(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】水力発電装置の水車翼
(51)【国際特許分類】
F03B 3/12 20060101AFI20250303BHJP
【FI】
F03B3/12
(21)【出願番号】P 2020014863
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2019030055
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】後藤 知美
(72)【発明者】
【氏名】近藤 博光
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-507599(JP,A)
【文献】特開2016-056695(JP,A)
【文献】特開2018-141459(JP,A)
【文献】特開2015-151915(JP,A)
【文献】特開2000-008802(JP,A)
【文献】特開2018-091280(JP,A)
【文献】特開2016-176413(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0122335(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102322446(CN,A)
【文献】特表2017-509828(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102022379(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フランジとこのフランジの間に放射状に並ぶ複数のハブ分割体付き羽根とで構成され水力発電装置に用いられるプロペラ型の水車翼であって、
前記各ハブ分割体付き羽根は、各羽根とハブの一部となるハブ分割体を有し、前記各ハブ分割体で互いに結合され、前記ハブは、前記各羽根の前記ハブ分割体が円周方向に並ぶリング板状のハブ分割体配列体と、このハブ分割体配列体を表裏から挟
む前後一対のフランジとでなり
、後ろ側のフランジには、中央穴の周壁を成す円筒状部が前方に突出して設けられ、前側のフランジには、前記円筒状部の外径と嵌合する穴が設けられ、前記各ハブ分割体が前記表裏
の前後一対のフランジに渡って挿通された締結具により前記フランジに締結されることで、前記各羽根が相互に結合され、前記水車翼は、中心部ハブの前方にスピナが設けられ、且つ前記羽根
がプロペラ型であることを特徴とする水力発電装置の水車翼。
【請求項2】
請求項1に記載の水力発電装置の水車翼において、前記各羽根の材質が、ステンレス材、アルミ材、または高クロム材である水力発電装置の水車翼。
【請求項3】
請求項2に記載の水力発電装置の水車翼において、前記各ハブ分割体付き羽根は、鋳造品である水力発電装置の水車翼。
【請求項4】
請求項3に記載の水力発電装置の水車翼において、前記各羽根に製品番号または製作時期を特定可能なマークまたは文字が形成されている水力発電装置の水車翼。
【請求項5】
請求項4に記載の水力発電装置の水車翼において、前記マークまたは前記文字は、前記各羽根に凹み部分で形成されている水力発電装置の水車翼。
【請求項6】
請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載の水力発電装置の水車翼において、前記各羽根の最外層として、塗装、酸化皮膜、めっき、または樹脂コートが施されている水力発電装置の水車翼。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の水力発電装置の水車翼において、隣合う前記各ハブ分割体付き羽根の前記ハブ分割体の間に、ハブ分割体よりも軟質のスペーサが介在している水力発電装置の水車翼。
【請求項8】
請求項7に記載の水力発電装置の水車翼において、前記スペーサが樹脂製またはゴム製である水力発電装置の水車翼。
【請求項9】
