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特許7642325炭化水素からカルボン酸又はその塩を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】炭化水素からカルボン酸又はその塩を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/09 20060101AFI20250303BHJP
   C07C 53/126 20060101ALI20250303BHJP
【FI】
C07C51/09
C07C53/126
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020101655
(22)【出願日】2020-06-11
(65)【公開番号】P2020200327
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】19179571.5
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】523448406
【氏名又は名称】エボニック オクセノ ゲーエムベーハー ウント コー. カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ククミエルチク
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト フランケ
(72)【発明者】
【氏名】ディルク フリダーク
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス クノッサラ
(72)【発明者】
【氏名】マルク シェーペルテンス
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク グルト
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-130938(JP,A)
【文献】国際公開第2013/107902(WO,A1)
【文献】特開2017-114843(JP,A)
【文献】特開2017-061443(JP,A)
【文献】特開平01-199935(JP,A)
【文献】特表2016-511769(JP,A)
【文献】国際公開第2015/085295(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2017/0007963(US,A1)
【文献】Accounts of Chemical Research,2002年,Vol.35, No.9,p798-810,doi:10.1021/ar0100778
【文献】Chemical Engineering Research and Design,2017年03月22日,Vol.121,p219-232,doi:10.1016/j.cherd.2017.03.015
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸又はその塩を製造する方法であって、以下の:
a)少なくとも1の多重結合、又は少なくとも1のオレフィン性二重結合があるC2~C20炭化水素、一酸化炭素、及びアルコールAを、均一系触媒系の存在下で、反応ゾーンで反応させて生成混合物を得ることにより、エステルを製造する工程、
b)前記均一系触媒系を前記生成混合物から分離する膜分離を行う工程であって、保持液中の前記均一系触媒系、並びに未反応炭化水素及び/若しくは未反応の前記アルコールA、又は未反応の前記アルコールAを濃縮し、前記工程a)で形成された透過液中の前記エステルを濃縮し、ここで、前記膜は少なくとも1つの分離活性層及び支持体からなり、前記膜の材料には、OSN系(Organic Solvent Nanofiltration;有機溶媒ナノ濾過)膜材料が用いられ、;
c)熱分離、蒸留、抽出、結晶化及び膜分離から選択される少なくとも1つの分離工程において、前記工程a)で形成された前記エステルを前記透過液から分離する工程;
d)前記工程a)で形成された前記エステルを、酸性触媒又はけん化剤の存在下で、加水分解又はけん化して、少なくとも、カルボン酸又はその塩、分離された前記アルコールA、水及び未反応の前記エステルが含まれる反応混合物を獲得する工程;かつ、
e)前記工程d)で生成されたカルボン酸又はその塩を、熱分離、蒸留、抽出、結晶化及び膜分離から選択される少なくとも1つの分離工程で分離する工程、
を含む、方法であって、ここで、
前記アルコールAは、1~50個の炭素原子、1~15個の炭素原子、又は1~10個の炭素原子があるモノオール若しくはポリオール(2又はそれ以上のOH基)、又は2若しくはそれ以上のモノオール及び/若しくはポリオールの混合物であり、
前記工程a)のカルボニル反応で用いられる前記均一系触媒系は、元素周期表第8~10族の少なくとも1種の金属若しくはその化合物、リン含有配位子及び酸を含み、かつ、
前記工程a)の前記均一系触媒系には酸が存在し、前記酸が、pKa≦5若しくはpKa≦3のブレンステッド酸、又は、LAU値が25を超えるか若しくは29であるルイス酸であり、かつ、分離活性層が、PEEKからなる、
方法。
【請求項2】
分離活性層が、PAEKポリマーからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
