(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】併用医薬
(51)【国際特許分類】
A61K 31/437 20060101AFI20250303BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250303BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20250303BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250303BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20250303BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20250303BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20250303BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20250303BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20250303BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20250303BHJP
【FI】
A61K31/437
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 111
A61K31/44
A61K31/47
A61K31/506
A61K31/517
A61K31/519
A61K31/5377
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2021558379
(86)(22)【出願日】2020-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2020042696
(87)【国際公開番号】W WO2021100677
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2019208149
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.公開の事実 (1)ウェブサイトの掲載日 令和2年8月23日 (2)ウェブサイトのアドレス https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/15384047.2020.1806643 (3)公開者 藤村 多嘉朗、古垣 耕、原田 直樹、吉村 康史 (4)公開された発明の内容 藤村 多嘉朗、古垣 耕、原田 直樹、吉村 康史が、上記アドレスのウェブサイトで公開されたCancer Biology&Therapy Volume 21,2020-Issue 9にて、藤村 多嘉朗、古垣 耕、吉村 康史、原田 直樹が発明した、RET阻害剤であるアレクチニブ、プラルセチニブ(BLU-667)、またはバンデタニブと、CDK4/6阻害剤であるパルボシクリブまたはアベマシクリブの単独および併用による腫瘍細胞の増殖抑制効果について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100139310
【氏名又は名称】吉光 真紀
(72)【発明者】
【氏名】藤村 多嘉朗
(72)【発明者】
【氏名】古垣 耕
(72)【発明者】
【氏名】吉村 康史
(72)【発明者】
【氏名】原田 直樹
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0134044(US,A1)
【文献】特開2018-052878(JP,A)
【文献】国際公開第2019/199883(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/136642(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0190062(US,A1)
【文献】Cellular Oncol,2019年06月27日,Vol.42,pp.705-715
【文献】Cancer Biol Ther,2020年09月01日,Vol.21, No.9,pp.863-870
【文献】Frontiers in Oncol,2020年09月23日,Vol.10, Article 563249,pp.1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とサイクリン依存性キナーゼ4および/またはサイクリン依存性キナーゼ6(CDK4/6)阻害剤とを別々にまたは一緒に組み合わせてなる、
非小細胞肺癌を治療または予防するための医薬
であって、前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、プラルセチニブ、およびバンデタニブからなる群から選択される化合物、またはその塩、またはその水和物であり、前記CDK4/6阻害剤が、パルボシクリブ、およびアベマシクリブらなる群から選択される、医薬。
【請求項2】
RETキナーゼ阻害活性を有する化合物を有効成分として含む、CDK4/6阻害剤と併用して
非小細胞肺癌を治療または予防するための医薬
であって、前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、プラルセチニブ、およびバンデタニブからなる群から選択される化合物、またはその塩、またはその水和物であり、前記CDK4/6阻害剤が、パルボシクリブ、およびアベマシクリブらなる群から選択される、医薬。
【請求項3】
CDK4/6阻害剤を有効成分として含む、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と併用して
非小細胞肺癌を治療または予防するための医薬
であって、前記CDK4/6阻害剤が、パルボシクリブ、およびアベマシクリブらなる群から選択され、前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、プラルセチニブ、およびバンデタニブからなる群から選択される化合物、またはその塩、またはその水和物である、医薬。
【請求項4】
前記
非小細胞肺癌が、RET遺伝子と他の遺伝子との融合遺伝子および/またはRETタンパク質と他のタンパク質との融合タンパク質を有する、請求項1~
3のいずれかに記載の医薬。
【請求項5】
前記
非小細胞肺癌が、RETに変異を有する、請求項1~
4のいずれかに記載の医薬。
【請求項6】
(1)RETキナーゼ阻害活性を有する化合物を含有する製剤と、(2)容器、および(3)
非小細胞肺癌を治療するために前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤の少なくとも一種とを組み合わせて対象に投与することを示す指示書またはラベル、を含む製品
であって、前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、プラルセチニブ、およびバンデタニブからなる群から選択される化合物、またはその塩、またはその水和物であり、前記CDK4/6阻害剤が、パルボシクリブ、およびアベマシクリブらなる群から選択される、製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの治療または予防に有用な、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とサイクリン依存性キナーゼ4および/またはサイクリン依存性キナーゼ6(CDK4/6)阻害剤を組み合わせてなる医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤、およびがんを治療または予防するための方法、ならびに製品等に関する。
【背景技術】
【0002】
Rearranged during transfection(RET)は1985年に同定された受容体型チロシンキナーゼのプロト癌遺伝子である(非特許文献1)。
これまでにRETの遺伝子異常(点変異や転座)の結果、異常キナーゼの生成を引き起こし、癌化に関与することが報告されている(非特許文献2)。例えば、肺がんでは、RETが染色体の転座によりキネシンファミリータンパク質KIF5BやCoiled-Coil Domain Containing 6(CCDC6)と結合して、活性型チロシンキナーゼ活性をもつKIF5B-RETやCCDC6-RETを生成し、癌化能を得ることが報告されている(非特許文献3、4)。また、甲状腺がんにおいてもRETの634番目のcystein等の点変異やH4遺伝子等との転座による異常キナーゼの生成が報告されている(非特許文献5、6)。これらの遺伝子異常を有するがんに対してRETキナーゼ阻害活性を有する化合物が有用であることが報告されている(非特許文献7、8)。
アレセンサ(一般名:アレクチニブ塩酸塩、Alectinib)はALK阻害剤として日本および海外にて承認を受けているが、RETキナーゼ阻害活性も有することが報告されており、CCDC6-RET融合遺伝子陽性の肺がん細胞に対して抗腫瘍効果を示すことが非臨床研究で示されている(非特許文献9、10)。
Cyclin dependent kinase4および/または6(CDK4/6)は細胞周期促成因子であり、さまざまな悪性腫瘍のイニシエーションとプログレッションに関与している。CDK4/6阻害剤は細胞周期を制御するRetinoblastomaタンパク質(Rb)のリン酸化を抑制することでG1期停止を誘導し癌細胞の増殖を抑制することが知られている(非特許文献11~13)
日本および海外において承認を受けているCDK4/6阻害剤としてイブランス(一般名:Palbociclib)、Kisqali(一般名:Ribociclib)、Verzenio(一般名Abemaciclib)が挙げられる。
