(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-27
(45)【発行日】2025-03-07
(54)【発明の名称】分析装置の操作方法、カートリッジの使用方法、及び分析装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20250228BHJP
C12M 1/10 20060101ALI20250228BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20250228BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20250228BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20250228BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/10
G01N35/08 A
G01N37/00 101
C12Q1/686 Z
(21)【出願番号】P 2023510364
(86)(22)【出願日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 EP2021070376
(87)【国際公開番号】W WO2022033822
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】102020210404.2
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】524396616
【氏名又は名称】ハーン-シッカート-ゲゼルシャフト フェーア アンゲバンテ フォルシュング エー.ファオ
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フランク シュヴェンマー
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー シュトロマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】マルク ケラー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ファン オールト
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-507669(JP,A)
【文献】独国特許発明第102013215002(DE,B3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析処理を実行するための分析装置の操作方法であって、
マイクロ流体チャネル及びチャンバ構造(4)を有するカートリッジ(1)を準備し、処理液体を含む少なくとも1つのフィルム袋(50)を前記カートリッジ(1)のスティックパックチャンバ(52,54)内に配置し、
開封ステップにおいて、少なくとも1つの前記スティックパックチャンバ(52,54)を80~130℃の温度に加熱し、
前記開封ステップにおいて、前記カートリッジ(1)を20~80Hzの回転数によって回転させる、方法。
【請求項2】
フィルム袋(50)として、ヒートシールされたピールシーム(67)を有するピールフィルムから成る袋を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スティックパックチャンバ(52,54)を、局所的に限定して加熱する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記スティックパックチャンバ(52,54)の容積と前記フィルム袋(50)の液体量とを、未排出の状態の前記液体量が前記スティックパックチャンバ(52,54)の容積の約1/4以下であるように、選択する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
約1000~1500マイクロリットルの容積を前記スティックパックチャンバ(52,54)のために採用する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記スティックパックチャンバ(52,54)を、前記カートリッジ(1)の回転軸(40)に対して半径方向外側に配置し、並びに、半径方向外側に接続されたチャネル(68)によって、半径方向内側にオフセットして配置されたチャンバ(46,61)に接続し、
前記スティックパックチャンバ(52,54)を、前記チャネル(68)を介して後続の前記チャンバ(46,61)に向けて空にするために、温度を一定のままにおいて、前記回転数を低下させる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記回転数を約5~20Hz
に低下させる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記回転数を約10~15Hzに低下させる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記分析装置は、ポリメラーゼ連鎖反応によって分析処理を実行するための分析装置である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法においてカートリッジ(1)を使用する使用方法であって、
前記カートリッジ(1)は、
少なくとも1つのスティックパックチャンバ(52,54)を含
む、マイクロ流体チャネル-チャンバ構造(4)と、
処理液体を収容し、前記スティックパックチャンバ(52,54)内
に固定して配置される少なくとも1つのフィルム袋(50)と、
平らな円板状の構造と、を備えており、
前記スティックパックチャンバ(52,54)は、前記カートリッジ(1)の回転軸(40)に対して半径方向外側に配置され、並びに、半径方向外側に接続され半径方向内側に向かう曲線を形成するチャネル(68)によって、後続のチャンバ(46,61)に接続されている、カートリッジ(1)の使用方法。
【請求項11】
前記マイクロ流体チャネル-チャンバ構造(4)は、少なくとも部分的に覆われている、
請求項10に記載のカートリッジ(1)の使用方法。
【請求項12】
分析処理を実行するための分析装置であって、
カートリッジ(1)の受取装置と、
前記カートリッジ(1)を回転させる回転駆動装置と、
前記カートリッジ(1)へ
の熱入力のための加熱装置(42)と、
請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成された制御装置と、を備えた分析装置。
【請求項13】
前記加熱装置(42)は、前記カートリッジ(1)への局所的に限定された熱入力を行う、
