IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東邦チタニウム株式会社の特許一覧

特許7642722チタン系電解原料の製造方法及び、金属チタン又はチタン合金の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】チタン系電解原料の製造方法及び、金属チタン又はチタン合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 34/12 20060101AFI20250303BHJP
   C25C 3/28 20060101ALI20250303BHJP
   C22B 5/04 20060101ALI20250303BHJP
【FI】
C22B34/12 102
C25C3/28
C22B5/04
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023097989
(22)【出願日】2023-06-14
(65)【公開番号】P2024179274
(43)【公開日】2024-12-26
【審査請求日】2024-07-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】森 健一
(72)【発明者】
【氏名】熊本 和宏
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 明治
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/096893(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/097823(WO,A1)
【文献】特開昭60-238430(JP,A)
【文献】特開2013-079446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 34/12
C25C 3/28
C22B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属チタン又はチタン合金を得るための溶融塩電解精製に用いるチタン系電解原料を製造する方法であって、
融体中にて、該融体中に含まれる溶融させたチタン酸化物、アルミニウムの単体及び/又は合金ならびにハロゲン化カルシウムを1870℃以上の温度で反応させ、前記チタン酸化物中のOの一部についての脱酸を含む反応により生成したAl及びOを含むチタン合金生成物を得る反応工程と、
前記反応工程の後、前記融体の温度を1800℃以下に低下させ、固相となった前記チタン合金生成物を液相のスラグから分離する分離工程と
を含み、
前記ハロゲン化カルシウムを、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム及びヨウ化カルシウムからなる群から選択される少なくとも一種とする、チタン系電解原料の製造方法。
【請求項2】
前記反応工程で、前記チタン酸化物及び前記ハロゲン化カルシウムを溶融させた後、前記アルミニウムの単体及び/又は合金を投入して、前記融体とする、請求項1に記載のチタン系電解原料の製造方法。
【請求項3】
前記分離工程で、1800℃以下に低下させた前記融体の温度を、3分以上保持する、請求項1に記載のチタン系電解原料の製造方法。
【請求項4】
前記分離工程で、前記融体の温度を、1400℃以上かつ1800℃以下とする、請求項1に記載のチタン系電解原料の製造方法。
【請求項5】
前記分離工程の後、前記分離工程で得られる固体の前記チタン合金生成物を、減圧雰囲気下で再度溶融させる再溶融工程を含む、請求項に記載のチタン系電解原料の製造方法。
【請求項6】
前記再溶融工程で、前記チタン合金生成物中のアルミニウム及び酸素の一部を蒸発させて除去する、請求項5に記載のチタン系電解原料の製造方法。
【請求項7】
前記再溶融工程の後、溶融状態の前記チタン合金生成物を鋳型に流し込んで鋳造する鋳造工程を含む、請求項5に記載のチタン系電解原料の製造方法。
【請求項8】
アルミニウム含有量が8質量%以下であって酸素含有量が8質量%以下であるチタン系電解原料を製造する、請求項1に記載のチタン系電解原料の製造方法。
【請求項9】
前記チタン系電解原料の、アルミニウム含有量が5質量%以下であり、及び/又は、酸素含有量が5質量%以下である、請求項8に記載のチタン系電解原料の製造方法。
【請求項10】
比抵抗が10μΩ・m~150μΩ・mであるチタン系電解原料を製造する、請求項1に記載のチタン系電解原料の製造方法。
【請求項11】
前記融体が、前記チタン酸化物の含有量に対する質量割合にて、Alを0.2~1.0で含有し、ハロゲン化カルシウムを0.1~0.8で含有する、請求項1に記載のチタン系電解原料の製造方法。
【請求項12】
前記反応工程の反応時の温度を、1900℃以上かつ3000℃以下とする、請求項1に記載のチタン系電解原料の製造方法。
【請求項13】
金属チタン又はチタン合金を製造する方法であって、
溶融塩浴にて、陽極の粗チタン系材料を溶解させ、陰極に精製チタン系材料を析出させる電解精製を含み、
請求項1~12のいずれか一項に記載のチタン系電解原料の製造方法により製造されたチタン系電解原料を前記粗チタン系材料として、前記陽極に用いる、金属チタン又はチタン合金の製造方法。
【請求項14】
前記溶融塩浴を塩化物浴とする、請求項13に記載の金属チタン又はチタン合金の製造方法。
【請求項15】
前記塩化物浴が、塩化マグネシウム及び二塩化チタンを含む、請求項14に記載の金属チタン又はチタン合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チタン又はチタン合金を得るための溶融塩電解精製に用いるチタン系電解原料の製造方法及び、チタン又はチタン合金の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属チタン(純チタン)やチタン合金は一般に、大量生産に適したクロール法を基盤とする方法によりチタン鉱石から得られる中間製品の金属スポンジチタンを用いて製造される。
