(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】面接合試験体の引張せん断接合強さ測定方法および測定用治具
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20250304BHJP
G01N 3/08 20060101ALI20250304BHJP
G01N 19/04 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
G01N3/00 Q
G01N3/08
G01N19/04 D
(21)【出願番号】P 2021047291
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2020062688
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】光岡 秀人
(72)【発明者】
【氏名】木本 幸胤
(72)【発明者】
【氏名】尾関 雄治
【審査官】寺田 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-234909(JP,A)
【文献】特開平09-304202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00-3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張試験機を用いた面接合試験体の引張せん断強さ試験による接合面のせん断強さの測定方法であって、前記面接合試験体は、上試験片および下試験片からなる一対の試験片の端部同士を面接合させた接合部を有し、各々の試験片は、前記接合部を構成する端部から他方の端部の延在方向が相反する方向に配置されており、以下の工程に沿って引張せん断強さを測定
し、かつ工程Bにおいて、前記下試験片と第1治具との間に、第1スペーサーをさらに狭持させることを特徴とする面接合試験体の引張せん断接合強さ測定方法。
A.第2治具の台座部の上に前記面接合試験体の上試験片の端部を載せ置く工程
B.第1治具の上端に設けられ、前記面接合試験体の引張方向に対して垂直方向に突出した爪部を、前記爪部先端と上試験片との間の端開き距離を制御しながら、前記面接合試験体の下試験片の端部に載せ置く工程、
C.前記端開き距離を維持するように第1治具と第2治具を締結し前記治具とする工程、
D.前記面接合試験体の上試験片および締結した前記治具を引張試験機に固定する工程、
E.引張試験機を作動させ、前記面接合試験体に引張荷重を載荷し、前記接合部が破壊するまでの引張荷重を測定する工程。
【請求項2】
工程Aにおいて、前記上試験片と前記第2治具との間に、第3スペーサーをさらに狭持させることを特徴とする請求項
1に記載の面接合試験体の引張せん断接合強さ測定方法。
【請求項3】
工程Aにおいて、前記下試験片と前記第2治具との間に、第2スペーサーをさらに狭持させることを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の面接合試験体の引張せん断接合強さ測定方法。
【請求項4】
前記面接合試験体の少なくとも一方の試験片が繊維強化樹脂からなる、請求項1~請求項
3のいずれかに記載の引張せん断接合強さ測定方法。
【請求項5】
前記面接合試験体の少なくとも一方の試験片が炭素繊維強化樹脂からなる、請求項1~請求項
4のいずれかに記載の引張せん断接合強さ測定方法。
【請求項6】
前記上試験片および前記下試験片との間に接合部材を介して面接合したことを特徴とする請求項1~請求項
5のいずれかに記載の引張せん断接合強さ測定方法。
【請求項7】
引張試験機を用いた面接合試験体の引張せん断強さ試験による接合面のせん断強さの測定用治具であって、前記面接合試験体を締結する第1治具および第2治具、スペーサーから構成され、前記面接合試験体は、上試験片および下試験片からなる一対の試験片の端部同士を接合部材を介して面接合した面接合部を有し、各々の試験片は、前記接合部を構成する端部から他方の端部の延在方向が相反する方向に配置されたものであり、前記第1治具は、前記面接合試験体の引張方向に対して垂直方向に突出し、前記下試験片の端面に載置させる爪部を具備するものであり、前記第2治具は、前記上試験片の端部を載せ置く台座部を有するものであ
