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特許7642866測距装置、判定装置、判定方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】測距装置、判定装置、判定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/497 20060101AFI20250303BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20250303BHJP
   G01S 7/4865 20200101ALI20250303BHJP
   G01S 17/10 20200101ALI20250303BHJP
【FI】
G01S7/497
G01C3/06 120Q
G01C3/06 140
G01S7/4865
G01S17/10
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023567772
(86)(22)【出願日】2022-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2022045634
(87)【国際公開番号】W WO2023112884
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2021205251
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520001073
【氏名又は名称】パイオニアスマートセンシングイノベーションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100127236
【弁理士】
【氏名又は名称】天城 聡
(72)【発明者】
【氏名】細井 研一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮鍋 庄悟
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 剛
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-518551(JP,A)
【文献】特開2021-060397(JP,A)
【文献】特開2017-090382(JP,A)
【文献】特開平07-280925(JP,A)
【文献】特開2013-096742(JP,A)
【文献】特開2005-010094(JP,A)
【文献】特開2004-271404(JP,A)
【文献】国際公開第2020/206602(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111830523(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/64
13/00 - 17/95
G01C 3/00 - 3/32
G01J 1/00 - 1/60
11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出射されたパルス光を、透過部材を介して出射し、対象物で反射された前記パルス光を受光部で検出する測距装置であって、
前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和したパルス受光波形である飽和波形のうち、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮想ピーク位置を特定し、前記仮想ピーク位置と予め定められた基準位置とを比較することにより、前記透過部材に付着物があるか否かの判定、および当該測距装置から至近距離に前記対象物があるか否かの判定の少なくとも一方を行う判定部を備える
測距装置。
【請求項2】
光源から出射されたパルス光を、透過部材を介して出射し、対象物で反射された前記パルス光を受光部で検出する測距装置であって、
前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和したパルス受光波形である飽和波形のうち、パルスの立ち上がり部の傾きを算出し、前記傾きが、所定の傾きより大きいか否かを判定することで、前記透過部材に付着物があるか否かの判定、および当該測距装置から至近距離に前記対象物があるか否かの判定の少なくとも一方を行う判定部を備える
測距装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の測距装置において、
前記飽和波形は前記パルス光の出射後、前記受光部における初めてのパルス受光によるものである
測距装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の測距装置において、
前記判定部は、前記飽和波形を用いて、前記透過部材に付着物があるのか、至近距離に前記対象物があるのかを判別する
測距装置。
【請求項5】
請求項1に記載の測距装置において、
前記判定部は、
前記飽和波形のうち、前記複数のデータ点をフィッティングした曲線の頂点の、時間軸上の位置を前記仮想ピーク位置として特定し、
前記飽和の開始点は、前記飽和波形のうち、受光値が、前記パルス受光波形が飽和していると判定するための第2閾値を、初めて超えた点である
測距装置。
【請求項6】
請求項1または5に記載の測距装置において、
前記基準位置は、前記透過部材に付着物がなく、かつ、当該測距装置から至近距離に前記対象物がない状態における前記測距装置の内部反射光の受光ピークに基づいて定められた位置である
測距装置。
【請求項7】
請求項に記載の測距装置において、
前記曲線はガウス曲線、または二次曲線である
測距装置。
【請求項8】
請求項2に記載の測距装置において、
前記判定部は、
前記飽和波形のうち受光値が初めて第3閾値を超えた点を含む複数の立ち上がりサンプル点に対して線形近似を行うことで前記傾きを算出する
測距装置。
【請求項9】
光源から出射されたパルス光を、透過部材を介して出射し、対象物で反射された前記パルス光を受光部で検出する測距装置の前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和したパルス受光波形である飽和波形のうち、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮想ピーク位置を特定し、前記仮想ピーク位置と予め定められた基準位置とを比較することにより、前記透過部材に付着物があるか否かの判定、および当該測距装置から至近距離に前記対象物があるか否かの判定の少なくとも一方を行う判定部を備える
判定装置。
【請求項10】
光源から出射されたパルス光を、透過部材を介して出射し、対象物で反射された前記パルス光を受光部で検出する測距装置の前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和したパルス受光波形である飽和波形のうち、パルスの立ち上がり部の傾きを算出し、前記傾きが、所定の傾きより大きいか否かを判定することで、前記透過部材に付着物があるか否かの判定、および当該測距装置から至近距離に前記対象物があるか否かの判定の少なくとも一方を行う判定部を備える
判定装置。
【請求項11】
請求項9に記載の判定装置において、
前記判定部は、
