(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】電池セル、電池および電気装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20250303BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20250303BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20250303BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250303BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20250303BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M10/052
H01M10/0587
(21)【出願番号】P 2023547262
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(86)【国際出願番号】 CN2022098015
(87)【国際公開番号】W WO2023193335
(87)【国際公開日】2023-10-12
【審査請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】202210366285.5
(32)【優先日】2022-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】524304976
【氏名又は名称】香港時代新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】CONTEMPORARY AMPEREX TECHNOLOGY (HONG KONG) LIMITED
【住所又は居所原語表記】13/F., LKF29, 29 Wyndham Street, Central, Hong Kong, China
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 家政
(72)【発明者】
【氏名】▲厳▼ 青▲偉▼
(72)【発明者】
【氏名】董 ▲曉▼斌
【審査官】窪田 陸人
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-192766(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111312987(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111446489(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0078805(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極シート及び負極シートを含む電池セルであって、
前記負極シートは、負極集電体と、前記負極集電体の少なくとも一つの表面に設置された負極活物質層と、リチウム補給層とを有し、
前記負極活物質層は、前記正極シートから突出している第1の部分と、前記正極シートと対向して設置され、前記第1の部分に接続している第2の部分とを含み、
前記リチウム補給層は、前記第1の部分における前記負極集電体から離れた少なくとも一部の表面に設置されて
おり、
前記負極集電体は、互いに対向する第1の表面及び第2の表面を含み、
前記第1の表面及び前記第2の表面は、いずれも前記負極活物質層が設置されており、
前記第1の部分から前記第2の部分に向かう方向で、前記第1の部分は互いに対向する第1のサブ部分及び第2のサブ部分を含み、前記第2の部分は前記第1のサブ部分と前記第2のサブ部分を接続し、
二つの前記負極活物質層のうちの一方の層の前記第1のサブ部分は前記リチウム補給層が設置され、他方の層の前記第2のサブ部分に前記リチウム補給層が設置されており、
前記第1のサブ部分に対向して設置されている前記リチウム補給層の理論容量はC
A
であり、
前記第2のサブ部分に対向して設置されている前記リチウム補給層の理論容量はC
B
であり、
C
A
>C
B
である、電池セル。
【請求項2】
前記リチウム補給層の理論容量はC
Liであり、前記第1の部分における前記リチウム補給層に対向して設置されている部分の理論容量はC
1であり、
C
LiとC
1とは、20%C
1≦C
Li≦120%C
1
の関係を満たす、請求項1に記載の電池セル。
【請求項3】
前記リチウム補給層は金属リチウム層又はリチウム合金層を含
む、請求項1
又は2に記載の電池セル。
【請求項4】
前記負極活物質層は、負極活物質を含み、
前記負極活物質は、人造黒鉛、天然黒鉛及びケイ素系材料のうちの一種又は複数種を含む、請求項1
又は2に記載の電池セル。
【請求項5】
前記電池セルは、前記正極シートと前記負極シートとの間に設置されているセパレータをさらに有し、前記正極シート、前記セパレータ及び前記負極シートは、巻回されて巻回式構造を形成し
、
前記第1のサブ部分は巻回軸線に近接して設置されており、前記第2のサブ部分は巻回軸線から離れて設置され
ている、請求項1
又は2に記載の電池セル。
【請求項6】
請求項1
又は2に記載の電池セルを含む、電池。
【請求項7】
請求項
6に記載の電池を含み、前記電池は電気エネルギーを提供するために用いられる電気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2022年4月8日に提出された名称が「電池セル、電池及び電気装置」である中国特許出願202210366285.5の優先権を主張し、当該出願の全ての内容は引用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本願は、電池の製造の技術分野に関し、特に電池セル、電池及び電気装置に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池セルは電子デバイスに広く用いられており、例えば携帯電話、ノートパソコン、電気自転車、電気自動車、電動飛行機、電動輪船、電動玩具自動車、電動玩具輪船、電動玩具飛行機及び電動工具等が挙げられる。
【0004】
電池セル技術の発展において、電池セルの性能の向上は早急に解決すべき問題である。
【発明の概要】
【0005】
本願は、電池セル、電池及び電気装置を提供し、電池セルの初回クーロン効率、サイクル性能及び貯蓄性能を向上させることを目的とする。
【0006】
第1の態様において、本願は、
正極シート及び負極シートを含む電池セルであって、
負極シートは、負極集電体と、負極集電体の少なくとも一つの表面に設置された負極活物質層と、リチウム補給層とを有し、
