(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-27
(45)【発行日】2025-03-07
(54)【発明の名称】3Dプリンティングプロセスにおける犠牲材料としてのマルチブロック共重合体の使用
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20250228BHJP
C08F 293/00 20060101ALI20250228BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20250228BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20250228BHJP
B29C 64/40 20170101ALI20250228BHJP
【FI】
B29C64/118
C08F293/00
B33Y70/00
B29C64/314
B29C64/40
(21)【出願番号】P 2023579478
(86)(22)【出願日】2022-06-15
(86)【国際出願番号】 FR2022051148
(87)【国際公開番号】W WO2022269167
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2024-03-04
(32)【優先日】2021-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(32)【優先日】2021-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ブロカ, アンヌ-ロール
(72)【発明者】
【氏名】カゾマユ, シルヴィー
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-538607(JP,A)
【文献】特開2019-064258(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0057682(US,A1)
【文献】特表2017-538846(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0193336(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
C08F 293/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PEEK、PEKK、PEK、PEKEKK、PEEKK、PEKK、PEI、PAI、PSUおよびPPSから選択される、Tgが140と200℃の間であるポリマーを3Dプリントするためのプロセスにおける犠牲材料としての少なくとも1つのマルチブロック共重合体(I)の使用であって、少なくとも1つのマルチブロック共重合体(I)は、ランダムに結合したi個のモノマーM
i(iは、境界値を含む2~5の範囲の整数である)からなる少なくとも1つのブロックと、ランダムに結合したj個のモノマーM
j(jは、境界値を含む2~5の範囲の整数である)からなる少なくとも1つのブロックとを含み、M
iは、ホモポリマーのTgが0℃未満であるモノマーAおよび親水性モノマーBから選択され、Aの質量の割合は80%~95%の範囲、Bの質量の割合は5%~20%の範囲であり、M
jは、ホモポリマーのTgが0℃未満であるモノマーC、ホモポリマーのTgが25℃より高いモノマーD、および親水性モノマーEから選択され、モノマーC、DおよびEの質量の割合は、それぞれ25~35%の間、25~35の間%および35~45%の間である、マルチブロック共重合体(I)の使用。
【請求項2】
少なくとも1つのブロック共重合体(II)が、(I)+(II)の総重量に対して1質量%と50質量%の間の質量の割合で存在する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
少なくとも1つのブロック共重合体(I)が、ジブロック共重合体またはトリブロック共重合体である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
ブロック共重合体(I)が、ジブロック共重合体である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
ジブロック共重合体(I)が、ファミリーAおよびBのモノマーからなるブロックの質量の割合が5%~40%の範囲であり(ブロック1)、モノマーC、DおよびEからなるブロックの質量の割合が50%~90%の範囲である(ブロック2)、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
共重合体(II)が、ガラス転移温度が0℃未満である少なくとも1つのブロックと、ガラス転移温度が0℃より高い少なくとも1つのブロックとを有する、請求項
1に記載の使用。
【請求項7】
ブロック共重合体が制御ラジカル重合によって調製される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項8】
