(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】磁気記録媒体及び磁気記憶装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/66 20060101AFI20250304BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20250304BHJP
G11B 5/65 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
G11B5/66
G11B5/738
G11B5/65
(21)【出願番号】P 2021053351
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2024-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】524259126
【氏名又は名称】株式会社レゾナック・ハードディスク
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(72)【発明者】
【氏名】山口 健洋
(72)【発明者】
【氏名】柴田 寿人
(72)【発明者】
【氏名】福島 隆之
(72)【発明者】
【氏名】徐 晨
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0148632(US,A1)
【文献】特開2020-004469(JP,A)
【文献】特開2019-164849(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087510(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/087672(WO,A1)
【文献】特開2018-147548(JP,A)
【文献】特開2018-206457(JP,A)
【文献】特開2005-310368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、下地層と、L1
0型結晶構造を有する合金を含む磁性層とをこの順に積層して備え、
前記下地層は、MgOを含み、
前記磁性層は、少なくとも3層以上有し、
3層の前記磁性層が、前記基板側から順に、第1の磁気記録層、第2の磁気記録層及び第3の磁気記録層である時、前記第2の磁気記録層のキュリー温度Tcは、前記第1の磁気記録層及び前記第3の磁気記録層のキュリー温度Tcよりも、それぞれ、-30K~-100K低く、前記第1の磁気記録層を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径は、前記第2の磁気記録層及び前記第3の磁気記録層を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径よりも、それぞれ、15%以上小さい磁気記録媒体。
【請求項2】
前記第1の磁気記録層を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径は、前記第2の磁気記録層及び前記第3の磁気記録層を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径よりも30%~60%小さい請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記第1の磁気記録層の膜厚が、0.4nm~1.5nmである請求項1又は2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記第2の磁気記録層の膜厚が0.8nm~3.0nmである請求項1~3の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記第3の磁気記録層の膜厚が、3nm以上である請求項1~4の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の磁気記録媒体を備える磁気記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体及び磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体は、一般に、基板上に、下地層、磁性層及び保護層をこの順に積層して備える。磁気記録媒体に磁気情報を記録する方法として、磁気記録媒体にレーザー光又はマイクロ波を照射して局所的に保磁力を低下させて磁気情報を記録する熱アシスト記録方式又はマイクロ波アシスト記録方式がある。熱アシスト記録方式及びマイクロ波アシスト記録方式は、2Tbit/inch2クラスの面記録密度を実現することができることから、磁気記録媒体の小型化、薄板化、高記録密度化に伴い、記憶容量を高めることができる次世代の磁気記録方式として検討されている。
