを充填し、内温30℃で攪拌しながら、1650mLのn-ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)を添加した。
(2)内温30℃で、35.7kgのスチレンを添加し、昇温して重合させた。内温は55℃まで上昇した。
(3)内温40℃で、69.3kgのスチレンと8.9kgのブタジエンを添加し、昇温して重合させた。内温は73℃まで上昇した。
(4)内温60℃で、水5.5gを添加し十分反応させた後、69.3kgのスチレンと26.8kgのブタジエンを添加し、昇温することで重合を完結させた。内温は105℃まで上昇した。
(5)水300gを添加することで全ての重合活性末端を失活させ、ブロック共重合体(E)を含む重合液を得た。
(6)この重合液を脱気押出機で溶融ペレット化することにより、ブロック共重合体(E)を得た。
【0097】
(参考例6)ブロック共重合体(F)の製造
(1)1m3の反応容器に500kgのシクロヘキサンと、75gのテトラヒドロフランを充填し、内温30℃で攪拌しながら、2000mLのn-ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)を添加した。
(2)内温30℃で、4.0kgのスチレンを添加し、昇温して重合させた。内温は35℃まで上昇した。
(3)内温を80℃に保ちながら、総量144.0kgのスチレン、及び総量12.0kgのブタジエンを、それぞれ144.0kg/h、12.0kg/hの一定添加速度で同時に添加し、添加終了後10分間内温を80℃で保持した。
(4)内温60℃で、36.0kgのブタジエンを添加し、昇温して重合させた。内温は86℃まで上昇した。
(5)内温70℃で、4.0kgのスチレンを添加し、昇温することで重合を完結させた。内温は73℃まで上昇した。
(6)水300gを添加することで全ての重合活性末端を失活させ、ブロック共重合体(F)を含む重合液を得た。
(7)この重合液を脱気押出機で溶融ペレット化することにより、ブロック共重合体(F)を得た。
【0098】
(参考例7)ブロック共重合体(G)の製造
(1)1m3の反応容器に500kgのシクロヘキサンと、75gのテトラヒドロフランを充填し、内温30℃で攪拌しながら、2000mLのn-ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)を添加した。
(2)内温30℃で、4.0kgのスチレンを添加し、昇温して重合させた。内温は35℃まで上昇した。
(3)内温を80℃に保ちながら、総量144.0kgのスチレン、及び総量12.0kgのブタジエンを、それぞれ144.0kg/h、12.0kg/hの一定添加速度で同時に添加し、添加終了後10分間内温を80℃で保持した。
(4)内温60℃で、36.0kgのブタジエンを添加し、昇温して重合させた。内温は86℃まで上昇した。
(5)内温70℃で、4.0kgのスチレンを添加し、昇温して重合させた。内温は73℃まで上昇した。
(6)内温75℃で、190gのエポキシ化大豆油を添加した後、75℃で10分間攪拌し、重合を完結させた。
(6)水300gを添加することで全ての重合活性末端を失活させ、ブロック共重合体(G)を含む重合液を得た。
(7)この重合液を脱気押出機で溶融ペレット化することにより、ブロック共重合体(G)を得た。
【0099】
(参考例8)ブロック共重合体(H)の製造
(1)1m3の反応容器に500kgのシクロヘキサンと、75gのテトラヒドロフランを充填し、内温30℃で攪拌しながら、2000mLのn-ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)を添加した。
(2)内温30℃で、4.0kgのスチレンを添加し、昇温して重合させた。内温は35℃まで上昇した。
(3)内温を80℃に保ちながら、総量144.0kgのスチレン、及び総量21.0kgのブタジエンを、それぞれ144.0kg/h、21.0kg/hの一定添加速度で同時に添加し、添加終了後10分間内温を80℃で保持した。
(4)内温60℃で、27.0kgのブタジエンを添加し、昇温して重合させた。内温は76℃まで上昇した。
