IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日精化工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-27
(45)【発行日】2025-03-07
(54)【発明の名称】硬化性組成物、放熱材、及び物品
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/32 20060101AFI20250228BHJP
   C08G 18/64 20060101ALI20250228BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20250228BHJP
   C08G 18/73 20060101ALI20250228BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20250228BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
C08G18/32 071
C08G18/64 023
C08G18/32 025
C08G18/08 038
C08G18/73
H01L23/36 D
H01L23/36 M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024150237
(22)【出願日】2024-08-30
【審査請求日】2024-10-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠正
(72)【発明者】
【氏名】森木 翔也
(72)【発明者】
【氏名】山田 勇気
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸之
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/215326(WO,A1)
【文献】特開2020-200454(JP,A)
【文献】特開2009-084836(JP,A)
【文献】特開2005-139435(JP,A)
【文献】特許第7549750(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00- 18/87
71/00- 71/04
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
H01L 23/36
H01L 23/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放熱材を形成するために用いられる、主剤及び硬化剤の組み合わせを含む二剤硬化型の硬化性組成物であって、
前記主剤が、ポリアミン(A)、ポリオール(C)、アミノアルコール(D)、及び無機充填剤(E1)を含有し、
前記硬化剤が、ポリイソシアネート(B)及び無機充填剤(E2)を含有し、
前記ポリアミン(A)のアミン価が、300mgKOH/g以下であり、
前記ポリオール(C)が、その分子中に主鎖から分岐した側鎖を有する非晶質ポリオールであり、
前記アミノアルコール(D)が、その分子中にn個の1級アミノ基及びm個の2級アミノ基(n及びmは、それぞれ独立に0又は1を示し、n+m=0となることはない)を有する化合物であり、
前記主剤中、前記ポリアミン(A)、前記ポリオール(C)、及び前記アミノアルコール(D)の合計に占める、前記アミノアルコール(D)の含有量が、0.005~1質量%であり、
前記主剤中のアミノ基及び水酸基の合計モル数(NH+OH)に対する、前記硬化剤中のイソシアネート基のモル数(NCO)の比(NCO/(NH+OH))の値が、0.75~2.00である硬化性組成物。
【請求項2】
前記主剤中、前記ポリアミン(A)、前記ポリオール(C)、及び前記アミノアルコール(D)の合計に占める、前記ポリアミン(A)の含有量が、30~90質量%である請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記ポリイソシアネート(B)が、脂肪族ポリイソシアネートである請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記無機充填剤(E1)及び前記無機充填剤(E2)が、それぞれ独立に、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、及び金属炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記主剤中の前記無機充填剤(E1)の充填率が、70~95質量%であり、
前記硬化剤中の前記無機充填剤(E2)の充填率が、50~95質量%である請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化性組成物を硬化させた硬化物である放熱材。
【請求項7】
熱伝導率が2.0W/(m・K)以上である請求項6に記載の放熱材。
【請求項8】
前記無機充填剤(E1)と前記無機充填剤(E2)の合計充填率が、65~95質量%である請求項6に記載の放熱材。
【請求項9】
発熱体と、