負極活物質層は、正極シートから突出している第1の部分と、正極シートと対向して設置され、第1の部分に接続している第2の部分とを含み、
リチウム補給層は、第1の部分における負極集電体から離れた少なくとも一部の表面に設置されている、電池セルを提供する。
【0007】
それにより、上記技術案において、第1の部分にリチウム補給層を設置している。リチウム補給層中のリチウムは、第1の部分よりも水素に対する標準電極電位が小さい。リチウム補給層と第1の部分との間に電圧差が存在している。電池セルに電解液を注入した後、リチウム補給層と第1の部分が接触しているため、両者の間に電気回路が形成され、短絡状態に相当する。リチウム補給層中のリチウムは、電子を失って自由に移動するリチウムイオンになり、第1の部分に挿入される。次に、リチウムは、遅い速度で第2の部分に拡散して挿入される。また、リチウム補給層の電位が低下するため、第2の部分のリチウムイオンが第1の部分に拡散して挿入されることを阻止し、それにより電池セルの初回クーロン効率、サイクル性能及び貯蓄性能を改善する。
【0008】
いくつかの実施形態において、リチウム補給層の理論容量はCLiであり、第1の部分におけるリチウム補給層に対向して設置されている部分の理論容量はC1である。CLiとC1とは、20%C1≦CLi≦120%C1、好ましくは、90%C1≦CLi≦120%C1の関係を満たす。
【0009】
それにより、上記技術案において、リチウム補給層の電位は第1の部分のリチウム挿入プラットフォーム電圧より低い。この時、リチウム補給層中のリチウムは、第1の部分に安定して挿入されることができる。また、リチウム補給層中の第1の部分に移動したリチウムの移動容量は、負極活物質層中のリチウムの容量減衰とマッチングし、リチウムの負極活物質層での累積及びリチウム析出のリスクを低下させ、それによりリチウム補給の効果を向上させ、かつ電池セルの安全性能を保証する。
【0010】
いくつかの実施形態において、負極集電体は、互いに対向する第1の表面及び第2の表面を含む。第1の表面及び第2の表面は、いずれも負極活物質層が設置されている。ここで、二つの負極活物質層のうちの少なくとも一方の層の少なくとも一部の第1の部分は、リチウム補給層が設置されている。本願の実施形態において、リチウム補給層の設置位置が相対的に多く、プロセス要求に応じてリチウム補給層を適宜に設置することができる。
【0011】
いくつかの実施形態において、二つの負極活物質層の少なくとも一部の第1の部分は、いずれもリチウム補給層が設置されている。本願の実施例において、それぞれ二つの負極活物質層にリチウムを補給し、リチウム補給の効果をさらに向上させることができる。
【0012】
いくつかの実施形態において、第1の部分から第2の部分に向かう方向で、第1の部分は互いに対向する第1のサブ部分及び第2のサブ部分を含み、第2の部分は第1のサブ部分と第2のサブ部分を接続している。二つの負極活物質層のうちの一方の層の第1のサブ部分はリチウム補給層が設置されており、他方の層の第2のサブ部分にリチウム補給層が設置されている。本願の実施例において、それぞれ二つの負極活物質層の異なる位置でリチウムを補充し、電極組立体(特に、巻回式電極組立体)の構造を結合して針対性のリチウム補給を行うことができる。
【0013】
いくつかの実施形態において、第1のサブ部分に対向して設置されているリチウム補給層の理論容量はCAであり、第2のサブ部分に対向して設置されているリチウム補給層の理論容量はCBであり、ここで、CA>CBである。
【0014】
それにより、上記技術案において、巻回後の電極組立体内に電解液を有する。第1のサブ部分の位置は、第2のサブ部分の位置よりもリチウムイオンの拡散に役立つため、CA>CBは、第1のサブ部分の負極活物質層へのリチウムの移動容量を保証することができる。
【0015】
いくつかの実施形態において、リチウム補給層は金属リチウム層又はリチウム合金層を含む。好ましくは、金属リチウム層はリチウム箔層又はリチウム粉末層を含み、より好ましくは、リチウム箔層である。好ましくは、リチウム合金層はアルミニウムリチウム合金層、マグネシウムリチウム合金層又はスズリチウム合金層を含む。
【0016】
それにより、上記技術案において、金属リチウム層の金属リチウムのグラムキャパシティー(gram specific capacity)及び純度が相対的に高く、副生成物を生成しにくく、それにより電池セルへの悪影響を低減する。
【0017】
リチウム合金層は、負極活物質層にリチウム源を補足する以外に、リチウム合金層中の他の金属により負極シートに強度を補強する作用を果たすことができる。
【0018】
いくつかの実施形態において、負極活物質層は負極活物質を含む。負極活物質は、人造黒鉛、天然黒鉛及びケイ素系材料のうちの一種又は複数種を含む。
【0019】
それにより、上記技術案において、リチウム補給層中のリチウムが電子を失ってリチウムイオンを形成した後、第1の部分に挿入されて負極活物質とLiCx(x≧6)及び/又はLixSiy(x>0、y>0)を形成することができる。この時、リチウム補給層、LiCx及び/又はLixSiyは組み合わせて安定のリチウム補給源を形成し、且つ遅い速度で第2の部分に拡散して挿入される。リチウム補給層の電位が低下するため、第2の部分のリチウムイオンが第1の部分のリチウムイオンへ拡散して挿入されることを効果的に阻止するため、それにより電池セルの性能を改善することができる。
【0020】
いくつかの実施形態において、電池セルは、正極シートと負極シートとの間に設置されているセパレータをさらに有する。正極シート、セパレータ及び負極シートは、巻回されて巻回式構造を形成する。好ましくは、負極シートは二つの負極活物質層を含み、各負極活物質層はいずれも巻回方向に沿って互いに対向する第1のサブ部分及び第2のサブ部分を含む。第1のサブ部分は巻回軸線に近接して設置されており、第2のサブ部分は巻回軸線から離れて設置されている。二つの負極活物質層のうちの一方の層の第1のサブ部分はリチウム補給層が設置されており、他方の層の第2のサブ部分はリチウム補給層が設置されている。ここで、第1のサブ部分に対向して設置されたリチウム補給層の理論容量はCAであり、第2のサブ部分に対向して設置されたリチウム補給層の理論容量はCB、CA>CBである。
【0021】
第2の態様において、本願は電池を提供し、本願の第1の態様のいずれかの実施形態の電池セルを含む。
【0022】
第3の態様において、本願は、本願の第2の態様の電池を含む電気装置を提供し、電池は電気エネルギーを提供するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下に図面を参照して本願の例示的な実施例の特徴、利点及び技術的効果を説明する。
【
図1】本願のいくつかの実施例に係る車両の構造概略図である。
