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7642685ガス選択性膜を用いた温度依存性ガス検出方法
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  • -ガス選択性膜を用いた温度依存性ガス検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】ガス選択性膜を用いた温度依存性ガス検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/20 20060101AFI20250303BHJP
   G01N 7/10 20060101ALI20250303BHJP
【FI】
G01M3/20 Z
G01N7/10 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022580240
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2021063924
(87)【国際公開番号】W WO2021259581
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】102020116660.5
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500469855
【氏名又は名称】インフィコン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Inficon GmbH
【住所又は居所原語表記】Bonner Strasse 498, D-50968 Koeln, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100187469
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原(橋詰) 由子
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【弁理士】
【氏名又は名称】古後 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】デッカー・シルヴィオ
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102016200270(DE,A1)
【文献】特表2009-540268(JP,A)
【文献】特表2008-541076(JP,A)
【文献】特開2018-179581(JP,A)
【文献】特開2002-202235(JP,A)
【文献】特表平11-507587(JP,A)
【文献】米国特許第07905132(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00~3/40
G01N 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス選択性膜(12)、
当該ガス選択性膜(12)の温度である膜温度を変化させるための温度装置(14)、および
前記ガス選択性膜(12)を透過したガスの量に基づいて測定信号を検出するための検出器(20)
を用いたガスの検出方法であって、
前記温度装置(14)を用いて前記ガス選択性膜(12)の前記膜温度を変化させる工
程と、
前記膜温度が第1の温度値(T)に設定される時間(t)において、前記検出器(20)を使用して少なくとも1つの第1の測定値(H、Hn+1、Hn+2)を取得する工程と、
前記膜温度が前記第1の温度値(T)とは異なる第2の温度値(T)に設定される時間(t)において、前記検出器(20)を使用して少なくとも1つの第2の測定値(L、Ln+1)を取得する工程と、
前記第1の測定値と第2の測定値の差を計算する工程と、
検出対象のガス種があるか否かを、前記差を用いて評価する工程と、
を有することを特徴とする、ガスの検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガスの検出方法であって、前記膜温度の変更は、当該膜温度が前記第1の温度値(T )と前記第2の温度値(T に交互に設定されるように、周期的に繰り返されるサイクルで行われ、
第1の膜温度における第1の測定値(H,Hn+1と、第2の膜温度における第2の測定値(L ,L n+1 は、少なくとも2つのサイクルにおいて取得されることを特徴とする、ガスの検出方法。