【0003】
熱アシスト記録方式に用いることが可能な磁気記録媒体として、例えば、基板と、基板上に形成された複数の下地層と、L10構造を有する合金を主成分とする磁性層とからなり、複数の下地層が、NiO下地層と、配向制御層とを含む磁気記録媒体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この磁気記録媒体では、配向制御層は、BCC構造の合金からなる下地層と、NaCl構造を有するMgO等の下地層を含み、NiO下地層に(100)配向をとらせるようにしている。
【0004】
磁気記録培媒体の磁性層として、L10構造を有するFePt合金を用いる場合、磁性層の結晶配向面として(001)面が用いられる。FePt合金を(001)配向させるため、下地層としては、一般に、(100)配向しているMgOが用いられることが多い。即ち、MgOの(100)面は、FePt合金の(001)面と格子整合性が高いため、MgO層の上方に、FePt合金を含む磁性層を成膜することにより、FePt合金は、(001)配向させやすくなる。また、特許文献1の磁気記録媒体では、NiO下地層も(100)配向をとらせるため、配向制御層の下地層として、MgOが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、MgOの格子定数が0.42nmであるのに対し、FePtは0.39nmであるため、MgO膜上にFePt膜をエピタキシャル成長させた時、わずかに格子不整合(ミスフィット)が生じ、FePt膜には引っ張り応力が生じる。このFePt膜に生じる引っ張り応力は、FePt粒子を肥大化させる方向に作用するため、磁性粒子が肥大化することで、磁気記録媒体の電磁変換特性が低下し、磁気記録媒体の高記録密度化を阻害する可能性が高い。また、さらに肥大化して接触面積の大きくなった粒子ほど、大きな応力を受け易いため、更に肥大化し易く、結晶粒子径のばらつきが大きくなることで、磁気記録媒体の電磁変換特性を低下させる可能性が高い。
【0007】
本発明の一態様は、優れた電磁変換特性を有することができる磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る磁気記録媒体は、基板と、下地層と、L10型結晶構造を有する合金を含む磁性層とをこの順に積層して備え、前記下地層は、MgOを含み、前記磁性層は、少なくとも3層以上有し、3層の前記磁性層が、前記基板側から順に、第1の磁気記録層、第2の磁気記録層及び第3の磁気記録層である時、前記第2の磁気記録層のキュリー温度Tcは、前記第1の磁気記録層及び前記第3の磁気記録層のキュリー温度Tcよりも、それぞれ、-30K~-100K低く、前記第1の磁気記録層を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径は、前記第2の磁気記録層及び前記第3の磁気記録層を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径よりも、それぞれ、15%以上小さい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、優れた電磁変換特性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る磁気記録媒体の構成の一例を示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係る磁気記録媒体1の断面の一例を示すTEM写真である。
【
図3】本実施形態に係る磁気記録媒体を用いた磁気記憶装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。本明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0012】
[磁気記録媒体]
図1は、本実施形態に係る磁気記録媒体の構成の一例を示す断面図である。
図1に示すように、磁気記録媒体1は、基板10、下地層20及び磁性層30を、基板10側からこの順に積層して備える。
【0013】
なお、本明細書では、磁気記録媒体1の厚さ方向(垂直方向)をZ軸方向とし、厚さ方向と直交する横方向(水平方向)をX軸方向とする。Z軸方向の磁性層30側を+Z軸方向とし、基板10側を-Z軸方向とする。以下の説明において、説明の便宜上、+Z軸方向を上又は上方といい、-Z軸方向を下又は下方と称すが、普遍的な上下関係を表すものではない。
【0014】
図1では、基板10の上方にのみ下地層20及び磁性層30を示すが、磁気記録媒体1は、基板10の下方にも、基板10側から下地層20及び磁性層30をこの順に積層して備える。
【0015】
磁気記録媒体1は、基板10の上下両面の上に、下地層20及び磁性層30を有し、情報を基板10の上下両面に記録(両面記録)できるが、基板10の上面又は下面の一方の面のみに下地層20及び磁性層30を有し、情報を基板10の片面にのみ記録(片面記録)できるものでもよい。
