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特許7642577災害リスク評価装置、方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】災害リスク評価装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20250303BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20250303BHJP
【FI】
G06Q50/06
G06Q10/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022018024
(22)【出願日】2022-02-08
(65)【公開番号】P2023115669
(43)【公開日】2023-08-21
【審査請求日】2024-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】當房 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 伸久
(72)【発明者】
【氏名】堺 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】小原 玲子
(72)【発明者】
【氏名】廣政 勝利
(72)【発明者】
【氏名】羽深 俊一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦明
【審査官】田川 泰宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-310146(JP,A)
【文献】特開2021-117780(JP,A)
【文献】特開2014-130501(JP,A)
【文献】特開2013-225185(JP,A)
【文献】特開2005-141334(JP,A)
【文献】特開2012-137827(JP,A)
【文献】特開2015-050780(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0029418(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力リソースを識別するリソースIDに、その設置位置及びリソース性能を紐付けて情報登録した第1データベースと、
前記リソースIDをキーとして統合システムの対象となる複数の前記電力リソースを特定する対象特定部と、
特定された前記電力リソースの各々について、ハザードにより変化した前記リソース性能を推定する性能推定部と、
特定された前記電力リソースの各々の前記リソース性能に基づいて前記統合システムのシステム性能を集計する集計部と、を備える災害リスク評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の災害リスク評価装置において、
特定された前記電力リソースの各々に対し、前記ハザードによる機能喪失確率を予測する第2評価部を備え、
前記リソース性能の変化の推定は前記機能喪失確率に基づく、災害リスク評価装置。
【請求項3】
請求項2に記載の災害リスク評価装置において、
前記機能喪失確率は、前記ハザードの強度と前記電力リソースの耐久性を示す耐力との関係性から予測される災害リスク評価装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の災害リスク評価装置において、
前記機能喪失確率は、前記電力リソースの構成機器のフォールトツリーから予測される災害リスク評価装置。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の災害リスク評価装置において、
前記ハザードによる変化前の前記リソース性能、及び変化後の前記リソース性能に基づいて前記電力リソースの各々を個別にリスク評価し、さらにこれらに基づいて前記統合システムの統合リスク評価を行う第3評価部を備える災害リスク評価装置。
【請求項6】
請求項5に記載の災害リスク評価装置において、
前記第3評価部は、さらに前記ハザードの発生頻度にも基づいて前記リスク評価する災害リスク評価装置。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の災害リスク評価装置において、
前記第3評価部は、前記電力リソースの前記設置位置及び組み合わせの少なくとも一方を条件変更して前記リスク評価する災害リスク評価装置。
【請求項8】
電力リソースを識別するリソースIDに、その設置位置及びリソース性能を紐付けて情報登録するステップと、
前記リソースIDをキーとして統合システムの対象となる複数の前記電力リソースを特定するステップと、
特定された前記電力リソースの各々について、ハザードにより変化した前記リソース性能を推定するステップと、
特定された前記電力リソースの各々の前記リソース性能に基づいて前記統合システムのシステム性能を集計するステップと、を含む災害リスク評価方法。
【請求項9】
コンピュータに、
