(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/097 20060101AFI20250303BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20250303BHJP
【FI】
G03G9/097 365
G03G9/087 325
(21)【出願番号】P 2020217550
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】浦谷 梢
(72)【発明者】
【氏名】上倉 健太
(72)【発明者】
【氏名】福留 航助
(72)【発明者】
【氏名】衣松 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】水口 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】小宮 友太
【審査官】塚田 剛士
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-086641(JP,A)
【文献】特開2019-219646(JP,A)
【文献】特開2019-086764(JP,A)
【文献】特開2020-076992(JP,A)
【文献】特開2014-035506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/097
G03G 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂およびエステル化合物を含有するトナー粒子を有し、
該結着樹脂はスチレン-アクリル系樹脂を含有し、該スチレン-アクリル系樹脂は下記式(1)で表されるユニットを有し、
該エステル化合物は、下記式(2)または(3)で表される構造を有し、
該エステル化合物に対する式(1)で表されるユニットのモル比が
0.8以上
1.2以下であ
り、
走査型透過電子顕微鏡で観察される該トナー粒子の断面に、該エステル化合物のドメインが存在し、
該断面における該ドメインの平均個数が100個以上であり、
該ドメインの平均長径をr1(μm)としたとき、該r1が1.0μm以下であることを特徴とするトナー。
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
2は炭素数12の直鎖アルキル基を示す。)
【化2】
【化3】
(式(2)および(3)中、R
3は炭素数2以上4以下のアルキレン基を示し、R
4およびR
5は、それぞれ独立して炭素数14以上22以下の直鎖アルキル基を示す。)
【請求項2】
前記トナー粒子における前記エステル化合物の含有割合が、前記結着樹脂に対して5.0質量%以上25.0質量%以下である請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記結着樹脂中の前記スチレン-アクリル系樹脂の含有割合が90.0質量%以上である請求項1または2に記載のトナー。
【請求項4】
前記スチレン-アクリル系樹脂は、前記式(1)で表されるユニットを1.0質量%以上15.0質量%以下の割合で含む請求項1~3のいずれか1項に記載のトナー。
【請求項5】
前記式(2)および(3)中、R
3は炭素数2のアルキレン基を示し、R
4およびR
5は、それぞれ独立して炭素数14以上18以下の直鎖アルキル基を示す請求項1~4のいずれか1項に記載のトナー。
【請求項6】
前記スチレン-アクリル系樹脂が、下記式(4)で示されるユニットを有する請求項1~5のいずれか1項に記載のトナー。
【化4】
(式(4)中、m+nは2以上の整数であり、R
6およびR
9はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を示し、R
7およびR
8はそれぞれ独立して炭素数2以上12以下の直鎖または分岐鎖を有する炭化水素基を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真方式や静電記録方式を用いた複写機およびプリンターに使用されるトナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンターや複写機においては低消費電力化や一層の高画質化が求められている。低消費電力化の要求に対応するために、より低い温度で速やかに溶融する、すなわち低温定着性に優れたトナーが好ましい。
【0003】
従来、トナーの低温定着性を向上させるために、可塑剤をトナーに添加する手法が一般的に用いられてきた。可塑剤は熱によって速やかに溶融し、結着樹脂を可塑化することで、トナーの溶融時の粘度を下げることができる。
しかし、トナーにおける可塑剤の添加量が多い場合、溶融時に液体化した可塑剤がトナー表面へ染み出し、このトナーを用いて形成された画像の表面で部分的に可塑剤の層が形成されることがある。このとき、冷却後に再結晶化した可塑剤の層で光が散乱し、人が画像を見た際に色味にムラが生じたように見える弊害があった。
【0004】
そこで近年では、可塑剤が溶融時にトナー表面へ染み出さないように、結着樹脂と可塑剤との相溶性を高める工夫がなされている。
【0005】
特許文献1では、結着樹脂の分子構造の一部に、長鎖アルキル基を有するユニットを導入し、結着樹脂の極性を低くすることで、可塑剤との相溶性を高めている。これにより、定着時に可塑剤が結着樹脂を効果的に可塑化し、可塑剤のトナー表面への染み出しが抑制され、色味ムラの発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、特許文献1に記載のトナーを用いた場合、画像を長期間放置すると、画像の一部でグロスが低下する場合があることを確認した。
【0008】
そこで、本発明は、低温定着性に優れ、形成した画像における色味ムラおよびグロス低下の発生を抑制することが可能なトナーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るトナーは、結着樹脂およびエステル化合物を含有するトナー粒子を有し、
該結着樹脂はスチレン-アクリル系樹脂を含有し、該スチレン-アクリル系樹脂は下記式(1)で表されるユニットを有し、
該エステル化合物は、下記式(2)または(3)で表される構造を有し、
該エステル化合物に対する式(1)で表されるユニットのモル比が0.5以上1.5以下であることを特徴とする。
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
2は炭素数12の直鎖アルキル基を示す。)
【化2】
【化3】
(式(2)および(3)中、R
3は炭素数2以上4以下のアルキレン基を示し、R
4およびR
5は、それぞれ独立して炭素数14以上22以下の直鎖アルキル基を示す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温定着性に優れ、形成した画像における色味ムラおよびグロス低下の発生を抑制することが可能なトナーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例においてトナーの評価に用いたプロセスカートリッジの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、数値範囲を表す「〇〇以上××以下」や「〇〇~××」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限および上限を含む数値範囲を意味する。
【0013】
なお、モノマーユニットとは、ポリマーまたは樹脂中における、モノマー物質の重合反応後の形態を指す。
【0014】
特許文献1に記載のトナーを用いて形成した画像において、グロスが低下した部分では、画像の表面にエステル化合物の粗大な結晶が形成されており、画像上で粗大な結晶のある部分で光の反射強度が変わることが原因であると推察された。
【0015】
特許文献1に記載のトナーでは、結着樹脂中のアルキル基を有するユニットがエステル化合物に対して過剰であり、冷却後にもエステル化合物が結着樹脂に相溶したままの状態となっていたと考えられる。さらに画像を長期間放置したとき、エステル化合物が徐々に配向成長して粗大な結晶を形成し、グロスの低下が顕著になったと考えられた。
【0016】