【0016】
基板10を構成する材料は、磁気記録媒体に使用可能な材料であれば特に限定されず使用できる。基板10を構成する材料としては、例えば、AlMg合金等のAl合金、ソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、アモルファスガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、サファイア、石英、樹脂等が挙げられる。これらの中でも、Al合金や、結晶化ガラス、アモルファスガラス等のガラスが好ましい。
【0017】
磁気記録媒体1を製造する際に、基板10を500℃以上の温度に加熱する場合があるため、基板10としては、例えば、軟化温度が500℃以上、好ましくは600℃以上である耐熱ガラス基板を用いることが好ましい。
【0018】
下地層20は、基板10の上方に設けられている。下地層20は、MgOを含む層を備える。
【0019】
MgOを含む層は、MgOを含み、MgOから実質的になることが好ましく、MgOのみからなることがより好ましい。「実質的に」とは、MgO以外に、製造過程で不可避的に含まれ得る不可避不純物を含んでもよいことを意味する。
【0020】
本実施形態では、下地層20は、第1の磁気記録層31と接しているため、MgOの(100)面と、第1の磁気記録層31に含まれる、L10構造を有する磁性合金の(001)面とが格子整合し易くなるため、磁性合金の結晶配向性を高めることができる。
【0021】
下地層20は、NaCl型化合物を含むことが好ましい。NaCl型化合物しては、MgO以外では、例えば、TiO、NiO、TiN、TaN、HfN、NbN、ZrC、HfC、TaC、NbC、TiC等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0022】
下地層20は、磁性層30に含まれるL10構造を有する磁性粒子を(001)面配向させることが可能であれば、他の層を含んだ多層構造としてもよい。
【0023】
磁性層30は、下地層20の上方に設けられている。磁性層30は、第1の磁気記録層31、第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33を、下地層20側からこの順に積層して備える。なお、磁性層30は、第1の磁気記録層31、第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33で構成されてもよい。また、磁性層30は、第1の磁気記録層31、第2の磁気記録層32、第3の磁気記録層33以外の磁性層をさらに1つ以上備えてもよい。
【0024】
磁性層30は、L10構造を有する磁性粒子を含む。即ち、磁性層30に含まれる、第1の磁気記録層31、第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33は、L10構造を有する磁性粒子を含む。
【0025】
第1の磁気記録層31を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径を第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径よりも15%以上、それぞれ、小さく、より好ましくは30%~60%の範囲内で小さくすることで、磁性粒子の肥大化を防止すると共に、磁性粒子の底面部の平均粒径のばらつきの大きさを低減することができる。
【0026】
ここで、磁性粒子の底面部の平均粒径とは、磁性粒子の下の界面部における平均粒径をいう。即ち、下地層20、第1の磁気記録層31、第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33を構成する粒子はそれぞれエピタキシャル成長するので、これらの粒子は連続した柱状晶となる。この柱状晶で、下地層20と第1の磁気記録層31の界面部の平均粒径を、第1の磁気記録層31を構成する磁性粒子の底面の平均粒径とする。第1の磁気記録層31と第2の磁気記録層32の界面部の平均粒径を、第2の磁気記録層32を構成する磁性粒子の底面の平均粒径とする。第2の磁気記録層32と第3の磁気記録層33の界面部の平均粒径を、第3の磁気記録層33を構成する磁性粒子の底面の平均粒径とする。
【0027】
なお、本実施形態において、磁性粒子の底面部の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行う。例えば、TEMを用いて磁気記録層の断面観察を行った場合、電子線は10nm以上透過するため断面の奥行情報を得ることができる。この断面情報を解析することで磁性粒子の平均粒径を測定することができる。
【0028】
