(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】塗布治具、塗布方法
(51)【国際特許分類】
B05C 1/02 20060101AFI20250304BHJP
B05D 1/28 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
B05C1/02 101
B05D1/28
(21)【出願番号】P 2021041084
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文哉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠志
(72)【発明者】
【氏名】大谷 和史
【審査官】山崎 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-000442(JP,A)
【文献】特開2013-116195(JP,A)
【文献】特開2020-058490(JP,A)
【文献】特開2017-123919(JP,A)
【文献】特開2016-203058(JP,A)
【文献】実開平04-033960(JP,U)
【文献】特開2017-000947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/02
B05D 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体に浸漬されて前記液体が付着する円柱状の基部と、前記基部の先端部から突出して
形成される突起部と、を備え、前記基部に付着した前記液体を前記突起部に導液させて被
塗布対象物に前記液体を塗布する塗布針を有した塗布治具であって、
前記基部には、前記基部の伸びる方向に対して垂直方向に、前記基部の外形幅を減少さ
せて形成され、前記液体を保持可能な液溜部が、前記突起部から離間して設けられ
、
前記液溜部と前記突起部との間の前記基部には、前記液溜部の前記液体を前記突起部に
導液させる溝部を備え、
前記溝部は、前記垂直方向から見た場合、前記液溜部の外形幅よりも小さく形成され
、
前記液溜部を前記垂直方向から見た場合、前記液溜部の前記溝部との接続部分は、漏斗
状に形成されていることを特徴とする塗布治具。
【請求項2】
液体に浸漬されて前記液体が付着する円柱状の基部と、前記基部の先端部から突出して
形成される突起部と、を備え、前記基部に付着した前記液体を前記突起部に導液させて被
塗布対象物に前記液体を塗布する塗布針を有した塗布治具であって、
前記基部には、前記基部の伸びる方向に対して垂直方向に、前記基部の外形幅を減少さ
せて形成され、前記液体を保持可能な液溜部が、前記突起部から離間して設けられ、
前記突起部は、前記基部の伸びる方向とは交差する方向に延出する第1延出部を備え、
前記第1延出部の先端部には、円弧形状の切欠き部を備えていることを特徴とする塗布
治具。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載の塗布治具であって、
前記突起部は、前記基部の伸びる方向に延出する第2延出部を備え、
前記第2延出部は、先端部が二股に分かれた鋭角部を備えていることを特徴とする塗布
治具。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の塗布治具であって、
前記液体を貯留する液槽を備え、
前記塗布針は、前記基部が前記液槽を挿通して摺動可能に配置され、前記液槽の挿通す
る孔部にはパッキンが配置されていることを特徴とする塗布治具。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の塗布治具であって、
前記液溜部は、前記基部の外面に凹形状に設けられていることを特徴とする塗布治具。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の塗布治具であって、
前記突起部は、円柱形状、又は先細りするテーパー形状に形成されていることを特徴と
する塗布治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗布対象物に微量の液体を塗布するための塗布治具、および塗布治具を用いた塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、注油箇所に注油する微量注油装置として、特許文献1では、スキージで膜厚管理されたグリース膜に塗布針の先端を接触させてグリースをすくい取り、その塗布針の先端を玉軸受けのグリース載置面に押し付けて、グリースを転写することが開示されている。