請求項7に記載の水力発電装置の水車翼において、前記スペーサが、ポリテトラフルオロエチレン製である水力発電装置の水車翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水路に設置される水力発電装置におけるプロペラ型の水車翼に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電装置は、流水が持つ運動エネルギーを発電に利用するシステムである。この水力発電装置の中で小型のものは、農業用水等の水路に設置して利用されている(例えば、特許文献1)。ところで、当該装置を構成する部品材質は多種に亘っている。例えば、水車翼は樹脂材、支柱は鉄、ボルトはステンレスというような材質を用いている。
【0003】
従来、水車翼として、繊維強化プラスチック材を適用したものがあるが、水中用途であるため、水車翼の表層にクラックが発生すると、繊維強化プラスチック材が水と接触して、水車翼の強度低下に繋がる。そのため、繊維強化プラスチック材の破断強度以下のクラック発生荷重を耐荷重とすることになり、繊維強化プラスチック材の材料強度を有効に活用できないと言う課題が有った。
【0004】
そこで、前記繊維強化プラスチック材に対して、高強度の鉄系金属(ステンレス材)または非鉄金属(アルミ材)の適用が考えられる。
さらに、取扱性,コストを考えた場合、
図7に示すように、中心のハブ(図示せず)と締結する部位に雄ねじ部41を設けた羽根12より、水車翼とする構成が考えられる。このような羽根は、水車ではないが、例えば高速道路のトンネル内の換気扇に適用される場合が有る。
【0005】
なお、水車に関して、分割羽根の文献(特許文献2)が有るが、同文献は、フランシス水車の羽根を分割し、その組立方法の改善に関する特許であり、複数の羽根を結合して構成するプロペラ型の水車翼とは大きく異なったものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-014219公報
【文献】特開2006-29198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プロペラ型の水車翼は、ハブ分割体付き羽根、ハブ、およびスピナで構成されるが、前記繊維強化プラスチック材は、軽量であるため、ハブ分割体付き羽根は、組立またはメンテナンス時に人力で作業できる。しかし、前記鉄系金属または非鉄金属の場合、質量が増加するため、簡易クレーン等を用いることになり、作業性が悪くなる。また、成形型で製造する場合、例えば鋳造では、型サイズが大きくなり、成形型の高コストを招くことになる。
【0008】
以上がハブ分割体付き羽根を適用する背景であり、水車翼の強度を向上させ、安価な水車を提供することができる。
また、ハブ分割体付き羽根の場合、不測状況で羽根が破損しても、水車翼の全体の交換ではなく、破損したハブ分割体付き羽根のみ交換とすることもできるメリットもある。
【0009】
しかしながら、
図7の例のように羽根12の根元に雄ねじ部41を設け、これを中央のハブと締結する構造では、送風とは異なり、流水の流速変動や、羽根の一部が水面から露出した場合での羽根の水に対する出入りによる交番荷重(締結部に加わる荷重変動)から、せん断応力が作用し、これが疲労破壊する可能性が有る。締結力が大きいほど、せん断応力は作用し易くなる。
【0010】
この発明は、上記課題を解消するものであり、ハブ分割体付き羽根を用いることにより組み立てやメンテナンスの容易化を図りながら、流水の流速変動や、羽根の一部が水面から出入りすることで羽根に交番応力が作用する環境下においても、強度が確保され、かつ荷重変動からのフレッティング摩耗が抑制される水力発電装置の水車翼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の水力発電装置の水車翼は、フランジとフランジの間に放射状に並ぶ複数のハブ分割体付き羽根とで構成され水力発電装置に用いられるプロペラ型の水車翼であって、
前記各ハブ分割体付き羽根はハブの一部となる形状で前記ハブ分割体が一体に設けられていることを特徴とする。
【0012】
