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特許7642885バランスばねの有効長の自律的調整デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】バランスばねの有効長の自律的調整デバイス
(51)【国際特許分類】
   G04B 18/06 20060101AFI20250303BHJP
【FI】
G04B18/06
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024017668
(22)【出願日】2024-02-08
(65)【公開番号】P2024126007
(43)【公開日】2024-09-19
【審査請求日】2024-02-08
(31)【優先権主張番号】23160134.5
(32)【優先日】2023-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】パウロ・ブラーボ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレス・カベサス ジュラン
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-113535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 18/00-18/08
G04B 17/06-17/10
G04B 17/20-17/22
G04B 17/32-17/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バランススパイラルタイプの発振器(4、5)のための、スパイラル(5)の有効長の自律的調整デバイス(6)であって、
前記自律的調整デバイス(6)は、計時器用ムーブメント(2)のプレート(13)に取り付けられるテンプ受(12)と、前記スパイラル(5)の有効長を変更する手段とを備え、
前記テンプ受(12)においてバランス軸が回転し、
前記スパイラル(5)には、前記バランス軸に固定された内端と、バランスばねスタッドホルダー(10)に留められたバランスばねスタッド(8)に固定された外端とがあり、
前記バランスばねスタッドホルダー(10)は、前記バランス軸と同心に回転可能に前記テンプ受(12)に取り付けられ、
前記スパイラルの有効長を変更する手段は、第1のアーム(60)と、第2のアーム(61)と、弾性バイアス手段(62、63、64、65)と、2つの慣性ブロック(40、41)と、弾性戻し手段(520、5201)とを備え、
前記第1のアーム(60)は、前記自律的調整デバイスの休み位置と補正位置の間を動くことができ、
前記第1のアーム(60)には、第1の自由端(600)と、前記バランスばねスタッドホルダー(10)に取り付けられた第1の対のピン(19)と連係する第2の端(601)があり、
前記第1の対のピン(19)は、バランス軸を中心としてみた回転位置が前記バランスばねスタッド(8)に対して角度的にオフセットされており、
前記第2のアーム(61)は、前記自律的調整デバイスの休み位置と補正位置の間を動くことができ、
前記第2のアームには、第1の自由端(610)と、前記バランスばねスタッドホルダー(10)に取り付けられた第2の対のピン(19’)と連係する第2の端(611)とがあり、
前記第2の対のピン(19’)は、前記バランス軸を中心としてみた回転位置が前記第1の対のピン(19)と前記バランスばねスタッド(8)に対して角度的にオフセットされており、
前記弾性バイアス手段(62、63、64、65)は、前記第1のアーム(60)及び前記第2のアーム(62)前記補正位置に戻すために前記第1のアーム(60)及び前記第2のアーム(61)に弾性作用を与えるように構成しており、
前記2つの慣性ブロック(40、41)はそれぞれ、直交平面内を並進運動することができ、
前記2つの慣性ブロック(40、41)は、重力に応じて並進運動するように構成しており、
前記2つの慣性ブロック(40、41)のうち、少なくとも1つの前記慣性ブロック(40、41)の運動によって、第1のカム(30)が取り付けられた軸(20)が回転し、
前記第1のカム(30)の回転によって、前記アーム(60)と第2のアーム(61)を運動させ、
2のカム(31)は、前記第2のアーム(61)と連係して前記第2のアーム(61)を並進運動させて、前記スパイラルに作用して同時に前記スパイラル(5)の有効長を変更するように構成しており、
