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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】マルチ指数関数誤り補外
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/70 20220101AFI20250303BHJP
【FI】
G06N10/70
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022580939
(86)(22)【出願日】2021-07-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2021068262
(87)【国際公開番号】W WO2022003135
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】20183835.6
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521088642
【氏名又は名称】オックスフォード ユニバーシティ イノベーション リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】カイ,ゼニュー
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン,シモン
【審査官】多賀 実
(56)【参考文献】
【文献】CHASSEUR, Tobias,"Errors in scalable quantum Computers",publikationen.sulb.uni-saarland.de [online],2019年,pp. 33-42,[検索日 2024.12.16], インターネット:<URL:https://publikationen.sulb.uni-saarland.de/handle/20.500.11880/27465>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子コンピュータ使用時の誤り軽減方法であって、
キュビットの状態に対して複数回にわたって第1の演算を実行することであって、それにおいて前記第1の演算が第1の誤り率を有するものとすることと、
前記キュビットの平均の状態の第1の測定値を獲得することと、
前記量子コンピュータの前記誤り率を前記第1の誤り率から第2の誤り率へ修正することと、
前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって第2の演算を実行することであって、それにおいて前記第2の演算が、前記第2の誤り率を有するものとすることと、
前記キュビットの前記平均の状態の第2の測定値を獲得することと、
前記量子コンピュータの前記誤り率を前記第2の誤り率から第3の誤り率へ修正することと、
前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって第3の演算を実行することであって、それにおいて前記第3の演算が、前記第3の誤り率を有するものとすることと、
前記キュビットの前記平均の状態の第3の測定値を獲得することと、
前記量子コンピュータの前記誤り率を前記第3の誤り率から第4の誤り率へ修正することと、
前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって第4の演算を実行することであって、それにおいて前記第4の演算が、前記第4の誤り率を有するものとすることと、
前記キュビットの前記平均の状態の第4の測定値を獲得することと、
前記第1、第2、第3、および第4の測定値をマルチ指数関数的減衰曲線へフィッティングすることと、
前記フィッティング済みの曲線を使用して第5の誤り率における前記キュビットの前記平均の状態を補外することであって、それにおいて前記第5の誤り率が、前記第1、第2、第3、および第4の誤り率より低いとすることと、
を包含する誤り軽減方法。
【請求項2】
前記マルチ指数関数的減衰曲線は、
【数10】
の形式を伴う2つ以上の指数関数的曲線の和であり、それにおいて、Eは、前記キュビットの前記平均の状態であり、nは、誤り率でありAおよびγは、フィッティングパラメータであるとする、請求項1に記載の誤り軽減方法。
【請求項3】
K=2である、請求項2に記載の誤り軽減方法。
【請求項4】
0≦γ≦1である、請求項2または請求項3に記載の誤り軽減方法。
【請求項5】
前記第2の誤り率は、前記第1の誤り率より高い、請求項1から4のいずれか一項に記載の誤り軽減方法。
【請求項6】
前記第2の演算は、前記第1の演算と修正演算とを包含する、請求項1から5のいずれか一項に記載の誤り軽減方法。
【請求項7】
前記修正演算は、パウリ演算を包含する、請求項6に記載の誤り軽減方法。
【請求項8】
複数回にわたって前記第1の演算を実行することは、複数の第1の演算を実行することを包含し、複数回にわたって前記第2の演算を実行することは、複数の第1の演算と複数の修正演算とを実行することを包含する、請求項1から7のいずれか一項に記載の誤り軽減方法。
【請求項9】
複数回にわたって前記第2の演算を実行することは、前記複数の第1の演算のそれぞれの後に前記複数の修正演算のうちの1つを実行することを包含する、請求項8に記載の誤り軽減方法。
【請求項10】
さらに、
前記キュビットの前記状態を初期化すること、
包含する、請求項1から9のいずれか一項に記載の誤り軽減方法。
【請求項11】
前記キュビットの前記状態は、前記第1、第2、第3、および第4の演算のそれぞれが最初に実行される前に初期化される、請求項10に記載の誤り軽減方法。
【請求項12】
さらに、
前記量子コンピュータの前記誤り率を第iの誤り率へ修正することと、
前記キュビットの前記状態に対して第iの演算を実行することと、
それにおいて、前記第iの演算が前記第iの誤り率を有することと、
それにおいて、前記第iの誤り率が前記第1の誤り率より大きいとすることと、
前記キュビットの前記平均の状態の第iの測定値を獲得することと、
前記第1、第2、第3、および第4の測定値と、前記第iの測定値とを前記マルチ指数関数的減衰曲線にフィッティングすることと、
包含する、請求項1から11のいずれか一項に記載の誤り軽減方法。
【請求項13】
量子コンピューティング計算を実行するためのデバイスであって、
キュビットの状態に対して複数回にわたって、第1の誤り率を有する第1の演算を実行し、
前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって、第2の誤り率を有する第2の演算を実行し、
前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって、第3の誤り率を有する第3の演算を実行し、かつ、
前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって、第4の誤り率を有する第4の演算を実行するべく構成された量子プロセッサと、
