(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】指標値予測装置、指標値予測方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/04 20230101AFI20250303BHJP
G06Q 50/02 20240101ALI20250303BHJP
【FI】
G06Q10/04
G06Q50/02
(21)【出願番号】P 2021019216
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2020029542
(32)【優先日】2020-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、人工知能技術適用によるスマート社会の実現/生産性分野委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514108263
【氏名又は名称】株式会社ファームシップ
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 由久
(72)【発明者】
【氏名】北島 正裕
(72)【発明者】
【氏名】後藤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】納本 淳
【審査官】牧 裕子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110298693(CN,A)
【文献】特開2019-083746(JP,A)
【文献】特開2001-216372(JP,A)
【文献】特開2019-075159(JP,A)
【文献】特開平07-253964(JP,A)
【文献】特開2004-355616(JP,A)
【文献】特開2017-224268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象植物の市場指標値を予測する指標値予測装置であって、
特定地域における過去の気象に関するデータを取得する第1取得部と、
前記対象植物とは異なる非対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得する第2取得部と、
前記対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得する第3取得部と、
前記対象植物の市場指標値を予測する予測モデルを記憶する記憶部と、
過去の算出対象時期の前記対象植物の市場指標値を算出する算出部と、
前記第3取得部の取得データが示す前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値と、前記算出部が算出した前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値と、の相関度を評価する評価部と、
予測対象時期の前記対象植物の市場指標値を予測する予測部と、を有
し、
前記第1取得部は、複数の前記特定地域における過去の気象に関するデータを取得し、
前記第2取得部は、複数種類の前記非対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得し、
前記算出部は、
前記第1取得部により取得された、前記算出対象時期より前の特定期間における前記特定地域の気象に関するデータを用いて、前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値を、前記特定地域を変えながら算出し、
前記第2取得部により取得された、前記特定期間における前記非対象植物の市場指標値を示すデータを用いて、前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値を、前記非対象植物の種類を変えながら算出し、
前記第3取得部により取得された、前記特定期間中の指定時期における前記対象植物の市場指標値を示すデータを用いて、前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値を、前記指定時期を変えながら算出し、
前記評価部は、
前記算出部が前記特定地域を変えながら算出した前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値についての前記相関度を前記特定地域毎に評価し、
前記算出部が前記非対象植物の種類を変えながら算出した前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値についての前記相関度を前記非対象植物の種類毎に評価し、
前記算出部が前記指定時期を変えながら算出した前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値についての前記相関度を前記指定時期毎に評価し、
前記予測モデルにおいて、前記特定地域における過去の気象、前記非対象植物の過去の市場指標値、及び、前記指定時期での前記対象植物の市場指標値が、変数として設定されており、
前記予測部は、
前記第1取得部の取得データのうち、前記特定地域毎に評価された前記相関度に基づいて選択された前記特定地域における過去の気象に関するデータと、
前記第2取得部の取得データのうち、前記非対象植物毎に評価された前記相関度に基づいて選択された前記非対象植物の過去の市場指標値を示すデータと、
前記第3取得部の取得データのうち、前記指定時期毎に評価された前記相関度に基づいて選択された前記指定時期での前記対象植物の市場指標値を示すデータと、をそれぞれ前記予測モデルに入力して、前記予測対象時期の前記対象植物の市場指標値を予測する、指標値予測装置。
【請求項2】
2種類以上の前記非対象植物からなる組み合わせが複数設定され、
前記算出部は、各組み合わせに含まれる2種類以上の前記非対象植物の各々について前記第2取得部が取得したデータを用いて、前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値を、前記非対象植物の組み合わせを変えながら算出し、
前記評価部は
、前記相関度を、前記非対象植物の組み合わせを変えながら評価し、
前記予測部は、前記相関度に基づいて選択された組み合わせに含まれる2種類以上の前記非対象植物の各々について前記第2取得部が取得したデータを前記予測モデルに入力することで、前記予測対象時期の前記対象植物の市場指標値を予測する、請求項
1に記載の指標値予測装置。
【請求項3】
2以上の前記特定地域からなる組み合わせが複数設定され、
前記算出部は、各組み合わせに含まれる2以上の前記特定地域の各々について前記第1取得部が取得したデータを用いて、前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値を、前記特定地域の組み合わせを変えながら算出し、
前記評価部は
、前記相関度を、前記特定地域の組み合わせを変えながら評価し、
前記予測部は、前記相関度に基づいて選択された組み合わせに含まれる2以上の前記特定地域の各々について前記第1取得部が取得したデータを前記予測モデルに入力することで、前記予測対象時期の前記対象植物の市場指標値を予測する、請求項
1に記載の指標値予測装置。
【請求項4】
前記第1取得部は、前記対象植物の産地である前記特定地域、及び、前記対象植物の卸売市場がある前記特定地域のうちの少なくとも一つにおける過去の気象に関するデータを取得する、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の指標値予測装置。
【請求項5】
前記予測部は、前記対象植物の前記市場
指標値として、前記対象植物の出荷規模に関する値を予測する、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の指標値予測装置。
【請求項6】
前記予測モデルにおいて、感染症の国内感染状況に関する指標値が、変数としてさらに設定されており、
前記感染症の国内感染状況に関する
指標値を示すデータを取得する第4取得部をさらに有し、
前記予測部は、前記第4取得部の取得データを
さらに前記予測モデルに入力
することで、
前記予測対象時期の前記対象植物の市場指標値を予測する、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の指標値予測装置。
【請求項7】
対象植物の市場指標値を予測する指標値予測方法であって、
コンピュータが、特定地域における過去の気象に関するデータを取得する第1取得工程と、
コンピュータが、前記対象植物とは異なる非対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得する第2取得工程と、
コンピュータが、前記対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得する第3取得工程と、
コンピュータが、前記対象植物の市場指標値を予測する予測モデルを記憶する記憶工程と、
コンピュータが、過去の算出対象時期の前記対象植物の市場指標値を算出する算出工程と、