前記弾性戻し手段(520、5201)は、前記慣性ブロック(40、41)を前記補正位置に戻すために前記慣性ブロック(40、41)に弾性作用を与えるように構成している
ことを特徴とする自律的調整デバイス(6)。
【請求項2】
前記2つの慣性ブロックにはそれぞれ、前記軸(20)に固定されたピニオンと連係するように構成している歯付きセクターがある
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項3】
前記弾性戻し手段は、前記2つの慣性ブロック(40、41)のそれぞれの各端に配置される一対のばねのリーフ(520、5201)の形態である
ことを特徴とする請求項2に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項4】
前記第1のカム(30)及び前記第2のカム(31)は、外側輪郭があるラジアルカムである
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項5】
前記第1のカム(30)及び前記第2のカム(31)は、互いに対して角度的にオフセットされている
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項6】
前記自律的調整デバイス(6)の休み位置において、前記第1のカム(30の平坦な部分が、前記第1のアーム(60と接触しており、前記第2のカム(31)の平坦な部分が、前記第2のアーム(61)と接触しており、
前記自律的調整デバイス(6)の前記補正位置において、前記第1のカム(30部分が、前記第1のアーム(60)と接触し、前記第2のカム(31)の角部分が、前記第2のアーム(61)と接触している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項7】
記慣性ブロック(40、41)の位置にかかわらず、前記第1のカム(30)は前記第1のアーム(60)の第1の自由端(600と常に接触し、前記第2のカム(31)は前記第2のアーム(61)の第1の自由端(610)と常に接触している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項8】
前記第1のアーム(60)の第1の自由端(600)には、弾性変形可能な調整手段があり、
前記調整手段は、第1の端がアームに固定され別の端が自由であるばねのリーフの形であり、
前記第1のアーム(60)の第1の自由端は、バイアスされており前記第1のアーム(60)の長さを調整するように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項9】
前記第2のアーム(61)の前記自由端(610)は、弾性変形可能な第1の調整手段を備え、
前記調整手段は、第1の端が前記アームに固定され別の端が自由であるばねのリーフの形態であり、
前記第2のアームの第1の自由端は、バイアスされており前記第2のアーム(61)の長さを調整するように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項10】
前記自律的調整デバイス(6)は、弾性応力を調整するための第2の調整手段を備え、
前記第2の調整手段は、ねじの形態であり、
前記ねじは、前記自由端を通過し、前記アームに支えられる
ことを特徴とする請求項8に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項11】
前記第1の対のピン(19)は、第1の支持体(8’)を介して前記バランスばねスタッドホルダー(10)に留められており、
前記アーム(60)は、2つの前記ピン(19)の間を前記アーム(60)が摺動して、前記補正位置において、前記スパイラルの外側コイルと接触するように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項12】
前記第2の対のピン(19’)は、第2の支持体(8”)を介して前記バランスばねスタッドホルダー(10)に留められており、
前記アーム(61)は、2つの前記ピン(19)の間を通過して、補正位置において、前記スパイラルの側コイルと接触するように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項13】
前記慣性ブロック(40、41)は、平行六面体の形状である
ことを特徴とする請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)。
【請求項14】