前記第1の演算の後に前記キュビットの平均の状態の第1の測定値を獲得し、
前記第2の演算の後に前記キュビットの前記平均の状態の第2の測定値を獲得し、
前記第3の演算の後に前記キュビットの前記平均の状態の第3の測定値を獲得し、かつ、
前記第4の演算の後に前記キュビットの前記平均の状態の第4の測定値を獲得するべく構成された量子測定ゲートと、
前記第1、第2、第3、および第4の測定値をマルチ指数関数的減衰曲線へフィッティングして、かつ前記フィッティング済みの曲線を使用して、前記第1、第2、第3、および第4の誤り率より低い第5の誤り率における前記キュビットの前記平均の状態を補外するべく構成された古典的プロセッサと、
を包含する、量子コンピューティング計算を実行するためのデバイス。
【請求項14】
インストラクションを包含するコンピュータ可読メモリ媒体であって、コンピュータによって実行されたときに前記コンピュータに、
キュビットの状態に対して複数回にわたって、第1の誤り率を有する第1の演算を実行するステップと、
前記キュビットの平均の状態の第1の測定値を獲得するステップと、
量子コンピュータの前記誤り率を前記第1の誤り率から第2の誤り率へ修正するステップと、
前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって、前記第2の誤り率を有する第2の演算を実行するステップと、
前記キュビットの前記平均の状態の第2の測定値を獲得するステップと、
前記量子コンピュータの前記誤り率を前記第2の誤り率から第3の誤り率へ修正するステップと、
前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって、前記第3の誤り率を有する第3の演算を実行するステップと、
前記キュビットの前記平均の状態の第3の測定値を獲得するステップと、
前記量子コンピュータの前記誤り率を前記第3の誤り率から第4の誤り率へ修正するステップと、
前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって、前記第4の誤り率を有する第4の演算を実行するステップと、
前記キュビットの前記平均の状態の第4の測定値を獲得するステップと、
前記第1、第2、第3、および第4の測定値をマルチ指数関数的減衰曲線にフィッティングするステップと、
前記フィッティング済みの曲線を使用して第5の誤り率における前記キュビットの前記平均の状態を補外することであって、それにおいて前記第5の誤り率が、前記第1、第2、第3、および第4の誤り率より低いとするステップと、
を包含するステップの実行を量子コンピュータ上にもたらす前記インストラクションを包含する、コンピュータ可読メモリ媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子コンピューティングにおける誤り軽減技術に関する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピュータは、『オブザーバブル』、すなわち系特性の計算に使用することが可能である。オブザーバブルを測定するために、キュビットに対して量子演算のシーケンスを実行した後にキュビットの出力状態を測定することが可能である。通常、同じ量子演算のシーケンスが何度も反復され、測定された出力状態の平均を計算して、オブザーバブルの期待値を推定することが可能である。
【0003】
しかしながら、キュビットに対して実行される量子演算のシーケンス、つまりは推定される期待値は、誤りに左右される。量子コンピュテーションの目的は、これらの誤りを低減すること、さらには排除することである。しかしながら、近未来量子デバイスまたはNISQ(ノイズの多い中規模量子)時代の量子デバイスのためのより現実的なアプローチは、解析的アプローチを使用したこれらの誤りの軽減を目的とすることである。この方法においては、誤りのない、またはノイズのないオブザーバブルの期待値を推定することが可能である。
【0004】
誤り軽減技術は、ノイズの多い測定結果からノイズのない期待値を抽出する追加の測定を使用する。使用されている1つの誤り軽減技術は、誤り補外である。この技術においては、ハードウエアの物理的コントロールを通じてノイズ・レベルが人工的に高められ、期待値が測定されて、ノイズの関数としてプロットされる。期待値は、増加されたノイズとともに変化し、傾向線に従う。傾向線に測定値をフィッティングし、誤りのない量子コンピュテーションについての期待値を決定するべく補外することによって、ノイズのない値を推定することが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
傾向線の形状は、それが推定に影響を及ぼすことになるため、重要である。推定の正確度を向上させることが可能な技術の開発が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様は、量子コンピュータを使用するときの誤りを軽減する方法を提供する。前記方法は:キュビットの状態に対して複数回にわたって第1の演算を実行することであって、それにおいて前記第1の演算が第1の誤り率を有するものとすることと;前記キュビットの平均の状態の第1の測定値を獲得することと;前記量子コンピュータの前記誤り率を前記第1の誤り率から第2の誤り率へ修正することと;前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって第2の演算を実行することであって、それにおいて前記第2の演算が、前記第2の誤り率を有するものとすることと;前記キュビットの前記平均の状態の第2の測定値を獲得することと;前記量子コンピュータの前記誤り率を前記第2の誤り率から第3の誤り率へ修正することと;前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって第3の演算を実行することであって、それにおいて前記第3の演算が、前記第3の誤り率を有するものとすることと;前記キュビットの前記平均の状態の第3の測定値を獲得することと;前記量子コンピュータの前記誤り率を前記第3の誤り率から第4の誤り率へ修正することと;前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって第4の演算を実行することであって、それにおいて前記第4の演算が、前記第4の誤り率を有するものとすることと;前記キュビットの前記平均の状態の第4の測定値を獲得することと;前記第1、第2、第3、および第4の測定値をマルチ指数関数的減衰曲線へフィッティングすることと;前記フィッティング済みの曲線を使用して第5の誤り率における前記キュビットの前記平均の状態を補外することであって、それにおいて前記第5の誤り率が、前記第1、第2、第3、および第4の誤り率より低いとすることと、を包含する。
【0007】