請求項12に記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置の操作方法に関する。また、本発明は、特に、そのような方法におけるカートリッジの使用に関する。更に、本発明は、そのような分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転に基づく分析方法は、医療分野において、特に、マイクロ流体チャネル及びチャンバ構造を有する、いわゆるカートリッジの使用の下に用いられている。それは、主に、科学的な遺伝物質分析のほか、主にDNA(デオキシリボ核酸)又はRNA(リボ核酸)の形態の遺伝物質を、既存の病気の検査のために分析するために、又は、一般に病原体の検出のために、その遺伝物質を検出するために使用される。そのために、例えば、粘膜組織又は血液試料などの試料から、そこに含まれる遺伝物質(DNA又はRNA)の特定部位を複製する必要がある。試料中のRNAを検出又は分析する場合(例えばウイルスの検出など)には、これは、まずいわゆる「逆転写」によってDNAに転写され、その後、複製される。
【0003】
DNAを複製するためには、通常、液体反応混合物内において、いわゆるポリメラーゼ連鎖反応(略してPCR)が使用される。DNAは通常、2本の相補的なDNA一本鎖からなる二重らせん構造の形をしている。PCRにおいては、まず液体反応混合物の温度を通常90~96℃の間に上昇させることによって、DNAを2本の一本鎖に分離する(「変性段階」)。
【0004】
続いて、温度を再び下げ(「アニーリング段階」、通常50~70℃の範囲)、いわゆるプライマー分子を一本鎖に特異的に付着させる。プライマー分子は、相補的な短いDNA鎖であり、そのDNA鎖は、決められた位置において一本鎖のDNAに結合する。プライマー分子(短縮して:「プライマー」とも)は、いわゆるポリメラーゼという酵素のための出発点となり、その酵素は、いわゆる伸長段階において、一本鎖の既存のDNA配列に相補的な基本構成要素(dNTPs)を充填する。この過程において、プライマー分子を起点として再び二本鎖のDNAが形成される。伸長は、通常、アニーリング段階と同じ温度、又は、通常65~75℃のやや高い温度において行われる。伸長後、変性段階のために、再び温度が上昇される。
【0005】
このように液体反応混合物中の温度を2~3段階の温度範囲で循環させることは、PCR熱サイクルと呼ばれ、通常、30サイクル、及び50サイクル、繰り返される。各サイクルにおいて、特定のDNA領域が複製される。一般に、液体反応混合物の熱サイクルは、反応容器内において外部温度を制御することによって転換される。反応容器は、例えば、サーモブロック内に配置され、その内において、PCR熱サイクルは、反応容器と熱的に接触する固体を加熱及び冷却することによって転換され、その際、熱が液体に供給及び除去される。代替的には、PCR熱サイクルの転換のための加熱及び冷却コンセプトは、反応容器の周囲を流れる流体(特に空気及び水)の温度制御であり、並びに、例えば、紫外線照射又はレーザー照射を用いた熱供給による放射線ベースのコンセプトである。回転に基づく方法の場合、反応容器として、例えば上記のカートリッジ内のチャンバが使用され、対応して加熱される。更に、通常、ほぼ円盤状に形成されたカートリッジが回転される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、分析方法をさらに改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、本発明によれば、請求項1の特徴を有する、分析装置の操作方法によって解決される。更に、この課題は、請求項7に記載の特徴を有する、カートリッジの使用によって解決される。また、この課題は、本発明によれば、請求項9の特徴を有する分析装置によって解決される。本発明の有利な、部分的にそれ自体が発明的である実施形態及び更なる形態は、従属請求項及び以下の説明に示される。
【0008】
本発明による方法は、特にポリメラーゼ連鎖反応による分析プロセス(又は:分析方法)を実行するために構成され、意図された分析装置を操作するために使用される。本方法によれば、その際、特に試料キャリアを表し、マイクロ流体チャネル及びチャンバ構造を有するカートリッジを準備する。その際、カートリッジの、いわゆる(並びに、好ましくは、場合によっては複数のスティックパックのうちの1つに対応する)1つのスティックパックチャンバ(具体的にはチャネル及びチャンバ構造)に、処理液体を含む少なくとも1つのフィルム袋(以下「スティックパック」ともいう)を配置する。(本明細書に記載の操作方法の)開封ステップにおいては、少なくとも1つのスティックパックチャンバ(特にそれぞれが1つのスティックパックを含む)を80~130℃の温度に加熱する。さらに、この開封ステップにおいて、カートリッジを20~80Hzの速度数によって回転させる。
【0009】
したがって、少なくとも1つのスティックパックは、好ましくは、分析処理のために処理液体をカートリッジ内に保持するために使用される。その際、スティックパックは、カートリッジ装着時の取り扱いが比較的簡単という利点を有する。カートリッジは、特にチャネル及びチャンバ構造が形成された基体によって形成されている。この基体は、その及びそれぞれのスティックパックと、場合によっては、他の、オプションとして、乾燥した処理媒体とによって装着された後に、少なくとも部分的に覆われ、すなわち閉じられ、特にシールフィルムによってシールされる(好ましくは、試料材料を導入するためのアクセス開口部、及び、存在すればベント開口部を除いて)。処理媒体としては、例えば、特定の物質と反応し、それによって蛍光検出による分析処理の評価が可能となる乾燥した蛍光色素、又はいわゆるプライマー等がある。代替的には、このような処理媒体は「分析物質」ともいう。乾燥した処理媒体は、通常、流動性がないため、比較的容易に取り扱うことができる。さらに、開封ステップにおける上記の処置方法、すなわち、比較的高い温度と比較的高い回転数との組み合わせは、有利に、その又はそれぞれのスティックパックの迅速な開封を可能にする。それは、他方また、処理時間を短縮する。
【0010】
「マイクロ流体の」又は「マイクロ流体チャネル及びチャンバ構造」という用語は、ここ及び以下において、特に、構成要素の、好ましくは少なくともチャネルの、少なくとも一方向、特に深さ方向又は幅方向の寸法が、30~700マイクロメートルの範囲にあることを意味していると解される。チャネルの場合、好ましくは、深さ方向と幅方向の2方向において、この寸法オーダーにある。その際、一部のチャンバは、より大きな寸法を有し得る。
【0011】
好ましくは、開封ステップにおいて、少なくとも30Hz、好ましくは約60Hzの回転数の場合に、約60~120℃、例えば約95℃の温度が選択される。これによって、スティックパックを約5秒以内に開封することができる。
【0012】
方法の好ましい一変形例においては、スティックパックとして、いわゆるピールフィルムから作られた袋が使用される。この袋は、他方また、好ましくはヒートシールされた分離シーム(又は「ピールシーム」ともいう)を有する。言い換えれば、スティックパックは熱的に密閉されている。したがって、熱的にサポートされた開口部が有利である。「ピールフィルム」とは、ここ及び以下において、それ自身及び/又は他の材料と比較的容易に分離する結合を形成するように設計され且つ形成されたフィルムを意味するものと解される。そのため、分離シームのシーム強度は、有利には、従来のフィルムの溶接されたシーム強度よりも、いずれにせよ低い。ピールフィルムの材料として、特に、ポリプロピレン又はポリエチレンが使用される。
【0013】