電力リソースを識別するリソースIDに、その設置位置及びリソース性能を紐付けて情報登録するステップ、
前記リソースIDをキーとして統合システムの対象となる複数の前記電力リソースを特定するステップ、
特定された前記電力リソースの各々について、ハザードにより変化した前記リソース性能を推定するステップ、
特定された前記電力リソースの各々の前記リソース性能に基づいて前記統合システムのシステム性能を集計するステップ、を実行させる災害リスク評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、複数の電力リソースを統合運用するシステムの災害リスク評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
需要家等の電力リソースである創エネルギー機器・設備、蓄エネルギー機器・設備、負荷機器・設備を遠隔操作等することによって、電力の需要と供給のバランスを調整することが一般に行われている。近年、複数の電力リソースの統合システムを運用するアグリゲーターが、系統安定化、電力調達の最適化、設備の最適運用等を、ビジネスとして提供している。この電力の需要と供給の調整においては、通常時、気象データ、機器・設備運転データ等に基づく発電量の予測技術が必要となっている。
【0003】
例えば、風速予測に基づいて、風力発電の発電量を予測する技術が知られている。また、再生可能エネルギーの発電量を気象実績と出力実績から予測する技術が知られている。また、電力需給を想定して、事業者のリスクを考慮した需給計画を作成する技術が知られている。また、複数の電力リソースを総合した供給電力を予測する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5797599号公報
【文献】特許第6427090号公報
【文献】特開2020-129345号公報
【文献】特開2021-13231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した技術は、通常時の電力需給バランスの調整のため、気象データ、運転データなどに基づいて発電量を予測するものである。しかし、災害時における発電量の予測は、検討されていなかった。
【0006】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、複数の電力リソースを統合運用するシステムの災害時における発電量を予測し、災害リスクを評価する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る災害リスク評価装置において、電力リソースを識別するリソースIDにその設置位置及びリソース性能を紐付けて情報登録した第1データベースと、前記リソースIDをキーとして統合システムの対象となる複数の前記電力リソースを特定する対象特定部と、特定された前記電力リソースの各々についてハザードにより変化した前記リソース性能を推定する性能推定部と、特定された前記電力リソースの各々の前記リソース性能に基づいて前記統合システムのシステム性能を集計する集計部と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態により、複数の電力リソースを統合運用するシステムの災害時における発電量を予測し災害リスクを評価する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の各実施形態に係る災害リスク評価装置のブロック図。
図2】複数の電力リソースで特定された統合システムの構成図。
図3】電力リソースの設置位置及びリソース性能等を情報登録した管理テーブル。
図4】電力リソースの耐力を情報登録した管理テーブル。
図5】電力リソースにおける地震加速度に対する機能喪失確率を示すグラフ。
図6】電力リソースの一例である太陽光発電の機能喪失確率の予測に利用するフォールトツリー。
図7】電力リソースに関与するハザードを情報登録した管理テーブル。
図8】電力リソースが設置される各々の地点で発生する地震ハザードに関し地震加速度と発生頻度のデータ系列を表示したグラフ。
図9】電力リソースが設置される地域の浸水に関するハザードマップ。
図10】電力リソースの設置位置を条件変更した際に統合システムをリスク評価する災害性能曲線の実施例。
図11】電力リソースを組み合わせることで統合システムをリスク評価する災害性能曲線の実施例。
図12】本発明の実施形態に係る災害リスク評価方法の工程及び災害リスク評価プログラムのアルゴリズムを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明の各実施形態に係る災害リスク評価装置10のブロック図である。図2は複数の電力リソース31(31a,31b,31c,31d)で特定された統合システム30の構成図である。図3は電力リソース31(図2)の設置位置45及びリソース性能R等を情報登録した管理テーブル40aである。
【0011】