【
図2】本願のいくつかの実施例に係る電池の爆発概略図である。
【
図3】
図2に示す電池モジュールの構造概略図である。
【
図4】本願のいくつかの実施例に係る電池セルの爆発概略図である。
【
図5】本願のいくつかの実施例に係る電池セルの電極組立体の構造概略図である。
【
図6】本願のいくつかの実施例に係る電池セルの負極シートの構造概略図である。
【
図7】
図6に示す負極シートがA-A線に沿って行った断面概略図である。
【
図8】
図6に示す負極シートがB-B線に沿って行った断面概略図である。 図面は、必ずしも実際の比率に応じて描かれているとは限らない。
【0024】
図中の各標記は以下のとおりである。
X:第1の方向、Y:巻回方向。
1:車両。
2:電池。
3:コントローラ。
4:モータ。
5:箱体、51:第1の箱体部、52:第2の箱体部、53:収容空間。
6:電池モジュール。
7:電池セル。
10:電極組立体、11:本体部、12:タブ部、13:集電部材、14:正極シート、15:セパレータ。
8:負極シート、81:負極集電体、811:第1の表面、812:第2の表面、82:負極活物質層、821:第1の部分、8211:第1のサブ部分、8212:第2のサブ部分、822:第2の部分、83:リチウム補給層。
20:ハウジング組立体、21:ケース、22:カバー組立体、23:端部カバー、221:電極端子。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願の実施例の目的、技術案及び利点をより明確にするために、以下は本願の実施例における図面を参照して、本願の実施例における技術案を明確に説明する。明らかに、説明された実施例は本願の一部の実施例であり、全ての実施例ではない。本願における実施例に基づいて、当業者が創造的労働をしない前提で得られた全ての他の実施例は、いずれも本願の保護範囲に属する。
【0026】
別の定義がない限り、本願における全ての技術及び科学的用語は、本願の技術分野に属する当業者が一般的に理解する意味と同じである。本願において、出願の明細書における用語は、具体的な実施例を説明するためだけであり、本願を限定するものではない。本願の明細書及び特許請求の範囲及び上記図面の説明における用語「含む」、「備える」及び「有する」及びそれらの任意の変形は、排他的な包含をカバーすることを意図する。本願の明細書及び特許請求の範囲又は上記図面における用語「第1の」、「第2の」等は、異なる対象を区別するために用いられ、特定の順序又は主な関係を説明するために用いられない。
【0027】
本願において「実施例」に言及したことは、実施例を参照して説明した特定の特徴、構造又は特性が本願の少なくとも一つの実施例に含まれてもよいことを意味する。明細書における各位置に当該用語が存在するとは、必ずしも同じ実施例を意味するものではなく、他の実施例と互いに排他的である独立した又は候補の実施例でもない。
【0028】
本願の説明において、説明すべきものとして、明確な規定及び限定がない限り、用語「取り付け」、「連続」、「接続」、「付属連続」は広義に理解されるべきである。例えば、固定接続であってもよく、取り外し可能に接続されてもよく又は一体的に接続されてもよく、直接接続されてもよく、中間媒体を介して間接的に接続されてもよく、二つの素子内部の連通であってもよい。当業者にとって、具体的な状況に基づいて上記用語の本願における具体的な意味を理解することができる。
【0029】
本願における用語「及び/又は」は、関連対象の関連関係を説明するだけであり、三種類の関係が存在してもよい。例えば、A及び/又はBは、単独でAが存在し、同時にAとBが存在し、Bが単独で存在するという三つの状況が存在することを表すことができる。また、本願における文字「/」は、一般的に前後で関連したオブジェクトが「又は」の関係であることを示す。
【0030】
本願の実施例において、同じ図面標記は同じ部材を示し、かつ簡潔にするために、異なる実施例において、同じ部材の詳細な説明を省略する。理解すべきことは、図示された本願の実施例における様々な部材の厚さ、長さ及び幅等の寸法、及び集積装置の全体の厚さ、長さ及び幅等の寸法は例示的な説明だけであり、本願を限定するものと見なすことができない。
【0031】
本願において存在する「複数」は、二つ以上(二つを含む)を指す。
【0032】
本願において、電池セルは、リチウムイオン二次電池セル、リチウムイオン一次電池セル、リチウム硫黄電池セル、ナトリウムイオン電池セルなどを含むことができ、本願の実施例はこれに限定されない。電池セルは、円柱体、扁平体、直方体又は他の形状等を呈することができ、本願の実施例はこれも限定しない。電池セルは、一般的にパッケージの方式で、柱状電池セル、方体角形電池セル及びソフトパック電池セルの三種類に分けられ、本願の実施例はこれも限定しない。
【0033】
電池セルは、正極シート、負極シート及びセパレータを含む電極組立体及び電解液を有する。電池セルは、主にリチウムイオンが正極シートと負極シートとの間を移動することにより動作する。正極シートは、正極集電体及び正極集電体の表面に塗布される正極活物質層を含む。正極集電体は、正極集電部及び正極集電部から突出した正極タブを含む。正極集電部は正極活物質層が塗布され、正極タブの少なくとも一部は正極活物質層が塗布されない。正極集電体の材料はアルミニウムであってもよい。正極活物質層は正極活物質を含み、正極活物質はコバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、三元リチウム又はマンガン酸リチウム等であってもよい。負極シートは負極集電体及び負極活物質層を含む。負極活物質層は負極集電体の表面に塗布される。負極集電体は負極集電部及び負極集電部から突出した負極タブを含む。負極集電部は負極活物質層が塗布され、負極タブの少なくとも一部は負極活物質層が塗布されない。負極集電体の材料は銅であってもよく、負極活物質層は負極活物質を含み、負極活物質は炭素又はシリコン等であってもよい。大電流で溶断しないことを保証するために、正極タブの数は複数でありかつ積層されており、負極タブの数は複数でありかつ積層されている。セパレータの材質はPP(polypropylene、ポリプロピレン)又はPE(polyethylene、ポリエチレン)等であってもよい。また、電極組立体は巻回式構造であってもよく、積層式構造であってもよく、本願の実施例はこれに限定されない。
【0034】