バランススパイラルタイプの発振器(4、5)と、請求項1に記載の自律的調整デバイス(6)とを備える
ことを特徴とする計時器用ムーブメント(2)。
【請求項15】
請求項14に記載の計時器用ムーブメント(2)を備える
ことを特徴とする計時器(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バランススパイラルタイプの発振器のための、スパイラル(ぜんまい)の有効長の自律的調整デバイスに関する。
【0002】
本発明は、さらに、スパイラルの有効長の自律的調整デバイスと、バランススパイラルタイプの発振器とを備える計時器用ムーブメントに関する。
【0003】
本発明は、さらに、計時器、特に、計時器用ムーブメントを備える携行型時計(例、腕時計、懐中時計)、に関する。
【背景技術】
【0004】
バランススパイラルタイプの機械式発振器を備える携行型時計の分野において、スパイラルの有効長を手動で調整するための機構が知られている。
【0005】
例えば、一般的な手動式の調整機構において、スパイラルの外端は、コックに固定されたバランスばねスタッドホルダーに留められたバランスばねスタッドによって不動化される。バランスばねスタッドホルダーのまわりを回転可能に運動可能なインデックスを備えて、スパイラルの有効長を調整し、これによって、バランスばねの振動数を調整することができる。このインデックスは、一般的には2つのアームを備える、レバーであり、このレバーは、バランス軸の座標を中心として回転する。例えば、インデックスの第1のアームには、2つのピンがあり、その間にてスパイラルが自由になっている。インデックスの第2のアームを手動で操作して、バランス軸を中心とする所定の角度分インデックスを回転させることができる。これによって、カウント点の実際の位置を変更することができる。インデックスが回転すると、スパイラルの有効長が短縮又は増加する。しかし、このような手動調整デバイスには、対応する計時器用ムーブメントの向きに応じて地球の重力がバランススパイラルの振動の振動数に影響を与えてしまうという課題がある。したがって、特に、携行型時計が水平位置であるときと垂直位置であるときの間で、稼働におけるかなりのばらつきがあることがある。また、ピンの間のクリアランスのためにスパイラルがピンの間を動くと、バランスばねの振動がその有効長の乱れを発生させてしまい、これによって、バランススパイラルセットの振動の振動数においてわずかな変動を発生させてしまう。
【0006】
重力の悪影響を抑えるために、特にスイス特許文献CH705605B1によって、スパイラルの有効長を調整するためのデバイスを実装する手法が知られており、これにおいては、スパイラルの有効長を定めるためにスパイラルの終端部分をクランプするように意図されたクランプ手段をインデックスが担持している。また、スパイラルの外端は、さらに、インデックスに対して運動可能に取り付けられインデックスと連係するように構成している留めシステムに固定されている。クランプ手段は、例えば、スパイラルの終端部分がクランプされているピン偏心クランプシステムによって構成しており、時計技師によって自由に緩められたり締め付けられたりすることができる。時計技師は、ピン偏心クランプシステムを緩めた後に、工具を用いて留めシステムを動かすことができ、これによって、固定されているままの、インデックスに対して、したがって、ピンに対して、スパイラルを動かすことができ、このことによって、スパイラルの有効長を変更することが可能になる。そして、時計技師は、クランプシステムをきつくしてピンに対してスパイラルをクランプして、自律的調整デバイスをサービス位置にすることができる。しかし、このような手法は依然として手動の調整手法であり、このために、重力の影響を打ち消すことを可能にする調整の精度を大幅に制限してしまうという課題がある。また、このような手法には、時計技師による様々な手動調整のステップが調整に必要であるために、実装することが面倒である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、単純で、正確で、自律的な形態で、重力の影響、特に発振器のバランスの等時性の阻害、を打ち消すことを可能にするような、バランススパイラルタイプの発振器のための、スパイラルの有効長を調整するためのデバイスを提供し、従来技術の前記課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このために、本発明は、バランススパイラルタイプの発振器のための、スパイラルの有効長の自律的調整デバイスに関し、前記自律的調整デバイスは、計時器用ムーブメントのプレートに取り付けられコックと、前記スパイラルの有効長を変更する手段とを備え、前記コックにおいてバランス軸が回転し、前記スパイラルには、前記バランス軸に固定された内端と、バランスばねスタッドホルダーに留められたバランスばねスタッドに固定された外端とがあり、前記バランスばねスタッドホルダーは、前記バランス軸と同心に回転可能に前記コックに取り付けられる。