本発明者らは、低温定着性を向上させるためにエステル化合物を用いたトナーにおいて、さらに画像の色味ムラとグロスの低下の両方の発生を抑制するために検討を行った。その結果、トナーに用いるエステル化合物と結着樹脂とを、それぞれ以下のように設計することで、前述した効果が得られることを見出した。
【0017】
すなわち、本発明に係るトナーは、結着樹脂およびエステル化合物を含有するトナー粒子を有し、該結着樹脂はスチレン-アクリル系樹脂を含有し、該スチレン-アクリル系樹脂は下記式(1)で表されるユニットを有し、該エステル化合物は、下記式(2)または(3)で表される構造を有し、該エステル化合物に対する式(1)で表されるユニットのモル比が0.5以上1.5以下である。
【化4】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
2は炭素数12の直鎖アルキル基を示す)
【化5】
【化6】
(式(2)および(3)中、R
3は炭素数2以上4以下のアルキレン基を示し、R
4およびR
5は、それぞれ独立して炭素数14以上22以下の直鎖アルキル基を示す。)
【0018】
本発明に係るトナーの結着樹脂は、スチレン-アクリル系樹脂を含有し、さらにスチレン―アクリル系樹脂は、式(1)で表されるユニットを含有する。これにより、結着樹脂のSP値(J/m3)0.5が比較的小さい。
【0019】
さらに、可塑剤として式(2)または(3)で表されるエステル化合物を用いることで、結着樹脂と可塑剤との間のSP値の差を小さくし、溶融した時の相溶性を高めている。
【0020】
式(1)で表されるユニットは炭素数12のアルキル基(以下、ラウリル基ともいう)を有している。本発明者らは、結着樹脂中のユニットが有するアルキル基の炭素数を種々検討し、色味ムラおよびグロスの低下を抑制するためには、ラウリル基を用いることが最適であることを見出した。
【0021】
式(1)で表されるユニットのSP値は18.7である。結着樹脂のSP値を下げるためには、結着樹脂中のユニットが有するアルキル基の炭素数を大きくすればよい。しかし、アルキル基の炭素鎖が長すぎると、主骨格であるスチレンモノマーユニット(SP値20.1)とのSP値の差が大きくなり、結着樹脂の中でSP値の大きな部位と、SP値の小さい部位とが共存することになる。
【0022】
このようにSP値の偏りが大きな結着樹脂は、定着時に加熱されることで分子運動が活発になった時、SP値の小さい部位同士、およびSP値の大きい部位同士がそれぞれ凝集する。SP値の大きな部位は、エステル化合物が相溶しにくいため、層分離してトナー表面に染み出しやすく、その結果色味ムラが発生しやすくなる。
【0023】
式(1)で表されるユニットは、スチレンモノマーユニットとのSP値差が1.4であり、本発明者らの検討によれば、結着樹脂とエステル化合物とがムラなく相溶し、色味ムラを効果的に抑制することができた。
【0024】
また、本発明においては、エステル化合物として、式(2)または式(3)で表される2官能エステル化合物を用いる。
【0025】
2官能エステル化合物は、運動性が高い直鎖状の分子構造を有しており、可塑化効果が高く低温定着性に優れている。さらに、同じ直鎖状の分子構造を有するパラフィンワックスや1官能エステル化合物よりも、一般的にSP値が高く、結着樹脂との相溶性が高い。
【0026】
また、本発明において用いるエステル化合物は、分子構造の両末端に炭素数14以上22以下の直鎖アルキル基を有する。すなわち、エステル化合物が有する直鎖アルキル基の炭素数と、式(1)で表されるユニットが有するラウリル基の炭素数とが近い値となっており、溶融時にはエステル化合物が有するアルキル基と、結着樹脂中のラウリル基とが凝集しやすい。その結果、冷却時にはラウリル基とエステル化合物のアルキル基とが配向することでエステル化合物の再結晶化の起点となり、エステル化合物が結着樹脂全体に渡って結晶を形成しやすい。これにより、エステル化合物により形成される結晶が微細となり、粗大な結晶に起因するグロスの低下を抑制することができる。
【0027】
本発明において、式(1)で表されるユニットと、式(2)または(3)で表されるエステル化合物とのモル比は、0.5以上1.5以下である。
上記のモル比が0.5以上であることで、定着時におけるエステル化合物と結着樹脂との相溶性を高くすることができ、液体化したエステル化合物がトナー表面に染み出すことを抑制することができる。これにより、冷却後に画像表面の一部にエステル化合物の結晶層が形成されることを抑制し、色味ムラを抑制することができる。上記のモル比が0.5未満である場合は、式(1)で表されるユニットの量がエステル化合物に対して少ないため、エステル化合物は結着樹脂に十分に相溶することができない。
また、上記のモル比が1.5以下であることで、冷却時においてエステル化合物の速やかな再結晶化が促されて粗大な結晶の形成が抑制され、これによりグロスの低下を抑制することができる。
【0028】
上記のモル比が1.5以下であると、エステル化合物の再結晶化が促進される理由については、以下のように推察している。
トナーの溶融時、分子運動が活発になった際に、ラウリル基はエステル化合物のアルキル基と親和性が高いために凝集し、冷却時には配向することで、エステル化合物の再結晶化の起点となる。この時、ラウリル基がエステル化合物のアルキル基に対して過剰に存在すると、エステル化合物のアルキル基同士が配向し結晶が成長する途中でラウリル基が配向していまい、結晶化を阻害してしまう。その結果、エステル化合物が結晶化せずに相溶したままの状態となる。このような状態で画像を長期的に放置したとき、徐々に結着樹脂が緩和し、エステル化合物が配向成長して粗大な結晶が形成される。
上記のモル比が1.5以下であると、エステル化合物の配向が阻害されないため、冷却時に速やかに再結晶化し、結着樹脂に相溶したままの状態のエステル化合物の量を減らすことができる。このため、画像を長期的に放置しても、エステル化合物が配向成長しにくく、画像におけるグロスの低下を抑制することができる。
【0029】
以下、本発明の構成についてより詳細に説明する。
<結着樹脂>
本発明に係るトナーが含有する結着樹脂は、下記式(1)で表されるユニットを有するスチレン-アクリル系樹脂を含有する。
【化7】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
2は炭素数12の直鎖アルキル基を示す)。
【0030】
結着樹脂が、上記のスチレン-アクリル系樹脂を含有することで、定着時に後述するエステル化合物との相溶性が高くなり、形成した画像における色味ムラの発生を抑制することができる。さらに、後述するエステル化合物と組み合わせ、モル比を特定の値の範囲内となるように制御することで、形成した画像を長期的に放置した際のグロスの低下を抑制することができる。
【0031】
上記R2はラウリル基である。結着樹脂中のユニットが有するアルキル基がラウリル基であることで、エステル化合物との親和性を維持しつつ、主骨格であるスチレンとのSP値の差を小さくすることができる。これにより、溶融時にスチレン-アクリル系樹脂中でユニットが有するアルキル基が凝集して局所的にSP値が下がることを抑制し、溶融したエステル化合物を均一にスチレン-アクリル系樹脂と相溶させることができる。これにより、トナー表面へのエステル化合物の染み出しを抑制することができ、形成した画像における色味ムラの発生を抑制することができる。
【0032】
さらに、後述するエステル化合物と組み合わせることで、定着後の冷却において、スチレン-アクリル系樹脂に相溶したエステル化合物の再結晶化を促進し、相溶した成分が時間をかけて粗大な結晶に成長することを抑制することができる。これにより、長期的に放置した画像の表面にエステル化合物の粗大な結晶が形成されることを抑制し、画像のグロス値の安定化を図っている。
【0033】
上記スチレン-アクリル系樹脂は、式(1)で表されるユニットを1.0質量%以上15.0質量%以下の割合で含有することが好ましい。式(1)で表されるユニットの含有量が1.0質量%以上15.0質量%以下であると、溶融時にはエステル化合物と十分に相溶し、定着後の冷却時においてはエステル化合物の結晶核剤として効果的に機能することができる。スチレン-アクリル系樹脂における式(1)で表されるユニットの含有割合は、0.8質量%以上1.2質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
