(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-27
(45)【発行日】2025-03-07
(54)【発明の名称】レドックスフロー電池用電極、及びレドックスフロー電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20250228BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20250228BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
H01M4/96 B
H01M4/88 C
H01M4/96 M
H01M8/18
(21)【出願番号】P 2023503759
(86)(22)【出願日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2022007621
(87)【国際公開番号】W WO2022186043
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2021035448
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦仁
(72)【発明者】
【氏名】山下 順也
(72)【発明者】
【氏名】三田村 哲理
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-027918(JP,A)
【文献】特開2020-077540(JP,A)
【文献】特開2001-085021(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049755(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86-4/98
H01M 8/00-8/0297
H01M 8/08-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素構造体を備えるレドックスフロー電池用電極の製造方法であって、
表面官能基濃度測定において炭素濃度が92.0%以上である炭素材料を、窒素及び酸素を含む第1のガスに接触させて炭素構造体前駆体を得る表面酸化工程と、
前記表面酸化工程の後、前記炭素構造体前駆体をアンモニアを含む第2のガスに接触させて炭素構造体を得る表面改質工程と、
含み、
前記炭素構造体の表面官能基濃度測定において、酸素濃度が1.0%以上8.0%以下である、レドックスフロー電池用電極の製造方法。
【請求項2】
炭素材料前駆体を1500℃以上2500℃以下で加熱して炭素材料を得る炭化工程を更に含む、請求項
1に記載のレドックスフロー電池用の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー電池用電極、及びレドックスフロー電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解液を電極に供給して電池反応を行うレドックスフロー電池は、代表的には、正極電解液が供給される多孔質の正極電極と、負極電解液が供給される多孔質の負極電極と、両極の電極間に介在される隔膜と、多孔質電極と接触する非含浸性の集電板を備える電池セルを主な構成要素とする。電極には、耐酸性、通液性及び導電性の観点から、多孔質の炭素電極が用いられる。
レドックスフロー電池の炭素電極の性能は、電解液との濡れ性と反応性を向上させる電極の表面修飾によって改善でき、その例としては、アンモニア中で電極の表面処理を行う例(例えば、特許文献1参照)や、フェルト上の炭素電極をメラミン系樹脂化合物で被覆し、500℃で焼成することにより、窒素官能基と酸素官能基を共存させた表面処理を行う例(例えば、特許文献2参照)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】中国特許出願公開第102487142号明細書
【文献】中国特許出願公開第110194453号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レドックスフロー電池内の反応系においては、電極表面に酸素官能基を導入して改質することで、電解液の濡れ性の改善及び電極と電解質の間の反応抵抗の低減が期待できるが、このような改質のみでは長期間の使用により電極性能が低下しやすくなる。具体的には、初期の電池性能としては高い数値を示すが、サイクル回数を重ねていくと、電極性能が低下する傾向にある。特に、負極の電極性能が劣化しやすい。
一方、特許文献1~2において、窒素系官能基を含む多様な官能基で修飾することにより、電極性能の改善を図る技術が提案されているが、特許文献1に記載の条件で窒化された炭素材料は、炭化度合いが低く、炭素の結晶化度が低いため過度に窒化されやすい。特に、特許文献1の実施例に着目すると、未処理の段階で表面炭素の割合が75%未満である。また、特許文献2においては、事後的に窒素分子を含む高分子で電極を被覆し、低温で炭化させているため、炭素以外の元素を残すために焼成温度を上げることが難しく、被覆した炭素の結晶性が低く、被覆部分の電気伝導率も上げにくい。
結晶性が低い炭素材料は電気的に長期の耐久性に懸念があるが、一方で炭素化度合いを上げて結晶性を上げた場合、表面改質は困難になり、レドックスフロー電池において重要な濡れ性を確保できなくなる。しかしながら、濡れ性確保のために酸素官能基を多量に表面に導入しようとした場合、電子の導電性に影響が出て性能が劣化したり、過剰な酸化によって著しい重量減少や、物理強度の脆弱化を招いてしまう。
【0005】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、長期間の使用後も電極性能を維持できるレドックスフロー電池用電極、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、レドックスフロー電池用電極における表面官能基濃度を所定範囲に調整することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
〔1〕
炭素構造体を備えるレドックスフロー電池用電極であって、
前記炭素構造体の表面官能基濃度測定において、炭素濃度が82.0%以上98.0%以下であり、かつ、窒素濃度が1.0%以上10.0%以下であり、かつ、酸素濃度が1.0%以上8.0%以下である、レドックスフロー電池用電極。
〔2〕
前記炭素構造体が、連続気孔を有する3次元網目状構造の炭素フォームである、〔1〕に記載のレドックスフロー電池用電極。
