(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】光電変換素子および撮像装置
(51)【国際特許分類】
H10K 30/60 20230101AFI20250303BHJP
H10F 30/20 20250101ALI20250303BHJP
H10F 39/18 20250101ALI20250303BHJP
H10K 39/32 20230101ALI20250303BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20250303BHJP
H10K 30/30 20230101ALN20250303BHJP
H10K 101/30 20230101ALN20250303BHJP
【FI】
H10K30/60
H10F30/20
H10F39/18 E
H10K39/32
H10K85/60
H10K30/30
H10K101:30
(21)【出願番号】P 2023042245
(22)【出願日】2023-03-16
(62)【分割の表示】P 2019543549の分割
【原出願日】2018-09-07
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2017180653
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 雄大
(72)【発明者】
【氏名】菅野 雅人
(72)【発明者】
【氏名】茂木 英昭
(72)【発明者】
【氏名】君島 美樹
(72)【発明者】
【氏名】宮地 さえ
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-089413(JP,A)
【文献】特開2017-095460(JP,A)
【文献】特表2016-506068(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0244345(US,A1)
【文献】SUN, Yanming et al.,Organic thin-film transistors with high mobilities and low operating voltages based on -bis-biphenyl-dithieno[3,2-b: -d]thiophene semiconductor and polymer gate dielectric,Appl. Phys. Lett.,2006年06月15日,88, 242113, pp.1-3,https://doi.org/10.1063/1.2209213
【文献】SUN, Yanming et al.,High-Performance and Stable Organic Thin-Film Transistors Based on Fused Thiophenes,Adv. Funct. Mater.,2005年12月22日,2006, 16, pp.426-432,DOI:10.1002/adfm.200500547
【文献】DADVAND, Afshin et al.,Heterocirculenes as a new class of organic semiconductors,Chem. Commun.,2008年09月19日,2008, pp.5354-5356,DOI:10.1039/b809259a
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
前記第1電極と対向配置された第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられ、結晶性を有すると共にキャリア輸送性を有する一の有機半導体材料、可視光領域のうち、
400nm以上750nm以下の波長で50000cm
-1以上の
吸収係数を有する色材および前記一の有機半導体材料と対となるキャリア輸送性を有する他の有機半導体材料を含む光電変換層とを備え、
前記一の有機半導体材料は、
下記式(1-1)、式(2-1)、式(4-1)または式(17-1)で表される化合物である
光電変換素子。
【化1】
【請求項2】
前記一の有機半導体材料は正孔輸送性を有する、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記一の有機半導体材料は、分子量100以上3000以下の低分子材料である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記一の有機半導体材料のHOMO準位は、少なくとも1種の前記他の有機半導体材料のHOMO準位よりも高い、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記一の有機半導体材料は、分子長が1.6nmよりも大きく、10nm以下の芳香族化合物である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記色材は、下記一般式(2)で表されるサブフタロシアニンまたはその誘導体である、請求項1に記載の光電変換素子。
【化3】
(R15~R26は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、フェニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基からなる群から選択され、且つ、隣接した任意のR15~R26は縮合脂肪族環または縮合芳香環の一部であってもよい。前記縮合脂肪族環または縮合芳香環は、炭素以外の1または複数の原子を含んでいてもよい。Mはホウ素または2価あるいは3価の金属である。Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、チオール基、イミド基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基からなる群より選択されるいずれかの置換基である。)
【請求項7】
前記他の有機半導体材料は、下記一般式(3)または一般式(4)で表されるフラーレンまたはフラーレン誘導体である、請求項1に記載の光電変換素子。
【化4】
(R27,R28は、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐または環状のアルキル基、フェニル基、直鎖または縮環した芳香族化合物を有する基、ハロゲン化物を有する基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、アリールスルファニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルフィド基、アルキルスルフィド基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、ニトロ基、カルコゲン化物を有する基、ホスフィン基、ホスホン基あるいはそれらの誘導体である。n,mは0または1以上の整数である。)
【請求項8】
各画素が1または複数の有機光電変換部を有し、
前記有機光電変換部は、
第1電極と、
前記第1電極と対向配置された第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられ、結晶性を有すると共にキャリア輸送性を有する一の有機半導体材料、可視光領域のうち、
400nm以上750nm以下の波長で50000cm
-1以上の
吸収係数を有する色材および前記一の有機半導体材料と対となるキャリア輸送性を有する他の有機半導体材料を含む光電変換層とを備え、
前記一の有機半導体材料は、
下記式(1-1)、式(2-1)、式(4-1)または式(17-1)で表される化合物である
撮像装置。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、有機半導体材料を用いた光電変換素子およびこれを備えた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機薄膜を用いたデバイスの開発が行われている、有機光電変換素子はその一つであり、これを用いた有機薄膜太陽電池や有機撮像素子等が提案されている。有機光電変換素子では、p型有機半導体およびn型有機半導体を混合したバルクヘテロ構造が採用されており、量子効率の向上が図られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、有機光電変換素子には、有機半導体の伝導特性が低いことに起因して十分な量子効率が得られないという課題がある。また、有機撮像素子には、入射光に対して電気的な出力信号が遅延しやすいという課題がある。
【0003】
一般に、有機半導体の伝導は分子の配向が重要であることがわかっている。バルクヘテロ構造を有する有機光電変換素子においても同様である。このため、伝導方向が基板に対して鉛直方向な有機光電変換素子では、有機半導体は基板に対して水平配向であることが好ましい。これに対して、例えば、特許文献2では、水平配向性を有する有機半導体化合物を用いた光電変換素子が開示されている。例えば、特許文献3では、i層の下層に配向制御層を設けた有機薄膜太陽電池が開示されている。例えば、特許文献4では、基板温度を制御して成膜することで光電変換層の配向性を制御する有機光電変換素子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-303266号公報
【文献】特開2009-60053号公報
【文献】特開2007-59457号公報
【文献】特開2008-258421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、有機半導体材料を用いた光電変換素子の量子効率および応答速度の向上が求められている。
【0006】
量子効率および応答速度を向上させることが可能な光電変換素子および撮像装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態の光電変換素子は、第1電極と、第1電極と対向配置された第2電極と、第1電極と第2電極との間に設けられ、結晶性を有すると共にキャリア輸送性を有する一の有機半導体材料、可視光領域のうち、400nm以上750nm以下の波長で50000cm-1以上の吸収係数を有する色材および一の有機半導体材料と対となるキャリア輸送性を有する他の有機半導体材料を含む光電変換層とを備えたものであり、一の有機半導体材料は、式(1-1)、式(2-1)、式(4-1)または式(17-1)で表される化合物である。
【0008】
【0011】
本開示の一実施形態の撮像装置は、各画素が1または複数の光電変換素子を含み、この光電変換素子として、上記本開示の一実施形態の光電変換素子を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一実施形態の光電変換素子および一実施形態の撮像装置では、結晶性を有すると共にキャリア輸送性を有する一の有機半導体材料、可視光領域のうち、400nm以上750nm以下の波長で50000cm-1以上の吸収係数を有する色材および一の有機半導体材料と対となるキャリア輸送性を有する他の有機半導体材料を含む光電変換層を設けるようにした。この一の有機半導体材料は、式(1-1)、式(2-1)、式(4-1)または式(17-1)で表される化合物である。これにより、バルクヘテロ膜中の有機半導体材料の混合状態を適切に制御することでき、グレイン境界における欠陥の形成を低減することが可能となる。
【0013】
本開示の一実施形態の光電変換素子および一実施形態の撮像装置によれば、式(1-1)、式(2-1)、式(4-1)または式(17-1)で表される化合物である一の有機半導体材料を含む光電変換層を設けたので、バルクヘテロ膜中の有機半導体材料の混合状態を適切に制御することが可能となる。よって、グレイン境界における欠陥の形成が低減され、量子効率および応答性を向上させることが可能となる。
【0014】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の第1の実施の形態に係る光電変換素子の構成を表す断面模式図である。
【
図2】
図1に示した光電変換素子に用いる有機半導体材料の分子長および分子幅を説明する図である。
【
図3】
図1に示した光電変換素子の単位画素の構成を表す平面模式図である。
【
図4】
図1に示した光電変換素子の製造方法を説明するための断面模式図である。
【
図6】有機分子の配向と伝導の異方性を説明する図である。
【
図7】
図5に示した配向する複数の有機分子からなる結晶を模式的に表したものである。
【
図8】光電変換層内における有機分子の結晶および電荷の伝導を説明する概念図である。
【
図9】本開示の第2の実施の形態に係る光電変換素子の構成の一例を表す断面図である。
【
図10】
図9に示した光電変換素子の等価回路図である。
【
図11】
図9に示した光電変換素子の下部電極および制御部を構成するトランジスタの配置を表わす模式図である。
【
図12】
図9に示した光電変換素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図18】
図9に示した光電変換素子の一動作例を表すタイミング図である。
【
図19】
図1に示した光電変換素子を備えた撮像素子の全体構成を表すブロック図である。
【
図20】
図19に示した撮像素子を用いた撮像装置(カメラ)の一例を表す機能ブロック図である。
【
図21】体内情報取得システムの概略的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図22】本技術が適用され得る内視鏡手術システムの概略的な構成の一例を示す図である。
【
図23】
図22に示したカメラヘッド及びCCUの機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図24】車両制御システムの概略的な構成例を示すブロック図である。
【
図25】撮像部の設置位置の一例を示す説明図である。
【
図26】評価装置(BL46XU)の構成を表す模式図である。
【
図27】サンプル1の2D-GIXD測定図である。
【
図28】サンプル1の水平配向成分の強度プロファイル図である。
【
図29】2D-GIXDによって得られた各有機半導体材料における成膜温度と配向性との関係を表す特性図である。
【
図30】2D-GIXDによって得られた各有機半導体材料における配向性と量子効率との関係を表す特性図である。
【
図31】2D-GIXDによって得られた各有機半導体材料における配向性と応答速度との関係を表す特性図である。
【
図32】2D-GIXDによって得られた各有機半導体材料における配向性変化率と量子効率との関係を表す特性図である。
【
図33】2D-GIXDによって得られた各有機半導体材料における配向性変化率と応答速度との関係を表す特性図である。
【
図34】XRDによって得られたDP-DTTの各成膜温度における散乱スペクトル図である。
【
図35】XRDによって得られたDBP-DTTの各成膜温度における散乱スペクトル図である。
【
図36】pMAIRSによって得られた各有機半導体材料における成膜温度と配向角との関係を表す特性図である。
【
図37】pMAIRSによって得られた各有機半導体材料における配向角変化量と量子効率との関係を表す特性図である。
【
図38】pMAIRSによって得られた各有機半導体材料における配向角変化量と応答速度との関係を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示における実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明は本開示の一具体例であって、本開示は以下の態様に限定されるものではない。また、本開示は、各図に示す各構成要素の配置や寸法、寸法比等についても、それらに限定されるものではない。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.第1の実施の形態
(配向性が温度変化しにくい有機半導体材料を用いた光電変換素子の例)
1-1.光電変換素子の構成
1-2.光電変換素子の製造方法
1-3.作用・効果
2.第2の実施の形態
(下部電極が複数の電極からなる光電変換素子の例)
2-1.光電変換素子の構成
2-2.光電変換素子の製造方法
2-3.作用・効果
3.適用例
4.実施例
【0017】
<1.第1の実施の形態>
図1は、本開示の第1の実施の形態の光電変換素子(光電変換素子10A)の断面構成を表したものである。光電変換素子10Aは、例えば、裏面照射型(裏面受光型)のCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサまたはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の撮像装置(撮像装置1)において1つの画素(単位画素P)を構成する撮像素子である(
図19参照)。光電変換素子10Aは、それぞれ異なる波長域の光を選択的に検出して光電変換を行う1つの有機光電変換部11Gと、2つの無機光電変換部11B,11Rとが縦方向に積層された、いわゆる縦方向分光型のものである。有機光電変換部11Gは、下部電極15と、光電変換層16と、上部電極17とがこの順に積層された構成を有する。本実施の形態では、光電変換層16は、第1の温度で成膜した場合と、第1の温度よりも高い第2の温度で成膜した場合とで、例えば、光電変換層16内における水平配向性結晶および垂直配向性結晶の比率の変化が3倍以下となる有機半導体材料を用いて形成されたものである。
【0018】
(1-1.光電変換素子の構成)
光電変換素子10Aは、単位画素P毎に、1つの有機光電変換部11Gと、2つの無機光電変換部11B,11Rとが縦方向に積層されものである。有機光電変換部11Gは、半導体基板11の裏面(第1面11S1)側に設けられている。無機光電変換部11B,11Rは、半導体基板11内に埋め込み形成されており、半導体基板11の厚み方向に積層されている。有機光電変換部11Gは、p型半導体およびn型半導体を含んで構成され、層内にバルクヘテロ接合構造を有する光電変換層16を含む。バルクヘテロ接合構造は、p型半導体およびn型半導体が混ざり合うことで形成されたp/n接合面を有する。
【0019】
有機光電変換部11Gと、無機光電変換部11B,11Rとは、互いに異なる波長帯域の光を選択的に検出して光電変換を行うものである。具体的には、有機光電変換部11Gでは、緑(G)の色信号を取得する。無機光電変換部11B,11Rでは、吸収係数の違いにより、それぞれ、青(B)および赤(R)の色信号を取得する。これにより、光電変換素子10Aでは、カラーフィルタを用いることなく一つの画素において複数種類の色信号を取得可能となっている。
【0020】
なお、本実施の形態では、光電変換によって生じる電子および正孔の対のうち、正孔を信号電荷として読み出す場合(p型半導体領域を光電変換層とする場合)について説明する。また、図中において、「p」「n」に付した「+(プラス)」は、p型またはn型の不純物濃度が高いことを表し、「++」はp型またはn型の不純物濃度が「+」よりも更に高いことを表している。
