(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】画像形成装置および乾燥制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20250304BHJP
【FI】
B41J2/01 127
B41J2/01 125
(21)【出願番号】P 2020104716
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2023-03-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 真次
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-188920(JP,A)
【文献】特開2018-065262(JP,A)
【文献】特開2008-105268(JP,A)
【文献】特開2011-143666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に複数色のインクを吐出して画像を形成する画像形成部と、
前記画像を前記記録媒体に定着させる定着部と、を有し、
前記定着部は、前記記録媒体上の各色の前記インクの乾燥むらが抑制されるように、前記各色の前記インクの性質に応じた波長および出力のレーザー光を前記記録媒体上の前記インクに照射する光照射部を備え、
前記光照射部は、対応する色の前記画像にのみ前記レーザー光を照射する、
画像形成装置。
【請求項2】
前記光照射部は、前記画像形成部から吐出される前記インクの色毎に備えられ、少なくとも一つの前記光照射部から照射される前記レーザー光の波長が、他の前記光照射部から照射される前記レーザー光の波長と異なる、
請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記定着部は、前記光照射部によって前記レーザー光が照射された前記記録媒体を加熱する加熱部をさらに備える、
請求項1または2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記光照射部は、前記記録媒体の画像形成面に前記レーザー光を走査させる走査型レーザー光源である、
請求項1から3の何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記光照射部は、前記レーザー光を射出する半導体レーザー光源を備える、
請求項1から4の何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記インクの性質は、色および、前記インクの乾燥に影響を及ぼすインク含有物を含む、
請求項1から4のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
複数色のインクが着弾された記録媒体上の前記インクに、各色の前記インクの乾燥むらが抑制されるように、前記複数色の前記インクの性質に応じた波長および出力のレーザー光を、対応する色
の画像にのみ照射する
乾燥制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置および乾燥制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紙、布帛等の種々の記録媒体に対して高精細な画像を記録する装置として、インクジェットヘッドからインクを吐出して記録媒体に印字するインクジェット方式による画像形成装置(以下、インクジェット画像形成装置という)が広く普及している。
【0003】
従来、インクジェット画像形成装置において、インクジェットヘッドから記録媒体に吐出されたインクにレーザー光を照射して乾燥(記録媒体に定着)させる技術が知られている(例えば特許文献1を参照)。また、特許文献2では、記録媒体上のインクを乾燥および定着させるために、近赤外線やレーザーなどの放射エネルギーを照射するとともに、その波長、強度、露光時間を制御することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-144403号公報
