(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】アルコキシカルボニル化によるエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/38 20060101AFI20250303BHJP
C07C 69/24 20060101ALI20250303BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250303BHJP
【FI】
C07C67/38
C07C69/24
C07B61/00 300
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020101656
(22)【出願日】2020-06-11
【審査請求日】2023-03-09
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】523448406
【氏名又は名称】エボニック オクセノ ゲーエムベーハー ウント コー. カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ククミエルチク
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト フランケ
(72)【発明者】
【氏名】ディルク フリダーク
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス クノッサラ
(72)【発明者】
【氏名】マルク シェーペルテンス
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク グルト
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/107902(WO,A1)
【文献】特開平01-199935(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00321054(EP,A2)
【文献】特表平09-501691(JP,A)
【文献】米国特許第05693851(US,A)
【文献】特開2017-114843(JP,A)
【文献】特表2009-513320(JP,A)
【文献】国際公開第2007/036424(WO,A1)
【文献】特表2009-524511(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0032465(US,A1)
【文献】国際公開第2015/110843(WO,A1)
【文献】特開平04-214723(JP,A)
【文献】特開2015-137982(JP,A)
【文献】特開2016-193421(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0236150(US,A1)
【文献】特開2020-200326(JP,A)
【文献】特開2020-200327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/38
C07C 69/24
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C2~C16炭化水素のカルボニル化によるエステルの製造方法であって、以下の工程:
a)少なくとも1つのオレフィン性二重結合があるC2~C16炭化水素を、一酸化炭素及び1~50個の炭素原子があるモノ-若しくはポリオール(2又はそれ以上のOH基)であるアルコール、又は2若しくはそれ以上のモノ-若しくはポリオールの混合物と、ここで、モノオールの場合、前記C2~C16炭化水素(アルコール:C2~C16炭化水素)に対して2~20のモル比で用いられ、又はポリオールの場合、前記炭化水素(炭化水素:ポリオール)に対して2~20のモル比で用いられる、元素周期表第8~10族の少なくとも1つの金属又はその化合物、リン含有配位子及び酸を含む、均一系触媒系の存在下で、反応させて(カルボニル化)、反応ゾーン中で反応により生じる、少なくともエステル、前記均一系触媒系、低沸点物質、高沸点物質及び未反応アルコールを含む、液体生成混合物を得る工程;
b)前記均一系触媒系を前記液体生成混合物から分離する膜分離を行う工程であって、それにより前記均一系触媒系及び/又はさらなる未反応の炭化水素及び/又は前記未反応アルコール、又は前記未反応アルコールが、保持液中に濃縮され、工程a)で形成された前記エステルが、浸透液中で濃縮され、用いられる膜材料は半透過性であり、かつ、酸安定性、すなわち、触媒系の酸の存在下で少なくとも300時間安定であり、少なくとも1つの分離活性層及び支持体がある、OSN(有機溶媒ナノ濾過)膜材料であり、かつ、前記保持液が前記反応ゾーンに再循環される工程;
c)熱分離、抽出、結晶化若しくは膜分離から選択される1若しくはそれ以上の分離工程、又は1若しくはそれ以上の蒸留工程により、浸透液を精製する工程であって、工程a)で形成された前記エステルを分離し、少なくとも1つのオレフィン性二重結合及び/又は未反応のアルコールがある未反応のC2~C16炭化水素を分離し、前記少なくとも1つのオレフィン性二重結合及び/又は未反応のアルコールがある未反応のC2~C16炭化水素を工程a)の前記反応ゾーンに再循環する工程;
を含む、方法。
【請求項2】
前記分離活性層が、PAEK(ポリアリールエーテルケトン)ポリマーからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分離活性層が、PEEK(ポリエーテルエーテルエーテルケトン)からなる、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)で用いられるアルコールが、1~15個の炭素原子があるモノ-若しくはポリオール(2又はそれ以上のOH基)又は2若しくはそれ以上のモノ及び/若しくはポリオールの混合物である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程a)で用いられるアルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-プロパノール、tert-ブタノール、3-ペンタノール、2-プロピルヘプタノール、シクロヘキサノール、フェノール及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