前記発熱体と接触した状態で配置される、請求項6に記載の放熱材と、を備える物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、放熱材、及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路の高密度化等に伴い、電子機器内部の発熱量は大きくなる傾向にあるため、電子部品内部で発生する熱を効率よく拡散させる技術の開発が要求されている。例えば、電子機器内部に設けられた電子部品等の発熱体と、ヒートシンク等の放熱器との間に配置される、熱伝導性に優れた放熱シート等の放熱材(TIM;サーマルインターフェースマテリアル)が知られている。このような放熱材を用いることで、発熱体表面と放熱器表面の微細な隙間を埋めて接触熱抵抗を低減させ、発熱体からの熱を放熱器へと適切に移動させることができる。
【0003】
これまでに、例えば、シリコーンポリマー前駆体に熱伝導材を分散させた耐熱性弾性材料が提案されている(特許文献1)。但し、揮発成分である低分子シロキサンの発生による絶縁性能低下を回避する等の観点から、シリコーンの使用を回避したいとする強い要望がある。このため、非シリコーン系のポリマーをバインダー成分とする放熱材や、そのような放熱材を形成するための組成物が検討されている。
【0004】
例えば、ポリオール類等の重合性樹脂成分及び水酸化アルミニウムを含む重合性樹脂組成物を、イソシアネート類等の硬化剤を用いて加熱条件下で硬化させた熱伝導性のポリマー成形体が提案されている(特許文献2)。また、カルボキシ基を有するポリウレタンポリウレア樹脂及び熱伝導性フィラーを含むバインダー成分を、エポキシ化合物を用いて加熱条件下で硬化させた熱伝導性の硬化物が提案されている(特許文献3)。さらに、ポリオール等の反応性官能基を有する成分及び熱伝導性フィラーを含む組成物を加熱硬化させたシリコーンフリーのサーマルインターフェースが提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-209955号公報
【文献】特表2015-530470号公報
【文献】特開2020-200454号公報
【文献】特開2023-508288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2~4で提案された従来の組成物は、いずれも加熱条件での硬化が必須であることから、デバイスの生産ラインに熱源を確保する必要があった。このため、放熱材を所望とする箇所に配置するための工程が煩雑になるとともに、硬化に時間を要する等の課題があり、かつ、カーボンニュートラルへの取り組みにとっても好ましいとは言えない。
【0007】
また、従来の組成物は流動性が比較的高いため、SUS板をはじめとする回路基板等の対象箇所に塗工した際に速やかに広がりやすい場合があった。このため、塗工した形状が保持されずに塗工すべきでない箇所にまで広がってしまうことがあり、放熱材を所望とする箇所に配置することが困難になる場合があった。さらに、従来の組成物を用いて形成した放熱材等の硬化物は、対象箇所に対する密着性が加熱により低下しやすくなることがあり、改善が求められていた。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、無機充填剤の分散状態が良好であり、塗工しやすく、適度な可使時間が確保されており、塗工直後の形状保持性が良好であり、室温条件下で硬化させることで、シリコーンを用いなくとも発熱体や放熱器等の表面との密着性に優れているとともに、加熱しても密着性が低下しにくい放熱材を形成することが可能な硬化性組成物を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記の硬化性組成物を硬化させた硬化物である放熱材、及びこの放熱材を用いた物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示す硬化性組成物が提供される。
[1]放熱材を形成するために用いられる、主剤及び硬化剤の組み合わせを含む二剤硬化型の硬化性組成物であって、前記主剤が、ポリアミン(A)、ポリオール(C)、アミノアルコール(D)、及び無機充填剤(E1)を含有し、前記硬化剤が、ポリイソシアネート(B)及び無機充填剤(E2)を含有し、前記ポリアミン(A)のアミン価が、300mgKOH/g以下であり、前記ポリオール(C)が、その分子中に主鎖から分岐した側鎖を有する非晶質ポリオールであり、前記アミノアルコール(D)が、その分子中にn個の1級アミノ基及びm個の2級アミノ基(n及びmは、それぞれ独立に0又は1を示し、n+m=0となることはない)を有する化合物であり、前記主剤中、前記ポリアミン(A)、前記ポリオール(C)、及び前記アミノアルコール(D)の合計に占める、前記アミノアルコール(D)の含有量が、0.005~1質量%であり、前記主剤中のアミノ基及び水酸基の合計モル数(NH+OH)に対する、前記硬化剤中のイソシアネート基のモル数(NCO)の比(NCO/(NH+OH))の値が、0.75~2.00である硬化性組成物。
[2]前記主剤中、前記ポリアミン(A)、前記ポリオール(C)、及び前記アミノアルコール(D)の合計に占める、前記ポリアミン(A)の含有量が、30~90質量%である前記[1]に記載の硬化性組成物。
[3]前記ポリイソシアネート(B)が、脂肪族ポリイソシアネートである前記[1]又は[2]に記載の硬化性組成物。
[4]前記無機充填剤(E1)及び前記無機充填剤(E2)が、それぞれ独立に、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、及び金属炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]~[3]のいずれかに記載の硬化性組成物。
[5]前記主剤中の前記無機充填剤(E1)の充填率が、70~95質量%であり、前記硬化剤中の前記無機充填剤(E2)の充填率が、50~95質量%である前記[1]~[4]のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0010】
