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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-27
(45)【発行日】2025-03-07
(54)【発明の名称】ポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/62 20220101AFI20250228BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20250228BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20250228BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20250228BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20250228BHJP
   B01D 61/04 20060101ALI20250228BHJP
   C12N 9/50 20060101ALN20250228BHJP
【FI】
C12P7/62
C12N1/00 S
C08L101/16 ZBP
C02F1/44 K
B01D61/02 500
B01D61/04
C12N9/50
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022508089
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2021001275
(87)【国際公開番号】W WO2021186872
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2020048183
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】福本 明日香
(72)【発明者】
【氏名】廣田 翔悟
(72)【発明者】
【氏名】平野 優
【審査官】三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-348640(JP,A)
【文献】特開2008-237182(JP,A)
【文献】特開2009-195179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシ酪酸系樹脂を含有する微生物細胞を破砕又は可溶化する工程(a)、及び
工程(a)で得られた組成物中のポリヒドロキシ酪酸系樹脂を分離する工程(b)を含み、
工程(a)及び工程(b)では、カルシウムイオンの濃度が4.5mg/L以下の水を用いており、
工程(a)及び工程(b)に用いる水は、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造工程にて排出された排水に対し、微生物による嫌気処理及び好気処理を行った後、膜分離活性汚泥法による前処理ろ過工程、並びにカルシウムイオン除去膜によるろ過工程を行うことで得られることを特徴とするポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
【請求項2】
工程(a)及び工程(b)に用いる水において、ナトリウムイオンの濃度が450mg/L以下である請求項1に記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記カルシウムイオン除去膜は、NF膜及びRO膜からなる群から選択される一つ以上である請求項1又は2に記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記NF膜又はRO膜は、20℃で、3000kPaの圧力をかけた時のMgSO4阻止率が60%以上100%以下である請求項に記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
【請求項5】
工程(a)は、化学的処理及び物理的破砕処理からなる群から選択される少なくとも一つの処理を含む請求項1からのいずれかに記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記化学的処理が、アルカリ性化合物、蛋白質分解酵素及び細胞壁分解酵素からなる群から選択される少なくとも一つによる化学的処理である請求項に記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記ポリヒドロキシ酪酸系樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシへキサン酸)である請求項1からのいずれかに記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記ポリヒドロキシ酪酸系樹脂は、160℃で20分間熱処理した場合の重量平均分子量保持率が70%以上である請求項1からのいずれかに記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記ポリヒドロキシ酪酸系樹脂を160℃でプレス成形して得られた厚みが5mmのシートの黄色度指数(YI値)が20以下である請求項1からのいずれかに記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性プラスチックは、土中や水中の微生物により完全に生分解され、自然界の炭素循環プロセスに取り込まれることになるため、生態系への悪影響がほとんどない環境調和型のプラスチック材料として積極的な使用が望まれている。代表的な生分解性プラスチックとして、ポリヒドロキシ酪酸等の植物由来の生分解性プラスチックが注目されている。ポリヒドロキシ酪酸は、微生物によって植物由来の天然の有機酸や油脂を炭素源として生産され、細胞内にエネルギー蓄積物質として蓄積される脂肪族ポリエステル(熱可塑性ポリエステル)である。
【0003】
微生物が生産するポリヒドロキシ酪酸は、水不溶性であり、通常顆粒体として微生物細胞内に蓄積されるため、ポリヒドロキシ酪酸をプラスチックとして利用するためには、微生物細胞内からポリヒドロキシ酪酸を分離して取り出すという工程が必要である。例えば、特許文献1には、ポリヒドロキシ酪酸の分離精製方法として、アルカリ添加と高圧破砕を組み合わせた方法が報告されている。例えば、特許文献2には、ポリヒドロキシ酪酸の分離精製方法として、物理的細胞破砕と酵素及び界面活性剤による化学的処理を組み合わせた方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平07-31489号公報