この方法の利点は、改善された誤り軽減である。マルチ指数関数的減衰曲線の使用は、ノイズのないオブザーバブルの正確な推定を提供する。特に、前記推定は、シングル指数関数的減衰曲線等の代替を使用して獲得されるそれより、通常は正確である。前記第5の誤り率は、第1、第2、第3、および第4の誤り率のそれぞれより低い。
【0008】
好ましくは、前記マルチ指数関数的減衰曲線がK個の指数関数的曲線の和であり、それにおいてK≧2とする。各減衰曲線は、異なる減衰率を有することができる。獲得された前記測定値のフィッティングに使用される前記マルチ指数関数的減衰曲線が、好ましくは、次の形式を有する:
【数1】
これにおいて、Eは、前記キュビットの平均の状態であり、nは、誤り率であり、Aおよびγは、フィッティングパラメータである。誤り率は、好ましくは演算が実行されたときに発生することが期待される誤りの数である。この形式のマルチ指数関数的減衰曲線は、前記期待値、すなわち前記キュビットの平均の状態が、前記誤り率nの増加に従って指数関数的に低減することを示す。
【0009】
上記の式にK=1を入力すれば、シングル指数関数的減衰曲線が返される。マルチ指数関数的減衰曲線については、Kが、概して2以上になる。オプションにおいては、上記の式においてK=2とする。したがって、前記マルチ指数関数的減衰曲線は、次の形式を伴うデュアル指数関数的減衰曲線とすることができる:
【数2】
この方法において2つの指数関数だけの和を使用する利点は、過剰フィッティングの尤度が低減されることである。過剰フィッティングは、フィッティングパラメータの決定に測定値の数が充分でないときに発生することがある。過剰フィッティングの結果は、貧弱な期待値の推定をもたらす。
【0010】
最良のフィッティングをもたらすべく選択される指数関数の数Kは、2より大きいとすることができる。データの過剰フィッティングを防止するために、フィッティング解析を実行して適切なKの値を決定することができる。たとえば、フィッティング閾値に達するもっとも低いKの値を伴う曲線を選択することができるフィッティング損失関数のための閾値を設定することができる。好都合なことに、閾値を設定することによって、改善されたフィッティングを決定することができる。さらにまた、指数関数の最小許容可能数を選択することで、データの過剰フィッティングが有益な形で回避される。
【0011】
およびγは、前記マルチ指数関数的減衰曲線に使用されるフィッティングパラメータである。好ましくは、前記フィッティングパラメータのγを0以上1以下、すなわち0≦γ≦1とする。前記フィッティングパラメータγに対するこの制限は、誤りが確率論的に発生するという仮定から生じ得る。この場合において、非常に多くの数の誤りについての前記オブザーバブルの前記期待値は、ゼロに向かっていくと期待することができる。
【0012】
前記誤り率nは、通常、可能性のある誤りロケーションMの数に比例する。可能性のある誤りロケーションMの数は、大きいと仮定すること、すなわち1より遙かに大きいとすることができ、かつ量子回路の具体的な設計および選択された量子演算の実装に依存するとすることができる。したがって、誤り率nもまた、前記回路の設計および実装に依存することができる。誤りは、パウリ誤りであるとすることができるか、またはパウリ誤りに変換することができる。非パウリ誤りからパウリ誤りへの変換は、パウリ・トワリングを使用して達成することができる。好都合なことに、マルチ指数関数的減衰曲線は、パウリ誤りのための良好なノイズ・モデルとなることが明らかになった。
【0013】
第1、第2、第3、および第4の演算が実行される第1、第2、第3、および第4の誤り率は、それぞれ異なるとすることができる。これは、好都合なことに、曲線への第1、第2、第3、および第4の測定値の前記フィッティングを可能にすることができる異なる誤り率における第1、第2、第3、および第4の測定値を結果としてもたらす。好ましくは、前記第2の誤り率が前記第1の誤り率より高い。オプションにおいては、前記第3の誤り率が前記第2の誤り率より高く、前記第4の誤り率が前記第3の誤り率より高い。それに代えて、前記第1、第2、第3、および第4の誤り率を任意の順序とすることができる。誤り率は、同一のノイズ・モデルからのノイズを追加することによって好ましく増加される。これは、好都合なことに、前記第5の誤り率における前記キュビットの前記平均の状態の予測の正確度を向上させる。前記第5の誤り率は、前記第1、第2、第3、および第4の誤り率のそれぞれより低く、前記第5の誤り率は、ゼロとすることができる。
【0014】
1つの例においては、追加の演算を使用して前記誤り率を増加することができる。オプションにおいては、前記第2の演算が第1の演算と修正演算とを包含する。オプションにおいては、前記第2、第3、および第4の演算のそれぞれが第1の演算と修正演算とを包含する。前記第2、第3、および第4の演算のうちの1つ以上は、1を超える数の修正演算を包含することができる。好ましくは、前記第2、第3、および第4の演算のそれぞれが、少なくとも前記第1の演算を包含する。たとえば、前記第3の演算は、前記第1の演算と、第1の修正演算と、第2の修正演算とを包含することができる。前記第2の修正演算は、前記第1の修正演算と同一としてもよく、または異なるとしてもよい。さらなる例においては、前記第4の演算が、前記第1の演算と、第1、第2、および第3の修正演算を包含することができる。この例においては、前記第1および第3の修正演算を同一とし、かつ前記第2の修正演算が異なるとすることができるか、または前記第2および第3の修正演算を同一とし、かつ前記第1の修正演算が異なるとすることができるか、または前記第1および第2の修正演算を同一とし、かつ前記第3の修正演算が異なるとすることができるか、または前記第1、第2、および第3の修正演算がすべて同一、またはすべて異なるとすることができる。上記のパラグラフにおける『第1』、『第2』、および『第3』の使用は、前記修正演算が実行される順序とは関係なく、また特定の演算にも関係しない。
【0015】
概して言えば、前記第2、第3、および第4の演算のうちのいずれも前記第1の演算に加えて1つ以上の修正演算を包含することができ、前記1つ以上の修正演算は、すべて異なるとすることができるか、または2つ以上の修正演算を伴うシナリオの場合においては、任意の2つ以上が同一であるとすることができる。
【0016】
前記修正演算は、前記予測されたノイズ・モデルに従って選択することができる。たとえば、各修正演算は、Pauli-X(σ)、Pauli-Y(σ)、またはPauli-Z(σ)オペレータ等のパウリ演算を包含することができる。オペレータの選択肢は、ランダムに選ばれるとすることができる。前記第2の演算は、複数回にわたって実行される。好ましくは、第2の演算の各実行が、以前に実行された修正演算と同一または異なるとすることができるランダムな修正演算を含む。オプションにおいては、前記修正演算が複数の追加の演算を包含する。
【0017】
概して言えば、演算(前記第2、第3、または第4の演算等)は、前記第1の演算と、1を超える数の修正演算とを包含し、それらの複数の修正演算が、好ましくはランダムに選択され、前記選択は、前記演算が実行される回毎に異なるとすることができる。
