(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-27
(45)【発行日】2025-03-07
(54)【発明の名称】優れたスポット溶接性および優れた塗装付着性を有する、薄いコーティングを有する亀裂含有ホットスタンプ鋼部品
(51)【国際特許分類】
C23C 2/12 20060101AFI20250228BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20250228BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20250228BHJP
C23C 2/28 20060101ALI20250228BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
C23C2/12
C21D1/18 C
C21D9/00 A
C23C2/28
C23C2/40
(21)【出願番号】P 2024539298
(86)(22)【出願日】2024-02-09
(86)【国際出願番号】 IB2024051223
(87)【国際公開番号】W WO2024134633
(87)【国際公開日】2024-06-27
【審査請求日】2024-08-27
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2023/056829
(32)【優先日】2023-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フィリポ,クレマン
(72)【発明者】
【氏名】セラ,ドリアーヌ
(72)【発明者】
【氏名】サルモン・ルガニュール,ユベール
(72)【発明者】
【氏名】デュソーソワ,ダビド
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-508438(JP,A)
【文献】特表2018-527462(JP,A)
【文献】特表2023-500842(JP,A)
【文献】国際公開第2019/160106(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/12
C21D 1/18
C21D 9/00
C23C 2/28
C23C 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼基板と、鋼基板の少なくとも1つの面上のアルミニウム合金コーティングとを備えるホットスタンプされた被覆鋼部品であって、コーティングは、鋼基板から外向きに進行する相互拡散層と外側層とを備え、コーティングの総厚さe
coatingおよび相互拡散層の厚さe
IDLは、以下の条件、
16≦E
pc<40
において
【数1】
を満たし、
e
IDLは相互拡散層の厚さをμmで示し、e
coatingはコーティングの総厚さをμmで示し、
ホットスタンプされた被覆鋼部品は、0.6mm~3.5mmの厚さe
Pflatを有する非変形部分と、少なくとも1つの変形部分とを備え、非変形部分におけるコーティング中の亀裂の線密度dCは、以下のように定義される亀裂の最小線密度dC
min(e
Pflat)以上であり、
【数2】
式中、dCおよびdC
min(e
Pflat)は1mm当たりの亀裂の数で表され、e
pflatは非変形部分の厚さをmmで示す、
ホットスタンプされた被覆鋼部品。
【請求項2】
非変形部分におけるコーティング中の亀裂の線密度dCは4
*dC
min(e
Pflat)以下である、請求項1に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。
【請求項3】
ホットスタンプされた被覆鋼部品は、0.6mm~3.5mmの範囲にある均一な厚さe
Pを有する、請求項1または2に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。
【請求項4】
ホットスタンプされた被覆鋼部品は可変厚さを有し、ホットスタンプされた被覆鋼部品は、各々0.6mm~3.5mmの範囲にある別個の厚さe
Piを有する2つ以上の領域からなり、ホットスタンプされた被覆鋼部品は、0.6mm~3.5mmの範囲にある平均厚さe
Pを有する、請求項1または2に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。
【請求項5】
ホットスタンプされた被覆鋼部品が、各々が0.6mm~3.5mmの厚さe
pflat(i)を有する2つ以上の非変形部分を備え、各非変形部分におけるコーティング中の亀裂の線密度dC(i)は、dC
min(e
pflat(i))以上であり、
【数3】
式中、e
pflat(i)は、考慮される非変形部分の厚さをmmで示し、i=1…n,n≧2であり、dC(i)およびdC
min(e
pflat(i))は、1mm当たりの亀裂の数で表され、それぞれ、厚さe
Pflat(i)の考慮される非変形部分のコーティング中の亀裂の線密度および亀裂の最小線密度を示す、請求項1
または2に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。
【請求項6】
断面において、非変形部分のコーティング中の亀裂は、コーティングの最上面から鋼基板に向かって、鋼基板の表面に略直交する方向に、少なくとも5μmの深さにわたって延び、各々の亀裂は、鋼基板の表面に略平行な方向に2μm未満の幅を有する、請求項1
または2に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。
【請求項7】
亀裂の線密度は、鋼基板の表面に平行な方向における少なくとも5mmの観察の全長にわたって、明視野光学顕微鏡で非変形部分のいくつかの断面において観察された亀裂の総数と、観察の全長との比として決定される、請求項1
または2に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。
【請求項8】
ホットスタンプされた被覆鋼部品は、モノリシック部品、または少なくとも2つのホットスタンプされた被覆サブ部品と、ホットスタンプされた被覆サブ部品を一緒に接合する少なくとも1つのホットスタンプされた溶接部とからなるホットスタンプされた溶接部品である、請求項1または2に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。
【請求項9】
ホットスタンプされた被覆鋼部品または各ホットスタンプされた被覆サブ部品は、体積で、少なくとも60%のマルテンサイト、最大20%のベイナイト、最大5%のフェライトおよび最大15%のオーステナイトからなる構造を有する、請求項8に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。
【請求項10】
ホットスタンプされた被覆鋼部品中の、または各ホットスタンプされた被覆サブ部品中の鋼は、重量%で、
0.062%≦C≦0.4%
0.4%≦Mn≦3.9%
0.10%≦Si≦1.5%
0.005%≦Al≦1.0%
0.001%≦Cr≦2.0%
0.001%≦Ti≦0.2%
0.0005%≦B≦0.010%
Ni≦2%
Nb≦0.1%
Mo≦0.65%
W≦0.30%
N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.05%
0.0001%≦P≦0.1%
Ca≦0.005%
を含有する化学組成を有し、
組成の残部は、鉄と、加工に起因する不可避の不純物とからなる、
請求項8に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。
【請求項11】
ホットスタンプされた被覆鋼部品中の、または少なくとも1つのホットスタンプされた被覆サブ部品中の鋼は、重量%で、
0.062%≦C≦0.095%
1.4%≦Mn≦1.9%
0.2%≦Si≦0.5%
0.020%≦Al≦0.070%
0.02%≦Cr≦0.1%
1.5%≦(C+Mn+Si+Cr)≦2.7%
0.0035%≦Ti≦0.072%
0.0002%≦B≦0.004%
0.04%≦Nb≦0.06%
0.044%≦(Nb+Ti)≦0.09%
0.001%≦N≦0.009%
0.0005%≦S≦0.003%
0.0001%≦P≦0.020%
Ca≦0.005%、
を含有する化学組成を有し、
組成の残部は、鉄と、加工に起因する不可避の不純物とからなる、請求項10に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。
【請求項12】
ホットスタンプされた被覆鋼部品中の、または少なくとも1つのホットスタンプされた被覆サブ部品中の鋼は、重量%で、
0.15%≦C≦0.30%
0.5%≦Mn≦3.0%
0.10%≦Si≦0.50%
0.005%≦Al≦0.1%
0.01%≦Cr≦1.0%
0.001%≦Ti≦0.2%
0.0002%≦B≦0.010%
0.0005%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.05%
0.0001%≦P≦0.1%
Ca≦0.005%
を含有する化学組成を有し、
残部は、Feと、加工に起因する不可避の不純物とからなる、請求項10に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。
【請求項13】
ホットスタンプされた被覆鋼部品中の、または少なくとも1つのホットスタンプされた被覆サブ部品中の鋼は、重量%で、
0.3%≦C≦0.4%
0.5%≦Mn≦1.0%
0.40%≦Si≦0.80%
0.01%≦Al≦0.1%
0.1%≦Cr≦1.0%
0.008%≦Ti≦0.03%
0.0005%≦B≦0.003%
Ni≦0.5%
0.01%≦Nb≦0.1%
0.1%≦Mo≦0.5%
N≦0.005%
0.0001%≦S≦0.004%
0.0001%≦P≦0.02%
Ca≦0.0010%
を含有する化学組成を有し、
組成の残部は、鉄と、加工に起因する不可避の不純物とからなる、請求項10に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。
【請求項14】
ホットスタンプされた被覆鋼部品を製造するための方法であって、以下の連続する工程、
-0.6mm~3.5mmの平均厚さe
Bを有する鋼ブランクを提供する工程であって、鋼ブランクは、少なくとも片面にアルミニウムまたはアルミニウム合金プレコーティングを備え、プレコーティングは8.0μm~19.90μmの間に含まれる平均厚さを有する、鋼ブランクを提供する工程と、
-ブランクの鋼中に完全オーステナイト構造を得るために、鋼ブランクを炉内で850℃~970℃の範囲の加熱温度T
heatに加熱し、鋼ブランクを加熱温度T
heatで保持する工程と、
-加熱されたブランクを金型へ移送し、次いで金型を閉じる工程と、
-0.6mm~3.5mmの厚さe
Bflatを有するブランクの平坦部分が変形を受けず、ホットスタンプによってブランクの少なくとも一部分が変形し、それにより、非変形部分と少なくとも1つの変形部分とを備えるホットスタンプされたブランクを得るように、ブランクを金型内でホットスタンプする工程と、
-ホットスタンプされたブランクを400℃未満の温度に冷却し、ホットスタンプされた被覆鋼部品を得る工程と、
を含み、
金型が閉じているときのブランクの温度T
closeは、720℃~820℃の範囲にあり、加熱、保持、移送およびホットスタンプの際に、プレコーティングの溶融温度T
meltを超えてブランクによって費やされる時間t
Mは、最小時間t
Mminと最大時間t
Mmaxとの範囲にあり、
【数4】
および
【数5】
式中、t
Mminおよびt
Mmaxは秒で表され、T
heatは℃でのブランクの加熱温度を示し、T
meltは℃でのプレコーティングの溶融温度を示し、e
Bflatは変形を受けていないブランクの部分の厚さをmmで示す、
方法。
【請求項15】
プレコーティングは、重量で、7%~15%のケイ素、2%~4%の鉄、および場合により0.0015%~0.0030%のカルシウムを含有し、残部がアルミニウムと、不可避の不純物とである、アルミニウム合金プレコーティングである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