【文献】特開2008-193940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法で分離したポリヒドロキシ酪酸は、着色する問題や、熱安定性が低く高温で加熱した際に分子量が低下する問題等があった。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するため、色調が良好であるとともに、熱安定性が高いポリヒドロキシ酪酸系樹脂が得られるポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、1以上の実施形態において、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂を含有する微生物細胞を破砕又は可溶化する工程(a)、及び工程(a)で得られた組成物中のポリヒドロキシ酪酸系樹脂を分離する工程(b)を含み、工程(a)及び工程(b)では、カルシウムイオンの濃度が4.5mg/L以下の水を用いることを特徴とするポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、色調が良好であるとともに、熱安定性が高いポリヒドロキシ酪酸系樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の発明者らは、上述した課題を解決するために検討を重ねた結果、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂(以下において、単に「PHB」とも記す。)を含有する微生物細胞を破砕又は可溶化する工程(a)及び工程(a)で得られた組成物中のポリヒドロキシ酪酸系樹脂を分離する工程(b)において、カルシウムイオンの濃度が特定の範囲の水を用いることで、得られたポリヒドロキシ酪酸系樹脂の色調が良好になるとともに、高温、例えば160℃で加熱した場合でも分子量の低下が抑制されることを見出した。さらに、工程(a)及び(b)で用いる水において、ナトリウムイオンの濃度を特定の範囲にすることが好ましい。
【0010】
[低カルシウムイオン水]
本発明の1以上の実施形態において、工程(a)及び(b)で用いる水中のカルシウムイオンの濃度は4.5mg/L以下であり、色調及び熱安定性をより良好にする観点から、好ましくは3.0mg/L以下であり、より好ましくは2.0mg/L以下である。本発明の1以上の実施形態において、工程(a)及び(b)で用いる水は、カルシウムイオンを含まないことが理想的であるが、実用性の観点から、0.001mg/L以上であってもよく、0.005mg/L以上であってもよい。
【0011】
本発明の1以上の実施形態において、色調及び熱安定性をより良好にする観点から、工程(a)及び(b)に用いる水中のナトリウムイオンの濃度は450mg/L以下であることが好ましく、より好ましくは250mg/L以下であり、さらに好ましくは220mg/L以下である。本発明の1以上の実施形態において、工程(a)及び(b)で用いる水は、ナトリウムイオンを含まないことが理想的であるが、実用性の観点から、0.05mg/L以上であってもよく、0.1mg/L以上であってもよい。
【0012】
工程(a)及び(b)で用いる水は、水中のカルシウムイオンの濃度は4.5mg/L以下であればよく、特に限定されないが、水使用量を削減して環境負荷を低減する観点から、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造工程にて排出された排水に対し、微生物による嫌気発酵処理及び好気発酵処理を行った後、膜分離活性汚泥法による前処理ろ過工程、並びにカルシウムイオン除去膜によるろ過工程を行うことで得られる処理水を用いることが好ましい。ポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造工程にて排出された排水は、工程(a)及び(b)等のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の任意の製造工程で排出された排水を含む。
【0013】
微生物による嫌気処理及び好気処理、並びに膜分離活性汚泥法による前処理ろ過は、特に限定されず、水処理で用いられる一般的な方法で行うことができる。嫌気処理装置は、例えば、酸生成菌の作用により、高分子量の炭水化物や脂質類を有機酸や低級アルコールに分解する酸生成槽と、グラニュール状のメタン生成菌の作用により、有機酸や低級アルコールをメタンガスと炭酸ガスに分解するEGSB方式のメタン生成反応槽で構成することができる。好気処理は、例えば、脱窒槽(活性汚泥の処理槽)と曝気槽(活性汚泥の処理槽)で構成された装置を用い、嫌気処理で分解されなかった有機物を、曝気槽にて好気性菌の作用により分解することで行うことができる。好気処理装置は、脱窒槽(活性汚泥の処理槽)、曝気槽(活性汚泥の処理槽)、第2脱窒槽(活性汚泥の処理槽)、再曝気槽(活性汚泥の処理槽)で構成されてもよい。膜分離活性汚泥法による前処理ろ過工程は、例えば、曝気槽(活性汚泥の処理槽)又は再曝気槽(活性汚泥の処理槽)に、UF膜又はMF膜のMBR(メンブレンバイオリアクター膜分離活性汚泥法浸透膜)を設置することで行うことができる。
【0014】
本発明の1以上の実施形態において、カルシウムイオン除去膜としては、カルシウムイオン除去性能が高いことから、NF膜及びRO膜からなる群から選択される一つ以上を用いることが好ましい。
【0015】
本発明の1以上の実施形態において、NF膜又はRO膜は、20℃で、3000kPaの圧力をかけた時のMgSO4阻止率が60%以上100%以下であることが好ましく、より好ましくは70%以上100%以下であり、さらに好ましくは90%以上100%以下である。MgSO4阻止率が60%以上であれば、膜のカルシウムイオン透過性が高くならず、得られた処理水を工程(a)及び(b)で用いることで、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂の色調が良好になりやすく、高温における分子量の低下も抑制されやすい。
【0016】
本発明の1以上の実施形態において、NF膜又はRO膜によるろ過時の膜間差圧は特に規定されないが、カルシウムイオン除去率及びナトリウムイオン除去率の観点から、0.4MPa以上4.14MPa以下であることが好ましく、より好ましくは0.5MPa以上2.5MPa以下である。膜間差圧が0.4MPa以上であれば、透過水量及びイオン除去率が低下せず、4.14MPa以下であれば、膜が破損しにくい。