発明者らの発見としては、電池セルの製造過程において、電池の化成工程、即ち化学的及び電気化学反応を利用して電極組立体上の活物質を活性化し、電気化学的特性を有する正負極に変換する必要がある。化成過程において、電解液中の溶媒は分解し、分解した後の溶媒分子は電子、リチウムイオンと化学反応を起こし、負極活物質層の表面に一層の不動態化フィルムである固体電解質界面膜(Solid Electrolyte Interphase、SEI膜)を形成する。一部のリチウムイオンがSEI膜の形成に関与するため、負極シートから脱離されて正極シートに戻るリチウムイオンが減少し、それにより電池セルの初回のクーロン効率を低下させ、かつ電池セルのサイクル性能及び貯蓄性能も劣化する。電池セルの性能を向上させるために、負極シートにリチウム源を添加して負極シートにリチウムを補給し、例えば負極集電体の負極活物質が塗布されていない表面にリチウム補給層を設置することが考えられる。
【0035】
しかし、発明者らがさらに研究した発見としては、負極集電体の負極活物質層が塗布されていない表面にリチウム補給層を設置すると、リチウム補給層中のリチウムは、電圧差の作用下でリチウムイオンを形成して負極活物質層に挿入され、それにより負極活物質層の局所領域に過挿入が発生してリチウム析出、循環急激低下(rollover failure)及び電池セルの短絡等のリスクを引き起こす可能性がある。
【0036】
発明者らが発見した上記問題に基づいて、発明者らは電池セルの負極シートの構造を改善した。負極シートは、負極集電体、負極活物質層及びリチウム補給層を有する。第1の部分は前記正極シートから突出しており、第2の部分は正極シートと対向して設置されており、リチウム補給層は第1の部分の負極集電体から離れた少なくとも一部の表面に設置されている。当該リチウム補給層は、サイクル及び貯蔵過程においてリチウムイオンを徐々に放出し、かつ正極シートにおけるリチウムの消費を低減し、それにより電池セルの初回クーロン効率、サイクル性能及び貯蓄性能を改善することができる。
【0037】
本願の実施例に記載の技術案は、電池及び電池を使用する電気装置に適用される。
【0038】
電気装置は車両、携帯電話、携帯デバイス、ノートパソコン、船舶、宇宙船、電動玩具及び電動工具等であってもよい。車両は燃料自動車、ガス自動車又は新エネルギー自動車であってもよい。新エネルギー自動車は純粋な電気自動車、ハイブリッド自動車又は航続距離延長型自動車等であってもよい。宇宙船は飛行機、ロケット、スペースプレーン及び宇宙機等を含む。電動玩具は固定式又は移動式の電動玩具を含み、例えば、ゲーム機、電気自動車玩具、電動輪船玩具及び電動飛行機玩具等である。電動工具は金属切削電動工具、研磨電動工具、組立電動工具及び鉄道用電動工具を含み、例えば、電動ドリル、電動グラインダ、電動レンチ、電動ドライバ、電動ハンマ、衝撃ドリル、コンクリート振動器及び電動鉋等である。本願の実施例は上記電気装置を特別に制限しない。
【0039】
以下の実施例は説明を容易にするために、電気装置を車両とすることを例として説明する。
【0040】
図1は本願のいくつかの実施例に係る車両の構造概略図である。
図1に示すように、車両1の内部に電池2が設置されており、電池2は車両1の底部又は頭部又は尾部に設置されてもよい。電池2は車両1の給電に用いられ、例えば、車両1の操作電源とすることができる。
【0041】
車両1はコントローラ3及びモータ4をさらに含む。コントローラ3は電池2をモータ4に電力を供給するように制御するために用いられ、例えば、車両1の起動、ナビゲーション及び走行時の動作の電気需要に用いられる。
【0042】
本願のいくつかの実施例において、電池2は車両1の操作電源とするだけでなく、車両1の駆動電源としてもよく、燃料油又は天然ガスに代わって又は部分的に代わって車両1に駆動動力を提供する。
【0043】
図2は本願のいくつかの実施例に係る電池の爆発概略図である。
図2に示すように、電池2は箱体5及び電池セル(
図2に示されていない)を含み、電池セルは箱体5内に収容されている。
【0044】
箱体5は電池セルを収容するために用いられ、様々な構造であってもよい。いくつかの実施例において、箱体5は、互いにカバーされる第1の箱体部51及び第2の箱体部52を有し、第1の箱体部51と第2の箱体部52は共に電池セルを収容するための収容空間53を画定する。第2の箱体部52は一端が開口した中空構造であってもよく、第1の箱体部51は板状構造であり、そして、第1の箱体部51は第2の箱体部52の開口側にカバーされ、それにより収容空間53を有する箱体5を形成する。第1の箱体部51と第2の箱体部52はいずれも一側が開口した中空構造であってもよく、第1の箱体部51の開口は第2の箱体部52の開口側にカバーされ、それにより収容空間53を有する箱体5を形成する。当然のことながら、第1の箱体部51及び第2の箱体部52は、例えば、円柱体、直方体等の様々な形状であってもよい。
【0045】
第1の箱体部51と第2の箱体部52との接続後の密封性を向上させるために、第1の箱体部51と第2の箱体部52との間に、例えば、シーラント、シールリングなどのシール材が設置されてもよい。
【0046】
第1の箱体部51は第2の箱体部52の頂部にカバーされ、第1の箱体部51は上部箱体と呼ばれてもよく、第2の箱体部52は下部箱体と呼ばれてもよい。
【0047】
電池2において、電池セルは一つであってもよく、複数であってもよい。電池セルが複数であれば、複数の電池セルの間に直列接続又は並列接続又は混在接続が可能であり、混在接続とは複数の電池セルが直列接続及び並列接続で混在して接続されることを指す。複数の電池セルの間は直接的に直列接続又は並列接続又は混在接続されてもよく、さらに複数の電池セルで構成された全体を箱体5内に収容する。当然のことながら、複数の電池セルはまず直列接続又は並列接続又は混在接続されて電池モジュール6を構成し、複数の電池モジュール6はさらに直列接続又は並列接続又は混在接続されて全体に形成され、そして箱体5内に収容される。
【0048】
図3は
図2に示す電池モジュールの構造概略図である。
図3に示すように、いくつかの実施例において、電池セル7は複数であり、複数の電池セル7はまず直列接続又は並列接続又は混在接続されて電池モジュール6を構成する。複数の電池モジュール6はさらに直列接続又は並列接続又は混在接続されて全体に形成され、そして箱体内に収容されている。
【0049】
電池モジュール6における複数の電池セル7の間はバス部品により電気的接続を実現することができ、それにより電池モジュール6における複数の電池セル7の直列接続又は並列接続又は混在接続を実現する。
【0050】
図4は本願のいくつかの実施例に係る電池セルの爆発概略図である。
図5は本願のいくつかの実施例に係る電池セルの電極組立体の構造概略図である。
【0051】
図4及び
図5に示すように、本願の実施例に係る電池セル7は電極組立体10及びハウジング組立体20を含み、電極組立体10はハウジング組立体20内に収容されている。
【0052】
いくつかの実施例において、ハウジング組立体20は電解質、例えば電解液をさらに収容することに用いられる。ハウジング組立体20は様々な構造形態であってもよい。
【0053】
