(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】口腔バイオフィルム除去剤及び口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/81 20060101AFI20250303BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20250303BHJP
A61K 8/46 20060101ALI20250303BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20250303BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/44
A61K8/46
A61Q11/00
(21)【出願番号】P 2019513676
(86)(22)【出願日】2018-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2018016062
(87)【国際公開番号】W WO2018194111
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-03-05
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2017084672
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川延 勇介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸司
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】冨永 保
【審判官】野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-169165号公報(JP,A)
【文献】国際公開第2015/164949(WO,A1)
【文献】特開2010-241693号公報(JP,A)
【文献】特開平09-175968号公報(JP,A)
【文献】特開昭61-165317号公報(JP,A)
【文献】特開2000-247851号公報(JP,A)
【文献】特開2008-156309号公報(JP,A)
【文献】特開2013-159604号公報(JP,A)
【文献】特開2016-044163(JP,A)
【文献】米国特許第6106811(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q11/00-11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)重量平均分子量が1,000以上10,000以下であるポリアクリル酸塩と、
(b)
ラウリル硫酸ナトリウムと
を含有し、(a)成分の含有量が0.05~
0.5質量%、(b)成分の含有量が
1.0~
2.0質量%、かつ(a)/(b)が質量比として
0.025~0.5である口腔バイオフィルム除去剤。
【請求項2】
(a)/(b)が質量比として0.03~0.5である請求項1記載の口腔バイオフィルム除去剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔バイオフィルム除去剤及びこれを含有する口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔疾患は病原菌が原因で発症するが、この病原菌は歯面にプラーク(歯垢)を形成して口腔内に定着し、病原性を発現するため、歯周病等の口腔疾患の予防にはプラークコントロールが非常に重要である。プラークコントロールの手段としては、プラークの形成抑制や殺菌などがあるが、中でも重要なのがプラークの除去である。プラークを化学的に除去するには、グルカンやタンパクといった細菌の菌体外代謝物だけではなく、細菌凝集体、更には細菌凝集体と菌体外代謝物とで複合的に構成されたバイオフィルム構造物を効果的に除去することが非常に重要である。
【0003】
これまでに、アニオン性界面活性剤のα-オレフィンスルホン酸塩又はアルキルスルホ酢酸塩と酵素との併用によるバイオフィルム除去効果が報告されている(特許文献1;特開2015-20970号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-20970号公報
【文献】特公平7-29907号公報
【文献】特開平10-287537号公報
【文献】特開2002-47160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、優れたバイオフィルム除去効果を与える新たな口腔バイオフィルム除去剤及びこれを含有する口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、重量平均分子量が特定値以下である比較的低分子量のポリアクリル酸塩と、アニオン性界面活性剤又は両性界面活性剤とを組み合わせると、優れた口腔バイオフィルム除去作用を奏することを見出した。即ち、本発明では、(a)重量平均分子量が1,000以上20,000以下であるポリアクリル酸塩と(b)アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上とを併用することによって、バイオフィルム除去効果が優れ、使用感も良い口腔バイオフィルム除去剤が得られることを知見した。更に、上記(a)及び(b)成分を口腔用組成物に配合すると、(a)成分量が比較的少なくても、優れたバイオフィルム除去効果を与え、また、良好な使用感(口腔刺激のなさ、臭いのなさ)を付与することもできることを知見し、本発明をなすに至った。