第2の磁気記録層32のキュリー温度Tcは、第1の磁気記録層31及び第3の磁気記録層33のそれぞれのキュリー温度Tcよりも、それぞれ、-30K~-100K低くする。上述の通り、第1の磁気記録層31を構成する磁性粒子の体積は、第1の磁気記録層31及び第2の磁気記録層32に比べて小さいため、第1の磁気記録層31の磁気特性は、第1の磁気記録層31と接する第2の磁気記録層32に比べて弱くなる。本実施形態では、第2の磁気記録層32のキュリー温度Tcを、第1の磁気記録層31及び第3の磁気記録層33のそれぞれのキュリー温度Tcよりも所定の範囲内で小さくすることで、第1の磁気記録層31の磁気特性を強めるように作用することができる。これにより、第1の磁気記録層31の磁気特性が強まり、第1の磁気記録層31に起因するノイズを低減できる。
【0029】
図2は、本実施形態に係る磁気記録媒体1の断面の一例を示すTEM写真である。
図2に示す磁気記録媒体は、基板10の上に、MgOを含む下地層20、第1の磁気記録層31、第2の磁気記録層32、第3の磁気記録層33及び保護層40をこの順に積層した構造を有している。
図2中の3つの破線は、図中の下側から、それぞれ、順に、第1の磁気記録層31を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径、第2の磁気記録層32を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径、第3の磁気記録層33を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径を示す。第1の磁気記録層31、第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33は構成する材料の組成が相違するため、それぞれの境界位置は、TEM写真におけるコントラストの違いから判別できる。第1の磁気記録層31を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径は、第2の磁気記録層32を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径及び第3の磁気記録層33を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径よりも小さいことが確認できる。
【0030】
第1の磁気記録層31を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径を第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径よりも5%~40%の範囲内で、それぞれ、小さくする方法としては、例えば、第1の磁気記録層31の成膜にスパッタリング法を使用し、基板10に正のバイアス電位を印加する方法等がある。
【0031】
第1の磁気記録層31の膜厚は、0.4nm~1.5nmであることが好ましく、0.5nm~1.0nmがより好ましく、0.6nm~0.8nmがさらに好ましい。第1の磁気記録層31の膜厚が上記の好ましい範囲内であれば、第1の磁気記録層31の第2の磁気記録層32との界面で生じる引っ張り応力に耐えることができるため、第1の磁気記録層31は磁気特性を発揮できる。
【0032】
なお、本実施形態において、第1の磁気記録層31の膜厚は、第1の磁気記録層31の主面に垂直な方向の長さをいう。第1の磁気記録層31の膜厚は、例えば、第1の磁気記録層31の断面において、任意の場所を測定した時の厚さとしてよい。第1の磁気記録層31の断面において、任意の場所で数ヵ所測定した場合は、これらの測定箇所の厚さの平均値としてよい。
【0033】
第2の磁気記録層32の膜厚は、0.8nm~3.0nmであることが好ましく、1.0nm~2.5nmがより好ましく、1.2nm~2.0nmがさらに好ましい。第2の磁気記録層32の膜厚が上記の好ましい範囲内であれば、第2の磁気記録層32の第1の磁気記録層31又は第3の磁気記録層33との界面で生じる引っ張り応力に耐えることができるため、第2の磁気記録層32は磁気特性を発揮できる。
【0034】
第3の磁気記録層33の膜厚は、3nm以上であることが好ましい。3.5nm~10.0nmがより好ましく、4.5nm~6.0nmがさらに好ましい。第3の磁気記録層33の膜厚が上記の好ましい範囲内であれば、第3の磁気記録層33の第2の磁気記録層32との界面で生じる引っ張り応力に耐えることができるため、第3の磁気記録層33は磁気特性を発揮できる。
【0035】
第1の磁気記録層31、第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33第1の磁気記録層31のそれぞれの膜厚を、上記の好ましい範囲内にすることで、それぞれの磁気記録層同士の界面で生じる引っ張り応力に対する作用に耐えられるため、磁気記録媒体1の電磁変換特性を高められる。
【0036】