プレコーティングは、重量で、8%~11%のケイ素、2%~4%の鉄、および場合により0.0015%~0.0030%のカルシウムを含有し、残部がアルミニウムと、不可避の不純物とである、アルミニウム合金プレコーティングである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ブランクの金型内でのホットスタンピングにおいて、各々が0.6mm~3.5mmの厚さe
Bflat(i)を有するブランクの2つ以上の平坦部分は変形を受けず、プレコーティングの溶融温度T
meltを超えるブランクによって費やされる時間t
Mは、最も高い厚さを有する平坦部分に必要な最小時間t
Mmin(Max(e
Bflat(i))と最も低い厚さを有する平坦部分に必要な最大時間t
Mmax(Min(e
Bflat(i)))との範囲にある、請求項14
または15に記載の方法。
【請求項18】
ブランクは、金型内でのブランクのホットスタンピングにおいて最小厚さe
Bminから最大厚さe
Bmaxまでの範囲の可変厚さを有し、プレコーティングの溶融温度T
meltを超えてブランクが費やす時間t
Mは、最大厚さe
Bmaxに必要な最小時間t
Mmin(e
Bmax)と最小厚さe
Bminに必要な最大時間t
Mmax(e
Bmin)との間の範囲にある、請求項14
または15に記載の方法。
【請求項19】
鋼ブランクは、モノリシックブランク、テーラーロールドブランク、または少なくとも2つのサブブランクを一緒に溶接することによって製造されたテーラー溶接ブランクである、請求項14または15に記載の方法。
【請求項20】
ブランクまたは各サブブランクは、重量%で、
0.062%≦C≦0.4%
0.4%≦Mn≦3.9%
0.10%≦Si≦1.5%
0.005%≦Al≦1.0%
0.001%≦Cr≦2.0%
0.001%≦Ti≦0.2%
0.0005%≦B≦0.010%
Ni≦2%
Nb≦0.1%
Mo≦0.65%
W≦0.30%
N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.05%
0.0001%≦P≦0.1%
Ca≦0.005%
を含有する化学組成を有し、
組成の残部は、鉄と、加工に起因する不可避の不純物とからなる、プレコート鋼板を切断することによって製造される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ブランクまたは少なくとも1つのサブブランクの化学組成は、重量%で、
0.062%≦C≦0.095%
1.4%≦Mn≦1.9%
0.2%≦Si≦0.5%
0.020%≦Al≦0.070%
0.02%≦Cr≦0.1%
1.5%≦(C+Mn+Si+Cr)≦2.7%
0.0035%≦Ti≦0.072%
0.0002%≦B≦0.004%
0.04%≦Nb≦0.06%
0.044%≦(Nb+Ti)≦0.09%
0.001%≦N≦0.009%
0.0005%≦S≦0.003%
0.0001%≦P≦0.020%
Ca≦0.005%、
を含有し、
組成の残部は、鉄と、加工に起因する不可避の不純物とからなる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ブランクまたは少なくとも1つのサブブランクの化学組成は、重量%で、
0.15%≦C≦0.30%
0.5%≦Mn≦3.0%
0.10%≦Si≦0.50%
0.005%≦Al≦0.1%
0.01%≦Cr≦1.0%
0.001%≦Ti≦0.2%
0.0002%≦B≦0.010%
0.0005%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.05%
0.0001%≦P≦0.1%
Ca≦0.005%
を含有し、
残部は、Feと、加工に起因する不可避の不純物とである、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
ブランクまたは少なくとも1つのサブブランクの化学組成は、重量%で、
0.3%≦C≦0.4%
0.5%≦Mn≦1.0%
0.40%≦Si≦0.80%
0.01%≦Al≦0.1%
0.1%≦Cr≦1.0%
0.008%≦Ti≦0.03%
0.0005%≦B≦0.003%
Ni≦0.5%
0.01%≦Nb≦0.1%
0.1%≦Mo≦0.5%
N≦0.005%
0.0001%≦S≦0.004%
0.0001%≦P≦0.02%
Ca≦0.0010%
を含有し、
組成の残部は、鉄と、加工に起因する不可避の不純物とからなる、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
ブランクまたは各サブブランクを提供する工程は、以下の連続する工程、すなわち、
-鋼半製品を提供する工程と、
-場合により、半製品を1100℃~1300℃の温度に再加熱する工程と、
-半製品を熱間圧延して、熱間圧延鋼板を得る工程と、
-750℃以下の巻き取り温度で熱間圧延鋼板を巻き取る工程と、
-場合により、熱間圧延鋼板を酸洗する工程と、
-場合により、熱間圧延鋼板を冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得る工程と、
-熱間圧延鋼板または冷間圧延鋼板を、Ac1とAc3との間の焼鈍温度に加熱する工程と、
-670℃~680℃の温度でAlまたはAl合金浴中で鋼板を溶融めっきする工程と、
-プレコート鋼板を室温に冷却する工程と、
-プレコート鋼板を切断して、ブランクまたはサブブランクを得る工程と、
-場合により、サブブランクを一緒に溶接して、テーラー溶接ブランクを製造する工程と、
を含む、
請求項19に記載の方法。
【請求項25】
自動車車両用のシャーシまたはホワイトボディ部品またはサスペンションアームの製造のための、
請求項1に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品、または
請求項14に記載の方法によって製造されたホットスタンプされた被覆鋼部品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼基板と、鋼基板の少なくとも一方の面上のアルミニウム合金コーティングとを含む、ホットスタンプされた被覆鋼部品であって、コーティングが最適化された亀裂密度を備え、部品が優れた塗装付着性および優れたスポット溶接性を有する、ホットスタンプされた被覆鋼部品に関する。本発明はまた、ホットスタンプされた被覆鋼部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような部品は、例えば、自動車産業において、侵入防止機能またはエネルギー吸収機能のための構造要素の製造に使用することもできる。
【0003】
この種の用途では、高い機械的強度、高い耐衝撃性、良好な耐食性および寸法精度を兼ね備えた鋼部品を有することが望ましい。フロントまたはリアレール、ルーフレール、Bピラーなどの自動車部品、および下部制御アーム、エンジンクレードルなどのシャーシ部品は、より具体的にはこれらの特性を必要とする。
【0004】
これらの需要を満たすために、このような部品は、現在、一般に、ホットスタンピングプロセス(プレス硬化とも呼ばれる)によって製造されている。ホットスタンピングプロセスでは、特に仏国特許発明第2780984号明細書および仏国特許発明第2807447号明細書に開示されているように、金属または金属合金でプレコーティングされた鋼板から切断されたブランクは、炉内で、低炭素鋼のフェライトおよびセメンタイト微細構造が少なくとも部分的にオーステナイトに変態し、次いで金型内でホットスタンプされる温度に加熱される。スタンピング中、急冷を達成するために部品を金型内に保持し、所望の硬化微細構造の形成および所望の機械的特性の獲得をもたらす。プレコーティングは、アルミニウムまたはアルミニウム合金とすることができる。炉内での加熱中、プレコーティング合金は鋼基板と合金化して、脱炭およびスケールの形成に対する鋼の表面の保護を提供する化合物を形成する。
【0005】
最近、ホットスタンピング後の部品のコーティング、および使用中の部品の特性にそれがどのように影響するかに焦点が当てられた。
【0006】
国際公開第2008/053273号では、部品のコーティング中の連続層の好ましい連続および形態を達成し、改善された溶接性をもたらすために、プレコーティング厚さを全ての場所で20~33μmの間に制限し、ホットスタンピングプロセス、特に加熱速度およびオーステナイト化パラメータを制御することが提案された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】仏国特許発明第2780984号明細書
【文献】仏国特許発明第2807447号明細書
【文献】国際公開第2008/053273号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、より低いプレコーティング厚さで製造されることができる、さらに改善されたスポット溶接性および改善された塗装付着性を有する、ホットスタンプされた鋼部品を提供することが依然として望ましい。
【0009】
さらに、塗装付着性を向上させることができる場合であっても、このような向上はスポット溶接性を損なうことにより達成され、これにより優れた塗装付着性と優れたスポット溶接性とを兼ね備えた部品を提供することが依然として望ましい。
【0010】
したがって、本発明は、優れた塗装付着性および優れたスポット溶接性を同時に有する鋼基板と、鋼基板の少なくとも一方の面上のアルミニウム合金コーティングとを備えるホットスタンプされた被覆鋼部品、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
特に、少なくとも非変形部分を有し、標準SEP 1220-2(2011)に従って測定して1kAを超える溶接範囲を有するホットスタンプされた被覆鋼部品を、優れた塗装付着性と共に提供することが望ましい。塗装付着性は、規格ISO 2409:2013に従って乾燥塗装試験を行うことによって評価される。乾燥塗装試験の結果が厳密に1未満であれば、塗装付着性が優れていると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のために、本発明は、請求項1に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品に関する。
【0013】
ホットスタンプされた被覆鋼部品は、好ましくは、請求項2~13の特徴のうちの1つ以上を有する。
【0014】
本発明はまた、請求項14に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品を製造するための方法に関する。
【0015】
この方法は、好ましくは、請求項15~24の特徴のうちの1つ以上を含む。
【0016】
本発明はまた、自動車車両用のシャーシまたはホワイトボディ部品またはサスペンションアームの製造のための、本発明によるホットスタンプされた被覆鋼部品または本発明による方法によって製造されたホットスタンプされた被覆鋼部品の使用に関する。
【0017】
本発明は、以下の図を考慮して、限定することなく、詳細に説明され、実施例によって例示される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明によるホットスタンプされた被覆鋼部品の一例を概略的に示す図である。
【
図2】所与の視野で観察される、本発明による部品の非変形部分のコーティングの断面図である。
【
図3】亀裂の線密度が不十分である別の部品の非変形部分におけるコーティングの断面の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、ホットスタンプされた被覆鋼部品に関する。
【0020】
ホットスタンプされた被覆鋼部品は、ブランクをホットスタンピングすることによって製造された非平坦部品である。
【0021】
鋼板は、平坦な鋼板を指す。ここで鋼板とは、コイル状の熱間圧延鋼板または冷間圧延鋼板、またはそのようなコイルから切断されたものを指す。
【0022】
鋼板は、上側および底側または上面および底面もしくは上表面および底表面とも呼ばれる、上面および底面を有する。前記面の間の距離は、シートの厚さとして指定される。厚さは、例えばマイクロメートルを使用して測定することができ、そのスピンドルおよびアンビルは上面および底面に配置され、スピンドルとアンビルとの間の軸線はシートの表面に垂直である。同様に、厚さは成形部品上で測定することもできる。同様に、厚さはブランクおよび部品上で測定することもできる。
【0023】
鋼ブランクは、その使用に適した任意の形状に切断された鋼の平坦なシート、または異なる厚さまたは異なる組成を有することができる2つ以上の鋼板材料を必要な形状に切断することによって製造され、一緒に組み立てられ、特に一緒に溶接されたブランクを指す。