この構成によると、水車翼を1部品とせずに、ハブ分割体付き羽根に分割し複数部品としたため、各ハブ分割体付き羽根が金属製であっても、組み立て時やメンテナンス時に取り扱う物が軽量化され、組み立てやメンテナンスが容易になる。
分割構造としたため結合が必要であるが、ハブ分割体付き羽根は根元にハブの一部であるハブ分割体を有し、各ハブ分割体付き羽根はハブ分割体で互いに結合するようにしたため、
図7の羽根の根元に雄ねじ部を設けて締結する構成と異なり、前記結合を行うボルト等の締結具には引っ張り力のみが作用し、せん断力が作用しないように構成できる。そのため、流水の流速変動や羽根の水面に対する出入りがあり、結合部に交番荷重が作用する環境下においても、前記交番荷重によるせん断応力で、前記結合部を構成する締結具等が損傷することが防止される。
なお、前記「水車翼」とは、構成部品点数に関係なく、発電するための翼としての形状を有していることを言う。例えば、5枚羽根を有している水車翼の場合、5枚羽根全体が鋳造や成形、削り出しなどで単品で形状を有している場合、また分割構造で5つのハブ分割型付き羽根を結合させて形状を有している場合も「水車翼」と言う。
【0013】
この発明において、前記ハブは、前記各羽根の前記ハブ分割体が円周方向に並ぶハブ分割体配列体と、このハブ分割体配列体を表裏から挟む一対のフランジとでなり、前記各ハブ分割体が前記表裏のフランジに渡って挿通された締結具により前記フランジに締結されることで、前記各羽根が相互に結合されていてもよい。
このように各羽根のハブ分割体を一対のフランジで挟み込み、表裏のフランジに渡って挿通された締結具により締結する組立構造では、根元にボルト形状を形成せず、ハブの部分で各羽根を締結固定するため、応力集中部が締結部とならず、水車翼としての強度が確保できる。また、水路の流水の流速変動や羽根の水面に対する出入りがあり、結合部の結合具に交番荷重が作用する場合に、締結具には引っ張り力のみが作用し、せん断力が作用しない。そのため、締結具に交番荷重によるせん断応力が作用して締結具が損傷することが防止される。
【0014】
この発明において、前記ハブ分割体付き各羽根の材質が、ステンレス材、アルミ材、または高クロム材であってもよい。
これらの材質によると、繊維強化プラスチック材と比べて水車翼の強度に優れ、また通常の鋼材に比べて腐食し難い。繊維強化プラスチック材と比べて質量は増大するが、上記のように水車翼を分割構造としたため、組み立て性やメンテナンス性に優れる。
【0015】
各ハブ分割体付き羽根の材質をステンレス材、アルミ材、または高クロム材とする場合に、前記ハブ分割体付き各羽根は、鋳造品であってもよい。
これらの材質は通常の鋼材に比べて高価であるが、鋳造品とすると、歩留りが良い。
【0016】
ハブ分割体付き羽根が、鋳造品である場合に、前記各羽根に製品番号または製作時期を特定可能なマークまたは文字が形成されていてもよい。この場合、羽根のメンテナンス時等において、異常が発生している羽根または交換すべき羽根を、製品番号または製作時期を特定可能なマークまたは文字から容易に特定し交換することができる。個々の羽根のトレーサビリティを確保することで、不測の事態に対処することが容易となる。
【0017】
前記マークまたは前記文字は、前記各ハブ分割体に凹み部分で形成されていてもよい。各羽根は鋳造後ハブ分割体の表裏面に機械加工等する場合、マークまたは文字が凹み部分で形成されているため、マークまたは文字が前記機械加工等で消失することを防ぐことができるうえ、前記マークまたは前記文字が突出部分として形成されている場合と異なり、ハブ分割体の表裏面と相手材とをがたつくことなく結合することが可能となる。
【0018】
前記各ハブ分割付羽根が、水を攪拌する羽根の定められた位置に計測位置を表すマークが形成されていてもよい。
前記定められた位置は、設計等によって任意に定める位置であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な位置を求めて定められる。