また、本発明によれば、以下に示す放熱材が提供される。
[6]前記[1]~[5]のいずれかに記載の硬化性組成物を硬化させた硬化物である放熱材。
[7]熱伝導率が2.0W/(m・K)以上である前記[6]に記載の放熱材。
[8]前記無機充填剤(E1)と前記無機充填剤(E2)の合計充填率が、65~95質量%である前記[6]又は[7]に記載の放熱材。
【0011】
さらに、本発明によれば、以下に示す物品が提供される。
[9]発熱体と、前記発熱体と接触した状態で配置される、前記[6]~[8]のいずれかに記載の放熱材と、を備える物品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、無機充填剤の分散状態が良好であり、塗工しやすく、適度な可使時間が確保されており、塗工直後の形状保持性が良好であり、室温条件下で硬化させることで、シリコーンを用いなくとも発熱体や放熱器等の表面との密着性に優れているとともに、加熱しても密着性が低下しにくい放熱材を形成することが可能な硬化性組成物を提供することができる。また、本発明によれば、上記の硬化性組成物を硬化させた硬化物である放熱材、及びこの放熱材を用いた物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<硬化性組成物>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の硬化性組成物の一実施形態は、放熱材を形成するために用いられる、主剤及び硬化剤の組み合わせを含む二剤硬化型の硬化性組成物である。主剤は、ポリアミン(A)、ポリオール(C)、アミノアルコール(D)、及び無機充填剤(E1)を含有し、硬化剤(以下、「B液」又は「第二剤」とも記す)は、ポリイソシアネート(B)及び無機充填剤(E2)を含有する。ポリアミン(A)のアミン価は、300mgKOH/g以下であり、ポリオール(C)は、その分子中に主鎖から分岐した側鎖を有する非晶質ポリオールでる。アミノアルコール(D)は、その分子中にn個の1級アミノ基及びm個の2級アミノ基(n及びmは、それぞれ独立に0又は1を示し、n+m=0となることはない)を有する化合物である。主剤中、ポリアミン(A)、ポリオール(C)、及びアミノアルコール(D)の合計に占める、アミノアルコール(D)の含有量は、0.005~1質量%である。そして、主剤中のアミノ基及び水酸基の合計モル数(NH+OH)に対する、硬化剤中のイソシアネート基のモル数(NCO)の比(NCO/(NH+OH))の値が、0.75~2.00である。以下、本実施形態の硬化性組成物の詳細について説明する。
【0014】
(主剤(A液))
本実施形態の硬化性組成物は、主剤及び硬化剤の組み合わせを含む二剤硬化型の組成物であり、二剤(二成分)を混合した後、所定の条件下で硬化させるタイプの組成物セットである。主剤(以下、「A液」又は「第一剤」とも記す)は、ポリアミン(A)、ポリオール(C)、アミノアルコール(D)、及び無機充填剤(E1)を含有し、好ましくは、ポリアミン(A)、ポリオール(C)、アミノアルコール(D)、及び無機充填剤(E1)のみで実質的に構成される組成物である。主剤は、液媒体を実質的に含有しない無溶剤の組成物であることが好ましい。
【0015】
ポリアミン(A)は、その分子中に二以上のアミノ基を有する、硬化剤中のポリイソシアネート(B)と反応してウレア結合を形成する成分である。ポリアミン(A)及びアミノアルコール(D)中のアミノ基は、ポリオール(C)中の水酸基に比して、ポリイソシアネート(B)中のイソシアネート基との反応速度が速い。このため、ポリアミン(A)及びアミノアルコール(D)を用いることで、速やかにウレア結合を形成し、塗工直後の形状保持性や密着性を発現させることができるとともに、加熱による密着性の低下が抑制された放熱材を形成することができる。
【0016】
また、ポリアミン(A)は、無機充填剤(E1)を主剤中に良好な状態で均一に分散させるための分散剤としても機能する成分である。このため、ポリアミン(A)を用いることで、無機充填剤(E1)の充填率(含有量)を高めることが可能であり、熱伝導性に優れているとともに、熱伝導性や密着性等の物性にムラが生じにくい硬化物である放熱材を形成することができる。
【0017】
無機充填剤を分散させる分散剤(ポリアミン(A)を除く)を含有する主剤を用いると、形成される放熱材から分散剤がブリードアウトすることがあり、放熱材の密着性が低下しやすくなる場合がある。これに対して、分散剤としても機能しうるポリアミン(A)は、ポリイソシアネート(B)と反応することでポリマー(ポリウレタンポリウレア樹脂)の分子中に組み込まれるので、形成される放熱材からブリードアウトすることがない。このため、無機充填剤(E1)を分散させる分散剤(ポリアミン(A)を除く)を実質的に含有しない主剤とすることで、形成される放熱材から分散剤がブリードアウトすることがなく、経時的な密着性の低下が抑制された放熱材を形成することが期待される。
【0018】
ポリアミン(A)のアミン価は、300mgKOH/g以下であり、好ましくは20~250mgKOH/g、さらに好ましくは70~200mgKOH/gである。そのアミン価が300mgKOH/g超のポリアミン(A)は分子が小さいため、反応速度が上昇する傾向にある。このため、硬化時に発熱しやすく、可使時間が短くなる。
【0019】
主剤には、二以上のポリアミン(A)を含有させることができる。主剤が二以上のポリアミン(A)を含有する場合における「ポリアミン(A)のアミン価」は、二以上のポリアミンのアミン価のうちの最大値(最大アミン価)である。
【0020】