いくつかの実施例において、ハウジング組立体20はケース21及びカバー組立体22を含むことができる。ケース21は一側が開口した中空構造であり、カバー組立体22はケース21の開口部にカバーされかつ密封接続を形成し、それにより電極組立体10及び電解質を収容するための収容キャビティを形成する。
【0054】
ケース21は様々な形状であってもよく、例えば、円柱体、直方体等である。ケース21の形状は、電極組立体10の具体的な形状に応じて決定することができる。例えば、電極組立体10が円柱体構造であれば、ケース21は円柱体のケースを選択することができる。電極組立体10が直方体構造であれば、ケース21は直方体のケースを選択することができる。
【0055】
いくつかの実施例において、カバー組立体22は端部カバー23を有する。端部カバー23はケース21の開口部にカバーされている。端部カバー23は様々な構造であってもよく、例えば、端部カバー23は板状構造であり、一端が開口した中空構造などである。例示的には、
図4において、ケース21は直方体構造であり、端部カバー23は板状構造であり、端部カバー23はケース21の頂部の開口部にカバーされている。
【0056】
端部カバー23は絶縁材料(例えば、プラスチック)で製造されてもよく、導電性材料(例えば、金属)で製造されてもよい。端部カバー23が金属材料で製造された場合、カバー組立体22はさらに絶縁部材を含むことができる。絶縁部材は端部カバー23の電極組立体10に対向する側に位置し、それにより端部カバー23と電極組立体10を絶縁して仕切る。
【0057】
いくつかの実施例において、カバー組立体22は、端部カバー23に取り付けられた電極端子221をさらに含むことができる。電極端子221は二つであり、二つの電極端子221はそれぞれ正極電極端子及び負極電極端子として定義され、正極電極端子及び負極電極端子はいずれも電極組立体10と電気的に接続され、それにより電極組立体10が生成した電気エネルギーを出力する。
【0058】
いくつかの他の実施例において、ハウジング組立体20は他の構造であってもよい。例えば、ハウジング組立体20はケース21及び二つのカバー組立体22を有し、ケース21は対向する両側が開口した中空構造であり、一つのカバー組立体22はケース21の一つの開口部に対応してカバーされ、そして密封接続を形成し、それにより電極組立体10及び電解質を収容するための収容キャビティを形成する。このような構造において、一つのカバー組立体22に二つの電極端子221が設置され且つ他の一つのカバー組立体22に電極端子221が設置されなくてもよい、二つのカバー組立体22に一つの電極端子221がそれぞれ設置されてもよい。
【0059】
電池セル7において、ハウジング組立体20内に収容された電極組立体10は一つであってもよく、複数であってもよい。例示的には、
図4において、電極組立体10は四つである。
【0060】
いくつかの実施例において、電極組立体10は正極シート、負極シート及びセパレータを有する。電極組立体10は巻回式電極組立体、積層式電極組立体又は他の形態の電極組立体であってもよい。
【0061】
いくつかの実施例において、電極組立体10は巻回式電極組立体である。正極シート14、負極シート8及びセパレータ15はいずれも帯状構造である。本願の実施例は正極シート14、セパレータ15及び負極シート8を順に積層して二回以上巻回して電極組立体10を形成することができる。
図5は、巻回式電極組立体を示す。
【0062】
いくつかの他の実施例において、電極組立体10は積層式電極組立体である。具体的には、電極組立体10は複数の正極シート14及び複数の負極シート8を有し、正極シート14と負極シート8は交互に積層され、積層方向は正極シート14の厚さ方向と負極シート8の厚さ方向と平行である。
【0063】
電極組立体10の外形から見ると、電極組立体10は、本体部11と、本体部11に接続しているタブ部12とを有する。例示的には、本体部11は、本体部11のカバー組立体22に近い一端から延出している。
【0064】
いくつかの実施例において、タブ部12は二つであり、二つのタブ部12はそれぞれ正極タブ部及び負極タブ部として定義される。正極タブ部及び負極タブ部は本体部11の同じ端から延出してもよく、それぞれ本体部11の反対の両端から延出してもよい。
【0065】
本体部11は電極組立体10が充放電の機能を実現するコア部分である。タブ部12は本体部11が生成した電流を引き出すために用いられる。本体部11は、正極集電体の正極集電部と、正極活物質層と、負極集電体の負極集電部と、負極活物質層と、セパレータとを有する。正極タブ部は複数の正極タブを含み、負極タブ部は複数の負極タブを含む。
【0066】
タブ部12は、電極端子221に電気的に接続するためのものである。タブ部12は溶接等の方式により電極端子221に直接接続されてもよく、他の部材により電極端子221に間接的に接続されてもよい。例えば、電極組立体10は、電極端子221及びタブ部12を電気的に接続するための集電部材13をさらに有する。集電部材13は二つであり、二つの集電部材13はそれぞれ正極集電部材及び負極集電部材として定義され、正極集電部材は正極電極端子及び正極タブ部を電気的に接続するために用いられ、負極集電部材は負極電極端子及び負極タブ部を電気的に接続するために用いられる。電池セルに複数の電極組立体が設けられた場合、複数の電極組立体の正極集電部材は、一体的に設けられてもよく、複数の電極組立体の負極集電部材は一体的に設けられてもよい。
【0067】
図6は、本願のいくつかの実施例に係る電池セルの負極シートの構造概略図である。
図7は、
図6に示す負極シートがA-A線に沿って行った断面概略図である。
図8は、
図6に示す負極シートがB-B線に沿って行った断面概略図である。
【0068】
図5~
図8に示すように、本願の実施例に係る電池セルは正極シート及び負極シートを有する。負極シート8は、負極集電体81と、負極活物質層82と、リチウム補給層83とを有する。負極活物質層82は負極集電体81の少なくとも一つの表面に設置され、負極活物質層82は第1の部分821及び第1の部分821に接続している第2の部分822を含み、第1の部分821は正極シートから突出し、第2の部分822は正極シートと対向して設置されている。リチウム補給層83は、第1の部分821の負極集電体81から離れた少なくとも一部の表面に設けられている。
【0069】
負極集電体81は、その厚さ方向に対向する二つの表面を有し、負極活物質層82を負極集電体81の対向する二つの表面のうちのいずれか一方又は両方に設置することができる。例示的には、二つの表面は第1の表面811及び第2の表面812を含む。
【0070】
負極集電体81は、活物質を担持する役割を果たし、かつ電気化学反応により生成された電子を集めて外部回路に導き、それにより化学エネルギーを電気エネルギーに変換することを実現することができる。