パルボシクリブは、ホルモン受容体陽性、HER2陰性の手術不能または再発乳癌に対して内分泌療法剤との併用を用法として日本で承認を受けているものの、現時点で分子標的薬との併用では承認を受けていない。しかし、非臨床研究においてはCDK4/6阻害剤と他の分子標的治療薬との併用の効果についていくつかの報告がある(特許文献1)。例えば 、HER2陽性乳がん細胞を移植したPDXモデルにおいて、EGFRファミリーキナーゼ阻害剤との併用によりRbとS6RPを強く抑制し、高い抗腫瘍効果を発揮することが示されている(非特許文献14)。また、ALK阻害剤との併用により細胞周期停止やカスパーゼ非依存的な細胞死を強く誘導することでALK遺伝子異常を有する神経芽細胞腫細胞を移植したSCIDマウスにおける腫瘍増殖を抑制したことが報告されている(特許文献2、非特許文献15)。
しかしながら、CDK4/6阻害剤とRETキナーゼ阻害活性を有する化合物との併用についての報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許5832647
【文献】特許6479812
【非特許文献】
【0004】
【文献】Cell. 1985 Sep;42(2):581-588
【文献】J Biol Chem. 1997 Apr 4;272(14):9043-9047
【文献】Genome Res. 2012 Mar;22(3):436-445
【文献】Nat Med. 2012 Feb 12;18(3):378-381
【文献】Crit Rev Clin Lab Sci. 2016 Aug;53(4):217-227
【文献】PLoS One. 2016 Nov 1;11(11):e0165596
【文献】Cancer. 2016 Dec 15;122(24):3856-3864
【文献】Lancet Respir Med. 2017 Jan;5(1):42-50
【文献】Mol Cancer Ther. 2014;13: 2910-2918
【文献】2016 Nov;11(11):2027-2032
【文献】Mol Cancer Ther. 2004 Nov;3(11):1427-1438
【文献】Oncotarget. 2017 Jul 4;8(27):43678-43691
【文献】Clin Cancer Res. 2014 Jul 15;20(14):3763-3774
【文献】Cancer Cell. 2016 March 14; 29(3): 255-269
【文献】Clin Cancer Res. 2017 Jun 1;23(11):2856-2868
【発明の概要】
【0005】
このように、種々のがんの予防・治療に有用でありかつ従来のがんの予防・治療薬よりも優れた薬効を有する医薬の開発が望まれている。
本発明は、各種がんの治療・予防や、無増悪生存期間の延長に用いるため、複数の医薬を組み合わせてなる新規な医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤、およびそれを用いたがんの治療方法や製品等を提供することを目的とする。
【0006】
本発明者等は、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤とを組み合わせて用いた結果、予想外にもこれらの薬剤の併用が、単剤投与よりも優れた腫瘍縮小効果を奏することを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下の発明に関する。
<1A> RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とサイクリン依存性キナーゼ4および/またはサイクリン依存性キナーゼ6(CDK4/6)阻害剤とを組み合わせてなる、がんを治療または予防するための医薬。
<1B> RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とサイクリン依存性キナーゼ4および/またはサイクリン依存性キナーゼ6(CDK4/6)阻害剤とを別々にまたは一緒に組み合わせてなる、がんを治療または予防するための医薬。
<1C> がんを治療または予防するための、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とサイクリン依存性キナーゼ4および/またはサイクリン依存性キナーゼ6(CDK4/6)阻害剤との組み合わせ。
<1D> 別個にまたは同時に投与され、がんを治療または予防するための、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とサイクリン依存性キナーゼ4および/またはサイクリン依存性キナーゼ6(CDK4/6)阻害剤との組み合わせ。
<1E> RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とサイクリン依存性キナーゼ4および/またはサイクリン依存性キナーゼ6(CDK4/6)阻害剤とを組み合わせてなる、がんを治療または予防するための医薬組成物。
<1F> RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とサイクリン依存性キナーゼ4および/またはサイクリン依存性キナーゼ6(CDK4/6)阻害剤とを組み合わせてなる、がんを治療または予防するための医薬製剤。
<1-2> 配合剤の形態である、<1A>~<1E>に記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤。
<1-3> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と前記CDK4/6阻害剤とが別個に投与される、<1A>~<1-2>に記載の医薬、組み合わせ、または製剤。
<1-4> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と前記CDK4/6阻害剤が同時にまたは順次に投与される、<1A>~<1-2>に記載の医薬、組み合わせ、または製剤。
<2> RETキナーゼ阻害活性を有する化合物を有効成分として含む、CDK4/6阻害剤と併用してがんを治療または予防するための医薬、または医薬組成物。
<2-2> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、前記CDK4/6阻害剤と同時に投与される、<2>に記載の医薬、または医薬組成物。
<2-3> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、前記CDK4/6阻害剤の投与前または投与後に投与される、<2>~<2-2>に記載の医薬、または医薬組成物。
<3> CDK4/6阻害剤を有効成分として含む、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と併用してがんを治療または予防するための医薬、または医薬組成物。
<3-2> 前記CDK4/6阻害剤が、前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と同時に投与される、<3>に記載の医薬、または医薬組成物。
<3-3> 前記CDK4/6阻害剤が、前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物の投与前または投与後に投与される、<3>~<3-2>に記載の医薬、または医薬組成物。
<4> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、バンデタニブ、カボザンチニブ、ソラフェニブ、および、セルパーカチニブからなる群から選択される化合物、またはその塩、またはその水和物である、<1A>~<3-3>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または医薬製剤。
<4-2> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、バンデタニブ、カボザンチニブ、および、セルパーカチニブからなる群から選択される化合物、またはその塩、またはその水和物である、<1A>~<3-3>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または医薬製剤。
<4-3> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブまたはセルパーカチニブ、またはその塩である、<1A>~<3-3>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または医薬製剤。
<4-4> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブまたはその塩である、<1A>~<3-3>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または医薬製剤。
<4-5> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、プラルセチニブ、バンデタニブ、カボザンチニブ、ソラフェニブ、および、セルパーカチニブからなる群から選択される化合物、またはその塩、またはその水和物である、<1A>~<3-3>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または医薬製剤。
<4-6> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、プラルセチニブ、バンデタニブ、カボザンチニブ、および、セルパーカチニブからなる群から選択される化合物、またはその塩、またはその水和物である、<1A>~<3-3>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または医薬製剤。
<4-7> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、プラルセチニブ、バンデタニブ、またはセルパーカチニブ、またはその塩である、<1A>~<3-3>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または医薬製剤。
<4-8> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、プラルセチニブ、またはバンデタニブ、またはその塩である、<1A>~<3-3>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または医薬製剤。
<4-9> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ塩酸塩である、<1A>~<3-3>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または医薬製剤。