【文献】特開2003-118075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複数の色のインクを用いてカラー印刷を行うインクジェット方式の画像形成装置では、使用するインクの色(着色剤)毎に光エネルギーの吸収特性が異なる。
【0006】
加えて、実際のインク製品では、例えばノズルのつまり等を防止するための乾燥防止剤など、着色剤以外にも種々の含有物質(いわば不純物)が含まれているため、同一条件(照射出力および照射時間等)でレーザー等を照射した場合、色毎さらには製品毎に乾燥むらが発生しやすい問題があった。
【0007】
かかる色毎の乾燥むらの問題に対し、従来の技術では何ら解決策が示されていなかった。このため、画像形成後のインク(画像)を乾燥ないし定着させる工程において、かかる画像を完全に乾燥(定着)させるために、多くのエネルギーが必要となっており、かかる消費エネルギー効率の向上が求められていた。
【0008】
本発明の目的は、色毎の乾燥むらを抑制するとともに消費エネルギー効率を向上させることが可能な画像形成装置および乾燥制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る画像形成装置は、
記録媒体に複数色のインクを吐出して画像を形成する画像形成部と、
前記画像を前記記録媒体に定着させる定着部と、を有し、
前記定着部は、前記記録媒体上の各色の前記インクの乾燥むらが抑制されるように、前記各色の前記インクの性質に応じた波長および出力のレーザー光を前記記録媒体上の前記インクに照射する光照射部を備え、
前記光照射部は、対応する色の前記画像にのみ前記レーザー光を照射する。
【0010】
本発明に係る乾燥制御方法は、
複数色のインクが着弾された記録媒体上の前記インクに、各色の前記インクの乾燥むらが抑制されるように、前記複数色の前記インクの性質に応じた波長および出力のレーザー光を、対応する色の画像にのみ照射する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、色毎の乾燥むらを抑制するとともに消費エネルギー効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施の形態における画像形成装置の概要構成を示す側面図である。
【
図2】
図1の画像形成装置の主要な機能構成を示すブロック図である。
【
図3】制御部が行う画像形成制御を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施の形態におけるインクジェット画像形成装置について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る画像形成装置1の概略構成を示す側面図である。また、
図2は、画像形成装置1の主要な機能構成を示すブロック図である。
【0014】
画像形成装置1は、インクジェット方式で記録媒体Sにインク像(以下「画像」という)を形成する画像形成装置本体2と、記録媒体Sの搬送方向における画像形成装置本体2の上流側に配置された給紙部3と、同下流側に配置された排紙部4と、を備える。
【0015】
給紙部3は、記録媒体Sを積載し、積載された記録媒体Sを上から1枚ずつ画像形成装置本体2に給送(給紙)する機能を有する(
図1中の右側の矢印を参照)。一方、排紙部4は、画像形成装置本体2から排出された画像形成済みの記録媒体Sを積載し整列させるスタッカーとしての機能を有する。
【0016】
画像形成装置本体2は、インクジェットヘッド102等(
図2を参照)が搭載されたヘッドユニット10と、給紙部3から給紙された記録媒体Sを画像形成装置本体2内で搬送するための搬送部20と、画像が形成された記録媒体Sの画像形成面にレーザー光を照射するレーザー照射部30と、レーザー光が照射された記録媒体S上の画像を最終的に乾燥(記録媒体Sに定着)させるためのドライヤー31と、を備える。
【0017】
搬送部20は、搬送経路の適所に配置された複数の搬送ローラーR、アライナー5、ヘッドユニット10の下方に配置された第1搬送ベルト21、かかる第1搬送ベルト21の下流に配置された第2搬送ベルト25、等を備える。
【0018】