〔3〕
前記炭素構造体の結晶子サイズLcが1.60以上である、〔1〕又は〔2〕に記載のレドックスフロー電池用電極。
〔4〕
前記レドックスフロー電池用電極が、電解液の流路形状を有し、
前記流路形状が、流路を構成する流通部と、前記炭素構造体が膜厚方向に存在する電極部と、から形成されている、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池用電極。
〔5〕
前記電極部の幅aと厚みzとのアスペクト比が、z/aとして、1.0未満である、〔4〕に記載のレドックスフロー電池用電極。
〔6〕
前記流通部の占有面積Bに対する、前記電極部の占有面積Aの比が、A/Bとして、1.0以上である、〔4〕又は〔5〕に記載のレドックスフロー電池用電極。
〔7〕
〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池用電極と、イオン交換膜とを備える、レドックスフロー電池用膜電極接合材料。
〔8〕
〔4〕~〔6〕のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池用電極から選択される正極と、
前記正極上に配されるイオン交換膜と、
前記イオン交換膜上の前記正極とは逆側に配され、かつ、前記レドックスフロー電池用電極から選択される負極と、
を備え、
前記正極並びに負極における前記流通溝部及び前記電極部の各々が、イオン交換膜を介して、同じ位置に配置される、レドックスフロー電池用膜電極接合材料。
〔9〕
〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池用電極を負極として備える、レドックスフロー電池。
〔10〕
炭素構造体を備えるレドックスフロー電池用電極の製造方法であって、
表面官能基濃度測定において炭素濃度が92.0%以上である炭素材料を、窒素及び酸素を含む第1のガスに接触させて炭素構造体前駆体を得る表面酸化工程と、
前記表面酸化工程の後、前記炭素構造体前駆体をアンモニアを含む第2のガスに接触させて炭素構造体を得る表面改質工程と、
含み、
前記炭素構造体の表面官能基濃度測定において、酸素濃度が1.0%以上8.0%以下である、レドックスフロー電池用電極の製造方法。
〔11〕
炭素材料前駆体を1500℃以上2500℃以下で加熱して炭素材料を得る炭化工程を更に含む、〔10〕に記載のレドックスフロー電池用の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長期間の使用後も電極性能を維持できるレドックスフロー電池用電極、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】櫛形状の流路形状を有する多孔質炭素電極を平面上方から見た模式図である。
【
図2】櫛形状の流路形状を有する多孔質炭素電極を斜め上方から見た図である。
【
図3】占有面積の比を求める際の、流路形状を平面上方から見たモデル図である。
【
図4】実施例1Aにて作製した炭素フォーム電極の画像を示す図である。
【
図5】実施例1Bにて作製した炭素フォーム電極において、炭素フォーム電極の両端に設けられた流路部を示す図である。
【
図6】実施例5Aにて作製した炭素フォーム電極を平面上方から見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
〔レドックスフロー電池用電極〕
本実施形態のレドックスフロー電池用電極は、炭素構造体を備えるレドックスフロー電池用電極であって、前記炭素構造体の表面官能基濃度測定において、炭素濃度が82.0%以上98.0%以下であり、かつ、窒素濃度が1.0%以上10.0%以下であり、かつ、酸素濃度が1.0%以上8.0%以下である。本実施形態のレドックスフロー電池用電極は、このように構成されているため、長期間の使用後も電極性能を維持でき、したがってレドックスフロー電池に適用することで長期間にわたる電池性能を確保することができる。
【0012】
(炭素構造体の表面官能基濃度)
本実施形態において、炭素構造体の表面官能基濃度は、それぞれ、炭素濃度が82.0%以上98.0%以下であり、かつ、窒素濃度が1.0%以上10.0%以下であり、かつ、酸素濃度が1.0%以上8.0%以下である。
上記炭素濃度は、結晶化度が増加し、レドックスフロー電池電極に用いた際の長期安定性が向上する観点から、82.0%以上であり、85%以上が好ましく、88%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。また、電解液に対する濡れ性が良好となり、セル抵抗が低減される観点から、98.0%以下であり、96%以下が好ましく、94%以下がより好ましい。
上記窒素濃度は、レドックスフロー電池電極に用いた際の長期安定性が向上の観点から、1.0%以上であり、1.2%以上が好ましく、1.5%以上がより好ましい。また、上記窒素濃度は、電解液に対する濡れ性が良好となり、セル抵抗が低減される観点から、10.0%以下であり、7.0%以下が好ましく、5.0%以下がより好ましい。
上記酸素濃度は、電解液に対する濡れ性が良好となり、セル抵抗が低減される観点から、1.0%以上であり、2.0%以上が好ましく、3.0%以上がより好ましい。また、上記酸素濃度は、初期の電極性能及びレドックスフロー電池電極に用いた際の長期安定性のバランスが向上する観点から、8.0%以下であり、7.0%以下が好ましく、6.0%以下がより好ましい。
ここで、上記窒素濃度は、ある一定以上含有されることで、長期の性能維持に寄与するが、結晶化度の向上には関与せず、骨格に欠陥を生じるため、元素として寄与する性質は、炭素よりも酸素の振る舞いに近い。そのため、上記の炭素、酸素、窒素濃度の関係性としては、長期での耐久性及び、電解液との濡れ性を総合して考慮すると、上記炭素濃度は90%以上、上記酸素濃度+窒素濃度の合計が10%以下となることがとりわけ好ましい。
本実施形態においては、レドックスフロー電池電極に用いた際の長期安定性をより向上させる観点から、上記窒素濃度が上記酸素濃度の4分の1以上であることが好ましく、さらに好ましくは上記窒素濃度が上記酸素濃度の2分の1以上である。また、上記窒素濃度が酸素濃度以下であることが好ましい。
上記表面官能基濃度は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。また、上記表面官能基濃度は、例えば、後述する製造方法を採用して製造すること等により上記範囲に調整することができる。
【0013】
(炭素構造体の形状)