なお、例えば<1A>~<3-n>(nは枝番の整数)は、<1A>~<1F>、<2>、<2-2>~<2-n>、<3>、<3-2>~<3-n>を含むことを意味する。以下同様。
【0007】
<5> 前記アレクチニブまたはその塩が、1日2回、1回につきフリー体に換算して20mg、40mg、60mg、80mg、120mg、160mg、220mg、240mg、300mg、460mg、600mg、760mgまたは900mg投与される<1A-E>、<1-2>~<4-9>に記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または医薬製剤。
<5-2> 前記製剤の単位剤型あたり、アレクチニブまたはその塩を、フリー体に換算して20mg、40mg、または150mgを含む、<1A>~<4-9>に記載の製剤。
<6> 前記CDK4/6阻害剤が、パルボシクリブ、アベマシクリブ、リボシクリブ、バンデタニブ、および2-ヒドロキシ-1-[2-[[9-(4-メチルシクロヘキシル)ピリド[4,5]ピロロ[1,2-d]ピリミジン-2-イル]アミノ]-7,8-ジヒドロ-5H-1,6-ナフチリジン-6-イル]エテノンからなる群から選択される、<1A>~<5-2>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤。
<6-2> 前記CDK4/6阻害剤が、パルボシクリブまたはアベマシクリブである、<1A>~<5-2>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤。
<7> 前記がんが、RET遺伝子と他の遺伝子との融合遺伝子および/またはRETタンパク質と他のタンパク質との融合タンパク質を有する、<1A>~<6-2>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤。
<7-2> 前記他の遺伝子およびタンパク質が、KIF5B、CCDC6、NCOA4またはTRIM33である、<7>に記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤。
<7-3> 前記RET遺伝子と他の遺伝子との融合遺伝子およびRETタンパク質と他のタンパク質との融合タンパク質が、RET遺伝子またはタンパク質のチロシンキナーゼドメイン、および他の遺伝子またはタンパク質のコイルドコイルドメインを含む、<7>に記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤。
<8> 前記がんが、RETに変異を有する、<1A>~<7-3>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤。
<8-2> 前記RETにおける変異が、RETチロシンキナーゼの活性化を引き起こす変異である、<8>に記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤。
【0008】
<9> 前記がんが、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、脳腫瘍、神経芽細胞腫、神経膠腫、甲状腺癌、骨髄異形成症候群、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、結腸直腸癌、乳癌、卵巣癌、肺癌、膵臓癌、肝臓癌、胆嚢癌、皮膚癌、悪性黒色腫、腎癌、腎盂尿管癌、膀胱癌、子宮癌、精巣癌、前立腺癌、および該腫瘍から転移した腫瘍からなる群より選択される、<1A>~<8-2>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤。
<9-2> 前記がんが、甲状腺癌、肺癌、大腸癌、悪性黒色腫、および慢性骨髄性白血病からなる群より選択される<1A>~<8-2>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤。
<9-3> 前記がんが、甲状腺髄様癌、非小細胞肺癌、大腸癌、スピッツ様新生物、および慢性骨髄単球性白血病からなる群より選択される<1A>~<8-2>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤。
<10> 前記がんが、甲状腺髄様癌、非小細胞肺癌、およびスピッツ様新生物からなる群より選択される<1A>~<9-3>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤。
<10-2> 前記がんが、甲状腺髄様癌または非小細胞肺癌である、<1A>~<9-3>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤。
<10-3> 前記がんが非小細胞肺癌である、<1A>~<9-3>のいずれかに記載の医薬、組み合わせ、医薬組成物、または製剤。
<11> 対象に有効量のRETキナーゼ阻害活性を有する化合物および有効量のCDK4/6阻害剤を組み合わせて投与することを含む、がんを治療または予防する方法。
<11-2> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と、前記CDK4/6阻害剤とが別個に投与される<11>に記載の方法。
<11-3> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と、前記CDK4/6阻害剤とが同時または順次に投与される<11>に記載の方法。
<12> 対象に有効量のCDK4/6阻害剤を投与することを含む、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物によるがんの治療の効果を増強させる方法。
<12-2> 前記CDK4/6阻害剤が、前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と同時に投与される、<12>に記載の方法。
<12-3> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物の投与前または投与後に、前記CDK4/6阻害剤が投与される、<12>に記載の方法。
【0009】
<13> 対象に有効量のRETキナーゼ阻害活性を有する化合物および有効量のCDK4/6阻害剤を組み合わせて投与することを含む、腫瘍の無増悪生存期間を延長させる方法。
<13-2> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と、前記CDK4/6阻害剤とが、別個に投与される<13>に記載の方法。
<13-3> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と、前記CDK4/6阻害剤とが、同時または順次に投与される<13>に記載の方法。
<14> 前記がんが、RET遺伝子と他の遺伝子との融合遺伝子および/またはRETタンパク質と他のタンパク質との融合タンパク質を有する、<12>~<13-3>のいずれかに記載の方法。
<14-2> 前記他の遺伝子およびタンパク質が、KIF5B、CCDC6、NCOA4またはTRIM33である、<14>に記載の方法。
<14-3> 前記RET遺伝子と他の遺伝子との融合遺伝子、および前記RETタンパク質と他のタンパク質との融合タンパク質が、RET遺伝子またはタンパク質のチロシンキナーゼドメイン、および他の遺伝子またはタンパク質のコイルドコイルドメインを含む、<14>に記載の方法。
<15> 前記がんが、RETに変異を有する、<12>~<13-3>のいずれかに記載の方法。
<15-2> 前記RETにおける変異が、RETチロシンキナーゼの活性化を引き起こす変異である、<15>に記載の方法。
<16> 前記がんが、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、脳腫瘍、神経芽細胞腫、神経膠腫、甲状腺癌、骨髄異形成症候群、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、結腸直腸癌、乳癌、卵巣癌、肺癌、膵臓癌、肝臓癌、胆嚢癌、皮膚癌、悪性黒色腫、腎癌、腎盂尿管癌、膀胱癌、子宮癌、精巣癌、前立腺癌、および該腫瘍から転移した腫瘍からなる群より選択される、<12>~<15-2>のいずれかに記載の方法。
<16-2> 前記がんが、甲状腺癌、大腸癌または肺癌である、<12>~<15-2>のいずれかに記載の方法。
<16-3> 前記がんが、甲状腺髄様癌または非小細胞肺癌である、<12>~<15-2>のいずれかに記載の方法。
【0010】
<17> 前記がんが非小細胞肺癌である、<12>~<16-3>のいずれかに記載の方法。
<18>対象に有効量のRETキナーゼ阻害活性を有する化合物および有効量のCDK4/6阻害剤を組み合わせて投与することを含む、腫瘍の増殖を抑制するための方法。
<18-2> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と、前記CDK4/6阻害剤とが、別個に投与される<18>に記載の方法。
<18―3> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と、前記CDK4/6阻害剤とが、同時または順次に投与される<18>に記載の方法。
<19> 前記がんが、RET遺伝子と他の遺伝子との融合遺伝子および/またはRETタンパク質と他のタンパク質との融合タンパク質を有する、<18>~<18-3>のいずれかに記載の方法。
<19-1> 前記他の遺伝子およびタンパク質が、KIF5B、CCDC6、NCOA4またはTRIM33である、<19>に記載の方法。
<19-2> 前記RET遺伝子と他の遺伝子との融合遺伝子およびRETタンパク質と他のタンパク質との融合タンパク質が、RET遺伝子またはタンパク質のチロシンキナーゼドメイン、および他の遺伝子またはタンパク質のコイルドコイルドメインを含む、請求<19>に記載の方法。
<19-3> 前記がんが、RETに変異を有する、<18>~<18-3>のいずれかに記載の方法。
<19-4> 前記RETにおける変異が、RETチロシンキナーゼの活性化を引き起こす変異である、<19-3>のいずれかに記載の方法。