アライナー5は、記録媒体Sが搬送される搬送方向(以下、単に搬送方向という)における第1搬送ベルト21の上流側に配置されている。アライナー5は、給紙部3から給紙された記録媒体Sまたは後述する反転搬送路RPを経て反転された記録媒体Sの姿勢および幅方向の端部の位置を整列させる(矯正ないし補正する)機能を有する。
【0019】
第1搬送ベルト21は、搬送方向の上流側(
図1の右側)および下方に配置された従動ローラー22および24と、搬送方向の下流側(
図1の左側)に配置された駆動ローラー23と、に架け渡されている。第1搬送ベルト21は、制御部40の制御の下、搬送駆動部51(
図2を参照)の図示しない第1駆動モーターの駆動力が駆動ローラー23に伝達されることにより、
図1中の反時計方向に回転し、その載置面(上面)に供給される記録媒体Sを搬送する。
【0020】
第2搬送ベルト25は、搬送方向の上流側(
図1の右側)に配置された従動ローラー26と、搬送方向の下流側(同左側)に配置された駆動ローラー27と、に架け渡されている。第2搬送ベルト25は、制御部40の制御の下、搬送駆動部51(
図2参照)の図示しない第2駆動モーター(図示せず)の駆動力が駆動ローラー27に伝達されることにより、
図1中の反時計方向に回転し、その載置面(上面)に供給される記録媒体Sを搬送する。
【0021】
ヘッドユニット10は、第1搬送ベルト21に対向するインク吐出面に設けられたノズル開口部から、第1搬送ベルト21によって搬送される記録媒体Sに対してインク滴(
図1を参照)を吐出して画像を記録媒体S上に形成する。
【0022】
一具体例では、
図1に示すように、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクにそれぞれ対応する4つのヘッドユニット10が第1搬送ベルト21の回転方向上流側からY,M,C,Kの色の順に所定の間隔で並ぶように配列されている。
【0023】
各ヘッドユニット10は、インクジェットヘッド102(
図2を参照)を備える。インクジェットヘッド102には、インクを貯留する圧力室と、圧力室の壁面に設けられた圧電素子と、ノズルとを各々有する複数の記録素子が設けられている。この記録素子は、圧電素子を変形動作させる駆動信号が入力されると、圧電素子の変形により圧力室が変形して圧力室内の圧力が変化し、圧力室に連通するノズルからインクを吐出する。
【0024】
インクジェットヘッド102に含まれるノズルの
図1の紙面に垂直な方向(以下、「直交方向」と称する)についての配置範囲は、第1搬送ベルト21により搬送される記録媒体Sのうち画像が形成される領域の直交方向の幅をカバーしている。
【0025】
ヘッドユニット10は、画像形成時には第1搬送ベルト21(または駆動ローラー23の回転軸)に対して位置が固定されて用いられる。すなわち、この画像形成装置1は、シングルパス方式のインクジェット画像形成装置である。
【0026】
一具体例では、インクジェットヘッド102から記録媒体Sに吐出されるインクとして、当該記録媒体Sに供給されるエネルギー量、この例では定着部(この例ではレーザー照射部30およびドライヤー31)から供給されるエネルギー量、に応じて粘度が変化するインク(水系インク)が用いられる。かかる水系インクとしては、アルコール類などの水溶性の有機溶媒が含有されるインク、例えば水性染料インクまたは溶剤水系インクを使用することができる。
【0027】
また、記録媒体Sとしては、普通紙や塗工紙といった紙のほか、布帛またはシート状の樹脂など、表面に着弾したインクを定着させることが可能な種々の媒体を用いることができる。
【0028】
次に、主として
図2を参照して、画像形成装置1における他の主要な機能構成を説明する。画像形成装置1は、ヘッドユニット10が有するヘッド駆動部101およびインクジェットヘッド102と、レーザー照射部30と、ドライヤー31と、制御部40と、搬送駆動部51と、入出力インターフェース52とを備える。なお、図示しないが、画像形成装置1は、ユーザー操作の受け付け、画像形成装置1の各種の設定や状態を表示するためのタッチパネルなどの操作表示部を備えることができる。
【0029】
ヘッド駆動部101は、制御部40の制御に基づいてインクジェットヘッド102の記録素子に対して適切なタイミングで画像データに応じて圧電素子を変形動作させる駆動信号を出力することにより、インクジェットヘッド102のノズルから画像データの画素値に応じた量のインクを吐出させる。