また、結着樹脂中の上記スチレン-アクリル系樹脂の含有割合は、90.0質量%以上であることが好ましい。これにより、式(1)で表されるユニットを結着樹脂中に均一に分散させることができる。
【0035】
結着樹脂を構成するモノマーユニットの由来となるモノマーとしては、以下に示すモノマーの単重合体または共重合体を用いることができる。
【0036】
スチレン、α-メチルスチレン等に代表されるスチレン系モノマー;メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルアクリレート、n-プロピルメタクリレート、iso-プロピルアクリレート、iso-プロピルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレートのような不飽和カルボン酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸等に代表される不飽和カルボン酸等のアクリル系モノマー;マレイン酸等に代表される不飽和ジカルボン酸;マレイン酸無水物等に代表される不飽和ジカルボン酸無水物;アクリロニトリル等に代表されるニトリル系ビニルモノマー。
【0037】
上記のうち、式(1)で表されるユニットの由来となるモノマーとしては、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレートを好適に用いることができる。
本発明において、結着樹脂が有するガラス転移温度(Tg)は、低温定着性と耐熱性の観点から45.0℃以上60.0℃未満であることが好ましい。
【0038】
<エステル化合物>
本発明に係るトナーは、可塑剤として式(2)または式(3)で表されるエステル化合物を有する。
【化8】
【化9】
(式(2)および(3)中、R
3は炭素数2以上4以下のアルキレン基を示し、R
4およびR
5は、それぞれ独立して炭素数14以上22以下の直鎖アルキル基を示す。)
【0039】
式(2)または式(3)で表されるエステル化合物は、運動性が高い直鎖状の分子構造を有しており、可塑化効果が高く低温定着性に優れている。さらに、上記エステル化合物は、分子構造の両末端に炭素数14以上22以下の直鎖アルキル基を有するため、溶融時に、結着樹脂が有するラウリル基と凝集しやすい。これにより、定着後の冷却においてラウリル基とエステル化合物のアルキル基が配向することで、エステル化合物が再結晶化されやすくなる。この結果、相溶したエステル化合物が時間をかけて粗大な結晶に成長することを抑制し、グロスの低下を抑制することができる。
【0040】
式(2)および(3)中のR3は、炭素数2のアルキレン基を示すことが好ましい。これによりエステル化合物の分子量が小さくなり、溶融時のエステル化合物の運動性が高くなることで、結着樹脂との相溶性が高まる。
【0041】
また、R4およびR5は、それぞれ独立して炭素数14以上18以下の直鎖アルキル基を示すことが好ましい。これにより、エステル化合物が有する直鎖アルキル基の炭素数と、結着樹脂中のラウリル基の炭素数とがより近い値となり、エステル化合物のラウリル基との配向がさらに促進される。
【0042】
式(2)および(3)で示されるエステル化合物としては、以下に示すものを用いることができる。エチレングリコールジステアレート、ブタンジオールジベヘネート、ブタンジオールジステアレート、エチレングリコールアラキジネートステアレート、トリメチレングリコールアラキジネートステアレート、エチレングリコールステアレートパルミテート、トリメチレングリコールステアレートパルミテート、エチレングリコールジパルミテート、トリメチレングリコールジパルミテート、エチレングリコールジマルガレート、トリメチレングリコールジマルガレート、エチレングリコールジノナデカネート、トリメチレングリコールジノナデカネート、エチレングリコールジアラキジネート、トリメチレングリコールジアラキジネート、エチレングリコールジベヘネート、トリメチレングリコールジベヘネート。これらのジエステル化合物の中でも、エチレングリコールジステアレートを好適に用いることができる。
【0043】
トナー粒子におけるエステル化合物の含有割合は、低温定着性の観点から、結着樹脂に対して5.0質量%以上25.0質量%以下であることが好ましい。また、画像の色味とグロスの低下を制御しやすくなることから、トナー粒子におけるエステル化合物の含有割合は、結着樹脂に対して10.0質量%以上20.0質量%以下であることがより好ましい。本発明に係るトナーは、上記のエステル化合物を単独で用いても、その他の可塑剤と併用して用いてもよい。
【0044】
また、走査型透過電子顕微鏡で観察されるトナー粒子の断面に、エステル化合物のドメインが存在し、前記断面における前記ドメインの平均個数が100個以上あり、前記ドメインの平均長径をr1(μm)としたとき、r1が1.0μm以下であることが好ましい。これにより、トナーが低温定着性に優れ、かつ画像の色味ムラの抑制に効果があることを本発明者らは見出した。
【0045】
トナー粒子の断面に存在するドメインの平均個数を100個以上、かつドメインの平均長径r1(μm)を1.0μm以下に制御することで、エステル化合物の配向成長を十分に抑制し、トナー全体にわたってエステル化合物を微分散させることができる。これにより、定着時には、液体化したエステル化合物が結着樹脂を均一に可塑化することで低温定着性を向上させることができる。また、エステル化合物と結着樹脂とが均一に相溶することでエステル化合物の染み出しを抑制し、画像の色味ムラの発生を抑制することができる。
【0046】
さらに、定着後の冷却によってエステル化合物が再結晶化する際には、エステル化合物がトナー粒子中に分散して存在しているため、配向して粗大な結晶に成長することが抑制される。これにより画像を長期的に放置したときのグロスの低下も抑制することができる。
【0047】
トナー粒子の断面におけるエステル化合物のドメイン数およびドメインの平均長径r1は、例えば、トナーの製造おいて冷却工程を導入することによって制御することができる。
【0048】
<架橋剤>
結着樹脂は、架橋剤に由来する構造を有していてもよい。
架橋剤の例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、およびこれらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジメタクリレート、およびジエチレングリコールジメタクリレート等の2個以上の水酸基を持つアルコールに炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸が2つ以上エステル結合したエステル化合物;N,N-ジビニルアニリン、およびジビニルエーテル等のジビニル化合物;3個以上のビニル基を有する化合物;等を挙げることができる。
【0049】
このような架橋剤の中でも、架橋後に下記式(4)で示されるユニットとなる構造を有する架橋剤が好ましい。特に、スチレン―アクリル系樹脂が、下記式(4)で示されるユニットを有することが好ましい。
【化10】
(式(4)中、m+nは2以上の整数であり、R
6およびR
9はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を示し、R
7およびR
8はそれぞれ独立して炭素数2以上12以下の直鎖または分岐鎖を有する炭化水素基を示す。)
【0050】
架橋後に式(4)で示されるユニットとなる構造を有する架橋剤は、分子構造が直鎖状に近く、かつ分子鎖が長いために、溶融時に結着樹脂の分子が運動しやすいという特徴がある。これにより、エステル化合物による可塑化が均一に行われ、溶融トナーの粘度にムラが生じにくくなるため、モトルを抑制することができる。なお、モトルとは、定着時にトナーの溶融粘度が低すぎることで、紙の凹凸の影響が出てガサついた画像になることである。定着時に、エステル化合物の結着樹脂へ可塑化が局所的におこり、一部の溶融粘度が下がることで発生する。
【0051】
結着樹脂中の式(4)で表されるユニットの含有割合は、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0052】
<着色剤>
本発明において、トナー粒子は着色剤を含有していてもよい。例えば、モノクロトナーを作製する場合は磁性体、カラートナーを作製する場合、ブラック、シアン、イエロー、マゼンタの着色剤を用いることができる。