各ハブ分割体付き羽根は、羽根の回転中心が存在しないため、羽根の出来栄えである寸法精度を測定する際の基準点がなく、羽根の寸法精度を測定するための専用の治具を用いて評価する等測定に対する工数を要する。これと共に、各羽根の専用治具との接触状態が個々に異なるため、各羽根の寸法精度の信頼性に関しても問題があった。
そこで羽根の定められた位置に計測位置を表すマークを形成することで、汎用の計測具等を用いて羽根のマークがある位置での所定寸法を、測定する際の基準点がなくても容易に測定することができる。したがって、羽根の寸法精度の良否を容易に評価し得ると共に専用の治具を用意する必要もない。
【0019】
前記各ハブ分割体付き羽根の材質をステンレス材、アルミ材、または高クロム材とする場合に、各羽根の最外層として、塗装、酸化皮膜、めっき、または樹脂コートが施されていてもよい。
最外層に、塗装、酸化皮膜、めっき、または樹脂コートが施されていると、水流に漬かり、または水流に出入りする環境下において、腐食がより確実に回避できる。
【0020】
この発明において、隣合う前記各ハブ分割体付き羽根の前記ハブ分割体の間に、前記ハブ分割体よりも軟質のスペーサが介在していてもよい。
隣合うハブ分割体は前記交番荷重により擦れ合うことになるが、軟質のスペーサが介在することで、フレッティング摩耗が抑制される。前記スペーサは、各ハブ分割体の位置決め用部品としても機能する。
【0021】
前記スペーサは、樹脂製またはゴム製であってもよい。
樹脂製またはゴム製であると、フレッティング摩耗の抑制効果に優れる。
【0022】
前記スペーサは、ポリテトラフルオロエチレン製であってもよい。
スペーサがポリテトラフルオロエチレン製であると、滑り摩擦係数が小さく、フレッティング摩耗の抑制効果がより高められる。
【発明の効果】
【0023】
この発明の水力発電装置の水車翼は、フランジとフランジの間に放射状に並ぶ複数のハブ分割体付き羽根とで構成され水力発電装置に用いられるプロペラ型の水車翼であって、前記各ハブ分割体付き羽根は、前記各ハブ分割体で互いに結合されるため、組み立てやメンテナンスの容易化を図りながら、流水の流速変動や、羽根の一部が水面から出入りすることで羽根に交番応力が作用する環境下においても、強度が確保され、かつ荷重変動からのフレッティング摩耗が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】この発明の一実施形態に係る水車翼を備えた水力発電装置の一例の正面図である。
【
図3】この発明の一実施形態に係る水力発電装置の水車翼における一部の羽根のみを残し他の羽根は取り外した状態を示す斜視図である。
【
図4】同羽根とハブ分割体とが一体化されたハブ分割体付き羽根の斜視図である。
【
図6】この発明の他の実施形態に係る水力発電装置の水車翼のハブ周辺部を示す斜視図である。
【
図8】この発明のさらに他の実施形態に係る水力発電装置の水車翼における各羽根の正面図である。
【
図9】参考提案例の水車翼における各羽根の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明の一実施形態を
図1ないし
図5と共に説明する。
図1は、この実施形態に係る水車翼1を装備した水力発電装置の一例の正面図である。この水力発電装置は、水車翼1と、発電機2と、支持装置3とを備え、水路4に設置されている。発電機2は、永久磁石型同期発電機等の交流発電機である。水路4は、農業用水路、工業用水路、上下水道、小河川等であり、上面が開放されている。
【0026】
支持装置3は、水路4の両側の側壁4a,4a間に渡って設置された懸架フレーム5と、この懸架フレーム5の上に設置されて前記発電機2を搭載した発電機台6と、懸架フレーム5から垂下させた筒状部材7とを備え、筒状部材7の下端にギヤボックス8を介して水車翼1の回転軸9(
図2)が回転自在に設置されている。水車翼1の回転は、前記回転軸9、ギヤボックス8内の増速機(図示せず)、および筒状部材7内の伝達軸10を介して発電機2の入力軸2aに伝達される。
【0027】
水車翼1は、フランジ11B,11Cと、このフランジ11B,11Cの間に放射状に並ぶ複数(この実施形態では5枚)のハブ分割体付き羽根13とで構成されるプロペラ型であり、水車翼の中心部ハブ11の前方にスピナ23が設けられている。
