(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】農作業機
(51)【国際特許分類】
A01C 15/00 20060101AFI20250303BHJP
【FI】
A01C15/00 G
(21)【出願番号】P 2021120363
(22)【出願日】2021-07-21
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100181869
【氏名又は名称】大久保 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康司
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-044953(JP,A)
【文献】特開2014-010142(JP,A)
【文献】特開2010-187558(JP,A)
【文献】特開2019-106919(JP,A)
【文献】特開2015-077117(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0037599(US,A1)
【文献】特開2012-170416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を有する走行部と、
前記走行部に支持され、前記走行部の車速に基づく供給量の農用資材を圃場に供給する供給部と、
前記走行部の車輪回転数に基づいて前記走行部の第1車速を算出する第1車速算出部と、
衛星測位結果に基づいて前記走行部の第2車速を算出する第2車速算出部と、
前記第1車速又は前記第2車速の少なくとも一方に基づく車速を前記供給部に入力する車速設定部と
を備え、
前記車速設定部は、所定条件に応じて、前記第1車速又は前記第2車速のいずれか一方を選択して前記供給部に入力し、
前記車速設定部は、前記所定条件として、前記第1車速を基準にして設定される、前記第1車速より大きい上限閾値から前記第1車速より小さい下限閾値までの範囲である第1閾値幅を用い、前記第2車速が前記第1閾値幅から外れた場合、前記第1車速を選択
し、
前記上限閾値及び前記下限閾値は、前記下限閾値と前記第1車速との差分が前記上限閾値と前記第1車速との差分よりも大きくなるように設定される、農作業機。
【請求項2】
前記車速設定部は、前記所定条件として低速閾値を用い、前記第1車速が前記低速閾値未満である場合、前記第1車速を選択する、請求項1に記載の農作業機。
【請求項3】
前記車速設定部は、前記所定条件として低速閾値及び前記第1閾値幅を用い、前記第1車速が前記低速閾値以上である場合、かつ、前記第2車速が前記第1閾値幅内である場合、前記第2車速を選択する、請求項1又は2に記載の農作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
圃場に農用資材を供給する際に、その供給量を農作業機の走行速度に基づいて制御する技術が知られている。従来、農作業機の車輪の回転数を用いて走行速度を算出しているので、車輪がスリップを起こして空転している場合には、供給量の不均一化を招く。
【0003】
車輪のスリップを起因とする問題を解決するために、特許文献1に記載された農作業機は、車輪の回転数から算出した走行速度と、衛星測位データから算出した走行速度とを用いてスリップ率を算出する。算出されたスリップ率は、供給量の不均一化を回避するための動作制御の補正に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された農作業機は、衛星測位データから算出した走行速度の信頼性が低い場合に、スリップ率に基づく供給量の補正を停止する。そのため、本来補正が必要な状況において供給量の補正がなされず、圃場に適量な農用資材を供給することが困難になる。
【0006】