磁性層30に含まれる、L10構造を有する磁性粒子としては、例えば、FePt合金粒子、CoPt合金粒子等を用いることができる。FePt合金の結晶磁気異方性定数(Ku)が7×106J/m3以下であり、CoPt合金のKuが5×106J/m3以下であり、いずれも、1×106J/m3代のKuが高い材料(高Ku材料)である。そのため、FePt合金又はCoPt合金が磁性層30に含まれることで、磁性層30は、熱安定性を維持したまま、磁性層30を構成する磁性粒子を、例えば粒径が6nm以下になるまで微細化することができる。
【0037】
また、磁性層30は、粒界部を含むグラニュラー構造を有してもよい。
【0038】
磁性層30がグラニュラー構造を有する場合は、磁性層30中の粒界部の含有量は、25体積%~50体積%の範囲内が好ましく、35体積%~45体積%の範囲内がより好ましい。磁性層30中の粒界部の含有量を上記の好ましい範囲内とすることで、磁性層30に含まれる磁性粒子の異方性を高めることができる。
【0039】
ここで、粒界部は、炭化物、窒化物、酸化物、ホウ化物等を用いることができる。これらの具体例としては、BN、B4C、C、MoO3、GeO2等が挙げられる。
【0040】
磁性層30に含まれる磁性粒子は、基板10に対して、c軸配向させること、即ち、(001)面配向させることが好ましい。磁性層30に含まれる磁性粒子を基板10に対してc軸配向させる方法は、特に限定されず、例えば、下地層20を用いて、磁性層30をc軸方向にエピタキシャル成長させる方法等を用いることができる。
【0041】
磁気記録媒体1は、磁性層30上に、さらに保護層40を有することが好ましい。保護層40は、磁気記録媒体1が磁気ヘッド等との接触による損傷等から磁気記録媒体1を保護する機能を有する。
【0042】
保護層40としては、例えば、硬質炭素膜等が挙げられる。
【0043】
保護層40の形成方法としては、例えば、炭化水素ガス(原料ガス)を高周波プラズマで分解して成膜するRF-CVD(Radio Frequency-Chemical Vapor Deposition)法、フィラメントから放出された電子で原料ガスをイオン化して成膜するIBD(Ion Beam Deposition)法、原料ガスを用いずに、固体炭素ターゲットを用いて成膜するFCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)法等が挙げられる。
【0044】
保護層40の厚さは、1nm~6nmであることが好ましい。保護層40の厚さが1nm以上であると、磁気ヘッドの浮上特性が良好となると共に、磁気スペーシングが小さくなり、磁気記録媒体1のSNRが向上する。
【0045】
磁気記録媒体1は、保護層40上に、潤滑剤層50をさらに有してもよい。
【0046】
湿潤剤としては、例えば、パーフルオロポリエーテル等のフッ素樹脂が挙げられる。
【0047】
本実施形態に係る磁気記録媒体1は、基板10、下地層20及び磁性層30をこの順に積層して備え、下地層20は、MgOを含み、磁性層30は、第1の磁気記録層31、第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33を基板10側からこの順に積層して備える。そして、磁気記録媒体1は、第2の磁気記録層32のキュリー温度Tcを、第1の磁気記録層31及び第3の磁気記録層33のキュリー温度Tcよりも、それぞれ、-30K~-100K低くし、第1の磁気記録層31を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径を、第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径よりも、それぞれ、15%以上小さくしている。第1の磁気記録層31を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径は、第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径よりも15%以上小さいため、その分だけ、第1の磁気記録層31の磁気特性は、第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33の磁気特性よりも、通常、低くなる。本実施形態では、第2の磁気記録層32は、第1の磁気記録層31及び第3の磁気記録層33よりも所定の範囲だけ小さいキュリー温度Tcを有しているため、第2の磁気記録層32の磁気特性が第1の磁気記録層31及び第3の磁気記録層33を強めるように作用することができる。そのため、第1の磁気記録層31が直接的に又は間接的に接する第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33より磁気特性が低くても、第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33によって、第1の磁気記録層31の磁気特性を高めることができる。これにより、第1の磁気記録層31の磁気特性が強まり、第1の磁気記録層31に起因するノイズを低減できる。よって、磁気記録媒体1は、優れた電磁変換特性を発揮することができる。