前記飽和波形のうち、前記複数のデータ点をフィッティングした曲線の頂点の、時間軸上の位置を前記仮想ピーク位置として特定し、
前記飽和の開始点は、前記飽和波形のうち、受光値が、前記パルス受光波形が飽和していると判定するための第2閾値を、初めて超えた点である
判定装置。
【請求項12】
請求項10に記載の判定装置において、
前記判定部は、
前記飽和波形のうち受光値が初めて第3閾値を超えた点を含む複数の立ち上がりサンプル点に対して線形近似を行うことで前記傾きを算出する
判定装置。
【請求項13】
コンピュータによって実行される判定方法であって、
光源から出射されたパルス光を、透過部材を介して出射し、対象物で反射された前記パルス光を受光部で検出する測距装置の前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和したパルス受光波形である飽和波形のうち、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮想ピーク位置を特定し、前記仮想ピーク位置と予め定められた基準位置とを比較することにより、前記透過部材に付着物があるか否かの判定、および当該測距装置から至近距離に前記対象物があるか否かの判定の少なくとも一方を行う
判定方法。
【請求項14】
コンピュータによって実行される判定方法であって、
光源から出射されたパルス光を、透過部材を介して出射し、対象物で反射された前記パルス光を受光部で検出する測距装置の前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和したパルス受光波形である飽和波形のうち、パルスの立ち上がり部の傾きを算出し、前記傾きが、所定の傾きより大きいか否かを判定することで、前記透過部材に付着物があるか否かの判定、および当該測距装置から至近距離に前記対象物があるか否かの判定の少なくとも一方を行う
判定方法。
【請求項15】
請求項13に記載の判定方法において、
前記飽和波形のうち、前記複数のデータ点をフィッティングした曲線の頂点の、時間軸上の位置を前記仮想ピーク位置として特定し、
前記飽和の開始点は、前記飽和波形のうち、受光値が、前記パルス受光波形が飽和していると判定するための第2閾値を、初めて超えた点である
判定方法。
【請求項16】
請求項14に記載の判定方法において、
前記飽和波形のうち受光値が初めて第3閾値を超えた点を含む複数の立ち上がりサンプル点に対して線形近似を行うことで前記傾きを算出する
判定方法。
【請求項17】
コンピュータを、請求項9または10に記載の判定装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距装置、判定装置、判定方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
対象物からの反射光を受光して測定を行う装置において、反射光の強度が強すぎると受光信号が飽和してしまい、測定精度の低下につながる。
【0003】
特許文献1には、飽和した受信信号の立ち上がりエッジを検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2021-518551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、受光信号が飽和した場合、測定精度を改善するためには、飽和の原因を判定することが重要である。特許文献1では、信号の飽和の原因を判定できるものではなかった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題としては、対象物からの反射光を受光する測定装置において、受光信号が飽和した場合に、その原因に関する情報を得ることが一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、
光源から出射されたパルス光を、透過部材を介して出射し、対象物で反射された前記パルス光を受光部で検出する測距装置であって、
前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和したパルス受光波形である飽和波形を用いて、前記透過部材に付着物があるか否かの判定、および当該測距装置から至近距離に前記対象物があるか否かの判定の少なくとも一方を行う判定部を備える
測距装置である。
【0008】
請求項8に記載の発明は、
光源から出射されたパルス光を、透過部材を介して出射し、対象物で反射された前記パルス光を受光部で検出する測距装置の前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和したパルス受光波形である飽和波形を用いて、前記透過部材に付着物があるか否かの判定、および当該測距装置から至近距離に前記対象物があるか否かの判定の少なくとも一方を行う判定部を備える
判定装置である。
【0009】
請求項9に記載の発明は、
コンピュータによって実行される判定方法であって、
光源から出射されたパルス光を、透過部材を介して出射し、対象物で反射された前記パルス光を受光部で検出する測距装置の前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和したパルス受光波形である飽和波形を用いて、前記透過部材に付着物があるか否かの判定、および当該測距装置から至近距離に前記対象物があるか否かの判定の少なくとも一方を行う
判定方法である。
【0010】
請求項10に記載の発明は、
コンピュータを、請求項8に記載の判定装置として機能させるためのプログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係る測距装置の構成を例示する図である。
図2】第1の実施形態に係る測距装置の構成を詳しく例示する図である。
図3】第1の実施形態に係る測距装置のハードウエア構成を例示する図である。
図4】受光部が飽和しない場合の、受光部の受光信号の波形を例示する図である。
図5】内部反射ピークが飽和した場合の受光信号の例を示す図である。
図6】測距装置から至近距離に対象物が存在する場合の受光信号の例を示す図である。
図7】透過部材への付着物により内部反射ピークが飽和した場合の波形を例示する図である。
図8】測距装置の至近距離に対象物があることによりオブジェクトピークが飽和した場合の波形を例示する図である。
図9】第1の実施形態に係る判定方法の流れを例示するフローチャートである。
図10】第1の実施形態に係る判定部が行う処理の流れを詳しく例示するフローチャートである。
図11】第1の実施形態に係る判定部が行う処理について説明するための図である。
図12】第1の実施形態に係る判定部が行う処理について説明するための図である。
図13】第2の実施形態に係る判定部が行う処理の流れを例示するフローチャートである。
図14】第2の実施形態に係る判定部が行う判定処理を説明するための図である。
図15】第2の実施形態に係る判定部が行う判定処理を説明するための図である。
図16】第3の実施形態に係る判定装置の構成を例示するブロック図である。
図17】第3の実施形態に係る判定装置のハードウエア構成を例示する図である。