磁性体としては、マグネタイト、マグヘマイト、フェライト等の酸化鉄;鉄、コバルト、ニッケルのような金属、またはこれらの金属とアルミニウム、銅、マグネシウム、スズ、亜鉛、ベリリウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウムのような金属の合金およびそれらの混合物等が挙げられる。
【0053】
磁性体には必要に応じて公知の表面処理を行ってもよい。磁性体の表面処理において使用できるカップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等が挙げられる。
【0054】
ブラック着色剤としては、例えば、カーボンブラック、チタンブラック、並びに酸化鉄亜鉛および酸化鉄ニッケル等の磁性粉等を用いることができる。
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、その誘導体、およびアントラキノン化合物等が利用できる。具体的には、C.I.ピグメントブルー2、3、6、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、17:1、および60等が挙げられる。
イエロー着色剤としては、例えば、モノアゾ顔料およびジスアゾ顔料等のアゾ系顔料、縮合多環系顔料等の化合物が用いられる。具体的には、C.I.ピグメントイエロー3、12、13、14、15、17、62、65、73、74、83、93、97、120、138、155、180、181、185、186、および213等が挙げられる。
マゼンタ着色剤としては、例えば、モノアゾ顔料、およびジスアゾ顔料等のアゾ系顔料、縮合多環系顔料等の化合物が用いられる。具体的には、C.I.ピグメントレッド31、48、57:1、58、60、63、64、68、81、83、87、88、89、90、112、114、122、123、144、146、149、150、163、170、184、185、187、202、206、207、209、237、238、251、254、255、269およびC.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
各着色剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0055】
<離型剤>
トナー粒子は離型剤を含有していてもよい。離型剤としては、スチレン―アクリル系樹脂に対して相分離性が高く、離形効果が高いため炭化水素ワックスが好ましい。
炭化水素ワックスとしては、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスのような脂肪族炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックスのような脂肪族炭化水素ワックスの酸化物またはそれらのブロック共重合物;脂肪族炭化水素ワックスにスチレンやアクリル酸のようなビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス類等が挙げられる。
トナー粒子における炭化水素ワックスの含有割合は、結着樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上20.0質量部以下であることが好ましい。
【0056】
<極性樹脂>
トナー粒子は、極性樹脂を含有していてもよい。極性樹脂としては、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。極性樹脂としてポリエステル系樹脂を用いることで、ポリエステル系樹脂がトナー粒子の表面に偏在してシェルを形成した際に、高い耐熱性を得ることができる。
【0057】
ポリエステル系樹脂としては、アルコールモノマーとカルボン酸モノマーとの縮重合体が挙げられる。該アルコールモノマーとしては、以下のものが挙げられる。
ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.0)-ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、1,2,3,6-ヘキサンテトロール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、2-メチルプロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼン。
【0058】
一方、カルボン酸モノマーとしては、以下のものが挙げられる。
フタル酸、イソフタル酸およびテレフタル酸のような芳香族ジカルボン酸類またはその無水物;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸のようなアルキルジカルボン酸類またはその無水物;炭素数6以上18以下のアルキル基またはアルケニル基で置換されたコハク酸またはその無水物;フマル酸、マレイン酸およびシトラコン酸のような不飽和ジカルボン酸類またはその無水物。
【0059】
また、その他にもポリエステル系樹脂を得るためのモノマーとして、以下の化合物を使用することが可能である。
トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸やその無水物等の多価カルボン酸類。
【0060】
トナー粒子における極性樹脂の含有割合は、結着樹脂または結着樹脂を生成する重合性単量体100.0質量部に対して1.0質量部以上20.0質量部以下であることが好ましく、2.0質量部以上10.0質量部以下であることがより好ましい。また、極性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、耐熱性の観点から60.0℃以上90.0℃未満であることが好ましい。
【0061】
以下、本発明に係るトナーの製造方法について、詳しく記載する。
本発明に係るトナーの製造方法は、特に限定されず、乾式製法(例えば、混練粉砕法等)、湿式製法(例えば、乳化凝集法、懸濁重合法、溶解懸濁法等)のいずれを用いてもよい。これらの中でも、懸濁重合法を用いることが好ましい。
【0062】
以下、懸濁重合法について詳細に説明する。
<重合性単量体組成物の調製工程>
スチレン―アクリル系共重合体を含有する結着樹脂を生成し得る重合性単量体、および、エステル化合物、必要に応じて架橋剤、着色剤、離型剤、極性樹脂等の他の成分を混合し、重合性単量体組成物を調製する。
なお、着色剤は予め媒体撹拌ミル等で重合性単量体または有機溶媒中に分散させた後に他の組成物成分と混合してもよいし、全ての組成物成分を混合した後に分散させてもよい。
【0063】
<重合性単量体組成物の粒子の造粒工程>
分散安定剤を含む水系媒体を調製し、クレアミックス(エム・テクニック(株)社製)等の高剪断力を有する撹拌機を設置した撹拌槽等に投入する。ここに重合性単量体組成物を添加し、撹拌することによりこれを分散させ、水系媒体中に重合性単量体組成物の粒子を形成する。分散安定剤としては、公知の界面活性剤や有機分散剤、無機分散剤を使用することができるが、無機分散剤は重合温度や時間経過によっても安定性が崩れにくく、洗浄も容易でトナーに影響を与えにくいため、好適に使用することができる。
【0064】
該無機分散剤としては、以下のものが挙げられる。
リン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛のようなリン酸多価金属塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムのような炭酸塩;メタ硅酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのような無機塩;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム;シリカ、ベントナイト、アルミナのような無機酸化物。
無機分散剤は、重合終了後に酸またはアルカリを加えて溶解することにより、ほぼ完全に取り除くことができる。
【0065】
<重合工程>
得られた重合性単量体組成物の粒子に含まれる重合性単量体を重合し、樹脂粒子分散液を得る。重合性単量体を重合することで結着樹脂が生成される。重合工程では、温度調節可能な一般的な撹拌槽を用いることができる。