【0017】
本発明の1以上の実施形態において、NF膜又はRO膜によるろ過時の透過速度は特に規定されないが、例えば、0.01L/分以上2000L/分以下が好ましく、より好ましくは0.5L/分以上1500L/分以下である。透過速度が0.01L/分以上であると、生産性がよい。
【0018】
本発明の1以上の実施形態において、NF膜又はRO膜によるろ過時の水温度は特に規定されないが、水温は50℃以下が好ましく、より好ましくは45℃以下である。水温が50℃以下であれば、膜が劣化しくい。
【0019】
[PHBを含有する微生物細胞]
本発明の1以上の実施態様において、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂を含有する微生物細胞は、PHB生産能を有する微生物を培養することで得ることができる。
【0020】
本発明の1以上の実施態様において、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂は、3-ヒドロキシ酪酸(以下、3HBとも記す。)をモノマーユニットとする重合体の総称である。PHBは、3-ヒドロキシ酪酸の単独重合体であるポリ(3-ヒドロキシ酪酸)であってもよく、3-ヒドロキシ酪酸と他の3-ヒドロキシアルカン酸の共重合体であってもよい。他の3-ヒドロキシアルカン酸としては、例えば、3-ヒドロキシへキサン酸(以下、3HHとも記す。)、3-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシノナン酸、3-ヒドロキシデカン酸、3-ヒドロキシウンデカン酸、3-ヒドロキシドデカン酸、3-ヒドロキシトリデカン酸、3-ヒドロキシテトラデカン酸、3-ヒドロキシペンタデカン酸及び3-ヒドロキシへキサデカン酸からなる群から選ばれる1以上のモノマーを用いることができる。
【0021】
PHBとしては、工業的に生産が容易である点から、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシへキサン酸)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシオクタン酸)等が好ましく、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシへキサン酸)が特に好ましい。前記3HB及び3HHの2成分共重合体PHBHを構成する各モノマーユニットの組成比については特に限定されるものではないが、全モノマーユニットの合計を100モル%とした時に、3HHユニットが1モル%以上50モル%以下であってもよく、1モル%以上25モル%以下であってもよく、1モル%以上15モル%以下であってもよい。
【0022】
本発明の1以上の実施形態において、PHB生産能を有する微生物は、特に限定されず、天然から単離された微生物や菌株の寄託機関(例えばIFO、ATCC等)に寄託されている微生物、または、それらから調製し得る変異体や形質転換体等を使用できる。例えば、カプリアビダス(Cupriavidus)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、ラルストニア(Ralstonia)属、シュウドモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、ノカルディア(Nocardia)属、アエロモナス(Aeromonas)属の菌等が挙げられる。特に、アルカリゲネス・リポリティカ(A.lipolytica)、アルカリゲネス・ラトゥス(A.latus)、アエロモナス・キャビエ(A.caviae)、アエロモナス・ハイドロフィラ(A.hydrophila)、カプリアビダス・ネカトール(C.necator)等の菌株が好ましい。また、微生物が、本来PHBの生産能力を有しない場合、もしくは生産量が低い場合には、該微生物に目的とするPHBの合成酵素遺伝子及び/又はその変異体を導入し、得られる形質転換体を用いることもできる。このような形質転換体の作製に用いるPHBの合成酵素遺伝子としては特に限定はないが、アエロモナス・キャビエ由来のPHB合成酵素の遺伝子が好ましい。
【0023】
上述した微生物を適切な条件で培養することで、菌体内にPHBを蓄積させた微生物を得ることができる。その培養方法については特に限定はないが、例えば特開平05-93049号公報、国際公開公報2008/010296号等に挙げられる方法等を用いることができる。PHBを含有する微生物細胞としては、培養完了後の、PHB含有微生物細胞を含む菌体培養液をそのまま用いるか、或いは、菌体培養液を加熱することで菌体を死滅した後の滅菌済みの菌体培養液を用いることができる。前記滅菌は、例えば、50℃以上80℃以下の温度下で5分以上120分以下熱処理することで行ってもよい。
【0024】
[工程(a)]
工程(a)において、PHBを含有する微生物細胞を破砕又は可溶化する。工程(a)は、例えば、化学的処理及び物理的破砕処理からなる群から選択される少なくとも一つの処理で行うことができる。
【0025】
化学的処理は、アルカリ性化合物、蛋白質分解酵素及び細胞壁分解酵素からなる群から選択される少なくとも一つの化合物で行うことができる。
【0026】
アルカリ性化合物は、PHB含有微生物細胞の細胞壁を破壊して細胞中のPHBを細胞外に流出できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩、ホウ砂等のアルカリ金属のホウ酸塩、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア水等が挙げられる。この中でも、工業生産に適し、コストを低減する観点から、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムからなる群から選択される一つ以上が好ましい。
【0027】
蛋白質分解酵素としては、特に限定されないが、例えば、アルカラーゼ、ペプシン、トリプシン、パパイン、キモトリプシン、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ等が挙げられる。具体的な蛋白質分解酵素としては、例えば「プロテアーゼA」、「プロテアーゼP」、「プロテアーゼN」(以上、天野エンザイム社製)、「アルカラーゼ」、「エスペラーゼ」、「ザビナーゼ」、「エバラーゼ」(以上、ノボザイムズ社製)等が工業的に使用可能であり、分解活性の点からも好適に使用できる。
【0028】