【0018】
前記第1の演算は、シーケンシャルに実行される複数の演算を包含することができる。同様に、前記第2の演算は、シーケンシャルに実行される複数の演算を包含することができる。前記第1の演算は、通常、量子デバイスを使用して実行される。前記第2の演算は、好ましくは異なる時間ポイントにおいて、修正された誤り率を用いて同一の量子デバイスを使用して実行される。前記第3および第4の演算もまた、好ましくは異なる時間ポイントにおいて、さらなる修正された誤り率を用いて同一の量子デバイスを使用して実行される。
【0019】
好ましくは、複数回にわたって前記第1の演算を実行することが、複数の第1の演算を実行することを包含し、複数回にわたって前記第2の演算を実行することが、複数の第1の演算と複数の修正演算とを実行することを包含する。好ましくは、複数回にわたって前記第3および第4の演算を実行することが、複数の第1の演算と複数の前記1つ以上の修正演算を実行することを包含する。通常、前記キュビットの前記平均の状態の第1の測定値は、前記複数の第1の演算のそれぞれの実行に続いて記録された前記測定値を平均することによって獲得される。同様に、前記キュビットの前記平均の状態の前記第2、第3、および第4の測定値は、それぞれ、前記第2、第3、および第4の演算の実行に続いて記録された前記測定値を平均することによって獲得することができる。通常、前記第1の演算は、複数回にわたって実行され、前記キュビットの前記平均の状態の前記第1の測定値は、前記第2の演算が、前記キュビットの前記平均の状態の前記第2の測定値を獲得するために複数回にわたって実行される前に獲得される。同様に、前記第2の測定値は、通常、前記第3の演算を実行する前に獲得され、前記第3の測定値は、通常、前記第4の演算を実行する前に獲得される。これは、好都合なことに、前記キュビットの前記平均の状態の前記第1、第2、第3、および第4の測定値における測定の不確定性を低減する。
【0020】
前記第2の演算は、前記複数の第1の演算のそれぞれと前記複数の修正演算のそれぞれを任意の順序で実行することによって複数回にわたって実行することができる。好ましくは、前記第2の演算を複数回にわたって実行することが、前記複数の第1の演算のそれぞれの後に前記複数の修正演算のうちの1つを実行することを包含する。この方法において、前記複数の第1の演算および修正演算のそれぞれを交番する態様で実行することによって複数回にわたって前記第2の演算を実行する有益性は、結果として、固定された第2の誤り率を都合よくもたらすことである。注意される必要があるが、前記誤り率は期待値であり、発生する誤りの実際の数は、固定された誤り率を用いる実験が実行される回毎に変動することになる。
【0021】
通常、1を超える数の修正演算を前記第1の演算に加えて包含する第2、第3、または第4の演算について、前記第2、第3、または第4の演算を複数回にわたって実行することは、前記複数の第1の演算のそれぞれの後に、任意の順序で前記2以上の修正演算を実行することを包含する。
【0022】
前記第1、第2、第3、および/または第4の演算は、前記キュビットの前記状態を入力状態から、測定が可能な出力状態へ変換することができる。前記キュビットの前記状態は、初期化することができる。特に、前記キュビットの前記状態は、前記第1、第2、第3、および/または第4の演算のそれぞれを複数回にわたって実行する前に、一様な初期状態が提供されるように、初期化することができる。キュビットの初期化は、一様な初期キュビット状態を提供することができる。前記キュビットの前記出力状態の測定は、前記初期状態によって影響を受けることがあり、したがって、キュビットが初期化された状態で、またはゼロの状態で前記量子回路に入ることが好ましい。前記キュビットの前記状態は、前記第1の演算が最初に実行される前に初期化することができ、前記キュビットの前記状態は、前記第2の演算が最初に実行される前に初期化することができ、前記キュビットの前記状態は、前記第3の演算が最初に実行される前に初期化することができ、前記キュビットの前記状態は、前記第4の演算が最初に実行される前に初期化することができる。
【0023】
前記キュビットの前記状態に対してさらなる演算を実行することができる。オプションにおいては、各追加の演算が、前記キュビットの前記平均の状態の測定値を獲得するために、複数回にわたって前記キュビットの前記状態に対して実行される。好ましくは、前記さらなる演算のそれぞれが最初に実行される前に前記キュビットの前記状態が初期化される。概して、前記方法は:前記量子コンピュータの前記誤り率を第iの誤り率へ修正することと;前記キュビットの前記状態に対して第iの演算を実行することと;それにおいて、前記第iの演算が前記第iの誤り率を有することと;それにおいて、前記第iの誤り率が前記第1の誤り率より大きいとすることと;前記キュビットの前記平均の状態の第iの測定値を獲得することと;前記第1、第2、第3、および第4の測定値と、前記第iの測定値とを前記マルチ指数関数的減衰曲線にフィッティングすることと、を含むことができる。好ましくは、前記方法が、さらに、前記フィッティング済みの曲線を使用して第5の誤り率における前記キュビットの前記平均の状態を補外することを含み、それにおいて前記第5の誤り率は、前記第1、第2、第3、第4、および第iの誤り率より低い。
【0024】
この方法において追加の誤り率におけるさらなる測定値を獲得することは、前記マルチ指数関数的減衰曲線における前記フィッティングパラメータの推定を都合よく改善し、したがって、前記誤りのないオブザーバブルの前記値の推定を改善する。デュアル指数関数的減衰曲線は、4つの自由フィッティングパラメータ:A、γ、A、およびγを有する。したがって、デュアル指数関数的減衰曲線について、少なくとも4つの異なる演算が、それぞれ異なる誤り率において実行される。同様に、トリプル指数関数的減衰曲線は、6つの自由フィッティングパラメータを有する。好ましくは、トリプル指数関数的減衰曲線について、少なくとも6つの異なる演算が、それぞれ異なる誤り率において実行される。通常、前記異なる誤り率の数は、2K以上であり、それにおいてKは、前記マルチ指数関数的減衰曲線における指数関数の数である。前記量子コンピュータの誤り率は、前記第2の演算に関して説明されているとおり、1つ以上のランダムなパウリ・ゲートを使用して第iの誤り率に修正することができる。前記ランダムなパウリ・ゲートの追加は、パウリ・ノイズに起因して生じる誤りを増加させることができる。
【0025】
