(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】光触媒の製造方法及びこれにより製造される光触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20250303BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20250303BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20250303BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20250303BHJP
B01J 21/06 20060101ALI20250303BHJP
【FI】
B01J35/39
B01J37/04 101
B01J37/08
B01J37/34
B01J21/06 M
(21)【出願番号】P 2021130626
(22)【出願日】2021-08-10
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】591014710
【氏名又は名称】千葉県
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】魯 云
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-171608(JP,A)
【文献】特開2010-058092(JP,A)
【文献】特開2008-221088(JP,A)
【文献】国際公開第2010/087445(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 35/00-35/80
B01J 37/04、37/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン粉末と
セラミックスボールを混合して前記
セラミックスボールの表面にチタン膜を形成してチタン膜形成
セラミックスボールとするチタン膜形成工程と、
前記チタン膜形成
セラミックスボールを酸素及び窒素の存在下において焼結する焼結工程と、を有する光触媒製造方法
であって、
前記焼結工程は、放電プラズマ焼結により行う光触媒製造方法。
【請求項2】
チタン粉末とセラミックスボールを混合して前記セラミックスボールの表面にチタン膜を形成してチタン膜形成セラミックスボールとするチタン膜形成工程と、
前記チタン膜形成セラミックスボールを酸素及び窒素の存在下において焼結する焼結工程と、を有する光触媒製造方法であって、
前記焼結工程は、1100℃以上1300℃以下の温度で焼結を行う光触媒製造方法。
【請求項3】
チタン粉末とセラミックスボールを混合して前記セラミックスボールの表面にチタン膜を形成してチタン膜形成セラミックスボールとするチタン膜形成工程と、
前記チタン膜形成セラミックスボールを酸素及び窒素の存在下において焼結する焼結工程と、を有する光触媒製造方法であって、
前記焼結工程は、前記チタン膜形成セラミックスボールに5MPa以上40MPa以下の圧力を加えて焼結する光触媒製造方法。
【請求項4】
チタン粉末とセラミックスボールを混合して前記セラミックスボールの表面にチタン膜を形成してチタン膜形成セラミックスボールとするチタン膜形成工程と、
前記チタン膜形成セラミックスボールを酸素及び窒素の存在下において焼結する焼結工程と、を有する光触媒製造方法であって、
前記焼結工程の焼結雰囲気において、前記窒素は、前記酸素の含有量を1とした場合、10以上1000以下の範囲にある請求項1記載の光触媒製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒の製造方法及びこれにより製造される光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光を照射することにより触媒作用を示す物質であり、二酸化チタン(TiO2)がよく知られている。光触媒は、上記触媒作用によって防汚、抗菌、殺菌、脱臭、浄化等の様々な効果があることから上記効果が必要とされる製品への利用が期待されている。
【0003】
しかしながら、一般に光触媒は、紫外線の照射によって機能するものであるが、その紫外線は太陽光のわずか3~4%程度しか含まれていないといった課題がある。すなわち、より効率のよい光触媒効果を得るためには、広範囲な波長範囲、好ましくは可視光領域において機能する光触媒を得ることが重要である。
【0004】
上記に関連した光触媒に関する技術として、例えば下記非特許文献1では、酸化チタンと尿素を重量比1:1で混合した後、アンモニア気流下450℃で窒素ドープ処理する方法が記載されている。
【0005】