図18】望遠鏡筒部が取り付けられた測距装置の構成例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る測距装置10の構成を例示する図である。本図では、光の経路を破線矢印で模式的に示している。本実施形態に係る測距装置10は、光源14から出射されたパルス光を、透過部材20を介して出射し、対象物30で反射されたパルス光を受光部180で検出する測距装置10である。測距装置10は、判定部121を備える。判定部121は、飽和波形を用いて、透過部材20に付着物があるか否かの判定、および測距装置10から至近距離に対象物30があるか否かの判定の少なくとも一方を行う。ここで、飽和波形とは、受光部180により生成され、一部において受光信号が飽和したパルス受光波形である。以下に詳しく説明する。
【0014】
本図の例において、測距装置10は、光源14、透過部材20、および受光部180を備える。
【0015】
図2は、本実施形態に係る測距装置10の構成を詳しく例示する図である。本図において、破線矢印は光の経路を模式的に示している。本図を参照し、測距装置10の構成について詳しく説明する。
【0016】
測距装置10は、たとえばパルス光の出射タイミングと反射光(反射したパルス光)の受光タイミングとの差に基づいて、測距装置10から走査範囲160内にある物体(対象物30)までの距離を測定する装置である。対象物30は特に限定されず、たとえば生物、非生物、移動体、静止体等でありえる。パルス光はたとえば赤外光等の光である。また、パルス光はたとえばレーザパルスである。測距装置10に備えられた光源14から出力され、透過部材20を通って測距装置10の外部へ出射されたパルス光は、物体で反射されて少なくとも一部が測距装置10に向かって戻る。そして、反射光が再び透過部材20を通って測距装置10内に入射する。測距装置10に入射した反射光は受光部180で受光され、強度が検出される。ここで、測距装置10では光源14からパルス光が出射されてから反射光が受光部180で検出されるまでの時間が測定される。そして、測距装置10に備えられた制御部120は、測定された時間とパルス光の伝搬速さを用いて測距装置10と物体との距離を算出する。測距装置10はたとえばライダー(LIDAR:Laser Imaging Detection and Ranging, Laser Illuminated Detection and Ranging またはLiDAR:Light Detection and Ranging)装置である。
【0017】
光源14はパルス光を出射する。光源14は、たとえばレーザーダイオードである。受光部180は受光素子18および検出回路181を含む。受光素子18は、測距装置10に入射したパルス光および後述する内部反射光を受光する。受光素子18は、たとえばアバランシェフォトダイオード(APD)等のフォトダイオードである。
【0018】
本図の例において、測距装置10は、可動ミラー16をさらに備える。可動ミラー16は、たとえば一軸可動または二軸可動のMEMSミラーである。可動ミラー16の反射面の向きを変えることにより、測距装置10から出射されるパルス光の出射方向を変化させることができる。可動ミラー16が二軸可動のMEMSミラーである場合、可動ミラー16を二軸駆動する事により、所定の範囲内をパルス光でラスタスキャンすることができる。
【0019】
制御部120は、複数のパルス光による測定結果を含む点群データを生成する。たとえば、走査範囲160内をラスタスキャンする場合、第1の方向161に光の出射方向を変化させる事によりライン状の走査を行う。そして、第2の方向162に光の出射方向を変化させながら複数のライン状走査を行う事により、走査範囲160内の複数の測定結果を含む点群データを生成する事ができる。本図の例において、第1の方向161と第2の方向162とは直交している。
【0020】
一度のラスタスキャンで生成される点群データの単位をフレームと呼ぶ。ひとつのフレームについて測定が終わると、光の出射方向は初期位置に戻り、次のフレームの測定が行われる。こうして、繰り返しフレームが生成される。点群データにおいては、パルス光で測定された距離と、そのパルス光の出射方向を示す情報とが関連付けられている。または、点群データは、パルス光の反射点を示す三次元座標を含んでもよい。制御部120は、算出された距離と、各パルス光を出射する時の可動ミラー16の角度を示す情報とを用いて点群データを生成する。生成された点群データは測距装置10の外部に出力されても良いし、制御部120からアクセス可能な記憶装置に保持されても良い。
【0021】
本図の例において、測距装置10は孔付きミラー15、および集光レンズ13をさらに備える。光源14から出力されたパルス光は孔付きミラー15の孔を通過し、可動ミラー16で反射された後に測距装置10から出射される。また、測距装置10に入射した反射光は可動ミラー16および孔付きミラー15で反射された後、集光レンズ13を介して受光部180に入射する。なお、測距装置10は、コリメートレンズやミラー等をさらに含んでもよい。
【0022】
制御部120は、発光部140、受光部180、および可動反射部164を制御することができる(図3参照)。発光部140、受光部180、および可動反射部164は測距装置10に含まれる。発光部140は光源14および駆動回路141を含む。受光部180は受光素子18および検出回路181を含む。可動反射部164は可動ミラー16および駆動回路163を含む。駆動回路141は、制御部120からの制御信号に基づき光源14を発光させるための回路であり、たとえばスイッチング回路や容量素子を含んで構成される。検出回路181は、I-Vコンバータや増幅器を含み、受光素子18による光の検出強度を示す信号を出力する。制御部120は、受光部180から受光信号を取得し、受光信号に対してピークを検出する処理を行うことにより、対象物30からの反射光に由来するピークを検出する。そして、検出したピークの受光タイミングと、光の出射タイミングとを用いて、上述したように測距装置10から走査範囲160内の対象物30までの距離を算出する。また、測距装置10は判定部121を備え、受光部180での受光信号が飽和した場合に、飽和の原因に関する判定を行う。
【0023】
図3は、本実施形態に係る測距装置10のハードウエア構成を例示する図である。制御部120および判定部121は、集積回路80を用いて実装されている。集積回路80は、例えば SoC(System On Chip)である。
【0024】
集積回路80は、バス802、プロセッサ804、メモリ806、ストレージデバイス808、入出力インタフェース810、及びネットワークインタフェース812を有する。バス802は、プロセッサ804、メモリ806、ストレージデバイス808、入出力インタフェース810、及びネットワークインタフェース812が、相互にデータを送受信するためのデータ伝送路である。ただし、プロセッサ804などを互いに接続する方法は、バス接続に限定されない。プロセッサ804は、マイクロプロセッサなどを用いて実現される演算処理装置である。メモリ806は、RAM(Random Access Memory)などを用いて実現されるメモリである。ストレージデバイス808は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュメモリなどを用いて実現されるストレージデバイスである。
【0025】
入出力インタフェース810は、集積回路80を周辺デバイスと接続するためのインタフェースである。本図において、入出力インタフェース810には光源14の駆動回路141、受光素子18の検出回路181、および可動ミラー16の駆動回路163が接続されている。
【0026】