【0009】
本発明によると、前記スパイラルの有効長を変更する手段は、第1のアームと、第2のアームと、弾性バイアス手段と、2つの慣性ブロックと、弾性戻し手段とを備え、前記第1のアームは、前記自律的調整デバイスの休み位置と補正位置の間を動くことができ、前記少なくとも1つのアームには、第1の自由端と、前記バランスばねスタッドホルダーに取り付けられた第1の対のピンと連係する第2の端があり、前記第1の対のピンは、前記バランスばねスタッドに対して角度的にオフセットされており、前記第2のアームは、前記自律的調整デバイスの休み位置と補正位置の間を動くことができ、前記第2のアームには、第1の自由端と、前記バランスばねスタッドホルダーに取り付けられた第2の対のピンと連係する第2の端とがあり、前記第2の対のピンは、前記第1の対のピンと前記バランスばねスタッドに対して角度的にオフセットされており、前記弾性バイアス手段は、前記アームを適切な位置に戻すために各アームに弾性作用を与えるように構成しており、前記慣性ブロックはそれぞれ、直交平面内を並進運動することができ、前記慣性ブロックは、重力に応じて並進運動するように構成しており、少なくとも1つの前記慣性ブロックの運動によって、第1のカムが取り付けられた軸が回転し、前記第1のカムの回転によって、前記アームと第2のアームを運動させ、前記第2のカムは、前記第2のアームと連係して前記第2のアームを並進運動させて、前記スパイラルに作用して同時に前記スパイラルの有効長を変更するように構成しており、前記弾性戻し手段は、前記慣性ブロックを適切な位置に戻すために前記慣性ブロックに弾性作用を与えるように構成している。
【0010】
本発明の他の有利な実施形態においては、以下の特徴を有する。
- 前記慣性ブロックにはそれぞれ、前記軸に固定されたピニオンと連係するように構成している歯付きセクターがある。
- 前記弾性戻し手段は、各慣性ブロックの各端に配置される一対のばねのリーフの形態である。
- 前記カムは、外側輪郭があるラジアルカムである。
- 前記カムは、互いに対して角度的にオフセットされている。
- 前記自律的調整デバイスの休み位置において、各カムの平坦な部分が、アームと接触しており、前記自律的調整デバイスの補正位置において、前記カムのウェッジないし角部分が、前記アームの1つと接触している。
- 前記カムは、前記慣性ブロックの位置にかかわらず、各アームの前記自由端と常に接触している。
- 前記第1のアームの前記自由端には、弾性変形可能な調整手段があり、前記調整手段は、第1の端がアームに固定され第2の端が自由であるばねのリーフの形であり、前記自由端は、バイアスされており前記第1のアームの長さを調整するように構成している。
- 前記第2のアームの前記自由端は、弾性変形可能な調整手段を備え、前記調整手段は、第1の端が前記アームに固定され第2の端が自由であるばねのリーフの形態であり、前記自由端は、バイアスされており前記第2のアームの長さを調整するように構成している。
- 前記自律的調整デバイスは、弾性拘束を調整するための調整手段を備え、前記調整手段は、ねじの形態であり、前記ねじは、前記自由端を通過し、前記アームに支えられる。
- 前記第1の対のピンは、第1の支持体を介して前記バランスばねスタッドホルダーに留められており、前記アームは、2つの前記ピンの間を前記アームが摺動して、補正位置において、前記スパイラルの外側コイルと接触するように構成している。
- 前記第2の対のピンは、第2の支持体を介して前記バランスばねスタッドホルダーに留められており、前記アームは、2つの前記ピンの間を通過して、補正位置において、前記スパイラルの前記外側コイルと接触するように構成している。
【0011】
本発明に係る調整デバイスの利点として、並進運動可能に取り付けられ、かつ、スパイラルの外側コイルに作用するように構成している可動アームと間接的に連係する慣性ブロックを備えることがある。したがって、自由に重力の影響を受ける慣性ブロックの運動は、デバイスの休み位置と補正位置の間のアームの運動を発生させ、同時にスパイラルに作用してスパイラルの有効長を変更し、これによって、重力に起因するバランスの等時性の阻害を補償するためにスパイラルの有効長を調整することが可能になる。したがって、本発明に係る調整デバイスは、重力に起因するバランスの等時性の阻害を打ち消すことによって、発振器の稼働を空間におけるその位置に応じて正確かつ自律的に補償することを可能にする。
