(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】光学素子、光学機器、撮像装置および化合物
(51)【国際特許分類】
G02B 1/04 20060101AFI20250303BHJP
C08F 20/36 20060101ALI20250303BHJP
C08L 33/14 20060101ALI20250303BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20250303BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20250303BHJP
【FI】
G02B1/04
C08F20/36
C08L33/14
C08L33/06
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2020183651
(22)【出願日】2020-11-02
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】田上 慶
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-165355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/04
C08F 20/36
C08L 33/14
C08L 33/06
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物の重合体からなる硬化物を有する光学素子であって、
前記樹脂組成物が下記式(1)で示される化合物を含有することを特徴とする光学素子。
【化1】
(上記式(1)中、
X
1は、置換のフェニル基であり、前記置換のフェニル基は少なくとも1つのトリフルオロメチル基を有し、かつ、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~3のアルキレン基からなる群より選ばれる少なくとも1つで置換されていても良い。
X
2は、置換のフェニル基であり、
X
2
における前記置換のフェニル基は
X
1
における前記置換のフェニル基の同一の置換のフェニル基である。
Aは、置換または無置換のフェニル基、置換または無置換のビフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、前記置換のフェニル基及び前記置換のビフェニル基は、水素原子、トリフルオロメチル基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~3のアルキレン基からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する。
P
1、P
2およびP
3は各々、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基であり、a,bおよびcは0,1および2のいずれかであり、a+b+cは1,2および3のいずれかである。)
【請求項2】
前記硬化物の二次分散特性が0.70以上である請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記硬化物が、アクリレート樹脂及びメタクリレート樹脂の少なくとも一方を含有する請求項1
又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記硬化物における前記アクリレート樹脂及びメタクリレート樹脂の含有量が0.01質量%以上20.0質量%以下の範囲である請求項
3に記載の光学素子。
【請求項5】
前記硬化物が、透明基材上に設けられた請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記硬化物が、2つの透明基材間に挟持されていることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
筐体と、前記筐体内に配置された複数のレンズを有する光学系と、を有する光学機器であって、
前記複数のレンズの少なくとも一つが、請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の光学素子であることを特徴とする光学機器。
【請求項8】
筐体と、前記筐体内に配置された複数のレンズを有する光学系と、前記光学系を通過した光を受光する撮像素子と、を有する撮像装置であって、
前記複数のレンズの少なくとも一つが、請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の光学素子であることを特徴とする撮像装置。
【請求項9】
カメラであることを特徴とする請求項
8に記載の撮像装置。
【請求項10】
下記式(1)で示される化合物。
【化2】
(上記式(1)中、
X
1は、置換のフェニル基であり、前記置換のフェニル基は少なくとも1つのトリフルオロメチル基を有し、かつ、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~3のアルキレン基からなる群より選ばれる少なくとも1つで置換されていても良い。
X
2は、置換のフェニル基であり、
X
2
における前記置換のフェニル基は
X
1
における前記置換のフェニル基の同一の置換のフェニル基である。
Aは、置換または無置換のフェニル基、置換または無置換のビフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、前記置換のフェニル基及び前記置換のビフェニル基は、水素原子、トリフルオロメチル基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~3のアルキレン基からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する。
P
1、P
2およびP
