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特許7642267冷凍有頭エビ、冷凍有頭エビ餌、冷凍有頭エビの製造方法、および有頭エビの頭部脱落抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】冷凍有頭エビ、冷凍有頭エビ餌、冷凍有頭エビの製造方法、および有頭エビの頭部脱落抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/20 20160101AFI20250303BHJP
   A23B 4/06 20060101ALI20250303BHJP
   A23B 4/08 20060101ALI20250303BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20250303BHJP
   A23K 20/22 20160101ALI20250303BHJP
   A23K 20/24 20160101ALI20250303BHJP
   A23K 30/00 20160101ALI20250303BHJP
   A23K 50/80 20160101ALI20250303BHJP
   A23L 17/40 20160101ALI20250303BHJP
【FI】
A23K10/20
A23B4/06 501B
A23B4/08 A
A23B4/08 H
A23K20/163
A23K20/22
A23K20/24
A23K30/00
A23K50/80
A23L17/40 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024112008
(22)【出願日】2024-07-11
【審査請求日】2024-07-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502456541
【氏名又は名称】有限会社 シーバイオン
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】蓮井 昌彦
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-125694(JP,A)
【文献】特開2006-034236(JP,A)
【文献】特開2004-065053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
A23L
A22C
A23K
A01K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有頭エビを、酸性塩、糖類および食塩を含有する水溶液、または、酸性塩、糖類および食塩を含有する粉末で処理した後に、冷凍処理を行った、冷凍有頭エビであって、
前記酸性塩は、ミョウバン、焼ミョウバン、または、乳酸カルシウムであり、
解凍時に頭部の付け根が自己消化により軟化し脱落することが抑制される、冷凍有頭エビ。
【請求項2】
前記水溶液または前記粉末は、前記酸性塩として、5質量%未満のミョウバンを含有する、請求項1に記載の冷凍有頭エビ。
【請求項3】
前記水溶液または前記粉末は、前記糖類として、1~30質量%のソルビットを含有する、請求項1に記載の冷凍有頭エビ。
【請求項4】
前記水溶液または前記粉末は、1~15質量%の食塩を含有する、請求項1に記載の冷凍有頭エビ。
【請求項5】
前記水溶液または前記粉末は、甲殻類が有する旨味成分のアミノ酸を1以上含有する、請求項1に記載の冷凍有頭エビ。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれかに記載の冷凍有頭エビを用いた、冷凍有頭エビ餌。
【請求項7】
冷凍テンヤ専用エビ餌である、請求項に記載の冷凍有頭エビ餌。
【請求項8】
有頭エビを、酸性塩、糖類および食塩を含有する水溶液、または、酸性塩、糖類および食塩を含有する粉末で処理した後に冷凍処理を行う、冷凍有頭エビの製造方法であって、
前記酸性塩は、ミョウバン、焼ミョウバン、または、乳酸カルシウムである、冷凍有頭エビの製造方法
【請求項9】
冷凍有頭エビを解凍した際の有頭エビの頭部の脱落を抑制する、有頭エビの頭部脱落抑制方法であって、
有頭エビを、酸性塩、糖類および食塩を含有する水溶液、または、酸性塩、糖類および食塩を含有する粉末で処理した後に冷凍し、
前記酸性塩は、ミョウバン、焼ミョウバン、または、乳酸カルシウムである、有頭エビの頭部脱落抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有頭エビ、冷凍エビ餌、冷凍エビ餌の製造方法、および有頭エビの頭部脱落抑制方法に関し、特に、有頭エビの頭部付け根が自己消化により軟化し脱落することを抑制することができる有頭エビ、およびそれを用いた冷凍エビ餌、冷凍エビ餌の製造方法、有頭エビの頭部脱落抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流通過程のエビは、冷凍であるか否かに関わらず、髭、脚等の突出部が体と一体になった有頭の形態が商品価値は高い。それは食用である場合はもちろんであるが、釣り餌、特にテンヤ釣り餌においても同様である。
テンヤ釣りとは、軸の長いハリのチモト(チとはハリのこと。チの元の部分をチモトという。)に大きな円錐台型のオモリを付けたマダイテンヤといわれる道具に餌の海エビを刺してマダイを狙う釣り方のことである。テンヤ釣り自体は江戸時代から受け継がれる伝統的な釣法だが、そのテンヤ釣りの原理を使い、より手軽に狙える「一つテンヤ」の人気が近年になり急速に高まっている。
一つテンヤ釣りの餌はさまざまあるが、「一つテンヤ釣り」は真鯛釣りに特化しているため海エビが使われる。ここで、餌の海エビとしては、生きた海エビが一番良いが、入手自体が難しいことと高価なため、冷凍エビを使うのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-085535号公報