本発明は、衛星測位精度の低下に影響されずに、圃場に適量な農用資材を供給可能な農作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る農作業機は、走行部と、供給部と、第1車速算出部と、第2車速算出部と、車速設定部とを備える。前記走行部は、車輪を有する。前記供給部は、前記走行部に支持され、前記走行部の車速に基づく供給量の農用資材を圃場に供給する。前記第1車速算出部は、前記走行部の車輪回転数に基づいて前記走行部の第1車速を算出する。前記第2車速算出部は、衛星測位結果に基づいて前記走行部の第2車速を算出する。前記車速設定部は、前記第1車速又は前記第2車速の少なくとも一方に基づく車速を前記供給部に入力する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、衛星測位精度の低下に影響されずに、圃場に適量な農用資材を供給可能な農作業機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1に係る田植機を示す左側面図である。
【
図2】実施形態1に係る田植機の構成を示すブロック図である。
【
図3】実施形態1における第1車速と第2車速の波形を示すグラフである。
【
図4】実施形態1に係る田植機の動作例を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態2における第1車速と第2車速と第3車速の波形を示すグラフである。
【
図6】実施形態2における重み係数の例を示すグラフである。
【
図7】実施形態2に係る田植機の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0011】
<実施形態1>
図1~
図4を参照して、実施形態1に係る田植機1について説明する。
図1は、実施形態1に係る田植機1を示す左側面図である。田植機1は、農作業機の一例である。実施形態1において、田植機1の進行方向は、
図1の紙面において左方向である。なお、以下の説明では、田植機1の進行方向に向かって左側を左と称し、田植機1の進行方向に向かって右側を右と称する場合がある。
【0012】
図1に示されるように、田植機1は、走行部2と、施肥機3と、測位ユニット4と、表示部5と、植付部6と、エンジン10と、ミッションケース11と、前輪12と、後輪13と、運転座席14と、ハンドル15と、ペダル16と、ボンネット17と、ダッシュボード18とを備える。
【0013】
走行部2は、田植機1の車体として構成されている。走行部2は、エンジン10の動力によって圃場を走行する。
【0014】
前輪12及び後輪13は、走行部2を支持する。前輪12及び後輪13は、それぞれ走行部2に対して左右一対に設けられている。実施形態1において、前輪12の車軸には、車速センサ19が配置されている。車速センサ19は、車軸の回転数を検出する。なお、車速センサ19は、前輪12と異なる位置に配置されてもよい。
【0015】
エンジン10は、走行部2の前側に支持されている。エンジン10は、ボンネット17に覆われている。ボンネット17は、開閉可能に構成されている。エンジン10は、田植機1の動力源として機能する。
【0016】
エンジン10の動力は、ミッションケース11に入力される。エンジン10の動力は、ミッションケース11により変速されて、前輪12及び後輪13に伝達される。また、エンジン10の動力は、ミッションケース11を介して、植付部6に伝達される。
【0017】
運転座席14には、田植機1の作業者が着座する。運転座席14は、走行部2の前後方向において前輪12と後輪13との間に配置されている。運転座席14の前方には、ダッシュボード18及び表示部5が配置される。ダッシュボード18には、ハンドル15が配置される。
【0018】
表示部5は、例えば、液晶ディスプレイ又は有機EL(Electroluminescence)ディスプレイのようなディスプレイによって構成される。あるいは、表示部5は、液晶ディスプレイ等と、液晶ディスプレイ等の表面に一体化されたタッチパネルとによって構成されてもよい。表示部5は、例えば、田植機1に関する各種情報を表示する。
【0019】
ハンドル15は、運転座席14の前方に配置されたステアリングコラムに取り付けられている。作業者がハンドル15を手で握って回すことで、走行部2の直進及び旋回を指示することができる。