ネットワークインタフェース812は、集積回路80を通信網に接続するためのインタフェースである。この通信網は、例えば CAN(Controller Area Network)、Ethernet、LVDS(Low Voltage Differential Signaling)等の通信網である。なお、ネットワークインタフェース812が通信網に接続する方法は、無線接続であってもよいし、有線接続であってもよい。
【0027】
ストレージデバイス808は、制御部120および判定部121の機能を実現するためのプログラムモジュールを記憶している。プロセッサ804は、このプログラムモジュールをメモリ806に読み出して実行することで、制御部120および判定部121の機能を実現する。
【0028】
集積回路80のハードウエア構成は本図に示した構成に限定されない。例えば、プログラムモジュールはメモリ806に格納されてもよい。この場合、集積回路80は、ストレージデバイス808を備えていなくてもよい。
【0029】
図4から図6は、受光部180により生成される受光信号の例を示す図である。受光信号は、検出回路181から出力され、制御部120に入力される信号である。図4から図6の例において、受光素子18での受光強度が大きいほど正方向に大きな受光信号が出力される。なお、受光強度に対する受光信号の極性等は本図の例に限定されない。たとえば、受光部180は、受光素子18での受光強度が大きいほど負方向に大きな受光信号が出力される構成を有しても良い。以下の説明においても、処理等における極性は適宜設定される。図4から図6の例において、受光部180の飽和レベルを破線で示している。受光部180の飽和レベルとは、受光部180から出力可能な最大の信号レベルであり、このレベルを超える光の強度は、受光信号に正しく反映されない。図4から図6を参照し、内部反射光および対象物30からの反射光による受光ピークについて以下に説明する。
【0030】
測距装置10において、光源14から出力された光は図1に示すように主に透過部材20を介して測距装置10の外部に出射される。しかし、光源14から出力された光の少なくとも一部は、測距装置10の内部で反射されて内部反射光となる。内部反射光は受光部180で受光される。この内部反射光には透過部材20で反射された光も含まれる。また、透過部材20への付着物が存在した場合、内部反射光にはその付着物に起因した反射光が含まれる。
【0031】
透過部材20は測距装置10の内側と外側を仕切っている、光を透過する部材である。透過部材20はたとえばガラスまたは樹脂からなる。透過部材20の少なくとも一つの面は測距装置10の外部の空間にさらされており、汚れや雨滴等が付着し得る。付着物に起因した反射光には、たとえば、透過部材20と付着物との界面で反射された光、付着物の内部で反射された光、付着物と空気との界面で反射された光を含む。受光部180は、内部反射光と、対象物30からの反射光とを受光する。なお、対象物30は透過部材20への付着物ではないもの、すなわち透過部材20に接していないものとする。
【0032】
図4は、受光部180が飽和しない場合の、受光部180の受光信号の波形を例示する図である。上述した内部反射光は、光源14からの光出射の直後に受光部180で受光される。一方、対象物30からの反射光は測距装置10から対象物30までの距離に応じたタイミングで受光部180により受光される。対象物30が測距装置10から十分遠い場合、受光部180から出力される受光信号には、内部反射光の受光によるピーク(以下、「内部反射ピーク」とも呼ぶ)と、対象物30からの反射光の受光によるピーク(以下、「オブジェクトピーク」とも呼ぶ)とが互いに離れた状態で現れる。すなわちこの場合、光の出射後の受光信号における最初のピークは内部反射ピークであり、2つ目以後のピークがオブジェクトピークであるといえる。ただし、対象物30が測距装置10に近いほど、これらのピークは互いに近くなる。
【0033】
図5は、内部反射ピークが飽和した場合の例である。透過部材20に付着物がある場合、内部反射光の受光によるピーク強度が受光部180の検出レンジを越え、本図のように受光部180の受光信号が飽和することがある。本図の例において、内部反射光を受光すると、受光信号が立ち上がり、飽和する。そして飽和状態を脱するとゼロレベル(基準レベル)に戻り、検出回路181からはさらに負の極性の信号値が出力される。受光信号は受光素子18および検出回路181の回路特性を反映した信号であり、回路特性に起因して本図のように負の受光信号が出力されることがあり得る。そして受光信号は極小値をとった後、徐々にゼロレベルへ戻る。
【0034】
本図の例において、対象物30は測距装置10から十分離れており、飽和した内部反射ピークとオブジェクトピークとは分離して現れている。
【0035】
図6は、測距装置10から至近距離に対象物30が存在する場合の受光信号を例示する図である。測距装置10から至近距離に対象物30が存在する場合、その反射光は高強度となり、受光部180が飽和する。また、測距装置10と対象物30が近いことで、測距装置10からの光の出射直後に対象物30からの反射光が受光される。その結果、飽和したオブジェクトピークと、内部反射光ピークとが一つのピークに足し合わされた飽和ピークが、受光信号に現れる。
【0036】
パルス光の出射後、受光部における初めてのパルス受光によるピークが飽和した場合、そのピークは、図5のように透過部材20への付着物により内部反射ピークが飽和したものである場合と、図6のように、至近距離に対象物30があることによりオブジェクトピークが飽和したものである場合とがある。付着物が原因である場合には、付着物を取り除くことが必要であり、至近距離に対象物30がある場合には、測距装置10から対象物30を離す必要がある。または、たとえば測距装置10が車両等の移動体に取り付けられている場合には、至近距離に対象物30があることを認識し、衝突回避等の必要な動作を行う必要がある。このように、原因によって対処方法が異なるため、飽和の原因を判定することが必要である。判定部121は、飽和波形を用いて、透過部材20に付着物があるか否かの判定、および測距装置10から至近距離に対象物30があるか否かの判定の少なくとも一方を行う。
【0037】
なお、図4から図6では、オブジェクトピークが一つである場合を例示したが、一つの出射パルスに対して複数のオブジェクトピークが検出されるケースもある。パルス光が距離の異なる複数の対象物30で反射されることがあるからである。その場合、図6の例においても飽和ピークの後にさらに一つ以上のオブジェクトピークが検出されることとなる。また、透過部材20の付着物により出射光が大きく遮られる場合や、測定可能距離内に対象物30が存在しない場合等、受光部180が対象物30からの反射光を受光しないケースもある。その場合、図5の例においてオブジェクトピークが検出されないこととなる。すなわち、単に、飽和した第1ピーク後にオブジェクトピークがさらに検出されるか否かという点によって、飽和の原因を判定する事はできない。なお、第1ピークとは、パルス光の出射後、最初の受光ピークを意味する。
【0038】
なお、以後では、透過部材20に付着物がなく、かつ、測距装置10から至近距離に対象物30がない状態における測距装置10の内部反射光を特に、初期内部反射光と呼ぶ。また、透過部材20に付着物がなく、かつ、測距装置10から至近距離に対象物30がない状態における測距装置10の内部反射光の受光ピーク(たとえば図4に示した状態の内部反射ピーク)を特に、初期内部反射ピークと呼ぶ。初期内部反射ピークの位置(パルス光の出射タイミングからの経過時間)は、たとえば透過部材20に付着物がなく、かつ、測距装置10から至近距離に対象物30がない状態で予め測定しておくことにより、把握できる。