【0003】
しかしながら、この方法は、チタン鉱石の塩化による四塩化チタンの製造ならびに、その後の四塩化チタンの精製及び金属マグネシウムによる四塩化チタンの還元が必要である他、スポンジチタン塊の破砕や、還元で生じた塩化マグネシウムの電気分解も必要になって、多数のバッチ工程が含まれるので、金属チタンを効率的かつ低コストに製造できるとは言い難い。また、四塩化チタンを製造する反応では、コークス(炭素)が使用されており、これにより、地球温暖化を招く温室効果ガスである二酸化炭素が排出される。
【0004】
これに対し、溶融塩浴を用いた電解精製(「溶融塩電解精製」ともいう。)によれば、不純物の少ない金属チタンやチタン合金を、上記クロール法を基盤とする方法よりも容易に製造できる可能性がある。この種の技術としては、たとえば特許文献1及び2に記載されたものがある。
【0005】
特許文献1には、「下記の工程を含むことを特徴とする、チタン鉱からのチタン生産物の抽出方法:チタン鉱と還元剤を含む化学ブレンドであって、前記チタン鉱対前記還元剤の比が、0.9~2.4の前記チタン鉱中の酸化チタン成分:前記還元剤中の還元用金属の質量比に相当する前記化学ブレンドを混合する工程;前記化学ブレンドを加熱して抽出反応を開始する工程であって、前記化学ブレンドを、1℃~50℃/分の上昇速度で加熱する工程;前記化学ブレンドを、5分と30分の間の時間、1500~1800℃の反応温度に維持する工程;前記化学ブレンドを、1670℃よりも低い温度に冷却する工程;および、チタン生産物を、残留スラグから分離する工程」で、「前記チタン鉱が酸化チタン(TiO2)を含み、前記還元剤がアルミニウム(Al)を含む」ことが記載されている。特許文献2にも、これに類似する方法が記載されている。
【0006】
上記の「化学ブレンド」に関し、特許文献1では、「上記化学ブレンドは、所望のスラグ粘度を達成するための1種以上の粘性剤を含む。・・・上記化学ブレンドおよび得られるスラグの粘度に影響を与えるのみで且つ上記化学ブレンドの加熱に限られた程度しか影響を与えない粘性剤を選択する。フッ化カルシウム(CaF2)は、そのような粘性剤の1つの例である。CaF2は、上記チタン鉱と還元剤との化学反応には加わらず、溶融物の粘度の調整を支援するのみである。・・・一般に、上記反応に加わらず、スラグの粘度の調整を支援する成分は、有力な候補である。幾つかの実施態様においては、種々のハロゲン化アルカリ、ハロゲン化アルカリ土類およびある種の酸化物を粘性剤として使用し得る。」としている(段落0042)。また、特許文献1には、「最終温度は1500℃と1800℃の間であり、・・・上記最終温度が1800℃よりも高い場合・・・、抽出反応は、溶融チタン生産物が反応容器およびスラグと反応するので、より高量の汚染物を含むチタン生産物を生成するであろう。」と記載されている(段落0052)。特許文献2にも同様の記載がある(段落0031及び0033参照)。
【0007】
なお、特許文献3は、溶融塩電解精製に関するものではないが、「低級スポンジチタン、スクラップチタン、ルチル鉱石などの酸化チタン(TiO2)を多く含む低品位のチタン原料にアルミ原料を加えたものを溶解させることで脱酸を行い、高品位すなわち低酸素なTi-Al系合金を製造するTi-Al系合金の製造方法」を開示している。より詳細には、「チタン材料およびアルミニウム材料よりなり、Alの配合量が50質量%以上とされた溶解原料について、前記溶解原料に、酸化カルシウムにフッ化カルシウムが35重量%以上含まれたフラックスを添加し、前記フラックスが添加された溶解原料を、出湯口が底部に形成された水冷銅るつぼに装入して、当該水冷銅るつぼ内を1.33Pa以上の雰囲気として誘導溶解させ、前記水冷銅るつぼで誘導溶解された溶解原料を、前記出湯口から下方に出湯させることで、前記誘導溶解によって溶解原料から遊離した酸素を含むフラックスを分離し、前記フラックスが分離された溶解原料を鋳造することによりTi-Al合金を得るに際して、前記鋳造を行うのに先立ち、前記誘導溶解の出力を溶解時の90%以下まで低減し、前記出力が低減された状態の水冷銅るつぼから出湯を行うことを特徴とするTi-Al系合金の製造方法」が記載されている。また特許文献3には、「フラックスαの融点が1800K以下となるように、フラックスα中のCaF2の含有量を35質量%以上としている。また、製品として得られるTi-Al系合金ZがCaF2中のふっ素で汚染されることがないように、フラックスα中のCaF2の含有量を95質量%未満としている。」との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2015-507696号公報
【文献】特表2019-533081号公報
【文献】特開2021-122830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
溶融塩浴を用いた電解精製では、電解槽内の溶融塩浴にて、Ti、Al及びOを含有して導電性を有する粗チタン系材料を陽極として使用し、陽極と陰極との間に電圧を印加する。これにより、陽極の粗チタン系材料から主にTiが溶出するとともに、陰極に、粗チタン系材料に比して純度の高い精製チタン系材料が析出し、チタン系電析物を製造することができる。
【0010】
上記の電解精製を継続して行うと、陽極の粗チタン系材料からTiが溶出するに伴い、粗チタン系材料のアルミニウム含有量及び酸素含有量が相対的に増加し、それに起因して電気抵抗が次第に増大して、最終的には電流がほとんど流れずに粗チタン系材料からTiがほぼ溶出しなくなる。特に粗チタン系材料として、アルミニウム含有量及び酸素含有量が多いチタン系電解原料を用いたときは、電解精製の開始初期から大きな電力が必要になる他、電解精製の間に、粗チタン系材料からのTiの溶出が十分に行われず、製造歩留まりを高めることができない。