【0020】
ペダル16は、運転座席14の前側の床から上方に突出するように配置されている。ペダル16を足で踏むことによって、作業者は、ペダル16を操作する。また、ペダル16には、作業者がペダル16への踏込みを解除したときにペダル16を戻すための戻しバネが取り付けられている(不図示)。
【0021】
作業者がペダル16を足で踏み込むことで、走行部2の走行を指示する。具体的には、作業者がペダル16を足で踏み込む深さを変更することによって、走行部2の加速又は減速を指示する。一方、作業者がペダル16から足を離すことによって、走行部2の走行停止を指示する。
【0022】
植付部6は、走行部2の後方に配置されている。植付部6は、苗を圃場に対して植え付ける。植付部6は、昇降リンク機構61を介して走行部2に連結されている。植付部6は、例えば、植付ユニット62及び苗載台63を含む。苗載台63には、苗マットが載置される。苗載台63に載置された苗マットの苗は、植付ユニット62に供給される。植付ユニット62は、苗を圃場に植え付ける。
【0023】
走行部2には、昇降シリンダ64が配置されている。昇降シリンダ64が伸縮駆動することにより、走行部2に対して植付部6を上下に昇降させる。
【0024】
施肥機3は、走行部2の後方に配置されている。施肥機3は、肥料タンク31と、繰出部32と、電動モータ33(
図2参照)と、搬送ホース34と、ブロワ35と、繰出体36と、施肥コントローラ37(
図2参照)とを備える。実施形態1では、施肥機3は、複数の肥料タンク31と、肥料タンク31と同数の繰出部32とを備える。施肥機3は、農用資材を圃場に供給する供給部の一例である。
【0025】
肥料タンク31は、走行部2の前後方向において運転座席14と苗載台63との間の位置に配置されている。実施形態1において、肥料タンク31は、例えば、粉粒体状の肥料を貯留する。粉粒体状の肥料は、農用資材の一例である。
【0026】
繰出部32は、肥料タンク31の下部に接続されている。繰出部32は、肥料タンク31から供給された肥料を所定量ずつ下方に繰り出す。
【0027】
繰出部32の内部には、肥料が通過可能な経路が配置されている(不図示)。当該経路には、略円板形状を有する繰出体36が回転可能に配置されている。即ち、繰出部32は、繰出体36を含む。繰出体36には、所定量の肥料を収容可能な複数の繰出凹部が形成されている(不図示)。繰出体36を回転させることによって、繰出凹部に収容された肥料が経路の下流に繰り出される。
【0028】
電動モータ33は、繰出部32の繰出体36を回転させる駆動源として機能する。電動モータ33は、施肥機3の適宜の位置に取り付けられる。
【0029】
搬送ホース34は、繰出部32の内部に配置される経路の下流側に接続されている。搬送ホース34は、可撓性を有する細長いチューブ状の部材である。
【0030】
ブロワ35は、繰出部32に近接した適宜の位置に配置されている。ブロワ35は、空気流を生成して、繰出部32の内部の経路に空気流を送り出す。その結果、搬送ホース34を通じて当該経路の下流に繰り出された肥料が圃場に供給される(施肥される)。
【0031】
施肥コントローラ37は、走行部2の車速に基づいて電動モータ33を制御して、繰出体36の動作速度を変更することによって、単位時間当たりに搬送ホース34に繰り出される肥料の量を変更する。
【0032】
測位ユニット4は、田植機1の位置を示す位置情報を取得する。測位ユニット4は、例えば、測位用アンテナ、及び位置情報受信機を含む。測位用アンテナは、例えば衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)等の測位システムを構成する測位衛星からの信号を受信する。測位用アンテナで受信された測位信号は、位置情報受信機に入力される。位置情報受信機は、入力された測位信号を信号処理して田植機1の位置を示す位置情報を取得する。田植機1の位置を示す位置情報は、後述する衛星測位結果に相当する。
【0033】
図2は、実施形態1に係る田植機1の構成を示すブロック図である。田植機1は、