【文献】特開2016-032443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一つテンヤ釣りでは、ゆらゆらとした動きで魚を誘うので、頭のないエビや、むきエビの場合、エビに頭や足が付いていないと、不自然すぎてなかなか釣れないことが知られている。しかしながら、冷凍エビは、頭や足が取られていることが多く、また、自己消化により身が柔らかくなってしまい、餌持ちが低下してしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、市販の冷凍有頭エビと比べて頭部の脱落を抑止することができる、冷凍有頭エビおよび冷凍エビ餌を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の(1)ないし(6)に記載の冷凍エビを要旨とする。
(1)有頭エビを、酸性塩、糖類および食塩を含有する水溶液、または、酸性塩、糖類および食塩を含有する粉末で処理した後に、冷凍処理を行った冷凍有頭エビであって、前記酸性塩は、ミョウバン、焼ミョウバン、または、乳酸カルシウムであり、解凍時に頭部の付け根が自己消化により軟化し脱落することが抑制される、冷凍有頭エビ。
)前記水溶液または前記粉末は、前記酸性塩として、5質量%未満のミョウバンを含有する、上記(1)に記載の冷凍有頭エビ。
)前記水溶液または前記粉末は、前記糖類として、1~30質量%のソルビットを含有する、上記(1)に記載の冷凍有頭エビ。
)前記水溶液または前記粉末は、1~15質量%の食塩を含有する、上記(1)に記載の冷凍有頭エビ。
)前記水溶液または前記粉末は、甲殻類が有する旨味成分のアミノ酸を1以上含有する、上記(1)に記載の冷凍有頭エビ。
【0007】
また、本発明は、以下の()または()に記載の冷凍エビ餌を要旨とする。
)上記(1)ないし()のいずれかに記載の冷凍有頭エビを用いた、冷凍エビ餌。
)冷凍テンヤ専用エビ餌である、上記()に記載の冷凍エビ餌。
さらに、本発明は、以下の()に記載の冷凍有頭エビの製造方法を要旨とする。
)有頭エビを、酸性塩、糖類および食塩を含有する水溶液、または、酸性塩、糖類および食塩を含有する粉末で処理した後に冷凍処理を行う、冷凍有頭エビの製造方法であって、前記酸性塩は、ミョウバン、焼ミョウバン、または、乳酸カルシウムである、冷凍有頭エビの製造方法。
加えて、本発明は、以下の()に記載の有頭エビの頭部脱落抑制方法を要旨とする。
)冷凍有頭エビを解凍した際の有頭エビの頭部の脱落を抑制する、有頭エビの頭部脱落抑制方法であって、有頭エビを、酸性塩、糖類および食塩を含有する水溶液、または、酸性塩、糖類および食塩を含有する粉末で処理した後に冷凍し、前記酸性塩は、ミョウバン、焼ミョウバン、または、乳酸カルシウムである、有頭エビの頭部脱落抑制方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有頭エビを冷凍する前に、有頭エビを、酸性塩、糖類および食塩を含有する水溶液、または、酸性塩、糖類および食塩を含有する粉末で処理することで、市販の冷凍有頭エビと比べて、冷凍した有頭エビを解凍した際の頭部の脱落を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】酸性塩の種類に応じた、有頭エビの首の付け根の縦剪断力および横剪断力の測定結果と、首の付け根の引っ張り強度の測定結果とを示す表である。
図2】酸性塩の種類に応じて有頭エビの首の状態を目視で評価した際の、浸漬液の組成を示す表である。
図3】ソルビットの濃度、焼ミョウバンの濃度、有頭エビの大きさを変えて、しゃくり回数に応じた有頭エビの首の状態を目視で評価した結果と、首の付け根の引っ張り強度の測定結果とを示す表である。
図4】プロピレングリコール、乳酸ナトリウム製剤、漂白剤、合成着色剤などの添加剤を添加した場合の、しゃくり回数に応じた有頭エビの首の状態を目視で評価した結果と、首の付け根の縦剪断力および横剪断力の測定結果と、首の付け根の引っ張り強度の測定結果とを示す表である。
図5】酸メタ液、リンゴ酸、クエン酸、合成着色料などの添加剤を添加した場合の、しゃくり回数に応じた有頭エビの首の状態を目視で評価した結果と、首の付け根の縦剪断力および横剪断力の測定結果と、首の付け根の引っ張り強度の測定結果とを示す表である。
図6】本実施例に係る有頭エビと、市販の有頭エビの首の付け根の縦剪断力および横剪断力の測定結果と、首の付け根の引っ張り強度の測定結果とを示す表である。
図7】自動しゃくり機によるしゃくり動作の回数に応じた、本実施例に係る有頭エビおよび市販の有頭エビの状態を評価した結果を示す表である。
図8】実釣試験でのしゃくり動作の回数に応じた、本実施例に係る有頭エビおよび市販の有頭エビのエビ餌の状態を評価した結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る冷凍有頭エビの実施形態について説明する。
【0011】
(エビ類)
本実施形態に係るエビ餌は、食用にすることができるいかなる種類のエビ類を用いることができる。このようなエビ類として、たとえば、テッポウエビ、クルマエビ、ウシエビ(ブラックタイガー)、バナメイ、シバエビ、サルエビ、ウチワエビ、サラサエビ、カクレエビ類、オトヒメエビ、イセエビ、セミエビ、ロブスター、サクラエビ、シラエビ、ホッコクアカエビ(アマエビ)、アカザエビ、イソスジエビ、ホッカイエビ、コシマガリモエビ、アシナガモエビ、テナガエビ類、スジエビ、ヌマエビ類、ザリガニ、アメリカザリガニなどが挙げられる。また、エビ類の産地も特に限定されない。なお、本実施形態では、日本の瀬戸内海でとれたエビをエビ餌として用いるものとする。なお、以下においては、エビ餌となるエビ類を、単に「エビ」とも言う。