重合温度は、40℃以上であることが好ましく、50℃以上90℃以下であることがより好ましい。重合温度は終始一定でもよいが、所望の分子量分布を得る目的で重合工程後半に昇温してもよい。撹拌に用いられる撹拌翼は、樹脂粒子分散液を滞留させることなく浮遊させ、かつ槽内の温度を均一に保てるようなものならばどのようなものを用いてもよい。
【0066】
<揮発成分の除去工程>
重合工程が終了した樹脂粒子分散液中から未反応の重合性単量体等を除去するために、揮発成分除去工程を行ってもよい。揮発成分除去工程は、撹拌手段が設置された撹拌槽で樹脂粒子分散液を加熱、撹拌することによって行う。揮発成分除去工程時の加熱条件は、重合性単量体等の除去したい成分の蒸気圧を考慮し適宜調節される。揮発成分除去工程は常圧または減圧下で行うことができる。
【0067】
<冷却工程>
揮発成分除去工程が終了した樹脂粒子分散液を次の工程に送る前に、液温を下げるために冷却工程を行うとよい。冷却工程の条件によって、トナー中のエステル化合物の存在状態を変化させることができる。
【0068】
冷却の条件は、冷却開始温度、冷却速度、冷却終了温度によって決めることができる。冷却開始温度は、結着樹脂中でのエステル化合物の結晶化温度より高い任意の温度とすることが好ましい。さらに、90℃以上であると結着樹脂が十分に軟化しており、液体化したエステル化合物と十分に相溶した状態であるため好ましい。そのような状態から、結着樹脂のTg以下の温度へ急速に冷却すると、冷却に伴う結着樹脂の硬化が十分に速いために、配向成長しやすいエステル化合物でも結晶化温度付近で結晶となり、微細なドメインとしてトナー全体に微分散させることができる。
【0069】
冷却速度は20℃/分以上が好ましく、60℃/分以上であることがより好ましい。また、冷却終了温度は結着樹脂のガラス転移温度(Tg)以下とすることが好ましい。冷却終了温度が該範囲であると、結着樹脂の硬化によりエステル化合物のドメインの成長を抑制することができる。
また、エステル化合物のドメインの存在状態はトナー粒子の断面を走査型透過電子顕微鏡で観察することにより確認することができる。
【0070】
<固液分離工程、洗浄工程、および乾燥工程>
トナー粒子の表面に付着した分散安定剤を除去する目的で、トナー粒子分散液を酸またはアルカリで処理してもよい。トナー粒子から分散安定剤を除去した後、一般的な固液分離法によりトナー粒子を水系媒体と分離するが、酸またはアルカリ、およびそれらに溶解した分散安定剤成分を完全に取り除くため、再度水を添加してトナー粒子を洗浄することが好ましい。この洗浄工程を何度か繰り返し、十分な洗浄が行われた後に、再び固液分離してトナー粒子を得ることができる。得られたトナー粒子は必要であれば公知の乾燥手段により乾燥してもよい。
得られたトナー粒子の重量平均粒径は3μm以上10μm以下であることが好ましく、4μm以上8μm以下であることがより好ましい。トナー粒子の重量平均粒径は、造粒工程に用いる分散安定剤の添加量により制御することができる。
【0071】
<外添工程>
得られたトナー粒子に対して、流動性や帯電性、ブロッキング性等を向上させる目的で、外添剤を添加してもよい。外添工程は、外添剤とトナー粒子とを、FMミキサ(日本コークス工業(株)社製)等の混合装置に入れ、十分混合することによって行う。
【0072】
外添剤としては、一次粒子の個数平均粒径が、4nm以上80nm以下の無機微粒子が例示でき、6nm以上40nm以下の無機微粒子が好適に例示できる。
【0073】
無機微粒子は、疎水化処理を施すことで、トナーの帯電性および環境安定性をより向上させることができる。疎水化処理に用いる処理剤としては、シリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、シリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シラン化合物、シランカップリング剤、その他有機硅素化合物、有機チタン化合物等が挙げられる。処理剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0074】
無機微粒子としては、シリカ微粒子、酸化チタン微粒子、アルミナ微粒子等が挙げられる。シリカ微粒子としては、例えば、ケイ素ハロゲン化物の蒸気相酸化により生成された、いわゆる乾式法またはヒュームドシリカと称される乾式シリカ、および水ガラス等から製造されるいわゆる湿式シリカの両者が使用可能である。
【0075】
トナーにおける無機微粒子の含有量は、トナー粒子100.0質量部に対して、0.1質量部以上5.0質量部以下であることが好ましい。
【0076】
以下、トナーの各物性の測定方法を説明する。
<トナーから結着樹脂およびエステル化合物を分離する方法 >
トナーをテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、得られた可溶分から溶媒を減圧留去して、トナーのテトラヒドロフラン(THF)可溶成分を得る。得られたトナーのテトラヒドロフラン(THF)可溶成分をクロロホルムに溶解し、濃度25mg/mlの試料溶液を調製する。得られた試料溶液3.5mlを、以下の装置に注入し、以下に示す条件で、分子量2000未満のエステル化合物由来の低分子量成分と、分子量2000以上の結着樹脂由来の高分子量成分とを分取する。分取の条件は以下の通りである。
分取GPC装置:分取HPLC(商品名:LC-980型、日本分析工業(株)社製)
分取用カラム:JAIGEL 3H、JAIGEL 5H(日本分析工業(株)社製)
溶離液:クロロホルム
流速:3.5mL/min
分取した後、溶媒を減圧留去し、さらに90℃雰囲気中、減圧下で24時間乾燥する。
【0077】
<質量分析によるエステル化合物の分子量測定>
・トナーからのエステル化合物の分離
エステル化合物の分子量は、トナーのままでも測定可能であるが、分離操作を行った後に測定することがより好ましい。
【0078】
トナーに対して貧溶媒であるエタノールにトナーを分散させ、エステル化合物の融点を超える温度まで昇温させる。この時必要に応じて加圧してもよい。この操作により融点を超えたエステル化合物は、エタノール中に溶融・抽出されている。加温に加えて加圧している場合は、加圧したまま固液分離することにより、トナーからエステル化合物を分離できる。
【0079】
次いで、抽出液を乾燥・固化することによりエステル化合物を得る。
・熱分解GCMSによるエステル化合物の同定と分子量測定
質量分析装置:ThermoFisherScinetific社製 ISQ
GC装置:ThermoFisherScinetific社製 FocusGC
イオン源温度:250℃
イオン化方法:EI
質量範囲: 50-1000m/z
カラム:HP-5MS[30m]
熱分解装置:日本分析工業(株)製 JPS-700
590℃のパイロホイルに、抽出操作により分離したエステル化合物少量と水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)1μLとを加える。作製したサンプルについて上記条件で熱分解GCMS測定を実施し、エステル化合物由来のアルコール成分およびカルボン酸成分のそれぞれについてのピークを得る。メチル化剤であるTMAHの作用によりアルコール成分およびカルボン酸成分はメチル化物として検出される。得られたピークを解析し、エステル化合物の構造を同定することにより分子量を決定することができる。
【0080】
・直接導入法によるエステル化合物の同定と分子量測定
質量分析装置:ThermoFisherScinetific社製 ISQ
イオン源温度:250℃ 電子エネルギー:70eV
質量範囲:50-1000m/z(CI)
Reagent Gas :メタン(CI)
イオン化方法:ThermoFisherScinetific社製 Direct Exposure Probe DEP、0mA(10sec)‐10mA/sec‐1000mA(10sec)
抽出操作により分離したエステル化合物をDEPユニットのフィラメント部分に直接載せて測定する。得られたクロマトグラムの0.5分~1分付近の主成分ピークのマススペクトルの分子イオンを確認し、エステル化合物を同定するとともに、分子量を決定する。
【0081】
<トナー中のエステル化合物の含有量の測定方法>