第1実施形態の災害リスク評価装置10(図1)は、電力リソース31(31a,31b,31c,31d)を識別するリソースID42(図3)にその設置位置45及びリソース性能Rxを紐付けて情報登録した第1データベース11と、このリソースID42をキーとして統合システム30(図2)の対象となる複数の電力リソース31を特定する対象特定部25と、特定された電力リソース31(31a,31b,31c,31d)の各々についてハザードにより変化したリソース性能Ryを推定する性能推定部26と、特定された電力リソース31(31a,31b,31c,31d)の各々のリソース性能R(Rx,Ry)に基づいて統合システム30のシステム性能Sを集計する集計部27と、を備えている。
【0012】
災害リスク評価装置10は、アグリゲーターが統合運用する複数の電力リソース31(31a,31b,31c,31d)で構成される統合システム30の災害リスクを評価するものである。このように複数の電力リソース31を統合運用することで、系統安定化、電力調達の最適化、設備の最適運用等をビジネスとして提供できる。なお統合システム30には、電力の供給を受ける需要家32が設置した電力リソース31dを含めることができる。
【0013】
これら電力リソース31としては、創エネルギー機器・設備、蓄エネルギー機器・設備、負荷機器・設備等が挙げられる。創エネルギー機器・設備としては、自家(非常用)発電機、コージェネレーション、再生可能エネルギー発電機等が挙げられる。蓄エネルギー機器・設備としては、蓄電池、ヒートポンプ、蓄熱等が挙げられる。負荷機器・設備は、空調、ファン、チラー等が挙げられる。
【0014】
図1に示すように各実施形態に係る災害リスク評価装置10は、データベース11,12,13と、制御部20を備えている。なおデータベース11,12,13は、メモリ、HDDまたはクラウド上のデータ保存媒体で構成され、検索または蓄積ができるよう整理されたデータ情報の集合体である。
【0015】
そして制御部20は、第1評価部21と、第2評価部22と、第3評価部23とから構成されている。第1実施形態で説明される第1評価部21は、対象特定部25と、性能推定部26と、集計部27とから構成されている。また後述する第2実施形態で説明される第2評価部22は、フラジリティ評価部28と、フォールトツリー作成部29とから構成されている。さらに第3実施形態で説明される第3評価部23は個別リスク評価部35と、統合リスク評価部36と、から構成されている。
【0016】
なお図示を省略するが、制御部20には、ユーザの操作に応じて所定の情報を入力する入力部(マウス、キーボード等)と、データベース11,12,13に蓄積された情報や評価結果の出力を行う出力部(紙媒体に印字するプリンタや画像や表示を行うディスプレイ等)と、が接続されている。なおこのディスプレイには、図2に示すような、統合システム30を構成する電力リソース31(31a,31b,31c,31d)の各々の態様を示す画像表示することができる。これによりユーザは、電力リソース31のリソース名称や設置位置45を直観的に把握できる。
【0017】
図3に示すように管理テーブル40aには、統合システム30を識別するシステムID41を主キーとして、構成要素の電力リソース31(31a,31b,31c,31d)の各々の情報が登録されている。具体的には、システムID41に対応付けて、リソースID42と、リソース名称と、座標・標高等の情報を含む設置位置45と、定格出力・電力量・継続時間等の情報を含むリソース性能Rと、統合システム30の統合出力等の情報を含むシステム性能Sと、が少なくとも登録されている。
【0018】
ここで、リソースID42は、電力リソース31を個々に識別可能な識別情報である。「リソース名称」は、「風力発電」「太陽光発電」「蓄電池」「非常用発電」等といった電力リソース31の種類を示している。設置位置45は、電力リソース31が設置された場所の座標・標高である。この設置位置45は、災害の発生時に対応する座標・標高に位置する電力リソース31が機能喪失するか否かの判定対象となる。
【0019】
リソース性能Rで示される「定格出力」「電力量」は、電力リソース31の各々の発電能力が時間や気象等と共に変動するのであれば、時系列データを用いても良い。なお「継続時間」は、電力リソース31が電力を出力可能な時間を示す。システム性能Sにおける「システム統合出力」は、構成要素である電力リソース31の「定格出力」を集計したものである。このシステム性能Sも、上述のリソース性能Rと同様に、時間や気象などによって変動するのであれば、時系列データが用いられる。
【0020】
管理テーブル40a(図3)には、上述した項目以外に、統合システム30の需要家32の「使用電力」(図示略)を登録しても良い。この「使用電力」を「システム統合出力」から差し引くことで、統合システム30における供給電力の余裕度を把握できる。
【0021】
第1データベース11(図1)には、図2に示される統合システム30の構成情報や、図3に示される管理テーブル40a以外に、統合システム30の全体の統合性能などを示す情報が保存される。そのような情報としては、統合システム30が設置されている地理的情報、電力リソース31の各々を構成する各種機器・設備の性能等が保存される。
【0022】
また、これら統合システム30の構成情報や管理テーブル40aは、上述した図示略の出力部(プリンタやディスプレイ)で画像出力することができる。さらに、これら構成情報や管理テーブル40aに登録されているデータは、他のデータベース12,13等に登録されているデータを、関連付けて読み出すことができる。