方法のさらに好ましい一変形例においては、その又はそれぞれのスティックパックチャンバを、局所的に限定して加熱する。これは、試料材料又は追加の処理媒体が、開封ステップの間において加熱の影響を受けないという利点を有する。さらに、それによって、方法に必要なエネルギーを可能な限り低く抑えることができる。
【0014】
方法の好適な一変形例においては、スティックパックチャンバの容積とそれぞれのフィルム袋の液体量とを、未排出の状態のその液体量がスティックパックチャンバの容積の約1/4以下である(又は:占有する)ように、選択する。「未排出の状態」とは、ここ及び以下において、特に、スティックパックの液体量がスティックパックチャンバ内に配置され、チャネルを通じてスティックパックチャンバからまだ排出されていないことを意味すると解される。
【0015】
上記方法変形例の好ましいさらなる一態様においては、約1000~1500マイクロリットルの容積をスティックパックチャンバのために考慮する。したがって、スティックパックの液体量として、約150~375、好ましくは最大約250マイクロリットルが考慮される。
【0016】
好適には、スティックパックチャンバを、カートリッジの回転軸、すなわち、カートリッジが回転される回転軸(これはカートリッジによってカバーされる領域内にある必要はない)に対して半径方向外側に配置する。好ましくは、その(又はそれぞれの)スティックパックチャンバを、その際、カートリッジの外縁に対してオフセットして配置する。これによって、特にほぼ半円板に相当するカートリッジ形状の場合、比較的容積の大きいスティックパックチャンバを、できるだけスペースを有効に使って配置することができる。特に、分析方法の実行中においてはカートリッジが回転するため、スティックパックから出た液体も遠心力によってスティックパックチャンバの外縁に集まる。そのため、その又はそれぞれのスティックパックチャンバを、半径方向外側にスティックパックチャンバに接続されたチャネルによって、半径方向内側にオフセットして配置した「後続の」チャンバに接続する。スティックパックチャンバを空にし、その半径方向外側に接続されたチャネルを通してこの後続のチャンバに液体を移送するために、ここで、方法の好適な一変形例においては、特に一定のままの温度において、好ましくはスティックパックの開封ステップとの関係において、回転数を低下させる。スティックパックの開封のための温度上昇によって、スティックパックチャンバ内のガス、例えば空気又は不活性ガスが温度によって膨張するため、スティックパックチャンバ内において、(チャンバの)内圧が上昇する。また、(スティックパックの)液体の種類、及び温度に依存する蒸気圧のために、昇華する液体によって内圧がさらに上昇する。しかしながら、後続のチャンバは半径方向内側にオフセットされて配置されているため、このチャンバにつながるチャネル内において、遠心力は、スティックパックチャンバの内圧によって「排出された」液体に対して反作用する。しかしながら、回転数を下げると、遠心力、ひいてはチャネル内において液体を半径方向外側に押しつける「重力圧力」又は「遠心圧力」が低下し、それによって、スティックパックチャンバの内圧によって移動された液体も遠心力に抗してチャネル内を後続のチャンバに流れることができる。内圧が十分に高い場合、スティックパックチャンバを、例えば結露を除いて、少なくともほぼ完全に空にすることができる。好ましくは、チャネルは、その際、半径方向内側において後続のチャンバに接続される。それによって、特に、また、この後続のチャンバがスティックパックの液体量と比較してより大きなチャンバ容積を有することによって、有利には、チャネルを通って移送される液体がチャネル流出口から流れ出ることができる。これによって、スティックパックチャンバから流入する空気によって、後続チャンバに滞留する液体が「はね上がる」リスクが低減される。スティックパックチャンバの内圧は、その際、オプションとして、時間に依存して制御される、すなわち、高回転数において比較的長い時間、温度を維持することによって、又は、回転数を下げる前にスティックパックチャンバを追加で加熱することによって、制御される。それに対して、液体の移送中においては、スティックパックチャンバの冷却、及び、それによる圧力関係の変化を避けるために、温度が一定に維持される必要がある。
【0017】
好ましくは、回転数を約5~20Hz、特に約10~15Hzに低下させる。この回転数値は、スティックパックチャンバを上記のように完全に(少なくともほぼ)空にすることができる確率を高くする。しかしながら、具体的には、回転数とスティックパックチャンバの内圧とは、特に、後続のチャンバにおけるチャネル流出口の半径方向の位置に対する、チャネル流入口の半径方向の位置に(すなわち、チャネルがどの半径方向位置においてスティックパックチャンバに接続されているかに)依存して、互いに影響し合う。チャネル流入口とチャネル流出口との間の半径方向の距離が大きいほど、チャネルを通して液体を運ぶのに必要な(内)圧力が高くなる。ただし、任意に回転速度を低下できない。低下させた場合、スティックパックチャンバ内の液体がチャネル流入口に向かって十分に確実に「押しつけられ」ないためである。
【0018】
スティックパックチャンバに後続のチャンバが、半径方向内側に配置されている、又は少なくとも、最初に曲線状に半径方向内側に走るチャネルによってスティックパックチャンバに接続されているということによって、有利にも、スティックパック内に予め保存された液体が、それが開かれた後に最初はスティックパックチャンバに残り、それによって、上記の方策によって(場合によっては、後の時点においても)、後続のチャンバに的確に移送され得る。
【0019】
また、本発明は、上記の方法において、ここ及び以下においてより詳細に説明するカートリッジの使用に関する。そのカートリッジは、上記した、特に、少なくとも、試料物質を導入するためのアクセス部及びオプションのベント開口部を除いて覆われ、好ましくは液密に密封されている、マイクロ流体チャネル及びチャンバ構造を備える。このチャネル及びチャンバ構造は、少なくとも1つのスティックパックチャンバを含む。さらに、カートリッジは、上記した処理液体を含み、スティックパックチャンバ内に配置され、特に固定される少なくとも1つのスティックパックを備える。好ましくは、その又はそれぞれのスティックパックは、その際、対応するスティックパックチャンバに接着されている、又はその他の方法によって固定されている。さらに、カートリッジは平らな円板状の構造(ジオメトリー)を備える。好ましくは、その構造は、半円板に近似している。上記したように、その又はそれぞれのスティックパックチャンバは、更に、方法の実行中にカートリッジがその周りに回転する回転軸に対して半径方向外側に配置されている。その又はそれぞれのスティックパックチャンバは、半径方向外側に接続されたチャネルによって、半径方向内側にオフセットして配置した(「後続の」)チャンバに接続されている。代替的に、この後続のチャンバも、スティックパックチャンバの半径方向外縁と同じ半径方向位置又は半径方向外縁よりもさらに外側に配置され得る。この場合、これら2つのチャンバをつなぐチャネルは、上記のようにスティックパックチャンバのチャネル流入口を起点として、半径方向内側に向かう曲線を描く。その際、このチャネルは、このチャネル内に立つ液柱が、上記のような遠心力によって、スティックパックチャンバの後続のチャンバへの早すぎる又は無制御の空化を防止するように、(特に半径方向内側に向けてできるだけ「曲げて」)寸法決めされている。
