(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】ボイド可視化方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20250303BHJP
【FI】
G01N23/046
(21)【出願番号】P 2024210139
(22)【出願日】2024-12-03
【審査請求日】2024-12-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595143333
【氏名又は名称】桑野工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕太
(72)【発明者】
【氏名】上谷 拓未
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-161293(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0091013(US,A1)
【文献】特表2021-516448(JP,A)
【文献】特開2022-89102(JP,A)
【文献】特開平8-155625(JP,A)
【文献】特開2009-174972(JP,A)
【文献】特開2006-90743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/32
G01N 23/00 - G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ダイカスト又は樹脂成形で製造された検査対象部品(10)の内部画像がX線CTスキャナ(5)で撮像されるCTスキャンステップ(S1)と、
前記X線CTスキャナが、前記検査対象部品の形状に加え、前記検査対象部品のボイド(18)の位置及び大きさを示すSTLデータを3Dプリンタ(6)に送信するデータ送信ステップ(S2)と、
前記3Dプリンタが、受信したSTLデータに基づき、前記検査対象部品のボイド以外の素材部(13)に対応する基部(23)を透明材料のモデル材で充填し、前記検査対象部品のボイドに対応するボイド可視化部(28)を着色材料のサポート材で充填して三次元造形物(20)を造形する造形ステップ(S3)と、
前記三次元造形物の前記ボイド可視化部の位置及び大きさに基づき、前記検査対象部品の品質が検査される検査ステップ(S5)と、
を含むボイド可視化方法。
【請求項2】
前記造形ステップの後、前記三次元造形物を着色液(7)に含浸し、前記三次元造形物の表面に露出した前記ボイド可視化部(28s)を前記サポート材とは異なる色に着色する着色ステップ(S4)をさらに含む請求項1に記載のボイド可視化方法。
【請求項3】
画像認識装置(8)による検査方法に用いられ、
前記検査ステップにおいて、前記画像認識装置は、画像認識した前記ボイド可視化部の画像を、予め記憶された又は学習された検査基準画像と比較し、前記検査対象部品が良品か不良品か判別する請求項1または2に記載のボイド可視化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ダイカスト部品や樹脂成形部品等の製造時に発生するボイドの可視化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線CTスキャナを用いて内部欠陥(ボイド)を検査する方法が知られている。例えば特許文献1には、X線CTの画像に基づきアルミダイカスト部品の内部欠陥を検出する方法が開示されている。
【0003】
また特許文献2に開示された鋳造品内部欠陥検査支援装置では、表示画像形成手段は、鋳造品の三次元形状モデルを半透明とし、空洞に該当する部分を三次元モデルとは異なる色で強調した表示画像を形成してディスプレイ装置に表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-88310号公報
【文献】特開2004-34144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法で用いられる画像は白黒画像であるため、内部欠陥の位置、大きさの三次元把握が難しく、品質検査に熟練技能を要する。また、一つのサンプルに対し複数枚の断面写真が出力されるためデータ管理が煩雑となる。さらに、X線CTスキャンの断面ピッチによって、大きなボイドを過小評価したり、小さなボイドを見落としたりする可能性がある。