【0012】
(浸漬液)
本実施形態に係る冷凍有頭エビは、有頭エビの鮮度を保持するために、有頭エビを冷凍する。また、本実施形態では、有頭エビを凍結する前に、本実施形態に係る浸漬液に有頭エビを浸漬する前処理が行われる。以下に、本実施形態に係る浸漬液について説明する。
【0013】
本実施形態に係る浸漬液は、酸性塩、糖類、および食塩を含有し、解凍時などの有頭エビの頭部の自己消化を抑制し、頭部が脱落することを抑止するために用いられる。酸性塩は、有頭エビの自己消化酵素の阻害剤として機能し、頭部の自己消化を抑制する。また、糖類および食塩は、頭部の筋肉を強化し、強度を高める機能が有るものと考えられる。
【0014】
本実施形態において、浸漬液に含有される酸性塩は、特に限定されないが、乳酸カルシウムやミョウバンを用いることができ、ミョウバンを用いることがより好ましい。乳酸カルシウムはpHが高くなると沈殿しやすいためである。また、本発明において、ミョウバンとは、1価の陽イオンの硫酸塩と3価の金属イオンの硫酸塩の複塩であり、水和物および無水物を含む。ただし、ミョウバンとしては、ミョウバンの無水物である焼ミョウバンを用いることが好ましい。また、ミョウバンには、硫酸カリウムアルミニウムまたはその無水物の他に、アンモニアミョウバン、ソーダミョウバン、クロムミョウバン、硫酸ミョウバン、またはそれらの無水物が含まれるが、硫酸カリウムアルミニウムまたはその無水物を用いることが好ましい。本発明においては、焼ミョウバンと称す場合は、硫酸カリウムアルミニウム無水物を示すものとし、ミョウバンと称す場合は、上記全ての種類のミョウバンを示すものとする。
【0015】
酸性塩の含有量は、特に限定されないが、酸性塩がミョウバンである場合には、漂白作用があるが、あまり高い濃度で用いることは望ましくなく、浸漬液全体の5.0質量%未満が好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。一方で、酸性塩は、自己消化酵素の働きを阻害するために、浸漬液全体の0.1質量%以上とすることが好ましく、0.5質量%以上とすることがより好ましく、0.8質量%以上とすることがさらに好ましい。
【0016】
また、浸漬液に含有される糖類も、特に限定されないが、ソルビット(ソルビトール)やキシリトールなどの糖アルコール、グルコースやフルクトースなどの単糖、スクロースなどの二糖類、ペクチンなどの多糖類を用いることができる。本実施形態では、糖類として、ソルビット溶液を用いることとする。糖類の含有量も、特に限定されないが、浸漬液全体の1.0~30.0質量%、より好ましくは5.0~20.0質量%、さらに好ましくは8.0~15.0質量%とすることができる。
【0017】
さらに、本実施形態に係る浸漬液は食塩を含有する構成とすることができる。食塩の含有量は、特に限定されないが、0.1~15.0質量%が好ましく、0.5~10.0質量%がより好ましく、0.8~3.0質量%がさらに好ましい。
【0018】
さらに、浸漬液は、以下の添加物を含有する構成とすることができる。たとえば、浸漬液は、エビの呈味成分を含有する構成とすることができる。具体的に、浸漬液は、エビの呈味成分であるグリシン、アラニン、グルタミン酸、ベタインなどのアミノ酸や、5’-イノシン酸のようなヌクレオチド(核酸関連物質)、乳酸、コハク酸など有機酸塩を含有することができる。特に、本実施形態において、浸漬液は、グリシンおよびアラニンの1種類以上のアミノ酸を含有する構成とすることができ、また、2種類以上のアミノ酸を含有する構成とすることもできる。グリシンおよびアラニンは、アミノ酸のうち、甘味を有する呈味成分であり、エビを浸漬液に浸漬することで、後述するアルカリ塩による塩味と相乗して、エビの可食部の呈味を改善することができる。
【0019】
また、浸漬液は、グリシンやアラニン以外のアミノ酸も含むことができる。たとえば、本実施形態において、浸漬液は、遊離アスパラギンおよび遊離アスパラギン酸を含有する構成とすることができ、遊離アスパラギンおよび遊離アスパラギン酸の合計濃度を好ましくは0.002~0.3重量%とすることができ、より好ましくは0.0025~0.2重量%とすることができ、さらに好ましくは0.005~0.1重量%とすることができる。また、浸漬液は、クエン酸を含有する構成とすることができ、クエン酸の濃度は、0.1~20.0重量%とすることができ、好ましくは0.14~10.0重量%とすることができ、より好ましくは0.4~3.0重量%とすることができる。また、浸漬液は、リンゴ酸を含有する構成とすることができ、リンゴ酸の濃度を好ましくは0.02~4.0重量%とすることができ、より好ましくは0.02~2.0重量%とすることができ、さらに好ましくは0.05~0.5重量%とすることができる。これら浸漬液中に含まれる有機酸は、浸漬液を調製する際に、上記濃度となるように添加され調整される。
【0020】
さらに、浸漬液は、アルカリ塩を含む構成とすることができる。本実施形態では、浸漬液は、アルカリ塩として、塩化ナトリウムや重合リン酸塩などの無機アルカリ塩、または、クエン酸塩または乳酸塩などの有機アルカリ塩を含む構成とすることができる。また、浸漬液は、塩化ナトリウムの濃度を、好ましくは上限5.0重量%とすることができ、より好ましくは0.1~5.0重量%とすることができ、さらに好ましくは0.4~3.5重量%とすることができる。なお、浸漬液中における塩化ナトリウムの濃度は、漬け込み後のエビ餌に求められる塩味の程度に応じて調整することができる。また、浸漬液中に含まれる塩化ナトリウムは、浸漬液を調製する際に、上記濃度となるように添加され調整される。
【0021】
さらに、浸漬液は、塩化ナトリウム以外のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩も含んでもよい。かかる塩を含めることにより、浸漬液のpHを上げることができ、それにより漬け込むエビの歩留まりを向上させ、また、変色抑制効果を高めることができる。このような塩としては、食用可能なものが好ましく、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。
