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特許7642225土石流予知システム及び土石流予知法方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】土石流予知システム及び土石流予知法方法
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/00 20060101AFI20250303BHJP
   E02B 3/00 20060101ALI20250303BHJP
   G08B 21/10 20060101ALI20250303BHJP
   G08B 31/00 20060101ALI20250303BHJP
【FI】
G01W1/00 Z
E02B3/00
G08B21/10
G08B31/00 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020164121
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022056223
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】518212241
【氏名又は名称】公立大学法人公立諏訪東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 恭助
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特許第6739114(JP,B1)
【文献】国際公開第2016/163129(WO,A1)
【文献】特開2019-211934(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106796749(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00
E02B 3/00
G08B 21/10
G08B 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定場所における渓流の水位を計測して実測渓流水位を求める水位計測手段と、
前記所定場所周辺の降雨データを取得する降雨データ取得手段と、
前記降雨データから前記所定場所における渓流の水位を予測して予測渓流水位を求める水位予測手段と、
前記実測渓流水位と前記予測渓流水位とに基づいて土石流の予知を行う土石流予知手段と、を備える土石流予知システムであって、
前記土石流予知手段は、前記実測渓流水位から前記予測渓流水位を減算して得られる差分が、所定の第1閾値(絶対値)の負値より小さい場合には天然ダム形成に起因する土石流の危険性があると判断し、所定の第2閾値(絶対値)の正値よりも大きい場合には天然ダム形成以外に起因する土石流の危険性があると判断する、
ことを特徴とする土石流予知システム。
【請求項2】
請求項1に記載の土石流予知システムにおいて、
前記土石流予知手段は、前記差分が、前記第1閾値(絶対値)の負値より小さくなく、かつ前記第2閾値(絶対値)の正値よりも大きくない場合には、土石流の危険性がないと判断する、
ことを特徴とする土石流予知システム。
【請求項3】
請求項1に記載の土石流予知システムにおいて、
前記水位計測手段は水圧センサを有し、
前記渓流の水が濁った場合、
前記水位計測手段は、濁った水の比重が上がることによって前記水圧センサにより実際の水位よりも高く計測された水位を前記実測渓流水位として求め、
前記土石流予知手段は、実際の水位よりも高く計測された前記実測渓流水位から前記予測渓流水位を引いた差分が前記第2閾値(絶対値)の正値よりも大きい場合には土石流の危険性があると判断する、
ことを特徴とする土石流予知システム。
【請求項4】
請求項3に記載の土石流予知システムにおいて、
前記水位計測手段は更に無線通知装置を有し、前記無線通知装置は前記水圧センサで計測された前記渓流の水位を前記実測渓流水位として無線伝送し、
前記土石流予知手段は、無線伝送された前記実測渓流水位を用いて土石流の危険性を判断する、
ことを特徴とする土石流予知システム。
【請求項5】
請求項1に記載の土石流予知システムにおいて、
前記水位計測手段として山岳地水位計を用い、
前記降雨データ取得手段は、前記山岳地水位計の設置場所を含むメッシュで提供される前記降雨データから、前記山岳地水位計の設置場所よりも標高が高く、かつ斜面の方向が前記設置場所に向かっているメッシュ場所を選択して、前記山岳地水位計に流れ込む前記降雨データとする、
