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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】スパー型洋上風力発電設備の施工方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 75/00 20200101AFI20250303BHJP
   B63B 35/00 20200101ALI20250303BHJP
   B63B 22/20 20060101ALI20250303BHJP
   B63B 35/34 20060101ALI20250303BHJP
   F03D 13/25 20160101ALI20250303BHJP
【FI】
B63B75/00
B63B35/00 T
B63B22/20
B63B35/34 A
F03D13/25
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023511170
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014409
(87)【国際公開番号】W WO2022210359
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2021054617
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 智昭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 郁
(72)【発明者】
【氏名】田中 康二
(72)【発明者】
【氏名】新川 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】酒井 賢太
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/187977(WO,A1)
【文献】特開2020-172872(JP,A)
【文献】特開2015-140723(JP,A)
【文献】特許第6113735(JP,B2)
【文献】佐藤郁,宇都宮智昭,白石崇,大久保寛,環境省 浮体式洋上風力発電実証事業 ―その2 小規模試験機の施工について―,風力エネルギー利用シンポジウム,日本,日本風力エネルギー学会,2012年,第34巻,pp.187-190,DOI: 10.11333/jweasympo.34.0_187,ISSN 1884-4588
【文献】宇都宮智昭,佐藤郁,白石崇,五島市椛島における浮体式洋上風力発電について,システム/制御/情報,日本,システム制御情報学会,2016年09月15日,第60巻第9号,pp.402-406,DOI: 10.11509/isciesci.60.9_402,ISSN:2424-1806(online),0916-1600(print)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/00,22/20,75/00,
F03D 13/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパー型の浮体と、該浮体の上に立設されるタワーと、該タワーの頂部に取り付けられるナセルと、該ナセルに取り付けられる複数枚のブレードとを備えるスパー型洋上風力発電設備の施工方法であって、
前記浮体の底部に所定量の固形バラストを投入した状態とし、前記固形バラストの投入領域内に、排水ポンプを配置するとともに、その周囲を所定高さの有孔管によって囲んだバラスト水の排水設備を設け、前記浮体上部にタワーとナセルと必要に応じて所定枚数のブレードとを取り付けて一括施工状態とし、岸壁にて半潜水型台船に積み込み、スパー型洋上風力発電設備の設置海上まで運搬する第1手順と、
スパー型洋上風力発電設備の設置海上において、前記半潜水型台船に注水を行って半潜水状態とし、前記スパー型洋上風力発電設備を海水に浮かばせるとともに、前記半潜水型台船を待避させる第2手順と、
前記浮体内にバラスト水を注水することにより、スパー型洋上風力発電設備の立て起こしを行う第3手順と、
未取付け分のブレードがある場合は大型起重機船を用いて取り付け、最後にバラスト水の調整によって所定の吃水状態とする第4手順とからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備の施工方法。
【請求項2】
前記第3手順のスパー型洋上風力発電設備の立て起こしに際して、
事前にスパー型洋上風力発電設備の浮体又はタワーに対して、重心偏心化手段によって重心位置を偏心させた状態とし、バラスト水の注水を継続的に行い、スパー型洋上風力発電設備を直立に起立させる請求項1記載のスパー型洋上風力発電設備の施工方法。
【請求項3】
前記第3手順のスパー型洋上風力発電設備の立て起こしに際して、
事前にスパー型洋上風力発電設備の浮体又はタワーに対して、重心偏心化手段によって重心位置を偏心させた状態とし、バラスト水の注水を行い、スパー型洋上風力発電設備が立て起こし動作を開始した後、所定量でバラスト水の注水を停止することによってスパー型洋上風力発電設備を直立に起立する以前の斜め状態で一旦停止させた後、更にバラスト水を徐々に注水することによりスパー型洋上風力発電設備を直立に起立させる請求項1記載のスパー型洋上風力発電設備の施工方法。
【請求項4】
前記重心偏心化手段は、前記スパー型洋上風力発電設備用浮体の外面に着脱自在に取り付けたウエイトとする請求項2、3いずれかに記載のスパー型洋上風力発電設備の施工方法。
【請求項5】