【0024】
部品または部品の一部の平均厚さとは、最初に平坦なシートから3次元部品に形成された後の部品を構成する材料の、全体の平均厚さを意味する。
【0025】
均一な厚さとは、考慮されるブランク、部品、シート、またはその領域もしくは部分の厚さが一定であり、ブランク、部品、シート、またはその領域もしくは部分の平均厚さより上または下のブランク、部品、シート、またはその領域もしくは部分の厚さの最大変動が、最大0.1mmであることを意味する。特に、均一な厚さは、製造中、特に熱間および/または冷間圧延におけるシートの製造中、ならびに部品の製造の成形作業中に、厚さの変化が自発的にもたらされなかったことを意味する。
【0026】
以下では、均一な厚さを有するブランク、部品、シート、またはその領域もしくは部分の厚さは、このブランク、部品、シート、またはその領域もしくは部分の平均厚さとして定義される。
【0027】
さらに、「厚さ」という用語は、均一な厚さのブランク、部品、シート、またはその領域もしくは部分の厚さを指すために使用されるが、「平均厚さ」は、より一般的には、厚さが均一であるか可変であるかにかかわらず、ブランク、部品、シート、またはその領域もしくは部分の平均厚さを指すために使用される。
【0028】
テーラー溶接ブランクは、その異なる領域における部品の性能を最適化するために、全体的な部品重量を低減するために、全体的な部品コストを低減するために、および材料スクラップを低減するために、例えばレーザ溶接によって、サブブランクとして知られる鋼のいくつかのシートまたは切り出されたブランクを一緒に組み立てることによって製造される。テーラー溶接ブランクを形成するサブブランクは、オーバーラップの有無にかかわらず組み立てられることができ、例えば、レーザ突合溶接されることができ(オーバーラップなし)、または互いにスポット溶接されることができる(オーバーラップあり)。
【0029】
フレキシブルブランクは、異なるサブブランク間の接続の少なくとも一部が剛性ではない領域を含むテーラー溶接ブランクの一種であり、対応する領域における成形作業中にサブブランクが異なる方向に移動することを可能にする。
【0030】
テーラー溶接ブランクとは対照的に、モノリシックブランクは、いくつかのサブブランクが一緒に組み合わされることなく、単一のサブブランクからなるブランクを指す。
【0031】
テーラーロールドブランクは、鋼板製造プロセス中の差動圧延によって得られる、可変厚さ、すなわちブランクに沿った厚さの変化を有するブランクである。
【0032】
ホットスタンピングは、鋼の微細構造が少なくとも部分的にオーステナイトに変態する温度までブランクを加熱することと、ブランクをスタンピングすることによって高温でブランクを形成することと、形成された部品を焼入れして、高い強度を有する微細構造を得ることと、を含む成形技術である。ホットスタンピングは、複雑な形状を有する非常に高強度の部品を得ることを可能にし、多くの技術的利点を提示する。
【0033】
モノリシック部品は、モノリシックブランクから製造されたホットスタンプされた部品である。
【0034】
モノリシック部品は、例えば、均一な厚さを有するモノリシックブランクから、またはモノリシックテーラーロールドブランクから製造される。
【0035】
ホットスタンプされた溶接鋼部品またはホットスタンプされたレーザ溶接鋼部品は、テーラー溶接ブランク、例えば可撓性ブランクから製造されたホットスタンプされた部品である。したがって、ホットスタンプされた溶接鋼部品は、2つ以上のホットスタンプされたサブ部品と、ホットスタンプされたサブ部品を一緒に接合する1つ以上のホットスタンプされた溶接部とを備える。
【0036】
一実施形態では、本発明のホットスタンプされた被覆鋼部品は、モノリシック部品である。
【0037】
別の実施形態では、ホットスタンプされた被覆鋼部品は、ホットスタンプされた溶接鋼部品である。
【0038】
本発明のホットスタンプされた被覆鋼部品は、好ましくは、0.6mm~3.5mmの間に含まれる平均厚さePを有する。
【0039】
0.6mm~3.5mmの範囲は、自動車産業用の構造部品または補強部品の製造に使用される通常の厚さである。この厚さ範囲は、工業用プレス硬化ツール、特にホットスタンピングプレスまたは金型にも適している。
【0040】
さらに、以下に詳述するように、所与の鋼板厚さに適用される熱プロセスは、コーティング、特に本発明において所望される平坦な非変形部分のコーティングにおける亀裂の形成に影響を及ぼす。
【0041】
好ましくは、ホットスタンプされた被覆鋼部品の平均厚さePは、0.7mm~3.0mmの範囲内である。
【0042】
一実施形態では、ホットスタンプされた被覆鋼部品は、0.6mm~3.5mm、好ましくは0.7~3.0mmの均一な厚さePを有する。
【0043】
別の実施形態において、ホットスタンプされた被覆鋼部品は、可変厚さを有する(したがって、不均一である)。その場合、ホットスタンプされた被覆鋼部品は、好ましくは各々0.6mm~3.5mm、好ましくは0.7mm~3.0mmである異なる均一な厚さePiを有する2つ以上の領域からなる。
【0044】
一例として、可変厚さを有するホットスタンプされた被覆鋼部品は、鋼板製造プロセス中の差動圧延によって得られる可変厚さを有するテーラーロールドブランクから製造することができる。
【0045】
別の例として、可変厚さを有するホットスタンプされた被覆鋼部品は、異なる厚さを有するブランクで作られたテーラー溶接ブランクから製造されたホットスタンプされた溶接鋼部品であり得る。
【0046】
ホットスタンプされた被覆鋼部品は、2つの主面を有する鋼基板(鋼基材とも呼ばれる)を備える。
【0047】
基板中の鋼は、ホットスタンプ用の鋼、すなわちオーステナイト化後に硬化し、焼入れにより急冷することができる鋼である。
【0048】
一実施形態では、部品はモノリシックブランクから製造され、鋼基板は単一の鋼で作られる。
【0049】
別の実施形態では、部品はホットスタンプされた溶接鋼部品であり、鋼基板は、同じ鋼または異なる鋼で作ることができ、同じまたは異なる微細構造を有し得る2つ以上の領域(またはサブ部品)からなる。
【0050】
以下では、鋼基板の鋼の微細構造および組成とは、(基板が単一の鋼で作られている場合)鋼基板の微細構造および組成、または鋼基板の1つ以上の領域またはサブ部品の微細構造または組成を意味する。
【0051】
鋼の組成は、部品の所望の機械的特性に依存する。しかし、好ましくは、鋼基板において、または鋼基板の各領域において、鋼は、重量%で、
0.062%≦C≦0.4%
0.4%≦Mn≦3.9%
0.10%≦Si≦1.5%
0.005%≦Al≦1.0%
0.001%≦Cr≦2.0%
0.001%≦Ti≦0.2%
0.0005%≦B≦0.010%
Ni≦2%
Nb≦0.1%
Mo≦0.65%
W≦0.30%
N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.05%
0.0001%≦P≦0.1%
Ca≦0.005%
を含む組成を有し、組成の残部は、鉄と、加工に起因する不可避の不純物とからなる。
【0052】
加工プロセスから生じる不純物のレベルは、使用される製造経路に依存する。例えば、低レベルの鋼スクラップ(リサイクル鋼)を有す高炉経路を使用する場合、不純物のレベルは非常に低いままである。一方、リサイクルされたスクラップ鋼の割合が非常に高い電炉を使用して鋼を精錬すると、不純物のレベルが著しく増加する。この後者の場合、例えば、Cuのレベルは0.25%まで上昇することができ、Niは0.25%まで上昇することができ、Snは0.05%まで上昇することができ、Asは0.03%まで上昇することができ、Sbは0.03%まで上昇することができ、Pbは0.03%まで上昇することができる。
【0053】
したがって、一実施形態では、鋼は、不可避の不純物として最大0.25%のCu、最大0.05%のSn、最大0.03%のAs、最大0.03%のSbおよび/または最大0.03%のPbを含有する。
【0054】
上記組成は、高い機械的特性、特に950MPa~2100MPaの範囲の引張強度TSの達成に有利である。
【0055】
引張強度は、2009年10月に発行されたISO規格NF EN ISO 6892-1に従って測定される。引張試験片は、ホットスタンプされた部品の平坦部分から切り出される。
【0056】
以下では、特に明記しない限り、要素中の含有量は重量パーセントで表される。
【0057】
炭素含有量は、ホットスタンプされた被覆鋼部品の所望の引張強度TSに依存する。
【0058】
0.062%のC含有量未満では、いかなる冷却条件下でもホットスタンプ後に少なくとも950MPaの引張強度を得ることは困難である。0.4%を超えると、組成物の他の元素と組み合わせて、ホットスタンプ後のコーティングの付着性が満足のいくものではない可能性があり、鋼の遅延亀裂に対する耐性および靱性が低下する。一実施形態では、C含有量は最大0.38%である。
【0059】
C含有量は、鋼板をホットスタンプすることによって製造された、ホットスタンプされた部品の所望の引張強度TSに依存する。一実施形態では、C含有量は0.062%~0.095%である。より高い引張強度が望まれる場合、1500MPa程度で、C含有量を0.15%~0.30%の範囲まで増加させることができる。引張強度を少なくとも1800MPaまでさらに増加させる必要がある場合、C含有量は0.4%までの含有量で添加することができる。
【0060】
脱酸の役割とは別に、マンガンは、特にその含有量が少なくとも0.4%である場合、焼入性に重要な効果を有する。3.9%を超えると、Mnによるオーステナイトの安定化が重要すぎる可能性があり、これは過度に顕著な縞状構造の形成をもたらし得る。好ましくは、Mn含有量は最大3.0%である。
【0061】
ケイ素は、溶鋼の脱酸を助け、固溶体中での析出による鋼の硬化に寄与するために、少なくとも0.10%の含有量で添加される。しかしながら、その含有量は、一般に、鋼の被覆性を損なう酸化ケイ素の過剰な形成を回避するために制限される。したがって、ケイ素含有量は、一般に1.5%以下、例えば0.80%以下である。
【0062】
アルミニウムは、脱酸剤として少なくとも0.005%の含有量で添加されてもよい。さらに、Alは、チタン含有量が不十分である場合、Nとの結合によってホウ素を保護することができる。Al含有量は、好ましくは少なくとも0.01%である。酸化問題を回避し、ホットスタンピング中のフェライトの形成を回避するために、Al含有量は一般に1.0%以下である。好ましくは、Al含有量は最大0.1%である。
【0063】
Crは、鋼の焼入れ性を高め、ホットスタンプ後の所望の引張強度の達成に寄与するために添加されてもよい。Crが添加される場合、その含有量は0.01%以上、好ましくは0.1%以上、最大2.0%である。Crの任意の添加が行われない場合、Cr含有量は不純物として0.001%程度の低い含有量で存在し得る。
【0064】
チタンが添加される場合、その含有量は、好ましくは少なくとも0.008%、最大0.2%である。Ti含有量が0.008%~0.2%の間に含まれる場合、非常に高い温度での析出はTiNの形態で起こり、次いでより低い温度では微細なTiCの形態のオーステナイト中で起こり、硬化をもたらす。さらに、ホウ素に加えてチタンを添加すると、チタンはホウ素と窒素との結合を妨げ、窒素はチタンと結合する。したがって、チタン含有量は、好ましくは3.42*Nより高く、Nは組成中の重量パーセントによるN含有量である。しかしながら、Ti含有量は、粗大なTiN析出物の析出を避けるために、好ましくは0.2%以下、好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは最大0.05%のままであるべきである。Tiの任意の添加が行われない場合、Tiは不純物として少なくとも0.001%の含有量で存在する。
【0065】
ホウ素は、鋼の焼入性を高めるために、少なくとも0.0005%、最大0.010%の含有量で添加される。好ましくは、B含有量は最大0.004%である。
【0066】
一実施形態では、部品の表面に集中することによって遅れ破壊の感受性を低減するために、Niを最大2%、一般に少なくとも0.25%、好ましくは最大0.5%の含有量で添加することができる。添加しない場合、Niは不純物として0.001%程度の低い含有量で存在し得る。使用される製造経路に応じて、不純物としてのNi含有量は、0.25%(例えば、リサイクルされたスクラップ鋼の比率が高い鋼を製造する場合)の高さ、または0.1%(例えば、より低いレベルの鋼スクラップを使用する場合)の高さとすることができる。