ブロック共重合体がニトロキシド媒介ラジカル重合によって調製される、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
ブロック共重合体が、N-tert-ブチル-1-ジエチルホスホノ-2,2-ジメチルプロピルニトロキシドによって媒介されるラジカル重合によって調製される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
少なくとも1つのブロック共重合体(I)が、ブチルアクリレートおよびアクリル酸を用いるブロック1と、ブチルアクリレート、スチレンおよびメタクリル酸を用いるブロック2とからなる、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
少なくとも1つのブロック共重合体(I)が、80000g/molと150000g/molの間の重量平均分子量を有する、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
共重合体(II)が、50000g/molと150000g/molの間の重量平均分子量を有する、請求項2に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3D熱溶解積層法のための犠牲材料としてのマルチブロック共重合体またはマルチブロック共重合体組成物の使用に関する。本発明では、ブロック共重合体のみを使用する。これにはブロック共重合体状ではないアーキテクチャを有する任意の他のポリマーは除外される。
【0002】
このような材料は、溶媒に溶解して除去される前に、3Dプリンティング(熱溶解積層法)において製造される部品を構成するポリマー(ガラス転移温度(Tg)の高いポリマーを含む)をサポートするために使用することができる糸またはロッドを作るのに申し分ない熱機械的性質を兼ね備えながら、さまざまな溶媒への迅速な溶解性または分散性を示す。
【0003】
三次元プリンティング(または3Dプリンティング)は、仮想物体に基づいた実物体の付加製造(またはAM)を可能にする。三次元プリンティングは、3D仮想物体を非常に薄い厚さの2Dスライスに切断することに基づいている。これらの薄いスライスは、前のスライスの上に固定することで1枚ずつ積層され、実物体が再構成される。物体の構成材料には、プラスチック(特にアクリロニトリルブタジエンスチレン(またはABS)およびポリ乳酸(またはPLA))の他、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ワックス、金属、またはセラミックが含まれる。付加技術の例としては、フィラメント溶融製法(FFF)およびレーザー焼結がある。
【0004】
熱溶解積層法は、押し出しノズルを通してフィラメントを溶融させることからなる技術である。このノズルから、直径1ミリメートルオーダーの溶融フィラメントが出てくる。この糸は線状に積層され、先に積層された糸の上に、再溶融によって接着する。この技術により、射出成形された熱可塑性樹脂部品と同等の機械的・熱的特性および安定性を有し、多くの場合より軽量である、適切な材料で作られた部品を生成することが可能になる。ポリマーの場合、機械的強化の理由から、この技術では部品を製造するためにサポートが必要であり、このサポートも一緒に押し出される。この構築サポートは、生成される物体を構成する材料とは別の材料からなり、物体の構築プロセスが終了すると、このサポートは生成された物体から取り除かれる。
【0005】
構築サポートは、一般に、非常に精密な仕様に対応する可溶型または分散性ポリマー組成物である。機械的強度に加え、共重合体のガラス転移温度(プリントされる材料のガラス転移温度と同様でなければならない)、熱安定性または加工性、さまざまな溶媒、特に水への溶解または分散の反応速度が、望ましい性質の中で最も重要である。溶解または分散溶媒が水である場合、材料はまた、良好に保存されなければならない。水溶性または水分散性の組成物やフィラメントは、湿度の高い雰囲気での保存が難しいと証明できるため、この後者の特性を生み出すのは必ずしも容易ではない。保存中、周囲に湿気が存在すると、顆粒のケーキングや、フィラメントのスプールへの接着が観察される。
【背景技術】
【0006】
この3Dプリンティング技術には、複雑な部品の構築を可能にするサポート材が必要であり、これは例えばWO2010/045147に記載されている。他の水溶性サポート材としては、
- ポリビニルアルコール
- ブテンジオール/ビニルアルコールBVOH共重合体
- (メタ)アクリル共重合体、が含まれる。
【0007】
これらのサポートポリマー組成物は、常に、溶解度、機械的性質または他のパラメータを調整する役割を有する複数の共重合体を含み、その結果、開発がより困難になる。
【0008】
他の溶媒に溶解する他のサポート材としては、例えばリモネンに溶解するハイインパクトポリスチレン(HIPS)を挙げることができる。
【0009】
サポートが、プリントされる物体を構成するポリマーのガラス転移温度(Tg)から10℃より低い桁の範囲内で、プリントされる物体を構成するポリマーのTgに比較的近いTgを有していなければならないことは、先行技術において公知である。
【0010】