本実施形態における炭素構造体は、レドックスフロー電池用電極として使用でき、かつ、上述した各表面官能基濃度が所定範囲内にあるものである限り、その形状や材質等は特に限定されず、種々公知の形状ないし材質を採用することができる。本実施形態においては、例えば、炭素繊維により構成される炭素フェルトや、連続気孔を有する3次元網目状構造の炭素フォームを炭素構造体として採用することができ、これらは典型的にはシート状のものを用いることができる。なお、本実施形態において、シート状とは、炭素構造体のサイズを特定するための長さ、幅及び厚みの3つの寸法の中で、最も小さい寸法が厚みであり、平面状の形状のものを意味する。
本実施形態における炭素構造体は、電解液と直接電子の授受を行う反応場として機能するため、セル中で均一に反応させる観点から、連続気孔を有する3次元網目状構造の炭素フォームであることが好ましい。
【0014】
(炭素構造体の厚み)
本実施形態における炭素構造体の厚みは、特に限定されず、例えば100μm以上4000μm以下とすることができる。本実施形態において、炭素構造体が炭素繊維により構成される炭素フェルトである場合、その厚みは1000μm以上3000μm以下であることが好ましい。また、本実施形態において、炭素構造体が連続気孔を有する3次元網目状構造の炭素フォームである場合、その厚みは200μm以上700μm以下であることが好ましい。
【0015】
(炭素構造体の空隙率)
本実施形態における炭素構造体の空隙率は、特に限定されず、例えば70%以上99%以下とすることができる。本実施形態において、炭素構造体が炭素繊維により構成される炭素フェルトである場合、柔軟性と自立性の観点から、その空隙率は87%以上97%以下であることが好ましい。また、本実施形態において、炭素構造体が連続気孔を有する3次元網目状構造の炭素フォームである場合、柔軟性と通液性の観点から、その空隙率は85%以上95%以下であることが好ましい。
上記空隙率は、かさ密度および真密度から求めることができる。かさ密度は、炭素構造体に含まれる空隙も含めた体積に基づいた密度である。これに対して、真密度は、炭素構造体が占める体積に基づいた密度である。かさ密度ρbulkおよび真密度ρrealから、下記の式(1)を用いて空隙率Vf,poreを求めることができる。
Vf,pore=((1/ρbulk)-(1/ρreal))/(1/ρbulk)×100 (%) ・・・(1)
また、かさ密度ρbulk及び、真密度ρrealは以下のように求められる。
【0016】
[かさ密度の測定]
まず、ノギス等を用いて炭素構造体の寸法を測定し、得られた寸法から、炭素構造体のかさ体積Vbulkが求められる。次に、精密天秤を用いて、炭素フォームの質量Mが測定される。得られた質量Mおよびかさ体積Vbulkから、下記の式(2)を用いて炭素フォームのかさ密度ρbulkを求めることができる。
ρbulk=M/Vbulk ・・・(2)
【0017】
[真密度の測定]
炭素構造体の真密度ρrealは、n-ヘプタン、四塩化炭素および二臭化エチレンからなる混合溶媒を用いて浮沈法によって求めることができる。具体的には、まず、共栓試験管に適当なサイズの炭素構造体が入れる。次に、3種の溶媒を適宜混合して試験管に加え、これらを30℃の恒温槽に静置する。試料片が浮く場合は、低密度であるn-ヘプタンが加えることで調整する。一方、試験片が沈む場合は、高密度である二臭化エチレンが加えることで調整する。この操作を繰返して、試験片が液中に漂うようにする。最後に、液の密度をゲーリュサック比重瓶を用いて測定する。
【0018】
(炭素構造体の結晶サイズLc)
本実施形態において、炭素構造体の結晶サイズLcは、特に限定されないが、1.10nm以上であることが好ましく、導電性の観点から、1.60nm以上であることがより好ましく、さらに好ましくは1.8nm以上である。また、物理的な強度を十分に確保する観点から、結晶サイズLcは4.0nm以下であることが好ましく、より好ましくは3.0nm以下である。
結晶サイズLcは、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。また、結晶サイズLcは、例えば、後述する製造方法において炭化温度を高くする等により上記範囲に調整することができる。
【0019】
(流路形状)
後述するとおり、本実施形態のレドックスフロー電池用電極をレドックスフロー電池に適用する際、当該レドックスフロー電池用電極と接触する非含浸性の集電板を用いることができる。前記非含浸性の集電板には、電解液の流通性向上による電解液の圧力損失低減のために、表面に流路形状を設けるよう加工することがある。特に、レドックスフロー電池を作製した際に電極厚みが1.0mm以下になる場合、電極厚み方向の空間を一定以上確保することで、電解液の圧力損失の過度な上昇を防止し、電解液の循環性(以下、「通液性」ともいう。)を確保することが好ましい。かかる観点から、厚み1.0mm以下まで電極が圧縮される場合は、本実施形態のレドックスフロー電池用電極が流路形状を有する形としてもよい。流路形状を、集電板自体に形成するのではなく、本実施形態のレドックスフロー電池用電極に形成した場合、加工の難しい流路付きの双極板を使用することなく、簡易にセルを組んで測定を行うことができる。本実施形態における流路形状としては、流路を構成する流通部と、前記炭素構造体が膜厚方向に存在する電極部と、から形成されていることが好ましい。流通部は、レドックスフロー電池用電極の膜厚方向に炭素構造体が存在しない部分であるのに対して、電極部は、レドックスフロー電池用電極の膜厚方向に炭素構造体が存在する部分ということができる。
【0020】
流路形状としては、特に限定されず、本技術分野において、櫛形状(interdigitated shape)や蛇行形状(serpentine shape)と称される形状等を採用することができる。本実施形態においては、
図1に例示するように、櫛型であることが好ましい。なお、櫛型については、流通部自体は対抗櫛型であり、電極部自体は矩形波形(蛇行型)であるということもできる。以下、
図1の例に基づき、流路形状を説明する。
図1における任意の方向は、レドックスフロー電池用電極の膜厚方向に直交する面方向と換言することもでき、かかる方向に電極部と流通部とが交互に配置されており、結果として電極部自体は蛇行形状を、流通部は対抗櫛型形状を成している。ここで、レドックスフロー電池用電極の厚みをz(以下、「膜厚z」ともいう。)とし、
図1に示すように、流通部に挟まれた電極部の幅の平均値をa(以下、「電極部の幅a」ともいう。)とし、電極部で挟まれた流通部の幅の平均値をb(以下、「流通部の幅b」ともいう。)として、以下で本実施形態における好ましい流路形状を説明する。