ポリオール(C)は、その分子中に二以上の水酸基を有する、硬化剤中のポリイソシアネート(B)と反応してウレタン結合を形成する成分である。ポリオール(C)及びアミノアルコール(D)中の水酸基は、ポリアミン(A)中のアミノ基に比して、ポリイソシアネート(B)中のイソシアネート基との反応速度が遅い。このため、ポリアミン(A)、ポリオール(C)、及びアミノアルコール(D)を併用することで、ウレア結合が速やかに形成されて初期物性が発現した後、残余のポリイソシアネート(B)と、ポリオール(C)及びアミノアルコール(D)とが穏やかに反応してウレタン結合が形成されるので、適度な流動性及び十分な可使時間を確保しながら、密着性に優れているとともに、加熱による密着性の低下が抑制された放熱材を形成することができる。
【0021】
ポリオール(C)は、その分子中に主鎖から分岐した側鎖を有する非晶質ポリオールである。側鎖を有する非晶質ポリオールを用いると、側鎖が無機充填剤と相互作用して無機充填剤の分散性が向上する。これにより、比較的低粘度で塗料としてより使用しやすい硬化性組成物とすることができる。これに対して、側鎖を有しない結晶質ポリオールはもとより、側鎖を有しない非晶質のポリオールや、側鎖を有するが結晶質のポリオールを用いると、主剤(A液)の流動性が低下するとともに、十分な可使時間を確保することが困難になる。
【0022】
その分子中に主鎖から分岐した側鎖を有する非晶質ポリオールとしては、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2-メチルプロパンジオール、3-メチルペンタンジオール、1,2-ブタンジオール、及び1,2-ヘキサンジオール等の短鎖ジオール;ネオペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール等の分岐アルキル鎖を有するジオールに由来する構成単位を含むポリエステル系ジオール;ポリカーボネート系ジオール;ポリプロピレングリコール等のポリエーテル系ジオール;ポリブタジエンポリオール等を挙げることができる。特に、ひまし油ポリオールは、比較的低粘度であるとともに、分子中に長鎖の側鎖を有しているので好ましい。
【0023】
ポリオール(C)の水酸基価は特に限定されず、通常、50~1,500mgKOH/gであり、反応速度と可使時間を調整する観点からは、好ましくは80~1,250mgKOH/g、さらに好ましくは100~600mgKOH/gである。ポリオール(C)の水酸基価が低すぎると、室温条件下での反応速度が遅くなる傾向にあり、常態密着性が担保されにくくなることがある。一方、ポリオール(C)の水酸基価が高すぎると、室温条件下での反応速度が速くなりすぎる傾向にあり、可使時間が短くなることがある。
【0024】
アミノアルコール(D)は、その分子中にn個の1級アミノ基(-NH)及びm個の2級アミノ基(-NH-)(n及びmは、それぞれ独立に0又は1を示し、n+m=0となることはない)を有する化合物であり、ポリアミン(A)と同様、硬化剤中のポリイソシアネート(B)と反応してウレア結合を形成する成分である。このようなアミノアルコール(D)をポリアミン(A)と併用することで、前述の通り、速やかにウレア結合を形成し、塗工直後の形状保持性や密着性を発現させることができるとともに、加熱による密着性の低下が抑制された放熱材を形成することができる。一方、その分子中に2個以上の1級アミノ基(-NH)を有するアミノアルコールや、その分子中に3級アミノ基のみを有する(n+m=0となる)アミノアルコールを用いると、所望とする特性(密着性、形状保持性、適度な可使時間)を得ることが困難になる。
【0025】
アミノアルコール(D)は、その分子中に1個の2級アミノ基、及び1又は2個の水酸基を有する化合物(但し、1級アミノ基の数(n)は0個)であることが好ましい。このようなアミノアルコール(D)を用いることで、より十分な可使時間を確保することができる。なお、より迅速に硬化させたい場合には、アミノアルコール(D)は、その分子中に1個の1級アミノ基を有する化合物(但し、2級アミノ基の数(m)は0又は1個)であることが好ましい。
【0026】
アミノアルコール(D)としては、N-メチルエタノールアミン、2-エチルアミノエタノール、モノ-n-ブチルエタノールアミン、3-メチルアミノ-1,2-プロパンジオール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、及び、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン等を挙げることができる。
【0027】
主剤中、ポリアミン(A)、ポリオール(C)、及びアミノアルコール(D)の合計に占める、アミノアルコール(D)の含有量は、0.005~1質量%であり、好ましくは0.01~0.5質量%、さらに好ましくは0.01~0.3質量%である。ポリアミン(A)、ポリオール(C)、及びアミノアルコール(D)の合計に占める、アミノアルコール(D)の含有量が0.005質量%未満であると、塗工直後の形状保持性に劣る、又は加熱した際に密着性が低下することがある。一方、ポリアミン(A)、ポリオール(C)、及びアミノアルコール(D)の合計に占める、アミノアルコール(D)の含有量が1質量%超であると、硬化速度が速くなり過ぎてしまい、可使時間が不十分になる。
【0028】