り、前記スペーサーとして、少なくとも、前記第1治具と前記下試験片との間に挿入し狭持させる第1スペーサーを用いることを特徴とする測定用治具。
【請求項8】
前記スペーサーとして、
さらに、前記第2治具と前記下試験片との間に挿入し狭持させる第2スペーサーを用いることを特徴とする請求項
7に記載の測定用治具。
【請求項9】
前記スペーサーとして、
さらに、前記第2治具と前記上試験片との間に挿入し狭持させる第3スペーサーを用いることを特徴とする
請求項7または請求項8に記載の測定用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面接合された部分を有する面接合試験体の引張せん断接合強さの測定方法および測定用治具に関する。とくに、面接合された2枚の短冊状試験片からなる引張せん断試験体(いわゆるシングルラップシア試験体)の接合強さの測定において、引張荷重と平行な面内のせん断方向の接合強さを精度良く測定する測定方法および測定用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
2枚の短冊状の試験片を、たとえば接着剤を使って面接合した引張せん断強さ試験体の接合部分のせん断強さの測定は、JIS K6850(1999)の通り、試験片の両端部のつかみ部分にあて板を貼り付けて、JIS K7161(2014)と同様に引張試験により測定していた。
【0003】
しかしながら、この測定方法では、引張荷重と平行な面内のせん断荷重だけでなく、この面を引き剥がす方向の荷重も発生するため、本来測定したい接合面の面内せん断強さを測定するには困難があった。
【0004】
そこで、面接合試験体の引張せん断接合強さをより正しく測定するために、特許文献1から3に開示されるような治具を用いた測定方法が提案されている。しかし、これらの方法を用いても、炭素繊維複合材料のような板厚の薄い試験片を接着剤で面接合した引張せん断試験体の測定では、接合面に生じる影響を無視できない引き剥がし荷重が発生したり、たとえ引張荷重によるせん断荷重が負荷されたとしても、試験片の表面と接着剤との界面の特性や、接着剤そのものの特性、さらには炭素繊維複合材料に特有の材料内部の特性らの違いから、測定後の接合部分の破壊面の状態が不安定であったり、引張せん断強さの値のばらつきが大きいなどの問題があった。
【0005】
また、特許文献1から3には、引張せん断強さの試験片把持具の一例が記載されているが、接合試験体の大きさに対する把持具の具体的な寸法や、試験体を把持具へ装着する方法などの記載はない。例えば、形状、寸法、剛性が同一の試験体を、特定の測定用治具を用いて、一人の作業者が測定し、その結果を相対的に比較分析する場合は、問題は生じない。しかし、試験体の諸仕様が異なり、それに合わせた治具を用い、複数の測定者で測定する場合には、特許文献1から3に記載された手法に沿って測定したとしても、測定結果が安定せず、客観的に比較分析するに満足できているとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-234909号公報
【文献】特開平9-304202号公報
【文献】実開平6-28713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、2枚の試験片を面接合した引張せん断試験体による接合面のせん断強さの測定において、接合面内に安定した、せん断面を生じさせることができ、さらに接合面外方向の荷重発生を抑止した測定方法および測定用治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、主として、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
(1)引張試験機を用いた面接合試験体の引張せん断強さ試験による接合面のせん断強さの測定方法であって、前記面接合試験体は、上試験片および下試験片からなる一対の試験片の端部同士を面接合した接合部を有し、各々の試験片は、前記接合部を構成する端部から他方の端部の延在方向が相反する方向に配置されており、以下の工程に沿って引張せん断強さを測定することを特徴とする面接合試験体の引張せん断接合強さ測定方法。
A.第2治具の台座部の上に前記面接合試験体の上試験片の端部を載せ置く工程
B.第1治具の上端に設けられ、前記面接合試験体の引張方向に対して垂直方向に突出した爪部を、前記爪部先端と上試験片との間の端開き距離を制御しながら、前記面接合試験体の下試験片の端部に載せ置く工程、