【0067】
析出硬化およびオーステナイト粒径などの微細構造を得るために、最大0.1%のニオブが場合により添加される。Nbは鋼の延性をさらに改善する。Nbを添加する場合、その含有量は少なくとも0.01%であることが好ましい。Nb含有量は、粗大な(Ti,Nb)(C,N)析出物の形成を避けるために、最大で0.06%であることが好ましい。
【0068】
モリブデンは、最大0.65%の含有量で添加され得る。Moが添加される場合、その含有量は、好ましくは少なくとも0.05%である。Moは、好ましくはNbおよびTiと共に添加され、高温で非常に安定している共析出物を形成する。Moはまた、固溶体状態で粒界強化剤の役割を果たす鋼の靱性を高めるために添加されてもよい。Mo含有量が0.15%~0.25%の間に含まれる場合、最適な効果が得られる。
【0069】
Wは、炭化タングステンを形成することによって鋼の焼入性および硬化性を高めるために添加されてもよい。Wを添加する場合、その含有量は0.001%以上0.30%以下である。
【0070】
硫黄、リンおよび窒素は、一般に不純物として鋼組成中に存在する。
【0071】
窒素含有量は、一般に少なくとも0.0005%である。粗大なTiN析出物の析出を防止するために、N含有量は一般に最大で0.010%、好ましくは最大で0.005%である。
【0072】
過剰量の場合、硫黄およびリンは延性を低下させる。したがって、それらの含有量はそれぞれ0.05%および0.1%に制限される。
【0073】
特に、溶鋼中のSの存在は、特性に有害なMnS析出物の形成をもたらし得る。好ましくは、S含有量は、最大で0.01%、より良好には最大で0.005%である。非常に低いS含有量、すなわち0.0001%未満を達成することは、非常に費用がかかり、利益もない。そのため、一般的にS含有量は0.0001%以上である。
【0074】
好ましくは、リン含有量は、最大で0.05%、さらに好ましくは最大で0.02%である。非常に低いP含有量、すなわち0.0001%未満を達成することは、非常に費用がかかる。そのため、一般的にP含有量は0.0001%以上である。
【0075】
鋼は、カルシウムによる硫化物の球状化(globularization)処理を受ける場合があり、MnSの球状化により、曲げ角度を改善する効果がある。したがって、鋼組成は、少なくとも0.0001%、最大0.005%のCaを含有し得る。
【0076】
鋼の組成の残部は、鉄と、加工プロセスから生じる不純物とである。上記で詳述したように、加工プロセスから生じる不純物は、0.25%以下のCu、0.05%以下のSn、0.03%以下のAs、0.03%以下のSbおよび/または0.03%以下のPbを含有し得る。
【0077】
鋼の組成は、所望の機械的特性に応じて、特に強度および延性に関して選択され得る。
【0078】
特に、950~1200MPaの範囲の引張強度が、75°より高い曲げ角度(2020年7月のVDA 238-100曲げ規格に従って測定)と共に所望される場合、部品の全体または部品の少なくとも一領域において、鋼基板の鋼または鋼基板の少なくとも一領域は、好ましくは、重量%で、
0.062%≦C≦0.095%
1.4%≦Mn≦1.9%
0.2%≦Si≦0.5%
0.020%≦Al≦0.070%
0.02%≦Cr≦0.1%
1.5%≦(C+Mn+Si+Cr)≦2.7%
0.0035%≦Ti≦0.072%
0.0002%≦B≦0.004%
0.04%≦Nb≦0.06%
0.044%≦(Nb+Ti)≦0.09%
0.001%≦N≦0.009%
0.0005%≦S≦0.003%
0.0001%≦P≦0.020%
Ca≦0.005%、
を含む、第1の好ましい組成による組成を含有し、組成の残部は、鉄と、加工に起因する不可避の不純物と、からなる。
【0079】
一方、少なくとも1400MPaの引張強度が必要とされる場合、鋼基板の鋼または鋼基板の少なくとも一領域は、好ましくは、重量%で、
0.15%≦C≦0.30%
0.5%≦Mn≦3.0%
0.10%≦Si≦0.50%
0.005%≦Al≦0.1%
0.01%≦Cr≦1.0%
0.001%≦Ti≦0.2%
0.0002%≦B≦0.010%
0.0005%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.05%
0.0001%≦P≦0.1%
Ca≦0.005%
を含む、第2の好ましい組成による組成を含有し、組成の残部は、Feと、加工に起因する不可避の不純物とからなる。
【0080】
1800MPa以上のさらに高い引張強度が必要とされる場合、組成は、好ましくは、重量%で、
0.3%≦C≦0.4%
0.5%≦Mn≦1.0%
0.40%≦Si≦0.80%
0.01%≦Al≦0.1%
0.1%≦Cr≦1.0%
0.008%≦Ti≦0.03%
0.0005%≦B≦0.003%
Ni≦0.5%
0.01%≦Nb≦0.1%
0.1%≦Mo≦0.5%
N≦0.005%
0.0001%≦S≦0.004%
0.0001%≦P≦0.02%
Ca≦0.0010%
を含む、第3の好ましい組成に従い、組成の残部は、鉄と、加工に起因する不可避の不純物とからなる。
【0081】
ホットスタンプされた被覆鋼部品の鋼基板は、一般に、体積分率で、少なくとも60%のマルテンサイト、最大20%のベイナイト、最大5%のフェライト、最大15%のオーステナイトからなる微細構造を有する。
【0082】
マルテンサイト分率は100%と高くすることができ、ベイナイト、フェライトおよびオーステナイト分率は各々0%と低くすることができる。
【0083】
この微細構造の説明は、鋼基板の大部分に適用され、これは、この微細構造が鋼基板の体積の少なくとも95%、好ましくは鋼基板の全体積に存在することを意味する。
【0084】
微細構造は、以下の方法によって決定される。試験片をホットスタンプされた被覆鋼部品から切断し、以下に詳述するように研磨し、Nital 2%(10秒)でエッチングして、微細構造を明らかにする。その後、断面は、倍率500倍の光学顕微鏡で検査され、またマルテンサイトとベイナイトを区別する必要がある場合は走査型電子顕微鏡(SEM)(後方散乱電子モード、倍率500倍、EHT(電子高圧電圧)=15.00 kV、スケール10マイクロメートル)を用いて検査される。各成分(マルテンサイト、ベイナイト、フェライト、オーステナイト)の体積分率の測定は、それ自体公知の方法による画像解析によって行われる。
【0085】
一実施形態では、オーステナイト分率は最大で5%の体積であり、および/またはベイナイト分率は最大で10%の体積である。
【0086】
一実施形態では、微細構造は、体積で、少なくとも80%のマルテンサイト、最大10%のベイナイト、最大5%のオーステナイト、および最大5%のフェライトからなる。
【0087】
好ましい実施形態では、微細構造は本質的にマルテンサイトであり、すなわち、体積で、少なくとも95%のマルテンサイトと、最大5%のベイナイトおよび/またはフェライトとからなる。
【0088】
さらに好ましくは、微細構造は完全にマルテンサイトである。
【0089】
ホットスタンプされた被覆鋼部品は、非変形部分と、少なくとも1つの変形部分とを備える。
【0090】
一実施形態では、ホットスタンプされた被覆鋼部品は、2つ以上の非変形部分を含む。
【0091】
実際、部品を製造するためのスタンピング、特にホットスタンピングの際に、ブランクの1つ以上の部分は変形されないが、他の部分は変形されて部品の最終的な非平坦幾何学形状に達する。非変形部分または各非変形部分は、ホットスタンピング中に変形されておらず、行われる場合、ブランクの以前の冷間予変形中にも変形されていない場合がある。
【0092】
変形していないとは、スタンピングプロセス中に、非変形部分が最大0.01の等価変形
【数1】
を受けたことを理解しなければならない。等価な変形は、
【数2】
として定義され、
【数3】
および、
【数4】
は主な変形である。
【0093】
例えば、所与の成形部品の主な変形
【数5】
および
【数6】
は、以下の方法で決定することができ、以下に説明する手順は、主な変形を決定する方法の一例であり、決して限定するものではなく、他の方法も存在する。
-物理的部品の数値モデルは、3Dカメラを使用して取得される。この第1の動作の出力は、物理的部品を表すCADファイルである。
-次いで、CADファイルは、平坦なブランクから始まる部品の形状をスタンプするのに必要な変形フィールドを計算する、例えばPamstamp(R)Onestepなどの逆成形ソフトウェアによって処理される。
-次いで、前記変形フィールドは、上記の市販のソフトウェア(例えば、Pamstamp(R)、Abaqus(R)またはLS-Dyna(R))のいずれかを使用して、対応する主な変形で表される。
【0094】
例えば、完全成形部品の一部のみしか利用可能でできないために上記の方法を適用できない場合、または例えば縁部などの特定の領域で非常に局所的に変形を評価するために、走査型電子顕微鏡(SEM)観察と組み合わせた電子後方散乱回折(EBSD)測定を行うことができる。これは、変形と局所的な結晶方位のずれとの間に存在する相関関係に依存する。例えば、以下の参考文献は、そのような測定の例を与える:「Kamaya M.Assessment of local deformation using EBSD:quantification of accuracy of measurement and definition of local gradient.Ultramicroscopy.2011 Jul;111(8):1189-99.doi:10.1016/j.ultramic.2011.02.004.Epub 2011 Feb 21.PMID:21763236」。
【0095】
成形部品の主な変形を決定するために適用できる別の方法論は、成形領域内の変形した材料の厚さを測定し、それを非変形領域の厚さと比較することである。
【0096】
非変形部分または各非変形部分は、部品の平坦部分である。
【0097】
非変形部分または各非変形部分は、例えば、部品のフランジまたは部品の2つの変形部分の間に位置する平坦部分である。一例として、ハット形状の部品は、平坦部分は、ハット形状スタンピングされた部品の平坦な頂部をさらに含むことができる。
【0098】
そのような部品の例は、
図1に概略的に示されている。
【0099】
図1は、複数のスポット溶接部3によって平坦部品2に溶接されたホットスタンプされた被覆鋼部品1を示す。スポット溶接部3は、この例では、ホットスタンプされた被覆鋼部品1のフランジ8に位置する。
【0100】
例示的なホットスタンプされた被覆鋼部品1は、平坦な頂部4と、平坦な頂部4の2つの対向する長手方向縁部から延びる2つの第1の湾曲部5(または半径)と、各々が第1の湾曲部6の長手方向縁部から延びる2つの側壁6と、各々が側壁6の長手方向縁部から外側に延びる2つの第2の湾曲部7と、各々が第2の湾曲部7の長手方向縁部から部品1の外側縁部まで延びる2つの平坦なフランジ8とを備えるハット形状部品(または「オメガ」形状部品である。したがって、フランジ8は、部品1の縁部を形成する。
【0101】
この例では、フランジ8および平坦な頂部4は、ホットスタンプされた被覆鋼部品1の平坦な非変形部分である。
【0102】
非変形部分は、その形状において、および/またはこれらの部分のコーティングにおける亀裂を観察することによって、変形部分と区別することができる。
【0103】
実際、以下に詳述するように、変形部分のコーティングは、非変形部分のコーティングには存在しないか、またはほとんど存在しない広い亀裂を含む。
【0104】
各非変形部分は、変形を受けていないが、変形部分と同じ熱サイクルを受けている。
【0105】
本発明のホットスタンプされた被覆鋼部品は、ホットスタンピングから生じる少なくとも1つの変形部分を含むという点だけでなく、ホットスタンプされた被覆鋼部品全体が、非変形鋼板が受ける熱サイクルとは異なる、ホットスタンピングによる熱サイクルを受けているという点で、変形を伴わずにオーステナイト化および焼入れによって製造された平坦なブランクとは異なる。
【0106】
特に、各非変形部分は、変形を受けていないが、加熱中、金型への移送および金型内での保持中に、ホットスタンピングにおける変形部分と同じ熱サイクルを経験している。
【0107】