また、一方で、下記特許文献1では、酸化チタン粉末と窒素化合物粉末を混合した混合粉をプラズマ焼結する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】田島政弘、井上淳、塩村隆信「可視光応答型光触媒の開発」島根県産業技術センタ-研究報告第47号、2011年2月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで上記非特許文献1で示すように、一般に酸化チタンは微粉末であり、光触媒機能を利用するためには何らかの方法で固定化する必要がある。非特許文献1に記載の方法では光触媒の固定化に関し課題が残る。
【0009】
一方、一般に光触媒を固定化する方法として、ポリマーバインダーに粉末状の光触媒を混合して基材に塗布する方法がある。しかしながら、この方法では、製造工程が複雑であり、バインダーが時間の経過により分解又は劣化し、長期間安定的に固定化する観点において課題がある。
【0010】
また、別の光触媒の固定化法として、光触媒を基材に薄膜コーティングする方法がある。しかしながら、この方法も、薄膜の耐久性が低く、長期間使用できないという課題がある。
【0011】
更に、上記特許文献1に記載の方法では、酸化チタン粉末と窒素化合物粉末を混合するものであり、可視波長領域における光触媒性能を確認できるものであるが、その構造は密であり焼結体の表面程度でしか光触媒性能を発揮できず、光触媒性能において課題がある。
【0012】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、より広範囲な波長範囲に適用可能であるとともに、簡便な方法で光触媒を長期間安定的に固定化する光触媒の製造方法、及び、これにより製造される光触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の一観点に係る光触媒製造方法は、チタン粉末と球状基材を混合して球状基材の表面にチタン膜を形成してチタン膜形成球状基材とするチタン膜形成工程と、チタン膜形成球状基材を酸素及び窒素の存在下において焼結する焼結工程と、を有するものである。
【0014】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、球状基材は、セラミックスボールであることが好ましい。
【0015】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、焼結工程は、放電プラズマ焼結により行うことが好ましい。
【0016】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、焼結工程は、1000℃より高く1300℃以下の温度で焼結を行うことが好ましい。
【0017】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、焼結工程は、チタン膜形成球状基材に5MPa以上40MPa以下の圧力を加えて焼結することが好ましい。
【0018】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、焼結工程の焼結雰囲気において、窒素は、酸素の含有量を1とした場合、10以上1000以下の範囲にあることが好ましい。
【0019】
また、本発明の他の一観点に係る光触媒は、チタン膜形成球状基材を焼結して得られるものである。
【発明の効果】
【0020】
以上、本発明によれば、より広範囲な波長範囲に適用可能であるとともに、簡便な方法で光触媒を長期間安定的に固定化する光触媒の製造方法、及び、これにより製造される光触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】酸化チタン及び窒素ドープ酸化チタンのエネルギーバンド図を示す図である。
【
図3】放電プラズマ焼結装置の概略を示す図である。
【
図4】実施例において作製した焼結体(1000℃)の外観を示す写真図である。
【
図5】実施例において作製した焼結体(1100℃、1200℃、1300℃)の外観を示す写真図である。
【
図6】実施例において作製した焼結体(1100℃、1200℃、1300℃)の断面写真図である。
【
図7】本実施例で行った色素分解法の概略を示す図である。
【
図8】実施例において作製した焼結体における可視光照射時間とMB水溶液濃度の関係を示す図である。
【
図9】実施例において作製した焼結体における紫外光照射時間とMB水溶液濃度の関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の記載にのみ狭く限定されるものではない。
【0023】
図1は、光触媒の基本原理を示す図である。太陽光からの紫外線1が酸化チタン2に照射されると、酸化チタン2に電子(e
-)3と正孔(h
+)4が生じる。そして空気中の酸素(O
2)5と電子3、水(H
2O)6と正孔4がそれぞれ反応を起こし、酸化チタン2の表面に、スーパーオキサイドイオン(O