【0048】
磁気記録媒体1の電磁変換特性は、SNR(信号/ノイズ比(S/N比))より評価できる。磁気記録媒体のSNRが小さいほど、磁気記録媒体1は、優れた電磁変換特性を有すると評価できる。SNRの測定は、特に限定されず、例えば、リードライトアナライザRWA1632及びスピンスタンドS1701MP(いずれも、GUZIK社製)を用いて行うことができる。
【0049】
磁気記録媒体1は、第1の磁気記録層31を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径を、第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径よりも30%~60%の範囲内で小さい状態で、それぞれの磁気記録層内に磁性粒子を含むことができる。第1の磁気記録層31を構成する磁性粒子の大きさが第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33に対して上記の範囲内で小さくても、第1の磁気記録層31の磁気特性を強め、第1の磁気記録層31に起因するノイズを低減できる。よって、磁気記録媒体1は、優れた電磁変換特性を発揮することができる。
【0050】
磁気記録媒体1は、第1の磁気記録層31の膜厚を0.4nm~1.5nmにできる。これにより、磁気記録媒体1は、第1の磁気記録層31の磁気特性を十分発揮できるため、優れた電磁変換特性を確実に発揮することができる。
【0051】
磁気記録媒体1は、第2の磁気記録層32の膜厚を0.8nm~3.0nmにできる。これにより、磁気記録媒体1は、第2の磁気記録層32の磁気特性を十分発揮できるため、優れた電磁変換特性を確実に発揮することができる。
【0052】
磁気記録媒体1は、第3の磁気記録層33の膜厚を3nm以上にできる。これにより、磁気記録媒体1は、第3の磁気記録層33の磁気特性を十分発揮できるため、優れた電磁変換特性を確実に発揮することができる。
【0053】
磁気記録媒体1は、磁性層30が、L10構造を有するFePt合金及びCoPt合金の少なくとも一方を含むことができる。FePt合金及びCoPt合金は、いずれも、1×106J/m3台の高Ku材料である。そのため、FePt合金及びCoPt合金の少なくとも一方を磁性層30を構成する材料として用いることで、熱安定性を維持したまま、磁性層30を構成する磁性粒子を、例えば、粒径が6nm以下になるまで微細化することができる。よって、記録方式として熱アシスト記録方式又はマイクロ波アシスト記録方式を用いた際には、磁性層30は、室温において数十kOeの保磁力を有することができ、磁性層30に、磁気ヘッドの記録磁界によって、磁気情報を容易に記録することができる。
【0054】
[磁気記憶装置]
本実施形態に係る磁気記録媒体を用いた磁気記憶装置について説明する。本実施形態に係る磁気記憶装置は、本実施形態に係る磁気記録媒体を有すれば、形態は特に限定されない。なお、ここでは、磁気記憶装置が熱アシスト記録方式を用いて磁気情報を磁気記録媒体に記録する場合について説明する。
【0055】
本実施形態に係る磁気記憶装置は、例えば、本実施形態に係る磁気記録媒体を回転させるための磁気記録媒体駆動部と、先端部に近接場光発生素子が設けられている磁気ヘッドと、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部と、記録再生信号処理部を有することができる。
【0056】
また、磁気ヘッドは、熱アシスト記録方式の磁気ヘッドであり、例えば、磁気記録媒体を加熱するためのレーザー光発生部と、レーザー光発生部から発生したレーザー光を近接場光発生素子まで導く導波路を有する。
【0057】
図3は、本実施形態に係る磁気記録媒体を用いた磁気記憶装置の一例を示す斜視図である。
図3に示すように、磁気記憶装置100は、磁気記録媒体101と、磁気記録媒体101を回転させるための磁気記録媒体駆動部102と、先端部に近接場光発生素子を備えた磁気ヘッド103と、磁気ヘッド103を移動させるための磁気ヘッド駆動部104と、記録再生信号処理部105とを有することができる。磁気記録媒体101は、上述の本実施形態に係る磁気記録媒体1が用いられる。
【0058】
図4は、磁気ヘッド103の一例を示す模式図である。
図4に示すように、磁気ヘッド103は、記録ヘッド110と、再生ヘッド120とを有する。
【0059】
記録ヘッド110は、主磁極111と、補助磁極112と、磁界を発生させるコイル113と、レーザー光発生部であるレーザーダイオード(LD)114と、LD114から発生したレーザー光Lを近接場光発生素子115まで伝送する導波路116とを有する。
【0060】