また、特許文献2では、針先端に針先端直径より小さい直径の突起物を設けた、ニードル式ディスペンサー塗布針および液体転写方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-286061号公報
【文献】特開2010-207703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、特許文献2では、被塗布対象物として、例えば微細な孔や微細な軸などに対して、安定した微量な液を塗布することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
塗布治具は、液体に浸漬されて前記液体が付着する円柱状の基部と、前記基部の先端部から突出して形成される突起部と、を備え、前記基部に付着した前記液体を前記突起部に導液させて被塗布対象物に前記液体を塗布する塗布針を有した塗布治具であって、前記基部には、前記基部の伸びる方向に対して垂直方向に、前記基部の外形幅を減少させて形成され、前記液体を保持可能な液溜部が、前記突起部から離間して設けられている。
【0006】
塗布方法は、液体に浸漬されて前記液体が付着する円柱状の基部と、前記基部の先端部から突出して形成される突起部と、前記基部に設けられて前記液体を保持可能な液溜部と、を備えた塗布針の、前記液溜部を含む前記基部を、前記液体が貯留された液槽に浸漬させて、前記液溜部を含む前記基部に前記液体を付着させると共に、前記液溜部に前記液体を保持させる液体付着保持工程と、前記液槽内から、前記塗布針の前記液溜部を含む前記基部を、前記液槽の外部に移動させ、塗布する前記液体を取り出す取出工程と、前記突起部を被塗布対象物に接触させて、前記液溜部から前記突起部に導液された前記液体を、前記被塗布対象物に塗布する塗布工程と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る塗布治具の構成を示す斜視図。
【
図6】塗布治具が孔部へ塗布を行う状態を説明する断面図。
【
図7】第2実施形態に係る塗布治具の構成を示す斜視図。
【
図8】塗布治具が軸へ塗布を行う状態を説明する斜視図。
【
図9】第3実施形態に係る塗布治具の構成を示す斜視図。
【
図10】塗布治具がボールベアリングへ塗布を行う状態を説明する斜視図。
【
図11】第4実施形態に係る塗布治具の構成を示す斜視図。
【
図12】塗布治具を液槽から取り出した状態を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。ただし、各図において、各部の寸法及び縮尺は、実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に述べる実施の形態は、好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において、特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0009】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態に係る塗布治具1の構成を示す斜視図である。
図2は、塗布治具1の液槽4の断面を示す模式図である。
図1、
図2を参照して、塗布治具1について説明する。
【0010】
ここで、
図1に示すように、塗布治具1に対して、説明の便宜上、XYZ座標系を設定する。具体的には、図面上方向を上方向、図面下方向を下方向とする。この上下方向をZ軸とし、上方向を+Z方向、下方向を-Z方向とする。また、Z軸に直交し、後述する液溜部6が形成される方向を+X方向とし、反対方向を-X方向とする。また、+X方向、-X方向を合せてX軸とする。また、X軸とZ軸とに直交する軸をY軸とする。後述する液溜部6を正面に見た場合の右方向を+Y方向、反対方向となる左方向を-Y方向とする。
【0011】
本実施形態の塗布治具1は、例えば、時計などの精密な部品に、液体としての潤滑油などの油を塗布する際に使用する治具となる。塗布治具1は、具体的には、時計を構成する地板などに設置される微細な孔部に対して、油を塗布する治具である。なお、この場合、孔部が油を塗布する被塗布対象物となる。塗布治具1による油の塗布により、孔部に設置される例えば歯車の軸との摩擦を軽減する。
【0012】
孔部への塗布は、微量な量であり、多くても少なくても不具合が生じてしまう。そのため、塗布治具1には、安定した微量な量を塗布することが求められる。本実施形態の塗布治具1は、
図1、
