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7642206蓄電デバイス用電極の製造方法および製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用電極の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20250303BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20250303BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250303BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250303BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20250303BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20250303BHJP
   B05C 9/14 20060101ALI20250303BHJP
   B05C 9/12 20060101ALI20250303BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/139
H01M4/36 A
H01M4/62 Z
H01G11/86
H01G13/00 381
B05C9/14
B05C9/12
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2024525872
(86)(22)【出願日】2024-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2024000899
【審査請求日】2024-05-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516309866
【氏名又は名称】ATTACCATO合同会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390006426
【氏名又は名称】オー・エム・シー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166899
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 慶太
(74)【代理人】
【識別番号】100085291
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117798
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 慎一
(74)【代理人】
【識別番号】100221006
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 一磨
(72)【発明者】
【氏名】向井 孝志
(72)【発明者】
【氏名】池内 勇太
(72)【発明者】
【氏名】松田 善夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 信次
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特表2023-531013(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2022-0094050(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第106784601(CN,A)
【文献】特開2024-020819(JP,A)
【文献】特開2024-039889(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2022-0095390(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02-62
H01G 11/86
H01G 13/00
B05C 9/12-14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極の製造方法であって、
所定速度で搬送される集電体にスラリーを塗布する工程Aと、
温度30℃以上、スラリー中の分散媒の沸点以下で、塗布された前記スラリーを固形分率60%以上95%以下となるよう加熱する工程Bと、
前記集電体上に塗布された前記スラリーに、レーザ照射部から波長435nm以上550nm未満、または波長890nm以上1100nm未満のレーザ光を照射する工程Cと、を備え、
前記スラリーが、スラリーの固形分に対してカーボンを0.1質量%以上含み、
前記工程Cが、複数のレーザ照射部からレーザ光を同時に照射して、オーバーラップするエリアビームであり、複数の前記レーザ光がオーバーラップする前記エリアビームが、前記スラリーの塗布部と未塗布部の境界を照射する、
蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項2】
電極の製造方法であって、
所定速度で搬送される集電体にスラリーを塗布する工程Aと、
温度30℃以上、スラリー中の分散媒の沸点以下で、塗布された前記スラリーを固形分率60%以上95%以下となるよう加熱する工程Bと、
前記集電体上に塗布された前記スラリーに、レーザ照射部から波長435nm以上550nm未満、または波長890nm以上1100nm未満のレーザ光を照射する工程Cと、を備え、
前記スラリーが、スラリーの固形分に対してカーボンを0.1質量%以上含み、
前記工程Cが、複数のレーザ照射部からレーザ光を照射するもので、第1のレーザ照射部が、レーザ光を前記集電体に塗布されたスラリーの幅方向全体にわたり照射し、第2のレーザ照射部が、レーザ光を前記集電体に塗布されたスラリーの塗布部と未塗布部の境界を含み照射する、
蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ光が、前記集電体のMD方向に対して、照射長1cm以上のエリアビームである、
請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項4】
前記レーザ光が、前記集電体のTD方向に対して、前記スラリーが未塗布の集電体にも照射されるエリアビームである、
請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項5】
前記工程Cの後、塗布された前記スラリーを加熱する工程Dをさらに備える、
請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項6】
前記工程Cにおける前記レーザ照射部の波長が、波長435nm以上550nm未満、または波長890nm以上950nm未満のレーザ光である、
請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項7】
前記スラリーが硫黄を含まないことを特徴とする、
請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項8】
前記工程Aが、塗布間欠塗工、またはストライプ塗工である、
請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項9】
スラリーを乾燥する工程における、材料予熱期、定率乾燥期、減率乾燥期のうち、
前記工程Bが、前記材料予熱期と、さらに固形分率60%以上95%以下となるようにスラリーの固形分を濃縮し、定率乾燥期のスラリーにする工程である、
請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項10】
前記工程Bが、熱風や輻射を用いて、10秒以上加熱する、
請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項11】
前記工程Bは、加熱装置によりスラリーを乾燥させる工程であり、
前記加熱装置が、熱風ノズルまたはヒータを有する、
請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項12】
前記工程Dは、加熱装置によりスラリーを乾燥させる工程であり、
前記加熱装置が、熱風ノズルまたはヒータを有する、
請求項に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項13】
前記工程Cは、定率乾燥期に行い、
スラリーの温度が急激に上昇する減率乾燥期のスラリーにする工程である、
請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項14】
前記スラリーが、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアミック酸、ケイ酸塩、ケイ酸塩水和物、リン酸塩、リン酸塩水和物のいずれかを含む、
請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項15】
前記スラリーが、活物質前駆体を含み、
前記活物質前駆体が、合材層に含まれる材料または集電体と固相反応することが可能な材料である、
請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項16】
活物質または活物質前駆体が、
カーボンと複合化されている、
請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項17】
前記工程Aを行うエリアと前記工程Cを行うエリアとの間に、遮光フィルタを介在させる、
請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項18】
前記蓄電デバイスが、アルカリ金属イオンをキャリアとする電池またはキャパシタである、
請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項19】
蓄電デバイス用電極の製造装置であって、
所定速度で搬送される集電体にスラリーを塗布する機構Aと、
乾燥炉の内部の温度を30℃以上、スラリー中の分散媒の沸点以下にして、塗布された前記スラリーを固形分率60%以上95%以下となるよう加熱する機構Bと、
前記機構Bよりも前記集電体の搬送方向の下流側に、前記集電体上に塗布された前記スラリーに、レーザ照射部から波長435nm以上550nm未満、または波長890nm以上1100nm未満のレーザ光を照射する機構Cと、を備え、
前記レーザ照射部が、前記乾燥炉の外側に設けられ、
前記レーザ照射部を複数備え、前記複数のレーザ照射部からレーザ光を同時に照射した際に、レーザ光がオーバーラップするエリアが存在するように、前記複数のレーザ照射部が配されていて、複数の前記レーザ光がオーバーラップする前記エリアが、前記スラリーの塗布部と未塗布部の境界を照射するように、前記複数のレーザ照射部が配されている、
蓄電デバイス用電極の製造装置。
【請求項20】
蓄電デバイス用電極の製造装置であって、
所定速度で搬送される集電体にスラリーを塗布する機構Aと、
乾燥炉の内部の温度を30℃以上、スラリー中の分散媒の沸点以下にして、塗布された前記スラリーを固形分率60%以上95%以下となるよう加熱する機構Bと、
前記機構Bよりも前記集電体の搬送方向の下流側に、前記集電体上に塗布された前記スラリーに、レーザ照射部から波長435nm以上550nm未満、または波長890nm以上1100nm未満のレーザ光を照射する機構Cと、を備え、
前記レーザ照射部が、前記乾燥炉の外側に設けられ、
前記機構Cが、複数のレーザ照射部を備え、第1のレーザ照射部が、前記集電体に塗布されたスラリーの幅方向全体にわたりレーザ光を照射可能に配されていて、第2のレーザ照射部が、前記集電体に塗布されたスラリーの塗布部と未塗布部の境界を含み照射可能に配されている、