細胞壁分解酵素としては、特に限定されないが、例えば、リゾチーム、アミラーゼ、セルラーゼ、マルターゼ、サッカラーゼ、α-グリコシナーゼ及びβ-グリコシナーゼ等が挙げられる。上記細胞壁分解酵素の内、溶菌効果の点からリゾチームの使用が好ましい。具体的な細胞壁分解酵素としては、例えば「リゾチーム」(山東省華源経貿製)、「ビオザイムA」、「セルラーゼA「アマノ」3」、「セルラーゼT「アマノ」4」、「α-グルコシダーゼ「アマノ」」(以上、天野エンザイム社製)、「ターマミル」、「セルソフト」(以上、ノボザイムズ社製)等が工業的に使用可能である。
【0029】
上述した酵素による処理は、高い分離精製効果が得られる点で界面活性化剤の存在下に行うことが望ましい。また、酵素としては、例えば酵素と、酵素の安定化剤、界面活性化剤及び再汚染防止剤等からなる群から選ばれる一つ以上の添加剤を含有する酵素組成物を用いてもよい。
【0030】
界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤が挙げられる。細胞膜の破壊による残留物の除去効果が高い観点からは、陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤が好ましい。蛋白質等を除去する目的においては、陰イオン界面活性剤を用いることが好ましく、また、脂肪酸や油脂の除去を目的とする場合、非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。また陰イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤の両方を用いることができる。両方を用いる場合、陰イオン界面活性剤/非イオン界面活性剤の重量比は1/100~100/10が好ましく、5/100~100/20がより好ましく、5/100~100/100がさらに好ましく、5/100~50/100が特に好ましい。
【0031】
陰イオン界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルケニル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルケニルエーテル硫酸エステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸塩、α-スルホ脂肪酸塩のエステル、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルケニルエーテルカルボン酸塩、アミノ酸型界面活性剤、N-アシルアミノ酸型界面活性剤等が挙げられる。中でもアルキル基の炭素数が12~14のアルキル硫酸塩、アルキル基の炭素数が12~16の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル基の炭素数が10~18のアルキル硫酸エステル塩又はアルキル基の炭素数が10~18のアルキルエーテル硫酸エステル塩が好ましい。対イオンとしてはナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム等のアルカリ土類金属、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンが好ましい。
【0032】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテル等が挙げられる。親水性が高く、生分解性が比較的良好である点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。
【0033】
陽イオン界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0034】
両性界面活性剤としては、例えば、カルボベタイン型、スルホベタイン型等が挙げられる。
【0035】
上述した界面活性剤のうち、陰イオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム及びオレイン酸ナトリウム、非イオン界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルエーテル等がコスト、使用量や添加効果の点で好ましい。
【0036】
界面活性剤の添加量は、特に制限されないが、菌体培養液100重量部に対して、0.001重量部以上10重量部以下が好ましく、さらにはコストの点から、5重量部以下が好ましい。界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
酵素処理は、例えば、菌体培養液にアルカリ化合物及び/又は界面活性剤を添加し、撹拌しながら行うことが好ましい。酵素処理条件については、使用する酵素の至適値のコントロール下で行うのが好ましい。酵素の必要量は、酵素の種類及び活性に依存する。特に制限はされないが、100重量部のPHB100に対して、0.001~10重量部が好ましく、コストの点から0.001~5重量部がより好ましい。
【0038】
物理的破砕処理は、破砕効果を高め、PHBを回収しやすい観点から、アルカリ性化合物、又は、アルカリ性化合物及び界面活性剤を添加した後に行うことが好ましい。アルカリ性化合物及び界面活性剤としては、上述したものを適宜用いることができる。上述したアルカリ性化合物の中、工業生産に適し、コストを低減する観点から、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが好ましい。上述した界面活性剤の中、陰イオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム及びオレイン酸ナトリウム、非イオン界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルエーテル等がコスト、使用量や添加効果の点で好ましい。
【0039】
アルカリ性化合物を添加することで、菌体培養液のpHを8.0以上12.5以下に調整することが好ましい。PHBに影響することなく、菌体(微生物細胞)残渣、菌体生成有機物、菌体構成有機物等を可溶化しやすい。菌体培養液にアルカリ性化合物を添加した後に、20℃以上80℃以下の温度、好ましくは20℃以上50℃以下の温度で30分以上2時間以下処理してもよい。
【0040】
界面活性剤の添加量は、特に制限されないが、菌体培養液100重量部に対して、0.001重量部以上10重量部以下が好ましく、さらにはコストの点から、5重量部以下が好ましい。界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