【0012】
本発明は、さらに、従属請求項14に記載されている特徴を有する上記の自律的調整デバイスを備える計時器用ムーブメントに関する。
【0013】
本発明は、さらに、従属請求項15に記載されている特徴を有する上記の計時器用ムーブメントを備える計時器に関する。
【0014】
図面を用いて説明される少なくとも1つの実施形態に基づく以下の説明において、このスパイラルの有効長を調整するためのデバイス、そして、それを備える計時器用ムーブメントと計時器についての目的、利点及び特徴が一層わかりやすく説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るスパイラルの有効長を調整するためのデバイスを備える携行型時計の計時器用ムーブメントの斜視図である。
図2図1の調整デバイスの分解斜視図である。
図3図1の調整デバイスを上方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下において、バランススパイラルタイプの発振器のための、スパイラルの有効長を調整するためのデバイスを備える計時器用ムーブメントに言及して説明する。当業者によく知られている計時器用ムーブメントの通常の構成要素については、簡単にしか説明しないか、あるいはまったく説明しない。実際に、当業者であれば、これらの様々な構成要素を適応させて計時器用ムーブメントの動作のために連係させることができる。具体的には、以下において、計時器用ムーブメントのエスケープ機構について、本発明に係る調整デバイスと連係することがある可能性があっても、関連することすべては説明していない。
【0017】
図1は、計時器用ムーブメント2を備える計時器1の一部を示している。図1の特定の実施形態において、計時器1は携行型時計である。計時器用ムーブメント2は、バランス4とスパイラル5を備える発振器と、スパイラル5の有効長の自律的調整デバイス6とを備える。伝統的には、スパイラル5は、その内端(図示していない)によってバランス軸(図示していない)に留められる。バランス軸の一端は、バランスブリッジにおいて回転可能に取り付けられる(バランスブリッジは、明瞭さのために図示していない)。スパイラル5の外端は、伝統的には、バランスばねスタッドホルダー10に留められたバランスばねスタッド8に留められる。バランスばねスタッドホルダー10は、わずかな締め付けによってコック12に固定されている。特に、図2に示しているように、バランスばねスタッドホルダー10は、バランス軸と同心にコック12に回転可能に取り付けられている。バランス軸は、コック12において回転可能に取り付けられる。
【0018】
スパイラル5の有効長を変更する手段6は、スパイラル5の外側コイルの長さに作用することによって、スパイラル5の有効長を変更することができる。
【0019】
図2に示している特定の実施形態において、スパイラル5の有効長を変更する手段には、デバイスの休み位置と補正位置の間を動くことができる第1のアーム60がある。第1のアーム60には、第1の自由端600と、第1のアーム60用のガイドフォークを形成する第1の対のピン19と連係する第2の端601とがある。第1の対のピン19は、第1の支持体8’を介してバランスばねスタッドホルダー10に取り付けられ、スタッド8に対して角度的にオフセットされている。したがって、第1のアーム600の第2の端601は、第1の対のピン19の間を摺動して、補正位置において、スパイラル5の外側コイルと接触し、したがって、スパイラルの有効長を変更することができる。
【0020】
また、スパイラルの有効長を変更する手段6は、さらに、直交平面内において並進運動可能な一対の線形的な慣性ブロック40、41を備え、これらの慣性ブロック40、41は、重なり合っており、それらの運動中に接触しないようになっている。慣性ブロック40、41は、重力に応じて並進運動するように構成しており、少なくとも1つの慣性ブロック40、41の運動は、第1のカム30と第2のカム31が取り付けられた軸20を回転駆動する。したがって、第1のカム30が回転すると、スパイラルに作用するように第1のアーム60が動いて、同時にスパイラル5の有効長が変更される。このことは、第2のアーム61と連係するように構成している第2のカム31についても同様である。