【0030】
制御部40は、CPU41(Central Processing Unit)、RAM42(Random Access Memory)、ROM43(Read Only Memory)および記憶部44を有する。
【0031】
CPU41は、ROM43に記憶された各種制御用のプログラムや設定データを読み出してRAM42に記憶させ、当該プログラムを実行して各種の演算処理を行う。また、CPU41は、画像形成装置1の全体動作を統括制御する。
【0032】
RAM42は、CPU41に作業用のメモリー空間を提供し、一時データを記憶する。なお、RAM42は、不揮発性メモリーを含んでいてもよい。
【0033】
ROM43は、CPU41により実行される各種制御用のプログラムや設定データ等を格納する。なお、ROM43に代えて、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)やフラッシュメモリー等の書き換え可能な不揮発性メモリーが用いられてもよい。
【0034】
記憶部44には、入出力インターフェース52を介して外部装置200から入力された印刷ジョブ(印刷枚数などの種々のユーザー設定情報を含む画像形成指示)および当該印刷ジョブに係る画像データが記憶される。記憶部44としては、例えばHDD(Hard Disk Drive)が用いられ、また、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などが併用されてもよい。
【0035】
搬送駆動部51は、制御部40から供給される制御信号に基づいて上述した第1駆動モーター、第2駆動モーター等に駆動信号を供給して第1搬送ベルト21および第2搬送ベルト25を所定の速度およびタイミングで回転させる。また、搬送駆動部51は、制御部40から供給される制御信号に基づいて搬送ローラーR(
図1を参照)を回転させる図示しない搬送モーターに駆動信号を供給して、搬送ローラーRを所定の速度およびタイミングで回転させる。
【0036】
入出力インターフェース52は、外部装置200と制御部40との間のデータの送受信を媒介する。入出力インターフェース52は、例えば各種シリアルインターフェース、各種パラレルインターフェースのいずれか、または、これらの組み合わせで構成される。
【0037】
外部装置200は、例えばパーソナルコンピューターであり、入出力インターフェース52を介して印刷ジョブおよび画像データ等を制御部40に供給する。
【0038】
レーザー照射部30は、画像形成部すなわちヘッドユニット10のインクジェットヘッド102によって画像が形成(すなわちインクが着弾)された記録媒体Sの画像形成面にレーザー光(
図1中の符号LBで示すビームを参照)を照射する。
【0039】
図1に示す構成例では、レーザー照射部30は、定着部の一部をなし、上記のように記録媒体Sの画像形成面にレーザー光を照射することにより、記録媒体S上の(画像)を部分的に乾燥させて記録媒体Sにプレ定着させる役割を担う。このプレ定着の工程は、「ピニング」と呼ばれることもある。
【0040】
なお、使用するインクの種類等によっては、後述するドライヤー31を設けないまたは印刷ジョブの実行時に稼働させてない構成とすることもできる。この場合、定着部の構成要素はレーザー照射部30だけとなることから、レーザー照射部30は、記録媒体Sの画像形成面にレーザー光を照射することにより、記録媒体S上の(画像)を完全に乾燥させて記録媒体Sに定着させる役割を担うことになる。
【0041】
詳細な図示を省略するが、レーザー照射部30は、レーザーダイオードなどの光源部、かかる光源部から射出されたレーザー光を記録媒体Sの幅方向(上述した直交方向)に走査させるように回転する回転多面鏡(ポリゴンミラー)などを備え、これら各部は制御部40の制御の下に稼働する。かかる構成は、例えば特開平7-144403号に記載された構成と同様の公知の構成であるため、詳述を省略する。なお、レーザー照射部30のさらなる詳細については後述する。
【0042】