【0021】
半導体基板11は、例えば、n型のシリコン(Si)基板により構成され、所定領域にpウェル61を有している。pウェル61の第2面(半導体基板11の表面)11S2には、例えば、各種フローティングディフュージョン(浮遊拡散層)FD(例えば、FD1,FD2,FD3)と、各種トランジスタTr(例えば、縦型トランジスタ(転送トランジスタ)Tr1、転送トランジスタTr2、アンプトランジスタ(変調素子)AMPおよびリセットトランジスタRST)と、多層配線70とが設けられている。多層配線70は、例えば、配線層71,72,73を絶縁層74内に積層した構成を有している。また、半導体基板11の周辺部には、ロジック回路等からなる周辺回路(図示せず)が設けられている。
【0022】
なお、
図1では、半導体基板11の第1面11S1側を光入射面S1、第2面11S2側を配線層側S2と表している。
【0023】
無機光電変換部11B,11Rは、例えばPIN(Positive Intrinsic Negative)型のフォトダイオードによって構成されており、それぞれ、半導体基板11の所定領域にpn接合を有する。無機光電変換部11B,11Rは、シリコン基板において光の入射深さに応じて吸収される波長帯域が異なることを利用して縦方向に光を分光することを可能としたものである。
【0024】
無機光電変換部11Bは、青色光を選択的に検出して青色に対応する信号電荷を蓄積させるものであり、青色光を効率的に光電変換可能な深さに設置されている。無機光電変換部11Rは、赤色光を選択的に検出して赤色に対応する信号電荷を蓄積させるものであり、赤色光を効率的に光電変換可能な深さに設置されている。なお、青(B)は、例えば450nm~495nmの波長帯域、赤(R)は、例えば620nm~750nmの波長帯域にそれぞれ対応する色である。無機光電変換部11B,11Rはそれぞれ、各波長帯域のうちの一部または全部の波長帯域の光を検出可能となっていればよい。
【0025】
無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rは、具体的には、
図1に示したように、それぞれ、例えば、正孔蓄積層となるp+領域と、電子蓄積層となるn領域とを有する(p-n-pの積層構造を有する)。無機光電変換部11Bのn領域は、縦型トランジスタTr1に接続されている。無機光電変換部11Bのp+領域は、縦型トランジスタTr1に沿って屈曲し、無機光電変換部11Rのp+領域につながっている。
【0026】
半導体基板11の第2面11S2には、上記のように、例えば、フローティングディフュージョン(浮遊拡散層)FD1,FD2,FD3と、縦型トランジスタ(転送トランジスタ)Tr1と、転送トランジスタTr2と、アンプトランジスタ(変調素子)AMPと、リセットトランジスタRSTとが設けられている。
【0027】
縦型トランジスタTr1は、無機光電変換部11Bにおいて発生し、蓄積された、青色に対応する信号電荷(ここでは正孔)を、フローティングディフュージョンFD1に転送する転送トランジスタである。無機光電変換部11Bは半導体基板11の第2面11S2から深い位置に形成されているので、無機光電変換部11Bの転送トランジスタは縦型トランジスタTr1により構成されていることが好ましい。
【0028】
転送トランジスタTr2は、無機光電変換部11Rにおいて発生し、蓄積された赤色に対応する信号電荷(ここでは正孔)を、フローティングディフュージョンFD2に転送するものであり、例えばMOSトランジスタにより構成されている。
【0029】
アンプトランジスタAMPは、有機光電変換部11Gで生じた電荷量を電圧に変調する変調素子であり、例えばMOSトランジスタにより構成されている。
【0030】
リセットトランジスタRSTは、有機光電変換部11GからフローティングディフュージョンFD3に転送された電荷をリセットするものであり、例えばMOSトランジスタにより構成されている。
【0031】
下部第1コンタクト75、下部第2コンタクト76および上部コンタクト13Bは、例えば、PDAS(Phosphorus Doped Amorphous Silicon)等のドープされたシリコン材料、または、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)等の金属材料により構成されている。
【0032】
半導体基板11の第1面11S1側には、有機光電変換部11Gが設けられている。有機光電変換部11Gは、例えば、下部電極15、光電変換層16および上部電極17が、半導体基板11の第1面S1の側からこの順に積層された構成を有している。下部電極15は、例えば、単位画素Pごとに分離形成されている。光電変換層16および上部電極17は、複数の単位画素Pごと(例えば、
図19に示した撮像装置1の画素部1a)に共通した連続層として設けられている。有機光電変換部11Gは、選択的な波長帯域(例えば、450nm以上650nm以下)の一部または全部の波長帯域に対応する緑色光を吸収して、電子-正孔対を発生させる有機光電変換素子である。
【0033】
半導体基板11の第1面11S1と下部電極15との間には、例えば、層間絶縁層12,14が半導体基板11側からこの順に積層されている。層間絶縁層は、例えば、固定電荷を有する層(固定電荷層)12Aと、絶縁性を有する誘電体層12Bとが積層された構成を有する。上部電極17の上には、保護層18が設けられている。保護層18の上方には、オンチップレンズ19Lを構成すると共に、平坦化層を兼ねるオンチップレンズ層19が配設されている。
【0034】
半導体基板11の第1面11S1と第2面11S2との間には、貫通電極63が設けられている。有機光電変換部11Gは、この貫通電極63を介して、アンプトランジスタAMPのゲートGampと、フローティングディフュージョンFD3とに接続されている。これにより、光電変換素子10Aでは、半導体基板11の第1面11S1側の有機光電変換部11Gで生じた電荷を、貫通電極63を介して半導体基板11の第2面11S2側に良好に転送し、特性を高めることが可能となっている。
【0035】
貫通電極63は、例えば、光電変換素子10Aの有機光電変換部11Gごとに、それぞれ設けられている。貫通電極63は、有機光電変換部11GとアンプトランジスタAMPのゲートGampおよびフローティングディフュージョンFD3とのコネクタとしての機能を有すると共に、有機光電変換部11Gにおいて生じた電荷の伝送経路となるものである。
【0036】
貫通電極63の下端は、例えば、配線層71内の接続部71Aに接続されており、接続部71Aと、アンプトランジスタAMPのゲートGampとは、下部第1コンタクト75を介して接続されている。接続部71Aと、フローティングディフュージョンFD3とは、下部第2コンタクト76を介して下部電極15に接続されている。なお、
図1では、貫通電極63を円柱形状として示したが、これに限らず、例えばテーパ形状としてもよい。
【0037】
フローティングディフュージョンFD3の隣には、
図1に示したように、リセットトランジスタRSTのリセットゲートGrstが配置されていることが好ましい。これにより、フローティングディフュージョンFD3に蓄積された電荷を、リセットトランジスタRSTによりリセットすることが可能となる。
【0038】
本実施の形態の光電変換素子10Aでは、上部電極17側から有機光電変換部11Gに入射した光は、光電変換層16で吸収される。これによって生じた励起子は、光電変換層16を構成する電子供与体と電子受容体との界面に移動し、励起子分離、即ち、電子と正孔とに解離する。ここで発生した電荷(電子および正孔)は、キャリアの濃度差による拡散や、アノード(ここでは、下部電極15)とカソード(ここでは、上部電極17)との仕事関数の差による内部電界によって、それぞれ異なる電極へ運ばれ、光電流として検出される。また、下部電極15と上部電極17との間に電位を印加することによって、電子および正孔の輸送方向を制御することができる。
【0039】
以下、各部の構成や材料等について説明する。
【0040】
有機光電変換部11Gは、選択的な波長帯域(例えば、450nm以上750nm以下)の一部または全部の波長帯域に対応する緑色光を吸収して、電子-正孔対を発生させる有機光電変換素子である。有機光電変換部11Gは、上記のように、例えば、対向配置された下部電極15および上部電極17と、下部電極15と上部電極17との間に設けられた光電変換層16とから構成されている。
【0041】
下部電極15は、半導体基板11内に形成された無機光電変換部11B,11Rの受光面と正対して、これらの受光面を覆う領域に設けられている。下部電極15は、光透過性を有する金属酸化物により構成されている。下部電極15の材料として用いられる金属酸化物を構成する金属原子としては、例えば、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、タングステン(W)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)およびモリブデン(Mo)が挙げられる。上記金属原子を1種以上含む金属酸化物としては、例えば、ITO(インジウム錫酸化物)が挙げられる。但し、下部電極15の構成材料としては、このITOの他にも、ドーパントを添加した酸化スズ(SnO2)系材料、あるいはアルミニウム亜鉛酸化物(ZnO)にドーパントを添加してなる酸化亜鉛系材料を用いてもよい。酸化亜鉛系材料としては、例えば、ドーパントとしてアルミニウム(Al)を添加したアルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、ガリウム(Ga)添加のガリウム亜鉛酸化物(GZO)、インジウム(In)添加のインジウム亜鉛酸化物(IZO)が挙げられる。また、この他にも、CuI、InSbO4、ZnMgO、CuInO2、MgIN2O4、CdO、ZnSnO3等を用いてもよい。
【0042】
光電変換層16は、光エネルギーを電気エネルギーに変換するものであり、例えば、2種以上の有機半導体材料を含んで構成されている。本実施の形態では、光電変換層16は、配向性が温度変化しにくい有機半導体材料(一の有機半導体材料)を用いて構成されている。一の有機半導体材料としては、例えば、第1の温度で成膜した場合と、第1の温度よりも高い第2の温度で成膜した場合とで、光電変換層16内における水平配向性結晶および垂直配向性結晶の比率の変化が3倍以下となるものが挙げられる。ここで、第1の温度と第2の温度との差は、例えば、5℃以上35℃以下であり、好ましくは20℃以上30℃以下、より好ましくは20℃以上25℃以下とする。第1の温度の一例としては、-10℃以上+10℃以下が挙げられ、好ましくは-5℃以上+5℃以下、より好ましくは-2℃以上+2℃以下である。第2の温度の一例としては、15℃以上35℃以下が挙げられ、好ましくは20℃以上30℃以下、より好ましくは23℃以上27℃以下である。
【0043】
また、一の有機半導体材料としては、例えば、第1の温度で成膜した場合と、第1の温度よりも高い第2の温度で成膜した場合とでの配向角の変化量が10°未満となるものが挙げられる。ここで、配向角とは、光電変換層16内における一の有機半導体材料の下部電極15の電極面とのなす角とする。更に、一の有機半導体材料としては、下部電極15の電極面となす配向角の角度範囲(配向角範囲)が46°未満となるものが挙げられる。なお、配向変化量および配向角範囲の下限は、それぞれ0°である。一の有機半導体材料は、例えば、分子量100以上3000以下の低分子材料であると共に、キャリア輸送性(正孔輸送性または電子輸送性)を有するものである。
【0044】
一の有機半導体材料としては、例えば、分子長(l)が1.6nmよりも大きく、10nm以下であることが好ましい。より好ましくは、1.8nm以上10nm以下であり、さらに好ましくは、2.4nm以上10nm以下である。分子幅(w)は、できるだけ小さいことが好ましい。ここで、分子長(l)とは、分子が占有する空間の最大の長さとする。具体的には、分子長(l)は、例えば本実施の形態における一の有機半導体材料の一例である後述する式(1-1)で表されるDBP-DTTおよび式(17-1)で表されるDBP-NDTでは、
図2に示したように、骨格部に結合した2つのビフェニル基のうち、一方のビフェニル基の端部の水素(H)原子から他方のビフェニル基の端部の水素(H)原子までの距離に相当する。分子幅(w)は、分子長(l)に直交する方向の大きさとする。
【0045】
このような一の有機半導体材料としては、例えば、面内異方性を有すると共に、分子内にπ共役面を有することが好ましい。具体的には、分子内に芳香族骨格および芳香族置換基を有する化合物が好ましい。一の有機半導体材料を構成する芳香族置換基としては、例えば、例えば炭素数6以上60以下のビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基、スチルベン基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ピレニル基、ペリレニル基、テトラセニル基、クリセニル基、フルオレニル基、アセナフタセニル基、トリフェニレン基、フルオランテン基等が挙げられる。具体的には、以下の式(A-1)~式(A-50)等が挙げられる。
【0046】
【0047】
【0048】
正孔輸送性を有する一の有機半導体材料としては、光電変換層16に含まれる少なくとも1種の他の有機半導体材料(後述)のHOMO準位よりも高いHOMO準位を有することが好ましい。このような一の有機半導体材料としては、単環式または多環式の複素環芳香族骨格を有する化合物が挙げられる。一例としては、下記一般式(1)で表される骨格を有する化合物が挙げられる。
【0049】
【化3】
(Xは、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)のうちのいずれかである。)
【0050】
上記一般式(1)のR1,R2には、上記式(A-1)~式(A-30)に挙げた置換基が導入される。R3,R4は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖、分岐または環状アルキル基、アリール基またはそれらの誘導体である。隣り合う任意のR1~R4は、互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。縮合脂肪族環または縮合芳香環は、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)のうちの1または複数の原子を含んでいてもよい。
【0051】
上記一般式(1)で表される骨格を有する一の有機半導体材料の具体例としては、例えば、R1およびR2のそれぞれに上記式(A-1)を有する下記式(1-1)およびR1およびR2のそれぞれに上記式(A-2)を有する式(1-2)の化合物が挙げられる。
【0052】
【0053】
この他、正孔輸送性を有する一の有機半導体材料としては、下記一般式(2)~一般式(17)で表される骨格を有する化合物が挙げられる。
【0054】
【0055】
【0056】
上記一般式(2)~一般式(17)のXは、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)のうちのいずれかである。R1,R2には、上記式(A-1)~式(A-30)に挙げた置換基が導入される。R3~R14は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖、分岐または環状アルキル基、アリール基またはそれらの誘導体である。隣り合う任意のR3~R14は、互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。該縮合脂肪族環または縮合芳香環は、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)のうちの1または複数の原子を含んでいてもよい。
【0057】
電子輸送性を有する一の有機半導体材料としては、例えば、上記正孔輸送性を有する有機半導体材料と同様に、面内異方性と共に分子内にπ共役面を有することが好ましい。また、電子輸送性を有する一の有機半導体材料としては、光電変換層16に含まれる少なくとも1種の他の有機半導体材料のLUMO準位よりも低いLUMO準位を有することが好ましい。このような材料としては、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体やナフタレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体、フルオロペンタセン誘導体等が挙げられる。
【0058】
また、光電変換層16は、他の有機半導体材料として、例えば、可視光領域のうち、選択的な波長(例えば、400nm以上750nm以下の緑色光)で50000cm-1以上の吸収係数を有する色材を含んで構成されている。これにより、有機光電変換部11Gは、例えば、400nm以上750nm以下の緑色光を選択的に光電変換することが可能となる。このような他の有機半導体材料としては、例えば、下記一般式(18)に示したサブフタロシアニンまたはその誘導体が挙げられる。
【0059】
【化7】
(R15~R26は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、フェニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基からなる群から選択され、且つ、隣接した任意のR15~R26は縮合脂肪族環または縮合芳香環の一部であってもよい。前記縮合脂肪族環または縮合芳香環は、炭素以外の1または複数の原子を含んでいてもよい。Mはホウ素または2価あるいは3価の金属である。Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、チオール基、イミド基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基からなる群より選択されるいずれかの置換基である。)
【0060】
この他、光電変換層16は、他の有機半導体材料として、可視光に対して透過性を有すると共に、例えば、一の有機半導体材料と対となるキャリア輸送性を有する有機半導体材料を含んで構成されていることが好ましい。例えば、一の有機半導体材料として、上記正孔輸送性を有する有機半導体材料を用いる場合には、電子輸送性を有する材料として、例えば、下記一般式(19)で表されるC60フラーレンまたはその誘導体、あるいは、下記一般式(20)で表されるC70フラーレンまたはその誘導体が挙げられる。なお、ここでは、フラーレンを有機半導体として扱う。
【0061】
【化8】