【0011】
電解精製に用いるチタン系電解原料を得るには、たとえば特許文献1、2に記載されているように、融体中の高温下で、還元剤のAlと、チタン鉱石に含まれるチタン酸化物とを反応させ、チタン酸化物を還元することができる。但し、特許文献1及び2に記載された方法では、チタン系電解原料のアルミニウム含有量及び酸素含有量を十分に低下させることができなかった。
【0012】
この発明の目的は、アルミニウム含有量及び酸素含有量が比較的少ないチタン系電解原料を製造することができるチタン系電解原料の製造方法及び、金属チタン又はチタン合金の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者は鋭意検討の結果、融体中でチタン酸化物の反応を起こす際に、温度を高温にしてハロゲン化カルシウムを当該反応に関与させて生成するハロゲン化アルミニウムを蒸発しやすくすることにより、Al及びOを含むチタン合金生成物(チタン系電解原料)のアルミニウム含有量及び酸素含有量を低減できるとの新たな知見を得た。
【0014】
この発明のチタン系電解原料の製造方法は、金属チタン又はチタン合金を得るための溶融塩電解精製に用いるチタン系電解原料を製造する方法であって、融体中にてチタン酸化物、アルミニウムの単体及び/又は合金ならびにハロゲン化カルシウムを1870℃以上の温度で反応させ、溶融状態で、前記チタン酸化物中のOの一部についての脱酸を含む反応により生成したAl及びOを含むチタン合金生成物を得る反応工程を含むものである。
【0015】
前記反応工程の後は、前記融体の温度を1800℃以下に低下させ、固相となった前記チタン合金生成物を液相のスラグから分離する分離工程を含むことが好ましい。
【0016】
前記反応工程では、前記チタン酸化物及び前記ハロゲン化カルシウムを溶融させた後、前記アルミニウムの単体及び/又は合金を投入して、前記融体とすることが好ましい。
【0017】
前記ハロゲン化カルシウムは、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム及びヨウ化カルシウムからなる群から選択される少なくとも一種とすることができる。
【0018】
前記分離工程の後は、前記分離工程で得られる固体の前記チタン合金生成物を、減圧雰囲気下で再度溶融させる再溶融工程を含むことが好ましい。
【0019】
前記再溶融工程では、前記チタン合金生成物中のアルミニウム及び酸素の一部を蒸発させて除去することが好ましい。
【0020】
この発明のチタン系電解原料の製造方法は、前記再溶融工程の後、溶融状態の前記チタン合金生成物を鋳型に流し込んで鋳造する鋳造工程を含むことが好ましい。
【0021】
この発明のチタン系電解原料の製造方法では、アルミニウム含有量が8質量%以下であって酸素含有量が8質量%以下であるチタン系電解原料を製造することができる。
【0022】
この発明の金属チタン又はチタン合金の製造方法は、溶融塩浴にて、陽極の粗チタン系材料を溶解させ、陰極に精製チタン系材料を析出させる電解精製を含み、上記のいずれかのチタン系電解原料の製造方法により製造されたチタン系電解原料を前記粗チタン系材料として、前記陽極に用いるというものである。
【0023】
前記溶融塩浴は塩化物浴とすることが好ましい。
【0024】
前記塩化物浴は、塩化マグネシウム及び二塩化チタンを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
この発明のチタン系電解原料の製造方法によれば、アルミニウム含有量及び酸素含有量が比較的少ないチタン系電解原料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係るチタン系電解原料の製造方法は、金属チタン又はチタン合金を得るための溶融塩電解精製に用いるチタン系電解原料を製造する方法である。このチタン系電解原料の製造方法には、反応工程が含まれる。
【0027】
反応工程では、融体中にてチタン酸化物、アルミニウムの単体及び/又は合金ならびにハロゲン化カルシウムを、1870℃以上の温度で反応させる。これにより、チタン酸化物中のO(酸素)の一部について脱酸がなされて様々な反応生成物が生成し、融体中に、当該反応生成物として、Al及びOを含むチタン合金生成物(単に「チタン合金生成物」ともいう。)と、その残滓ないし残渣としてのスラグとが溶融状態で得られる。なお、反応工程の後は分離工程を行うことがあり、分離工程では、融体の温度を1800℃以下に低下させることで、固相となったチタン合金生成物を液相のスラグから分離することができる。
【0028】
上記のように、反応工程で融体中にハロゲン化カルシウムを含ませ、比較的高温で反応を起こすことにより、ハロゲン化カルシウムが反応に関与し、チタン酸化物の脱酸が促進すると考えられる。また、融体中のAlも反応に関わって、チタン酸化物の脱酸がさらに進行するとともに、当該Alはハロゲン化アルミニウムとなって除去されやすくなると推測される。それらの結果として、最終的に、アルミニウム含有量及び酸素含有量が十分に低減されたチタン合金生成物を得ることができる。
【0029】
このようにして得られたチタン合金生成物は、溶融塩電解精製の原料、即ちチタン系電解原料として用いることが可能であり、溶融塩電解精製による金属チタン又はチタン合金の製造に供され得る。この電解精製では、上記のチタン系電解原料を、溶融塩電解精製の原料である粗チタン系材料として陽極に使用し、陽極及び陰極間への電圧の印加により、陰極に精製チタン系材料を析出させる。このとき、チタン系電解原料としての粗チタン系材料は、アルミニウム含有量及び酸素含有量が少ないことから、電気抵抗が小さく、電解精製時の消費電力を小さく抑えることができる。
【0030】