ドライヤー31は、ヒーターなどの熱源部およびファンなどの送風部を有し、制御部40の制御によりこれら各部が稼働する。ドライヤー31は、レーザー照射部30を通過した記録媒体Sの画像形成面(上面)に熱風を吹きかけることにより、レーザー照射部30によってプレ定着(ピニング)された記録媒体S上の画像(インク)を完全に乾燥(記録媒体Sに定着)させる役割を担う。
【0043】
かくして、
図1に示す構成例では、上記のレーザー照射部30およびドライヤー31によって、記録媒体Sの画像形成面(上面)に形成された画像(インク像)を定着させるための「定着部」が構成される。
【0044】
本発明との対応関係において、レーザー照射部30は「光照射部」に対応し、ドライヤー31は「加熱部」に対応する。なお、これら各部の具体的な構成については後述する。
【0045】
次に、印刷ジョブの実行時における画像形成装置1の概略的な動作を、
図3のフローチャートを参照して説明する。上述した外部装置200から入出力インターフェースを介して印刷ジョブを取得した場合、画像形成装置1は、制御部40の制御の下、以下のように動作する。
【0046】
ステップS10において、制御部40は、記録媒体Sの給紙および搬送動作を開始するように、給紙部3および搬送駆動部51を制御する。かかる制御により、画像形成装置1は、給紙部3内の最上位の記録媒体S(
図1参照)をピックアップして、かかる記録媒体Sを、画像形成装置本体2内の搬送経路に給送する。
【0047】
続くステップS20において、制御部40は、アライナー5を制御することにより、ヘッドユニット10の上流近傍に搬送されている記録媒体Sを整列(レジスト)する。
【0048】
続いて、制御部40は、第1搬送ベルト21を回転させて記録媒体Sをヘッドユニット10の下に搬送させるとともに、ヘッドユニット10の対応する色のインクジェットヘッド102からインクを吐出させる制御を行う(ステップS30)。かかる動作により、印刷ジョブで規定された色のインク滴が記録媒体Sに着弾され(
図1を参照)、所定形状の画像(インク像)が記録媒体S上に形成される。
【0049】
続くステップS40において、制御部40は、レーザー照射部30に制御信号を出力して、画像が形成された記録媒体Sにレーザー照射部30からレーザー光を照射(走査)し、記録媒体S上の画像のピニング(プレ定着)工程を実行する。
【0050】
上記の工程が実行された記録媒体Sは、続いて下流側の第2搬送ベルト25によって
図1中の左方向に搬送される。このとき、制御部40は、ドライヤー31を駆動することにより、記録媒体Sの画像形成面にドライヤー31から熱風を吹き付けて、記録媒体S上の画像を完全に乾燥(定着)させる(ステップS50)。
【0051】
この乾燥(定着)の工程で記録媒体S全体が加熱されることにより、記録媒体S上の画像が加熱および乾燥され、記録媒体Sに定着させられる。
【0052】
かかる定着プロセスが完了した記録媒体Sは、印刷ジョブの設定が片面印刷である場合には、
図1中に示す搬送経路P1を経て、画像形成面を上に向けた状態で排紙部4に排紙される(ステップS60)。
【0053】
一方、印刷ジョブの設定が両面印刷である場合、制御部40による図示しないゲートの切り替え制御により、当該記録媒体Sは、
図1中に示す搬送経路P2を経て、画像形成装置本体2内の下側に配置された反転搬送路RPでいわゆるスイッチバック動作が行われる。かかるスイッチバック動作後は、記録媒体Sは、その先後端すなわち進行方向の前後が逆になるように搬送される。
【0054】
この後、記録媒体Sは、
図1中に示す逆「S」字状の搬送路を経て、アライナー5およびヘッドユニット10に連なる搬送路に戻される。このとき、記録媒体Sは、未印刷面である第2面を上にした状態となっている。
【0055】
なお、この後の処理は上述した片面印刷の場合と同様であり、アライナー5による整列(ステップS20)、ヘッドユニット10による画像形成(ステップS30)、画像のピニング(プレ定着)工程(ステップS40)および定着工程(ステップS50)が行われた後、搬送経路P1を経て、第2面を上に向けた状態で排紙部4に排紙される(ステップS60)。
【0056】
ところで、複数の色のインクでカラー印刷を行うインクジェット方式の画像形成装置では、使用するインクの色(着色剤)毎に光エネルギーの吸収特性が異なることに起因したインクの乾燥むらが発生する場合がある。
【0057】