<19-5> 前記がんが、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、脳腫瘍、神経芽細胞腫、神経膠腫、甲状腺癌、骨髄異形成症候群、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、結腸直腸癌、乳癌、卵巣癌、肺癌、膵臓癌、肝臓癌、胆嚢癌、皮膚癌、悪性黒色腫、腎癌、腎盂尿管癌、膀胱癌、子宮癌、精巣癌、前立腺癌、および該腫瘍から転移した腫瘍からなる群より選択される、<18>~<18-3>のいずれかに記載の方法。
<19-6> 前記がんが、甲状腺癌、大腸癌または肺癌である、<18>~<18-3>のいずれかに記載の方法。
<19-7> 前記がんが、甲状腺髄様癌または非小細胞肺癌である<18>~<18-3>のいずれかに記載の方法。
<19-8> 前記がんが、非小細胞肺癌である、<18>~<18-3>のいずれかに記載の方法薬。
<20> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、バンデタニブ、カボザンチニブ、ソラフェニブ、および、セルパーカチニブからなる群から選択される化合物、またはその塩、またはその水和物である、<18>~<19-8>のいずれかに記載の方法。
<20-2> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、バンデタニブ、カボザンチニブ、ソラフェニブ、およびセルパーカチニブからなる群から選択される化合物、またはその塩、またはその水和物である、<18>~<19-8>のいずれかに記載の方法。
<20-3> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、およびセルパーカチニブからなる群から選択される化合物、またはその塩である、<18>~<19-8>のいずれかに記載の方法。
<20-4> RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブまたはその塩である、<18>~<19-8>のいずれかに記載の方法。
<20-5> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、プラルセチニブ、バンデタニブ、カボザンチニブ、ソラフェニブ、および、セルパーカチニブからなる群から選択される化合物、またはその塩、またはその水和物である、<18>~<19-8>のいずれかに記載の方法。
<20-6> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、プラルセチニブ、バンデタニブ、カボザンチニブ、ソラフェニブ、およびセルパーカチニブからなる群から選択される化合物、またはその塩、またはその水和物である、<18>~<19-8>のいずれかに記載の方法。
<20-7> 前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、プラルセチニブ、バンデタニブ、およびセルパーカチニブからなる群から選択される化合物、またはその塩である、<18>~<19-8>のいずれかに記載の方法。
<20-8> RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ、プラルセチニブ、およびバンデタニブからなる群から選択される化合物、またはその塩である、<18>~<19-8>のいずれかに記載の方法。
<20-9> RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が、アレクチニブ塩酸塩である、<18>~<19-8>のいずれかに記載の方法。
<21> 前記アレクチニブまたはその塩が、1日2回、1回につきフリー体に換算して20mg、40mg、60mg、80mg、120mg、160mg、220mg、240mg、300mg、460mg、600mg、760mgまたは900mg投与される<18>~<19-8>のいずれかに記載の方法。
<22> 前記CDK4/6阻害剤が、パルボシクリブ、アベマシクリブ、リボシクリブ、および2-ヒドロキシ-1-[2-[[9-(4-メチルシクロヘキシル)ピリド[4,5]ピロロ[1,2-d]ピリミジン-2-イル]アミノ]-7,8-ジヒドロ-5H-1,6-ナフチリジン-6-イル]エテノンからなる群から選択される、<18>~<21>のいずれかに記載の方法。
<22-2> 前記CDK4/6阻害剤が、パルボシクリブまたはアベマシクリブである、<18>~<21>のいずれかに記載の方法。
<23> (1)RETキナーゼ阻害活性を有する化合物を含有する製剤と、(2)容器、および(3)がんを治療するために前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と少なくとも一種のCDK4/6阻害剤とを組み合わせて対象に投与することを示す指示書またはラベル、を含む製品。
<23-2> (1)CDK4/6阻害剤を含有する製剤と、(2)容器、および(3)がんを治療するために前記CDK4/6阻害剤と少なくとも一種のRETキナーゼ阻害活性を有する化合物とを組み合わせて対象に投与することを示す指示書またはラベル、を含む製品。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ヒトRET融合遺伝子陽性非小細胞肺がん株LC-2/ad細胞に対する、アレクニチブと、ペメトレキセド、パクリタキセル、カルボプラチン、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、パルボシクリブ、SAHA、BKM120、ゲダトリシブ、エベロリムス、またはルミネスピブの単独および併用による、50%細胞増殖阻害濃度を示すグラフ。
【
図2】マウスプロB細胞株Ba/F3にKIF5B-RET融合遺伝子を導入したBa/F3-KIF5B-RET細胞に対する、アレクチニブおよびパルボシクリブあるいはアベマシクリブの単独および併用による、50%細胞増殖阻害濃度を示すグラフ。
【
図3】Ba/F3-KIF5B-RET細胞を移植したBALB/c-nu(ヌード)マウスに対するアレクチニブ(20mg/kg、1日1回15日間経口投与)とパルボシクリブ(75mg/kg、1日1回15日間経口投与)併用投与による、各投与群の腫瘍体積(平均値+標準偏差)と体重の変化率を示すグラフ。
【
図4】LC-2/ad細胞およびBa/F3-KIF5B-RET細胞に対する、アレクチニブとパルボシクリブの単独および併用による、アネキシンV結合量の変化を示すグラフ。
【
図5】LC-2/ad細胞およびBa/F3-KIF5B-RET細胞に対する、アレクチニブとパルボシクリブの単独および併用による、RET、S6、Rbおよびそれぞれのリン酸化タンパク質の発現量を示す図。ローディングコントロールとしてアクチン(ACTB)を用いている。
【
図6】LC-2/ad細胞およびBa/F3-KIF5B-RET細胞に対する、BLU-667またはバンデタニブと、パルボシクリブの単独および併用による、50%細胞増殖阻害濃度を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、がん治療に有効な、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物およびCDK4/6阻害剤を組み合わせてなる、がんを治療または予防するための医薬、組み合わせ、医薬組成物、製剤、がんを治療または予防する方法、または腫瘍の増殖を抑制するための方法、に関する。
【0013】
RETキナーゼ阻害活性を有する化合物
「RETキナーゼ阻害活性を有する化合物」とは、RET阻害剤とも称し、RETキナーゼの活性を阻害する薬剤を意味し、好ましくはRETキナーゼに結合し、当該活性を阻害する作用を有する薬剤である。
具体的な例としては、
・アレクチニブ(化合物名:9-エチル-6,6-ジメチル-8-[4-(モルホリン-4-イル)-ピペリジン-1-イル]-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カルボニトリル)またはその塩、好ましくは、アレクチニブ塩酸塩であり、
・バンデタニブ(化合物名:N(-4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-6-メトキシ-7-[(1-メチルピペリジン-4-イル)メトキシ]キナゾリン-4-アミン)またはその塩、
・BLU-667(プラルセチニブ;化合物名:cis-N-{(1S)-1-[6-(4-フルオロ-1H-ピラゾール-1-yl)ピリジン-3-イル]エチル}-1-メトキシ-4-{4-メチル-6-[(5-メチル-1H-ピラゾール-3-yl)ピリミジン-2-カロイミド]またはその塩、
・カボザンチニブ(化学名:N-(4-(6,7-ジメトキシキノリン-4-イルオキシ)フェニル)-N’-(4-フルオロフェニル)シクロプロパン-1,1-ジカルボキサミド)またはその塩、好ましくはカボザンチニブ(2S)-ヒドロキシブタン二酸塩、
・ソラフェニブ(化合物名:4-{4-[3-(4-クロロ-3-トリフルオロメチルフェニル)ウレイド]フェノキシ}-N
2-メチルピリジン-2-カルボキサミド モノ(4-メチルベンゼンスルホネート))またはその塩、および、
・セルパーカチニブ(化合物名:6-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロポキシ)-4-(6-(6-((6-メトキシピリジン-3-イル)メチル)-3,6-ジアザビシクロ(3.1.1)ヘプタン-3-イル)ピリジン-3-イル)ピラゾロ(1,5-a)ピリジン-3-カルボニトリル)またはその塩、からなる群より選択される化合物などが挙げられる。
好ましくは、アレクチニブ塩酸塩、プラルセチニブ、バンデタニブ、カボザンチニブ(2S)-ヒドロキシブタン二酸塩、ソラフェニブ、またはセルパーカチニブである。
さらに好ましくは、アレクチニブ塩酸塩、バンデタニブ、カボザンチニブ(2S)-ヒドロキシブタン二酸塩、ソラフェニブ、またはセルパーカチニブである。
上記化合物のほかに、下記化合物もRETキナーゼ阻害活性を有することが知られている(Oncology Review 2018, Vol12: 352)ため、本願発明に用いることができる。
【化1】
これらの化合物またはその塩は医薬品製剤として製造販売され、または研究用試薬として入手することができ、あるいは、公知の方法もしくは常法により、製造することができる。これらの化合物またはその塩には、水和物、製薬学的に許容可能な各種溶媒和物や結晶多形等も含まれる。
【0014】