また、電解精製を継続していると、粗チタン系材料はTiの溶出に伴ってアルミニウム含有量及び酸素含有量が次第に増大して、電流が流れなくなるが、電解精製前のアルミニウム含有量及び酸素含有量が少ないことから、電流が流れなくなるまでの時間が長くなる。このため、アルミニウム含有量及び酸素含有量が多い粗チタン系材料を用いた場合に比して、より多くのTiが粗チタン系材料から溶出して、陰極に析出するので、歩留まりを高めることができる。その上、より高純度の金属チタンを得るために電解精製を行う場合、その電解精製の回数を減らすことも可能になり、製造全体の電力消費量の大幅な削減が見込まれる。
【0031】
なお、このような電解精製による金属チタン又はチタン合金の製造方法は、チタン鉱石の塩化を行うクロール法を基礎とする方法に比して、炭素の使用量及び、それによる二酸化炭素の排出量を削減できるので、カーボンニュートラル、ひいては脱炭素社会の実現に大きく寄与することができる。
【0032】
(チタン系電解原料の製造)
チタン系電解原料の製造では、反応工程を行う。必要に応じて、その後に分離工程、再溶融工程、さらには鋳造工程を順次に行うこともある。
【0033】
反応工程では、チタン酸化物、アルミニウムの単体及び/又は合金ならびにハロゲン化カルシウムのうち、チタン酸化物又は、チタン酸化物を含む混合物を加熱して融体とし、必要に応じて残りの物質を添加し、その融体中にて、チタン酸化物、アルミニウムの単体及び/又は合金ならびにハロゲン化カルシウムを1870℃以上の温度下で反応させる。加熱時にはチタン酸化物の他、アルミニウムの単体及び/又は合金ならびにハロゲン化カルシウムのうちの少なくとも一種を予め含ませて混合物としてもよいが、それらのうちの少なくとも一種は溶融後に添加してもよい。反応時に融体中に、チタン酸化物、アルミニウムの単体及び/又は合金ならびにハロゲン化カルシウムが含まれていればよい。
【0034】
反応工程では、チタン酸化物であればその種類や性状は特に問わないが、チタン酸化物を含むチタン鉱石を用いることがある。ここで述べる実施形態は、チタン鉱石の製錬に適用することができる。チタン鉱石としては、天然ルチル、必要に応じてリーチングやその他のアップグレード処理が施されたアップグレードイルメナイト(UGI)ないしアップグレードスラグ(UGS)等を挙げることができる。チタン鉱石中のTiO2の含有量は、たとえば50質量%以上、典型的には80質量%以上、特に90質量%以上とすることがある。そのようなチタン鉱石に加えて又は代えて、金属チタン又はチタン合金スクラップ等を含ませてもよい。チタン酸化物には、TiO2、TiO、TiO2-x(0≦x<2)が含まれる。
【0035】
アルミニウムの単体及び/又は合金としては、金属アルミニウム又はアルミニウム合金スクラップ等を使用可能である。ハロゲン化カルシウムは、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム及びヨウ化カルシウムからなる群から選択される少なくとも一種とすることが好ましく、少なくともフッ化カルシウムを含むことが好ましく、フッ化カルシウム単独とすることがより一層好ましい。
【0036】
融体は、チタン酸化物の含有量に対する質量割合にて、Alを0.2~1.0、ハロゲン化カルシウムを0.1~0.8でそれぞれ含有することが好ましい。但し、融体の組成は、チタン系電解原料の狙いの組成等に応じて適宜決定され得る。
【0037】
なおその他、融体の粘度調整剤等として、ある程度少量のCaOを予め添加してもよい。また融体はさらに、反応工程で使用するチタン酸化物、金属アルミニウム、アルミニウム合金、ハロゲン化カルシウムといった原料に含まれる不純物に起因したCa、Na、Mg、Cu、Si、Fe等を不可避的な不純物として含むものであってもよい。
【0038】
反応工程で融体を1870℃以上の高温にすれば、融体中で下記式(1)~(3)の反応が起こると考えられる。下記式(3)の右辺には、代表的なカルシウム酸化物のCaOを示しているが、CaO以外の複雑な組成の化合物(Ca-O-Ti-Al-ハロゲン(ハロゲンは、ハロゲン化カルシウム由来のF、Cl,Br,I等))も含むと推測されるので、ここでは、下記式(3)の右辺のカルシウム酸化物をCa(O)と表記する。また、下記式(1)及び(3)の右辺のTiは、ある程度の量のAlとOが含まれ、不純物として原料由来のFe、Si、V、Cr、Ni、Mn等が少量含まれることもある。下記式(1)~(3)を総括すると、当該反応は下記式(4)で表すことができる。
3TiO2+4Al→3Ti+2Al23 (1)
2Al+CaF2→Ca+2AlF (2)
または、
4Al+2CaF2→2Ca+4AlF (2’)
2Ca+TiO2→2CaO+Ti (3)
(1)+(2’)+(3)
4TiO2+8Al+2CaF2→4Ti+2Al23+2CaO+4AlF (4)
【0039】
発明者が得た知見によれば、理想反応では、融体を1870℃以上の温度とすることにより、上記式(1)で表されるAlによるチタン酸化物の脱酸以外に、上記式(2)のように、ハロゲン化カルシウムからハロゲンがAlに奪われて、Caが生成し、上記式(3)のように、このCaによってもチタン酸化物の脱酸が起こる。つまり、アルミニウムの単体及び/又は合金中のAlとハロゲン化カルシウムとの反応で、Caが生成し、脱酸力が強いCaにより、チタン酸化物中の酸素の一部について脱酸がなされる。このようにAlだけでなくCaによるチタン酸化物の脱酸も起こるので、チタン酸化物の脱酸が促進され、最終的に酸素含有量が十分に少ないチタン系電解原料(式(1)、(3)および(4)のTi)になる。
【0040】
アルミニウムの単体及び/又は合金中のAlは、上記式(1)のようにチタン酸化物の脱酸に用いられる他、上記式(2)で表される反応のように、ハロゲン化カルシウムからハロゲンを奪ってハロゲン化アルミニウムになる。ハロゲン化アルミニウムは、1870℃以上の高温下では盛んに蒸発し、融体から分離し得る。これによって融体中のAlが減少し、それに伴い、最終的に得られるチタン系電解原料(式(1)、(3)および(4)のTi)へのAlの混入量も少なくなる。このことは、アルミニウム含有量が少ないチタン系電解原料を得ることに寄与すると考えられる。