【0007】
口腔用組成物用の粘結剤としては、一般的に重量平均分子量10万以上、通常は30万程度のポリアクリル酸又はその塩が用いられている。また、これに比べて低分子量(分子量約4,000~5,500)のポリアクリル酸重合体に抗歯石作用があり、口腔用組成物への配合量は約2.5%以上がよいことが特許文献2(特公平7-29907号公報)に提案され、ポリアクリル酸を用いた具体例が示されている。一方、界面活性剤には洗浄作用や浸透、分散作用があり、わずかではあるが歯垢除去作用があると認識されているがバイオフィルムに対する作用は十分でなく、増量すると界面活性剤種によって口腔刺激や味の低下を招くことがあった。これに対して、本発明では、(a)重量平均分子量1,000以上20,000以下のポリアクリル酸塩を、界面活性剤のうちの(b)アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上と組み合わせることによって、意外にも、両者が特異的に相互作用して(b)成分によるバイオフィルム除去作用が格段に向上し、優れたバイオフィルム除去効果を付与できた。また同時に、(a)成分によって(b)成分による口腔刺激や臭い等の悪化が抑えられ、使用感も良好に保持できた。なお、重量平均分子量20,000以下のポリアクリル酸塩である(a)成分を単に使用したのでは、バイオフィルム除去効果がほとんど認められなかった(後述の比較例参照)。
上述したようにバイオフィルムは、細菌凝集体や菌体外代謝物で複合的に構成されて強固に構築され、高い抵抗性を示す構造物であるが、本発明によれば、このような強固かつ高抵抗性の付着物であるバイオフィルムが歯表面から剥がれて口腔内に分散し、高率でバイオフィルムを除去することができた。本発明の作用効果は(a)及び(b)成分の併用系に特異なものであり、後述の比較例にも示すように、ポリアクリル酸や重量平均分子量が不適切なポリアクリル酸塩を(b)成分と併用した場合にはバイオフィルム除去効果が劣っていた。
【0008】
なお、特許文献3(特開平10-287537号公報)は、無水グルコースを構成単位とする多糖類から誘導されるポリカルボン酸又はその塩によるハイドロキシアパタイトの結晶生成抑制、特許文献4(特開2002-47160号公報)は、ポリアクリル酸塩による、フェノキシエタノール等由来の刺激の抑制であって実験例では分子量約50,000のポリアクリル酸ナトリウムが用いられている。特許文献3、4には、バイオフィルム除去に関する言及もない。特許文献3、4から、本発明の(a)及び(b)成分を併用することによる、バイオフィルム除去効果の向上は予測できない。
【0009】
従って、本発明は、下記の口腔バイオフィルム除去剤及び口腔用組成物を提供する。
〔1〕
(a)重量平均分子量が1,000以上20,000以下であるポリアクリル酸塩と、
(b)アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上と
からなる口腔バイオフィルム除去剤。
〔2〕
(a)/(b)が質量比として0.005~2である〔1〕に記載の口腔バイオフィルム除去剤。
〔3〕
(a)/(b)が質量比として0.02~1である〔2〕に記載の口腔バイオフィルム除去剤。
〔4〕
アニオン性界面活性剤が、炭素数12~14のアルキル基を有するアルキル硫酸塩、アシルアミノ酸塩及びアシルタウリン塩から選ばれ、両性界面活性剤が、炭素数12~14のアシル基を有するアシルアミノ酢酸ベタイン及び脂肪酸アミドプロピルベタインから選ばれる〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の口腔バイオフィルム除去剤。
〔5〕
(a)重量平均分子量が1,000以上20,000以下であるポリアクリル酸塩と、
(b)アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上と
を含有する口腔用組成物。
〔6〕
(a)/(b)が質量比として0.005~2である〔5〕に記載の口腔用組成物。
〔7〕
(a)成分の含有量が0.01~2質量%、(b)成分の含有量が0.5~3質量%である〔5〕又は〔6〕に記載の口腔用組成物。
〔8〕
25℃におけるpH5~9である〔5〕~〔7〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔9〕
歯磨剤組成物である〔5〕~〔8〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れたバイオフィルム除去効果を与え、使用感も良い口腔バイオフィルム除去剤及びこれを含有する口腔用組成物を提供できる。本発明の口腔バイオフィルム除去剤及び口腔用組成物は、歯周疾患の予防又は抑制用として有効である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の口腔バイオフィルム除去剤は、(a)重量平均分子量が1,000以上20,000以下であるポリアクリル酸塩と、(b)アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上とが有効成分である。
【0012】
(a)成分のポリアクリル酸塩は、重量平均分子量(Mw)が1,000以上20,000以下である。この場合、バイオフィルム除去効果の点から、重量平均分子量は1,000以上であり、また、20,000以下、好ましくは10,000以下である。重量平均分子量が1,000未満であると、バイオフィルム除去効果が劣る。20,000を超えると、バイオフィルム除去効果が低下し、十分な効果が得られない。