【0028】
図3ないし
図5に示すように、水車翼1は、各ハブ分割体付き羽根13が互いに分割されている。各ハブ分割体付き羽根13は、前記ハブ11の一部となるハブ分割体11aが一体に設けられ、羽根12と、ハブ分割体11aとで構成する。各ハブ分割体付き羽根13は、後述のように、ハブ分割体11aの箇所で互いに結合される。
【0029】
ハブ11は、中央穴14を有するリング状であり、各羽根12のハブ分割体11aが円周方向に並ぶハブ分割体配列体11Aと、このハブ分割体配列体11Aを表裏から挟む一対のフランジ11B,11Cとでなる。各ハブ分割体11aは、厚肉のリング状板を、周方向に並ぶ複数個に等配した扇形の厚肉板状とされている。
各ハブ分割体11aには、ボルト穴15が表裏に貫通して設けられている。ボルト穴15は、この例ではハブ11の周方向に並んで各ハブ分割体11aに2個ずつ設けられている。
【0030】
ハブ11の前記一対のフランジ11B,11Cは、各羽根12のハブ分割体11aに対応するボルト穴16,17がそれぞれ設けられている。後ろ側のフランジ11Cには、中央穴14の周壁を成す円筒状部11Caが前方に突出して設けられている。前側のフランジ11Bには、前記円筒状部11Ca外径と嵌合する穴が設けられている。前記ハブ分割体配列体11Aとその表裏のフランジ11B,11Cに貫通して、前記各ボルト穴15~17に締結具であるボルト18が挿通される。これらのボルト18の締結により、ハブ分割体付き羽根13が、表裏のフランジ11B,11Cと共に相互に結合され、一つの水車翼1となる。ボルト18には高張力ボルト等を用い、所定の軸力が与えられるように締め込むことが好ましい。ボルト18の締結は、この例ではナット(図示せず)により行っているが、ナットを用いる代わりに、両側のフランジ11B,11Cに設けられるボルト穴16,17のいずれか一方を、雌ねじが形成された穴としてもよい。
【0031】
上記のように複数のハブ分割体付き羽根13をハブ分割体11aの部分でフランジ11B,11Cと共に組み立て水車翼1に対し、ハブ11の中央穴14に前記回転軸9(
図2)を嵌合させる。中央穴14にはキー溝19(
図3)が設けられており、このキー溝19および回転軸9に設けられたキー溝間に渡ってキー(いずれも図示せず)を嵌合させ、ハブ11と回転軸9との相互の回り止めを行う。これにより、水車翼1が発生する発電トルクが発電機2に伝達される。
【0032】
羽根12およびハブ分割体11aからなるハブ分割体付き羽根13は、鋳造により形成することが、歩留まりに優れることから望ましい。鋳造羽根の材質は、以下の(1)~(3)の3条件を全て充足するものとし、ハブ分割体付き羽根13の材質としては、ステンレス鋳鋼材ではSCS13,アルミ合金鋳物材ではAC4C,クロム鋳鋼材では25Cr(A532 III-A:ASTM規格) が望ましい。
【0033】
(1)水中使用となるため、耐食性を有する材料。
(2)羽根形状は、流線形状で羽根断面が薄肉厚であるため、必要強度を確保する流動性(湯流れ)の良い材料。
(3)コスト面において汎用性がある材料。
【0034】
<ステンレス鋳鋼材SCS13>
高耐食性材料として、SCS13(SUS304相当)、SCS14(SUS316相当)が挙げられ、SCS14の方が優れている。しかし、鋳造性の良いSCS13は比較的流動性が良い材料であり、低コスト(Niの含有量が少ない)のため、選定した。
<アルミ合金鋳物材AC4C,ADC3>
プロペラ形状の鋳造実績が有り、耐食性、靭性があるAC7Cも候補材に挙がったが、鋳造性が良くないことから、鋳造性に優れ、使用条件を満足するAC4Cを選定した。またダイカスト材では、AC4Cに相当するADC3を選定する。
<クロム鋳鋼材25Cr(A532 III-A:ASTM規格)>
クロム鋳鋼材25Crは、ステンレス材のNiをクロムに置き換えた低コスト材であり、熱処理(固溶化処理)も不要である。鋳造性が良好で、耐食性のある25Crを選定した。
【0035】