工程a)で用いられる前記少なくとも1つのオレフィン性二重結合があるC2~C16炭化水素が、2~16個の炭素原子があるn-又はイソアルケンである、請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程a)の前記均一系触媒系における元素周期表第8~10族の金属又はその化合物は、パラジウム又はその化合物である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記均一系触媒系におけるリン含有配位子には二座構造がある、請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程a)における触媒系の酸は、pKa≦5若しくはpKa≦3のブレンステッド酸、又は、LAU値が25を超えるか若しくは29であるルイス酸である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程a)における触媒系の酸は、ブレンステッド酸又はルイス酸であって、ここで、前記ブレンステッド酸は、過塩素酸、硫酸、リン酸、メチルホスホン酸又はスルホン酸であり、かつ、ここで、前記ルイス酸は、アルミニウムトリフラート(Aluminiumtriflat)、塩化アルミニウム、水素化アルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリフッ化ホウ素、三塩化ホウ素又はこれらの混合物である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程(a)の反応用の前記反応ゾーンには、少なくとも1つの反応器がある、請求項1~1
0のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程(c)の分離工程後に、以下のさらなる工程:
d)工程a)で形成されたエステルを第2アルコールとエステル交換する工程であって、ここで、前記第2アルコールは、工程a)で用いられるアルコールとは異なり、等モル量又は過剰量で用いられ、第2反応ゾーンにおいて、少なくとも前記第2アルコールとのエステル、分離された第1アルコール及び未反応の前記第2アルコールを含む第2生成混合物を得る工程;
e)熱分離、抽出、結晶化若しくは膜分離から選択される1若しくはそれ以上の分離工程、又は熱分離及び/若しくは膜分離により、前記分離された第1アルコールを工程a)の第1反応ゾーンへ再循環し、及び前記未反応の第2アルコールを前記第2反応ゾーンへ再循環して、前記第2アルコールと共に形成されたエステルを、残存する第2生成混合物又は前記分離された第1アルコールから分離する工程
を含む、請求項1~1
1のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程e)で用いられる前記第2アルコールの沸点は、前記第1アルコールの沸点よりも高い、請求項1
2に記載の方法。
【請求項14】
前記分離された第1アルコールの部分が、すでに前記第2反応ゾーンから送出されて、第1反応ゾーンに再循環される、請求項1
2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの多重結合、好ましくは少なくとも1つのオレフィン性二重結合があるC2~C16炭化水素のアルコキシカルボニル化によるエステルの製造方法であって、用いられる均一系触媒系が、膜分離により生成混合物から分離され、反応ゾーンに再循環される方法に関する。本発明の展開では、このようにして形成されたエステルは、エステル交換反応によって他のエステルに変換される。
【0002】
アルコキシカルボニル化は、少なくとも1つの多重結合、好ましくは少なくとも1つのオレフィン性二重結合がある炭化水素と、一酸化炭素及びアルコールとの反応であって、対応するエステルを生成する。これは、通常、金属-配位子複合体を触媒として用いて行われ、反応混合物中の均一溶液中に存在し、したがって生成混合物中にも存在する。生成混合物から所望のエステルを単離しうるには、最初に生成混合物から少なくとも均一に溶解された触媒の大部分を除去することが有利である。一方、触媒のコストは比較的高く、経済的な観点からも回収されるべきである。
【0003】
均一に溶解された触媒を反応混合物の残存物から分離する様々な方法が公知である。特許文献1は、一例として、分子量1kDa以上の分子に対して不透過性の膜を用いて、アルコキシカルボニル化後に均一に溶解された触媒を分離し、その結果、当該触媒は保持され、保持液中で濃縮される方法を開示する。特許文献1によれば、ポリイミド又はポリジメチルシロキサンに基づく膜材料が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/107902号
【文献】欧州特許出願公開第1854778号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される材料は、しばしば、助触媒として、通常、触媒系の一部を形成し、特に酸に対して長期安定性が十分でないという欠点があり、複数の負荷がかかると、不安定になりうる。さらに、当該膜材料は、用いられる炭化水素又は溶媒に対して保持されるかが明確でなく、かつ、アルコキシカルボニル化における反応体、例えば、用いられるアルコールであってよい。当該アルコールも炭化水素も保持液中で濃縮されない。つまり、生成物から溶媒/反応体を分離するには、その後に蒸留工程等の、より精巧な下流の後処理及び/又は精製工程が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明の目的は、比較的耐用期間が長い酸安定性である膜材料を用いて均一系触媒を分離するアルコキシカルボニル化プロセスを提供することにあった。さらに、当該目的は、生成物が膜分離中に優先的に通過され、用いられた反応物、特にアルコールの少なくとも部分が少なくとも部分的に保持されるアルコキシカルボニル化プロセスを提供することであった。
【0007】
本発明の目的は、請求項1記載の方法により達成された。好ましい実施形態は、従属クレームで特定される。
【0008】
本発明のエステルの製造方法は、C2~C16炭化水素へのカルボニル化に関し、以下の工程:
a)少なくとも1つのオレフィン性二重結合があるC2~C16炭化水素を、一酸化炭素及び1~50個の炭素原子があるモノ-若しくはポリオール(2又はそれ以上のOH基)であるアルコール、又は2若しくはそれ以上のモノ-若しくはポリオールの混合物と、ここで、モノオールの場合、前記C2~C16炭化水素(アルコール:C2~C16炭化水素)に対して2~20のモル比で用いられ、又はポリオールの場合、前記炭化水素(炭化水素:ポリオール)に対して2~20のモル比で用いられ、元素周期表第8~10族の少なくとも1つの金属又はその化合物、リン含有配位子及び酸を含む、均一系触媒系の存在下で、反応させて(カルボニル化)、反応ゾーン中で反応により生じる、少なくともエステル、均一系触媒系、低沸点物質、高沸点物質及び未反応アルコールを含む、液体生成混合物を得る工程;
b)前記均一系触媒系を前記液体生成混合物から分離する膜分離を行う工程であって、それにより均一系触媒系及び/又はさらなる未反応の炭化水素及び/又は未反応のアルコール、又は未反応のアルコールが、保持液中に濃縮され、工程a)で形成されたエステルが、浸透液中で濃縮され、用いられる膜材料は、酸安定性、すなわち、触媒系の酸の存在下で少なくとも300時間安定であり、少なくとも1つの分離活性層があるOSN(有機溶媒ナノ濾過)膜材料であり、かつ、前記保持液が前記反応ゾーンに再循環される工程;