分離活性層スルホン化度が、20%未満、又は10%未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程a)で用いられる前記アルコールAは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール(tert-Butanol)、3-ペンタノール、2-プロピルヘプタノール、シクロヘキサノール、フェノール及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記工程a)の反応で用いられる一酸化炭素は、一酸化炭素を含むガスを予め分離し、前記一酸化炭素を反応ゾーンに送出することにより提供される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記膜の材料は、前記均一系触媒系の酸の存在下でも少なくとも300時間安定なOSN系(Organic Solvent Nanofiltration;有機溶媒ナノ濾過)膜材料である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ブレンステッド酸は、過塩素酸、硫酸、リン酸、メチルホスホン酸又はスルホン酸であり、かつ、ここで、前記ルイス酸は、アルミニウムトリフラート(Aluminiumtriflat)、塩化アルミニウム、水素化アルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリフッ化ホウ素、三塩化ホウ素又はこれらの混合物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程b)の膜分離により、得られた保持液は前記工程a)に再送出され、かつ、得られた前記透過液はその後の工程c)に送出される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程c)の分離工程後、さらに、以下の:
c1) 前記工程a)で形成されたエステルを、第2アルコールBでエステル交換する工程であって、ここで、前記第2アルコールBは前記工程a)で用いられた前記アルコールAとは異なり、第2反応ゾーンにおいて、第2生成混合物を得る工程であって、ここで、前記工程a)で用いられた前記アルコールAは第1アルコールAであり;
c2) 前記工程c1)で形成されたエステルを分離し、残存する前記第2生成混合物を熱分離及び/又は膜分離により分離し、前記分離された前記第1アルコールAを第1反応ゾーンで再利用し、未反応の前記第2アルコールBを前記第2反応ゾーンで再利用する工程;
を含み、ここで、前記工程c1)で形成されたエステルは、前記工程d)における加水分解又はけん化で用いられる、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2アルコールBは工程e)で過剰に添加される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程e)で用いられる前記第2アルコールBの沸点は、前記第1アルコールAの沸点と比較して、高い、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記分離された前記第1アルコールAの部分は、既に前記第2反応ゾーンから取り出されており、第1反応ゾーンに再循環される、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの多重結合、好ましくは少なくとも1つのオレフィン性二重結合があるC2~C16炭化水素のアルコキシカルボニル化により得られるエステルを加水分解又はけん化して、アルコールを製造する方法であって、用いる均一系触媒系を膜分離により液体生成混合物から分離する方法に関する。本発明の1の実施形態では、このようにして形成されたエステルは、エステル交換反応により他のエステルに変換された後、加水分解又はけん化される。
【背景技術】
【0002】
大規模工業化学におけるアルコールの製造は、主として、ヒドロホルミル化によりアルデヒドを生成した後、アルデヒドを酸化してカルボン酸を生成することにより行われる。その後に酸化を伴うヒドロホルミル化によるカルボン酸の製造は、数十年前から工業的に確立され、実証されてきたプロセスであるが、まだ改善の余地がある(例えば、特許文献1又は2を参照)。この合成経路の1つの問題点は、ヒドロホルミル化に遷移金属を含む触媒系を用いることであり、当該触媒系は、通常、高価であるか、又はその製造が高価である。また、触媒を用いない場合や反応条件が比較的緩慢な場合でも副生成物が発生するという問題がある。さらなる問題は、アルデヒドの酸化の工程では酸素が純粋な形で、又は空気を介して有機反応混合物に添加されるため、安全装置の必要性が高いことである。その結果生じる爆発性雰囲気は、個別に監視し、制御しなければならないが、それには困難が伴う。
【0003】
副反応を避け、選択性を高めるために、反応液にアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物を添加することが文献で提案されている。しかしながら、この提案の欠点は、当該化合物がアルデヒドの酸化を阻害するように機能してしまい、十分な変換を達成するためには、反応時間がより長くなることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】独国特許発明第10010771号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1854778号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、所望のカルボン酸又はその塩を比較的容易にアクセスでき、かつアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物がなくてもカルボン酸又はその塩を調製しうる代替合成経路を特定することで、上記課題を解決した。他の重要な目的は、製造プロセスを大規模工業規模で実施できることである。その中心となるのは、従来の合成法を、公知のプロセスを介する生成物をより高品質で提供する他の合成技術に置換することである。さらに、確立される新規合成経路によれば、望ましくない副生成物の生成は抑制されるはずである。酸素の存在のために必要な他の安全設備が削減される。