【0022】
浸漬液のpHは、特に限定されないが、好ましくは7.0~10.0であり、より好ましくは7.0~9.7であり、さらに好ましくは7.0~9.4である。pHが低くなった場合、水酸化ナトリウム水溶液などを用いて上記pH範囲に調整するとよい。浸漬液をアルカリ性側に調整することで、漬け込むエビの歩留まりを向上させ、または、変色抑制効果を高めることができる。なお、上記pHは、漬け込みの際の温度における数値とされる。
【0023】
浸漬液のイオン強度は、特に限定されないが、好ましくは0.5~3.0mol/kgであり、より好ましくは0.55~3.0mol/kgであり、さらに好ましくは0.60~3.0mol/kgである。浸漬液のイオン強度は高い方が、漬け込むエビの歩留まりを向上させ、または、変色抑制効果を高めることができる。なお、上記イオン強度は、「水溶液イオン強度」を指し、溶液中の全てのイオン種について、それぞれのイオンのモル濃度と電荷の二乗の積を加え合わせ、それを1/2にしたものである。
【0024】
ただし、本実施形態に係る浸漬液にエビを漬け込む時は、「全体イオン強度」を、0.2~1.5mol/kgとすることが好ましく、0.3~1.5mol/kgとすることがより好ましく、0.4~1.5mol/kgとすることがさらに好ましい。これは、浸漬液の水溶液イオン強度を決定しても、エビに対する浸漬液の量が変われば、その効果も変化してしまうためである。「全体イオン強度」は、エビの重量を水の量とみなし、「(水溶液イオン強度×水溶液量)/(水溶液量+エビ重量)」で定義される。
【0025】
水溶液イオン強度および全体イオン強度は、食用に用いることができる有機酸塩および/または無機酸塩、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のいずれか又はそれらの組合せ、あるいは、クエン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、アスコルビン酸、エリソルビン酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、重合リン酸塩、塩酸塩のいずれか又はそれらの組合せ等を用いて調整することができる。より具体的には、塩化ナトリウム、クエン酸3ナトリウム、塩化カリウム、クエン酸3カリウム、クエン酸カルシウム、乳酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、エリソルビン酸ナトリウム、重合リン酸塩などが好ましく例示される。
【0026】
(冷凍品)
本実施形態に係る冷凍有頭エビ餌は、冷凍された状態で流通、販売される。本実施形態に係る冷凍有頭エビ餌は、従来の冷凍有頭エビ餌と比べて、解凍後に頭部が脱落してしまうことを抑止することができる。また、本実施形態に係る冷凍有頭エビ餌は、冷解凍によるドリップを抑制することができ、さらに、エビの身質のプリプリした食感を保持することもできる。また、冷凍した有頭エビ餌は、解凍により、塩味成分および呈味成分を高濃度で含量しており、相乗的に呈味が改善されるとともに、筋肉および体色が改善されたエビに戻すことができる。
【0027】
(エビ餌の品質判定)
従来、エビ餌の品質判定として多くの方法が知られており、大別すると、五感判定、物理判定、微生物学的判定、そして化学的判定がある。エビ餌の品質判定においては、エビの形態、色沢、香味、肉質、選別、グレーズの各項目が一定以上の基準を満たしているか判定される。特に、冷凍したエビ餌において、清浄な水を使用していること、エビの乾燥を防ぐためグレーズが十分均一に形成されていることが望まれる。また、冷凍したエビの中心温度が零下10度以下であること、内容重量が表示された重量と一致していること、包装資材が衛生的なもので内容物に損傷を与えない程度の強度を有していること、サイズその他の表示したものについては、内容物と合致していること、異物の混入がないことを満たすことも重要となる。なお、腐敗の程度の判定としては、揮発性塩基窒素が検体100g中30mg以下であること、その他アンモニア臭、トリメチルアミン臭、硫化水素臭がないこと、細菌数(生菌数)が検体1g当たり10万以下、大腸菌は100g当たり陰性であることなどが要求される。
【0028】
本実施形態に係る冷凍有頭エビは、本実施形態に係る浸漬液に有頭エビを漬け込むことにより、解凍後の冷凍有頭エビの頭部の脱落を抑止することができる。言い換えると、本発明は、解凍後における頭部の脱落を抑止することができる冷凍有頭エビの製造方法を提供するものであり、また、有頭エビの頭部脱落抑止方法を提供するものである。また、本実施形態に係る冷凍有頭エビは、頭部が付いていることが魚の食いつきに影響し、釣り竿のあおり動作などでも頭部が脱落しにくい、冷凍有頭エビ餌に適していることは言うまではないが、人間のための料理の材料となるエビ類にも適用することができる。特に、エビ類を、頭部を有する状態で提供する料理の材料として、有頭エビのニーズは高く、このような料理の材料となるエビ類に適している。
【0029】
(漬け込み処理)
エビ餌となるエビは、たとえば、海水塩分濃度(3.4%)に対して85%~150%となる塩分濃度、好ましくは海水塩分濃度(3.4%)に対して105%~135%となる塩分濃度の環境水中で、2時間~24時間、好ましくは3時間~8時間飼育される。なお、水温は20℃~45℃とすることが好ましく、25℃~38℃とすることが好ましい。このような飼育工程で飼育することで、エビに含まれる呈味成分の含有量を増加させることができる。具体的に、可食部は、呈味成分の中のうち、少なくともグリシン、アラニン、グルタミン酸、プロリン、トレオニン、セリンの1つ以上が向上し、かつ、食感が向上する。また、この飼育工程により、筋肉に塩味が適度に付与されるため、塩味と呈味との相乗効果により味が向上することができる。