蓄電デバイス用電極の製造装置。
【請求項21】
前記機構Aは、前記集電体の表裏に前記スラリーを塗布可能なもので、
前記機構Cは、複数の前記レーザ照射部を備え、
前記レーザ照射部が、前記集電体の表裏にレーザ照射可能な位置に配されている、
請求項19または20に記載の蓄電デバイス用電極の製造装置。
【請求項22】
前記機構Cよりも前記集電体の搬送方向の下流側に、塗布された前記スラリーを加熱する機構Dをさらに備える、
請求項19または20に記載の蓄電デバイス用電極の製造装置。
【請求項23】
前記機構Cにおける前記レーザ照射部の波長が、波長435nm以上550nm未満、または波長890nm以上950nm未満のレーザ光である、
請求項19または20に記載の蓄電デバイス用電極の製造装置。
【請求項24】
前記機構Bは、前記集電体の搬送方向における前記機構Cよりも上流側で、スラリーを乾燥する工程における材料予熱期、定率乾燥期、減率乾燥期のうち、材料予熱期にスラリーを乾燥可能な位置に配され、
前記機構Cは、定率乾燥期にスラリーを乾燥可能な位置に配されている、
請求項19または20に記載の蓄電デバイス用電極の製造装置。
【請求項25】
前記機構Bは、加熱装置を備え、
前記加熱装置が、熱風ノズルまたはヒータを有する、
請求項19または20に記載の蓄電デバイス用電極の製造装置。
【請求項26】
前記機構Dは、加熱装置を備え、
前記加熱装置が、熱風ノズルまたはヒータを有する、
請求項22に記載の蓄電デバイス用電極の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用電極の製造方法および製造装置に関する。
【技術背景】
【0002】
蓄電デバイスは、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車などの移動体や電力貯蔵システムにおいて重要な役割を担っている。これらは、経済成長の観点からも重要なキーデバイスとしての位置付けが強まっており、近年の需要増加に伴って、蓄電デバイスの生産性の向上が強く求められている。蓄電デバイスの主な種類として、二次電池とキャパシタが存在する。
【0003】
汎用の二次電池には、鉛蓄電池、ニッケル-水素(Ni-MH)電池、ニッケル-カドミウム(Ni-Cd)電池、リチウムイオン電池などが一般的に流通している。特に、リチウムイオン電池は、小型、軽量、高電圧、メモリー効果なしという特徴から、非水電解質二次電池の代表例として、その需要が急増している。
【0004】
非水電解質二次電池とは、水を主成分としない電解質を用いた電池系で、且つ充放電可能な蓄電デバイスの総称である。具体例としては、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、リチウム全固体電池、リチウム空気電池、リチウム硫黄電池、ナトリウムイオン電池、ナトリウム硫黄電池、カリウムイオン電池、多価イオン電池、フッ化物イオン電池などが挙げられる。これらの電池は、正極、負極、電解質、外装体(収納ケース)によって構成されており、電解質が流動性を有する場合には正極と負極の間にセパレータが介在させる。
【0005】
また、代表的なキャパシタとして、アルミニウム電解コンデンサ、セラミックコンデンサ、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどが挙げられる。このうち、リチウムイオンキャパシタは、電気二重層キャパシタの基本原理に基づきながら、正極材料または負極材料のいずれかがリチウムイオンの吸蔵・放出を可能とする活物質、および非水電解質を用いた蓄電デバイスである。
【0006】
近年では、リチウムイオンに代替して、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンなどを用いた蓄電デバイスの開発も進められている。このようなイオンキャパシタは、正極、負極、セパレータ、電解液または電解質、外装体(電槽や収納ケース、ケーシングともいう)から構成される。
【0007】
電極の構成要素としての蓄電デバイスには、集電体と合材層(活物質層)が存在する。例えば、ニッケル-水素電池においては、ニッケル鋼箔や発泡ニッケルなどを集電体とし、これらの上に水酸化ニッケルや水素吸蔵合金などの活物質を含む合材層が設けられている。
【0008】
一方、リチウムイオン電池では、アルミニウム箔や銅箔などを集電体とし、リチウム遷移金属酸化物や黒鉛などの活物質を主成分として含む合材層が設けられている。また、リチウムイオンキャパシタには、アルミニウム箔や銅箔などを集電体とし、活性炭や黒鉛などを活物質とした合材層が設けられている。
【0009】
かかる活物質は、例えば、焼成法や水熱法により合成される。合成後は、スプレードライなどの技術を用いて、粒径を5~30μm程度に造粒し、さらに分球工程を経て生産が行われている。
【0010】
電極には、正極、負極、参照電極、バイポーラ電極などの種類がある。いずれも、活物質、導電助剤、バインダおよび集電体を用いて作製することができる。一般的な電極製造工程では、スラリー(ペースト状の流動性を有する混合物)を集電体上に塗布または充填し、スラリー中に含まれる分散媒体を気化除去(乾燥)した後、ロールプレスなどを用いて合材層を調圧される。このスラリーは、液体と固体の成分からなり、電極製造の際には、活物質、導電助剤、バインダなどを分散媒とともに混合し、流動性を有する状態にすることが求められる。
【0011】
上記のスラリーの乾燥工程において、集電体上に塗布したスラリーを急速に乾燥させると、合材層の表面(表層)にバインダや増粘剤が偏在する現象、すなわちマイグレーションが確認される。このようなマイグレーションを起こした電極は、集電体と合材層との結着性が低下し、結果として合材層の脱落や剥離が生じやすくなる。さらに、このような電極を電池として用いた場合、サイクル特性の低下や内部抵抗の増大の原因になる。
【0012】
この課題の解決手段として、スラリーの乾燥速度を低下させる方法が考えられるが、この方法では生産性が低下する。電極の生産現場では、塗布後の乾燥炉(電極を加熱して分散媒を気化除去するエリア)を長くすることで、搬送速度を上げ、生産性の向上を図っている。しかし、乾燥炉の長さを増やす対策は、それ自体の設備が大規模化することが明らかであり、これに伴う広い敷地面積とエネルギー消費量の増大の難点をもつ。
【0013】
ところで、スラリーを乾燥する工程は、材料予熱期、定率乾燥期、減率乾燥期の3つの段階に分けることができる。例えば、特許文献1には、塗膜の表面が溶媒の蒸発温度まで加熱される段階を「材料予熱期」、塗膜の表面から溶媒が蒸発することで、塗膜中の含溶媒率がほぼ直線的に減少する段階を「定率乾燥期」、塗膜を構成する粒子間の細かい隙間から溶媒が穏やかに蒸発する段階を「減率乾燥期」と説明がなされている。そして、定率乾燥期に、材料予熱期と減率乾燥期よりも雰囲気圧力と乾燥温度を高く設定する、電極製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2015-185250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、上記の蓄電デバイスでは、生産速度の向上だけでなく、ランニングコストの低減も求められている。現行の電極生産工程では、熱風や輻射を利用した乾燥方法が主流となっている。しかし、この方法では乾燥対象でない空気や周辺機器なども温めてしまうため、廃棄されるエネルギーが多い。
【0016】
本発明者らは、製造工程で消費するエネルギーの削減を図るため、乾燥工程にレーザを用いる技術に注目した。近年、レーザ光の照射装置が小型化し、利用可能な光の波長も増加している。さらに、ファイバーレーザの登場により、複数の半導体レーザの光をファイバーで増幅することができ、大出力レーザの利便性が向上している。
【0017】
レーザ照射装置には、固体レーザ、気体レーザ、ファイバーレーザ、半導体レーザなどの様々な種類が存在している。これらのレーザは、エネルギーをレーザ媒質で蓄積し、誘導放出の現象を通じて光を発生させる点で共通している。また、発生させた光の増幅も、レーザの主要な特徴の1つである。
【0018】
電極用スラリーに黒鉛やアモルファスカーボンなど、カーボン材料が含まれていれば、このカーボンがレーザ光を受けることで、エネルギーを吸収して発熱し、スラリーの分散媒を蒸発させることができることがわかった。このため、レーザ光が照射された箇所のスラリーのみを瞬時に加熱することができ、従来の熱風や輻射による乾燥手段と比べて、必要なエネルギーは半分以下となる。さらに、乾燥炉の長さを短縮、あるいは搬送速度を早くすることが可能となり、電極の生産性の向上が期待される。
【0019】
しかしながら、発明者らが検証した結果、レーザ光のみによる乾燥手段では、瞬間的にスラリーの温度を上昇させることから、マイグレーションが起こりやすいという難点をもつことが分かった。
【0020】
特許文献1によれば、マイグレーションは、一連の乾燥工程の中の定率乾燥期において特に発生しやすいとしている。すなわち、定率乾燥期中やそれよりも前の段階(材料予熱期)で、急速乾燥させると、マイグレーションを起こしやすいことを意味する。しかし、レーザ光を用いて乾燥する場合、減率乾燥期ではマイグレーションを起こしにくい反面、気化する成分である分散媒が少ないため、一気に温度上昇してしまい、温度コントロールが困難であった。
【0021】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、マイグレーションを起こさず、高い生産性で電極を製造する製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため本発明の一の態様に係る蓄電デバイス用の電極の製造方法は、所定速度で搬送される集電体にスラリーを塗布する工程Aと、温度30℃以上スラリー中の分散媒の沸点以下で、塗布された前記スラリーを加熱する工程Bと、前記集電体上に塗布された前記スラリーに、レーザ照射部から波長435nm以上550nm未満、または波長890nm以上1100nm未満のレーザ光を照射する工程Cと、を備え、前記スラリーが、スラリーの固形分に対してカーボンを0.1質量%以上含む、蓄電デバイス用電極の製造方法を提供する。
【0023】
この構成によれば、スラリーを加熱する工程Bを経た後に、レーザを用いてスラリーを加熱する工程Cを行うことで、マイグレーションの発生を抑えながら、高い生産性で電極を製造することが可能である。
【0024】
また、この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記レーザ光が、集電体のMD方向に対して、照射長1cm以上のエリアビームであることが望ましい。
【0025】
この構成によれば、マイグレーションを抑制し、均質な電極を生産することができるという観点から、レーザ光が、ピンポイントで照射するスポットビームや、細長いレーザ光を照射するラインビームよりも、一定の面積を照射することができるエリアビームであることが望ましい。
【0026】
また、この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記レーザ光が、集電体のTD方向に対して、スラリーが未塗布の集電体に照射されるエリアビームであることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、スラリーが塗布された境界部分の集電体にもレーザ光を照射することで、集電体の温度を上げることで、集電体側からもスラリーの温度を上げて乾燥に寄与するとともに、スラリーとのなじみを向上することができる。
【0028】
