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特許7641904オレアセイン及びオレオミッショナルタイプのセコイリドイドを得る方法、及びそれぞれの医薬製剤を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-27
(45)【発行日】2025-03-07
(54)【発明の名称】オレアセイン及びオレオミッショナルタイプのセコイリドイドを得る方法、及びそれぞれの医薬製剤を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/62 20220101AFI20250228BHJP
   C07C 69/732 20060101ALI20250228BHJP
   C07C 69/734 20060101ALI20250228BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20250228BHJP
   A61K 36/63 20060101ALI20250228BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20250228BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20250228BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20250228BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250228BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250228BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20250228BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20250228BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20250228BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20250228BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20250228BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20250228BHJP
【FI】
C12P7/62
C07C69/732 Z
C07C69/734 Z
A61K31/22
A61K36/63
A61K47/10
A61K9/02
A61K9/20
A61P35/00
A61P25/00
A61P3/10
A61P3/06
A61P29/00
A61P9/10 101
A61P7/02
A23L33/105
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021547333
(86)(22)【出願日】2020-02-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-05
(86)【国際出願番号】 GR2020000014
(87)【国際公開番号】W WO2020165613
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】20190100075
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GR
(73)【特許権者】
【識別番号】521355957
【氏名又は名称】オムファックス エスエイ
【氏名又は名称原語表記】OMPHAX SA
(74)【代理人】
【識別番号】100106448
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 伸介
(72)【発明者】
【氏名】プロコピオス・マギアティス
(72)【発明者】
【氏名】エレニ・メリオウ
(72)【発明者】
【氏名】パナギオティス・ディアマンタコス
(72)【発明者】
【氏名】アイミリア・リガコウ
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-520600(JP,A)
【文献】国際公開第2017/077134(WO,A1)