(5)内温70℃で、4.0kgのスチレンを添加し、昇温することで重合を完結させた。内温は73℃まで上昇した。
(6)水300gを添加することで全ての重合活性末端を失活させ、ブロック共重合体(H)を含む重合液を得た。
(7)この重合液を脱気押出機で溶融ペレット化することにより、ブロック共重合体(H)を得た。
【0100】
また、表中のポリスチレン樹脂は、東洋スチレン(株)製、商品名:G200Cを用いた。
【0101】
(実施例1)熱収縮性多層フィルムの製造
ブロック共重合体樹脂(I)の原料として、参考例1のブロック共重合体(A)のペレットを準備した。またブロック共重合体樹脂(II)の原料として、参考例6のブロック共重合体(F)と、参考例7のブロック共重合体(G)のペレットを67:33の質量割合で乾式混合した混合ペレットを準備した。各ペレットについて、ブロック共重合体樹脂(II)の両表面に、ブロック共重合体樹脂(I)が積層されるように多層シート成膜機に供給し、全体厚みが300μm、表面層/中間層/表面層の厚み比率が10/80/10であるシートを押し出し成形した。多層シート成膜機を出たシートは、直ぐに逐次延伸装置の縦延伸機に送られ、70℃でMD方向に1.05倍、95℃でTD方向に4.5倍延伸し、実施例1の熱収縮性多層フィルムを得た。得られた熱収縮性多層フィルムについて、延伸温度、延伸条件は表2にも記載した。
【0102】
(実施例2~6、比較例1~4)
ブロック共重合体樹脂(I)及びブロック共重合体樹脂(II)の配合量、及び製造条件を表2~3に記載の通りとした以外は、実施例1と同様の方法にて、各例の熱収縮性多層フィルムを得た。
【0103】
<物性の評価>
実施例1~6、比較例1~4の熱収縮性多層フィルムに用いた、ブロック共重合体樹脂(I)及びブロック共重合体樹脂(II)の物性の評価、即ちブロック共重合体樹脂(I)及び(II)に含まれるビニル芳香族炭化水素単量単位の質量割合及び共役ジエン単量体単位の質量割合の測定、重量平均分子量の測定、動的粘弾性の測定、ミクロ相分離構造の観察、分岐構造の有無観察について、その方法を以下に記載する。なお参考例の樹脂ペレットをそのまま評価用試料として用いることができる場合を除き、実施例、比較例の各熱収縮性多層フィルムに用いたブロック共重合体樹脂(I)及びブロック共重合体樹脂(II)の樹脂物性については、乾式混合したペレットではなく、以下の方法で作製した新たなペレット試料を用いて評価した。即ち、表2~3に示した実施例、比較例の配合割合に従い、各参考例のブロック共重合体、ポリスチレン樹脂のペレットを乾式混合してペレット混合物となし、前記ペレット混合物を、押出機を用いて210℃で溶融混練してペレットを作製し、これを用いて評価した。本明細書では、これらを例えば「実施例3のブロック共重合体樹脂(I)ペレット試料」と称することがある。また「実施例1のブロック共重合体樹脂(I)のペレット試料」と「参考例1のブロック共重合体(A)のペレット」とは同じものである。
【0104】
<ビニル芳香族炭化水素単量体単位の質量割合測定>
各実施例、及び比較例のブロック共重合体樹脂(I)及びブロック共重合体樹脂(II)に含まれるビニル芳香族炭化水素単量体単位の質量割合は、全体(100質量%)から共役ジエン単量体単位の質量割合の測定値(質量%)を差し引いた値とした。結果を表1~3に記載した。
【0105】
<共役ジエン単量体単位の質量割合の測定>
各実施例、及び比較例のブロック共重合体樹脂(I)及びブロック共重合体樹脂(II)に含まれる共役ジエン単量体単位の質量割合は、各実施例、及び比較例のブロック共重合体樹脂(I)のペレット試料及びブロック共重合体樹脂(II)のペレット試料を用い、以下に示す(1)~(6)の手順に従って測定した。結果を表1~3に記載した。
(1)試料0.1gをクロロホルム50mLに溶解させた。
(2)一塩化よう素/四塩化炭素溶液25mLを添加し十分混合した後、1時間暗所で放置した。
(3)2.5%よう化カリウム溶液を75mL加え、十分混合した。
(4)20%チオ硫酸ナトリウム/エタノール溶液を十分に攪拌しながら、液の色が淡黄色程度となる迄、添加した。