3は各々、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基であり、a,bおよびcは0,1および2のいずれかであり、a+b+cは1,2および3のいずれかである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子、光学機器、撮像装置および化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、硝材や有機樹脂等の光学材料は、短波長側に向かって徐々に屈折率が高くなる。この屈折率の波長分散性を表す指標として、アッベ数(νd)や二次分散特性(θg,F)等が知られている。このアッベ数や二次分散特性は、各光学材料に特有の値であるが、多くの場合、ある一定の範囲内に収まっている。
【0003】
尚、アッベ数(νd、d線を基準とするアッベ数)および二次分散特性(θg,F)は以下の式で表される。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
θg,F=(ng-nF)/(nF-nC)
nd:波長587.6nmでの屈折率
nF:波長486.1nmでの屈折率
nC:波長656.3nmでの屈折率
ng:波長435.8nmでの屈折率
【0004】
しかし、光学材料(硝材、有機樹脂等)の構成(材料種や分子構造)を詳細に設計することにより、その一定の範囲内の値から外れた高い二次分散特性を有する光学材料も合成されている。
【0005】
また、色収差補正機能に優れる非球面形状等を有する光学素子を製造する場合、材料として硝材を用いるより、球面ガラス等の上に有機樹脂を成形する方法の方が量産性や成形性、形状の自由度、軽量性に優れるという利点がある。しかし、従来の有機樹脂の光学特性は、前述した一定の範囲内に収まっており、特異な分散特性を示すものは少ない。特許文献1には、二次分散特性が高い樹脂の材料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された材料組成物の硬化物は、高い二次分散特性を有するものの透過率が十分ではなく、光学素子として特性が不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための光学素子は、樹脂組成物の重合体からなる硬化物を有する光学素子であって、前記樹脂組成物が下記式(1)で示される化合物を含有することを特徴とする。
【化1】
(上記式(1)中、X
1は、置換のフェニル基であり、前記置換のフェニル基は少なくとも1つのトリフルオロメチル基を有し、かつ、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~3のアルキレン基からなる群より選ばれる少なくとも1つで置換されていても良い。X
2は、置換のフェニル基であり、
X
2
における前記置換のフェニル基は
X
1
における前記置換のフェニル基の同一の置換のフェニル基である。Aは、置換または無置換のフェニル基、置換または無置換のビフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、前記置換のフェニル基及び前記置換のビフェニル基は、水素原子、トリフルオロメチル基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~3のアルキレン基からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する。P
1、P
2およびP
3は各々、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基であり、a,bおよびcは0,1および2のいずれかであり、a+b+cは1,2および3のいずれかである。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、屈折率の2次分散特性(θg,F)が高い、すなわち色収差補正機能の高い特性を有し、かつ透過率が高い硬化物を含有する光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の光学素子の一例の構成を模式的に示す厚さ方向の断面図である。
【
図2】本発明の光学素子を用いた撮像装置の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は鋭意検討した結果、特定の化合物を有する樹脂組成物の重合体からなる硬化物が、高い二次分散特性と高い透過率を示すことを見出した。具体的には、化合物において、芳香環をフェニル基および/又はビフェニル基のみで構成し、かつ、トリフルオロメチル基に置換されたフェニル基を有することで、高い二次分散特性と高い透過率と、を両立できることを見出した。
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対して適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に含まれる。
【0013】
[化合物]
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される。
【化2】
(上記式(1)中、X
1は、置換のフェニル基であり、前記置換のフェニル基は少なくとも1つのトリフルオロメチル基を有する。また、前記置換のフェニル基は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~3のアルキレン基からなる群より選ばれる少なくとも1つで置換されていても良い。X
2は、置換または無置換のフェニル基であり、前記置換のフェニル基は水素原子、トリフルオロメチル基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~3のアルキレン基からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する。Aは、置換または無置換のフェニル基、置換または無置換のビフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも1つである。前記置換のフェニル基及び前記置換のビフェニル基は、水素原子、トリフルオロメチル基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~3のアルキレン基からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する。P