【0021】
電極部の幅aは、電解液の通液性を向上させる観点から、好ましくは15mm以下であり、より好ましくは12mm以下であり、さらに好ましくは8mm以下である。電極部の幅aは、物理的強度を高め取り扱いやすさを保つ観点から、好ましくは1mm以上であり、より好ましくは3mm以上であり、さらに好ましくは4mm以上である。
上記のとおり、電極部の幅aは、好ましくは1mm以上15mm以下であり、より好ましくは3mm以上12mm以下であり、さらに好ましくは4mm以上8mm以下である。
【0022】
流通部の幅bは、電解液の通液性を向上させる観点から、好ましくは0.5mm以上であり、より好ましくは1mm以上であり、さらに好ましくは1.5mm以上である。流通部の幅bは、電極部の電極としての機能を担保する観点から、好ましくは10mm以下であり、より好ましくは7mm以下であり、さらに好ましくは5mm以下である。
上記のとおり、流通部の幅bは、好ましくは0.5mm以上10mm以下であり、より好ましくは1mm以上7mm以下であり、さらに好ましくは1.5mm以上5mm以下である。
【0023】
なお、流通部の幅b、電極部の幅aは、実施例に記載の方法によって算出することができる。
【0024】
レドックスフロー電池用電極の膜厚zは、好ましくは300μm以上5000μm以下である。膜厚zを示すため、櫛状の流路形状を有するレドックスフロー電池用電極を斜め上方から見た図を
図2に示す。
膜厚zが300μm以上であることにより、電解液の通液性を向上させることができ、さらに電池反応場が増加することで電池セル性能が向上する傾向にある。レドックスフロー電池の電極として用いる際、電解液の通液圧損を抑制する観点から、膜厚zは、より好ましくは450μm以上、さらに好ましくは600μm以上である。また、膜厚zが5000μm以下であることにより、電極内の抵抗を抑制し、抵抗増加による電池セル性能低下を抑制できる傾向にある。セル抵抗低減の観点から、膜厚zは、より好ましくは2500μm以下、さらに好ましくは1500μm以下である。
上記のとおり、膜厚zは、より好ましくは450μm以上2500μm以下、さらに好ましくは600μm以上1500μm以下である。
【0025】
電極部の幅aと膜厚zのアスペクト比z/aは、電極形状の自立性を保つ観点から、好ましくは1.0未満であり、より好ましくは0.8未満であり、さらに好ましくは0.7未満である。アスペクト比z/aの下限値は、通常0.03以上であればよく、0.05以上であってもよく、0.10以上であってもよい。
また、上記アスペクト比z/aは、好ましくは0.03以上1.0未満であり、より好ましくは0.05以上0.8未満であり、さらに好ましくは0.10以上0.7未満である。
炭素電極の電極部の幅aと膜厚zのアスペクト比z/aは、炭素フォームを用いる場合は、好ましくは1.0未満である。また、上記スペクト比z/aは、炭素フォーム又は炭素紙を用いる場合は、好ましくは0.03以上1.0未満である。
炭素電極の電極部の幅aと膜厚zのアスペクト比z/aは、炭素フェルトを用いる場合は、好ましくは0.8未満であり、より好ましくは0.6未満であり、さらに好ましくは0.4未満である。また、上記アスペクト比z/aは、炭素不織布を用いる場合は、好ましくは0.03以上0.8未満であり、より好ましくは0.05以上0.6未満であり、さらに好ましくは0.10以上0.4未満である。
【0026】
電極部の幅aと流通部の幅bの比b/aは、電池反応場を増加させる観点から、好ましくは1.1未満であり、より好ましくは0.9未満であり、さらに好ましくは0.7未満である。比b/aの下限は、通常0.1以上であればよく、0.3以上であってもよく、0.5以上であってもよい。また、上記比b/aは、好ましくは0.1以上1.1未満であり、より好ましくは0.3以上0.9未満であり、さらに好ましくは0.5以上0.7未満である。
【0027】
流路形状を有するレドックスフロー電池用電極を平面上方から見た際のモデル図を
図3に例示する。
図3に示すように各領域を区分し、算出される各面積値を適宜調整することが好ましい。
【0028】
本実施形態において、流通部の占有面積に対する、電極部の占有面積の比を調整することが好ましい。流通部の占有面積(流通部が複数ある場合は合計値を意味する。)は、
図3における領域Bに対応しており、領域Bの面積を面積Bともいう。また、電極部の占有面積は、
図3における領域Aに対応しており、領域Aの面積を面積Aともいう。本実施形態において、面積Bに対する、面積Aの比は、A/Bとして、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは1.4以上であり、さらに好ましくは1.8以上である。A/Bは1.0以上であることにより、電池反応場を増大できる傾向にある。A/Bの上限は、電解液の通液性を担保する観点から、好ましくは20.0以下であり、より好ましくは10.0以下であり、さらに好ましくは5.0以下である。上記比A/Bは、好ましくは1.0以上20.0以下であり、より好ましくは1.4以上10.0以下であり、さらに好ましくは1.8以上5.0以下である。
【0029】
一般的にレドックスフロー電池におけるセル室は長方形状のため、面積B及び面積Aを求める際には、レドックスフロー電池用電極の最外周に沿って最小の長方形状の領域Cを設定する。すなわち、
図3において太い外枠で囲まれた領域Cの面積(以下、「面積C」ともいう。)から、面積Aの面積を引いた数値を面積Bとすることができる。あるいは、面積Bを算出した後、面積Cから面積Bを引いた数値を面積Aとしてもよい。
【0030】
電極部の幅a、流通部の幅b、及び面積A~Cは、後述する実施例に記載の方法により測定することができるが、トムソン打ち抜き型を用いて流路を形成する場合や図面データを用いてレーザー加工を行う場合等、精密な加工が可能であれば、トムソン打ち抜き型や図面データ等の設計値から電極部の幅a、流通部の幅b、及び面積A~Cの値を特定してもよい。
【0031】
〔レドックスフロー電池用電極の製造方法〕
本実施形態のレドックスフロー電池用電極の製造方法(以下、「本実施形態の製法」ともいう。)は、炭素構造体を備えるレドックスフロー電池用電極の製造方法であって、表面官能基濃度測定において、炭素濃度が92.0%以上である炭素材料を、窒素及び酸素を含む第1のガスに接触させて炭素構造体前駆体を得る表面酸化工程と、前記表面酸化工程の後、前記炭素構造体前駆体を、アンモニアを含む第2のガスに接触させて炭素構造体を得る表面改質工程と、含み、前記炭素構造体の表面官能基濃度測定において、酸素濃度が1.0%以上8.0%以下である。本実施形態の製法は、上記のように構成されているため、長期間の使用後も電極性能を維持できるレドックスフロー電池用電極を製造できる。