ことを特徴とする土石流予知システム。
【請求項6】
所定場所における渓流の水位を計測して実測渓流水位を求める水位計測ステップ
前記所定場所周辺の降雨データを取得する降雨データ取得ステップ
前記降雨データから前記所定場所における渓流の水位を予測して予測渓流水位を求める水位予測ステップ
前記実測渓流水位と前記予測渓流水位とに基づいて土石流の予知を行う土石流予知ステップと、を含む土石流予知方法であって、
前記土石流予知ステップでは、前記実測渓流水位から前記予測渓流水位を減算して得られる差分が、所定の第1閾値(絶対値)の負値より小さい場合には天然ダム形成に起因する土石流の危険性があると判断し、所定の第2閾値(絶対値)の正値よりも大きい場合には天然ダム形成以外に起因する土石流の危険性があると判断する、
ことを特徴とする土石流予知方法。
【請求項7】
請求項6に記載の土石流予知方法において、
前記土石流予知ステップでは、前記差分が、前記第1閾値(絶対値)の負値より小さくなく、かつ前記第2閾値(絶対値)の正値よりも大きくない場合には、土石流の危険性がないと判断する、
ことを特徴とする土石流予知方法。
【請求項8】
請求項6に記載の土石流予知方法において、
前記水位計測ステップでは水圧センサによって水位が計測され、
前記渓流の水が濁った場合、
前記水位計測ステップでは、濁った水の比重が上がることによって前記水圧センサにより実際の水位よりも高く計測された水位を前記実測渓流水位として求め、
前記土石流予知ステップでは、実際の水位よりも高く計測された前記実測渓流水位から前記予測渓流水位を引いた差分が前記第2閾値(絶対値)の正値よりも大きい場合には土石流の危険性があると判断する、
ことを特徴とする土石流予知方法。
【請求項9】
請求項8に記載の土石流予知方法において、
前記水位計測ステップは無線通知ステップを含み、前記無線通知ステップでは前記水圧センサで計測された前記渓流の水位を前記実測渓流水位として無線伝送し、
前記土石流予知ステップでは、無線伝送された前記実測渓流水位を用いて土石流の危険性を判断する、
ことを特徴とする土石流予知方法
【請求項10】
請求項6に記載の土石流予知方法において、
前記水位計測ステップでは、山岳地水位計を用いて水位を計測し、
前記降雨データ取得ステップでは、前記山岳地水位計の設置場所を含むメッシュで提供される前記降雨データから、前記山岳地水位計の設置場所よりも標高が高く、かつ斜面の方向が前記設置場所に向かっているメッシュ場所を選択して、前記山岳地水位計に流れ込む前記降雨データとする、
ことを特徴とする土石流予知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土石流予知システム及び土石流予知法方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳地においては土石流により甚大な被害がもたらされている。 このため土石流が発生したことを検知して下流住民に伝える「土石流検知」の技術、そして土石流発生を予知する「土石流予知」の技術が重要である。 本発明は「土石流予知」の技術に関わる。
【0003】
土石流を予知するシステムは古くから研究され、例えば特許文献1には降雨前の雨量に基づく「実効雨量」と、「単位時間当たりの雨量」を用いた土石流危険判定装置が開示されている。 また、特許文献2には、雨量に基づいて表面水量、河川水位、土壌雨量指数などを計算し、これらに基づいて土砂災害の可能性を判定する土砂災害予測システムが開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、河川に設置した監視カメラ画像を処理して水流を検出し、この水流から土石流発生確率を求める土石流発生予知方法が開示されている。 さらにまた、特許文献4には、渓流の下流域に設置した水位計の計測値を使う土石流発生予測システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5526541号公報
【文献】特許第6084332号公報
【文献】特開2002-208075号公報
【文献】特許第6635296号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の土石流危険判定装置及び特許文献2に記載の土砂災害予測システムは、降雨データだけを使って土石流を予測するように構成されているが、実際には降雨量以外の条件も作用して土石流が発生するので、これらの方法では土石流の危険性について正しい予測ができない。 また、文献3に記載の土石流発生予知方法及び文献4に記載の土石流発生予測システムは、河川水位を基にして土石流を予測するように構成されているが、土石流発生のトリガーとなる降雨データを使わないので、これらの方法でも、やはり土石流の危険性について正しい予測ができない。