【0041】
反応工程では、チタン酸化物、アルミニウムの単体及び/又は合金ならびにハロゲン化カルシウムの溶融の順序は特に問わないが、チタン酸化物及びハロゲン化カルシウムを予め溶融させておき、そこにアルミニウムの単体及び/又は合金を投入して、上記の融体とすることが好ましい。また、チタン酸化物を予め溶融させた後に、そこにアルミニウムの単体及び/又は合金ならびにハロゲン化カルシウムを添加してもよい。アルミニウムは単独で比較的蒸発しやすいので、初めから投入して溶融させると、昇温時に蒸発しなかった安定なアルミニウムしか上記式(1)及び(2)の反応で消費されず、当該反応が不十分になることが懸念される。一方、アルミニウムを後から投入したときは、投入するとほぼ瞬間的に、上記式(1)及び(2)の反応が起こる。なお、1870℃以上という高温域では、ハロゲン化カルシウムもその融点よりも高温であることから分解しやすくなり、それによって上記式(1)よりも上記式(2)の反応が起こりやすい傾向がある。また、ハロゲン化アルミニウムが蒸発しやすいことも、上記式(2)が起こりやすい一因であると考えられる。チタン酸化物とハロゲン化カルシウムを予め溶融させておけば、蒸発しやすいカルシウムの単体が生成されたときに、その蒸発前にチタン酸化物と上記式(3)の反応を生じさせることができる。総じて、アルミニウムの単体及び/又は合金は、初期に添加するよりも後から添加するほうが、上記式(2)の反応によるチタン酸化物の脱酸の促進との観点から好適である。但し、チタン酸化物、アルミニウムの単体及び/又は合金ならびにハロゲン化カルシウムを混ぜ合わせて混合物とし、その混合物を溶融させて融体としてもよい。そのような混合物から融体を得た後、さらにアルミニウムの単体及び/又は合金を後から追加添加してもよい。
【0042】
反応工程の反応時の温度は、上述した反応を起こすため、1870℃以上とし、好ましくは1900℃以上、より好ましくは1950℃以上であり、特に2000℃以上とすることが好適である。一方、反応時の温度は、たとえば3000℃以下、典型的には2500℃以下とすることがあるが、設備なども考慮して反応工程を適切に行うことができれば、その上限値は特に限らない。
【0043】
反応工程には、融体を保持する容器として、水冷銅るつぼ、水冷銅合金るつぼ又はカルシア(CaO)るつぼ等を使用することができる。好ましくは、水冷銅るつぼ又は水冷銅合金るつぼを使用し、その内面に、融体の一部が固化したこと等により形成されるスカルが存在する状態で、反応を生じさせる。また反応工程では、アルミニウムやカルシウムの蒸発を抑制するため、真空雰囲気ではなく、アルゴンガス又はヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気とすることが好適である。より詳細には、不活性ガス雰囲気下でのアーク溶解法、プラズマアーク溶解法又は誘導スカル溶解法を用いることができる。なかでも、プラズマアーク溶解法は、反応工程で制御する必要がある高温域の温度に維持しやすいことから特に好ましい。なお、反応工程で反応させる物質には室温などの低温度域にて非導電性である物質が多く含まれることがあるので、誘導スカル溶解法を用いる場合は、融体を得る際の加熱時に導電性を確保する観点から、少なくともアルミニウムの単体及び/又は合金を加熱し、さらには金属チタンやチタン合金等を含む混合物を加熱することがよい場合がある。
【0044】
反応工程の終了後は、融体中の反応生成物の一つであるチタン合金生成物をスラグから分離させるための分離工程を行うことができる。ここでは、チタン合金生成物を十分に分離させるため、チタン合金生成物とスラグとの融点の違いを利用する。具体的には、融体の温度を1800℃以下の温度に低下させる。それにより、主としてTi、Al及びOを含有するチタン合金生成物は固相になるが、Al23やCa(O)を含有するスラグは液相の状態が維持される。固相のチタン合金生成物は、液相のスラグに比して比重が大きいこともあり、下方側に沈降して堆積する。あるいは、容器の底部の温度が低い場合は、底部に固相のチタン合金生成物が優先的に生成する。そして、融体のスラグを別の容器に注湯等で移し替えて除去し、又は、融体中の固相のチタン合金生成物をスラグから取り出すこと等により、液体のスラグが分離された固体のチタン合金生成物が得られる。また、容器内で分離したチタン合金生成物とスラグをともに容器から取り出し、その後に、比重差や寸法差を利用してチタン合金生成物とスラグを篩別で分けてもよい。
【0045】
分離工程で低下させる融体の温度は、スラグの溶融状態が維持される温度以上であって、1800℃以下であればよい。たとえば、融体の低下後の温度は、1400℃以上、さらに1500℃以上とすることがあり、また1600℃以上、さらに1700℃以上とすることがある。そのような温度に保持する時間は、たとえば3分以上、さらに5分以上とする場合があり、生産性を考慮して60分以下とすることが好ましい。但し、降温速度を遅くすること等により、降温時に固相のチタン合金生成物が沈降する等して液相のスラグと分離するのであれば、スラグの溶融状態が維持される温度以上の所定の温度に保持することは要しない場合がある。たとえば、徐冷時にスラグの溶融状態が維持される温度以上になっている間に、固相のチタン合金生成物が液相のスラグから分離していれば、それよりも低い温度(たとえば室温)まで低下させてもかまわない。
【0046】
分離工程では、上記の温度を維持することが容易な誘導スカル溶解法を用いることが好適である。この場合、加熱工程から分離工程に移る際に、プラズマアーク溶解法から誘導スカル溶解法に溶解法を変更することができる。あるいは、分離工程で温度を保持せず、緩慢な速度で降温させるのであれば、プラズマアーク溶解法を用いることが好ましい場合がある。分離工程も、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0047】