本発明の別の態様は、量子コンピューティング計算を実行するためのデバイスを提供する。前記デバイスは:キュビットの状態に対して複数回にわたって、第1の誤り率を有する第1の演算を実行し;前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって、第2の誤り率を有する第2の演算を実行し;前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって、第3の誤り率を有する第3の演算を実行し;かつ、前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって、第4の誤り率を有する第4の演算を実行するべく構成された量子プロセッサを包含する。前記デバイスは、さらに:前記第1の演算の後に前記キュビットの平均の状態の第1の測定値を獲得し;前記第2の演算の後に前記キュビットの前記平均の状態の第2の測定値を獲得し;前記第3の演算の後に前記キュビットの前記平均の状態の第3の測定値を獲得し;かつ、前記第4の演算の後に前記キュビットの前記平均の状態の第4の測定値を獲得するべく構成された量子測定ゲートを包含する。前記デバイスは、さらに、前記第1、第2、第3、および第4の測定値をマルチ指数関数的減衰曲線へフィッティングし、かつ前記フィッティングした曲線を使用して、前記第1、第2、第3、および第4の誤り率より低い第5の誤り率における前記キュビットの前記平均の状態を補外するべく構成された古典的プロセッサを包含する。
【0026】
好都合なことには、前記デバイスを使用して異なる誤り率において獲得された前記第1、第2、第3、および第4の測定値を、補外を使用し、より低い誤り率における前記キュビットの前記平均の状態を予測するべく使用することが可能である。前記第5の誤り率は、ノイズを伴わない前記キュビットの前記平均の状態を推定するべくゼロの誤り率として選択することができる。
【0027】
本発明のさらなる態様は、インストラクションを包含するコンピュータ可読メモリ媒体を提供し、前記インストラクションは、コンピュータによって実行されたときに前記コンピュータに:キュビットの状態に対して複数回にわたって、第1の誤り率を有する第1の演算を実行するステップと;前記キュビットの平均の状態の第1の測定値を獲得するステップと;前記量子コンピュータの前記誤り率を前記第1の誤り率から第2の誤り率へ修正するステップと;前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって、前記第2の誤り率を有する第2の演算を実行するステップと;前記キュビットの前記平均の状態の第2の測定値を獲得するステップと;前記量子コンピュータの前記誤り率を前記第2の誤り率から第3の誤り率へ修正するステップと;前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって、前記第3の誤り率を有する第3の演算を実行するステップと;前記キュビットの前記平均の状態の第3の測定値を獲得するステップと;前記量子コンピュータの前記誤り率を前記第3の誤り率から第4の誤り率へ修正するステップと;前記キュビットの前記状態に対して複数回にわたって、前記第4の誤り率を有する第4の演算を実行するステップと;前記キュビットの前記平均の状態の第4の測定値を獲得するステップと;前記第1、第2、第3、および第4の測定値をマルチ指数関数的減衰曲線にフィッティングするステップと;前記フィッティング済みの曲線を使用して第5の誤り率における前記キュビットの前記平均の状態を補外することであって、それにおいて前記第5の誤り率が、前記第1、第2、第3、および第4の誤り率より低いとするステップと;
を包含するステップの実行を量子コンピュータ上にもたらす。
【0028】
物理的な改善を使用して量子コンピュータ内に発生する誤りを排除することは困難である。好都合なことに、これらのステップを実行することは、結果として、低減された誤り率におけるキュビットの平均の状態の数学的な推定をもたらす。
【0029】
本発明の別の態様は、量子コンピュータを使用するときの誤りを軽減する方法を提供する。前記方法は:キュビットの状態に対して第1の演算を実行することであって、前記第1の演算が、第1の誤り率を有するものとすることと;前記キュビットの平均の状態の第1の測定値を獲得することと;前記量子コンピュータの前記誤り率を前記第1の誤り率から第2の誤り率へ修正することと;前記キュビットの前記状態に対して第2の演算を実行することであって、前記第2の演算が、第2の誤り率を有するものとすることと;前記キュビットの前記平均の状態の第2の測定値を獲得することと;前記第1および第2の測定値をマルチ指数関数的減衰曲線へフィッティングすることと;前記フィッティング済みの曲線を使用して第3の誤り率における前記キュビットの平均の状態を補外することであって、前記第3の誤り率が、前記第1の誤り率および前記第2の誤り率より低いとすることと、を包含する。
【0030】
本発明のさらなる態様は、量子コンピューティング計算を実行するためのデバイスを提供し、それにおいて前記デバイスは:キュビットの状態に対して第1の誤り率を有する第1の演算を実行し;かつ、前記キュビットの前記状態に対して第2の誤り率を有する第2の演算を実行するべく構成された量子プロセッサと;前記第1の演算の後に前記キュビットの平均の状態の第1の測定値を獲得し;かつ、記第2の演算の後に前記キュビットの前記平均の状態の第2の測定値を獲得するべく構成された量子測定ゲートと;前記第1の測定値および前記第2の測定値をマルチ指数関数的減衰曲線にフィッティングし;かつ、前記フィッティングした曲線を使用して、前記第1の誤り率および第2の誤り率より低い第3の誤り率における前記キュビットの前記平均の状態を補外するべく構成された古典的プロセッサと、を包含する。
【0031】
本発明の別の態様は、インストラクションを包含するコンピュータ可読メモリ媒体を提供し、前記インストラクションは、コンピュータによって実行されたときに前記コンピュータに:キュビットの状態に対して、第1の誤り率を有する第1の演算を実行するステップと;前記キュビットの平均の状態の第1の測定値を獲得するステップと;前記量子コンピュータの誤り率を前記第1の誤り率から第2の誤り率へ修正するステップと;前記キュビットの前記状態に対して、第2の誤り率を有する第2の演算を実行するステップと;前記キュビットの前記平均の状態の第2の測定値を獲得するステップと;前記第1の測定値および前記第2の測定値をマルチ指数関数的減衰曲線にフィッティングするステップと;前記フィッティング済みの曲線を使用して第3の誤り率における前記キュビットの前記平均の状態を補外することであって、それにおいて前記第3の誤り率が、前記第1の誤り率および第2の誤り率より低いとするステップと;
を包含するステップの実行を量子コンピュータ上にもたらす。
【0032】
以下、次に挙げる添付図面を参照し、本発明の実施態様を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】第1の実施態様に従った誤り軽減方法を示したフローチャートである。
図2A】第2の実施態様に従った第1の演算を図解した概略図である。
図2B】第2の実施態様に従った第2の演算を図解した概略図である。
図3】第3の実施態様に従った誤り率の関数としてオブザーバブルの値を図解したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、誤り軽減方法の実施態様を図示したフローチャートである。量子コンピュテーションは、通常:キュビットのセットの初期化と;そのキュビットのセットに対する量子演算のシーケンスの実行と;キュビットのそれぞれの出力状態の測定とを伴う。