【0020】
本発明による分析装置は、特にポリメラーゼ連鎖反応による、特に回転に基づく分析処理を実行するために構成され、且つ意図される。そのために、分析装置は、上記のカートリッジの受取装置を備える。好ましくは、この受取装置は、特にCDドライブに類似した自動フィーダを含む。好ましくは、その受取装置は、カートリッジが載置固定される支持プレートも含む。この支持プレートは、好ましくはターンテーブルとして形成される。カートリッジ(具体的に、好ましくはターンテーブル)を回転させるために、分析装置は回転駆動装置を備える。さらに、この分析装置は、カートリッジへの特に局所的に限定された熱入力のための加熱装置を備えている。好ましくは、この加熱装置は、支持プレート上に局所的に配置された所定数の加熱素子、例えば、抵抗加熱板又はペルチェ素子、によって形成されている。さらに、分析装置は、分析装置を操作するための上記の方法を、特に自動的に実行するように構成された制御装置を備える。
【0021】
好ましくは、制御装置は、その際、少なくともコアにおいて、プロセッサ及びデータメモリを有するマイクロコントローラによって形成され、その中において、本発明による方法を実行するための機能が、動作ソフトウェア(ファームウェア)の形態においてプログラム的に実装されている。それによって、動作ソフトウェアがマイクロコントローラにおいて実行されるときに、本方法が自動的に、必要に応じてオペレータとの対話において、実行される。本発明の範囲において、コントローラは、代替的に、非プログラマブル電子部品、例えばASICによって形成することができ、その中において、本発明による方法を実行するための機能が回路技術的手段によって実装されている。
【0022】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながらより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】回転に基づく分析方法に使用するカートリッジの概略的な分解図である。
【
図2】カートリッジの基体の熱入力側を示す概略的な平面図である。
【
図3】カートリッジが意図したとおりに使用される分析装置の支持プレートの概略的な平面図である。
【
図4】カートリッジが意図したとおりに使用される分析装置の支持プレートの概略的な側面図である。
【
図5】部分的に組み立てられたカートリッジを伴う支持プレートの、
図3による図である。
【
図6】意図した使用状態にあるカートリッジを伴う支持プレートの、
図4による図である。
【
図7】カートリッジのカバー本体の下側を示す概略的な図である。
【
図8】分析方法の部分ステップを説明するための、チャネルによって接続された、カートリッジの2つのチャンバの概略的な詳細図である。
【
図9】分析方法の部分ステップを説明するための、チャネルによって接続された、カートリッジの2つのチャンバの、別の概略的な詳細図である。
【
図10】分析方法の部分ステップを説明するための、チャネルによって接続された、カートリッジの2つのチャンバの、別の概略的な詳細図である。
【
図11】分析方法の部分ステップを説明するための、チャネルによって接続された、カートリッジの2つのチャンバの、別の概略的な詳細図である。
【
図12】分析方法の更なる部分ステップを説明するためのカートリッジの基体を示す、
図2による図である。
【
図13】分析方法の更なる部分ステップを説明するためのカートリッジの基体を示す、
図2による別の図である。
【
図14】分析方法の更なる部分ステップを説明するためのカートリッジの基体を示す、
図2による別の図である。
【
図15】分析方法の更なる部分ステップを説明するためのカートリッジの基体を示す、
図2による別の図である。
【
図16】分析方法の更なる部分ステップを説明するためのカートリッジの基体を示す、
図2による別の図である。
【
図17】分析方法の更なる部分ステップを説明するためのカートリッジの基体を示す、
図2による別の図である。
【
図18】分析方法の更なる部分ステップを説明するためのカートリッジの基体を示す、
図2による別の図である。
【
図19】分析方法の更なる部分ステップを説明するためのカートリッジの基体を示す、
図2による別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
すべての図において、対応する部品には常に同一の参照符号を付す。
【0025】
図1には、「カートリッジ」(又は、円盤を半分にしたような平面形状のため、略して「ディスク1」ともいう)という試料容器が概略的に示される。このディスク1は、後に詳述する、回転に基づく分析方法において使用される。ディスク1は、マイクロ流体チャネル及びチャンバ構造4を有する基体2(「基板」ともいう)を備える。このチャネル及びチャンバ構造4は、また、後に詳述する複数のチャンバを有し、それらのチャンバは、割り当てられたチャネルによって相互にそれぞれ接続されている(
図2参照)。未組立の状態においては、チャンバ及びチャネルはそれぞれ、基体2において、「開いた」洗面器状、或いは溝状の凹部を形成している。そのため、ディスク1は、シールフィルム6(又は:「シール層」ともいう)も備えており、このシールフィルムは、マイクロ流体の基体2上に熱シールされることによって、以下「熱入力側8」という側からチャネル及びチャンバ構造4をシールする。基体2は、チャネル及びチャンバ構造4への側方のアクセス部10を有し、このアクセス部を介して試料材料をチャネル及びチャンバ構造4内に導入することができる。アクセス部10は、カプセル12によって可逆的に閉じることができ、試料材料の挿入とその後の再密封を可能にする。また、ディスク1は、基体2の「上側16」(又は熱入力側8に対する「裏側」でもよい)に載置されるカバー本体(以下、略して「カバー14」という)を備え、そのカバー本体は、本実施例においては、係止フック18(
図7参照)を基体2の対応する開口部20に係止することによって、基体2に固定される。カバー14は、第1の及び第2の読取り窓22或いは24を有し、これらを通して、その下にある基体2のチャンバの内容物を読取り、それによって(例えば蛍光検出によって)分析し、又は少なくとも検査することができる。
【0026】
オプションの(ここに示す)一変形例においては、ディスク1はまた、カバー14に付けられる(ここでは2つの部分からなる、好ましくは自己粘着性の)ラベル26を備える。ラベル26は、読取り窓22及び24を介して読取りができるように形成されている。オプションの一変形例においては、ラベル26は、読取り窓22及び24を覆う透明な領域を有する。好適には、このような透明な領域には、接着剤が提供されず、すなわち、接着剤が付着せず、それによって、発光性の接着剤の影響を受けずに蛍光を検出することができる。
【0027】
カバー14において、ディスク1を、分析装置の自動フィーダ内において位置合わせして位置決めできるように、凹部28が、側壁30のわきの方に形成されている。
【0028】