図2に示すように、概略、塗布針10と、液槽4と、パッキン5とを備えている。塗布針10は、基部2と突起部3とを備えている。
【0013】
基部2は、後述する液槽4に浸漬されて油が付着する部材であり、中実の円柱形状に形成されている。突起部3は、基部2の先端部21から、基部2の伸びる方向(-Z方向)に突出して形成される部材であり、基部2から導液された油Mを被塗布対象物に塗布する。具体的に、本実施形態の突起部3は、基部2の先端部21に、基部2の外径(直径)より小さい外形(直径)となる中実の円柱形状で形成されている。
【0014】
基部2は液溜部6を備えている。液溜部6は、基部2の伸びる方向(-Z方向)に対して垂直方向(X軸に沿った方向)に外形幅を減少させて形成され、液体としての油を保持可能であり、突起部3から離間して設けられている。詳細には、液溜部6は、基部2の外面となる外周面22に凹形状に設けられている。液溜部6は、
図1、
図2に示すように、+X方向から見た場合、逆三角形状となる凹形状をなしている。
【0015】
また、基部2の外周面22には、液溜部6となる逆三角形の下側の頂点から、基部2の先端部21にわたってスリット状に溝部7が形成され、液溜部6と溝部7とが接続されている。なお、溝部7は、垂直方向(+X方向)から見た場合、液溜部6の外形幅よりも小さく形成される。また、液溜部6を垂直方向(+X方向)から見た場合、液溜部6の溝部7との接続部分は、漏斗状に形成されている。これにより、液溜部6に溜まった油は、溝部7を経由して下方向に流れる。
【0016】
液溜部6、溝部7の外周面22からの深さは、一様な深さに形成される。また、先端部21に形成される溝部7の深さも、外周面22からの深さと同様の深さで形成されて、突起部3につながっている。なお、本実施形態では、液溜部6、溝部7の外周面22からの深さは、一様な深さに形成されているが、これには限られず、一様ではない深さで形成されることでもよい。
【0017】
ここで、本実施形態の油Mの粘度は、例えば、50~5000mpa・sとしている。また、本実施形態の微量の注油量として、例えば、0.01~0.10μlとしている。
【0018】
上記の量を実現する塗布針10、液溜部6などの寸法を述べる。
本実施形態の基部2の外周面22の直径Aは、例えば、1mmとしている。また、溝部7の幅Bは、例えば、0.1mmとしている。また、突起部3の直径Cは、例えば、0.5mmとしている。また、液溜部6の逆三角形の容積は、塗布する所定の量に合せて、外形および深さが決められて、加工されている。また、液溜部6、溝部7の形成には、レーザー加工機が使用されている。
【0019】
なお、液溜部6、溝部7の形状や寸法は一例を示したものであり、被塗布対象物への塗布量に対応させた形状や寸法とすることでよい。また、加工方法も、レーザー加工機には限られない。同様に、突起部3の直径Cや、Z軸に沿った方向の長さなどは、被塗布対象物となる後述する孔部102の穴径や、長さに応じて設定することでよい。
【0020】
図2に示すように、液槽4は、中空の円柱状の筐体41の内部に、塗布する液体としての油Mを貯留している。塗布針10(基部2)は、液槽4をZ軸に沿った方向に挿通すると共に、図示省略する駆動機構により、Z軸に沿った方向に摺動可能に配置及び構成されている。液槽4の筐体41において、基部2が挿通する上下方向の孔部42には、それぞれパッキン5が配置されている。なお、パッキン5を備えることにより、基部2が液槽4を挿通して摺動する場合に、液槽4の挿通する孔部42からの液漏れを防止する。
【0021】
図2は、塗布治具1の液槽4の断面を示す模式図であると共に、塗布治具1の動作を説明する模式断面図でもある。また、
図3~
図5は、
図2と同様に、塗布治具1の動作を説明する模式断面図である。詳細には、
図2は、基部2が初期位置に位置している状態を示している。
図3は、基部2が初期位置から補給位置に移動した状態を示している。
図4は、基部2が補給位置から初期位置に移動した状態を示している。
図5は、補給位置から初期位置に移動した基部2に対して、液溜部6に補給した油Mが溝部7を流動して突起部3に溜まった状態を示している。
図5は、言い換えると、被塗布対象物に、補給した油Mを塗布することが可能な状態になったことを示す図である。
図6は、塗布治具1が被塗布対象物としての孔部102へ塗布を行う状態を説明する断面図である。
図2~
図6を参照して、塗布治具1の動作を説明する。
【0022】
塗布針10(基部2)は、液槽4に対する塗布針10の位置として、
図2に示す初期位置と、