C.前記端開き距離を維持するように第1治具と第2治具を締結し前記治具とする工程、
D.前記面接合試験体の上試験片および締結した前記治具を引張試験機に固定する工程、
E.引張試験機を作動させ、前記面接合試験体に引張荷重を載荷し、前記接合部が破壊するまでの引張荷重を測定する工程。
(2)工程Bにおいて、前記下試験片と前記第1治具との間に、第1スペーサーをさらに狭持させることを特徴とする(1)に記載の面接合試験体の引張せん断接合強さ測定方法。
(3)工程Aにおいて、前記上試験片と前記第2治具との間に、第3スペーサーをさらに狭持させることを特徴とする(1)または(2)に記載の面接合試験体の引張せん断接合強さ測定方法。
(4)工程Aにおいて、前記下試験片と前記第2治具との間に、第2スペーサーをさらに狭持させることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の面接合試験体の引張せん断接合強さ測定方法。
(5)前記面接合試験体の少なくとも一方の試験片が繊維強化樹脂からなる、(1)~(4)のいずれかに記載の引張せん断接合強さ測定方法。
(6)前記面接合試験体の少なくとも一方の試験片が炭素繊維強化樹脂からなる、(1)~(5)のいずれかに記載の引張せん断接合強さ測定方法。
(7)前記上試験片および前記下試験片との間に接合部材を介して面接合したことを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の引張せん断接合強さ測定方法。
(8)引張試験機を用いた面接合試験体の引張せん断強さ試験による接合面のせん断強さの測定用治具であって、前記面接合試験体を締結する第1治具および第2治具、スペーサーから構成され、前記面接合試験体は、上試験片および下試験片からなる一対の試験片の端部同士を面接合した面接合部を有し、各々の試験片は、前記接合部を構成する端部から他方の端部の延在方向が相反する方向に配置されたものであり、前記第1治具は、前記面接合試験体の引張方向に対して垂直方向に突出し、前記下試験片の端面に載置させる爪部を具備するものであり、前記第2治具は、前記上試験片の端部を載せ置く台座部を有するものであることを特徴とする測定用治具。
(9)前記スペーサーとして、前記第1治具と前記下試験片との間に挿入し狭持させる第1スペーサーを用いることを特徴とする(8)に記載の治具。
(10)前記スペーサーとして、前記第2治具と前記下試験片との間に挿入し狭持させる第2スペーサーを用いることを特徴とする(8)または(9)に記載の治具。
(11)前記スペーサーとして、前記第2治具と前記上試験片との間に挿入し狭持させる第3スペーサーを用いることを特徴とする(8)~(10)のいずれかに記載の治具。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、2枚の試験片を面接合した引張せん断試験体による接合面のせん断強さの測定において、接合面内に安定した、せん断面を生じさせることができ、さらに接合面外方向の荷重発生を抑止した測定方法および測定用治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】面接合試験体と治具との位置関係を示した断面図である。
【
図3】第1治具の爪部が掛かる面接合試験体の位置を調整する方法の一例である。
【
図5】材料破壊時のき裂の進展様式の開口型(モードI)を示す。
【
図6】材料破壊時のき裂の進展様式の面内せん断型(モードII)を示す。
【
図7】材料破壊時のき裂の進展様式の面外せん断型(モードIII)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明について、実施の形態とともにより詳細に説明する。
【0012】
本発明は、引張試験機を用いた面接合試験体の引張せん断強さ試験による接合面のせん断強さの測定方法であって、前記面接合試験体は、上試験片および下試験片からなる一対の試験片の端部同士を面接合させた接合部を有し、各々の試験片は、前記接合部を構成する端部から他方の端部の延在方向が相反する方向に配置されており、以下の工程に沿って引張せん断強さを測定することを特徴とする面接合試験体の引張せん断接合強さ測定方法である。
A.第2治具の台座部の上に前記面接合試験体の上試験片の端部を載せ置く工程