基体2は複数(ここでは具体的には2つ)の穿孔32を有し、その穿孔は、ディスク1を分析装置の支持プレート(以下「ターンテーブル34」という、
図3~
図5参照)上に明確に位置合わせして位置決めするために使用される。ターンテーブル34の位置決めピン38は、ターンテーブル34の上面及びディスク1の熱入力側8(したがって平面的な延長部)に対して平行である回転面36に位置決め及び固定するために、これらの穿孔32に嵌まり込む。
【0029】
分析装置のターンテーブル34は、遠心分離、すなわち回転軸40(
図4参照)を中心としたディスク1の回転のために使用される。その際、ターンテーブル34は、オプションとして2枚のディスク1を受け入れできるように構成されており、そのため、180度回転対称に形成されている(
図3参照)。更に、ターンテーブル34は複数の加熱要素42を支持しており、それら加熱要素は、ディスク1のチャネル及びチャンバ構造4の個々のチャンバの局所加熱のために使用され、そのため、その外輪郭が対応するチャンバに適合している。加熱要素42は、本実施例においては、抵抗加熱板によって形成されている。
【0030】
代替的な一実施例においては、加熱要素42は、アクティブ冷却も可能にするペルチェ素子によって形成されている。
【0031】
ディスク1の個々のチャンバ、チャネル、及び更なる要素を、以下に説明する方法シーケンスを参照して、より詳細に説明する。
【0032】
分析方法を実行するために、少なくとも1つのディスク1を、分析装置に導入し、ターンテーブル34上に位置決めして載置する。そのディスクの中には、スワブ44が、試料材料キャリアとしてアクセス部10を介してチャネル及びチャンバ構造4のスワブチャンバ46まで挿入されており、そのアクセス部10はその後、カプセル12によって閉じられる。ディスク1が1枚だけ装着された場合、分析装置は、ターンテーブル34を自動的にバランスさせるように(特にターンテーブル34にカウンターウェイトを配置することによって)構成されている。固定のために、ディスク1は真空ポンプによってターンテーブル34に吸着される。そのために、加熱要素34には、その周りを囲むシール輪郭部48が設けられている。ディスク1は、これらに当てられ、それによって、特定の領域においてターンテーブル34に吸着することができる。これによって、加熱要素42とディスク1の局所的な被加熱部との密着が可能となる。
【0033】
初期状態(すなわち、試料又はスワブ44がまだ挿入されていない状態)において、ディスク1は、第1のスティックパックチャンバ52及び第2のスティックパックチャンバ54内の密封されたスティックパック50に、予め保存された液体試薬を含んでいる。さらに、いわゆるプライマーも前増幅チャンバ56に予め保存されている。さらにプライマー及びいわゆるプローブ(「遺伝子プローブ」ともいう、通常はポリ又はオリゴヌクレオチドの形態である)が、複数の読取りチャンバ58に予め保存されている。これらの読取りチャンバ58は、カバー14の読取り窓24を通して見ることができる。前増幅チャンバ56内のプライマー対は、分析方法の具体的な目的及び/又は特別の手順に応じて、同一又は異なっている。例えば、読取りチャンバ58のプライマーは、前増幅チャンバ56のプライマーと対で同一であるか、又は、例えば、従来技術で知られている「ネステッドPCR」(「入れ子式の」又は「組み込み式の」PCR)のために提供され、したがって、異なるように作成されている。
【0034】
ほぼ円形の第1の「凍結乾燥チャンバ60」と、やはりほぼ円形の第2の「凍結乾燥チャンバ61」には、凍結乾燥物が予め保存され、これらは、例えば酵素、ポリメラーゼ、dNTPs(デオキシヌクレオチド3リン酸)、塩類、及び/又は、さらなる予め保存された試薬(例えばPCR添加物、ヌクレアーゼ阻害剤、関与する酵素の共同因子など)を含む。本実施例においては、スワブチャンバ46は、溶菌剤及び処理制御剤、例えば、芽胞、真菌、ファージ、又は人工標的を含む。スワブチャンバ46と結合する溶解チャンバ62は、溶解ペレットのほか、磁石及び粉砕媒体を含む。後者は、例えば、ガラス粒子及び/又はジルコニア粒子である。これらの粒子は、オプションとして、EDTAによってコーティングされており、又は、EDTAは、血液を試料材料として使用する場合に、凝固を防ぐために付加される。阻害剤を結合させるために、オプションとして、(活性)炭素が付加される。すなわち、このようなオプションの場合、(活性)炭素も予め保存されている。
【0035】
試料採取の後に、代替的にはスワブ44(医療分野では無菌状態において「スワブ」ともいう)に対して、例えば血液キャピラリを使用して、試料キャリア、この場合はスワブ44をディスク1、具体的にはスワブチャンバ46に挿入し、アクセス部10をカプセル12によって閉鎖する(
図2参照)。カプセル12は、その際、場合によっては試料材料に含まれる病原体の流出を防ぐため、気密性を保って閉じられる。オプションの一実施例においては、ディスク1、具体的には基体2は、フィルタ及び凝縮水トラップ66(比較的小さなチャンバ形態の)に上流配置されたベント孔64を有する。後者は、凝縮水によってフィルタを湿らせることができる。しかしながら、ベント孔64は、代替的な一実施例においては省略することも可能である。
【0036】
ディスク1がターンテーブル34に位置決め固定された後において、分析装置に配置された磁石をディスク1の上方において動かすことによって、試料材料の溶解が開始される。これによって、ディスク1の基準系に対して変化する磁場が発生し、溶解チャンバ62に配置された磁石が移動する。磁石の移動によって、溶解チャンバ62内に存在する粉砕媒体の粒子が互いに擦れ合い、それによって、細菌、真菌、ウイルス、又はその他の分析物が可溶化される。
【0037】
この機械的な溶解は、オプションの方法ステップにおいて、対応する局所的に割り当てられた加熱要素42によって溶解チャンバ62を加熱することによって、熱的にサポートされる。
【0038】
その間に、ターンテーブル34は回転し、それによって、ディスク1も回転し、遠心分離によって比較的大きな試料粒子が沈降する。それによって、生化学的な阻害耐性が高められると共に、チャネル及びチャンバ構造4のマイクロ流体チャネルの閉塞のリスクが低減される。
【0039】
オプションとして、試料は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、又は、等温方法(例えば、ループ媒介等温増幅、略して:LAMP、又はリコンビナーゼポリメラーゼ増幅、略して:RPA)によって、この最初のステップにおいて既に複製され得る。例えば、PCR又はMDA(多重置換増幅)に基づく、いわゆる全ゲノム増幅による、この最初のステップにおける非特異的な増幅も考えられる。
【0040】
しかしながら、一般的には、試料材料は、まず磁石と粒子の移動によって均質化され、オプションとしては、オプションの片側加熱によって溶解チャンバ62内に生じる温度勾配に基づく対流によってサポートされて、均質化される。溶解チャンバ62内において生化学反応が付加的に設けられている場合、それによって、溶解チャンバ62の反応条件も同時に均質に保たれる、すなわち、特に安定した温度分布が設定され、及び/又は高い物質混合が達成される。これは、特に、濃度が非常に低い試料、又は、溶解が困難な試料に適している。また、その際、可能なDNA又はRNAのせん断は、それによって二次構造が減少されるため、その後の増幅をサポートすることができる。移動する磁石の機械的作用と試料材料に加わる力によって、DNA或いはRNAの鎖は(ランダムに)切断され(「せん断」され)得る。その際、機械的作用(すなわち「機械的溶解」)の、例えば磁石の移動速度の、持続時間と強度とによって、せん断の程度を制御することができる。しかしながら、その際、DNA及びRNAを強くせん断しすぎると増幅ができなくなるため、注意が必要である。