1、P
2およびP
3は各々、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基であり、a,bおよびcは0,1および2のいずれかであり、a+b+cは1,2および3のいずれかである。)
【0014】
一般に、芳香族化合物に代表される長い共役構造を有する化合物は、汎用材料よりもバンドギャップが小さいため、紫外領域の吸収端が可視光領域側に位置している。その影響により、長い共役構造を有する化合物は、高い屈折率や高い二次分散特性を有するようになる。しかし、単純に芳香族化合物を連結して長い共役構造を構築するだけでは実用的な材料は得られない。例えば、大きな芳香族化合物では、合成性や着色、可視光領域の短波長側で透過率の低下、さらに他の化合物との相溶性や組成物における結晶析出する点において課題が残る。
【0015】
そのため、光学材料として利用する場合は透過率向上・結晶性抑制の観点から、共役構造の長さを調整する必要がある。しかし、透過率の向上や結晶性抑制を図るために、芳香族化合物の共役構造を短くしたり、置換基の立体障害により分子間距離を広げたりすると、屈折率の低下や二次分散特性の低下を招来してしまう。
【0016】
発明者は、本発明に係る上記式(1)の化合物をついて、以下のように考えている。
【0017】
X1が有するトリフルオロメチル基の立体障害により透過率が向上する。また、化合物における芳香環をフェニル基及び/又はビフェニル基といった単環芳香族のみで構成することで、縮合環に比べ分子間距離を広げ、高い二次分散特性を維持したまま透過率を向上させることができる。さらに、化合物において2つの芳香環が同一(X1およびX2が、同一の置換のフェニル基)であることで、対称性が高まり、分子間距離が狭くなる。分子間距離が狭まる距離が、透過率が低下しないような狭い範囲であることで透過率が維持され、高い二次分散特性と高い透過率と、を両立できると考えている。
【0018】
上記式(1)中、X1およびX2においてフェニル基を、Aにおいてフェニル基またはビフェニル基を置換する炭素数1~4のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基が挙げられる。また、n-ブチル基、iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。高い二次分散特性が得られるのであればこれらに限定されないが、好ましくはメチル基、エチル基である。
【0019】
上記式(1)中、X1およびX2においてフェニル基を、Aにおいてフェニル基またはビフェニル基を置換する炭素数1~3のアルキレン基は、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基が挙げられる。好ましくはメチレン基、エチレン基である。
【0020】
式(1)で表される本発明の化合物の具体例を表1~3に示す。ただし本発明の化合物は、これらに限定されるわけではない。また、本発明の化合物は、複数組み合わせて使用してもよい。すなわち、本発明に係る硬化物(後述する樹脂組成物の重合体)は、化合物の単独重合体であっても共重合体であってもよい。
【0021】
上記式(1)中、P1、P2およびP3は各々、重合性官能基であるアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基である。
【0022】
表1に示す例示化合物M1乃至M11は、上記式(1)中、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を1つ有し、かつX1とX2が同一である例である。
【0023】
表2に示す例示化合物M12乃至M19は、上記式(1)中、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を1つ有し、かつX1とX2が異なる例である。
【0024】
表3に示す例示化合物M21乃至M30は、上記式(1)中、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を2つまたは3つ有する例である。
【表1】
【表2】
【表3】
【0025】
本発明の式(1)で表される化合物の製造方法について例を挙げて説明する。
【0026】
式(1)で表される化合物の製造方法は、特段に限定されず、どの様な製造方法を採用することが可能であり、公知の合成方法を用いて合成することができる。例えば式(1)で表される構造を有する化合物は、例えば特開2000-066425号公報、特開2008-165248号公報に記載の公知の合成方法を用いて合成することが可能である。
【0027】
式(1)で表される化合物に重合性官能基を導入するためには、2つの方法がある。1つは、式(1)で表される化合物になるように、直接、重合性官能基を導入する方法である。もう1つは、式(1)で表される化合物の前駆体に、重合性官能基又は重合性官能基の前駆体の官能基を有する構造を導入する方法である。後者の方法としては、例えばモノアリールアミン誘導体を基に、金属触媒と塩基を使用したカップリング反応を用い、官能基含有アリール基を導入する方法がある。
【0028】
式(1)で表される化合物に不飽和炭化水素基(例えばアクリル基、メタクリル基)を導入するためには、以下の方法が挙げられる。すなわち、ヒドロキシ基を有する式(1)で表される化合物を基に、(メタ)アクリレートを作用させる方法、あるいは式(1)で表される化合物になるように直接、重合性官能基を導入する方法がある。
【0029】