B.第1治具の上端に設けられ、前記面接合試験体の引張方向に対して垂直方向に突出した爪部を、前記爪部先端と上試験片との間の端開き距離を制御しながら、前記面接合試験体の下試験片の端部に載せ置く工程、
C.前記端開き距離を維持するように第1治具と第2治具を締結し前記治具とする工程、
D.前記面接合試験体の上試験片および締結した前記治具を引張試験機に固定する工程、
E.引張試験機を作動させ、前記面接合試験体に引張荷重を載荷し、前記接合部が破壊するまでの引張荷重を測定する工程。
【0013】
本発明の測定に用いる面接合試験体について説明する。
【0014】
面接合試験体とは、
図1に示すように、上試験片1および下試験片2の二つの試験片からなる一対の試験片の端部同士を、それぞれの有限な面積を接合させた状態を有する試験体のことである。
【0015】
面接合させる方法としては、接着剤を用いる接着接合、片方または両方の試験片の一部をレーザーや超音波などで加熱し、試験片自体あるいは溶融接合材を介した溶融による融着接合、片方または両方の試験片の一部を溶剤などで溶解して接合する溶着接合、片方または両方の試験片の一部分または全体の材料が硬化しておらず、流動性がある状態で重ね合わせ、重ねあわされた部分で材料成分が相互に拡散した後に、加熱や冷却することで、硬化させる拡散接合などがある。面接合は、ビスや釘、ネジなど、点で接合する手法とは異なり、広範囲の領域を一様に接合できる特徴を有する方法である。
【0016】
また、面接合試験体を構成する少なくとも一方の試験片が繊維強化樹脂であることが好ましい。繊維強化樹脂は強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させた構成を有するものである。
【0017】
ここで、強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維などが挙げられる。なかでも、その優れた機械特性や、その特性の設計のし易さを発現するために、炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維複合材料とすることで、樹脂中に炭素繊維を1重量%以上含有させると、マトリックスを形成する樹脂と良好に密着することにより、優れた力学特性を発現する。
【0018】
本発明で用いられる炭素繊維として、好ましくはポリアクリルニトリル系炭素繊維が用いられる。炭素繊維がポリアクリルニトリル系であることにより、比強度、比剛性、軽量性や導電性を良好なバランスを有しながら安価なコストを実現できる観点において優れることとなる。
【0019】
本発明に用いる樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。中でも、その力学特性および成型時の加工特性の観点から、熱硬化性樹脂であることが好ましい。
【0020】
熱硬化性樹脂としては例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂(レゾール型)、ユリア・メラミン樹脂、ポリイミド樹脂等や、これらの共重合体、変性体、あるいは2種類以上ブレンドした樹脂などを使用することができる。
【0021】
このうち、力学特性の優れた炭素繊維複合材料を得るためには、熱硬化性樹脂と強化繊維の配合が容易であること、成形が容易であることから、エポキシ樹脂が好ましい。なかでも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分としたエポキシ樹脂が経済性、力学特性のバランスの観点から好ましい。また、耐衝撃性向上のために、熱硬化性樹脂組成物中にエラストマーあるいはゴム成分を添加してもよい。
【0022】
引張試験機を用いて面接合試験体の引張せん断強さ試験を行うにあたり、上述のとおり少なくとも一方の試験片が繊維強化樹脂である面接合試験体を測定する場合には、外力の伝達ルートが、繊維自体、樹脂自体および繊維と樹脂の界面といった複数に亘るなど、均質材料ではないことから、従来の引張せん断試験では、形成される せん断面が不安定になってしまう。
【0023】
ここで、引張せん断試験により生じる面接合された部材の接合面のせん断の状態としては、
図5乃至
図7に示される3つのモードがある。このうち、接合強さで重要となるのは、
図6のモードIIのせん断の状態の強さである。本発明の測定方法は、モードIIのせん断強さを精度よく安定して測定することにある。