【0023】
(第2実施形態)
次に図1図4図5図6を参照して本発明における第2実施形態について説明する。図1に示すように第2実施形態の災害リスク評価装置10は、第1実施形態で説明した第1データベース11及び第1評価部21に加えて、さらに第2データベース12及び第2評価部22を備えている。
【0024】
ここで図4は電力リソース31のリソース耐力48を情報登録した管理テーブル40bである。図5は電力リソース31における地震加速度に対する機能喪失確率Pを示すグラフである。図6は電力リソース31の一例である太陽光発電の機能喪失確率Pの予測に利用するフォールトツリー15である。第2実施形態の災害リスク評価装置10では、ハザードによるリソース性能Rの変化は、機能喪失確率Pに基づいて推定される。
【0025】
第2評価部22は、統合システム30において特定された電力リソース31(31a,31b,31c,31d)の各々に対し、自然災害(ハザード)による機能喪失確率Pを予測するために、ハザードの強度Jと電力リソース31の耐久性を示すリソース耐力48との関係性を評価するフラジリティ評価部28と、電力リソース31の構成機器のフォールトツリー15を作成する作成部29と、から構成される。
【0026】
第2データベース12(図1)には、電力リソース31(31a,31b,31c,31d)の各々のリソース耐力48や故障確率等の情報を記録した管理テーブル40b(図4)が登録されている。さらに第2データベース12には、フォールトツリー15の作成に必要な、電力リソース31を構成する設備・機器の情報47が登録されている。
【0027】
図4の管理テーブル40bにおいて、「リソース用途」には、例えば「発電」、「蓄電」、「需要」等といった電力リソース31の用途を示す情報が登録されている。そしてリソース耐力48には、ハザードの強度Jに対する電力リソース31の耐久力を示す情報が登録されている。
【0028】
ハザードが地震の場合、その強度Jは地震加速度となり、リソース耐力48は、地震加速度もしくは速度に対する電力リソース31の耐久力を示す情報となる。そして、ハザードが台風の場合、その強度Jは風速となり、リソース耐力48は、風速に対する電力リソース31の耐久力を示す情報となる。またハザードが落雷の場合、その強度Jは雷撃電流値となり、リソース耐力48は、雷撃電流値に対する電力リソース31の耐久力を示す情報となる。さらにハザードが水害の場合、その強度Jは浸水深となり、リソース耐力48は、浸水深に対する電力リソース31の耐久力を示す情報となる。
【0029】
管理テーブル40b(図4)の設計基準49は、電力リソース31がハザードの強度Jに対して耐えられる設計上の基準値を示す情報である。ハザードが地震の場合、その強度Jは地震加速度もしくは速度となり、設計基準49は電力リソース31が地震加速度もしくは速度に対して耐えられる設計上の基準値となる。ハザードが台風の場合、その強度Jは風速となり、設計基準49は電力リソース31が風速に対して耐えられる設計上の基準値となる。
【0030】
ハザードが落雷の場合、その強度Jは雷撃電流値となり、設計基準49は電力リソース31が雷撃電流値に対して耐えられる設計上の基準値となる。ハザードが水害の場合、その強度Jは浸水深となり、設計基準49は電力リソース31が浸水深に対して耐えられる設計上の基準値となる。これらリソース耐力48と設計基準49は、ハザードにより電力リソース31が機能喪失するか否かを特定可能な特定情報である。
【0031】
ところで、リソース耐力48は、ハザードの強度Jに対する電力リソース31の機能喪失確率Pと密接な関係性を有する情報である。このため、リソース耐力48を、機能喪失確率Pに置き換えてグラフ表示できる(図5参照)。
【0032】
図5のグラフは、ハザードが地震の場合、地震加速度で表した強度Jと電力リソース31の機能喪失確率Pとの関係を示している。図5のグラフの横軸で表されるハザード強度Jは、ハザードが台風の場合は風速になり、ハザードが落雷の場合は雷撃電流値になり、ハザードが水害の場合は浸水深となる。なお対象となるハザードは、以上に例示したものに限定されない。
【0033】
なお図5には、3種類の電力リソース31(31a,31b,31c)がグラフ表示されている。このように、それぞれの設計基準49が同一であっても、リソース耐力48は電力リソース31ごとに異なる場合があることが判る。このようにリソース耐力48(フラジリティ)を評価して得た機能喪失確率Pは、第1評価部21において、ハザードにより変化したリソース性能Ryの推定に利用される。
【0034】
このように第2評価部22では、統合システム30の電力リソース31が被るハザードの強度Jとリソース耐力48とからフラジリティを評価し、さらにフォールトツリー15による解析を加えることで電力リソース31の機能喪失確率Pを評価する。なお機能喪失確率Pによる定量的な評価は、フラジリティ評価部28及びフォールトツリー作成部29の少なくとも一方を設けることで可能である。
【0035】