コンピュータが、前記第3取得工程での取得データが示す前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値と、前記算出工程にて算出した前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値と、の相関度を評価する評価工程と、
コンピュータが
、予測対象時期の前記対象植物の市場指標値を予測する予測工程と、を有
し、
前記第1取得工程では、複数の前記特定地域における過去の気象に関するデータを取得し、
前記第2取得工程では、複数種類の前記非対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得し、
前記算出工程では、
前記第1取得工程にて取得された、前記算出対象時期より前の特定期間における前記特定地域の気象に関するデータを用いて、前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値を、前記特定地域を変えながら算出し、
前記第2取得工程にて取得された、前記特定期間における前記非対象植物の市場指標値を示すデータを用いて、前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値を、前記非対象植物の種類を変えながら算出し、
前記第3取得工程にて取得された、前記特定期間中の指定時期における前記対象植物の市場指標値を示すデータを用いて、前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値を、前記指定時期を変えながら算出し、
前記評価工程では、
前記算出工程にて前記特定地域を変えながら算出した前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値についての前記相関度を前記特定地域毎に評価し、
前記算出工程にて前記非対象植物の種類を変えながら算出した前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値についての前記相関度を前記非対象植物の種類毎に評価し、
前記算出工程にて前記指定時期を変えながら算出した前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値についての前記相関度を前記指定時期毎に評価し、
前記予測モデルにおいて、前記特定地域における過去の気象、前記非対象植物の過去の市場指標値、及び、前記指定時期での前記対象植物の市場指標値が、変数として設定されており、
前記予測工程では、
前記第1取得工程での取得データのうち、前記特定地域毎に評価された前記相関度に基づいて選択された前記特定地域における過去の気象に関するデータと、
前記第2取得工程での取得データのうち、前記非対象植物毎に評価された前記相関度に基づいて選択された前記非対象植物の過去の市場指標値を示すデータと、
前記第3取得工程での取得データのうち、前記指定時期毎に評価された前記相関度に基づいて選択された前記指定時期での前記対象植物の市場指標値を示すデータと、をそれぞれ前記予測モデルに入力して、前記予測対象時期の前記対象植物の市場指標値を予測する、指標値予測方法。
【請求項8】
コンピュータに対象植物の市場指標値を予測させるプログラムであって、
特定地域における過去の気象に関するデータを取得する第1取得工程と、
前記対象植物とは異なる非対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得する第2取得工程と、
前記対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得する第3取得工程と、
前記対象植物の市場指標値を予測する予測モデルを記憶する記憶工程と、
過去の算出対象時期の前記対象植物の市場指標値を算出する算出工程と、
前記第3取得工程での取得データが示す前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値と、前記算出工程にて算出した前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値と、の相関度を評価する評価工程と、
予測対象時期の前記対象植物の市場指標値を予測する予測工程と、
をコンピュータに実施させるように構成され、
前記第1取得工程では、複数の前記特定地域における過去の気象に関するデータを取得し、
前記第2取得工程では、複数種類の前記非対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得し、
前記算出工程では、
前記第1取得工程にて取得された、前記算出対象時期より前の特定期間における前記特定地域の気象に関するデータを用いて、前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値を、前記特定地域を変えながら算出し、
前記第2取得工程にて取得された、前記特定期間における前記非対象植物の市場指標値を示すデータを用いて、前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値を、前記非対象植物の種類を変えながら算出し、
前記第3取得工程にて取得された、前記特定期間中の指定時期における前記対象植物の市場指標値を示すデータを用いて、前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値を、前記指定時期を変えながら算出し、
前記評価工程では、
前記算出工程にて前記特定地域を変えながら算出した前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値についての前記相関度を前記特定地域毎に評価し、
前記算出工程にて前記非対象植物の種類を変えながら算出した前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値についての前記相関度を前記非対象植物の種類毎に評価し、
前記算出工程にて前記指定時期を変えながら算出した前記算出対象時期の前記対象植物の市場指標値についての前記相関度を前記指定時期毎に評価し、
前記予測モデルにおいて、前記特定地域における過去の気象、前記非対象植物の過去の市場指標値、及び、前記指定時期での前記対象植物の市場指標値が、変数として設定されており、
前記予測工程では、
前記第1取得工程での取得データのうち、前記特定地域毎に評価された前記相関度に基づいて選択された前記特定地域における過去の気象に関するデータと、
前記第2取得工程での取得データのうち、前記非対象植物毎に評価された前記相関度に基づいて選択された前記非対象植物の過去の市場指標値を示すデータと、
前記第3取得工程での取得データのうち、前記指定時期毎に評価された前記相関度に基づいて選択された前記指定時期での前記対象植物の市場指標値を示すデータと、をそれぞれ前記予測モデルに入力して、前記予測対象時期の前記対象植物の市場指標値を予測する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、市場指標値を予測する指標値予測装置、指標値予測方法、及びプログラムに係り、特に、対象植物の市場指標値を予測する指標値予測装置、指標値予測方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
野菜等の植物の市場指標値(例えば、価格等)は、その植物の需給量に影響を及ぼす。野菜等の生産者は、市場指標値の動向を踏まえながら、その生産量(供給量)を調整する。例えば、ある野菜の市場価格が高くなる場合、その野菜と同種の野菜を植物工場で生産する者は、工場栽培の野菜の出荷量を増やそうとする。
【0003】
野菜等の市場指標値を予測する技術は、従来から開発されている。例えば、特許文献1に記載の技術によれば、収穫時期に関して複数設定された候補時期の各々について、その候補時期における作物の価格を予測することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1をはじめ、これまでに開発された指標値予測の技術では、例えば、予測対象時期の天候、及び、対象植物の過去の市場価格等を変数とし、これらの変数の値から、予想対象時期の対象作物の指標値を予測していた。
一方、対象植物の市場指標値の予測については、より高い予測精度が求められ、市場指標値の予測精度を向上させる技術の開発が期待されている。
【0006】
そこで、本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、対象植物の市場指標値をより高い精度にて予測することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の指標値予測装置は、対象植物の市場指標値を予測する指標値予測装置であって、特定地域における過去の気象に関するデータを取得する第1取得部と、対象植物とは異なる非対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得する第2取得部と、対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得する第3取得部と、対象植物の市場指標値を予測する予測モデルを記憶する記憶部と、第1取得部の取得データ、第2取得部の取得データ、及び第3取得部の取得データをそれぞれ予測モデルに入力して、予測対象時期の対象植物の市場指標値を予測する予測部と、を有することを特徴とする。