物理的破砕処理を行う装置としては、特に限定されないが、例えば、高圧ホモジナイザー、超音波破砕機、乳化分散機、ビーズミル等が挙げられる。中でも破砕効率の点から高圧ホモジナイザーの使用が好ましく、懸濁液が微小開口部を有する耐圧性容器に導入され高圧をかけられることにより開口部から押し出されるタイプがより好ましい。このタイプの破砕機としては、例えば、ニロソアビ社製の高圧ホモジナイザーモデル「PA2K型」等が挙げられる。高圧ホモジナイザーを用いると微生物細胞に大きな剪断力が働くため、微生物細胞は効率的に破壊されPHBの分離性が向上する。このような機器は開口部で高圧がかかり、瞬間的に高温になるため、必要に応じて、一般の低温恒温循環槽により菌体培養液を冷却し、温度の上昇を防ぎ、20℃以上40℃以下での破砕処理を行うことが好ましい。20℃以上40℃以下で処理を行うことにより、PHBの分子量をほとんど低下させずに処理することができる。高圧破砕を行う際の破砕圧力は、特に限定されないが、破砕効率及びコストの観点から、30MPa以上60MPa以下が好ましい。
【0042】
工程(a)において、化学的処理及び物理的破砕処理は併用してもよく、この場合、破砕効果を高める観点から、化学的処理を行った後に、物理的破砕処理を行うことが好ましい。コストの観点から、工程(a)は、物理的破砕処理のみで行ってもよい。
【0043】
工程(a)において、水として、カルシウムイオンの濃度が4.5mg/L以下(好ましくは3.0mg/L以下、より好ましくは2.0mg/L以下)の水を用いる。例えば、界面活性剤やアルカリ性化合物等の添加時にカルシウムイオンの濃度が4.5mg/L以下(好ましくは3.0mg/L以下、より好ましくは2.0mg/L以下)の水を用いる。該水は、ナトリウムイオンの濃度が450mg/L以下であることが好ましく、250mg/L以下であることがより好ましく、220mg/L以下であることがさらに好ましい。
【0044】
[工程(b)]
工程(b)において、工程(a)で得られた組成物、例えば菌体破砕液中のポリヒドロキシ酪酸系樹脂を分離する。分離は、特に限定されず、ろ過、沈降分離、遠心分離等の方法を用いて、固液分離を行い、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂を水不溶性成分と回収することができる。工業的に大量処理可能でかつ連続使用可能という観点から、遠心分離が好ましい。
【0045】
遠心分離機としては、特に限定されないが、孔なし回転容器をもつ遠心沈降機が好ましく、種類としては分離板型、円筒型、デカンター型等がある。PHB粒子は水との比重差が小さいので、分離沈降面積が大きく、高い加速度が得られる分離板型(間欠排出型、ノズル排出型)が好ましく、破砕処理液に含まれるPHB濃度が高い場合は特にノズル排出型が好ましい。デカンター型としては、分離板を有し、分離沈降面積を大きくした機種が好ましい。
【0046】
工程(b)において、分離の前に、工程(a)で得られた組成物、例えば菌体破砕液100重量部に水系媒体を500重量部以上1000重量部以下添加してもよい。
【0047】
工程(b)において、水系媒体は、水、又は水と水混和性有機溶媒の混合溶媒であってもよい。水系媒体中の水の含有量は、50重量%以上が好ましく、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、特に好ましくは85重量%以上である。工程(b)において、水として、カルシウムイオンの濃度が4.5mg/L以下、好ましくは3.0mg/L以下、より好ましくは2.0mg/L以下の水を用いる。該水は、ナトリウムイオンの濃度が450mg/L以下であることが好ましく、250mg/L以下であることがより好ましく、220mg/L以下であることがさらに好ましい。
【0048】
水混和性有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド、アセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド、ピリジン、ピペリジン等が挙げられる。中でも、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、プロピオニトリル等が、除去しやすい点から好ましい。また、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、アセトン等が入手容易であることからより好ましい。さらに、メタノール、エタノール、アセトンが特に好ましい
【0049】
工程(b)においては、分離したPHB(PHBを含む水不溶性成分)を少なくとも1回以上上述した水系媒体で洗浄することでPHBを精製してもよい。水系媒体による洗浄は、例えば、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂を含む水不溶性成分100重量部に水系媒体を500重量部以上1000重量部以下添加して行ってもよい。また、微生物細胞由来の不純物を効果的に除去し、精製効果を高めるために、水系媒体にアルカリ性化合物、界面活性剤及び蛋白質分解酵素等を添加してもよい。
【0050】
[工程(c)]
本発明の1以上の実施形態の製造方法は、工程(b)で分離したPHBを乾燥する工程(c)を含んでもよい。水系媒体で洗浄し、脱水したPHB(脱水樹脂)は、そのまま乾燥して粉体状のPHBを得ることができる。乾燥方法は適宜選択でき、特に限定されないが、例えば、スプレー乾燥、気流乾燥、流動乾燥、バンド乾燥等の一般的な乾燥方法を好ましく用いることができる。
【0051】
或いは、水系媒体で洗浄し、濃縮したPHB分散液に、分散剤を添加し、pHを7以下に調整した後に、乾燥して粉体状のPHBを得ることができる。分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子;ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール・ブロックエーテル型(ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックポリマー型)等の非イオン界面活性剤等が挙げられる。pHを7以下に調整する方法としては、例えば酸を添加する方法が挙げられる。酸は特に限定されず、有機酸、無機酸のいずれでもよく、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸等を適宜使用できる。
【0052】