【0030】
エビの漬け込みは、甲殻類の品質に影響しない温度、通常は0~20℃で行うことができる。また、エビを漬け込む時間は、エビのサイズ、形状、許容される菌数、または解凍後の保存期間に応じて、1秒間~48時間、より好ましくは、1秒間~24時間、さらに好ましくは1秒間~18時間とすることができる。漬け込み後のエビが生食用の場合は、1秒間~10分間、好ましくは1秒間~5分間、さらに好ましくは1秒~1分間漬込むことができる。漬け込み後のエビが加熱用の場合は、1秒間~48時間、好ましくは10分間~24時間、さらに好ましくは1時間~18時間漬け込むことができる。加熱用の場合は、解凍後数日間スーパー等に陳列されるため、長期間変色を抑制する必要があることから、生食用の場合よりも漬け込み時間を長くすることが好ましい。
【0031】
また、漬け込みの方法としては、有頭エビを浸漬液に浸漬させる方法、浸漬液を有頭エビの表面に噴霧する方法のいずれでも良い。浸漬液は、漬け魚(味噌漬け、粕漬け、西京漬け等)の調味液の態様としても良い。また、有頭エビは、生きたまま浸漬液に浸漬させることが好ましいが、冷凍などした有頭エビや、生きていない有頭エビを浸漬液に浸漬させる構成とすることもできる。
【0032】
漬け込み時間について、特に上限はないが、有頭エビの品質に影響を与えないために、必要以上に長く漬け込む必要はなく、他の作業との関係で適当な時間を設定することが好ましい。たとえば、有頭エビを浸漬液に3分間以上浸漬することが好ましく、10分間以上浸漬させることがより好ましく、30分間以上浸漬させることがさらに好ましい。一方で、有頭エビを浸漬液に120分間以下で浸漬することが好ましく、100分間以下で浸漬することがより好ましく、80分間以下で浸漬することがさらに好ましい。
【0033】
また、有頭エビを浸漬液に漬け込む量は、特に限定されないが、有頭エビの重量に対して、浸漬液を10~500質量%とすることが好ましく、50~400質量%とすることがより好ましく、80~250質量%とすることがより好ましい。また、有頭エビを浸漬液に漬け込む際の温度も、特に限定されないが、-10~30℃が好ましく、0~20℃がより好ましく、3~10℃がより好ましい。
【0034】
本実施形態に係る浸漬液は、酸性塩、特にミョウバンを、浸漬液全体の5質量%未満で含有することで、冷凍有頭エビを解凍した際に、自己消化酵素の働きを阻害することができ、解凍後における有頭エビの頭部の脱落を抑止することができる。また、ミョウバンのうち、焼ミョウバンを用いることで、生ミョウバンを用いる場合と比べて、解凍後における有頭エビの頭部の脱落を約2倍抑止することができる。また、本実施形態に係る浸漬液は、糖類、特にソルビットを浸漬液全体の5質量%未満で含有し、さらに、食塩を浸漬液全体の1~15質量%の範囲で含有することで、頭部の付け根の筋肉を補強し、解凍後における有頭エビの頭部の脱落を抑止することができる。また、本実施形態に係る浸漬液は、クエン酸、リンゴ酸などの有機酸が、塩化ナトリウム及び/又はアルカリ金属塩との反応により、浸漬液中で有機酸塩を生じることによる還元作用により、変色を抑制することもできる。また、クエン酸、リンゴ酸などの有機酸および/またはポリフェノールの抗酸化作用により、色素タンパク質、カロチノイド色素、またはリン脂質の酸化が抑制され、変色が抑制される可能性も考えられる。
【0035】
本明細書において「変色」とは、エビが本来呈していた赤色が褐変したり退色したりすることをいう。また「変色抑制」とは、係る褐変や退色が、未処理の時よりも程度が小さくなること、進行が遅延すること、および/または本来呈していた赤色が維持されることを含む。特に、エビについては、黒変することが抑制されることを含んでいる。
【0036】
本実施形態に係る浸漬液で処理することにより、たとえば、-30℃~-5℃で1日~12か月凍結し解凍した後であっても、変色抑制効果が得られることが分かっている。また、漬け込み後のエビが生食用の場合は、解凍後に2℃~15℃で1時間~12時間保存した後であっても、変色抑制効果が得られる。さらに、漬け込み後のエビが加熱用の場合は、解凍後に2℃~15で1日~5日保存した後であっても、変色抑制効果が得られる。
【0037】
漬け込み後のエビは、-80~-5℃で冷凍することができ、好ましくは-70℃~-10℃で冷凍することができ、さらに好ましくは-65℃~-20℃で冷凍することができる。冷凍は、緩慢凍結でも急速凍結でも良いが、急速凍結が好ましい。また、浸漬液を除去した後に冷凍しても良いし、エビに浸漬液が付着した状態で冷凍しても良い。
【0038】
冷凍後のエビは、-60℃~-5℃、好ましくは-50℃~-20℃、さらに好ましくは-45℃~-25℃で、1日~12か月保存することができる。冷凍保存は、冷凍庫での保管、冷凍温度帯での輸送、冷凍温度帯での商品の陳列を含むことができる。冷凍後のエビの解凍は、0~40℃で、送風解凍、流水解凍、溜水解凍、自然解凍により行うことができる。
【0039】
このような処理により、漬け込み後に冷凍または冷凍保管した冷凍有頭エビまたは冷凍有頭エビ餌が得られる。また、漬け込み後に冷凍または冷凍保管した冷凍有頭エビまたは冷凍有頭エビ餌を解凍した有頭エビまたは有頭エビ餌を得ることができる。
【実施例
【0040】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0041】
本実施例では、有頭エビとして、瀬戸内海で多く獲れるサルエビを用いた。サルエビは体長10cm程度の比較的小型のエビである。以下においては、本実施例で使用した頭部を有するサルエビを、単に「有頭エビ」と称して説明する。
【0042】