前記ウエイトは、立て起こしした際に、海面上の位置に取り付けてある請求項記載のスパー型洋上風力発電設備の施工方法。
【請求項6】
前記重心偏心化手段は、前記浮体の内部に投入した固形バラストとする請求項2、3いずれかに記載のスパー型洋上風力発電設備の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的水深の深い海上に設置されるスパー型洋上風力発電設備の施工方法、具体的には少なくともタワーとナセルとを含めた一括施工状態でスパー型洋上風力発電設備を施工するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1では、浮体と、係留索と、タワーと、タワーの頂部に設備されるナセル及び複数のブレードとからなる洋上風力発電設備であって、前記浮体は、コンクリート製のプレキャスト筒状体を高さ方向に複数段積み上げ、各プレキャスト筒状体をPC鋼材により緊結し一体化を図った下側コンクリート製浮体構造部と、この下側コンクリート浮体構造部の上側に連設された上側鋼製浮体構造部とからなるスパー型の浮体構造とした洋上風力発電設備が提案されている。なお、スパー型とは、棒状の釣り浮きのように細長い円筒形状の浮体構造を言う。
【0003】
前記スパー型洋上風力発電設備を海上に設置する場合、波の穏やかな湾内で施工を行うのが望ましいが、浮体の吃水(水面下の部分)が概ね70m以上と深いのに対して、湾内の水深は一般的にこれよりも浅いため、湾内での施工は困難であった。このため、スパー型洋上風力発電設備の設置に当たっては、下記特許文献2に示されるように、製作ヤードに隣接した海上で、浮体を横向きに浮かべて曳航船により設置場所まで運搬するか、浮体を台船に搭載して曳航して設置場所まで運搬するかした後、浮体の立て起こしに当たっては、バラスト水を注水するとともに、浮体の底部に結んだウインチからのワイヤーを徐々に繰り出すことによりゆっくりと浮体を直立状態に立て起こし、次に固形バラストを投入して吃水を確保した後、タワーと、ナセルと、複数のブレードと組んだ状態で大型起重機船に設備されたクレーンによって一気に浮体に連結するようにするか、タワー、ナセル、ブレードの順で大型起重機船に設備されたクレーンによって取り付けるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5274329号公報
【文献】特開2012-201219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の洋上風力発電設備の施工では、浮体のみの状態で海上の設置場所まで運搬したならば、設置場所の海上にて、浮体の立て起こしのためにバラスト水の大量投入が必要である。そして、浮体の立て起こし完了後に固形バラストを投入すると同時にバラスト水の排出を行い、更に変電設備の据え付けを行った後、タワー、ナセル、ブレードを取り付ける際には、この重量に見合うようにバラスト水の調整を行うようにしていた。しかし、従来のこのような施工方法の場合は設置場所の海上にて種々の作業を行う必要があり、作業に多くの時間と手間とを要し、設置する洋上風力発電設備の基数が多くなると工程が長期化する原因になっていた。そこで、現状よりも更なる施工の効率化が強く望まれていた。
【0006】
一方で、ウインチからの繰出したワイヤーで補助しながら浮体の立て起こしを行うのは、バラスト水を注水していくとある時点で急激に浮体が直立に起立し、その浮体の慣性力によって直立状態になった際に揺動(振動)を発生させ、それによって浮体或いはその付帯設備に損傷が発生するおそれがあるからである。従って、洋上における浮体の立て起こし作業は細心の注意と慎重さを要する危険作業となっていた。
【0007】
そこで本発明の第1の課題は、スパー型洋上風力発電設備の施工に当たって、現状より更なる施工の効率化を図り、施工期間の短縮を図ることにある。
【0008】
第2に、バラスト水の注水によるスパー型洋上風力発電設備の立て起こしを安全かつ効率的に行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記第1課題を解決するために請求項1に係る本発明として、スパー型の浮体と、該浮体の上に立設されるタワーと、該タワーの頂部に取り付けられるナセルと、該ナセルに取り付けられる複数枚のブレードとを備えるスパー型洋上風力発電設備の施工方法であって、
前記浮体の底部に所定量の固形バラストを投入した状態とし、前記固形バラストの投入領域内に、排水ポンプを配置するとともに、その周囲を所定高さの有孔管によって囲んだバラスト水の排水設備を設け、前記浮体上部にタワーとナセルと必要に応じて所定枚数のブレードとを取り付けて一括施工状態とし、岸壁にて半潜水型台船に積み込み、スパー型洋上風力発電設備の設置海上まで運搬する第1手順と、
スパー型洋上風力発電設備の設置海上において、前記半潜水型台船に注水を行って半潜水状態とし、前記スパー型洋上風力発電設備を海水に浮かばせるとともに、前記半潜水型台船を待避させる第2手順と、
前記浮体内にバラスト水を注水することにより、スパー型洋上風力発電設備の立て起こしを行う第3手順と、
未取付け分のブレードがある場合は大型起重機船を用いて取り付け、最後にバラスト水の調整によって所定の吃水状態とする第4手順とからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備の施工方法が提供される。
【0010】