(R27,R28は、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐または環状のアルキル基、フェニル基、直鎖または縮環した芳香族化合物を有する基、ハロゲン化物を有する基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、アリールスルファニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルフィド基、アルキルスルフィド基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、ニトロ基、カルコゲン化物を有する基、ホスフィン基、ホスホン基あるいはそれらの誘導体である。n,mは0または1以上の整数である。)
【0062】
光電変換層16は、層内にp型半導体とn型半導体との接合面(p/n接合面)を有する。p型半導体は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能するものであり、n型半導体は、相対的に電子受容体(アクセプタ)として機能するものである。光電変換層16は、光を吸収した際に生じる励起子が電子と正孔とに分離する場を提供するものであり、電子供与体と電子受容体との界面(p/n接合面)において、励起子が電子と正孔とに分離する。光電変換層16の厚みは、例えば、50nm~500nmである。
【0063】
上部電極17は、下部電極15と同様に光透過性を有する導電膜により構成されている。光電変換素子10Aでは、上部電極17が単位画素P毎に分離されていてもよいし、各単位画素P毎に共通の電極として形成されていてもよい。上部電極17の厚みは、例えば、10nm~200nmである。
【0064】
なお、光電変換層16と下部電極15との間、および光電変換層16と上部電極17との間には、他の層が設けられていてもよい。具体的には、例えば、下部電極15側から順に、下引き層、正孔輸送層、電子ブロック層、光電変換層16、正孔ブロック層、バッファ層、電子輸送層および仕事関数調整層等が積層されていてもよい。
【0065】
固定電荷層12Aは、正の固定電荷を有する膜でもよいし、負の固定電荷を有する膜でもよい。負の固定電荷を有する膜の材料としては、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化チタン(TiO2)等が挙げられる。また上記以外の材料としては酸化ランタン、酸化プラセオジム、酸化セリウム、酸化ネオジム、酸化プロメチウム、酸化サマリウム、酸化ユウロピウム、酸化ガドリニウム、酸化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化正孔ミウム、酸化ツリウム、酸化イッテルビウム、酸化ルテチウム、酸化イットリウム、窒化アルミニウム膜、酸窒化ハフニウム膜または酸窒化アルミニウム膜等を用いてもよい。
【0066】
固定電荷層12Aは、2種類以上の膜を積層した構成を有していてもよい。それにより、例えば負の固定電荷を有する膜の場合には正孔蓄積層としての機能をさらに高めることが可能である。
【0067】
誘電体層12Bの材料は特に限定されないが、例えば、シリコン酸化膜、TEOS膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜等によって形成されている。
【0068】
層間絶縁層14は、例えば、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(SiN)および酸窒化シリコン(SiON)等のうちの1種よりなる単層膜か、あるいはこれらのうちの2種以上よりなる積層膜により構成されている。
【0069】
保護層18は、光透過性を有する材料により構成され、例えば、酸化シリコン、窒化シリコンおよび酸窒化シリコン等のうちのいずれかよりなる単層膜、あるいはそれらのうちの2種以上よりなる積層膜により構成されている。この保護層18の厚みは、例えば、100nm~30000nmである。
【0070】
保護層18上には、全面を覆うように、オンチップレンズ層19が形成されている。オンチップレンズ層19の表面には、複数のオンチップレンズ19L(マイクロレンズ)が設けられている。オンチップレンズ19Lは、その上方から入射した光を、有機光電変換部11G、無機光電変換部11B,11Rの各受光面へ集光させるものである。本実施の形態では、多層配線70が半導体基板11の第2面11S2側に形成されていることから、有機光電変換部11G、無機光電変換部11B,11Rの各受光面を互いに近づけて配置することができ、オンチップレンズ19LのF値に依存して生じる各色間の感度のばらつきを低減することができる。
【0071】
図3は、本開示に係る技術を適用し得る複数の光電変換部(例えば、上記無機光電変換部11B,11Rおよび有機光電変換部11G)が積層された光電変換素子10Aの構成例を示した平面図である。即ち、
図3は、例えば、
図19に示した画素部1aを構成する単位画素Pの平面構成の一例を表したものである。
【0072】
単位画素Pは、R(Red)、G(Green)およびB(Blue)のそれぞれの波長の光を光電変換する赤色光電変換部(
図1における無機光電変換部11R)、青色光電変換部(
図1における無機光電変換部11B)および緑色光電変換部(
図1における有機光電変換部11G)(
図3では、いずれも図示せず)が、例えば、受光面(
図1における光入射面S1)側から、緑色光電変換部、青色光電変換部および赤色光電変換部の順番で3層に積層された光電変換領域1100を有する。更に、単位画素Pは、RGBのそれぞれの波長の光に対応する電荷を、赤色光電変換部、緑色光電変換部および青色光電変換部から読み出す電荷読み出し部としてのTr群1110、Tr群1120およびTr群1130を有する。撮像装置1では、1つの単位画素Pにおいて、縦方向の分光、即ち、光電変換領域1100に積層された赤色光電変換部、緑色光電変換部および青色光電変換部としての各層で、RGBのそれぞれの光の分光が行われる。
【0073】
Tr群1110、Tr群1120およびTr群1130は、光電変換領域1100の周辺に形成されている。Tr群1110は、赤色光電変換部で生成、蓄積されたRの光に対応する信号電荷を画素信号として出力する。Tr群1110は、転送Tr(MOS FET)1111、リセットTr1112、増幅Tr1113および選択Tr1114で構成されている。Tr群1120は、青色光電変換部で生成、蓄積されたBの光に対応する信号電荷を画素信号として出力する。Tr群1120は、転送Tr1121、リセットTr1122、増幅Tr1123および選択Tr1124で構成されている。Tr群1130は、緑色光電変換部で生成、蓄積されたGの光に対応する信号電荷を画素信号として出力する。Tr群1130は、転送Tr1131、リセットTr1132、増幅Tr1133および選択Tr1134で構成されている。
【0074】
転送Tr1111は、ゲートG、ソース/ドレイン領域S/DおよびFD(フローティングディフュージョン)1115(となっているソース/ドレイン領域)によって構成されている。転送Tr1121は、ゲートG、ソース/ドレイン領域S/D、および、FD1125によって構成される。転送Tr1131は、ゲートG、光電変換領域1100のうちの緑色光電変換部(と接続しているソース/ドレイン領域S/D)およびFD1135によって構成されている。なお、転送Tr1111のソース/ドレイン領域は、光電変換領域1100のうちの赤色光電変換部に接続され、転送Tr1121のソース/ドレイン領域S/Dは、光電変換領域1100のうちの青色光電変換部に接続されている。
【0075】
リセットTr1112、1132および1122、増幅Tr1113、1133および1123ならびに選択Tr1114、1134および1124は、いずれもゲートGと、そのゲートGを挟むような形に配置された一対のソース/ドレイン領域S/Dとで構成されている。
【0076】
FD1115、1135および1125は、リセットTr1112、1132および1122のソースになっているソース/ドレイン領域S/Dにそれぞれ接続されると共に、増幅Tr1113、1133および1123のゲートGにそれぞれ接続されている。リセットTr1112および増幅Tr1113、リセットTr1132および増幅Tr1133ならびにリセットTr1122および増幅Tr1123のそれぞれにおいて共通のソース/ドレイン領域S/Dには、電源Vddが接続されている。選択Tr1114、1134および1124のソースになっているソース/ドレイン領域S/Dには、VSL(垂直信号線)が接続されている。
【0077】
本開示に係る技術は、以上のような光電変換素子に適用することができる。
【0078】
(1-2.光電変換素子の製造方法)
本実施の形態の光電変換素子10Aは、例えば、次のようにして製造することができる。
【0079】
図4および
図5は、光電変換素子10Aの製造方法を工程順に表したものである。まず、
図4に示したように、半導体基板11内に、第1の導電型のウェルとして例えばpウェル61を形成し、このpウェル61内に第2の導電型(例えばn型)の無機光電変換部11B,11Rを形成する。半導体基板11の第1面11S1近傍にはp+領域を形成する。
【0080】
半導体基板11の第2面11S2には、同じく
図4に示したように、フローティングディフュージョンFD1~FD3となるn+領域を形成したのち、ゲート絶縁層62と、縦型トランジスタTr1、転送トランジスタTr2、アンプトランジスタAMPおよびリセットトランジスタRSTの各ゲートを含むゲート配線層64とを形成する。これにより、縦型トランジスタTr1、転送トランジスタTr2、アンプトランジスタAMPおよびリセットトランジスタRSTが形成される。更に、半導体基板11の第2面11S2上に、下部第1コンタクト75、下部第2コンタクト76、接続部71Aを含む配線層71~73および絶縁層74からなる多層配線70を形成する。
【0081】
半導体基板11の基体としては、例えば、半導体基板11と、埋込み酸化膜(図示せず)と、保持基板(図示せず)とを積層したSOI(Silicon on Insulator)基板を用いる。埋込み酸化膜および保持基板は、
図4には図示しないが、半導体基板11の第1面11S1に接合されている。イオン注入後、アニール処理を行う。
【0082】
次いで、半導体基板11の第2面11S2側(多層配線70側)に支持基板(図示せず)または他の半導体基板等を接合して、上下反転する。続いて、半導体基板11をSOI基板の埋込み酸化膜および保持基板から分離し、半導体基板11の第1面11S1を露出させる。以上の工程は、イオン注入およびCVD(Chemical Vapor Deposition)等、通常のCMOSプロセスで使用されている技術にて行うことが可能である。
【0083】
次いで、
図5に示したように、例えばドライエッチングにより半導体基板11を第1面11S1側から加工し、環状の開口63Hを形成する。開口63Hの深さは、
図5に示したように、半導体基板11の第1面11S1から第2面11S2まで貫通すると共に、例えば、接続部71Aまで達するものである。
【0084】
続いて、
図5に示したように、半導体基板11の第1面11S1および開口63Hの側面に、例えば負の固定電荷層12Aを形成する。負の固定電荷層12Aとして、2種類以上の膜を積層してもよい。それにより、正孔蓄積層としての機能をより高めることが可能となる。負の固定電荷層12Aを形成したのち、誘電体層12Bを形成する。
【0085】
次に、開口63Hに、導電体を埋設して貫通電極63を形成する。導電体としては、例えば、PDAS(Phosphorus Doped Amorphous Silicon)等のドープされたシリコン材料の他、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ハフニウム(Hf)およびタンタル(Ta)等の金属材料を用いることができる。
【0086】
続いて、貫通電極63上にパッド部13Aを形成したのち、誘電体層12Bおよびパッド部13A上に、下部電極15と貫通電極63(具体的には、貫通電極63上のパッド部13A)とを電気的に接続する上部コンタクト13Bおよびパッド部13Cがパッド部13A上に設けられた層間絶縁層14を形成する。
【0087】
次に、層間絶縁層14上に、下部電極15、光電変換層16、上部電極17および保護層18をこの順に形成する。光電変換層16は、例えば、上記3種類の有機半導体材料を、例えば真空蒸着法を用いて成膜する。最後に、表面に複数のオンチップレンズ19Lを有するオンチップレンズ層19を配設する。以上により、
図1に示した光電変換素子10Aが完成する。
【0088】
なお、上記のように、光電変換層16の上層または下層に、他の有機層(例えば、電子ブロッキング層等)を形成する場合には、真空工程において連続的に(真空一貫プロセスで)形成することが望ましい。また、光電変換層16の成膜方法としては、必ずしも真空蒸着法を用いた手法に限らず、他の手法、例えば、スピンコート技術やプリント技術等を用いてもよい。
【0089】
光電変換素子10Aでは、有機光電変換部11Gに、オンチップレンズ19Lを介して光が入射すると、その光は、有機光電変換部11G、無機光電変換部11B,11Rの順に通過し、その通過過程において緑、青、赤の色光毎に光電変換される。以下、各色の信号取得動作について説明する。
【0090】
(有機光電変換部11Gによる緑色信号の取得)
光電変換素子10Aへ入射した光のうち、まず、緑色光が、有機光電変換部11Gにおいて選択的に検出(吸収)され、光電変換される。
【0091】
有機光電変換部11Gは、貫通電極63を介して、アンプトランジスタAMPのゲートGampとフローティングディフュージョンFD3とに接続されている。よって、有機光電変換部11Gで発生した電子-正孔対のうちの正孔が、下部電極15側から取り出され、貫通電極63を介して半導体基板11の第2面11S2側へ転送され、フローティングディフュージョンFD3に蓄積される。これと同時に、アンプトランジスタAMPにより、有機光電変換部11Gで生じた電荷量が電圧に変調される。
【0092】
また、フローティングディフュージョンFD3の隣には、リセットトランジスタRSTのリセットゲートGrstが配置されている。これにより、フローティングディフュージョンFD3に蓄積された電荷は、リセットトランジスタRSTによりリセットされる。
【0093】
ここでは、有機光電変換部11Gが、貫通電極63を介して、アンプトランジスタAMPだけでなくフローティングディフュージョンFD3にも接続されているので、フローティングディフュージョンFD3に蓄積された電荷をリセットトランジスタRSTにより容易にリセットすることが可能となる。
【0094】
これに対して、貫通電極63とフローティングディフュージョンFD3とが接続されていない場合には、フローティングディフュージョンFD3に蓄積された電荷をリセットすることが困難となり、大きな電圧をかけて上部電極17側へ引き抜くことになる。そのため、光電変換層16がダメージを受けるおそれがある。また、短時間でのリセットを可能とする構造は暗時ノイズの増大を招き、トレードオフとなるため、この構造は困難である。
【0095】
(無機光電変換部11B,11Rによる青色信号,赤色信号の取得)
続いて、有機光電変換部11Gを透過した光のうち、青色光は無機光電変換部11B、赤色光は無機光電変換部11Rにおいて、それぞれ順に吸収され、光電変換される。無機光電変換部11Bでは、入射した青色光に対応した電子が無機光電変換部11Bのn領域に蓄積され、蓄積された電子は、縦型トランジスタTr1によりフローティングディフュージョンFD1へと転送される。同様に、無機光電変換部11Rでは、入射した赤色光に対応した電子が無機光電変換部11Rのn領域に蓄積され、蓄積された電子は、転送トランジスタTr2によりフローティングディフュージョンFD2へと転送される。
【0096】
(1-3.作用・効果)
前述したように、有機薄膜太陽電池や有機撮像素子等に用いられる有機光電変換素子では、p型有機半導体およびn型有機半導体を混合したバルクヘテロ構造が採用されている。しかしながら、有機半導体は伝導特性が低いため、有機光電変換素子では、十分な量子効率が得られず、入射光に対して電気的な出力信号が遅延しやすいという課題がある。
【0097】
一般に、有機半導体の伝導は分子の配向が重要であることがわかっており、バルクヘテロ構造を有する有機光電変換素子においても同様である。
図6は、有機分子の配向と伝導の異方性を表したものである。
図6(A)は複数の有機分子が基板100に対して垂直配向している状態を表したものである、
図6(B)は複数の有機分子が基板100に対して水平配向している状態を表したものである。有機分子の伝導には異方性があり、その伝導性は、
図6に示したように、π共役系が積層する方向(矢印方向)に高く、矢印方向に直交する方向に低い。このため、有機光電変換素子では、
図6(B)に示したように、π共役系が基板に対して水平方向に積層されていることが好ましい。
【0098】
ところが、有機分子を単純に基板に対して水平方向に配向させただけでは、有機光電変換素子の伝導特性が十分に向上せず、量子効率や応答性が十分に改善しない場合がある。バルクヘテロ構造を有する光電変換素子では、層中においてバルクヘテロ構造を構成する材料が、それぞれ適切なグレインを形成することが求められる。例えば、グレイン境界に大きな欠陥が存在する場合、伝導特性が大幅に低下する。これは、電荷がグレイン境界を伝導する際に、欠陥のトラップ準位に電荷が捕獲されたり、欠陥がエネルギー障壁となってグレイン間の電荷移動を阻害するためである。これが量子効率や応答速度の悪化に繋がると考えられる。
【0099】
これに対して、本実施の形態では、光電変換層16を、結晶性を有する有機半導体材料を少なくとも1種用いて形成するようにした。この有機半導体材料は、第1の温度で成膜した場合と、第1の温度よりも高い第2の温度で成膜した場合とで、光電変換層16内における水平配向性結晶および垂直配向性結晶の比率の変化が3倍以下となるものである。
【0100】
図7は、
図6に示した配向した複数の有機分子の結晶(
図6(A)および
図6(B))をそれぞれ模式的に表したものである。
図8は、本実施の形態の光電変換層16内における上記有機半導体材料の結晶を模式的に表すと共に、電荷(例えば、正孔(h
+))の伝導を表したものである。
図8に示したように、水平配向結晶が多いと、光照射によって光電変換層16に生じた正孔(h
+)が基板100の鉛直方向(矢印方向)へ有利に伝導するようになる。本実施の形態では、光電変換層16の材料として、上記特性を有する有機半導体材料を用いることで、光電変換層16を構成するバルクヘテロ構造内における上記有機半導体材料の水平配向性結晶および垂直配向性結晶の比率を適切に制御することができ、グレイン境界における欠陥の形成を低減することが可能となる。
【0101】