なお、重量平均分子量の測定は、GPC(ゲルパーミェーションクロマトグラフィー法)により、特許第5740859号公報に記載された方法及び測定条件で行った。具体的には下記に示す。
重量平均分子量の測定方法;
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ/多角度レーザー光散乱検出器(GPC-MALLS)を用いて測定された値であり、条件は以下の通りである。
移動相:0.3M NaClO4
NaN3水溶液カラム:TSKgelα-M 2本
プレカラム:TSKguardcolumn α
標準物質:ポリエチレングリコール
【0013】
ポリアクリル酸塩は、バイオフィルム除去効果の点から直鎖状のポリアクリル酸塩が好ましい。
塩としては、一価塩が好ましく、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩がより好ましく、更に好ましくはアルカリ金属塩、中でもナトリウム塩がよい。
なお、(a)成分に代えて、(a)成分以外のポリアクリル酸塩あるいはポリアクリル酸を使用した場合は、(b)成分と併用してもバイオフィルム除去率が悪く、また、口腔刺激性が強くなったり、臭いや味が悪くなることがあり、本発明の目的は達成されない。
このようなポリアクリル酸塩としては、市販品を使用し得る。
【0014】
(b)成分は、アニオン性界面活性剤(b1)及び両性界面活性剤(b2)から選ばれる1種又は2種以上であり、(b1)又は(b2)成分を用いても(b1)及び(b2)成分を用いてもよいが、特に使用感の点から、少なくともアニオン性界面活性剤(b1)を含むことが好ましく、(b1)成分だけを用いるか、又は(b1)及び(b2)成分を併用することが好ましい。
【0015】
アニオン性界面活性剤(b1)としては、炭素数が好ましくは12~14、特に12のアルキル基を有するアルキル硫酸塩、アシルアミノ酸塩、アシルタウリン塩が挙げられる。アシルアミノ酸塩及びアシルタウリン塩のアシル基は、それぞれ炭素数12~14が好ましく、より好ましくは12である。
具体的にアルキル硫酸塩としては、ラウリル硫酸塩、ミリスチル硫酸塩が挙げられる。アシルアミノ酸塩としては、ラウロイルグルタミン酸塩、ミリストイルグルタミン酸塩等のアシルグルタミン酸塩、ラウロイルサルコシン塩等のアシルサルコシン塩が挙げられる。アシルタウリン塩としては、ラウロイルメチルタウリン塩が挙げられる。塩は、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できるが、特にアルキル硫酸塩、アシルサルコシン塩、アシルタウリン塩が好ましい。中でも、炭素数12の炭化水素基(ラウリル基)を有するアニオン性界面活性剤が好ましく、特にアルキル硫酸塩(ナトリウム塩)が、他の界面活性剤よりも味の点で優れることから、より好ましい。
【0016】
両性界面活性剤(b2)としては、ベタイン型が好ましく、炭素数12~14のアシル基を有するアシルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタインが挙げられる。アシルアミノ酢酸ベタインとしては、アシル基の炭素数が12~14のものが好ましく、ラウロイルジメチルアミノ酢酸ベタインが挙げられ、脂肪酸アミドプロピルベタインとしては、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインが挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できるが、特にアシルアミノ酢酸ベタインが好ましい。中でも、炭素数12の炭化水素基(ラウリル基)を有するものが好ましく、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインが、より好ましい。
【0017】
(a)成分と(b)成分との量比を示す(a)/(b)は、質量比として0.005~2が好ましく、より好ましくは0.005~1、更に好ましくは0.02~1、とりわけ好ましくは0.03~0.5である。上記範囲内であると、バイオフィルム除去効果がより優れ、また、臭い、更には味も良く使用感がより改善する。0.005以上であると、バイオフィルム除去効果がより向上し、2以下であると、臭いや味の良い使用感を十分に保つことができる。
【0018】
本発明の口腔バイオフィルム除去剤は、有効成分として(a)及び(b)成分を併用し、前記成分を配合することで得ることができる。また、上記有効成分のみからなる口腔バイオフィルム除去剤として使用できるが、必要に応じて、その他の口腔用として公知の任意成分を更に含んでいてもよく、この場合、任意成分は本発明の効果を妨げない範囲で配合し得る。
【0019】
本発明の口腔用組成物は、(a)及び(b)成分を有効成分として含有する。口腔用組成物は、具体的にはペースト状、ジェル状又は液状の歯磨剤組成物(練歯磨、ジェル状歯磨、液状歯磨、液体歯磨等)、洗口剤、マウススプレー、塗布剤、貼付剤が挙げられ、これらに調製することができる。中でも練歯磨が好適である。
【0020】
この場合、本発明において、口腔バイオフィルム除去の有効成分である(a)及び(b)成分は、上記特定の比率で規定することができるが、特に口腔用組成物に応用する場合は、バイオフィルム除去効果及び使用感の点から、(a)及び(b)成分の配合量がそれぞれ後述の範囲が好ましく、これらを満たす濃度で両成分を使用することが好ましい。
【0021】