PHBの分子量は、目的とする用途で、実質的に十分な物性を示すものであれば、その分子量は特に制限されない。例えば、成形加工性や成形体の強度の観点から、PHBの重量平均分子量は、50,000以上3,000,000以下が好ましく、60,000以上1,500,000以下がより好ましい。なお、ここでの重量平均分子量は、クロロホルム溶離液を用いたゲルバーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0053】
PHBは、熱安定性が高く、160℃で20分間熱処理した場合の重量平均分子量保持率が70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、85%以上であることがさらにより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0054】
PHBは、色調が良好であり、160℃でプレス成形した厚みが5mmのシートの黄色度指数(YI値)が20以下であることが好ましく、17以下であることがより好ましい。
【0055】
PHBは、繊維、糸、ロープ、織物、編物、不織布、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器、袋、部品、発泡体等の各種成形体に成形できる。その成形体は、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、衣料、非衣料、包装、その他の分野に好適に用いることができる。
【0056】
微生物が生産した他の生分解性プラスチックの場合も、生分解性プラスチックを含む微生物細胞を破砕又は可溶化し、生分解性プラスチックを分離する工程において、上述したカルシウムイオンの濃度が4.5mg/L以下の水を用いることができる。
【実施例
【0057】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0058】
[測定及び評価方法]
実施例及び比較例における測定・評価方法を、以下に示した。
【0059】
(色度)
作製した洗浄水200mLを専用の測定容器に入れ、測定器(笠原理化工業社製 TCR-5Z)を気泡が付かないように静かに浸漬させて、洗浄水の色度を測定した。厚生労働省の「水道水質基準」で、水道水は、色度5度以下である。
【0060】
(熱安定性)
熱安定性は、160℃で20分間加熱した後のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の重量平均分子量保持率に基づいて、重量平均分子量保持率が70%以上であれば、熱安定性良好と判断し、重量平均分子量保持率が70%未満であれば、熱安定性不良と判断した。
重量平均分子量保持率(%)=(加熱した後のPHBの重量平均分子量/加熱する前のPHBの重量平均分子量)×100
<加熱する前のPHBの重量平均分子量>
ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体10mgを用い、クロロホルム10mLに溶解させた後、不溶物を濾過により除いた。この溶液(濾液)を、「Shodex K805L(300x8mm、2本連結)」(昭和電工社製)を装着した島津製作所製GPCシステムを用い、クロロホルムを移動相として分子量測定に付した。分子量標準サンプルには、市販の標準ポリスチレンを用いた。
<加熱した後のPHBの重量平均分子量>
ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体に対して160℃で7分間予熱処理した後、160℃で20分間加熱してポリヒドロキシ酪酸系樹脂シートを作製した。該ポリヒドロキシ酪酸系樹脂シート10mgを用いた以外は、加熱する前のPHBの重量平均分子量の測定の場合と同様の手順で加熱した後のPHBの重量平均分子量を測定した。
【0061】
(加熱する前のPHBの組成)
ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体約20mgに2mLの硫酸-メタノール混合液(15:85)と2mLのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱することでポリエステル分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mLのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中のポリエステル分解物のヒドロキシアルカン酸メチルエステルの組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析し、得られたポリエステルのモノマーユニットの組成(含有率)を求めた。ガスクロマトグラフは島津製作所社製GC-17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND-1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。温度条件は、初発温度100℃~200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200℃~290℃まで30℃/分の速度で昇温した。
【0062】
(黄色度指数(YI値)の測定)
ポリヒドロキシ酪酸系樹脂のプレスシートを作製し、該プレスシートを測定サンプルとした。ポリヒドロキシ酪酸系樹脂のプレスシートは、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体3.0gを、15cm四方の金属板で挟み、さらに金属板の四隅に厚さ0.5mmの金属板を挿入して、これを実験用小型プレス機(高林理化株式会社製H-15型)にセットして、160℃にて7分間加温後、160℃にて加熱しながら約5MPaにて2分間プレスし、プレス後は室温に放置してポリヒドロキシ酪酸系樹脂を硬化させることで作製した。YI値は、色差計「SE-2000」(日本電色社製)にて、30mm測定板を使って該測定板にプレスシートを載せ、その上に白色標準板を被せて測定した。YI値が20以下であれば、色調良好と判断し、YI値が20を超える場合、色調不良と判断した。
【0063】
(洗浄水の製造例1)