【0007】
そこで、本発明は、土石流の危険性について従来よりも正しい予測ができる土石流予知システム及び土石流予知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは山岳地の渓流に水位計を設置し、水位を観測した。 この結果、土石流が発生しない平常時であれば、気象庁の雨雲レーダーから提供される降雨データと地形情報を用いて所定の演算を行うことにより、渓流の水位をほぼ正しく予測できることが確認された。
【0009】
これまでに土石流が発生する前兆現象として、周辺の湧水が突然止まったり、渓流の流水が濁ったり、渓流の水位が急低下するなどの現象が報告されている。 これらの前兆現象が発生した場合、渓流に流れ込む水系が変化している。 従って前兆現象が発生した場合、それまで一致していた実際の水位と、降雨データから予測した水位が合致しなくなる。
【0010】
そこで本発明者らは、実測水位と予測水位とを比較することにより、土石流発生の前兆現象をとらえる土石流予測システム(土石流予知システム)を想到するに至った。
【0011】
本発明の土石流予知システムは、所定場所における渓流の水位を計測して実測渓流水位を求める水位計測手段と、前記所定場所周辺の降雨データを取得する降雨データ取得手段と、前記降雨データから前記所定場所における渓流の水位を予測して予測渓流水位を求める水位予測手段と、前記実測渓流水位と前記予測渓流水位とに基づいて土石流の予知を行う土石流予知手段とを備える土石流予知システムである。
【0012】
また本発明の土石流予知方法は、所定場所における渓流の水位を計測して実測渓流水位を求める水位計測ステップと、前記所定場所周辺の降雨データを取得する降雨データ取得ステップと、前記降雨データから前記所定場所における渓流の水位を予測して予測渓流水位を求める水位予測ステップと、前記実測渓流水位と前記予測渓流水位とに基づいて土石流の予知を行う土石流予知ステップとを含む土石流予知方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来よりも土石流を正しく予測及び予知することが可能となる。これにより土石流災害による被害を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態1に係る土石流予知システム1を説明するために示す図である。
図2】実施形態1における処理の全体像を示すフローチャートである。
図3】降雨データから予測渓流水位を求める処理のフローチャートである。
図4】渓流に設置した山岳地水位計2の例を示す地図である。
図5】降雨データが提供されるメッシュ(X,Y)のイメージを示す地図である。
図6】山岳地水位計2に流れ込むメッシュ(X,Y)を選択した様子を示す地図である。
図7】降雨データ、予測渓流水位及び実測渓流水位の実例を示す図である。
図8】実測渓流水位と予測渓流水位とに基づいて土石流の予知を行う処理のフローチャートである。
図9】実施形態2に係る土石流予知システム1aを説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、図に示す実施形態を用いて説明する。
【0016】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る土石流予知システム1を説明するために示す図である。 実施形態1に係る土石流予知システム1は、山岳地河川10の渓流11において、土石流の危険性が高い場合に、その危険性をスマートフォン6などによって地元住民に伝えることを目的としている。
実施形態1に係る土石流予知システム1は、図1に示すように、所定場所における渓流の水位を計測して実測渓流水位を求める山岳地水位計2(水位計測手段)と、上記所定場所周辺の降雨データを取得する雨雲レーダー3(降雨データ取得手段)と、上記降雨データから上記所定場所における渓流の水位を予測して予測渓流水位を求める渓流水位予測サーバ4(水位予測手段)と、上記実測渓流水位と上記予測渓流水位とに基づいて土石流の予知を行う土石流予測サーバ5(土石流予知手段)とを備える土石流予知システムである。
【0017】
山岳地水位計2は、水圧センサと無線通信装置とで構成される水位センサであって、渓流11の水位を計測し、当該渓流水位のデータを無線で麓にある無線基地局21に伝送する。 なお、水圧センサは、測定する水が濁った場合に、水の比重が上がることにより、実際の水位よりも高い水位が計測されることに留意されたい。