【0024】
特に試験片が炭素繊維強化樹脂からなる場合、従来の引張せん断試験では、炭素繊維強化樹脂からなる試験片の板厚が薄く、試験片の曲げ剛性が十分確保できないことから、接合部周辺に曲げ変形が生じやすく、せん断面外方向の引き剥がし荷重が接合面に作用するため、モードIIせん断強さが測定し難かった。本発明の測定方法では、この問題を解消し、良好に測定することが可能となる。
【0025】
本発明に係る面接合試験体の引張せん断接合強さ測定方法を順に説明する。
【0026】
最初に、A.第2治具の台座部の上に前記面接合試験体の上試験片の端部を載せ置く工程を行う。次に、
図1に示すように、B.第1治具の爪部を、端開き距離を制御しながら下試験片の端部に載せ置く工程を行う。
【0027】
その後、C.第1治具と第2治具を締結する工程を行った後、D.治具を引張試験機に固定する工程を行う。最後にE.引張試験機を作動させ、前記面接合試験体に引張荷重を載荷し、前記接合部が破壊するまでの引張荷重を測定する工程を行うことが重要である。
【0028】
ここで各工程の詳細について順次説明する。
【0029】
まず、A.第2治具の台座部の上に前記面接合試験体の上試験片の端部を載せ置く工程を行う。この際、
図3に示すように、上試験片の端部側面全体が台座部に接触するように載せ置くことが重要である。例えば、端部側面の一部だけ、例えば角部だけが接触するような形であると、引張試験時に目的とする箇所に荷重が適切に加わらないことがある。
【0030】
この工程で用いられる第2治具は、台座部を有するものである。台座部は、
図4に示すように、引張方向と垂直方向に突出した形状を有し、その突出部の長さは、上試験片の端部と面接合部分の全体を載せ置くことができる程度であることが重要である。さらに、台座部の先端は下試験片に接触することができる長さである。このような長さであることにより、効果的に引張荷重を目的とする箇所にかけることが可能となる。第2治具の材質は、金属など、測定時に変形や破壊しないもので、連続使用した場合でも寸法変化などが無いものが好ましい。特に好ましくは、鉄やステンレスなどである。
【0031】
次に、B.第1治具の上端に設けられ、前記面接合試験体の引張方向に対して垂直方向に突出した爪部を、前記爪部先端と上試験片との間の端開き距離を制御しながら、前記面接合試験体の下試験片の端部に載せ置く工程を行う。この際、
図1に示すように、第1治具の爪部の先端と上試験片との端開き距離を制御することが重要である。
【0032】
この端開き距離の制御については、さらに
図1の拡大図を用いて詳細に説明する。爪部を載せ置く位置には、
図1に示すようにケースIからIVの4つのパターンがある。
【0033】
これらの工程で用いる第1治具について説明する。第1治具は、
図1に示すように、引張方向と垂直の方向にΓ(ガンマ)状の突き出した爪部を有する。の爪部を、
図2に示す面接合試験体における下試験片ならびに接合部分に載せ置く構造を有している。この爪部を接合面の特定の位置に掛けることにより、引張試験機の荷重を接合面の特定の位置に作用させることができ、接合面の特定の位置の引張せん断接合強さを測定することができる。
【0034】
ケースIは、下試験片を介して、引張荷重を接合面に伝える場合である。引張荷重による接合部のせん断面の形成が安定しにくいが、一般的に行われる引張せん断試験に近い。
【0035】
ケースIIまたはIVは、引張荷重を治具の爪部から接合部の接合界面に直接作用させ、当該界面にせん断面を形成する場合である。この場合は、接合界面のせん断強さが測定されるので、試験片の表面処理の効果の確認などに効果を発揮する。
【0036】
ケースIIIは、たとえば接着剤や接着フィルムなどの接合部材を介して試験体を接合した時に、引張荷重を治具の爪部から当該接合部材に直接作用させ、当該接合部材にせん断面を形成する場合である。この場合は、接合に用いた接合部材の特性を知るのに効果的である。
【0037】
このように、引張荷重の接合面への作用位置を、所定の位置に合わせる制御をすることが重要である。
【0038】
第1治具の材質は、金属など、測定時に変形や破壊しないもので、連続使用した場合でも寸法変化などが無いものが好ましい。特に好ましくは、鉄やステンレスなどである。
【0039】