図3に示す補給位置とに摺動可能(移動可能)となっている。なお、塗布針10の移動は、本実施形態では、図示省略する駆動機構により行われる。
【0023】
初期位置とは、基部2に形成される液溜部6が液槽4より下側(-Z方向)に露出している位置であり、被塗布対象物に油Mを塗布する際の、液槽4に対する塗布治具1の高さ方向(Z軸に沿った方向)の位置でもある。また、補給位置とは、液槽4の内部に基部2の液溜部6が移動して、塗布するための油Mを液溜部6に付着させる位置である。また、補給位置では、基部2の先端部21は、液槽4から下側(-Z方向)に露出している。
【0024】
次に、塗布治具1の動作および塗布方法について説明する。
駆動機構により、基部2が、
図2に示す初期位置から、
図3に示す補給位置に移動した場合、液溜部6は、液体としての油Mが貯留された液槽4に浸漬された状態となる。そして、液槽4の内部に位置する液溜部6には、液槽4の内部に貯留される油Mが付着して、液溜部6に保持された状態となる。なお、液槽4の内部に位置する基部2の外周面22や溝部7にも油Mが付着する。この一連の動作が、塗布方法において、液溜部6に塗布用の液体(油M)を保持させる液体付着保持工程に対応する。
【0025】
次に、駆動機構により、基部2が、
図3に示す補給位置から、
図4に示す初期位置に移動した場合、液溜部6に付着した塗布用の油Mは液溜部6に保持された状態で移動する。この動作により、液槽4から塗布するための油Mを取り出すことができる。なお、基部2の外周面22に付着した油Mは、初期位置に移動する際に、パッキン5によりそがれて液槽4内に残る。この一連の動作が、塗布方法において、塗布針10の液溜部6を含む基部2を液槽4の外部に移動させることで、塗布するための液体(油M)を、液槽4から取り出す取出工程に対応する。
【0026】
実施形態では、
図6に示すように、塗布治具1を用いて油Mを塗布する被塗布対象物は、時計を構成する地板100に設置される軸受け101の孔部102としている。この孔部102には、図示省略する歯車の軸が挿入される。なお、本実施形態の突起部3の直径C(
図2参照)は、孔部102の穴径よりも小さく形成されている。
【0027】
基部2が補給位置から初期位置に移動した場合、同時に、
図5に示すように、液溜部6に保持された油Mは、液溜部6から溝部7を流動して、先端部21と突起部3とにわたって溜まる状態となる。
【0028】
そして、孔部102への塗布方法として、先端部21と突起部3とにわたって油Mが溜まった状態の塗布治具1を移動させて、軸受け101の孔部102の真上に位置させる。次に、塗布治具1を下降させ、突起部3を孔部102内に挿入させて、突起部3を孔部102に接触させる。この動作により、先端部21と突起部3とに溜まった状態の油Mが、孔部102の内周面103に付着する。その後、塗布治具1を上昇させて、塗布治具1を元の位置に戻すことで塗布が終了する。
【0029】
この一連の動作が、塗布方法において、突起部3を被塗布対象物(孔部102)に接触させて、液溜部6から突起部3に導液された液体(油M)を、被塗布対象物(孔部102)に塗布する塗布工程に対応する。なお、本実施形態の塗布工程は、液溜部6と突起部3との間に設けられた溝部7を介して、液溜部6から突起部3に液体(油M)を流動させる動作も含んでいる。
【0030】
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0031】
本実施形態の塗布治具1は、液体としての油Mに浸漬されて油Mが付着する円柱状の基部2と、基部2の先端部21から突出して形成される突起部3と、を備えた塗布針10を有している。そして、塗布針10は、基部2に付着した油Mを突起部3に導液させて被塗布対象物としての孔部102に油Mを塗布する。なお、基部2には、油Mを保持可能な液溜部6が、基部2の伸びる方向(-Z方向)に対して垂直方向(X軸に沿った方向)に基部2の外形幅を減少させて形成され、突起部3から離間して設けられている。また、液溜部6と突起部3との間の基部2には、液溜部6の油Mを突起部3に導液させる溝部7を備えており、溝部7は、垂直方向(+X方向)から見た場合、液溜部6の外形幅よりも小さく形成されている。
この構成により、基部2に備えた液溜部6と溝部7とにより、液溜部6に保持された油Mを、溝部7を流動(導液)させて突起部3に至らせることにより、被塗布対象物としての微細な孔となる孔部102に対して、安定した微量な液を塗布することができる。
【0032】
本実施形態の塗布治具1は、油Mを貯留する液槽4を備え、塗布針10は、基部2が液槽4を挿通して摺動可能に配置され、液槽4の挿通する孔部42にはパッキン5が配置されている。