加えて、実際のインク製品では、例えばインクジェットヘッドのノズルのつまり等を防止するための乾燥防止剤など、着色剤以外にも種々の含有物質(いわば不純物)が含まれているため、同一条件(照射出力および照射時間等)でレーザー光等のエネルギー線を照射した場合、色毎(製品毎)に乾燥むらが発生する問題がある。
【0058】
かかる色毎の乾燥むらの問題に対し、従来の技術では具体的な解決策が示されていなかった。
【0059】
例えば、上述した特許文献2(特開2003-118075号公報)記載の技術では、放射エネルギー源の波長、強度、露光時間が提案されているが、色毎の乾燥むらの問題に対しては何ら解決策が示されていない。
【0060】
かかる問題に鑑みて、本発明者らは、画像形成装置1で使用される水系インクの性質(色および成分等)と、レーザー照射によって乾燥する度合いに関する種々の実験等を行った結果、以下のような知見を得るに至った。
【0061】
まず、水系インクの主な成分としては、ベース(基剤)としての水と、着色剤と、浸透剤としての水溶性有機溶剤とが挙げられる。これらのうち、一般に着色剤は、色毎に異なる成分(物質)となり、水および水溶性有機溶剤は、色が変わっても同一のメーカーの同一種類の製品であれば、共通の成分である場合が多い。
【0062】
一方、インクの成分は上記のもの以外にも、乾燥防止剤、pH調整剤、防腐剤または防かび剤、泡立ちを防止するための消泡剤、顔料インクでは顔料を分散するための分散剤、インク中の溶存酸素を除く脱酸素剤など、種々の成分(いわば不純物)が含まれ得る。
【0063】
そして、これらの不純物は、インクの乾燥を妨げる作用があるものが多く、かつ、好適な含有量がインクの着色剤(言い換えると色)に応じて異なること、ひいてはインクの色毎に乾燥むらを生じさせる要因となることを見出した。
【0064】
かかる知見に鑑みて、本実施の形態では、レーザー照射部30は、記録媒体S上の各色のインクの乾燥むらが抑制されるように、当該各色のインクの性質に応じた異なる波長のレーザー光を記録媒体S上の画像(インク像)に照射する構成とした。
【0065】
より詳細には、本実施の形態では、レーザー照射部30は、
図1に示すように、ヘッドユニット10において使用されるインクの色毎に備えられている。この例では、使用されるY、M、C、Kのインクに対応して4つのレーザー照射部30が配置され、各々のレーザー照射部30は、対応するヘッドユニット10の搬送方向の下流近傍の直交方向にレーザー光を走査するように構成されている(
図1を参照)。
【0066】
なお、複数(この例では4つ)のレーザー照射部30は、互いに全て異なる(すなわち4種類の)波長のレーザー光を射出する構成である必要はなく、少なくとも一つのレーザー照射部30から照射されるレーザー光の波長が、他のレーザー照射部30から照射されるレーザー光の波長と異なる構成であればよい。
【0067】
一具体例では、イエロー(Y)インクを吐出するヘッドユニット10に対応するレーザー照射部30は、イエロー(Y)インクが吸収しやすいブルー(青色)レーザー光を射出する半導体レーザー光源を備えた構成とする。また、マゼンタ(M)インクを吐出するヘッドユニット10に対応するレーザー照射部30は、かかるマゼンタ(M)インクが吸収しやすいグリーン(緑色)レーザー光を射出する半導体レーザー光源を備えた構成とする。
【0068】
さらに、シアン(C)インクを吐出するヘッドユニット10に対応するレーザー照射部30は、かかるシアン(C)インクが吸収しやすいレッド(赤色)レーザー光を射出する半導体レーザー光源を備えた構成とする。上述した構成は、使用するインクの色と補色関係にあるレーザー光を射出する半導体レーザー光源を選定した場合である。
【0069】
なお、ブラック(K)インクを吐出するヘッドユニット10に対応するレーザー照射部30に関しては、ブラック(K)インクは種々の色を吸収することができるため、任意の色のレーザー光を射出する半導体レーザー光源を用いることができる。
図1に示す例では、直近上流側と同様に、レーザー照射部30は、レッド(赤色)レーザー光を射出する半導体レーザー光源を備えた構成としている。
【0070】