c)熱分離、抽出、結晶化若しくは膜分離から選択される1若しくはそれ以上の分離工程、又は1若しくはそれ以上の蒸留工程により、浸透液を精製する工程であって、工程a)で形成されたエステルを分離し、少なくとも1つのオレフィン性二重結合及び/又は未反応のアルコールがある未反応のC2~C16炭化水素を分離し、前記少なくとも1つのオレフィン性二重結合及び/又は未反応のアルコールがある未反応のC2~C16炭化水素を工程a)の反応ゾーンに再循環する工程;を含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
工程a)で用いられる炭化水素には、少なくとも1つの多重結合があるべきである。好ましくは、少なくとも1つのオレフィン性二重結合がある炭化水素であり、1つのオレフィン性二重結合がある炭化水素は、特に好ましい。原則として、少なくとも1つの多重結合、好ましくは少なくとも1つのオレフィン性二重結合がある化合物中の炭素原子の数は制限されない。しかしながら、重要なのは、少なくとも1つの多重結合、好ましくは少なくとも1つのオレフィン性二重結合があるC2~C16炭化水素のカルボニル化である。本発明の好ましい実施形態では、好ましくは、少なくとも1つのオレフィン性二重結合があるC3~C12炭化水素を用いうる。これには、特に、2~16個の炭素原子、好ましくは3~12個の炭素原子がある、n-アルケン、イソアルケン、シクロアルケン及び芳香族アルケンがあげられる。
【0010】
上記炭化水素には、少なくとも1つのオレフィン性二重結合、及び1又はそれ以上のさらなる官能基が含まれてよい。適当な官能基の例としては、カルボキシル、チオカルボキシル、スルホ、スルフィニル、カルボン酸無水物、イミド、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、カルバモイル、スルファモイル、シアノ、カルボニル、カルボノチオイル、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アミノ、エーテル、チオエーテル、アリール、ヘテロアリール又はシリル基及び/又はハロゲン置換基があげられる。
【0011】
本発明の方法の工程a)で用いられる、特に好ましい炭化水素は、1つのオレフィン性二重結合、特に2~20個の炭素原子、好ましくは3~16個の炭素原子、より好ましくは3~12個の炭素原子があるn-アルケン及びイソアルケンのみである。用いられる炭化水素は、好ましくは非置換である。
【0012】
オレフィン性二重結合がある、用いられる上記炭化水素は、工程a)で一酸化炭素(CO)及びアルコールと反応して対応するエステルを形成する。一酸化炭素は、直接、供給混合物として、又は合成ガス、水ガス、発生ガス及び他の一酸化炭素含有ガスから選択される一酸化炭素含有ガスを添加することにより供給されうる。一酸化炭素含有ガスは、当業者に公知の方法でその成分に分離し、一酸化炭素を反応ゾーンに供給して一酸化炭素を提供してもよい。一酸化炭素は、完全に分離することはほとんど不可能であるため、一定の割合の水素又は他の気体を含んでよい。
【0013】
工程a)で用いられるアルコールは、1~50個の炭素原子、好ましくは1~15個の炭素原子、より好ましくは1~10個の炭素原子があるモノオール若しくはポリオール(2又はそれ以上のOH基)、又は2又はそれ以上のモノオール及び/若しくはポリオールの混合物である。好ましい態様では、ポリオールは、上記数の炭素原子がある、ジオール、トリオール又はテトラオールであり、好ましくは、ジオール又はトリオールである。工程a)における反応に適するアルコールは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール(tert-Butanol)、3-ペンタノール、2-プロピルヘプタノール、シクロヘキサノール、フェノール又はそれらの混合物、好ましくはエタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、3-ペンタノール、2-プロピルヘプタノールである。
【0014】
工程a)で用いられるアルコールがモノオールの場合、用いられる炭化水素(モノオール:炭化水素)に対するモル比は2~20、好ましくは3~10、より好ましくは4~6である。すなわち、添加されるモノオールのモル数は、用いられる炭化水素に対して過剰である。つまり、当該アルコールは、カルボニル化用反応物及び溶媒のどちらの機能も有する。工程a)で用いられるアルコールがポリオールの場合、用いられる炭化水素(炭化水素:ポリオール)に対するモル比は2~20、好ましくは3~10、より好ましくは4~8である。添加される当該ポリオールのモル数は、用いられる炭化水素に対して過少(モル不足)である。
【0015】
工程a)の本発明の反応は、元素周期表(PSE)の第8~10族の少なくとも1つの金属、又はその化合物、リン含有配位子、及び酸を助触媒として含む、均一系触媒系の存在下で行われる。
【0016】
PTE第8~10族の金属は、好ましくはパラジウムである。パラジウムは、好ましくは、リン含有配位子によって配位されたパラジウム化合物として、前駆体化合物の形態で用いられる。当該前駆体化合物として用いられうるパラジウム化合物の例としては、塩化パラジウム[PdCl2]、アセチルアセトナトパラジウム(II)[Pd(acac)2]、パラジウム(II)-酢酸パラジウム[Pd(OAc)2]、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)パラジウム(II)[Pd(cod)2Cl2]、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)[Pd(dba)2]、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)[Pd2(dba)3]、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム(II)[Pd(CH3CN)2Cl2]、二塩化(シンナミル)パラジウム[Pd(cinnamyl)Cl2]があげられる。好ましくは、[Pd(acac)2]又は[Pd(OAc)2]の化合物が用いられる。工程a)のパラジウム金属の濃度は、用いる炭化水素のモル数に基づき、好ましくは0.01~0.6モル%、好ましくは0.03~0.3モル%、より好ましくは0.04~0.2モル%である。
【0017】
本発明の触媒系の適当なリン含有配位子は、好ましくは二座構造がある。本発明の触媒系に好ましいリン含有配位子は、例えば、欧州特許出願公開第3121184号明細書に開示されているようなベンゼン系ジホスフィン化合物である。当該配位子は、予備反応でパラジウムと組み合わされることができ、パラジウム-配位子複合体が反応ゾーンに供給されるか、又はその場で反応に添加され、そこでパラジウムと組み合わされる。工程a)に記載の反応による、配位子対金属のモル比は、1:1~10:1、好ましくは2:1~6:1、より好ましくは3:1~5:1でありうる。
【0018】