この構成により、基部2が液槽4を挿通して摺動した場合にも、液槽4の挿通する孔部42からの液漏れ(油漏れ)を防止することができる。
【0033】
本実施形態の塗布治具1において、液溜部6は、基部2の外面に凹形状に設けられている。
この構成により、液溜部6は、微量な油Mを保持することができる。また、凹形状の容積で保持する微量な液量を設定することができる。
【0034】
本実施形態の塗布治具1において、液溜部6を垂直方向(+X方向)から見た場合、液溜部6の溝部7との接続部分は、漏斗状に形成されている。
この構成により、液溜部6に保持する油Mを溝部7に流動しやすくすることができる。
【0035】
本実施形態の塗布治具1において、突起部3は、円柱形状に形成されている。
この構成により、被塗布対象物の微細な孔としての孔部102に対して、孔部102の上方向から、孔部102に突起部3を差し込むことができ、微量な油Mを塗布することができる。
【0036】
本実施形態の塗布方法は、液溜部6に油Mを保持させる液体付着保持工程と、液槽4内から、塗布針10の液溜部6を含む基部2を、液槽4の外部に取り出す取出工程と、突起部3を被塗布対象物(孔部102)に接触させて、液溜部6から突起部3に導液された油Mを、孔部102に塗布する塗布工程と、を有している。
この塗布方法により、被塗布対象物となる微細な孔部102に対して、安定した微量な油Mを塗布することができる。
【0037】
本実施形態の塗布方法において、液体付着保持工程は、塗布針10の液溜部6を含む基部2が、液槽4に挿通されることで浸漬され、基部2が摺動することで液溜部6を含む基部2に油Mが付着すると共に、液溜部6に塗布用の油Mが保持される。
この塗布方法により、液溜部6の容量に応じた所定の微量な油Mを、保持することができる。
【0038】
本実施形態の塗布方法において、塗布工程では、液溜部6と突起部3との間に設けられた溝部7を介して、液溜部6から突起部3に塗布用の油Mを流動させる。
この塗布方法により、微量な油Mを的確に突起部3に届けることができる。
【0039】
2.第2実施形態
図7は、第2実施形態に係る塗布治具1Aの構成を示す斜視図である。
図8は、塗布治具1Aが軸111へ塗布を行う状態を説明する斜視図である。
図7を参照して、塗布治具1Aについて説明する。
【0040】
本実施形態の塗布治具1Aは、第1実施形態の塗布治具1と比較して、基部2Aの液溜部6A、溝部7A、及び、突起部3Aが異なっている。中でも、最も異なるのは、突起部3Aである。それ以外は、第1実施形態の塗布治具1と同様に構成されている。なお、同様に構成される部分には同様の符号を付記し、説明は省略する。
【0041】
本実施形態の基部2Aは、第1実施形態の基部2と比較した場合、液溜部6Aの形状が異なっている。本実施形態の液溜部6Aは、野球のホームベースの形状のように5角形状をなしており、その1つの角部が溝部7Aにつながっている。溝部7Aは、基部2Aの先端部21Aまで形成されている。
【0042】
本実施形態の基部2Aの先端部21Aには、基部2Aの伸びる方向(-Z方向)とは交差する方向に延出する第1延出部を備えている。本実施形態では、基部2Aの伸びる方向(-Z方向)とは交差する方向として、Z軸に沿った方向に対して、直交する+X方向に延出する第1延出部を備えている。なお、本実施形態では、この第1延出部を突起部3Aと呼称する。
【0043】
なお、第1延出部は、交差する方向として、直交する方向(+X方向)ではなく、+X方向から若干下方向(-Z方向)に向いて延出するなど、被塗布対象物への塗布の仕方に応じて交差する角度を変化させることでよい。
【0044】
本実施形態の突起部3A(第1延出部)は、概ね矩形の薄板状に構成されている。例えば、本実施形態では、基部2Aの直径Dは、例えば、0.7mmとしている。また、突起部3Aは、Y軸に沿った方向の長さEと、X軸に沿った方向の長さFとを、例えば、1.0mmの矩形状とし、Z軸に沿った方向の長さG(厚さ)を、例えば、0.2mmとしている。
【0045】
突起部3A(第1延出部)の+X方向の先端部31には、円弧形状の切欠き部32を備えている。この切欠き部32の円弧形状の直径は、本実施形態の被塗布対象物となる後述する軸111(
図8参照)の直径より若干大きく形成されている。
【0046】
切欠き部32の上部(+Z方向)には、液(油M)を保持するための溝を形成する液保持部33が形成されている。液保持部33は、切欠き部32と同心円状で、切欠き部32の径より大きい径で形成されている。また、突起部3Aには、液保持部33と溝部7Aとを接続するための溝部34がスリット状に形成されている。
【0047】