そのようなTgを有しない場合、サポート材が示すクリープが大きくなりすぎるため、プリントされる部品の構築が正しく行われない。このことは、例えばUS5866058において説明されている。
【0011】
驚くべきことに、本出願人は、ブロック共重合体を単独でまたは組み合わせて犠牲サポート材として使用すると、プリントされる材料/サポート材のTgが近接しているというこの条件が必須でなくなることを見出した。このことは、サポートポリマーの他の特性を定めるための可能性がはるかに広がるゆえに利点をもたらす。したがって、犠牲サポートポリマーのTgが、プリントされる物体を構成するポリマーのTgよりも低い限り、犠牲サポートポリマーのTgを気にすることなく、機械的パラメータや水性媒体への溶解パラメータなどの他のパラメータを調整することがより容易になる。したがって、ブロックの1つの最高Tgが例えば50℃であるブロック共重合体の場合、そのようなブロック共重合体は、50℃~200℃の範囲のTgを有する材料で作られる物体を構築するためのサポート材として使用することができる。ガラス転移温度(Tg)が0℃未満である少なくとも1つのブロック、およびTgが0℃より高い少なくとも1つのブロックを有する他のブロック共重合体と組み合わせると、機械的性質も非常に優れた組成物が得られる。
【0012】
これは、犠牲サポートポリマーの選択肢が非常に限られており、他にも欠点があるポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリスルホン(PSU)、ポリ(エーテルスルホン)(PES)、ポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)からなる物体のプリンティングに、新たな可能性をもたらす。
【発明の概要】
【0013】
PEEK、PEKK、PEI、PAI、PSUおよびPPSから選択される、Tgが140と200℃の間であるポリマーを3Dプリントするためのプロセスにおける犠牲材料としての少なくとも1つのマルチブロック共重合体(I)の使用であって、少なくとも1つのマルチブロック共重合体(I)は、ランダムに結合したi個のモノマーMi(iは、境界値を含む2~5の範囲の整数である)からなる少なくとも1つのブロックと、ランダムに結合したj個のモノマーMj(jは、境界値を含む2~5の範囲の整数である)からなる少なくとも1つのブロックとを含み、Miは、ホモポリマーのTgが0℃未満であるモノマーAおよび親水性モノマーBから選択され、Aの質量の割合は80%~95%の範囲、Bの質量の割合は5%~20%の範囲であり、Mjは、ホモポリマーのTgが0℃未満であるモノマーC、ホモポリマーのTgが25℃より高いモノマーD、および親水性モノマーEから選択され、モノマーC、DおよびEの質量の割合は、それぞれ25~35%、25~35%および35~45%の間である、マルチブロック共重合体(I)の使用。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】犠牲ポリマー(I)および該ポリマー(I)と共重合体(II)との組み合わせ(犠牲ポリマー+5%M52N)のDMA挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の概要に記載されている特性、およびそれに伴うブロック共重合体(I)中の割合を有する任意の種類のモノマーが、背景技術に記載されている技術的課題の解決に有利な挙動をもたらすと考える理由は十分にある。
【0016】
これは使用される化学物質を予測するものではない。
【0017】
しかし、ブロック共重合体でこのような構造を調製することができる化学物質はほとんどない。
【0018】
反応性ブロックは、発明の概要に従うモノマーの選択および割合で、例えば重縮合や開環によって調製してもよく、第2段階において他のブロックを結合することができる。
【0019】
ブロックはまた、発明の概要に従うモノマーの選択および割合で、ラジカル重合またはアニオン重合によっても同様に、すなわちブロックごとに、他のブロックを段階的に結合できるように調製することができる。
【0020】
好ましい技術の中でも、同一プロセス操作内に連続的段階でブロック共重合体を得ることが可能であるため、制御ラジカル重合が使用される。
【0021】
非限定的に、RAFT(Radical Addition Fragmentation Transfer、ラジカル付加-開裂連鎖移動)またはNMP(Nitroxide Mediated Polymerization、ニトロキシド媒介ラジカル重合)を挙げることができる。
【0022】
好ましくはNMPが選択され、好ましくは、対ラジカルN-tert-ブチル-1-ジエチルホスホノ-2,2-ジメチルプロピルニトロキシドを用いるNMPが選択される。このような対ラジカルは、文献に広く記載されかつ使用されており、2-([tert-ブチル[1-(ジエトキシホスホリル)-2,2-ジメチルプロピル]アミノ]オキシ)-2-メチルプロピオン酸のアルコキサミンまたはポリアルコキサミンの形で用いられる。
【0023】