【0041】
また、さらなる方法ステップにおいて、具体的には、いわゆる「開封ステップ」において、スティックパックチャンバ52及び54を、対応する加熱要素42によって局所的に約90℃に加熱し、次いで(オプションとしてこの間も)ターンテーブルの回転数を30Hz以上、特に約60Hzの範囲まで増加させる。この中高速回転数における遠心分離の際に、加熱と遠心力の組み合わせによって、スティックパック50は5秒程度の比較的短時間において開封される。すなわち、この加熱によって、いわゆるピールフィルムから形成されたスティックパック50のティアシーム又はピールシーム67は、熱的に弱められる。
図8及び
図9において、このプロセスは、スティックパックチャンバ54による両方のスティックパック50について概略的かつ例示的に示されている。ピールシーム67の開口部を通じて、スティックパック50に含まれる液体がスティックパックチャンバ54に流れ出す(
図12も参照)。
【0042】
少なくとも25Hz、特に上記した30Hz以上、好ましくは約60Hzの回転中に、スティックパックチャンバ54の加熱によって、スティックパックチャンバ54の内部にも過圧pが蓄積される(
図9参照)。過圧pはその際、それぞれのスティックパックチャンバ52或いは54に含まれるガスの膨張(理想気体の法則による)のみではなく、スティックパック液体及びスティックパックチャンバ52或いは54内の温度に依存する蒸気圧(及び、ひいては液体の昇華)によって引き起こされる。過圧pによって、液体は、凍結乾燥チャンバ61に通じるチャネル68に押しつけられる。しかしながら、ディスク1の継続する回転によって、半径方向R(回転軸40に垂直な方向)に働く遠心力は、チャネル68内の液体に対して妨げとなる。回転数、したがって遠心力に依存して、チャネル68内の液体は、そのため、スティックパックチャンバ54内の液体レベルと比較して「高低差」hのみ上昇することができる(
図9のハッチングされた領域を参照)。この状態においては、スティックパックチャンバ54内の過圧pと、チャネル68内の遠心力による「逆圧」との間に平衡が存在する。
【0043】
その後、回転数の低下の際に、スティックパックチャンバ54内の過圧pによって、液体の大部分(好ましくは90%以上)がスティックパックチャンバ54からチャネル68を通って凍結乾燥チャンバ61に排出される(
図10及び
図11を参照)。この排出は、10~30Hzの遠心分離の際にも、ディスク1内の遠心力に抗して強固に行われる。スティックパックチャンバ54から排出された液体は、その後の本増幅のための試薬の一部を含む、凍結乾燥チャンバ61に配置された凍結乾燥物を溶解させる。
【0044】
上記に対応して、スティックパックチャンバ52におけるスティックパック50の開封、及び、スティックパックチャンバ52からスワブチャンバ46或いは溶解チャンバ62へのチャネル68を介した液体の移送が行われる。確かに、半径方向外縁を有する溶解チャンバ62は、スティックパックチャンバ52とほぼ半径方向同列に位置している。しかしながら、溶解チャンバ62に(又はスワブチャンバ46に)通じるチャネル68は、最初は半径方向外側から半径方向内側に曲線状に走っており、それによって、スワブチャンバ46或いは溶解チャンバ62における液体の「直接」のオーバーフローが防止される。スティックパックチャンバ52からの液体移送は、スティックパックチャンバ52のスティックパック50の液体をすでに使用できるようにするために、溶解チャンバ62での上記の(機械的)溶解の前又は間に行われる。
【0045】
図12においては、開封されたスティックパック50と、スティックパック50からスティックパックチャンバ54に漏れた液体とがハッチングで示されている。液体の一部は、既にスティックパックチャンバ52からスワブチャンバ46と溶解チャンバ62とに入り込んでいる。
図13には、それぞれの液体を排出した後のスティックパックチャンバ52及び54の状態が示されている。
【0046】
続く方法ステップにおいては、液体(「溶解物」)が溶解チャンバ62から後続の凍結乾燥チャンバ60(
図12~
図19において溶解チャンバ62の上方の右側に示す)に輸送され、その凍結乾燥チャンバの中において、溶解物はその中に予め保存された凍結乾燥物を溶解する(
図14を参照)。この凍結乾燥物は、オプションとして、上記の増幅試薬に加えて、特定のヌクレアーゼを不活性化するためのヌクレアーゼ阻害剤、並びに、ジチオスレイトール(DTT)のような添加剤又は共同因子を含み得る。溶解物の搬送は、その際、ディスク1のさらなる回転による遠心力に抗して、上流に配置されたスティックパックチャンバ52及び/又は溶解チャンバ62の加熱、及び/又は、凍結乾燥チャンバ60の下流に流体的に接続されている前増幅チャンバ56、(反対側の)スティックパックチャンバ54及び/又は読取りチャンバ58の冷却によって行われる。後続のチャンバの冷却は負圧による吸引効果をもたらし、先行するチャンバ又は複数のチャンバの加熱は、対応して逆に、過圧による液体の前進をもたらす。
【0047】
凍結乾燥チャンバ60は、オーバーフローチャネル70によってオーバーフローチャンバ72に接続されている。溶解チャンバ62からチャンバ60に溶解物が搬送されると、余分な溶解物はオーバーフローチャネル70を通ってオーバーフローチャンバ72に流れ込む。制御チャンバ74及び76は、オーバーフローチャンバ72に接続されており、ディスク1が正しく充填されているかどうかを確認するために使用される。オーバーフローチャンバ72に流入した溶解物は、そこから制御チャンバ74並びに、制御チャンバ76(
図14に概略的に示される)に充填される。制御チャンバ74及び76への充填は、ディスク1の正しい充填を確認するために使用される。特に、
図14の右側に示す、ほぼ正方形の形状を有する制御チャンバ74の充填、具体的には、これに半径方向外側において接続された制御チャンバ76の充填は、ディスク1の充填不足がないことを意味するものと解釈される。一方、左側のほぼ正方形の制御チャンバ74に続くほぼ三角形(
図14参照)の制御チャンバ74の充填、具体的には、制御チャンバ74の半径方向外側において接続された制御チャンバ76の充填は、ディスク1の過充填を意味すると解釈される。ここに存在する液体の総量は、導入された試料材料の量、通常約105~170マイクロリットルと、スティックパックチャンバ52のスティックパック50の容積、約140~160マイクロリットルとによって構成されている。対応する制御チャンバ74及び76の充填は、特定の時点(例えば、分析方法全体の終了時)において、又は凍結乾燥チャンバ60の充填中にも、カバー14の読取り窓22を通して、蛍光検出器によって連続的に監視することができる。これによって、制御チャンバ74及び76、ひいては凍結乾燥チャンバ60が充填された時刻を知ることができる。これは、他方また、エラーの原因となりうるものの推測を可能にする。オプションの一実施例においては、より強い信号を得るために、乾燥した蛍光色素が制御チャンバ74及び/又は76に組み込まれる。