主剤中、ポリアミン(A)、ポリオール(C)、及びアミノアルコール(D)の合計に占める、ポリアミン(A)の含有量は、30~90質量%であることが好ましく、35~85質量%であることがさらに好ましく、40~60質量%であることが特に好ましい。ポリアミン(A)、ポリオール(C)、及びアミノアルコール(D)の合計に占める、ポリアミン(A)の含有量が30質量%未満であると、室温(25℃)条件下でやや硬化しにくくなる、又は硬化時間がやや長くなることがある。一方、ポリアミン(A)、ポリオール(C)、及びアミノアルコール(D)の合計に占める、ポリアミン(A)の含有量が90質量%超であると、硬化速度がやや速くなることがあり、可使時間がやや短くなる場合がある。
【0029】
主剤中の無機充填剤(E1)及び硬化剤中の無機充填剤(E2)は、いずれも、熱伝導性を有する無機成分である。すなわち、本実施形態の硬化組成物を構成する主剤及び硬化剤は、いずれも無機充填剤を含有する。主剤及び硬化剤のいずれにも無機充填剤を含有させることで、主剤と硬化剤を均一に混合することができ、無機充填剤が均一に分散した硬化物である放熱材を形成することができる。
【0030】
主剤中の無機充填剤(E1)と、硬化剤中の無機充填剤(E2)は、同一の種類であってもよく、異なる種類であってもよい。主剤は、分散剤としても機能しうるポリアミン(A)を含有する。このため、主剤には無機充填剤(E1)を比較的多く充填させる(含有させる)ことができる。具体的には、主剤中の無機充填剤(E1)の充填率は、好ましくは70~95質量%であり、さらに好ましくは80~95質量%である。なお、硬化剤中の無機充填剤(E2)の充填率は、好ましくは50~95質量%であり、さらに好ましくは85~90質量%である。
【0031】
無機充填剤(E1)及び無機充填剤(E2)は、それぞれ独立に、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、及び金属炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、及びこれらを含む合金等を挙げることができる。金属酸化物としては、アルミナ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ベリリア、酸化チタン、及びシリカ等を挙げることができる。金属窒化物としては、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化炭素、及び窒化ケイ素等を挙げることができる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化カルシウム等を挙げることができる。金属炭酸塩としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及びハイドロタルサイト等を挙げることができる。無機充填剤は、一種単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
無機充填剤(E1)及び無機充填剤(E2)の粒子形状としては、例えば、球状、針状、フレーク状、樹枝状、繊維状、及び不定形等を挙げることができる。また、無機充填剤(E1)及び無機充填剤(E2)の平均粒子径は特に限定されず、例えば、0.1~100μmの範囲内であればよい。本明細書における「平均粒子径」は、レーザー回折散乱法により測定される、体積基準の累積50%粒子径(メジアン径;D50)である。
【0033】
(硬化剤(B液))
硬化剤(以下、「B液」又は「第二剤」とも記す)は、ポリイソシアネート(B)及び無機充填剤(E2)を含有し、好ましくは、ポリイソシアネート(B)及び無機充填剤(E2)のみで実質的に構成される組成物である。このため、この硬化剤は、主剤中の水酸基やアミノ基と速やかに反応する。硬化剤は、液媒体を実質的に含有しない無溶剤の組成物であることが好ましい。
【0034】
ポリイソシアネート(B)は、その分子中に二以上のイソシアネート基を有する化合物である。ポリイソシアネート(B)としては、脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、及び脂環族ポリイソシアネート等を挙げることができる。なお、脂肪族ポリイソシアネートには、脂肪族ポリイソシアネート変性体が包含される。
【0035】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、及び1,10-デカメチレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0036】
芳香族ポリイソシアネートとしては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,2’-MDI、2,4’-MDI、ポリメリックMDI、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-TDI、m-キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,4-フェニレンジイソシアネート、4-メトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-イソプロピル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-ブトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、2,4-ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,5-ナフタレンジイソシアネート、及びベンジジンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0037】
脂肪族ポリイソシアネート変性体としては、脂肪族ポリイソシアネートのイソシアヌレート体、アロファネート体、ビウレット体、及びポリオール(トリメチロールプロパン等)とのアダクト体等を挙げることができる。