図6は、フォールトツリー作成部29で作成したフォールトツリー15の一例である。本実施形態では、フォールトツリー15の下位アイテムに、電力リソース31を構成する設備・機器が登録される。これらの下位アイテムは、論理ゲート(ANDゲート、ORゲート)により関連付けられて、フォールトツリー15を作成する。
【0036】
また、フォールトツリー15における中位アイテムには、下位アイテムのイベントの発生に関連して生じるイベントが登録される。さらに、フォールトツリー15における上位アイテムには、中位アイテムのイベントの発生に関連して生じるイベントが登録される。
【0037】
フォールトツリー15は、下位アイテムのイベントの発生が、上位アイテムのイベント(フォールトモード)を発生させるか否かを判定するために用いられる。または、上位アイテムのイベントの発生確率を算出するために用いられる。本実施形態では、フォールトツリー15の判定結果が電力リソース31の機能喪失確率Pを含むものとなっている。これにより、機能喪失確率Pにも基づいてシステム性能Sを集計することができ統合システム30の災害リスク評価を行える。
【0038】
(第3実施形態)
次に図1図7図8図9図10図11を参照して本発明における第3実施形態について説明する。第3実施形態の災害リスク評価装置10は、第1実施形態で説明した第1データベース11及び第1評価部21に加えて、又は第2実施形態で説明した第2データベース12及び第2評価部22に加えて、さらに第3データベース13及び第3評価部23を備えている。
【0039】
ここで図7は電力リソース31(図2)に関与するハザードを情報登録した管理テーブル40cである。図8は電力リソース31が設置される各々の地点A,B,Cで発生する地震ハザードに関し地震加速度と発生頻度Qのデータ系列16を表示したグラフである。図9は電力リソース31が設置される地域の浸水に関するハザードマップ17である。これら、管理テーブル40c(図4)、発生頻度Qのデータ系列16(図8)、ハザードマップ17(図9)は第3データベース13に情報蓄積されている。なおハザードの発生頻度Qは、年超過頻度を表している。
【0040】
管理テーブル40cは、「地震」「強風」「浸水」「土石流」「豪雪」等といった「ハザード種類」を「ハザードID」で識別して情報管理している。「ハザード詳細」は、それぞれの「ハザード種類」に関する詳細な情報である。図8に示す発生頻度Qのデータ系列16は「ハザード詳細」の一例である。「参照元」は、「気象庁」や「ハザードマップ」(図9参照)といった、利用するハザード情報の情報源を示している。なお図9に例示されるハザードマップ17は、国、地方公共団体、その他団体などが発表した情報を利用できる。
【0041】
図8のグラフは、ハザードが地震の場合、地震加速度で表した強度Jと発生頻度Qとの関係を示している。図8のグラフの横軸に表されるハザード強度Jは、ハザードが台風の場合は風速になり、ハザードが落雷の場合は雷撃電流値になり、ハザードが水害の場合は浸水深となる。
【0042】
これら以外のハザード種類についても、横軸をハザード強度J、縦軸を発生頻度Qとすることで対応できる。また図8のグラフに示すように、異なる地点のデータ系列16を表示する場合、それぞれの地点A,B,Cの発生頻度Qは傾向が異なっている。また、このような発生頻度Qのデータ系列16は「ハザード詳細」の一例であり、その他に種々のものがあり、IDで識別可能に管理されている。
【0043】
第3評価部23は、個別リスク評価部35と統合リスク評価部36とから構成されている。個別リスク評価部35は、第1評価部21で評価したシステム性能S、第2評価部22で評価した機能喪失確率P及び第3データベース13に蓄積されている情報を用いて、電力リソース31の災害リスクを個別に評価する。そして統合リスク評価部36は、個別に評価された電力リソース31の災害リスクを合計し、統合システム30の統合リスクの評価を行う。
【0044】
個別リスク評価部35では、1から機能喪失確率Pを引いた値を、ハザードによる変化前のリソース性能Rxに乗算することで、変化後のリソース性能Ryを得る。ハザードによる変化前のリソース性能Rxを100%として、変化後のリソース性能Ryを100分率で表すことで、電力リソース31の機能維持率を得ることができる。また、これら二つのリソース性能Rxとリソース性能Ryとの差分を同様に100分率で表して災害リスクとみなせる。
【0045】
統合リスク評価部36は、個別リスク評価部35で個別に評価した電力リソース31のリスクを合計することで、ハザードに対する統合システム30の統合リスクを評価する。このとき、ハザードによる変化前のシステム性能Sxを100%とし、ハザードによる変化後のシステム性能Syを100分率で表すことで統合システム30の性能維持率を得ることができる。また、統合リスク評価部36は、ハザードによる変化前のシステム性能Syとハザードの発生頻度Qを用いて、災害性能曲線19を生成する。
【0046】
そして第3評価部23は、電力リソース31の設置位置45及び組み合わせの少なくとも一方を条件変更して求めたシステム性能Sに基づいてハザードに対するリスクを評価することができる。
【0047】