なお、基部2A、突起部3Aの形状や寸法は一例を示したものであり、被塗布対象物となる後述する軸111の穴径や、被塗布対象物への塗布量に対応させた形状や寸法とすることでよい。
【0048】
図7、
図8を参照して、塗布治具1Aの動作と塗布方法について説明する。
本実施形態の塗布治具1Aも第1実施形態の塗布治具1と同様の動作を行う。なお、異なるのは、塗布工程における動作となる。同様の動作については説明を簡略化する。
【0049】
塗布針10A(基部2A)は、第1実施形態と同様に、駆動機構により、初期位置と、補給位置とに摺動可能(移動可能)となっている。
図7に示す液槽4に対する塗布針10Aの位置は、第1実施形態と同様に、液溜部6Aが液槽4より下側(-Z方向)に露出している位置であり、初期位置となる。また、
図8に示すように、初期位置は、被塗布対象物に油Mを塗布する際の、液槽4に対する塗布針10Aの高さ方向(Z軸に沿った方向)の位置となる。
【0050】
そして、液体付着保持工程を実施する。詳細には、塗布針10Aが初期位置から補給位置に移動することにより、液溜部6Aに油Mが付着して、液溜部6Aに保持された状態とする。次に、取出工程を実施する。詳細には、塗布針10Aが補給位置から初期位置に移動することにより、液槽4内から、塗布針10Aの液溜部6Aを含む基部2Aを、液槽4の外部に移動させることで、塗布するための油Mを液槽4から取り出した状態とする。
【0051】
本実施形態では、
図8に示すように、塗布治具1Aを用いて油Mを塗布する被塗布対象物は、時計を構成する地板110に設置される軸111としている。この軸111には、図示省略する中空の軸が挿入される。
【0052】
次に、塗布工程を実施する。なお、基部2Aが補給位置から初期位置に移動した場合、同時に、
図8に示すように、液溜部6Aに保持された油Mは、液溜部6Aから溝部7A,34を流動して、液保持部33に溜まる状態となる。このように、液溜部6Aと突起部3A(液保持部33)との間に設けられた溝部7A、溝部34を介して、液溜部6Aから突起部3A(液保持部33)に液体(油M)を流動させる状態も塗布工程に含んでいる。
【0053】
そして、塗布工程では、液保持部33に油Mが溜まった状態の塗布治具1Aを移動させて、軸111の真横に位置させる。次に、塗布治具1Aを水平に移動させ、突起部3Aの切欠き部32を横方向から軸111の外周面112に接触させる。この動作により、液保持部33に溜まった状態の油Mが、軸111の外周面112に付着する。その後、塗布治具1Aを横方向に移動させ、塗布治具1Aを元の位置に戻すことで塗布が終了する。
【0054】
本実施形態によれば、第1実施形態での効果を奏する他、以下の効果を得ることができる。
【0055】
本実施形態の塗布治具1Aにおいて、突起部3Aは、基部2Aの伸びる方向(-Z方向)とは交差する方向に延出する第1延出部を備えている。なお、本実施形態では、この第1延出部を突起部3Aとしている。そして、第1延出部(突起部3A)の先端部31には、円弧形状の切欠き部32を備えている。
この構成により、被塗布対象物が、微細な軸(軸111)などの場合、軸111の横方向から、軸111の外周面112に切欠き部32を接触させることで、微量な油Mを塗布することができる。このように、塗布治具1Aは、突起部3Aにより、軸111の伸びる方向とは交差する方向から、安定した微量な液(油M)を塗布することができる。
【0056】
3.第3実施形態
図9は、第3実施形態に係る塗布治具1Bの構成を示す斜視図である。
図10は、塗布治具1Bがボールベアリング121へ塗布を行う状態を説明する斜視図である。
図9を参照して、塗布治具1Bについて説明する。
【0057】
本実施形態の塗布治具1Bは、第1実施形態の塗布治具1と比較して、基部2の先端部21から突出する突起部3Bが異なっている。それ以外は、第1実施形態の塗布治具1と同様に構成されている。なお、同様に構成される部分には同様の符号を付記し、説明は省略する。
【0058】
本実施形態の基部2の先端部21には、基部2の伸びる方向(-Z方向)に延出する第2延出部を備えている。なお、本実施形態では、この第2延出部を突起部3Bと呼称する。本実施形態では、突起部3B(第2延出部)は、先端部が二股に分かれた鋭角部36,37を備えている。本実施形態では、二股の隙間となるスリット部35は、基部2の先端部21まで達している。
【0059】
突起部3Bは、言い換えると、薄板の2つの直角三角形となる鋭角部36,37が、背中合わせに所定の隙間(スリット部35のスリット幅)を保持して、先端部21に設置されている。更に言い換えると、突起部3Bは、薄板の二等辺三角形状に形成され、頂角の部分からスリット状に先端部21に至るまで隙間が形成されている。