【0006】
特許文献2には、検査支援装置によって内部欠陥状態の検査が容易になると記載されているが、ディスプレイ装置の表示画像が図面等により開示されておらず、実際にどの程度容易になるのか不明である。また、ユーザは、ディスプレイ装置に表示された三次元モデルの画像を視覚的に確認可能であるに過ぎず、内部欠陥の位置や大きさを直接的に三次元把握できるわけではない。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、検査対象部品の内部のボイドを直接的に三次元把握可能なボイド可視化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるボイド可視化方法は、CTスキャンステップ(S1)と、データ送信ステップ(S2)と、造形ステップ(S3)と、検査ステップ(S5)と、を含む。CTスキャンステップでは、金属ダイカスト又は樹脂成形で製造された検査対象部品(10)の内部画像がX線CTスキャナ(5)で撮像される。
【0009】
データ送信ステップでは、X線CTスキャナが、検査対象部品の形状に加え、検査対象部品のボイド(18)の位置及び大きさを示すSTLデータを3Dプリンタ(6)に送信する。
【0010】
造形ステップでは、3Dプリンタが、受信したSTLデータに基づき、検査対象部品のボイド以外の素材部(13)に対応する基部(23)を透明材料のモデル材で充填し、検査対象部品のボイドに対応するボイド可視化部(28)を着色材料のサポート材で充填して三次元造形物(20)を造形する。検査ステップでは、三次元造形物のボイド可視化部の位置及び大きさに基づき、検査対象部品の品質が検査される。
【0011】
本発明では、3Dプリンタの三次元造形物において、透明な基部に対しボイド可視化部は例えば乳白色のサポート材で充填されているため、視覚的に容易に認識することができる。しかも検査作業者は、ディスプレイ装置に表示された三次元画像を見るだけでなく、リアルな三次元造形物に触れながらボイドの位置や大きさを直接的に三次元把握することができる。したがって、検査対象部品の品質検査を容易に行うことができる。
【0012】
本発明のボイド可視化方法は、造形ステップの後、三次元造形物を着色液(7)に含浸し、三次元造形物の表面に露出したボイド可視化部をサポート材とは異なる色に着色する着色ステップ(S4)をさらに含んでもよい。これにより、検査対象部品の表面に接触しているボイドをより見やすく可視化することができる。
【0013】
また本発明のボイド可視化方法は、検査作業者による目視検査に限らず、画像認識装置(8)による検査方法に用いられてもよい。検査ステップにおいて、画像認識装置は、画像認識したボイド可視化部の画像を、予め記憶された又は学習された検査基準画像と比較し、検査対象部品が良品か不良品か判別する。これにより、検査作業者による判断のばらつきを無くし、一律の基準に基づいて機械的に不良品を判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態によるボイド可視化方法が実施されるシステムのブロック図。
【
図2】検査対象部品サンプルの(a)正面図、(b)
図2(a)のIIb-IIb線断面図、(c)
図2(b)のIIc-IIc線断面図。
【
図4】
図3の(a)着色部周辺の拡大図、(b)
図4(a)のIVb矢視図。
【
図5】一実施形態によるボイド可視化方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<一実施形態>
本発明の一実施形態によるボイド可視化方法について、図面に基づいて説明する。このボイド可視化方法は、金属ダイカスト部品や樹脂成形部品等の製造時に発生するボイドを可視化して品質検査を支援するための方法である。本実施形態では代表的な検査対象部品としてアルミニウムダイカスト品を想定する。
【0016】
図1では、検査対象部品10の内部のボイド18を模式的に白丸で示す。検査対象部品10におけるボイド18以外の部分を素材部13という。ボイド可視化システム9は、X線CTスキャナ5と3Dプリンタ6とを含む。X線CTスキャナ5は、検査対象部品10の内部画像を撮像し、検査対象部品10の内部のボイド18を判別する。X線CTスキャナ5は、検査対象部品10の形状に加え、検査対象部品10のボイド18の位置及び大きさを示すSTLデータを3Dプリンタ6に送信する。