【0035】
ステップS101においては、量子プロセッサを使用してキュビットの状態に対して第1の演算が実行される。この実施態様においては、この第1の演算を実行する前に、キュビットがゼロ状態に初期化される。第1の演算は、キュビットの状態を変換する。キュビットは、キュビットのセットのうちの1つである。キュビットのセット内の各キュビットに対する演算は、同時に行うことが可能であるが、それぞれが異なる状態変換を受けることができる。第1の演算は、複数の演算を包含し、それには、パウリ・ゲート、アダマール・ゲート、およびコントロール付きノット(CNOT)ゲート等の量子ロジック・ゲートを含めることができる。これらの複数の演算は、シーケンシャルに実行される。第1の演算は、その第1の演算が実行されたときに発生が期待される誤りの数である第1の誤り率nを有する。可能性のある誤りロケーションの数Mが大きいこと、および第1の誤り率が1程度であること、すなわちM>>1かつ、n~1を仮定する。量子デバイスにおいて発生することのある誤りの例には、パウリ誤り、位相緩和誤り、および脱分極性誤り等が含まれる。パウリ誤りは、マルコフ誤りの形式である。パウリ誤りでないマルコフ誤りは、パウリ・トワリング技術を使用してパウリ誤りに変換することができる。
【0036】
第1の演算は、複数回にわたって実行される。第1の演算の各実行の後にキュビットの状態が測定される。ステップS102においては、キュビットの平均の状態の第1の測定値が、量子測定デバイスを使用して獲得される。キュビットの状態の測定値は、第1の演算が実行された後に獲得される。キュビットの状態は、概して、第1の状態|0>と第2の状態|1>の重ね合わせである。しかしながら、演算の各実行に続いて測定されたキュビットの状態は、第1の状態または第2の状態のいずれかになる。キュビットが第1の状態にあれば、記録される測定値が-1になる。あるいは、キュビットが第2の状態にあれば、測定値が+1として記録される。同一の演算を複数回にわたって実行することによって、キュビットの平均の状態を決定することが可能である。複数の第1の演算のそれぞれの実行に続いて記録された測定値を平均することによって、S102において第1の測定値が獲得される。
【0037】
第1および第2の状態は、キュビットのタイプに応じて異なる。したがって、測定されるキュビットの特性は、そのキュビットのタイプに依存する。量子測定デバイスは、キュビットのタイプに対応して選択される。たとえば、電子スピン・キュビットの第1および第2の状態は、スピン・アップおよびスピン・ダウンであり、それにおいてスピン・アップは、+1として記録され、スピン・ダウンは、-1として記録される。したがって、電子スピン・キュビットの測定値は、電子スピンを測定することによって獲得され、量子測定デバイスは、電子スピンを測定するべく構成される。
【0038】
キュビットが電子電荷キュビットである場合には、電子電荷が測定され、それにおいては、第1および第2の状態が、電子なしおよび1電子になる。キュビットが超電導相キュビットである場合には、励起状態が測定され、それにおいては、第1および第2の状態が、グラウンド状態および第1の励起状態になる。第1および第2の測定可能な状態を伴う任意の量子系は、キュビットとして使用することが可能である。第1および第2の状態を見分けることを可能にする適切な量子測定デバイスが、測定値を獲得するために使用される。
【0039】
第1の演算は、何度も反復され、キュビットの平均の状態が、第1の演算の各実行に続いて記録された個別の測定値の平均の値を取ることによって計算される。したがって、第1の測定値は、第1の誤り率におけるキュビットの状態の期待値である。これは、オブザーバブルのノイズの多い測定値、すなわち系特性に対応する。
【0040】
第1の測定値が獲得された後は、量子コンピュータの誤り率がS103において修正される。量子コンピュータの誤り率は、第1の誤り率から第2の誤り率へ修正される。第1の誤り率は、通常、最小の達成可能な誤り率であり、第2の誤り率への誤り率の修正は、物理的な誤り率の意図的な増加を伴う。重要なことは、測定値に対するノイズの効果を正確にモデリングするために、いずれの追加の誤りも同一のノイズ・モデルから生じるはずであるということである。実験者は、実際問題として、これを達成することが可能な方法が多く存在することを理解するであろう。通常、実験者のねらいは、ノイズ・レベルを、それの最小可能深刻度まで低減することである。これは、多くの実験技術を使用して達成することが可能である。ノイズ・レベルを増加するために、実験者によって採用されたノイズ低減要素の効果を取り除くか、または低減するべく量子コンピュータの動作を修正することができる。たとえば、演算の間におけるタイミングを増加して有効なデコヒーレンス・レベルを増加することができ、磁気シールディングのレベルを低減してランダム磁気ノイズを増加することができ、またはノイズをシミュレーションする追加の演算を実行することができる。
【0041】
ステップS103において量子コンピュータの誤り率が修正されると、ステップS104において、量子プロセッサを使用してキュビットの状態に対する第2の演算が実行される。第2の演算は、第1の演算と同じ量子デバイスに対して実行されるが、修正後の誤り率、すなわち第2の誤り率nが用いられる。この実施態様においては、第2の誤り率が第1の誤り率より大きい。キュビットの状態は、第2の演算を実行する前に初期化される。キュビットの初期化は、ベースラインとして、または参照ポイントとして使用することが可能なキュビットを『ゼロ』状態のままに残し、そこからキュビットの出力状態を測定することが可能である。
【0042】
この実施態様においては、修正が、第1の演算に加えて実行される修正演算の形式である。第2の演算は、第1の演算と修正演算の両方を含む。この実施態様においては、仮定されたノイズ・モデルがパウリのノイズ・モデルであり、したがって、修正演算は、ランダムに選択されるパウリ・ゲートである。第1の演算の後の追加の演算の実行は、ノイズ・レベルを増加させる。パウリ・ゲートの例は、x軸周りの回転を実行するパウリXゲート
【数3】
と、y軸周りの回転を実行するパウリYゲート
【数4】
と、z軸周りの回転を実行するパウリZゲート
【数5】
とを含み、それにおいて参照される軸は、ブロッホ球のそれである。ブロッホ球は、キュビットの状態の幾何学的な表現に使用することが可能である。ランダムなパウリ・ゲートを使用して増加されたパウリ・ノイズを伴うパウリ・オブザーバブルの期待値における変化が、マルチ指数関数的減衰を使用して近似可能なことが明らかになった。
【0043】