【請求項3】
請求項2に記載のガスの検出方法であって、
少なくとも2つのサイクルにおいて取得された2つの前記第1の測定値(H、Hn+1)の平均値と、
前記2つの第1の測定値(H、Hn+1)の間に取得された前記第2の測定値(Ln)との、
差を計算することを特徴とする、ガスの検出方法。
【請求項4】
請求項2に記載のガスの検出方法であって、
少なくとも2つのサイクルにおいて取得された2つの前記第2の測定値(L、Ln+1)の平均値と、
前記2つの第2の測定値(L、Ln+1)の間に取得された前記第1の測定値(Hn+1)との、
差を計算することを特徴とする、ガスの検出方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のガスの検出方法であって、前記膜温度の変更は、当該膜温度を測定し調整することによって行われ、当該膜温度の調整は、ゼロよりも大きい前記第1の温度値(T )と、前記第2の温度値()の間で行われることを特徴とする、ガスの検出方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のガスの検出方法であって、第1の温度値(T)と第2の温度値(Tとの間の設定の変更は、先の温度値を設定した時から少なくとも2秒後に行われることを特徴とする、ガスの検出方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のガスの検出方法であって、前記膜温度として設定される前記第1の温度値(T )と前記第2の温度値()の間の差が、2~10Kであることを特徴とする、ガスの検出方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のガスの検出方法であって、前記第1の測定値と第2の測定値は、前記温度装置(14)に対して第1の温度値(T )または第2の温度値(T )が新たに設定された後、少なくとも2~5秒後にのみ、取得されることを特徴とする、ガスの検出方法。
【請求項9】
請求項8に記載のガスの検出方法であって、前記温度装置(14)が加熱形式の装置であり、前記膜温度の少なくとも前記第1の温度値(T)が前記ガス選択性膜(12)の外部環境の温度よりも高いことを特徴とする、ガスの検出方法。
【請求項10】
請求項9に記載のガスの検出方法であって、前記膜温度として新しい温度値を設定する前に、加熱が停止され、前記第1の温度値(T)と前記第2の温度値(T)がそれぞれ周囲温度よりも高いことを特徴とする、ガスの検出方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のガスの検出方法であって、前記検出器(20)にガスを引き込むポンプを使用することは無いことを特徴とする、ガスの検出方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載のガスの検出方法であって、当該方法は、
建物の部屋内のガスを検出するために使用されることを特徴とする、ガスの検出方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のガスの検出方法であって、前記検出器(20)がガス測定装置または圧力測定装置であることを特徴とする、ガスの検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス選択膜を用いたガス検知方法に関し、とりわけ特定のガスに対する透過性が温度に依存するガス選択性膜を用いたガス検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなガス選択性膜を用いたガス検出では、膜温度を、検出対象のガス種における膜のガス透過率が最大となる温度値に設定することが知られている。このため、室温よりも高い温度でガス透過性が最大となる場合には、通常、膜を加熱することが行われている。
【0003】
膜を透過するガスの量は、膜温度と、上流側のガス(すなわち、膜に到達する直前におけるガス)および下流側のガス(膜を通過した直後におけるガス)の分圧差と、に依存する。膜の下流側で検出されるべきガスの検出は、検出器を用いて行われ、当該検出器は、ガス測定装置(例えば質量分析器)や、ガスの全圧を測定する圧力測定装置であってもよい。膜が特定のガス種に対して高い選択性を有する場合、ガスの全圧を測定することが有利である。
【0004】