発明の概要に記載されているブロック共重合体(I)のモノマーに関して、モノマーAは、アルキル(メタ)アクリレート(アルキルは直鎖または置換C4~C18鎖を有し、任意選択で酸素を含有する)、および特に以下のモノマー:ブチルアクリレート(buA)、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)、メトキシエチルアクリレート(MEA)、ラウリルメタクリレート(lauMA)、ステアリルメタクリレート(SMA)から選択される。
【0024】
モノマーBは、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、スチレンスルホネート、2-アクリルアミド-2-プロパンスルホン酸から選択される。
【0025】
モノマーCは、アルキル(メタ)アクリレート(アルキルは直鎖または置換C4~C18鎖を有し、任意選択で酸素を含有する)、および特に以下のモノマー:ブチルアクリレート(buA)、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)、メトキシエチルアクリレート(MEA)、ラウリルメタクリレート(lauMA)、ステアリルメタクリレート(SMA)から選択される。
【0026】
モノマーDは、スチレン(S);メチルメタクリレート(MMA)、アクリロニトリル(AN)、イソボルニルアクリレートから選択される。
【0027】
モノマーEは、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)から選択される。
【0028】
好ましくは、Aはブチルアクリレートまたは2-エチルヘキシルアクリレート、より好ましくはブチルアクリレートであり、Bはアクリル酸またはメタクリル酸であり、Cはブチルアクリレートまたは2-エチルヘキシルアクリレート、より好ましくはブチルアクリレートであり、Dはスチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートまたはイソボルニルアクリレート、より好ましくはスチレンまたはイソボルニルアクリレートであり、Eはアクリル酸またはメタクリル酸である。
【0029】
本発明の犠牲ポリマー組成物を使用してプリントすることができるポリマーは、50℃より高いガラス転移温度(Tg)を有し、その中で、非限定的に、ポリ乳酸(PLA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、アクリロニトリルスチレンアクリロニトリル(ASA)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリオレフィン(PE、PP)のようなコポリエステル、および140~200℃の間の高いTgを有するポリマーではポリアリールエーテルケトン(PAEK)(アリールエーテルケトン配列に応じて上記のPEEK、PEKK、PEK、PEKEKK、PEEKK、PEKK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリスルホン(PSU)、ポリ(エーテルスルホン)(PES)、またはポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)を挙げることができる。
【0030】
PEEK、PEKK、PEI、PAI、PSUおよびPPSのような高温ポリマーの水溶性サポート材としてのブロック共重合体の使用は、特に有用である。言及されている、より低いTgを有する他のポリマーもプリントすることができるが、他の解決策がすでに存在する。
【0031】
したがって、本発明の優先傾向は、Tgが50と200℃の間、好ましくはTgが140と200℃の間であるポリマーをプリントするための、発明の概要に記載されているブロック共重合体の使用に及ぶ。
【0032】
発明の概要に記載されているブロック共重合体(I)は、好ましくはジ-またはトリブロック共重合体であり、より好ましくはジブロック共重合体である。これらの共重合体の定義において、iは2と5の間、好ましくは2~3の間の値(境界値を含む)をとることができ、より好ましくは2である。これらの共重合体の定義において、jは2と5の間、好ましくは2と3の間の値(境界値を含む)をとることができ、好ましくは3である。
【0033】
これらの共重合体では、ファミリーAおよびBのモノマーからなるブロックの質量の割合が5%~40%の範囲、好ましくは10%と30%の間であり(ブロック1)、モノマーC、DおよびEからなるブロックの質量の割合が50%~90%の範囲、好ましくは60%と80%の間である(ブロック2)。
【0034】
本発明で選択されるモノマーの選択に伴う性質のバランスにより、これらの共重合体は、水、DMSO、アルコール、またはケトンから非限定的に選択される溶媒に溶解することができる。7~12、好ましくは10~12で変化し得るpH範囲において、水が好ましい溶媒である。
【0035】
本発明で使用するブロック共重合体(I)に加えて、該共重合体を少なくとも1つのブロック共重合体(II)と組み合わせてもよい。したがって、本発明はまた、3Dプリンティングプロセスにおける犠牲材料組成物としての共重合体(I)および(II)の組み合わせの使用に関する。
【0036】
ブロック共重合体(II)は、好ましくはジ-またはトリブロック共重合体であり、より好ましくはトリブロック共重合体である。ブロック共重合体(II)は、ブロック共重合体(I)と同じタイプの重合化学およびプロセスで、重合化学およびプロセスに関して同じタイプの優先傾向に従って調製される。