【0006】
当該目的は、第1段階において、少なくとも1つの多重結合がある炭化水素が一酸化炭素及びアルコールとのアルコキシカルボニル化反応によりエステルを形成し、第2段階において、酸性触媒又はけん化剤の存在下でエステルが加水分解又はけん化反応により、所望のカルボン酸又はその塩を形成する二段階プロセスによって達成される。当該プロセスの第2段階では、最初に用いられたアルコールの部分が再び放出される。
【0007】
本発明は、カルボン酸又はその塩を製造する方法に関し、以下の工程、
a)少なくとも1の多重結合、好ましくは、少なくとも1のオレフィン性二重結合があるC2~C20炭化水素、一酸化炭素、及びアルコールAを、均一系触媒系の存在下で、反応ゾーンで反応(カルボニル化)させて、生成混合物を得ることにより、エステルを製造する工程、
b)前記均一系触媒系を前記生成混合物から分離する膜分離を行う工程であって、保持液中の前記均一系触媒系、並びに未反応炭化水素及び/若しくは未反応アルコールA、好ましくは、未反応アルコールAを濃縮し、工程a)で形成された透過液中のエステルを濃縮し、ここで、膜材料として、少なくとも1つの分離活性層があるOSN系(Organic Solvent Nanofiltration;有機溶媒ナノ濾過)膜材料が用いられる;
c)熱分離、例えば、蒸留、抽出、結晶化及び膜分離から選択される少なくとも1つの分離工程において、工程a)で形成されたエステルを前記透過液から分離する工程;
d)工程a)で形成されたエステルを、酸性触媒又はけん化剤の存在下で、加水分解又はけん化して、少なくとも、カルボン酸又はその塩、分離されたアルコールA、水及び未反応エステルが含まれる反応混合物を獲得する工程;
e)工程d)で生成されたカルボン酸又はその塩を、少なくとも、熱分離、例えば、蒸留、抽出、結晶化及び膜分離から選択される少なくとも1つの分離工程で分離する工程、
を含む、方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
工程a)で用いられる炭化水素には、少なくとも1つの多重結合があるべきである。好ましくは、少なくとも1つのオレフィン性二重結合がある炭化水素であり、特に好ましくは、1つのオレフィン性二重結合がある炭化水素である。原則として、少なくとも1つの多重結合、好ましくは、少なくとも1つのオレフィン性二重結合がある化合物中の炭素原子の数に制限はない。しかしながら、工業的に重要なのは、少なくとも1つの多重結合、好ましくは、少なくとも1つのオレフィン性二重結合があるC2~C20への炭化水素のカルボニル化である。本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1つの多重結合、好ましくは、少なくとも1つのオレフィン性二重結合があるC3~C16炭化水素、より好ましくはC3~C12炭化水素を用いうる。これには、特に、2~20個の炭素原子、好ましくは3~16個の炭素原子、より好ましくは3~12個の炭素原子があるn-アルケン、イソアルケン、シクロアルケン及び芳香族アルケンがあげられる。
【0009】
上記炭化水素には、少なくとも1つのオレフィン性二重結合及び、1又はそれ以上のさらなる官能基が含まれてよい。適当な官能基の例としては、カルボキシル基、チオカルボキシル基、スルホ基、スルフィニル基、カルボン酸無水物基、イミド基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、カルバモイル基、スルファモイル基、シアノ基、カルボニル基、カルボノチオイル基、ヒドロキシル基、スルフヒドリル基、アミノ基、エーテル基、チオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基若しくはシリル基及び/又はハロゲン置換基があげられる。
【0010】
本発明の方法の工程a)で用いられる、特に好ましい炭化水素は、1つのオレフィン性二重結合、特に2~20個の炭素原子、好ましくは3~16個の炭素原子、より好ましくは3~12個の炭素原子があるn-アルケン及びイソアルケンのみである。用いられる炭化水素は、好ましくは非置換である。
【0011】
用いられる上記炭化水素を、一酸化炭素及びアルコールと本発明の工程a)で反応させて、対応するエステルを形成する。一酸化炭素は、直接、供給混合物として、又は合成ガス、水ガス、発生ガス及び他の一酸化炭素含有ガスから選択される一酸化炭素含有ガスを添加して供給しうる。一酸化炭素含有ガスを当業者に公知の方法でその成分に分離し、一酸化炭素を反応ゾーンに送入させて一酸化炭素を提供してもよい。一酸化炭素は、完全に分離することはほとんど不可能であるため、一定の割合の水素又は他の気体を含みうる。
【0012】