図1に示される施肥機3、測位ユニット4及び車速センサ19等に加え、記憶部21及び制御部22を備える。
【0034】
記憶部21は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、又はSSD(Solid State Drive)のようなメモリを有する。記憶部21は、制御部22によって実行されるコンピュータプログラムを記憶する。また、記憶部21は、後述する施肥マップを記憶してもよい。
【0035】
制御部22は、第1車速算出部23、第2車速算出部24、及び車速設定部25を含む。制御部22は、例えば、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサを有する。プロセッサは、記憶部21に記憶されたコンピュータプログラムを実行することにより、コンピュータプログラムで規定された各種処理を実行する。ここでいう各種処理は、第1車速算出部23が行う処理、第2車速算出部24が行う処理、及び車速設定部25が行う処理を含む。
【0036】
第1車速算出部23は、車速センサ19が検出する車輪回転数に基づいて、走行部2の走行速度を算出する。第1車速算出部23が算出する走行速度を「第1車速」と称する。
【0037】
第2車速算出部24は、測位ユニット4の衛星測位結果に基づいて、走行部2の走行速度を算出する。第2車速算出部24が算出する走行速度を「第2車速」と称する。
【0038】
車速設定部25は、第1車速算出部23から第1車速を受け付け、第2車速算出部24から第2車速を受け付ける。車速設定部25は、所定条件に応じて、第1車速又は第2車速のいずれか一方を選択する。車速設定部25は、選択した第1車速又は第2車速を、施肥機3へ入力する。所定条件については後述する。
【0039】
次に、供給部の一例として、施肥機3が行う可変施肥作業について説明する。前提として記憶部21には、施肥マップが記憶されている。施肥マップは、圃場を分割することによって設定される複数の区域を示す位置情報と、区域ごとに定められた農用資材の供給量とを含む。
【0040】
制御部22は、測位ユニット4が検出した田植機1の位置に対応する区域の供給量を、記憶部21の施肥マップから読み出す。制御部22は、読み出した供給量を施肥機3へ入力する。これと並行して、車速設定部25は、第1車速又は第2車速のいずれか一方を選択し、選択した車速を施肥機3へ入力する。
【0041】
施肥コントローラ37は、走行部2の車速に基づく供給量の肥料を圃場に供給するように、電動モータ33の動作速度を変更する。例えば、車速設定部25から入力される車速が速い場合、施肥コントローラ37は、電動モータ33を制御して繰出体36の動作速度を上昇させることによって、単位時間当たりに搬送ホース34に繰り出される肥料の量を増加させる。加えて、施肥コントローラ37は、制御部22から入力される、施肥マップに定められた供給量に応じて繰出体36の動作速度を増減させる。一方、車速設定部25から入力される車速が遅い場合、施肥コントローラ37は、電動モータ33を制御して繰出体36の動作速度を減少させることによって、単位時間当たりに搬送ホース34に繰り出される肥料の量を減少させる。加えて、施肥コントローラ37は、制御部22から入力される、施肥マップに定められた供給量に応じて繰出体36の動作速度を増減させる。これにより、施肥機3は、走行部2の走行速度によらず、圃場に施肥する区域あたりの肥料の量を、施肥マップに定められた供給量に基づいて変更することができる。
【0042】
なお、供給部の一例として、施肥機3が行う可変施肥作業を説明したが、これに限定されない。例えば、施肥機3が一定施肥作業を行ってもよい。一定施肥作業の場合、施肥コントローラ37は、車速設定部25から入力される車速と、圃場に施肥する肥料の量とを連動させることにより、圃場に施肥される単位面積当たりの肥料の量を一定に保つ。
【0043】
このように、供給部の一例である施肥機3は、走行部2の車速に基づく供給量の農用資材を、圃場に供給する。そのため、施肥機3に入力される車速の信頼性が低いと、圃場に適量な肥料を供給することが困難になる。そこで、実施形態1の田植機1は、車輪回転数に基づく第1車速と、衛星測位結果に基づく第2車速のうち、より信頼性が高い方を選択して施肥機3に入力するようにする。