本実施例では、まず、実施例1~3および比較例1~2の浸漬液を準備した。図1に示すように、実施例1~3に係る浸漬液は共通して、食塩を3質量%含有し、ソルビットを10質量%含有する。また、図1に示すように、実施例1に係る浸漬液は、酸性塩として焼きミョウバンを1質量%含有し、実施例2に係る浸漬液は、酸性塩としてクエン酸(無水)を1質量%含有し、実施例3に係る浸漬液は、酸性塩としてフマル酸1質量%を含有する。また、図1に示すように、比較例1,2は、共通して酸性塩を含有しておらず、共通して食塩を3質量%含有している。また、比較例1では、ソルビットを含有しておらず、比較例2ではソルビットを5質量%含有している。なお、図1は、実施例1~3および比較例1~2の試験結果を示す図である。
【0043】
そして、生きた状態の有頭エビを実施例1~3および比較例1~2の浸漬液に、有頭エビ:浸漬液が1:2の割合となるように浸漬した。また、実施例1~3および比較例2では4℃の浸漬液に30分間浸漬し、比較例1では4℃の浸漬液に15分間浸漬した。その後、有頭エビを浸漬液に浸漬したまま-20℃の温度下で1カ月冷凍保管した。そして、冷凍保管した実施例1~3および比較例1~2の有頭エビを解凍し、レオメーターを用いて、有頭エビの首の付け根の縦剪断力および横剪断力の測定と、有頭エビの首の付け根の引っ張り強度の測定を行った。なお、本実例では、レオメーターとして、株式会社サン科学社の「sun RHEO METER CR-100」を用いた。
【0044】
図1は、実施例1~3の有頭エビの首の付け根の縦剪断力および横剪断力、並びに、引っ張り強度の測定結果を示す図である。図1に示すように、実施例1~3では、浸漬液が酸性塩を含有することで、引っ張り強度および縦剪断力が比較例1~2の2倍以上と大きくなった。特に、酸性塩としてミョウバンを用いた場合に、引っ張り強度および縦剪断力が最も大きくなった。このことから、浸漬液において、酸性塩を含む構成とすることが好ましく、酸性塩としてミョウバンを用いることがより好ましく、これにより、解凍した有頭エビの首の付け根の引っ張り強度や縦剪断力を高くすることができ、有頭エビの頭部の脱落を抑制することができることがわかった。
【0045】
また、実施例4,5として、図2に示すように、酸性塩、糖類、食塩以外の成分も含有する浸漬液を用いて、冷凍有頭エビの解凍後の状態を目視で評価した。具体的には、実施例4,5に係る浸漬液は、共通して、ソルビットを25質量%、グリシンを2.5質量%、アラニンを1.5質量%、グルタミン酸ナトリウムを1.5質量%、イノシン酸ナトリウムを0.2質量%、キュアリング剤(アルカリ性重合リン酸塩を主剤とする複合製剤)を1.0質量%、食塩を3.0質量%含有している。また、実施例4では、酸性塩として焼ミョウバンを2.5質量%含有し、実施例5では、酸性塩として乳酸カルシウムを2.5質量%含有する。なお、キュアリング剤として、ハマダフードシステム社製の「キュアリング剤HP」を用いた。
【0046】
そして、実施例4,5では、有頭エビ:浸漬液が1:2の割合となるように、4℃の浸漬液に有頭エビを30分間浸漬し、その後、有頭エビを浸漬液に浸漬したまま-20℃の温度下で1カ月冷凍保管した。そして、冷凍保管した実施例4,5の有頭エビを解凍し、解凍した有頭エビの首の付け根の状態を目視で確認し評価した。具体的には、実施例4,5ともに、有頭エビの頭部と首の付け根との間に隙間ができておらず、頭部の脱落も見られなかった。ただし、実施例5では、乳酸カルシウムがリン酸塩であるキュアリング剤と反応し沈殿が見られたため、酸性塩として焼ミョウバンを用いることが好ましいことが分かった。
【0047】
また、図3に示す例では、実施例6~13として、ソルビットの濃度、焼ミョウバンの濃度、有頭エビの大きさを変えて、しゃくり回数に応じた有頭エビの首の状態を目視で確認し評価するとともに、解凍直後の有頭エビの首の付け根の引っ張り強度を測定した。実施例6~13の浸漬液では、共通して、食塩を3.0wt%、グリシンを1.0wt%、グルタミン酸ナトリウムを1.0wt%、イノシン酸ナトリウムを0.1wt%含有している。また、実施例6,7,10,11ではソルビットを10.0wt%を含有し、実施例8,9,12,13ではソルビットを5.0wt%を含有する。さらに、実施例6~9では焼ミョウバンを1.0wt%を含有し、実施例10~13では焼ミョウバンを0.5wt%を含有する。加えて、実施例6,8,10,12では中程度の大きさの有頭エビを用い、実施例7,9,11,13では大きいサイズの有頭エビを用いた。なお、比較例3,4として、ソルビットや焼ミョウバンなどを添加していない海水に浸した有頭エビを用いた。
【0048】
なお、図3に示す例では、生きた有頭エビを水産会社から調達し、有頭エビ:浸漬液が1:2の割合となるように、クーラーボックス(5~10℃)内において、浸漬液に有頭エビを2時間浸漬し、その後、有頭エビを浸漬液に浸漬したまま-30℃の温度下で1カ冷凍保管した。そして、図3に示す例では、解凍した冷凍有頭エビを釣竿に取り付け、さらに、有頭エビを取り付けた釣竿を上下に振るしゃくり動作を、水温26度の水道水内で、自動しゃくり機と人の手で交互に行い(自動しゃくり機で125回行った後に、手振りで10回行うことを繰り返し)、各有頭エビの頭部の付け根の隙間の状態を、新鮮な生のエビの状態と比較して評価した。なお、しゃくり回数に応じた有頭エビの首の状態の評価は、生の有頭エビと同様の状態であれば100点とし、生の有頭エビと比べて頭部の付け根の隙間が少し開いているが、付け根の強度がしっかりしている場合は80点とし、生の有頭エビと比べて頭部の付け根の隙間が開いているが、付け根の強度があり、頭部は脱落していない場合は60点とし、生の有頭エビと比べて頭部の付け根の隙間が広がり、頭部が脱落しかかっている場合は40点とし、頭部の付け根の隙間が大きく広がり、頭部が脱落寸前である場合は20点とし、頭部が脱落した場合は0点とした。
【0049】