【0048】
さらなる方法ステップにおいては、次に、40~60Hzの高回転数によって、液体が、凍結乾燥チャンバ60から移送チャネル78を通って前増幅チャンバ56に搬送される。前増幅チャンバ56内の液体状態がそれぞれの排出チャネル80の開口を超えるとすぐに、封入された空気量が、前増幅チャンバ56の(半径方向内向きの)「ヘッドスペース」内おいて、及び、割り当てられたチャネル82(
図15参照)を介して下流に配置されたそれぞれのチャンバ84において圧縮される。
【0049】
40~80Hzの回転数における高遠心分離の下に、次の方法ステップにおいて、前増幅チャンバ56において前増幅が行われる。前増幅チャンバ56及びチャンバ84における過圧は、前増幅時の高遠心分離によって維持される。まず、予め保存されたプライマー、例えばトレハロースによってスポットしたものを、前増幅チャンバ56において分解する。RNAを検出する場合は、オプションとして、存在するRNAをDNAに転写するために、まず逆転写を35~70℃の一定温度において30秒~10又は30分間、行うことが可能である。しかしながら、PCRによる前増幅は、前増幅チャンバ56内の液体を50~75℃及び80~100℃の範囲内における局所的且つ循環的な加熱及び冷却によって行われる。前増幅は、5~30回の前増幅サイクルを含む。それぞれのサイクルは、その際、80~100℃までの加熱、及び、その後の50~75℃までの冷却を含む。
【0050】
前増幅チャンバ56内の(前増幅)反応は、大きな対流によってサポートされている。これは、ディスク1、具体的には熱入力側8から前増幅チャンバ56への片側熱入力と、並びに、同時の回転とに起因するものである。その際、前増幅チャンバ56内の液体は、まず、加熱要素42によって加熱された熱入力側8において加熱され、これによって加熱された境界層が形成される。その際、境界層の密度は、液体量の残りの部分に比べて低くなる。境界層の加熱された液体は、半径方向Rに向けられた、ディスク1の回転による人工的な重力場において、最初は半径方向Rに対して「内側」に向かって、次に半径方向Rに対して横切る上側16に向かって上昇する。そこで液体は冷却され、「重力によって」、上側16に沿って半径方向R外側へ沈み、再び熱入力側8へ向かう。そのため、熱入力によって半径方向Rに沿った対流及び流れが発生する。さらに、同じく発生するコリオリ力によって、接線方向の流れ成分(すなわち、ディスク1の平面方向における半径方向Rに垂直な方向)が形成され、液体の混合が追加的にサポートされる。対流は人工的な重力場によって引き起こされるため、ディスク1の回転が速くなると対流が大きくなる。したがって、高回転数の際に発生する対流は、前増幅チャンバ56内の反応成分の特に効果的な混合をもたらし、その結果、効率的な増幅条件を実現することができる。
【0051】
しかしながら、副次的な効果として、ディスク1の加熱されていない上側16に非常に高い熱放出がある場合、例えば10℃(又はケルビン)の大きい温度勾配(例えば、10ケルビン)が前増幅チャンバ56の液体体積内に形成される可能性があり、これは不利になり得る。空気遮断を行うカバー14は、ほとんど、約4~5ケルビンの温度勾配の大幅な減少を導く。
【0052】
熱放出をさらに低減するために、さらなる一実施例においては、カバー14は、前増幅チャンバ56をリング状に囲むフレームウェブ86を有し、それによって、上側16における対流による熱放出をさらに低減する(
図1,及び
図7参照)。これは、オプションとして省略可能である。そのフレームウェブ86は、カバー14に成形されており、すなわちカバーと一体的に結合されている。その際、フレームウェブ86は、基体2の方向に突出し、基体から約100μmの小距離離れて終っている。このカバー14とフレームウェブ86とによる前増幅チャンバ56の継続的な遮蔽によって、それぞれの前増幅チャンバ56内に約2ケルビンの温度差が可能にされた。そのため、それぞれの前増幅チャンバ56において、とりわけ回転による、比較的強い対流が生じる。しかしながら、加えて、少なくとも静的な場合において、すなわち、加熱要素42の温度が少なくとも約10~30秒等の間、維持される場合において、反応温度の比較的高い均質性が、前増幅チャンバ56内において達成される。経験上において、本実施例及び以下において説明する形状及びその際使用されるパラメータによって、約15秒後からすでに静的条件を達成できることが分かっている。
【0053】
相互作用を必要とする反応、例えば固相への分子の結合、例えばマイクロアレイへの結合、又は、それぞれの反応パートナーの濃度が通常低く、したがってそれぞれの反応パートナー間の接触が比較的低い確率で行われる反応が前増幅チャンバ56で行われる場合には、大きな対流(したがって比較的強い混合)並びに均一な温度分布が、有利になり得る。
【0054】
前増幅の終了後に、回転数は、約5~20Hz、具体的には約10Hzに低減される。それによって、前増幅チャンバ56のヘッドスペース内及びチャンバ84内の圧縮空気量が膨張する。排出チャネル80の開口部内において半径方向にある液体が、少なくとも大部分において、排出チャネル80を通る膨張する空気によって別のチャンバ88に排出されることによって、これは、他方また、前増幅チャンバ56内の液体レベルの低下という結果をもたらす。これは、排出チャネル80が、前増幅チャンバ56に通じる移送チャネル78よりも低い流れ抵抗、具体的にはより大きなチャネル断面を有することによって可能となる。
【0055】
その際、ディスク1は、特に、チャンバ88と連絡し、ディスク1の他のチャンバへの内部ベントを可能にするベントチャネル90を備える。それによって、チャンバ88に流入する液体によって圧縮される空気は、ベントチャネル90を介して凍結乾燥チャンバ60の方向に逃げることができる。
【0056】
続く方法ステップにおいては、ディスク1(或いはターンテーブル34)の回転数は、10~20Hzの値の範囲、好ましくは約15Hzに設定され、具体的には増加される。それによって、チャンバ88からの液体は、半径方向外側に横たわる異なる容積の3つの「測定指」又はチャンバ突起を有する測定チャンバ94に、サイフォン92を介して流入する。その際、これら測定指が順次満たされ、それによって、所定の(測定指の)容積をもとに、個々の部分体積が測定される(
図16参照)。測定指の半径方向外側のチャネル96を通る液体の流れは、これらのチャネル96の高い流れ抵抗によって、具体的には、少なくとも1つの空間方向、具体的には断面方向におけるそれらのチャネル寸法が200μmより小さいということによって、制限される。そのため、次のステップにおいてチャネル96を通ってそれぞれ流れる部分体積は、それぞれの上流側の測定指の容積によって本質的に予め設定されている。余分な液体量は排水口98に流れる。
【0057】
次の方法ステップ(
図17参照)においては、遠心分離の増加、すなわち回転数を30~80Hzの範囲、具体的には約60Hzに増加することによって、液体の測定された部分体積は、それぞれの後続チャンバ、すなわち
