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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】ステントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/90 20130101AFI20250304BHJP
【FI】
A61F2/90
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021038734
(22)【出願日】2021-03-10
(65)【公開番号】P2021154121
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2020055823
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】塚本 涼太
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/049734(WO,A1)
【文献】特表2018-511421(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0213498(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/04ー2/07、2/82-2/945
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体管腔内に配置されるステントの製造方法であって、
線材を編組して管状の骨格部を形成する骨格部形成工程を有し、
前記骨格部形成工程では、ピンが着脱自在に取り付けられる治具を用い、前記治具の外周面の所定位置に、所定数の前記ピンを取り付けて、線材を軸方向に折り返して屈曲部を形成しつつ前記治具の外周面に取付け済みの前記ピンに前記屈曲部を係止しながら周方向に延在させ、前記ステントの軸方向一端部から他端部に向かって、線材同士の交差及び軸方向に対向する前記屈曲部同士の噛み合わせによりセルを形成していき、
前記骨格部形成工程は、
当該骨格部形成工程の進行に伴い、前記治具の外周面に所定数の前記ピンを周方向に新たに取り付ける取付け工程をさらに含む
ステントの製造方法。
【請求項2】
前記骨格部形成工程は、
記線材同士の交差を行う交差工程、
を含む、請求項に記載のステントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管、食道、胆管、気管、尿管などの生体管腔に生じた狭窄部又は閉塞部に留置され、病変部位を拡径して生体管腔の開存状態を維持するステントが知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、ステントの製造方法として、ステントの軸方向一端部から他端部に向かって線材を折り曲げてひし形セルの一部分の要素を先に形成した後、ステントの軸方向他端部から一端部に向かって線材を折り曲げてひし形セル全体を形成していく手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6420918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1等に開示の製造方法では、ステントの軸方向他端部で線材を折り返すようにしてひし形のセルを形成するため、ステントの軸方向における一端部及び他端部の位置が固定されてしまい、製造途中でステントの軸方向長さを調整しにくいといった問題がある。
また、線材同士が交差する部分が規則的(螺旋状)に配置されるため、線材同士の交差部分を不規則的に配置したステントの製造に対応できないといった問題がある。
【0005】
本発明の目的は、製造途中で軸方向の長さを調整しやすく、線材同士を交差させる位置や数に制約のないステントの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るステントの製造方法は、
生体管腔内に配置されるステントの製造方法であって、
線材を編組して管状の骨格部を形成する骨格部形成工程を有し、
前記骨格部形成工程では、ピンが着脱自在に取り付けられる治具を用い、前記治具の外周面の所定位置に、所定数の前記ピンを取り付けて、線材を軸方向に折り返して屈曲部を形成しつつ前記治具の外周面に取付け済みの前記ピンに前記屈曲部を係止しながら周方向に延在させ、前記ステントの軸方向一端部から他端部に向かって、線材同士の交差及び軸方向に対向する前記屈曲部同士の噛み合わせによりセルを形成していき、