金属触媒によるカップリング反応は、任意に選択することが可能である。代表的な方法としては、銅を利用するウルマン反応、アミン等を利用するブッフバルト・ハートウィッグ反応、ホウ酸等を利用する鈴木カップリング、有機スズを利用するスティルカップリング、有機亜鉛を利用する根岸カップリング等が好適に用いられる。
【0030】
(メタ)アクリレート化反応は、任意の方法を選択することが可能である。代表的な方法としては、(メタ)アクリル酸ハライドや(メタ)アクリル酸無水物を使用して水酸基をエステル化する方法、(メタ)アクリル酸の低級アルコールのエステルを使用するエステル交換反応が好適に用いられる。また、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミドなどの脱水縮合剤を使用して(メタ)アクリル酸と該ジオールとを脱水縮合させる直接エステル化反応、(メタ)アクリル酸と該ジオールを硫酸等の脱水剤存在下で過熱する方法などが好適に用いられる。
【0031】
また、式(1)で表される化合物に対し、反応時や保存時に重合が進行しないように重合禁止剤を使用しても良い。使用可能な例として、p-ベンゾキノン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,5-ジフェニルパラベンゾキノンなどのヒドロキノン類、テトラメチルピペリジニル-N-オキシラジカル(TEMPO)などのN-オキシラジカル類が挙げられる。また、t-ブチルカテコールなどの置換カテコール類、フェノチアジン、ジフェニルアミン、フェニル-β-ナフチルアミンなどのアミン類、ニトロソベンゼン、ピクリン酸、分子状酸素、硫黄、塩化銅(II)が挙げられる。この中でもヒドロキノン類、フェノチアジン及びN-オキシラジカル類が汎用性かつ重合抑制の点で好ましく、特にヒドロキノン類が好ましい。
【0032】
重合禁止剤の使用量は、式(1)の化合物に対して、下限が、通常10ppm以上、好ましくは50ppm以上であり、上限が、通常10000ppm以下、好ましくは1000ppm以下である。少なすぎる場合は、重合禁止剤としての効果が発現しないか、発現しても効果が小さく、反応時や後処理工程での濃縮時に重合が進行するおそれがある。逆に、多すぎる場合には、例えば、後述する樹脂組成物を製造する際の不純物となり、また、重合反応性を阻害する等の悪影響を及ぼすおそれがあり好ましくない。
【0033】
次に本発明の化合物を含有する樹脂組成物について説明する。
【0034】
本発明に用いられる樹脂組成物は、上記の式(1)で表される化合物に対し、重合開始剤、重合禁止剤、さらに必要に応じて光増感剤、耐熱安定剤、耐光安定剤、酸化防止剤や樹脂を含有する。
【0035】
前記樹脂組成物中に含有される式(1)で表される化合物の含有量は、前記樹脂組成物全体に対して、1.0質量%以上99質量%以下が好ましく、より好ましくは50質量%以上99質量%以下である。
【0036】
重合開始剤には、光照射によりラジカル種を発生するものやカチオン種を発生するもの、熱によりラジカル種を発生するもの等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0037】
光照射によりラジカル種を発生する重合開始剤としては、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトンが挙げられる。また、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、4-フェニルベンゾフェノン、4-フェノキシベンゾフェノンが挙げられる。また、4,4’-ジフェニルベンゾフェノン、4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0038】
また、光照射によりカチオン種を発生する重合開始剤としては、ヨードニウム(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]-ヘキサフルオロフォスフェートが好適な重合開始剤として挙げられるがこれに限定されない。
【0039】
さらに、熱によりラジカル種を発生する重合開始剤としては、アゾビスイソブチルニトリル(AIBN)等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシネオヘキサノエートが挙げられる。また、t-ヘキシルパーオキシネオヘキサノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオヘキサノエート等の過酸化物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0040】
光として紫外線等を照射して重合を開始させる場合には、公知の増感剤等を使用することもできる。増感剤としては、ベンゾフェノン、4,4-ジエチルアミノベンゾフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが挙げられる。また、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル4-ジメチルアミノ安息香酸メチル、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノンが挙げられる。また、o-ベンゾイル安息香酸メチル、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、アシルフォスフィンオキサイド等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0041】
なお、重合可能な樹脂成分に対する光重合開始剤の含有比率は、光照射量、さらには、付加的な加熱温度に応じて適宜選択することができる。また、得られる重合体の目標とする平均分子量に応じて、調整することもできる。
【0042】
本発明に用いられる樹脂組成物の重合(硬化)・成形に用いる光重合開始剤の含有量は、重合可能な成分に対して0.01質量%以上10.00質量%以下の範囲が好ましい。光重合開始剤は樹脂の反応性、光照射の波長によって1種類のみを使用することもできるし、2種類以上を併せて使用することもできる。
【0043】