なお、プラズマアーク溶解法は高温の加熱を容易に実施できるが、1800℃以下の温度域を制御しにくいことがある。また、誘導スカル溶解法は、反応工程で反応させる物質の加熱溶融に難があるが、1800℃以下の温度を安定して制御しやすい。以上の観点から、反応工程はプラズマアーク溶解法で実施し、分離工程を誘導スカル溶解法で実施することも好ましい。
【0048】
分離工程でスラグから分離した固体のチタン合金生成物は、必要に応じて再溶融工程にて、減圧雰囲気下で加熱して再び溶融させてもよい。再溶融工程を行うと、チタン合金生成物に含まれ得るAl及びOの一部が原子状のアルミニウムやAl2O(亜酸化アルミニウム)の形態で蒸発して除去されるので、チタン系電解原料のアルミニウム含有量及び酸素含有量をさらに低減することができる。
【0049】
再溶融工程では、アルミニウム及びAl2Oを良好に蒸発させるため、真空度を1×10-3Pa~1Paとすることが好ましい。また再溶融工程は、チタン合金生成物が溶融する温度であれば特に問わないが、1900℃~2500℃とすることがある。また、溶湯を保持する時間は、たとえば5分~1時間とする場合がある。再溶融工程は、上記の不純物の多くを良好に除去するため、高真空の電子ビーム溶解法や誘導スカル溶解法を用いることが好ましい。
【0050】
また必要に応じて、再溶融工程後に鋳造工程を行ってもよい。溶融塩電解精製では溶解対象とするチタン系電解原料の表面積が大きいことが有利であり、この観点から粒状のチタン系電解原料を使用することがある。他方、アルミニウム含有量及び酸素含有量が少ないチタン系電解原料は靭性が高く、溶融塩電解精製で用いるために成形ないし粉砕することが難しい場合がある。そのような場合、鋳造工程を行って鋳造で所定の形状に成形し、それをそのまま溶融塩電解精製で陽極として用いることができる。鋳造工程を行う場合、上記の再溶融工程で溶融させたチタン合金生成物を冷却せず、溶融状態を維持しながら注湯等により陽極の形状の鋳型ないしモールド内に流し込むことができる。
【0051】
上述したようにして製造されるチタン系電解原料は、Ti、Al及びOならびに不可避的不純物を含有し、導電性を有するものである。チタン系電解原料は、アルミニウム含有量が8質量%以下、さらに5質量%以下、さらに3質量%以下であることが好ましく、酸素含有量が8質量%以下、さらに5質量%以下、さらに3質量%以下であることが好ましい。チタン系電解原料のアルミニウム含有量は0.1質量%以上、さらに0.3質量%以上、特に1質量%以上になる場合があり、酸素含有量は0.3質量%以上、さらに0.5質量%以上、特に1.5質量%以上になる場合がある。室温で測定した場合のチタン系電解原料の比抵抗は、たとえば10μΩ・m~150μΩ・m、また例えば10μΩ・m~100μΩ・mである。
【0052】
(金属チタン又はチタン合金の製造)
金属チタン又はチタン合金を製造するには、上記のチタン系電解原料を用いて、溶融塩電解精製を行うことができる。溶融塩電解精製では、電解槽内の溶融塩浴に陽極及び陰極を含む電極を浸漬させた状態で、それらの電極間に電圧を印加する。このとき、上記のチタン系電解原料を粗チタン系材料として含む陽極を使用する。電極間への電圧の印加により、陽極の粗チタン系材料からTiが溶出するとともに、それが陰極に電着して精製チタン系材料が析出する。
【0053】
陽極は、電解精製でいう粗チタン系材料である上記のチタン系電解原料を含むものであれば特に問わない。たとえば、先述した鋳造工程の鋳造後に得られる板状等のチタン系電解原料をそのまま陽極とすることができる。あるいは、粒状もしくは粉状のチタン系電解原料を、多数の貫通孔を有する通電可能な籠状容器内に入れて、これを陽極としてよい。籠状容器は、外形が板状、筒状等であって、ニッケル製、ニッケル基合金製、ハステロイ製又は、ニッケルやニッケル基合金で被覆した鋼製等の多数の貫通孔を有するものとする場合がある。陰極は、少なくともその表面がチタン製のものを使用可能であり、たとえば全体がチタンからなるチタン板やチタン棒とすることができる。陽極と陰極との間に複極を配置することも考えられるが、複極は無くてもよい。
【0054】
溶融塩浴は、主として金属塩化物を含む塩化物浴とすることがあり、たとえば、アルカリ金属塩化物及び/又はアルカリ土類金属塩化物を、たとえば70mol%以上、さらに90mol%以上、さらに95mol%以上含有することがある。このような塩化物浴は、フッ化物浴や臭化物浴、ヨウ化物浴に比して、低腐食性、低環境負荷及び低コストであることから好ましい。なかでも、塩化マグネシウム(MgCl2)を含む塩化物浴を用いたときは、酸素含有量のみならずアルミニウム含有量をも十分に低減された精製チタン系材料を得ることができる。塩化物浴中の塩化マグネシウム含有量は、30mоl%以上、さらに50mol%以上、さらに80mol%以上、さらに85mol%以上、特に95mol%以上であることが好ましい。塩化物浴には、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ルビジウム(RbCl)、塩化セシウム(CsCl)、塩化ベリリウム(BeCl2)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)及び、塩化バリウム(BaCl2)から選択される一種以上の金属塩化物を、たとえば70mol%以下、さらに50mol%以下、さらに20mol%以下、さらに10mol%以下、さらに5mol%以下で含むものとしてもよい。
【0055】