【0044】
図3は、実施形態1における第1車速と第2車速の波形を示すグラフである。車輪回転数に基づく第1車速は、走行部2が一定速度で走行している場合、変動が小さい安定した波形になる傾向がある。これに対し、衛星測位結果に基づく第2車速は、第1車速に比べると変動が大きい不安定な波形になる傾向がある。
図3では、説明を簡単にするために、第1車速と第2車速の波形の傾向を強調している。
【0045】
また、走行部2の車速が低速である場合には車輪スリップが生じにくく、中高速である場合には車輪スリップが生じやすい傾向がある。言い換えれば、低速時の第1車速は信頼性が高い。他方、走行部2の車速が低速である場合には衛星測位結果の精度が低く、中高速である場合には衛星測位結果の精度が高い傾向がある。言い換えれば、中高速時の第2車速は信頼性が高い。さらに、衛星測位結果は車輪スリップの影響を受けないため、中高速時の第2車速は第1車速に比べて信頼性が高い。また、衛星測位結果は車輪スリップの影響を受けないため、衛星測位結果に基づく第2車速は車輪回転数に基づく第1車速よりも低い値になる傾向がある。
【0046】
以上の傾向を踏まえ、実施形態1の車速設定部25は、
図4のフローチャートに示される動作を行って、第1車速又は第2車速のうち、より信頼性の高い方を選択して施肥機3へ入力する。
【0047】
図4は、実施形態1に係る田植機1の動作例を示すフローチャートである。供給部の一例である施肥機3が可変施肥作業又は一定施肥作業を行っている最中、車速設定部25が
図4のフローチャートに示される動作を行う。また、車速設定部25が
図4のフローチャートに示される動作を行っている最中、定期的に、第1車速算出部23が車輪回転数に基づく第1車速を算出すると共に第2車速算出部24が衛星測位結果に基づく第2車速を算出する。
【0048】
ステップS11において、車速設定部25は、第1車速算出部23が算出した第1車速と、予め定められた低速閾値ThLとを比較する。例えば、低速閾値ThLは、前輪12及び後輪13がスリップしにくい低い速度である。第1車速が低速閾値ThL未満である場合(ステップS11;Yes)、車速設定部25の処理はステップS12へ進む。第1車速が低速閾値ThL以上である場合(ステップS11;No)、車速設定部25の処理はステップS13へ進む。
【0049】
低速走行時は車輪スリップが生じにくいため、車輪回転数から算出された第1車速は信頼性が高い。一方、低速走行時は衛星測位精度が低いため、衛星測位結果から算出された第2車速は信頼性が低い。そのため、車速設定部25は、より信頼性の高い第1車速を選択して施肥機3へ入力する(ステップS12)。
【0050】
ステップS13において、車速設定部25は、第1車速算出部23が算出した第1車速を基準にして、上限閾値Th1U及び下限閾値Th1Lを設定する。第1車速に上側オフセット値OFSUを加算した値が、上限閾値Th1Uである。第1車速から下側オフセット値OFSLを減算した値が、下限閾値Th1Lである。なお、上側オフセット値OFSUと下側オフセット値OFSLは、予め定められた値である。上側オフセット値OFSUと下側オフセット値OFSLとは同じ値(絶対値)であってもよいし、異なる値(絶対値)であってもよい。上述したように、車輪スリップの発生に起因して第2車速が第1車速より低い値になる傾向にあるため、
図3の例では上側オフセット値OFSUに比べて下側オフセット値OFSLが大きい値に設定されている。以下では、上限閾値Th1Uから下限閾値Th1Lまでの範囲を、第1閾値幅Th1と称する。
【0051】
車速設定部25は、第1車速を基準にして設定した第1閾値幅Th1と、第2車速算出部24が算出した第2車速とを比較する。第2車速が第1閾値幅Th1内である場合(ステップS13;Yes)、車速設定部25の処理はステップS14へ進む。第2車速が第1閾値幅Th1から外れた場合(ステップS13;No)、車速設定部25の処理はステップS15へ進む。