【0039】
図7は、透過部材20への付着物により内部反射ピークが飽和した場合の波形を例示する図であり、図8は、測距装置10の至近距離に対象物30があることによりオブジェクトピークが飽和した場合の波形を例示する図である。図7および図8の飽和波形はそれぞれ、図5および図6の第1ピークに対応する。図7および図8を参照し、各飽和波形について説明する。
【0040】
図7では、受光波形に重ねて、初期内部反射ピークと、透過部材20への付着物により増大した仮想的な内部反射ピークとを破線で示している。なお、仮想的な内部反射ピークとは、仮に受光部180が飽和しなかったと仮定した場合に想定される波形である。透過部材20に付着物が生じると、内部反射光の強度が増大する。初期内部反射ピークの成分と、仮想的な内部反射ピークの成分とを比較すると、ピーク位置はほぼ同じであり、ピーク強度のみが変化する。仮想的な内部反射ピークのピーク強度は受光部180の飽和レベルを超えて大きくなる。実際の受光信号では、飽和波形が出力される。
【0041】
図8では、内部反射ピークの成分と、測距装置10から至近距離にある対象物30からの反射光による仮想的なオブジェクトピークの成分とを破線で示している。なお、仮想的なオブジェクトピークの成分とは、仮に受光部180が飽和しなかったと仮定した場合に想定されるオブジェクトピークの波形である。透過部材20に付着物がない場合、内部反射ピークの成分は、初期内部反射ピークの成分と同じとみなせる。そして、内部反射ピークの成分と、仮想的なオブジェクトピークの成分とを比較すると、ピーク位置がずれている。具体的には、内部反射ピークの成分のピーク位置は、仮想的なオブジェクトピークの成分のピーク位置よりも前にある(すなわちパルス光の出射タイミングに近い)。対象物30は透過部材20には接しておらず、対象物30からの反射光は内部反射光よりも、受光までにわずかに時間がかかるからである。そして、仮想的なオブジェクトピークの成分のピーク強度は内部反射ピークの成分のピーク強度よりも大きく、受光部180の飽和を生じさせる原因となる。実際の受光信号では、内部反射ピークの成分と、オブジェクトピークの成分とが足し合わされた結果としての飽和波形が出力される。
【0042】
ここで、飽和後には受光部180に蓄積された電荷の放出等の影響で尾引が生じる。したがって、飽和が生じたことにより受光信号のピーク幅は増大する。一方、飽和状態に至るまでの信号、すなわち、飽和波形の立ち上がり部分は、受光強度を正しく反映していると考えられる。したがって、飽和波形における飽和の開始点の位置は、飽和する成分のピーク位置、すなわち図7における仮想的な内部反射ピークのピーク位置、および図8における仮想的なオブジェクトピークの成分のピーク位置を反映している。本実施形態に係る判定部121は、このような特徴を用いて飽和の原因に関する判定を行う。判定部121が行う判定処理について、以下に詳しく説明する。
【0043】
本実施形態に係る判定方法は、コンピュータによって実行される判定方法である。本実施形態に係る判定方法では、測距装置10の受光部180により生成され、一部において受光信号が飽和したパルス受光波形である飽和波形を用いて、透過部材20に付着物があるか否かの判定、および測距装置10から至近距離に対象物30があるか否かの判定の少なくとも一方を行う。測距装置10は、光源14から出射されたパルス光を、透過部材20を介して出射し、対象物30で反射されたパルス光を受光部180で検出する装置である。
【0044】
図9は、本実施形態に係る判定方法の流れを例示するフローチャートである。本実施形態に係る判定方法は、飽和波形を取得するステップ(S500)および、透過部材20に付着物があるか否かの判定、および測距装置10から至近距離に対象物30があるか否かの判定の少なくとも一方を行うステップ(S510)を含む。本判定方法は、判定部121により実行される。
【0045】
本実施形態に係る判定部121は、飽和波形を用いて、透過部材20に付着物があるのか、至近距離に対象物30があるのかを判別する。ただし、判定部121は、透過部材20に付着物があるか否かの判定のみを行っても良いし、至近距離に対象物30があるか否かの判定のみを行っても良い。判定部121が判定に用いる飽和波形は、パルス光の出射後、受光部180における初めてのパルス受光によるものである。
【0046】
判定部121は、飽和波形のうち、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮想ピーク位置を特定する。たとえば、判定部121は、複数のデータ点を通るガウス曲線、または二次曲線のピーク位置を仮想ピーク位置として特定する。そして、仮想ピーク位置と予め定められた基準位置とを比較することにより、透過部材20に付着物があるか否かの判定、および測距装置10から至近距離に対象物30があるか否かの判定の少なくとも一方を行う。ここで基準位置は、透過部材20に付着物がなく、かつ、測距装置10から至近距離に対象物30がない状態における測距装置の内部反射光の受光ピークに基づいて定められた位置である。すなわち、基準位置は上述した初期内部反射光ピークのピーク位置に基づいて定められる。基準位置はたとえば初期内部反射光ピークのピーク位置である。または、誤差等を加味して、基準位置は初期内部反射光ピークのピーク位置に対し所定の値を加えた位置(すなわち、後ろにずらしたタイミング)とすることができる。基準位置は、パルス光出射のタイミングからの経過時間として定められる。また、基準位置はパルス光の出射方向、すなわち可動ミラー16の角度毎に定められる。可動ミラー16の角度によって内部反射の生じ方が異なるからである。判定部121は、判定に用いる飽和波形が得られた際のパルス光の出射角度に対応する基準位置を用いて判定を行う。
【0047】
なお、判定部121は、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮想ピーク位置を特定する代わりに、飽和の終了点を含む複数のデータ点を用いて仮想ピーク位置を特定してもよい。ただし、上述したとおり、飽和の開始点の方が飽和の終了点よりも、飽和するピークの成分の位置をより正確に反映しているため、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いることが好ましい。
【0048】
図10は、本実施形態に係る判定部121が行う処理の流れを詳しく例示するフローチャートである。図11および図12は、本実施形態に係る判定部121が行う処理について説明するための図である。図11および図12は、飽和波形73を用いた判定の過程を示している。
【0049】