【文献】FOOD RESEARCH INTERNATIONAL,2000年,33,P.475-485
【文献】J. AGRIC. FOOD CHEM.,2009年,57,P.11161-11167
【文献】NATURAL PRODUCT RESEARCH,2005年,19(2),P.105-109
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/62
C07C 69/732
C07C 69/734
A61K 31/22
A61K 36/63
A61K 47/10
A61K 9/02
A61K 9/20
A61P 35/00
A61P 25/00
A61P 3/10
A61P 3/06
A61P 29/00
A61P 9/10
A61P 7/02
A23L 33/105
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のタイプ:
【化1】
(ただし:
【化2】
であり、R1=H又はCOOCH3であり、
【化4】
である)のセコイリドイドを得る方法であって、
Olea europaea L種(全ての亜種及び栽培品種を含む)の植物材料を、15~40℃の温度において、溶媒に1:1~1:20の比で接触させ、30分~12時間の期間にわたって接触したままとして、前記植物材料内に存在する酵素とオレウロペインとの反応を前記温度で活性化させて、前記セコイリドイドの混合物(A)を製造するステップを含み、ここで、
前記植物材料は、事前に水溶液中で粉砕された、新鮮な、若しくは水分が0.1%~10%の乾燥された葉、又は無傷の新鮮な果実若しくは少なくとも24時間にわたって(2~8℃で)冷蔵若しくは(-18~-24℃で)冷凍された果実であり、かつ、前記溶媒は水であり、あるいは、
前記植物材料は、無傷の新鮮な葉又は果実で構成され、かつ、前記溶媒は、ジクロロメタン、酢酸エチル、及び超臨界二酸化炭素からなる溶媒の群から選択される水不混和性有機溶媒である
前記セコイリドイドを得る方法。
【請求項2】
前記植物材料は、事前に水溶液中で粉砕された、新鮮な、若しくは水分が0.1%~10%の乾燥された葉、又は無傷の新鮮な果実若しくは少なくとも24時間にわたって(2~8℃で)冷蔵若しくは(-18~-24℃で)冷凍された果実であり、前記溶媒は水であり、
前記方法は更に、
前記混合物(A)をろ過するステップ;
水相を得るステップ;
前記水相を、10:1~1:10の比の、ジクロロメタン、酢酸エチル、及び超臨界二酸化炭素からなる溶媒の群から選択される水不混和性有機溶媒で抽出するステップ;
有機相を得て気化させるステップ;
産物(B)を得るステップであって、前記産物(B)は:
【化7】
ここで、
【化5】
であり、R1=Hであり、R2=CHOである物質を含有する、ステップを含む、請求項1に記載のセコイリドイドを得る方法。
【請求項3】
前記産物(B)を、5分~24時間の期間にわたって、最高2%w/wの比、及び15~40℃の温度の、pH=6.9~7.1の脱イオン蒸留水と混合するステップ;
溶液(C)を得るステップであって、前記溶液(C)は:
【化7】
ここで、
【化5】
であり、R1=Hであり、R2=CH(OΗ)2である物質を含有する、ステップを更に含む、請求項2に記載のセコイリドイドを得る方法。
【請求項4】
前記植物材料は、無傷の新鮮な葉又は果実で構成され、
前記溶媒は、ジクロロメタン、酢酸エチル、及び超臨界二酸化炭素からなる溶媒の群から選択される水不混和性有機溶媒であり、
更に前記方法は:
前記混合物(A)をろ過するステップ;
有機相を得るステップ;
前記有機相を気化させるステップ;
残渣を得るステップ;
前記残渣を、1~24時間の期間にわたって、最高2%w/wの比、及び15~35℃の温度の、pH=<7の脱イオン蒸留水と、撹拌しながら混合するステップ;
ろ過によって不溶性成分を除去するステップ;並びに
溶液(D)を得るステップであって、前記溶液(D)は:
【化7】
ここで、
【化5】
であり、R1=COOCH3であり、R2=CH(OH)2である物質を含有する、ステップを含む、請求項1に記載のセコイリドイドを得る方法。
【請求項5】
前記溶液(D)を、減圧下及び40℃未満の温度において、気化させるステップを更に含み、
前記気化させるステップは、産物(E)を提供し、前記産物(E)は:
【化7】
ここで、
【化2】
であり、R1=COOCH3であり、R2=CHΟである物質を含有する、請求項4に記載のセコイリドイドを得る方法。
【請求項6】
前記産物(B)を、平均分子量200~400のポリエチレングリコール(PEG200~400)と混合するステップを更に含み、
前記混合するステップは、溶液(F)を提供し、前記溶液(F)は:
【化7】
ここで、
【化5】
であり、R1=Hであり、
【化6】
である物質を含有する、請求項2に記載のセコイリドイドを得る方法。
【請求項7】
前記産物(E)を、平均分子量200~400のポリエチレングリコール(PEG200~400)と混合するステップを更に含み、
前記混合するステップは、溶液(H)を提供し、前記溶液(H)は:
【化7】
ここで、
【化5】
であり、R1=COOCH3であり、
【化6】
である物質を含有する、請求項5に記載のセコイリドイドを得る方法。
【請求項8】
前記溶液(F)を水で、ポリエチレングリコール:水=1:10又は1:20又は1:100の比で希釈するステップを更に含み、
前記希釈するステップは、溶液(G)を提供し、前記溶液(G)は:
【化7】
ここで、
【化5】
であり、R1=Hであり、R2=CH(OΗ)2である物質を含有する、請求項6に記載のセコイリドイドを得る方法。
【請求項9】
前記溶液(H)を水で、ポリエチレングリコール:水=1:10又は1:20又は1:100の比で希釈するステップを更に含み、
前記希釈するステップは、溶液(J)を提供し、前記溶液(J)は:
【化7】
ここで、
【化5】
であり、R1=COOCH3であり、R2=CH(OΗ)2である物質を含有する、請求項7に記載のセコイリドイドを得る方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかの方法により得られる、以下のタイプ:
【化1】
(ただし、
【化5】
であり、R1=H又はCOOCH3であり、
【化6】
である)のセコイリドイド。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかの方法により得られる、以下のタイプ:
【化1】
(ただし、
【化5】
であり、R1=Hであり、R2=CH(OH)2である)
のセコイリドイド。
【請求項12】
経口、経皮、注射、又は乾燥及び圧縮後に製造される坐剤若しくは錠剤のいずれかで投与のための医薬製剤を製造するために適切な賦形剤と混合される、請求項10又は11に記載のセコイリドイドの使用。
【請求項13】
栄養補助食品を製造するために適切な賦形剤と混合される、請求項10又は11に記載のセコイリドイドの使用。
【請求項14】
前記医薬製剤は、癌、神経変性疾患、糖尿病、高脂血症、又は炎症性疾患の治療用、若しくはアテローム性動脈硬化症のプラーク及び血栓の形成の防止用である、請求項12に記載のセコイリドイドの使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、オリーブ果実又は葉から純粋なオレアセイン(oleacein)及びオレオミッショナル(oleomissional)を得る方法;これらのうちの特定のものを含有する医薬製剤;並びにこれらの製剤の治療特性に関する。本出願は、医学、薬学及び食品科学の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の一般的なタイプ:
【化1】
(ここで、
【化2】
R1=H又はCOOCH3であり、R2=CHOである)
のセコイリドイドは、オリーブオイルの重要な成分である。特にS‐(Ε)‐オレアセイン(1)及びS‐(Ε)‐オレオミッショナル(2)は、大半のオリーブオイル種中に0~1000mg/Kgの濃度で存在するフェノール性物質である(非特許文献1; Journal of Agricultural and Food Chemistry 2014, 62(3), 600-607~非特許文献2: OLIVAE 2015, 122, 22-35)。物質(2)は、対応するジアルデヒド形態(2a、b)と平衡状態にある。これらの物質全てに関して、天然のソースからの単離又は化学合成に関する複数の公開された方法が存在し、更にこれら全てに関して多数の公開された生物学的及び薬学的特性(抗炎症性、抗癌性、抗糖尿病性、神経刺激性、抗酸化性)が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Journal of Agricultural and Food Chemistry 2014, 62(3), 600-607
【文献】OLIVAE 2015, 122, 22-35
【文献】J. Chem. Soc., Perkin trans. 1995, 1, 1519-1523
【文献】Food Res. Intl. 2000, 33: 475-485
【文献】Phytochemistry Letters 8 (2014) 163-170
【文献】J. Agric. Food Chem. 2015、66、6053-6063