ハブ分割体付き羽根13の鋳造後、ハブ分割体11aには機械加工が施される。一方、翼部にはショットブラスト等の表面処理は行われるが、機械加工は行われず、前記翼部を鋳放しの状態で適用する。腐食を回避するための表面処理として、羽根12またはハブ分割体付き羽根13の全体の最外層に、例えば、塗装、酸化皮膜、めっき、または樹脂コート等の表面処理層(図示せず)を設けることが好ましい。前記表面処理層として、AC4Cではアルマイト処理が適用できる。
【0036】
ところで、ハブ分割体付き羽根13を一つの水車翼1に組み立てる際、羽根12の長さ方向の出入りによるズレから、円周上で不揃いが発生する。これを防ぐため、位置決めピン(図示せず)を用いることが考えられるが、既述の如く交番応力から当該ピンも大きく影響を受けるため、適用することは好ましくない。
そこで、
図5に示すように、羽根12の根元に形成された扇形のハブ分割体11aが隣接する羽根12におけるハブ分割体11aとの軸方向の当接面で互いに接触せず、所定の隙間が空くようにしておき、このスペースにフレッティング抑制部品としてシート状等のスペーサ20を介在させる。スペーサ20の厚さは、このスペーサ20が介在することで、スペーサ20を含むハブ分割体配列体11Aの外周および内周の形状が略真円となる厚さとされる。
【0037】
前記スペーサ20をハブ分割体11a間に配設し、組み付けることにより、フレッティグによるガタは発生しない。スペーサ20の材質に、樹脂材(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(具体的にはテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂)、硬質ゴム等を用いれば、スペーサ20は位置決め用部品としての役割に加えて、フレッティング抑制の効果も奏する。
【0038】
なお、フレッティング抑制部品となる位置決めスペーサ20は、シート状に限らず
図6に示すように断面形状をコの字形にしても良い。同図のスペーサ20は、具体的には、ハブ分割体11aの円周方向を向く両面にそれぞれ沿う2つの放射状部20a,20aと、内周穴14の周面に沿う周面部20bとでなる。スペーサ20をこのような形状とすることで、セッティングが容易化される。尚、羽根12の分割個数が偶数の場合は、コの字形スペーサ20を半減することができる。
【0039】
上記構成の作用、効果を説明する。
水車翼1の構成を各ハブ分割体付き羽根13としたため、金属製であっても、組み立て時やメンテナンス時に取り扱う物が軽量化され、組み立てやメンテナンスが容易になる。
【0040】
しかし、分割構造としたため結合が必要であり、水力発電装置の水車翼1では結合の構造によって、次のように強度不足の問題がある。水力発電装置の水車翼1は、前述のように流速変動により水車翼1が受ける荷重変動から、撓みにより各羽根12のハブ分割体11aの近傍部は応力集中し易い。また、水路4の水位が低下し、羽根12の一部が水面上に出る場合、羽根12は交番応力を受けることになり、羽根12のハブ近傍部は引張/圧縮力が作用する。
このような環境下で使用される水車翼1は、羽根12を別体とした場合、
図7の提案例のように、ハブとの結合構造につき、羽根12の根元にボルト部41を形成し、これをハブ(図示せず)に設けた穴に嵌合後、ナットで締結する構造では、上述の使用環境の場合、締結部に加わる荷重変動から、疲労破壊する可能性が有る。また、羽根12の材質がアルミ材の場合、撓みにより結合面が塑性変形することも考えられ、このような結合には問題が有る。
【0041】
特に、
図7の提案例のように羽根12の根元にボルト部41を形成しナットで締結する構成では、前記交番荷重からボルト部41にせん断応力が作用し、これが疲労破壊に繋がる可能性が有る。締結力が大きい程、せん断応力は作用し易くなる。
【0042】
しかし、本実施形態では、各羽根12の根元にハブ11の一部をハブ分割体11aとして取り込み、ハブ分割体11aで互いに結合するようにしたため、結合を行うボルト18には引っ張り力のみが作用し、せん断力が作用せず、強度に優れる。