判定部121は測距装置10でパルス光が出射されると、出射から所定時間内の受光結果である受光信号を取得する(S11)。判定部121は受光信号を受光部180から取得しても良いし、制御部120から取得しても良い。受光信号は、所定の間隔でサンプリングされた時系列の受光値で構成されている。受光値は、受光部180における受光強度を示している。判定部121は、受光信号を取得すると、パルス光の出射後、最初のパルス受光による受光波形が飽和しているか否かを判定する(S12)。具体的には判定部121は、パルス光の出射後、予め定められた第1閾値を超える受光値が初めて第1基準数以上続いた場合、それらの受光値が最初のパルス受光によるものと判定する。そして、最初のパルス受光において、少なくとも一部の受光値が予め定められた第2閾値を超えた場合に、最初のパルス受光による受光波形が飽和していると判定する(S12のYes)。一方、最初のパルス受光による受光波形が飽和していると判定されなかった場合(S12のNo)、判定部121はそのパルス光出射に対する処理を終了する。ここで、第1閾値は受光部180のノイズレベルをわずかに超える値である。第2閾値は、受光部180の飽和レベルよりわずかに小さい値である。
【0050】
なお、最初のパルス受光による受光波形が飽和しているか否かの判定は制御部120で行われても良い。そして、最初のパルス受光による受光波形が飽和していると判定された場合にのみ、判定部121がその飽和波形を示す情報を制御部120から取得してもよい。
【0051】
最初のパルス受光による受光波形が飽和していると判定されると(S12のYes)、判定部121は、飽和の開始点を特定する(S13)。具体的には、判定部121は、受光値が初めて第2閾値を超えた点(受光値)を、飽和の開始点70とする。次いで、判定部121は、飽和の開始点70を含む複数のエッジサンプル点を特定する(S14)。図11および図12の例において、開始点70の前後の点(受光値)71と、開始点70とを合わせて複数のエッジサンプル点としている。すなわち、本例において判定部121は3つのエッジサンプル点を特定する。ただし、判定部121は4つ以上のエッジサンプル点を特定しても良い。複数のエッジサンプル点は、飽和の開始点70の一つ以上前の点と一つ以上後の点を含むことが好ましい。飽和波形を構成する複数の時系列の受光値のうち、複数のエッジサンプル点は必ずしも隣り合う点でなくてもよい。飽和波形の形状の特徴を適切に抽出できるよう、間引かれていても良い。
【0052】
判定部121は次いで、複数のエッジサンプル点を通る曲線75を特定する(S15)。上述した通り判定部121は、たとえば複数のエッジサンプル点を通るガウス曲線、または二次曲線を特定する。複数のエッジサンプル点を通る曲線は、既存のフィッティング処理技術等を用いて特定できる。そして、判定部121は特定した曲線75のピーク位置を仮想ピーク位置として特定する(S16)。
【0053】
そして判定部121は、特定した仮想ピーク位置が基準位置以前であるか否かを判定する(S17)。基準位置を示す情報は予め判定部121からアクセス可能な記憶部(たとえばストレージデバイス808)に保持されており、判定部121は記憶部からその情報を読み出して判定に用いる事ができる。
【0054】
仮想ピーク位置が基準位置以前である場合(S17のYes)、判定部121は、透過部材20に付着物があると判定する(S18)。または判定部121は測距装置10から至近距離に対象物30がないと判定する。一方、仮想ピーク位置が基準位置以前でない場合(S17のNo)、判定部121は、測距装置10から至近距離に対象物30があると判定する(S19)。または、判定部121が透過部材20に付着物がないと判定する。そして、そのパルス光出射に対する処理を終了する。なお、仮想ピーク位置が基準位置以前であるとは、仮想ピーク位置が基準位置よりパルス光の出射タイミングに近い、または仮想ピーク位置が基準位置と同じであることを意味する。判定部121は、パルス光の出射毎にこれらの処理を行う。
【0055】
判定部121はさらに、判定結果を判定部121からアクセス可能な記憶部に保持させても良いし、ディスプレイによる表示やスピーカーからの音声として判定結果を出力させても良い。たとえば判定部121は、透過部材20に付着物があると判定した場合に、透過部材20をクリーニングすることを促すための情報をディスプレイやスピーカーに出力しても良い。また判定部121は、測距装置10から至近距離に対象物30があると判定した場合に、至近距離の対象物30を取り除くことを促すための情報をディスプレイやスピーカーに出力しても良い。測距装置10が車両等の移動体に取り付けられている場合、判定部121は、至近距離にある対象物30を回避するための制御信号を出力しても良い。
【0056】
(変形例)
第1の実施形態の変形例について以下に説明する。本変形例に係る測距装置10は、測距装置10の光学系の構成に応じて、判定部121が判定に用いる基準位置を特定する点を除いて上述した測距装置10と同じである。
【0057】
図18は、望遠鏡筒部200が取り付けられた測距装置10の構成例を模式的に示す図である。望遠鏡筒部200は測距装置10において脱着可能である。望遠鏡筒部200は、望遠レンズ21と、その外側に設けられた透過部材20とを含む。測距装置10が望遠鏡筒部200を含む場合、含まない場合に比べて、光源14で出射されてから透過部材20で反射され、受光部180に入射するまでの光路長は、長くなる。したがって、測距装置10が望遠鏡筒部200を含む場合と含まない場合とで、異なる基準位置を用いて判定を行うことが好ましい。そうすることで、判定精度を高めることができる。具体的には、測距装置10が望遠鏡筒部200を含む場合に用いるべき基準位置は、含まない場合に用いるべき基準位置よりも後ろ(すなわち、出射タイミングからの時間が長い)である。
【0058】
具体的には、望遠鏡筒部200の構造に基づいて、両方の場合の上記光路長を計算し、その差分を測距装置10が望遠鏡筒部200を含まない場合の基準位置に加えることで、測距装置10が望遠鏡筒部200を含む場合の基準位置を決定することができる。そして、判定部121からアクセス可能な記憶部には、測距装置10が望遠鏡筒部200を含む場合に用いるべき基準位置と、含まない場合に用いるべき基準位置とを予め保持させておく。また、予めユーザ等が望遠鏡筒部200の有無を測距装置10に対して入力し、判定部121がこの情報を取得する。ユーザ等は、望遠鏡筒部200の脱着を行った場合には望遠鏡筒部200の有無を更新する入力を行っても良い。そして、判定部121は望遠鏡筒部200の有無に基づいて、記憶部から用いるべき基準位置を読み出し、S17での判定に用いる。
【0059】
なお、判定部121は、望遠鏡筒部200の有無に基づいて基準位置を補正しても良い。この場合、たとえば上述した光路長の差分を補正パラメータとして、予め記憶部に保持させておく。そして、判定部121は、望遠鏡筒部200が測距装置10に取り付けられていることを示す情報を取得した場合、記憶部から補正パラメータを読み出して取得する。そして、基準位置に補助パラメータを加えることで、基準位置を補正し、補正後の基準位置を用いてS17での判定を行う。
【0060】
以上、本実施形態によれば、判定部121は、飽和波形を用いて、透過部材20に付着物があるか否かの判定、および測距装置10から至近距離に対象物30があるか否かの判定の少なくとも一方を行う。したがって、受光信号が飽和した場合に、その原因に関する情報を得ることができる。
【0061】
(第2の実施形態)
図13は、第2の実施形態に係る判定部121が行う処理の流れを例示するフローチャートである。図14および図15は、本実施形態に係る判定部121が行う判定処理を説明するための図である。図14は透過部材20に付着物がある場合の例を示し、図15は、測距装置10から至近距離に対象物30がある場合の例を示している。本実施形態に係る測距装置10は、判定部121が、飽和波形のうち、パルスの立ち上がり部の傾きを用いて、透過部材20に付着物があるか否かの判定、および測距装置10から至近距離に対象物30があるか否かの判定の少なくとも一方を行う点を除いて第1の実施形態に係る測距装置10と同じである。以下に詳しく説明する。