以上、本実施の形態の光電変換素子10Aでは、第1の温度で成膜した場合と、第1の温度よりも高い第2の温度で成膜した場合とで、層内における水平配向性結晶および垂直配向性結晶の比率の変化が3倍以下、あるいは、下部電極15の電極面とのなす角の変化量が10°未満となる有機半導体材料を用いて光電変換層16を形成するようにした。これにより、光電変換層16を構成するバルクヘテロ構造のグレイン境界における欠陥の形成が低減され、量子効率および応答性を向上させることが可能となる。
【0102】
また、本実施の形態の光電変換素子10Aでは、一の有機半導体材料として、上述した、例えば、第1の温度で成膜した場合と、第1の温度よりも高い第2の温度で成膜した場合とでの配向角の変化量が10°未満となる、且つ、第1の温度で成膜した場合と、第1の温度よりも高い第2の温度で成膜した場合とでの配向角範囲が46°未満となる材料を用いることで、さらに応答速度を向上させることが可能となる。また、光電変換層16の成膜温度に対するロバスト性(耐久性)を向上させることが可能となる。
【0103】
次に、第2の実施の形態について説明する。以下では、上記第1の実施の形態と同様の構成要素については同一の符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0104】
<2.第2の実施の形態>
図9は、本開示の第2の実施の形態の光電変換素子(光電変換素子10B)の断面構成を表したものである。
図10は、
図9に示した光電変換素子10Bの等価回路図である。
図11は、
図9に示した光電変換素子10Bの下部電極21および制御部を構成するトランジスタの配置を模式的に表したものである。光電変換素子10Bは、光電変換素子10Aと同様に、例えば、裏面照射型(裏面受光型)のCCDイメージセンサまたはCMOSイメージセンサ等の撮像装置(撮像装置1)において1つの画素(単位画素P)を構成する撮像素子である。光電変換素子10Bは、それぞれ異なる波長域の光を選択的に検出して光電変換を行う1つの有機光電変換部20と、2つの無機光電変換部32B,32Rとが縦方向に積層された、いわゆる縦方向分光型のものである。
【0105】
(2-1.光電変換素子の構成)
有機光電変換部20は、半導体基板30の第1面(裏面)30A側に設けられている。無機光電変換部32B,32Rは、半導体基板30内に埋め込み形成されており、半導体基板30の厚み方向に積層されている。本実施の形態の有機光電変換部20は、下部電極21が複数の電極(読み出し電極21Aおよび蓄積電極21B)からなる共に、下部電極21と光電変換層24との間に電荷蓄積層23が設けられている。
【0106】
有機光電変換部20と、無機光電変換部32B,32Rとは、互いに異なる波長域の光を選択的に検出して光電変換を行うものである。例えば、有機光電変換部20では、緑(G)の色信号を取得する。無機光電変換部32B,32Rでは、吸収係数の違いにより、それぞれ、青(B)および赤(R)の色信号を取得する。これにより、光電変換素子10Bでは、カラーフィルタを用いることなく一つの画素において複数種類の色信号を取得可能となっている。
【0107】
半導体基板30の第2面(表面)30Bには、例えば、フローティングディフュージョンFD1(半導体基板30内の領域36B),FD2(半導体基板30内の領域37C),FD3(半導体基板30内の領域38C)と、転送トランジスタTr2,Tr3と、アンプトランジスタAMPと、リセットトランジスタRSTと、選択トランジスタSELと、多層配線40とが設けられている。多層配線40は、例えば、配線層41,42,43が絶縁層44内に積層された構成を有している。
【0108】
なお、
図9では、半導体基板30の第1面30A側を光入射側S1、第2面30B側を配線層側S2と表している。
【0109】
有機光電変換部20は、例えば、下部電極21、電荷蓄積層23、光電変換層24および上部電極25が、半導体基板30の第1面30Aの側からこの順に積層された構成を有している。なお、下部電極21と電荷蓄積層23との間には絶縁層22が設けられている。下部電極21は、例えば、光電変換素子10Bごとに分離形成されると共に、詳細は後述するが、絶縁層22を間に互いに分離された読み出し電極21Aおよび蓄積電極21Bを有する。読み出し電極21A上の絶縁層22には開口22Hが設けられており、読み出し電極21Aと電荷蓄積層23とは、この開口22Hを介して電気的に接続されている。なお、
図9では、電荷蓄積層23、光電変換層24および上部電極25が、光電変換素子10Bごとに分離して形成されている例を示したが、例えば、複数の光電変換素子10Bに共通した連続層として設けられていてもよい。半導体基板30の第1面30Aと下部電極21との間には、第1の実施の形態と同様に、例えば、固定電荷層51と、誘電体層52と、層間絶縁層26とが設けられている。上部電極25の上には、遮光膜28を含む保護層18が設けられている。保護層18の上には、オンチップレンズ19Lを有するオンチップレンズ層19等の光学部材が配設されている。
【0110】
半導体基板30の第1面30Aと第2面30Bとの間には、貫通電極53が設けられている。有機光電変換部20は、この貫通電極53を介して、アンプトランジスタAMPのゲートGampと、フローティングディフュージョンFD1を兼ねるリセットトランジスタRST(リセットトランジスタTr1rst)の一方のソース/ドレイン領域36Bに接続されている。これにより、光電変換素子10Bでは、半導体基板30の第1面30A側の有機光電変換部20で生じた電荷(例えば、電子)を、貫通電極53を介して半導体基板30の第2面30B側に良好に転送し、特性を高めることが可能となっている。
【0111】
貫通電極53の下端は、配線層41内の接続部41Aに接続されており、接続部41Aと、アンプトランジスタAMPのゲートGampとは、下部第1コンタクト45を介して接続されている。接続部41Aと、フローティングディフュージョンFD1(領域36B)とは、例えば、下部第2コンタクト46を介して接続されている。貫通電極53の上端は、例えば、パッド部39Aおよび上部第1コンタクト27Aを介して読み出し電極21Aに接続されている。
【0112】
フローティングディフュージョンFD1(リセットトランジスタRSTの一方のソース/ドレイン領域36B)の隣にはリセットトランジスタRSTのリセットゲートGrstが配置されている。これにより、フローティングディフュージョンFD1に蓄積された電荷を、リセットトランジスタRSTによりリセットすることが可能となる。
【0113】
本実施の形態の光電変換素子10Bでは、光電変換素子10Aと同様に、上部電極25側から有機光電変換部20に入射した光は光電変換層24で吸収される。これによって生じた励起子は、光電変換層24を構成する電子供与体と電子受容体との界面に移動し、励起子分離、即ち、電子と正孔とに解離する。ここで発生した電荷(電子および正孔)は、キャリアの濃度差による拡散や、陽極と陰極との仕事関数の差による内部電界によって、それぞれ異なる電極へ運ばれ、光電流として検出される。また、下部電極21と上部電極25との間に電位を印加することによって、電子および正孔の輸送方向を制御することができる。
【0114】
以下、各部の構成や材料等について説明する。
【0115】
有機光電変換部20は、選択的な波長域(例えば、450nm以上650nm以下)の一部または全部の波長域に対応する緑色光を吸収して、電子-正孔対を発生させる有機光電変換素子である。
【0116】
下部電極21は、上記のように、分離形成された読み出し電極21Aと蓄積電極21Bとから構成されている。読み出し電極21Aは、光電変換層24内で発生した電荷(ここでは、電子)をフローティングディフュージョンFD1に転送するためのものであり、例えば、上部第1コンタクト27A、パッド部39A、貫通電極53、接続部41Aおよび下部第2コンタクト46を介してフローティングディフュージョンFD1(36B)に接続されている。蓄積電極21Bは、光電変換層24内で発生した電荷のうち、信号電荷として電子を電荷蓄積層23内に蓄積させるため、および蓄積した電子を読み出し電極21Aに転送するためのものである。蓄積電極21Bは、半導体基板30内に形成された無機光電変換部32B,32Rの受光面と正対して、これらの受光面を覆う領域に設けられている。蓄積電極21Bは、読み出し電極21Aよりも大きいことが好ましく、これにより、電荷蓄積層23内に多くの電荷を蓄積させることが可能となる。
【0117】
下部電極21は、光透過性を有する導電膜により構成され、例えば、ITO(インジウム錫酸化物)により構成されている。但し、下部電極21の構成材料としては、このITOの他にも、ドーパントを添加した酸化スズ(SnO2)系材料、あるいはアルミニウム亜鉛酸化物(ZnO)にドーパントを添加してなる酸化亜鉛系材料を用いてもよい。酸化亜鉛系材料としては、例えば、ドーパントとしてアルミニウム(Al)を添加したアルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、ガリウム(Ga)添加のガリウム亜鉛酸化物(GZO)、インジウム(In)添加のインジウム亜鉛酸化物(IZO)が挙げられる。また、この他にも、CuI、InSbO4、ZnMgO、CuInO2、MgIn2O4、CdO、ZnSnO3等を用いてもよい。
【0118】
絶縁層22は、蓄積電極21Bと電荷蓄積層23とを電気的に分離するためのものである。絶縁層22は、下部電極21を覆うように、例えば、層間絶縁層26上に設けられている。また、絶縁層22には、下部電極21のうち、読み出し電極21A上に開口22Hが設けられており、この開口22Hを介して、読み出し電極21Aと電荷蓄積層23とが電気的に接続されている。絶縁層22は、例えば、層間絶縁層26と同様の材料を用いて形成することができ、例えば、酸化シリコン、窒化シリコンおよび酸窒化シリコン(SiON)等のうちの1種よりなる単層膜か、あるいはこれらのうちの2種以上よりなる積層膜により構成されている。絶縁層22の厚みは、例えば、20nm~500nmである。
【0119】
電荷蓄積層23は、光電変換層24の下層、具体的には、絶縁層22と光電変換層24との間に設けられ、光電変換層24で発生した信号電荷(ここでは、電子)を蓄積するためのものである。電荷蓄積層23は、酸化物半導体材料および有機半導体材料等が挙げられる。電荷蓄積層23の厚みは、例えば10nm以上300nm以下である。
【0120】
光電変換層24は、光エネルギーを電気エネルギーに変換するものであり、例えば、2種以上の有機半導体材料を含んで構成されている。光電変換層24は、上記第1の実施の形態における光電変換層16と同様に、配向性が温度変化しにくい有機半導体材料(一の有機半導体材料)を用いて構成されている。一の有機半導体材料としては、例えば、第1の温度(例えば、-10℃以上+10℃以下)で成膜した場合と、第1の温度よりも高い第2の温度(例えば、15℃以上35℃以下)で成膜した場合とで、光電変換層16内における水平配向性結晶および垂直配向性結晶の比率の変化が3倍以下となるものが挙げられる。
【0121】
また、一の有機半導体材料としては、例えば、第1の温度で成膜した場合と、第1の温度よりも高い第2の温度で成膜した場合とでの配向角の変化量が10°未満となるものが挙げられる。更に、一の有機半導体材料としては、下部電極21の電極面となす配向角の角度範囲(配向角範囲)が46°未満となるものが挙げられる。なお、配向変化量および配向角範囲の下限は、それぞれ0°である。一の有機半導体材料は、例えば、分子量100以上3000以下の低分子材料であると共に、キャリア輸送性(正孔輸送性または電子輸送性)を有するものである。
【0122】
一の有機半導体材料としては、上記のように、例えば、分子長(l)が1.6nmよりも大きく、10nm以下であることが好ましい。より好ましくは、1.8nm以上10nm以下であり、さらに好ましくは、2.4nm以上10nm以下である。分子幅(w)は、できるだけ小さいことが好ましい。
【0123】
このような一の有機半導体材料としては、例えば、面内異方性を有すると共に、分子内にπ共役面を有することが好ましい。具体的には、分子内に芳香族骨格および芳香族置換基を有する化合物が好ましい。一の有機半導体材料を構成する芳香族置換基としては、例えば、例えば炭素数6以上60以下のフェニル基、ビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基、スチルベン基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ピレニル基、ペリレニル基、テトラセニル基、クリセニル基、フルオレニル基、アセナフタセニル基、トリフェニレン基、フルオランテン基等が挙げられる。具体的には、上記式(A-1)~式(A-30)等が挙げられる。
【0124】
正孔輸送性を有する一の有機半導体材料としては、光電変換層16に含まれる少なくとも1種の他の有機半導体材料のHOMO準位よりも高いHOMO準位を有することが好ましい。このような一の有機半導体材料としては、単環式または多環式の複素環芳香族骨格を有する化合物が挙げられ、一例として、上記一般式(1)で表される骨格を有する化合物が挙げられる。
【0125】
上記一般式(1)のR1,R2には、上記式(A-1)~式(A-30)に挙げた置換基が導入される。R3,R4は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖、分岐または環状アルキル基、アリール基またはそれらの誘導体である。隣り合う任意のR1~R4は、互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。縮合脂肪族環または縮合芳香環は、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)のうちの1または複数の原子を含んでいてもよい。
【0126】
上記一般式(1)で表される骨格を有する一の有機半導体材料の具体例としては、例えば、R1およびR2のそれぞれに上記式(A-1)を有する下記式(1-1)およびR1およびR2のそれぞれに上記式(A-2)を有する式(1-2)の化合物が挙げられる。
【0127】
この他、正孔輸送性を有する一の有機半導体材料としては、上記一般式(2)~一般式(17)で表される骨格を有する化合物が挙げられる。
【0128】
上記一般式(2)~一般式(17)のXは、第1の実施の形態と同様に、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)のうちのいずれかである。R1,R2には、上記式(A-1)~式(A-30)に挙げた置換基が導入される。R3~R14は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖、分岐または環状アルキル基、アリール基またはそれらの誘導体である。隣り合う任意のR3~R14は、互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。該縮合脂肪族環または縮合芳香環は、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)のうちの1または複数の原子を含んでいてもよい。
【0129】
電子輸送性を有する一の有機半導体材料としては、例えば、上記正孔輸送性を有する有機半導体材料と同様に、面内異方性と共に分子内にπ共役面を有することが好ましい。また、電子輸送性を有する一の有機半導体材料としては、光電変換層24に含まれる少なくとも1種の他の有機半導体材料のLUMO準位よりも低いLUMO準位を有することが好ましい。このような材料としては、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体やナフタレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体、フルオロペンタセン誘導体等が挙げられる。
【0130】
また、光電変換層24は、他の有機半導体材料として、例えば、可視光領域のうち、選択的な波長(例えば、400nm以上750nm以下の緑色光)で50000cm-1以上の吸収係数を有する色材を含んで構成されている。これにより、有機光電変換部11Gは、例えば、400nm以上750nm以下の緑色光を選択的に光電変換することが可能となる。このような他の有機半導体材料としては、例えば、上記一般式(18)に示したサブフタロシアニンまたはその誘導体が挙げられる。
【0131】
この他、光電変換層16は、他の有機半導体材料として、可視光に対して透過性を有すると共に、例えば、一の有機半導体材料と対となるキャリア輸送性を有する有機半導体材料を含んで構成されていることが好ましい。例えば、一の有機半導体材料として、上記正孔輸送性を有する有機半導体材料を用いる場合には、電子輸送性を有する材料として、例えば、上記一般式(19)で表されるC60フラーレンまたはその誘導体、あるいは、下記一般式(20)で表されるC70フラーレンまたはその誘導体が挙げられる。なお、ここでは、フラーレンを有機半導体として扱う。
【0132】
上部電極25は、第1の実施の形態と同様に光透過性を有する導電膜により構成されている。光電変換素子10Bでは、上部電極25が単位画素P毎に分離されていてもよいし、各単位画素P毎に共通の電極として形成されていてもよい。上部電極25の厚みは、例えば、10nm~200nmである。
【0133】
なお、光電変換層24と下部電極21との間、および光電変換層24と上部電極25との間には、光電変換素子10Aと同様に、他の層が設けられていてもよい。
【0134】
本実施の形態では、保護層18内には、例えば、読み出し電極21A上に遮光膜28が設けられている。遮光膜28は、少なくとも蓄積電極21Bにはかからず、少なくとも電荷蓄積層23と直接接している読み出し電極21Aの領域を覆うように設けられていればよい。例えば、蓄積電極21Bと同じ層に形成されている導電膜21aよりも一回り大きく設けられていることが好ましい。保護層18の上には、上記光電変換素子10Aと同様に、全面を覆うように、オンチップレンズ層19が形成されている。オンチップレンズ層19の表面には、複数のオンチップレンズ19L(マイクロレンズ)が設けられている。
【0135】
半導体基板30は、例えば、n型のシリコン(Si)基板により構成され、所定領域にpウェル31を有している。pウェル31の第2面30Bには、上述した転送トランジスタTr2,Tr3と、アンプトランジスタAMPと、リセットトランジスタRSTと、選択トランジスタSEL等が設けられている。また、半導体基板30の周辺部には、ロジック回路等からなる周辺回路(図示せず)が設けられている。
【0136】
リセットトランジスタRST(リセットトランジスタTr1rst)は、有機光電変換部20からフローティングディフュージョンFD1に転送された電荷をリセットするものであり、例えばMOSトランジスタにより構成されている。具体的には、リセットトランジスタTr1rstは、リセットゲートGrstと、チャネル形成領域36Aと、ソース/ドレイン領域36B,36Cとから構成されている。リセットゲートGrstは、リセット線RST1に接続され、リセットトランジスタTr1rstの一方のソース/ドレイン領域36Bは、フローティングディフュージョンFD1を兼ねている。リセットトランジスタTr1rstを構成する他方のソース/ドレイン領域36Cは、電源VDDに接続されている。