【文献】Journal of Ethnopharmacology 120 (2008) 220-225
【文献】Procopio et al. J. Agric. Food. Chem. 2009, 57, 11161-11167
【文献】Conde et al. , Food Chem. 2008, 114, 806- 812
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者らは、自ら実施した実験に基づいてこれらの物質が真の生体利用可能な活性形態ではないことを認識している。実際には、物質(1)、(2)は、人間の体液と接触すると、各物質に関して異なる比較的低い速度で水と化学的に反応し、活性形態である5S‐(E)‐オレアセインジオール(3)、5S‐(E)‐オレオミッショナジオール(4)へと次第に変化する。これらは、物質(1)、(2)に比べて向上した活性及び大幅に向上した水溶性を示す。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、純粋な形態の物質(3)、(4)、及び上記生体利用可能な形態(3)、(4)を別個に又は混合物として含有するため、人体に入ったときに活性化する必要のない医薬製剤又は栄養補助食品又は化粧品の製造を可能にする方法を開発することが極めて重要である。同時に、既存の方法よりも高収率であり、また液体クロマトグラフィを用いた精製の必要がない、物質(1)、(2)の製造につながる新規の方法を発見することが極めて重要である。
【0006】
現在まで、物質(3)の構造が完全かつ正確に解明されたことはなく、また、物質(3)及び(4)の選択的な又は混合物の形態での産業上利用可能な製造方法は記述されていない。純粋なオレウロペインの酵素加水分解後の、物質(4)の分光データが記述されており(非特許文献3:J. Chem. Soc., Perkin trans. 1995, 1, 1519-1523)、また物質(4)は、オリーブ果実抽出物から利用不可能な他の物質との混合物として極めて低い収率で製造されてきた(非特許文献4:Food Res. Intl. 2000, 33: 475-485)。
【0007】
S‐(Z)‐オレアセインジオール異性体を他の利用不可能な物質との混合物として極めて低い収率で製造するために使用される、Phillyrea種の植物の使用に関する参考文献が存在することに言及する必要がある(非特許文献5:Phytochemistry Letters 8 (2014) 163-170)。更に、異性物質S‐(Z)‐オレアセインジオール及び5S‐(Z)‐オレオミッショナジオールは、水とメタノールとの混合物を用いてオリーブオイルを抽出する際に、利用不可能な他の物質との混合物として、極めて低い収率で製造されるようである(非特許文献6:J. Agric. Food Chem. 2015、66、6053-6063)。
【0008】
物質(1)、(2)が、異なる官能基、並びに特にそれぞれ異なる方法及び異なる条件(pH、温度、時間)下で水と反応できる2つのアルデヒド基を有することに留意することが極めて重要であり、したがって、特定の構造(3)、(4)と特定の治療作用との関連は明らかでなく、発明的性質を有する。
【0009】
本発明の革新の重要な要素は、可溶化剤としての高分子親水性アルコールの使用である。提案されるアルコールは生体適合性であり、物質(1)、(2)を完全に可溶化でき、また同時に、これらが水と接触したときにこれらは活性形態(3)、(4)を放出できる。
【0010】
オレアセイン(1)を、他の物質との混合物として、また複雑な精製手順を用いて、極めて低い収率で製造するために使用される、Ligustrum種の植物の使用に関する参考文献が存在することに言及する必要がある(非特許文献7:Journal of Ethnopharmacology 120 (2008) 220-225)。
【0011】
本発明に記載の物質の化学構造は、以下の通りである:
【化3】
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に従う溶液Cの重水(D2O)中でのNMR分光法を用いた分光検査図である。
図2】本発明に従う溶液DのNMR分光法を用いた分光検査図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.オレアセインジオール(3)及びオレアセイン(1)を得るための方法の原理