したがって、ホットスタンプされた被覆鋼部品において、変形部分または各変形部分は、ホットスタンピング中に変形され、非変形部分または各非変形部分は、変形されていないが、ホットスタンピング中の変形部分と同じ熱サイクルを受けている。
【0108】
金型内ホットスタンピングプロセスで得られた本発明のホットスタンプされた被覆鋼部品はまた、実験炉または任意の非表面接触技術、例えばグリーブルマシン(Gleeble machine)での加熱によって製造された試料であって、この炉内で一軸変形された試料とは異なる。実際、そのような試料は、非変形部分を有さず、一軸変形(引張変形)を受けているが、ホットスタンピングでは、変形は、部品を通して均一ではなく、三次元である。さらに、ホットスタンプされた被覆鋼部品が受ける熱サイクルは、金型内での移送もスタンピングも伴わない実験炉で受ける熱サイクルとは異なる。
【0109】
部品の平坦な非変形部分または各平坦な非変形部分は、0.6mm~3.5mm、好ましくは0.7mm~3.0mmの均一な厚さepflatを有する部分である。
【0110】
例えば、フランジが異なる厚さepflat(1)およびepflat(2)を有する2つの領域からなる場合、これらの領域の各々は別個の非変形部分である。
【0111】
ホットスタンプされた被覆鋼部品が均一な厚さを有する場合、平坦な非変形部分(または各非変形部分)の厚さは、ホットスタンプされた被覆鋼部品の厚さePに等しい。
【0112】
ホットスタンプされた被覆鋼部品が可変厚さを有し、2つ以上の非変形部分を含む場合、非変形部分の厚さはePflat(i)で示され、i=1...nはそれぞれの非変形部分に関連するインデックスであり、nは非変形部分の数であり、非変形部分の厚さは、互いに異なっていてもよく、または同じであってもよい。
【0113】
厚さepflatは、例えばマイクロメータを用いて測定されることができる。
【0114】
ホットスタンプされた被覆鋼部品は、鋼基板の少なくとも表面にコーティングを備える。
【0115】
コーティングは、アルミニウム合金コーティングである。
【0116】
このコーティングは、アルミニウムおよび鉄を含有し、好ましくはさらに珪素を含有する。
【0117】
コーティングは、有利には50%を超えるアルミニウムを含有する。
【0118】
例えば、コーティングは、8~12wt%のSiおよび3~5wt%のFeを含有し、残部はAlおよび不可避の不純物である。
【0119】
コーティングは、ホットスタンピング中のアルミニウム合金プレコーティングと鋼との間の相互拡散から生じる。
【0120】
コーティングは、コーティングの最も内側に位置する、すなわち鋼基板と接触している相互拡散層を備える。
【0121】
相互拡散層は、一般に、少なくとも80%、最大95%のFe含有量、および最大2%のSiを含む4%~20%のAl含有量を有する。
【0122】
一実施形態では、相互拡散層は、86~95%のFe、4~12%のAl、および0~2%のSiからなる組成を有する。
【0123】
コーティングは、拡散層からコーティングの表面まで延在する外側層をさらに備える。
【0124】
外側層は、一般に、Fe、Al、および場合によってはSiの金属間化合物を含有するかまたはそれからなる。
【0125】
外側層は、単層から構成されてもよく、またはそれ自体が異なる金属間化合物の副層から構成されてもよい。
【0126】
例えば、外側層は1~4つの副層からなる。
【0127】
しかしながら、本発明において、本発明者らは、コーティング中の層が何であれ、特にそれらの組成および数が何であれ、亀裂の線密度が以下に定義される条件に従うならば、本発明の目的が達成されることを見出した。
【0128】
本発明によるホットスタンプされた被覆鋼部品では、コーティングの総厚さe
coatingおよび相互拡散層の厚さe
IDLは、以下の条件を満たす。
16≦E
pc<40
において、
【数7】
【0129】
Epcの値が16未満である場合、コーティングは意図された用途のために部品を十分に保護しない可能性があり、Epcの値が40以上である場合、以下に詳述するように、目標とする優れたスポット溶接性および塗装付着性が保証されない可能性がある。
【0130】
本発明によるホットスタンプされた被覆鋼部品において、コーティングは、ホットスタンプされた被覆鋼部品の少なくとも1つの非変形部分において、16≦E
pc<40であることを条件として、コーティングが、非変形部分の厚さe
pflatに依存して、亀裂の最小線密度dC
min(e
pflat)以上の亀裂の線密度dCを有するようなものであり、以下のように定義される。
【数8】
【0131】
この式において、
【数9】
は1mm当たりの亀裂の数で表される亀裂の最小線密度であり、e
pflatは非変形部分の厚さ(mm)を示す。亀裂の線密度dCは、1mm当たりの亀裂の数でもある。「e」は指数関数を示す。
【0132】
ここで、1ミリメートル当たりの亀裂の数を示す「亀裂の線密度」は、当然ながら体積密度ではなく、鋼基板の表面に平行な方向に所与の長さにわたってコーティングの断面に存在する亀裂の数を測定するという点で線密度である。
【0133】
実際に、本発明者らは、スポット溶接性および塗装付着性を高めるという問題を解決するために集中的な研究を行い、驚くべきことに、亀裂がホットスタンプされた被覆鋼部品の特性に有害であるという確立された考えに反して、亀裂の線密度が閾値を超える場合、スポット溶接性および塗装付着性が共に劇的に増加することを発見した。
【0134】
本発明者らはまた、亀裂の線密度に関して部品の関連部分が、変形部分と同じ熱サイクルを受けたにもかかわらず、ホットスタンプされた部品のフランジ上に位置したために、または部品の2つの変形部分の間の平坦区域に位置したために変形を受けなかった非変形部分(例えば、
図1に示されるようなハット形状部品の平坦な頂部)であることを発見した。
【0135】
実際、変形部分では、コーティングはスタンピング時に変形を受け、これは基板とコーティングとの間の膨張差のために、および各場所での変形の温度および適用された変形速度に応じて、コーティングに亀裂をもたらす。しかしながら、本発明者らは、一部の変形部分に多数の亀裂を有することは、少なくともホットスタンプされた被覆鋼部品の他の部分においてそのような特性を保証しないという点で、優れたスポット溶接性および優れた塗装付着性を保証するのに十分ではないことを見出した。
【0136】
好ましくは、非変形部分は、スポット溶接される可能性が最も高い領域である部品のフランジ内に位置するので、この部分で優れたスポット溶接性(ならびに優れた塗装付着性)を有することが特に望ましい。
【0137】
本発明者らはさらに、亀裂の線密度の閾値は絶対値ではなく、非変形部分の厚さに依存し、所望のスポット溶接性および塗装付着性を達成するには、非変形部分の厚さが減少するにつれて亀裂のより高い線密度が必要となることを発見した。
【0138】
これらの検討の結果、本発明者らは、部品のコーティングが16≦Epc<40であれば、非変形部分においてコーティングの亀裂の線密度がdCmin以上である場合、優れたスポット溶接性および塗装付着性が達成されることを見出した。
【0139】
好ましくは、コーティング中の亀裂の線密度は、最大で4*dCmin、好ましくは最大で3*dCminのままである。
【0140】
好ましくは、ホットスタンプされた被覆鋼部品は2つ以上の非変形部分を含み、各非変形部分における亀裂の線密度dC(i)は、この非変形部分の厚さe
pflat(i)に関連する、
【数10】
と記された亀裂の最小線密度以上である。
【0141】
したがって、各未変形部分は0.6mm~3.5mmの厚さe
pflat(i)を有し、i=1...nはそれぞれの非変形部分に関連するインデックスであり、n≧2は非変形部分の数であり、厚さe
pflat(i)の各非変形部分におけるコーティング中の亀裂の線密度dC(i)は、
【数11】
以上であり、
【数12】
の式中、dC(i)および
【数13】
は1mm当たりの亀裂の数で表され、e
pflat(i)はmmで表される、考慮される非変形部分の厚さを示す。
【0142】
この式は、非変形部分が全て同じ厚さであっても、異なる厚さであっても有効である。
【0143】
コーティングの亀裂は、コーティングの表面から鋼基板の表面(すなわち、鋼基板とコーティングとの間の界面)に略直交する方向に、少なくとも5μmの深さにわたって延びる。亀裂は、(鋼基板の表面に平行な方向に)2μm未満の幅を有する。
【0144】
したがって、亀裂は、2μmを超える幅を有するコーティング中の、可能性のある隙間、2μmを超える幅を有する場合もある変形部分の亀裂、および5μm未満の深さにわたってコーティングに影響を及ぼす空隙またはコーティング欠陥とは区別される。
【0145】
さらに、上述したように、非変形部分では、亀裂は一般に最大1μmの幅を有する。特に、コーティング中の亀裂の90%の幅よりも大きい幅を有する亀裂である最大亀裂の平均幅は、1μm未満である。言い換えれば、観察された亀裂のうち、最大幅を有する10%の亀裂の平均幅は1μm未満である。ここで、最大の亀裂の平均幅は、全ての最大亀裂の幅から計算された平均値を示す。
【0146】
対照的に、変形部分では、コーティングは、1μmより大きい幅を有するより多くの亀裂を具備し、それによって、亀裂の平均幅は一般に1μmよりも大きくなる。いずれの場合においても、変形部分または各変形部分は、亀裂の90%の幅よりも大きい幅を有する亀裂の平均幅が1μmよりも大きい。
【0147】
好ましくは、非変形部分のコーティングは、2μm以上の幅を有する隙間または亀裂を具備しない。
【0148】
亀裂の線密度は、明視野光学顕微鏡で、非変形部分の断面において、少なくとも5mmの観察の全長(鋼基板の表面に平行な方向)にわたって観察される亀裂の数と、この全長との比(すなわち、亀裂の数を全長で割ったもの)として求められる。
【0149】
特に、コーティング中の亀裂の線密度は、ホットスタンプされた被覆鋼部品の非変形部分から採取された2つの試料のコーティングの断面を、500倍の明視野顕微鏡で、複数の視野にわたって、視野の全長(鋼基板の表面に平行な方向)が少なくとも5mmになるように観察することによって決定される。次いで、亀裂の線密度は、観察された亀裂の数と視野の全長との比として決定される。
【0150】
実際、本発明者らは、目標とする優れたスポット溶接性および優れた塗装付着性を保証するためには、コーティングのごく一部にわたって少なくともdCminの線密度の亀裂を有することは十分ではないことを見出した。彼らはさらに、これらの特性を達成するためには、少なくとも5mmの長さにわたって測定された少なくともdCminの亀裂の線密度を有することが必要であることを見出した。
【0151】
最大亀裂の平均幅は、観察の長さにわたって観察された全ての亀裂の幅を測定し、これらの測定値から最大亀裂を識別し、これらの最大亀裂の幅の平均値を計算することによって決定される。
【0152】
詳細には、上述のコーティングの特徴は、以下のように決定される。
【0153】
まず、部品から試料を採取して準備する。
【0154】
その目的のために、ホットスタンプされた被覆鋼部品の非変形部分で、その長さの中央で部品を切断して、20×30mmの適切なサイズの試料を作製する。
【0155】
切断工程は、試料を損傷する可能性がある過度の応力を回避するために、硬質鉄切断ホイール(例えばStruers 60A25)または、好ましくはマイクロ切断装置を用いて慎重に行われる。
【0156】
次いで、試料を(好ましくは超音波浴で)洗浄し、エタノールおよび圧縮空気で乾燥させる。
【0157】
次いで、試料を樹脂でコールドマウントする。樹脂と試料との間の隙間が非常に小さいかまたは存在しないため、ホットマウントではなくコールドマウントが選択される。これは、隙間がエッチング問題、スクラッチ、またはコーティング損傷などのいくつかの準備問題の原因となり得るため、重要である。樹脂は、好ましくは、Epofix Hardener(R)と混合された液体EpoFix(R)樹脂である。重合は10時間続く。研磨中の表面損傷からコーティングを保護するために、2つの保護金属シート(ガードプレート)が試料の両側に設けられている。毎回、2つの試料を一緒に取り付けて、これらの2つの試料を確実に同じ研磨に供する。
【0158】
次いで、試料は慎重に研磨される。誤って行われた研磨はコーティングに欠陥をもたらすので、コーティングの特徴を評価するための重要な工程における研磨工程である。これらの欠陥は、ダイヤモンド粒子の付着、コーティング剥離などのコーティングの損傷、より重要なことにコーティングの亀裂、特に長手方向の亀裂を含む。鋼基板の表面に略平行な方向に延びる長手方向の亀裂は、準備の問題を反映する可能性があり、亀裂の数をカウントするときに信頼できる結果を保証するために、研磨中に回避されなければならない。