【0032】
(炭化工程)
本実施形態の製法は、炭素材料前駆体を2000℃以上2500℃以下で加熱して炭素材料を得る炭化工程を更に含むことが好ましい。すなわち、炭化工程を実施した後に、表面酸化工程を実施することが好ましい。炭素材料前駆体の加熱温度が2000℃以上である場合、炭素材料ひいては炭素構造体の導電性が向上する傾向にあり、当該加熱温度が2500℃以下である場合、物理的な強度を十分に確保できる傾向にある。
【0033】
(表面酸化工程)
表面酸化工程では、表面官能基濃度測定において炭素濃度が92.0%以上である炭素材料を、窒素及び酸素を含む第1のガスに接触させて炭素構造体前駆体を得る。この工程を含むことにより、導入された酸素官能基を反応起点として、後述の表面改質工程で、十分な量の酸素・窒素官能基を導入する事ができ、濡れ性と長期電解性能維持が達成できる。
上記炭素濃度が92.0%以上であることにより、導電性が高まる傾向にあり、当該炭素濃度は95%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。
第1のガスにおける窒素及び酸素の配合としては、大気組成と同等の窒素:酸素=3.8:1であることが好ましいが、これに限定されない。
表面酸化工程における温度条件は、特に限定されないが、300~700℃であることが好ましい。また、表面酸化工程において採用し得る加熱時間としては、0.5時間~3時間であることが好ましく、0.5時間~2時間であることがより好ましい。加熱時間が0.5時間~2時間である場合、電圧効率において初期の電極性能をより高くできる傾向にある。
【0034】
(表面改質工程)
表面改質工程では、前記炭素構造体前駆体をアンモニアを含む第2のガスに接触させて炭素構造体を得る。本実施形態の製法では、表面酸化工程を実施した後に表面改質工程を実施することとなるため、炭素の結晶性を損ねることなく窒素官能基及び酸素官能基の双方を炭素構造体の表面に付与することができ、結果としてレドックスフロー電池電極に用いた際の長期安定性が向上する。
第2の混合ガスは、アンモニア及び酸素を含むことが好ましく、その場合の第2のガスにおけるアンモニア及び酸素の配合としては、アンモニア:酸素=16:1から1:3の間であることが好ましく、8:1から1:3の間であることがより好ましい。アンモニア:酸素=8:1から1:3の間である場合、長期間の使用後であっても電極性能をより高く維持できる傾向にある。また、不活性ガスとして窒素、またはアルゴンを導入してもよい。使用する炉の容積・構造によっては、ガス総量が少ないと処理の安定性のコントロールが難しいため、不活性ガスによって総ガス量を調整することができる。
表面改質工程における温度条件は、特に限定されないが、300~700℃であることが好ましい。また、表面改質工程において採用し得る加熱時間としては、0.5~2時間であることが好ましい。
【0035】
(流路形状の形成方法)
本実施形態における流路形状の形成方法としては、シート状のレドックスフロー電池用電極を前述したように準備した後、これに対し、トムソン打ち抜き刃による打ち抜き形成や、レーザーによる加工、ダイシングによる加工等が使用できる。これらの中でも、加工精度及び加工速度の観点から、打ち抜き形成が好ましい。流通部の形状は、セルに組みこむ際の変形の観点から、膜厚方向から見た際に長方形となる形状が好ましいが、三角形形状や半円形状となっていてもよい。
【0036】
〔レドックスフロー電池用膜電極接合材料〕
本実施形態のレドックスフロー電池用電極は、レドックスフロー電池の材料として使用することができ、その他の電池部材と組み合わせて使用することができる。例えば、本実施形態のレドックスフロー電池用電極は、イオン交換膜の両面に配置した複合材料とすることができる。すなわち、本実施形態のレドックスフロー電池用膜電極接合材料は、本実施形態のレドックスフロー電池用電極と、イオン交換膜とを備える。本実施形態のレドックスフロー電池用膜電極接合材料は、上記のように構成されているため、長期間の使用後も電極性能を維持でき、したがってレドックスフロー電池に適用することで長期間にわたる電池性能を確保することができる。
【0037】
本実施形態のレドックスフロー電池用膜電極接合材料は、例えば、ホットプレス(熱プレスともいう)法により接着することにより製造することができる。すなわち、本実施形態のレドックスフロー電池用膜電極接合材料は、レドックスフロー電池用電極がホットプレス法によってイオン交換膜と接合した態様であってもよい。ホットプレス法の具体例としては、まず、イオン交換膜と多孔質炭素電極を積層し、目的とする厚さのスペーサーと共にホットプレス機の圧板間に置く。次に、圧板を所定の温度まで加熱した後、プレスする。所定の時間保持した後、圧板を開放し、レドックスフロー電池用膜電極接合材料を取り出し、室温まで冷却する。
【0038】
ホットプレス法での加熱温度は、炭素フォームの埋め込み深度の制御がイオン交換膜の劣化を抑制するという観点から、イオン交換膜のガラス転移温度+50℃以下であることが好ましい。また、スペーサーの厚さは、使用する炭素フォームとイオン交換膜の合計厚さに対して、30%以上90%以下であることが好ましく、50%以上80%以下であることがより好ましい。プレス時の保持時間は、0.5分以上30分以下であることが好ましく、2分以上10分以下であることがより好ましい。
【0039】
本実施形態におけるイオン交換膜は、目的とするイオンを透過させる構造を持つ膜であることが好ましく、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体やイオン交換基を有する炭化水素膜が挙げられる。イオン交換基としては、特に限定されないが、例えば、-COOH基、-SO3H基、-PO3H2基又はこれらの塩が挙げられる。塩としては特に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン類塩が挙げられる。また、樹脂としては、例えば、パーフルオロカーボン重合体、炭化水素膜等が挙げられ、長期耐久性が良好である観点から、パーフルオロカーボン重合体が好ましい。
【0040】
イオン交換膜は、活物質イオンの透過の抑制が電流効率を向上させるという観点、及びプロトン伝導性の向上が抵抗を低減させるという観点から、600g/eq以上2000g/eq以下のイオン交換基の当量質量EWを有することが好ましい。