前記骨格部形成工程は、
当該骨格部形成工程の進行に伴い、前記治具の外周面に所定数の前記ピンを周方向に新たに取り付ける取付け工程をさらに含む
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、製造途中で軸方向の長さを調整しやすい上、線材同士を交差させる位置や数の制約が少なく、ステントを製造する際の自由度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態に係るステントを示す模式図である。
図2図2は、骨格部の一部の拡大図である。
図3図3は、ステントの製造に用いられる治具を示す図である。
図4図4A図4Bは、ステントの製造方法の一例を示す図である。
図5図5A図5Bは、ステントの製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、ステント1を示す模式図である。図2は、骨格部10の一部の拡大図である。図1では、骨格部10を1段ごとに区別して示し、図2では、骨格部10を形成する線材11、12を区別して示している。
ステント1は、消化管等の生体管腔内の病変部位(例えば、狭窄部又は閉塞部)に留置され、これらの病変部位を径方向外側に押し拡げるために適用される。ステント1は、血液や消化物等の流体が流れる管状流路を画成する筒形状を有する。
【0010】
ステント1は、線材11、12を編組して筒状に形成された骨格部10のみで構成される、いわゆるベアステントである。
ここで、線材11、12は、物理的に異なる線材で構成されてもよいし、図3に示すように、1本の線材を略中央を境界として二分割したもので構成されてもよい。なお、線材11、12は、他端部側に別の線材を継ぎ足して、線材長さを容易に延長することができる。
【0011】
骨格部10は、ひし形のセルC(網目)が縦横に配列されたフェンス型骨格である。骨格部10は、例えば、線材11、12を所定のピッチでジグザグ状(Z状)に折り返しながら周方向に延在させ、線材11、12同士の交差、並びに軸方向AXにおける一端部E1側に突出する山部10aと他端部E2側に突出する谷部10bのうち、対向する山部10aと谷部10bが互いに噛み合うように編み込むことにより形成される。以下において、山部10aと谷部10bを区別しない場合は、「屈曲部10a、10b」と称する。
【0012】
骨格部10は、拡張状態の形状が記憶された、いわゆる自己拡張性を有し、図示しないステント留置システムのシース(図示略)からの放出に伴い、径方向外側に拡張する。すなわち、ステント1は、径方向内側に折り畳まれた収縮状態から、径方向外側に拡張して管状流路を画成する拡張状態へと変形可能に構成されている。
【0013】
骨格部10を形成する線材11、12の材料としては、例えば、ステンレス鋼、Ni-Ti合金(ニチノール)、チタン合金等に代表される公知の金属又は金属合金が挙げられる。また、X線造影性を有する合金材料を用いてもよい。この場合、ステント1の位置を体外から確認することができるようになる。なお、骨格部10は、金属材料以外の材料(例えば、セラミックや樹脂等)で形成されてもよい。
【0014】
骨格部10を形成する線材11、12の材料、線径(断面積)、周方向における折り返し回数及び折り返し形状(屈曲部の数及び形状)、並びに、セルCの大きさ(単位長さ当たりの骨格量)等は、留置する生体管腔に応じて必要となるステント1の拡張力及び柔軟性を基準として適宜選択される。
【0015】
以下において、骨格部10の同一周上に形成された「N」段目(N=1,2・・・)の骨格部を「単位骨格B」と称する。図2に示すように、軸方向AXに隣接する「N」段目の単位骨格Bと「N+1」段目の単位骨格BN+1によって、Nライン目のセルCが形成される。線材11、12が、N段から(N+1)段に移行する部分には、交差部10cが形成される。なお、骨格部10の各段において、交差部10cが設けられる周方向の位置は、規則的に又は不規則的にずれていてもよいし、軸方向AXに沿って並んでいてもよい。
【0016】
骨格部10は、以下に示す骨格部形成工程により形成される。骨格部形成工程では、図3に示すように、円筒状の外周面21に、多数のピン取付穴Hが規則的に配列された治具2が用いられる。ピン取付穴Hには、骨格部10の屈曲部10a、10bが係止されることとなるピンPが、骨格部10の設計に応じて取り付けられる。ピンPを着脱可能な治具2を用いることにより、骨格部10の設計に応じてピンPの配置を自由に変更でき、様々な形態の骨格部10の形成に対応することができる。
【0017】