【0008】
上述した本発明の指標値予測装置について、より好適な構成を述べると、例えば、第2取得部は、複数種類の非対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得し、第2取得部の取得データを用いて、過去の算出対象時期の対象植物の市場指標値を、非対象植物の種類を変えながら算出する算出部と、第3取得部の取得データが示す算出対象時期の対象植物の市場指標値と、算出部が算出した算出対象時期の対象植物の市場指標値との相関度を、非対象植物の種類を変えながら評価する評価部と、を有し、予測部は、相関度に基づいて選択された種類の非対象植物について第2取得部が取得したデータを予測モデルに入力することで、予測対象時期の対象植物の市場指標値を予測するとよい。
【0009】
さらに好適な構成を述べると、2種類以上の非対象植物からなる組み合わせが複数設定され、算出部は、各組み合わせに含まれる2種類以上の非対象植物の各々について第2取得部が取得したデータを用いて、算出対象時期の対象植物の市場指標値を、非対象植物の組み合わせを変えながら算出し、評価部は、第3取得部の取得データが示す算出対象時期の対象植物の市場指標値と、算出部が算出した算出対象時期の対象植物の市場指標値との相関度を、非対象植物の組み合わせを変えながら評価し、予測部は、相関度に基づいて選択された組み合わせに含まれる2種類以上の非対象植物の各々について第2取得部が取得したデータを予測モデルに入力することで、予測対象時期の対象植物の市場指標値を予測するとよい。
【0010】
さらに好適な構成を述べると、第1取得部は、複数の特定地域における過去の気象に関するデータを取得し、第1取得部の取得データを用いて、過去の算出対象時期の対象植物の市場指標値を、特定地域を変えながら算出する算出部と、第3取得部の取得データが示す算出対象時期の対象植物の市場指標値と、算出部が算出した算出対象時期の対象植物の市場指標値との相関度を、特定地域を変えながら評価する評価部と、を有し、予測部は、相関度に基づいて選択された特定地域について第1取得部が取得したデータを予測モデルに入力することで、予測対象時期の対象植物の市場指標値を予測するとよい。
【0011】
さらに好適な構成を述べると、2以上の特定地域からなる組み合わせが複数設定され、算出部は、各組み合わせに含まれる2以上の特定地域の各々について第1取得部が取得したデータを用いて、算出対象時期の対象植物の市場指標値を、特定地域の組み合わせを変えながら算出し、評価部は、第3取得部の取得データが示す算出対象時期の対象植物の市場指標値と、算出部が算出した算出対象時期での対象植物の市場指標値との相関度を、特定地域の組み合わせを変えながら評価し、予測部は、相関度に基づいて選択された組み合わせに含まれる2以上の特定地域の各々について第1取得部が取得したデータを予測モデルに入力することで、予測対象時期の対象植物の市場指標値を予測するとよい。
【0012】
さらに好適な構成を述べると、第2取得部は、予測対象時期よりも前の期間における非対象植物の市場指標値を示すデータを取得し、第3取得部は、予測対象時期よりも前の期間における対象植物の市場指標値を示すデータを取得し、予測部は、第2取得部の取得データのうち、指定された時期の非対象植物の市場指標値を示すデータと、第3取得部の取得データのうち、指定された時期の対象植物の市場指標値を示すデータと、を予測モデルに入力することで、予測対象時期の対象植物の市場指標値を予測するとよい。
【0013】
さらに好適な構成を述べると、第1取得部は、対象植物の産地である特定地域、及び、対象植物の卸売市場がある特定地域のうちの少なくとも一つにおける過去の気象に関するデータを取得するとよい。
【0014】
また、予測部は、対象植物の市場価格値として、対象植物の出荷規模に関する値を予測してもよい。
【0015】
また、本発明の指標値予測装置は、感染症の国内感染状況に関するデータを取得する第4取得部をさらに有してもよい。この場合において、予測部は、第1取得部の取得データ、第2取得部の取得データ、第3取得部の取得データ、及び、第4取得部の取得データをそれぞれ予測モデルに入力して、予測対象時期の対象植物の市場指標値を予測してもよい。
【0016】
また、前述した課題を解決するために、本発明の指標値予測方法は、対象植物の市場指標値を予測する指標値予測方法であって、コンピュータが、特定地域における過去の気象に関するデータを取得する第1取得工程と、コンピュータが、対象植物とは異なる非対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得する第2取得工程と、コンピュータが、対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得する第3取得工程と、コンピュータが、対象植物の市場指標値を予測する予測モデルを記憶する記憶工程と、コンピュータが、第1取得工程での取得データ、第2取得工程での取得データ、及び第3取得工程での取得データをそれぞれ予測モデルに入力することで、予測対象時期の対象植物の市場指標値を予測する予測工程と、を有する指標値予測方法である。
【0017】
また、前述した課題を解決するために、本発明のプログラムは、コンピュータに対象植物の市場指標値を予測させるプログラムであって、特定地域における過去の気象に関するデータを取得する第1取得工程と、対象植物とは異なる非対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得する第2取得工程と、対象植物の過去の市場指標値を示すデータを取得する第3取得工程と、対象植物の市場指標値を予測する予測モデルを記憶する記憶工程と、第1取得工程での取得データ、第2取得工程での取得データ、及び第3取得工程での取得データをそれぞれ予測モデルに入力することで、予測対象時期の対象植物の市場指標値を予測する予測工程と、をコンピュータに実施させるように構成されたプログラムである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、特定地域における過去の気象、対象植物とは異なる非対象植物の過去の市場指標値、及び、対象植物の過去の市場指標値を用いて、予測対象時期の対象植物の市場指標値を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る指標値予測装置を含む工場栽培システムの概念図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る指標値予測装置が備えるハードウェア機器を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る指標値予測装置の機能を示す図である。
【
図4】指標値予測フローにおける予測モデル取得フェーズの流れを示す図である。
【
図5】指標値予測フローにおける価格予測フェーズの流れを示す図である。
【
図6A】感染症の国内感染状況に関する変数と、市場価格との間の相関を示す図である(その1)。
【
図6B】感染症の国内感染状況に関する変数と、市場価格との間の相関を示す図である(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態(以下、本実施形態と言う。)に係る指標値予測装置、指標値予測方法及びプログラムについて説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするために挙げた一例にすぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下に説明する実施形態から変更又は改良され得る。また、当然ながら、本発明には、その等価物が含まれる。
【0021】
また、本明細書において、「装置」とは、単独で特定の機能を発揮する一つの装置の他、分散して存在しているものの特定の機能を発揮するために協働する複数の装置をも含むものである。
また、本明細書において、市場指標値とは、市場価格、市場取引量、及び市場売上を含む。
また、本明細書において、「市場価格」とは、対象植物の卸売市場における卸売価格である。「市場取引量」とは、対象植物の出荷量又は卸売数量であり、「市場売上」とは、市場価格に市場取引量を乗じて得られる値の額である。なお、本明細書では、対象植物が野菜(以下、対象野菜ともいう)であるケースを具体例に挙げて説明することとする。ただし、対象植物は、野菜以外の植物、例えば果物及び花卉であってもよい。
また、本明細書において、「気象」とは、天候、気温、湿度、気圧、降水量、降雪量、日射量及びその他の大気の状態等、並びに、それらの結果として現れる現象を示す概念である。
また、本明細書において、「植物の種類」とは、生物学的分類における目、科、属及び種のいずれかで表される種類を意味する。すなわち、互いに同族であるが種(品種)が異なる植物同士は、互いに異なる種類の植物に該当する。