本実施形態で用いるイオン交換膜の当量質量EWは、活物質イオンの透過の抑制が電流効率を向上させるという観点から、600g/eq以上であり、好ましくは700g/eq以上であり、より好ましくは800g/eq以上であり、さらに好ましくは900g/eq以上である。また、イオン交換膜の当量質量EWは、プロトン伝導性の向上が抵抗を低減させるという観点から、2000g/eq以下であり、好ましくは1700g/eq以下であり、より好ましくは1500g/eq以下であり、さらに好ましくは1200g/eq以下である。上記イオン交換膜の当量質量EWは、より好ましくは700g/eq以上1700g/eq以下であり、さらに好ましくは800g/eq以上1500g/eq以下であり、よりさらに好ましくは900g/eq以上1200g/eq以下である。
【0041】
なお、当量質量EWは、イオン交換基1当量あたりのイオン交換膜の乾燥質量(g)を意味する。イオン交換膜の当量質量EWは、イオン交換膜を塩置換し、その溶液をアルカリ溶液で逆滴定することにより測定することができる。当量質量EWは、イオン交換膜の原料であるモノマーの共重合比、モノマー種の選定等により調整されることができる。
【0042】
本実施形態に用いるイオン交換膜の膜厚は、電池として用いたときの活物質の遮蔽性が良好であることから、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましく、12μm以上であることがよりさらに好ましい。また、イオン交換膜の膜厚は、抵抗を低減することにより電池性能が良好となることから、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがさらに好ましい。上記イオン交換膜の膜厚は、1μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上100μm以下であることがより好ましく、10μm以上80μm以下であることがさらに好ましく、12μm以上60μm以下であることがよりさらに好ましい。
【0043】
本実施形態に用いるイオン交換膜の膜厚均一性は、膜電極複合体全面の性能の均一化のために、イオン交換膜の厚みムラの低減が膜電極複合体の電極と集電板との全面的な接触性を向上させる観点から、平均膜厚の±20%以内であることが好ましく、±15%以内であることがより好ましく、±10%以内であることがさらに好ましい。
【0044】
イオン交換膜の膜厚均一性は、イオン交換膜を23℃、相対湿度65%の恒温室で12時間以上静置した後、接触式の膜厚計(例えば株式会社東洋精機製作所製)を用いて、任意の20箇所の膜厚を測定することで評価することができる。
【0045】
レドックスフロー電池用膜電極接合材料を作製する際には、電池セル作製時の電極界面の接触抵抗を抑制する観点から、イオン交換膜が正極及び負極に挟まれた状態で、正極側の電極部と負極側の電極部が重なる面積が大きいことが好ましく、形成された流路形状が同一であり、イオン交換膜を挟み、同じ形状で接合されていることがさらに好ましい。すなわち、本実施形態のレドックスフロー電池用膜電極接合材料は、本実施形態のレドックスフロー電池用電極から選択される正極と、前記正極上に配されるイオン交換膜と、前記イオン交換膜上の前記正極とは逆側に配され、かつ、本実施形態のレドックスフロー電池用電極から選択される負極と、を備え、前記正極並びに負極における前記流通部及び前記電極部の各々が、イオン交換膜を介して、同じ位置に配置されることが好ましい。
なお、イオン交換膜と電極を接合しない場合に関しても上記と同様であることが好ましい。
【0046】
[レドックスフロー電池]
本実施形態のレドックスフロー電池用電極は、例えば、レドックスフロー電池の陰極として使用することができる。すなわち、本実施形態のレドックスフロー電池は、本実施形態のレドックスフロー電池用電極を負極として備えることができる。本実施形態のレドックスフロー電池は、上記のように構成されているため、長期間の使用後も電極性能を維持でき、したがってレドックスフロー電池に適用することで長期間にわたる電池性能を確保することができる。
なお、本実施形態のレドックスフロー電池用電極は、レドックスフロー電池の正極として使用することもできる。なお、本実施形態のレドックスフロー電池用電極を負極に用いる場合、正極においては、本実施形態のレドックスフロー電池用電極を製造する工程において、表面酸化工程までを行い、表面改質工程を行わないこととして得られた電極を使用することもできる。
【0047】
本実施形態のレドックスフロー電池は、典型的には、次の構成を備えるものとすることができる。すなわち、正極(正極セル室)と、負極(負極セル室)と、前記正極セル室と前記負極セル室とを隔離分離させる隔膜と、電極と接触する非含浸性の集電板と、を含む電解槽を備え、前記正極セル室が、活物質を含む正極電解液を含み、前記負極セル室が、活物質を含む負極電解液を含み、本実施形態の多孔質炭素電極を使用する、レドックスフロー電池を挙げることができる。
【実施例】
【0048】
以下の実施例及び比較例により本実施形態をさらに詳しく説明するが、本実施形態は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
炭素材料前駆体としてメラミン樹脂フォーム(寸法:400mm×400mm×40mm、BASF社製、商品名「BASOTECT W」)を、厚さ1.2mmのSUS板をスペーサーとしてサンプルの周囲に配置し、上下から厚さ10mmの黒鉛板で挟み込んで北川精機社製真空熱プレス機(KVHC-II)に導入した。次いで、真空ポンプにて減圧排気しつつプレス機内の温度を昇温速度:5℃/分で360℃まで昇温し、10分間保持した。昇温中及び360℃で保持する間、2.0MPaの圧力でプレスを行った。その後、機内の温度を40℃まで降温した後、真空ポンプを停止し、プレスを解除した。
次いで、プレスしたメラミン樹脂フォーム上に、厚さ400mm×400mm×16mmの黒鉛板を載置して、280Paの圧縮荷重を印加し、この圧縮荷重を印加した状態でメラミン樹脂フォームを熱処理炉(IHI社製横型焼結炉)内に導入した。続いて、炉内に窒素ガスを流量:2.5L/分で供給し、同時に減圧排気を行いながら、供給炉内の温度を昇温速度:5℃/分で800℃の熱処理温度まで昇温した。その後、窒素ガス供給を停止し、炉内減圧度10Pa未満の状態で、昇温速度:5℃/分で2000℃の熱処理温度まで昇温し、2時間保持して、プレスしたメラミン樹脂フォームを炭素化した(炭化工程)。その後、炉内の温度を室温まで降温し、炉から炭素化したメラミン樹脂フォーム(炭素材料)を取り出した。