トナー中のエステル化合物の含有量Xは、熱分析装置(商品名:DSC Q2000、TAインスツルメント・ジャパン(株)社製)を用いて測定することができる。
まず、トナー試料約5.0mgをアルミニウム製パン(KITNO.0219-0041)の試料容器に入れ、試料容器をホルダーユニットにのせ、電気炉中にセットする。
窒素雰囲気下、30℃~200℃まで昇温速度10℃/分で加熱して示差走査熱量計(DSC)によりDSC曲線を計測し、トナー試料中のエステル化合物の吸熱量を算出する。また、エステル化合物単体試料約5.0mgを用いて同様な方法により吸熱量を算出する。そして、それぞれの測定で得られたエステル化合物の吸熱量を用いて、下記式(II)によりエステル化合物の含有量を求める。
トナー中のエステル化合物の含有量X(質量%)=(トナー試料中のエステル化合物の吸熱量(J/g))/(エステル化合物単体の吸熱量(J/g))×100 (II) なお、上記のようにして求めた、トナー中のエステル化合物の質量と分子量により、モル数を求めることができる。
【0082】
<結着樹脂の組成分析>
・トナーからの結着樹脂の分離方法
トナー100mgをクロロホルム3mLに溶解する。次いで、サンプル処理フィルター(ポアサイズ0.2μm以上0.5μm以下、例えば、マイショリディスクH-25-2(東ソー(株)社製)等を使用)を取り付けたシリンジで吸引ろ過することで不溶分を除去する。
分取HPLC(装置:日本分析工業(株)製 LC-9130 NEXT、分取カラム[60cm] 排除限界:20000、70000 2本連結)に可溶分を導入しクロロホルム溶離液を送液する。得られるクロマトグラフの表示でピークが確認できたら、単分散ポリスチレン標準試料で分子量2000以上となるリテンションタイムの画分を分取する。得られた画分の溶液を乾燥および固化し、結着樹脂を得て重量を算出する
【0083】
・核磁気共鳴分光法(NMR)による組成比および重量比の測定
トナー20mgに重クロロホルム1mLを加え、溶解した結着樹脂のプロトンのNMRスペクトルを測定する。得られたNMRスペクトルから各モノマーのモル比および重量比を算出し、スチレンに由来するユニットの含有割合を求めることができる。例えば、スチレンーアクリル共重合体の場合はスチレンモノマーに由来する6.5ppm付近のピークと3.5-4.0ppm付近のアクリルモノマーに由来するピークとをもとに、組成比と重量比を算出することができる。
なお、上記のようにして求めたトナー中の結着樹脂の重量と重量比、および組成から算出できる分子量とにより、式(1)で表されるユニットのモル数を求めることができる。
【0084】
また、例えば、トナーの結着樹脂として一般的に知られているポリエステル樹脂をトナーが含有する場合には、次のようにしてスチレンに由来するユニットの含有割合を求めることができる。すなわち、ポリエステル樹脂を構成する各モノマーに由来するピークと、スチレンーアクリル共重合体に由来するピークとを併せてモル比および重量比を算出する。
NMR装置:日本電子(株)製 RESONANCE ECX500
観測核:プロトン
測定モード:シングルパルス
【0085】
<重量平均粒径(D4)の測定方法>
トナーあるいはトナー粒子の重量平均粒径(D4)は以下のようにして算出することができる。
測定装置としては、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター(株)社製)を用いる。
測定条件の設定および測定データの解析は、付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター(株)社製)を用いる。なお、測定は実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで行う。
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が1.0%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター(株)社製)が使用できる。
【0086】
なお、測定、解析を行う前に、以下のように専用ソフトの設定を行う。
専用ソフトの「標準測定方法(SOMME)を変更」画面において、コントロールモードの総カウント数を50,000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター(株)社製)を用いて得られた値を設定する。「閾値/ノイズレベルの測定ボタン」を押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1,600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、「測定後のアパーチャーチューブのフラッシュ」にチェックを入れる。
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定」画面において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μmから60μmまでに設定する。
【0087】
具体的な測定法は以下のとおりである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250mL丸底ビーカーに電解水溶液200.0mLを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、専用ソフトの「アパーチャーチューブのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100mL平底ビーカーに電解水溶液30.0mLを入れる。この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10%水溶液、和光純薬工業(株)社製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を0.3mL加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispersion System Tetra150」(日科機バイオス(株)社製)を準備する。超音波分散器の水槽内に3.3Lのイオン交換水を入れ、この水槽中にコンタミノンNを2.0mL添加する。
(4)上記(2)のビーカーを上記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)上記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナーあるいはトナー粒子10mgを少量ずつ上記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。なお、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となるように適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した上記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナーあるいはトナー粒子を分散した上記(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50,000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の専用ソフトにて解析を行ない、重量平均粒径(D4)を算出する。なお、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、「分析/体積統計値(算術平均)」画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。
【0088】
<走査型透過電子顕微鏡におけるトナー粒子の断面の観察>
トナー粒子中のエステル化合物のドメインは、走査型透過電子顕微鏡を用いてトナー粒子の断面を観察することにより確認する。
走査型透過電子顕微鏡を用いたトナー粒子の断面画像において、エステル化合物はドメインとして観察される。このエステル化合物のドメインの個数および形状を計測することにより、エステル化合物の存在状態を特定する。
トナー粒子の断面の観察手順は以下の通りである。