本発明で使用されるRETキナーゼ阻害活性を有する化合物の投与経路は、経口または非経口のいずれでも好適に使用されるが、好ましくは経口投与が好適に使用される。経口投与のために使用される剤型としては、例えば、液剤、散剤、顆粒剤、錠剤、腸溶剤およびカプセル剤等の任意の剤型から適宜選択され得る。こうした剤型をRETキナーゼ阻害活性を有する化合物は当業者に公知の方法で製剤化される。例えば、製薬学的に許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わされ、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和された後に、凍結乾燥、打錠成型等の製剤化作業によって製剤化される。
RETキナーゼ阻害活性を有する化合物は、水もしくはそれ以外の製薬学的に許容し得る液との無菌性溶液または懸濁液剤等の注射剤の形で、非経口的にも使用され得る。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な用量を投与し得るように適宜選択される。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方され得る。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが例示され、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と適宜併用され得る。油性液としてはゴマ油、大豆油が例示され、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と好適に配合され得る。
本発明に係るRETキナーゼ阻害活性を有する化合物の投与量としては、例えば、一回の投与につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で投与量が選択され得る。あるいは、例えば、患者あたり0.001mgから100000mg/bodyの範囲で投与量が選択され得る。しかしながら、本発明のRETキナーゼ阻害活性を有する化合物の投与量はこれらの投与量に制限されるものではない。
例えば、前記アレクチニブ、その塩、またはそれらの水和物のより具体的な投与量としては、1日2回、1回につきフリー体に換算して、20mg、40mg、60mg、80mg、120mg、160mg、220mg、240mg、300mg、460mg、600mg、760mgまたは900mgがあげられる。
また、プラルセチニブ、その塩、またはそれらの水和物のより具体的な投与量は、1日1回につきフリー体に換算して、300mg~800mg、好ましくは400mgである。バンデタニブ、その塩、またはそれらの水和物のより具体的な投与量は、1日1回につきフリー体に換算して、100mg~600mg、好ましくは300mgである。
本発明のRETキナーゼ阻害活性を有する化合物の投与期間は、適宜症状や副作用の程度に応じて決定され、がんが治療されまたは所望の治療効果が達成されるまでの間投与することができる。
【0015】
CDK4/6阻害剤
本発明に用いられるCDK4/6阻害剤は、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)またはサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)の活性を直接的または間接的に中和し、遮断し、阻害し、低減しまたは妨害することが可能な物質を意味する。前記物質には、低分子化合物、抗体、アンチセンス、転写阻害剤、低分子干渉RNA(siRNA)などが含まれる。
CDK4および/またはCDK6は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)のファミリータンパク質であり、哺乳動物の細胞周期の開始、進行、および終了を調節する。増殖にとって重要であり、この経路の調節不全は乳癌においてしばしば認められる。CDK4/6はサイクリンD1および他のD型サイクリンによって細胞周期の早期に活性化され、G1制限点(R点)を通過する細胞周期の進行を促進する。活性化されたサイクリン-CDK複合体は、癌抑制因子であるRbをリン酸化により不活性化し、転写活性化因子E2Fの放出を誘導し、細胞増殖の異常を呈する。
したがって、CDK4/6阻害剤は、がん細胞の増殖抑制に用いられることが公知であり、例えば、パルボシクリブ(化合物名:6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-{[5-(ピペラジン-1-イル)ピリジン-2-イル]アミノ}ピリド[2,3-d]ピリミジン-7(8H)-オン)またはその塩、
・リボシクリブ(化合物名:7-シクロペンチル-N、N-ジメチル-2-((5-(ピペラジン-1-イル)ピリジン-2-イル)アミノ)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン)またはその塩、
・アベマシクリブ(化合物名:N{-5[-(4-エチルピペラジン-1-イル)メチル]ピリジン-2-イル}-5-フロロ-4-[4-フルオロ-2-メチル-1-(1-メチルエチル)-1H-ベンズイミダゾール-6-イル]ピリミジン-2-アミン)またはその塩、
パンデタニブ(化合物名:N-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-6-メトキシ-7-[(1-メチルピペリジン-4-イル)メトキシ]キナゾリン-4-アミン)またはその塩、
・ソラフェニブトシル(4-{4-[3-(4-クロロ-3-トリフルオロメチルフェニル)ウレイド]フェノキシ}-N 2-メチルピリジン-2-カルボキサミドモノ(4-メチルベンゼンスルホネート))またはその塩、好ましくは、ソラフェニブトシル塩酸塩、
・AMG-925(化合物名:2-ヒドロキシ-1-[2-[[9-(4-メチルシクロヘキシル)ピリド[4,5]ピロロ[1,2-d]ピリミジン-2-イル]アミノ]-7,8-ジヒドロ-5H-1,6-ナフチリジン-6-イル]エテノン)またはその塩、
・ファスカプリシン(化合物名:12,13-ジヒドロ-13-オキソ-ピリド[1,2-a:3,4-b’]ジインドール-5-イウム)またはその塩、
などの化合物が臨床で用いられている。
好ましくは、パルボシクリブ、アベマシクリブ、リボシクリブ、およびAMG-925またはその塩である。
これらの化合物またはその塩は医薬品製剤として製造販売され、または研究用試薬として入手することができ、あるいは、常法により、製造することができる。これらの化合物またはその塩には、水和物、製薬学的に許容可能な各種溶媒和物や結晶多形等も含まれる。
【0016】
CDK4/6阻害剤は、常法に従って製剤化され(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mack Publishing Company, Easton, U.S.A)、製薬学的に許容される担体や添加物が共に含まれ得る。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体が適宜使用され得る。具体的には、トレハロース、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類、ポリソルベート等が好適に挙げられる。
【0017】
本発明において、CDK4/6阻害剤の投与方法は、経口、非経口投与のいずれかによって実施され得る。特に好ましくは経口投与による投与方法であり、係る投与方法としては具体的には、液剤、散剤、顆粒剤、錠剤、腸溶剤およびカプセル剤等による投与などが好適に例示される。注射投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによって本発明の治療用が全身または局部的に投与され得る。また、投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択され得る。投与量としては、例えば、経口剤の場合、一回の投与につき0.1mg/kg~100mg/kg、好ましくは1mg/kg~10mg/kgの範囲で投与量が選択され得る。例えば、患者あたり50mgから500mgの範囲で投与量が選択され得る。しかしながら、本発明に用いられるCDK4/6阻害剤の投与量はこれらの投与量に制限されるものではない。
疾患のタイプおよび重篤度に応じて、例えばパルボシクリブの好ましい用量は、限定されないが、1~5mg/kgの範囲であり、症状や副作用の程度に応じて段階的に減量してもよい。投与の頻度は通常1日1回投与を所定の期間(例えば3週間)投与を1サイクルとし、所定の休薬期間(例えば1週間)を設け、当該サイクルを繰り返す。サイクルの回数は、疾患のタイプと重篤度に応じて変動する。治療は、当該分野で知られている方法によって測定して、がんが治療されまたは所望の治療効果が達成されるまで維持される。一例では、パルボシクリブは、125mgを一日一回、3週間継続投与し、副作用等の発現がみられた場合には、一次減量として100mg、二次減量として75mgに減量して投与される。しかしながら、他の用量レジメンも有用であり得る。
CDK4/6阻害剤は、上記3週毎の投与を1サイクルとして、がんが治療されまたは所望の治療効果が達成されるまでの間投与することができる。具体的には1~36サイクルに渡り投与することができる。
また、例えば、アベマシクリブは、150mgを一日一回投与し、副作用等の発現がみられた場合には、一次減量として100mg、二次減量として50mgに減量して投与される。
【0018】
医薬、組み合わせ、医薬組成物および治療・予防方法
本発明の1つの態様は、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物およびCDK4/6阻害剤を組み合わせてなる、がんを治療または予防するための医薬である。
上記態様における、「RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤とを組み合わせてなる、がんを治療または予防するための医薬」とは、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物およびCDK4/6阻害剤を、がんの治療または予防において同時に、別個に、または、順次に投与するために組み合わせた医薬を意味する。本発明の医薬は、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物およびCDK4/6阻害剤を共に含有する配合剤の形で提供することもできる。また、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物を含有する製剤とCDK4/6阻害剤を含有する製剤とが別々に提供され、これらの製剤が、同時に、または順次に使用されてもよい。