図10は電力リソース31(31a,31b,31c)の設置位置45(45a,45b,45c)を条件変更(パターンAからパターンBへ)した際に統合システム30をリスク評価する災害性能曲線19の実施例である。この実施例では、複数の発生頻度Qにおける浸水ハザードマップ17に、電力リソース31である太陽光発電31aと風力発電31bと蓄電池31cを所定の設置位置45に示している。
【0048】
ハザードマップ17の発生頻度Qと、設置位置45の浸水深と、リソース耐力48(図4)から、電力リソース31の各々の機能喪失確率Pを評価する。そして、1から機能喪失確率Pを引いた値を、ハザードによる変化前の定格出力(リソース性能Rx)に乗算することで、変化後の出力(リソース性能Ry)を得る。電力リソース31の各々においてハザードによる変化後の出力(リソース性能Ry)を合計することで、統合システム30(図2)のシステム性能S(統合出力)を得る。
【0049】
上述した工程をパターンAとパターンBそれぞれで実行し、システム性能S(統合出力)の低下割合を横軸に、ハザードの発生頻度Qを縦軸として災害性能曲線19を得る。図10に示す災害性能曲線19では、システム性能S(統合出力)の低下割合において、パターンAを下回るパターンBが、災害に強いことを示している。
【0050】
このようにして、ハザードで変化する前後の統合システム30のシステム性能Sを用いて、電力リソース31の適正な配置計画を策定できる。また、図10に示したような電力リソース31の設置位置45を条件変更する以外に、パターンAとパターンBの構成を変化させることで、システム性能Sを向上させることができる。
【0051】
図10に示す実施例では、ハザードによる変化前のリソース性能Rx(定格出力)を一定とし、その設置位置45のみ変更してシステム性能Sを評価した。他の実施例として、このリソース性能Rx(定格出力)とその設置位置45とを両方変更したり、電力リソース31の組み合わせを変更したりしてシステム性能Sを評価してもよい。
【0052】
設置位置45によっては、ハザードによる変化前のリソース性能Rx(定格出力)が大きくなくとも、必要とするシステム性能Sを維持できる。つまり、ハザードによる変化前のリソース性能Rx(定格出力)が小さくても、組み合わせや設置位置45を最適化することで災害に強い統合システム30を構築することができる。
【0053】
図11は、電力リソース31を組み合わせることで統合システム30をリスク評価する災害性能曲線19cの実施例である。なお図11において統合前の電力リソース31A及び電力リソース31Bの災害性能曲線19a,19bがそれぞれ示されている。そして、リソース性能R及びシステム性能Sは、それぞれ電力リソース31(31A,31B)及び統合システム30において「出力[%]」として時系列に表示されている。このように、ハザードがシステム性能Sに与える影響が時系列で変化する場合は、時刻tを考慮したシステム性能Sを算出する必要がある。
【0054】
電力リソース31の災害性能曲線19a,19bは、通常時に予測される通常時出力14に、ハザード時に予測されるハザード時出力18を重ね書きした時系列データである。このハザード時出力18は、第3データベース13で管理テーブル40c(図7)の「ハザード種類」「ハザード詳細」として管理されている予測情報からハザード強度Jを導いて、第2データベース12の管理テーブル40b(図4)のリソース耐力48を用いて電力リソース31の機能喪失確率Pを評価する(図5参照)。そして、1から機能喪失確率Pを引いた値に、通常時出力14を乗算して評価している。
【0055】
統合システム30の災害性能曲線19cは、電力リソース31A及び電力リソース31Bの各々における通常時出力14とハザード時出力18を合計して得られる。なお通常時出力14は、リソース性能Rとして一定値の「定格出力」を例示しているが、電力リソース31の運転データや気象データなどを考慮して変動するリソース性能Rを利用してもよい。
【0056】
また、管理テーブル40c(図7)の「参照元」で管理されている気象庁の予測データ等を用い、「強風」「豪雨」「浸水」等のハザード強度Jを得ることができる。この得られたハザード強度Jから導かれる電力リソース31の機能喪失確率Pを評価することもできる。すなわち、縦軸に機能喪失確率Pをとって統合災害リスクを評価してもよい。このようにして、時系列で表される災害性能曲線19より、少し先の電力不足を事前に評価することができ、蓄電池への充電を開始するなどの他リソースによる代替対策を検討する手掛かりが得られる。また、統合システム30を構成する複数の電力リソース31に重要度に応じた重み付けを行い、評価を行ってもよい。
【0057】
以上のように統合システム30について災害性能曲線19を作成することで、損失額、対策費、対策効果などを評価することができる。このうち損失額は、アグリゲーターの電力調達額などから、不足電力量の価値を評価できる。対策費は、他リソースによる電力調達にかかる費用から評価できる。対策効果は、事前のリソース配置変更等による対策によって、変化する災害性能曲線から評価できる。
【0058】