【0052】
第2車速が第1閾値幅Th1内にある場合、衛星測位精度は良好であり、衛星測位結果に基づく第2車速は信頼性が高い。また、中高速走行時は、車輪回転数に基づく第1車速に比べて衛星測位結果に基づく第2車速の方が信頼性が高い。そのため、車速設定部25は、より信頼性の高い第2車速を選択して施肥機3へ入力する(ステップS14)。
【0053】
第2車速が第1閾値幅Th1外にある場合、衛星測位精度が低下している。そのため、車速設定部25は、より信頼性の高い第1車速を選択して施肥機3へ入力する(ステップS15)。
【0054】
ステップS12、S14、又はS15の後、車速設定部25の処理はステップS11へ戻る。
【0055】
なお、第1車速から第2車速への切り替え時、及び第2車速から第1車速への切り替え時、施肥機3に入力する車速が急激に変化する場合がある。施肥機3に入力する車速が急激に変化すると、電動モータ33の動作速度が追従できず、一時的に、圃場に供給する肥料の量と施肥マップに基づく供給量とがずれる可能性がある。そこで、第1車速から第2車速への切り替え時、車速設定部25は、施肥機3に入力する車速を、第1車速から第2車速へ連続的に変化させるようにしてもよい。同様に、第2車速から第1車速への切り替え時、車速設定部25は、施肥機3に入力する車速を、第2車速から第1車速へ連続的に変化させるようにしてもよい。
【0056】
以上、
図1~
図4を参照して説明したように、実施形態1に係る田植機1は、走行部2と、施肥機3と、第1車速算出部23と、第2車速算出部24と、車速設定部25とを備える。走行部2は、前輪12及び後輪13を有する。施肥機3は、走行部2に支持され、走行部2の車速に基づく供給量の農用資材を圃場に供給する。第1車速算出部23は、走行部2の車輪回転数に基づいて走行部2の第1車速を算出する。第2車速算出部24は、衛星測位結果に基づいて走行部2の第2車速を算出する。車速設定部25は、所定条件に応じて、第1車速又は第2車速のいずれか一方を選択して施肥機3に入力する。この構成により、車速設定部25は、第1車速及び第2車速のうち、より信頼性の高い方を選択できるようになる。よって、田植機1は、衛星測位精度の低下に影響されずに、圃場に適量な農用資材を供給可能となる。
【0057】
車速設定部25は、所定条件として低速閾値ThLを用いる。車速設定部25は、第1車速が低速閾値ThL未満である場合、第1車速を選択する。田植機1の発進時から低速閾値ThLまでは衛星測位精度が低い一方、車輪スリップが生じにくいために第1車速の信頼性が高い。この場合に、車速設定部25が、より信頼性の高い第1車速を選択することで、田植機1は、衛星測位精度の低下に影響されずに、圃場に適量な農用資材を供給可能となる。
【0058】
車速設定部25は、所定条件として、第1車速を基準にして設定される、第1車速より大きい上限閾値Th1Uから第1車速より小さい下限閾値Th1Lまでの範囲である第1閾値幅Th1を用いる。車速設定部25は、第2車速が第1閾値幅Th1から外れた場合、第1車速を選択する。第2車速が第1閾値幅Th1から外れた場合、衛星測位精度が低下しており、第2車速の信頼性が下がっている。この場合に、車速設定部25が、より信頼性の高い第1車速を選択することで、田植機1は、衛星測位精度の低下に影響されずに、圃場に適量な農用資材を供給可能となる。
【0059】
車速設定部25は、所定条件として低速閾値ThL及び第1閾値幅Th1を用いる。車速設定部25は、第1車速が低速閾値ThL以上である場合、かつ、第2車速が第1閾値幅Th1内である場合、第2車速を選択する。第2車速が第1閾値幅Th1内である場合、衛星測位精度が十分に高い。この場合に、車速設定部25が第2車速を選択することで、田植機1は、車輪スリップに影響されずに、圃場に適量な農用資材を供給可能となる。
【0060】
<実施形態2>
実施形態2に係る田植機1の構成は、
図1及び
図2に示された実施形態1に係る田植機1の構成と図面上同じであるため、以下では
図1及び