【0137】
アンプトランジスタAMPは、有機光電変換部20で生じた電荷量を電圧に変調する変調素子であり、例えばMOSトランジスタにより構成されている。具体的には、アンプトランジスタAMPは、ゲートGampと、チャネル形成領域35Aと、ソース/ドレイン領域35B,35Cとから構成されている。ゲートGampは、下部第1コンタクト45、接続部41A、下部第2コンタクト46および貫通電極53等を介して、読み出し電極21AおよびリセットトランジスタTr1rstの一方のソース/ドレイン領域36B(フローティングディフュージョンFD1)に接続されている。また、一方のソース/ドレイン領域35Bは、リセットトランジスタTr1rstを構成する他方のソース/ドレイン領域36Cと、領域を共有しており、電源VDDに接続されている。
【0138】
選択トランジスタSEL(選択トランジスタTR1sel)は、ゲートGselと、チャネル形成領域34Aと、ソース/ドレイン領域34B,34Cとから構成されている。ゲートGselは、選択線SEL1に接続されている。また、一方のソース/ドレイン領域34Bは、アンプトランジスタAMPを構成する他方のソース/ドレイン領域35Cと、領域を共有しており、他方のソース/ドレイン領域34Cは、信号線(データ出力線)VSL1に接続されている。
【0139】
無機光電変換部32B,32Rは、それぞれ、半導体基板30の所定領域にpn接合を有する。無機光電変換部32B,32Rは、シリコン基板において光の入射深さに応じて吸収される光の波長が異なることを利用して縦方向に光を分光することを可能としたものである。無機光電変換部32Bは、青色光を選択的に検出して青色に対応する信号電荷を蓄積させるものであり、青色光を効率的に光電変換可能な深さに設置されている。無機光電変換部32Rは、赤色光を選択的に検出して赤色に対応する信号電荷を蓄積させるものであり、赤色光を効率的に光電変換可能な深さに設置されている。なお、青(B)は、例えば450nm~495nmの波長域、赤(R)は、例えば620nm~750nmの波長域にそれぞれ対応する色である。無機光電変換部32B,32Rはそれぞれ、各波長域のうちの一部または全部の波長域の光を検出可能となっていればよい。
【0140】
無機光電変換部32Bは、例えば、正孔蓄積層となるp+領域と、電子蓄積層となるn領域とを含んで構成されている。無機光電変換部32Rは、例えば、正孔蓄積層となるp+領域と、電子蓄積層となるn領域とを有する(p-n-pの積層構造を有する)。無機光電変換部32Bのn領域は、縦型の転送トランジスタTr2に接続されている。無機光電変換部32Bのp+領域は、転送トランジスタTr2に沿って屈曲し、無機光電変換部32Rのp+領域につながっている。
【0141】
転送トランジスタTr2(転送トランジスタTR2trs)は、無機光電変換部32Bにおいて発生し、蓄積された、青色に対応する信号電荷を、フローティングディフュージョンFD2に転送するためのものである。無機光電変換部32Bは半導体基板30の第2面30Bから深い位置に形成されているので、無機光電変換部32Bの転送トランジスタTR2trsは縦型のトランジスタにより構成されていることが好ましい。また、転送トランジスタTR2trsは、転送ゲート線TG2に接続されている。更に、転送トランジスタTR2trsのゲートGtrs2の近傍の領域37Cには、フローティングディフュージョンFD2が設けられている。無機光電変換部32Bに蓄積された電荷は、ゲートGtrs2に沿って形成される転送チャネルを介してフローティングディフュージョンFD2に読み出される。
【0142】
転送トランジスタTr3(転送トランジスタTR3trs)は、無機光電変換部32Rにおいて発生し、蓄積された赤色に対応する信号電荷を、フローティングディフュージョンFD3に転送するものであり、例えばMOSトランジスタにより構成されている。また、転送トランジスタTR3trsは、転送ゲート線TG3に接続されている。更に、転送トランジスタTR3trsのゲートGtrs3の近傍の領域38Cには、フローティングディフュージョンFD3が設けられている。無機光電変換部32Rに蓄積された電荷は、ゲートGtrs3に沿って形成される転送チャネルを介してフローティングディフュージョンFD3に読み出される。
【0143】
半導体基板30の第2面30B側には、さらに、無機光電変換部32Bの制御部を構成するリセットトランジスタTR2rstと、アンプトランジスタTR2ampと、選択トランジスタTR2selが設けられている。また、無機光電変換部32Rの制御部を構成するリセットトランジスタTR3rstと、アンプトランジスタTR3ampおよび選択トランジスタTR3selが設けられている。
【0144】
リセットトランジスタTR2rstは、ゲート、チャネル形成領域およびソース/ドレイン領域から構成されている。リセットトランジスタTR2rstのゲートはリセット線RST2に接続され、リセットトランジスタTR2rstの一方のソース/ドレイン領域は電源VDDに接続されている。リセットトランジスタTR2rstの他方のソース/ドレイン領域は、フローティングディフュージョンFD2を兼ねている。
【0145】
アンプトランジスタTR2ampは、ゲート、チャネル形成領域およびソース/ドレイン領域から構成されている。ゲートは、リセットトランジスタTR2rstの他方のソース/ドレイン領域(フローティングディフュージョンFD2)に接続されている。また、アンプトランジスタTR2ampを構成する一方のソース/ドレイン領域は、リセットトランジスタTR2rstを構成する一方のソース/ドレイン領域と領域を共有しており、電源VDDに接続されている。
【0146】
選択トランジスタTR2selは、ゲート、チャネル形成領域およびソース/ドレイン領域から構成されている。ゲートは、選択線SEL2に接続されている。また、選択トランジスタTR2selを構成する一方のソース/ドレイン領域は、アンプトランジスタTR2ampを構成する他方のソース/ドレイン領域と領域を共有している。選択トランジスタTR2selを構成する他方のソース/ドレイン領域は、信号線(データ出力線)VSL2に接続されている。
【0147】
リセットトランジスタTR3rstは、ゲート、チャネル形成領域およびソース/ドレイン領域から構成されている。リセットトランジスタTR3rstのゲートはリセット線RST3に接続され、リセットトランジスタTR3rstを構成する一方のソース/ドレイン領域は電源VDDに接続されている。リセットトランジスタTR3rstを構成する他方のソース/ドレイン領域は、フローティングディフュージョンFD3を兼ねている。
【0148】
アンプトランジスタTR3ampは、ゲート、チャネル形成領域およびソース/ドレイン領域から構成されている。ゲートは、リセットトランジスタTR3rstを構成する他方のソース/ドレイン領域(フローティングディフュージョンFD3)に接続されている。また、アンプトランジスタTR3ampを構成する一方のソース/ドレイン領域は、リセットトランジスタTR3rstを構成する一方のソース/ドレイン領域と、領域を共有しており、電源VDDに接続されている。
【0149】
選択トランジスタTR3selは、ゲート、チャネル形成領域およびソース/ドレイン領域から構成されている。ゲートは、選択線SEL3に接続されている。また、選択トランジスタTR3selを構成する一方のソース/ドレイン領域は、アンプトランジスタTR3ampを構成する他方のソース/ドレイン領域と、領域を共有している。選択トランジスタTR3selを構成する他方のソース/ドレイン領域は、信号線(データ出力線)VSL3に接続されている。
【0150】
リセット線RST1,RST2,RST3、選択線SEL1,SEL2,SEL3、転送ゲート線TG2,TG3は、それぞれ、駆動回路を構成する垂直駆動回路112に接続されている。信号線(データ出力線)VSL1,VSL2,VSL3は、駆動回路を構成するカラム信号処理回路113に接続されている。
【0151】
下部第1コンタクト45、下部第2コンタクト46、上部第1コンタクト27Aおよび上部第2コンタクト27Bは、例えば、PDAS(Phosphorus Doped Amorphous Silicon)等のドープされたシリコン材料、または、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)等の金属材料により構成されている。
【0152】
(2-2.光電変換素子の製造方法)
本実施の形態の光電変換素子10Bは、例えば、次のようにして製造することができる。
【0153】
図12~
図17は、光電変換素子10Bの製造方法を工程順に表したものである。まず、
図12に示したように、半導体基板30内に、第1の導電型のウェルとして例えばpウェル31を形成し、このpウェル31内に第2の導電型(例えばn型)の無機光電変換部32B,32Rを形成する。半導体基板30の第1面30A近傍にはp+領域を形成する。
【0154】
半導体基板30の第2面30Bには、同じく
図12に示したように、例えばフローティングディフュージョンFD1~FD3となるn+領域を形成したのち、ゲート絶縁層33と、転送トランジスタTr2、転送トランジスタTr3、選択トランジスタSEL、アンプトランジスタAMPおよびリセットトランジスタRSTの各ゲートを含むゲート配線層47とを形成する。これにより、転送トランジスタTr2、転送トランジスタTr3、選択トランジスタSEL、アンプトランジスタAMPおよびリセットトランジスタRSTを形成する。更に、半導体基板30の第2面30B上に、下部第1コンタクト45、下部第2コンタクト46および接続部41Aを含む配線層41~43および絶縁層44からなる多層配線40を形成する。
【0155】
半導体基板30の基体としては、例えば、半導体基板30と、埋込み酸化膜(図示せず)と、保持基板(図示せず)とを積層したSOI(Silicon on Insulator)基板を用いる。埋込み酸化膜および保持基板は、
図12には図示しないが、半導体基板30の第1面30Aに接合されている。イオン注入後、アニール処理を行う。
【0156】
次いで、半導体基板30の第2面30B側(多層配線40側)に支持基板(図示せず)または他の半導体基体等を接合して、上下反転する。続いて、半導体基板30をSOI基板の埋込み酸化膜および保持基板から分離し、半導体基板30の第1面30Aを露出させる。以上の工程は、イオン注入およびCVD(Chemical Vapor Deposition)等、通常のCMOSプロセスで使用されている技術にて行うことが可能である。
【0157】
次いで、
図13に示したように、例えばドライエッチングにより半導体基板30を第1面30A側から加工し、例えば環状の開口53Hを形成する。開口53Hの深さは、
図13に示したように、半導体基板30の第1面30Aから第2面30Bまで貫通すると共に、例えば、接続部41Aまで達するものである。
【0158】
続いて、半導体基板30の第1面30Aおよび開口53Hの側面に、例えば負の固定電荷層51を形成する。負の固定電荷層51として、2種類以上の膜を積層してもよい。それにより、正孔蓄積層としての機能をより高めることが可能となる。負の固定電荷層51を形成したのち、誘電体層52を形成する。次に、誘電体層52上の所定の位置にパッド部39A,39Bを形成したのち、誘電体層52およびパッド部39A,39B上に層間絶縁層26を成膜し、例えば、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いて層間絶縁層26の表面を平坦化する。
【0159】
続いて、
図14に示したように、層間絶縁層26にパッド部39A,39Bまで貫通する開口26H1,26H2を形成する。次に、開口26H1,26H2内に、例えばAl等の導電材料を埋め込み、上部第1コンタクト27Aおよび上部第2コンタクト27Bをそれぞれ形成する。続いて、
図15に示したように、層間絶縁層26上に導電膜21xを成膜したのち、導電膜21xの所定の位置(例えば、パッド部39Aとパッド部39Bとの間)にフォトレジストPRを形成する。その後、エッチングおよびフォトレジストPRを除去することで、
図16に示した、読み出し電極21Aおよび蓄積電極21Bがパターニングされる。
【0160】
次いで、
図17に示したように、層間絶縁層26、読み出し電極21Aおよび蓄積電極21B上に絶縁層22を成膜したのち、読み出し電極21A上に開口22Hを設ける。この後、絶縁層22上に、電荷蓄積層23、光電変換層24、上部電極25、保護層18および遮光膜28を形成する。なお、上記のように、光電変換層24の上層または下層に、他の有機層を形成する場合には、真空工程において連続的に(真空一貫プロセスで)形成することが望ましい。また、光電変換層24の成膜方法としては、必ずしも真空蒸着法を用いた手法に限らず、他の手法、例えば、スピンコート技術やプリント技術等を用いてもよい。最後に、平坦化層等の光学部材およびオンチップレンズ層19を配設する。以上により、
図9に示した光電変換素子10Bが完成する。
【0161】
光電変換素子10Bでは、有機光電変換部20に、オンチップレンズ19Lを介して光が入射すると、その光は、上記第1の実施の形態の光電変換素子10Aと同様に、有機光電変換部20、無機光電変換部32B,32Rの順に通過し、その通過過程において緑、青、赤の色光毎に光電変換される。
【0162】
図18は、光電変換素子10Bの一動作例を表したものである。(A)は、蓄積電極21Bにおける電位を示し、(B)は、フローティングディフュージョンFD1(読み出し電極21A)における電位を示し、(C)は、リセットトランジスタTR1rstのゲート(Gsel)における電位を示したものである。光電変換素子10Bでは、読み出し電極21Aおよび蓄積電極21Bは、それぞれ個別に電圧が印加されるようになっている。
【0163】
光電変換素子10Bでは、蓄積期間においては、駆動回路から読み出し電極21Aに電位V1が印加され、蓄積電極21Bに電位V2が印加される。ここで、電位V1,V2は、V2>V1とする。これにより、光電変換によって生じた電荷(ここでは、電子)は、蓄積電極21Bに引きつけられ、蓄積電極21Bと対向する光電変換層24の領域に蓄積される(蓄積期間)。因みに、蓄積電極21Bと対向する光電変換層24の領域の電位は、光電変換の時間経過に伴い、より負側の値となる。なお、電子は、上部電極25から駆動回路へと送出される。
【0164】
光電変換素子10Bでは、蓄積期間の後期においてリセット動作がなされる。具体的には、タイミングt1において、走査部は、リセット信号RSTの電圧を低レベルから高レベルに変化させる。これにより、単位画素Pでは、リセットトランジスタTR1rstがオン状態になり、その結果、フローティングディフュージョンFD1の電圧が電源電圧VDDに設定され、フローティングディフュージョンFD1の電圧がリセットされる(リセット期間)。
【0165】
リセット動作の完了後、電荷の読み出しが行われる。具体的には、タイミングt2において、駆動回路から読み出し電極21Aには電位V3が印加され、蓄積電極21Bには電位V4が印加される。ここで、電位V3,V4は、V3<V4とする。これにより、蓄積電極21Bに対応する領域に蓄積されていた電荷(ここでは、電子)は、読み出し電極21AからフローティングディフュージョンFD1へと読み出される。即ち、光電変換層24に蓄積された電荷が制御部に読み出される(転送期間)。
【0166】
読み出し動作完了後、再び、駆動回路から読み出し電極21Aに電位V1が印加され、蓄積電極21Bに電位V2が印加される。これにより、光電変換によって生じた電荷(ここでは、電子)は、蓄積電極21Bに引きつけられ、蓄積電極21Bと対向する光電変換層24の領域に蓄積される(蓄積期間)。
【0167】
(2-3.作用・効果)
以上、本実施の形態の光電変換素子10Bでは、第1の温度で成膜した場合と、第1の温度よりも高い第2の温度で成膜した場合とで、層内における水平配向性結晶および垂直配向性結晶の比率の変化が3倍以下、あるいは、下部電極21の電極面とのなす角の変化量が10°未満となる有機半導体材料を用いて光電変換層124を形成するようにした。これにより、光電変換層24を構成するバルクヘテロ構造のグレイン境界における欠陥の形成が低減され、量子効率および応答性を向上させることが可能となる。
【0168】
また、本実施の形態の光電変換素子10Bでは、一の有機半導体材料として、上述した、例えば、第1の温度で成膜した場合と、第1の温度よりも高い第2の温度で成膜した場合とでの配向角の変化量が10°未満となる、且つ、第1の温度で成膜した場合と、第1の温度よりも高い第2の温度で成膜した場合とでの配向角範囲が46°未満となる材料を用いることで、さらに応答速度を向上させることが可能となる。また、光電変換層24の成膜温度に対するロバスト性(耐久性)を向上させることが可能となる。
【0169】
<3.適用例>
(適用例1)
図19は、例えば、上記実施の形態において説明した光電変換素子10A(または光電変換素子10B)を各画素に用いた撮像装置1の全体構成を表したものである。この撮像装置1は、CMOSイメージセンサであり、半導体基板11上に、撮像エリアとしての画素部1aを有すると共に、この画素部1aの周辺領域に、例えば、行走査部131、水平選択部133、列走査部134およびシステム制御部132からなる周辺回路部130を有している。
【0170】
画素部1aは、例えば、行列状に2次元配置された複数の単位画素P(例えば、光電変換素子10に相当)を有している。この単位画素Pには、例えば、画素行ごとに画素駆動線Lread(具体的には行選択線およびリセット制御線)が配線され、画素列ごとに垂直信号線Lsigが配線されている。画素駆動線Lreadは、画素からの信号読み出しのための駆動信号を伝送するものである。画素駆動線Lreadの一端は、行走査部131の各行に対応した出力端に接続されている。
【0171】
行走査部131は、シフトレジスタやアドレスデコーダ等によって構成され、画素部1aの各単位画素Pを、例えば、行単位で駆動する画素駆動部である。行走査部131によって選択走査された画素行の各単位画素Pから出力される信号は、垂直信号線Lsigの各々を通して水平選択部133に供給される。水平選択部133は、垂直信号線Lsigごとに設けられたアンプや水平選択スイッチ等によって構成されている。
【0172】
列走査部134は、シフトレジスタやアドレスデコーダ等によって構成され、水平選択部133の各水平選択スイッチを走査しつつ順番に駆動するものである。この列走査部134による選択走査により、垂直信号線Lsigの各々を通して伝送される各画素の信号が順番に水平信号線135に出力され、当該水平信号線135を通して半導体基板11の外部へ伝送される。
【0173】
行走査部131、水平選択部133、列走査部134および水平信号線135からなる回路部分は、半導体基板11上に直に形成されていてもよいし、あるいは外部制御ICに配設されたものであってもよい。また、それらの回路部分は、ケーブル等により接続された他の基板に形成されていてもよい。