この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記工程Cが、複数のレーザ照射部からレーザ光を同時に照射して、オーバーラップするエリアビームであることを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、蓄電デバイス用電極に用いられる集電体の材質が、Al、Cu、Ni、Ti、Cr、Mo、Ru、W、ステンレス鋼などの金属の場合、スラリーと比べてレーザ光を反射しやすい性質を有するが、スラリーが乾燥しうる出力で未塗布部である集電体にレーザ光を照射すると、集電体が酸化しやすい一方、集電体が酸化しない程度に調整された低出力のレーザ光では、スラリーが十分に乾燥しない場合がある。そのため、スラリーに照射するレーザ光をオーバーラップさせることで、十分にスラリーを乾燥させることが可能となる。
【0030】
この場合において、オーバーラップする前記エリアビームが、前記スラリーの塗布部と未塗布部の境界を照射することを特徴とする。
【0031】
この構成によれば、スラリーの塗装部と未塗装部の境界、すなわちスラリーと集電体の境界部分にオーバーラップしたレーザ光を照射することで、境界部分のスラリーをしっかりと乾燥させることができる。これにより、他の部分に比べて剥がれが生じやすい部分を確実に乾燥させることができ、スラリーの剥がれ等を防止することができる。
【0032】
また、この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記工程Cが、複数のレーザ照射部からレーザ光を照射するもので、第1のレーザ照射部が、前記集電体に塗布されたスラリーの幅方向全体にわたりレーザ光を照射し、第2のレーザ照射部が、前記集電体に塗布されたスラリーの塗布部と未塗布部の境界を含み照射することを特徴とする。
【0033】
この構成によれば、スラリーの塗装部と未塗装部の境界、すなわちスラリーと集電体の境界部分にレーザ光を複数回照射することができ、境界部分のスラリーをしっかりと乾燥させることができる。これにより、他の部分に比べて剥がれが生じやすい部分を確実に乾燥させることができ、スラリーの剥がれ等を防止することができる。
【0034】
また、この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記工程Cの後、塗布された前記スラリーを加熱する工程Dをさらに備えることを特徴とする。
【0035】
この構成によれば、工程Cでレーザ照射部のレーザによりスラリーを乾燥した後、さらにスラリーを加熱して乾燥させる工程Dを備えることで、より確実にスラリーを乾燥させることができる。
【0036】
この構成によれば、スラリーを加熱する工程Bを経た後に、レーザを用いてスラリーを加熱する工程Cを行うことで、マイグレーションの発生を抑えながら、高い生産性で電極を製造することが可能である。
【0037】
この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記工程Cにおける前記レーザ照射部の波長が、波長435nm以上550nm未満、または波長890nm以上950nm未満のレーザ光であることを特徴とする。この構成によれば、スラリーを乾燥しうる波長でありながら、一定の出力を得て、乾燥速度を向上することができる。なお、半導体レーザで高出力化が可能であることと、高い電気効率であることから、波長890以上950nm未満がより好ましい。
【0038】
この構成によれば、前記スラリーが硫黄を含まないことを特徴とする。この構成によれば、非水電解質二次電池には、硫黄を含む電極を用いた二次電池が存在するが、本願の発明者らが試験、検討したところ、硫黄や硫黄-炭素複合体を含むスラリーでは、レーザ光により加熱されると、硫黄分の蒸気圧が上昇し、蒸発や昇華が容易に起こるようになることがわかった。
【0039】
また、硫黄や硫化水素、二酸化硫黄などの硫黄系ガスは、たとえ低濃度であっても金属に腐食作用を及ぼすため、電子機器内の金属部品に深刻なダメージを及ぼす場合がある。特に、レーザ照射部においては、金属接点や配線の腐食だけでなく、硫黄分が光学部品に付着することにより、レーザの出力や光束、品質の著しい低下が起こる。そのため、レーザ光を用いた乾燥においては、スラリーに硫黄や硫黄-炭素複合体を含まない活物質であることが望ましい。
【0040】
この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記工程Cが、固形分率60%以上95%以下の定率乾燥期のスラリーにレーザ光を照射することを特徴とする。この構成によれば、固形分率60%未満などの乾燥初期においてレーザ光を照射すると、急激な温度上昇によってマイグレーションが生じやすいところ、固形分率60%以上であれば、マイグレーションを抑制しやすい。
【0041】
この場合において、スラリーを乾燥する工程における、材料予熱期、定率乾燥期、減率乾燥期のうち、前記工程Bが、前記材料予熱期と、さらに固形分率60%以上95%以下となるようにスラリーの固形分を濃縮し、定率乾燥期のスラリーにする工程であることを特徴とする。
【0042】
この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記工程Aが、塗布間欠塗工、またはストライプ塗工であることが望ましい。この構成によれば、塗布されたスラリーだけでなく、集電体にもレーザ光を照射しやすい塗布形状であることが好ましいという理由から、スラリーを塗布する工程は、塗布間欠塗工、またはストライプ塗工であることが好ましい。
【0043】
この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記工程Bが、熱風や輻射を用いて、10秒以上加熱することを特徴とする。この構成によれば、前記工程Cでのレーザ光による乾燥に先立ち、材料予熱期などに熱風や輻射の加熱によりスラリーを乾燥することで、レーザ光を用いた乾燥時のマイグレーションを抑制することができる。
【0044】
この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記工程Bは、加熱装置によりスラリーを乾燥させる工程であり、前記加熱装置が、熱風ノズルまたはヒータを有することを特徴とする。この構成によれば、レーザによる乾燥の前の材料予熱期に加熱装置によりスラリーを加熱することで、マイグレーションを防止することができる。
【0045】
この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記工程Dは、加熱装置によりスラリーを乾燥させる工程であり、前記加熱装置が、熱風ノズルまたはヒータを有することを特徴とする。この構成によれば、レーザによるスラリーの乾燥後に、加熱装置によりスラリーをさらに加熱することで、より確実にスラリーを乾燥させることができる。
【0046】
この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記工程Cが、定率乾燥期に行い、スラリーの温度が急激に上昇する減率乾燥期のスラリーにする工程であることを特徴とする。この構成によれば、レーザ光の照射を定率乾燥期に行うことで、マイグレーションの発生を抑制するとともに、減率乾燥期には、スラリーの温度が一気に上昇してしまい、温度コントロールが困難であり、合材層の温度が過剰に上昇しすぎると、合材層の意図しない熱分解や発火、集電体の酸化や溶融などを起こすことを防止できる。
【0047】
この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記スラリーが、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアミック酸、ケイ酸塩、ケイ酸塩水和物、リン酸塩、リン酸塩水和物のいずれかを含んでいることが望ましい。
【0048】
この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記スラリーが、活物質前駆体を含み、前記活物質前駆体が、合材層に含まれる材料または集電体と固相反応することが可能な材料であることが望ましい。
【0049】
この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記活物質または前記活物質前駆体が、カーボンと複合化されている材料であることが望ましい。
【0050】
この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記工程Aの機構と前記工程Cの機構との間に、遮光フィルタを介在させていることが望ましい。
【0051】
この蓄電デバイス用電極の製造方法において、前記蓄電デバイスが、アルカリ金属イオンをキャリアとする電池である。また、キャパシタにも適用することができる。
【0052】
また、上記目的を達成するため本発明の一の態様にかかる蓄電デバイス用電極の製造装置は、所定速度で搬送される集電体にスラリーを塗布する機構Aと、乾燥炉の内部の温度を30℃以上、スラリー中の分散媒の沸点以下にして、塗布された前記スラリーを加熱する機構Bと、前記集電体上に塗布された前記スラリーに、レーザ照射部から波長435nm以上550nm未満、または波長890nm以上1100nm未満のレーザ光を照射する機構Cとを備え、前記レーザ照射部が前記乾燥炉の外側に設けられていることを特徴とする。
【0053】
この蓄電デバイス用電極の製造装置において、前記レーザ照射部を複数備え、前記複数のレーザ照射部からレーザ光を同時に照射した際に、レーザ光がオーバーラップするエリアが存在するように、前記複数のレーザ照射部が配されていることを特徴とする。
【0054】
この蓄電デバイス用電極の製造装置において、複数の前記レーザ光がオーバーラップする前記エリアが、前記スラリーの塗布部と未塗布部の境界を照射するように、前記複数のレーザ照射部が配されていることを特徴とする。
【0055】
この蓄電デバイス用電極の製造装置において、前記機構Cが、複数のレーザ照射部を備え、第1のレーザ照射部が、前記集電体に塗布されたスラリーの幅方向全体にわたりレーザ光を照射可能に配されていて、第2のレーザ照射部が、前記集電体に塗布されたスラリーの塗布部と未塗布部の境界を含み照射可能に配されていることを特徴とする。
【0056】
この蓄電デバイス用電極の製造装置において、前記機構Aは、前記集電体の表裏に前記スラリーを塗布可能なもので、前記機構Cは、複数の前記レーザ照射部を備え、前記レーザ照射部が、前記集電体の表裏にレーザ照射可能な位置に配されていることを特徴とする。
【0057】
この蓄電デバイス用電極の製造装置において、前記機構Cよりも前記集電体の搬送方向の下流側に、塗布された前記スラリーを加熱する機構Dをさらに備えることを特徴とする。
【0058】
この蓄電デバイス用電極の製造装置において、前記機構Cにおける前記レーザ照射部の波長が、波長435nm以上550nm未満、または波長890nm以上950nm未満のレーザ光であることを特徴とする。
【0059】
この蓄電デバイス用電極の製造装置において、前記機構Bは、前記集電体の搬送方向における前記機構Cよりも上流側で、スラリーを乾燥する工程における材料予熱期、定率乾燥期、減率乾燥期のうち、材料予熱期にスラリーを乾燥可能な位置に配され、前記機構Cは、定率乾燥期にスラリーを乾燥可能な位置に配されていることを特徴とする。
【0060】
この蓄電デバイス用電極の製造装置において、前記機構Bは、加熱装置を備え、前記加熱装置が、熱風ノズルまたはヒータを有することを特徴とする。
【0061】
この蓄電デバイス用電極の製造装置において、前記機構Dは、加熱装置を備え、前記加熱装置が、熱風ノズルまたはヒータを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0062】
本発明の製造方法または製造装置によれば、レーザ光を用いて、照射箇所のスラリーを短時間に加熱することができるため、電極塗工装置の小型化、電極の生産速度の向上、ランニングコストの低減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】本実施形態に係る二次電池用電極の製造装置の構成を模式的に示す図
図2】同二次電池用電極の製造装置のレーザ照射部の配置を模式的に示す図
図3】同二次電池用電極の製造装置のレーザ照射部の配置を模式的に示す図