加えて、本発明者らは、上述した種々のインク含有物の特性の関係で、補色関係にあるレーザー光を射出するレーザー光源を用いても乾燥しにくいインクが製品として存在することも分かった。このような状況に対応するためには、予め実験ないし検査を行って、当該インク含有物を含むインクに対して乾燥効果が高いレーザー波長を選定し、そのような波長のレーザー光を射出するレーザー光源を備えたレーザー照射部30とする。
【0071】
総じて、本実施の形態において、「インクの性質」とは、前記インクの色(色の波長)を含む物理的および化学的な性質と定義することができる。言い換えると、「インクの性質」は、インクの乾燥に影響をおよぼす種々の性質であり、少なくとも色およびインクに含有される種々の含有物(インク含有物)が含まれる。
【0072】
上記のような構成とすることにより、インクの色毎に乾燥むらが発生する問題を解消ないし大幅に改善することができる。
【0073】
レーザー照射部30のより具体的な動作を説明する。本実施の形態において、4つのレーザー照射部30の各々は、(1)記録媒体Sの全面にレーザー光を照射する構成、あるいは、(2)記録媒体Sの印字部分(形成された画像)のみにレーザー光を照射する構成さらには、(3)各々のレーザー照射部30で対応する色の画像(インク)部分のみにレーザー光を照射する構成、のいずれであってもよい。
【0074】
総じて、各々のレーザー照射部30は、制御部40の制御により、記録媒体S上の少なくとも対応する色の画像にレーザー光を照射すればよい。なお、記録媒体Sのカール発生の防止を強化する観点からは、上記(2)または(3)の構成とするとよい。また、レーザー光源の電力消費量をできるだけ少なくする観点からは、上記(3)の構成とするとよい。
【0075】
上記(1)すなわち記録媒体Sの全面にレーザー光を照射(走査)する構成とする場合、制御部40は、以下のような処理を行う。すなわち、制御部40は、例えば印刷ジョブの設定情報に含まれる用紙サイズ情報に基づいて、当該記録媒体Sの領域にのみレーザー光を照射(走査)し、他の領域、例えば第1搬送ベルト21の領域にはレーザー光を照射しないように、対応するレーザー照射部30に制御信号を出力する。
【0076】
一方、上記(2)の構成すなわち記録媒体Sの印字部分(形成された画像)のみにレーザー光を照射(走査)する構成とする場合、制御部40は、以下のような処理を行う。すなわち、制御部40は、例えば印刷ジョブの入力画像情報に含まれる画像領域情報に基づいて、当該記録媒体S上の画像領域にのみレーザー光を照射(走査)し、他の領域、例えば記録媒体Sの非印刷部分にはレーザー光を照射しないように、対応するレーザー照射部30に制御信号を出力する。
【0077】
さらに、上記(3)の構成すなわち記録媒体S上に形成された画像のうち対応する色のインク(画像)のみにレーザー光を照射(走査)する構成とする場合、制御部40は、以下のような処理を行う。すなわち、制御部40は、上記と同様に、印刷ジョブの入力画像情報に含まれる画像領域情報に基づいて、当該記録媒体S上の対応する色の画像領域にのみレーザー光を照射(走査)し、他の色の画像領域および非印刷部分にはレーザー光を照射しないように、対応するレーザー照射部30に制御信号を出力する。
【0078】
上記のいずれの構成であっても、レーザー照射部30により走査されたレーザー光が照射された記録媒体S上のインク(画像)は、当該レーザー光のエネルギーを吸収し加熱することで乾燥し、用紙に定着される。
【0079】
なお、インクを乾燥させるために、赤外線や近赤外線を用いることも考えられるが、この場合、記録媒体S(用紙等)が光を吸収して乾燥することによって、記録媒体Sのカールが発生しやすくなる問題がある。
【0080】
このため、本実施の形態では、レーザー照射部30として、記録媒体S(用紙等)による光の吸収が生じにくい半導体レーザー光源を設ける。また、記録媒体Sのカール発生の防止を強化する観点からは、レーザー照射部30を上述のようなレーザー走査式の構成(走査型レーザー光源)とし、制御部40により、記録媒体S上の画像(インク)部分のみにレーザー光を照射するように制御するとよい。
【0081】