次に、C.前記端開き距離を維持するように第1治具と第2治具を締結し前記治具とする工程を行う。この際、面接合試験体を載せ置き、狭持させた第1治具と第2治具をボルト、ネジなどを用いて機械的に締結し、一体化する。引張せん断接合強さの測定面に当該治具を介して荷重をかけられることが重要である。ボルトやネジの材質は第1治具または第2治具と同等の材質であることが好ましい。
【0040】
次に、D.前記面接合試験体の上試験片および締結した前記治具を引張試験機に固定する工程を行う。この際、前記面接合試験体の引張せん断結合強さを測定する接合面と、引張試験時の引張方向の軸と一致するように前記治具を引張試験機に固定することが重要である。一致しない場合は、引張時に測定面にモーメントが働き、適切な測定ができなくなる。
【0041】
引張試験を実施する際には、例えば、フレームに組み込まれた上下方向に移動可能な上下可動部(クロスヘッドと呼ぶ)と、位置が固定された下部ベースとを有しており、上部可動部の移動量をクロスヘッドの移動量として測定可能になっているとともに、クロスヘッドにはロードセル等の引張荷重の測定手段が組み込まれている装置を使用することができる。その場合は、クロスヘッド側には、上試験片を掴むチャックが、下部ベース側には、締結された第1治具と第2治具を固定する固定具が用意されている。
【0042】
また、クロスヘッド側に、締結された第1治具と第2治具を固定する固定具を用意し、下部ベース側に上試験片を掴むチャックを用意して引張試験を実施してもよい。
【0043】
クロスヘッドと治具の間には、ユニバーサルジョイント(自在継手)を挿入することが好ましい。ユニバーサルジョイントを使用することにより、接合部分に一方向の引張荷重が働くように調整しやすくなる。
【0044】
面接合試験体は
図1にも示すように、治具で把持された状態で引張試験機に装着される。このように構成された引張試験測定装置を用いて、本発明に係る引張せん断接合強さの測定方法が、次のように実施される。
【0045】
最後に、E.引張試験機を作動させ、前記面接合試験体に引張荷重を載荷し、前記接合部が破壊するまでの引張荷重を測定する工程を行う。この工程では、試験中の移動距離ならびに変位と、各変位位置での荷重を測定する。
【0046】
また、工程Bにおいて、下試験片2と第1治具4との間に、第1スペーサー6をさらに狭持させることが好ましい。第1スペーサー6を下試験片2と第1治具4との間に挿入することで、爪部を掛ける位置を制御することができるとともに、下試験片の曲げ変形を抑止することもできる。
【0047】
さらに、この第1治具の爪部は
図7のように、爪部の上試験片に対面する立ち面は、爪部先端から、上試験片から離れる方向にニゲ寸法を設けることが好ましい。このニゲ寸法により、せん断強さを測定したい箇所に精度よく引張荷重をかけられるようになる。また、当該爪部が第2治具と接触して、破損や摩耗することを防ぐことができ、測定精度を高くすることや、測定値のばらつきを小さくすることができる。
【0048】
爪部の下試験片の端面に対面する面は、引張荷重に対する直角度を、たとえば、0.05mm程度の精度を確保することが好ましい。あるいは、当該面は、爪部先端から、下試験片の端面から離れる方向にニゲ寸法を設けても良い。
【0049】
さらに、本発明に係る測定方法では、第1治具と第1スペーサーとの間の隙間が0~0.1mmの範囲内になるように第1スペーサーの厚みを調整することが好ましい。
【0050】
さらに、本発明に係る測定方法では、隣り合うスペーサーと治具の間、隣り合うスペーサーと試験片の間、それぞれの隙間は0~0.7mmの範囲になることが好ましい。さらに好ましくは0~0.1mmである。
【0051】
このように隙間を制御することで、接合面の面外方向に発生する荷重を抑制し、引張荷重の試験体への導入方向が、面内せん断方向に一意的となる。
【0052】
第1スペーサーは、金属など、測定時に変形や破壊しないもので、かつ厚および寸法の制度が高いものが好ましい。また、連続使用した場合でも寸法変化などが無いものが好ましい。特に好ましくは、鉄やステンレスなどである。
【0053】
また、工程Aにおいて、前記上試験片と前記第2治具との間に、第3スペーサーをさらに狭持させることが好ましい。
【0054】
第3スペーサー8を上試験片1と第2治具5との間に挿入することで、爪部を掛ける位置を制御することができるとともに、上試験片の曲げ変形を抑止することもできる。
【0055】