トナー粒子を可視光硬化性包埋樹脂(商品名:D-800、日新EM(株)社製)で包埋し、超音波ウルトラミクロトーム(商品名:UC7、ライカマイクロシステムズ(株)社製)により70nm厚に切削する。
得られた薄片サンプルのうち、トナー粒子の断面の直径が重量平均粒径(D4)±2.0μm以内のものを任意に10個選択する。
選択された薄片サンプルを、真空染色装置(商品名:VSC4R1H、フィルジェン(株)社製)を用いて、RuO4ガス500Pa雰囲気で15分間染色する。その後、走査型透過電子顕微鏡(商品名:JEM2800、日本電子(株)社製)の走査像モードを用いて、STEM画像を作成する。
【0089】
STEMのプローブサイズは1nm、画像サイズ1024×1024pixelにて、以下の条件に調整してSTEM画像を取得する。
明視野像のDetector Controlパネル
Contrast:1425
Brightness:3750
Image Controlパネル
Contrast:0.0
Brightness:0.5
Gammma:1.00
得られたSTEM画像は、画像処理ソフト「Image-Pro Plus (Media Cybernetics社製)」にて2値化(閾値120/255段階)を行い、エステル化合物のドメインと結着樹脂の領域との区別を明確化する。
2値化の閾値を210とした場合に白く見える部分がエステル化合物のドメインである。
【0090】
<エステル化合物のドメインの同定>
離型剤を含有しているトナーでは、STEM画像上で離形剤のドメインがエステル化合物のドメインと同様に白く見える場合がある。このような場合、以下の手順によりドメインの同定を行う。
結晶性材料を原材料として入手できる場合、それらの結晶構造を、上述のルテニウム染色処理された透過型電子顕微鏡におけるトナー粒子断面の観察方法と同様にして、観察し、離型剤およびエステル化合物それぞれの結晶のラメラ構造の画像を得る。それらと、トナー粒子の断面におけるドメインのラメラ構造とを比較し、ラメラの層間隔が誤差10%以下であった場合、トナー粒子の断面におけるドメインを形成している原材料を特定することができる。
【0091】
<エステル化合物のドメインの平均個数および平均長径の算出方法>
選択された10個のトナー粒子の断面のSTEM画像において、各々のエステル化合物のドメイン数をカウントし、その平均値をドメインの平均個数とする。
また、選択された10個のトナー粒子の断面のSTEM画像において、各々に含まれるドメインの最大径をすべて計測し、その平均値をドメインの平均長径r1(μm)とする。
【実施例】
【0092】
以下、実施例および比較例を用いて本発明のトナーを詳細に説明する。なお、以下の実施例の記載において、「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0093】
<磁性体1の製造>
Fe2+を2.0mol/L含有する硫酸鉄第一水溶液50リットルに、4.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液55Lを混合して撹拌し、水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液を得た。この水溶液を85℃に保ち、20L/minで空気を吹き込みながら酸化反応を行い、コア粒子を含むスラリーを得た。
得られたスラリーをフィルタープレスにてろ過し、洗浄した後、コア粒子を水中に再度分散させ、リスラリーした。このリスラリー液に、コア粒子100.0部あたり珪素換算で0.2質量%となる珪酸ソーダを添加し、スラリー液のpHを6.0に調整し、撹拌することで珪素リッチな表面を有する磁性酸化鉄粒子を得た。
【0094】
得られたスラリーをフィルタープレスにてろ過し、洗浄した後、さらにイオン交換水にてリスラリーを行った。このリスラリー液(固形分50g/L)に500.0部(磁性酸化鉄に対して10.0質量%)のイオン交換樹脂(商品名:SK110、三菱化学(株)社製)を投入し、2時間撹拌してイオン交換を行った。その後、イオン交換樹脂をメッシュでろ過して除去し、フィルタープレスにてろ過し、洗浄した後、乾燥および解砕して個数平均粒径が0.23μmの磁性酸化鉄を得た。
【0095】
次に、表面処理剤の調製を行った。iso-ブチルトリメトキシシラン30.0部をイオン交換水70.0部に撹拌しながら滴下した。その後、この水溶液をpH5.5、温度55℃に保持し、ディスパー翼を用いて、周速0.46m/sで120分間分散させて加水分解を行った。その後、水溶液のpHを7.0とし、10℃に冷却して加水分解反応を停止させた。こうしてシラン化合物を含有する水溶液を得た。
【0096】
磁性酸化鉄100.0部をハイスピードミキサー(商品名:LFS-2型、深江パウテック(株)社製)に入れ、回転数2000rpmで撹拌しながら、シラン化合物を含有する水溶液8.0部を2分間かけて滴下した。その後5分間混合および撹拌した。次いで、シラン化合物の固着性を高めるために、40℃で1時間乾燥し、水分を減少させた後に、混合物を110℃で3時間乾燥し、シラン化合物の縮合反応を進行させた。その後、解砕し、目開き100μmの篩を通して磁性体1を得た。
【0097】
<トナー1の製造>
イオン交換水720部に0.1mol/L-Na
3PO
4水溶液450部を投入して温度60℃に加温した後、1.0mol/L-CaCl
2水溶液67.7部を添加し、分散安定剤を含む水系媒体を得た。 続いて、以下の材料を用意した。
・スチレン 81.0部
・n-ブチルアクリレート 14.0部
・n-ラウリルアクリレート 5.0部
・下記式(5)で表される架橋剤 1.5部
【化11】
(式(5)中、R
10およびR
13は水素原子であり、R
11およびR
12はイソプロピル基、m+nは7である。)
・磁性体1 65.0部
・極性樹脂(ポリエステル樹脂、酸価:8.0mgKOH/g、ガラス転移温度:69℃、重量平均分子量:9500) 4.0部
【0098】
これらの材料をアトライター(日本コークス工業(株)社製)を用いて均一に分散混合した。得られた単量体組成物を温度60℃に加温し、そこに以下の材料を混合および溶解し、重合性単量体組成物とした。
・エチレングリコールジステアレート 15.0部
・炭化水素ワックス(フィッシャートロプッシュワックス、融点77℃、) 5.0部
・重合開始剤(t-ブチルパーオキシピバレート(25%トルエン溶液)) 9.0部
上記で得た水系媒体中に重合性単量体組成物を投入し、温度60℃、窒素雰囲気下においてクレアミックス(エム・テクニック(株)社製)にて15000回転/分を維持しつつ10分間の造粒工程を行った。
【0099】
その後、パドル攪拌翼で攪拌し、反応温度70℃にて300分間重合反応を行った。反応終了後、懸濁液を100℃まで昇温させ、2時間保持した。その後、冷却工程として、懸濁液に0℃の水を投入し、60℃/分の速度で懸濁液を98℃から30℃まで冷却した。その後、懸濁液に塩酸を加えて十分洗浄することで分散安定剤を溶解させ、濾過・乾燥してトナー粒子1を得た。
【0100】
続いて、100.0部のトナー粒子1に、一次粒子の個数平均粒径が115nmのゾルゲルシリカ微粒子を0.3部添加し、FMミキサ(日本コークス工業(株)社製)を用い混合した。
また、一次粒子の個数平均粒径が12nmのシリカ微粒子にシリコーンオイルで処理し、処理後のBET比表面積値が120m2/gの疎水性シリカ微粒子を用意した。この疎水性シリカ微粒子0.9部を、さらにトナー粒子1に添加し、同様にFMミキサ(日本コークス工業(株)社製)を用い混合し、トナー1を得た。
【0101】
<トナー2~4、6~23および25~26の製造>
トナー1の製造において、用いる材料の種類および部数を表1に記載の通りに変更した。さらに、トナー17、25、および26の製造においては、冷却工程を行わず、室温で12時間放置することで懸濁液の温度を98℃から30℃まで低下させた。この時の冷却速度は0.09℃/分であった。それ以外はトナー1と同様にして、トナー2~4、6~23および25~26を得た。
【0102】
<トナー5の製造>
トナー1の製造において、スチレン、n-ブチルアクリレート、n-ラウリルアクリレートの量を表1に示すように変更した。また、単量体組成物中に低分子量ポリスチレン10.0部(ガラス転移温度:55℃、重量平均分子量:3000)を添加した。それ以外はトナー1と同様にして、トナー5を得た。
【0103】
<トナー24の製造>