また、本明細書において、「産地」とは、対象野菜を栽培する場所及び地域を意味する。また、「消費地」とは、対象野菜の卸売市場が存在する場所及び地域を意味する。
【0022】
<<本実施形態に係る指標値予測装置の用途>>
本実施形態に係る指標値予測装置は、対象植物の市場価格を予測する価格予測装置(以下、価格予測装置10と言う。)である。以下、価格予測装置10の用途について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、価格予測装置10を含む工場栽培システムSを概念的に示した図である。
なお、以下に説明する内容は、対象植物の市場取引量(出荷量)又は市場売上を予測する指標値予測装置についても適用され得る。
【0023】
価格予測装置10は、予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測するために用いられる。予測対象時期は、将来における任意の時期であり、例えば、一日又は数日後の時点、一週間又は数週間後の時点、あるいは一カ月又は数カ月後の時点である。市場価格は、一般的に時間、日、週、月又は年の単位で変動するため、予測される予測対象時期の市場価格は、その時期の任意の時点における設定価格であってもよく、その時期における市場の休場日を考慮し又は考慮しない平均値及び最大値、最小値、中央値、積算値、標準偏差、又は最頻値等の統計処理された値であってもよい。
【0024】
市場価格の予測結果(予測価格)は、対象野菜の栽培条件に反映される。
詳しく説明すると、本実施形態において、対象野菜は、圃場にて露地栽培されると共に、
図1に示す植物工場F内でも栽培され、例えば、対象野菜を養液水耕栽培方式で栽培する。具体的には、多段式の棚の各段に対象野菜の株(個体)を複数載せ、それぞれの根を養液に浸しつつ、それぞれの葉及び茎に向けて人工光及び/又は太陽光を照射する。それぞれの株は、収穫サイズまで生長し、その後に収穫されて出荷される。
【0025】
植物工場Fには、工場栽培システムSが設けられており、このシステムによって、植物工場Fにおける対象野菜の栽培条件が調整される。このとき、工場栽培システムSが有する不図示の制御装置に対して、対象野菜の予測価格が入力される。
【0026】
制御装置は、予測価格に応じて、養液中の成分及び各成分の濃度、照射光の強度、並びに、棚内の温湿度及び二酸化炭素濃度等を設定する。これにより、植物工場Fにおける対象野菜の生長速度が制御される。この結果、対象野菜を植物工場Fで生産する者は、予測価格から対象野菜の売れ行きを見定め、植物工場Fからの出荷量を予測価格に応じた量に調整することができる。
【0027】
なお、対象野菜は、植物工場Fで栽培される野菜には限定されず、また、対象野菜の種類、栽培方式、栽培される地域(産地)、卸売される地域(消費地)、及び、栽培時期等については特に限定されない。
【0028】
また、本実施形態では、対象野菜の市場価格の予測結果(予測価格)を、植物工場Fにおける対象野菜の栽培条件に反映させることとしたが、予測価格をどのように利用するかについては特に限定されない。
【0029】
ちなみに、本発明を適用することができる野菜の一例としては、以下の野菜が挙げられる。
なましいたけ、まつたけ、なめこ、えのきだけ、しめじ、マッシュルーム、まいたけ、エリンギだけ、及びその他きのこ類;
わらび、山うど、たらの芽、及びその他山菜;
うめ、ゆず、だいだい、すだち、かぼす、ぎんなん、及びその他の果樹類;
きゅうり、かぼちゃ、ズッキーニ、なす、こなす、べいなす、ながなす、トマト、ミニトマト、ピーマン、ジャンボピーマン、パプリカ、ししとう、とうもろこし、オクラ、とうがん、しろうり、レイシ(にがうり)、及びその他果菜類;
わさび、根しょうが、葉しょうが、とうがらし、め類、たで、かいわれ、しそ、おおば、ほじそ、みょうが、みょうがたけ、ハーブ類、ぼうふう、もろきゅうり、ふきのとう、食用菊、ベビーリーフ、及びその他香辛つま物;
だいこん、かぶ、にんじん、ごぼう、たけのこ、れんこん、くわい、ラディシュ、及びその他根菜類;
メークイン、男爵、ばれいしょ、かんしょ、さといも、セレベス、京いも、やつがしら、ながいも、やまといも、及びその他のイモ類;
たまねぎ、にんにく、らっきょう、エシャレット、ゆりね、ペコロス、ア-リレット、及びその他土物野菜類;
いんげん、さやえんどう、きぬさやえんどう、ピース、そらまめ、えだまめ、及びその他豆科野菜;
レタス、サニーレタス、グリーンリーフレタス、キャベツ、グリーンボール、はくさい、さんとうさい、みず菜、つけな類、こまつな、つまみな、ほうれんそう、ねぎ、こねぎ、わけぎ、あさつき、ふき、うど、根みつば、切みつば、糸みつば、しゅんぎく、せり、あしたば、にら、セルリー、アスパラガス、カリフラワー、ブロッコリー、サラダな、パセリ、にんにくの芽、チンゲンサイ、タアサイ、なのはな、レッドキャベツ、メキャベツ、クレソン、エンダイブ、モロヘイヤ、サンチュ、えん菜、及びその他葉茎菜類等。
【0030】
<<価格予測装置の構成>>
次に、価格予測装置10の構成について、
図2及び3を参照しながら説明する。
図2は、価格予測装置10が有するハードウェア機器を示す図である。
図3は、価格予測装置10の機能を示す図である。
価格予測装置10は、コンピュータによって構成される。価格予測装置10を構成するコンピュータとしては、例えば、対象野菜の生産者が利用する端末(例えば、PC、タブレット型の端末、又はスマートフォン等)が該当する。価格予測装置10を構成するコンピュータは、
図2に示すように、プロセッサ11、メモリ12、通信用インタフェース13、ストレージ14、入力機器15、及び出力機器16を有する。
【0031】
プロセッサ11は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、MCU(Micro Controller Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、TPU(Tensor Processing Unit)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって構成されるとよい。なお、プロセッサ11は、アナログ演算装置、又は量子力学特有の物理状態を用いた演算装置でもよい。
メモリ12は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などの半導体メモリによって構成されるとよい。
通信用インタフェース13は、例えばネットワークインターフェースカード、又は通信インタフェースボード等によって構成されるとよい。ちなみに、通信用インタフェース13によるデータ通信の規格については、特に限定されるものではなく、Wi-fi(登録商標)に基づく無線LANによる通信、3G、4G若しくは5Gの移動通信システムによる通信、又はLTE(Long Term Evolution)に基づく通信等が挙げられる。
ストレージ14は、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)、FD(Flexible Disc)、MOディスク(Magneto-Optical disc)、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、SDカード(Secure Digital card)、又はUSBメモリ(Universal Serial Bus memory)等によって構成されるとよい。
入力機器15は、例えばキーボード、マウス、又はタッチパネル等によって構成されるとよい。出力機器16は、例えばディスプレイ及びスピーカ等によって構成されるとよい。
【0032】
また、価格予測装置10を構成するコンピュータには、ソフトウェアとして、価格予測用のプログラムがインストールされている。このプログラムは、本発明のプログラムに相当し、プロセッサ11によって読み取られて実行される。このプログラムの実行により、コンピュータが価格予測装置10として機能し、対象野菜の市場価格を予測するための各種のデータ処理を実施する。
なお、上記のプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体から読み込んで取得してもよいし、インターネット又はイントラネット等を介して受信(ダウンロード)することで取得してもよい。
【0033】
また、価格予測装置10を構成するコンピュータは、インターネット等の通信用ネットワークと通信用インタフェース13を通じて、サーバコンピュータ等の他のコンピュータと通信してデータを取得する。他のコンピュータには、例えば、各地の気象等に関するデータを配信するコンピュータ、及び野菜の市場価格を示すデータを配信するコンピュータ等が含まれる。
【0034】
価格予測装置10を構成するコンピュータの構成を、機能面から新たに説明する。価格予測装置10を構成するコンピュータは、
図3に示すように、第1取得部101、第2取得部102、第3取得部103、記憶部104、予測部105、算出部106、及び評価部107を機能部として有する。