続いて、得られたメラミン樹脂フォームを乾燥空気気流下600℃にて1.5時間熱処理(表面酸化工程)することにより、表面を酸化させたメラミン樹脂フォーム(炭素構造体前駆体)を得た。
更に炭素構造体前駆体を窒素:酸素:アンモニア混合ガス(ガス流速は、それぞれ、1.24L/min:0.12L/min:0.64L/min)雰囲気下640℃にて1時間熱処理(表面改質工程)し、窒素官能基を更に導入した炭素構造体を作製した。かかる炭素構造体を電極1として後述する評価を行った。
炭素構造体を、X線CT(Rigaku社製、高分解能3DX線顕微鏡nano3DX)を用いて構造を確認したところ、結合部密度は2.0×106個/mm2、X方向の配向角度の平均値は66.4°、Y方向の配向角度の平均値は50.6°、Y方向の配向角度の平均値は54.4°、θdの最小値は12°、ノード及びラインの割合Nl/Nnは1.49であった。さらに、SEM(HITACHI社製、走査電子顕微鏡SU8010)にてライン部分の繊維径を確認したところ、平均1.8μmであった。また、ノギスを用いて厚みを測定し、かさ密度を計算したところ、164kgm-3であった。また、実施例1の炭素構造体の膜厚を接触式の膜厚計で20点測定し、厚みの平均値を算出したところ、0.6mmであった。
さらに、この炭素材料及び炭素構造体の表面の表面官能基濃度をX線光電子分光計(アルバックファイ社製、VersaProbe II)を用いて測定した。このとき、主要な元素のピークとして285eV近傍のC1sピーク、400eV近傍のN1sピーク、533eV近傍のO1sピーク、104eV近傍のSi2pピークの相対元素濃度atomic%(以下at%)を計算し、百分率で計算した。それ以外の元素ピークで大きな検出強度を持つピークがあれば、それも含めて百分率で計算した(以降の実施例及び比較例についても同様とした。)。すなわち、各表面官能基濃度は、検出されるすべての官能基濃度を100%としたときの百分率として算出した。得られた炭素構造体の表面官能基濃度の詳細を表1に示す。また、炭素材料の炭素濃度を前述と同様に測定したところ、99.7%であった。
【0050】
(実施例2)
実施例1で作製した炭素構造体前駆体を用い、表面改質工程として、アンモニアガスのみの雰囲気下(ガス流速は2L/min)、850℃にて1時間熱処理した。得られた炭素構造体を電極2として後述する評価を行った。
【0051】
(実施例3)
炭素繊維フェルト(SGL社製GFD4.6EA)を炭素材料として使用し、乾燥空気気流下600℃にて1時間熱処理(表面酸化工程)することにより、表面を酸化させた炭素繊維フェルト(炭素構造体前駆体)を得た。更に炭素構造体前駆体を窒素:酸素:アンモニア混合ガス(ガス流速はそれぞれ1.24L/min:0.12L/min:0.64L/min)雰囲気下640℃にて1時間熱処理(表面改質工程)することで、窒素官能基を更に導入し、炭素構造体を作製した。得られた炭素構造体を電極3として後述する評価を行った。また、炭素材料の炭素濃度は97.9%であった。
【0052】
(実施例4)
実施例1における炭化工程、表面酸化工程及び表面改質工程の処理温度を次のように変更したことを除き、実施例1と同様の手順で炭素構造体を作成した。
炭化工程:1500℃、
表面酸化工程:570℃、
表面改質工程:600℃。
得られた炭素材料の炭素濃度は99.2%であった。
得られた炭素構造体を電極4として後述する評価を行った。
【0053】
(実施例5)
電極として炭素繊維フェルト(SGL社製GFD1.5EA)を炭素材料として使用したことを除き、実施例3と同様の手順で炭素構造体を作成した。得られた炭素構造体を電極5として後述する評価を行った。また、炭素材料の炭素濃度は98.0%であった。
【0054】
(実施例6)
実施例1と同様に炭素化したメラミン樹脂フォーム(炭素材料)を作成した。
続いて、得られたメラミン樹脂フォームを乾燥空気気流下600℃にて2.5時間熱処理(表面酸化工程)することにより、実施例1より多量に表面を酸化させたメラミン樹脂フォーム(炭素構造体前駆体)を得た。その後、実施例1と同じ条件で表面改質工程の処理を行った。得られた炭素構造体を電極6として後述する評価を行った。
【0055】
(実施例7)
実施例1と同様に炭素化したメラミン樹脂フォーム(炭素材料)を作成した。
続いて、得られたメラミン樹脂フォームを乾燥空気気流下600℃にて2.0時間熱処理(表面酸化工程)することにより、実施例1より表面を酸化させたメラミン樹脂フォーム(炭素構造体前駆体)を得た。
続いて、炭素構造体前駆体を窒素:酸素:アンモニア混合ガス(ガス流速は、それぞれ、1.00L/min:0.06L/min:0.94L/min)雰囲気下650℃にて1.5時間熱処理(表面改質工程)し、窒素官能基を導入した炭素構造体を作製した。得られた炭素構造体を電極7として後述する評価を行った。
【0056】
(比較例1)
実施例1で作製した炭素構造体前駆体を用い、表面改質工程を実施せずに後述のレドックスフロー電池評価を行った。かかる炭素構造体前駆体を電極8として後述する評価を行った。
【0057】
(比較例2)
実施例1で作製した炭素構造体前駆体を、表面改質工程に供することなく、乾燥空気気流下650℃にて3時間熱処理することにより、表面を過剰に酸化させた炭素構造体前駆体を得た。これを用い、後述のレドックスフロー電池評価を行った。過剰に酸化させた後の炭素構造体前駆体を電極9として後述する評価を行った。
【0058】
(比較例3)
実施例3で作製した炭素構造体前駆体を用い、表面改質工程を実施せずに後述のレドックスフロー電池評価を行った。かかる炭素構造体前駆体を電極10として後述する評価を行った。
【0059】
<結晶子サイズの評価>
実施例1~7及び比較例1~3で作製した電極1~10の(002)面の回折から結晶子サイズLcを評価した。サンプルを乳鉢で粉砕した後、卓上X線回折装置 D2 PHASER(Bluker社製)を用いて粉砕したサンプルの広角X線回折を測定した。具体的な測定条件は以下のとおりとした。
[測定条件]
線源: Cu Kα
管球電流:30mA
管球電圧:40kV
スリット:1mm
試料回転速度:10回転/min
1ステップの測定時間:0.3sec
開始角度(2θ):5.00°
測定ステップ(2θ):0.01°
終了角度(2θ):90.00°
【0060】
上記測定後、得られたデータを解析し、結晶子サイズLcを算出した。
結晶子サイズLcの算出には2θ=25度の付近に現れる(002)面の回折ピークの半値幅β、ピーク最大値の角度θをScherrerの式(下記の式(A))に代入して求めた。なお、一般的に高い温度で炭素化するほど高い結晶性を有し、Lcの値が大きくなる。