【0062】
図7図8を比較して分かるように、透過部材20に付着物がある場合の飽和波形と、測距装置10から至近距離に対象物30がある場合の飽和波形とでは、パルスの立ち上がり部の形が異なる。具体的には、透過部材20に付着物がある場合の飽和波形よりも、至近距離に対象物30がある場合の飽和波形において、立ち上がり初めの角度が小さくなる。これは、至近距離に対象物30がある場合の飽和ピークにおいて、内部反射ピークの成分が初めに現れ始めるからである。したがって、判定部121は、飽和波形のうち、パルスの立ち上がり部の傾きを用いて、飽和の原因に関する判定を行える。
【0063】
判定部121は測距装置10でパルス光が出射されると、第1の実施形態と同様にS11およびS12の処理を行う。なお、本実施形態においても、最初のパルス受光による受光波形が飽和しているか否かの判定は制御部120で行われても良い。そして、最初のパルス受光による受光波形が飽和していると判定された場合にのみ、判定部121がその飽和波形を示す情報を制御部120から取得してもよい。
【0064】
最初のパルス受光による受光波形が飽和していると判定されなかった場合(S12のNo)、判定部121はそのパルス光出射に対する処理を終了する。一方、最初のパルス受光による受光波形が飽和していると判定されると(S12のYes)、判定部121は、パルス(ピーク)の立ち上がり点77aを特定する(S23)。具体的には判定部121は、受光値が初めて第3閾値を超えた点を、パルスの立ち上がり点77aとする。第3閾値は、受光部180のノイズレベルよりもわずかに大きい値である。
【0065】
次いで、判定部121は、複数の立ち上がりサンプル点を特定する(S24)。たとえば複数の立ち上がりサンプル点は立ち上がりの根本の点76を含んでもよいし、含まなくても良い。立ち上がりの根本の点76は、初めて第3閾値を超えた点77aの一つ前の点である。また、複数の立ち上がりサンプル点は、その飽和波形で初めて飽和レベルを超えた点78を含んでも良いし、含まなくても良い。また、複数の立ち上がりサンプル点は、その飽和波形の立ち上がり部において、第3閾値より大きく飽和レベルより小さい中間部分の点(図14における点77a,77bおよび、図15における点77a,77b,77c)のうち一以上を含むことができる。また、複数の立ち上がりサンプル点は、立ち上がりの根本の点76、中間部分の点77a,77b,・・・、および初めて飽和レベルを超えた点78の全てを含んでも良い。判定部121は予め定められたルールに従って、複数の立ち上がりサンプル点を特定する。
【0066】
たとえば、図14および図15の例において、点76と、点76に続く2つの点77a,77bとを合わせて複数の立ち上がりサンプル点とする。すなわち、本例において判定部121は3つの立ち上がりサンプル点を特定する。ただし、判定部121は2つのみの立ち上がりサンプル点を特定しても良いし、4つ以上の立ち上がりサンプル点を特定しても良い。複数の立ち上がりサンプル点の取り方の例としては、点76から点77a、点76から点77b、点76から点78、点77aから点77b、点77aから点78、中間部分の最後の点(図14における点77bおよび、図15における点77c)から点78が挙げられる。
【0067】
判定部121は次いで、複数の立ち上がりサンプル点を用いて立ち上がり部の傾きを算出する(S25)。立ち上がり部の傾きは、たとえば複数の立ち上がりサンプル点に対して線形近似等を行うことで算出できる。そして判定部121は、算出した傾きが、所定の傾きより大きいか否かを判定する(S26)。算出した傾きが、所定の傾きより大きい場合(S26のYes)、判定部121は、透過部材20に付着物があると判定する(S18)。または判定部121は測距装置10から至近距離に対象物30がないと判定する。一方、算出した傾きが、所定の傾きより大きくない場合(S26のNo)、判定部121は、測距装置10から至近距離に対象物30があると判定する(S19)。または、判定部121が透過部材20に付着物がないと判定する。そして、そのパルス光出射に対する処理を終了する。判定部121は、パルス光の出射毎にこれらの処理を行う。
【0068】
なお、判定部121は、S24からS26の処理を行う代わりに、立ち上がりの根本の点76から、飽和の開始点78までの点(受光値)の数を用いて判定を行っても良い。点76から点78の数が、所定の数以上である場合に、判定部121は、透過部材20に付着物がある、または判定部121は測距装置10から至近距離に対象物30がないと判定する。一方、立ち上がりの根本の点76から飽和の開始点78までの点の数が、所定の数以上でない場合、判定部121は、透過部材20に付着物がない、または判定部121は測距装置10から至近距離に対象物30があると判定する。飽和の開始点は、第1の実施形態のS13に関する説明で上述した通りである。
【0069】
また、判定部121は複数の立ち上がりサンプル点を用いて複数の傾きを算出し、複数の傾きに基づいて、透過部材20に付着物があるか否かの判定、および測距装置10から至近距離に対象物30があるか否かの判定の少なくとも一方を行っても良い。この場合具体的には、複数の立ち上がりサンプル点が3点以上ある場合、隣り合う2点の組み合わせ毎に傾きを算出する。たとえば点76と点77aとの間の傾き、および点77aと点77bとの間の傾きとをそれぞれ算出する。そして、算出した複数の傾きの平均を算出し、その平均が所定の基準以上である場合に、判定部121は、透過部材20に付着物があると判定する(S18)。または判定部121は測距装置10から至近距離に対象物30がないと判定する。一方、算出した平均が、所定の傾きより大きくない場合(S26のNo)、判定部121は、測距装置10から至近距離に対象物30があると判定する(S19)。または、判定部121が透過部材20に付着物がないと判定する。
【0070】
また、判定部121は第1の実施形態の判定方法と本実施形態に係る判定方法とを組み合わせて用いても良い。すなわち、両方の方法で判定を行い、少なくとも一方で、測距装置10から至近距離に対象物30があると判定された場合に、測距装置10から至近距離に対象物30があるとの最終判定をしても良い。
【0071】
以上、本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の作用および効果が得られる。
【0072】
(第3の実施形態)
図16は、第3の実施形態に係る判定装置50の構成を例示するブロック図である。本実施形態に係る判定装置50は、判定部510を備える。判定部510は、飽和波形を用いて、透過部材20に付着物があるか否かの判定、および測距装置10から至近距離に対象物30があるか否かの判定の少なくとも一方を行う。飽和波形は、測距装置10の受光部180により生成され、一部において受光信号が飽和したパルス受光波形である。測距装置10は、光源14から出射されたパルス光を、透過部材20を介して出射し、対象物30で反射されたパルス光を受光部180で検出する装置である。以下に詳しく説明する。
【0073】