(5)1%デンプン指示薬を約0.5mL加え、再度、20%チオ硫酸ナトリウム/エタノール溶液で無色になるまで滴定した。
(6)滴定完了後、消費したチオ硫酸ナトリウム/エタノール溶液量a[mL]を計測した。
ブランクの測定による補正を実施すべく、(1)~(6)の操作をクロロホルム単体でも実施し、消費したチオ硫酸ナトリウム/エタノール溶液量b[mL]を測定した。
共役ジエンの含有率は下記の式に従い、測定値より算出した。
共役ジエンの含有率(%)=[(b-a)×0.1×c×27/1000]/W×100
c:20%チオ硫酸ナトリウム/エタノール溶液の力価
W:試料量[g]
【0106】
<重量平均分子量の測定方法>
各実施例、及び比較例のブロック共重合体樹脂(I)及びブロック共重合体樹脂(II)の重量平均分子量Mwi、Mwii、は、各実施例、及び比較例のブロック共重合体樹脂(I)のペレット試料及びブロック共重合体樹脂(II)のペレット試料を用い、以下に示す装置を用いて測定した。結果を表1~3に記載した。
装置名:高速GPC装置 HLC-8220(東ソー(株)製)
カラム:PL gel MIXED-Bを3本直列
温度:40℃
検出:示差屈折率
溶媒(溶離液):テトラヒドロフラン
濃度:2wt%
検量線:標準ポリスチレン(Polymer Laboratories製)を用いて作製し、ポリスチレン換算の分子量として、重量平均分子量を算出した。
【0107】
<損失正接値、及び損失弾性率の測定>
各実施例、及び比較例のブロック共重合体樹脂(I)及びブロック共重合体樹脂(II)の動的粘弾性測定は、各実施例、及び比較例のブロック共重合体樹脂(I)のペレット試料及びブロック共重合体樹脂(II)のペレット試料を用いて、以下(1)、(2)に示した手順で実施し、温度に対するブロック共重合体樹脂(I)の損失正接値(tanδi)、損失弾性率(E’’i)、及びブロック共重合体樹脂(II)の損失正接値(tanδii)を測定した。得られた、動的粘弾性カーブから、それぞれ最大の極大値を示す温度、Ti、Tii、Ticを求めた。
(1)各ペレット試料を200~250℃の条件で加熱プレスし、厚さ0.1~0.5mmのシートを作製した。
(2)このシートから25mm×5mmの試験片を切り出し、23℃、50%RHの室内に24時間以上保管して養生処理を施した後、下記の装置を用いて貯蔵弾性率、及び損失弾性率を、下記の昇温速度及び周波数で、下記温度範囲において測定し、その損失正接値を計算させた。
装置:TA Instruments社製 固体粘弾性測定装置 RSAIII
設定温度範囲:室温~130℃
設定昇温速度:4℃/分
測定周波数:1Hz
【0108】
<ミクロ相分離構造の観察>
各実施例、及び比較例のブロック共重合体樹脂(I)及びブロック共重合体樹脂(II)のミクロ相分離構造は、各実施例、及び比較例のブロック共重合体樹脂(I)のペレット試料及びブロック共重合体樹脂(II)のペレット試料を用いて以下の方法で測定した。
各樹脂のペレットをエポキシ樹脂に包埋し、ミクロトームを用いて熱収縮前の熱収縮性フィルムの断面を得た。その後、この断面を透過型電子顕微鏡(TEM)装置で観察し、熱収縮前の熱収縮性フィルムにおけるミクロ相分離構造を目視観察した。結果を表1~3に記載した。
【0109】
<分岐構造の有無>
各実施例、及び比較例のブロック共重合体樹脂(I)及びブロック共重合体樹脂(II)の分岐構造の有無については、前記GPC装置で得られた分子量分布チャートの形状により、分岐鎖数1~4本に由来する分子量ピークの倍数値の有無で確認した。結果を表1~3に記載した。
【0110】
<フィルム物性の評価>
各実施例、及び比較例の熱収縮性多層フィルムは、以下の方法に従ってフィルム物性を測定した。結果を表2~3に記載した。
【0111】
<フィルム強度>
(引張弾性率、引張破断伸び率の測定)
本発明の熱収縮性多層フィルムに求められるMD方向のフィルム強度及び剛性を評価するにあたり、その指標となる引張破断伸び率及び引張弾性率を以下の方法で測定し、後述する基準に従い、それぞれフィルム強度、フィルム剛性として評価した。
(1)延伸フィルムから、MD方向の幅が100mm、TD方向の幅が10mmの短冊状の試料片を切り出した。