2
-)7、水酸ラジカル(OH)8という分解力を持つ2種類の活性酸素が発生する。そして、これらの活性酸素が汚染物質9を分解することにより、防汚、抗菌、殺菌、脱臭、浄化等の様々な効果を発揮することができる。
【0024】
ところで
図2(a)は、一般的な酸化チタンのバンド図を示す図である。酸化チタンのバンドギャップは約3.2eVであり、波長が380nm以下の紫外線が照射されたときにしか電子が導電帯に励起せず、光触媒として機能しない。一方、太陽光に含まれる紫外線はわずか約3%程度に過ぎず、一般的な酸化チタンでは、太陽光の可視光波長成分のエネルギーを有効に利用することができない。
【0025】
これに対し
図2(b)は、窒素をドープした酸化チタンのバンド図を示すものである。本図に記載の酸化チタンは、バンドギャップが小さくなっており、波長が500nm以下の可視光でも電子が導電帯に励起し、光触媒として機能することができる。したがって、酸化チタンに窒素をドープすることで、可視光にも応答する光触媒が製造できる。
【0026】
上記を考慮して、本実施形態の光触媒製造方法は、(1)チタン粉末と球状基材を混合して球状基材の表面にチタン膜を形成してチタン膜形成球状基材とするチタン膜形成工程と、(2)チタン膜形成球状基材を酸素及び窒素の存在下において焼結する焼結工程と、を有する。
【0027】
本実施形態において、チタン粉末とは、言葉のとおりチタンを含む粉末である。チタン粉末の大きさは、後述する焼結工程によって十分に焼結することができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば平均粒径が1μm以上100μm以下、より好ましくは50μm以下の粉末である。なおこの粒径の測定方法としては限定されるわけではないが、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置を用いることにより測定可能である。
【0028】
また、本実施形態において、球状基材とは、上記の記載から明らかなように、チタン粉末をコーティングするための球状の物質である。本実施形態において「球状」とは、完全な球体を含む概念ではあるが、現実的には不可能であり、現実的に許容される球状のものを含む。
【0029】
球状基材の材質としては、本実施形態に係る光触媒(以下「本光触媒」という。)を形成することができる限りにおいて限定されるものではないが、セラミックス、金属及びこれらの混合物のいずれかを含むものであることが好ましい。また球状基材がセラミックスである場合、これもまた限定されるわけではないがアルミナ、ジルコニア、チタン酸バリウム等を例示することができ、球状基材が金属である場合、鉄及びその合金(ステンレス等)等を例示することができる。
【0030】
また、球状基材の大きさは、本光触媒を製造することができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば平均粒径が0.5mm以上10mm以下、より好ましくは1mm以上5mm以下の粉末である。なおこの粒径の測定方法としては限定されるわけではないが、顕微鏡写真を複数箇所において撮影し、撮影された個々の球状基材のサイズを測定して平均的に求める方法を採用することができる。
【0031】
また本実施形態において、チタン粉末と球状基材の混合方法としては、均一に混合することができる限りにおいて限定されず、例えばボールミル、ポットミル、ロータリーミキサー等を用いて混合することができる。なお、この結果、チタン膜が形成された球状基材を本明細書では「チタン膜形成球状基材」という。
【0032】
また本実施形態においてチタン膜形成球状基材を焼結する焼結工程は、限定されるわけではないが、放電プラズマ焼結によって行われることが好ましい。放電プラズマ焼結は迅速な昇温(短時間での処理と粒成長の抑制)と還元雰囲気中での処理が可能といった特徴を備え、この焼結法によって光触媒の固定化を行うとともに、可視領域にまで広げた光触媒機能を発揮させることができる。
【0033】
また本実施形態において、焼結工程は、1000℃より高くチタンの融点(1668℃)より低い温度で焼結することが好ましく、より好ましくは1100℃以上1300℃以下の温度範囲である。1000℃より高くすることで球体チタン膜同士を結合させることが可能となり、1100℃以上とすることで高い光触媒性能を発揮することが可能となる。一方、チタンの融点より低くすることでチタンが球状基材から剥がれ落ちてしまうことを防止することが可能となるとともに、1300℃以下とすることで、球状基材同士が融着してしまう虞を防止できるといった利点がある。
【0034】
また本実施形態において、焼結工程は、チタン膜形成球状基材に5MPaから40MPaの圧力を加えて焼結することが好ましい。この範囲とすることで、安定的に固定化することができる。
【0035】