ガス選択性膜を用いた温度依存性ガス検知では、ガスの測定信号に、例えば温度に依存するオフセット信号や、ガスセンサの経年劣化に依存するオフセット信号が、重畳される。このオフセット信号を決定するために、センサの上流側においてポンプを用いて排気を行うことによりガスを除去し、ガスのない真空中におけるオフセット信号を測定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ガス選択性膜を用いた温度依存性ガス検出方法を提供し、特にオフセット信号による測定信号への影響を低減した温度依存性ガス検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による方法は、請求項1の特徴によって定義される。
【0007】
本発明による検出は、検出対象のガス種に対して、温度に依存した透過性を有する、ガス選択性膜を用いて行われる。温度装置は、膜温度を変化させるように構成されている。温度デバイスは、好ましくは加熱装置である。しかし、膜の透過性が膜の周囲温度よりも低い温度で最大となる場合には、冷却装置であることも考えられる。検出器が設けられ、膜を透過するガスの量に依存して測定信号を検出するように構成される。検出器は、ガス測定装置(例えば質量分析器)、あるいは圧力測定装置(例えば全圧測定装置)であってもよい。
【0008】
本発明の方法によれば、膜温度は、時系列で当該温度をゼロとは異なる少なくとも2つの異なる値に順次調整するように、温度装置を用いて変更される。検出器の測定信号を取得することにより、膜温度として第1の温度値を採用した時における少なくとも1つの第1の測定値が得られる。その後、第1の時間とは異なる第2の時間における測定信号の、少なくとも1つの第2の測定値が取得され、第2の時間における膜温度として、第1の温度値とは異なる第2の温度値を採用する。取得された2つの測定値から差分が算出される。算出された差分信号に基づいて、検出対象ガスが存在しており、且つそれが測定されたか否かの評価が行われる。
【0009】
ガス選択性膜における検出対象ガスの透過率は、2つの膜温度のうちの一方の膜温度において、他方の膜温度よりも高いことが好ましい。例えば、膜温度が第1の温度値の時に、膜温度が第2の温度値の時よりも透過率が高くなっていてもよい。好ましくは、透過率は、膜温度が第1の温度値の時に最大となる。
【0010】
第1の膜温度の時よりも第2の膜温度の時の方が膜の透過率が低い場合、第1の測定値よりも第2の測定値の方がオフセットの割合が小さくなる。一方、透過率が増加することによって、検出対象ガスに起因して生じる測定信号が占める割合は、第1の測定値においてより高くなる。このオフセットの割合は、差分を算出することにより減少させることができる。
【0011】
好ましくは、膜温度は、膜温度が交互にかつ周期的に繰り返される間隔で順次2つの温度値を採用するように周期的に変更され、それぞれの温度に対する測定値は、少なくとも2つの異なる間隔を空けつつ取得される。したがって、第1の測定値は、膜温度が第1の温度値を採用する場合に、それぞれの場合において連続した間隔で取得される。また、膜温度として第2の温度値を採用した場合には、それぞれの場合において第2の測定値が連続した間隔で取得される。
【0012】
膜温度の変化は、ゼロとは異なる2つの温度値の間の制御によって行うことができる。温度制御は、膜温度をより低い温度値からより高い温度値へと制御するために、温度測定装置を用いて膜温度を測定し、加熱装置を用いて膜を加熱することによって行うことができる。
【0013】
後続の間隔の2つの測定値について差を計算する場合、測定値の平均値は、それぞれの場合において後続の間隔にわたって計算され、使用され得る。例えば、差は、少なくとも2つの異なる間隔で取得された第1の測定値の平均値と、これら2つの第1の測定値の間で取得された第2の測定値との間で計算することができる。代替案として、差は、少なくとも2つの異なる間隔で取得された平均値と、2つの第2の測定値の間で取得された第1の測定値との間でも計算することができる。
【0014】
膜温度を変更するために、膜温度に影響するパラメータを温度装置で調整し変更することができる。このパラメータの変更、及びそれに伴う膜温度のある温度値から次の温度値への変更は、少なくとも2秒の期間が経った後すぐに、好ましくは約5秒~約15秒の範囲内の期間を経た後に生じさせることが望ましい。
【0015】