【0159】
研磨は、ディスク研磨、ダイヤモンド研磨および酸化物研磨の3つの主要な段階に分けられる。研磨汚染を除去するために、各研磨工程の後に試料を洗浄および乾燥しなければならず、光学顕微鏡でチェックしなければならない。
【0160】
最初に、同じ方向に回転する、試料ホルダの回転速度150RPM(回転/分)およびディスクの回転速度100RPMを使用して、試料は研磨ディスクSiC紙P320で120秒間研磨される。力が15Nで加えられ、試料は水で洗浄される。
【0161】
次に、引っかき傷や変形をもたらすことなく表面から材料を除去するために、9μmのダイヤモンド研磨が使用される。この工程は、研磨面の平坦性を確保するため重要である。回転速度は前の工程と同じであるが、試料回転はディスク回転とは逆である。この段階は、300秒に設定され、20Nの力を使用する。研磨ディスクは、より良好な材料除去を保証するために最適な量(0.5mL/30秒)で潤滑剤によって減衰される。試料は水で洗浄される。
【0162】
最後の工程は、コロイドシリカ溶液(1mL/5秒)を用いた酸化物研磨である。この工程は、同じ方向に回転する、試料ホルダの回転速度が150RPM、ディスクの回転速度が60RPMで90秒間続く。加えられる力は20Nである。試料は最初に水、続いてエタノールで洗浄される。
【0163】
次いで、試料はナイタル(2%、5~10秒間)でエッチングされ、鋼の微細構造および鋼/コーティング界面を明瞭にする。
【0164】
コーティングの総厚さecoatingおよび相互拡散層の厚さeIDLを決定するために、コーティングならびにベース鋼の少なくとも一部の断面を示すために、走査型電子顕微鏡(SEM)(後方散乱電子モード、倍率500倍、好ましくは10mmのWD(作動距離)、EHT(電子高圧電圧)=15.00kV、スケール10マイクロメートル)を用いて試料が画像化される。
【0165】
画像から、相互拡散層は、鋼基板に最も近い光の層として識別され得る。
【0166】
コーティング(相互拡散層を含む)の総厚さおよび相互拡散層の厚さは、15μm間隔で水平方向に離間した5つのスポットで測定される。
【0167】
次いで、コーティングの総厚さおよび相互拡散層の厚さは、得られた値の平均として計算される。したがって、コーティングの総厚さecoatingおよび相互拡散層の厚さeIDLは平均厚さである。
【0168】
その他、相互拡散層の組成は、以下のようにして求めることができる。
【0169】
試料を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、コーティングの断面ならびにベース鋼の少なくとも一部を表示する。
【0170】
エネルギー分散型分光法(EDS)により、5つの異なる水平場所で、相互拡散層内に垂直方向に離間した2つのスポットが考慮され、10個のスポットで組成が決定される。
【0171】
次いで、相互拡散層の組成は、得られた値の平均として計算される。
【0172】
必要に応じて、コーティング全体の組成がEDSで測定されることができる。
【0173】
非変形部分のコーティングにおける亀裂の線密度の決定は、以下のようにして行われる。
【0174】
同じ樹脂に取り付けられた2つの試料が明視野光学顕微鏡(倍率500倍)で画像化され、試料の複数の場所でコーティングの断面ならびに鋼基板の少なくとも一部が表示される。
【0175】
次に、各試料について、10個の別個の重なり合わない視野がランダムに選択され、観察される。各視野は、少なくとも250μmの長さ(鋼基板の表面に平行な方向)を有する。
【0176】
したがって、2つの試料の視野の全長(鋼基板の表面に平行な方向)である観察の全長は、5mm以上(250μm*2*10)である。
【0177】
各視野において、まず、鋼基板の表面に略平行な方向に延びる長手方向の亀裂がないことが確認される。長手方向の亀裂が存在する場合、そのような亀裂の存在は、試料の準備(切断、研磨)がこの場所で誤って実行されたことを意味するので、視野は無視され、置き換えられる。
【0178】
次いで、各視野において、コーティングの最上面から、鋼基板の表面と略直交して鋼基板の方向に延びる亀裂が識別される。
【0179】
コーティング中にある可能性がある隙間と亀裂とを区別するために、2μm未満の幅を有する亀裂のみが亀裂として識別される。2μm幅の亀裂は500倍の倍率で難なく識別されることができるが、必要に応じて、以下に詳述するように亀裂の幅を測定することができる。さらに、亀裂を空隙またはコーティング欠陥と区別するために、亀裂の長さが測定され、少なくとも5μmの深さ(鋼基板の表面に略直交する方向)を有する亀裂のみが亀裂と見なされる。
【0180】
亀裂の数は各視野でカウントされ、観察された20個の視野における亀裂の総数が計算される。
【0181】
次いで、コーティング中の亀裂の線密度は、亀裂の総数と2つの試料の視野の全長との比として決定される。
【0182】
最大亀裂の平均幅、またはより一般的には任意の亀裂の幅の決定は、以下のように行われることができる。
【0183】
亀裂の線密度を評価するために使用される断面は、3072×2048ピクセルの解像度を有するカメラを使用して、500倍の倍率の明視野顕微鏡で観察され、画像は、カメラの1ピクセルが画像上の1ピクセルとして表示されるように表示される。撮像時の倍率は3020倍である。
【0184】
全ての視野における亀裂の各々の幅が決定される。
【0185】
そのために、各亀裂について、亀裂の中心に位置する3つの場所および中心の両側の2μmの距離で幅が測定される。3つの測定の平均値が亀裂の幅として決定される。
【0186】
次いで、最大幅、すなわちコーティングの亀裂の90%の幅よりも大きい亀裂が識別される。したがって、これらの亀裂は、最大幅を有する亀裂の10%である。次いで、これらの亀裂の平均幅は、それらの個々の幅の合計をそれらの数で割ったものとして計算される。
【0187】
亀裂の数が、亀裂の数の90%が整数でないような数である場合、亀裂の数による90%の結果は、最も近い整数に丸められる(例えば、108個の亀裂の90%が97個の亀裂であり、135個の亀裂の90%が122個の亀裂と見なされる)。
【0188】
本発明によるホットスタンプされた被覆鋼部品は、少なくとも非変形部分において、標準SEP 1220-2(2011)に従って測定して、1kAを超える溶接範囲を有する。
【0189】
ホットスタンプされた被覆鋼部品は、さらに、優れた塗装付着性を有し、少なくとも非変形部分において、乾燥塗装付着に供される場合、乾燥塗装付着性は厳密に1未満である。
【0190】
次に、本発明によるホットスタンプされた被覆鋼部品の製造方法が開示される。
【0191】
この方法は、一般に0.6~3.5mm、好ましくは0.7~3.0mmの平均厚さを有する鋼ブランクを用意することを含む。この厚さは、一般に、ブランクから製造されることになっているホットスタンプされた被覆鋼部品の平均厚さePと同じである。
【0192】
ブランクは、少なくとも一方の面に、アルミニウムまたはアルミニウム合金のプレコーティングを備え、プレコーティングは8.0μm~19.90μmの範囲にある平均厚さを有する。
【0193】
好ましくは、ブランクは、その2つの主面の各々にアルミニウムまたはアルミニウム合金プレコーティングを有し、プレコーティングは8.0μm~19.90μmの範囲にある平均厚さを。
【0194】
このプレコーティングは、アルミニウムまたはアルミニウム合金(50%を超えるアルミニウムを含む)とすることができる。
【0195】
有利には、プレコーティングは、重量で7%~15%のケイ素、2%~4%の鉄、および場合により0.0015%~0.0030%のカルシウムを含有し、残部がアルミニウムと、加工に起因する不可避の不純物とである、アルミニウム-ケイ素合金である。
【0196】
好ましくは、プレコーティングは、重量で、8%~11%のSi、2%~4%のFe、場合により0.0015%~0.0030%のCaを含有し、残部はAlおよび製錬に起因する不純物である。
【0197】
プレコーティングは、一般に、AlまたはAl合金浴中での溶融めっきにより得られる。
【0198】
一実施形態では、ブランクはモノリシックブランク、すなわちプレコート鋼板を切断することによって得られる単一のサブブランクからなるブランクである。
【0199】
モノリシックブランクは、例えば、テーラーロールドブランク、すなわち鋼板製造プロセス中の差動圧延によって得られる可変厚さを有するブランクである。
【0200】
別の実施形態では、ブランクは、サブブランクとして知られている異なるプレコート鋼板から切断された複数のブランクを組み立てること、特に例えばレーザ溶接によって一緒に溶接することによって製造されたテーラー溶接ブランクである。
【0201】
一実施形態では、ブランクは、0.6mm~3.5mm、好ましくは0.7mm~3.0mmの均一な厚さを有する。
【0202】
別の実施形態では、ブランクは、テーラーロールドブランクまたはテーラー溶接ブランクであり、ブランクは可変厚さを有する。
【0203】
この場合、ブランクは、各々0.6mm~3.5mm、好ましくは0.7mm~3.0mmの異なる厚さeBiを有する2つ以上の領域からなる。所与の厚さeBiを有するブランクの各領域は、最終的なホットスタンプされた被覆鋼部品の厚さePiの領域に対応する。
【0204】
いずれの場合でも、ブランクは、ホットスタンピングプロセス後にホットスタンプされた被覆鋼部品の非変形部分になるように定められた均一な厚さeBflatを有する平坦部分を備える。厚さeBflatはまた、0.6mm~3.5mm、好ましくは0.7mm~3.0mmである。
【0205】
言い換えれば、厚さeBflatは、ホットスタンプ時に、ホットスタンプされた被覆鋼部品の対応する非変形部分に変換されたブランクの部分の厚さである。
【0206】
ブランクの部分の厚さeBflatは、部品の対応する非変形部分の厚さepflatに等しい。
【0207】
一実施形態では、ブランクは、ホットスタンピングプロセスの後に、ホットスタンプされた被覆鋼部品の2つ以上の非変形部分になるように定められた、各々が均一な厚さeBflat(i)(i=1...nであり、nはそのような部分の数である)を有する2つ以上の部分を備える。
【0208】
各厚さeBflat(i)は、0.6mm~3.5mmの間、好ましくは0.7mm~3.0mmの範囲にある。さらに、各厚さeBflat(i)は、部品の対応する非変形部分の厚さePflat(i)に等しい。
【0209】
ブランクの厚さが均一である場合、厚さeBflat、または適用可能な場合には各厚さeBflat(i)はブランクの厚さeBに等しい。
【0210】
ブランク、またはブランクがテーラー溶接ブランクである場合、各サブブランクは、好ましくは、特に第1、第2または第3の好ましい組成に従って、上に開示された組成を有する鋼で作られる。サブブランクは、同じ鋼組成であっても、異なる鋼組成であってもよい。
【0211】
ブランクまたは各サブブランクは、例えば、以下のように製造される。
【0212】
さらに熱間圧延することができるスラブ、薄いスラブまたは/およびインゴットの形態の半製品が、好ましくは上述の鋼組成で提供される。この半製品の厚さは、典型的には50~250mmの間の範囲にある。
【0213】
必要に応じて、この半製品は、一般に1100℃~1300℃の間の範囲の温度に加熱され、次いで、好ましくは880~950℃の間の範囲の仕上げ圧延温度で熱間圧延されて熱間圧延鋼板を得る。熱間圧延鋼板は、750℃以下、一般に鋼の温度Ms以上の温度Tcで巻き取られる。
【0214】
この段階で、熱間圧延鋼板の厚さは、1.5~4mmの典型的な範囲であってもよい。熱間圧延鋼板の厚さおよびシートの所望の厚さに応じて、鋼板は通常の条件で酸洗され、さらに冷間圧延されてもよく、または以下に説明するプロセスで直接焼鈍されてもよい。
【0215】
製造されるブランクがテーラーロールドブランクである場合、鋼板は、差動圧延(または連続フレキシブル圧延)によって、すなわち圧延後に得られる板厚が、圧延プロセス中にローラを介してシートに加えられた荷重に関連して、圧延方向に可変であるプロセスによって製造されることができる。
【0216】
熱間圧延または冷間圧延の後、コーティングの準備において、典型的にはAc1とAc3との間に含まれる温度、一般的には700~850℃の間の範囲の温度で鋼板が焼鈍され、冷間圧延が行われた場合には、結晶粒を再結晶する。次いで、シートは、一般に約670~680℃の温度(正確な温度は浴の組成に依存する)でAlまたはAl合金浴中で溶融めっきされる。