均一系触媒系は、酸、特にブレンステッド(Bronsted)酸又はルイス(Lewis)酸をさらに含む。ルイス酸は、特に、LAU値が25を超え、好ましくはLAU値が29であるルイス酸でありうる。LAU値は、ルイス酸(JR Gaffen et al.,Chem,Vol.5,No.6,p.1567-1583)の強度を測定する新規方法である。ルイス酸としては、好ましくは、アルミニウムトリフラート、塩化アルミニウム、水素化アルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、又はそれらの混合物が用いられる。上記ルイス酸のうち、好ましくは、アルミニウムトリフラートが用いられる。当該ルイス酸は、ルイス酸対配位子の好ましくは1:1~20:1、好ましくは2:1~15:1、より好ましくは5:1~10:1のモル比で添加される。
【0019】
用いられるブレンステッド酸は、好ましくは、酸強度pKa≦5、より好ましくは酸強度pKa≦3である。上記酸強度pKaは、標準条件下(25℃、1.01325バール)で測定されたpKaを意味する。ポリプロトン酸による、本発明の文脈における酸強度pKaは、第1プロトリシス工程(Protolyseschritt)のpKaに関する。ブレンステッド酸は、ブレンステッド酸対配位子の好ましくは1:1~15:1、好ましくは2:1~10:1、より好ましくは3:1~5:1のモル比で添加される。
【0020】
用いられるブレンステッド酸としては、特に、過塩素酸、硫酸、リン酸、メチルホスホン酸又はスルホン酸があげられうる。適当なスルホン酸は、例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、tert-ブタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸(PTSA)、2-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルホン酸及びドデシルスルホン酸である。特に好ましい酸は、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸があげられる。酸は好ましくは硫酸である。
【0021】
工程a)で用いられる、オレフィン性二重結合がある炭化水素の反応、すなわちカルボニル化は、好ましくは25~140℃の温度、より好ましくは80~130℃の温度、特に好ましくは90~120℃の温度で行われる。工程a)における圧力は、5~60バール、好ましくは10~40バール、より好ましくは15~30バールでありえる。
【0022】
工程a)の上記反応は、適当な反応ゾーンで行われる。反応用反応ゾーンは、少なくとも1つの反応器を含むが、2又はそれ以上の反応器を含んでよい。少なくとも1つの反応器は、特に、撹拌タンク反応器、ループ反応器、ジェットループ反応器、バブルカラム反応器、又はそれらの組み合わせからなる群から選択されうる。複数の反応器が用いられる場合、反応器は同一であっても、異なってもよい。
【0023】
工程a)の上記反応により、反応により生じる少なくともエステル、均一系触媒系、未反応のアルコールA、及びおそらくは低沸点の沸点物質等のさらなる成分、例えばエーテル等の低沸点の副生成物、及び/又は高沸点の沸点物質及び/又は未反応の炭化水素を含む液体生成混合物がもたらされる。次いで、生成混合物を、工程b)におけるその後の膜分離に供給する。工程a)の反応では、少なくとも窒素、水素、アルカン及び低沸点副生成物(例えば、上記エーテル)等の非反応性不純物からなるオフガスを反応ゾーンから除去してもよい。不純物及び低沸点副生成物が蓄積すると、経時的に反応ガス(CO)の分圧が低下することで反応が遅延する。
【0024】
次の工程b)では、生成混合物を膜分離に供給し、均一系触媒系を生成混合物から分離する。本発明の膜材料は、均一系触媒系、及び未反応の炭化水素及び/又は未反応のアルコールの保持液中で濃縮をおこす一方で、工程a)で形成されたエステルは、浸透液中で濃縮される。次いで、形成されたエステルを含有する透過液を、次の工程c)に供給する。次いで、濃縮された均一系触媒系を含む保持液を反応ゾーンに再循環させる。当該保持液を再利用すると、不活性アルカン、低沸点副生成物(例えば、エーテル)、触媒系の潜在的な分解生成物、又は用いられる炭化水素流によって導入される他の不純物、例えば、痕跡量の水又は窒素を含むパージ流をさらに除去して、反応ゾーン内への蓄積を回避しうる。保持液を再利用することで、保持液中で膜分離時に得られた触媒系を確実に反応に戻しうる。これにより、堆積又は不活性化による触媒損失が最小限となり、プロセスがよりコスト効率的になる。通常、触媒の損失は完全に回避できないが、上記の損失低減効果としては、新規触媒で置換すべき触媒がよりすくなくてすむ。
【0025】
膜分離は、特定物質は透過するが、他物質は透過しない膜材料の半透過性に基づく。本発明の方法の工程b)で用いられる膜材料は、OSN膜材料(OSN=有機溶媒ナノろ過)である。当該膜材料は、好ましくは、少なくとも比較的薄い分離活性層(活性分離層)と、場合によっては、分離活性層がその上に配置されるより厚い支持体とからなる。本発明の膜材料は、好ましくは、少なくとも分離活性層及び支持体からなる。分離活性層と支持体との間には、1又はそれ以上の中間層が存在しうる。好ましい実施形態では、膜材料は、分離活性層及び支持体のみからなる。少なくとも分離活性層と支持体からなる膜材料は、液体生成混合物中に共触媒として存在する酸によって膜材料が損傷されないように、酸安定性であるべきである。本発明に関する用語「酸安定性」は、膜材料が、触媒系中の酸の存在下で少なくとも300時間破壊されず、特にpKa≦5、より好ましくはpKa≦3のブレンステッド酸、又はLAU値が25を超え、好ましくはLAU値が29のルイス酸で安定であり、その結果、分離作用が実質的におこらないことをいう。
【0026】
支持体は、特に、分離活性層を通過した透過液に対して透過性である多孔質構造である。当該支持体は、安定した機能を有し、分離活性層の支持体として機能する。当該支持体は、原則として、いかなる適当な多孔質材料からなってよい。しかし、当該物質が酸及び塩基に対して安定であるという前提条件がある。当該支持体はまた、分離活性層と同じ材料からなってよい。
【0027】
本発明の分離活性層は、好ましくは、PAEK(ポリアリールエーテルケトン)ポリマーからなる。PAEKには、反復単位内のアリール基がエーテル官能性及びケトン官能性を介して交互に連結されるという特定の特徴がある。本発明の好ましい分離活性層は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)からなる。分離活性層としては、好ましくは、スルホン化度が20%未満であるPEEKポリマー、特に好ましくは、スルホン化度が10%未満であるPEEKポリマーが用いられる。対応するPEEKポリマー及びその調製は、国際公開第2015/110843号又はJ. Da Silva Burgal et al.; Journal of Membrane Science,vol.479(2015)pp.105-116に記載される。驚くべきことに、当該材料は、特に、均一系触媒系の助触媒としての酸に対して特に安定であることが見いだされた。さらに、本発明のPEEK材料の特定の特徴は、分離活性層として用いられると、生成されたエステルが優先して通過でき、一方、反応物として用いられるアルコールでさえ少なくとも部分的に保持され、それにより、保持液」中に蓄積することである。これにより、残存液体生成混合物のその後の処理は、公知の膜材料と比較して除去されるべきアルコールの数が少ないため、より経済的で、かつ長時間行いうる。