図4A】本実施形態に係る二次電池用電極の製造装置の変形例の構成を模式的に示す図
図4B】本実施形態に係る二次電池用電極の製造装置の変形例の構成を模式的に示す図
図5】連続塗工、塗布間欠塗工、ストライプ塗工で製造された電極の外観を示す図
図6】スラリーの乾燥工程の各段階を示す図
図7】実施例1の電極断面のNa元素マップを示す図
図8】実施例2の電極断面のNa元素マップを示す図
図9】比較例1の電極断面のNa元素マップを示す図
図10】実施例1、実施例2および比較例1の電極のサイクル特性を示す図
図11】参考例1の電極断面のC元素マップを示す図
図12】参考例2の電極断面のC元素マップを示す図
図13】参考例3の電極断面のC元素マップを示す図
図14】参考例4の電極断面のC元素マップを示す図
図15】比較例2の電極断面のC元素マップを示す図
図16】参考例1の電極断面のSEM像を示す図
図17】参考例2の電極断面のSEM像を示す図
図18】参考例3の電極断面のSEM像を示す図
図19】参考例4の電極断面のSEM像を示す図
図20】比較例2の電極断面のSEM像を示す図
図21】参考例1~4および比較例2の電極のサイクル特性を示す図
図22】塗布したスラリーにレーザ光を照射して乾燥している様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、電極には、正極、負極、バイポーラ電極、参照極が存在するが、いずれの電極でも、使用する集電体及び活物質が異なるのみで、製造装置及び製造方法は同様である。
【0065】
図1は、本実施形態に係る二次電池用電極の製造装置の構成を模式的に示す図である。図2は、同二次電池用電極の製造装置のレーザ照射部の配置を正面側から見た模式図である。図3は、同二次電池用電極の製造装置のレーザ照射部の配置を上面側から見た模式図である。
【0066】
図1に示すように、本実施形態に係る二次電池用電極の製造装置10は、ロール状の集電体100を巻き出す巻出機構11と、スラリー200が塗布された状態の集電体100を巻き取る巻取機構12と、集電体100に塗布されたスラリー200を乾燥するための乾燥炉20と、ヒータ21と、レーザ照射部30とを、主要な構成として備える。
【0067】
また、蓄電デバイス用電極の製造装置10は、巻出機構11から巻き出された集電体100に塗布するスラリー200を吐出するスロットダイ13と、スラリー200が塗布された集電体100が乾燥炉20内を通過する際に搬送をサポートする複数のサポートロール14と、集電体の裏面に接触して塗工面を支えるバックロール17とを備える。
【0068】
また、乾燥炉20内には、集電体100に塗布されたスラリー200を加熱して乾燥する複数のヒータ21が、通過する集電体100を挟んで上下にそれぞれ設けられている。なお、ヒータ21は本実施形態の加熱装置の一例であり、熱風ノズルを用いた加熱装置などを用いてもよい。また、低出力のレーザを用いた加熱装置などを用いることも考えられる。
【0069】
また、乾燥炉20には、外気を供給する給気管15と、供給された空気及び乾燥炉20内で発生するガスを外部に排気する排気管16とが接続されている。また、蓄電デバイス用電極の製造装置10には、ヒータ21より、集電体100の搬送方向における下流側に、レーザを照射するレーザ照射部30が複数設けられている。
【0070】
レーザ照射部30は乾燥炉20の外側に配されていて、照射されたレーザが通過する乾燥炉20の壁部分には、透過窓22が配されている。この透過窓22により、乾燥炉20内の外側から、レーザ照射部30よりのレーザを乾燥炉20内に照射することができるようになっている。また、乾燥炉20の外側には遮光フィルタ40が配されていて、本実施形態において、レーザ照射部30は、乾燥炉20の外側で、遮光フィルタ40の内側に配されている。
【0071】
また、図2(a)に示すように、複数のレーザ照射部30は、本実施形態の一例として3つ配されていて、集電体100の幅方向の中央に配される1つのレーザ照射部30Aと、その両側に1つずつのレーザ照射部30Bが配されている。中央のレーザ照射部30Aは、集電体100に塗布されたスラリー200全体に照射するレーザ(L1)で、両側のレーザ照射部30Bは、集電体100とスラリー200の境界を狙って照射するレーザ(L2)である。なお、集電体100とスラリー200の境界が片側のみの場合は、図2(b)に示すように、レーザ照射部30Aとレーザ照射部30Bの2つで構成することも可能である。
【0072】
また、レーザ照射部30Aとレーザ照射部30Bの配置は、図3(a)のように、レーザ照射部30Aよりのレーザ(L1)とレーザ照射部30Bよりのレーザ(L2)が、同時にオーバーラップするように配置するほか、図3(b)のように、レーザL1とレーザL2の一部がオーバーラップするような配置や、図3(c)のように、時間差でオーバーラップ、すなわち、境界部分に複数回照射するような配置とすることも可能である。いずれの場合も、集電体100とスラリー200の境界部分に、他の部分よりもレーザ照射が多くなるため、スラリーの剥がれなどが生じやすい境界部分をしっかりと乾燥することができる。
【0073】
また、図4Aに示すように、本実施形態の製造装置10は、複数のレーザ照射部30よりも下流側に、ヒータ21をさらに備える構成とすることも可能である。この場合、まず、スラリー200をヒータ21で乾燥した後、レーザ照射部30のレーザにより乾燥し、その後にさらにヒータ21で乾燥させる。このようにすれば、より確実にスラリーを乾燥させることができる。
【0074】
また、図4Bに示すように、本実施形態の製造装置10は、集電体100の表裏両面にスラリー200を塗布する構成とすることも可能である。この場合、少なくともレーザ照射前のサポートロール14は、例えば、エアーによるエアサポート18とするか、スラリー未塗布部分の集電体の両側のみのサポートロールとするか、サポートロール自体をなくすなどとすることが望ましい。また、スラリーが付着しない素材によるサポートロールとしてもよい。集電体に塗布した乾燥前のスラリーに通常のサポートロールを用いると、乾燥前のスラリーがサポートロールに付着するおそれがあるためである。
【0075】
上記した構成を備える製造装置10を用いた電極の製造方法は、一方向に所定速度で搬送されるロール状の集電体にスラリーを塗布し、そのスラリーを温度30℃以上スラリー中の分散媒の沸点以下で加熱した後、レーザ照射部から波長435nm以上550nm未満、または波長890nm以上1100nm未満のレーザ光を照射し、スラリー中の分散媒を気化除去することで、集電体上に合材層を形成する工程を備える。
【0076】
例えば、集電体として、ロール状に巻き取られた厚さ10μmの金属箔を準備し、一方で電極スラリーを製造する。その後、金属箔の表面に電極スラリーを塗布し、上記の波長のレーザ光によって乾燥して電極を得る。なお、金属箔の表裏両面にスラリーを塗布する場合には、同時塗布または図4のように片面ずつ随時に塗布することができる。
【0077】
本実施形態をリチウムイオン電池の電極の製造方法に適用することで、レーザ光が照射された箇所のスラリーが瞬時に加熱されるため、生産性の高い製造方法を提供することができる。具体的には、電極の性能を低下させることなく、従来の乾燥方法と比べて、乾燥時間の短縮、乾燥工程のエネルギー消費量を削減、乾燥炉長の短縮、設置スペースの大幅削減が実現できる。すなわち、同じスペースであれば、従来の乾燥方法と比べて生産能力を向上することが可能である。
【0078】
以下に、本実施形態をリチウムイオン電池用電極に適用した例について詳細に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。
【0079】
スラリーの塗布方法に制限はない。すなわち、連続塗工、塗布間欠塗工、ストライプ塗工など既知の塗工パターンを選択してよい。連続塗工、塗布間欠塗工、ストライプ塗工で製造された電極は、図5のような外観の電極となる。
【0080】
一例として、一方向に所定速度で搬送される集電体の表面に、塗工ヘッドから均一の厚さでスラリーを排出して塗布する方法がある。塗工ヘッドとしては、バーコーター、ナイフコーター、コンマコーター、リップコーター、グラビアコーター、ダイコーター、エアナイフ、リップコーター、リバースコーター、ドクターコーターなどの既知のものが使用可能である。塗布後、スラリーに含まれる分散媒を気化除去(乾燥)することで、集電体の表面に電極合材層を形成することができる。
【0081】
なお、塗布方法は、先計量式と後計量式にも大別できる。先計量式は、予め目的の塗布量になるように調整したスラリーを基材に塗工するので、基材の形状に沿って塗膜が形成され、一定の塗膜の厚みが得られやすい特徴がある。後計量式は、最初に過剰量のスラリーを塗布した後、目的の塗布量になるようにスラリーを排除して塗布量を調整するので、基材の形状に関係なく、平滑な塗布面を形成され、総厚(基材と塗膜の合計厚さ)が一定となりやすい特徴がある。いずれの方式でも問題なく電極作製可能であるが、高目付の塗布が容易である観点からは、後計量式が好ましい。
【0082】
後計量式には、バーコーター、ナイフコーター、コンマコーター、リップコーター、ダイコーター、エアナイフ、リップコーター、ドクターコーターなどが挙げられる。
【0083】
集電体の搬送方法は、ロールtoロール法、ベルトコンベヤ法、チェーンコンベヤ法、ローラーコンベヤ法、つり上げ法などの既知の方法が採用できる。ロールtoロール法とは、一方のロール状の集電体を巻き出されながら、その集電体に対してスラリーの塗工を行い、もう一方の再びロール状に巻き取る手法である。ベルトコンベヤ法とは、平らなベルト上に集電体を置き、ベルトの動きで搬送し、塗工する手法である。チェーンコンベヤ法とは、チェーン上に取り付けられた台に集電体を置いて搬送し、塗工する手法である。ローラーコンベヤ法とは、並んだ複数のローラー上に集電体を置き、ローラーの回転によって搬送し、塗工する手法である。つり上げ法とは、上方から集電体を吊るして、集電体を引き揚げながら塗工する手法である。このうち、大量生産が容易で、高速で同じ条件で連続的な生産が可能であるという理由から、ロールtoロール法が好ましい。
【0084】
なお、集電体が搬送されない場合は、塗工ヘッドが移動してスラリーを集電体に塗布する必要があり、大面積の電極を生産するには不利である。
【0085】
集電体が搬送する場合、バックロールやサポートロールで集電体を支持し、また必要に応じて張力を調整することで、集電体上にスラリーを均一に塗布することができる。
【0086】
ここで、バックロールとは、スラリーが塗布される付近に位置し、集電体の裏面に接触して塗工面を支えるローラーである。これにより、集電体がスラリーを均等に受け取るようにすることができる。サポートロールとは、巻き出し機構と巻き取り機構との間の設けられるローラーであり、複数のローラーで集電体を支えることができる。なお、バックロールやサポートロールには過熱機構が設けられていても構わない。
【0087】
スラリーの乾燥工程において、塗布されたスラリーにレーザ光を照射することで、分散媒が気化除去することが可能である。これにより電極を製造することはできる。しかし、材料予熱期のスラリー(より具体的には温度30℃以下のスラリー)にレーザ光を照射した場合、レーザの出力調整が非常に困難である。具体的には、レーザ出力が少しでも低いとスラリーが十分に乾燥せず、僅かでも高いとスラリーが沸騰し、緻密な合材層が得られない。さらに、十分な時間の材料予熱期を経ずに乾燥した場合、バインダや増粘剤などの成分が合材層の表面に析出しやすくなる。
【0088】
一方、減率乾燥期からレーザ光を照射した場合では、気化する成分である分散媒が少ないため、一気に温度が上昇してしまい、温度コントロールが困難である。合材層の温度が過剰に上昇しすぎると、合材層の意図しない熱分解や発火、集電体の酸化や溶融などを起こすことがある。
【0089】
上記の問題が少ないという理由から、定率乾燥期のスラリーにレーザ光を照射することが好ましい。また、定率乾燥期のスラリーにレーザ光を照射することで、乾燥炉の長さを短縮、あるいは搬送速度を早くすることが可能となり、電極の生産性が向上する。