【0038】
ポリイソシアネート(B)は、脂肪族ポリイソシアネートであることが好ましい。脂肪族ポリイソシアネートは、芳香族ポリイソシアネートに比してポリオール(C)との反応速度が緩やかである。このため、脂肪族ポリイソシアネートを用いることで、硬化性組成物の可使時間をより十分に確保することができる。なお、可使時間を調整すべく、脂肪族ポリイソシアネートと芳香族ポリイソシアネートを併用することも好ましい。
【0039】
また、ポリイソシアネート(B)は、脂肪族ポリイソシアネート変性体であることがさらに好ましく、脂肪族ポリイソシアネート変性体のなかでもヌレート体であることが特に好ましい。脂肪族ポリイソシアネート変性体を用いると、3次元化した硬化物である放熱材を形成することができる。すなわち、室温条件下で硬化させた場合であっても、常温密着性がより向上した硬化物である放熱材を形成することができる。
【0040】
なお、硬化剤は、ある程度反応性の高いポリイソシアネート(B)を含有する。このため、ポリイソシアネート(B)との反応性の低い無機充填剤(E2)を用いることが好ましい。例えば、硬化剤中の無機充填剤(E2)として金属酸化物や金属窒化物等を用いるとともに、主剤中の無機充填剤(E1)として金属水酸化物や金属炭酸塩等を用いることができる。
【0041】
主剤中のアミノ基及び水酸基の合計モル数(NH+OH)に対する、硬化剤中のイソシアネート基のモル数(NCO)の比(NCO/(NH+OH))の値は、0.75~2.00であり、好ましくは1.00~1.95、さらに好ましくは1.75~1.90である。「NCO/(NH+OH)」の値を上記の範囲内とすることで、適度な可使時間を確保しつつ、密着性に優れているとともに、加熱によっても密着性が低下しにくい放熱材を形成しうる常温硬化型の硬化性組成物とすることができる。なお、アミノアルコール(D)の含有量は極めて少ないため、「主剤中のアミノ基及び水酸基の合計モル数(NH+OH)」には、アミノアルコール(D)のアミノ基と水酸基を含めない。
【0042】
(その他の成分)
本実施形態の硬化性組成物には、必要に応じて各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、基材密着性を高めるためのカップリング剤、吸湿時の絶縁信頼性を高めるためのイオン捕捉剤、各種分散剤、及びレベリング剤等を挙げることができる。なお、本実施形態の硬化性組成物は、シリコーンを実質的に含有しない、いわゆるシリコーンフリーの組成物であることが好ましい。本実施形態の硬化性組成物は、シリコーンを用いなくても、発熱体や放熱器等の表面との密着性に優れた放熱材を形成することができる。
【0043】
(硬化性組成物の製造方法)
上述の各成分を常法にしたがって混合することで、主剤及び硬化剤をそれぞれ得ることができる。そして、得られた主剤と硬化剤を適宜組み合わせることで、目的とする二剤硬化型の硬化性組成物を得ることができる。
【0044】
主剤及び硬化剤の20℃における粘度は、それぞれ、100~1,000Pa・sであることが好ましい。粘度が100Pa・s未満であると、無機充填剤が沈降しやすくなることがあり、貯蔵安定性がやや低下する場合がある。一方、粘度が1,000Pa・s超であると、塗工時の吐出圧が過度に高くなることがあり、実使用の面で不具合が生じやすくなる場合がある。貯蔵安定性や塗工の使用適性等を考慮すると、主剤及び硬化剤の20℃における粘度は、それぞれ、200~750Pa・sであることがさらに好ましい。また、主剤の20℃における粘度が300~750Pa・sであるとともに、硬化剤の20℃における粘度が200~550Pa・sであると、これら二剤の粘度差が比較的小さく、混ざりやすくなるので、使用適性の面で特に好ましい。
【0045】
<放熱材>
本発明の放熱材の一実施形態は、前述の硬化性組成物を硬化させた硬化物である。硬化性組成物を構成する主剤と硬化剤を混合した後、常法にしたがって発熱電子部品等の発熱体やヒートシンク等の放熱器の表面に塗工する。その後、加熱することを要さず、室温(約25℃)条件下で所定時間保持して硬化させて、目的とする放熱材を所望とする箇所に形成することができる。硬化に要する時間は、主剤中のポリアミン(A)、ポリオール(C)、及びアミノアルコール(D)の合計に占める、アミノアルコール(D)の含有量や、主剤中のアミノ基及び水酸基の合計モル数(NH+OH)に対する、硬化剤中のイソシアネート基のモル数(NCO)の比(NCO/(NH+OH))の値を適宜調整することで設定することができる。具体的には、約6~48時間程度の保持時間で硬化させることができる。
【0046】
硬化性組成物は常温で硬化可能な組成物であるため、熱に弱い部材(CPU等)の表面に形成する場合であっても、このような部材にダメージを実質的に与えることなく硬化させて、目的とする放熱材を形成することができる。そして、このようにして形成される放熱材の熱伝導率は、通常、2.0W/(m・K)以上であり、好ましくは2.5W/(m・K)以上であり、さらに好ましくは2.5~4.0W/(m・K)である。また、このようにして形成される放熱材中の無機充填剤(E1)と無機充填剤(E2)の合計充填率は、好ましくは65~95質量%である。このため、本実施形態の放熱材は、例えば、電子機器内部に設けられた発熱電子部品等の発熱体と、ヒートシンク等の放熱器との間に配置される放熱シート等の放熱材(TIM)として有用である。
【0047】