図2を援用する。実施形態1における車速設定部25は、第1車速又は第2車速のいずれか一方を選択して施肥機3へ入力する構成である。これに対し、実施形態2における車速設定部25は、第1車速と第2車速に基づいて第3車速を算出し、第3車速を施肥機3へ入力する構成である。
【0061】
実施形態2における施肥機3の施肥コントローラ37は、実施形態1における施肥機3の施肥コントローラ37と同様に、車速設定部25から入力される車速(即ち、第3車速)に基づく供給量の肥料を圃場に供給するように、電動モータ33の動作速度を変更する。
【0062】
図5は、実施形態2における第1車速と第2車速と第3車速の波形を示すグラフである。第1車速は、第1車速算出部23が車輪回転数に基づいて算出した走行部2の車速である。第2車速は、第2車速算出部24が衛星測位結果に基づいて算出した走行部2の車速である。第3車速は、車速設定部25が第1車速と第2車速に基づいて算出した車速である。
図5では、第3車速の説明を簡単にするために、衛星測位結果に基づく第2車速の波形を直線で表現する。実際の衛星測位結果に基づく第2車速の波形イメージを破線で表現する。
【0063】
第3車速の算出方法として、下記(1)~(3)を例示する。
【0064】
(1)加速度を用いる算出方法
車速設定部25は、第1車速算出部23が算出する第1車速を用いて、走行部2の加速度を算出する。車速設定部25は、走行部2の加速度が大きくなるほど大きくなる第1重み係数kAと、走行部2の加速度が大きくなるほど小さくなる第2重み係数kBとを用いて、下式(1)に従い第1車速と第2車速に対し加重加算演算を行うことにより、第3車速を算出する。
【0065】
第3車速=第1車速×kA+第2車速×kB (1)
なお、第1重み係数kAは、値域が0<kA<1の変数である。第2重み係数kBは、kB=1-kAを計算することで得られる変数である。
【0066】
図6は、実施形態2における重み係数の例を示すグラフである。横軸が走行部2の加速度であり、縦軸が第1重み係数kAである。第1重み係数kAの値は、加速度が大きくなるにつれて大きくなる。そのため、作業者が加速操作すると、車速設定部25は第1車速に近い値の第3車速を演算する。ただし、kA=0にはならないので、車速設定部25が第1車速をそのまま第3車速として用いるわけではない。なお、加速度と第1重み係数kAとは、関数fのような1次関数で表される関係に限定されず、例えば関数f1、f2のような、二次関数、指数関数、及び対数関数等で表される関係であってもよい。
【0067】
例えば、第1車速が1.8m/s、第2車速が1.2m/sであり、走行部2の加速度に対応する第1重み係数kAが0.6である場合、第3車速は、下式(2)より1.56m/sとなる。
第3車速=1.8×0.6+1.2×(1-0.6) (2)
=1.56
【0068】
上記例において、車速設定部25は、第1車速算出部23が算出する第1車速を用いて、走行部2の加速度を算出したが、これに限定されない。例えば、走行部2に加速度センサ(不図示)が設けられている場合、車速設定部25は、この加速度センサから走行部2の加速度を取得してもよい。あるいは、車速設定部25は、第2車速算出部24が算出する第2車速を用いて、走行部2の加速度を算出してもよい。
【0069】
また、上記例において、車速設定部25は、第1重み係数kAを加速度に応じた変数とし、第2重み係数kBを第1重み係数kAから算出したが、これに限定されない。例えば、車速設定部25は、第2重み係数kBを加速度に応じた変数とし、第1重み係数kAを第2重み係数kBから算出してもよい。
【0070】
また、上記例において、走行部2が加速している場合の例を説明したが、走行部2が減速している場合についても同様の方法で第3車速を算出すればよい。
【0071】
(2)速度比を用いる算出方法
車速設定部25は、第1車速算出部23が算出する第1車速と、第2車速算出部24が算出する第2車速との速度比に基づく加重平均演算を行うことにより、第3車速を算出する。例えば、第1車速が1.8m/s、第2車速が1.2m/sである場合、第1車速と第2車速の速度比は3:2である。この場合、車速設定部25は、第1車速の重み係数を「3」、第2車速の重み係数を「2」とする。よって、第3車速は、下式(3)より1.56m/sとなる。