上記請求項1記載の発明では、浮体にタワーとナセルと必要に応じて所定枚数のブレードとを取り付けて一括施工状態とし、岸壁にて半潜水型台船に積み込み、スパー型洋上風力発電設備の設置海上まで運搬する。この際に、ナセルは数十トン~数百トンの重量物であるとともに、ブレードも重量物であるため、現地海上でのフロートオフ時にナセルやブレードが水没しないようにスパー型洋上風力発電設備の重心をかなり下げておく必要がある。また、タワーを取り付けた後は固形バラストの投入は難しいため、予め浮体の内部には、前記浮体の底部に所定量の固形バラストを投入した状態とする。前記固形バラストの事前投入は、スパー型洋上風力発電設備の重心を下げるのに寄与し、フロートオフ時にナセルやブレードが水没しないように斜めの半水没状態とすることができる。
【0011】
スパー型洋上風力発電設備を設置する海上まで運搬した後は、半潜水型台船に注水を行って半潜水状態とし、前記スパー型洋上風力発電設備を海水に浮かばせるとともに、前記半潜水型台船を待避させる(第2手順)。
【0012】
そして、前記浮体内にバラスト水を注水することにより、スパー型洋上風力発電設備の立て起こしを行う(第3手順)。その後に、未取付け分のブレードがある場合、大型起重機船を用いて取り付けるとともに、最後にバラスト水の調整によって所定の吃水状態とする(第4手順)。
【0013】
本発明では、浮体のみではなく、これにタワーと、ナセルと、必要に応じて所定枚数のブレードとを取り付けて一括施工状態として、運搬から立て起こし、未取付け分のブレードの取付け作業を行うようにしたため、現状よりも更なる施工の効率化を図ることができ、施工期間の短縮を図ることが可能になる。
【0014】
また、予め浮体内に固形バラストを投入するため、設置海上ではバラスト水の注入及び排出だけで済むようになるため、この点でも施工の効率化が図れることになり、施工期間の短縮化に資するようになる。
【0015】
本発明では、予め、前記固形バラストの投入領域内に、排水ポンプを配置するとともに、その周囲を所定高さの有孔管によって囲んだバラスト水の排水設備を設けるようにするものである。本発明は、少なくともタワーと、ナセルと、必要に応じて所定枚数のブレードとを取り付けて一括施工状態とするものであり、海上に浮かべた状態で浮体の下端側が沈み、ナセルやブレードは水没しないように対策する必要がある。そのため、固形バラストを事前に投入しておくようにしているが、ナセル、ブレードやブレードはかなりの重量物となるため、固形バラストの増量が必要になる場合が想定される。そのような場合でも、固形バラスト領域内の水をも排除可能とすることで、最小バラスト水量の低減を図ることが可能になる。
【0016】
第2の課題を解決するために請求項に係る本発明として、前記第3手順のスパー型洋上風力発電設備の立て起こしに際して、
事前にスパー型洋上風力発電設備の浮体又はタワーに対して、重心偏心化手段によって重心位置を偏心させた状態とし、バラスト水の注水を継続的に行い、スパー型洋上風力発電設備を直立に起立させる請求項1記載のスパー型洋上風力発電設備の施工方法が提供される。
【0017】
上記請求項記載の発明では、スパー型洋上風力発電設備の立て起こしに当たって、事前にスパー型洋上風力発電設備の浮体又はタワーに対して、重心偏心化手段によって重心位置を偏心させた状態とするものである。重心位置を偏心させておくと、後述の〔実施例〕に示されるように、バラスト水の注水によって横向きで浮かんだ状態から立上り動作に移行した際に、この立上り動作が緩慢になるとともに、直立状態に近くなってからの動揺を小さく押さえられるようになる。
【0018】
ここで、「重心位置の偏心」とは、浮体の長手方向中心軸に沿った方向のみの偏心を意味するものではなく、浮体の長手方向中心軸に直交する面方向への偏心を含む重心位置の移動を意味するものである。
【0019】
従って、バラスト水の注水によるスパー型洋上風力発電設備の立て起こしを安全かつ効率的に行うことが可能になる。
【0020】
第2の課題を解決するために請求項に係る本発明として、前記第3手順のスパー型洋上風力発電設備の立て起こしに際して、
事前にスパー型洋上風力発電設備の浮体又はタワーに対して、重心偏心化手段によって重心位置を偏心させた状態とし、バラスト水の注水を行い、スパー型洋上風力発電設備が立て起こし動作を開始した後、所定量でバラスト水の注水を停止することによってスパー型洋上風力発電設備を直立に起立する以前の斜め状態で一旦停止させた後、更にバラスト水を徐々に注水することによりスパー型洋上風力発電設備を直立に起立させる請求項1記載のスパー型洋上風力発電設備の施工方法が提供される。
【0021】
上記請求項記載の発明は、スパー型洋上風力発電設備の立て起こしの第2発明方法である。具体的には、スパー型洋上風力発電設備の立て起こしに当たって、事前にスパー型洋上風力発電設備の浮体又はタワーに対して、重心偏心化手段によって重心位置を偏心させた状態とする。重心位置を偏心させておくと、バラスト水の注水によって横向きで浮かんだ状態から起立する動作に移行した際に、この立上り動作を緩慢化できるようになる。
【0022】
次いで、バラスト水の注水を行い、前記スパー型洋上風力発電設備用浮体が立て起こし動作を開始した後、所定量でバラスト水の注水を停止することによって前記スパー型洋上風力発電設備を直立に起立する以前の斜め状態で停止させるようにする。浮体の重心位置を偏心させることにより立上り動作を緩慢化できたことにより、バラスト水を所定の注水量で停止することで、浮体を直立に起立する以前の斜め状態で停止させることが容易に可能になる。
【0023】
最後に、更にバラスト水を徐々に注水することによりスパー型洋上風力発電設備を直立に起立させる。スパー型洋上風力発電設備が斜めに停止した状態から直立させる場合は、慣性力は僅かしか作用しないため直立直後の動揺をほぼ無くすことが可能になる。
【0024】