耐光安定剤については、硬化物の光学特性に大きな影響を及ぼさないものであれば特に制限は無い。代表的なものとしては、ベンゾトリアゾール系材料があり、例えば、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノールが挙げられる。また、2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-(tert-ブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ペンチルフェノールが挙げられる。また、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノールが挙げられる。また、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)]フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノールが挙げられる。また、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸エチル、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸2-エチルヘキシル等のシアノアクリレート系材料が挙げられる。また、トリアジン系材料、オクタベンゾン、2,2’-4,4’-テトラヒドロベンゾフェノン等のベンゾフェノン系材料等を挙げることができる。
【0044】
本発明に用いられる樹脂組成物の重合(硬化)・成形に用いる耐光安定剤の含有量は、重合可能な成分の全量に対して、0.01質量%以上10.00質量%以下の範囲が好ましい。
【0045】
耐熱安定剤としては、硬化物の光学特性に大きな影響を及ぼさないものであれば特に制限は無い。例えば、ヒンダードフェノール系材料として、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)]プロピオネートが挙げられる。また、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ベンゼンプロパン酸3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ、C7-C9側鎖アルキルエステルが挙げられる。また、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、4,6-ビス(ドデシルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)]プロピオネートが挙げられる。また、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)]プロピオネート等が挙げられる。また、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系材料、ジオクタデシル3,3’-チオジプロピオネート等のイオウ系材料等を使用することができる。
【0046】
酸化防止剤としては、成形体の光学特性に大きな影響を及ぼさないものであれば特に制限は無く、代表的なものとして、ヒンダードアミン系材料が挙げられる。例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケートが挙げられる。また、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネートが挙げられる。
【0047】
本発明に用いられる樹脂組成物の重合(硬化)・成形に用いる酸化防止剤の含有量は、重合可能な成分の全量に対して、0.01質量%以上10.00質量%以下の範囲が好ましい。
【0048】
本発明に用いられる樹脂組成物に含有される樹脂は、特に制限は無く、例えば、1,3-アダマンタンジオールジメタクリレート、1,3-アダマンタンジメタノールジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、2(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、ステアリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシ)フェニル]フルオレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ブトキシエチルアクリレート、ブトキシメチルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシメチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルアクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、ビスフェノールAジアクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2-ビス(4-アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、ビスフェノールFジアクリレート、ビスフェノールFジメタクリレート、1,1-ビス(4-アクリロキシエトキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-メタクリロキシエトキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-アクリロキシエトキシフェニル)スルホン、1,1-ビス(4-メタクリロキシエトキシフェニル)スルホン、1,1-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)スルホン、1,1-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)スルホン、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリセロールジアクリレート、グリセロールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、メチルチオアクリレート、メチルチオメタクリレート、フェニルチオアクリレート、ベンジルチオメタクリレート、キシリレンジチオールジアクリレート、キシリレンジチオールジメタクリレート、メルカプトエチルスルフィドジアクリレート、メルカプトエチルスルフィドジメタクリレート等の(メタ)アクリレート化合物、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート等のアリル化合物、スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ジビニルベンゼン、3,9-ジビニルスピロビ(m-ジオキサン)等のビニル化合物、ジイソプロペニルベンゼン等であるがこれらに限定されない。光学特性および成形性に優れるという観点では、アクリレート樹脂及びメタクリレート樹脂であることが特に好ましい。
【0049】
また、前記樹脂は熱可塑性樹脂でもよく、例えば、エチレン単独重合体、エチレンとプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等の1種又は2種以上のα-オレフィンとのランダム又はブロック共重合体、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルとの1種又は2種以上のランダム又はブロック共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレンとプロピレン以外の1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等の1種又は2種以上のα-オレフィンとのランダム又はブロック共重合体、1-ブテン単独重合体、アイオノマー樹脂、さらにこれら重合体の混合物などのポリオレフィン系樹脂;石油樹脂、テルペン樹脂などの炭化水素原子系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン6/66、ナイロン66/610、ナイロンMXDなどポリアミド系樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリルなどのスチレン,アクリロニトリル系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリケトン樹脂;ポリメチレンオキシド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0050】
前記樹脂組成物に含有される樹脂の含有量は、0.01質量%以上99質量%以下である。得られる樹脂組成物の屈折率特性や成形体の脆性を考慮すると0.01質量%以上50質量%以下であることが望ましい。さらに2次分散特性及び透過率を維持するためにアクリレート樹脂及びメタクリレート樹脂を0.01質量%以上20.0質量%以下の範囲で含有することがより好ましい。
【0051】
[光学素子]
次に、本発明に係る光学素子について図を参照しながら説明する。
【0052】
本発明の光学素子は、上記の樹脂組成物の重合体からなる硬化物を有することを特徴とする。本発明に用いられる硬化物は、0.70以上と高い二次分散特性が示されることから、本発明の光学素子においては、効率よく色収差を取り除くことができる。
【0053】
図1に、本発明の光学素子の実施形態における、厚さ方向の断面模式図を示す。
図1(a)は、透明基材2の一方の面上に硬化物1の薄膜が設けられている。
【0054】
透明基材2には、透明な樹脂や、透明なガラスを用いることができる。ここで、本明細書において透明とは可視光(波長が380nm以上780nm以下の範囲である光)全域の透過率が30%以上の透過率であることを示す。透明基材2は、ガラスを用いることが好ましく、例えば、ケイ酸ガラスやホウケイ酸ガラス、リン酸ガラスに代表される一般的な光学ガラスや、石英ガラス、ガラスセラミックスを用いることができる。透明基材2は平面視した際に円形であることが好ましい。
【0055】
図1(a)の光学素子を作製する方法としては、例えば、透明基材2上に膜厚の薄い層構造を形成する方法が採用される。具体的には、金属材料からなる型を透明基材2から一定の距離を置いて設け、この型と透明基材2との間にある空隙に流動性を有する樹脂組成物を充填してから、軽く抑えることで、型成形を行う。そして必要に応じてその状態に保ったまま樹脂組成物の重合を行う。
【0056】
かかる重合反応に供する光照射は、光重合開始剤を用いたラジカル生成に起因する機構に対応して、好適な波長の光、通常、紫外光もしくは可視光を用いて行う。例えば、透明基材2として利用する光透過性材料を介して、樹脂組成物のモノマー等の原料に対して、均一に光照射を実施する。照射光量は、光重合開始剤を利用したラジカル生成に起因する機構に応じて、また、含有される光重合開始剤の含有比率に応じて、適宜選択される。
【0057】
一方、かかる光重合反応による樹脂組成物の硬化においては、照射される光が型成形されている樹脂組成物全体に均一に照射されることがより好ましい。従って、利用される光照射は、透明基材2に利用する光透過性材料を介して、均一に行うことが可能な波長の光を選択することが一層好ましい。この際、透明基材2上に形成する硬化物1の厚さを薄くすることは、本発明にはより好適である。
【0058】
また、
図1(b)は、透明基材
3,
4間に上記の樹脂組成物を硬化してなる硬化物1の薄膜が挟持されている。
図1(b)においては、透明基材
3,
4がそれぞれ、対向側が凹面を有し、外周において互いに接しており、硬化物1は、両面が凸面のレンズ上となっている。透明基材
3,
4には、透明な樹脂や、透明なガラスを用いることができ、好ましくはガラスである。ガラスとしては、ケイ酸ガラスやホウケイ酸ガラス、リン酸ガラスに代表される一般的な光学ガラスや、石英ガラス、ガラスセラミックスを用いることができる。透明基材
3,