記憶部104は、上述したメモリ12又はストレージ14によって構成される。記憶部104以外の機能部は、価格予測装置10を構成するコンピュータが有する前述のハードウェア機器と、前述した価格予測用のプログラムとが協働することで実現される。
以下、上述した機能部のそれぞれについて説明する。
【0035】
(第1取得部)
第1取得部101は、インターネット等を通じて他のコンピュータと通信することで、特定地域における過去の気象に関するデータを取得する。
本実施形態において、「特定地域」は、行政区画に則って区画される地域であり、日本であれば都道府県、又は市区町村である。ただし、これに限定されず、市区町村よりも細かい単位で区画された地域であってもよい。
【0036】
本実施形態において、第1取得部101が取得するデータは、例えば、平均気温(℃)、平均湿度(%)、霧日数(日)、平均気圧(hPa)、10分降水量の最大値(mm)、降雪量の合計値(cm)、日平均雲量が1.5未満となる日数(日)、日降水量が0.0mm以上となる日数(日)、及び、平均全天日射量(MJ/m2)を示すデータであってもよい。
なお、第1取得部101の取得データが示す値を、説明の便宜上、以下では「気象値」と呼ぶこととする。
【0037】
本実施形態において、第1取得部101は、複数の特定地域における過去の気象に関するデータを取得し、例えば、所定期間における日本全国各地の気象に関するデータを取得する。ここで、所定期間とは、価格予測装置10のユーザが予め設定した期間であり、所定期間の長さは、任意に決められる。以降の説明では、所定期間が月単位で決められ、例えば、現時点のnカ月前(nは自然数)~現時点までの期間であることとする。
なお、第1取得部101の取得データが示す気象値は、上記の所定期間における各月の代表値であればよく、例えば平均値及び最大値、最小値、中央値、積算値、標準偏差、又は最頻値等の統計処理された値であってもよい。
【0038】
また、特定地域には、対象野菜の産地及び消費地のうちの少なくとも一方が含まれていると好ましい。すなわち、第1取得部101は、対象野菜の産地である特定地域、及び、対象野菜の消費地である特定地域のうちの少なくとも一つにおける過去の気象に関するデータを取得するとよい。
【0039】
(第2取得部)
第2取得部102は、インターネット等を通じて他のコンピュータと通信することで、対象野菜とは異なる非対象野菜の過去の市場価格を示すデータを取得する。非対象野菜は、非対象植物に相当し、対象野菜と異なる種類の野菜である。
なお、非対象野菜は、対象野菜との関係で好適に選定されるのが好ましい。例えば、対象野菜が地上で生長する野菜(具体的には、主な可食部分が地上に現れる野菜)であれば、同じく地上で生長する非対象野菜を選ぶのがよい。
【0040】
また、本実施形態において、第2取得部102は、複数種類の非対象野菜の過去の市場価格を示すデータを取得し、例えば、各種類の非対象野菜について所定期間(現時点のnカ月前~現時点までの期間)における各月の月平均価格を示すデータを取得する。
【0041】
(第3取得部)
第3取得部103は、インターネット等を通じて他のコンピュータと通信することで、対象野菜の過去の市場価格を示すデータを取得する。本実施形態において、第3取得部103は、対象野菜について所定期間(現時点のnカ月前~現時点までの期間)における各月の月平均価格を示すデータを取得する。
【0042】
(記憶部)
記憶部104は、第1取得部101、第2取得部102及び第3取得部103のそれぞれの取得データを記憶するとともに、対象野菜の市場価格を予測する予測モデルを記憶する。
本実施形態において、記憶部104は、価格予測装置10を構成するコンピュータが備える記憶機器(具体的には、メモリ12及びストレージ14)によって構成されるが、これに限定されるものではない。例えば、価格予測装置10と通信可能に接続された外部サーバ(具体的には、クラウドサービス用のサーバ等)に各種のデータを記憶させてもよい。
【0043】
予測モデルは、対象野菜の市場価格を予測するための関数(近似式)又は数理モデルであり、本実施形態では下記の予測式(1)である。
(1)
【0044】
上記の予測式(1)のうち、左辺のPmは、予測対象時期の対象野菜の市場価格の予測値、すなわち予測価格である。右辺のP(si)、Q(gc,tj)及びR(hd,uk)は、変数、すなわち価格予測用の入力値である。
P(si)は、予測対象時期より前の期間のうち、i番目(iは1~xの自然数)の指定月siにおける対象野菜の市場価格、厳密には月平均価格である。ここで、指定月siとは、価格予測用に用いる値を決める上で予め指定された月である。
Q(gc,tj)は、c番目(cは1~mの自然数)の種類gcの非対象野菜の市場価格であり、予測対象時期より前の期間のうち、j番目(jは1~yの自然数)の指定月tjにおける市場価格、厳密には月平均価格である。
R(hd,uk)は、d番目(dは1~nの自然数)の特別地域hdにおける気象値であり、予測対象時期より前の期間のうち、k番目の指定月ukにおける気象値、厳密には、その月の平均値等の代表値である。
なお、上記の記号m,n,x,y,zは、それぞれ任意の自然数を表している。
【0045】
また、予測式(1)中のパラメータai、aj、ak及びbは、最小二乗法によって決定される。すなわち、市場価格の予測結果と実際の市場価格との差を算出し、その差の二乗和が最小となるように上記の各パラメータが決められる。
【0046】
そして、第1取得部101、第2取得部102、及び第3取得部103のそれぞれの取得データが示す各値を予測式(1)に入力することで、予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測(推算)することができる。
【0047】
なお、上述した予測式(1)の右辺は、P(si)、Q(gc,tj)及びR(hd,uk)のそれぞれの項を加算するだけでなく、これらを掛け合わせる場合があり、具体的には、P(si)*Q(gc,tj)と、Q(gc,tj)*R(hd,uk)、すなわち市場価格と気象データとの積を示す項が含まれてもよい。また、予測式(1)では、上記の項を掛け合わせる乗算だけでなく、除算又は累乗等の演算を含めてもよい。
【0048】
また、予測モデルは、上記の予測式(1)のような近似式又は多変量解析による回帰式に限定されず、他のモデルであってもよい。例えば、第1取得部101、第2取得部102、及び第3取得部103のそれぞれの取得データを含むデータセットを学習データとして用いた機械学習を実施し、その成果として得られる数理モデルを予測モデルとしてもよい。この予測モデルは、第1取得部101、第2取得部102、及び第3取得部103のそれぞれの取得データを入力データとし、予測対象時期の対象野菜の市場価格を出力する。
【0049】
機械学習によって予測モデルを取得する場合、学習の種類は問わず、教師あり学習、教師無し学習、及び強化学習のいずれであってもよい。また、機械学習のアルゴリズムは、誤差逆伝播法、勾配降下法、シミュレーティト・アニーリング法、量子アニーリング法又はそれ以外の手法であってもよい。また、機械学習によって構築される数理モデルは、ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク、リカレントニューラルネットワーク、アテンション、トランスフォーマー、敵対的生成ネットワーク、ディープラーニングニューラルネットワーク、ボルツマンマシン、マトリクス・ファクトーリゼーション(MF)、ファクトーリゼーション・マシーン(FM)、エムウエイ・ファクトーリゼーション・マシーン(M-way FM)、フィールド認識型ファクトーリゼーション・マシーン(FFM)、フィールド認識型ニューラル・ファクトーリゼーション・マシーン(FNFM)、サポートベクタマシン、ベイジアンネットワーク、決定木、ランダムフォレスト、又はそれ以外のモデルであってもよい。なお、上述のファクト―リゼーション・マシン(MF、FM、M-way FM、FFM、FNFM)を採用する場合には、因数分解のモデル方程式にて予測式を定義することになる。この場合、予測式中に含まれる組み合わせ特徴量の項(交互項)については、二次制約なし二値最適化(Quadratic Unconstrained Binary Optimization:QUBO)の形式としてもよく、あるいはIsingモデルに変換して量子アニーリングを用いて計算してもよい。
【0050】
また、予測式(1)中のai、aj、ak及びbをはじめ、予測モデル中の各パラメータは、一度決められた後には固定されてもよく、あるいは、予測対象時期及び対象野菜の種類等に応じて適宜変更又は更新されてもよい。
また、上記に列挙した各ファクトーリゼーション・マシン(MF、FM、M-way FM、FFM、FNFM)にて予測モデルを構築する場合、ai、aj、ak及びbは、ベクトル、ベクトルのノルム、ベクトルの内積、ベクトルの外積、ベクトルのアダマール積、行列、行列のノルム、行列の内積、行列の外積、行列のアダマール積、テンソル、テンソルのノルム、テンソルの内積、テンソルの外積、テンソルのアダマール積等であってもよい。
【0051】
また、第1取得部101、第2取得部102、及び第3取得部103のそれぞれの取得データについては、定期的に(例えば、毎週)新たなデータを自動的に取得して更新するのがよい。この場合、取得データの更新に伴い、予測モデル中の各パラメータを更新し、具体的には、予測モデル構築用の学習を再実施するとよい。