【0018】
無線伝送はLPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれる無線を使うことができる。 LPWA無線は通信距離が長いので山岳部でも使用可能である。 またLPWA無線は低消費電力であるので、例えば少量の乾電池で長期間動作させ、あるいは太陽電池で動作させることが可能となる。このように山岳地に設置する装置からのデータ伝送にはLPWA無線が望ましい。
【0019】
山岳地水位計2で計測された渓流水位に関するデータは、無線基地局21を経由して、実測渓流水位WLa(n)として土石流予測サーバ5に伝送される。 ここでnは計測時間(又は処理時間)を表し、5分ごとに1カウントずつアップする整数である。土石流予測サーバ5はクラウドサーバで構成され、渓流11近辺において土石流が発生する危険性を計算し、その計算結果である危険性を予知情報としてスマートフォン6などに提供する。
【0020】
雨雲レーダー3は、雨雲により反射された電波を観測することにより、各地点での降雨量を調べ、リアルタイムの降雨データRain(X,Y,n)として渓流水位予測サーバ4に提供する。 ここでX,Yは位置座標であり、気象庁の雨雲レーダーは国内を250mの分解能で網羅している。
【0021】
渓流水位予測サーバ4はクラウドサーバで構成され、後述するアルゴリズムにより、山岳地水位計2が設置された場所における渓流11の水位を予測して、予測渓流水位WLp(n)として土石流予測サーバ5に伝送する。 土石流予測サーバ5は、予測渓流水位WLp(n)と実測渓流水位WLa(n)の差異を調べ、その差異が通常よりも大きい場合には土石流発生の可能性が高いことを予知情報としてスマートフォン6などに提供する。
【0022】
図2は、実施形態1における処理の全体像を示すフローチャートである。図2においては、土石流予知システム1の全体動作をフローチャートとして示した。 まず、ステップSP1においては、実施形態1のシステムは5分経過する毎に1回の予知情報を演算する。図示しないタイマー手段により全体が制御され、5分経過する毎に処理がステップSP2以降に進む。 ステップSP2においては、時間カウンタnに「1」を加え、処理時間nが更新される。
【0023】
ステップSP3においては、山岳地水位計2が渓流の水位を計測し、LPWA無線を使って無線伝送された水位情報(実測渓流水位WLa(n))を土石流予測サーバ5が取得する。 ステップSP4においては、気象庁のサーバから提供される降雨データRain(X,Y,n)を渓流水位予測サーバ4が取得する。 ステップSP5においては、渓流水位予測サーバ4は、山岳地水位計2が設置された場所における渓流の水位を予測する。そして、予測渓流水位WLp(n)として土石流予測サーバ5に提供する。
【0024】
ステップSP6においては、土石流予測サーバ5は、予測渓流水位WLp(n)と実測渓流水位WLa(n)の差異を調べ、その差異に基づいて土石流発生の危険性を求める。 ステップSP7において、土石流発生の危険性があると判断された場合には、ステップSP8においてスマートフォン6などに警報が発令される。
【0025】
図3は、降雨データから予測渓流水位を求める処理のフローチャートである。図3においては、ステップSP5の詳細アルゴリズムを説明している。降雨データRain(X,Y,n)は、日本全国を網羅して250m刻みのメッシュで提供される。 図4は、渓流に設置した山岳地水位計2の例を示す地図である。図5は、降雨データが提供されるメッシュ(X,Y)のイメージを示す地図である。図6は、山岳地水位計2に流れ込むメッシュ(X,Y)を選択した様子を示す地図である。
【0026】
山岳地水位計2が図4に示した場所に設置されていた例について説明する。 降雨データのメッシュは図5に模式的に示すように、山岳地水位計2の場所を含み、全国をカバーしている。 これらのメッシュの各点において降雨データRain(X,Y,n)が提供される。 そこでステップSP51においては、メッシュの各点から山岳地水位計2に雨水が(※)流入する場所(X,Y)を選択し、抽出する。 この結果を図6に示すが、山岳地水位計2の設置場所よりも標高が高く、なおかつ斜面の方向が設置場所に向かっている場所が選択される。
【0027】
ステップSP52において、選択された降雨データRain(X,Y,n)を使って流量予測を行う。 この流量予測は「バケツモデル」と呼ばれる方式を用いることができる。 バケツモデルは、各計測点に仮想の「バケツ」を設置し、その点における降雨が一度バケツに入り、バケツの底部にある穴から流れ出た水量B(X,Y,n)をシミュレートする方法である。