【0060】
なお、本実施形態では、突起部3Bは、二股の隙間となるスリット部35が、基部2の先端部21まで達しているが、途中まででもよい。この場合、2つの鋭角部36,37は接続された状態となる。この場合、溝部7から、流動する油Mを突起部3Bのスリット部に流動させるための、溝部を設けることでもよい。
【0061】
本実施形態では、鋭角部36,37のそれぞれの先端部21におけるY軸に沿った方向の幅Hは、例えば、0.3mmとしている。また、鋭角部36,37のそれぞれのZ軸に沿った方向の長さJは、例えば、1.0mmとしている。そして、スリット部35の隙間Kは、例えば、0.2mmとしている。
【0062】
なお、突起部3B(第2延出部)の形状や寸法は一例を示したものであり、被塗布対象物への塗布量に対応させた形状や寸法とすることでよい。
【0063】
図9、
図10を参照して、塗布治具1Bの動作と塗布方法について説明する。
本実施形態の塗布治具1Bも、第1実施形態の塗布治具1と同様の動作を行う。同様の動作については説明を簡略化する。
【0064】
塗布針10B(基部2)は、第1実施形態と同様に、駆動機構により、初期位置と、補給位置とに摺動可能(移動可能)となっている。
図9に示す液槽4に対する塗布針10Bの位置は、第1実施形態と同様に、液溜部6が液槽4より下側(-Z方向)に露出している位置であり、初期位置となる。また、
図9に示すように、初期位置は、被塗布対象物に油Mを塗布する際の、液槽4に対する塗布針10Bの高さ方向(Z軸に沿った方向)の位置となる。
【0065】
そして、液体付着保持工程を実施する。詳細には、図示は省略するが、第1実施形態と同様に、塗布針10Bが初期位置から補給位置に移動することにより、液溜部6に油Mが付着して、液溜部6に保持された状態とする。次に、取出工程を実施する。詳細には、第1実施形態と同様に、塗布針10Bが補給位置から初期位置に移動することにより、液槽4内から、塗布針10Bの液溜部6を含む基部2を、液槽4の外部に移動させることで、塗布するための油Mを液槽4から取り出した状態とする。
【0066】
実施形態では、
図10に示すように、塗布治具1Bを用いて油Mを塗布する被塗布対象物は、時計を構成する図示省略する回転錘を受ける回転錘受け120において、回転錘受け120を構成する複数のボールベアリング121としている。
【0067】
次に、塗布工程を実施する。なお、基部2が補給位置から初期位置に移動した場合、同時に、
図10に示すように、液溜部6に保持された油Mは、液溜部6から溝部7を流動して、スリット部35および鋭角部36,37の-Z方向の先端部に溜まる状態となる。このように、液溜部6と突起部3Bとの間に設けられた溝部7、スリット部35を介して、液溜部6から突起部3Bに液体(油M)を流動させる状態も塗布工程に含んでいる。
【0068】
そして、塗布工程では、スリット部35および鋭角部36,37の-Z方向の先端部に油Mが溜まった状態の塗布治具1Bを移動させて、ボールベアリング121の真上に位置させる。次に、塗布治具1Bを下降させ、突起部3B(鋭角部36,37)の-Z方向の先端部を、回転錘受け120内に挿入させて、ボールベアリング121に接触させる。
【0069】
この動作により、スリット部35および鋭角部36,37の-Z方向の先端部に溜まった状態の油Mが、ボールベアリング121に付着する。その後、塗布治具1Bを上昇させて、塗布治具1Bを元の位置に戻すことで1つのボールベアリング121への油Mの塗布が終了する。なお、他のボールベアリング121への油Mの塗布が必要な場合には、上述した塗布方法を繰り返して塗布を行う。
【0070】
本実施形態によれば、第1実施形態での効果を奏する他、以下の効果を得ることができる。
【0071】
本実施形態の塗布治具1Bにおいて、突起部3Bは、基部2の伸びる方向(-Z方向)に延出する第2延出部を備えている。なお、本実施形態では、この第2延出部を突起部3Bとしている。そして、第2延出部(突起部3B)は、先端部が二股に分かれた鋭角部36,37を備えている。本実施形態では、二股に分けるためにスリット部35を備えている。
この構成により、被塗布対象物が、微細なベアリングなどの場合、ボールベアリング121の上方向から鋭角部36,37の先端部をボールベアリング121に接触させることで、微量な油Mを塗布することができる。このように、塗布治具1Bは、突起部3Bにより、ボールベアリング121の上方向から、安定した微量な液(油M)を塗布することができる。
【0072】
4.第4実施形態