第3スペーサーは、金属など、測定時に変形や破壊しないもので、かつ厚みおよび寸法の制度が高いものが好ましい。また、連続使用した場合でも寸法変化などが無いものが好ましい。特に好ましくは、鉄やステンレスなどである。
【0056】
同様に、工程Aにおいて、前記下試験片と前記第2治具との間に、第2スペーサーをさらに狭持させることも好ましい。
【0057】
第2スペーサー7を下試験片2と第2治具5との間に挿入することで、下試験片の曲げ変形を抑止することもできる。第2スペーサーの厚みは、第2治具の台座部の長さ10と同一の寸法であることが好ましい。
【0058】
第2スペーサーは、金属など、測定時に変形や破壊しないもので、かつ厚および寸法の制度が高いものが好ましい。また、連続使用した場合でも寸法変化などが無いものが好ましい。特に好ましくは、鉄やステンレスなどである。
【0059】
また、本発明の面接合試験体は、上試験片および前記下試験片との間に接合部材を介して面接合した試験体であることが好ましい。面接合する部材を用いることにより、接合部分に、面接合する部材の厚みを持たせることができ、第1治具の爪部を試験体の接合面に掛ける時に、その位置を調整しやすくなる。
【0060】
面接合する部材としては、試験片と試験片を接合する際に一定の層を形成する材料である。中でも特に、接着剤や、粘着剤、接着性シートは、接合時に、それらが形成する層の厚みを一定に制御しやすいため、特に好ましい。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0062】
〔特性の測定方法〕
特性の測定方法は以下のとおりとした。
【0063】
1.引張せん断接合強さ
本発明の治具を使用し、引張試験機はINSTRON社製 万能試験機 5969を使用して引張試験を実施した。温度23℃、湿度50%RHの雰囲気下にて、試験速度5mm/minにて引張試験を実施した。n数20で破断時の荷重を評価し、その平均値を引張せん断接合強さ(F)とした。20回の測定結果の最大値と最小値の差をd、20回の測定結果の標準偏差をσとした。また、n数20のそれぞれについて、接合部の破壊状態の目視観察を行った。
【0064】
2.接合部の破壊状態
引張せん断接合強さの測定の際に、接合部の破壊状態を観察し、その状態を以下のとおり分類した。表1中ではa,b,c,eと記載した。
a.接着剤凝集破壊・・・引張試験後に、破壊された試験体の接合面について、接着剤が両方の試験片に付着している状態をいう。
b.下試験片と接合部材の界面で剥離・・・引張試験後に、破壊された試験体について、接合部材が全て上試験片に付着した状態であり、下試験片には接合部材が付着していない状態をいう。
c.上試験片と接合部材の界面で剥離・・・引張試験後に、破壊された試験体について、接合部材が全て下試験片に付着した状態であり、上試験片には接合部材が付着していない状態をいう。
e.下試験片または上試験片の母材破壊・・・引張試験後に、破壊された試験対について、試験片自体が破壊されている状態を言う。破壊の状態には、試験片が座屈や圧壊する場合や、試験片の接合面の最表層が剥がれるようにして破壊する状態がある。
【0065】
面接合試験体一つ一つについて、接合部の破壊面を観察し、各試験体の破壊状態を特定し、試験全20回のうちで、それぞれの破壊状態の発生頻度を計算した。
破壊状態の発生頻度(%)=(当該破壊状態の発生回数/20)×100
【0066】
尚、一つの面接合試験体の破壊面を観察した際に、複数の破壊状態が混在している場合は、接合部分の面積のうち、最も占める面積が大きい破壊状態を、その面接合試験体の破壊状態とした。
【0067】
3.引張せん断接合強さ測定精度の評価
接合部の破壊状態の発生頻度に基づき、引張せん断接合強さの測定精度を下記の通り評価した。
評価○・・・最も大きな発生頻度の破壊状態の発生頻度が50%以上100%以下である場合
評価×・・・最も大きな発生頻度の破壊状態の発生頻度が0%以上50%未満である場合
【0068】
〔面接合試験体の作製〕
<炭素繊維強化樹脂1 試験片>
一方向性炭素繊維プリプレグ(東レ(株)製 P3832S-20)を、繊維方向を全て揃えて16枚積層し、この積層体の両表面にポリプロピレンフィルム(東レ(株)製“トレファン”(登録商標)BO2500:厚み50μm、艶ありタイプ)を設置した後、プレス成形法により平均厚み2mmの炭素繊維強化樹脂試験片1を得た。その後、各成形品を長さ100mm×幅25mmの短冊片に切削加工を行った。
【0069】