【0217】
好ましいプレコーティングはAl-Siであり、これは重量で7%~15%のSi、2%~4%のFe、場合により0.0015%~0.0030%のCaを含有し、残部はAlおよび製錬に起因する不純物である浴中にシートを溶融めっきすることによって得られる。
【0218】
好ましくは、浴は、重量で、8%~11%のSi、2%~4%のFe、場合により0.0015%~0.0030%のCaを含有し、残部はAlおよび製錬に起因する不純物である。
【0219】
その後、プレコート鋼板は室温まで冷却される。
【0220】
ブランク(またはサブブランク)を得るためにプレコート鋼板を切断するが、ブランクの幾何学形状は、ホットスタンプされた被覆鋼部品の最終的な幾何学形状に関連する。
【0221】
部品が製造されるブランクがテーラー溶接ブランクである場合、上記のように製造されたサブブランクは、互いに溶接される。
【0222】
一実施形態では、サブブランクは同じ組成を有する。別の実施形態では、サブブランクの組成は異なる。これは、特に、最終部品の異なる場所で異なる機械的特性が必要とされる場合に当てはまる。一例として、第1のサブブランク中の鋼の組成は、上記の3つの好ましい組成の中から選択され、第2のサブブランクの組成は、2つの他の好ましい組成の中から、または第1のサブブランクと同じ好ましい組成内であるが、異なる特定の組成を有するように選択される。
【0223】
一実施形態では、サブブランクは同じ均一な厚さを有する。別の実施形態では、サブブランクは異なる厚さを有する。
【0224】
オプションとして、金型における加熱およびホットスタンピング工程の前に、ブランクは冷間成形され、予変形されたブランクを得ることができる。この冷間予変形により、次のホットスタンピング工程における変形量を小さくすることができる。いずれにしても、ホットスタンピングプロセスの後に、ホットスタンプされた被覆鋼部品の非変形部分になるように定められたブランクの部分は、そのような冷間予変形中に変形されない。したがって、ブランクのこの部分は平坦部分のままである。他方、次いでホットスタンピングで変形を受けるブランクの部分は、冷間予変形中に部分的にのみ変形する。その結果、冷間予変形が、目標とするコーティング特性に影響を及ぼさないことが保証される。
【0225】
次に、ブランク(平坦または冷間予変形)が炉内で850~970℃の間範囲の温度Theatに加熱される。
【0226】
加熱は、ブランクの温度がプレコーティングの溶融温度Tmelt未満に維持される第1の加熱段階と、ブランクの温度がプレコーティングの溶融温度Tmelt以上であり、熱温度Theatまで上昇する第2の加熱段階とを備える。
【0227】
加熱手段は限定されず、放射、伝導、誘導、または抵抗に基づくものとすることができる。
【0228】
これらの2つの段階の各々の間にブランクによって費やされる時間は、炉を制御することによって、特に、例えば電力および温度に関して、それぞれ独立した設定を有する異なるセクションを有する炉を使用することによって調整されることができ、その結果、これらのセクションの各々において加熱速度は互いに独立して調整されることができる。例えば、第1の加熱段階において高い加熱速度が望まれる場合、炉の第1のセクションは、そのような急速な加熱を確実にするために高温および高出力に設定されることができる。次いで、最終加熱温度Theatまでの低い加熱速度が望まれる場合、プレコーティングの溶融温度Tmeltを超える時間をより長く確保するために、複数のセクションが使用されて、セクション間で炉の温度をわずかに上昇させることができる。逆に、プレコーティングの溶融温度Tmeltおよび加熱温度Theatから短い加熱時間が望まれる場合、炉のセクションに高温が設定されることができ、この温度に達する前にブランクが目標加熱温度Theatのセクションに移送されることができる。
【0229】
さらに、当業者は、例えば三成分相図を使用して、その組成を知っているプレコーティングの溶融温度を決定する方法を知っている。
【0230】
次いで、加熱されたブランクは、鋼において完全オーステナイト構造を得るために、加熱温度Theatに保持される。
【0231】
好ましくは、加熱および保持を含む炉内の総滞留時間は、1.5分~15分の範囲にある。
【0232】
次いで、加熱されたブランクは金型(またはホットスタンピングプレス)へ移送される。移送時間は、好ましくは最大15秒、さらに好ましくは最大10秒または最大8秒である。
【0233】
次いで、ブランクを部品に打ち抜くために金型は閉じられ、金型が閉じられたときのブランクの温度がTcloseとして記録される。
【0234】
好ましくは、加熱されたブランクの金型への移送と金型の閉鎖との間の経過時間は8秒未満である。
【0235】
加熱および保持は、プレコーティングと鋼基板との相互拡散を引き起こす。特に、加熱および保持中、鉄は鋼基板からコーティングに向かって拡散し、アルミニウムはコーティングから鋼基板へ拡散し、この相互拡散はコーティングの相互拡散層の形成をもたらす。
【0236】
さらに、プレコーティングの組成に応じて、1つ以上の金属間相が、固溶体の形態で相互拡散層の上(したがって、部品の外側層内)に相互拡散によって生成されることができる。
【0237】
本発明によれば、加熱、保持、移送、金型の閉鎖および金型内の冷却は、dCmin以上のホットスタンプされた鋼部品の非変形部分のコーティングにおける亀裂の線密度dCを達成するために、ホットスタンプ時に非変形部分に変換されたブランクの平坦部分の厚さeBflatの関数として制御される。
【0238】
特に、本発明者らは、非変形部分のコーティングにおける亀裂の所望の線密度、すなわちdCmin以上の亀裂の線密度dCを達成するための関連要因が、炉内で費やされる時間ではなく、金型が閉じられたときのブランクの温度Tcloseと組み合わせて、ホットスタンピングプロセスにおけるプレコーティングの溶融温度Tmeltを超えてブランクによって費やされる時間tMであることを見出した。
【0239】
この時間tMは、上記の第2の段階での加熱(上記Tmelt)、加熱温度Theatでの保持時間Theat、移送時間、および成形されたブランクが冷却時に温度Tmeltに達するまで金型内でブランクによって費やされる時間(スタンピングの前後)を含む。
【0240】
この時間tMは、加熱中にブランクの温度を監視し、上で詳述したようにTmeltを超えて費やされる時間を調整することによって、加熱温度Theatでの保持時間theatを制御することによって、ならびに金型への移送およびTmeltへの金型内の冷却中にブランクによって費やされる時間を制御することによって、ホットスタンピングプロセス中に決定および制御されることができる。
【0241】
本発明者らは、少なくともdCminの亀裂の線密度を得るためには、温度Tcloseが720から820℃の範囲になければならず、プレコーティングの溶融温度Tmeltを超えて費やされる時間tMが、非変形部分になるように定められたブランクの平坦部分の厚さeBflatと、加熱温度Theatと、プレコーティングの溶融温度Tmeltとに依存する最小時間tMminと最大時間tMmaxとの範囲になければならないことを見出した。
【0242】
最小時間t
Mminおよび最大時間t
Mmaxは、以下のように定義される。
【数14】
および
【数15】
【0243】
これらの式において、tMminおよびtMmaxは秒で表され、Theatは℃単位のブランクの加熱温度を示し、Tmeltは℃単位のプレコーティングの溶融温度を示し、eBflatは、ホットスタンプ時に変形されず、したがって部品の非変形部分になるように定められたブランクの平坦部分の厚さをmm単位で示す。
【0244】
実際、本発明者らは、これらの条件を満たすことにより、ホットスタンピングおよび冷却後に、非変形部分のコーティング中の亀裂の線密度がdCmin以上であるようなホットスタンプされた被覆鋼部品を達成することができることを見出した。
【0245】
一方、時間tMが上記の関係を満たさない場合、および/または、温度Tcloseが820℃超720℃未満である場合、亀裂の線密度が不十分となり、優れたスポット溶接性と優れた塗装付着性とを両立することができない。
【0246】
特に、最小時間tMmin未満では、亀裂の線密度が不十分であり、塗装付着性もスポット溶接性も満足できるものではない。
【0247】
一方、最大時間tMmaxを超えると、亀裂の線密度が不十分となり、溶融温度を超える時間が長くなることで塗装付着性が向上することができても、スポット溶接性が低くなりすぎる。
【0248】
当然ながら、
【数16】
と
【数17】
の両方が加熱温度T
heatに依存することを考えると、時間t
Mだけでなく加熱温度T
heatも、時間t
Mが
【数18】
と
【数19】
との範囲内にあるように調整されることができる。
【0249】
一実施形態では、均一な厚さe
Bを有するブランクは、部品の非変形部分になるように定められたブランクの部分の厚さe
Bflatに等しく、したがって、t
Mminおよびt
Mmaxは次のようになる。
【数20】
および
【数21】
【0250】
ブランクが可変厚さを有する場合、好ましくは、必要な特性に応じて、時間tMは、厚さeBiを有するブランクの追加の部分/領域について時間tMmin(eBi)と時間tMmax(eBi)との間に含まれるように調整されてもよい。
【0251】
その場合、t
Mminおよびt
Mmaxの値は、ブランクe
Biのこの部分の厚さの関数として考慮される部分の各々について計算されることができる。次に、時間t
Mは、計算された最小時間t
Mminの最大値と計算された最大時間t
Mmaxの最小値との間で選択される。
【数22】
【0252】
t
Mminおよびt
Mmaxの値は厚さの増加関数であり、これは以下のように単純化されることができる。
【数23】
【0253】
言い換えれば、異なる厚さを有するブランクの2つ以上の部分から製造された、部品の2つ以上の部分における亀裂の最小線密度dCminを超える亀裂の線密度を確保することが所望される場合、時間tMは、最も厚い部分に対して定義された最小時間tMminと最も薄い部分に対して定義された最大時間tMmaxとの間の範囲にある。
【0254】
好ましくは、ホットスタンピングが、i=1...nである厚さe
Bflat(i)を有する2つ以上の部分が変形されないようにブランクをホットスタンプすることによって、2つ以上の非変形部分を含むホットスタンプされた被覆鋼部品を形成するために行われる場合、時間t
Mは、最も厚い部分に必要とされる最小時間t
Mminと最も薄い部分に必要とされる最大時間t
Mmaxとの間の範囲にある。
【数24】
【0255】
その場合、部品の非変形部分に対応するブランクの全ての考慮される平坦部分が、それらの実際の厚さeBflat(i)に対応する最小時間tMminと最大時間tMmaxとの間の範囲にある時間tMで製造されることが保証される。
【0256】
さらに好ましくは、ブランクは、最小厚さe
Bminおよび最大厚さe
Bmaxを有し、時間t
Mは、最大厚さe
Bmaxに必要な最小時間t
Mminと最小厚さe
Bminに必要な最大時間t
Mmaxとの間の範囲にある。
【数25】
【0257】
その場合、ブランクの全ての領域が、それらの実際の厚さに対応する最小時間tMminと最大時間tMmaxとの間の範囲にある時間tMでホットスタンプされることが保証される。
【0258】
好ましくは、金型が閉じているときのブランクの温度Tcloseは、少なくとも740℃である。
【0259】
一実施形態では、温度Tcloseは最大800℃である。
【0260】
特に、800℃以下の温度Tcloseは、最大4*dCminの亀裂の線密度を達成することを可能にし、粉末化のリスクを低減する。
【0261】
加熱されたブランクは、金型内でホットスタンプされ、金型焼入される。
【0262】
ホットスタンピングでは、上記で詳述したように、ブランクの1つ以上の部分は変形されず、少なくとも一部分はホットスタンピングによって変形される。
【0263】
ブランクの変形を受けていない部分は、プロセスによって得られたホットスタンプされた被覆鋼部品の非変形部分となる。
【0264】
変形を受けたブランクの部分は、ホットスタンプされた被覆鋼部品の変形部分を形成する。
【0265】
変形部分における変形のモードおよび変形量は、最終部品および成形ツールの幾何学形状のために場所によって異なる。例えば、一部の区域は拡張していてもよいが、他の区域は拘束されて変形している。上記で概説した変形モードが何であれ、同等の変形