以下の材料を用意した。
・スチレン 72.0部
・n-ブチルアクリレート 18.0部
・n-ラウリルアクリレート 10.0部
・低分子量ポリスチレン(ガラス転移温度:55℃、重量平均分子量:3000) 4.0部
・1,6-ヘキサンジオールジアクリレート 0.7部
・銅フタロシアニン顔料(C.I.ピグメントブルー15:3) 5.0部
・サリチル酸アルミニウム化合物(商品名:ボントロンE-88、オリエント化学社製) 0.7部
・極性樹脂(ポリエステル樹脂、酸価:3.9mgKOH/g、ガラス転移温度:69℃、重量平均分子量:9500) 4.0部
・極性樹脂(スチレンメタクリル樹脂、酸価:10mgKOH/g、ガラス転移温度:80℃、重量平均分子量:15000) 4.0部
・エチレングリコールジステアレート 15.0部
これらの材料を混合し、重合性モノマーの混合物を調製した。これに15mmのセラミックビーズを入れ、湿式アトライター(日本コークス工業(株)社製)を用いて2時間分散して、重合性モノマー組成物を得た。
【0104】
一方、イオン交換水414.0部にリン酸ナトリウム(Na3PO4)6.3部を投入し、クレアミックス(エム・テクニック(株)社製)を用いて撹拌しながら、60℃に加温した。
その後、3.6部の塩化カルシウム(CaCl2)を25.5部のイオン交換水に溶解した塩化カルシウム水溶液を添加してさらに撹拌を続け、リン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)からなる分散安定剤を含む水系媒体を調製した。
上記で調製した重合性モノマー組成物に、重合開始剤であるt-ブチルパーオキシピバレート(25%トルエン溶液)9.0部を添加し、これを上記で調製した水系媒体に投入した。クレアミックス(エム・テクニック(株)社製)にて15000回転/分を維持しつつ10分間の造粒工程を行った。
その後、パドル攪拌翼で攪拌しながら70℃を保持して8時間重合を行うことによってトナー粒子分散液を得た。
その後、反応容器に、発生する揮発成分が反応容器に戻らないようにするため、反応容器の上方に一般的なガラス製のトラップ球を取り付け、撹拌槽の温度を98℃に加温し、5時間保持することで、揮発成分の除去工程を行った。
その後、撹拌を続けながら、トナー粒子分散液が室温になるまで放冷した。
【0105】
トナー分散液が室温になった後、塩酸を添加し、pHを1.4以下として分散安定剤を溶解し、ろ過、洗浄、および乾燥を行うことによってトナー粒子24を得た。
得られたトナー粒子100.0部に、疎水性酸化チタンを0.3部加え、FMミキサ(日本コークス工業社製)で混合した。さらに、疎水性シリカを1.5部加え、FMミキサで混合し、外添剤が添加されたトナー24を得た。
【0106】
【0107】
表1中の略語の意味は、それぞれ以下の通りである。
n-BA:n-ブチルアクリレート
n-LA:n-ラウリルアクリレート
n-OA:n-オクチルアクリレート
n-MA:n-ミリスチルアクリレート
LM-PS:低分子量ポリスチレン
EDGS:エチレングリコールジステアレート
EDGBe:エチレングリコールジベヘネート
BDODBe:ブタンジオールジベヘネート
CW:カルナバワックス
1,6-HDODA:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート
DVB:ジビニルベンゼン
また、表1中の「長鎖アクリレート」は、結着樹脂の形成に用いた長鎖アルキル基を有するアクリレート化合物を指す。
【0108】
上記で製造したトナー1~26について、エステル化合物に対する結着樹脂中の長鎖アルキル基を有するアクリレートユニットのモル比、およびトナー粒子中のエステル化合物のドメインの平均個数と平均長径r1を表2に示す。
【0109】
【0110】
<評価>
HP製レーザービームプリンターHP LaserJet Pro M501dnを改造して評価用電子写真装置とした。改造点としてはプロセススピードを1.5倍となるようにした。
また、プロセスカートリッジはCF287Xを改造して用いた。改造点としては、プロセスカートリッジ内にトナー供給部材8を
図1に示すように設置し、トナー供給部材8の回転方向R3が、トナー担持体7の回転方向R2と逆回転となるようにした。トナー担持体7と、電子写真感光体とを当接させ、当接部の幅が1.0mmとなるように当接圧を調整した。このプロセスカートリッジに備えられた、トナー撹拌部材20を有するトナー容器9にトナー19充填し、以下に示す評価を行った。
なお、上記で製造したトナー1~
8を用いた場合をそれぞれ実施例1~
8とし、
トナー9~17を用いた場合をそれぞれ参考例1~9とし、トナー18~26を用いた場合を比較例1~9とした。
【0111】
<低温定着性>
低温定着性の評価は、常温常湿環境(温度25.0℃、相対湿度50%)で行った。
評価用電子写真装置中の定着器の定着温度を任意に設定できるように改造した。この装置を用いて、定着器の温度180℃以上280℃以下の範囲で5℃おきに温調して、メディアとしてラフ紙であるFOX RIVER BOND紙(110g/m2)を用い、印字比率100%のベタ黒画像を3枚出力した。このとき3枚目のベタ画像部に白抜け部分が存在するか否かを目視で評価し、白抜け部分が発生しない最も低い温度をもって、以下の基準により低温定着性を評価した。評価結果を表3に示す。
A:200℃未満
B:200℃以上210℃未満
C:210℃以上220℃未満
D:220℃以上
【0112】
<定着画像のモトル>
評価用電子写真装置の定着温度を、上述の低温定着性評価で得られた最低定着温度よりも10℃高い温度に設定した。メディアとしてラフ紙であるFOX RIVER BOND紙(110g/m2)を用いて、ベタ画像を100枚印刷した。得られた画像のモトルを目視で確認し、以下の基準により評価した。評価結果を表3に示す。
A:100枚全てにモトル発生箇所無し。
B:100枚中、1~3枚にモトル発生箇所有り。
C:100枚中、4~9枚にモトル発生箇所有り。
D:100枚中、10枚以上にモトル発生箇所有り。
【0113】
<ベタ画像の色味ムラ>
評価用電子写真装置の定着温度を、上述の低温定着性評価で得られた最低定着温度よりも10℃高い温度に設定し、メディアとしてoffice70(キヤノン社製)を用い、両面印刷モードでベタ画像を連続で200枚印刷を行った。排紙部分から排紙された紙束は積載された状態で30分放置し、室温まで自然冷却した。このようすることで、印刷紙が冷却される速度を緩やかになり、定着後、トナー中のエステル化合物が配向成長しやすく、より色味ムラに厳しい評価となる。積載された紙束は、100枚目付近が最も保温されやすく、色味ムラが悪化しやすい。このため、紙束の中央にある100枚目のベタ画像に対して、紙の上端部、中央部、下端の計9点におけるL*a*b*空間(CIE1976)の座標b*値を、測色計を用いて測定した。9点のb*値のうち、最大値と最小値の差分をΔb*とし、以下の基準により色味ムラを評価した。評価結果を表3に示す。
A:Δb*値が1.0未満
B:Δb*値が1.0以上2.0未満
C:Δb*値が2.0以上3.0未満
D:Δb*値が3.0以上
【0114】
<放置画像のグロスの低下>
評価用電子写真装置の定着温度を、上述の低温定着性評価で得られた最低定着温度よりも10℃高い温度に設定した。メディアとして光沢紙(HP Brochure Paper 200g, Glossy、HP社製、200g/m2)を用い、グロス紙モード(1/3速)でベタ画像を印刷した。このベタ画像を、ハンディ光沢度計グロスメーターPG-3D(日本電色工業社製)を用いて、光の入射角75°の条件にて画像の任意の点3カ所のグロス値を測定し、その平均値を初期グロス値G1とした。その後、高温常湿環境(温度30.0℃、相対湿度50%)に画像を30日間放置し、同様にグロス値を測定し、放置後グロス値G2とした。初期グロス値G1と放置後グロス値G2の差分ΔG(=G1-G2)に基づいて、以下の基準によりグロスの低下幅を評価した。評価結果を表3に示す。
A:ΔGが5未満
B:ΔGが5以上10未満
C:ΔGが10以上15未満
D:ΔGが15以上
【0115】
【符号の説明】
【0116】
7 トナー担持体
8 トナー供給部材
9 トナー容器
17 トナー規制部材
19 トナー
20 トナー撹拌部材
R2 トナー担持体の回転方向
R3 トナー供給部材の回転方向