本発明において、同時に投与するとは、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と、CDK4/6阻害剤とを同じタイミングで投与して用いることをいい、配合剤として投与してもよく、投与時に用時調整した混合物として投与してもよく、別形態の製剤を同時期に投与してもよい。同時に投与して用いる場合、別々の経路から投与してもよく、同一の経路から投与してもよく、投与剤型も同一であってもよく、別々であってもよい。
本発明において、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物およびCDK4/6阻害剤を別個に投与する場合、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤の投与の順番は、CDK4/6阻害剤の投与後にRETキナーゼ阻害活性を有する化合物が投与され得るし、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤とが同時に投与され得るし、また、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物の投与後にCDK4/6阻害剤が投与され得る。
【0019】
本発明に係るRETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤が順次に投与されるとは、一方の薬剤の投与後に他方の薬剤を投与することを意味し、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤の投与間隔は特に限定されず、投与経路や剤型等の要因が考慮されて設定され得る。例えば、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤の投与間隔は0時間~168時間であり、好ましくは0時間~72時間であり、また好ましくは0~24時間であり、さらに好ましくは0時間~12時間である。また、投与経路や剤型等の要因のほか、本発明に係るRETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤の対象におけるそれぞれの残留濃度も参酌され得る。すなわち、CDK4/6阻害剤の投与前にRETキナーゼ阻害活性を有する化合物が投与される場合には、CDK4/6阻害剤による所望の効果が得られるような、対象における当該RETキナーゼ阻害活性を有する化合物の残留濃度が検出される時点で、CDK4/6阻害剤が投与され得る。当該濃度は、対象から採取された試料を各種のクロマトグラフィー等の分離装置を用いて分離し、当業者において公知の分析方法で分析した結果に基づいて決定され得る。
これとは逆に、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物の投与前にCDK4/6阻害剤が投与される場合には、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物による所望の効果が得られるような、対象におけるCDK4/6阻害剤の残留濃度が検出される時点で、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物が投与され得る。当該濃度は、対象から採取された試料を当業者において公知のELISA等の免疫的測定法で分析した結果に基づいて決定され得る。
【0020】
上記の医薬において、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤とが別々の製剤に含有されて提供される場合には、これらの製剤の剤型は、同じ剤型であっても異なる剤型であってもよい。例えば、双方が経口剤、非経口製剤、注射剤、点滴剤、静脈内点滴剤から選択され互いに異なる剤型であってもよく、双方が経口剤、非経口製剤、注射剤、点滴剤、静脈内点滴剤から選択される同種の剤型であってもよい。好ましくは、双方の剤型が経口剤である。また、上記の医薬には、さらに異なる一種以上の製剤を組み合わせてもよい。
なお、本発明において、医薬組成物は、本発明の治療および/または予防に用いられるRETキナーゼ阻害活性を有する化合物および/またはCDK4/6阻害剤を含むものであり、さらに製薬学的に許容される担体を含んでいてもよい。
本発明において、「製薬学的に許容される担体」という用語は、先に例示されるような一種以上の適合性の固体または液体の賦形希釈剤またはカプセル化材料であって、哺乳類への投与に適したものを意味する。
本発明において、「組み合わせ」とは、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤である化合物を、別個に同一の対象に使用できる形態のもの、あるいはこれらの化合物を混合せずにそれぞれで製剤化し、組み合わせた物を意味する。
本発明において、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤とを組み合わせてなる「医薬製剤」とは、これらの活性成分を別個に製剤化したもの、または同一製剤中に含む、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤などの固形製剤、水性および非水性の経口用溶液および懸濁液、および個々の投与量に小分けするのに適応した容器に充填した非経口用溶液などの液剤、用時溶解して用いることができる凍結乾燥性剤、またはこれらのいずれかの剤型を組み合わせた製剤を含む。当該医薬製剤は、単位剤型あたり、アレクチニブまたはその塩を、フリー体に換算して150mg~800mg、好ましくは150mg~400mg、特に好ましくは、150mg~300mg含有する。アレクチニブまたはSの塩を、別個に製剤化したものは、具体的には、150mgカプセル製剤、150mg、300mg、600mg錠剤などがある。
【0021】
別の観点においては、本発明は、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物を有効成分として含む、CDK4/6阻害剤と併用してがんを治療または予防するための医薬を提供する。「RETキナーゼ阻害活性を有する化合物を有効成分として含む、CDK4/6阻害剤と併用してがんを治療または予防するための医薬」とは、CDK4/6阻害剤と併用することを条件にがんを治療または予防することに用いられる、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物を有効成分として含む医薬を意味する。RETキナーゼ阻害活性を有する化合物を有効成分として含む本発明の医薬がCDK4/6阻害剤と併用される際には、CDK4/6阻害剤と同時に投与され得るし、CDK4/6阻害剤の投与前または投与後に投与され得る。CDK4/6阻害剤の投与前または投与後にRETキナーゼ阻害活性を有する化合物が投与される場合には、対象における当該CDK4/6阻害剤の残留濃度を測定することにより、その投与時期が最適化され得る。当該濃度は、対象から採取された試料を当業者において公知の後述されるELISA等の免疫的測定法に基づいて決定され得る。
別の観点においては、本発明は、CDK4/6阻害剤を有効成分として含む、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と併用してがんを治療または予防するための医薬を提供する。本発明における、「CDK4/6阻害剤を有効成分として含む、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と併用してがんを治療または予防するための医薬」とは、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と併用することを条件にがんを治療または予防することに用いられる、CDK4/6阻害剤を有効成分として含む医薬を意味する。CDK4/6阻害剤を有効成分として含む医薬がRETキナーゼ阻害活性を有する化合物と併用される際には、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と同時に投与され得るし、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物の投与前または投与後に投与され得る。RETキナーゼ阻害活性を有する化合物の投与前または投与後にCDK4/6阻害剤が投与される場合には、対象における当該RETキナーゼ阻害活性を有する化合物の残留濃度を測定することにより、その投与時期が最適化され得る。当該濃度は、対象から採取された試料を各種のクロマトグラフィー等の分離装置を用いて分離し、当業者において公知の分析方法に基づいて決定され得る。
上記発明は、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤とが共に投与または使用(以下、単に「投与」と指称される。)されることを意味するものであって、投与の順番や投与間隔等が限定されて解釈されるものでない。また、本発明は、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤とが組み合わされた製品としても使用され得る。さらに、本発明にしたがって、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤が併用される場合には、いずれか一方が単独で用いられる投与量よりも、所望により各々が少ない投与量で投与され得る。
【0022】
癌種
本発明の医薬は、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、脳腫瘍、神経芽細胞腫、神経膠腫、甲状腺癌(例えば、甲状腺髄様癌)、骨髄異形成症候群、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、結腸直腸癌、乳癌、卵巣癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌など)、膵臓癌、肝臓癌、胆嚢癌、皮膚癌(例えば、スピッツ様新生物など)、悪性黒色腫、腎癌、腎盂尿管癌、膀胱癌、子宮癌、精巣癌、前立腺癌、該腫瘍から転移した腫瘍等の種々の癌などの疾患の予防または治療に有用である。さらに本発明の化合物は、上記癌の浸潤・転移の予防または治療に有用である。