従って、バラスト水の注水によるスパー型洋上風力発電設備の立て起こしを安全かつ効率的に行うことが可能になる。
【0025】
請求項に係る本発明として、前記重心偏心化手段は、前記スパー型洋上風力発電設備用浮体の外面に着脱自在に取り付けたウエイトとする請求項2、3いずれかに記載のスパー型洋上風力発電設備の施工方法が提供される。
【0026】
上記請求項記載の発明は、前記重心偏心化手段の第1形態例を示したものである。具体的には、前記重心偏心化手段として、前記スパー型洋上風力発電設備用浮体の外面に着脱自在に取り付けたウエイトとするものである。
【0027】
請求項に係る本発明として、前記ウエイトは、立て起こしした際に、海面上の位置に取り付けてある請求項記載のスパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こし方法が提供される。
【0028】
上記請求項記載の発明は、前記ウエイトは、立て起こしした際に、海面上の位置に取り付けるようにしたものである。浮体を立て起こした後、不要になったウエイトの撤去が容易に行えるようになる。
【0029】
請求項に係る本発明として、前記重心偏心化手段は、前記浮体の内部に投入した固形バラストとする請求項2、3いずれかに記載のスパー型洋上風力発電設備の施工方法が提供される。
【0030】
上記請求項記載の発明は、前記重心偏心化手段の第2形態例を示したものである。具体的には、前記重心偏心化手段として、前記スパー型洋上風力発電設備用浮体の内部に投入した固形バラストを利用するものである。固形バラストは、通常、浮体を立て起こしした後に浮体内に投入されるものであるが、水とは異なり固形バラストならば、安息角(崩れないで安定を保持し得る斜面角度)の傾斜角度までは移動することなく偏在状態を保持するため重心位置を偏心させる手段となり得る。また、安息角を越えてから固形バラストの移動速度は水と比べて遅く直立する直前までは偏心量は漸減しながらも偏心状態を維持するため、重心偏心化手段として採用することが可能である。
【発明の効果】
【0031】
以上詳説のとおり本発明によれば、スパー型洋上風力発電設備の施工に当たって、現状より更なる施工の効率化を図り、施工期間の短縮を図ることが可能になる。
【0032】
また、バラスト水の注水によるスパー型洋上風力発電設備の立て起こしを安全かつ効率的に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】スパー型洋上風力発電設備1の全体側面図である。
図2】浮体4の縦断面図である。
図3】プレキャスト筒状体15を示す、(A)は縦断面図、(B)は平面図(B-B線矢視図)、(C)は底面図(C-C線矢視図)である。
図4】プレキャスト筒状体15同士の緊結要領図(A)(B)である。
図5】下側コンクリート製浮体構造部4Aと上側鋼製浮体構造部4Bとの境界部を示す縦断面図である。
図6】浮体内部への固形バラスト投入状態及び排水設備29の設置状態を示す、(A)は浮体底部縦断面図、(B)はその横断面図である。
図7】スパー型洋上風力発電設備1の施工手順(その1)である。
図8】スパー型洋上風力発電設備1の施工手順(その2)である。
図9】スパー型洋上風力発電設備1の施工手順(その3)である。
図10】スパー型洋上風力発電設備1の施工手順(その4)である。
図11】スパー型洋上風力発電設備1の施工手順(その5)である。
図12】スパー型洋上風力発電設備1の施工手順(その6)である。
図13】スパー型洋上風力発電設備1の施工手順(その7)である。
図14】スパー型洋上風力発電設備1の施工変形例を示す図である。
図15】重心偏心化手段の第2形態例を示す浮体4の立て起こし手順(その1)である。
図16】その立て起こし手順(その2)である。
図17】その立て起こし手順(その3)である。
図18】その立て起こし手順(その4)である。
図19】その立て起こし手順(その5)である。
図20】浮体模型40の側面図である。
図21】実験値と解析結果の比較を示すグラフである。
図22】浮体重心位置の偏心による応答(立て起こし動作)への影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
〔スパー型洋上風力発電設備1〕
本発明の係る「スパー型洋上風力発電設備の施工方法」を説明する前に、スパー型洋上風力発電設備1の構造例について、図1図5に基づいて詳述する。
【0035】
前記スパー型洋上風力発電設備1は、図1に示されるように、筒状形状を成すスパー型の浮体4と、この浮体4に繋がれた係留索5と、タワー6と、タワー6の頂部に設備されるナセル8及び複数のブレード9,9…からなる風車7とから構成されるものである。
【0036】
前記浮体4は、図2に示されるように、コンクリート製のプレキャスト筒状体15、15…を高さ方向に複数段積み上げ、各プレキャスト筒状体15、15…をPC鋼材19により緊結し一体化を図った下側コンクリート製浮体構造部4Aと、この下側コンクリート浮体構造部4Aの上側に連設された上側鋼製浮体構造部4Bとからなる。
【0037】
前記下側コンクリート浮体構造部4Aを構成している前記プレキャスト筒状体15は、図3に示されるように、軸方向に同一断面とされる円形筒状のプレキャスト部材であり、それぞれが同一の型枠を用いて製作されるか、遠心成形により製造された中空プレキャスト部材が用いられる。
【0038】
壁面内には鉄筋20の他、周方向に適宜の間隔でPC鋼棒19を挿通するためのシース21、21…が埋設されている。このシース21、21…の下端部にはPC鋼棒19同士を連結するためのカップラーを挿入可能とするためにシース拡径部21aが形成されているとともに、上部には定着用アンカープレートを嵌設するための箱抜き部22が形成されている。また、上面には吊り金具23が複数設けられている。