材料強度として、引張強度をFとした場合、せん断強度はF/√3となり、せん断強度は一般的に引張強度の60~80%と言われている。本実施形態における、「ハブ分割体付き羽根13」は、上述の環境では締結部に加わる力は引張力のみであり、一方、
図7の「ねじ付き羽根」では、せん断応力が作用することから、本実施形態の方が破壊(破断)に強いことになる。
【0043】
また、本実施形態では、各ハブ分割体付き羽根13の一部となるハブ分割体11aの配列体11Aをフランジ11B,11C間に挟み、これらに形成したボルト穴15~17に相通したボルト18およびナット(図示せず)により締結固定している。そのため、応力集中部が
図7の提案例の如く羽根12の根元の締結部とならず、水車翼1としての強度が確保できる。
また、ボルト18が羽根12と別部品となっているため、高張力ボルトを適用することも可能であり、さらに締結を強固なものとすることもできる。
このように、各ハブ分割体付き羽根13を別体で製作後、組立てた水車翼1は、全体が一体成形翼と同等の性能を有し、かつ低コスト化を図ることができる。
【0044】
スペーサ20は、次の作用効果を奏する。
ハブ分割体付き羽根13はフランジ11B,11Cの部分で合体するため、各ハブ分割体11aの隣接するハブ分割体11aと接するハブ部軸方向面が、羽根12の一部が水面上に出る場合、羽根12の出入りに依って前記交番応力を受ける。この交番応力により順次微小変形を生じ、擦れてフレッティング摩耗を起こす懸念が考えられる。摩耗による隙間増加は、ガタを発生し、ボルト18の緩みを招く。
そこで、この実施形態では、前記摩擦面にフレッティング抑制部品となる樹脂材またはゴム材等のスペーサ20(
図5)を介在させている。図はフレッティグ抑制部品であるスペーサ20を判り易く示すため、ハブ11の外周面からはみ出した状態を載せているが、外周面と同一平面(いわゆる、「面一」)にすれば、回転抵抗が軽減するためより望ましい。
荷重変動により、羽根12のハブ分割体11aの軸方向面が、このスペーサ20と当接するが、擦れて摩擦が発生しても軟質のスペーサ20が変形するのみで、フレッティング摩耗は発生しない。スペーサ20は、シート状の場合は、ハブ11の厚さよりも大き目にしておき、フランジ11B,11Cでハブ分割体付き羽根13を締結する時に挟み込み、スペーサ20に圧縮力を与えれば固定できる。
【0045】
前記表面処理につき説明する。
金属材を水中で適用する場合、水中で異種金属部材が混在すると、腐食発生の要因となる。羽根12およびその周辺部品が、異種金属となる場合、羽根12最外層に表面処理(図示せず)を施すことが好ましく、この表面処理により腐食を回避することができる。この、表面処理は、例えば、塗装,酸化皮膜,めっきおよび樹脂コートである。また、使用環境に適用可能であれば、亜鉛のような犠牲金属を付帯させて、腐食を回避するようにしてもよい。
【0046】
ところで、複数のハブ分割体付き羽根を組み合わせて水車翼とした場合、羽根の回転中心からの任意位置での幅および厚みは設計された寸法にあることが必要である。
しかし、ハブ分割体付き羽根の場合、
図9に示すように、水車翼の回転中心が存在せず仮想点となる。このため、例えば、回転中心Aを含むハブ分割体付き羽根の反転型に各羽根12を支持して、回転中心Aからの任意位置B,C,Dを確認し、幅および厚みを測定することになる等、専用の計測治具が必要である。これと共に、各羽根12の計測治具との接触状態が個々に異なるため、各羽根12の寸法精度の信頼性に関しても問題があった。
【0047】
そこで、
図8に示すように、各ハブ分割体付き羽根13は、水を攪拌する羽根12の裏面つまり羽根12の下流側面の定められた径方向位置B,C,Dに計測位置を表すマークMaがそれぞれ形成されている。前記定められた径方向位置B,C,Dは、水車翼の回転中心Aからそれぞれ径方向外方に設定された距離L1,L2,L3だけ離れた位置である。この例では、各マークMaは羽根12の幅方向に所定長さ延びる矩形凹溝状であり、定められた各径方向位置B,C,Dにおいて二つのマークMa,Maが間隔を空けて形成されている。各羽根12を鋳造する鋳造型における各マークMaに対応する位置に、凸部をそれぞれ配置しておくことで、羽根12に矩形凹溝状の凹み部分で各マークMaがそれぞれ転写される。