図6に示すように、スラリーを乾燥する工程は、材料予熱期、定率乾燥期、減率乾燥期の3つの段階に分けられる。
【0090】
材料予熱期とは、スラリーから分散媒の気化が少しあるものの、主に塗布されたスラリーの温度が分散媒の蒸発温度近くまで上昇する期間で、定率乾燥期と減率乾燥期に比べて時間的には短い。また、この期間ではスラリーの固形分変化は少なく、内部応力の発生はほとんど見られない。
【0091】
定率乾燥期とは、材料予熱期の後に起こる乾燥期間であり、この時点でのスラリーは分散媒の液膜で全表面が覆われている状態にある。この期間においては、乾燥過程は自由水面からの蒸発と同様で、材料の温度は概ね一定であり、蒸発速度も概ね一定となる。恒率乾燥期ともよばれ、特徴としては、塗布されたスラリーの厚さ方向における温度分布が同一に保たれており、蒸発速度は表面温度に対応した飽和水蒸気圧と空気中の水蒸気分圧の差に比例するものとなる。ここで、自由水面とは、大気圧を受ける液面を意味する。また、この期間には、乾燥が進行するにつれてスラリーの体積が収縮し、急激な内部応力の増加が生じる。定率乾燥期の後には、減率乾燥期へと移行する。
【0092】
減率乾燥期とは、スラリーの乾燥の進行とともに蒸発速度が減少する期間である。スラリーの表面温度が急速に上昇し始め、厚さ方向のスラリーは表面温度に追従するようにして上昇後、スラリーの表面温度は熱源温度に近似するまで上昇する。
【0093】
材料予熱期、定率乾燥期、減率乾燥期は、スラリーが塗布された集電体を、分散媒の沸点近くの温度の環境下に静置し、スラリーの温度変化と重量変化を観測することで判断できる。例えば、加熱開始から重量減少がほとんどみられない期間が材料予熱期に該当する。材料予熱期の後、スラリーの温度変化がほとんど起こらず、重量減少の速度が時間と比例関係となる期間が定率乾燥期に該当する。定率乾燥期の後、スラリーの温度が急激に上昇する期間、または重量減少の速度が時間と比例関係ではなくなった時から分散媒がなくなり、固形分比率が平衡となるまでの期間が減率乾燥期に該当する。
【0094】
バインダや増粘剤などのマイグレーションを抑制し、均質な電極を生産するために、予め、塗布されたスラリーを温める材料予熱期を備えることが好ましい。具体的には、スラリーの温度を30℃以上、分散媒の沸点以下に保ち、その状態でレーザ光を照射するとよい。この材料予熱期において、集電体上のスラリーの温度を上記の範囲内に保つために、上記のレーザ光の出力を低く調整する方法もある。
【0095】
また、予めスラリーを所定温度に温めたスラリーを塗布する場合は、乾燥過程は材料予熱期の段階を不要とすることができる。
【0096】
材料予熱期は、加熱方法に関わらず、10秒以上600秒以下で設けることが好ましい。10秒未満だと予熱が不十分であることや、温度が不均一である可能性がある。材料予熱期であっても、スラリーから分散媒の気化はわずかにあるため、600秒を超える場合、固形分比率が高くなりやすい。
【0097】
スラリーを温める材料予熱期はレーザ光を用いても可能であるが、塗布するスラリーが厚膜である場合には、スラリーの表面だけが加熱され、集電体近傍のスラリーの温度は低いままとなりやすい。蓄電デバイスのエネルギー密度を向上させるためには、合材層の膜厚を大きくすることが有効であるが、材料予熱期においてはレーザ光の使用はあまり適していない。
【0098】
このような理由から、スラリーを温める材料予熱期においては、熱風や輻射などの加熱手段を用いることが好ましい。特に、スラリーの厚さ方向の温度ムラが少ないという理由から、近赤外線や遠赤外線を用いた輻射加熱、またはマイクロ波加熱が好ましい。このような輻射加熱は、放射エネルギーによる直接加熱であり、空気の対流熱など中間媒体を必要としないため、熱風と比べて乾燥効率がよい。
【0099】
上記のレーザ光の光源は、波長435nm以上1100nm未満であることが好ましいが、中でも、波長435nm以上550nm以下、または波長890nm以上1100nm未満の半導体レーザであることが好ましい。特に、半導体レーザで高出力化が可能であることと、高い電気効率であることから、波長900~1080nmがより好ましい。
【0100】
ここで、半導体レーザとは、半導体を素材として作られた回路素子に電圧印可することで発生するレーザである。一般的に、レーザ光の強さは出力で表される。ここで出力とは、レーザが出すことができる単位時間あたりのエネルギー(W)である。レーザの出力が高くなれば、高温にすることができ、乾燥時間を短くすることができる。
【0101】
マイグレーションを抑制し、均質な電極を生産することができるという観点から、前記レーザ光は、ピンポイントで照射するスポットビームや、細長いレーザ光を照射するラインビームよりも、一定の面積を照射することができるエリアビームであることが好ましい。このエリアビームは、集電体のMD方向に対して、照射長1cm以上の照射エリアを有することが好ましい。MD方向の照射長が長くなるに従って、バインダマイグレーションが起こりにくくなる傾向にある。より好ましくは集電体のMD方向に対して2cm以上、望ましくは5cm以上であるエリアビームがよい。
【0102】
TD方向に対しては、スラリーの塗布幅を超える範囲でレーザ光を照射することが好ましい。すなわち、塗布されたスラリーだけでなく、集電体にもレーザ光を照射することのできるエリアビームであることが好ましい。特に、スラリーの塗布幅を超過する長さが、0.1mm以上であることが好ましく、0.5mm以上がより好ましく、1mm以上がさらに好ましい。
【0103】
スラリーの塗布幅を超える範囲でレーザ光を照射することで、塗布後のスラリーの液だれを抑制し、合材層の厚さのムラを抑制することができるため、目付重量の狂いが少なくなる。加えて、塗布層を均一に乾燥することもできる。
【0104】
ここで、MD方向とは集電体が搬送される方向を意味する。TD方向とはMD方向の垂直方向、すなわち集電体の幅方向を意味する。
【0105】
塗布されたスラリーだけでなく、集電体にもレーザ光を照射しやすい塗布形状であるという理由から、上記スラリーを塗布する工程は、塗布間欠塗工、またはストライプ塗工であることが好ましい。また、塗布間欠塗工とストライプ塗工を組み合わせてもよい。
【0106】
塗布間欠塗工とは、搬送中の集電体にスラリーを間欠的に塗布する方法である。具体的には、塗布時にスラリーを塗工ヘッドに供給して集電体に塗布し、塗布を行わない時はスラリーの供給を塗工ヘッドへ停止させることで実現できる。この動作を繰り返すことにより、MD方向の集電体上に間欠部を複数設けることができる。
【0107】
ストライプ塗工とは、集電体のTD方向に、塗布される場所と塗布されない場所を形成する塗工方法である。例えば、ダイコーターを用いる場合、ダイコーターのスラリー排出口に、シム板を挟み込んだ状態で塗工することで実現できる。
【0108】
蓄電デバイス用電極に用いられる集電体の材質は、Al、Cu、Ni、Ti、Cr、Mo、Ru、W、ステンレス鋼などの金属であり、スラリーと比べてレーザ光を反射しやすい性質を有するが、スラリーが乾燥しうる出力で未塗布部である集電体にレーザ光を照射すると、集電体が酸化しやすい一方、集電体が酸化しない程度に調整された低出力のレーザ光では、スラリーが十分に乾燥しない。このような理由から、レーザ光をオーバーラップすることが望ましい。
【0109】
しかし、この方法の場合、レーザ光が散乱してしまう可能性があり、作業者や意図せぬ場所にレーザ光が照射される危険性がある。安全性を向上させるためには、スラリーを塗布する機構とレーザ光で乾燥する機構との間に、遮光フィルタが設けて仕切っていることが望ましい。
【0110】
遮光フィルタは、上記レーザ光の波長に応じる遮光性の高い色でセラミックスやガラス、金属、樹脂などからなる材質で構成された、板、フィルム、カーテンなどであればよい。
【0111】
また、材料予熱期、定率乾燥期、減率乾燥期の一連の乾燥工程は、給気口と排気口が設けられた乾燥炉内で実施するのが好ましい。ファンやブロワーを使用して、給気口から空気を炉内に導入し、排気口から炉内の空気を排気する機構を設けることで、スラリーから放出される気化したガスを効果的に除去できる。また、スラリーの分散媒体に有機溶媒を用いる場合、安全性を考慮して乾燥炉に防爆機構を設けることが好ましい。さらに、乾燥炉には、集電体やレーザ照射部を取り出すためのドアや開口部を設けても構わない。
【0112】
上記レーザ照射部を複数設け、各々のレーザ照射部からレーザ光を同時照射して、オーバーラップする照射エリアが存在してもよい。高出力のレーザ光を得るには、一般的に大型のレーザ発振機が必要になるが、設備が大がかりなものとなる難点がある。しかし、小型で汎用性のあるレーザ照射部を複数設置し、これらの発振機から照射されるレーザ光が特定のエリアで重なるようにすることで、大型のレーザ発振機を不要とし、高出力のレーザ光を得ることが可能である。
【0113】
上記レーザ照射部は、塗布面と対向するように、乾燥炉の外部に設けることが好ましい。この場合、乾燥炉の壁面には、レーザが通過可能な透過窓を設けるとよい。なお、レーザ照射部を乾燥炉内に設ける必要がある場合は、スラリー硬化時に発生するガス等でレーザ照射部のレンズ面の汚れが起こり得るため、発生ガスのレンズ面への付着をエアーカーテン等で遮断する構成とすることが好ましい。
【0114】
上記レーザ照射部は、集電体との距離が5cm以上300cm以下に設置することが好ましく、より好ましくは10cm以上200cm以下である。レーザ照射部と集電体との距離が近すぎると十分なビーム面積を確保するのが困難になる。逆に距離が遠すぎると必要な温度に到達させるためにレーザの出力を強くしなければならないため、非効率である。
【0115】
集電体の搬送速度は、スラリーの組成、固形分比率、塗布量、レーザの出力などに応じて、0.1m/min以上5000m/min以下で適正に設定すればよい。
【0116】
スラリーとしては、活物質、導電助剤、バインダと分散媒を混ぜ合わせたものが用いられる。ただし、レーザ光を照射して乾燥する場合には、カーボンが含有していることが好ましい。具体的には、スラリーの固形分に対してカーボンが0.1質量%以上含まれることが好ましい。0.1質量%未満の場合では、レーザ光を照射しても発熱しにくいため、高いレーザ出力が必要になることや、乾燥に長時間を要する。0.2質量%以上含まれることが好ましく、0.5質量%以上含まれることが望ましい。
【0117】
レーザ光により発熱するカーボンは、活物質または導電助剤を兼ね備えていることが好ましい。例えば、キャパシタの電極の場合、活物質として活性炭が含まれるため、レーザ光により活物質自体を発熱させることができる。しかし、LiTi12負極の場合、活物質として含まれるLiTi12は白色であるため、活物質自体の発熱は少ない。このような場合は、スラリーにカーボン系の導電助剤を加えるか、LiTi12とカーボンが複合化された活物質を用いるとよい。
【0118】
ここで、複合は、混合とは異なる概念である。混合粉末は2種以上の成分からなる粒子の集合であるのに対して、複合粉末は1つの粒子中に2種以上の成分が含まれている。具体的には、LiTi12の粒子表面がカーボンによって完全被覆された場合、LiTi12の粒子表面がカーボンによって部分被覆(言い換えれば、担持)された場合、LiTi12のマトリックス中にカーボンが分散し、カーボンがLiTi12の粒子表面に一部露出した場合は、複合粉末である。
【0119】
集電体にスラリーを塗布する場合、スラリーには流動性が必要である。使用する塗工方法の種類によっても異なるが、スラリーの固形分率としては30wt%以上70wt%以下に調整し、100mPa・s以上20000mPa・s以下の粘度(25℃)となっていることが好ましい。
【0120】
一方、レーザ光を照射するスラリーは、固形分率が55wt%以上95wt%以下に調整したものが好ましく、57wt%以上90wt%以下がより好ましく、60wt%以上85wt%以下がさらに好ましい。
【0121】