【0174】
システム制御部132は、半導体基板11の外部から与えられるクロックや、動作モードを指令するデータ等を受け取り、また、撮像装置1の内部情報等のデータを出力するものである。システム制御部132はさらに、各種のタイミング信号を生成するタイミングジェネレータを有し、当該タイミングジェネレータで生成された各種のタイミング信号を基に行走査部131、水平選択部133および列走査部134等の周辺回路の駆動制御を行う。
【0175】
(適用例2)
上述の撮像装置1は、例えば、デジタルスチルカメラやビデオカメラ等のカメラシステムや、撮像機能を有する携帯電話等、撮像機能を備えたあらゆるタイプの電子機器に適用することができる。
図20に、その一例として、カメラ2の概略構成を示す。このカメラ2は、例えば、静止画または動画を撮影可能なビデオカメラであり、撮像装置1と、光学系(光学レンズ)310と、シャッタ装置311と、撮像装置1およびシャッタ装置311を駆動する駆動部313と、信号処理部312とを有する。
【0176】
光学系310は、被写体からの像光(入射光)を撮像装置1の画素部1aへ導くものである。この光学系310は、複数の光学レンズから構成されていてもよい。シャッタ装置311は、撮像装置1への光照射期間および遮光期間を制御するものである。駆動部313は、撮像装置1の転送動作およびシャッタ装置311のシャッタ動作を制御するものである。信号処理部312は、撮像装置1から出力された信号に対し、各種の信号処理を行うものである。信号処理後の映像信号Doutは、メモリ等の記憶媒体に記憶されるか、あるいは、モニタ等に出力される。
【0177】
(適用例3)
<体内情報取得システムへの応用例>
更に、本開示に係る技術(本技術)は、様々な製品へ応用することができる。例えば、本開示に係る技術は、内視鏡手術システムに適用されてもよい。
【0178】
図21は、本開示に係る技術(本技術)が適用され得る、カプセル型内視鏡を用いた患者の体内情報取得システムの概略的な構成の一例を示すブロック図である。
【0179】
体内情報取得システム10001は、カプセル型内視鏡10100と、外部制御装置10200とから構成される。
【0180】
カプセル型内視鏡10100は、検査時に、患者によって飲み込まれる。カプセル型内視鏡10100は、撮像機能及び無線通信機能を有し、患者から自然排出されるまでの間、胃や腸等の臓器の内部を蠕動運動等によって移動しつつ、当該臓器の内部の画像(以下、体内画像ともいう)を所定の間隔で順次撮像し、その体内画像についての情報を体外の外部制御装置10200に順次無線送信する。
【0181】
外部制御装置10200は、体内情報取得システム10001の動作を統括的に制御する。また、外部制御装置10200は、カプセル型内視鏡10100から送信されてくる体内画像についての情報を受信し、受信した体内画像についての情報に基づいて、表示装置(図示せず)に当該体内画像を表示するための画像データを生成する。
【0182】
体内情報取得システム10001では、このようにして、カプセル型内視鏡10100が飲み込まれてから排出されるまでの間、患者の体内の様子を撮像した体内画像を随時得ることができる。
【0183】
カプセル型内視鏡10100と外部制御装置10200の構成及び機能についてより詳細に説明する。
【0184】
カプセル型内視鏡10100は、カプセル型の筐体10101を有し、その筐体10101内には、光源部10111、撮像部10112、画像処理部10113、無線通信部10114、給電部10115、電源部10116、及び制御部10117が収納されている。
【0185】
光源部10111は、例えばLED(light emitting diode)等の光源から構成され、撮像部10112の撮像視野に対して光を照射する。
【0186】
撮像部10112は、撮像素子、及び当該撮像素子の前段に設けられる複数のレンズからなる光学系から構成される。観察対象である体組織に照射された光の反射光(以下、観察光という)は、当該光学系によって集光され、当該撮像素子に入射する。撮像部10112では、撮像素子において、そこに入射した観察光が光電変換され、その観察光に対応する画像信号が生成される。撮像部10112によって生成された画像信号は、画像処理部10113に提供される。
【0187】
画像処理部10113は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサによって構成され、撮像部10112によって生成された画像信号に対して各種の信号処理を行う。画像処理部10113は、信号処理を施した画像信号を、RAWデータとして無線通信部10114に提供する。
【0188】
無線通信部10114は、画像処理部10113によって信号処理が施された画像信号に対して変調処理等の所定の処理を行い、その画像信号を、アンテナ10114Aを介して外部制御装置10200に送信する。また、無線通信部10114は、外部制御装置10200から、カプセル型内視鏡10100の駆動制御に関する制御信号を、アンテナ10114Aを介して受信する。無線通信部10114は、外部制御装置10200から受信した制御信号を制御部10117に提供する。
【0189】
給電部10115は、受電用のアンテナコイル、当該アンテナコイルに発生した電流から電力を再生する電力再生回路、及び昇圧回路等から構成される。給電部10115では、いわゆる非接触充電の原理を用いて電力が生成される。
【0190】
電源部10116は、二次電池によって構成され、給電部10115によって生成された電力を蓄電する。
図21では、図面が煩雑になることを避けるために、電源部10116からの電力の供給先を示す矢印等の図示を省略しているが、電源部10116に蓄電された電力は、光源部10111、撮像部10112、画像処理部10113、無線通信部10114、及び制御部10117に供給され、これらの駆動に用いられ得る。
【0191】
制御部10117は、CPU等のプロセッサによって構成され、光源部10111、撮像部10112、画像処理部10113、無線通信部10114、及び、給電部10115の駆動を、外部制御装置10200から送信される制御信号に従って適宜制御する。
【0192】
外部制御装置10200は、CPU,GPU等のプロセッサ、又はプロセッサとメモリ等の記憶素子が混載されたマイクロコンピュータ若しくは制御基板等で構成される。外部制御装置10200は、カプセル型内視鏡10100の制御部10117に対して制御信号を、アンテナ10200Aを介して送信することにより、カプセル型内視鏡10100の動作を制御する。カプセル型内視鏡10100では、例えば、外部制御装置10200からの制御信号により、光源部10111における観察対象に対する光の照射条件が変更され得る。また、外部制御装置10200からの制御信号により、撮像条件(例えば、撮像部10112におけるフレームレート、露出値等)が変更され得る。また、外部制御装置10200からの制御信号により、画像処理部10113における処理の内容や、無線通信部10114が画像信号を送信する条件(例えば、送信間隔、送信画像数等)が変更されてもよい。
【0193】
また、外部制御装置10200は、カプセル型内視鏡10100から送信される画像信号に対して、各種の画像処理を施し、撮像された体内画像を表示装置に表示するための画像データを生成する。当該画像処理としては、例えば現像処理(デモザイク処理)、高画質化処理(帯域強調処理、超解像処理、NR(Noise reduction)処理及び/又は手ブレ補正処理等)、並びに/又は拡大処理(電子ズーム処理)等、各種の信号処理を行うことができる。外部制御装置10200は、表示装置の駆動を制御して、生成した画像データに基づいて撮像された体内画像を表示させる。あるいは、外部制御装置10200は、生成した画像データを記録装置(図示せず)に記録させたり、印刷装置(図示せず)に印刷出力させてもよい。
【0194】
以上、本開示に係る技術が適用され得る体内情報取得システムの一例について説明した。本開示に係る技術は、以上説明した構成のうち、例えば、撮像部10112に適用され得る。これにより、検出精度が向上する。
【0195】
(適用例4)
<4.内視鏡手術システムへの応用例>
本開示に係る技術(本技術)は、様々な製品へ応用することができる。例えば、本開示に係る技術は、内視鏡手術システムに適用されてもよい。
【0196】
図22は、本開示に係る技術(本技術)が適用され得る内視鏡手術システムの概略的な構成の一例を示す図である。
【0197】
図22では、術者(医師)11131が、内視鏡手術システム11000を用いて、患者ベッド11133上の患者11132に手術を行っている様子が図示されている。図示するように、内視鏡手術システム11000は、内視鏡11100と、気腹チューブ11111やエネルギー処置具11112等の、その他の術具11110と、内視鏡11100を支持する支持アーム装置11120と、内視鏡下手術のための各種の装置が搭載されたカート11200と、から構成される。
【0198】
内視鏡11100は、先端から所定の長さの領域が患者11132の体腔内に挿入される鏡筒11101と、鏡筒11101の基端に接続されるカメラヘッド11102と、から構成される。図示する例では、硬性の鏡筒11101を有するいわゆる硬性鏡として構成される内視鏡11100を図示しているが、内視鏡11100は、軟性の鏡筒を有するいわゆる軟性鏡として構成されてもよい。
【0199】
鏡筒11101の先端には、対物レンズが嵌め込まれた開口部が設けられている。内視鏡11100には光源装置11203が接続されており、当該光源装置11203によって生成された光が、鏡筒11101の内部に延設されるライトガイドによって当該鏡筒の先端まで導光され、対物レンズを介して患者11132の体腔内の観察対象に向かって照射される。なお、内視鏡11100は、直視鏡であってもよいし、斜視鏡又は側視鏡であってもよい。
【0200】
カメラヘッド11102の内部には光学系及び撮像素子が設けられており、観察対象からの反射光(観察光)は当該光学系によって当該撮像素子に集光される。当該撮像素子によって観察光が光電変換され、観察光に対応する電気信号、すなわち観察像に対応する画像信号が生成される。当該画像信号は、RAWデータとしてカメラコントロールユニット(CCU: Camera Control Unit)11201に送信される。
【0201】
CCU11201は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等によって構成され、内視鏡11100及び表示装置11202の動作を統括的に制御する。さらに、CCU11201は、カメラヘッド11102から画像信号を受け取り、その画像信号に対して、例えば現像処理(デモザイク処理)等の、当該画像信号に基づく画像を表示するための各種の画像処理を施す。
【0202】
表示装置11202は、CCU11201からの制御により、当該CCU11201によって画像処理が施された画像信号に基づく画像を表示する。
【0203】
光源装置11203は、例えばLED(light emitting diode)等の光源から構成され、術部等を撮影する際の照射光を内視鏡11100に供給する。
【0204】
入力装置11204は、内視鏡手術システム11000に対する入力インタフェースである。ユーザは、入力装置11204を介して、内視鏡手術システム11000に対して各種の情報の入力や指示入力を行うことができる。例えば、ユーザは、内視鏡11100による撮像条件(照射光の種類、倍率及び焦点距離等)を変更する旨の指示等を入力する。
【0205】
処置具制御装置11205は、組織の焼灼、切開又は血管の封止等のためのエネルギー処置具11112の駆動を制御する。気腹装置11206は、内視鏡11100による視野の確保及び術者の作業空間の確保の目的で、患者11132の体腔を膨らめるために、気腹チューブ11111を介して当該体腔内にガスを送り込む。レコーダ11207は、手術に関する各種の情報を記録可能な装置である。プリンタ11208は、手術に関する各種の情報を、テキスト、画像又はグラフ等各種の形式で印刷可能な装置である。
【0206】
なお、内視鏡11100に術部を撮影する際の照射光を供給する光源装置11203は、例えばLED、レーザ光源又はこれらの組み合わせによって構成される白色光源から構成することができる。RGBレーザ光源の組み合わせにより白色光源が構成される場合には、各色(各波長)の出力強度及び出力タイミングを高精度に制御することができるため、光源装置11203において撮像画像のホワイトバランスの調整を行うことができる。また、この場合には、RGBレーザ光源それぞれからのレーザ光を時分割で観察対象に照射し、その照射タイミングに同期してカメラヘッド11102の撮像素子の駆動を制御することにより、RGBそれぞれに対応した画像を時分割で撮像することも可能である。当該方法によれば、当該撮像素子にカラーフィルタを設けなくても、カラー画像を得ることができる。
【0207】
また、光源装置11203は、出力する光の強度を所定の時間ごとに変更するようにその駆動が制御されてもよい。その光の強度の変更のタイミングに同期してカメラヘッド11102の撮像素子の駆動を制御して時分割で画像を取得し、その画像を合成することにより、いわゆる黒つぶれ及び白とびのない高ダイナミックレンジの画像を生成することができる。
【0208】
また、光源装置11203は、特殊光観察に対応した所定の波長帯域の光を供給可能に構成されてもよい。特殊光観察では、例えば、体組織における光の吸収の波長依存性を利用して、通常の観察時における照射光(すなわち、白色光)に比べて狭帯域の光を照射することにより、粘膜表層の血管等の所定の組織を高コントラストで撮影する、いわゆる狭帯域光観察(Narrow Band Imaging)が行われる。あるいは、特殊光観察では、励起光を照射することにより発生する蛍光により画像を得る蛍光観察が行われてもよい。蛍光観察では、体組織に励起光を照射し当該体組織からの蛍光を観察すること(自家蛍光観察)、又はインドシアニングリーン(ICG)等の試薬を体組織に局注するとともに当該体組織にその試薬の蛍光波長に対応した励起光を照射し蛍光像を得ること等を行うことができる。光源装置11203は、このような特殊光観察に対応した狭帯域光及び/又は励起光を供給可能に構成され得る。
【0209】
図23は、
図22に示すカメラヘッド11102及びCCU11201の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0210】
カメラヘッド11102は、レンズユニット11401と、撮像部11402と、駆動部11403と、通信部11404と、カメラヘッド制御部11405と、を有する。CCU11201は、通信部11411と、画像処理部11412と、制御部11413と、を有する。カメラヘッド11102とCCU11201とは、伝送ケーブル11400によって互いに通信可能に接続されている。
【0211】
レンズユニット11401は、鏡筒11101との接続部に設けられる光学系である。鏡筒11101の先端から取り込まれた観察光は、カメラヘッド11102まで導光され、当該レンズユニット11401に入射する。レンズユニット11401は、ズームレンズ及びフォーカスレンズを含む複数のレンズが組み合わされて構成される。
【0212】
撮像部11402を構成する撮像素子は、1つ(いわゆる単板式)であってもよいし、複数(いわゆる多板式)であってもよい。撮像部11402が多板式で構成される場合には、例えば各撮像素子によってRGBそれぞれに対応する画像信号が生成され、それらが合成されることによりカラー画像が得られてもよい。あるいは、撮像部11402は、3D(dimensional)表示に対応する右目用及び左目用の画像信号をそれぞれ取得するための1対の撮像素子を有するように構成されてもよい。3D表示が行われることにより、術者11131は術部における生体組織の奥行きをより正確に把握することが可能になる。なお、撮像部11402が多板式で構成される場合には、各撮像素子に対応して、レンズユニット11401も複数系統設けられ得る。
【0213】
また、撮像部11402は、必ずしもカメラヘッド11102に設けられなくてもよい。例えば、撮像部11402は、鏡筒11101の内部に、対物レンズの直後に設けられてもよい。
【0214】
駆動部11403は、アクチュエータによって構成され、カメラヘッド制御部11405からの制御により、レンズユニット11401のズームレンズ及びフォーカスレンズを光軸に沿って所定の距離だけ移動させる。これにより、撮像部11402による撮像画像の倍率及び焦点が適宜調整され得る。
【0215】
通信部11404は、CCU11201との間で各種の情報を送受信するための通信装置によって構成される。通信部11404は、撮像部11402から得た画像信号をRAWデータとして伝送ケーブル11400を介してCCU11201に送信する。
【0216】
また、通信部11404は、CCU11201から、カメラヘッド11102の駆動を制御するための制御信号を受信し、カメラヘッド制御部11405に供給する。当該制御信号には、例えば、撮像画像のフレームレートを指定する旨の情報、撮像時の露出値を指定する旨の情報、並びに/又は撮像画像の倍率及び焦点を指定する旨の情報等、撮像条件に関する情報が含まれる。
【0217】
なお、上記のフレームレートや露出値、倍率、焦点等の撮像条件は、ユーザによって適宜指定されてもよいし、取得された画像信号に基づいてCCU11201の制御部11413によって自動的に設定されてもよい。後者の場合には、いわゆるAE(Auto Exposure)機能、AF(Auto Focus)機能及びAWB(Auto White Balance)機能が内視鏡11100に搭載されていることになる。
【0218】
カメラヘッド制御部11405は、通信部11404を介して受信したCCU11201からの制御信号に基づいて、カメラヘッド11102の駆動を制御する。
【0219】
通信部11411は、カメラヘッド11102との間で各種の情報を送受信するための通信装置によって構成される。通信部11411は、カメラヘッド11102から、伝送ケーブル11400を介して送信される画像信号を受信する。
【0220】
また、通信部11411は、カメラヘッド11102に対して、カメラヘッド11102の駆動を制御するための制御信号を送信する。画像信号や制御信号は、電気通信や光通信等によって送信することができる。
【0221】
画像処理部11412は、カメラヘッド11102から送信されたRAWデータである画像信号に対して各種の画像処理を施す。
【0222】
制御部11413は、内視鏡11100による術部等の撮像、及び、術部等の撮像により得られる撮像画像の表示に関する各種の制御を行う。例えば、制御部11413は、カメラヘッド11102の駆動を制御するための制御信号を生成する。
【0223】