二剤硬化型の硬化性組成物を所望とする箇所に塗工するには、例えば、流路内で二剤(二液)を混合するとともに、二剤の液状混合物である硬化性組成物を先端から吐出可能なノズルを備える二液混合用のスタティックミキサー(ディスペンサー)を使用し、二液(主剤及び硬化剤)を混合しながらノズルの先端から硬化性組成物を押し出すことが好ましい。上述の硬化性組成物は可使時間が十分に確保されており、主剤と硬化剤を混合しても室温条件下では直ちに硬化することがなく、所望とする箇所に容易に塗工することができる。また、上述の硬化性組成物は塗工直後の形状保持性が良好であるため、所望とする箇所に正確に塗工することができる。さらに、硬化性組成物は、可使時間を確保しつつ細いノズルの先端から押し出すことが可能であるため、部材どうしの間の狭小な隙間(ギャップ)に対しても注入することが可能であり、汎用性に優れている。また、本実施形態の放熱材は、各種の基材表面等との密着性に優れているとともに、加熱しても基材表面等から容易に剥離せず、耐熱密着性にも優れている。
【0048】
<物品>
本発明の物品の一実施形態は、発熱体と、発熱体と接触した状態で配置される上述の放熱材と、を備えるものである。発熱体としては、各種の回路基板の他、半導体装置等の電子部品等を挙げることができる。半導体装置としては、パワー半導体装置、LED、及びインバーター装置等のパワーモジュール等を挙げることができる。半導体装置には、例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、ダイオード、及びICチップ等の半導体素子;抵抗及びコンデンサ等の各種発熱素子;が搭載されている。
【0049】
放熱材は、シリコーンフリーとした場合であっても発熱体や放熱器等の表面との密着性に優れているとともに、熱伝導率が高いものである。また、放熱材は室温条件下で形成されうるため、熱に弱い電子部品等の発熱体に対しても好適に設けられる。放熱材は、耐熱密着性に優れているため、発熱体と接触した状態で配置されていても、発熱体の熱によっても容易に剥離することはない。
【実施例
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0051】
<材料の用意>
表1~3に示す各種の材料を用意した。なお、表2中、「OH1」、「OH2」、及び「OH3」は、いずれも、その分子中に主鎖から分岐した側鎖を有する(分岐構造を有する)非晶質ポリオールである。なお、「OH1」と「OH2」はひまし油ポリオールであり、「OH3」は3-メチル-1,5-ペンタンジオールに由来する構成単位を含むポリエステル系ジオールであり、「OH4」は1,4-ブタンジオールとアジピン酸からなるポリエステルポリオールである。また、「NCO1」及び「NCO2」は、いずれも脂肪族ポリイソシアネート(脂肪族ポリイソシアネート変性体(ヌレート体))であり、「NCO3」はポリメリックMDIである。
【0052】
表2中、「ADD1」~「ADD9」は、いずれも顔料分散剤として市販されているものである。さらに、表3中、「filler9~14」の粒子形状は、いずれも球状であり、「filler7」は不定形状、「filler8」は鱗片状である。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
<A液(主剤)の調製>
(A液 A-1)
撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた混合容器を用意した。この混合容器の内部を窒素ガスで置換しながら、OH1 50部、NH1 49.99部、及びON1 0.01部を入れた。加熱減圧して脱水処理した後、窒素気流下、均一になるように100℃で1時間撹拌して、主剤用樹脂成分を得た。得られた主剤用樹脂成分100部、filer2 600部、filer3 300部、及びfiler4 100部を混合し、撹拌ミキサー(商品名「あわとり練太郎」、シンキー社製)を使用して5分間撹拌して、主剤であるA液 A-1を得た。
【0057】
(A液 A-2~A-45)
表4-1~4-4の上段に示す種類及び量(単位:部)の各成分を用いたこと以外は、前述のA液 A-1の場合と同様にして、主剤であるA液 A-2~A-45を得た。表4-1~4-4中の「充填率(質量%)」及び「充填率(体積%)」は、主剤(A液)に占める無機充填剤(filler)の割合である。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
<B液(硬化剤)の調製>
(B液 B-1)
NCO1 50部、NCO2 50部、filer2 550部、filer3 200部、及びfiler4 150部を混合し、撹拌ミキサー(商品名「あわとり練太郎」、シンキー社製)を使用して5分間撹拌して、硬化剤であるB液 B-1を得た。
【0063】
(B液 B-2~B-45)
表5-1~5-4の上段に示す種類及び量(単位:部)の各成分を用いたこと以外は、前述のB液 B-1の場合と同様にして、硬化剤であるB液 B-2~B-45を得た。表5-1~5-4中の「充填率(質量%)」及び「充填率(体積%)」は、硬化剤(B液)に占める無機充填剤(filler)の割合である。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
<塗料(硬化性組成物)の用意>
【0069】
表6-1~6-4に示す種類のA液とB液を1:1の質量比で組み合わせた塗料(二剤硬化型の硬化性組成物)を用意した。表6-1~6-4中の「充填率(質量%)」及び「充填率(体積%)」は、硬化性組成物全体(A液とB液の合計)に占める、無機充填剤(filler)の割合である。
【0070】