【0048】
羽根12の定められた位置に計測位置を表すマーク(計測位置表示部)Maを形成することで、例えば、ノギス等の汎用の計測具を用いて、羽根12のマークMaがある位置での幅および厚みを、測定する際の基準点がなくても容易に測定することができる。したがって、羽根12の寸法精度の良否を容易に評価し得ると共に専用の治具を用意する必要もない。これらマークMaは、各羽根12の下流側面に設けられているため、水流の流れを乱すような作用もない。
【0049】
ハブ分割体付き羽根13の鋳造後、鋳肌表面を整えるため、ショットブラスト等の表面処理を施すが、マークMaは凹み部分で形成されるため、前記表面処理で摩耗して消失することもなく、確実に存在することから、計測位置が不明瞭になることもない。この例では、定められた各径方向位置B,C,Dにおいて二つのマークMa,Maが間隔を空けて形成されているが、各径方向位置B,C,Dにおいて、少なくとも一つのマークMaが形成されていればよい。なお各径方向位置B,C,Dにおいて、三つ以上のマークMaが形成されていてもよい。またマークMaは矩形凹溝状に限定されるものではない。
【0050】
各ハブ分割体付き羽根13が、鋳造品である場合に、各ハブ分割体11aに、各ハブ分割体付き羽根13の製品番号または製作時期を特定可能なマークMbまたは文字が形成されていてもよい。前記マークMbは、記号または記号と番号等の組み合わせを含む。前記マークMbまたは前記文字は、各ハブ分割体11aに凹み部分で形成されている。各ハブ分割体11aの表裏面のいずれか一方または両方における半径方向基端側部分に、前記マークMbまたは前記文字が形成されている。鋳造型に、交換可能なマーク形成部または文字形成部を凸状態で配置しておくことで、各ハブ分割体11aに凹み部分のマークMbまたは文字が転写される。
【0051】
この場合、ハブ分割体付き羽根13のメンテナンス時等において、異常が発生しているハブ分割体付き羽根13または交換すべきハブ分割体付き羽根13を、製品番号または製作時期を特定可能なマークMbまたは文字から容易に特定し交換することができる。個々のハブ分割体付き羽根13のトレーサビリティを確保することで、不測の事態に対処することが容易となる。仮に、不測の事態でハブ分割体付き羽根13に異常が発生する等の不具合発生時、品質または機能上の原因究明に繋げ、不具合の拡大を防ぐことができる。ハブ分割体付き羽根13は、個々に交換できるため、製作時期が異なるハブ分割体付き羽根13を組み合わせた水車翼1(
図3)とする可能性は高く、特に有効である。各ハブ分割体付き羽根13の鋳造後ハブ分割体11aの表裏面に機械加工等を行った場合であっても、前記マークMbまたは前記文字が凹み部分で形成されているため、前記マークMbまたは前記文字が前記機械加工等で消失することを防ぐことができるうえ、前記マークまたは前記文字が突出部分として形成されている場合と異なり、ハブ分割体11aの表裏面と一対のフランジ11B,11C(
図3)とをがたつくことなく結合することが可能となる。
【0052】
なお、計測位置のマークではないが、各ハブ分割体11aのボルト穴加工位置に、ドリル先端を当て易い凹状のマークを形成しておいてもよい。ボルト穴中心を表すマーク形成部を鋳造型に凸状態で配置しておくことで、各ハブ分割体11aに凹状のマークが転写される。この場合、鋳造後の各ハブ分割体11aにマークを目視しつつボルト穴15を正確に且つ容易に加工し得る。但し、ボルト穴15の加工後、前記マークは消失する。
【0053】
以上、実施形態に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、ここで開示した実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0054】
1…水車翼
2…発電機
3…支持装置
4…水路
11…ハブ
11a…ハブ分割体
11A…ハブ分割体配列体
11B,11C…フランジ
12…羽根
15…ボルト穴
16,17…ボルト穴
18…ボルト
20…スペーサ