第2の演算は、複数回にわたって実行される。第2の演算は、第1の演算と修正演算を包含する。第1の演算の各実行は、ランダムなパウリ・ゲート等の修正演算を実行することによって修正することができる。第2の演算は、第1の演算の各演算に修正演算の演算が続くというように、交番する態様で第1の演算と修正演算を実行することによって、実行することができる。演算は、任意の順序で実行することができる。重要なことは、第1および第2の演算に関連付けされる異なる誤り率が、誤り率の関数としてのキュビットの状態の測定を可能にするということである。
【0044】
ステップS105においては、キュビットの平均の状態の第2の測定値が、量子測定デバイスを使用して獲得される。第2の測定値は、第1の測定値に類似する態様で獲得されるが、修正された量子コンピュータが使用される。第2の演算の各実行後にキュビットの状態の測定値が獲得され、第2の演算の各反復の都度記録された測定値を平均することによってキュビットの状態の期待値が計算される。第2の測定値は、異なる誤り率におけるオブザーバブルの、第2のノイズの多い測定値を提供する。
【0045】
適切に高いレベルの精度で誤りのないオブザーバブルを推定するために、回路のラン、すなわち第1および第2の演算の実行およびその後に続く測定の回数が、第1および第2の誤り率に依存するファクタCによって増加されなければならない。たとえば、第1の誤り率nおよび第2の誤り率n=λnについては、コスト・ファクタCが、概略で次式に等しくなる。
【0046】
【数6】
これにおいてγは、ノイズに伴うオブザーバブルの期待値のオブザーバブル減衰率である。
【0047】
コスト・ファクタCに従った適切な数の回路のランを実行した後に、オブザーバブルの期待値を誤り率の関数としてプロットすることが可能である。キュビットの状態の期待値の第1の測定値を第1の誤り率に置き、キュビットの状態の期待値の第2の測定値を第2の誤り率に置く。期待値は、誤り率の増加に従って低減される。オブザーバブルの期待値に対する誤り率の増加の効果は、誤りのない値の推定に使用することが可能である。
【0048】
誤り率の関数としての期待値が傾向線に従うことが期待される。誤りのない値を推定するために、測定された値、すなわち第1、第2、第3、および第4の測定値を、適切な傾向線にフィッティングすることが可能であり、かつ補外を使用して誤りのない値を推定することが可能である。現在のところ、実験的な量子系は、特定の誤り率より小さい誤り率を用いる演算を実行することが可能でない。したがって、近未来の量子コンピュテーションにおいては、誤りのない値の数学的な推定が重要であり、フォールト・トレラントな、または誤りのない量子コンピュテーションは、開発中である。
【0049】
第2の測定値が獲得された後は、量子コンピュータの誤り率がS106において修正される。量子コンピュータの誤り率は、第2の誤り率から第3の誤り率へ修正される。第2から第3の誤り率への誤り率の修正は、ステップS103に述べられている第1から第2の誤り率への誤り率の修正に類似である。この例においては、第3の誤り率が第2の誤り率より大きい。代替例においては、第3の誤り率を、第2の誤り率より低いが第1の誤り率より大きいとすることができる。
【0050】
ステップS107においては、キュビットの状態に対して第3の演算が実行される。第3の演算は、複数回にわたって実行され、各実行に続いてキュビットの状態が測定される。第3の演算は、第3の誤り率を有する。この例においては、第3の演算が第1の演算と第1および第2の修正演算を包含する。第1および第2の修正演算は、ステップS104に関して上に述べられているパウリ演算のセットからランダムに選択される。第1と第2の修正演算は、同一とすることもでき、または異なるとすることもでき、第3の演算の各実行について異なるとすることもできる。
【0051】
ステップS108においては、キュビットの平均の状態の第3の測定値が、量子測定デバイスを使用して獲得される。第3の測定値は、第1および第2の測定値に類似する態様で獲得されるが、修正された量子コンピュータが使用される。キュビットの状態の期待値が、第3の演算の各反復の都度記録された測定値を平均することによって計算される。第3の測定値は、異なる誤り率におけるオブザーバブルの、第3のノイズの多い測定値を提供する。
【0052】
第3の測定値が獲得された後は、量子コンピュータの誤り率が、上に(S103、S106)述べられているようにS109において第3の誤り率から第4の誤り率へ修正される。この例においては、第4の誤り率が第3の誤り率より大きい。
【0053】
ステップS110においては、キュビットの状態に対して第4の演算が実行される。第4の演算は、複数回にわたって実行され、各実行に続いてキュビットの状態が測定される。第4の演算は、第4の誤り率を有する。この例においては、第4の演算が、第1の演算と、上に述べられているように(S104)パウリ演算のセットからランダムに選択される第1、第2、および第3の修正演算を包含する。この例においては、第4の誤り率が第3の誤り率より大きい。第1、第2、および第3の修正演算は、任意の順序で実行することができ、特定の演算との関係付けはない。第1、第2、および第3の修正演算は、第4の演算の各実行の前にランダムに選択される。
【0054】
ステップS111においては、キュビットの平均の状態の第4の測定値が、量子測定デバイスを使用して獲得される。第4の測定値は、第1、第2、および第3の測定値に類似する態様で獲得されるが、修正された量子コンピュータが使用される。キュビットの状態の期待値が、第4の演算の各反復の都度記録された測定値を平均することによって計算される。第4の測定値は、別の異なる誤り率におけるオブザーバブルの、第4のノイズの多い測定値を提供する。
【0055】
ステップS112においては、第1、第2、第3、および第4の測定値が
【数7】
の形式のマルチ指数関数的減衰曲線にフィッティングされる。これにおいてEは、キュビットの平均の状態であり、nは、誤り率であり、Aおよびγは、フィッティングパラメータである。フィッティングパラメータγは、0以上かつ1以下、すなわち、0≦γ≦1である。この減衰曲線の形状は、量子回路が一般パウリ・ノイズ、すなわちランダム・パウリ誤りを受けるという仮定に基づいている。パウリ・ノイズは、たとえば、環境相互作用または不完全なキュビット・コントロールに起因して発生し得る。フィッティングパラメータは、従来的なコンピュータにおける古典的プロセッサを使用して決定される。
【0056】
減衰曲線に複数の指数関数成分を含めることが、誤りのないオブザーバブルの推定を改善することが明らかになった。しかしながら、総和における追加の指数関数の使用は、期待値の計算における不確定性を低減するべく追加の測定が必要とされることから、コストCを招く。複数の指数関数成分の使用が、改善されたオブザーバブルの推定と、減衰曲線が、基礎をなす傾向線に加えてノイズに当て嵌まるときに生じる可能性のある過剰フィッティングの間のバランスを提供することが明らかになった。過剰フィッティングは、フィッティングパラメータAおよびγを適切に決定するに充分な測定値がない場合に発生することがある。良好なフィッティングのために必要とされる測定値の最小の数は、自由パラメータの数に等しい。
【0057】