<金属片1>
鋼:グレード SPCC-SD(JIS G 3141)(厚み2mm)を長さ100mm×幅25mmにレーザーにて切削加工した後、短冊片の表面をアセトンにて脱脂し、金属片1とした。
【0070】
<接着剤1>
3M社製 2液硬化型エポキシ系接着剤『“オートミックス”(登録商標) パネルボンド 8115』を接合部材として使用した。当該接着剤と、専用のハンドガン(3M社製 “オートミックス”(登録商標)ハンドガン8117)と専用のミキシングノズル(3M社製 “オートミックス”(登録商標)ミキシングノズル8193)を用いて、試験片に塗布した。直径0.5mmの鋼線を塗布箇所に設置し、接着剤1の塗布厚みを0.5mmに制御した。
【0071】
なお、接合面積(長さ12.5mm、幅25mm)を制御するために、各試験片について、接着剤の塗布箇所の周囲を、マスキングペーパーを使用し、所望の面積以上に接着剤が付着しないようにした。
【0072】
炭素繊維強化樹脂片1の所定の位置と、金属片1の所定の位置に接着剤1を塗布し、両試験片の接着剤塗布部同士がずれずに重ね合わせた後に、圧力を掛けながら接着剤を硬化させることで、面接合試験体1(
図2)を作製し、25℃50%RH雰囲気下で保管した。引張せん断接合強さを測定する場合は、炭素繊維強化樹脂片1が下試験片に、金属片1が上試験片になるように治具に装着し、面接合試験体の作製から1週間以内に引張試験を実施した。
【0073】
〔実施例1〕
面接合試験体1について、第3スペーサー厚み2.2mm、第1スペーサー厚み4.4mm、第2スペーサー厚み5.2mmとして試験体を治具に装着し、治具の爪部の先端が炭素繊維強化樹脂1に掛かるようにし、引張試験を実施したところ、その破壊モードと引張せん断接合強さは表1に示す通りであった。
【0074】
〔実施例2〕
面接合試験体1について、第3スペーサー厚み2.2mm、第1スペーサー厚み3.4mm、第2スペーサー厚み5.2mmとして試験体を治具に装着し、治具の爪部の先端が炭素繊維強化樹脂1と接着剤1の界面位置に掛かるようにし、引張試験を実施したところ、その破壊モードと引張せん断接合強さは表1に示す通りであった。
【0075】
〔実施例3〕
面接合試験体1について、第3スペーサー厚み2.2mm、第1スペーサー厚み3.2mm、第2スペーサー厚み5.2mmとして試験体を治具に装着し、治具の爪部の先端が接着剤1層に掛かるようにし、引張試験を実施したところ、その破壊モードと引張せん断接合強さは表1に示す通りであった。
【0076】
〔実施例4〕
面接合試験体1について、第3スペーサー厚み3.2mm、第1スペーサー厚み2.2mm、第2スペーサー厚み5.2mmとして試験体を治具に装着し、治具の爪部の先端が接着剤1と金属1の界面位置に掛かるようにし、引張試験を実施したところ、その破壊モードと引張せん断接合強さは表1に示す通りであった。
【0077】
〔実施例5〕
面接合試験体1について、第3スペーサー厚み2.7mm、第1スペーサー厚み4.4mm、第2スペーサー厚み5.2mmとして試験体を治具に装着し、治具の爪部の先端が炭素繊維強化樹脂1に掛かるようにし、引張試験を実施したところ、その破壊モードと引張せん断接合強さは表1に示す通りであった。
【0078】
〔比較例1〕
面接合試験体1について、第3スペーサー厚み2.2mm、第1スペーサー厚み1.0mm、第2スペーサー厚み5.2mmとして試験対を治具に装着し、引張試験を実施したところ、その破壊モードと引張せん断接合強さは表1に示す通りであった。
【0079】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る測定方法および治具は、試験片の厚みや剛性が異なる様々な材料や、様々な面接合方法で形成されたあらゆる面接合試験体に適用可能であり、特に繊維強化樹脂、中でも炭素繊維強化樹脂からなる試験体の測定に有効である。
【0081】
本発明の測定方法を用いることにより、接合面の特定の位置の引張せん断接合強さを素測定することができ、当該接合部分を含めた構造体を設計する際に、精度の高い構造設計や、その計算を行うことができ、無駄のない設計ができ、低コスト化を達成することが可能となる。
【符号の説明】
【0082】
1.上試験片
2.下試験片
3.接合部材
4.第1治具
5.第2治具
6.第1スペーサー
7.第2スペーサー
8.第3スペーサー
9.第1治具の爪部の長さ
10.第2治具の台座部の長さ