【数26】
は、プレス硬化された部品の各場所で
【数27】
として定義することができ、ここで
【数28】
および
【数29】
は主な変形である。したがって、
【数30】
は、変形部分の各区域におけるホットスタンピングプロセスによってもたらされた歪みの量を表す。
【0266】
非変形部分では、等価変形
【数31】
は、最大0.01である。
【0267】
次いで、適切な冷却速度を確保し、収縮および相変態による部品の歪みを回避するために、ホットスタンプされたブランクを金型内に保持する。
【0268】
ホットスタンプされたブランクは、主に金型との熱伝達による伝導によって冷却される。金型は、冷却速度を増加させるための冷却剤循環、または冷却速度を低下させるための加熱カートリッジを含んでもよい。したがって、冷却速度は、そのような手段の実施によって調整されることができる。
【0269】
ホットスタンプされたブランクは、400℃未満の温度に冷却される。
【0270】
適用される冷却速度は、鋼の組成ならびに所望の構造および機械的特性に依存する。
【0271】
温度Theatから400℃までの平均冷却速度(移送中の冷却および金型内の冷却を含む)は、一般に少なくとも27℃/秒、好ましくは少なくとも50℃/秒、通常200℃/秒未満である。
【0272】
好ましくは、ブランクは、金型が閉鎖されたときのブランクの温度から400℃まで、少なくとも30℃/秒、さらに好ましくは少なくとも50℃/秒の平均冷却速度で金型内で冷却される。
【0273】
例えば、鋼が上記の第1の好ましい組成による組成を有する場合、ホットスタンプされたブランクは、好ましくは、750~450℃の間の温度範囲で、40~360℃/秒の間の範囲にある第1の平均冷却速度で最初に冷却される。この範囲では、オーステナイトからマルテンサイト、場合によってはベイナイトへの変態が生じる。さらなる工程において、ホットスタンプされたブランクは、450℃~250℃を含む温度範囲で、第1の冷却速度より遅い15~150℃/秒の平均冷却速度で冷却される。
【0274】
鋼が第2の好ましい組成による組成を有する場合、ホットスタンプされたブランクは、好ましくは、本質的にマルテンサイトからなる構造を達成するために、炉の出口から400℃未満の温度まで少なくとも30℃/秒の平均冷却速度で金型内で冷却される。
【0275】
鋼が第3の好ましい組成による組成を有する場合、ホットスタンプされたブランクは、好ましくは、金型内で冷却されて、マルテンサイトからなる、またはマルテンサイトおよびベイナイトからなる構造を得る。
【0276】
いずれの場合でも、ホットスタンプされたブランクは、金型内で400℃未満の温度まで冷却され、次いで室温まで冷却されて、ホットスタンプされた被覆鋼部品が得られる。
【0277】
実施例
重量パーセントで表される、表1による組成を有する鋼が、1.8mmまたは1.2mmの均一な厚さeBを有するプレコート鋼板から切断されたブランクの形態で提供されている。
【0278】
ブランクを、8%~11%のSi、2%~4%のFeを含み、残部がAlおよび製錬に起因する不純物である組成を有するAl-Siプレコーティングで両面がプレコーティングされた。プレコーティングは全て、577℃の溶融温度Tmeltを有していた。
【0279】
プレコーティング厚さは、比較として、鋼Aでは8.0~19.90μmの範囲に調整され、鋼Bでは19.91~40μmの範囲に調整された。
【0280】
【0281】
組成物の残部は、鉄と、不可避の不純物(含有量が上記に報告されているCuを含む不可避の不純物)とである。
【0282】
これらのプレコート鋼板は、ブランクに切断されている。
【0283】
次いで、ブランクを炉内で温度Theatで加熱し、Theatに維持し、次いで8秒以内に金型内へ移送された。
【0284】
次いで、ブランクが金型内でホットスタンプされ、変形部分および平坦な非変形部分を有する部品を作製した。いずれの場合も、ブランクの温度Tcloseが750℃であるときに金型を閉じた。
【0285】
次いで、ホットスタンプされたブランクは金型内で400℃未満の温度まで冷却され、次いで金型から取り出され、室温まで冷却されて、ホットスタンプされた被覆鋼部品を得た。
【0286】
金型内の加熱、保持、移送、および冷却は、プレコーティングTmeltの溶融温度を超える様々な時間tMに達するように調整された。
【0287】
各例について、プレコーティングの溶融温度Tmeltを超えてブランクが消費した時間tMが表2に報告され、最小時間tMminおよび最大時間tMmaxと比較される。
【0288】
最小時間tMminおよび最大時間tMmaxは、ブランクの厚さeBから上記の式を用いて計算され、これは、非変形部分が生じるブランクの部分の厚さに等しい。
【0289】
【0290】
次いで、ホットスタンプされたブランクは金型内で400℃未満の温度に冷却されて、マルテンサイト構造を有するホットスタンプされた被覆鋼部品を得た。
【0291】
ホットスタンプされた被覆鋼部品は、これらの部品が製造されたブランクの厚さeBに等しい均一な厚さePを有する(およびeP=ePflatとなるように)。
【0292】
各部品の非変形部分から試料が採取され、上記のように準備された。
【0293】
コーティングの総厚さecoatingおよび相互拡散層の厚さeIDLは、上に開示されたプロトコル、ならびにコーティングの亀裂の線密度を使用して決定された。
【0294】
非変形部分のコーティングの亀裂の線密度は、いずれの場合も、2つの試料の各々について10個の視野を観察することによって決定され、2つの試料の観察の全長は5.29mmであった。
【0295】
測定されたコーティングの総厚さecoatingおよび相互拡散層の厚さeIDLから、上記の式に従って決定されたEpcの値が、以下の表3に報告される。
【0296】
亀裂の線密度dCは、亀裂の最小線密度dCminと共に表3にも報告されている。
【0297】
塗装付着性は、各部位について以下のように評価された。
【0298】
各部品の非変形部分から試料が採取された。
【0299】
試料は最初に脱脂され、次いで、Gardoclean(R)5176および界面活性剤を用いて55℃で6分間洗浄された。Gardolene(R)ZL6を用いてリファイニングが行われた。
【0300】
リン酸塩処理工程は、試料をGardobond(R)R24 TAおよび添加剤の溶液を含む浴に50℃で3分間浸漬することによって実現した。
【0301】
次いで、PPG IndustriesのPigment Paste(R)W9712-N6およびResin blend(R)W7911-N6を含む水溶液を含む浴に試料を浸漬し、30℃で合計180秒間、30秒の電圧上昇時間で公称電圧を印加することによって、20μmのeコーティング層を堆積させた。次いで、試料は拭き取られ、175℃のオーブンで30分間硬化された。
【0302】
次いで、乾燥塗装付着性試験を、第1の組の試料について、カッター(1mm間隔のスクラッチ)でeコーティング層をクロスハッチングし、粘着テープ(460N/m)でeコーティング層を剥ぎ取り、ISO 2409:2013に従って肉眼で除去されたeコーティングの量を評価することによって実施し、0は優れていることを意味する、換言すれば、除去された塗料がほとんどまたは全くないことを意味し、5は非常に悪いことを意味し、換言すれば、多量の塗料(>65%)が除去されたこととなる。
【0303】
さらに、スポット溶接性は、標準SEP 1220-2(2011)に従って各試料の溶接範囲を決定することによって評価された。
【0304】
1.2mmの厚さを有する実施例4について、以下のパラメータが使用された。
-電極:F1-16-20-5.5
-溶接力:4kN
-溶接電流:中周波直流
-溶接時間:1パルス320ms
-保持時間:200ms
【0305】
1.8mmの厚さを有する実施例1~3について、以下のパラメータが使用された。
-電極:F1-20-20-8
-溶接力:5kN
-溶接電流:中周波直流
-溶接時間:200msの3パルス(休止時間40ms)
-保持時間:300ms
【0306】
このように評価された乾燥塗装付着性および溶接範囲が表3に報告される。
【0307】
【0308】
表2および表3を参照すると、実施例1および2は、本発明による方法を用いて製造され、16~40未満のEpcの値を有し、亀裂の線密度が亀裂の最小線密度dCmin以上である。
【0309】
図2は、亀裂の線密度を評価するために観察された視野の1つに見られるように、実施例2のコーティングを断面で示す。例示のみを目的として対比されたこの画像では、コーティングの表面から鋼基板に向かって延びる複数の亀裂が観察される。
【0310】
当然ながら、上述したように、実施例2の亀裂の線密度は、この単一の視野に基づいて決定されたのではなく、20個の視野を観察して、十分な観察長さにわたる亀裂の線密度がdCmin(すなわち、10.8亀裂/mm)以上であることを確認することによって決定された。
【0311】
本発明の実施例では、亀裂が平坦な非変形部分のコーティングにほぼ均一に分布していることが観察されたが、これは以下に説明する比較例4の場合では観察されなかった。
【0312】
また、非変形部分においては、最も広い亀裂の幅の平均値(すなわち、亀裂は、亀裂の集合の90%より大きい幅を有する)が1μm未満であることが確認された。また、実施例1および2では、幅2μm以上の亀裂や隙間は観察されなかった。
【0313】
対照的に、
図3は、本発明によらない部品の非変形部分のコーティングを示しており、わずかな数の亀裂しかない。
【0314】
結果として、これらの実施例1および2は、いずれの場合も乾燥塗装付着性は1未満であり、実際には0であり、試験中に塗料がまったく除去されなかったか、ほとんど除去されなかったことを意味する優れた乾燥塗装付着性、および優れたスポット溶接性を有し、溶接範囲は1kAを超える。
【0315】
したがって、実施例1および2は、dCmin以上の亀裂の線密度を有する本発明によるホットスタンプされた被覆鋼部品が、優れた塗装付着性およびスポット溶接性を達成することを実証している。
【0316】
対照的に、比較実施例3は、プレコーティングの溶融温度を超える、長すぎる時間tMで製造された。結果として、この例は、dCminよりも低い亀裂の線密度を有する。結果として、実施例3は満足のいくスポット溶接性を有さず、溶接範囲は1kAをはるかに下回る。
【0317】
実施例4は、プレコーティング厚さが19.90μmを超えるプレコート鋼板から製造された。したがって、時間tMは、ホットスタンプにおけるTMminとTMmaxとの間に含まれていたが、実施例4は、40を超えるEpcの値を有し、dCminよりも低い亀裂の線密度を有する。実際、TMminおよびTMmaxの値はプレコーティングの厚さに密接に関連しているため、TMminとTMmaxとの間に含まれる時間tMを有することは、亀裂の目標線密度を達成するのに十分ではなく、プレコーティングの厚さは8.0~19.90μmの間に含まれない。
【0318】
その結果、実施例4は、満足できる塗装付着性を有していない。
【0319】
したがって、実施例は、Epcが16~40未満であり、部品の非変形部分が、そのコーティングがdCmin以上の亀裂の線密度を有するようなものであれば、優れたスポット溶接性および優れた塗装付着性が、少なくともこの部分において達成されることを確認する。
【0320】
さらに、実施例は、コーティングの溶融温度を超える温度Tcloseおよびブランクによって費やされる時間が適切に制御されるようにプロセスを調整することによって、亀裂の所望の十分な線密度、したがって所望の特性を達成することができることを実証している。
【0321】
したがって、本発明に従って製造された鋼部品は、自動車車両用のシャーシまたはホワイトボディ部品またはサスペンションアームの製造に有利に使用されることができる。
【要約】
鋼基板と、鋼基板から外側に向かって相互拡散層および外側層を含むアルミニウム合金コーティングとを含むホットスタンプされた被覆鋼部品では、コーティングの総厚さe
coatingおよび相互拡散層の厚さe
IDLが、以下の条件を満たす。
16≦E
pc<40において
ホットスタンプされた被覆鋼部品は、0.6mm~3.5mmの厚さe
Pflatを有する非変形部分と、少なくとも一つの変形部分とを備える。非変形部分のコーティングにおける亀裂の線密度dCは、以下のように定義される亀裂の最小線密度dC
min(e
Pflat)以上である。