図11は、第4実施形態に係る塗布治具1Cの構成を示す斜視図である。また、
図11は、塗布治具1Cを液槽8に浸漬した状態を示している。
図12は、塗布治具1Cを液槽8から取り出した状態を説明する断面図である。
図11、
図12を参照して、塗布治具1Cについて説明する。
【0073】
図11に示すように、本実施形態の塗布治具1Cは、第1実施形態の塗布治具1と比較して、第1実施形態の液槽4は備えていない。本実施形態の液槽8は、塗布治具1Cとは別体として構成されている。なお、塗布治具1Cは、塗布針10Cのみを備えている。
【0074】
本実施形態の塗布針10Cは、基部2Cと突起部3Cとを備えている。基部2Cは、円柱状に形成されており、基部2Cの先端部21Cからは、基部2Cの伸びる方向(-Z方向)に突出して突起部3Cが形成されている。突起部3Cは、基部2Cの外径(直径)より小さい外形(直径)となる円柱形状で形成されている。
【0075】
基部2Cは液溜部6Cを備えている。液溜部6Cは、基部2Cの伸びる方向(-Z方向)に対して垂直方向(X軸に沿った方向)に基部2Cの外形幅を減少させて形成され、液体としての油Mを保持可能であり、突起部3Cから離間して設けられている。
【0076】
詳細には、液溜部6Cは、基部2Cの外面となる外周面22Cに凹形状に設けられている。液溜部6Cの凹形状は、本実施形態においては、基部2Cの中心方向に軸径を小さくするように削られた形状をなしている。また、本実施形態の液槽8は、塗布治具1Cとは別体で形成されている。液槽8は、内部に塗布する液体としての油Mを貯留している。
【0077】
次に、塗布治具1Cの動作および塗布方法について説明する。
図11に示すように、塗布針10Cの液溜部6Cを含む基部2Cと突起部3Cとを、油Mが貯留された液槽8に浸漬させる。これにより、油Mは、液溜部6Cに付着する。なお、この動作が、塗布方法の、液体付着保持工程に相当する。
【0078】
そして、
図12に示すように、液槽8の外部に基部2Cを移動させることで、液槽8に浸漬した塗布治具1Cを取り出す。なお、この動作が、塗布方法の、取出工程に相当する。なお、塗布治具1Cを液槽8から取り出した場合、液溜部6Cに付着した油Mは、液溜部6Cと突起部3Cとの間の基部2Cの外周面23Cを伝わり、先端部21Cと突起部3Cとにわたって油Mが溜まる状態となる。
【0079】
そして、被塗布対象物として第1実施形態と同様に、孔部102へ塗布することを考えた場合の塗布方法として、先端部21Cと突起部3Cとに油Mが溜まった状態の塗布治具1Cを移動させて、塗布工程を行う。なお、塗布工程は、
図6に示す第1実施形態と同様に行われるため、説明を省略する。
【0080】
なお、本実施形態の突起部3Cに替えて、第2実施形態、第3実施形態の突起部3A,3Bと概略同様の突起部を備えることでもよい。
本実施形態によれば、第1実施形態での効果には未達の部分はあるが、略同様の効果を奏することができる。
【0081】
5.変形例1
第1実施形態の液溜部6は、+X方向から見た場合、凹形状として、逆三角形状となる三角形状を有している。しかし、これには限られず、液溜部6の溝部7との接続部分が漏斗状に形成される形状であればよい。例えば、四角形状でも五角形状であってもよい、また、楕円形状であってもよい。また、複数の形状が組み合わされた形状であってもよい。これは、第2、第3実施形態でも同様となる。
【0082】
6.変形例2
第1実施形態の突起部3は、円柱形状に形成されている。しかし、これには限定されず、先細りするテーパー形状で形成されていてもよく、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0083】
7.変形例3
第1実施形態~第4実施形態では、塗布治具1,1A,1B,1Cが塗布する液体として潤滑油などの油としている。しかし、液体は、これには限られない。液体として、接着剤やモールド剤などを塗布することでもよい。
【符号の説明】
【0084】
1,1A,1B,1C…塗布治具、2,2A,2C…基部、3,3A,3B,3C…突起部、4…液槽、5…パッキン、6,6A,6C…液溜部、7,7A…溝部、8…液槽、10,10A,10B,10C…塗布針、21,21A,21C…先端部、22,22C…外周面、23C…外周面、31…第1延出部の先端部、32…切欠き部、33…液保持部、34…溝部、35…スリット部、36,37…鋭角部、41…筐体、42…孔部、100…地板、101…軸受け、102…孔部、103…内周面、110…地板、111…軸、112…外周面、120…回転錘受け、121…ボールベアリング、M…液体としての油。