【0052】
また、本実施形態では、価格予測装置10が予測モデルである予測式(1)を導出するが、これに限定されるものではない。例えば、予測式(1)を他のコンピュータによって導出した後、そのコンピュータから価格予測装置10に、予測式(1)を含む計算用プログラムが提供され、価格予測装置10側でそのプログラムを利用する形態でもよい。
【0053】
(予測部)
予測部105は、第1取得部101の取得データ、第2取得部102の取得データ、及び第3取得部103の取得データをそれぞれ予測モデルに入力して、予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測する。本実施形態では、予測部105は、記憶部104に記憶された予測式(1)を読み出し、前述した変数に相当する値を予測式(1)に代入することで、予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測する。
【0054】
なお、本実施形態において、予測部105は、過去の非対象野菜の市場価格を変数Qとして予測式(1)に入力する際には、2種類以上の非対象野菜の過去の市場価格を用いることができる。同様に、予測部105は、特定地域における過去の気象値を変数Rとして予測式(1)に入力する際には、2以上の特定地域のそれぞれにおける過去の気象値を用いることができる。
【0055】
(算出部)
算出部106は、第1取得部101、第2取得部102及び第3取得部103のそれぞれの取得データを用いて、過去の所定時期(以下、算出対象時期と言う。)の対象野菜の市場価格を算出する。算出対象時期は、過去における任意の時期であり、例えば、先月としてもよい。
【0056】
算出部106は、第2取得部102の取得データを用いて、算出対象時期の対象野菜の市場価格を、非対象野菜の種類を変えながら算出する。
より詳しく説明すると、本実施形態では、2種類以上の非対象野菜からなる組み合わせが複数設定される。
算出部106は、各組み合わせに含まれる2種類以上の非対象野菜の各々について第2取得部102が取得したデータを用い、対象野菜の算出対象時期の市場価格を、組み合わせを変えながら算出する。このときに用いられるデータは、第2取得部102の取得データのうち、算出対象時期のeカ月前(eは自然数)~1カ月前の各月の非対象野菜の市場価格を示すデータである。
算出部106は、それぞれの組み合わせについて、上記のデータが示す値(すなわち、2種類以上の非対象野菜の市場価格)を所定の算出式に代入する。この算出式は、2種類以上の非対象野菜の過去の市場価格から、算出対象時期の対象野菜の市場価格を算出するために用意された式であり、例えば一次線形型の近似式である。
以上の要領により、算出部106は、非対象野菜の組み合わせ毎に、算出対象時期での対象野菜の市場価格を算出する。
【0057】
なお、本実施形態では、2種類以上の非対象野菜からなる組み合わせを設定したが、一つの組み合わせに含まれる非対象野菜の種類の数は、1種類であってもよい。
【0058】
また、算出部106は、第1取得部101の取得データを用いて、算出対象時期の対象野菜の市場価格を、特定地域を変えながら算出する。
より詳しく説明すると、本実施形態では、2以上の特定地域らなる組み合わせが複数設定される。
算出部106は、各組み合わせに含まれる2以上の特定地域の各々について第1取得部101が取得したデータを用い、対象野菜の算出対象時期の市場価格を、組み合わせを変えながら算出する。この時に用いられるデータは、第1取得部101の取得データのうち、算出対象時期のfカ月前(fは自然数)~1カ月前の各月の、特定地域における気象値を示すデータである。
算出部106は、それぞれの組み合わせについて、上記のデータが示す値(すなわち、2以上の特定地域における気象値)を所定の算出式に代入する。この算出式は、2以上の特定地域における過去の気象値から、算出対象時期の対象野菜の市場価格を算出するために用意された式であり、例えば一次線形型の近似式である。
以上の要領により、算出部106は、特定地域の組み合わせ毎に、算出対象時期の対象野菜の市場価格を算出する。
【0059】
なお、本実施形態では、2以上の特定地域からなる組み合わせを設定したが、一つの組み合わせに含まれる特定地域の数は、1箇所であってもよい。
【0060】
(評価部)
評価部107は、第3取得部103の取得データが示す算出対象時期の対象野菜の市場価格(すなわち、実際の市場価格)と、算出部106が算出した算出対象時期の対象野菜の市場価格との相関度を評価する。ここで、相関度とは、実際の市場価格と算出部106によって算出された市場価格との相関性を表す指標であり、本実施形態では相関係数が相関度として用いられる。相関係数を求める方法は、公知であり、その説明については省略することとする。
【0061】
算出部106が、非対象野菜の種類(厳密には、2種類以上の非対象野菜からなる組み合わせ)を変えながら、算出対象時期の対象野菜の市場価格を算出した場合、評価部107は、非対象野菜の種類(非対象野菜の組み合わせ)を変えながら、上記の相関係数を評価する。
【0062】
また、算出部106が、特定地域(厳密には、2以上の特定地域からなる組み合わせ)を変えながら、算出対象時期の対象野菜の市場価格を算出した場合、評価部107は、特定地域(特定地域の組み合わせ)を変えながら、上記の相関係数を算出する。
【0063】
評価部107によって評価された相関係数は、予測部105による価格予測に反映される。
具体的に説明すると、予測部105は、評価部107が算出した相関係数に基づき、非対象野菜の種類を選択し、厳密には、複数設定された非対象野菜の組み合わせのうち、いずれかの組み合わせを選択する。
そして、予測部105は、選択された種類の非対象野菜(つまり、選択された組み合わせに含まれる2種類以上の非対象野菜)について第2取得部102が取得したデータを用いて、予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測する。すなわち、予測部105は、選択された2種類以上の非対象野菜の過去の市場価格を予測式(1)に入力して、予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測する。
【0064】
また、予測部105は、評価部107が算出した相関係数に基づき、特定地域を選択し、厳密には、複数設定された特定地域の組み合わせのうち、いずれかの組み合わせを選択する。
そして、予測部105は、選択された特定地域(つまり、選択された組み合わせに含まれる2以上の特定地域)について第1取得部101が取得したデータを用いて、予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測する。すなわち、予測部105は、選択された2以上の特定地域の過去の気象値を予測式(1)に入力して、予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測する。
【0065】
<<価格予測フローについて>>
次に、価格予測装置10による価格予測フローについて、
図4及び5を参照しながら説明する。
図4及び5は、価格予測フローの説明図である。
価格予測フローでは、本発明の価格予測方法を採用している。つまり、
図4及び5に示す価格予測フロー中の各ステップは、本発明の価格予測方法の構成要素に該当する。
【0066】
価格予測フローは、
図4に示す予測モデル取得フェーズと、
図5に示す価格予測フェーズとに分かれる。
予測モデル取得フェーズの流れについて
図4を参照しながら説明すると、先ず、価格予測装置10をなすコンピュータ(以下、単にコンピュータと言う。)が、複数の特定地域のそれぞれについて、過去の特定期間における気象に関するデータを取得する(S001)。
ここで、過去の特定期間は、後述するステップS006における市場価格の算出対象時期を基準として決められ、例えば、算出対象時期のmカ月前から算出対象時期までの期間である。また、ステップS001で取得するデータは、上記の特定期間における各月の気象値の平均値を示すデータである。
【0067】
また、コンピュータは、複数種類の非対象野菜のそれぞれについて、過去の特定期間における市場価格を示すデータを取得する(S002)。このステップS002で取得するデータは、算出対象時期のmカ月前から算出対象時期までの各月の、非対象野菜の月平均価格を示すデータである。
また、コンピュータは、過去の特定期間における対象野菜の市場価格を示すデータ、詳しくは、算出対象時期のmカ月前から算出対象時期までの期間までの各月の、対象市場価格の月平均価格を示すデータを取得する(S003)。
【0068】
次に、コンピュータは、S001~S003での取得データを用いて、算出対象時期の対象野菜の市場価格を算出する(S004)。
このステップS004において、コンピュータは、ステップS001での取得データが示す特定地域における過去の気象値のうち、算出対象時期のmカ月前~1カ月前までの各月の気象値を用いて、算出対象時期の対象野菜の市場価格を算出する。