工程a)で用いられるアルコールは、1~50個の炭素原子、好ましくは1~15個の炭素原子、より好ましくは1~10個の炭素原子があるモノオール若しくはポリオール(2又はそれ以上のOH基)、又は2又はそれ以上のモノオール及び/若しくはポリオールの混合物である。好ましい態様では、ポリオールは、ジオール、トリオール又はテトラオールであり、好ましくは、上記数の炭素原子があるジオール又はトリオールである。工程a)における反応に適するアルコールは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール(tert-Butanol)、3-ペンタノール、2-プロピルヘプタノール、シクロヘキサノール、フェノール又はそれらの混合物、好ましくはエタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、3-ペンタノール、2-プロピルヘプタノールである。
【0013】
工程a)で用いられるアルコールは、好ましくは、用いられる炭化水素(アルコール:炭化水素)に対するモル比で、2~20、より好ましくは3~10、特に好ましくは4~6で用いられる。すなわち、モノオールは、用いられる炭化水素に基づいてモル過剰量で添加される。従って、アルコールは、カルボニル化用反応物及び溶媒としての機能がありうる。工程a)で用いられるアルコールがポリオールである場合、用いられる炭化水素(炭化水素:ポリオール)に対するモル比は、2~20、好ましくは3~10、より好ましくは4~8であってよい。添加される当該ポリオールのモル数は、用いられる炭化水素に対して過少(モル不足)である。
【0014】
工程a)の本発明の反応は、均一系触媒系の存在下で行われる。当該均一系触媒系は、好ましくは、元素周期表(PSE)の第8~10族の少なくとも1つの金属、又はその化合物、リン含有配位子、及び酸を助触媒として含む。
【0015】
PTE第8~10族の金属は、好ましくはパラジウムである。パラジウムは、好ましくは、リン含有配位子によって配位されたパラジウム化合物として、前駆体化合物の形態で用いられる。当該前駆体化合物として用いられうるパラジウム化合物の例としては、塩化パラジウム[PdCl]、アセチルアセトナトパラジウム(II)[Pd(acac)]、パラジウム(II)-酢酸パラジウム[Pd(OAc)]、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)パラジウム(II)[Pd(cod)Cl]、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)[Pd(dba)]、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)[Pd(dba)]、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム(II)[Pd(CHCN)Cl]、二塩化(シンナミル)パラジウム[Pd(cinnamyl)Cl]があげられる。好ましくは、[Pd(acac)]又は[Pd(OAc)]の化合物が用いられる。工程a)のパラジウム金属の濃度は、用いる炭化水素のモル数に基づき、好ましくは0.01~0.6モル%、好ましくは0.03~0.3モル%、より好ましくは0.04~0.2モル%である。
【0016】
本発明の触媒系の適当なリン含有配位子には、好ましくは二座構造がある。本発明の触媒系に好ましいリン含有配位子は、例えば、欧州特許出願公開第3121184号明細書に開示されているようなベンゼン系ジホスフィン化合物である。当該配位子は、予備反応でパラジウムと組み合わされることができ、パラジウム-配位子複合体が反応ゾーンに供給されるか、又はその場で反応に添加され、そこでパラジウムと組み合わされる。工程a)に記載の反応による、配位子対金属のモル比は、1:1~10:1、好ましくは2:1~6:1、より好ましくは3:1~5:1でありうる。
【0017】
均一系触媒系は、酸、特にブレンステッド(Bronsted)酸又はルイス(Lewis)酸をさらに含む。ルイス酸は、特に、LAU値が25を超え、好ましくはLAU値が29であるルイス酸でありうる。LAU値は、ルイス酸(JR Gaffen et al.,Chem,Vol.5,No.6,p.1567-1583)の強度を測定する新規方法である。ルイス酸としては、好ましくは、アルミニウムトリフラート、塩化アルミニウム、水素化アルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、又はそれらの混合物が用いられる。上記ルイス酸のうち、好ましくは、アルミニウムトリフラートが用いられる。当該ルイス酸は、ルイス酸対配位子の好ましくは1:1~20:1、好ましくは2:1~15:1、より好ましくは5:1~10:1のモル比で添加される。
【0018】
用いられるブレンステッド酸は、好ましくは、酸強度pKa≦5、より好ましくは酸強度pKa≦3である。上記酸強度pKaは、標準条件下(25℃、1.01325バール)で測定されたpKaを意味する。ポリプロトン酸による、本発明の文脈における酸強度pKaは、第1プロトリシス工程(Protolyseschritt)のpKaに関する。ブレンステッド酸は、ブレンステッド酸対配位子の好ましくは1:1~15:1、好ましくは2:1~10:1、より好ましくは3:1~4:1のモル比で添加される。
【0019】