本実施形態に係る測距装置10は、判定部121を備えていない点を除いて、第1および第2の実施形態の少なくともいずれかに係る測距装置10と同じである。本実施形態に係る判定装置50は、測距装置10から、飽和の原因に関する判定に必要な情報を取得して判定を行う。判定部510は、第1および第2の実施形態の少なくとも一方に係る判定部121と同じ処理を行う。
【0074】
たとえば判定装置50は、測距装置10から受光部180による受光結果を示す情報を取得する。そして、判定部510は、受光結果を示す情報に基づいて、飽和の原因に関する判定を行う。判定結果は判定装置50からディスプレイやスピーカー等へ出力されても良い。ここで、ディスプレイやスピーカーは、判定装置50に接続されていても良いし、測距装置10に接続されていても良い。また、判定結果は、判定装置50からアクセス可能な記憶部に保持されても良い。この記憶部は判定装置50に含まれた記憶部(たとえば後述するストレージデバイス908)であっても良いし、判定装置50の外部に設けられた記憶部であっても良い。
【0075】
図17は、本実施形態に係る判定装置50のハードウエア構成を例示する図である。判定装置50は、集積回路90を用いて実装されている。集積回路90は、例えば SoC(System On Chip)、Personal Computer(PC)、サーバマシン、タブレット端末、又はスマートフォンなどである。
【0076】
集積回路90は、バス902、プロセッサ904、メモリ906、ストレージデバイス908、入出力インタフェース910、及びネットワークインタフェース912を有する。バス902は、プロセッサ904、メモリ906、ストレージデバイス908、入出力インタフェース910、及びネットワークインタフェース912が、相互にデータを送受信するためのデータ伝送路である。ただし、プロセッサ904などを互いに接続する方法は、バス接続に限定されない。プロセッサ904は、マイクロプロセッサなどを用いて実現される演算処理装置である。メモリ906は、RAM(Random Access Memory)などを用いて実現されるメモリである。ストレージデバイス908は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュメモリなどを用いて実現されるストレージデバイスである。
【0077】
入出力インタフェース910は、集積回路90を周辺デバイスと接続するためのインタフェースである。入出力インタフェース910にはたとえば測距装置10が接続されている。ただし、測距装置10は通信網を介して集積回路90に接続されていても良い。
【0078】
ネットワークインタフェース912は、集積回路90を通信網に接続するためのインタフェースである。この通信網は、例えば CAN(Controller Area Network)通信網である。なお、ネットワークインタフェース912が通信網に接続する方法は、無線接続であってもよいし、有線接続であってもよい。
【0079】
ストレージデバイス908は、判定部510の機能を実現するためのプログラムモジュールを記憶している。プロセッサ904は、このプログラムモジュールをメモリ906に読み出して実行することで、判定部510の機能を実現する。
【0080】
集積回路90のハードウエア構成は本図に示した構成に限定されない。例えば、プログラムモジュールはメモリ906に格納されてもよい。この場合、集積回路90は、ストレージデバイス908を備えていなくてもよい。
【0081】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の作用および効果が得られる。
【0082】
以上、図面を参照して実施形態及び実施例について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0083】
この出願は、2021年12月17日に出願された日本出願特願2021-205251号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 光源から出射されたパルス光を、透過部材を介して出射し、対象物で反射された前記パルス光を受光部で検出する測距装置であって、
前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和したパルス受光波形である飽和波形を用いて、前記透過部材に付着物があるか否かの判定、および当該測距装置から至近距離に前記対象物があるか否かの判定の少なくとも一方を行う判定部を備える
測距装置。
2. 1.に記載の測距装置において、
前記飽和波形は前記パルス光の出射後、前記受光部における初めてのパルス受光によるものである
測距装置。
3. 1.または2.に記載の測距装置において、
前記判定部は、前記飽和波形を用いて、前記透過部材に付着物があるのか、至近距離に前記対象物があるのかを判別する
測距装置。
4. 1.から3.のいずれか一つに記載の測距装置において、
前記判定部は、
前記飽和波形のうち、飽和の開始点を含む複数のデータ点を用いて仮想ピーク位置を特定し、
前記仮想ピーク位置と予め定められた基準位置とを比較することにより、前記透過部材に付着物があるか否かの判定、および当該測距装置から至近距離に前記対象物があるか否かの判定の少なくとも一方を行う
測距装置。
5. 4.に記載の測距装置において、
前記基準位置は、前記透過部材に付着物がなく、かつ、当該測距装置から至近距離に前記対象物がない状態における前記測距装置の内部反射光の受光ピークに基づいて定められた位置である
測距装置。
6. 4.または5.に記載の測距装置において、
前記判定部は、前記複数のデータ点を通るガウス曲線、または二次曲線のピーク位置を前記仮想ピーク位置として特定する
測距装置。
7. 1.から6.のいずれか一つに記載の測距装置において、
前記判定部は、前記飽和波形のうち、パルスの立ち上がり部の傾きを用いて、前記透過部材に付着物があるか否かの判定、および当該測距装置から至近距離に前記対象物があるか否かの判定の少なくとも一方を行う
測距装置。
8. 光源から出射されたパルス光を、透過部材を介して出射し、対象物で反射された前記パルス光を受光部で検出する測距装置の前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和したパルス受光波形である飽和波形を用いて、前記透過部材に付着物があるか否かの判定、および当該測距装置から至近距離に前記対象物があるか否かの判定の少なくとも一方を行う判定部を備える
判定装置。
9. コンピュータによって実行される判定方法であって、
光源から出射されたパルス光を、透過部材を介して出射し、対象物で反射された前記パルス光を受光部で検出する測距装置の前記受光部により生成され、一部において受光信号が飽和したパルス受光波形である飽和波形を用いて、前記透過部材に付着物があるか否かの判定、および当該測距装置から至近距離に前記対象物があるか否かの判定の少なくとも一方を行う
判定方法。
10. コンピュータを、8.に記載の判定装置として機能させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0084】
10 測距装置
14 光源
16 可動ミラー
20 透過部材
30 対象物
50 判定装置
80 集積回路
90 集積回路
120 制御部
121 判定部
140 発光部
141 駆動回路
160 走査範囲
163 駆動回路
164 可動反射部
180 受光部
181 検出回路
510 判定部
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