【0021】
図2に示しているように、慣性ブロック40、41はそれぞれ、各慣性ブロックの長さにわたって延在しており各慣性ブロックの反対側どうしの面に配置される2つのガイド溝400、401、410、411がある線形的な本体の形態である。慣性ブロックは、それぞれがガイド要素50、51内を摺動するように構成しており、各ガイド要素には、ガイド溝400、401、410、411と連係して慣性ブロックを並進運動するようにガイドするように構成しているレールがある。
【0022】
ガイド要素50、51は、ムーブメントのプレート13に固定され、慣性ブロック40、41に弾性作用を与えてそれらの慣性ブロック40、41を適切な位置に戻すように構成している弾性戻し手段を備える。この弾性戻し手段は、一対のばねブレード520、521の形態であり、これらのばねブレード520、521は、その端によって各慣性ブロック40、41をクランプするようにガイド要素50、51の遠位端に位置しており、したがって、各慣性ブロックの運動を伴い、そして、携行型時計が休み位置(すなわち、慣性ブロックが自由には重力を受けない位置)に戻ったときに、それらの慣性ブロック40、41を元の位置に戻す。
【0023】
また、ばねのリーフ520、521は、さらに、減衰手段を形成し、突然の加速又は減速があったときに、慣性ブロック40、41の突然の運動を防ぎ、したがって、スパイラル5の有効長の変更を制限ないし防ぐことを可能にする。
【0024】
また、調整デバイスには、さらに、デバイスの休み位置と補正位置の間で動くことができる第2のアーム61がある。この第2のアーム61には、第1の自由端610と、第2のアーム用のガイドフォークを形成する第2の対のピン19’と連係する第2の端とがある。第2の対のピン19’は、第2の支持体8”を介してスタッドホルダー10に取り付けられ、第1の対のピン19とスタッド8に対して角度的にオフセットされている。したがって、第2のアーム61の第2の端610は、第2の対のピン19’の間を摺動して、補正位置において、スパイラルの外側コイルと接触することができる。
【0025】
また、係合手段は、自由端610が第2のカム32に対向して休んでいる第2のアームと連係するように構成している第2のカム31を備える。
【0026】
調整デバイスは、アーム60、61を適切な位置に戻すためにアーム60、61に弾性作用を与えるように構成している弾性バイアス手段を備える。弾性バイアス手段は、アーム60に固定されたロッド62と、バランスばねスタッドホルダー10に固定されたばねのリーフ63の形態である。ばねのリーフ61は、ロッド62に戻し力を与え、アーム60に弾性作用を与えて、ロッド62を適切な位置に戻す。第2のアーム61には、弾性拘束手段も関連づけられ、この弾性拘束手段は、第2のアーム61に固定されたロッド64と、バランスばねスタッドホルダー10に固定されたばねのリーフ65とを備える。ばねのリーフ65は、ロッド64に戻し力を与え、第2のアーム61に弾性作用を与えて、その第2のアーム61を適切な位置に戻す。
【0027】
また、調整デバイス6は、さらに、アーム60、61を調整するための手段を備え、第1及び第2のアーム60、61の自由端600、610は、アームの長さを調整するための弾性変形可能な調整手段を備える。この調整手段は、第1の端がアームに固定され別の端が自由であるようなばねのリーフの形態であり、この自由端は、バイアスされておりアーム60、61の長さを調整するように構成している。ばねのリーフは、それと各アームの自由端との間に空間を形成する。このような調整は、スパイラルの位置とそのスパイラルに対して行われる補正に応じて必要である。
【0028】
また、各アーム60、61は、弾性拘束を調整するための調整手段を備え、この調整手段は、ねじの形態であり、このねじ70、71は、ばねのリーフの自由端を通過し、アームに支えられる。したがって、ねじがねじ込まれると、リーフの自由端が離れ、リーフと、アーム60、61の自由端600、610との間の距離が大きくなり、このことによって、アーム60、61の長さを長くすることができる。逆に、ねじを緩めると、リーフの自由端が近づき、リーフと、アーム60、61の自由端600、610との間の距離が小さくなり、このことによって、アーム60、61の長さを長くすることができる。
【0029】