(2)(株)オリエンテック製 テンシロン万能材料試験機を使用し、切り出した試料片を、測定温度23℃、引張速度200mm/minでMD方向に引張り応力を与え、応力-歪み曲線と試料片の断面積から引張弾性率を算出した。引張破断伸び率についてはフィルム破断時の変位を基に算出した。MD方向の引張り伸び率が、200%以上であれば十分な強度を有していると判断し、MD方向の引張り弾性率が、900MPa以上であれば十分な剛性も有していると判断した。
【0112】
<透明性>
(HAZE値の測定)
熱収縮性多層フィルムのHAZE値を下記の方法で測定し、透明性を評価した。HAZE値は小さい値ほど好ましいと言えるが、10%以下であれば、実用上十分な透明性を有すると判断した。
(1)延伸フィルムから、MD方向の幅が50mm、TD方向の幅が100mmの試料片を切り出した。
(2)日本電色工業(株)製 濁度計NDH2000を使用し、フィルムのHAZE値を測定した。
【0113】
<耐自然収縮性>
下記の手順でTD方向の自然収縮率を測定した。
(1)延伸フィルムからMD方向が約75mm、TD方向が約400mmの試験片を切り出した。
(2)この試験片のTD方向に300.0mm間隔の標線を付けた。
(3)延伸フィルムを40℃の環境試験機内で保管した。
(4)7日の保管後フィルムを取り出し、標線間の距離L(mm)をノギスを用いて0.1mm単位まで測定した。
(5)下記の式により自然収縮率を算出した。
自然収縮率(%)={(300.0-L)/300.0}×100
【0114】
以上に示した項目に関するフィルム物性評価の結果から、本発明の熱収縮性多層フィルムは、フィルム強度、透明性、耐自然収縮性、フィルム剛性といった諸物性を維持していることが示された。さらに、本発明の目的の1つである耐溶剤性、熱収縮仕上がり性の評価結果について以下に記載する。
【0115】
<耐溶剤性の評価>
耐溶剤性は、下記の方法で測定し、後述する基準に従い評価した
(1)MD方向の幅が300mm、TD方向の幅が300mmの試料片を切り出し、ガラス板上に乗せた。
(2)2-プロパノール/酢酸エチルの体積混合比率を、酢酸エチルが30体積%から5体積%刻みで50体積%まで変えた5種の混合溶剤を作製し、23℃、湿度50%の環境下で、フィルム上にスポイトを用いて0.05mL滴下した。
(3)滴下した混合溶液が完全に揮発し、消失した後のフィルム外観を目視で確認し、フィルムの白化が認められない酢酸エチルの最大濃度を測定値とした。目視で判断しにくい場合、小さい方の値を採用した。
A:フィルム白化が起きない、2-プロパノール/酢酸エチル中の酢酸エチル最大濃度が45体積%以上である。
B:フィルム白化が起きない、2-プロパノール/酢酸エチル中の酢酸エチル最大濃度が35体積%以上45体積%未満である。
C:フィルム白化が起きない、2-プロパノール/酢酸エチル中の酢酸エチル最大濃度が35体積%未満である。
上記のうち、B以上を合格(耐溶剤性に優れる)とした。
【0116】
<熱収縮仕上がり性に関する目安値と実際の熱収縮仕上がり性の評価結果>
熱収縮仕上がり性に関する目安値として、MD方向に関する70℃から100℃にかけて測定される熱収縮率を、以下(1)~(4)の手順により求めた。なお、MD方向に関しては一時的に伸びることもあり、その場合は収縮率値(最小値)を負の値として計算した。熱収縮率の最大値及び最小値と、次に述べる実際の熱収縮仕上がり性とを比較し、即ち前記熱収縮率の最大値が5%以下、かつ最小値が-3%以下である熱収縮性多層フィルムを熱収縮させたとき、特にシワやフィルム端部の外観不良が目立たなくなる傾向があることの妥当性を判断した。
(1)延伸フィルムから、MD方向の幅が100mm、TD方向の幅が100mmの試験片を切り出した。
(2)この試験片を70℃の温水中に、10秒間、完全に浸漬させた後、取り出し、直ちに水冷した。水冷後の試料片は、水分を十分に拭き取り、MD方向の長さM(mm)を測定した。
(3)次式により70℃におけるMD方向の熱収縮率を算出し、小数点以下を四捨五入し整数値とした。
MD方向の熱収縮率(%)={(100-M)/100}×100