ポリヒドロキシ酪酸系樹脂の生産で排出される排水に対し、微生物による嫌気処理と好気処理を行った後、UF膜を用いた膜分離活性汚泥法にて前処理ろ過し、その後RO膜でろ過を行った。嫌気処理は、酸生成槽(pH7.1付近)にて、酸生成菌の作用により、高分子量の炭水化物や脂質類を有機酸や低級アルコールに分解し、次いで、EGSB方式のメタン生成反応槽(負荷量15kg-CODcr/m3/d)にて、グラニュール状のメタン生成菌の作用により、有機酸や低級アルコールをメタンガスと炭酸ガスに分解することで行った。好気処理は、脱窒槽(活性汚泥の処理槽)、曝気槽(活性汚泥の処理槽)、第2脱窒槽(活性汚泥の処理槽)、再曝気槽(活性汚泥の処理槽)で構成された装置で、嫌気処理で分解されなかった有機物を好気性菌の作用により分解することで行った。膜分離活性汚泥法による前処理ろ過は、再曝気槽(活性汚泥の処理槽)に、UF膜(中空糸膜:PVDF、三菱ケミカル社製、公称孔径:0.05μm、20℃で、3000kPaの圧力をかけた時のMgSO4阻止率0%)を設置して行った。UF膜ではろ過線速0.86~1.15m/dayで水を透過させた。UF膜透過水を集水し、水温30℃、膜間差圧(透過圧)0.7~1.15MPa、透過速度0.75~0.85L/分でRO膜(材質:複合ポリアミド、日東電工製、20℃で、3000kPaの圧力をかけた時のMgSO4阻止率99.7%)に送液した。RO膜を透過しなかった水は、集水槽に戻し、透過した水を洗浄水として用いた。RO膜にUF膜透過水を97分間透過させ、UF膜透過水の70重量%を透過させた。透過初期から13分までのRO膜透過水を採取して洗浄水1を得た。
【0064】
(洗浄水の製造例2)
RO膜を透過した水の中、90分から97分までの透過水を採取した以外は、製造例1と同様にして、洗浄水2を得た。
【0065】
(洗浄水の製造例3)
製造例1と同条件でRO膜を透過させた水を、さらにRO膜(材質:複合ポリアミド、日東電工製、20℃で、3000kPaの圧力をかけた時のMgSO4阻止率99.7%)を水温30℃、透過圧0.8MPa、透過速度1.25L/分で透過させることで洗浄水3を得た。透過水量はUF膜透過水の90%量であった。
【0066】
(洗浄水の製造例4)
製造例1と同条件でUF膜を透過させたUF膜透過水を採取して洗浄水4を得た。
【0067】
(洗浄水の製造例5)
製造例1と同条件でUF膜透過水を集水し、水温20℃、透過圧3MPa、透過速度30~300g/時間でNF膜(材質:複合ポリアミド、Synder製、20℃で、3000kPaの圧力をかけた時のMgSO4阻止率96.1%)を透過させたNF膜透過水を採取して洗浄水5を得た。透過水量はUF膜透過水の75%量であった。
【0068】
(洗浄水の製造例6)
工業用水(カネカ製)をイオン交換樹脂(オルガノ製、強酸性陽イオン樹脂と強塩基性陰イオン樹脂)で処理して洗浄水6を得た。
【0069】
(洗浄水の製造例7)
製造例1と同条件でUF膜透過水を集水し、水温20℃、透過圧3MPa、透過速度100~550g/時間でNF膜(材質:複合ポリアミド、Synder製、20℃で、3000kPaの圧力をかけた時のMgSO4阻止率6.7%)を透過させたNF膜透過水を採取して洗浄水7を得た。透過水量はUF膜透過水の75%量であった。
【0070】
洗浄水1~7におけるカルシウムイオンの濃度、ナトリウムイオンの濃度及び色度を下記表1に示した。
【0071】
【表1】
【0072】
[実施例1]
(菌体培養液の調製)
国際公開公報第2008/010296号の段落[0049]に記載のラルストニア・ユートロファKNK-005株を、同文献の段落[0050]~[0053]に記載の方法で培養し、PHB(3HH含有量が11.5モル%のポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシへキサン酸))を含有する菌体を含む菌体培養液を得た。なお、ラルストニア・ユートロファは、現在では、カプリアビダス・ネカトールに分類されている。
【0073】
(滅菌処理)
上記で得られた菌体培養液を内温60~80℃で20分間加熱・攪拌処理し、滅菌処理を行った。
【0074】
(工程(a)及び(b))
上記で得られた滅菌済みの菌体培養液に、ドデシル硫酸ナトリウムを0.2重量%になるように添加した。さらに、pHが11.0になるように水酸化ナトリウムを溶解した洗浄水を添加した後、50℃で1時間保温した。その後、高圧破砕機(ニロソアビ社製高圧ホモジナイザーモデルPA2K型)を用いて、44~54MPaの圧力で高圧破砕を行った。
上記で得られた高圧破砕後の菌体破砕液に同じ重量の洗浄水を添加した。これを遠心分離した後、上清を除去して2倍濃縮した。この濃縮したPHBの水性懸濁液に、水酸化ナトリウムを添加した洗浄水(pH11.0)を除去した上清と同じ重量になるように添加し、遠心分離した。次いで、上清を除去してから洗浄水を添加して懸濁させ、0.2重量%のドデシル硫酸ナトリウムと、PHBの1/100重量のプロテアーゼ(ノボザイム社製、エスペラーゼ)とを添加し、pH10.0で50℃に保持したまま、2時間攪拌した。その後、遠心分離により上清を除去して5倍濃縮した。この濃縮したPHBの水性懸濁液に水酸化ナトリウムを添加した洗浄水(pH11.0)を、除去した上清と同じ重量になるように添加し、遠心分離した。同様の操作を5回繰り返した後、上清を除去して、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂濃度が52重量%になるように調整した。
工程(a)及び(b)では、洗浄水として、洗浄水1を用いた。
【0075】
(工程(c))
上記で得られたポリヒドロキシ酪酸系樹脂水性懸濁液(固形分濃度52重量%)に、分散剤(ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール・ブロックエーテル型非イオン界面活性剤、商品名「プロノン♯208」、日油製)を1phr(水性懸濁液中に存在するポリヒドロキシ酪酸系樹脂100重量部に対して1重量部)添加し、その後、固形分濃度を蒸留水で30重量%に調整した。この液を30分間撹拌した後、硫酸を添加してpHが4に安定するまで調整した。得られたポリヒドロキシ酪酸系樹脂の水性懸濁液を、60℃で12時間乾燥してポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体を作製した。
【0076】
[実施例2]
工程(a)及び(b)において、洗浄水として洗浄水2を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体を得た。
【0077】
[実施例3]
工程(a)及び(b)において、洗浄水として洗浄水3を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体を得た。
【0078】
[比較例1]
工程(a)及び(b)において、洗浄水として洗浄水4を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体を得た。