また本実施形態において、焼結工程は、上記の温度で焼結することができる限りにおいて限定されるわけではなく、上記好ましい温度まで昇温させた後、1分以上10分以下の温度保持時間を設けることが好ましい。
【0036】
以上、本実施形態によれば、一回の焼結工程すなわち短時間で固定化された可視光応答性光触媒焼結体を製造することができ、生産効率を飛躍的に向上させることができる。また、本方法では焼結工程を採用しておりバインダーポリマーの劣化や酸化チタン薄膜の低耐久性の問題がなく耐久性に優れ、成形加工しやすい可視光応答性光触媒が製造できる。また、本実施形態によると、球状基材を用いているため、チタン膜が形成された場合でも球状基材同士の間が隙間として活用可能である。そのため、表面積が大きく確保できるとともにその内部まで触媒としての機能を確保できるといった効果がある。特に、水等の液体を透過させることが可能となりフィルターとしての機能が大きいといった効果もある。
【実施例】
【0037】
ここで、上記実施形態の効果を確認するため、実際に光触媒を製造しその効果を検証した。以下具体的に示す。
【0038】
(実施例1)
図3は、放電プラズマ焼結装置の概略を示す図である。チタン膜形成球状基材は焼結ダイ51に詰められ、加圧機構59により上部パンチ54と下部パンチ55に圧力が加えられ、この結果チタン膜形成球状基材52に圧力が加えられる。焼結ダイ51はグラファイト型であり、内径φは20mm(φ20)とした。焼結ダイ51には、焼結電源(パルス電源)58によりON、OFFが繰り返される直流パルス電圧が印加され、焼結ダイ51に直流パルス電流が流れることにより急速に温度が上昇する。焼結ダイ51の温度上昇に伴って紛体52も急速に加熱される。なお、図中、符号53は水冷真空チャンバーである。
【0039】
本実施例では、原料粉末としてTi粉末(平均粒径30μm、大阪チタニウムテクノロジーズ(株)TSP-350)及びアルミナボール(平均粒径1mm、(株)ニッカトー HDボール(HD-1))を用い、秤量したTi粉末とアルミナボールを遊星型ボールミル(フィリッチュ P-5/4)で10時間混合してからグラファイトの型(焼結ダイ)に敷き詰め、放電プラズマ焼結(SPS:Spark Plasma Sintering)装置により特定の温度まで加熱しながら10MPaの圧力を加え、この特定の温度になった後の保持時間を3分間として焼結を行った。なおこの特定の温度は、1000℃、1100℃、1200℃、1300℃のいずれかとした。
【0040】
この結果得られた焼結体の外観を
図4及び
図5に示す。1000℃ではチタン膜が形成されたアルミナボールそれぞれは焼結されていたようであったが、結合が十分ではなく、アルミナボールが衝撃によって崩れてしまうほど脆い状態であった。一方、1100℃から1300℃の焼結の結果では、強固に結合した状態を保つことができていた。
【0041】
また、
図6に、1100℃、1200℃、1300℃の焼結体の断面の写真図を示す。これらにおいては、いずれも隙間が保持されており、Ti膜によって接合されていることを確認した。一方で1300℃の焼結体では、球状基材の変形が激しく隙間が保持できていないことが確認された。
【0042】
次に、得られた焼結体のそれぞれについて、それぞれ色素分解法による光触媒機能の評価を行った。ここで色素分解法とは、色素を光触媒表面に吸着させ、その脱色速度を測定し、分解活性を評価する方法である。
【0043】
図7は、本実施例で行った色素分解法の概略を示す図である。前処理として、(1)アセトンによる洗浄、(2)自然乾燥(24時間)、(3)紫外線照射(24時間)、(4)暗所にてメチレンブルー(20μmol)の吸着(12時間)を行った。その後、内径20mmのセル81に光触媒焼結体82を入れ、10μmol/Lの試験用メチレンブルー(MB)水溶液83を7mL注ぎ、ブラックライト84(Pananasonic社製蛍光灯。FL20SS-ECW)により1mW/cm
2、照度:5000lxの光を照射し1時間ごとの吸光℃を測定して、Beerの法則により濃度を測定した。
【0044】
図8に、可視光照射時間とMB水溶液濃度の関係を、
図9に紫外線照射時間とMB水溶液濃度の関係をそれぞれ示す。これらのいずれにおいても、時間とともにMBの濃度が下がっていることが示され、特に1100℃においては最も効果が高いことが確認された。なお、それぞれの紫外線光下における光触媒機能評価結果としては、1100℃においては15.4(K・μmol
-1L
-1min
-1)であり、1200℃では9.8(K・μmol
-1L
-1min
-1)、1300℃では5.5(K・μmol
-1L
-1min
-1)であった。
【0045】
以上、本実施例により、可視光においても紫外線においても光触媒機能を確認することができ、本発明の効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は光触媒としての産業上の利用可能性がある。