塗布するスラリーの固形分率が55wt%未満の場合には、加熱により分散媒を気化して、固形分率を上記範囲内に調整した後に、レーザ光を照射して乾燥することがよい。なお、後述する活物質、バインダ、導電助剤の前駆体が含まれる場合でも同様である。
【0122】
固形分率を上記範囲内に調整することで、レーザ光によるマイグレーションが起こりにくく、また電極の過剰な発熱を抑制することができる。例えば、固形分率が55wt%未満のスラリーにレーザ光を照射した場合、スラリーが沸騰して合材層が発泡し、緻密な合材層が得られないばかりか、バインダや増粘剤などの成分が合材層の表面に析出しやすい。95wt%を超えるスラリーの場合、分散媒が少ないため、直ちに合材層の温度が上昇し、電極の温度制御が困難である。合材層の温度が過剰に上昇しすぎると、合材層の意図しない熱分解や、発火、集電体の溶融などを起こすことがある。例えば、固形分が98wt%となるLiCoO含有スラリーをアルミニウム箔上に設け、これにレーザ光を照射し続けるとテルミット反応が起こり、激しい発熱反応を起こすことがある。
【0123】
活物質は、リチウムイオン電池に用いられる公知の材料が使用可能である。すなわち、キャリアとなるリチウムイオンを電気化学的に吸蔵および放出することが可能な材料が用いられる。例えば、正極用活物質では、LiCoO、Li(Ni0.33Co0.33Mn0.33)O、Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O、Li(Ni0.6Co0.2Mn0.2)O、Li(Ni0.7Co0.1Mn0.2)O、Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O、LiNiO、Li(Ni0.8Co0.15Al0.05)O、Li(Ni0.87Co0.1Al0.03)O、Li(Ni0.91Co0.05Al0.04)O、LiMn、LiMn1.5Ni0.5、LiFePO、LiFe0.2Mn0.8PO、LiMnPO、LiFe(P、LiMnO・Li(Co-Mn)O、LiFeSiO、LiMnSiO、などがあげられる。負極用活物質では、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどのカーボン系材料や、LiTi12、TiNb、Sn、Sn合金、Al、Si、SiO、Si合金、Ge、Sb、Biなどがあげられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。また、カーボンと複合化されていてもよい。
【0124】
なお、非水電解質二次電池には、段落0004に記載のように、硫黄を含む電極を用いた二次電池が存在するが、本願の発明者らが試験、検討したところ、硫黄や硫黄-炭素複合体を含むスラリーでは、レーザ光により加熱されると、硫黄分の蒸気圧が上昇し、蒸発や昇華が容易に起こるようになることがわかった。
【0125】
また、硫黄や硫化水素、二酸化硫黄などの硫黄系ガスは、たとえ低濃度であっても金属に腐食作用を及ぼすため、電子機器内の金属部品に深刻なダメージを及ぼす場合がある。特に、レーザ照射部においては、金属接点や配線の腐食だけでなく、硫黄分が光学部品に付着することにより、レーザの出力や光束、品質の著しい低下が起こる。そのため、硫黄や硫黄-炭素複合体を含む活物質を用いることは望ましくない。すなわち、レーザ光の被照射体は、硫黄を含まないことが好ましい。具体的にはスラリーに含まれる硫黄分を100ppm以下にすることが好ましい。硫黄の定量としては、誘導結合プラズマ発光分析法を用いることで正確に判別することができる。
【0126】
ナトリウムイオン電池やカリウムイオン電池、ナトリウムイオンキャパシタ、カリウムイオンキャパシタなどの用途である場合、Li元素を電気伝導を担うイオン(キャリア)と同じ元素に置き換えればよい。
【0127】
バインダは、樹脂系(有機)バインダあるいは無機バインダであればよい。樹脂系バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド(PI)、ポリアミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリアクリル、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルセルロース塩(CMC-Li、CMC-Na、CMC-K、CMC-NH4など)、キタンサンガム、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレンビニルアルコール、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸アミン、ポリアクリル酸エステル、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン、塩化ビニール、シリコーンゴム、ニトリルゴム、シアノアクリレート、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ラテックス、ポリウレタン、シリル化ウレタン、ニトロセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル、ポリスチレン、クロロプロピレン、レゾルシノール樹脂、ポリアロマティック、変性シリコーン、メタクリル樹脂、ポリブテン、ブチルゴム、2-プロペン酸、シアノアクリル酸、メチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリルオリゴマー、2-ヒドロキシエチルアクリレート、アルギン酸、デンプン、うるし、ショ糖、にかわ、ガゼイン、セルロースナノファイバー等の有機材料を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0128】
無機バインダは、例えば、特許文献(日本国特許6149147公報、日本国特開2018-063912公報)に記載のようなケイ酸塩系やリン酸塩系の他、ゾル系やセメント系などでもよい。例えば、リチウムケイ酸塩、ナトリウムケイ酸塩、カリウムケイ酸塩、セシウムケイ酸塩、グアニジンケイ酸塩、アンモニウムケイ酸塩、ケイフッ化塩、ホウ酸塩、リチウムアルミン酸塩、ナトリウムアルミン酸塩、カリウムアルミン酸塩、アルミノケイ酸塩、アルミン酸リチウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、ポリ塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、アンモニウムミョウバン、リチウムミョウバン、ナトリウムミョウバン、カリウムミョウバン、クロムミョウバン、鉄ミョウバン、マンガンミョウバン、珪藻土、ポリジルコノキサン、ポリタンタロキサン、ムライト、ホワイトカーボン、シリカゾル、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、アルミナゾル、コロイダルアルミナ、ヒュームドアルミナ、ジルコニアゾル、コロイダルジルコニア、ヒュームドジルコニア、マグネシアゾル、コロイダルマグネシア、ヒュームドマグネシア、カルシアゾル、コロイダルカルシア、ヒュームドカルシア、チタニアゾル、コロイダルチタニア、ヒュームドチタニア、ゼオライト、シリコアルミノフォスフェートゼオライト、セピオライト、モンモリナイト、カオリン、サポナイト、リン酸アルミニウム塩、リン酸マグネシウム塩、リン酸カルシウム塩、リン酸鉄塩、リン酸銅塩、リン酸亜鉛塩、リン酸チタン塩、リン酸マンガン塩、リン酸バリウム塩、リン酸スズ塩、低融点ガラス、しっくい、せっこう、マグネシウムセメント、リサージセメント、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、リン酸セメント、コンクリート、固体電解質等の無機材料を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0129】
なお、無機バインダに関しても、活物質同様に硫黄や硫黄-炭素複合体を含むスラリーでは、レーザ光により加熱されると、硫黄分の蒸気圧が上昇し、蒸発や昇華が容易に起こるようになるため、硫黄や硫黄-炭素複合体を含む無機バインダを用いることは望ましくない。
【0130】
導電助剤は、電子伝導性を有していれば特に制限はなく、例えば、金属、炭素材料、導電性高分子、導電性ガラス等が挙げられるが、高い電子伝導性と耐酸化性の観点と、レーザ光により発熱しやすいという理由から、カーボン材料が好ましい。具体的にはアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、ファーネスブラック(FB)、サーマルブラック、ランプブラック、チェンネルブラック、ローラーブラック、ディスクブラック、カーボンブラック(CB)、カーボンファイバー(例えば、登録商標であるVGCFという名称の気相成長炭素繊維)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホーン、グラファイト、グラフェン、グラッシーカーボン、アモルファスカーボンなどが挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いていることが好ましい。
【0131】
また、スラリーに活物質、バインダ、導電助剤の前駆体が含まれる場合には、スラリーの固形分に対してカーボン材料が1質量%以上含まれることが好ましい。1質量%未満の場合では、レーザ光を照射しても前駆体を反応させるための発熱が起こりにくいため、未反応の前駆体が電極に残存することがある。2質量%以上含まれることが好ましく、3質量%以上含まれることが望ましい。この場合、カーボン材料は、メディアン径(D50)0.1μm以下の粒子径で、バインダのマトリックス中に存在していることが好ましい。
【0132】
レーザ光を受けて発熱するカーボン材料は、電池に一般的に用いられるカーボン材料であればよく、例えば、アセチレンブラック(AB)やファーネスブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンファイバー、グラフェン、黒鉛、活性炭などが用いれる。すなわち、一般的なカーボン系導電助剤が使用可能である。
【0133】
例えば、リチウムイオン電池用のSn-Cu合金負極を製造する場合では、活物質前駆体としてSn、導電助剤としてAB、バインダとしてアクリル樹脂からなるスラリーを銅箔に塗布後、塗布物の表面温度が150℃以上300℃以下になるようにレーザ光を照射すればよい。塗布物に含まれるカーボン材料が発熱し、塗布物中のSnと集電体の銅が合金化反応を起こして、Sn-Cu合金が得られる。この場合、大気中ではSnやCuの酸化が起こるため、酸化を抑制するにはアルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスの環境下、減圧環境下、または不活性ガスを合材層に吹き付けながらレーザ光を照射するとよい。
【0134】
バインダ前駆体としてポリアミック酸(ポリアミド酸)を用いる場合でも、カーボン系導電助剤を含有させるとよい。例えば、活物質としてSi、バインダ前駆体としてポリアミック酸、導電助剤としてABを用いたスラリーをステンレス鋼箔に塗布後、大気中または不活性ガス環境下で塗布物の表面温度を150℃以上400℃以下になるようにレーザ光を照射すればよい。塗布物に含まれる導電助剤が発熱し、ポリアミック酸をイミド化させることができる。
【0135】
導電助剤前駆体としてギ酸銅やギ酸ニッケルなどを用いる場合でも、カーボン系導電助剤を含有させるとよい。例えば、活物質としてSiO、バインダとしてアクリル系樹脂、導電助剤前駆体としてギ酸銅、そして導電助剤であるABを用いたスラリーをステンレス鋼箔に塗布後、不活性ガス環境下で塗布物の表面温度を150℃以上300℃以下になるようにレーザ光を照射すればよい。塗布物に含まれる導電助剤が発熱し、ギ酸銅を銅に、ギ酸ニッケルをニッケルにすることができる。
【0136】