【0079】
[実施例4]
菌体培養液の調製でPHB(3HH含有量が10.9モル%のポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシへキサン酸))を含有する菌体を含む菌体培養液を用いたことと、工程(a)及び(b)において、洗浄水として洗浄水2を用いた以外は、実施例1と同じ操作により、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体を得た。
【0080】
[実施例5]
工程(a)及び(b)において、洗浄水として洗浄水5を用いた以外は、実施例4と同様にして、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体を得た。
【0081】
[実施例6]
工程(a)及び(b)において、洗浄水として洗浄水6を用いた以外は、実施例4と同様にして、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体を得た。
【0082】
[比較例2]
工程(a)及び(b)において、洗浄水として洗浄水7を用いた以外は、実施例4と同様にして、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体を得た。
【0083】
[比較例3]
工程(a)及び(b)において、洗浄水として洗浄水4を用いた以外は、実施例4と同様にして、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体を得た。
【0084】
実施例及び比較例で得られたポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体の熱安定性及びYI値を上述したとおりに測定・評価し、その結果を下記表2に示した。下記表2において、加熱前の3HH含有量は、加熱前のポリヒドロキシ酪酸系樹脂における3HHの含有量を意味する。
【0085】
【表2】
【0086】
実施例では、工程(a)及び(b)において、カルシウムイオンの濃度が4.5mg/L以下洗浄水を用いることで、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体の熱安定性が高く、色調が良好となる。また、洗浄水中のカルシウムイオン濃度が低ければ、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体の熱安定性及び色調に優れる傾向がある。比較例2では、透明度の高い水を利用したが、YI値は基準値を超えていることからも、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体のYI値には、カルシウムイオン濃度がより強く影響を及ぼすことが示された。特に、洗浄水としてポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造工程にて排出された排水を処理した処理水を洗浄水として用いた実施例1~5では、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂粉体の熱安定性が高く、色調が良好であることから、水使用量の削減が可能となり、環境負荷を低減しながら色調及び熱安定性が良好であるポリヒドロキシ酪酸系樹脂を製造することができた。
【0087】
本発明は、特に限定されないが、例えば、下記の1以上の実施形態を含む。
[1] ポリヒドロキシ酪酸系樹脂を含有する微生物細胞を破砕又は可溶化する工程(a)、及び
工程(a)で得られた組成物中のポリヒドロキシ酪酸系樹脂を分離する工程(b)を含み、
工程(a)及び工程(b)では、カルシウムイオンの濃度が4.5mg/L以下の水を用いることを特徴とするポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
[2] 工程(a)及び工程(b)に用いる水において、ナトリウムイオンの濃度が450mg/L以下である、[1]に記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
[3] 工程(a)及び工程(b)に用いる水は、ポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造工程にて排出された排水に対し、微生物による嫌気処理及び好気処理を行った後、膜分離活性汚泥法による前処理ろ過工程、並びにカルシウムイオン除去膜によるろ過工程を行うことで得られる、[1]又は[2]に記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
[4] 前記カルシウムイオン除去膜は、NF膜及びRO膜からなる群から選択される一つ以上である、[1]から[3]のいずれかに記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
[5] 前記NF膜又はRO膜は、20℃で、3000kPaの圧力をかけた時のMgSO4阻止率が60%以上100%以下である、[4]に記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
[6] 工程(a)は、化学的処理及び物理的破砕処理からなる群から選択される少なくとも一つの処理を含む、[1]から[5]のいずれかに記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
[7] 前記化学的処理が、アルカリ性化合物、蛋白質分解酵素及び細胞壁分解酵素からなる群から選択される少なくとも一つによる化学的処理である、[6]に記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
[8] 前記ポリヒドロキシ酪酸系樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシへキサン酸)である、[1]から[7]のいずれかに記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
[9] 前記ポリヒドロキシ酪酸系樹脂は、160℃で20分間熱処理した場合の重量平均分子量保持率が70%以上である、[1]から[8]のいずれかに記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。
[10] 前記ポリヒドロキシ酪酸系樹脂を160℃でプレス成形して得られた厚みが5mmのシートの黄色度指数(YI値)が20以下である、[1]から[9]のいずれかに記載のポリヒドロキシ酪酸系樹脂の製造方法。