以下において、骨格部10の一端部E1に対応する側を1列目として、治具2の同一周上に配置された「n」列目のピン取付穴Hを「ピン取付穴H」と称する。また、「n」列目のピン取付穴Hを区別する場合、外周面21を軸方向AXに切断して展開したときの端部を基準として第1の周方向D1にm番目のピン取付穴Hを「H(n,m)」と称する。同様に、ピン取付穴Hに取り付けられるピンPを「ピンP」又は「ピンP(n,m)」と称する。
【0018】
本実施の形態では、一方の線材11を、軸方向AXに隣接する「n」列目のピンPと「n+1」列目のピンPn+1に交互に係止させながら第1の周方向D1に延在させるとともに、他方の線材12を、ピンPとピンP(n+1)に交互に係止させながら第2の周方向D2に延在させることにより、「N」段目の単位骨格Bを形成する。
【0019】
骨格部形成工程の具体例を、図4A図4B及び図5A図5Bを参照して説明する。図4A図4B及び図5A図5Bでは、治具2を軸方向AXに切断して周方向に展開したときのピンP又はピン取付穴Hを平面的に示している。なお、軸方向AXにおける8列目以降及び周方向における11番目以降のピンP又はピン取付穴Hは省略されている。
【0020】
図4Aでは、治具2の1列目と2列目のピン取付穴H、Hに取り付けられた1列目と2列目のピンP、Pを利用して、1段目の単位骨格Bが形成されている。
具体的には、線材11、12がピンP、Pに交互に係止されて、ピンPが取り付けられていない2列目の8番目のピン取付穴H(2,8)の部分で線材11、12どうしが交差されて交差部10cが形成されている。
ここで、交差部10cが形成される部分にピンPを取り付けないことにより、作業者は、交差部10cの形成位置を特段意識することなく、線材11、12を次の段に移行すべき位置を知得できる。
【0021】
そして、2段目の単位骨格Bを形成するために、治具2の3列目のピン取付穴Hに3列目のピンPを取り付ける。すなわち、「N」段目の単位骨格Bを形成する前に、「N+1」段目の単位骨格BN+1を形成するためのピンPN+1までを取り付けるようにしている(取付け工程)。
次段以降の単位骨格Bを形成するためのピンPは、作業の邪魔にならない程度に、順次追加されるようになっているが、例えば、1段目の単位骨格Bを形成する時点で取り付けられていてもよい。
【0022】
次いで、図4B図5Aに示すように、2列目のピンPと3列目のピンPを利用して、2段目の単位骨格Bを形成する。
具体的には、図4Bに示すように、3列目9番目のピンP(3,9)を開始点として、一方の線材11を、ピンP、Pに交互に係止させながら第1の周方向D1に延在させる(係止工程)。この係止工程では、ピンPに係止されている1段目の単位骨格Bの谷部10bに対して上側又は下側から線材11を通すことにより、1段目の単位骨格Bの谷部10bと2段目の単位骨格Bの山部10aが互いに噛み合うように編み込む工程を行う。
これにより、2段目の単位骨格Bの一部が形成される。そして、ピンPが取り付けられていないピン取付穴H(3,3)の位置で、線材11を3段目に移行させる。
【0023】
また、図5Aに示すように、3列目7番目のピンP(3,7)を開始点として、他方の線材12を、ピンP、Pに交互に係止させながら第2の周方向D2に延在させる(係止工程)。この係止工程では、ピンPに係止されている1段目の単位骨格Bの谷部10bの上側又は下側から線材12を通すことにより、1段目の単位骨格Bの谷部10bと2段目の単位骨格Bの山部10aが互いに噛み合うように編み込む工程を行う。
これにより、2段目の単位骨格Bの全部が形成される。そして、ピン取付穴H(3,3)の位置で、線材12を3段目に移行させ、交差部10cを形成する(交差工程)。
【0024】
上記のように、周方向に1/2周期ずれている1段目の単位骨格Bと2段目の単位骨格Bを組み合わせることにより、1ライン目のセルC1が形成される。
また、これらの工程を繰り返すことにより、図5Bに示すように、3段目の単位骨格B、4段目の単位骨格B・・が順次形成される。そして、2段目の単位骨格Bと3段目の単位骨格Bを噛み合わせることにより、2ライン目のセルCが形成され、3段目の単位骨格Bと4段目の単位骨格Bを噛み合わせることにより、3ライン目のセルCが形成される。すなわち、軸方向AXに隣接する「N」段目の単位骨格Bと「N+1」段目の単位骨格BN+1によって、Nライン目のセルCが形成される(図2参照)。
【0025】
このようにして、骨格部形成工程では、軸方向AXの一端部E1側から他端部E2側に向かって、所定ライン数のセルCが形成される。そして、図示は省略するが、他端部E2まで骨格部10が形成された後、線材11、12の先端部(自由端部)同士は、例えば、かしめ部材を用いて接続される。