また、制御部11413は、画像処理部11412によって画像処理が施された画像信号に基づいて、術部等が映った撮像画像を表示装置11202に表示させる。この際、制御部11413は、各種の画像認識技術を用いて撮像画像内における各種の物体を認識してもよい。例えば、制御部11413は、撮像画像に含まれる物体のエッジの形状や色等を検出することにより、鉗子等の術具、特定の生体部位、出血、エネルギー処置具11112の使用時のミスト等を認識することができる。制御部11413は、表示装置11202に撮像画像を表示させる際に、その認識結果を用いて、各種の手術支援情報を当該術部の画像に重畳表示させてもよい。手術支援情報が重畳表示され、術者11131に提示されることにより、術者11131の負担を軽減することや、術者11131が確実に手術を進めることが可能になる。
【0224】
カメラヘッド11102及びCCU11201を接続する伝送ケーブル11400は、電気信号の通信に対応した電気信号ケーブル、光通信に対応した光ファイバ、又はこれらの複合ケーブルである。
【0225】
ここで、図示する例では、伝送ケーブル11400を用いて有線で通信が行われていたが、カメラヘッド11102とCCU11201との間の通信は無線で行われてもよい。
【0226】
以上、本開示に係る技術が適用され得る内視鏡手術システムの一例について説明した。本開示に係る技術は、以上説明した構成のうち、撮像部11402に適用され得る。撮像部11402に本開示に係る技術を適用することにより、検出精度が向上する。
【0227】
なお、ここでは、一例として内視鏡手術システムについて説明したが、本開示に係る技術は、その他、例えば、顕微鏡手術システム等に適用されてもよい。
【0228】
(適用例5)
<移動体への応用例>
本開示に係る技術は、様々な製品へ応用することができる。例えば、本開示に係る技術は、自動車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、自動二輪車、自転車、パーソナルモビリティ、飛行機、ドローン、船舶、ロボット、建設機械、農業機械(トラクター)などのいずれかの種類の移動体に搭載される装置として実現されてもよい。
【0229】
図24は、本開示に係る技術が適用され得る移動体制御システムの一例である車両制御システムの概略的な構成例を示すブロック図である。
【0230】
車両制御システム12000は、通信ネットワーク12001を介して接続された複数の電子制御ユニットを備える。
図24に示した例では、車両制御システム12000は、駆動系制御ユニット12010、ボディ系制御ユニット12020、車外情報検出ユニット12030、車内情報検出ユニット12040、及び統合制御ユニット12050を備える。また、統合制御ユニット12050の機能構成として、マイクロコンピュータ12051、音声画像出力部12052、及び車載ネットワークI/F(interface)12053が図示されている。
【0231】
駆動系制御ユニット12010は、各種プログラムにしたがって車両の駆動系に関連する装置の動作を制御する。例えば、駆動系制御ユニット12010は、内燃機関又は駆動用モータ等の車両の駆動力を発生させるための駆動力発生装置、駆動力を車輪に伝達するための駆動力伝達機構、車両の舵角を調節するステアリング機構、及び、車両の制動力を発生させる制動装置等の制御装置として機能する。
【0232】
ボディ系制御ユニット12020は、各種プログラムにしたがって車体に装備された各種装置の動作を制御する。例えば、ボディ系制御ユニット12020は、キーレスエントリシステム、スマートキーシステム、パワーウィンドウ装置、あるいは、ヘッドランプ、バックランプ、ブレーキランプ、ウィンカー又はフォグランプ等の各種ランプの制御装置として機能する。この場合、ボディ系制御ユニット12020には、鍵を代替する携帯機から発信される電波又は各種スイッチの信号が入力され得る。ボディ系制御ユニット12020は、これらの電波又は信号の入力を受け付け、車両のドアロック装置、パワーウィンドウ装置、ランプ等を制御する。
【0233】
車外情報検出ユニット12030は、車両制御システム12000を搭載した車両の外部の情報を検出する。例えば、車外情報検出ユニット12030には、撮像部12031が接続される。車外情報検出ユニット12030は、撮像部12031に車外の画像を撮像させるとともに、撮像された画像を受信する。車外情報検出ユニット12030は、受信した画像に基づいて、人、車、障害物、標識又は路面上の文字等の物体検出処理又は距離検出処理を行ってもよい。
【0234】
撮像部12031は、光を受光し、その光の受光量に応じた電気信号を出力する光センサである。撮像部12031は、電気信号を画像として出力することもできるし、測距の情報として出力することもできる。また、撮像部12031が受光する光は、可視光であっても良いし、赤外線等の非可視光であっても良い。
【0235】
車内情報検出ユニット12040は、車内の情報を検出する。車内情報検出ユニット12040には、例えば、運転者の状態を検出する運転者状態検出部12041が接続される。運転者状態検出部12041は、例えば運転者を撮像するカメラを含み、車内情報検出ユニット12040は、運転者状態検出部12041から入力される検出情報に基づいて、運転者の疲労度合い又は集中度合いを算出してもよいし、運転者が居眠りをしていないかを判別してもよい。
【0236】
マイクロコンピュータ12051は、車外情報検出ユニット12030又は車内情報検出ユニット12040で取得される車内外の情報に基づいて、駆動力発生装置、ステアリング機構又は制動装置の制御目標値を演算し、駆動系制御ユニット12010に対して制御指令を出力することができる。例えば、マイクロコンピュータ12051は、車両の衝突回避あるいは衝撃緩和、車間距離に基づく追従走行、車速維持走行、車両の衝突警告、又は車両のレーン逸脱警告等を含むADAS(Advanced Driver Assistance System)の機能実現を目的とした協調制御を行うことができる。
【0237】
また、マイクロコンピュータ12051は、車外情報検出ユニット12030又は車内情報検出ユニット12040で取得される車両の周囲の情報に基づいて駆動力発生装置、ステアリング機構又は制動装置等を制御することにより、運転者の操作に拠らずに自律的に走行する自動運転等を目的とした協調制御を行うことができる。
【0238】
また、マイクロコンピュータ12051は、車外情報検出ユニット12030で取得される車外の情報に基づいて、ボディ系制御ユニット12020に対して制御指令を出力することができる。例えば、マイクロコンピュータ12051は、車外情報検出ユニット12030で検知した先行車又は対向車の位置に応じてヘッドランプを制御し、ハイビームをロービームに切り替える等の防眩を図ることを目的とした協調制御を行うことができる。
【0239】
音声画像出力部12052は、車両の搭乗者又は車外に対して、視覚的又は聴覚的に情報を通知することが可能な出力装置へ音声及び画像のうちの少なくとも一方の出力信号を送信する。
図24の例では、出力装置として、オーディオスピーカ12061、表示部12062及びインストルメントパネル12063が例示されている。表示部12062は、例えば、オンボードディスプレイ及びヘッドアップディスプレイの少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0240】
図25は、撮像部12031の設置位置の例を示す図である。
【0241】
図25では、撮像部12031として、撮像部12101,12102,12103,12104,12105を有する。
【0242】
撮像部12101,12102,12103,12104,12105は、例えば、車両12100のフロントノーズ、サイドミラー、リアバンパ、バックドア及び車室内のフロントガラスの上部等の位置に設けられる。フロントノーズに備えられる撮像部12101及び車室内のフロントガラスの上部に備えられる撮像部12105は、主として車両12100の前方の画像を取得する。サイドミラーに備えられる撮像部12102,12103は、主として車両12100の側方の画像を取得する。リアバンパ又はバックドアに備えられる撮像部12104は、主として車両12100の後方の画像を取得する。車室内のフロントガラスの上部に備えられる撮像部12105は、主として先行車両又は、歩行者、障害物、信号機、交通標識又は車線等の検出に用いられる。
【0243】
なお、
図25には、撮像部12101ないし12104の撮影範囲の一例が示されている。撮像範囲12111は、フロントノーズに設けられた撮像部12101の撮像範囲を示し、撮像範囲12112,12113は、それぞれサイドミラーに設けられた撮像部12102,12103の撮像範囲を示し、撮像範囲12114は、リアバンパ又はバックドアに設けられた撮像部12104の撮像範囲を示す。例えば、撮像部12101ないし12104で撮像された画像データが重ね合わせられることにより、車両12100を上方から見た俯瞰画像が得られる。
【0244】
撮像部12101ないし12104の少なくとも1つは、距離情報を取得する機能を有していてもよい。例えば、撮像部12101ないし12104の少なくとも1つは、複数の撮像素子からなるステレオカメラであってもよいし、位相差検出用の画素を有する撮像素子であってもよい。
【0245】
例えば、マイクロコンピュータ12051は、撮像部12101ないし12104から得られた距離情報を基に、撮像範囲12111ないし12114内における各立体物までの距離と、この距離の時間的変化(車両12100に対する相対速度)を求めることにより、特に車両12100の進行路上にある最も近い立体物で、車両12100と略同じ方向に所定の速度(例えば、0km/h以上)で走行する立体物を先行車として抽出することができる。さらに、マイクロコンピュータ12051は、先行車の手前に予め確保すべき車間距離を設定し、自動ブレーキ制御(追従停止制御も含む)や自動加速制御(追従発進制御も含む)等を行うことができる。このように運転者の操作に拠らずに自律的に走行する自動運転等を目的とした協調制御を行うことができる。
【0246】
例えば、マイクロコンピュータ12051は、撮像部12101ないし12104から得られた距離情報を元に、立体物に関する立体物データを、2輪車、普通車両、大型車両、歩行者、電柱等その他の立体物に分類して抽出し、障害物の自動回避に用いることができる。例えば、マイクロコンピュータ12051は、車両12100の周辺の障害物を、車両12100のドライバが視認可能な障害物と視認困難な障害物とに識別する。そして、マイクロコンピュータ12051は、各障害物との衝突の危険度を示す衝突リスクを判断し、衝突リスクが設定値以上で衝突可能性がある状況であるときには、オーディオスピーカ12061や表示部12062を介してドライバに警報を出力することや、駆動系制御ユニット12010を介して強制減速や回避操舵を行うことで、衝突回避のための運転支援を行うことができる。
【0247】
撮像部12101ないし12104の少なくとも1つは、赤外線を検出する赤外線カメラであってもよい。例えば、マイクロコンピュータ12051は、撮像部12101ないし12104の撮像画像中に歩行者が存在するか否かを判定することで歩行者を認識することができる。かかる歩行者の認識は、例えば赤外線カメラとしての撮像部12101ないし12104の撮像画像における特徴点を抽出する手順と、物体の輪郭を示す一連の特徴点にパターンマッチング処理を行って歩行者か否かを判別する手順によって行われる。マイクロコンピュータ12051が、撮像部12101ないし12104の撮像画像中に歩行者が存在すると判定し、歩行者を認識すると、音声画像出力部12052は、当該認識された歩行者に強調のための方形輪郭線を重畳表示するように、表示部12062を制御する。また、音声画像出力部12052は、歩行者を示すアイコン等を所望の位置に表示するように表示部12062を制御してもよい。
【0248】
<4.実施例>
次に、本開示の実施例について詳細に説明する。実験1では、有機半導体材料の配向性の評価を行った。実験2では、光電変換素子を作製し、その電気特性の評価を行った。
【0249】
[実験1;配向性の評価]
まず、2D-GIXD評価用のサンプルを作製した。厚さ50nmのITO電極(下部電極)付きガラス基板をUV/オゾン処理にて洗浄したのち、1×10-5Pa以下の真空下で基板ホルダを回転させながら抵抗加熱法によって基板温度0℃にて光電変換層を成膜した。光電変換層の材料としては、一の有機半導体材料(正孔輸送性材料)として上記式(1-2)に示したDTP-DTTと、他の有機半導体材料として下記式(18-1)に示したF6-SubPc-OC6F5および下記式(19-1)に示したC60とを用い、これらを同時蒸着した。蒸着速度の比率は、DTP-DTT:F6-SubPc-OC6F5:C60=2:2:1とし、合計膜厚が230nmとなるように成膜した。続いて、光電変換層上にバッファ層として下記式(21)に示したB4PyMPMを基板温度0℃にて真空蒸着法により5nmの厚みで成膜した。これを2D-GIXD評価用のサンプル(サンプル1)とした。
【0250】
【0251】
この他、DTP-DTTに代えて上記式(1-1)に示したDBP-DTTおよび下記式(22)に示したDP-DTTをそれぞれ用いた2D-GIXD評価用のサンプル(サンプル1,2)を作製した。更に、光電変換層の成膜温度を基板温度0℃から25℃に変更した2D-GIXD評価用のサンプル(サンプル4~6)を作製した。表1は、各サンプル1~6に用いた正孔輸送性材料および成膜温度をまとめたものである。
【0252】
【0253】
【0254】
上記正孔輸送性材料を用いた光電変換層の配向性は、SPring-8のBL46XUを用い、二次元検出器を用いた微小角入射X線回折法(Grazing Incident X-ray Diffraction;GIXD)によって評価した。
図26は、評価装置(BL46XU)の構成を模式的に表したものである。表2は、測定条件をまとめたものである。
【0255】
【0256】
まず、2D-GIXDによって得られたピークを3成分(垂直配向成分、斜め配向成分および水平配向成分)に分割し、バックグラウンド成分を除去したのち、各成分ごとに回折強度を解析した。この後、各成分毎の割合を算出し、垂直配向成分と水平配向成分との強度比(垂直配向成分/水平配向成分)を算出し、これを配向性の指標と定義した。
【0257】
図27は、サンプル1の2D-GIXD測定結果を表したものである。ダイレクトビーム位置を原点とし、方位角方向に3つの配向成分(垂直配向成分(3°~32°)、斜め配向成分(32°~61°)および水平配向成分(61°~90°))に分け、それぞれの配向成分に対しq方向の強度プロファイルを取得した。
図28は、一例としてサンプル1の水平配向成分の強度プロファイルを表したものである。水平配向成分として、
図28の20nm
-1付近にあるピークを解析した。散乱ベクトルと回折角の関係式から横軸のqをθに換算し、バックグラウンドを除去したのち、ピークのフィティングを行い、ピーク強度を算出した。ここで、ピーク強度とは、ピークの面積を指す。斜め配向成分および垂直配向成分についても同様の方法を用いてそれぞれの強度を取得した。この後、垂直配向成分と水平配向成分との強度比(垂直配向成分/水平配向成分)を算出し、サンプル1の配向性指標を得た。サンプル2~6についても同様の方法を用いて配向性指標を得た。なお、上記方法によって得られる配向性指標は、値が小さいほど水平配向性が強い。
【0258】
[実験2;電気特性の評価]
(実験例1)
実験例1として、上記2D-GIXD評価用のサンプル1の作製方法と同様の方法および材料を用いてバッファ層まで成膜したのち、上部電極を成膜して光電変換素子を作製した。
【0259】
まず、厚さ50nmのITO電極(下部電極)付きガラス基板をUV/オゾン処理にて洗浄したのち、1×10-5Pa以下の真空下で基板ホルダを回転させながら抵抗加熱法によって基板温度0℃にて光電変換層を成膜した。光電変換層の材料としては、一の有機半導体材料(正孔輸送性材料)として上記式(1-2)に示したDTP-DTTと、他の有機半導体材料として上記式(18-1)に示したF6-SubPc-OC6F5および上記式(19-1)に示したC60とを用い、これらを同時蒸着した。蒸着速度の比率は、DTP-DTT:F6-SubPc-OC6F5:C60=2:2:1とし、合計膜厚が230nmとなるように成膜した。続いて、光電変換層上にバッファ層として上記式(21)に示したB4PyMPMを基板温度0℃にて真空蒸着法により5nmの厚みで成膜した。最後に、上部電極としてAlSiCu合金を蒸着法にて厚み100nmとなるように成膜した。以上により、1mm×1mmの光電変換領域を有する光電変換素子(実験例1)を作製した。
【0260】
(実験例2)
正孔輸送性材料として上記式(1-1)に示したDBT-DTTを用いた以外は、実験例1と同様の方法を用いて光電変換素子(実験例2)を作製した。
【0261】
(実験例3)
正孔輸送性材料として下記式(9-2)に示したDTP-rBDTを用いた以外は、実験例1と同様の方法を用いて光電変換素子(実験例3)を作製した。併せて、上記2D-GIXD評価用のサンプル1の作製方法と同様の方法を用いて、2D-GIXD評価用のサンプルも作成した。
【0262】
(実験例4)
正孔輸送性材料として下記式(4-1)に示したDBP-2Tを用いた以外は、実験例1と同様の方法を用いて光電変換素子(実験例4)を作製した。併せて、上記2D-GIXD評価用のサンプル1の作製方法と同様の方法を用いて、2D-GIXD評価用のサンプルも作成した。
【0263】
(実験例5)
正孔輸送性材料として下記式(17-1)に示したDBP-NDTを用いた以外は、実験例1と同様の方法を用いて光電変換素子(実験例5)を作製した。併せて、上記2D-GIXD評価用のサンプル1の作製方法と同様の方法を用いて、2D-GIXD評価用のサンプルも作成した。
【0264】
(実験例6)
正孔輸送性材料として下記式(2-1)に示したDBP-BBBTを用いた以外は、実験例1と同様の方法を用いて光電変換素子(実験例6)を作製した。併せて、上記2D-GIXD評価用のサンプル1の作製方法と同様の方法を用いて、2D-GIXD評価用のサンプルも作成した。
【0265】
(実験例7)
正孔輸送性材料として上記式(22)に示したDP-DTTを用いた以外は、実験例1と同様の方法を用いて光電変換素子(実験例7)を作製した。
【0266】
(実験例8)
正孔輸送性材料として上記式(13-30)に示したDBPBT-BTBTを用いた以外は、実験例1と同様の方法を用いて光電変換素子(実験例7)を作製した。
【0267】
【0268】
半導体パラメータアナライザを用いて実験例1~8の量子効率(外部量子効率;EQE)を評価した。具体的には、フィルタを介して光源から光電変換素子に照射される光(波長560nmのLED光)の光量を1.62μW/cm2とし、電極間に印加されるバイアス電圧を-2.6Vとした場合の明電流値および暗電流値から、外部光電変換効率を算出した。