図3に示すように、有頭エビのサイズは、中サイズのものよりも、大サイズのもの方が、頭部が脱落しにくくなる傾向にあることが分かった。また、ソルビットの添加量については、5.0wt%と比べて、10.0wt%のほうが、頭部が脱落しにくくなる傾向がわずかに見られたが有意差はなかった。また、焼ミョウバンの添加量についても、0.5wt%と1.0wt%と同程度の結果となった。これらのことから、ソルビットは5.0wt%以上であれば好ましく、焼ミョウバンについても0.5wt%以上であれば好ましいことがわかった。また、有頭エビの首の引っ張り強度については、同じサイズの有頭エビ同士で比較すると、比較例3,4に対して、実施例6~13では大きくなった。
【0050】
次いで、図4では、実施例14~21として、ソルビットの濃度を変えるとともに、乳酸ナトリウム製剤、漂白剤、および合成着色料を添加した場合の、しゃくり回数に応じた有頭エビの首の状態を目視で確認し評価するとともに、解凍直後の有頭エビの首の付け根のたて剪断力、横剪断力および引っ張り強度を測定した。具体的には、図4に示す実施例14~21の浸漬液では、共通して、食塩を3.0wt%、グリシンを1.0wt%、グルタミン酸ナトリウムを1.0wt%、イノシン酸ナトリウムを0.1wt%、焼きミョウバンを1.0wt%含有している。また、実施例14,15,18,21の浸漬液ではソルビットを10.0wt%を含有し、実施例16,17,19,20の浸漬液ではソルビットを20.0wt%を含有する。さらに、実施例15,17,19~21の浸漬液では乳酸ナトリウム製剤を1.0wt%を含有し、実施例18,19の浸漬液では漂白剤を0.3wt%含有し、実施例20,21の浸漬液ではさらに着色合成料を0.1wt%含有する。
【0051】
なお、図4に示す例では、有頭エビ:浸漬液が1:2の割合となるように、5℃の浸漬液に有頭エビを30分間浸漬し、その後-30℃の温度下で1カ冷凍保管した。なお、しゃくり回数に応じた有頭エビの首の状態の評価は、図3に示す例と同様に行った。また、しゃくり動作も、図3に示す例と同様に、水温26℃の水道水の中で、自動しゃくり機で125回行った後に、手振りで10回行うことを繰り返した。
【0052】
図4に示すように、ソルビットを10.0wt%含有する実施例14,15,18,21と、ソルビットを10.0wt%含有する実施例16,17,19,20では、有意な差は見られず、ソルビットは10.0wt%以上含有することが好ましいことが分かった。また、乳酸ナトリウム製剤の添加の有無や、漂白剤の添加の有無でも、有意な差は見られなかった。なお、合成着色料を添加した場合は、頭部の脱落がしやすくなる傾向が見られた。
【0053】
次いで、図5では、実施例22~31として、ソルビットの濃度を変えるとともに、酸性メタリン酸、リンゴ酸、クエン酸、および合成着色料を添加した場合の、しゃくり回数に応じた有頭エビの首の状態を目視で確認し評価するとともに、解凍直後の有頭エビの首の付け根のたて剪断力、横剪断力および引っ張り強度を測定した。また、図5に示す例では、浸漬液に浸漬した有頭エビを、浸漬液に浸漬したまま冷凍する冷凍保存方法と、浸漬液から有頭エビを取り出して真空包装して冷凍する冷凍保存方法とを行った。具体的には、図5に示す実施例22~31の浸漬液では、共通して、食塩を3.0wt%、グリシンを1.0wt%、グルタミン酸ナトリウムを1.0wt%、イノシン酸ナトリウムを0.1wt%、焼きミョウバンを1.0wt%含有している。また、実施例22,23,26,29,31の浸漬液ではソルビットを10.0wt%を含有し、実施例24,25,27,28,30の浸漬液ではソルビットを20.0wt%を含有する。さらに、実施例24,25の浸漬液では酸性メタリン酸を1.0wt%含有し、実施例26,27の浸漬液ではリンゴ酸を0.5wt%含有し、実施例28,29の浸漬液ではクエン酸を0.5wt%含有し、実施例30,31の浸漬液では着色合成料(R106)を0.04wt%含有する。さらに、実施例22,24,26,28では、浸漬液に浸漬した有頭エビを浸漬液に浸漬したままま冷凍し、実施例23,25,27,29~31では、浸漬液から有頭エビを取り出して真空包装して冷凍した。なお、本実施例では、酸性メタリン酸として、ポリホス化学研究所製の液体ウルトラ(メタリン酸50%溶液)を用いた。
【0054】
なお、図5に示す例では、有頭エビ:浸漬液が1:2の割合となるように、5℃の浸漬液に有頭エビを30分間浸漬し、その後-30℃の温度下で1カ冷凍保管した。なお、しゃくり回数に応じた有頭エビの首の状態の評価は、図3,4に示す例と同様に行った。また、しゃくり動作も、図3,4に示す例と同様に、水温26℃の水道水の中で、自動しゃくり機で125回行った後に、手振りで10回行うことを繰り返した。
【0055】
図5に示すように、浸漬液に浸漬した有頭エビを浸漬液に浸漬したままま冷凍した実施例22,24,26,28では、浸漬液から有頭エビを取り出して真空包装して冷凍した実施例23,25,27,29~31と比べて、有頭エビの頭部の脱落を抑制する傾向があることが分かった。また、酸性塩として、焼ミョウバンを含有することが好ましいが、焼ミョウバンに加えて、酸メタ液、リンゴ酸、クエン酸などの有機酸を含有させても、有頭エビの頭部の脱落に有意な効果は得られなかった。
【0056】
また、図6に示す例では、本実施形態に係る冷凍有頭エビの実施例32と、市販の冷凍有頭エビ(比較例5~11)について、解凍直後の有頭エビの首の付け根のたて剪断力、横剪断力および引っ張り強度を測定した。図6に示すように、実施例32の有頭エビでは、首の付け根の縦剪断力が、実施例32および比較例5~11の中で一番大きく、また、有頭エビの首の付け根の横剪断力が、実施例32および比較例5~11の中で2番目に大きくなった。また、有頭エビの首の付け根の引っ張り強度は、実施例32および比較例5~11の中で一番大きくなった。具体的には、実施例32の有頭エビでは、首の付け根の縦剪断力が比較例5~11の平均値の約1.2倍となり、首の付け根の横剪断力が比較例5~11の平均値の約1.3倍となった。さらに、実施例32の有頭エビでは、首の付け根の引っ張り強度は比較例5~11の平均値の約3.15倍と、比較例5~11と比べて大きく改善された。このように、本実施形態に係る冷凍有頭エビは、市販の冷凍有頭エビと比べて、生きた有頭エビに近い身の強度を有し、頭部が取れにくい特性を有することが分かった。