(4)温水温度を5℃ずつ上げながら100℃まで、(1)~(3)と同様の手順で測定を繰り返して実施し、70℃から100℃に至るMD方向の収縮カーブを作成し、その最大値と最小値を求め、その差の値を算出した。
【0117】
次に、以下の(1)~(4)の手順で、熱収縮ラベルの実際の熱収縮仕上がり性を評価した。
(1)代表的な円筒状容器として、PET製容器(口径20mmφ、胴径68mmφ、高さ210mm、アズワン社ペットボトル500丸 型番:M1-354-02)と、熱収縮フィルムから作製した、高さ:100mm、直径:74mmの円筒状(5mmは糊代部とした)の熱収縮ラベルを準備した。
(2)前記PET製容器に、フィルム上端部が、PETボトルの胴部が口金に向かって窄まり始める位置から15mm直上に位置するよう、熱収縮ラベルの下端部をテープで留めて仮装着した。
(3)前記熱収縮ラベルを仮装着したPETボトルを、80℃に設定した高温槽の中に30秒間投入し、その後直ぐに高温槽外に取り出し、室温まで冷却させた。
(4)熱収縮ラベルの熱収縮の状態、特にフィルム上端部のシワ発生の有無を観察した。3次元曲面部においても、熱収縮ラベルが弛みやシワの発生を伴うことなくPETボトルに密着した状態で収縮しているのが好ましいことは言うまでもない。目視により明らかにシワが発生したフィルムについては、シワが発生しやすい傾向有りとして「C評価」とした。一方、熱収縮ラベルの密着性が特に良好に見えたものを「A評価」とし、熱収縮性ラベルの密着性が良好であったものを「B評価」とした。このうち、「B評価」以上を合格とした。結果を表2~3に示した。
【0118】
(TD方向の熱収縮率の測定)
以下(1)~(3)に示す方法でTD方向の熱収縮率を測定した。なお同じ温度におけるMD方向の熱収縮率とTD方向の熱収縮率は同時に測定することが可能である。
(1)延伸フィルムから、MD方向の幅が100mm、TD方向の幅が100mmの試験片を切り出した。
(2)この試験片を80℃の温水中に、10秒間、完全に浸漬させた後、取り出し、直ちに水冷した。水冷後の試料片は、水分を十分に拭き取り、TD方向の長さL(mm)を測定した。
(3)次式により熱収縮率を算出し、小数点以下を四捨五入し整数値とした。
TD方向の熱収縮率(%)={(100-L)/100}×100
(4)100℃の温水中に浸漬させた際の熱収縮率についても、上記の方法と同様にTD方向の熱収縮率を測定した。TD方向の熱収縮率に関しては、80℃におけるTD方向の熱収縮率が30%以上であり、100℃におけるTD方向の熱収縮率が65%以上であれば良好な熱収縮性を示し、収縮不足による弛み等は生じない熱収縮性フィルムであると判断した。
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
実施例1~6の熱収縮性多層フィルムは、良好な耐溶剤性及び熱収縮仕上がり性を有していることに加え、フィルム強度、透明性、耐自然収縮性、フィルム剛性といった諸物性のバランスが良好であった。
一方、比較例1~4の熱収縮性多層フィルムは、熱収縮仕上がり性、又は耐溶剤性のどちらかが劣っており、これら両方の性能を満たすフィルムは得られなかった。このことから、本実施形態の熱収縮性多層フィルムが、シュリンクフィルムに求められる諸物性を維持しつつも、本発明の最大の特徴である熱収縮仕上がり性により優れ、さらにはインクの希釈有機溶剤に対する耐溶剤性にも優れた材料であることが分かる。なお、本発明では、70℃以上100℃以下におけるMD方向の熱収縮率の最大値が5%以下、かつ最小値が-3%以上であれば、実際の熱収縮させたときの仕上がり性も良好であることが示されている。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、フィルム強度、透明性、耐自然収縮性、フィルム剛性といった諸物性を維持しつつ、良好な耐溶剤性を有しているため印刷を施してもフィルム強度が低下することが少ない。さらに従来よりも熱収縮仕上がり性が良好であるため、より印刷や形状に対する適正を要する各種容器等のシュリンクラベル用のシュリンクフィルムとして好適に使用できる。