また、吐出用のトリガーを有するディスペンサーガン、二液混合仕様のディスペンサー、及び筒状のスタティックミキサーを用意した。ディスペンサーの内部には、流動方向に沿って二液(二剤)を隔てる隔壁が設けられている。ディスペンサーの流動方向の基部にはディスペンサーガンが接続され、流動方向の先端部にはスタティックミキサーの基部が接続される。ディスペンサーガンのトリガーを引くと、ディスペンサー内部に収容された二液がディスペンサーの先端部からそれぞれ押し出されてスタティックミキサー内へと流入する。スタティックミキサー内に流入した二液は流動しながら均一に混合され、スタティックミキサーの先端部から吐出される。
【0071】
<塗料(硬化性組成物)の評価>
(流動性)
撹拌ミキサーから取り出した各塗料(A液及びB液)を別々の容器に入れた。A液については、流動性に影響しない青色の色材(商品名「シアニンブルーZC-7925_T_10_2」、大日精化工業社製)を全体量の1質量%添加して着色した。容器を傾ける又はスパチュラで容器からかきだして、用意したディスペンサー内にA液及びB液をそれぞれ流し込んだ後、ディスペンサーの基部と先端部に、ディスペンサーガンとスタティックミキサーをそれぞれ接続した。ディスペンサーガンのトリガーを引いてスタティックミキサーの先端から塗料(硬化性組成物)を吐出し、以下に示す評価基準にしたがって塗料(A液及びB液)の流動性を評価した。なお、A液は青色に着色しているため、A液のみが流動しない場合には白色の塗料が吐出され、B液のみが流動しない場合には青色の塗料が吐出され、A液及びB液の両方が流動する場合には水色の塗料が吐出される。すなわち、吐出される塗料の色を確認することで、A液及びB液それぞれの流動性を評価することができる。結果を表6-1~6-4に示す。
◎:ディスペンサー内に流し込む際、容器を180°傾けることで容易に流動した。
○:トリガーを軽く引くだけで容易に吐出することができた。
△:トリガーを引くのが重かったが、吐出することはできた。
×:吐出不可能であった。
【0072】
(可使時間)
各塗料(A液とB液の組み合わせ)をディスペンサーに各々入れた。ディスペンサーガンのトリガーを引いてスタティックミキサーの先端から塗料を吐出した後、所定の時間放置し、スタティックミキサーの先端で硬化して再度吐出できなくなるまでの放置時間を可使時間とした。そして、以下に示す評価基準にしたがって可使時間を評価した。このディスペンサーでは、1時間以内の内容物の交換を想定しており、使用量が多ければ内容物を30分間で使い切ることが可能である。結果を表6-1~6-4に示す。
◎:3時間以上使用可能であった。
○:1時間以上3時間未満使用可能であった。
△:30分間以上1時間未満使用可能であった。
×:30分間未満で使用不可となった。
【0073】
(形状保持性)
各塗料(A液とB液の組み合わせ)をディスペンサーに各々入れた。ディスペンサーガンのトリガーを引いてスタティックミキサーの先端から塗料を吐出してSUS板の対象箇所に塗工し、25℃室温下で1分間放置した。放置後の塗工物を目視にて観察し、以下に示す評価基準にしたがって形状保持性を評価した。結果を表6-1~6-4に示す。
○:変化なし(対象箇所上に塗工物の形状が保持された)
×:変化あり(塗工物が対象箇所から広がってしまった)
【0074】
(常態密着)
各塗料(A液とB液の組み合わせ)をディスペンサーに各々入れた。ディスペンサーガンのトリガーを引いてスタティックミキサーの先端から塗料を吐出してSUS板に塗工し、2枚のSUS板を張り合わせた試験片を作製した。作製した試験片を室温下(25℃)で1日間放置した後、2枚のSUS板を素手で剥離し、以下に示す評価基準にしたがって常態密着を評価した。結果を表6-1~6-4に示す。
◎:剥離しなかった。
〇:界面剥離した。
△:凝集破壊した。
×:未硬化(液状又は水飴状)であった。
【0075】
(耐熱密着)
上記「常態密着」の評価の際に作製した試験片を120℃で30分間加熱処理し、以下に示す評価基準にしたがって耐熱密着を評価した。結果を表6-1~6-4に示す。
○:剥離しなかった。
×:剥離した。
【0076】
(熱伝導率)
ホットディスク法(ISO 22007-2)によって、塗料(硬化性組成物)を硬化させた硬化物の熱伝導率を測定した。具体的には、金型(10cm×10cm)に塗料を塗工した後、一定圧力でプレスした。次いで、40℃で96時間熟成させて、フィルム状の硬化物を得た。そして、熱物性測定装置(商品名「TPS2500S」、京都電子工業社製)を使用して得られた硬化物(放熱材)の熱伝導率を測定した。結果を表6-1~6-4に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の硬化性組成物は、電子部品等の発熱体と、ヒートシンク等の放熱器との間に配置される放熱シート等の放熱材を形成するための材料として有用である。
【要約】
【課題】無機充填剤の分散状態が良好であり、塗工しやすく、適度な可使時間が確保されており、塗工直後の形状保持性が良好であり、室温条件下で硬化させることで、シリコーンを用いなくとも発熱体や放熱器等の表面との密着性に優れているとともに、加熱しても密着性が低下しにくい放熱材を形成することが可能な硬化性組成物を提供する。
【解決手段】放熱材を形成するために用いられる二剤硬化型の硬化性組成物である。主剤が、ポリアミン(A)、ポリオール(C)、アミノアルコール(D)、及び無機充填剤(E1)を含有し、硬化剤が、ポリイソシアネート(B)及び無機充填剤(E2)を含有し、ポリオール(C)が、側鎖を有する非晶質ポリオールであり、アミノアルコール(D)が、その分子中にn個の1級アミノ基及びm個の2級アミノ基(n及びmは、それぞれ独立に0又は1を示し、n+m=0となることはない)を有する化合物である。
【選択図】なし