【0039】
プレキャスト筒状体15同士の緊結は、図4(A)に示されるように、下段側プレキャスト筒状体15から上方に延長されたPC鋼棒19、19…をシース21、21…に挿通させながらプレキャスト筒状体15,15を積み重ねたならば、アンカープレート24を箱抜き部22に嵌設し、ナット部材25によりPC鋼棒19に張力を導入し一体化を図る。また、グラウト注入孔27からグラウト材をシース21内に注入する(図4(B)参照)。なお、前記アンカープレート24に形成された孔24aはグラウト注入確認孔であり、該確認孔からグラウト材が吐出されたことをもってグラウト材の充填を終了する。
【0040】
次に、図4(B)に示されるように、PC鋼棒19の突出部に対してカップラー26を螺合し、上段側のPC鋼棒19、19…を連結したならば、上段となるプレキャスト筒状体15のシース21、21…に前記PC鋼棒19、19…を挿通させながら積み重ね、前記要領によりPC鋼棒19の定着を図る手順を順次繰り返すことにより高さ方向に積み上げられる。この際、下段側プレキャスト筒状体15と上段側プレキャスト筒状体15との接合面には止水性確保及び合わせ面の接合のためにエポキシ樹脂系などの接着剤28やシール材が塗布される。
【0041】
前記上側鋼製浮体構造部4Bは、図2に示されるように、相対的に下段側に位置する鋼製筒状体17と、相対的に上段側に位置する鋼製筒状体18とで構成されている。下段側の鋼製筒状体17は、下側部分がプレキャスト筒状体15と同一の外径寸法とされ、プレキャスト筒状体15に対して連結されている。前記鋼製筒状体17の上側部分は漸次直径を窄めた截頭円錐台形状を成している。
【0042】
上段側の鋼製筒状体18は、前記下段側の鋼製筒状体17の上部外径に連続する外径寸法とされる筒状体とされ、下段側の鋼製筒状体17に対してボルト又は溶接等(図示例はボルト締結)によって連結される。
【0043】
一方、前記タワー6は、鋼材、コンクリート又はPRC(プレストレスト鉄筋コンクリート)から構成されるものが使用されるが、好ましいのは総重量が小さくなるように鋼材によって製作されたものを用いるのが望ましい。タワー6の外径と前記上段側鋼製筒状体18の外径とはほぼ一致しており、外形状は段差等が無く上下方向に連続している。図示例では、上段側鋼製筒状体18の上部に梯子13が設けられ、タワー6と上段側鋼製筒状体18とのほぼ境界部に周方向に歩廊足場14が設けられている。
【0044】
前記係留索5の浮体4への係留点Kは、図1に示されるように、海面下であってかつ浮体4の重心Gよりも高い位置に設定してある。従って、船舶が係留索5に接触するのを防止できるようになる。また、浮体4の倒れ過ぎを抑えるように係留点に浮体4の重心Gを中心とする抵抗モーメントを発生させるため、タワー6の傾動姿勢状態を適性に保持し得るようになる。この係留索5の他端は海底に沈めたアンカーに対して繋いである。
【0045】
一方、前記ナセル8は、風車7の回転を電気に変換する発電機やブレード9の角度を自動的に変えることができる制御器などが搭載された装置である。このナセル8は、かなりの重量物となり、数十トンから数百トンの重さを有する。因みに、5MWの風車のナセル重量は200tを超えるようになる。
【0046】
前記ブレード9は、近年は剛性の高い炭素繊維複合材料によって作られたものが主流となっている。羽根枚数は3~5枚程度であるが、最も多いのが3枚構造のものである。
【0047】
〔スパー型洋上風力発電設備の施工方法〕
次に、前述したスパー型洋上風力発電設備1の施工方法について詳述する。
【0048】
本発明は、スパー型の浮体4と、該浮体4に上に立設されるタワー6と、該タワー6の頂部に取り付けられるナセル8と、該ナセル8に取り付けられる複数枚のブレード9とを備えるスパー型洋上風力発電設備1の施工方法であって、
前記浮体4の底部に所定量の固形バラスト32を投入した状態とし、この浮体4の上部にタワー6とナセル8と必要に応じて所定枚数のブレード9とを取り付けて一括施工状態とし、岸壁にて半潜水型台船33に積み込み、スパー型洋上風力発電設備1を設置する海上まで運搬する第1手順と、
洋上風力発電設備1を設置する海上において、前記半潜水型台船33に注水を行って半潜水状態とし、前記スパー型洋上風力発電設備1を海水に浮かばせるとともに、前記半潜水型台船33を待避させる第2手順と、
前記浮体4内にバラスト水を注水することにより、スパー型洋上風力発電設備1の立て起こしを行う第3手順と、
未取付け分のブレード9がある場合、大型起重機船を用いて取り付けるとともに、バラスト水の調整によって所定の吃水状態とする第4手順とからなるものである。以下、図6図14に基づいて具体的に詳述する。
【0049】
<第1手順>
所定の岸壁エリアにおいて、浮体4の製作を行ったならば、図6に示されるように、前記浮体4の底部に所定量の固形バラスト32を投入した状態とする。また、前記固形バラスト32の投入領域内に、バラスト水を排水するための排水ポンプ30を設置するとともに、その周囲を所定高さの有孔管31に囲むようにしたバラスト水排水設備29を設けるようにする。
【0050】
前記排水ポンプ30の周囲を有孔管31で囲むのは、固形バラスト32が入って来ないようにするためであり、有孔管31の孔径が固形バラストの粒径よりも大きい場合には、有孔又は無孔の不織布、繊維状シートなどの透水性シートによって前記有孔管31の周囲を覆うようにするのがよい。前記有孔管31の高さは、少なくとも固形バラスト32の高さよりも高くするようにする。図6に示す形態例では、前記固形バラスト32の上面は通孔板33によって蓋がされており、固形バラスト32は移動できないように拘束されている。