【0026】
このように、実施の形態に係るステント1の製造方法は、線材11、12を編組して管状の骨格部10を形成する骨格部形成工程を有し、骨格部形成工程では、線材11、12を軸方向AXに折り返して屈曲部10a、10bを形成しながら周方向に延在させ、ステント1の軸方向一端部E1から他端部E2に向かって、線材同士の交差及び軸方向AXに対向する屈曲部10a、10b同士の噛み合わせによりセルCを形成していく。
【0027】
これにより、ステント1の製造途中においては軸方向他端部E2の位置は不確定であり、線材11、12の編込みにより骨格部10の長さを自由に延ばすことができる。また、線材11、12同士を交差させる位置を自由に設定することができる。したがって、本実施の形態に係るステント1の製造方法によれば、製造途中で軸方向AXの長さを調整しやすい上、線材11、12同士を交差させる位置や数の制約が少なく、ステント1を製造する際の自由度を向上させることができる。
【0028】
また、骨格部形成工程では、屈曲部10a、10bが係止されるピンPが着脱自在に取り付けられる治具2を用い、治具2の外周面21の所定位置に、所定数のピンPを取り付けてセルCを形成していく。すなわち、骨格部10の全体を形成するために必要なピンPを、予め全部取り付けた場合、早い段階でピンPの取付け位置が間違っていると、ピンPを取付け直すのに多大な時間と労力を要することとなる。また、必要以上にピンPを取り付けておくと、骨格部10を形成するときに邪魔になる。これに対して、セルCの形成に応じてピンPを段階的に取り付けることで、骨格部10の設計に対応させてピンPの配置を自由に変更でき、様々な形態の骨格部10の形成に柔軟に対応することができる。
【0029】
具体的には、骨格部形成工程は、治具2の外周面21に取付け済みのピンPに屈曲部10a、10bの係止を行う係止工程と、線材11、12同士の交差を行う交差工程と、を含む。取付け済みのピンPを利用して線材11、12を編み込むことにより、交差部10cを有する所定形状の骨格部10を、容易に形成することができる。
【0030】
また、骨格部形成工程は、当該骨格部形成工程の進行に伴い、治具2の外周面21に所定数のピンPを周方向に新たに取り付ける取付け工程をさらに含む。したがって、交差工程において交差した線材11、12同士が、取付け工程において新たに取り付けられたピンPに係止され屈曲部10a、10bを形成することができる。そして、骨格部形成工程の進行に伴いピンPを増やすことで、必要以上に取り付けられたピンPによって係止工程が阻害されるのを防止でき、係止工程及び交差工程をスムーズに行うことができる。
【0031】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0032】
上記実施の形態では、骨格部形成工程にて、治具2の外周面21の所定位置に、所定数のピンPを取り付けつつセルCを形成していくようにしたが、一例であってこれに限られるものではなく、例えば、事前に治具2の外周面21の所定位置に全てのピンPを取り付けておいてもよい。
【0033】
また、骨格部形成工程は、骨格部10の一端部E1から他端部E2に向かうセルCの形成を当該骨格部10の軸方向の全ての部分で行ってもよいし、骨格部10の軸方向の一部分で行ってもよい。例えば、両端部(一端部E1、他端部E2)を除いた中間部分や、一端部E1から軸方向の中途部までの部分や、軸方向の中途部から他端部E2までの部分等において、一方向に向かうセルCの形成を行ってもよい。
【0034】
さらに、上記実施の形態では、ステント1は、骨格部形成工程にて形成される一の骨格部10から当該ステント1全体が形成されるようにしたが、一例であってこれに限られるものではない。例えば、図示は省略するが、ステントは、各々が骨格部形成工程にて形成される骨格部を複数組み合わせて所定形状(例えば、「Y」字状等)をなすように形成されてもよい。
【0035】
また、上記実施の形態では、一段ずつ単位骨格B及び交差部10cを形成しているが、他の手法により、同じ形状の骨格部10を形成することもできる。例えば、一方の線材11によって複数段の単位骨格Bを部分的に形成した後、他方の線材12を第2方向に延在させ、単位骨格Bの残りの部分と交差部10cとを順に形成していってもよい。
【0036】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0037】
1 ステント
10 骨格部
10a 山部(屈曲部)
10b 谷部(屈曲部)
10c 交差部
11、12 線材
AX 軸方向
E1 軸方向一端部
E2 軸方向他端部
C セル

図1
図2
図3
図4
図5