その他、活物質の前駆体から、LiCoO正極を製造する場合でも、カーボン系導電助剤を用いるとよい。例えば、炭酸リチウムと水酸化コバルトからなる活物質前駆体と、ケイ酸系無機バインダ、ABからなるスラリーをステンレス鋼箔に塗布後、塗布物の表面温度が700℃以上1000℃以下になるようにレーザ光を照射すればよい。塗布物に含まれる導電助剤が発熱し、水酸化コバルトと炭酸リチウムが反応して、LiCoOを合成できる。なお、LiCoOの合成には、700℃以上の温度が必要とされるため、集電体やバインダには耐熱性と耐酸化性に優れた材料を選択する必要がある。
【0137】
耐熱性の高いバインダとしては、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、無機バインダが挙げられる。すなわち、前駆体をレーザ光で反応させる場合は、これらのバインダ、特に無機バインダを用いることが好ましい。
【0138】
集電体は、電子伝導性を有し、保持した電極材料に通電し得る材料であれば特に限定されない。集電体の形状には、線状、棒状、板状、箔状、多孔状がある。多孔状には、メッシュ、織布、不織布、エンボス体、パンチング体、穿孔体、エキスパンド、又は発泡体などが挙げられる。
【0139】
塗布物の表面温度に基づき、適切なバインダと集電体の選択により、様々な電極を製造することができる。すなわち、レーザ光を用いて電極を製造する場合、材料の耐熱温度以下に表面温度を調整することが求められる。具体的には、表面温度を集電体の融点以下と、バインダの炭化温度以下に調整する必要がある。また、所定温度で電極の酸化が起こりえる場合には、真空や不活性ガスの環境下、または不活性ガスを塗布物に吹き付けながらレーザ光を照射することが好ましい。より具体的には、集電体としてAl箔を用いる場合では表面温度を660℃以下にする必要があり、Cu箔を用いる場合では1085℃以下、ステンレス鋼を用いる場合では1500℃以下にする必要がある。
【0140】
バインダとしてPVdFやSBRを用いる場合では220℃以下、アクリル系樹脂を用いる場合では300℃以下、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミドでは400℃以下、なお、ケイ酸塩やリン酸塩などの無機系バインダは炭化することがないため特に上限は設けない。
【0141】
表面温度は、処理される材料に強く依存するため、未知のスラリーを取り扱う場合には、レーザの出力だけでは表面温度を正確に知るのは困難である。したがって、処理表面が所望の温度に達しているかを確認する方法が必要である。表面温度の測定には、接触式や非接触(放射)式の温度測定機器を用いることができる。ただし、接触式の場合では、対象物とセンサーの温度差により熱が移動し、測定に影響を与える可能性がある。また、移動している対象物の温度測定は困難である。
【0142】
このような理由から、非接触式の温度測定機器を用いることが好ましい。非接触式の一例として、赤外線放射温度計(例えば、型番:AD-5616、エー・アンド・デイ製)を用いることができる。この放射温度計は、光沢の強い金属の測定には適していないが、スラリーや合材層などの塗布物の表面温度を測定には有効である。
【0143】
レーザの出力と、スラリーの組成、固形分比率や膜厚などによっても異なるが、レーザ光の照射時間は、2秒以上900秒以下が好ましく、6秒以上300秒以下がより好ましい。レーザの出力を大きくすることで、短時間になるものの、2秒未満では合材層が未乾燥である場合や、焼け焦げなどが発生しやすい。900秒を超える場合は、合材層の劣化や、集電体の酸化が起こり、充放電効率が悪くなることがある。
【0144】
上記した活物質、活物質前駆体、導電助剤の形状は特に限定されず、球状、楕円状、切子状、帯状、ファイバー状、フレーク状、ドーナツ状、中空状の粉末あってもよく、これらは単粒子であっても造粒体であってもよい。
【0145】
スラリーに含まれる分散媒は、リチウムイオン電池の電極スラリーに用いられる公知の分散媒が使用可能である。すなわち、粉末状の活物質や活物質前駆体を分散することが可能な流動体が用いられる。例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アルコール類、ケトン類、電解液に用いられる溶媒などが使用可能である。
【0146】
上記の製造方法により得られた電極は、正極、負極、参照電極として用いることができる。バイポーラ電極を製造する場合は、表裏に異なる合材層を設けることで実現できる。例えば、表面に正極合材層、裏面に負極合材層を設けた電極とすればよい。
【0147】
蓄電デバイスは、上記した電極を正極または/および負極に用いて、正極と負極との間にセパレータを介在させ、電解液を加えることで製造することができる。上記した電極を参照極として使う場合は、正極と負極との間に介在、または正極または負極の近傍に設ければよい。上記した電極がバイポーラ電極である場合、正極面と負極面が対向するようにセパレータを介して積層して構成すればよい。なお、セパレータに変えて固体電解質を用いても構わない。
【0148】
例えば、上記の電極(正極又は負極)を用いたリチウムイオン電池であれば、正極と負極とをセパレータを介して接合され、電解液内に浸漬した状態で密閉化された電池構造が考えられる。なお、電池の構造はこれに限られず、積層式電池、捲回式電池などの既存の電池形態や構造等に適用可能である。
【0149】
また、この電池に用いる電解質は、正極から負極、または負極から正極にアルカリ金属イオンを移動させることのできる液体または固体であればよく、公知の非水電解質二次電池やイオンキャパシタに用いられる電解質と同じものが使用可能である。例えば、電解液、ゲル電解質、固体電解質、イオン性液体、溶融塩があげられる。ここで、電解液とは、電解質が溶媒に溶けた状態のものをいう。
【0150】
電解質としては、非水電解質二次電池やイオンキャパシタで用いられるものであれば特に限定されないが、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が好適である。
【0151】
電解質の溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ-ブチロラクトン(GBL)、メチル-γ-ブチロラクトン、メチルラクトン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン(DOL)、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、フラン、ジメチルフラン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルテトラハイドロフラン(MeTHF)、テトラヒドロプラン(THP)、ジオキサン(DIOX)、クラウンエーテル、ジメトキシメタン(DMM)、ジメトキシエタン(DME)、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、メチルフルオロアセテート、エチルトリフルオロアセテート、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酪酸エチル、酪酸プロピル、メチル酪酸プロピル、酢酸ビニル、シアノ酢酸メチル、γ-バレロラクトン、σ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-ヘキサラクトン、γ-ウンデカラクトン、リン酸トリメチル(TMP)、リン酸トリエチル(TEP)、トリ-n-プロピルフォスフェート、トリオクチルホスファート、リン酸トリフェニル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、エチレンジアミン、ピリジン、N-メチルイミダゾール、ジメチルサルフェート、ジメチルサルファイト、ジプロピルサルファイト、エチレンサルファイト、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジフェニルスルホン、スルホラン、メチルスルホラン、メタンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸メチル、トリフルオロメタンスルホン酸メチル、プロパンスルホン、ブタンスルホン、ジメチルスルホキシド、ジフェニルジスルフィド、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、アセトニトリル、プロパンニトリル、アジポニトリル、バレロニトリル、グルタニトリル、マロノニトリル、スクシノニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、イソブチロニトリル、ビフェニル、無水コハク酸、t-ブチルベンゼン、ナフタレン、シクロヘキシルベンゼン、ベンゾトリアゾール、チオフェン、トルエン、メチルエチルケトン、ベンゼン、フルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(EVC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンサルファイト(ES)よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0152】
イオン性液体や溶融塩は、カチオン(陽イオン)の種類でピリジン系、脂環族アミン系、脂肪族アミン系などに類別される。これに組み合わせるアニオン(陰イオン)の種類を選択することで、多様なイオン性液体又は溶融塩を合成できる。カチオンには、イミダゾリウム塩類・ピリジニウム塩類などのアンモニウム系、ホスホニウム系イオン、無機系イオンなど、アニオンの採用例としては、臭化物イオンやトリフラートなどのハロゲン系、テトラフェニルボレートなどのホウ素系、ヘキサフルオロホスフェートなどのリン系などがある。
【0153】
イオン性液体や溶融塩は、例えば、イミダゾリニウム等のカチオンと、Br、Cl、BF 、PF 、(CFSO、CFSO 、FeCl 等のアニオンと組み合わせて構成するような公知の合成方法で得ることができる。イオン性液体や溶融塩であれば、電解質を加えなくても電解液として機能することができる。
【実施例
【0154】
以下、本発明に係る実施例を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。特に、実施例においては、リチウムイオン電池の電極を例に説明するが、本発明はこれに限らない。
【0155】
[黒鉛電極]
(実施例1)
人造黒鉛(メディアン径D50=20μm)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル社製、2260)、SBR(JSR社製、TDR2001)、AB(デンカ社製、デンカブラック)、水からなるスラリー(固形比95:2:1:2質量%、固形分比率54%)を自公転式ミキサー(シンキー社製、あわとり練太郎、ARE-310、回転数2000rpm、混合時間10分)で作製した。
【0156】
次に、電極塗工装置(コンマコーター)を使用して、集電体の片面に上記の黒鉛スラリーを連続塗布(塗布幅10cm)した。
【0157】
その後、80℃に設定したホットプレート式加熱機に10秒間接触させて予熱(固形分比率60%)後、塗布されたスラリーの表面温度が80~150℃になるようにレーザ光(レーザ出力13W、ピーク出力50W、照射時間40秒)を照射して、スラリーを乾燥して電極を作製した。集電体としては、厚さ10μmの電解銅箔(福田金属箔粉社製、タイプA)を用いた。
【0158】
単位面積当たりの合材層の重量としては、8~16mg/cmとした。レーザの照射サイズは42×42mmとした。なお、上記の工程は、特に記載がない限り、温度24℃±2、湿度60%±10、大気環境下で行われた。
【0159】
(実施例2)
実施例2の電極は、80℃に設定したホットプレート式加熱機に60秒間接触させて予熱(固形分比率65%)した他、実施例1と同様である。
【0160】
(比較例1)
比較例1の電極は、予熱せずに作製した他、実施例1と同様である。
【0161】