ブレンステッド酸としては、特に、過塩素酸、硫酸、リン酸、メチルホスホン酸又はスルホン酸があげられうる。適当なスルホン酸は、例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、tert-ブタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸(PTSA)、2-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルホン酸及びドデシルスルホン酸である。特に好ましい酸は、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸があげられる。酸は好ましくは硫酸である。
【0020】
工程a)で用いられる、オレフィン性二重結合がある炭化水素の反応、すなわちカルボニル化は、好ましくは25~140℃の温度、より好ましくは80~130℃の温度、特に好ましくは90~120℃の温度で行われる。工程a)における圧力は、5~60バール、好ましくは10~40バール、より好ましくは15~30バールでありえる。
【0021】
工程a)の上記反応は、適当な反応ゾーンで行われる。反応用反応ゾーンは、少なくとも1つの反応器を含むが、2又はそれ以上の反応器を含んでよい。少なくとも1つの反応器は、特に、撹拌タンク反応器、ループ反応器、ジェットループ反応器、バブルカラム反応器、又はそれらの組み合わせからなる群から選択されうる。複数の反応器が用いられる場合、反応器は同一であっても、異なってもよい。
【0022】
工程a)の上記反応により、反応によって形成された少なくともエステル、均一系触媒系、未反応のアルコールA、及びおそらくは低沸点物質等のさらなる成分、例えばエーテル等の低沸点副産物及び/又は高沸点物質及び/又は未反応の炭化水素を含む、液体生成混合物が得られる。その後、液体生成混合物を、工程b)で次の膜分離に供給する。工程a)の反応では、少なくとも窒素、水素及び低沸点副生成物等の非反応性不純物からなるオフガス(例えば、上記エーテル)も反応ゾーンから除去しうる。不純物及び低沸点副生成物が蓄積し、経時的に反応ガス(CO)の分圧が低下すると、反応が遅くなる。
【0023】
次の工程b)では、液体生成混合物を膜分離に供給し、均一系触媒系を液体生成混合物から分離する。本発明の膜材料により、保持液中で均一系触媒系及び未反応炭化水素及び/又は未反応アルコールが濃縮されるが、工程a)で形成されたエステルは浸透液中で濃縮される。その後、形成されたエステルを含む透過液は、次の工程c)に送出される。その後、濃縮された均一系触媒系を含む保持液を工程a)の反応ゾーンに再循環させる。当該保持液を再利用すると、不活性アルカン、低沸点副生成物(例えば、エーテル)、触媒系の潜在的な分解生成物、又は用いられる炭化水素流により導入される他の不純物、例えば、痕跡量の水又は窒素を含むパージ流をさらに除去して、反応ゾーン内への蓄積を回避しうる。当該保持液を再利用すると、当該保持液中で膜分離時に得られた触媒系を確実に反応に戻しうる。これにより、蒸着又は不活性化(例えば、蒸留の場合に生じる)による触媒損失を最小限にでき、プロセス費用がより低減される。通常、触媒の損失は完全に回避できないが、上記の損失低減効果としては、新規触媒で置換すべき触媒がよりすくなくてすむ。
【0024】
膜分離は、特定物質は透過するが、他物質は透過しない膜材料の半透過性に基づく。本発明の方法の工程b)で用いられる膜材料は、OSN系膜材料(OSN=有機溶媒ナノろ過)である。当該膜材料は、好ましくは、少なくとも比較的薄い分離活性層(活性分離層)と、場合によっては、分離活性層がその上に配置されるより厚い支持体とからなる。本発明の膜材料は、好ましくは、少なくとも分離活性層及び支持体からなる。分離活性層と支持体との間には、1又はそれ以上の中間層が存在しうる。好ましい実施形態では、膜材料は、分離活性層及び支持体のみからなる。少なくとも分離活性層と支持体からなる膜材料は、液体生成混合物中に共触媒として存在する酸によって膜材料が損傷されないように、酸安定性であるべきである。本発明に関する用語「酸安定性」は、膜材料が、触媒系中の酸の存在下で少なくとも300時間破壊されず、特にpKa≦5、より好ましくはpKa≦3のブレンステッド酸、又はLAU値が25を超え、好ましくはLAU値が29のルイス酸で安定であり、その結果、分離作用が実質的におこらないことをいう。
【0025】
支持体は、特に、分離活性層を通過した透過液に対して透過性である、多孔質構造である。当該支持体の機能は安定し、分離活性層の支持体として機能する。当該支持体は、原則として、いかなる適当な多孔質材料からなってよい。しかし、当該物質が酸及び塩基に対して安定であるという前提条件がある。当該支持体はまた、分離活性層と同じ材料からなってよい。
【0026】
本発明の分離活性層は、好ましくは、PAEK(ポリアリールエーテルケトン)ポリマーからなる。PAEKには、反復単位内のアリール基がエーテル官能性及びケトン官能性を介して交互に連結されるという特定の特徴がある。本発明の好ましい分離活性層は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)からなる。分離活性層としては、好ましくは、スルホン化度が20%未満であるPEEKポリマー、特に好ましくは、スルホン化度が10%未満であるPEEKポリマーが用いられる。対応するPEEKポリマー及びその調製は、国際公開第2015/110843号又はJ. Da Silva Burgal et al.; Journal of Membrane Science,vol.479(2015)pp.105-116に記載される。驚くべきことに、当該材料は、特に、均一系触媒系の助触媒としての酸に対して特に安定であることが見いだされた。さらに、本発明のPEEK材料の特定の特徴は、分離活性層として用いられると、生成されたエステルが優先して通過でき、一方、反応物として用いられるアルコールでさえ少なくとも部分的に保持され、それにより、保持液中に蓄積することである。これにより、残留液体生成混合物のその後の処理は、公知の膜材料と比較して除去されるべきアルコールの数が少ないため、より経済的で、かつ長時間行いうる。