【0017】
3Dプリンタ6は、受信したSTLデータに基づき三次元造形物20を造形する。三次元造形物20において検査対象部品10の素材部13に対応する部分を基部23といい、ボイド18に対応する部分をボイド可視化部28という。3Dプリンタ6は、三次元造形物20の基部23を透明材料のモデル材で充填し、ボイド可視化部28を例えば乳白色の着色材料のサポート材で充填する。造形された三次元造形物20は、さらにサポート材とは異なる色、例えば黒色の顔料を含む着色液7に数時間含浸されてもよい。これにより、三次元造形物20の表面に露出したボイド可視化部28が着色される。
【0018】
検査作業者又は画像認識装置8により、三次元造形物20のボイド可視化部28の位置及び大きさに基づき、検査対象部品10の品質が検査される。画像認識装置8はカメラ等の手段により、ボイド可視化部28の画像を取得する。そして画像認識装置8は、画像認識したボイド可視化部28の画像を、予め記憶された又は学習された検査基準画像と比較し、検査対象部品10が良品か不良品か判別する。
【0019】
図2に一例として、アルミダイカスト部品である検査対象部品10のサンプルの形状を示す。
図2(a)に示される面を正面とする。検査対象部品10のサンプルは、正面から視た形状が対称線Mに対して対称な略L字状、又は中心角90°の円弧状を呈しており、厚肉部15及び薄肉部16を含む。
図2(a)、(c)に示すように、厚肉部15は、L字カーブの径外側部分をなす外曲部151と、外曲部151の径内側において対称線Mに沿って形成された内柱部152とからなる。
図2(a)、(c)の左側に示される外曲部151の一端は溶湯が注入されるゲート側端部14Aであり、同図の下側に示される外曲部151の他端は溶湯の流れ(矢印F)の前方となる反ゲート側端部14Bである。
【0020】
図2(b)に示すように、検査対象部品10のサンプルは、奥行き方向において対称線Zに対して対称である。外曲部151の正面側及び背面側の縁から径内側に向かって板状に延びる二対の薄肉部16が設けられている。ゲート側及び反ゲート側において、両側が薄肉部16に挟まれた凹空間が形成される。凹空間の底面は外曲部151の表面である。外曲部151と内柱部152との境界部はインコーナー部17となっている。
【0021】
検査対象部品10のサンプルが鋳造されるとき、溶湯は、主に外曲部151をゲート側端部14Aから反ゲート側端部14Bに向かって流れ、溶湯の一部が内柱部152及び薄肉部16に充填される。外曲部151のカーブ手前のゲート側部分に比べて、カーブ後の反ゲート側部分ではボイド18が発生しやすい。また、径内側の凹空間の底面では、発生したボイド18が外曲部151の表面に接触しやすい。X線CTスキャナ5では、それらのボイド18の画像が撮像される。
【0022】
図3に、X線CTスキャナ5で生成された検査対象部品10のサンプルのSTLデータを用いて3Dプリンタ6で造形された三次元造形物20のサンプルを模式的に示す。また
図4(a)、(b)に、三次元造形物20の表面に露出したボイド可視化部が着色液7で着色されたサンプルの拡大図を示す。この例では、黒色顔料を含む着色液7に三次元造形物20が数時間含浸された後、洗浄された。出願人は、
図3、
図4(a)、(b)に対応するカラー写真を物件提出書により特許庁に提出する。
【0023】
三次元造形物20の各部の符号は、検査対象部品10の各部の符号の1桁目を「1」から「2」に置き換えた数字が用いられる。検査対象部品10の素材部13に対応する三次元造形物20の基部23は透明材料のモデル材で充填される。検査対象部品10のボイド18に対応する三次元造形物20のボイド可視化部28は、着色材料(例えば乳白色)のサポート材で充填される。ボイド可視化部28のうち厚肉部25のバルクに生成されたものに「28b」、厚肉部25の表面に生成されたものに「28s」の括弧付き符号を併記する。
【0024】