【0051】
本発明では、少なくともタワー6と、ナセル8と、必要に応じて所定枚数のブレード9とを取り付けて一括施工状態とするものである。そのため、海上に浮かべた際に、前記ナセル8やブレード9が水没しないようにするための水没対策が必要であるため、重心位置を下端側に移動させるために、固形バラスト32を事前に投入しておくようにしている。しかし、前記タワー6、ナセル8やブレード9はかなりの重量物となるため、固形バラスト32の増量が必要になる場合が想定される。そのような場合でも、固形バラスト32領域内の水をも排除可能とすることで、最小バラスト水量の低減を図ることが可能になる。
【0052】
前記固形バラスト32としては、水より高比重である粉粒状のものが使用され、具体的には、砂、砂利、重晶石を含む鉱物類及び鉄、鉛等の金属粉、金属粒を含む金属類のうち一種または複数種の組み合わせからなるものとすることが好ましい。固形バラスト32の材質を調整することで、適切な比重のバラスト材が投入できるようになる。
【0053】
次に、前記浮体4の上部にタワー6を連結するとともに、ナセル8を取付け、更に必要に応じて所定枚数のブレード9とを取り付けて一括施工状態とする(この状態もスパー型洋上風力発電設備1とする)。この形態例では、ブレード9については、一括施工状態では取り付けずに、後で別途取付けを行うようにする例を示している。
【0054】
スパー型洋上風力発電設備1の運搬は、図7に示されるように、半潜水型台船33を用いるようにする。半潜水型台船33のバラスト水調整しながら半潜水型台船33に積み込みを行う。この際、浮体4又はタワー6に対して重心位置を偏心させるためのウエイト2を着脱自在に取り付けておくようにする。前記ウエイト2が本発明の「重心偏心化手段」を構成するものである。前記ウエイト2については、取り外しの便宜から、前記浮体4又はタワー6の外面であって、立て起こしした際に、海面上となる位置に取り付けておくことが望ましい。前記ウエイト2を取り付けておくことの利点については後述することとする。
【0055】
ここで、重心位置の偏心とは、スパー型洋上風力発電設備1の長手方向中心軸に沿った方向(Z軸)のみの偏心を意味するものではなく、スパー型洋上風力発電設備1の長手方向中心軸に直交する面方向(X,Y軸面)への偏心を含む重心位置の移動を意味するものである。従って、前記ウエイト2は、スパー型洋上風力発電設備1の外面の1箇所に設けるようにすればよく、スパー型洋上風力発電設備1の外面に対称位置となるように偶数箇所(例えば、180°方向位置又は90°方向位置等)に設けるのは望ましくない。
【0056】
そして、同図7に示されるように、曳航船34によって設置場所の海上まで運搬する。
【0057】
<第2手順>
スパー型洋上風力発電設備1のフロートオフ(浮上・進水)は、図8に示されるように、前記半潜水型台船33に注水を行って半潜水状態とし、スパー型洋上風力発電設備1を海水に浮かばせるとともに、前記半潜水型台船33は待避させるようにする。スパー型洋上風力発電設備1を海水に浮かばせた状態では、事前の浮体4内部への固形バラスト32の投入によって、スパー型洋上風力発電設備1の重心位置が下端側に移動されているため、図9に示されるように、スパー型洋上風力発電設備1は傾いた状態で浮かび、ナセル8は海面から上方側に離れた状態となっている。
【0058】
<第3手順>
次に、図9に示されるように、フロートオフされたスパー型洋上風力発電設備1に対して、注水が可能なように、バラストポンプ設備を搭載したバラスト台船35を近接させるとともに、バラストホース36を浮体4の内部に挿入してバラスト水の供給を可能とする。
【0059】
バラスト水の注水を行い、スパー型洋上風力発電設備1の内部に所定量のバラスト水が継続的に一定水量ずつ注水されると、最初は少しづつではあるが、浮体のピッチ角(浮体4の長手方向中心軸と水面との成す傾斜角度θ)が上昇する。そして、ある時点を過ぎると、図10に示されるように、急激に浮体4は起立動作を開始するようになる。そして、図11に示されるように、スパー型洋上風力発電設備1がほぼ垂直に起立する。
【0060】
前記浮体4又はタワー6にウエスト2を取り付けて、重心位置を偏心させておくようにすると、後述の〔実施例〕に示されるように、バラスト水の注水によって横向きで浮かんだ状態から立上り動作に移行した際に、この立上り動作が緩慢になるとともに、直立状態に近くなってからの動揺を小さく押さえられるようになる。従って、バラスト水の注水によるスパー型洋上風力発電設備1の立て起こしを安全かつ効率的に行うことが可能になる。
【0061】
スパー型洋上風力発電設備1を起立させたならば、図12に示されるように、前記ウエイト2を撤去する。
【0062】
また、同図12に示されるように、浮体4の上部に梯子13を取り付けるとともに、歩廊足場14を設ける。更に、前記浮体4に係留索5の一端を繋ぎ止めるとともに、他端を海底に沈設したアンカーに繋ぎ止めて浮体4の安定を図る。
【0063】
<第4手順>
次いで、未取付け分のブレード9、9…がある場合は、図13に示されるように、大型起重機船37に設備されたクレーンによって吊り下げながらナセル8に取り付けるようにする。なお、ブレード9の取付けは、一括で行っても良いし、一枚ずつ行うようにしても良い。
【0064】
すべての構成部材の取付けが完了したならば、バラスト水の調整によって所定の吃水状態とし、施工を完了する。
【0065】
ところで、前記ブレード9などの取付に際しては、その重量に見合う量のバラスト水の排出が必要になるが、固形バラスト32内に設けた前記バラスト水排水設備29によって固形バラスト32中のバラスト水を排水することが可能になっているため最小バラスト水量の低減も容易である。また、撤去時においても、固形バラスト32中のバラスト水を排水することが可能であるため、フロートオンが可能な傾斜の確保が容易になる。