オレアセインジオール(3)は、オレアセイン(1)と水との反応によって製造される。オレアセインは、前駆オレウロペイン物質から、β‐グルコシダーゼの作用とこれに続く脱メチル化及び脱カルボキシル化反応との下で生合成的に製造される。オレウロペインの最も豊富なソースが、グリコシダーゼ及び脱メチル化酵素の活性が維持されている新鮮なオリーブの葉(Olea europaea L.並びに全ての亜種及び栽培品種)又は部分的に乾燥された葉であることを本発明者らは把握している。これらの酵素は、前駆物質とは別個の細胞区画に保持されているため、葉が無傷のときには反応が起こらない。
【0014】
葉の細断中に上記植物酵素が水の存在下で上記前駆体と接触すると、オレウロペインのオレアセインへの変換が、新鮮な葉の1重量%に達し得る収率で達成される。水の不在下で葉を切断すると、この反応の収率は極めて低く(<0.1%)、実用上の有用性はない。また、水温が15~40℃以外である場合、この反応は起こらない。例えば100℃以上の高温でのオリーブの葉の抽出によって実施された過去の研究(非特許文献8:Procopio et al. J. Agric. Food. Chem. 2009, 57, 11161-11167又は非特許文献9:Conde et al. , Food Chem. 2008, 114, 806- 812)は、グルコシダーゼが高温において不活化されるためオレウロペインと反応できなくなるという事実によって、得られる抽出物はオレウロペイン又はその分解産物、例えばヒドロキシチロソールしか含有せず、オレアセインを含有しないことを示している。
【0015】
本発明者らは、更に、自ら実施した実験に基づいて、オレアセインジオールが、ジクロロメタン又は酢酸エチルといった非極性有機溶媒と接触したときに、水の分子を放出してアルデヒドの親油性形態に戻る有機相中で定量的かつ選択的に抽出されることを発見した。本発明者らは、自らの実験から得られた上述の知見の全てを利用して、純粋なオレアセインジオールの溶液を製造する以下の方法を開発した:
【0016】
1a(i). Olea europaea L.種(全ての亜種及び栽培品種を含む)の新鮮なオリーブの葉(又は水分含有率が0.1~10%の葉)を、15~40℃の1:1~1:20(葉:水、重量/重量)の比の水の存在下で切断し、30分~12時間の期間にわたって接触させたままとする(混合物A)。
【0017】
1a(ii). 別法として、Olea europaea L.(全ての亜種及び栽培品種を含む)の無傷の新鮮な果実、又は冷凍した果実を、30分~12時間の期間にわたって、15~40℃の1:1~1:20の比の水と接触させる。収率は、果実を冷凍した場合に高くなり、これは、解凍プロセスの間に細胞が破壊されて、基質(オレウロペイン)と脱グリコシル化及び脱メチル化酵素との瞬時の接触が達成されるためである。
【0018】
1b. 1a(i)又は1a(ii)から得られた水性混合物をろ過して水相を得る。この溶液は、糖及び他の水溶性フェノールと混合されたオレアセインジオールを含有する。
【0019】
1c. ステップ1bからの水溶液を、1:10~10:1の比の水不混和性有機溶媒(例えばジクロロメタン又は酢酸エチル又は超臨界二酸化炭素)を用いて抽出し、有機相を得る。
【0020】
1d. ステップ1cからの有機相を気化させ、オレアセインの製造に関して現在までに知られているあらゆる方法とは対照的に、更なるクロマトグラフィによる精製を必要とすることなく、純度95%のオレアセインを含有する産物Bを得る。
【0021】
1e. 産物B(オレアセイン)を、15~40℃の温度で5分~24時間の期間にわたって激しく撹拌しながら脱イオン蒸留水と混合し、これは、水との化学反応の間に、含有率が最高2%のオレアセインジオールの溶液(溶液C)に変換される。水のpHに特に注意を払う必要があり、上記pHは中性(6.9~7.1)でなければならない。
【0022】
1f. 別法として、産物B(ステップ1dからのオレアセイン)を、PEG200~400ポリエチレングリコールと混合でき、これを、式に示されているように鎖長がn=4~9である、安定したポリエチレングリコールヘミアセタール(5)へと変換できる(溶液F)。
【0023】
1g. 溶液Fを、水を用いて1:10~1:20又は1:100等のPEG200(又は400):水の比で希釈でき、これによって溶液Gを得ることができ、またオレアセインのポリエチレングリコールヘミアセタール(5)をオレアセインジオール(3)へと変換できる。溶液Gは、経口(シロップ、溶液、懸濁液)、注射、又は(クリーム若しくはゲルに組み込んだ)経皮でヒトへの直接的な投与に使用できる。
【0024】