【0028】
工程b)の膜分離は、好ましくは25~100℃、より好ましくは30~80℃、特に好ましくは40~70℃の温度で行う。生成混合物を冷却して、液体生成混合物を膜分離に好ましい優勢温度にしうる。冷却は、冷却剤を用いる能動的冷却及び、熱交換器を介して達成でき、それにより、本発明のプロセスの他の流れが加熱される。場合によっては、工程a)の反応ゾーンと工程b)の膜分離との間にはさらに、脱ガス工程があり、一酸化炭素等の揮発性化合物、及び/又はオフガスを介して除去されない残存不活性不純物、例えば窒素、水素、アルカン、及び低沸点副生成物(例えば、上記エーテル)が、液体生成混合物から事前に除去される。当該生成混合物は、まず一酸化炭素等の溶存成分の分圧以下に減圧され、脱ガスされ、次いで、再度圧力を上昇させて、膜分離に提供されうる。
【0029】
膜貫通圧(TMP)は、工程b)で10~60バール、好ましくは15~55バール、より好ましくは20~50バール(相対的)であってよい。ここで、透過側圧力は、大気圧以上で15バールまで、好ましくは3~7バールまでであってよく、それにより、TMPに基づいて保持体側圧力が得られる。好ましい実施形態では、圧力比及び特に透過側圧力に注意すべきであるが、それは、圧力は、用いられる炭化水素、用いられるアルコール、及び存在する温度に応じて設定され、膜通過後の蒸発を避けるため、全体の操作が不安定になりうるからである。同様のことは、基本的には、一酸化炭素等の溶存成分にも適用され、場合によっては、上記脱気工程により除去されうる。
【0030】
膜分離プロセスの経済性は、用いられる膜材料の耐用年数に実質的に決定されうる。それゆえ、膜の耐用年数/安定性はまた、適当な膜材料を選択する基準となりうる。耐用年数は最低半年を想定する。これは、必要な膜表面積がプロセスの全容量に伴い増加し、製品が透過液中で濃縮される本プロセス等のプロセスに特に関連しうる。
【0031】
これにより、特に膜の耐用年数/安定性に関する3つの基準、すなわち、膜の技術的完全性、膜保持(膜の分離性能に対応、下記定義を参照)、及び膜の透過性(下記定義を参照)が得られる。膜の溶解、欠陥や孔の形成、膜表面積の著しい収縮や拡張等の技術的完全性に関する欠陥は、膜保持性(保持率の低下)や透過性(透過性の上昇)に反映されえ、それにより、確実に、膜がもはや特定の圧力まで加圧されず、及び/又は膜貫通圧が設定できなくなる。
【0032】
膜技術における膜の透過性又は分離性能の特性評価のための、物質混合物の特定成分に関する膜の保持率Rは、次式(1)により定義される:
R=1-W(I)P/W(I)R (1)
ここで、W(I)Pは透過液中の関連成分の質量分率であり、W(I)Rは膜保持液中の関連成分の質量分率である。したがって、保持率は0~1の値でよく、したがって、好ましくは%で記載される。0%の保持率は、当該成分が膜を介して阻害なく透過することを意味し、その結果、保持液中の成分の質量分率は、透過液中と同じである。逆に、100%の保持率は、関連する成分が膜により完全に保持されることを意味するが、これは工業的にはほとんど不可能である。
【0033】
保持率に加えて、膜のいわゆる透過性はまた、次式(2)により、当該特性の判定に決定的である:
P=m’/(A*TMP) (2)
ここで、m’は透過液の質量流速、Aは膜表面積、TMPは膜貫通圧を表す。透過率は通常、単位kg/(h*m2*bar)で表される。このように、透過性は膜表面積に対して正規化された特性であり、TMPが確立される。
【0034】
膜の安定性の特徴付けに関して、透過性PRelにおける相対的な変化は、以下の式(3)により定義される:
PRel=Pt=x/Pt=0 (3)
ここでPt=xは時刻t=xにおける透過率を表し、Pt=0は時刻t=0における初期透過率を表す(t=x>t=yという条件であれば、基準時刻は異なってよい)。
【0035】
膜はさらに、特定の成分に対する選択性を介して特徴付けしうる。当該選択性は、膜の前後の特定の成分iの濃度比率を示す。当該選択性は、以下の式(4)により計算される:
Si=CP_i/ CF_i (4)
ここで、CF_iは膜への供給物中の関連成分iの濃度、この場合は液体生成混合物を示し、CP_iは透過液中の関連成分iの濃度を示す。
【0036】
本発明の好ましい実施形態では、工程b)の膜分離工程で300時間用いられた後の本発明の膜材料は、以下の2つの特性を呈する:
●均一系触媒系の膜保持率Rは、少なくとも75%、好ましくは85%、より好ましくは90%であり、その劣化は、30パーセントポイント以下、好ましくは20パーセントポイント以下、より好ましくは10パーセントポイント以下である;
●相対透過性PRelは、30%~300%、好ましくは50%~150%、より好ましくは75%~125%である。
【0037】
したがって、膜はその技術的完全性を失わないのがよい。技術的完全性の喪失の例としては、膜の溶解、膜表面積の欠陥/孔の形成及び/又は顕著な収縮若しくは著しい拡張があげられる。本発明の膜材料は、特に、0.1質量%~5質量%の量の酸の存在に対して安定であるのがよく、上記技術的完全性を損なわず、かつ上記2つの特性を呈示するものがよい。』
【0038】
膜分離からの透過液(工程b))は、次の工程c)で、熱分離、例えば、蒸留、抽出、結晶化、又はさらなる膜分離からなる群から選択される分離プロセスに付され、工程a)で形成されたエステルが残存透過液から分離される。当該分離プロセスは、好ましくは蒸留である。適当なプロセス条件は、当業者に公知である。
【0039】
工程c)で用いられる分離工程、特に蒸留工程では、透過液から生成されたエステルだけでなく、工程a)の反応で得られうる高沸点物質、例えば高沸点副生成物からも分離される可能性がある。当該高沸点物質を除去するため、本発明による方法は、精製工程、すなわち、熱分離、抽出、結晶化又は膜分離により透過液中に含まれる高沸点物質からエステルを分離することにより、形成されたエステルを精製する工程を含んでよい。好ましくは熱分離プロセス、より好ましくはさらなる蒸留により、形成されたエステルが精製される。プロセス条件は当業者に公知である。
【0040】
好ましい態様では、少なくとも未反応のアルコール及び/又は未反応の炭化水素を含む浸透液は、工程a)で形成されたエステルから工程c)で大部分が遊離され、好ましい実施形態では、再循環成分分離に供される。当該分離では、熱分離、抽出、結晶化又は膜分離により、未反応アルコール及び/又は未反応炭化水素を、残存透過液、特にその中に含まれる低沸点物質を分離する。未反応のアルコール及び/又は未反応の炭化水素は、好ましくは熱分離プロセス、より好ましくはさらなる蒸留により、残存する透過液から分離される。プロセス条件は当業者に公知である。ここで得られた未反応のアルコール及び/又は未反応の炭化水素は、その後反応ゾーンに再循環されうる。