【0037】
共重合体(II)は、ガラス転移温度(Tg)が0℃未満である少なくとも1つのブロックと、Tgが0℃より高い少なくとも1つのブロックとを有する。
【0038】
ブロック共重合体(II)のモノマーに関しては、以下から選択される。
0℃未満のTgを有するブロックについては、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、好ましくはブチルアクリレート。
0℃より高いTgを有するブロックについては、メチルメタクリレート、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、イソボルニルアクリレート、好ましくはメチルメタクリレート、ジメチルアクリルアミド、イソボルニルアクリレートおよびイソプロピルアクリルアミドであり、ジメチルアクリルアミドまたはイソプロピルアクリルアミドの場合、質量の割合は、(II)の合計に対して1質量%と30質量%の間、好ましくは5質量%と15質量%の間である。
【0039】
溶解または分散溶媒が水である場合、本発明の組成物は、共重合体(II)の存在下または非存在下で、高いpH値、例えば12では非常に良好な溶解を示し、pH7でははるかに少ない溶解を示す。このことは、これらの共重合体を用いて製造された糸のスプールが、特に湿度の高い雰囲気において、より良好な保存安定性を有するという利点をもたらす。
【0040】
発明の概要に記載されている共重合体(I)は、ポリスチレン標準を使用してSECで測定した重量平均分子量が80000と150000g/molの間、分散度指数が1と3の間、好ましくは1.5と2.5の間である。
【0041】
特定の性質を調整するために、共重合体(I)を他のブロック共重合体と混合することができる。
【0042】
ブロック共重合体(II)は、ポリスチレン標準を使用してSECで測定した重量平均分子量が50000と150000g/molの間、分散度が1と3の間、好ましくは1.5と2.5の間である。
【0043】
これらのブロック共重合体(II)は、組成物の使用において、(I)+(II)の総重量に対して1質量%~50質量%の範囲、好ましくは3質量%と15質量%の間の割合で使用され得る。
【0044】
ガラス転移温度(Tg)は、DSCによって測定される。
【実施例】
【0045】
実施例1-共重合体(I)P(BA-AA)-b-P(BA-S-MAA)の合成
本実施例は、mMnN-ブロック-oOpPqQで表される、ジブロック共重合体iMi-jMj(i=2、j=3)を対象にする。
【0046】
ブロック1:
M:ブチルアクリレート(buA)、m=ブロック1の90%
N:アクリル酸(AA)、n=ブロック1の10%。
ブロック2:
O:buA、o=ブロック2の30%
P:スチレン(S)、p=ブロック2の30%
Q:メタクリル酸(MAA)、q=ブロック2の40%。
【0047】
このジブロック共重合体の合成は2工程で行われる:
第1のブロックP(BA-AA)をバルクで合成し、次いで未反応モノマーをストリッピングする。
第2のブロックP(BA-S-MAA)を溶媒中で合成する。
【0048】
1.1.ブロックP(BA-AA)の合成
この第1のブロックは、Ingenieur Buro型反応器を用いたバルク重合プロセスによって合成される。
【0049】
反応物:
- ブチルアクリレート(BA)
208.7g
- アクリル酸(AA)
22.9g
- ブロックビルダー(登録商標)
2.51g
変換率70%、数平均分子量27000g/molを目標とする。
【0050】
反応物を秤量し、次いで磁気撹拌で混合し、次いで真空圧で反応器に導入する。反応器を撹拌する(250rpm)。窒素加圧と減圧を交互に3サイクル繰り返すことにより、媒体を脱気する。重合は3段階の温度で行われる:105℃で60分間、次いで110℃で90分間。重合時間は300分である。変換率は、1時間ごとに試料を採取し、乾燥抽出によって監視する(150℃の熱天秤と125℃の真空オーブン)。
【0051】
目標変換率が達成されると、温度は80℃に下げられる。設定温度に達したら、装置を徐々に減圧下に置き、未反応モノマーを蒸留する(液体窒素トラップで回収)。システムは80℃、最大減圧下で約90分間放置され、蒸留が完了したら、設定温度を40℃まで下げ、この設定温度に達したら、媒体を希釈するために160gのトルエンを(真空圧で)導入する。溶液を完全に均質化するため、システムは40℃で数時間撹拌したまま放置される。次いで、この溶液を回収する。
【0052】
1.2.ブロックP(BA-S-MAA)の合成
合成は、質量比60/40のエタノール/トルエン混合物を使用して溶媒法で行う。全原料に対して溶媒45%で合成を行う。
【0053】
質量比30/30/40のBA/S/MAA混合物を導入する。
【0054】
第2のブロックの変換率70%、質量組成30/70の共重合体P(BA-AA)-b-P(BA-S-MAA)を目標とする。
【0055】
原料は以下のように調製する。
エタノールで希釈した第1のブロック:154.8g
BA/S/AMA:154.8/154.8/206.4(g)
エタノール/トルエン:329/219.5(g)