4は、平面視した際に円形であることが好ましい。
【0059】
図1(b)の光学素子を作製する方法としては、例えば、透明基材3,4間に前記樹脂組成物を流し込み、軽く抑えることで成形を行う。そしてこの状態に保ったまま樹脂組成物の光重合を行う。それにより硬化物1が透明基材3,4に挟まれた積層体を得ることができる。
【0060】
同様に、熱重合法により成形体の作製を行うこともできる。この場合、全体の温度をより均一とすることが望ましく、光透過性材料の基材上に形成する樹脂組成物の成形体の総厚を薄くすることは、本発明にはより好適なものとなる。また、形成する樹脂組成物の成形体の総厚を厚くする場合には、より膜厚、樹脂成分の吸収、微粒子成分の吸収を考慮した照射量、照射強度、光源等の選択が必要である。
【0061】
[光学機器]
本発明の光学素子の具体的な適用例について説明する。具体的な適用例としては、カメラやビデオカメラ用の光学機器(撮影光学系)を構成するレンズや液晶プロジェクター用の光学機器(投影光学系)を構成するレンズ等が挙げられる。また、DVDレコーダー等のピックアップレンズに用いることもできる。これらの光学系は、筐体内に配置された複数のレンズからなり、それらの複数のレンズの少なくとも1つを上述した光学素子とすることができる。
【0062】
[撮像装置]
図2は、本発明の光学素子を用いた撮像装置の好適な実施形態の一例であり、一眼レフデジタルカメラ10の構成を示している。
図2は、用いた光学素子の光軸を含む断面模式図である。
図2において、カメラ本体12と光学機器であるレンズ鏡筒11とが結合されているが、レンズ鏡筒11はカメラ本体12に対して着脱可能ないわゆる交換レンズである。
【0063】
被写体からの光は、レンズ鏡筒11の筐体30内の撮影光学系の光軸上に配置された複数のレンズ13、15などからなる光学系を介して撮影される。本発明の光学素子は例えば、レンズ13、15に用いることができる。ここで、レンズ15は内筒14によって支持されて、フォーカシングやズーミングのためにレンズ鏡筒11の外筒に対して可動支持されている。
【0064】
撮影前の観察期間では、被写体からの光は、カメラ本体の筐体31内の主ミラー17により反射され、プリズム21を透過後、ファインダレンズ22を通して撮影者に撮影画像が映し出される。主ミラー17は例えばハーフミラーとなっており、主ミラーを透過した光はサブミラー18によりAF(オートフォーカス)ユニット23の方向に反射され、例えばこの反射光は測距に使用される。また、主ミラー17は主ミラーホルダ40に接着などによって装着、支持されている。不図示の駆動機構を介して、撮影時には主ミラー17とサブミラー18を光路外に移動させ、シャッタ19を開き、撮像素子20がレンズ鏡筒11から入射して撮影光学系を通過した光を受光して撮影光像を結像するようにする。また、絞り16は、開口面積を変更することにより撮影時の明るさや焦点深度を変更できるよう構成される。
【0065】
尚、ここでは、一眼レフデジタルカメラを用いて撮像装置を説明したが、本発明の光学素子はスマートフォンやコンパクトデジタルカメラなどにも同様に用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、合成した生成物の分析は、NMR装置(日本電子株式会社製「JNM-ECA400」(製品名))を用いて行った。
【0067】
(合成例1)
(1)M1中間体Aの合成
窒素雰囲気下で500mL三口フラスコに、3-アミノベンゾトリフルオリド15.0g、3-ブロモベンゾトリフルオリド20.95g、ナトリウムtert-ブトキシド26.85g、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム2.68gを入れた。また、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル4.44g及びオルトキシレン300mLを入れた。混合物を120℃まで加熱した後、その温度下で6時間撹拌させた。室温(25℃)まで放冷し、有機相を酢酸エチルで抽出した。得られた有機相を飽和食塩水、水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製することでM1中間体Aを19.2g(収率68%)得た。
【0068】
(2)M1中間体Bの合成
窒素雰囲気下、1L三口フラスコに、M1中間体A10.0g、4-ブロモベンジルアルコール24.78g、ナトリウムtert-ブトキシド31.21g、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム0.47gを入れた。また、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル0.77g及びオルトキシレン500mLを入れた。混合物を120℃まで加熱した後、その温度下で10時間撹拌させた。室温(25℃)まで放冷し、有機相を酢酸エチルで抽出した。得られた有機相を飽和食塩水、水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製することでM1中間体Bを17.2g(収率51%)得た。
【0069】
(3)M1の合成
窒素雰囲気下、500mL三口フラスコに、M1中間体B10.0g、テトラヒドロフラン350mL、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)0.90g、トリエチルアミン13.5mLを投入した。その後、無水メタクリル酸12.4gを滴下し、加熱し20時間還流撹拌を行った。反応液をトルエンで希釈し、得られた有機相を酸性及び塩基性水溶液で洗浄した後、飽和食塩水及び無水硫酸マグネシウムで有機相を乾燥させた。溶剤を除去して得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製することでM1を5.8g(収率50%)得た。
【0070】
(合成例2)
(1)M3中間体の合成