【0041】
本発明の方法により形成されたエステルは、2つのさらなる方法工程d)及びe)でエステル交換されうる。当該エステル交換反応では、工程a)で用いた第1アルコールに相当するエステルの部分を、第2アルコールに置換する。当該エステル交換反応は、上記工程c)後、場合によっては、精製工程後に行ってよく、以下の工程:
d)工程a)で形成されたエステルを第2アルコールでエステル交換する工程であり、ここで、当該第2アルコールは工程a)で用いられたアルコールとは異なり、第2反応ゾーンにおいて、少なくとも第2アルコールとのエステル、分離された第1アルコール及び未反応の第2アルコールを含む、第2液体生成混合物を得る工程;
e)熱分離、抽出、結晶化又は膜分離、好ましくは熱分離及び/又は膜分離により、より好ましくは1以上の蒸留工程により選択される1以上の分離工程、及び分離された第1アルコールの工程a)の第1反応ゾーンへの再循環及び未反応の第2アルコールの第2反応ゾーンへの再循環により、第2生成混合物の残存物、特に分離された第1アルコールから、エステルを分離する工程、を含む。
【0042】
工程d)は、実際にエステル交換反応が行われる工程である。すなわち、工程a)で実際に結合した第1アルコールを分離して、第2アルコールを結合させる。当該工程において、工程a)で生成したエステルを、第1アルコールとは異なる第2アルコールと反応ゾーン中で反応させる。特に好ましい実施形態では、エステル交換反応に用いられる第2アルコールは、工程a)で用いられた第1アルコールよりも、沸点が高い。好ましくは、第2アルコールをエステル交換反応において過剰に添加して、エステル交換反応を促進する。
【0043】
工程d)でエステル交換反応に用いられる第2アルコールは、好ましくは、炭素原子が1~50個であるモノオール若しくはポリオール(2又はそれ以上のOH基)、より好ましくは、炭素原子が1~15個であるモノオール、特に好ましくは、炭素原子が1~10個である、2又はそれ以上のモノオール及び/若しくはポリオールの混合物であるが、ただし、工程a)で用いられる第1アルコールと第2アルコールは同一でない。好ましい実施形態では、ポリオールは、ジオール、トリオール又はテトラオール、好ましくは、炭素原子が上記数であるジオール又はトリオールである。工程a)の反応に適するアルコールは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、3-ペンタノール、2-プロピルヘプタノール、シクロヘキサノール、フェノール、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール又はそれらの混合物、好ましくはエタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、3-ペンタノール、2-プロピルヘプタノールである。
【0044】
工程d)におけるエステル交換反応は、好ましくは、酸又は塩基触媒下で行われる。酸としては、ブレンステッド酸又はルイス酸が用いられうる。
【0045】
工程d)におけるエステル交換反応に適するブレンステッド酸は、過塩素酸、硫酸、リン酸、メチルホスホン酸又はスルホン酸、例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、tert-ブタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸(pTSA)、2-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、2,4,6-トリメチレンベンゼンスルホン酸又はドデシルスルホン酸である。用いられるブレンステッド酸は、好ましくは、硫酸又はスルホン酸、より好ましくは、硫酸である。金属又はその化合物としては、例えば、スズ粉末、酸化スズ(II)、シュウ酸スズ(II)、チタン酸エステル、例えば、テトライソプロピルオルトチタン酸塩又はテトラブチルオルトチタン酸塩、及びジルコニウムエステル、例えば、テトラブチルジルコン酸塩、ナトリウムメトキシド並びにカリウムメトキシドを用いてよい。
【0046】
工程d)におけるエステル交換反応に適するルイス酸は、チタン(IV)イソプロポキシド、Bu2SnO、BuSn(O)OH又はアルミニウムトリフラートである。好ましくは、ルイス酸としてチタン(IV)イソプロポキシド及びアルミニウムトリフラートを用いる。
【0047】
工程d)におけるエステル交換反応に適した塩基は、アルカリ金属、アルカリアルコキシド、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアセテート又は酸化物、又はアルカリ金属又はアルカリ土類金属アルコラート、例えばNaEtOH又はMgEtOH、アルカリ金属炭酸塩、例えばK2CO3又はCs2CO3である。しかしながら、塩基性イオン交換体又はNaOHもまた用いられうる。好ましくは、NaEtOH又はMgEtOH等のNa又はMgアルコラートが用いられる。
【0048】
酸触媒によるエステル交換反応は、好ましくは60~220℃、より好ましくは100~210℃、特に好ましくは130~200℃で行われる。好ましくは、当該反応の温度は、分離される第1アルコールの沸点より高く、それにより、分離される第1アルコールを反応混合物から直接分離し、平衡の生成物側へのシフトが促進される。第2アルコールは、好ましくは、工程a)で形成されたエステルに、好ましくは、有意に過剰に、例えば、30:1で添加される。
【0049】
塩基触媒によるエステル交換反応の温度は、好ましくは、20~100℃の温度である。
【0050】
上記エステル交換反応により、少なくとも第2アルコールとのエステル、分離した第1アルコール及び未反応の第2アルコールを含む第2液体生成混合物が生成する。
【0051】
工程d)で形成された第2エステルを、次の工程e)で残存する第2液体生成混合物から分離する。当該分離は、熱分離、好ましくは蒸留、及び/又は膜分離、特に上記膜材料を用いて行う。適当なプロセス条件は、当業者に公知である。
【0052】
工程e)で用いられる分離工程、特に蒸留工程で用いられる分離工程では、生成したエステルだけでなく、工程d)で発生しうる高沸点副生成物等の、生成する可能性のある高沸点物質も、他の2番目の生成混合物から分離される可能性がある。本発明による方法は、精製工程、すなわち、熱分離、抽出、結晶化又は膜分離によって存在する高沸点物質からエステルを分離して、当該高沸点物質を除去し、工程c)で形成されたエステルを精製する工程を含んでよい。好ましくは、熱分離プロセス、より好ましくはさらなる蒸留が、生成されるエステルを精製するのに用いられる。プロセス条件は当業者に公知である。
【0053】