【0066】
〔スパー型洋上風力発電設備1の立て起こし方法の他例〕
次に、スパー型洋上風力発電設備1の立て起こし方法の第2形態例について詳述する。
【0067】
本第2形態例では、ウエイト2を予め取り付けておく点は同じであるが、バラスト水の注水方法を変えることによって、より安全にかつ効率的に行うことが可能になる。
【0068】
本第2形態例では、バラスト水の注水を行い、スパー型洋上風力発電設備1が立て起こし動作を開始した後、所定量でバラスト水の注水を停止することによってスパー型洋上風力発電設備1を直立に起立する以前の斜め状態で一旦停止させた後、更にバラスト水を徐々に注水することによりスパー型洋上風力発電設備1を直立に起立させるようにするものである。
【0069】
継続的に注水を行う第1形態例と対比すると、スパー型洋上風力発電設備1が急激な直立動作を開始したその途中で、バラスト水の注水を停止することによって、スパー型洋上風力発電設備1を直立に起立する以前の斜め状態で停止させるようにした点で異なるものとなっている。
【0070】
重心位置を偏心させるウエイト2を取り付けることで、直立動作が緩慢になるため、スパー型洋上風力発電設備1が直立する以前の斜め状態で停止させることが可能になる。スパー型洋上風力発電設備1を一旦傾斜状態で停止させた後、徐々に注水することによりスパー型洋上風力発電設備1を直立に起立させるようにすることで、スパー型洋上風力発電設備1が直立した際に生じる慣性力による動揺は僅かしか作用しないために、より安全にかつ効率的に行うことが可能になる。
【0071】
ところで、前記重心偏心化手段として、後述の固形バラスト34を用いる場合、スパー型洋上風力発電設備1を直立に起立する以前の斜め状態で停止させる傾斜角度θは、固形バラスト32の安息角以下の角度とするのが望ましい。
【0072】
〔重心偏心化手段の第2形態例〕
上記形態例では、重心偏心化手段としてウエイト2を用いた例を示したが、前記重心偏心化手段として、固形バラスト32を用いた例について、図15図19に基づいて詳述する。なお、これらの図では前記バラスト水排水設備29については省略されている。
【0073】
図15に示されるように、所定の岸壁エリアにおいて、スパー型洋上風力発電設備1の製作を行ったならば、バラスト調整しながら半潜水型台船33に積み込みを行う。スパー型洋上風力発電設備1を積込んだ状態で浮体4の内部に固形バラスト32を投入する。なお、固形バラスト32の投入は半潜水型台船33への積込み前に行うことも可能である。前記固形バラスト32は何らかの手段で拘束することなく流動可能な状態とする。従って、前記スパー型洋上風力発電設備1は横向きの状態で半潜水型台船33に積み込まれるため、前記固形バラスト32は横に広がった状態となっている。すなわち、前記スパー型洋上風力発電設備1が横向きの状態では、前記固形バラスト32によって前記浮体4の重心位置は偏心した状態となっている。
【0074】
図17に示されるように、曳航船34によって設置場所の海上まで運搬するしたならば、スパー型洋上風力発電設備1を海上に浮かばせる。前記スパー型洋上風力発電設備1のフロートオフ(浮上・進水)は、図16に示されるように、前記半潜水型台船33に注水を行って半潜水状態とし、スパー型洋上風力発電設備1を海水に浮かばせた後、前記半潜水型台船33をスパー型洋上風力発電設備1から離隔させるようにする。
【0075】
次に、図17に示されるように、フロートオフされた浮体4に対して、注水が可能なように、バラスト水のポンプ設備を搭載したバラスト台船35を近接させるとともに、バラストホース33をスパー型洋上風力発電設備1の内部に挿入してバラスト水の供給を可能とする。
【0076】
バラスト水の注水を行い、スパー型洋上風力発電設備1の内部に所定量のバラスト水が注水されると、最初は少しづつではあるが、スパー型洋上風力発電設備1のピッチ角(浮体の長手方向線と水面との成す角度θ)が上昇する。そして、ある時点を過ぎると、図18に示されるように、急激にスパー型洋上風力発電設備1は起立動作を開始するようになる。そして、図19に示されるように、スパー型洋上風力発電設備1がほぼ垂直に起立する。
【0077】
前記スパー型洋上風力発電設備1が横向きの状態では、内部に投入された固形バラスト32によって浮体4の重心位置は偏心した状態にあり、バラスト水の注水によってスパー型洋上風力発電設備1のピッチ角θは徐々に上昇する。前記スパー型洋上風力発電設備1が傾斜しても、前記固形バラスト32は安息角(崩れないで安定を保持し得る斜面角度)の傾斜角度θまでは移動することなく偏在状態を保持する。そして、スパー型洋上風力発電設備1の傾斜角θが安息角を越えてから固形バラスト32は移動を開始するが、その移動速度は水と比べて遅いため、起立まで時間を掛けながら固形バラスト32は流動し、最終的に浮体4の底部に充填する状態となることで重心位置の偏心が解消されることになるが、直立する直前までは偏心量は漸減しながらも偏心状態を維持するため、スパー型洋上風力発電設備1の立上り動作が緩慢になるとともに、直立状態に近くなってからの動揺を小さく押さえられるようになる。従って、バラスト水の注水による浮体4の立て起こしを安全かつ効率的に行うことが可能になる。
【0078】
〔他の形態例〕
(1)上記形態例では、一括施工状態のスパー型洋上風力発電設備1は、浮体4、タワー6及びナセル8によって構成されるものとしたが、図14に示されるように、一括施工状態のスパー型洋上風力発電設備1を浮体4、タワー6、ナセル8及び3枚のブレード9、9…とすることも可能である。なお、ブレード9の取付け枚数は全部としてもよいが、全枚数の内の1又は複数枚とすることも可能である。