【0027】
工程b)の膜分離は、好ましくは25~100℃、より好ましくは30~80℃、特に好ましくは40~70℃の温度で行う。生成混合物を冷却して、液体生成混合物を膜分離に好ましい優勢温度にすることができる。冷却は、冷却剤を用いる能動的冷却及び、熱交換器を介して達成でき、それにより、本発明のプロセスの他の流れが加熱される。場合によっては、工程a)の反応ゾーンと工程b)の膜分離との間にはさらに、脱ガス工程があり、一酸化炭素等の揮発性化合物、及び/又はオフガスを介して除去されない残留不活性不純物、例えば窒素、水素、アルカン、及び低沸点副生成物(例えば、上記エーテル)が、液体生成混合物から事前に除去される。当該生成混合物は、まず一酸化炭素等の溶存成分の分圧以下に減圧され、脱ガスされ、次いで、再度圧力を上昇させて、膜分離に提供されうる。
【0028】
膜貫通圧(TMP)は、工程b)で10~60バール、好ましくは15~55バール、より好ましくは20~50バール(相対的)であってよい。ここで、透過側圧力は、大気圧以上で15バールまで、好ましくは3~7バールまでであってよく、それにより、TMPに基づいて保持液側圧力が得られる。好ましい実施形態では、圧力比及び特に透過側圧力に注意すべきであるが、それは、圧力は、用いられる炭化水素、用いられるアルコール、及び存在する温度に応じて設定され、膜通過後の蒸発を避けるため、全体の操作が不安定になりうるからである。同様のことは、基本的には、一酸化炭素等の溶存成分にも適用され、場合によっては、上記脱気工程により除去されうる。
【0029】
膜分離からの透過液(工程b))は、次の工程c)で、熱分離、例えば、蒸留、抽出、結晶化、又はさらなる膜分離からなる群から選択される分離プロセスに付され、工程a)で形成されたエステルが残存透過液から分離される。当該分離プロセスは、好ましくは蒸留である。適当なプロセス条件は、当業者に公知である。
【0030】
工程c)で用いられる分離工程、特に蒸留工程では、透過液から生成したエステルだけでなく、工程a)の反応で得られうる高沸点物質、例えば高沸点副生成物からも分離される可能性がある。当該高沸点物質を除去するため、本発明による方法は、精製工程、すなわち、熱分離、抽出、結晶化又は膜分離により透過液中に含まれる高沸点物質からエステルを分離することにより、形成されたエステルを精製する工程を含んでよい。好ましくは熱分離プロセス、より好ましくはさらなる蒸留により、形成されたエステルが精製される。プロセス条件は当業者に公知である。
【0031】
好ましい態様では、少なくとも未反応のアルコール及び/又は未反応の炭化水素を含む浸透液は、工程a)で形成されたエステルから工程c)で大部分が遊離され、好ましい実施形態では、再循環成分分離に供される。当該分離では、熱分離、抽出、結晶化又は膜分離により、未反応アルコール及び/又は未反応炭化水素を、残存透過液、特にその中に含まれる低沸点物質から分離する。未反応のアルコール及び/又は未反応の炭化水素は、好ましくは熱分離プロセス、より好ましくはさらなる蒸留により、残存透過液から分離される。プロセス条件は当業者に公知である。ここで得られた未反応のアルコール及び/又は未反応の炭化水素は、その後反応ゾーンに再循環されうる。
【0032】
本発明の方法により形成されたエステルは、2つのさらなる方法工程c1)及びc2)でエステル交換されうる。当該エステル交換反応では、工程a)で用いた第1アルコールAに相当するエステルの部分を、第2アルコールB置換する。当該エステル交換反応は、上記工程c)後、精製工程後に行うことができ、以下の工程:
c1)工程a)で形成されたエステルを第2アルコールBでエステル交換する工程であり、ここで、当該第2アルコールBは工程a)で用いられたアルコールAとは異なり、第2反応ゾーンにおいて、少なくとも第2アルコールBとのエステル、分離された第1アルコールA及び未反応の第2アルコールBを含む第2液体生成混合物を得る工程;
c2)第2アルコールBで形成されたエステルを、残存する第2液体生成混合物から分離し、特に、熱分離及び/又は膜分離により第1アルコールAから分離し、分離された第1アルコールAを、工程a)から反応ゾーンへ再循環させ、また、未反応のアルコールBを第2反応ゾーンへ再循環させる工程、を含む。
【0033】
工程c1)は、実際にエステル交換反応が行われる。すなわち、工程a)で実際に結合した第1アルコールAを分離して、第2アルコールBを結合させる工程であり、工程a)で形成されたエステルを、第1アルコールAとは異なる第2アルコールBと反応ゾーン中で反応させる。特に好ましい実施形態では、エステル交換反応に用いられる第2アルコールBは、工程a)で用いられた第1アルコールAよりも、沸点が高い。好ましくは、第2アルコールBをエステル交換反応において過剰に添加して、エステル交換反応を促進する。
【0034】