本発明により得られたエステルは、さらなる生成物を生成する反応体として機能しうる。得られたエステルの重要な反応は、アルコール形成の水素化、カルボン酸又はカルボン酸塩を各々生成するための加水分解又はけん化、あるいはアミド形成用アミノリシスである。
【実施例1】
【0054】
METセル(バッチモード)
試験は、Evonik MET製METセルモデルの行き止まりバッチ濾過セル中で、本発明に関する、表1-3にあげた市販の膜及びPEEK-アセトン膜を用いて実施した。本発明に関するPEEK-アセトン膜は、J.da Silva Burgal et al.;Journal of Membrane Science,vol.479(2015),pp.105-116(WO2015/110843も参照)の記載に従って作製した。
【0055】
試験は、活性膜表面積56.7cm2、膜圧20バール、分離温度25℃(PEEKは50℃)、撹拌速度250rpmの条件下で実施した。
【0056】
保持率の測定には、マーカーとして4,4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ジピリジルを含有量0.01質量%で試験混合物に添加した。特定のマーカーは、メトキシカルボニル化において通常用いられる配位子(例えば、欧州特許出願公開第3121186号明細書)を示し、かつ低濃度での触媒量に対応する構造及び分子量を有するマーカーとして選択された。さらに、酸として0.5質量%のトリフラートアルミニウム(混合物の総質量に基づく)を添加した。
【0057】
METセルに上記混合物200mlを充填し、動作温度(=分離温度)にした。次に、窒素で20バールの作動圧力に加圧した。計100mlを透過液としてMETセルから取り出し、透過液の質量を連続的に記録した。試験終了時、すなわち、100mlの透過液がMETセルから回収された後、残存物及び透過液のサンプルをGC及びHPLC分析のために採取した。報告された透過性は、回収された100mlの透過液の平均値である(結果:表1)。
【0058】
C18カラム上のHPLC-UV(結果:表2参照)及びGC-FID(結果:表3参照)によるアルコール選択性により保持率を測定した。当該方法は、当業者に公知である。
【0059】
実施例1
種々の膜材料を、43質量%のメタノールと57質量%のオクタン酸メチルからなる混合物を用いて調べたが、これは4:1のモル比に相当する。上記のように、混合物は、マーカー(4,4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ジピリジルの0.01質量%)及び酸(アルミニウムトリフラートの0.5質量%)をさらに含有した。
表1:透過性の比較
【0060】
【表1】
*重大な欠陥のため、データポイントなし
**データポイントが利用できず
表2:膜保持率の比較(マーカー用)
【0061】
【表2】
*重大な欠陥のため、データポイントなし
**データポイントが利用できず
***22時間後に測定
表3:アルコール選択性の比較(メタノールの場合)
【0062】
【表3】
*重大な欠陥のため、データポイントなし
**データポイントが利用できず
表によれば、デュラミーム(DuraMem)300膜とピュラミーム(PuraMeM)S膜の比較例が、場合により、経時的に透過性が極端に高まることが示される。ピュラミームSでは、膜材料の技術的完全性が経時的に喪失されたことが膜保持率から立証された。対照的に、デュラミーム300の保持率値は、比較的一定であったが、300時間後には、透過性が許容できない程度に高まり、従って、メタノールの保持に対してもはや極めて選択的ではなかった。GMT onNF-2膜は300時間保持されず、酸安定性が不十分な結果、崩壊した。ソルセフ(Solsep)NF 010206 S膜は、わずか70時間後に透過性が許容できない程度に高まり、メタノールに対する特定の選択性(~1)を呈しなかった。ソルセフNF 030306 F膜は、メタノールに対する選択性の値>1を示したものの、メタノールに対する選択性は示さなかった。当該膜では、透過性が許容できない程度に高まったことも観察された。
【0063】
対照的に、本発明のPEEK-アセトン膜は、300時間後でも良好な透過性を示し、わずかに増加すらし、メタノールに対する保持率及び選択性(<1)も良好であった。すなわち、メタノールはまた、保持液中でも濃縮される。
【実施例2】
【0064】
様々なアルコールとエステルの混合物を用いてPEEK膜を調べた。混合物には、実施例1に記載したマーカー(0.01質量%の4,4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ジピリジル)及び酸(0.5質量%のアルミニウムトリフラート)がさらに含まれた。実施例1と同様、エステル及びアルコールを、エステル基あたり約4個のアルコール基が常に存在するようなモル比で用いて、すなわち、モル比は、官能基の数により各々調整された。エステルであるプロピオン酸メチル、プロピオン酸イソプロピル、テトラデカン酸メチル、酪酸オクチル、オクチルオクタン酸、イソ吉草酸オクチル、プロピオン酸ベンジル、ジエステルであるアジピン酸ジメチル、メタノール、イソプロパノール、オクタノール、ベンジルアルコール、2-エチルヘキサノールを用いて試験を行った。選択されたエステルは、鎖長が異なるオレフィンとオレフィン性二重結合の数が異なっていた。さらに、エステルは潜在的アルコール(C1~C8)に関して変化した。試験は、56.7cm2の活性膜表面積、40バールの膜貫通圧、50℃の分離温度、250rpmの撹拌速度の条件下で実施した。
表4:PEEK膜を用いたアルコール選択性の比較
【0065】
【表4】
**データポイントなし
異なるアルコールと異なるエステルを用いる場合でも、用いたアルコールに対して良好な選択性が達成できることが見出された。
表5:PEEK膜を用いた膜保持(マーカー用)の比較
【0066】
【表5】
*データポイントなし
**データポイントが利用できず
同様に、用いたすべてのアルコール-エステル混合物のマーカーの膜保持率は、経時的に良好であったことが判明した。
表6:PEEK膜を用いた透過性の比較
【0067】
【表6】
** データポイントがない
透過性が非常に低いものは、例えば、一般に、炭素原子の鎖が比較的長いか、又は、分子の大きさによるものである。透過性が低いにもかかわらず、保持率(マーカー用)及び選択性(メタノール用)が良好であった。さらに、表から、透過率は300時間を超えると実質的に上昇しないことが分かる。
【実施例3】
【0068】
3連(連続モード)試験