【0028】
ステップSP53においては、選択された場所(X,Y)から、山岳地水位計2の設置場所までの距離を求め、想定流速で割り算する。 これによりバケツから出た水が水位計に到達するまでの遅延時間Δx,yを求める。
【0029】
ステップSP54において、次式1に従って総和を演算し、山岳地水位計2を設置した場所での水量V(n)を求める。
【数1】
【0030】
ステップSP55において、次式2によって予測渓流水位 WLp(n)を求める。
WLp (n) = Cf { V(n) } (2)
ここでCfは水量を水位に変換する関数であり、山岳地水位計2を設置した場所における、渓流の断面形状から求める関数である。
【0031】
図7は、降雨データ、予測渓流水位及び実測渓流水位の実例を示す図である。図7においては、上述した水位予測の手法を実際の山岳地河川に適用した結果を示している。 図7中、符号(A)は、山岳地水位計2に流れ込む降雨データRain(X,Y,n)からX,Yに関する総和を求めてプロットした総雨量を示す。 符号(B)は、同時刻に山岳地水位計2で計測された水位(実測渓流水位WLa(n))を示す。 符号(A)で示す総雨量と符号(B)で示す実測渓流水位を比較すると、全く異なっていることが解る。 つまり総雨量(A)と実測渓流水位(B)とは一致しないのである。
【0032】
これに対して、土石流が発生していない平常状態においては、バケツモデルで予測渓流水位WLp(n)を求めた水位(予測渓流水位(符号(C)参照。))は、実測渓流水位(B)に概ね一致していることが解る。
【0033】
図8は、実測渓流水位と予測渓流水位とに基づいて土石流の予知を行う処理のフローチャートである。図8では、ステップSP6の詳細が示されている。 ステップSP61において、予測渓流水位WLp(n)と実測渓流水位WLa(n)との差分Diff(n)が演算される。ここで通常は差分Diff(n)の絶対値が小さい値になっている筈である。 しかし、例えば山岳地水位計2を設置した上流において倒木などがあり、天然のダムが形成された場合には、実測渓流水位WLa(n)が急激に低下する。 このような天然のダムが形成され、やがてそこに蓄えられた水が限界を超えると、天然のダムが一挙に壊されて土石流となる可能性がある。 そこでステップSP62において、差分が所定の閾値Th1(絶対値)の負値(-Th1)を下回っているか否かがチェックされ、該当する場合に処理はステップSP63に移り、「天然ダム形成」に起因する危険性があると判断する。
【0034】
山岳地水位計2周辺の地形が変動し、周辺の湧水が突然止まったり、あるいは渓流の流水が濁ったりした場合には、実測渓流水位WLa(n)が、予測渓流水位WLp(n)を上回ることになる。この判定はステップSP64において、差分Diff(n)が第2の閾値Th2(絶対値)の正値を上回るか否かで判断される。差分Diff(n)が第2の閾値Th2を上回っていた場合に、処理はステップSP65に移行して「環境変化」に起因して土石流が発生する可能性が高まっていると判断する。 他方、差分Diff(n)が小さく、降雨データから予測される水位がそのまま観測された場合は、ステップSP66に処理が移行し、「危険なし」との予測がなされる。
【0035】
[実施形態2]
図9は、実施形態2に係る土石流予知システム1aを説明するために示す図である。 図9においては、2か所の渓流11A及び11Bが示され、それぞれの渓流に山岳地水位計2A及び2Bが設置されている。 山岳地水位計2A及び2Bの構成、役割は上記に説明した山岳地水位計2の場合と同様である。 このように山岳地水位計を増やすことにより、本発明の土石流予知システムを広い山域に適用することが可能となる。
【0036】
また図9に示す渓流11Bにおいては、さらに山岳地水位計2Cを渓流11Bの上流に追加設置している。土石流予想サーバ5は、追加設置された山岳地水位計2Cからの水位情報を使うことにより、降雨データの選択領域(X,Y)を狭めて予測渓流水位WLp(n)を演算できる。 つまり山岳地水位計2Cを同一渓流に追加することにより、予測精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0037】
1,1a 土石流予知システム
2,2A,2B,2C 山岳地水位計
3 雨雲レーダー
4 渓流水位予測サーバ
5 土石流予測サーバ
6 スマートフォン
10 山岳地河川
11,11A,11B 渓流
21 無線基地局
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9