(a)成分の配合量は、組成物全体の0.01~2%(質量%、以下同様)が好ましく、より好ましくは0.01~1%、更に好ましくは0.05~0.5%である。0.01%以上であると、十分なバイオフィルム除去効果が得られる。2%以下であると、臭いや味を良好かつ十分に維持できる。多く配合し過ぎると、臭いや味が悪くなり使用感が劣ることがある。
【0022】
(b)成分の配合量は、組成物全体の0.5~3%が好ましく、より好ましくは0.5~2%、更に好ましくは1.0~2.0%である。0.5%以上であると、十分なバイオフィルム除去効果が得られる。3%以下であると、十分に口腔刺激を抑え、臭いや味を良好かつ十分に維持できる。多く配合し過ぎると、口腔刺激が強くなったり、臭いや味が悪くなり使用感が劣ることがある。
【0023】
本発明の口腔用組成物には、任意成分として、剤型等に応じた公知成分を必要に応じて、更に配合できる。任意成分は、本発明の効果を妨げない範囲で添加することが好ましい。具体的に歯磨剤組成物には、研磨剤、粘結剤、粘稠剤、界面活性剤としてノニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤、更には、甘味剤、防腐剤、有効成分、色素、香料を配合でき、これら成分と水とを混合し、製造できる。
【0024】
研磨剤としては、第2リン酸水素カルシウム・無水和物や2水和物、第3リン酸カルシウム、第1リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、第3リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ベントナイト、ケイ酸ジルコニウム、ポリメタリン酸メチル、その他合成樹脂を配合できる(配合量は通常、5~60%、練歯磨の場合には10~55%)。
【0025】
特に練歯磨等のペースト状の歯磨剤組成物には、粘結剤としてアルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸誘導体、キサンタンガム、トラガカントガム、ジェラガム、カラヤガム、アラビアガム等のガム類、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースナトリウム等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン等の有機粘結剤、シリカゲル、アルミニウムシリカゲル、ビーガム、ラポナイト等の無機粘結剤を配合できる(配合量は通常、0.3~10%)。
【0026】
更に、特にペースト状や液状の歯磨剤組成物には、粘稠剤として、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール等の糖アルコール、プロピレングリコール等の多価アルコールを配合でき、これらのうちの1種又は2種以上を配合し得る(配合量は通常、5~70%)。
【0027】
ノニオン性界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル;マルチトール脂肪酸エステル等の糖アルコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ラウリン酸モノ又はジエタノールアミド等の脂肪酸ジエタノールアミド;ポリオキシエチレン高級アルコールエーテルを配合できる。中でも、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、特に酸化エチレンの付加モル数(E.O.、以下同様)が20~100、とりわけ20~80のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が、バイオフィルム除去効果の点で、より好適である。
カチオン性界面活性剤としては、塩化ジステアリルメチルアンモニウム等のアルキルアンモニウム塩、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム等のアルキルベンジルアンモニウム塩等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤の配合量は、合計で0.01~10%が好ましい。
なお、本発明では、界面活性剤として(b)成分と共にノニオン性界面活性剤を配合することが好ましい。(a)成分に、ノニオン性界面活性剤、特にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を併用するとその添加量によって臭いや味が悪くなることがあるが、(b)成分と共にノニオン性界面活性剤を添加すると、このように使用感が悪化することなくバイオフィルム除去効果がより向上する。
【0028】
甘味剤としては、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、グリチルリチン酸ジカリウム、ペリラルチン、ソーマチン、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、アスパラチルフェニルアラニンメチルエステルが挙げられる。防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウムが挙げられる。
【0029】