また、溶融塩浴中には、必要に応じて、四塩化チタンよりもTiの価数が低い低級塩化チタン、具体的には二塩化チタン(TiCl2)や三塩化チタン(TiCl3)等を含ませることもできる。溶融塩浴中のTiイオンの含有量は、好ましくは3mol%以上、より好ましくは5mol%以上、さらに好ましくは6mol%以上、さらには10mol%以上としてもよく、20mоl%以下とすることが好ましい。
【0056】
特に溶融塩浴を塩化物浴とする場合、塩化物浴は、塩化マグネシウム及び二塩化チタンを含むことが好ましい。この場合、アルミニウム含有量がさらに低減された精製チタン系材料が得られるので、金属チタンの製造に好適である。なお、塩化物浴中では、上記の二塩化チタンは、不均化反応により、その一部が三塩化チタンになる場合がある。
【0057】
溶融塩浴中の金属塩化物や金属イオンの含有量は、ICP発光分析や原子吸光分析により測定することができる。Tiイオンの含有量は、溶融塩浴中の金属イオンの合計含有量に対する百分率として求められる。
【0058】
電解精製の条件として、たとえば、溶融塩浴の温度は450℃~900℃、陰極での電流密度は0.01A/cm2~3A/cm2とすることがある。電流密度は、式:電流密度(A/cm2)=電流(A)÷マクロな電析面積(cm2)により算出することができる。電極は、電流を連続的に流すことができる他、電流値をゼロにする通電停止期間が設けられて通電期間と通電停止期間とが交互に繰り返されるパルス電流を流してもよい。電極間の最大電圧は、たとえば0.2V~3.5Vになることがある。電解精製の間、電解槽の内部は、アルゴン等の不活性ガス雰囲気に維持することが好適である。
【0059】
電解精製は、それにより得られた精製チタン系材料をさらに精製するため、複数回にわたって繰り返し行うことができる。複数回の電解精製を行う場合は、次回の電解精製では、前回の電解精製で陰極上に析出した精製チタン系材料を粗チタン系材料とし、当該粗チタン系材料を含む陽極に使用する。これにより、次回の電解精製では、その粗チタン系材料から不純物がさらに除去された精製チタン系材料が、陰極上に析出する。複数回の電解精製を行うと、不純物がほぼ含まれない高純度の金属チタンを製造することも可能である。
【0060】
但し、消費エネルギーの増大やコストの上昇を抑えるとの観点からは、電解精製の回数を少なくすることが望まれる。先に述べた方法により製造されるチタン系電解原料は、アルミニウム含有量及び酸素含有量が低減されたものであるから、少ない回数の電解精製でも良好な金属チタン又はチタン合金を製造することができる。電解精製は2回以上行うよりも、1回だけ行うことが好ましい。但し、2回以上の電解精製を行う場合であっても、チタン系電解原料のアルミニウム含有量及び酸素含有量が少ないことによる電力消費量の抑制及び歩留まりの向上を実現することができる。
【0061】
以上に述べたようにして、金属チタンを製造する場合、最終的に得られる金属チタンは、アルミニウム含有量が、たとえば0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以下であり、酸素含有量が、たとえば0.2質量%以下、好ましくは0.10質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下である。あるいは、チタン合金を製造する場合、最終的に得られるチタン合金は、たとえばアルミニウム含有量が3質量%以下、好ましくは2質量%以下であり、酸素含有量が0.3質量%以下、好ましくは0.15質量%以下になることがある。
【実施例
【0062】
次に、この発明のチタン系電解原料の製造方法及び金属チタン又はチタン合金の製造方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0063】
(試験例1)
先述した反応工程及び分離工程を行い、分離工程でスラグから分離したチタン合金生成物であるチタン系電解原料を得た。
【0064】
反応工程には、チタン酸化物であるTiO2を90質量%以上含有する粒状のチタン鉱石(UGSとUGIとの混合物)、表1に示す粒状の各ハロゲン化カルシウム(セラミックグレードのもの)、ならびに、アルミニウムの単体としての金属アルミニウムショット(粒)を使用した。チタン酸化物(TiO2):アルミニウム:ハロゲン化カルシウムの質量比は、1:0.5:0.5とした。実施例13では、ハロゲン化カルシウムの質量基準の半分をCaCl2、残りの半分をCaF2とした。実施例14では、CaOを、CaF2の質量の10%に相当する量でさらに添加した。
【0065】
反応工程では、水冷銅るつぼ内、アルゴンガス雰囲気下にてプラズマアーク溶解法により、上記のチタン鉱石、ハロゲン化カルシウム及び金属アルミニウムショットが溶融した融体中で、表1に示す最高到達温度に加熱して反応を生じさせた。
【0066】
実施例1~7及び10~14ならびに比較例1~5では、チタン鉱石、ハロゲン化カルシウム(比較例5は除く)及び金属アルミニウムショットの混合物を溶融前から水冷銅るつぼ内に投入して、ともに溶融させた。実施例8では、チタン鉱石及びハロゲン化カルシウムの混合物を先に溶融させ、その後、そこに金属アルミニウムショットを全量投入した。実施例9では、チタン鉱石及びハロゲン化カルシウムならびに、半分の量の金属アルミニウムショットの混合物を先に溶融させ、その後、残りの半分の量の金属アルミニウムショットを追加添加した。
【0067】
その後、比較例3を除き、融体を、誘導スカル溶解法を行うスリット型の水冷銅るつぼに注湯し、アルゴンガス雰囲気下、そこで表1に示す温度まで低下させてその温度に保持し、又は室温まで約0.5℃/sの速度で徐冷した。さらにその後、水冷銅るつぼからスラグを注湯により除去して、チタン合金生成物をスラグから分離させた。なお、実施例5では室温までの徐冷を実施したため、スラグおよびチタン合金生成物がるつぼ内で上下に分かれて固化したので、下層のチタン合金生成物を得た。実施例5においても、徐冷中、スラグが溶融状態であるときにチタン合金生成物が固相で生じて下方に沈降したと思われた。
【0068】