第3車速=(1.8×3+1.2×2)/(3+2) (3)
=1.56
【0072】
(3)平均値を用いる算出方法
車速設定部25は、第1車速算出部23が算出する第1車速と、第2車速算出部24が算出する第2車速との平均値を演算することにより、第3車速を算出する。例えば、第1車速が1.8m/s、第2車速が1.2m/sである場合、第3車速は、1.5m/sとなる。
【0073】
以上、
図5及び
図6を参照して説明したように、実施形態2における車速設定部25は、第1車速と第2車速に基づいて第3車速を算出し、算出した第3車速を施肥機3に入力する。この構成により、田植機1は、衛星測位精度の低下に影響されずに、かつ、車輪スリップに影響されずに、圃場に適量な農用資材を供給可能となる。
【0074】
なお、車速設定部25は、衛星測位結果に基づく第2車速の変化が急激である場合に、第3車速の算出に第2車速の移動平均値等を用いてもよい。具体例として、車速設定部25は、第2車速の変動幅と、予め定められた第2閾値幅とを比較する。第2閾値幅は、衛星測位精度の低下に起因して第2車速が大きく変動したことを検出するための値である。第2車速の変動幅は、単位時間当たりの変動幅、又は前回値と今回値の差分等である。車速設定部25は、第2車速の変動幅が第2閾値幅以上である場合、第2車速の移動平均値を算出する。車速設定部25は、第2車速の移動平均値と第1車速とを用いて、上記(1)~(3)のいずれかの算出方法に従って第3車速を算出する。
【0075】
また、実施形態1の構成と実施形態2の構成とは組み合わせることが可能である。
図7は、実施形態2に係る田植機1の動作例を示すフローチャートである。
図7のフローチャートに示されるステップS11~S13、S15と、
図4のフローチャートに示されるステップS11~S13、S15とは、同じ処理である。
【0076】
衛星測位結果に基づく第2車速が第1閾値幅Th1内にある場合(ステップS13;Yes)、車速設定部25の処理はステップS24に進む。ステップS24において、車速設定部25は、上記(1)~(3)のいずれかの算出方法に従って第3車速を算出する。車速設定部25が、衛星測位精度が十分に高い場合に第1車速と第2車速とを考慮した第3車速を施肥機3に入力するので、田植機1は、衛星測位精度の低下に影響されずに、かつ、車輪スリップに影響されずに、圃場に適量な農用資材を供給可能となる。
【0077】
図7の例では、車速設定部25は、ステップS11、S13の2つの判定処理を行ったが、ステップS11の判定処理のみを行ってもよい。即ち、第1車速が低速閾値ThL以上である場合(ステップS11;Yes)、車速設定部25の処理はステップS13をスキップしてステップS24へ進む。ステップS24において、車速設定部25は、上記(1)~(3)のいずれかの算出方法に従って第3車速を算出する。
【0078】
なお、図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示している。従って、図示された各構成要素の厚み、長さ等は、図面作成の都合上から実際とは異なる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、田植機及びトラクタ等の農作業機に適用できる。
【符号の説明】
【0080】
1 田植機(農作業機)
2 走行部
3 施肥機(供給部)
4 測位ユニット
5 表示部
6 植付部
10 エンジン
11 ミッションケース
12 前輪
13 後輪
14 運転座席
15 ハンドル
16 ペダル
17 ボンネット
18 ダッシュボード
19 車速センサ
21 記憶部
22 制御部
23 第1車速算出部
24 第2車速算出部
25 車速設定部
31 肥料タンク
32 繰出部
33 電動モータ
34 搬送ホース
35 ブロワ
36 繰出体
37 施肥コントローラ
61 昇降リンク機構
62 植付ユニット
63 苗載台
64 昇降シリンダ
kA 第1重み係数
kB 第2重み係数
Th1 第1閾値幅
Th1U 上限閾値
Th1L 下限閾値
ThL 低速閾値