温度装置によって調整されて変更される、複数の異なる膜温度の差は、約2K~10Kであってもよく、好ましくは約3K~6Kであってもよい。これは、特に第1の温度値と第2の温度値との差に適用される。ここで、温度装置は、加熱として設計されることが好ましく、少なくとも膜温度についての第1の温度値は、膜の外部環境(membrane environment)の温度よりも高い。膜温度を後続の新たな温度値へと調整する前に、数秒のあいだ加熱を停止にすることができ、膜温度として設定された第1の温度値および同じく設定された第2の温度値は、それぞれ周囲温度よりも高い温度である。有利には、測定信号の測定値は、温度装置において新たな温度値が設定された後、または膜温度に影響を及ぼすパラメータが変更された後、数秒後に、好ましくは約2~5秒ほど後に、各関連する区間で取得される。
【0016】
本発明の方法において、好ましくは、膜の上流側のガスの圧力と膜の下流側のガスの圧力との間の差圧を発生させるためにポンプを使用することはない。本発明の方法は、特に、建物の室内でのガスの検知に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1】ガス検出装置の概略図である。
図2】測定信号の模式図である。
図3図1の温度装置および制御装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、温度に依存した透過性を有するガス選択性膜12を備えるガス検出装置10を模式的に示している。膜12は、膜12上に配置された加熱素子を有する加熱形式の温度装置14によって加熱される。加熱装置は、制御装置16を介して制御される。制御装置16は、温度装置14の一部である。加熱の出力と、膜12の加熱効果とに影響を与えるパラメータは、制御装置16を介して入力される。そのため、加熱装置14に影響を与え、また膜12の温度を変化させるパラメータは、制御装置16を介して変更することができる。加熱装置(heating)14は、ガスが加熱装置14を通過すると共に、膜12を図1の矢印18の方向に通過できるように、膜12に設置される。圧力測定装置の形式の検出器20は、図1に矢印18で示した流れ方向における下流側、すなわち膜12の背後に配置される。膜12を透過したガスは、検出器に到達し、そこで測定される圧力を増加させる。代替案として、検出器20はまた、例えば質量分析計等の形態のガス検出器であってもよい。
【0020】
図3に示すように、温度装置14は、膜温度を測定する温度センサ14aと、膜12を加熱する膜加熱装置14bとを備える。また、制御装置16は、膜加熱装置14bを介して調整すべき膜温度を入力するための温度プリセット手段16aを備え、さらに、温度センサ14aで測定した膜温度と、前記温度プリセット手段によりプリセットされた膜温度とに応じて、膜加熱装置14bの加熱出力を制御する制御論理回路16bと、を備える。
【0021】
検出器20は、当該検出器20からの測定信号を受信すると共に評価する評価ユニット22に接続されている。評価装置22を用いることにより、検出器20で生成された測定信号の測定値が取得され、複数の測定値の間の差分が算出される。
【0022】
図2においては、検出器20で取得された測定信号Sは、時間t(秒単位)の関数としてプロットされている。時間t=0においては、制御装置16を介して加熱装置14が起動されると共に、第1のパラメータPがプリセットされる。第1のパラメータPにセットされると、加熱装置14が、膜12を、ガス検出装置10の外部環境における室温に相当する温度よりも高い、第1の膜温度Tにまで加熱させることとなる。例えば、温度Tは、80℃であってもよい。温度Tにおいては、膜12が検出対象のガスに対して、比較的高い透過性を有するが、本実施形態における検出対象のガスは、ヘリウムである。
【0023】
その結果、測定信号Sは、例えば図2に示すような測定電流の形態で、約10秒の時間tが経過すると第1の測定値Hとして測定される最大値まで増加する。その後、加熱装置14のパラメータが、制御装置16を介して、PからPに変更され、その結果、膜温度の値がTからTに低下する。第2の膜温度Tは、第1の膜温度Tよりも低いが、ガス検出装置10の外部環境における室温よりも依然として高い。特に、第2の膜温度Tは、検出対象のガス種に対する膜12の透過性がTのときよりも低くなる温度である。
【0024】
したがって、測定信号Sは、温度Tに起因する局所的な最大値から、温度Tに起因する局所的な最小値にまで減少し、約20秒の時間tが経過すると、第2の測定値Lとして測定される。その後、制御装置16を介して、パラメータがPからPに戻され、それによって温度変化の周期的な繰り返しの次のサイクルが開始される。結果として生じる第1の間隔は、図2においてnとして識別され、0から20秒まで、時間tが延びる。20秒の時間tにおいて、温度切り替えの周期的な繰り返しにおける次の間隔n+1が開始される。制御装置16のパラメータをPからPに変更すると、膜温度が第1の膜温度Tまで上昇する。約30秒が経った時点で、次に第2の間隔n+1における第1の測定値がHn+1として測定され、パラメータが再びPに変更されて、その結果、膜温度はTにまで下がる。その結果としての測定信号は、第2の間隔n+1を空けて第2の測定値Ln+1として測定される。その後、第2の間隔は40秒で終了し、第3の間隔n+2が開始される。