【0071】
いくつかの実施例において、負極集電体81は、金属箔シート又は複合集電体を採用することができる。一例として、金属箔シートは銅箔を採用することができる。複合集電体は、高分子材料基材と、高分子材料基材の少なくとも一方の面に形成された金属層とを含んでいてもよい。複合集電体は、金属材料(銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金等)を高分子材料基材(例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)等の基材)上に形成することにより形成することができる。
【0072】
電池セルの充放電過程において、リチウムイオンは負極活物質層82内に繰り返して挿入・脱離し、電気化学的酸化/還元反応が発生し、それにより化学エネルギーと電気エネルギーとの間の変換を実現する。
【0073】
負極活物質層82は第1の部分821及び第2の部分822を含む。第1の部分821及び第2の部分822は負極活物質全体が負極集電体81に塗布されて形成され、第2の部分822は正極シートに対向して設置されている。正極シートから脱離されたリチウムは第2の部分822に挿入され、第2の部分822から脱離されたリチウムは正極シートに挿入することができるため、第2の部分822を電気化学反応に関与する反応領域とすることができる。第1の部分821は正極シートから突出しており、正極シートと対向して設置されず、第1の部分821を非反応領域とすることができる。
【0074】
いくつかの実施例において、負極活物質層82は本分野で公知の電池セルに用いられる負極活物質を採用することができる。一例として、負極活物質は、人造黒鉛、天然黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、ケイ素系材料、スズ系材料及びチタン酸リチウム等の材料のうちの少なくとも一種を含むことができる。ケイ素系材料は、単体ケイ素、ケイ素化合物、ケイ素炭素複合体、ケイ素窒素複合体及びケイ素合金から選択される少なくとも一種であってもよい。スズ系材料は単体スズ、スズ酸素化合物及びスズ合金から選択される少なくとも一種であってもよい。しかし、本願はこれらの材料に限定されず、さらに他の電池の負極活物質として使用可能な従来の材料を使用することができる。これらの負極活物質は、一種のみを単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0075】
リチウム補給層83は、負極活物質層82にリチウム補給を行うための金属リチウムを含む。リチウム補給層83は、第1の部分821の負極集電体81から離れた少なくとも一部の表面に設けられている。リチウムは、第1の部分821よりも水素に対する標準電極電位が小さいため、リチウム補給層83と第1の部分821との間に電圧差が存在している。リチウム補給層83は、第1の部分821の表面に設置されているため、両者は密着した状態である。電池セルに電解液を注入した後、電圧差の作用で、リチウム補給層83中のリチウムは電子を失って自由に移動するリチウムイオンになって第1の部分821に挿入してリチウム挿入化合物(リチウムを含む化合物)を形成する。この時、リチウム補給層83とリチウム挿入化合物を組み合わせて安定のリチウム補給源を形成する。この場合、リチウム補給層83が負極に相当し、第1の部分821が正極に相当し、リチウム補給層83と第1の部分821との間に電気回路が形成され、それにより短絡状態に相当する。上記過程において、リチウム補給層83の電位が低下し、それにより第2の部分822のリチウムイオンが第1の部分821に拡散して挿入されることを阻止し、リチウムが遅い速度で第2の部分822に拡散して挿入されることができるため、電池セルの初回クーロン効率、サイクル性能及び貯蓄性能を改善する。
【0076】
いくつかの例として、負極集電体81の一つの表面に負極活物質層82が設置されている。この場合、負極活物質層82は一層のみであり、リチウム補給層83は当該層の活物質層の全ての第1の部分821の表面に設置されてもよく、当該層の活物質層の一部の第1の部分821の表面のみに設置されてもよい。
【0077】
いくつかの他の例として、負極集電体81の二つの表面にいずれも負極活物質層82が設置されている。この場合、負極活物質層82は二層であり、リチウム補給層83はそのうちの一層の活物質層に設置されてもよい。具体的な設置方式は上記一例であり、ここでは説明しない。リチウム補給層83はさらに二層の活物質層に設置されてもよく、二層の活物質層上のリチウム補給層83の設置位置は独立して設置されてもよく、且つ各層の活物質層の設置方式は上記一例であり、ここでは説明しない。
【0078】
本願の実施例に係る電池セルによれば、第1の部分821にリチウム補給層83が設置され、リチウム補給層83中のリチウムは、第1の部分821よりも水素に対する標準電極電位が小さく、リチウム補給層83と第1の部分821との間に電圧差が存在している。電池セルに電解液を注入した後、リチウム補給層83と第1の部分821とが接触するため、両者の間に電気回路が形成されて短絡状態に相当し、リチウム補給層83中のリチウムが電子を失って自由に移動するリチウムイオンが第1の部分821に挿入され、次にリチウムが遅い速度で第2の部分822に拡散して挿入される。また、リチウム補給層83の電位が低下するため、第2の部分822のリチウムイオンが第1の部分821に拡散して挿入されることを阻止し、それにより電池セルの初回クーロン効率、サイクル性能及び貯蓄性能を改善する。
【0079】
VLiはリチウム補給層83の電位であり、V負は第1の部分821のリチウム挿入プラットフォーム電圧である。VLiがV負より大きい場合、即ち、リチウム補給層83の電位は第1の部分821のリチウム挿入プラットフォーム電圧より高く場合、この時にリチウム補給層83中のリチウムは第1の部分821内に挿入されることができず、かつ第1の部分821中のリチウムはリチウム補給層83に向かって拡散する傾向を有する。
【0080】
リチウム補給層83中のリチウムが第1の部分821へ安定して拡散することを保証するために、いくつかの実施例において、リチウム補給層83の理論容量であるCLiと第1の部分821のリチウム補給層83に対向して設置された部分の理論容量であるC1とは、CLiとC1との間が20%C1≦CLi≦120%C1の関係を満たす。本明細書において、理論容量は対応する材料のグラムキャパシティーに使用した材料の重量を乗算し、金属リチウムのグラムキャパシティーは業界内に3860mAh/gが知られている。第1の部分821のグラムキャパシティーは、組立バックル式ハーフセルを採用して藍電測定計で理論的なグラムキャパシティーを測定し、その理論グラムキャパシティーを単位面積の第1の部分821の負極活物質の重量を乗算して、対応するリチウム補給層の面積を乗算してその理論容量C1を得る。