有効成分としては、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、アミラーゼ、プロテアーゼ、溶菌酵素、SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)等の酵素;モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等のアルカリ金属モノフルオロフォスフェート;フッ化ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ化物;トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレスタノール、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、キシリトール、塩化亜鉛、水溶性無機リン酸化物や、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE等のビタミン類が挙げられる。これら有効成分は、1種又は2種以上で使用でき、また、本発明の効果を妨げない範囲で有効量配合することができる。
【0030】
香料は、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー等の天然香料、及び、これら天然香料の加工処理(前溜部カット、後溜部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料、及び、メントール、カルボン、アネトール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、3-l-メントキシプロパン-1,2-ジオール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N-置換-パラメンタン-3-カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、更に、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料が挙げられ、口腔用組成物に用いられる公知の香料素材を使用でき、実施例の香料に限定されない。
また、上記の香料素材は、組成物全体の0.000001~1%使用するのが好ましい。上記香料素材を使用した賦香用香料としては、製剤組成中に0.001~2.0%使用するのが好ましい。
【0031】
口腔用組成物のpH(25℃)は、好ましくは5~9、より好ましくは6~8である。pHが低すぎると、口腔刺激性や、エナメル質及び象牙質の脱灰のおそれがある。pHが高すぎると、口腔刺激性や、製剤安定性の低下が発生する場合がある。
【0032】
なお、pH調整剤を添加してもよい。pH調整剤としては、無機酸、有機酸やこれらの塩を用いることできる。例えば、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、グルコン酸、マレイン酸、コハク酸、グルタミン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムが挙げられる。
【0033】
本発明の口腔用組成物は、アルミニウムチューブ、アルミニウム箔の両面をプラスチック等でラミネートしたラミネートチューブ、プラスチックチューブ、あるいは、ボトル状容器、エアゾール容器等の所定の容器に入れて使用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において%は特に断らない限りいずれも質量%を示す。
なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ/多角度レーザー光散乱検出器(GPC-MALLS)を用いて測定された値であり、条件は以下の通りである。
移動相:0.3M NaClO4
NaN3水溶液カラム:TSKgelα-M 2本
プレカラム:TSKguardcolumn α
標準物質:ポリエチレングリコール
また、組成物のpHは、25℃における値である。
【0035】
[実施例、比較例]
表1~3に示す組成の歯磨剤組成物(練歯磨)を以下の方法で調製して容器(アルミニウムラミネートチューブ)に充填し、下記方法で評価した。結果を表に併記した。
【0036】
<調製方法>
(1)精製水中に(a)成分、その他の水溶性成分及び粘度調整剤を常温で混合溶解させた(混合物X)。
(2)プロピレングリコール中に粘結剤を常温で分散させ(混合物Y)、撹拌中の混合物X中に、混合物Yを添加混合して、混合物Zを調製した。
(3)混合物Z中に、香料、(b)成分及び研磨剤を、ニーダーを用いて常温で混合し、減圧(5.3kPa)による脱泡を行い、歯磨剤組成物を得た。
なお、比較例の歯磨剤組成物は、上記方法に準じて調製した。
【0037】
<バイオフィルム除去効果の評価方法>
(1)モデルバイオフィルムの作製方法
モデルバイオフィルムを作製するために用いた細菌は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)より購入し、以下の方法によりプレカルチャーを行った。
アクチノマイセス ヴィスコサス(Actinomyces viscosus)ATCC43146、フゾバクテリウム ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)ATCC10953、ポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)ATCC33277は、5mg/L ヘミン(Sigma社製)及び1mg/L ビタミンK(和光純薬工業社製)を含むトッドへヴィットブロス(Becton and Dickinson社製)培養液〔THBHM〕により培養し、ベイヨネラ パルビュラ(Veillonella parvula)ATCC17745は、1.26%乳酸ナトリウム(Sigma社製)を含むトッドへヴィットブロス(Becton and Dickinson社製)培養液〔THBL〕により培養した。なお、培養は、37℃で一晩嫌気培養(80vol%窒素、10vol%二酸化炭素、10vol%水素)した。