比較例2では分離工程での温度が比較的高温であり、また比較例3では分離工程を省略し、また比較例4ではある程度速い速度でスラグが固化する温度まで低下させたことから、いずれもスラグとチタン合金生成物の分離が不十分になり、十分な量のチタン系電解原料が得られなかった。比較例5では、ハロゲン化カルシウムを使用しなかったことにより、脱酸反応が不十分となり、十分な量のチタン系電解原料が得られなかった。
【0069】
実施例1~14及び比較例1では、チタン合金生成物として十分な量のチタン系電解原料を得ることができたので、そのアルミニウム含有量及び酸素含有量を測定した。ここで、アルミニウム含有量は、株式会社日立ハイテクサイエンス製のPS3520UVDDIIを用いてICP発光分光分析法により測定し、酸素含有量は、LECO社製ON736型を用いて不活性ガス融解-赤外線吸収法により測定した。なお、チタン系電解原料は、アルミニウム及び酸素以外の残部が、チタン及び不可避的不純物からなるものであった。
【0070】
また、チタン系電解原料の比抵抗値を、鶴賀電機株式会社製の低抵抗計3566-RYを用いて2端子測定法により測定した。この比抵抗値の測定は室温下で行ったが、その大小関係から、溶融塩電解精製時の高温下での比抵抗値の大小関係を推認することができる。それらの結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1からわかるように、実施例1~14のチタン系電解原料はいずれも、アルミニウム含有量及び酸素含有量が少なく、比抵抗値が小さいものであった。それと比較して、比較例1のチタン系電解原料は、アルミニウム含有量及び酸素含有量が多く、比抵抗値が大きくなった。
【0073】
(試験例2)
上記の実施例1又は8と同様の反応工程及び分離工程を行って得られたチタン合金生成物について、実施例15~18では再溶融工程ないし鋳造工程を行い、チタン系電解原料を得た。より詳細には次のとおりである。なお、再溶融工程は真空雰囲気下(1×10-3Pa以上かつ5×10-1Pa以下の範囲内)で実施した。
【0074】
実施例15では、実施例1と同様にして得られたチタン合金生成物を、いわゆるドリップメルト法にて、電子ビームにより真空雰囲気下で再溶融させながら水冷銅るつぼに注湯して、チタン系電解原料を作製した。
【0075】
実施例16では、実施例1と同様にして得られたチタン合金生成物を、ハース内にて電子ビームにより真空雰囲気下で再溶融させた後、これをモールド内に注湯して、チタン系電解原料を作製した。
【0076】
実施例17では、実施例1と同様にして分離工程でスラグを除去した後のチタン合金生成物を、誘導スカル溶解法の水冷銅るつぼから取り出さずに、真空雰囲気下で再溶融させ、これをモールド内に注湯して、チタン系電解原料を作製した。
【0077】
実施例18では、実施例8と同様にして得られたチタン合金生成物を、ドリップメルト法にて、電子ビームにより真空雰囲気下で再溶融させながら水冷銅るつぼに注湯して、チタン系電解原料を作製した。
【0078】
実施例15~18で得られた各チタン系電解原料について、試験例1と同様にして、アルミニウム含有量及び酸素含有量ならびに比抵抗値を測定した。その結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2より、実施例15~18のチタン系電解原料は、表1に示す実施例1、8のチタン系電解原料よりもアルミニウム含有量及び酸素含有量が低減されており、比抵抗値が小さいことがわかる。
【0081】
(試験例3)
上記の試験例1の比較例1、実施例1もしくは実施例8又は、試験例2の実施例18の各チタン系電解原料を使用して、溶融塩電解精製を行い、金属チタンないしチタン合金を製造した。
【0082】
溶融塩電解精製では、表3に示す組成の溶融塩浴にて、陽極と陰極との間に電圧を印加し、陽極の粗チタン系材料を溶出させるとともに、陰極に精製チタン系材料を析出させた。溶融塩浴は、TiCl2を4質量%~6質量%含むものとし、TiCl2以外に複数種の他の浴成分を含む例では、当該他の浴成分がそれぞれ質量基準にて等しい割合で含まれるものとした。陽極としては、上記のうち、比較例1、実施例1、実施例8のチタン系電解原料は粉砕して粗チタン系材料とし、これを、多数の貫通孔を有するニッケル製の籠状容器内に収容したものを用いた。実施例18のチタン系電解原料は板状のるつぼに注湯することで、板状の粗チタン系材料を作製し、これを陽極として用いた。陰極はチタン板とした。
【0083】
電解精製は一定の電圧を印加して行い、電流値が急激に小さくなったときに電解がそれ以上行われないと判断して終了とし、陽極の籠状容器内における粗チタン系材料の残部の重量を測定して、下記式により歩留まりを算定した。その結果を表3に示す。
歩留まり(%)=100×(電解精製前の粗チタン系材料の重量-終了後の残った残部の重量)/電解精製前の粗チタン系材料の重量
【0084】
電解精製の終了後、陰極を取り出して、陰極上に析出した金属チタンないしチタン合金を採取して希塩酸で洗浄した後に水洗し、さらに50℃~60℃程度の温度で風乾した。金属チタンないしチタン合金のアルミニウム含有量及び酸素含有量ならびに比抵抗値を、試験例1でのチタン系電解原料に対する測定と同様にして測定した。その結果も表3に示している。
【0085】
【表3】
【0086】
比較例6~8では、比較例1で得られたチタン系電解原料を用いたことから、歩留まりが低かった。一方、実施例19~27はいずれも、高い歩留まりとなった。
【0087】
その上、実施例22及び25では、所望のアルミニウム含有量及び酸素含有量のチタン合金が1回の電解精製で得られ、これは複数回の電解精製を行う必要がないものであった。また、実施例26及び27の金属チタンは、アルミニウム含有量及び酸素含有量が1回の電解精製でも十分に少なく、更なる電解精製が不要な品質であった。他の実施例でも、2回の電解精製を行うと、高品質の金属チタンないしチタン合金になると考えられる。