図3に示すように、厚肉部25のゲート側端部24A付近にはボイド可視化部28はあまり生成されていない。一方、対称線Mの付近から反ゲート側端部24Bにかけて溶湯の流路に対応する外曲部251の中心付近(バルク)に、ボイド可視化部28bが連なって生成されている。外曲部251と内柱部252との境界付近にもややボイド可視化部28bが見られる。また、薄肉部26に挟まれた凹空間の底面に該当する外曲部251の表面付近に、細かなボイド可視化部28sが点在するように生成されている。
【0025】
図4(a)に示すように、ゲート側のインコーナー部27(P部)に沿って、黒く着色されたボイド可視化部28sが現れている。反ゲート側のインコーナー部27(Q部)には、ゲート側に比べると少ないが、やはりボイド可視化部28sが現れている。このように、三次元造形物20の表面に露出したボイド可視化部28sをサポート材とは異なる色に着色することで、検査対象部品10の表面に接触しているボイド18をより見やすく可視化することができる。
【0026】
次に
図5のフローチャートを参照し、一実施形態によるボイド可視化方法について説明する。フローチャートの記号「S」はステップを意味する。S1のCTスキャンステップでは、検査対象部品10の内部画像がX線CTスキャナ5で撮像される。S2のデータ送信ステップでは、X線CTスキャナ5が、検査対象部品10の形状に加え、検査対象部品10のボイド18の位置及び大きさを示すSTLデータを3Dプリンタ6に送信する。
【0027】
S3の造形ステップでは、3Dプリンタ6が、受信したSTLデータに基づき三次元造形物20を造形する。この三次元造形物20は、検査対象部品10のボイド18以外の素材部13に対応する基部23を透明材料のモデル材で充填し、検査対象部品10のボイド18に対応するボイド可視化部28を着色材料のサポート材で充填したものである。
【0028】
造形ステップS3の後、S4の着色ステップでは、三次元造形物20を着色液7に含浸し、三次元造形物20の表面に露出したボイド可視化部28をサポート材とは異なる色に着色する。なお、着色ステップS4は必須のステップでなくオプションとして実施可能なステップであるため破線で表す。S5の検査ステップでは、検査作業者又は画像認識装置8により、三次元造形物20のボイド可視化部28の位置及び大きさに基づき、検査対象部品10の品質が検査される。
【0029】
本実施形態では、3Dプリンタ6の三次元造形物20において、透明な基部23に対し、ボイド可視化部28は例えば乳白色のサポート材で充填されているため、視覚的に容易に認識することができる。しかも検査作業者は、ディスプレイ装置に表示された三次元画像を見るだけでなく、リアルな三次元造形物20に触れながらボイドの位置や大きさを直接的に三次元把握することができる。したがって、検査対象部品10の品質検査を容易に行うことができる。
【0030】
また、検査ステップS5に画像認識装置8を用いることで、検査作業者による判断のばらつきを無くし、一律の基準に基づいて機械的に不良品を判別することができる。
【0031】
<その他の実施形態>
検査対象部品はアルミニウムダイカスト品に限らず、マグネシウム、亜鉛等の金属ダイカストや樹脂成形で製造された部品にも適用可能である。
【0032】
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0033】
10・・・検査対象部品、 13・・・素材部、 18・・・ボイド、
20・・・三次元造形物、 23・・・基部、 28・・・ボイド可視化部、
5 ・・・X線CTスキャナ、 6 ・・・3Dプリンタ、
7 ・・・着色液、 8 ・・・画像認識装置。
【要約】
【課題】検査対象部品の内部のボイドを直接的に三次元把握可能なボイド可視化方法を提供する。
【解決手段】ボイド可視化方法のCTスキャンステップS1では、金属ダイカスト又は樹脂成形で製造された検査対象部品の内部画像がX線CTスキャナで撮像される。データ送信ステップS2では、X線CTスキャナが、検査対象部品の形状を示すSTLデータに加え、検査対象部品のボイドの位置及び大きさを示すSTLデータを3Dプリンタに送信する。造形ステップS3では、3Dプリンタが、受信したSTLデータに基づき、検査対象部品のボイド以外の素材部に対応する基部を透明材料のモデル材で充填し、検査対象部品のボイドに対応するボイド可視化部を着色材料のサポート材で充填して三次元造形物を造形する。検査ステップS5では、三次元造形物のボイド可視化部の位置及び大きさに基づき、検査対象部品の品質が検査される。
【選択図】
図5