培養後、菌液は遠心分離(10,000rpm、10分)により集菌した。遠心集菌した各細菌は、ベイサルメディウムムチン培養液〔BMM〕*1に再懸濁した後、予め同培地1,000mLを入れた培養槽に、菌数がそれぞれ1×107個/mLになるように接種し、37℃において嫌気条件下(95vol%窒素、5vol%二酸化炭素)で一晩培養した。その後、BMMを100mL/時間の速度で供給するとともに、同速度で培養液を排出した。上記培養槽から排出された培養液は、液量が300mLに保たれる別の培養槽に連続的に供給した。この培養槽内の回転盤(約80rpmで回転)には、バイオフィルムの付着担体として直径7mmのハイドロキシアパタイト板(ペンタックス社製)を装着した。
上記方法による培養は、10日間連続して行い、ハイドロキシアパタイト板上にバイオフィルムを形成させた。培養後、取り出したバイオフィルム形成ハイドロキシアパタイト板をリン酸緩衝生理食塩水*2(Phosphate Buffered Saline、以下PBSとする)5mLで2回洗浄し、モデルバイオフィルムを得た。
【0038】
*1;BMMの組成(1リットル中の質量で表す。)
プロテオースペプトン(Becton and Dickinson社
製): 4g/L
トリプトン(Becton and Dickinson社製):
2g/L
イーストエキス(Becton and Dickinson社製):
2g/L
ムチン(Sigma社製): 5g/L
ヘミン(Sigma社製): 2.5mg/L
ビタミンK(和光純薬工業社製): 0.5mg/L
KCl(和光純薬工業社製): 1g/L
システイン(和光純薬工業社製): 0.2g/L
蒸留水: 残
(全量が1Lになるようにメスアップし、121℃で20分間オートク
レーブした。)
【0039】
*2;PBSの組成(1リットル中の質量で表す。)
NaCl(和光純薬工業社製): 8.0g
KCl(和光純薬工業社製): 0.2g
Na2HPO4・12H2O(和光純薬工業社製): 3.63g
KH2PO4(和光純薬工業社製): 0.24g
蒸留水: 残
(1N HClによりpH7.4に調整し、全量が1Lになるようにメ
スアップした。)
【0040】
(2)モデルバイオフィルムの除去効果の評価方法
(1)で作製したモデルバイオフィルム形成ハイドロキシアパタイト板は、24穴マルチプレート(住友ベークライト社製)に移した。これに、試験組成物として上記方法で調製した歯磨剤組成物を、人工唾液(50mM KCl、1mM CaCl2、0.1mM MgCl2、1mM KH2PO4、pH7.0)で3倍希釈した歯磨剤溶液の遠心上清(10,000rpm、10分)を2mL加え、3分間浸漬した。その後、PBS(和光純薬工業社製)1mLで6回洗浄し、上記と同バッファー2mLを添加した試験管(直径13mm×100mm)内で超音波処理(200μA、10秒間)により、残ったバイオフィルムを強制的に分散させた。この分散液の波長550nmでの濁度(OD)を測定し、バイオフィルムの残存量を測定した。
試験組成物のバイオフィルム除去効果は、下式によりコントロールに対する除去率を求め、この除去率から、下記基準に則り口腔バイオフィルム除去効果を判定した。
なお、上記歯磨剤溶液の代わりにPBS2mlを用いて同様に処置したものをコントロールとした。
バイオフィルム除去率(%)=
{(コントロールの濁度-試験組成物処置品の濁度)/コントロールの濁
度}×100
バイオフィルム除去効果の判定基準
◎:バイオフィルム除去率が90%以上
○:バイオフィルム除去率が70%以上90%未満
△:バイオフィルム除去率が50%以上70%未満
×:バイオフィルム除去率が50%未満
【0041】
<使用感の評価方法>
10名の被験者が、歯磨剤組成物1gを歯ブラシにのせ、3分間ブラッシングして口腔内を洗浄した際の使用感として口腔刺激性、臭い(口腔刺激のなさ、臭いのなさ)を下記の評価基準により評価した。10人の評価点の平均を算出し、下記の判定基準により判定した。
【0042】
口腔刺激性の評価基準
4点:口腔内で刺激を感じない
3点:口腔内でやや刺激を感じるが問題ないレベル
2点:口腔内で刺激を感じる
1点:口腔内で非常に刺激を感じる
口腔刺激性の判定基準
◎:平均点3.0点以上
○:平均点2.5点以上3.0点未満
△:平均点1.5点以上2.5点未満
×:平均点1.5点未満
臭いの評価基準
4点:口腔内で不快な臭いを感じない
3点:口腔内で不快な臭いをやや感じるが問題ないレベル
2点:口腔内で不快な臭いを感じる
1点:口腔内で不快な臭いを強く感じる
臭いの判定基準
◎:平均点3.5点以上
○:平均点3.0点以上3.5点未満
△:平均点2.0点以上3.0点未満
×:平均点2.0点未満
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
なお、使用したポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸の詳細を下記に示す。
(a)ポリアクリル酸ナトリウム(Mw1,000):ポリサイエンス
社製
(a)ポリアクリル酸ナトリウム(Mw6,000):東亞合成社製、
AC-10NP
(a)ポリアクリル酸ナトリウム(Mw8,000):ポリサイエンス
社製
(a)ポリアクリル酸ナトリウム(Mw20,000):東亞合成社製
、アロンA-20UN
ポリアクリル酸ナトリウム(Mw300,000、比較品):ポリサイ
エンス社製
ポリアクリル酸(Mw6,000、比較品):東亞合成社製、アロンA
-10SL