窒素雰囲気下、500mL三口フラスコに、4-クロロベンゾトリフルオリド.21.58g、2-(4-アミノフェニル)エタノール8.0g、炭酸セシウム66.50g、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム0.33gを入れた。また、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル0.56g及びオルトキシレン280mLを入れた。120℃まで加熱した後、その温度下において6時間撹拌させた。室温(25℃)まで放冷した後、有機相を酢酸エチルで抽出した。得られた有機相を飽和食塩水、水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製することでM3中間体を14.3g(収率57%)得た。
【0071】
(2)M3の合成
窒素雰囲気下、500mL三口フラスコに、M3中間体10.0g、テトラヒドロフラン350mL、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)0.88g及びトリエチルアミン13.0mL投入した。その後、無水メタクリル酸12.0gを滴下し、加熱し20時間還流撹拌を行った。反応液をトルエンで希釈し、得られた有機相を酸性及び塩基性水溶液で洗浄した後、飽和食塩水及び無水硫酸マグネシウムで有機相を乾燥させた。溶剤を除去して得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製することでM3を6.5g(収率56%)得た。
(実施例)
【0072】
(1)二次分散特性(θg,F)の測定
厚さ1mmの高屈折ガラス(HOYA社製「S-TIH11」)上に、厚さが500μmのスペーサーに樹脂組成物を載置した。樹脂組成物は、上記合成例1で合成した例示化合物M1、重合禁止剤(富士フィルム和光純薬社製、メトキシフェノール)、重合開始剤BASF製「イルガキュアTPO」、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド)等を含む。次に、石英ガラスを測定対象となる樹脂組成物上に載置し、スペーサーを介して厚さが500μmになるように押し広げた。光源に短波長カットフィルター(UV:385nm)を設置した高圧水銀ランプHOYA-SCHOTT社製「EX250」)をサンプルに照射することで2枚のガラス基板に挟まっている樹脂組成物を硬化させた。硬化後は反応を完結させるために100℃、12時間の加熱処理を行い、測定サンプルを作製した。測定サンプルの屈折率を、アッベ屈折計(カルニュー光学工業製)を用いて測定し、屈折率から二次分散特性(θg,F)を算出して評価した。二次分散特性の値が0.70以上であれば良好であると評価した。尚、ガラス基板の屈折率は樹脂組成物の硬化物よりも高いものを使う必要がある。表4に評価結果を示す。
【0073】
(2)透過率測定
上記の二次分散測定と同様にして、厚さ500μmの透過率測定サンプルと厚さ1000μmの透過率測定サンプルを作製した。尚、厚さ500μmの透過率サンプルは上記の二次分散特性の測定用に作製した屈折率測定サンプルを使用しても良い。それぞれの膜厚の透過率測定サンプルの透過率を、分光光度計(日立ハイテクノロジー社製「U-4000」(製品名))で測定し、波長450nmと500nmでの内部透過率(500μm)に換算して評価した。波長450nmに対する透過率は90%以上であれば良好であると評価した。波長500nmに対する透過率は95%以上であれば良好であると評価した。表4に評価結果を示す。
【0074】
(実施例2)
樹脂組成物に例示化合物M1:樹脂1(1,6-ヘキサンジオールメタクリレ―ト、東京化成工業社製)=90:10(質量比)になるように上記樹脂1を添加した以外は実施例1と同様に測定サンプルを作製した。その後、二次分散特性(θg,F)と、透過率と、を測定した。表4に評価結果を示す。
【0075】
(実施例3~14)
表4に示すように例示化合物を変えた以外は、実施例2と同様に測定サンプルを作成し、同様に二次分散特性(θg,F)と、透過率と、を測定した。表4に評価結果を示す。
【0076】
(比較例1)
比較例化合物R1を合成し、2次分散特性(θg,F)と透過率を比較した。結果を表4に示す。
【0077】
【0078】
[比較例2]
比較例化合物R2を合成し、2次分散特性(θg,F)と透過率を比較した。結果を表4に示す。
【0079】
【0080】
【表4】
表4の結果から、実施例1~14はいずれも二次分散特性が0.70以上であり、かつ、透過率が450nmでは90%以上、500nmでは95%以上と高い値を示した。一方、比較例1は、二次分散特性は0.78と高かったものの、透過率は450nmで72%、500nmで80%といずれも実施例1~14よりも低い値であった。これは、比較例1の化合物では置換のフェニル基がトリフルオロメチル基を有しないため、立体障害による透過率向上の効果が得られなかったためである。また、比較例2は二次分散特性が低く、かつ、透過率も実施例1~14よりも低い値であった。比較例2は比較例1より共役構造が短いため、透過率が比較例1より優れていた。しかし、比較例2の化合物も置換のフェニル基がトリフルオロメチル基を有しないため、立体障害による透過率向上の効果が得られず、透過率は不十分であった。
【0081】
また、実施例1~7および11~13は、実施例8~10および14より波長450nmの透過率が高かった。これは、実施例1~7および11~13は、化合物の式(1)中、X1およびX2が同一の置換のフェニル基であることに起因する。式(1)の化合物の対称性が実施例8~10および14よりも高まり、分子間距離がそれらに比べて狭くなっている。分子間距離が狭くなった結果、高い二次分散特性と高い透過率と、を両立できたものと考えられる。
【0082】
以上より、式(1)で示される化合物を含有する硬化物が高い2次分散特性(θg,F)と高い透過率とを有することが分かった。
【符号の説明】
【0083】
1 硬化物
2 透明基材
3 透明基材
10 デジタルカメラ(撮像装置)
11 レンズ鏡筒(光学機器)
13 レンズ(光学素子)
15 レンズ(光学素子)