【0081】
20%C1≦CLi≦120%C1である場合、VLiがV負より小さく、即ちリチウム補給層83の電位が第1の部分821のリチウム挿入プラットフォーム電圧より低い。この時、リチウム補給層83中のリチウムは、第1の部分821に安定して挿入されることができる。また、リチウム補給層83における第1の部分821に移動したリチウムの移動容量が負極活物質層82中のリチウムの容量減衰とマッチングし、リチウムの負極活物質層82での累積及びリチウム析出のリスクを低下させ、それによりリチウム補給の効果を向上させ、かつ電池セルの安全性能を保証する。好ましくは、90%C1≦CLi≦120%C1である場合、リチウム補給効果をさらに向上させることができる。
【0082】
いくつかの実施例において、負極集電体81は互いに対向する第1の表面811及び第2の表面812を含み、第1の表面811及び第2の表面812にいずれも負極活物質層82が設置されている。ここで、二つの負極活物質層82のうちの少なくとも一方の層の少なくとも一部の第1の部分821にリチウム補給層83が設置されている。リチウム補給層83の設置位置が相対的に多く、プロセス要求に応じてリチウム補給層83を適宜に設置することができる。
【0083】
理解されるように、二つの負極活物質層82のうちの一方の層の第1の部分821の表面にリチウム補給層83を設置してもよく、二つの負極活物質層82における第1の部分821の表面にいずれもリチウム補給層83を設置してもよい。ここで、少なくとも一部の第1の部分821とは、第1の部分821の全ての表面、又は第1の部分821の一部の表面を指す。
【0084】
好ましくは、二つの負極活物質層82の少なくとも一部の第1の部分821にいずれもリチウム補給層83が設置され、それぞれ二つの負極活物質層82にリチウムを補給し、リチウム補給効果をさらに向上させることができる。
【0085】
いくつかの例として、第1の部分821は第2の部分822の方向に指向し、第1の部分821は互いに対向する第1のサブ部分8211及び第2のサブ部分8212を含む。第2の部分822は第1のサブ部分8211及び第2のサブ部分8212を接続している。二つの負極活物質層82のうちの一方の層の第1のサブ部分8211にリチウム補給層83が設置されており、他方の層の第2のサブ部分8212にリチウム補給層83が設置されている。二つの負極活物質層82の異なる位置にそれぞれリチウムを補給し、電極組立体の構造、特に巻回式電極組立体を結合して針対性のリチウムを行うことができる。
図6に示すX方向は、第1の部分821が第2部分822に向かう方向を示している。
【0086】
巻回式電極組立体を例として説明し、正極シート、セパレータ及び負極シート8は巻回式構造を巻回して形成する。巻回後、第1のサブ部分8211と第2のサブ部分8212は巻回方向Yに沿って互いに対向し、第1のサブ部分8211は巻回軸線に近接して設置されており、かつ第1のサブ部分8211は負極集電体の正極シートから離れる一側に位置ており、巻回式構造内に位置している。第2のサブ部分8212は巻回軸線から離れて設置されており、第2のサブ部分8212は負極集電体の正極シートから離れる一側に位置しており、巻回式構造外に位置している。巻回時に、負極シート8は一回り以上空巻きすることができ、第1のサブ部分8211に対応する部分は空巻き領域とすることができる。また、巻き終わり時に、負極シート8は正極シートに対して一回り以上複数回巻くことができ、第2のサブ部分8212に対応する部分は巻き終わり領域とすることができ、それにより負極シート8は正極シートを被覆する。
図5に巻回式電極組立体の構造概略図を示す。
【0087】
具体的には、第1のサブ部分8211に対向して設置されたリチウム補給層83の理論容量はCAであり、第2のサブ部分8212に対向して設置されたリチウム補給層83の理論容量はCBであり、ここで、CA>CBである。巻回後の電極組立体内に電解液を有する。第1のサブ部分8211の位置は第2のサブ部分8212の位置よりもリチウムイオンの拡散に役立つため、CA>CBは、第1のサブ部分8211の負極活物質層82へのリチウムの移動容量を保証することができる。
【0088】
当然のことながら、負極シート8は正極シート及びセパレータと複合して積層構造を形成することもできる。第1のサブ部分8211と第2のサブ部分8212は、積層構造の長さ方向に沿って互いに対向してもよく、もちろん積層構造の幅方向に沿って互いに対向してもよい。
【0089】
負極シート8は二つの負極活物質層82を含み、各負極活物質層82はいずれも巻回方向Yに沿って互いに対向する第1のサブ部分8211及び第2のサブ部分8212を含む。第1のサブ部分8211は巻回軸線に近接して設置されており、第2のサブ部分8212は巻回軸線から離れて設置されている。二つの負極活物質層82のうちの一方の層の第1のサブ部分8211にリチウム補給層83が設置されおり、他方の層の第2のサブ部分8212にリチウム補給層83が設置されている。
【0090】
いくつかの実施例において、リチウム補給層83は金属リチウム層又はリチウム合金層を含む。
【0091】
金属リチウム層の金属リチウムのグラムキャパシティー及び純度が相対的に高く、副生成物を生成しにくく、それにより電池セルへの悪影響を低減する。例示的には、金属リチウム層はリチウム箔層又はリチウム粉末層を含む。リチウム箔層は、より加工して負極活物質層82に形成され、選択されることができる。
【0092】
リチウム合金層は、負極活物質層82にリチウム源を補足することができる以外に、リチウム合金層中の他の金属により負極シート8に対して強度を補強する作用を果たすことができる。例示的には、リチウム合金層はアルミニウムリチウム合金層、マグネシウムリチウム合金層又はスズリチウム合金層を含む。
【0093】
いくつかの実施例において、負極活物質層82は負極活物質を含む。負極活物質は人造黒鉛、天然黒鉛及びケイ素系材料のうちの一種又は複数種を含む。
【0094】
リチウム補給層83におけるリチウムの水素に対する標準電極電位は-3.05V程度であり、リチウムが挿入されていない人造黒鉛、リチウムが挿入されていない負極活物質(人造黒鉛、天然黒鉛又はケイ素系材料)の水素に対する標準電極電位は0V程度であり、リチウムと上記リチウムが挿入されていない負極活物質との間に3V程度の電圧差を有する。リチウム補給層83中のリチウムが電子を失ってリチウムイオンを形成した後、第1の部分821に挿入されて負極活物質とLiCx(x≧6)又は/及びLixSiy(x>0、y>0)を形成することができる。この時、リチウム補給層83、LiCx又は/及びLixSiyが組み合わせて安定のリチウム補給源を形成し、次にリチウムは遅い速度で第2の部分822内に拡散して挿入される。リチウム補給層83の電位が低下するため、第2の部分822のリチウムイオンが第1の部分821のリチウムイオンに拡散して挿入されることを効果的に阻止し、それにより電池セルの性能を改善することができる。