【0269】
また、実験例1~8の応答性についても評価した。応答性の評価は、半導体パラメータアナライザを用いて光照射時に観測される明電流値が、光照射を止めてから立ち下がる速さを測定することによって行った。具体的には、フィルタを介して光源から光電変換素子に照射される光の光量を1.62μW/cm2とし、電極間に印加されるバイアス電圧を-2.6Vとした。この状態で定常電流を観測した後、光照射を止めて電流が減衰していく様子を観測した。続いて、電流-時間曲線と暗電流で囲まれる面積を100%とし、この面積が3%に相当するまでの時間を応答性の指標とした。これらの評価は全て室温で行った。
【0270】
更に、実験例3~6,8で作製した各2D-GIXD評価用のサンプルについて、上記実験1と同様の方法を用いて配向性を評価した。
【0271】
表3は、実験例1~8において用いた正孔輸送性材料および上記方法によって得られた実験例1~8の量子効率および応答速度の結果をまとめたものである。また、実験2において作製した実験例1,2,7の光電変換層の組成は実験1において作成したサンプル1~6と同様の構成を有する。即ち、実験例1の光電変換層は実験1におけるサンプル1,4と同様の組成を有し、実験例2の光電変換層はサンプル2,5と同様の組成を有し、実験例7の光電変換層はサンプル3,6と同様の組成を有する。よって、実験1において得られたサンプル1~6の配向性についても表3にまとめて示した。
【0272】
【0273】
表3から、DP-DTT(式(22))、DBP-DTT(式(1-1))、DTP-DTT(式(1-2))、DTP-rBDT(式(9-2))、DBP-2T(式(4-1))、DBP-NDT(式(17-1))、DBP-BBBT(式(2-1))およびDBPBT-BTBT(式(13-30))は、基板温度0℃で成膜した場合には全て水平配向性を示すことがわかった。また、DP-DTT(式(22))を用いた実験例7では、DTP-DTT(式(1-2))を用いた実験例1、DBP-DTT(式(1-1))を用いた実験例2、DTP-rBDT(式(9-2))を用いた実験例3、DBP-2T(式(4-1))を用いた実験例4、DBP-NDT(式(17-1))を用いた実験例5およびDBP-BBBT(式(2-1))を用いた実験例6と比較して量子効率および応答速度が著しく低下した。これは、基板温度25℃で成膜した場合、DP-DTT(式(22))の配向性指標の値がDBP-DTT(式(1-1))およびDTP-DTT(式(1-2))等と比較して大きく変化していることと関係があると考えられる。即ち、高い量子効率および応答速度を得るためには、成膜温度による配向性の変化が小さい材料を用いることが好ましいと考えられる。なお、DBPBT-BTBT(式(13-30))を用いた実験例8では、実験例7と同様に量子効率の低下が確認されたが、これは、DBPBT-BTBT(式(13-30))と共に用いた材料とのエネルギーレベルの不整合に起因すると考えられる。但し、応答速度が速いことから伝導特性は良好であることがわかる。
【0274】
図29は、2D-GIXDによって得られた各有機半導体材料を用いた光電変換層の成膜温度と光電変換層内における配向性との関係を表したものである。成膜温度0℃では全ての有機半導体材料が水平配向であったのに対して、成膜温度25℃では、DP-DTT(式(22))は垂直配向の比率が高いことがわかった。DP-DTT(式(22))は分子間相互作用が強く、結晶化に伴って配向性が悪化したと考えられる。
【0275】
図30は、2D-GIXDによって得られた各有機半導体材料を用いた光電変換層の成膜温度0℃における光電変換層内における配向性と量子効率との関係を表したものである。
図31は、2D-GIXDによって得られた各有機半導体材料を用いた光電変換層の成膜温度0℃における光電変換層内における各有機半導体材料の配向性と応答速度との関係を表したものである。DP-DTT(式(22))、DBP-DTT(式(1-1))およびDTP-DTT(式(1-2))は、成膜温度0℃では共に水平配向であったものの、DP-DTT(式(22))を用いた光電変換素子は、DBP-DTT(式(1-1))およびDTP-DTT(式(1-2))を用いた光電変換素子と比較して量子効率および応答速度が著しく悪化した。DP-DTT(式(22))は結晶化を起こしやすい性質を持つため、グレイン境界では大きな欠陥を作りやすく、これが伝導を阻害したと考えられる。また、DP-DTT(式(22))の成膜温度による配向性の大きな変化も、分子間相互作用の強さや結晶性の高さが原因と考えられる。このような分子は光電変換層内に形成されるグレイン境界においてグレイン同士の接合が悪くなる。これにより、高抵抗化して伝導特性が悪化すると考えられる。
【0276】
図32は、2D-GIXDによって得られた各有機半導体材料の成膜温度による配向性の変化率と成膜温度0℃における量子効率との関係を表したものである。
図33は、2D-GIXDによって得られた各有機半導体材料の成膜温度による配向性の変化率と成膜温度0℃における応答速度との関係を表したものである。配向性の温度変化に着目すると、DP-DTT(式(22))のように、成膜温度の変化によって配向性が著しく変化する有機半導体材料を用いた光電変換素子の電気特性は低く、DBP-DTT(式(1-1))、DTP-DTT(式(1-2))、DTP-rBDT(式(9-2))、DBP-2T(式(4-1))、DBP-NDT(式(17-1))、DBP-BBBT(式(2-1))およびDBPBT-BTBT(式(13-30))のように、成膜温度の変化による配向性が変化しにくい有機半導体材料を用いた光電変換素子では、良好な電気特性が得られることがわかった。
【0277】
また、光電変換層内における各有機半導体材料の、各成膜温度(第1の温度および第2の温度)による配向性の変化率は、
図32から、以下の範囲であることがわかった。例えば、量子効率50%以上を得るためには、配向性の変化率は2.7倍以下であることが好ましく、量子効率80%以上を得るためには、配向性の変化率は1.6倍以下であることが好ましいことがわかった。更に、例えば、DBP-DTTと同等の量子効率を得るためには、1.3倍以下であることが好ましいことがわかった。また、成膜温度が増加した際に配向性が良化することは考えにくいため、下限値は、例えば0.9倍以上とする。
【0278】
図34は、XRD(X-ray diffraction)によって得られたサンプル3の各成膜温度における散乱スペクトル図である。
図35は、XRDによって得られたサンプル2の各成膜温度における散乱スペクトル図である。正孔輸送性材料として式(22)に示したDP-DTTを用いた光電変換層(サンプル3)では、5.1°付近の低角側のピークと、19.1°、23.8°および28.2°付近の高角側のピークが確認された。成膜温度0℃と成膜温度25℃とで比較すると、成膜温度を増加させた際に低角側のピーク強度増加し、高角側のピーク強度が減少した。このことから、DP-DTT(式(22))は、成膜温度の増加によって水平配向性結晶が減少し、垂直配向性結晶が増加することが定性的にわかった。一方、正孔輸送性材料として式(1-1)に示したDBP-DTTを用いた光電変換層(サンプル2)では、成膜温度を増加させても、低角側のピーク(バルクヘテロ膜中では確認しづらい、単膜では3.6度付近に現れるピーク)が現れることはなく、高角側のピークの減少も見られなかった。以上のように、配向性は薄膜法で定性的に確認することができ、高温成膜時に著しく低角ピーク強度が増加したり高角ピーク強度が低下したりする材料は、配向性観点で好ましくないと言える。
【0279】
[実験3;配向角範囲および配向変化量の評価]
次に、配向角範囲および配向変化量の評価を行った。配向角評価用のサンプルを以下の方法を用いて作製した。
【0280】
(実験例9)
実験例9として、両面が鏡面となっているシリコン(Si)基板上に一の有機半導体材料(正孔輸送性材料)として上記式(1-2)に示したDTP-DTTと、他の有機半導体材料として上記式(18-1)に示したF6-SubPc-OC6F5および上記式(19-1)に示したC60とを用い、これらを同時蒸着した。蒸着速度の比率は、DTP-DTT:F6-SubPc-OC6F5:C60=2:2:1とし、合計膜厚が100nmとなるように成膜した。
【0281】
(実験例10~16)
正孔輸送性材料として、上記実験例2~8で挙げた材料を用いた以外は、実験例9と同様の方法を用い、同様の構成を有する光電変換素子(実験例10~16)を作製した。
【0282】
実験例9~16について、成膜温度0℃および25℃における正孔輸送性材料の配向角を測定すると共に、その変化量(配向変化量)を算出した。各配向角は、以下の測定条件および算出方法を用いた。
装置:Thermo-Fisher scientific Nicolet 8700 FT-IR spectrometer with pMAIRS equipment
検出器:MCT
入射角条件:9-44°(5°step)
積算回数:300回
波数分解能:8cm-1
【0283】
多角入射分解分光法(pMAIRS)は、基板に対して複数の入射角で赤外透過法による測定を行い、得られた結果からCLS回帰式により、面内(IP)スペクトルと面外(OP)スペクトルを得る。ある遷移双極子モーメントに帰属されるピークに着目したとき、このピークのIPスペクトルとOPスペクトルのピーク強度比から下記数式(1)により、遷移双極子モーメントの電極平面からの配向角Φを求めることができる。配向角を算出するピークは、分子長軸方向の遷移双極子モーメントが好ましいが、分子面に垂直な方向の遷移双極子モーメントを用いてもよい。分子面に垂直方向の遷移双極子モーメントを用いる場合は、下記数式(2)を用いて、分子長軸方向と基板となす角度を算出する。本実験例では、分子長軸方向の遷移双極子モーメントに帰属されるピークを用いて数式(1)により、配向角として基板となす角度を算出した。
【0284】
【数1】
(I
IP:IPスペクトルにおけるピーク強度、I
OP:OPスペクトルにおけるピーク強度)
【0285】
表4は、実験例9~16において用いた正孔輸送性材料および上記方法によって得られた実験例9~16の各成膜温度による電極平面との配向角(°)および配向変化量をまとめたものである。また、表4では、実験例9~16の光電変換層と同様の材料構成を有する実験例1~8の実験2で得られた量子効率および応答速度の結果も併せて示している。
【0286】
【0287】
表4から、正孔輸送性材料としてDBP-DTT(式(1-1))、DTP-DTT(式(1-2))、DTP-rBDT(式(9-2))、DBP-2T(式(4-1))、DBP-NDT(式(17-1))、DBP-BBBT(式(2-1))およびDBPBT-BTBT(式(13-30))を用いた光電変換素子の応答速度は、DP-DTT(式(22))を用いた場合と比較して、著しく改善されることがわかった。この応答速度の結果から、成膜温度の違いによる配向変化量は10°未満であることが好ましといえる。より好ましくは、実験例15の配向変化量および実験例10の配向変化量から、その平均値である7°以下とする。また、正孔輸送性材料の電極平面となす配向角範囲は、46°未満であることが好ましいといえる。更に、ここでは示していないが、他の正孔輸送性材料を用いた応答速度の結果から、正孔輸送性材料の電極平面となす配向角範囲は37°以下とすることでより応答速度が改善されることがわかった。
【0288】
図36は、pMAIRSによって得られた各有機半導体材料を用いた光電変換層の成膜温度と光電変換層内における配向角との関係を表したものである。成膜温度0℃では全ての有機半導体材料の配向角が約30°~45°の間であったのに対して、成膜温度25℃では、DP-DTT(式(22))は配向角が約55°と大きく変化することがわかった。
【0289】
図37は、pMAIRSによって得られた各有機半導体材料の成膜温度による配向角の変化量と成膜温度0℃における量子効率との関係を表したものである。
図38は、pMAIRSによって得られた各有機半導体材料の成膜温度による配向角の変化量と成膜温度0℃における応答速度との関係を表したものである。温度変化による配向角の変化量に着目すると、DP-DTT(式(22))のように、成膜温度の変化によって配向角の変化量が著しく変化する有機半導体材料を用いた光電変換素子の電気特性は低く、DBP-DTT(式(1-1))、DTP-DTT(式(1-2))、DTP-rBDT(式(9-2))、DBP-2T(式(4-1))、DBP-NDT(式(17-1))、DBP-BBBT(式(2-1))およびDBPBT-BTBT(式(13-30))のように、成膜温度の変化による配向角の変化量が変化しにくい有機半導体材料を用いた光電変換素子では、良好な電気特性が得られることがわかった。
【0290】
以上、実施の形態および実施例を挙げて説明したが、本開示内容は上記実施の形態等に限定されるものではなく、種々変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、光電変換素子として、緑色光を検出する有機光電変換部11Gと、青色光,赤色光をそれぞれ検出する無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rとを積層させた構成としたが、本開示内容はこのような構造に限定されるものではない。即ち、有機光電変換部において赤色光あるいは青色光を検出するようにしてもよいし、無機光電変換部において緑色光を検出するようにしてもよい。
【0291】
また、これらの有機光電変換部および無機光電変換部の数やその比率も限定されるものではなく、2以上の有機光電変換部を設けてもよいし、有機光電変換部だけで複数色の色信号が得られるようにしてもよい。更に、有機光電変換部および無機光電変換部を縦方向に積層させる構造に限らず、基板面に沿って並列させてもよい。
【0292】
更にまた、上記実施の形態等では、裏面照射型の固体撮像装置の構成を例示したが、本開示内容は表面照射型の固体撮像装置にも適用可能である。また、本開示の光電変換素子では、上記実施の形態で説明した各構成要素を全て備えている必要はなく、また逆に他の層を備えていてもよい。
【0293】
更に、上記実施の形態等では、撮像装置1を構成する撮像素子として光電変換素子10を用いて例を示したが、本開示の光電変換素子10は、太陽電池に適用してもよい。
【0294】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
[1]
第1電極と、
前記第1電極と対向配置された第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられ、結晶性を有すると共にキャリア輸送性を有する一の有機半導体材料、可視光領域のうち、
400nm以上750nm以下の波長で50000cm
-1以上の
吸収係数を有する色材および前記一の有機半導体材料と対となるキャリア輸送性を有する他の有機半導体材料を含む光電変換層とを備え、
前記一の有機半導体材料は、
下記式(1-1)、式(2-1)、式(4-1)または式(17-1)で表される化合物である
光電変換素子。
【化1】
[2]
前記一の有機半導体材料は正孔輸送性を有する、前記[1]に記載の光電変換素子。
[3]
前記一の有機半導体材料のHOMO準位は、少なくとも1種の前記他の有機半導体材料のHOMO準位よりも高い、前記[1]または[2]に記載の光電変換素子。
[4]
前記一の有機半導体材料のHOMO準位は、少なくとも1種の前記他の有機半導体材料のHOMO準位よりも高い、前記[1]乃至[3]のうちのいずれか1つに記載の光電変換素子。
[5]
前記一の有機半導体材料は、分子長が1.6nmよりも大きく、10nm以下の芳香族化合物である、前記[1]乃至[4]のうちのいずれか1つに記載の光電変換素子。
[6]
前記色材は、下記一般式(2)で表されるサブフタロシアニンまたはその誘導体である、前記[1]乃至[5]のうちのいずれか1つに記載の光電変換素子。
【化3】
(R15~R26は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、フェニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基からなる群から選択され、且つ、隣接した任意のR15~R26は縮合脂肪族環または縮合芳香環の一部であってもよい。前記縮合脂肪族環または縮合芳香環は、炭素以外の1または複数の原子を含んでいてもよい。Mはホウ素または2価あるいは3価の金属である。Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、チオール基、イミド基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基からなる群より選択されるいずれかの置換基である。)
[7]
前記他の有機半導体材料は、下記一般式(3)または一般式(4)で表されるフラーレンまたはフラーレン誘導体である、前記[1]乃至[6]のうちのいずれか1つに記載の光電変換素子。
【化4】
(R27,R28は、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐または環状のアルキル基、フェニル基、直鎖または縮環した芳香族化合物を有する基、ハロゲン化物を有する基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、アリールスルファニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルフィド基、アルキルスルフィド基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、ニトロ基、カルコゲン化物を有する基、ホスフィン基、ホスホン基あるいはそれらの誘導体である。n,mは0または1以上の整数である。)
[8]
各画素が1または複数の有機光電変換部を有し、
前記有機光電変換部は、
第1電極と、
前記第1電極と対向配置された第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられ、結晶性を有すると共にキャリア輸送性を有する一の有機半導体材料、可視光領域のうち、
400nm以上750nm以下の波長で50000cm
-1以上の
吸収係数を有する色材および前記一の有機半導体材料と対となるキャリア輸送性を有する他の有機半導体材料を含む光電変換層とを備え、
前記一の有機半導体材料は、
下記式(1-1)、式(2-1)、式(4-1)または式(17-1)で表される化合物である
撮像装置。
【化2】
【符号の説明】
【0295】
1…撮像装置、2…電子機器(カメラ)、10A,10B…光電変換素子、11…半導体基板、11G…有機光電変換部、11R,11B…無機光電変換部、12,14…層間絶縁層、12A…固定電荷層、12B…誘電体層、13A,13C…パッド部、13B…上部コンタクト、15…下部電極、16…光電変換層16…上部電極、18…保護層、19…オンチップレンズ層、19L…オンチップレンズ。