図17においてスワブチャンバ46の左側に示す凍結乾燥チャンバ61に、さらにチャンバ100に移動される。
【0058】
この凍結乾燥チャンバ61には、本来、スティックパックチャンバ54に配置されたスティックパック50に予め保存された「本増幅バッファ」と、凍結乾燥チャンバ61に予め保存されており、その間に液体に溶解した凍結乾燥物と、チャネル96を介して供給された、前増幅チャンバ56からの液体に含まれる「前増幅産物」と、が存在している。
【0059】
後続の方法ステップにおいては、ディスク1は、比較的速い方向転換の下に、-20~40Hz及び+20~40Hzの末端値の間において、5~40Hz/秒、好ましくは約30Hz/秒の変化率において、それぞれ回転される。この場合の符号は、回転方向の違いを表している。凍結乾燥チャンバ61内に存在する成分は、方向転換の際に発生する加速度と、それによって回転系に発生するオイラー力及びコリオリ力によって混合される。
【0060】
これに並行して、複数の読取りチャンバ58、これらの上流に設けられ測定チャンバ102、及びオーバーフローチャンバ104は、対応する割り当てられた加熱要素42によって加熱される。それによって膨張した空気は、補償チャネル106を介してチャンバ100内に逃げることができる。混合過程の終了後に、方向転換を終了し、再び約20Hzの一定回転数に設定する。続いて、読取りチャンバ58、測定チャンバ102、オーバーフローチャンバ104は再び冷却される。これによって、それぞれのチャンバ58,102,及び104に相対的な負圧が生じ、凍結乾燥チャンバ61に後続されたサイフォンチャネル108、及び、チャンバ100に接続された補償チャネル106の充填状態が、遠心力と空気圧差との比に依存して増加する。液体がサイフォンチャネル108の頂点110を超えるとすぐに、すべての液体が凍結乾燥チャンバ61から後続の測定チャンバ102に移動される(
図18を参照)。凍結乾燥チャンバ61とチャンバ100との間のベントチャネル112は、その際、これら2つのチャンバ61及び100間における空気交換を可能にする。
【0061】
その際、液体は、個々の測定チャンバ102に順次流れ込み、それによって測定される。さらに、測定チャンバ102内の液体は、まずそれぞれ、弁チャネル114の形態の遠心空圧弁によって留められる。余分な液体は、オーバーフローチャンバ104に流れ込む。遠心空圧弁は、以下に基づいている。すなわち、液体は、それぞれの後続の読取りチャンバ58内の逆圧力によってそれぞれの弁チャネル114に保持され、中回転数の範囲、具体的にはこの場合約15~25Hzの回転数の際には、後続の読取りチャンバ58に流入できない。
【0062】
後続の方法ステップにおいては、それぞれの弁チャネル114内の(液体の)メニスカスが、いわゆる「レイリー・テイラー不安定性」によって不安定になり、それによって、液体の少なくとも大部分が、対応する読取りチャンバ58(
図19参照)に移送される程度にまで、典型的には40Hz超まで、回転数が増加される。
【0063】
さらなる方法ステップにおいては、読取りチャンバ58において主増幅が行われる。このために、読取りチャンバ58内にそれぞれ予め保存されたプライマー及びプローブを溶解させる。その際、プライマー及びプローブの溶解とその後の増幅は、前増幅チャンバ56のために上記したように引き起こされる、読取りチャンバ58内の高い対流によってサポートされる。反応は、すべての読取りチャンバ58において、約60℃におけるそれぞれのサイクルの後に、蛍光検出器によって読み出される。蛍光検出器は、異なる波長の蛍光を検出する。読取りは、カバー14の読取り窓24を通して行われる。このプロセスは、いわゆる「リアルタイムPCR」に相当する。その際、12個の読取りチャンバ58のそれぞれにおいて、例えば3~10プレックスの多重反応を行うことができる。その際、蛍光検出器の信号の対応する増加が、検出されたターゲットを示す。
【0064】
蛍光検出器による光学的評価に影響を与えないように、あるいはできるだけ影響を与えないようにするために、読取りチャンバ58は、半径方向に内側において、蛍光検出器による観察領域の外側において、より詳細に図示しない凹部を有しており、その凹部は、気泡を「捕まえて」、観察領域に入らないようにするために使用される。この凹部にある気泡は、観察領域に入らないために、比較的強く変形される必要がある。本実施例においては、有利にも、気泡の境界面は、特に既存の表面張力条件による影響を受けて、打ち消し効果を発揮する。
【0065】
さらにオプションとして、この場合、読取りチャンバ58を覆う、透過的に閉じられた読取り窓24も、フレームウェブ86と同等のフレームウェブ(
図1参照)によって縁取られており、それによって、ここにおいても読取りチャンバ58からの熱放出を低減することができる。
【0066】
また、蛍光検出の代わりに、いわゆる溶解曲線分析、例えば「高分解能溶解曲線分析」又は「高速溶解曲線分析」を用いて評価することも可能である。これによって、さらなる高多重化が可能になる。オプションの一実施例においては、読取りチャンバ58において、いわゆるインターカレート色素(例えば「EvaGreen」、「SYBR Green」、「BoxTo」のブランド又は名称で知られている色素)に基づく「リアルタイムPCR」を行い、その際、生じたPCR産物が、増幅後に溶解曲線によって検出される。その際、1つのチャンバにつき、最大20個のPCR産物を検出及び識別することができる(20プレックス)。
【0067】
本発明の対象は、上記した実施例に限定されるものではない。むしろ、本発明のさらなる実施形態は、当業者によって上記の説明から導き出すことができる。特に、様々な実施例によって説明した本発明の、及び変形実施形態の個々の特徴は、他の方法において組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 ディスク
2 基体
4 チャネル及びチャンバ構造
6 シールフィルム
8 熱入力側
10 アクセス部
12 カプセル
14 カバー
16 上側
18 係止フック
20 開口部
22 読取り窓
24 読取り窓
26 ラベル
28 凹部
30 側壁
32 穿孔
34 ターンテーブル
36 回転面
38 位置決めピン
40 回転軸
42 加熱要素
44 スワブ
46 スワブチャンバ
48 シール輪郭部
50 スティックパック
52 スティックパックチャンバ
54 スティックパックチャンバ
56 前増幅チャンバ
58 読取りチャンバ
60 凍結乾燥チャンバ
61 凍結乾燥チャンバ
62 溶解チャンバ
64 ベント孔
66 凝縮水トラップ
67 ピールシーム
68 チャネル
70 オーバーフローチャネル
72 オーバーフローチャンバ
74 制御チャンバ
76 制御チャンバ
78 移送チャネル
80 排出チャネル
82 チャネル
84 チャンバ
86 フレームウェブ
88 チャンバ
90 ベントチャネル
92 サイフォン
94 測定チャンバ
96 チャネル
98 排水口
100 チャンバ
102 測定チャンバ
104 オーバーフローチャンバ
106 補償チャネル
108 サイフォンチャネル
110 頂点
112 ベントチャネル
114 弁チャネル
R 半径方向
p 過圧
h 高低差