図12のフローチャートに基づいて本発明の実施形態に係る災害リスク評価方法の工程及び災害リスク評価プログラムのアルゴリズムを説明する(適宜、他の図面を参照)。まず、リソースID42(図3)に、対応する電力リソース31(31a,31b,31c,31d)の設置位置45及びリソース性能R等を紐付けて情報登録する(S11)。
【0059】
次に、このリソースID42をキーとして、統合システム30(システムID41)の対象となる複数の電力リソース31を特定する(S12)。この特定作業はユーザの入力操作により行われる。
【0060】
そして、特定された電力リソース31(31a,31b,31c,31d)の各々について、ハザードにより変化したリソース性能Rを推定する(S14)。さらに、特定された電力リソース31(31a,31b,31c,31d)の各々のリソース性能Rに基づいて、統合システム30のシステム性能Sを集計する(S15)。
【0061】
なお説明が前後するが、ハザードにより変化するリソース性能Rは、ハザードの発生で予測される電力リソース31の機能喪失確率Pに基づいて推定される(S13)。なお機能喪失確率Pの予測方法の一例として、リソースID42にリソース耐力48(図4)を紐付けて情報登録しておくことで、ハザードの強度とリソース耐力48(フラジリティ)との関係性を評価する方法が挙げられる。また機能喪失確率Pの予測方法のさらなる例として、電力リソース31の構成機器のフォールトツリーを作成する方法が挙げられる。
【0062】
次に、ハザードによる変化前のリソース性能Rx、及び変化後のリソース性能Ryに基づいて電力リソース31の各々を個別にリスク評価する(S16)。さらに個別のリスク評価を統合システム30において統合した統合リスク評価を行う(S17)。
【0063】
さらに、ハザードの発生頻度Qを取得して(S18)、災害性能曲線19(図10)を作成することができる(S19)。また、発生頻度Qを用いずに作成できる災害性能曲線19(図11)もある。そして、電力リソース31の設置位置45や組み合わせを条件変更して(S20 Yes)、再度、リスク評価を実施し(S12~S19)、結果を出力することができる(S20 No,S21、END)。
【0064】
なお、フローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0065】
なお、前述の実施形態では、アグリゲーターが統合運用する電力リソース31の災害リスクの算出に用いる様態を例示しているが、その他の態様であっても良い。例えば、発電量の代わりに防災用無線や携帯電話基地局のエリアカバー率を用い、災害時のリスクを評価しても良い。
【0066】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の災害リスク評価装置によれば、ハザードにより変化したリソース性能を推定し集計することで、複数の電力リソースを統合運用するシステムの災害時におけるシステム性能を予測し災害リスクを評価することが可能となる。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0068】
以上説明した災害リスク評価装置は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。このため災害リスク評価装置の構成要素は、コンピュータのプロセッサで実現することも可能であり、災害リスク評価プログラムにより動作させることが可能である
【0069】
また災害リスク評価プログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0070】
また、本実施形態に係る災害リスク評価プログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、災害リスク評価装置は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワーク又は専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【符号の説明】
【0071】
10…災害リスク評価装置、11…第1データベース、12…第2データベース、13…第3データベース、14…通常時出力、15…フォールトツリー、16…発生頻度のデータ系列、17…ハザードマップ、18…ハザード時出力、19(19a,19b,19c)…災害性能曲線、20…制御部、21…第1評価部、22…第2評価部、23…第3評価部、25…対象特定部、26…性能推定部、27…集計部、28…フラジリティ評価部、29…フォールトツリー作成部、30…統合システム、31(31A,31B)…電力リソース、31a(31)…太陽光発電、31b(31)…風力発電、31c(31)…蓄電池、31d(31)…電力リソース、32…需要家、35…個別リスク評価部、36…統合リスク評価部、40(40a,40b,40c)…管理テーブル、41…システムID、42…リソースID、45…設置位置、47…設備・機器の情報、48…リソース耐力、49…設計基準、P…機能喪失確率、Q…発生頻度、R(Rx,Ry)…リソース性能、S(Sx,Sy)…システム性能。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12