【0025】
測定信号のオフセットの線形ドリフト(linear drift)は,以下のようにして除去することができる。
【0026】
評価装置22によって、それぞれの区間n、n+1、n+2等における第1の測定値H、Hn+1、Hn+2等と、第2の測定値L、Ln+1等とが取得される。評価装置22は、第1の測定値と第2の測定値との差を算出するが、本実施形態では、後続の間隔n,n+1の第1の測定値H,Hn+1における平均値(H+Hn+1)/2を算出し、そこから2つの第1測定値H,Hn+1の間で取得した第2測定値Lを減算して算出する。これより、nをゼロよりも大きい自然数とした区間nの微分信号ΔSは、次のようになる。
ΔS =(H +Hn+1)/2-L
【0027】
代替案として、平均値の計算が、2つの連続する間隔n、n+1の第2測定値L、Ln+1を用いて、(L+Ln+1)/2として実行されることも考えられる。ここで、第1測定値は、2つの第2測定値L 、Ln+1 の間に取得された第1測定値Hn+1の計算に用いられる。ここで、結果の信号差は、次のとおりである。
ΔS =Hn+1-(L+Ln+1)/2
【0028】
基本的には、第1測定値および第2測定値の両方の平均値を算出することも考えられ、その場合、平均値の算出は、それぞれ2つ以上の間隔にわたって行うとしてもよい。
【0029】
第2測定値L,Ln+1は、膜温度が第2温度Tに設定され、それによって膜12の透過性が最小となった時点における各区間で取得される。したがって、第2の測定値L,Ln+1はそれぞれ、膜12を透過したガスに起因しないオフセット信号に概ね相当する。
【0030】
評価部22は、オフセット信号による差分信号への影響が小さくなるため、差分信号ΔSに基づいて、測定信号Sが検出対象のガス種に起因するものか否か、また検出対象のガスがどの程度の量存在しているのかを、判断することができる。
【0031】
制御装置16および加熱装置14を介した膜温度の制御は、まず、図示しない測定装置を用いて膜温度を測定することによって行われる。温度を測定した結果に応じて、制御装置16は、より高い所望の温度値に到達するまで、加熱装置14を使用して膜12を加熱させる。
【0032】
このように、本発明は、オフセット信号と、検出ガスに起因する目的の信号(useful signal)とを区別するために、膜温度を周期的に変化させる原理に基づいている。それにより、膜の前後のガス圧の分圧差が予め設定されている状態で、膜を透過するガスの量が周期的に変化する。2つの温度レベルT,Tの間の測定信号の信号差は、分圧差に比例するが、センサのオフセットには依存しない。信号差を測定し、結果的にシステムを較正すると、センサの擾乱(disturbing)オフセット信号とは無関係に、所望の有用な信号が得られる。
【0033】
本実施形態では,2つの温度レベルT,Tの差はわずか5Kである。2つの温度レベル間の信号偏差ΔSは、隣接する2つの高温信号H+Hn+1と、低い温度レベルの中間信号Lとの平均化によって得ることができる。原理的には、2つの低レベルと中間平均高レベルとの平均化によって信号を得ることも可能である。この方法では、バックグラウンドの線形ドリフトも補正される。このドリフトは、図2の信号振幅の折れ線が左から右へ落ちる負の勾配として見える。
【0034】
本発明の方法は、好ましくは環境大気のモニタリングに使用されてもよい。ここでは、センサは必ずしも迅速に応答する必要はない。同様に、空気の積極的な搬送も最終的には必要ない。
【0035】
膜温度T,Tを変化させることにより、膜12の透過性を変更すると共に、ガス検出装置10のセンサ感度を変更することができる。この感度の変化は、検出対象のガス種(ヘリウム)の分圧に比例する測定信号Sの変化、本実施例では電流の変化を伴っている。膜温度の変化は、パラメータP1,P2を変化させることで実現する。ここでは、大気圧下でできるだけ小さなセンサ電流(測定信号S)を連続して発生させることにより、センサの寿命を過度に短くしないために、パラメータはできるだけ低い値に設定されている。図2の本実施形態では,パラメータP,Pの変更は,パラメータP,Pの間を行き来しながら、10秒ごとに行われる。パラメータが変更された後,次の各測定値H,Lの測定までに約8秒の期間を設け、加熱の制御に必要な期間を待機させるようにしている。