試験は、閉ループ中の透過液が完全に再循環される連続運転試験システムで実施した。当該システムは、本質的に、3つの平坦チャネル膜セルがあり、60バールまで加圧可能な高圧貫流ループを備える。ループは、機械的に混合され、窒素で覆われた供給溶液で充填された容量が5Lであるリザーバから供給される。ダイヤフラムピストンポンプは、供給溶液を膜ループの作動圧力、つまり試験システムを高圧領域に導くために用いられる。テストシステムの高圧領域は、本質的に、循環ポンプによって操作される液体ループと、3つの平膜テストセルと、必要なセンサ(例えば、圧力測定、ループ内の貫流量の測定)から構成される。膜を通過する液体の流れは、透過時に膜モジュールから送出され、貯水槽に再循環される。透過液の量は、コリオリ測定原理に従って、3つの膜すべてについて連続的に記録される。高圧ループ内の循環は、遠心ポンプによって行い、必要な通過流が確実に膜を横切る。通過流量は、通常、膜の供給側と保持側の濃度がほぼ等しくなるように十分に高く設定される。また、高圧ポンプを介した高圧ループへの供給速度も、供給流量が透過液の体積流量を何倍も超えるように選択される。過剰な供給量(高圧ポンプへの供給流量から3つの膜の全透過量を差し引いた量)も同様にリザーバに再循環される。この再循環は、ナノろ過ステージの供給圧力を設定するにも用いられる機械的な供給圧力調整器によって行われる。ループは、サーモスタットによって加熱され、分離のために規定された温度は保証される。試験は、モジュール当たりの活性膜表面積84.5cm2、膜圧20バール、分離温度40℃の条件下で実施した。
【0069】
様々な膜材料を、43質量%のメタノール及び57質量%のオクタン酸メチルの混合物(モル比4:1)で試験した。保持率の測定には、マーカー4,4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ジピリジルを、上記実施例と同様、0.01質量%の含有量で試験混合物に添加した。さらに、所定の運転時間後、アルミニウムトリフラートの0.5質量%(混合物の総質量に基づく)を添加した。酸添加時間は、以下の表7~9で時間t=0時間(h)とする。規定のサンプリング時間で各々、透過流、飼料及び保持液の液体試料を収集した。
【0070】
透過性は上記のように測定した(表7の結果)。マーカーの保持率は、C18カラム上のUV検出器付きHPLC(260nm)によって測定し(表8の結果)、アルコール選択性はFID検出器付きGCによって測定した(表9の結果)。
表7:透過性の比較
【0071】
【表7】
*重大な欠陥のため、データポイントなし
表8:膜保持率の比較
【0072】
【表8】
*重大な欠陥のため、データポイントなし
表9:アルコール選択性の比較(メタノールの場合)
【0073】
【表9】
*重大な欠陥のため、データポイントなし
GMT onNF-2膜は300時間保持されず、酸安定性が不十分な結果として崩壊した。ソルセフ膜はすべて、わずか100時間後に透過性が許容できない程度に高まり、いずれの場合もメタノールに対する選択性は示さず、代わりにメタノールに対する選択性値>1が示された。これは、メタノールが優先的に膜を通過し、保持されないことを意味する。したがって、ソルセフ膜を用いて本発明の目的を達成することは不可能であった。対照的に、本発明のPEEK膜は、100時間後でも透過性は良好であり、透過性はわずかに増加さえし、メタノールに対する保持率及び選択性(<1)も良好であった。このように、メタノールは保持液中でも濃縮される。
【実施例4】
【0074】
ジイソブテン(DiB)の3,5,5-トリメチルヘキサン酸メチル(TMHエステル)への変換(触媒再循環DiBとしての膜分離)は、2つのC8異性体、2,4,4-トリメチルペント-1-エン及び2,4,4-トリメチルペント-2-エンからなる混合物であり、約80:20の比である。試験は、下記の設定で連続運転試験システムにて実施した。
【0075】
当該システムは、本質的に、Buechi社製200mlのガラス製オートクレーブ(10バールまで加圧可能)(=反応器)を備える。オートクレーブは、KnauerHPLCポンプを用いて、反応溶液を充填し、アルゴンで覆ったガラス容器から供給される。別のKnauerHPLCポンプを用いて、ガラス高圧滅菌器から別の高圧ループにポンプで送り、これは60バールまで加圧可能である。テストシステムの高圧ループは、本質的に、循環ポンプにより操作される液体ループ、及び平膜テストセル、並びに必要なセンサ(例えば、圧力測定、温度測定)を備える。高圧ループ内の循環は遠心ポンプによって行い、必要な通過流が確実に膜を横切るようにする。膜を通過する液体の流れは、透過液として膜モジュールから送出され、アルゴンブランケットガラスレシーバーに収集される。透過速度は、バランスによって連続的に記録される。過剰な供給量(保持量)はガラス高圧蒸気滅菌器で再利用される。この再循環は、ナノろ過ステージの供給圧力を設定するためにも用いられる機械的な供給圧力調整器によって行われる。ループはサーモスタットによって加熱されて、分離のために規定された温度が保証される。試験は、活性膜表面積84.5cm2、膜圧45バール、分離温度25℃の条件下で実施した。
【0076】
供給流の試料を高圧ループ(供給)、高圧ループ(保持)、及び透過液の試料を採取しうる。収率の分析のために、試料0.08g及びエチルベンゼン0.03g(内標準)を秤量し、アセトニトリル0.25gで希釈し、次の分析をGC-FIDで行った。配位子と金属の保持率は、透過液と保持液の試料の事前消化後にICP‐OESにより測定した。酸保持率の分析は19 F NMRで行った。
3つの方法すべてについての試料の調製及び分析は、当業者に公知である。
【0077】
用いた膜材料はPEEKであった。本発明に関するPEEK-アセトン膜は、J.da Silva Burgal et al.;Journal of Membrane Science,vol.479(2015),pp.105-116(WO2015/110843も参照)の記載に従って作製した。
【0078】
ガラス製オートクレーブの内容物を撹拌して、事実上理想的な混合を確実にした。ガラス製オートクレーブ内の圧力を機械的供給圧力調整器で10バールに調整した。ガラス製オートクレーブは、取り付けられた外部温度測定装置を有するオイルバスによって、所定の温度に保持される。
【0079】
ガラス製オートクレーブ及び高圧ループを、まず、56質量%のMeOH、40質量%のDiB、0.5質量%の1,2-ビス((tert-ブチル(ピリジン-2-イル)ホスファニル)メチル)ベンゼン(配位子)、3.4質量%のアルミニウムトリフラート(酸)及び0.1質量%の[Pd(acac)2](金属)からなる塩基反応混合物で充填し、10バールで、アルゴンで反応させ、作動させた。
【0080】
その後、ガラス高圧蒸気滅菌器を100℃の内部温度に加熱し、初期アルゴン流をCOに変えた(反応開始)。15時間にわたり、塩基反応混合物を循環させてポンプで送出し、システムを起動させた。15時間後、試料中のDiBの99%がTMHエステルに変換された。15時間後、循環モードを終了し、透過液を別々のガラス容器に回収し、新鮮な反応溶液(MeOHの60質量%及びDiBの40質量%)を計量した。表10に示す試験期間には、新しい透過液捕集器を用いた。105時間の試験期間中、新しい触媒、配位子、酸は添加しなかった。各試験期間について、上記の方法により、TMHエステルの透過性、収率及び触媒系の成分の保持を測定した。
表10 DiBのTMHエステルへの連続的変換
【0081】
【表10】
*各試験期間終了時の収量
**残存量は確認されず(システム起動)