【0079】
(2)前記重心偏心化手段として、スパー型洋上風力発電設備1の外面に取り付けたウエイト2を用いる場合と、浮体4の内部に固形バラスト32を投入する場合との2つの例について説明したが、これらは併用して用いることも可能である。
【実施例
【0080】
次に、本願発明において、浮体4又はタワー6に対して、重心偏心化手段(ウエイト2又は固形バラスト32)によって重心位置を偏心させた状態とすることの効果を検証するために行った実験と解析について詳述する。
【0081】
1.水槽実験
1.1 模型諸元
図20および表1に、浮体模型40の概要・寸法を示す.想定実機(2MW機)の1/36.11の縮尺となっている.塩化ビニール製パイプを主体として製作し,浮体上部と下部に鉄板を装着することで重量及び重心高さを調整した。また、図20に示すように、浮体上部端より、65mmおよび418mmの2箇所に動揺計測で使用するマーカー41、42を取り付けている。
【0082】
【表1】
【0083】
1.2 計測方法
水槽実験は,試験水槽(幅:24.4 m,長さ:38.8 m,実験時の水深:1.824 m)にて実施した。
【0084】
浮体模型40を水槽中央にて係留した。係留は,浮体上部を水槽副台車から,浮体下部を水槽岸から行い、係留力によって浮体模型40の挙動が妨げられることのないよう予め調整するなどした。
【0085】
浮体模型40の姿勢計測には,リアルタイムでマーカー41、42の動きを捕らえるモーションキャプチャーシステム(Qualysis)を使用した。浮体模型40に取り付けた2つのマーカー41、42は,水槽脇に設置された計4台のカメラ(Qualysis 5+;4 MP,2048x2048 pixels, 180fps)によってその動きを捕らえられ、0.02秒(50 Hz)毎に空間座標値として出力される。変換された座標値を基に、浮体中心軸と水面とのなす傾斜角を算出し、これをPitch角とした。
【0086】
1.3 バラスト水の注水
バラスト水の注水は、浮体上部よりホースを通じておこなった。使用したポンプは、タクミナ製スムーズフローポンプ(最大吐出量1.08 L/min、最大吐出圧:1 MPa)である。実験時の流量は、0.73 L/min(実機換算で5.7 m3/min)とした。
【0087】
2.解析方法
解析は、任意のバラスト水が浮体内部にある状態において、浮体自身に作用する重力、内部バラスト水に作用する重力、偏心のためのウエイトに作用する重力、浮体に作用する浮力、運動する浮体が外部の流体から受ける付加質量力および抗力の6つの力を考慮し、これらと浮体運動にともなう慣性力との動的なつり合い条件から浮体姿勢を求めることをプログラム(ADAMS:機構解析ソフト)により行った。
【0088】
3.実験及び解析結果
3.1 実験値と解析結果の比較(立て起し時)
立て起し時の実験結果を、ADAMSによるシミュレーション解析結果と比較して図21に示す。ここで、内部バラスト水がない状態での浮体自身の重心位置としては、浮体固定座標系に対して(Xg, Yg, Zg)=(0.0022m, 0.0m, 0.788m)を指定している。ただし、浮体固定座標系は浮体底面に原点を取り、浮体中心軸にそって上向きにZ軸を取り、これと直交する方向にX軸およびY軸をとっている。
【0089】
図21より,ADAMSによるシミュレーション解析結果は、実験結果(Experminent No.1)を良好に再現できていることが分かる。
【0090】
3.2 浮体重心位置の偏心による応答への影響(立て起し時)
3.1より、ADAMSによるシミュレーションにより立て起し時における浮体応答を精度よく予測できることが分かったので、次に浮体重心位置の偏心による応答への影響をシミュレーションにより調査する。Xg=0.0(偏心なし)と、ウエイトの取付けによってXg=0.0022m(実験条件と同様)とXg=0.0044m(重心位置の偏心が2倍の場合)とのXgの値を変化させた計3ケースについて、立て起し時の浮体応答のシミュレーションを実施した。その結果を図22に示す。
【0091】
図22より、偏心がない場合(Xg=0.0m)は,立ち上がりが急になるとともに直立状態になって以降大きな動揺を生じることがわかる。一方、重心の偏心をXg=0.0022mとしたケース、更に重心の偏心をその2倍大きくとったケースの場合は、立ち上がりが緩慢になるとともに、直立状態に近くなっても小さな動揺しか生じないことが分かる。重心の偏心をXg=0.0022mとしたケースと、重心の偏心をXg=0.0044mとしたケースとの比較により、偏心を大きくすると起立動作の緩慢が大きくなるとともに、直立後の動揺は小さくなることが判明した。
【0092】
以上により、注水による浮体の立て起しにおいては、重心位置の偏心させることで、立ち上がりを緩慢化でき、かつ直立後の動揺を小さく抑えることができることが判明した。
【符号の説明】
【0093】
1…スパー型洋上風力発電設備、4…浮体、4A…下側コンクリート製浮体構造部、4B…上側鋼製浮体構造部、5…係留索、6…タワー、7・(7')…風車、8…ナセル、9…ブレード、15…プレキャスト筒状体、17・18…鋼製筒状体、19…PC鋼棒、29…バラスト水排水設備、30…排水ポンプ、31…有孔管、32…固形バラスト、33…半潜水型台船、34…曳航船、35…バラスト台船、36…バラストホース、37…大型起重機船、40…浮体模型、41・42…マーカー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図22