【0095】
いくつかの実施例において、負極活物質層82は接着剤をさらに含むことができる。接着剤はスチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAAS)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、ポリメタクリル酸(PMAA)及びカルボキシメチルキトサン(CMCS)から選択される少なくとも一種であってもよい。
【0096】
いくつかの実施例において、負極活物質層82は導電剤をさらに含むことができる。導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーから選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0097】
いくつかの実施例において、負極活物質層82は、例えば増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na))等の他の助剤をさらに含むことができる。
【0098】
実施例
【0099】
以下、本願の実施例を説明する。以下に説明する実施例は例示的なものであり、本願を解釈するために用いられ、本願を限定するものと理解すべきではない。実施例において具体的な技術又は条件が明記しない場合、本分野の文献に記載された技術又は条件に応じて又は製品の明細書に従って実施される。使用された試薬又は機器は製造業者を明記しておらず、いずれも市販されている従来の製品である。
【0100】
実施例1~実施例10及び比較例1
【0101】
1.正極シートの製造
【0102】
正極集電体としては、厚さが8μmであるアルミニウム箔を用いた。
【0103】
正極活物質であるリン酸鉄リチウム、導電剤であるアセチレンブラック、接着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を96:2:2の重量比で適量のN-メチルピロリドン(NMP)溶媒に十分に撹拌して混合させ、均一な正極スラリーを形成させる。正極スラリーを正極集電体の表面に塗布し、乾燥等の工程を経た後、正極シートを得る。
【0104】
2.負極シートの製造
【0105】
負極集電体としては、厚さが8μmである銅箔を用いた。
【0106】
負極活物質である人造黒鉛、導電性カーボンブラック、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウムCMC、接着剤であるスチレンブタジエンラテックスSBRを質量比96.5:1.0:1.0:1.5で混合させ、溶剤である脱イオン水を添加し、真空撹拌機の作用で体系が均一になるまで撹拌し、負極スラリーを得る。負極スラリーを負極集電体である銅箔上に均一に塗布し、負極活物質層を形成し、負極活物質層の第1のサブ部分及び/又は第2のサブ部分にリチウムイオン補足層としてリチウム箔を貼り付け、負極シートを得る。リチウム箔の具体的な設置位置を表1に示す。
【0107】
3.電解液の調製
【0108】
エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)を体積比1:1:1で混合させて有機溶媒を得て、次に十分に乾燥したリチウム塩LiPF6を混合後の有機溶媒に溶解し、濃度が1mol/Lの電解液を調製する。
【0109】
4.リチウムイオン電池の製造
【0110】
正極シート、セパレータフィルム(PP/PE/PP複合フィルム)、負極シートを順に積層して設置し、その後にコアに巻き取って包装ハウジングに装入し、上記電解液をコアに注入し、その後に密封、静置、熱間冷間プレス、化成等の工程を経て、リチウムイオン電池を得る。
【0111】
【0112】
性能試験
【0113】
試験過程
【0114】
1.リチウムイオン電池の貯蓄性能試験
【0115】
45℃で、実施例及び比較例で製造されたリチウムイオン電池を100%SOCで貯蓄し、前の60日に15日ごとにデータを一回収集し、60日後に30日ごとに容量が80%まで減衰するまで一回データを収集し、同時に30日、60日、180日にそれぞれ一つのリチウムイオン電池を解体してリチウム補給層に対して元素分析試験を行う。ここで、各実施例及び比較例は、いずれも複数のリチウムイオン電池を製造する。
【0116】
2.リチウムイオン電池のサイクル性能試験
【0117】
45℃で、実施例及び比較例で製造されたリチウムイオン電池を1Cレートで充電し、1Cレートで放電し、リチウムイオン電池の容量が初期容量の80%まで減衰するまで充放電サイクル試験を行う。サイクル数を記録し、同時に100サイクル、300サイクル、600サイクルまで循環する時にそれぞれ一つのリチウムイオン電池を解体してリチウム補給層に対して元素分析試験を行う。
【0118】
3.リチウムイオン電池におけるリチウム補給層の元素分析
【0119】
負極シートを直径が14mmのウェハに打ち抜き、6~8枚のウェハの合計重量を秤取し、負極集電体の重量を減算して負極活物質層の合計重量を取得し、次に元素分析加熱板により解消する試験方法でシート中のリチウム元素の含有量を測定する。
【0120】
4.元素分析板の酸解消試験
【0121】
デバイスとして南京瑞尼克GS-Iを採用し、負極シートをその上に置き、180℃の解消温度で解消して元溶液を得て、その後に定容し、次にICP-OES機器で定量分析を行い、リチウム元素の含有量を取得する。
【0122】
試験結果
【0123】
試験結果を表2に示す。
【0124】
【0125】
表2のデータから分かるように、比較例1と比較して、本願の実施例は、負極活物質層の第1のサブ部分及び/又は第2のサブ部分にリチウム補給層を設置し、リチウムイオン電池の貯蔵性能及びサイクル性能を顕著に改善することができる。
【0126】
実施例3~実施例8から分かるように、CLiとC1とは、20%C1≦CLi≦120%C1、特に90%C1≦CLi≦120%C1の関係を満たすと、リチウムイオン電池の貯蓄性能及びサイクル性能を顕著に改善することができる。
【0127】
実施例10と比較して、実施例9におけるCA>CBはリチウムイオン電池の貯蔵性能及びサイクル性能を顕著に改善することができる。
【0128】
好ましい実施例を参照して本願を説明したが、本願の範囲から逸脱することなく、それに様々な改良を行うことができかつ等価物でその中の部材を置換することができる。特に、構造衝突が存在しない限り、各実施例に言及された各技術的特徴はいずれも任意の方式で組み合わせることができる。本願は本明細書に開示された特定の実施例に限定されるものではなく、請求の範囲内にカバーされる全ての技術案を含む。