なお本発明は、下記の態様を含む。
〔態様1〕
ガス選択性膜(12)、当該ガス選択性膜(12)の温度である膜温度を変化させるための温度装置(14)、および前記ガス選択性膜(12)を透過したガスの量に基づいて測定信号を検出するための検出器(20)を用いたガスの検出方法であって、
前記温度装置(14)を用いて前記ガス選択性膜(12)の前記膜温度を変化させる工程と、
前記膜温度が第1の温度値(T )に設定される時間(t)において、前記検出器(20)を使用して少なくとも1つの第1の測定値(H 、H n+1 、H n+2 )を取得する工程と、
前記膜温度が前記第1の温度値(T )とは異なる第2の温度値(T )に設定される時間(t)において、前記検出器(20)を使用して少なくとも1つの第2の測定値(L 、L n+1 )を取得する工程と、
前記2つの測定値の差を計算する工程と、
検出したいガス種があるか否かを、前記差を用いて評価する工程と、
を有することを特徴とする、ガスの検出方法。
〔態様2〕
態様1に記載のガスの検出方法であって、
前記膜温度の変更は、当該膜温度が交互に2つの温度値(T ,T )に設定されるように繰り返される間隔(n、n+1)を空けながら周期的に行われ、それぞれの前記膜温度における測定値(H ,L ,H n+1 ,H n+1 ,L n+1 )は、少なくとも2つの異なる間隔(n、n+1)を空けながら取得されることを特徴とする、ガスの検出方法。
〔態様3〕
態様2に記載のガスの検出方法であって、少なくとも2つの異なる間隔(n、n+1)を空けて取得された前記第1の測定値(H 、H n+1 )の平均値と、前記2つの第1の測定値(H 、H n+1 )の間にある前記第2の測定値(L )と、の間で差を計算することを特徴とする、ガスの検出方法。
〔態様4〕
態様2に記載のガスの検出方法であって、少なくとも2つの異なる間隔(n、n+1)を空けて取得された前記第2の測定値(L 、L n+1 )の平均値と、前記2つの第2の測定値(L 、L n+1 )の間にある前記第1の測定値(H n+1 ))と、の間で差を計算することを特徴とする、ガスの検出方法。
〔態様5〕
態様1から4のいずれか一態様に記載のガスの検出方法であって、前記膜温度の変更は、当該膜温度を測定し調整することによって行われ、当該膜温度の調整は、ゼロよりも大きい2つの温度値(T ,T )の間で行われることを特徴とする、ガスの検出方法。
〔態様6〕
態様1から5のいずれか一態様に記載のガスの検出方法であって、ある温度値(T )から次の温度値(T )への変更は、少なくとも2秒後に、好ましくは少なくとも約5~15秒後に行われることを特徴とする、ガスの検出方法。
〔態様7〕
態様1から6のいずれか一態様に記載のガスの検出方法であって、前記膜温度として設定される前記温度値(T ,T )の間の差が、約2~10K、好ましくは約3~6Kであることを特徴とする、ガスの検出方法。
〔態様8〕
態様1から7のいずれか一態様に記載のガスの検出方法であって、前記測定信号(S)の測定値は、前記温度装置(14)に対して新しい温度値が設定された後、少なくとも約2~5秒後にのみ、各間隔をおいて取得されることを特徴とする、ガスの検出方法。
〔態様9〕
態様8に記載のガスの検出方法であって、前記温度装置(14)が加熱形式であり、前記膜温度の少なくとも前記第1の温度値(T )が前記ガス選択性膜(12)の外部環境の温度よりも高いことを特徴とする、ガスの検出方法。
〔態様10〕
態様9に記載のガスの検出方法であって、前記膜温度として新しい温度値を設定する前に、加熱(14)が不活性化され、前記第1の温度値(T )と前記第2の温度値(T )がそれぞれ周囲温度よりも高いことを特徴とする、ガスの検出方法。
〔態様11〕
態様1から10のいずれか一態様に記載のガスの検出方法であって、
前記ガス選択性膜(12)の上流側におけるガスの圧力と、前記ガス選択性膜(12)の下流側におけるガスの圧力との間に差圧を生じさせるために、ポンプを使用することは無いことを特徴とする、ガスの検出方法。
〔態様12〕
態様1から11のいずれか一態様に記載のガスの検出方法であって、当該方法は、
建物の部屋内のガスを検出するために使用されることを特徴とする、ガスの検出方法。
〔態様13〕
態様1から12のいずれか一態様に記載のガスの検出方法であって、前記検出器(20)がガス測定装置または圧力測定装置であることを特徴とする、ガスの検出方法。
図1
図2
図3