このとき、コンピュータは、特定地域の組み合わせを複数設定し、組み合わせを変えながら、各組み合わせに含まれる2以上の特定地域のそれぞれの気象値を用いて、算出対象時期の対象野菜の市場価格を算出する。
【0069】
また、ステップS004において、コンピュータは、ステップS002での取得データが示す非対象野菜の過去の市場価格のうち、算出対象時期のmカ月前から1カ月前までの各月の市場価格を用いて、算出対象時期の対象野菜の市場価格を算出する。
このとき、コンピュータは、非対象野菜の組み合わせを複数設定し、組み合わせを変えながら、各組み合わせに含まれる2種類以上の非対象野菜のそれぞれの過去の市場価格を用いて、算出対象時期の対象野菜の市場価格を算出する。
【0070】
また、ステップS004において、コンピュータは、ステップS003での取得データが示す対象野菜の過去の市場価格のうち、算出対象時期のmカ月前~1カ月前までの各月の市場価格を用いて、算出対象時期の対象野菜の市場価格を算出する。
このとき、コンピュータは、算出対象時期のmカ月前~1カ月前までの期間のうち、一又は複数の月を指定し、指定月を変えながら、当該指定月の市場価格を用いて、算出対象時期の対象野菜の市場価格を算出する。
【0071】
その後、コンピュータが、算出対象時期の対象野菜の市場価格について、ステップS003での取得データが示す実際の価格と、ステップS004で算出した価格との相関係数を評価する(S005)。
具体的に説明すると、コンピュータは、非対象野菜の組み合わせを変えながら算出した価格と実際の価格との相関係数を、非対象野菜の組み合わせを変えながら評価する。
また、コンピュータは、特定地域の組み合わせを変えながら算出した価格と実際の価格との相関係数を、特定地域の組み合わせを変えながら評価する。
さらに、コンピュータは、算出対象時期のmカ月前~1カ月前の期間の中で指定された月(指定月)を変えながら算出した価格と実際の価格との相関係数を、指定月を変えながら評価する。
【0072】
次に、コンピュータは、予測モデルとして予測式(1)を導出する(S006)。予測式(1)の導出に際して、コンピュータは、ステップS005で評価した相関係数に基づき、予測式(1)中の変数P、Q、Rを設定する。
具体的には、算出対象時期のnカ月前~1カ月前の期間の中で指定された月のうち、相関係数が最も高い指定月を選択し、選択された指定月の対象野菜の価格を変数Pとして設定する。
また、非対象野菜の組み合わせのうち、相関係数が最も高い組み合わせに含まれる2種類以上の非対象野菜を選択し、選択された2種類以上の非対象野菜の過去の市場価格を変数Qとして設定する。
また、特定地域の組み合わせのうち、相関係数が最も高い組み合わせに含まれる2以上の特定地域を選択し、選択された2以上の特定地域の過去の気象値を変数Rとして設定する。
【0073】
その後、コンピュータは、設定された各変数の値と、ステップS003での取得データが示す対象野菜の実際の市場価格とを用いて、予測式(1)中のパラメータai、aj、ak及びbを決める。これにより、予測式(1)が導出される。
【0074】
コンピュータは、上記手順を経て決定された予測式(1)をコンピュータ内のメモリ等に記憶する(S007)。このステップS007が記憶工程に相当する。ステップS007が終了すると、予測モデル取得フェーズが終了する。
また、予測モデル取得フェーズは、対象野菜の品目、対象野菜の卸売市場の場所、特定地域に該当する地域、及び、予測対象時期等を変えて繰り返し実施される。これにより、予測式(1)が品目毎、市場の場所毎、特定地域毎、及び予測対象時期毎に導出されることになる。
【0075】
次に、価格予測フェーズの流れについて
図5を参照しながら説明する。
価格予測フェーズの実施に先立ち、コンピュータのユーザ(例えば、対象野菜の生産者)は、価格予測用のプログラムを起動する。プログラム起動により、コンピュータのディスプレイに入力画面が表示される。ユーザは、入力画面を通じて、価格予測に必要な情報を入力する。入力情報としては、対象野菜の品目、卸売市場の場所、特定地域、及び予測対象時期等が含まれる。入力情報には、価格予測に関連する他の情報(例えば、ユーザに関する情報等)が含まれてもよい。
【0076】
価格予測フェーズにおいて、先ず、コンピュータは、予測モデル取得フェーズのステップS006で選択された2以上の特定地域における過去の気象に関するデータを取得する(S011)。このステップS011は、第1取得工程に該当する。ステップS011で取得されるデータは、予測対象時期のnカ月前~1カ月前までの各月の、各特定地域における気象値の平均値を示すデータである。
【0077】
また、コンピュータは、予測モデル取得フェーズのステップS006で選択された2種類以上の非対象野菜の過去の市場価格を示すデータを取得する(S012)。このステップS012は、第2取得工程に該当する。ステップS012で取得されるデータは、予測対象時期のnカ月前~1カ月前までの各月の、各非対象野菜の月平均価格を示すデータである。
【0078】
さらに、コンピュータは、予測モデル取得フェーズのステップS006で選択された過去の指定月における対象野菜の市場価格を示すデータを取得する(S013)。このステップS013は、第3取得工程に該当する。ステップS013で取得されるデータは、指定月における対象野菜の月平均価格を示すデータである。
【0079】
その後、コンピュータは、ステップS011~S013での取得データのそれぞれを用い、具体的には各取得データが示す値を予測式(1)に入力して、予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測する(S014)。このステップS014は、予測工程に該当する。なお、ステップS014にて利用される予測式(1)としては、ユーザの入力情報(具体的には、対象野菜の品目、市場の場所、特定地域、及び予測対象時期)と対応した予測式が指定される。
【0080】
ステップS014では、相関係数に基づいて選択された組み合わせに含まれる2以上の特定地域の過去の気象値、相関係数に基づいて選択された組み合わせに含まれる2種類以上の非対象野菜の過去の市場価格、及び、相関係数に基づいて選択された指定月における対象野菜の市場価格が用いられる。
【0081】
ステップS014の実施後、コンピュータは、予測された対象野菜の市場価格(予測価格)を、ディスプレイ表示等の適切な手段を通じて出力する(S015)。この際、予想価格と関連する情報、又は予想価格に基づいて導出される情報を併せて出力してもよい。例えば、予測価格の信頼性(精度)を示す数値を表示したり、これまでの市場価格の推移を示すグラフを表示したり、予測価格に応じた対象野菜の栽培条件や対象野菜の適正生産量又は合理的な対象野菜の生産計画等を表示してもよい。
以上までの一連の工程が終了した時点で、価格予測フェーズが終了する。
【0082】
<<本実施形態の有効性について>>
本実施形態では、予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測する際に、特定地域の過去の気象、非対象野菜の過去の市場価格、及び、対象野菜の過去の市場価格を入力値(変数)として用いる。これにより、対象野菜の市場価格を精度よく予測することが可能である。
以下、本実施形態の有効性について、上記の入力値を用いて予測された対象野菜の市場価格と実際の市場価格との相関の観点から説明する。
【0083】
野菜をはじめ、生鮮食品の市場価格は、一般的に、それ以前の市場価格と相関する傾向にある。例えば、ある月のレタスの市場価格は、それ以前の月の価格から概ね予測することができる。
ここで、某卸売市場で取り引きされたレタスについて、2002年1月から2019年9月までの市場価格を用いて、2003年1月から2019年9月までの市場価格を予測した。具体的には、予測対象月をmとし、予測対象月mの市場価格の予測値をPmとして、当該予測値Pmを、下記の式(2)により、予測対象月mよりも前の期間の市場価格を用いて予測した。
(2)
上記の式(2)のうち、Piは、予測対象月mのiカ月前(iは1~xの自然数)のレタスの市場価格であり、ai及びbは、最小二乗法により求められるパラメータである。
【0084】
上記の式(2)により予測される予測対象月mの市場価格Pmと、同月の実際の価格との相関係数を求めたところ、下記の表1に示す結果が得られた。
【0085】
【0086】
表1から分かるように、x=1の場合、すなわち、予測対象月mの1カ月前の市場価格のみを用いたときの予測値Pmについては、実際の価格との相関係数が0.6を下回る。また、xが大きくなるほど、相関係数が高くなることが分かった。
【0087】
また、予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測する際には、予測対象時期の前月の市場価格を用いることが好ましく、それ以外の月の市場価格をさらに追加することがより好ましい。特に、予測対象時期の12カ月前~2カ月前の期間中、いずれかの月の市場価格を追加するのが好ましく、中でも、予測対象時期の2カ月前、5カ月前、6カ月前又は12カ月前の市場価格が好適である。
【0088】