(電極断面のNa元素の分布)
合材層にマイグレーションが発生していないかを確認するために、各電極の断面のNa元素の分布をEPMAにより観察した。
【0162】
図7に、実施例1の電極断面のNa元素マップを示す(白色の箇所はNa元素が存在している場所を示している)。
【0163】
図8に、実施例2の電極断面のNa元素マップを示す(白色の箇所はNa元素が存在している場所を示している)。
【0164】
図9に、比較例1の電極断面のNa元素マップを示す(白色の箇所はNa元素が存在している場所を示している。)
【0165】
図7図9から明らかなように、比較例1の合材層の表層にはNa元素が多く偏在している。対して、実施例1と実施例2にはそのような表面偏在は確認されない。実施例1、実施例2および比較例1はいずれも増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを用いており、この成分にはNa元素が含まれる。したがって、比較例1の電極では増粘剤のマイグレーションが起こっていることが示唆される。
【0166】
(電池特性)
実施例1、実施例2、比較例1の各電極を試験電極とし、対極には金属Li(本条金属製、厚さ500μmのリチウム箔)を、電解液には1M LiPF/EC:DEC=1:1vol.(キシダ化学社製)を、セパレータにポリプロピレン(PP)/ポリエチレン(PE)/ポリプロピレン(PP)三層微多孔膜(セルガード社、2325)とガラスフィルター(ADVANTEC社、GA-100)を重ねたものを用いて、露点-60℃以下のドライ環境下でR2032型コインセルを作製した。
【0167】
スラリーの乾燥方法がサイクル特性に与える影響を確認するために、30℃環境で0.1C率の充放電(カットオフ電圧0.0~1.5V)を5サイクル実施後、0.2C率の充放電を繰り返した。
【0168】
図10に、実施例1、実施例2および比較例1の電極のサイクル特性を示す。
図10から明らかなように、比較例1に比べて、実施例1および実施例2では安定した放電容量を長期間示しており、長寿命であることがわかる。
【0169】
[SiO電極]
(参考例1)
Si(エルケム社製、メディアン径D50=3μm)、ポリアミック酸(IST社製、ドリームボンド)、アセチレンブラック(デンカ社製、デンカブラック)、NMPからなるスラリー(固形比79:3:18質量%、固形分比率54%)を自公転式ミキサー(シンキー社製、あわとり練太郎、ARE-310、回転数2000rpm、混合時間10分)で作製した。次に、電極塗工装置(コンマコーター)を使用して、集電体の片面に上記のSiスラリーを連続塗布(塗布幅10cm)した。
【0170】
その後、予熱せず、塗布されたスラリーの表面温度が170℃になるようにレーザ光(レーザ出力13W、ピーク出力50W、照射時間10秒)を照射して、スラリーの乾燥とポリアミック酸のイミド化を行って電極を作製した。集電体としては、厚さ10μmのNiめっき鋼箔(新日鉄住金社製、スーパーニッケル)を用いた。単位面積当たりの合材層の重量としては、1.6~1.8mg/cmとした。レーザの照射サイズは42×42mmとした。なお、上記の工程は、特に記載がない限り、温度24℃±2、湿度60%±10、大気環境下で行われた。
【0171】
(参考例2)
参考例2の電極は、塗布されたスラリーの表面温度が200℃になるようにレーザ光(レーザ出力18W、ピーク出力50W、照射時間10秒)を照射して、スラリーの乾燥とポリアミック酸のイミド化を行って電極を作製した他、参考例1と同様である。
【0172】
(参考例3)
参考例3の電極は、塗布されたスラリーの表面温度が320℃になるようにレーザ光(レーザ出力34W、ピーク出力50W、照射時間10秒)を照射して、スラリーの乾燥とポリアミック酸のイミド化を行って電極を作製した他、参考例1と同様である。
【0173】
(参考例4)
参考例4の電極は、塗布されたスラリーの表面温度が500℃を超えるようにレーザ光(レーザ出力100W、ピーク出力150W、照射時間10秒)を照射して、スラリーの乾燥とポリアミック酸のイミド化を行って電極を作製した他、参考例1と同様である。
【0174】
(比較例2)
比較例2の電極は、80℃に設定したホットプレート式加熱機に60秒間接触させて、塗布されたスラリーの固形分比率を96%に調整後、塗布されたスラリーの表面温度が280℃になるようにレーザ光(レーザ出力27W、ピーク出力50W、照射時間10秒)を照射して、スラリーの乾燥とポリアミック酸のイミド化を行って電極を作製した他、実施例3と同様である。
【0175】
(合材層の乾燥度合い)
参考例1~3の合材層は、表面のみが乾いており、内部は乾燥していなかったため、乾燥不良とした。参考例4と比較例2の合材層は乾燥していた。
【0176】
(電極断面のC元素の分布とSEM像)
合材層にマイグレーションが発生していないかを確認するために、各電極の断面のC元素の分布をEPMAにより観察した。なお、参考例1~3の合材層は乾燥不良であったことから、改めて80℃の熱風に30分さらして乾燥処理した。
【0177】
図11に、参考例1の電極断面のC元素マップを示す(白色の箇所はC元素が存在している場所を示している)。
【0178】
図12に、参考例2の電極断面のC元素マップを示す(白色の箇所はC元素が存在している場所を示している)。
【0179】
図13に、参考例3の電極断面のC元素マップを示す(白色の箇所はC元素が存在している場所を示している。)
【0180】
図14に、参考例4の電極断面のC元素マップを示す(白色の箇所はC元素が存在している場所を示している。)
【0181】
図15に、比較例2の電極断面のC元素マップを示す(白色の箇所はC元素が存在している場所を示している。)
【0182】
図16に、参考例1の電極断面のSEM像を示す。
【0183】
図17に、参考例2の電極断面のSEM像を示す。
【0184】
図18に、参考例3の電極断面のSEM像を示す。
【0185】
図19に、参考例4の電極断面のSEM像を示す。
【0186】
図20に、比較例2の電極断面のSEM像を示す。
【0187】
図11~15から明らかなように、表面温度が320℃となるように作製した参考例3の合材層の表層にはC元素が多く偏在していた。これは、ポリイミドや導電助剤に由来するC元素だと思われる。一方、改めて80℃の熱風で乾燥した参考例1と参考例2には上記のような表面偏在は確認されない。また、予め、スラリーの固形分比率を96%に調整後に、レーザ光を照射した比較例2においても、上記のような表面偏在は確認されなかった。
【0188】
図16~20から明らかなように、500℃を超える温度で作製した参考例4の合材層には内部に大きな空隙が複数確認されたが、改めて80℃の熱風で乾燥した参考例1と参考例2には上記のような大きな空隙の発生は確認されない。また、予め、スラリーの固形分比率を96%に調整後に、レーザ光を照射した比較例2においても、上記のような空隙の発生は確認されなかった。
【0189】
(電池特性)
参考例1~4、および比較例2の各電極を試験電極とし、対極には金属Li(本条金属社製、厚さ500μmのリチウム箔)を、電解液には1M LiPF/EC:DEC=1:1vol.(キシダ化学社製)を、セパレータにPP/PE/PP三層微多孔膜(セルガード社、2325)とガラスフィルター(ADVANTEC社、GA-100)を重ねたものを用いて、露点-60℃以下のドライ環境下でR2032型コインセルを作製した。
【0190】
なお、参考例1~3の合材層は乾燥不良であったことから、改めて80℃の熱風に30分さらして乾燥処理したものを用いている。
【0191】
スラリーの乾燥方法がサイクル特性に与える影響を確認するために、30℃環境で0.1C率の充放電(カットオフ電圧0.0~1.5V)を5サイクル実施後、0.2C率の充放電を繰り返した。
【0192】
図21に、参考例1~4および比較例2の電極のサイクル特性を示す。
図21から明らかなように、比較例2と比べ、参考例1~4は放電容量が大きい。このうち、参考例2が最も高容量で安定した容量を維持している。
【0193】
比較例2はマイグレーションを起こしていないものの、レーザ光を用いて乾燥する場合、スラリーの固形分比率が高く、気化する成分である分散媒(NMP)が少なかったため、電極の温度が上昇し、集電体が酸化したものと思われる。
【0194】
[レーザエリアの検討]
(参考例5)
人造黒鉛(メディアン径D50=20μm)、カルボキシメチルセルロース(ダイセル社製、2260)、SBR(JSR製、TDR2001)、アセチレンブラック(デンカ社製、デンカブラック)からなるスラリー(固形比95:2:1:2質量%、固形分比率51%)を作製した。次に、電極塗工装置(コンマコーター)を使用して、集電体の片面に上記の黒鉛スラリーを連続塗布(塗布幅20mm)した。
【0195】
その後、塗布されたスラリーに、レーザ出力113W、照射時間4.8秒の条件でレーザ光を照射してスラリーを乾燥して電極を作製した。スラリーの塗布幅をよりも片側長さ11mmずつ超過するようにレーザ光を照射した。集電体としては、厚さ10μmの電解銅箔(福田金属箔粉社製、タイプA)を用いた。単位面積当たりの合材層の重量としては、16~18mg/cmとした。レーザの照射サイズは42×42mmとした。
【0196】
(参考例6)
参考例6の電極は、上記の黒鉛スラリーを連続塗布(塗布幅42mm)し、スラリーの塗布幅を超過せず、かつレーザ光が照射されないスラリーがないようにレーザ光を照射した他、参考例5と同様である。
【0197】
(参考例7)
参考例7の電極は、上記の黒鉛スラリーを連続塗布(塗布幅60mm)し、スラリーの塗布幅に収まるようにレーザ光を照射した。レーザ光が照射されないスラリーが片側9mmずつある他、参考例5と同様である。
【0198】
(塗膜の乾燥度合い)
図22に、塗布したスラリーにレーザ光を照射して乾燥している様子を示す(図中斜部は乾燥が不十分だった箇所)。
【0199】
参考例5では、レーザ光が照射された全面のスラリーが十分に乾燥していた。しかし、参考例6では、レーザ光が照射されたスラリーでも、未塗布の近傍の合材層の乾燥は不十分であった。参考例7では、レーザ光が照射されたスラリーでも、レーザが照射されていない近傍の合材層の乾燥が不十分であった。
【0200】
参考例6よりも参考例7の方が乾燥が不十分であった理由としては、未乾燥のスラリーが乾燥した合材層に分散媒を補給する効果があったからだと考えられる。
【0201】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。例えば、上記の実施形態では主にリチウムイオン電池を例にして説明したが、リチウムイオン電池に限らず、ナトリウムイオン電池やカリウムイオン電池など、その他の非水電解質二次電池にも本発明を適用できる。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0202】
10 電極の製造装置
11 巻出機構
12 巻取機構
13 スロットダイ
14 サポートロール
15 吸気管
16 排気管
17 バックロール
18 エアサポート
20 乾燥炉
21 ヒータ
30 レーザ照射部
40 遮光フィルタ
100 集電体
200 スラリー
L1 レーザ
L2 レーザ

【要約】
【課題】 電極塗工装置の小型化、電極の生産速度の向上、ランニングコストの低減を実現できる蓄電デバイス用電極の製造方法と製造装置を提供する。
【解決手段】 蓄電デバイス用電極の製造方法であって、一方向に所定速度で搬送されるロール状の集電体にスラリーを塗布する工程Aと、温度30℃以上スラリー中の分散媒の沸点以下に塗布された前記スラリーを加熱する工程Bと、集電体上に塗布された前記スラリーに、レーザ照射部から波長435nm以上550nm未満、または波長890nm以上1100nm未満のレーザ光を照射する工程Cと、を備え、前記スラリーが、スラリーの固形分に対してカーボンを0.1質量%以上含む、蓄電デバイス用電極の製造方法。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22