【0057】
次いで、図7に示す例では、実施例32の有頭エビと、上記比較例5~10の有頭エビを、しゃくり回数に応じた有頭エビの首の状態を目視で確認し評価した。なお、しゃくり回数に応じた有頭エビの首の状態の評価は、図3~5に示す例と同様に行った。また、しゃくり動作も、図3~5に示す例と同様に行った。図7に示すように、実施例32および比較例5では、しゃくり動作を開始する前(しゃくり動作が0回)から、有頭エビが生の有頭エビとほぼ同様の状態であり評価は100点であったが、比較例6~10では、解凍した時点で、生の有頭エビと比べて頭部の付け根の隙間が少し開いており評価は80点となった。また、比較例8,10では自動しゃくり機でしゃくりを250回行った後に手振り10回を行った時点で頭部が脱落し、比較例7では、自動しゃくり機でしゃくりを375回行った後に手振り10回を行った時点で頭部が脱落した。また、比較例9では、自動しゃくり機でしゃくりを1000回行った時点で頭部が脱落し、比較例2では自動しゃくり機でしゃくりを1000回行った後に手振り10回を行った時点で頭部が脱落した。さらに、比較例1では、自動しゃくり機でしゃくりを1250回行った後に手振り10回を行った時点で頭部が脱落した。これに対して、実施例では、自動しゃくり機でしゃくりを1450回行った後に手振り10回を行った場合でも、頭部の付け根の隙間が大きく広がり頭部が脱落寸前となったが、頭部は脱落しなかった。このことから、実施例32の有頭エビでは、比較例5~10の有頭エビと比べて、しゃくり動作を行っても、有頭エビの頭部が取れにくく、生の有頭エビに近い状態でテンヤ釣りを行うことができることが分かった。
【0058】
さらに、図8に示す例では、実施例32および比較例5~11の有頭エビを用いて、実際の釣り場でテンヤ釣りを行い、しゃくり動作の回数ごとの有頭エビ餌の状態を評価した。図3は、実釣試験でのしゃくり動作の回数とエビ餌の状態との評価結果を示す表である。具体的には、香川県志度湾沖の水深20~30メートルの砂地にて、垂直方向にしゃくり動作を行い、図3~5,7に示す例と同様の評価方法にて、各有頭エビの頭部の状態を評価した。なお、図8に示す例においては、比較例5~10の有頭エビについては1段しゃくりを行い、実施例32の有頭エビについては2段しゃくりを行った。
【0059】
図8に示すように、実釣試験においても、実施例32の有頭エビでは、比較例5~10の1段しゃくりよりも有頭エビに対する負荷の高い2段しゃくりを行っているにもかかわらず、比較例5~10の有頭エビと比べて、頭部の脱落がしにくく、餌持ちが良いことが分かった。具体的には、実施例32のエビ餌では、2段しゃくりを70回行っても、付け根の強度はあり、頭部は脱落していない、70点との評価となった。また、実施例のエビ餌では、比較例5~10の有頭エビと比べて、テンヤ釣りにおける真鯛などの魚の食いつきもよかった。さらに、実釣試験から、実施例32のエビ餌は、2段しゃくりによるアクションテンヤ釣法や、丘(ショア)からのキャスティングテンヤ釣法にも適切に使用可能であることがわかった。
【0060】
このように、本実施形態に係る冷凍有頭エビは、浸漬液に浸漬した後に冷凍処理を行った冷凍有頭エビであって、浸漬液を、酸性塩、糖類および食塩を含有する水溶液とすることで、解凍時に頭部の付け根が自己消化により軟化し脱落することを抑制することができる。特に、本実施形態に係る浸漬液では、酸性塩として浸漬液全量に対して5質量%未満のミョウバンを含有することで、冷凍有頭エビの頭部の脱落をより抑制することができる。特に、ミョウバンを用いることで、有頭エビのタンパク質の変性や自己消化酵素の失活を促進し、また、ミョウバンが硫酸カリウムアルミニウムである場合は、アルミニウムイオンにより架橋構造が形成されることが予想される。これにより、本実施形態に係るミョウバンを含む浸漬液で処理した冷凍有頭エビでは、従来と比べて、身の弾力や硬さが増し、冷凍有頭エビの頭部の脱落をより抑制することができる。さらに、本実施形態に係る冷凍有頭エビでは、浸漬液に、1~30質量%のソルビット、1~15質量%の食塩を含有することで、冷凍有頭エビの頭部の脱落をより抑制することができる。なお、本実施形態に係る冷凍有頭エビは、テンヤ釣りなどのエビ餌として用いることが好適であるが、食用として用いることができることが前提となっている。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0062】
たとえば、上述した実施形態では、有頭エビをミョウバン、糖類および食塩を含有する浸漬液に浸漬し、または、当該浸漬液を誘導海老に噴霧した構成を例示したが、この構成に限定されず、有頭エビをミョウバン、糖類および食塩を含有する粉末にまぶし、10分以上静置した後に、冷凍処理を行うことで、冷凍有頭エビを製造する構成とすることができる。なお、この場合、当該粉末は、上述した実施形態の浸漬液と同じ範囲で、ミョウバン、糖類および食塩を含有する構成とすることができる。
【要約】
【課題】本発明は、市販の冷凍有頭エビと比べて頭部の脱落を抑止することができる、冷凍有頭エビおよび冷凍エビ餌を提供する。
【解決手段】有頭エビを、酸性塩、糖類および食塩を含有する水溶液、または、酸性塩、糖類および食塩を含有する粉末で処理した後に、冷凍処理を行った、冷凍有頭エビであって、解凍時に頭部の付け根が自己消化により軟化し脱落することが抑制される、冷凍有頭エビ。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8