また、本発明の医薬は、RET遺伝子と他の遺伝子との融合遺伝子および/またはRETタンパク質と他のタンパク質との融合タンパク質の癌の予防または治療に有用である。「他の遺伝子」および「他のたんぱく質」としては、KIF5B、CCDC6、NCOA4、TRIM33、CLIP1、およびERC1等が挙げられる。好ましくは、KIF5B、CCDC6、NCOA4およびTRIM33である。
本発明において、RET遺伝子またはタンパク質のチロシンキナーゼドメインとは、ATPのγ位のリン酸基をタンパク質のチロシン残基に転移する反応を担う触媒ドメインである。
本発明において、「他の遺伝子またはタンパク質のコイルドコイルドメイン」とは、FPPFPPP(F:疎水性,P:極性アミノ酸残基)のヘプタッドからなるαへリックスの疎水性部位が相互作用するタンパク質間相互作用ドメインである。
特に、本発明の医薬は、RETに変異を有する腫瘍によるがん、および/または、RET融合遺伝子陽性のがんの予防または治療に有用である。RET融合遺伝子陽性のがんの例としては、甲状腺癌、非小細胞肺癌などがあげられるが、これらに限定されない。
本発明において、RETに変異を有する腫瘍とは、RET遺伝子および/またはRETタンパク質において、RETチロシンキナーゼの活性化を引き起こす変異が生じていること、RETチロシンキナーゼを活性化させ、癌化(例えば甲状腺癌、肺癌)を誘発する変異が生じていること、が含まれる。RETチロシンキナーゼの活性化は、腫瘍組織におけるリン酸化RETを抗リン酸化RET抗体による免疫染色などで検出することにより確認することができる。
本発明において、RETチロシンキナーゼの活性化とは、RETチロシンキナーゼに含まれるアミノ酸残基、例えばチロシン残基がリン酸化されていることを意味し、被験者(例えば被験者から採取した試料)におけるリン酸化RETチロシンキナーゼタンパク質の量が(例えば健常者と比較して)増大することが含まれる。さらに、RETチロシンキナーゼのリン酸化によりRETチロシンキナーゼが標的とするタンパク質(以下標的タンパク質)がリン酸化されることが含まれる。「RETチロシンキナーゼの活性化」には、リン酸化RETチロシンキナーゼタンパク質の他、リン酸化された前記標的タンパク質の量が増大することが含まれる。
【0023】
RETチロシンキナーゼの活性化を引き起こす変異として、(1)RETのシステインリッチドメインにおける変異、(2)RETのチロシンキナーゼドメインにおける変異、(3)RET遺伝子と他の遺伝子との融合遺伝子やRETタンパク質と他のタンパク質との融合タンパク質の形成、が報告されている(TRENDS in Genetics, 2006年,22巻,p.627-636)。ヒトのRET遺伝子は10番染色体(10q11.2)に位置し、21個のエキソンからなる。「RETのシステインリッチドメイン」とは、RETチロシンキナーゼにおけるシステインに富む領域であり、当該ドメインをコードするポリヌクレオチドはエキソン10および11に位置する。「RETのチロシンキナーゼドメイン」とは、RETチロシンキナーゼにおけるチロシンキナーゼ活性を有する領域であり、当該ドメインをコードするポリヌクレオチドはエキソン12~18に位置する(TRENDS in Genetics, 2006年,22巻,p.627-636)。
本発明において、RET融合遺伝子陽性とは、RETと、他の遺伝子、例えば、KIF5B、CCDC6、NCOA4、TRIM33、CLIP1、およびERC1等との融合遺伝子が、公知の方法、例えば、逆転写PCR法とサンガーシーケンス法を組み合わせた方法や、インサイチュー・ハイブリダイゼーション技術などを用いて検出された腫瘍を意味する。RET融合遺伝子陽性の癌の具体例は、WO2014/050781に記載されているものがあげられるが、これらに限定されない。
【0024】
本発明の別の態様においては、CDK4/6阻害剤を使用することにより、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物による癌患者に対する治療に際して、当該RETキナーゼ阻害活性を有する化合物の治療効果を増強させる方法が提供される。ここで、治療効果の増強とは、治療の奏功率が上昇すること、治療のために投与されるRETキナーゼ阻害活性を有する化合物の量が低減されること、より重篤な症例に対し治療効果を示すこと、前治療無効例あるいは悪化例に対し治療効果を示すこと、癌の消失等によりRETキナーゼ阻害活性を有する化合物による治療期間が、単独投与で予想される治療期間、もしくは併用投与による治療開始前に予定された治療期間よりも短縮される、あるいは病勢進行の抑制によりRETキナーゼ阻害活性を有する化合物および/またはその他の維持療法を含む治療期間が延長されることのいずれかを意味する。また、本発明の別の態様においては、有効量のRETキナーゼ阻害活性を有する化合物および有効量のCDK4/6阻害剤を組み合わせて投与することを含む、対象において無増悪生存期間を延長させる方法、が提供される。また、本発明の別の態様においては、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物およびCDK4/6阻害剤を有効成分として含む、がんを治療または予防するための医薬組成物を製造するためのRETキナーゼ阻害活性を有する化合物、もしくはCDK4/6阻害剤の使用方法が提供される。
【0025】
本発明において、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物および/またはCDK4/6阻害剤を有効成分として含むとは、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物および/またはCDK4/6阻害剤を主要な活性成分として含むという意味であって、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物および/またはCDK4/6阻害剤の含有率を制限するものではない。また、「治療」という用語は本発明に係る医薬が対象に投与されることによって、癌細胞が死滅またはその細胞数が減少すること、癌細胞の増殖が抑制されること、癌細胞の転移を抑制すること、がんに起因する様々な症状が改善されることのいずれかを意味するものである。また、「予防」という語は、減少した癌細胞が再度増殖することによるその数の増加を防止すること、増殖が抑制された癌細胞の再増殖を防止することのいずれかを意味する。
本発明において、「有効量」とは、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物およびCDK4/6阻害剤を組み合わせて投与する場合における、それぞれの阻害剤についての1日投与量を意味する。本発明における投与量は、それぞれの阻害剤が単独で用いられる場合の投与量と同じであってもよく、単独でも用いられる場合の投与量よりも低い投与量であってもよい。あるいは、本発明における有効量は、一方が単独で用いられる場合の投与量と同じであり、他方が単独で用いられる場合の投与量よりも低い投与量であってもよい。
【0026】
本発明において、「無増悪生存期間(PFS)」は、治療(または無作為化)から最初の疾患進行または死亡までの時間を指す。本発明の一態様では、PFSは固形腫瘍の治療効果判定基準(RECIST)によって評価することができる。本発明の一態様では、PFSは、進行の決定要因としてCA-125レベルによって評価されることができる。
本発明において、「無増悪生存期間を延長させる」の具体例としては、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤阻害剤の併用が、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物またはCDK4/6阻害剤を単剤で併用の際に用いた投与量と同じ用量で投与した際のPFSと比較して、PFSが延長することが挙げられる。
本発明において、「対象」とは、限定しないが、本発明の医薬の投与対象となる、または、本発明の医薬の投与が必要とされる、ヒトまたは非ヒト哺乳動物、例えばウシ、ウマ、イヌ、ヒツジ、またはネコを含む哺乳動物を意味する。好ましくは、対象はヒトである。対象には患者(ヒトおよび非ヒト哺乳動物を含む)が含まれる。具体的には、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、脳腫瘍、神経芽細胞腫、神経膠腫、甲状腺癌(例えば、甲状腺髄様癌)、骨髄異形成症候群、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、結腸直腸癌、乳癌、卵巣癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌など)、膵臓癌、肝臓癌、胆嚢癌、皮膚癌(例えば、スピッツ様新生物など)、悪性黒色腫、腎癌、腎盂尿管癌、膀胱癌、子宮癌、精巣癌、前立腺癌、該腫瘍から転移した腫瘍等の種々の癌に罹患する患者、または罹患する可能性の高いヒトまたは非ヒト哺乳動物である。
【0027】
製品
本発明の別の態様として、製品が提供される。一実施態様では、製品は対象におけるがんを治療または予防するために提供され、(a)(1)CDK4/6阻害剤を含有する製剤、(2)容器、(3)対象におけるがんを治療するために前記CDK4/6阻害剤と少なくとも一種のRETキナーゼ阻害活性を有する化合物とを組み合わせて対象に投与することを示す指示書またはラベル、または(b)(1)RETキナーゼ阻害活性を有する化合物を含有する製剤、(2)容器、(3)対象におけるがんを治療するために前記RETキナーゼ阻害活性を有する化合物と少なくとも一種のCDK4/6阻害剤とを組み合わせて対象に投与することを示す指示書またはラベル、を含む。
製品は、CDK4/6阻害剤またはRETキナーゼ阻害活性を有する化合物を含有する製剤を含む容器を含む。
製品は、容器上または容器に付随したラベルまたは指示書をさらに含み得る。
本発明において「指示書」とは、製剤の使用に関する適応症、用法、投与量、投与、禁忌症および/または警告についての情報を含む、製剤の商業用パッケージ中に通常含まれる書類を意味する。「ラベル」とは、CDK4/6阻害剤またはRETキナーゼ阻害活性を有する化合物を含有する製剤の製品名、用量、剤型、適応症等の表示を含むシート状の物品であり、容器に直接貼付されるものを意味する。