再生ヘッド120は、シールド121と、シールド121で挟まれた再生素子122を有する。
【0061】
図3に示すように、磁気記憶装置100は、磁気記録媒体101の中心部をスピンドルモータの回転軸に取り付けて、スピンドルモータにより回転駆動される磁気記録媒体101の面上を磁気ヘッド103が浮上走行しながら、磁気記録媒体101に対して情報の書き込み又は読み出しを行う。
【0062】
本実施形態に係る磁気記憶装置100は、磁気記録媒体101に本実施形態に係る磁気記録媒体1を用いることで、磁気記録媒体101を高記録密度化することができるため、記録密度を高めることができる。
【0063】
なお、磁気記憶装置は、磁気ヘッド103に熱アシスト記録方式の磁気ヘッドに代えて、マイクロ波アシスト記録方式の磁気ヘッドを用いてもよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例を示して実施形態を具体的に説明するが、実施形態はこれらの実施例及び比較例により限定されるものではない。
【0065】
<磁気記録媒体の製造>
[実施例1]
以下の方法により、磁気記録媒体を製造した。
【0066】
ガラス基板上に、下地層として、厚さ100nmのCr-50at%Ti合金層と、厚さ30nmのCo-27at%Fe-5at%Zr-5at%B合金層とを順次形成した。次に、ガラス基板を250℃まで加熱した後、厚さ10nmのCr層と、厚さ5nmのMgO層とを順次形成した。次に、ガラス基板を450℃まで加熱した後、第1の磁気記録層として、厚さ1nmのFePt―40mol%Cを基板に+10Vのバイアス電位をかけながら成膜した。次に、ガラス基板を630℃まで加熱した後、第2の磁気記録層として、厚さ2nmのFePt5at%Rh―40mol%Cを製膜した。次に、第3の磁気記録層として、厚さ3nmのFePt-16SiO2を順次形成した。次に、保護層として、厚さ3nmのカーボン膜を形成し、磁気記録媒体を作製した。
【0067】
[実施例2~10、比較例1-1~1-5]
実施例1において、第1の磁気記録層、第2の磁気記録層及び第3の磁気記録層の少なくとも1つ以上を構成する材料を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、磁気記録媒体を作製した。
【0068】
[比較例2-1~2-5]
実施例1において、第1の磁気記録層の成膜時のガラス基板温度を650℃とし、かつ、第1の磁気記録層の成膜時にバイアス電位をかけないこと以外は、実施例1と同様にして行い、磁気記録媒体を作製した。
【0069】
[比較例3-1]
実施例1において、磁性層を構成する材料を表1に示すように変更し、かつ、第1の磁気記録層の成膜時にバイアス電位をかけないこと以外は、実施例1と同様に行い、磁気記録媒体を作製した。
【0070】
製造した各実施例及び比較例の磁気記録媒体の断面をTEM観察して、第1の磁気記録層を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径、第2の磁気記録層を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径及び第3の磁気記録層を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径とを測定した。それぞれの測定結果を表1に示す。
【0071】
<磁気記録媒体の評価>
(電磁変換特性)
米国GUZIK社製のリードライトアナライザRWA1632及びスピンスタンドS1701MPを用いて、製造した各実施例及び比較例の磁気記録媒体の電磁変換特性としてSNR(信号/ノイズ比(S/N比))の評価を行った。
【0072】
【0073】
表1より、実施例1~実施例11では、SNRが6.2以上であった。一方、比較例1-1~1-5、2-1~2-4及び3-1では、SNRが5.8以下であった。
【0074】
よって、実施例1~実施例11の磁気記録媒体は、比較例1-1~1-5、2-1~2-4及び3-1の磁気記録媒体と異なり、第2の磁気記録層32のキュリー温度Tcが第1の磁気記録層31及び第3の磁気記録層33のキュリー温度Tcよりも、それぞれ、-30K~-100K低く、第1の磁気記録層31を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径は、第2の磁気記録層32及び第3の磁気記録層33を構成する磁性粒子の底面部の平均粒径よりも15%以上小さかった。これにより、磁気記録媒体1は、磁性層30に含まれる磁性粒子の粒径を小さくできるため、優れた電磁変換特性を発揮することができるといえる。
【0075】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0076】
1、101 磁気記録媒体
10 基板
20 下地層
30 磁性層
31 第1の磁気記録層
32 第2の磁気記録層
33 第3の磁気記録層
100 磁気記憶装置