この共重合体のモル質量(PS換算)は以下の通りである。
Mp=95000g/mol
Mn=53000g/mol
Mw=95000g/mol
PI=1.81
【0056】
実施例2~4(本発明2~4)では、mMnN-ブロック-oOpPqQと表されるiMi-jMjジブロック共重合体(i=2、j=3)を、実施例1と同じ合成条件で、同じブロック比、同じモノマーの割合で調製する。表1では、以下のモノマーが選択されている。
表1
【0057】
m、n、o、p、qの割合は実施例1と同じである。得られたポリマーは、実施例1で得られたポリマーと比較して分子量が10%を超えて変動しないという点で類似した特性を有する。
【0058】
実施例5:溶解試験
試験は、本発明のサポート材のペレットと、市場で入手可能なAquasis(登録商標)120および180製品が完全に溶解するまで行う。
【0059】
ペレットは200℃で圧縮して調製する。ペレットの溶解は、pH=7およびpH=12、温度60℃で行われる。
【0060】
実施例6:フィラメント押し出し:
本発明の材料から直接スプールを形成した。
【0061】
紡糸は、単軸「Labtech LBE20-30/C」押出機(スクリュー直径:20mm)で行う。キャタピラ式引取機を使用し、一定速度(9.1~9.4m/min)でロッドを引き取る。
【0062】
押出機とギアポンプは190℃に調整されている。
【0063】
押出機のスクリュー回転数は30~34rpm、圧力P=55bar。
【0064】
市販の対照製品Aquasis(登録商標)120およびAquasis(登録商標)180は、3Dプリンティングデバイスで直接使用できる糸のスプール状で入手可能である。
【0065】
実施例7:3Dプリンティング
部品は、「Original Prusa i3 MK3S+」3Dプリンタでプリントした。他の入手可能なプリンタを使用することもできる。本発明によるまたはAquasis(登録商標)180(対照)のフィラメント状犠牲樹脂を、プレートの温度250℃で、最初の層は122℃、次いで次の層は120℃で、速度40mm/sでプリントする。層高さは0.2mmで、インフィルは100%同心である。
【0066】
本発明によるまたはAquasis(登録商標)120(対照)のフィラメント状犠牲樹脂を、プレートの温度220℃で、最初の層は120℃、次いで次の層は105℃で、速度10mm/sでプリントする。層高さは0.2mmで、インフィルは100%同心である。
【0067】
構築される部品のポリマーの樹脂は、以下の条件でプリントする。
ABS、3DFilTech:250℃;10mm/s。
PLA、eMotion TECH:210℃;10mm/s。
PEI:ThermaX PEI-Ultem 9085:360℃;10mm/s。
PEKK、ThermaX PEKK 3DXTech:360℃;10mm/s。
【0068】
構築される部品は、4cm×1cm×0.5cmの犠牲ポリマーバー(本発明および対照)であり、その上に目標ポリマー(PLA、ABS、PEKK、PEIなど)を使用して同一寸法のバーを構築する。
【0069】
実施例8:
部品を構築し、プリントされる所定のポリマーを伴う対照犠牲樹脂または本発明の犠牲樹脂の使用に応じて可能な場合は、全体をpH7または12である60℃の水に浸漬し、次いで犠牲材料がすべて溶解するまでの時間を記録する。試験が不可と判定された場合、これは構築される部品が所望の3Dデジタルモデルに適合していないことを意味する。
【0070】
溶解試験および3Dプリンティング試験の結果を表2に示す。
表2
T1:時間(分)、60℃における全溶解、水pH7
T2:時間(分)、60℃における全溶解、水pH12
【0071】
表2から、どのポリマーをプリントする場合でも、本発明の犠牲樹脂により、プリントするポリマーをサポートすることが可能であることがわかり得る。
【0072】
実施例9:
本発明1の犠牲ポリマーの機械的性質を、共重合体(II)の添加の有無にかかわらず、引張試験で評価した。
【0073】
測定は、長さ14cm、直径1.75mmのフィラメントで行う。破断伸びは、「Zwick Roell Z005」型機器を使用し、5kNセンサー、速度:5mm/min、つかみ間距離=61mmで測定する。
【0074】
試験した共重合体(II)は、Nanostrength(登録商標)という名称で、レファレンスM52NおよびM65Nとして市販されている。これらの共重合体は、組成および分子量の点で、共重合体(II)についての記載に適合している。これらの共重合体を、5質量%および10質量%の量で添加した。
【0075】
【0076】
共重合体(II)を添加することにより、一方では破断伸びが向上すること、また他方ではこの伸びは1か月保存後も維持されることがわかる。
【0077】
共重合体(II)が存在する場合および共重合体(II)が存在しない場合における実施例9の材料の一部の溶解は、60℃、pH12で行われ、表4に示すように、共重合体(II)が存在する場合はわずかな悪影響しか受けないことを示している。
表4
【0078】
実施例1(I)および5%M52Nを用いる実施例9(I+II)の材料をDMA(動的機械分析)により調べた。曲線1は、2つの材料のレオロジー的挙動が非常に類似していることを示している。