1h. 溶液C又はF又はGを適切な濃度で用いて、適切なベース(坐剤ベース)との混合後に坐剤を調製でき、又は賦形剤(例えばラクトース)との混合、流動床乾燥及び圧縮後に錠剤を調製できる。なお、錠剤の調製において、好適な賦形剤を使用し、また乾燥中に水分レベルを調整することによって、物質をジオール形態のままとすることができる。これは、仮に物質が親油性アルデヒド形態であれば起こらないであろう、錠剤の水中での即時溶解によって確認される。
【0025】
重水(D2O)中でのNMR分光法を用いた溶液Cの分光検査(図1)から分かるように、これはジオール形態の真の溶液であり、極めて少量だけ存在する水相中でのジアルデヒド形態のエマルジョンではない。
【0026】
オレアセインジオールの薬学的特性:
1i. 溶液C又はF又はGは、1μMの濃度において脂質過酸化を阻害することにより強力な抗酸化活性を示した。
1k. 溶液C又はF又はGの細胞毒性活性の研究により、濃度5μMのオレアセインジオールが、HeLa及びMCF‐7癌細胞の50%の死につながり得ることが示されたため、溶液C又はF又はG、及びこれらに由来するいずれの医薬製剤は、癌の治療に使用できる。
1l. オレアセインジオールの濃度が50μMの溶液C又はF又はGは、COX‐2酵素の65%の阻害を示したため、溶液C又はF又はG、及びこれらに由来するいずれの医薬製剤は、炎症性疾患の治療に使用できる。
1m.ケース1i~1lの拡張により、溶液C又はF又はGは、オレアセインが、その生物学的活性を測定するための実験が実施される水性媒体中で、オレアセインジオールへと少なくとも部分的に変換される全てのケースと同一の治療特性(神経保護、抗糖尿病、抗血栓)を有する。
【実施例
【0027】
〔実施例1〕
水分が1%のKalamata種の乾燥オリーブ葉(10kg)を、25℃の水(100L)の存在下で切断し、30分間接触させる。この混合物をろ過して水相を得る。この水溶液をジクロロメタン(80L)で抽出してジクロロメタン層を得て、30℃において真空下で気化させる。残渣(100g)は純度95%のオレアセインで構成される。このオレアセインを、30分間激しく撹拌しながら水(10L)と混合し、純オレアセインジオール溶液へと変化させる。あるいは、オレアセイン(1g)をPEG200又はPEG400(5mL)と混合し、安定したポリエチレングリコールヘミアセタールに変換する。この溶液は、室温において12ヶ月にわたって安定している。この溶液を、飽和糖溶液で100mLに希釈することにより、1%オレアセインジオールを含有するシロップを提供でき、これは抗炎症剤としての使用について15~30日間安定している。
【0028】
〔実施例2〕
無傷のオリーブ果実(200g)を24時間にわたって冷凍機(-20℃)に入れた後、25℃の水(500mL)に24時間接触させる。この混合物をろ過して水相を得る。この水溶液をジクロロメタン(250mL)で抽出し、ジクロロメタン層を真空下で気化させる。残渣(1g)は純度95%のオレアセインで構成される。このオレアセインを、30分間撹拌しながら水(100mL)と混合し、純オレアセインジオールの溶液へと変換する。あるいは、オレアセイン(1g)をPEG200又はPEG400(5mL)と混合し、安定したポリエチレングリコールヘミアセタールに変換する。このポリエチレングリコール100μLを、溶解した坐剤ベース(2g)と混合し冷却して、100mgの坐剤を得る。
【0029】
2.オレオミッショナジオール(4)及びオレオミッショナル(2)を得る方法の原理
本発明者らは、自ら実施した実験に基づいて、オリーブ葉又は無傷の未熟な緑色のオリーブ果実を、この植物材料を粉砕することなく有機親油性触媒と接触させた場合、第1の段階である脱グリコシル化のみが発生し、第2の段階である脱メチル化は発生しないことを発見した。これにより、前駆オレウロペイン物質が選択的にオレオミッショナルに変換される。
【0030】
有機溶媒を除去した後、この物質を水溶液と接触させて、水と非常にゆっくり反応させ、水溶性オレオミッショナジオール(4)に変換できる。このようにして、有機溶媒によって第1のステップで抽出された水不混和性テルペンから、水溶性オレオミッショナジオール(4)を分離できる。ろ過によって、オレオミッショナジオールの純粋な溶液が得られる。
【0031】
水溶液の気化により、脱水反応が発生してアルデヒド/エノール形態が徐々に復元されるため、純オレオミッショナル(2)を提供できる。この段階において、オレオミッショナルは2つの立体異性オレウロペインジアール(2a、b)と共存している。
【0032】
本発明者らは、自身の実験から引き出された以上の知見を利用して、純オレオミッショナジオールの溶液を得る以下の方法を開発した:
【0033】