次に、予測対象月mのレタスの市場価格Pmを、下記の式(3)により、レタス以外の野菜の過去の市場価格を用いて予測した。
(3)
上記の式(3)において、Qj(g)は、種類gの野菜の、予測対象月mからjカ月前(jは1~xの自然数)の市場価格であり、それ以外の変数は、式(2)と同様である。また、パラメータai、aj及びbは、最小二乗法により求められるパラメータである。なお、上記の式(3)のxは、1から+1ずつ増やして最大で6とした。
【0089】
予測対象月mのレタスの市場価格について、過去おレタスの市場価格Pi及び種類gの野菜の市場価格Qjを用いて種類gを変えながら予測した価格Pmと、実際の価格との相関係数を表3に示す。表3には、比較値として、過去のレタスの市場価格Piのみを用いて予測した市場価格と実際の価格との相関係数を示している。
【0090】
【0091】
表3から分かるように、レタスの市場価格のみを用いる場合よりも、他の野菜とレタスの各々の市場価格を用いる場合の方が、より高い相関が得られる。
なお、レタスの市場価格を予測する上で、地上で生長する野菜(きゅうり、なす、及びほうれんそう)の市場価格を用いた方が、地中で生長する野菜(男爵、及びたまねぎ)の市場価格を用いる場合よりも、相関が高くなる。これは、レタスが天候等の影響を受け易いのに対し、地中で生長する野菜は、天候等の影響を受け難いことに因るものと考えられる。
【0092】
以上の結果を踏まえると、予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測する際には、対象野菜の過去の市場価格とともに、非対象野菜の過去の市場価格を用いることが好ましい。予測に用いる非対象野菜の市場価格は、予測対象時期の前月の市場価格が好ましく、それ以外の月の市場価格をさらに追加すると、より好ましい。
また、非対象野菜は、対象野菜に応じて好適な種類の野菜を選ぶのが好ましく、例えば、対象野菜が地上で生長する野菜である場合には、非対象野菜も、地上で生長する野菜とし、その非対象野菜の市場価格を用いて対象野菜の市場価格を予測するのがよい。
【0093】
次に、予測対象月mのレタスの市場価格Pmを、下記の式(4)により、日本各地における過去の気象値(詳しくは、月平均気温)を用いて予測した。
(4)
上記の式(4)において、Rk(h)は、予測対象月mからkカ月前(kは1~xの自然数)の地域hの気象値であり、それ以外の変数は、式(2)と同様である。また、パラメータai、ak及びbは、最小二乗法により求められるパラメータである。なお、上記の式(4)中のxは、5とした。
【0094】
予測対象月のレタスの市場価格について、過去のレタスの市場価格Pi及び地域hの気象値Rkを用いて地域hを変えながら予測した価格Pmと、実際の価格との相関係数を表4に示す。ちなみに、地域hは、日本の全都道府県の県庁所在地とした。
なお、相関係数は、全都道府県分、地域h毎に評価したが、表4では、一部の県についての相関係数のみを示している。
【0095】
【0096】
相関係数については、表4に示すように、各地域h間で大差がない。このことから、例えば、レタスの産地の気象値を用いたとしても必ずしも相関係数が高くなるとは限らないことが分かる。
他方、相関係数が高い地域hの気象値を用いることで、対象野菜の市場価格をより高い精度で予測できると考えられる。
【0097】
そこで、2箇所の地域hの組み合わせを複数設定し、各組み合わせに含まれる2箇所の地域h(第1地域、及び第2地域)における過去の気象値を用いて予測対象月mのレタスの市場価格Msを予測し、予測価格と実際の価格との相関係数を求めた。その結果を表5に示す。
【0098】
【0099】
表5から分かるように、より相関係数が高くなる地域hの組み合わせが存在しており、例えば、中部エリアの地域と関西エリアの地域との組み合わせ、及び、四国又は九州エリアの地域と本州エリアの地域との組み合わせでは、相関係数が高くなる。このように相関係数が高い組み合わせに含まれる地域の気象値を用いれば、より高い精度でレタスの市場価格を予測することができる。
なお、対象野菜の種類が変われば、相関係数が高くなる地域hの組み合わせも変わり得るため、対象野菜の種類毎に、相関係数が高い地域の組み合わせを特定しておくのが好ましい。
【0100】
(予測式の具体例)
以上までに説明してきた内容を踏まえて導出した、レタスの市場価格の予測式の具体例について説明する。
具体例に係る予測式では、例えば、表6に示す入力値(変数)が用いられる。表6に示す入力値(変数)を用いて予測された予測対象月mのレタスの市場価格Pmと、実際の市場価格との相関係数は、0.887となる。
ちなみに、表6に示す13個の気象データのそれぞれは、例えば、レタスの出荷量が多い順で選択された地域のデータである。
【0101】
【0102】
具体例に係る予測式は、本発明の範囲にあり、予測対象時期の対象野菜の市場価格について、上記の予測式による予測値と実際の価格との相関係数が高くなる。このことから、本発明の効果は明らかである。
【0103】
<<その他の実施形態>>
以上までに本発明の指標値予測装置、指標値予測方法及びプログラムについて一例を挙げて説明したが、上述の実施形態以外の実施形態が考えられ得る。例えば、指標値予測に用いる入力値である変数、及び、指標値予測装置の用途について下記のバリエーションが考えられる。
【0104】
(変数のバリエーション)
上述の実施形態では、予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測する上で、特定地域の過去の気象、非対象野菜の過去の市場価格、及び、対象野菜の過去の市場価格を変数として用いることとしたが、上記以外の変数を更に追加して予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測してもよい。つまり、価格予測装置10を構成するコンピュータが、追加変数に相当するデータを取得する第4取得部を有し、第1取得部、第2取得部、第3取得部及び第4取得部の各々の取得データを予測モデルに入力して、予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測してもよい。この場合の予測モデル、具体的には予測式には、第4取得部の取得データが示す追加変数の項、及び、その項に乗じられるパラメータが含まれる。
【0105】
追加変数としては、例えば、景気に関する変数、及び社会情勢に関する変数等が挙げられる。
景気に関する変数としては、例えば、対象野菜の生産地又は消費地が属する国の景気動向指数、国内総生産(GDP)、個人消費額、設備投資額、住宅投資額、公共投資額、輸出額、輸入額、貿易収支、各種商材の生産量・出荷量・在庫量、企業収益、業況判断指標、倒産数、雇用数、物価、及び出入国者数等が挙げられる。
社会情勢に関する変数としては、例えば、対象野菜の生産地又は消費地が属する国の政治、社会問題、及び公衆衛生等に関する指標値、具体的には、新型コロナウィルス等のような感染症の感染者数、重症者数及び死亡者数の日別数値又は累積値、並びに、その他の国内感染状況に関する指標値が挙げられる。
国内感染状況に関する変数(具体的には、今月感染者数/先月感染者数)と、市場価格(具体的には、ある品目の野菜の月間平均卸売価格及び月間卸売総額)との間には、
図6A及び6Bに示すような明りょうな相関が確認される。そのため、国内感染状況に関する数値を変数として加えて市場価格を予測することで、特に感染症の感染度合いが変化する状況下では、より精度が高い市場価格の予測が可能となる。
【0106】
(装置用途のバリエーション)
上述の実施形態では、指標値予測装置が予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測し、その予測結果に応じて、対象野菜の生産者が対象野菜の生産条件を設定したり、対象野菜の売行を見定めて出荷量を調整することとした。ただし、これに限定されず、指標値予測装置(詳しくは、予測部105)が、対象野菜の指標値として、対象野菜の出荷規模に関する値を予測してもよい。出荷規模に関する値とは、出荷量又は出荷額等であり、指標値予測装置により予測される値は、これらの将来の適正値、具体的には対象野菜の生産者が対象野菜の出荷によって得らえる利益を最大化させる値である。
【0107】
対象野菜の出荷規模に関する値を予測する場合には、例えば、前述の手順により、対象野菜の過去の各月の市場価格を算出する。また、対象野菜の生産者に過去の対象野菜の各月出荷量又は各月出荷額を入力させる。そして、算出された各月の市場価格と、入力された各月出荷量又は各月出荷額との対応関係(相関関係)を特定する。その後、予測対象時期の対象野菜の市場価格を予測し、予測した市場値と上記の対応関係に基づき、予測対象時期の対象野菜の適正出荷量又は適正出荷額を算出(予測)する。対象野菜の生産者は、予測結果を確認し、予測結果を踏まえて実際の出荷量及び出荷額を決めることができる。
【符号の説明】
【0108】
10 価格予測装置
11 プロセッサ
12 メモリ
13 通信用インタフェース
14 ストレージ
15 入力機器
16 出力機器
101 第1取得部
102 第2取得部
103 第3取得部
104 予測モデル記憶部
105 予測部
106 評価部
F 植物工場
S 工場栽培システム