工程c1)でエステル交換反応に用いられる第2アルコールは、好ましくは、炭素原子が1~50個であるモノオール若しくはポリオール(2又はそれ以上のOH基)、より好ましくは、炭素原子が1~15個であるモノオール、特に好ましくは、炭素原子が1~10個である、2又はそれ以上のモノオール及び/若しくはポリオールの混合物であるが、ただし、工程a)で用いられる第1アルコールAと第2アルコールBは同一でない。好ましい実施形態では、ポリオールは、ジオール、トリオール又はテトラオール、好ましくは、炭素原子が上記数であるジオール又はトリオールである。工程a)の反応に適するアルコールは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、3-ペンタノール、2-プロピルヘプタノール、シクロヘキサノール、フェノール、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール又はそれらの混合物、好ましくはエタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、3-ペンタノール、2-プロピルヘプタノールである。
【0035】
工程c1)におけるエステル交換反応は、好ましくは、酸又は塩基触媒下で行われる。酸としては、ブレンステッド酸又はルイス酸が用いられうる。
【0036】
工程c1)におけるエステル交換反応に適するブレンステッド酸は、過塩素酸、硫酸、リン酸、メチルホスホン酸又はスルホン酸、例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、tert-ブタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸(pTSA)、2-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、2,4,6-トリメチレンベンゼンスルホン酸又はドデシルスルホン酸である。用いられるブレンステッド酸は、好ましくは、硫酸又はスルホン酸、より好ましくは、硫酸である。金属又はその化合物としては、例えば、スズ粉末、酸化スズ(II)、シュウ酸スズ(II)、チタン酸エステル、例えば、テトライソプロピルオルトチタン酸塩又はテトラブチルオルトチタン酸塩、及びジルコニウムエステル、例えば、テトラブチルジルコン酸塩、ナトリウムメトキシド並びにカリウムメトキシドを用いてよい。
【0037】
工程c1)におけるエステル交換反応に適するルイス酸は、チタン(IV)イソプロポキシド、BuSnO、BuSn(O)OH又はアルミニウムトリフラートである。好ましくは、ルイス酸としてチタン(IV)イソプロポキシド及びアルミニウムトリフラートを用いる。
【0038】
工程c1)におけるエステル交換反応に適した塩基は、アルカリ金属、アルカリアルコキシド、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアセテート又は酸化物、又はアルカリ金属又はアルカリ土類金属アルコラート、例えばNaEtOH又はMgEtOH、アルカリ金属炭酸塩、例えばKCO又はCsCOである。しかしながら、塩基性イオン交換体又はNaOHもまた用いられうる。好ましくは、NaEtOH又はMgEtOH等のNa又はMgアルコラートが用いられる。
【0039】
酸性触媒によるエステル交換反応は、好ましくは60~220℃、より好ましくは100~210℃、特に好ましくは130~200℃で行われる。好ましくは、当該反応の温度は、分離される第1アルコールAの沸点より高く、それにより、分離される第1アルコールAを反応混合物から直接分離し、平衡の生成物側へのシフトが促進される。第2アルコールBは、好ましくは、工程a)で形成されたエステルに、好ましくは、有意に過剰に、例えば、30:1で添加される。
【0040】
塩基触媒によるエステル交換反応の温度は、好ましくは、20~100℃の温度である。
【0041】
上記エステル交換反応により、少なくとも第2アルコールBとのエステル、分離した第1アルコールA及び未反応の第2アルコールBを含む第2液体生成混合物が生成する。
【0042】
工程c1)で形成された第2エステルを、次の工程c2)で残存する第2液体生成混合物から分離する。当該分離は、熱分離、好ましくは蒸留、及び/又は膜分離、特に上記膜材料を用いて行う。適当なプロセス条件は、当業者に公知である。
【0043】
工程c2)で用いる分離工程、特に蒸留工程では、生成したエステル及び、工程c1)で生成しうる高沸点副生成物等、生成する可能性のある高沸点物質が残存する第2液体生成混合物から分離しうる。本発明による方法は、精製工程、すなわち、熱分離、抽出、結晶化又は膜分離によって存在する高沸点物質からエステルを分離して当該高沸点物質を除去する、工程c)で形成されたエステルを精製する工程を含んでよい。形成されたエステルは、好ましくは熱分離プロセス、より好ましくはさらなる蒸留を用いて精製される。プロセス条件は当業者に公知である。
【0044】
工程a)で製造され、工程c)で浸透液から分離された後、場合によっては、精製されたエステルは、工程d)で加水分解又はけん化される。当該プロセスで用いられる酸性触媒又はけん化剤によりエステル基を開裂し、その結果、カルボン酸又はカルボン酸塩が形成され、工程a)のエステル形成で結合したアルコールA、又はエステル交換反応で結合したアルコールBを回収しうる。つまり、けん化により、少なくともカルボン酸又はその塩、アルコールA又はB、及び未反応エステルを含む反応混合物が形成される。
【0045】
エステル交換反応をせずに、工程d)の加水分解又はけん化で回収されたアルコールAを、次の工程で得られたアルコール混合物から分離し、第1反応ゾーンに再循環させうる。工程d)の加水分解又はけん化におけるアルコールBの回収と共にエステル交換反応を行う場合のその後のプロセス工程では、形成されたアルコール混合物から分離され、第2反応ゾーンに再循環されうる。
【0046】
加水分解は、酸性触媒により、アルコールの脱離とともにエステルがカルボン酸に変換される公知の化学反応である。加水分解の通常の条件は、当業者に公知である。