上記のような構成であれば、レーザー照射部30を複数設けた場合でもコストを低く抑えることができる。また、上記のような構成であれば、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:垂直共振器面発光レーザー)、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)などの面発光光源と比較して細い光線を射出することができる。
【0082】
ここで、細い光線を射出できることのメリットとしては、例えば、各色のヘッドユニット10同士の隙間が狭い場合であっても、当該隙間領域でレーザー光を上述した直交方向(記録媒体Sの幅方向)に走査させて、画像ひいては対応する色のインクに照射することができる(
図1を参照)。
【0083】
一具体例では、画像形成装置1で使用するインクを他のメーカーの製品あるいは同一メーカーであっても他の成分を含有するインクに変える等の場合、印刷ジョブの実行(以下、「本印刷」ともいう)の前に、例えば以下のような試運転モードでの検査を行う。
【0084】
試運転モードにおいて、画像形成装置1は、YMCK各色のインクのベタ画像を記録媒体S上で隣接するように各ヘッドユニット10からインクを吐出するとともに、対応する各々のレーザー照射部30でピニング(プレ硬化)処理を行い、後段のドライヤー31を駆動せずに、当該テストチャートが印刷された記録媒体Sを排紙部4に排紙する。
【0085】
ここで、排紙された記録媒体S上のテスチャートを構成するベタ画像の各色(特に境界部分の色同士)のインクが混ざっている場合、対応するレーザー照射部30の出力を上げるように設定して上記検査を再度行い、記録媒体S上のベタ画像の各色が混ざらなくなった場合、当該設定を保存して本印刷を実行する。
【0086】
なお、レーザー照射部30の出力の設定変更は、上述した操作表示部(タッチパネルなど)にユーザー設定画面を表示して行うとよい。
【0087】
上記のような検査および設定を予め行っておくことにより、実際に使用する種々の成分のインクに対するレーザー照射部30によるプレ硬化処理ひいては定着処理の性能が確保されるので、インクの乾燥ひいては記録媒体への定着品質を格段に向上させることができる。
【0088】
なお、本印刷で使用する実際の画像を印刷して上記の試運転モードでの検査を行う場合、各色のインクが完全に乾燥(定着)したか否かを基準としてもよい。
【0089】
すなわち、上記の試運転モードにおいて、画像形成装置1は、本印刷で印刷する画像を形成するように、例えばYMCK各色のインクを吐出して記録媒体S上にインク滴を着弾させるとともに、対応する各々のレーザー照射部30でピニング(プレ硬化)し、後段のドライヤー31を稼働せずに、当該記録媒体Sを排紙部4に排紙する。
【0090】
ここで、排紙された記録媒体S上の画像(インク像)が完全に乾燥していない場合、当該完全に乾燥していない色に対応するレーザー照射部30の出力を高く設定して、上述した試運転モードでの検査を繰り返す。そして、各色のインクが完全に乾燥(定着)した場合、レーザー照射部30についての当該設定を保存し、かかる設定内容に従って本印刷を実行する。
【0091】
このような検査および設定を予め行っておくことにより、本印刷の実行時には、ドライヤー31の出力をゼロまたは最小限化することができるので、消費エネルギー効率を向上させることができる。加えて、ドライヤー31の出力を最小限化することは、記録媒体Sのカール発生の抑制に寄与することができる。
【0092】
このように、複数色のインクが着弾された記録媒体Sの画像形成面に、インクの乾燥むらが抑制されるように、複数色のインクの性質に応じた異なる波長のレーザー光を照射する構成を備えた本実施の形態によれば、色毎の乾燥むらを抑制するとともに消費エネルギー効率を向上させることができる。
【0093】
その他、上記実施の形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 画像形成装置
2 画像形成装置本体
3 給紙部
4 排紙部
5 アライナー
10 ヘッドユニット(画像形成部)
20 搬送部
21 第1搬送ベルト
23 駆動ローラー
25 第2搬送ベルト
26 従動ローラー
27 駆動ローラー
30 レーザー照射部(光照射部、定着部)
31 ドライヤー(加熱部、定着部)
40 制御部
51 搬送駆動部
101 ヘッド駆動部
102 インクジェットヘッド
RP 反転搬送路
R 搬送ローラー
S 記録媒体