2a. 粉砕されていない新鮮なオリーブ葉又は新鮮な無傷のオリーブ果実を、15~40℃の、1:1~1:20の比の水不混和性有機溶媒(例えばジクロロメタン又は酢酸エチル又は超臨界二酸化炭素)と接触させ、30分~12時間の期間にわたって接触させたままとする(混合物A)。
【0034】
2b. 上記混合物をろ過して有機相を得る。この溶液は、テルペン(主にオレアノール酸及びマスリン酸)と混合されたオレオミッショナルを含有する。
【0035】
2c. 溶液を30℃において減圧下で気化させ、残渣を得る。
【0036】
2d. 上記残渣を15~30℃において1~24時間にわたって撹拌しながら水(pH7以下)に溶解させ、この水との化学反応の間にオレオミッショナル(及びその異性体)はオレオミッショナジオールの溶液に変換され、他の全ての成分は溶解しないままである。これらの溶解しない成分をろ過によって除去し、純オレオミッショナジオール(4)を含有する水溶液Dを得る。
【0037】
2e. 上記溶液を気化させて、粘性液体の形態の、全体としての純度が95%超である(その異性体と平衡状態の)オレオミッショナルを含有する、産物Eを得る。
【0038】
2f. 産物EをPEG200又は400に溶解させて、安定したオレオミッショナルポリエチレングリコールヘミアセタール(6)を含有する溶液Hに変換する。
【0039】
2g. 溶液Hを、水を用いて、PEG200(又は400):水=1:10又は1:20又は1:100等の比で希釈でき、これによってオレオミッショナジオールポリエチレングリコールヘミアセタール(6)がオレオミッショナジオール(4)に変換された溶液Jを得ることができる。溶液Jは、経口(シロップ、溶液、懸濁液)、注射、又は(クリーム若しくはゲルに組み込んだ)経皮によるヒトへの直接的な投与に使用できる。
【0040】
2h. 溶液D又はH又はJを適切な濃度で用いて、適切なベース(坐剤ベース)との混合後に坐剤を調製でき、又は賦形剤(例えばラクトース)との混合、流動床乾燥及び圧縮後に錠剤を調製できる。なお、錠剤の調製において、好適な賦形剤を使用し、また乾燥中に水分レベルを調整することによって、物質をジオール形態のままとすることができる。
【0041】
NMR分光法を用いた溶液Dの分光検査から分かるように(図2)、これは2つのジアステレオマー形態で存在するジオール形態の真の溶液であり、ジアルデヒド形態のエマルジョンではない。
【0042】
オレオミッショナジオールの薬学的特性:
2i. 溶液D又はH又はJは、1μMの濃度において、脂質過酸化を阻害することにより、強力な抗酸化活性を示した。
2j. 溶液D又はH又はJの細胞毒性活性の研究により、濃度50μMのオレオミッショナジオールが、HeLa及びMCF‐7癌細胞の50%の細胞死につながり得ることが示されたため、溶液D又はH又はJ及びこれらに由来するいずれの医薬製剤は、癌の治療に使用できる。
2k. オレアセインジオールの濃度が40μMの溶液D又はH又はJは、COX-2酵素の62%の阻害を示したため、溶液D又はH又はJ及びこれらに由来するいずれの医薬製剤は、炎症性疾患の治療に使用できる。
【0043】
〔実施例3〕
Koroneiki種の新鮮なオリーブ葉(100g)を、25℃で30分間、ジクロロメタン(500g)と接触させる。この混合物をろ過し、有機相を真空下で気化させる。残渣を、pH=6の脱イオン蒸留水(100mL)に24時間にわたって撹拌しながら溶解させてろ過し、純オレオミッショナルの溶液を得る。この溶液を気化させ、又は凍結乾燥し、純度95%超のオレオミッショナル(160mg)を得る。あるいは、オレオミッショナル(160mg)をPEG200又はPEG400(5mL)と混合し、安定したポリエチレングリコールヘミアセタールへと変換する。得られた溶液を、飽和糖溶液で100mLに希釈することにより、0.16%のオレオミッショナルを含有するシロップを提供でき、これは抗炎症剤としての使用について15~30日間安定している。
【0044】
〔実施例4〕
Koroneiki種の新鮮な無傷のオリーブ(200g)を、室温で30分間、ジクロロメタン(500g)と接触させる。この混合物をろ過し、有機相を真空下で気化させる。次に残渣を、pH=6の脱イオン蒸留水(100mL)に、24時間にわたって撹拌しながら溶解させてろ過し、純オレオミッショナジオールの溶液を得る。この溶液を気化させ又は凍結乾燥し、純度95%超のオレオミッショナル(200mg)を得る。あるいは、オレオミッショナル(1g)をPEG200又はPEG400(5mL)と混合し、オレオミッショナルの安定したポリエチレングリコールヘミアセタールへと変換する。
図1
図2