【0047】
工程d)の加水分解は、酸性の不均一系又は均一系触媒系の存在下で行われる。公知の均一系触媒系は、酸性化合物、例えば、ブレンステッド酸、特にHCl、HSO、リン酸、p-トルエンスルホン酸及び4-ドデシルベンゼンスルホン酸、又はルイス酸、特にAlCl、ZnCl、HfCl・2THF、Al(OTf)である。公知の不均一系触媒系は、陽イオン交換体、酸性H-ゼオライト、シリカ及びヘテロポリ酸を有する酸性官能化金属酸化物等の酸性化合物である。適当な不均一系触媒系は、特に、Amberlyst(登録商標)15、Amberlyte(登録商標)IR120(H)、HClO-SiO、3-プロピルスルホン酸官能化シリカ、Nafion(登録商標)-SiO、Aciplex(登録商標)-SiO、Cs2.50.5PW1240、H-ZSM5、H-ZSM-5-C18、Z-β-H-25、Z-β-H-38、Z-β-H-150、Z-β-H-360、Z-Y-H-60、Z-Y-H-80である。
【0048】
次の工程e)にて、工程d)で形成されたカルボン酸又はその塩を反応混合物の残りから分離するために、工程d)における加水分解反応混合物は、熱分離、例えば、蒸留、抽出、結晶化、又はさらなる膜分離からなる群から選択される少なくとも1つの分離プロセス工程に移行する。当該分離プロセスは、好ましくは蒸留である。適当なプロセス条件は、当業者に公知である。多段階蒸留もまた行ってよい。
【0049】
けん化は、塩基性又は酵素性けん化剤によりエステルをアルコールの脱離を伴うカルボン酸塩に変換する公知の化学反応である。けん化の通常も条件は当業者に公知である。
【0050】
工程d)におけるけん化は、けん化剤の存在下で行われる。公知のけん化剤としては、水酸化カリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又はアミン化合物等の塩基性化合物があげられる。酵素性けん化剤、特にエステラーゼによるけん化も可能である。
【0051】
次の工程e)にて、工程d)で形成されたカルボン酸塩を反応混合物の残りの部分から分離するため、工程d)におけるけん化反応混合物は、熱分離、例えば、蒸留、抽出、結晶化、又はさらなる膜分離からなる群から選択される少なくとも1つの分離プロセス工程に移行する。当該分離プロセスは、好ましくは蒸留である。適当なプロセス条件は、当業者に公知である。多段階蒸留もまた行ってよい。
【0052】
少なくとも1つの分離プロセス工程では、用いられるアルコールA及びBは、さらに除去され、各々第1又は第2の反応ゾーンに再循環されうる。再循環中、パージストリームを引き出して、例えば、不活性アルカン、アルデヒド、アセタール、エーテル、ケトン又は炭素等の水素化副生成物をプロセスから排出しうる。
【実施例1】
【0053】
ジイソブテン(DiB)の、対応するエステルである3,5,5-トリメチルヘキサン酸メチル(TMHエステル)への変換と、その後の3,5,5-トリメチルヘキサン酸(TMH酸)への加水分解。ジイソブテンは、2つのC8異性体である2,4,4-トリメチルペント-1-エン及び2,4,4-トリメチルペント-2-エンからなる混合物であり、その比は約80:20である。
【0054】
Buechi社製の200mlのガラス製オートクレーブを閉じ、アルゴンで10バールに交互に(3倍)加圧し、次いで過剰圧力を解放して、酸素をチャージした。アルゴン下で、[Pd(acac)](76.37mg;DiBに基づく0.06モル%)、1,2-ビス((tert-ブチル(ピリジン-2-イル)ホスファニル)メチル)ベンゼン(218mg;DiBに基づく0.12モル%)、MeOH(84mL;DiBに基づく500モル%)、HSO(147mg;DiBに基づく0.36モル%)、DiB(65.6mL、0.41モル)を固定したSchlenkフラスコに秤量した。溶液を接続管及びアルゴン過圧によりオートクレーブに移し、オートクレーブを閉じた。アルゴンを排気した後、COで10バールに加圧し、オートクレーブを500rpmで撹拌し、油浴で120℃(内部温度の調節あり)に加熱した。反応は10時間後に完了した。冷却し、圧力をベントした後、収率及びn/イソ選択性を測定するためにGC分析により試料1mLを採取し、これにイソオクタン150μlを内部標準物質として加えた。TMHエステルの収率は99%であった(n/イソ:>99)。高沸点副生成物は検出されなかった。
【0055】
て最初にメタノール及び痕跡量の未反応オレフィンを分別蒸留により除去して、純粋なTMHエステルを得た。加水分解に用いる反応容器は、密閉式の圧力管(ACE Glass Incorporated,5mL)である。TMHエステルである3,5,5-トリメチルヘキサン酸メチル(437.5mg、2.54ミリモル、500μL)を水(2.492g、0.138モル、2.5mL)と共に反応容器に移した。次いで、表1にあげた75mg(17.1重量%)の不均一系触媒系を添加する。反応容器を閉じ、予熱した加熱ブロックに入れる。反応は100℃で連続攪拌(550rpm、マグネチックスターラー)して行う。20時間後、反応を終了し、反応容器を加熱ブロックから取り出し、周囲温度に冷却する。次に、GCによる反応を確認するための試料を調製する。これは、有機相(水及び触媒を含まない生成混合物)0.1mlをGCバイアル中で、内部標準としてイソオクタン0.05ml及び溶媒としてアセトン1mlと混合して行う。次いで、収率(Y)をGC-FIDによって決定し、各触媒について表1に示す。
表1:収率(TMH酸)の比較
【0056】
【表1】