この実施態様においては、K=2であり、マルチ指数関数的減衰曲線は、2つの指数関数の和、すなわち
【数8】
である。4つの自由パラメータ、A、A,γ、およびγが存在し、したがって、良好なフィッティングに必要とされる測定値の最小の数は4である。コスト、すなわちデュアル指数関数的減衰曲線を使用してデータをフィッティングするときに必要とされるランの数は、K=1の場合よりわずかに高いが、オブザーバブルの推定における絶対不確定性が大幅に改善される。
【0058】
最後にステップS113では、フィッティング済みの曲線を使用して第5の誤り率におけるキュビットの平均の状態が補外される。この補外は、古典的プロセッサによって実行される。第5の誤り率は、第1、第2、第3、および第4の誤り率のそれぞれより低い。この実施態様における第1の誤り率は、量子デバイスを使用して実験的に達成可能なもっとも低い誤り率である。第1、第2、第3、および第4の誤り率は、フィッティングを実行するために異なる必要があるが、第1、第2、第3、または第4の誤り率のうちのいずれも最小達成可能誤り率である必要はない。この実施態様においては、第5の誤り率がゼロの誤り率として選択され、n=0である。ゼロの誤り率においては、推定される期待値が2つの決定済みの振幅の和に等しい;すなわち、En=0=A+Aである。この補外技術は、誤りのない、またはノイズのないオブザーバブルの推定を返す。
【0059】
代替実施態様においては、各測定値が異なる誤り率において獲得される測定値の数を増加させることによって誤りのないオブザーバブルの推定をさらに向上させることができる。量子デバイスは、追加の演算を実行する前に修正することができ、各修正は、結果として新しい誤り率をもたらす。キュビットの状態は、i>4とする第iの演算を実行する前に初期化される。iに関して理論的な上限は存在せず、iの値が大きいほど、誤りの推定がより良好になる。しかしながら、追加の測定毎に追加の実験コストが招かれ、したがって実際的な理由のために、通常は獲得される測定値の総数が制限される。それぞれの第iの演算は、同一の量子デバイスを使用して実行されるが、誤り率を修正するためにハードウエアに対して異なる修正を伴う。各第iの演算は、第iの誤り率を有する。1つの例においては、各第iの演算が、第1の演算と修正演算を含み、それにおいて修正演算は、1つ以上のパウリ・ゲート等の演算を含むことができる。
【0060】
各第iの演算は、ステップS104、S107、およびS110に関して上に述べられているとおりの第2、第3、および第4の演算と類似の態様で実行される。第iの演算を実行した後、キュビットの平均の状態の第iの測定値が、ステップS105、S108、およびS111に関して上に述べられているとおりの第2、第3、および第4の測定値の獲得と類似に獲得される。説明中の代替実施態様においては、獲得された測定値のそれぞれが、ステップS112に関して述べられているとおりマルチ指数関数的減衰曲線にフィッティングされる。
【0061】
図2Aは、第2の実施態様に従った第1の演算21を略図的な図解である。第1の演算21は、量子プロセッサによってキュビットの状態に対して実行される。その後に続いて、量子測定デバイス22がキュビットの状態の測定値を獲得する。量子プロセッサは、複数回にわたって第1の演算21を実行するべく構成されており、キュビットの状態が、それぞれの回毎に量子測定デバイス22を使用して測定される。これらの測定値を平均することによって測定の期待値が決定される。
【0062】
図2Bは、第2の実施態様に従った第2の演算の略図的な図解である。この実施態様においては、第2の演算23が第1の演算21と修正演算25とを包含する。量子プロセッサがキュビットの状態に対して第2の演算23を実行した後、量子測定デバイス26がキュビットの状態の測定値を獲得する。第2の演算23は、複数回にわたって実行され、それぞれの回毎にキュビットの状態が量子測定デバイス26を使用して測定される。修正演算25は、ノイズのレベルを追加することによって量子演算を修正するべく使用される。修正演算25の追加は、誤りが発生する確率を高める。修正演算25は、第1の演算21のノイズ・モデルに寄与する演算のセットから選択される。この方法において増加されたノイズを用いて行われた測定の期待値が、第2の演算23の実行に続いて測定デバイス26によって獲得された測定値を平均することによって決定される。
【0063】
第iの演算が実行される代替実施態様においては、図2Bの第2の演算の図解を、概して、第iの演算を略図的に図示しているとして解釈することが可能である。各第iの演算は、1を超える数の修正演算を、第1の演算に加えて包含することができる。
【0064】
図3は、第3の実施態様に従ったフィッティングおよび補外プロセスの図解である。フィッティングおよび補外は、古典的コンピュータのプロセッサを使用して実行される。第1の誤り率32における第1の測定値31および第2の誤り率34における第2の測定値33が、上に述べられている方法を使用して獲得される。また、第3および第4の測定値も獲得される(図示せず)。この実施態様においては、第1の誤り率32が第2の誤り率34より低いことから、第1の測定値31が第2の測定値33より大きい。
【0065】
古典的プロセッサが使用されて、
【数9】
の形式のマルチ指数関数的減衰曲線35が、第1の測定値31と、第2の測定値33と、第3および第4の測定値にフィッティングされる。フィッティングパラメータA、A、γ、およびγが決定された後に、古典的プロセッサを使用してその曲線がn=0のゼロの誤り率37まで補外される。誤りのないオブザーバブルの値36が、ゼロの誤り率までの補外によって推定される。
【0066】
代替実施態様では、デュアル指数関数的減衰曲線におけるフィッティングパラメータの推定を向上させるべく、最小回路誤り率より大きい追加の誤り率におけるさらなる測定を実行することが可能である。フィッティングパラメータの良好な推定を、その結果として誤りのないオブザーバブルの良好な推定を提供するために、少なくとも4つの異なる誤り率を探る必要がある。シングル指数関数的減衰曲線ではなくデュアル指数関数的減衰曲線へ測定値をフィッティングするときには、より多くの測定値が必要とされるが、改善されたフィッティングは、推定誤りが有意により低い誤りのないオブザーバブルの推定を結果としてもたらす。
【0067】
認識されるとおり、誤りのないオブザーバブルの推定が大幅に向上する改善された誤り軽減方法が提供されている。量子コンピュータの誤り率を増加することによる異なる誤り率におけるサンプリング、および結果として得られた測定値のマルチ指数関数的減衰曲線へのフィッティングは、補外を使用した誤りのないオブザーバブルの値の推定を可能にする。
【符号の説明】
【0068】
21 第1の演算
22 量子測定デバイス
23 第2の演算
25 修正演算
26 量子測定デバイス
31 第1の測定値
32 第1の誤り率
33 第2の測定値
34 第2の誤り率
35 マルチ指数関数的減衰曲線
36 誤りのないオブザーバブルの値
37 ゼロの誤り率
図1
図2A
図2B
図3