Lc=(Kλ)/βcosθ ・・・(A)
上記式(A)中、Kは形状因子、λは線源の波長を表す。形状因子は(002)面回折であるため0.90を代入し、線源はCuKαを用いたため、1.541を代入し、計算を行った。結果を表1に示す。
【0061】
<レドックスフロー電池評価>
実施例1~7及び比較例1~3で作製した電極1~10を用いてレドックスフロー電池を作製し、性能評価を行った。すなわち、以下の評価セルを準備した。
EPDMゴム製ガスケット、ポリ塩化ビニル製フレーム、櫛形状の流路形状を有する黒鉛製セパレータ(幅:2mm材質:G-347)、銅製エンドプレートから構成されるセルを用いた。ただし、電極3及び電極5のセルは流路形成されていない、平板の黒鉛製セパレータ(材質:G-347)を使用した。イオン交換膜にはAldrich社から購入したNafion212を用いた。ガスケットは電極の圧縮率が60%になるように膜厚を調節した。40mm×90mmに切り出したイオン交換膜、25mm×20mmに打ち抜いた2枚の炭素構造体(電極1~10)、並びにセル構成部材を所定の順番にしたがって組み合わせ、ステンレス製ボルトを用いて所定のトルクにて締結した。組み立てたセルを、電解液タンクと送液ポンプから構成される電解液循環装置に接続した。電解液タンクにバナジウムイオン濃度1.5mol/L、バナジウムイオン価数3.5価、硫酸イオン濃度4.5mol/Lのバナジウム硫酸溶液を30mL加え、流速7.5mL/minにて循環した。
充放電試験は菊水電子社製バイポーラー電源を用いて、定電流法にて行った。電圧範囲は1.00~1.55V、電流密度は80mA/cm2とした。50サイクル時点及び200サイクル時点の、充電容量Qc及び放電容量Qd並びに充電時平均電圧Vc及び放電時平均電圧Vdから、次式によって電流効率CE、電圧効率VE及び電力効率EEをそれぞれ求めた。これらの結果を併せて表1に示す。
CE:Qd/Qc(%)
VE:Vd/Vc(%)
EE:CE×VE(%)
【0062】
実施例1~7及び比較例1~3の評価結果を次の表1に示す。
【0063】
【0064】
(実施例1A)
実施例1で作製した電極1に、
図4で示すような櫛形状の流路形状を与えるべく、次の流路加工を行った。
図4の形状を上面視した場合、模式的には
図3のように各領域を区分することができ、
図3のエリアCに対応する値としては、34mm×30mmであった。
流通部の幅bとしては2.0mmであり、流通部の幅bに対して垂直方向(電解液の流通方向)の長さが30mmである流通部を7本設けられるように構成されたトムソン打ち抜き刃(名古屋刃型社製)を用いて打ち抜きを行い、
図4で示すような流路形状の加工を施した電極1Aを得た。得られた電極1Aの厚み(膜厚z)、幅(電極部の幅a及び流通部の幅b)及び各領域の面積(面積A~C)は、以下に示す測定方法に基づいて確認した。さらに得られた電極1Aを後述するレドックスフロー電池評価に供した。
【0065】
(膜厚z)
接触式の膜厚計(例えば、株式会社東洋精機製作所製)を用いて電極1Aの4隅を測定し、合算して割り返すことにより平均の膜厚zを測定した。
【0066】
(電極部の幅a)
マイクロスコープ(キーエンス社製VHX-950F)にて、電極の全ての幅を測定し、合算して割り返すことで電極部の幅aを算出した。測定位置は、両端からの位置がほぼ等しい中央付近とした。
【0067】
(流通部の幅b)
マイクロスコープ(キーエンス社製VHX-950F)にて、流通溝の全ての幅を測定し、合算して割り返すことで流通部の幅bを算出した。測定位置は、両端からの位置がほぼ等しい中央付近とした。
【0068】
(面積A~C)
定規を用いて
図3の領域Cに該当する面積Cを測定した。さらに、未測定部分の幅を定規、若しくは、マイクロスコープ(キーエンス社製VHX-950F)にて測定し、
図3における面積A,Bを測定、算出した。なお、いずれの値としても、トムソン打ち抜き型の値(設計値)によく一致した。
【0069】
<レドックスフロー電池評価>
評価条件を次のように変更したことを除き、前述と同様にしてレドックスフロー電池の性能評価を行った。すなわち、櫛形状の流路形状を有する黒鉛製セパレータ(幅:2mm材質:G-347)を流路形状のない平板の黒鉛製セパレータ(材質:G-347)に変更し、ガスケットは表2に記載のセル組み込み時の膜厚になるよう調節した。また、50mm×100mmに切り出したイオン交換膜及び、34mm×30mmのサイズで打ち抜いて流路形成した炭素構造体(電極1A)を使用した。
【0070】
<通液性>
上記レドックスフロー電池評価の際、電解液が循環したものを、通液性が確保できたとして評価した。電解液が循環しなかったものを、通液性が確保できなかったと評価した。評価結果は、表2に示すとおりであった。表中、〇は、通液性が確保できたことを表し、×は、通液性が確保できなかったことを表す。
【0071】
(実施例1B)
トムソン打ち抜き刃を次のように変更したことを除き、実施例1Aと同様に流路加工を行った。すなわち、流通部の幅bとしては1.0mm幅であり、流通部の幅bに対して垂直方向(電解液の流通方向)の長さが32mmである流通部を7本設けられるように構成されたトムソン打ち抜き刃を用いて打ち抜きを行い、櫛形状の流路形状の加工を施した電極1Bを得た。実施例1Bでは、
図5に示されるように、電極の両端に流路溝を設けた。得られた電極1Bを実施例1Aと同様に測定した結果を表2に示す。
【0072】
(実施例1C)
実施例1Aで作製した電極1Aを、2枚重ねた後に、押圧して接合し、電極1Cを得た。電極1Cを実施例1Aと同様に測定した結果を表2に示す。
【0073】
(実施例5A)
電極1の代わりに実施例5で作製した電極5を用いたこと、及びトムソン打ち抜き刃を次のように変更したことを除き、実施例1Aと同様に流路加工を行った。すなわち、流通部の幅bとしては3.0mm幅であり、流通部の幅bに対して垂直方向(電解液の流通方向)の長さが30mmである流通部を4本設けられるように構成されたトムソン打ち抜き刃を用いて打ち抜きを行い、櫛形状の流路形状の加工を施した電極5Aを得た(
図6参照)。電極5Aを実施例1Aと同様に測定した結果を表2に示す。
【0074】
(比較例1A)
電極5の代わりに比較例1で作製した電極8を用いたことを除き、実施例5Aと同様にして電極8Aを得た。電極8Aを実施例1Aと同様に測定した結果を表2に示す。
【0075】
【0076】
本出願は、2021年3月5日出願の日本特許出願(特願2021-035448号)に基づくものであり、それらの内容はここに参照として取り込まれる。