ラベルまたは指示書は、製剤の適応症、すなわちがんなどの治療に使用されることを示す。一実施態様では、ラベルまたは指示書は、製剤ががんを治療するために使用することができることを示す。ラベルまたは指示書はまた、製剤が他の障害を治療するために使用することができることを示し得る。
適切な容器には、例えば、PTP、ビン、バイアル、シリンジ、ブリスターパックなどが挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料から形成し得る。これらの容器が更に上記ラベルの内容等を印刷した紙製の外箱に梱包されていてもよい。
【0028】
RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤との併用により、単独投与による薬剤の副作用を低減することが期待できる。ここで、「副作用」は、疾患の治療を受ける患者に観察されるおよび/または測定される、臨床的、医学的、物理的、生理学的、および/または生化学的影響で、意図される治療結果の一部ではない影響を意味する。一般的に、前記影響は、治療される患者の健康状態および/または快適さ、治療される患者にとっての健康的危険性、および/または治療される患者に対する治療許容性を低下させるものであり、休薬や減量等の適切な処置が必要となるため、継続的治療を困難にするものである。副作用の具体例としては骨髄抑制(好中球減少、白血球減少、貧血、血小板減少、発熱性好中球減少、リンパ球減少)、間質性肺炎、肝機能障害(ALT上昇、AST上昇、Al-P上昇、ビリルビン上昇)、消化器症状(下痢、悪心、嘔吐、口内炎、リパーゼ上昇、食欲不振、アミラーゼ上昇、便秘、消化不良、嚥下障害、腹痛、消化管穿孔)、皮膚症状(手足症候群、はく脱性皮膚炎、脱毛症、発疹、皮膚落屑、そう痒、皮膚乾燥、潮紅、ざ瘡、過敏性反応)、呼吸器症状(咳嗽、呼吸困難、肺炎、肺感染、気胸)、精神神経系症状(味覚異常、不動性めまい)、循環器症状(高血圧)疲労、関節痛、筋肉痛、感染症(上気道感染、尿路感染)、臨床検査値異常(血中クレアチニン増加、低カリウム血症)、血栓塞栓症、ほてり、無力症(筋力低下)、流涙増加、頭痛、けん怠感、浮腫、末梢性浮腫、体重減少、発熱、インフルエンザ様疾患、または四肢痛等があげられる。併用した場合において認められた副作用の頻度およびグレード等を単剤で投与した場合の頻度およびグレード等と比較することにより、併用した場合において副作用が低減されるか否かを確認することができる。
【実施例】
【0029】
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書に参照として取り込まれる。
以下、本発明を実施例の記載によって具体的に説明するが本発明は当該記載によって限定して解釈されるものではない。
【0030】
実施例1
ヒトRET融合遺伝子陽性非小細胞肺がん株LC-2/ad細胞(RIKEN、J Thorac Oncol.2012 Dec,7(12),1872-6)を1×10
4細胞ずつ96穴プレートに播種し、アレクチニブ(社内で合成)を非小細胞肺がんの治療に使用されるあるいは臨床開発が行われた薬剤の内の下記12化合物から選択される抗がん剤と併用した。化合物は、葉酸代謝拮抗薬ペメトレキセド(富士フィルム和光純薬)、微小管阻害剤パクリタキセル(富士フィルム和光純薬)、アルキル化剤カルボプラチン(富士フィルム和光純薬)、微小管阻害剤ビノレルビン(富士フィルム和光純薬)、代謝拮抗薬ゲムシタビン(富士フィルム和光純薬)、トポイソメラーゼI阻害剤イリノテカン(富士フィルム和光純薬)、CDK4/6阻害剤パルボシクリブ(Sigma-Aldrich)、HDAC阻害剤SAHA(東京化成工業)、PI3K阻害剤BKM120(AdooQ BioScience)、PI3KおよびmTOR阻害剤ゲダトリシブ(Selleck Chemicals LLC)、mTOR阻害剤エベロリムス(AdooQ BioScience)、HSP90阻害剤ルミネスピブ(Akt Pharm, Inc.)である。各単剤および併用で4日間処理し細胞増殖試験を実施した。薬剤処理濃度は表1に示した。IC50アイソボログラム法(Pharmacol Res Perspect.2015 Jun;3(3):e00149)により併用効果を解析した結果を
図1に示した。なお、
図1において、横軸・縦軸はそれぞれアレクチニブ・併用相手化合物の濃度を示す。ここで、各軸上の点は各薬剤単剤の50%細胞増殖阻害濃度を、軸上の二点を結んだ点線は相加効果を示す。枠内の点が点線の内側・線上・点線の外側にある場合両薬剤はそれぞれ相乗・相加・拮抗効果を意味する。
その結果、アレクチニブとペメトレキセド、パクリタキセル、カルボプラチン、ビノレルビン、イリノテカン、またはルミネスピブとの併用は拮抗効果を示した。ゲムシタビン、SAHA、ゲダトリシブ、またはエベロリムスとの併用は相加程度の効果を示した。BKM120との併用は一部の濃度で相乗効果を示した。パルボシクリブとの併用は枠内の全ての点が点線の内側にあり、相乗効果を示した。
【0031】
実施例2
マウスプロB細胞株Ba/F3にKIF5B-RET融合遺伝子を導入したBa/F3-KIF5B-RET細胞(Mol Cancer Ther. 2014;13: 2910-2918)を5×10
3細胞ずつ96穴プレートに播種し、アレクチニブおよびCDK4/6阻害剤パルボシクリブあるいはCDK4/6阻害剤アベマシクリブ(Selleck Chemicals LLC)を併用および単剤で4日間処理し細胞増殖試験を実施した。薬剤処理濃度は表1に示した。アイソボログラム法により併用効果を解析した結果を
図2に示した。
なお、
図2において、横軸・縦軸はそれぞれアレクチニブ・パルボシクリブあるいはアベマシクリブの濃度を示す。
その結果、Ba/F3-KIF5B-RET細胞においてもアレクチニブとパルボシクリブは相乗効果を示した。更に、別のCDK4/6阻害剤であるアベマシクリブとの併用でも相乗効果を示した。これらの結果から、アレクチニブとCDK4/6阻害剤の併用はCDK4/6阻害剤の種類に依らず相乗効果を有すると考えられる。
【表1】
【0032】
実施例3
Ba/F3-KIF5B-RET細胞を1匹あたり5×10
6細胞移植したBALB/c-nu(ヌード)マウス(日本チャールスリバー)に対して、細胞を移植した後11日目にアレクチニブ(20mg/kg、1日1回15日間経口投与)とパルボシクリブ(75mg/kg、1日1回15日間経口投与)を併用した。各投与群の腫瘍体積(平均値+標準偏差)と体重の変化率(平均値+標準偏差)を
図3に示した。
なお、
図3において、横軸は、薬剤投与初日を1とした際の経過日数、縦軸は、腫瘍体積(Tumor volume)と体重の変化率(Relative body weight)を示し、Vehicleは溶媒投与対照群、ALCはアレクチニブ単剤投与群、PDはパルボシクリブ単剤投与群、ALC+PDはアレクチニブおよびパルボシクリブ併用投与群を示す。
その結果、併用投与群はアレクチニブ単剤投与群およびパルボシクリブ単剤投与群と比較して高い抗腫瘍効果を示した。薬剤投与後11日目において、併用投与群は各単剤投与群および溶媒投与対照群と比較して統計学的に有意に高い抗腫瘍効果を示した。いずれの群においても溶媒投与群と比較して体重減少は見られなかった。
【0033】
実施例4
LC-2/ad細胞およびBa/F3-KIF5B-RET細胞をそれぞれ2×10
4細胞あるいは1×10
4細胞ずつ96穴プレートに播種し、アレクチニブ(100nM)およびパルボシクリブ(100nM)を添加した。3日後RealTime Glo Annexin V Apoptosis and Necrosis Assay(Promega)キットの内Annexin V検出用の試薬を用いてAnnexin Vの結合を観察した。Controlに対する各薬剤処理群の蛍光強度の比を
図4に示した。
なお、
図4において、Controlは溶媒対照群を、ALCはアレクチニブ単剤処理群を、PDはパルボシクリブ単剤処理群を、ALC+PDはアレクチニブとパルボシクリブ併用処理群を示す。
その結果、併用処理群は各単剤群および溶媒対照群と比較して有意に高いAnnexin Vの結合を示した。この結果から、両併用によりアポトーシスが増強されることが示唆された。
【0034】
実施例5
LC-2/ad細胞およびBa/F3-KIF5B-RET細胞をアレクチニブ(100nM)およびパルボシクリブ(100nM)で処理し、24時間後各細胞からタンパク質を精製した。各タンパク質の発現量をキャピラリー電気泳動タンパク質解析システムSally Sue(ProteinSimple)を用いて観察した結果を
図5に示した。
なお、
図5において、ALCはアレクチニブを、PDはパルボシクリブを示し、-および+はそれぞれ薬剤非処理、処理を示す。
その結果、両薬剤の併用により、単剤と比較して細胞周期進展に関与するタンパク質をコードする遺伝子の転写を促進するタンパク質であるS6のリン酸化を抑制することが確認された。また、両薬剤の併用により、単剤と比較して細胞周期進展に関与するRbのリン酸化を抑制することが確認された。
【0035】
実施例6
LC-2/ad細胞を1×10
4細胞ずつ、Ba/F3-KIF5B-RET細胞を5×10
3細胞ずつ96穴プレートに播種し、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物であるBLU-667(プラルセチニブ;Sellck Chemicals LLC)あるいはバンデタニブ(Cellagen Technology)と、パルボシクリブを併用および単剤で4日間処理し細胞増殖試験を実施した。薬剤処理濃度は表2に示した。アイソボログラム法により併用効果を解析した結果を
図6に示した。
【表2】
なお、
図6において、横軸・縦軸はそれぞれBLU-667あるいはバンテダニブ・パルボシクリブの濃度を示す。
その結果、両細胞においていずれのRETキナーゼ阻害活性を有する化合物とパルボシクリブの併用も相乗効果を示した。これらの結果から、RETキナーゼ阻害活性を有する化合物とCDK4/6阻害剤の併用はRETキナーゼ阻害活性を有する化合物の種類に依らず相乗効果を有すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本願発明の併用医薬は、RET融合遺伝子陽性の各種腫瘍細胞および、当該細胞を移植したマウスに対し、細胞増殖抑制または腫瘍体積の減少において、相乗効果を有することから、RETに変異のある各種がんの予防または治療に有用である。