好ましい実施形態において、慣性ブロック40、41は、それぞれが自身の平面内において、かつ、ばねのリーフ520、521によって与えられた移動制限内において、並進運動をするように自由に動くことができる。各慣性ブロック40、41には、カム30及び31が取り付けられた軸20の対応するピニオン21、22と噛み合うように構成している歯付きセクター402、412があり、これによって、少なくとも1つの慣性ブロック40、41の運動が、少なくとも1つのアーム60、61の運動を発生させ、同時にスパイラル5の有効長を変更する手段に作用する。重力の影響を受ける慣性ブロック40、41の運動の影響下でのアームの運動は、デバイスの休み位置とデバイスの補正位置の間で行われ、各アームは、計時器の位置に応じた別個の補正を可能にする。
【0030】
したがって、空間における計時器用ムーブメント2の位置に応じて、自由に重力の影響を受ける慣性ブロック40、41は、自身の平面内を動くことができ、アーム60、61の運動を発生させることができる。慣性ブロック40、41の運動は、スパイラル5の有効長を変更する手段に同時に作用することを可能にし、したがって、重力に起因するバランスの等時性の阻害を補償するためにスパイラルの有効長を連続的に調整することを可能にする。
【0031】
デバイス6がアーム60、61を駆動するための2つのカム30、31を備えるような好ましい実施形態において、カムは軸20に固定され、各カムは、アーム60、61の自由端600、610にそれぞれ接触している。互いに対するカムの位置は、スパイラルに対して行われる補正に応じて変わる。カムどうしは、同じ位置にあることができるように、互いに対して角度的にオフセットされていることができる。
【0032】
好ましくは、各カム30、31は、外側輪郭があるラジアルカムである。図1~3において実質的に長方形の外側輪郭を有するラジアルカムを示しているが、実際には、各カムの外側輪郭について考えられる形状は、用いられるスパイラル5のタイプ、そして、そのスパイラル5に対して行われる補正に依存する。例えば、三角形、長円状又は楕円形の外側輪郭を有するラジアルカムも、本発明の文脈において用いることができる。好ましくは、図3及び4に示しているように、調整デバイス6の休み位置において、各カムの平坦な部分がアーム60、61と接触しており、デバイス6の補正位置において、カム30、31のウェッジないし角部分がアーム60、61と接触している。より好ましくは、図1、3及び4に示しているように、各カム30、31は、慣性ブロック40の位置にかかわらず、その対応するアームと接触している。
【0033】
したがって、空間における計時器用ムーブメント2の位置に応じて、自由に重力の影響を受ける慣性ブロック40、41は、それら自身の平面内を摺動することができ、アーム60、61の運動を発生させることがあることがわかる。その際に、慣性ブロックの運動は、スパイラル5の有効長を変更する手段に同時に作用することを可能にし、これによって、スパイラルの有効長を連続的に調整することが可能になり、重力に起因するバランスの等時性の阻害を補償することができる。
【0034】
慣性ブロック40、41の運動は、歯付きセクター402、412と軸20のピニオン20、21との連係を通して軸20の回転を発生させ、軸に固定されたカム30、31を駆動する効果を有する。そして、カムは、アーム60、61の自由端600、610に作用し、アーム60、61の少なくとも1つを動かして、1つの前記アームの第2の端がスパイラル5と接触して、スパイラル5の有効長を変更するようにする。
【0035】
慣性ブロックがその位置の変化の際に安定化すると、デバイスは、慣性ブロック40、41に対するばねのリーフ520、521の作用のおかげで、自動的に休み位置に戻る。
【0036】
本発明は、さらに、バランススパイラルタイプの発振器4、5と、前記のようにスパイラル5の有効長を独立して調整するためのデバイス6とを備える計時器用ムーブメント2に関する。
【0037】
本発明は、さらに、前記のようにスパイラル5の有効長を自律的に調整するための自律的調整デバイス6を備える計時器用ムーブメント2を備える計時器1に関する。
【符号の説明】
【0038】
1 計時器
2 計時器用ムーブメント
5 スパイラル
6 自律的調整デバイス
8 スタッド
8’ 第1の支持体
8” 第2の支持体
10 バランスばねスタッドホルダー
12 コック
13 プレート
19 第1の対のピン
19’ 第2の対のピン
20 軸
30、31 カム
40、41 慣性ブロック
60、61 アーム
62、63、64、65 弾性バイアス手段
600,610 第1の自由端
601,611 第2の端
520、5201 弾性戻し手段
図1
図2
図3