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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】積載形トラッククレーン
(51)【国際特許分類】
   B66C 15/00 20060101AFI20250304BHJP
【FI】
B66C15/00 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021068362
(22)【出願日】2021-04-14
(65)【公開番号】P2022163439
(43)【公開日】2022-10-26
【審査請求日】2024-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郷東 末和
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 克彰
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-038082(JP,A)
【文献】特開平10-291779(JP,A)
【文献】特開2019-156579(JP,A)
【文献】特開平04-066497(JP,A)
【文献】特開平08-119582(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03763664(EP,A1)
【文献】特開平8-127493(JP,A)
【文献】米国特許第08272521(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00- 15/06
B66C 19/00- 23/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷台とクレーン装置とが備えられている積載形トラッククレーンであって、
該積載形トラッククレーンの車体の傾斜角度を測定する傾斜角度検出器と、
該傾斜角度検出器からの傾斜信号を受ける制御装置と、
該制御装置に接続されている警報器と、
が備えられ、
該制御装置は、前記クレーン装置を構成するブームが前方領域に位置している場合に、前記傾斜信号に基づいて、少なくとも前記クレーン装置の動作を規制する機能、または前記警報器を作動させる機能のいずれかを働かせる、
ことを特徴とする積載形トラッククレーン。
【請求項2】
前記傾斜角度検出器が、
前記クレーン装置に設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の積載形トラッククレーン。
【請求項3】
前記傾斜角度検出器が、
前記制御装置の筐体の内部に設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の積載形トラッククレーン。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記積載形トラッククレーンのクレーン装置のブームが前方領域に位置している場合における、前記積載形トラッククレーンの後輪に付加される反力を前記傾斜信号から算出し、
前記反力が、あらかじめ定められた値以下になった場合に、少なくとも前記クレーン装置の動作を規制する機能、または前記警報器を作動させる機能のいずれかを働かせる、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の積載形トラッククレーン。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記反力を、F1+k×L×sin((θ3-θ2)-θ1))
(F1:前記クレーン装置の格納位置における作業状態での前記後輪の反力、
k:前記後輪のシャシのばね定数、
L:前記積載形トラッククレーンに備えられたアウトリガ装置の前後中心と、前記後輪の前後中心と、の平面視での距離、
θ1:前記クレーン装置の格納位置における作業状態での傾斜角、
θ2:前記積載形トラッククレーンの走行可能状態での傾斜角、
θ3:前方領域における作業状態での傾斜角)で算出する、
ことを特徴とする請求項4に記載の積載形トラッククレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積載形トラッククレーンに関する。さらに詳しくは、ブームの旋回位置により、クレーン装置の定格が決定される積載形トラッククレーンに関する。なお本明細書においては、特記した場合を除き、前後左右の記載は、車体の運転室に積載形トラッククレーンの使用者が搭乗した状態での使用者を基準として前後左右とする。
【背景技術】
【0002】
積載形トラッククレーンは、荷台を備えたトラックにクレーン装置を搭載した車両である。クレーン装置は、運転室と荷台との間に搭載されている。クレーン装置は、走行用の原動機から動力を取り出して動作させられる。積載形トラッククレーンでは、クレーン作業時にクレーン装置の基礎部分を中心として、クレーン装置のブームを旋回させ、ブームを起伏伸縮させるとともに、ウインチでフックを上下させる。この動作により貨物を吊り上げ、この貨物を運搬する。
【0003】
積載形トラッククレーンでは、クレーン作業時の車体の安定性を確保するために車体にアウトリガ装置が設けられる。クレーン作業を行う際、多くの場合は、積載形トラッククレーンの使用者はこのアウトリガ装置を構成するアウトリガを、車体から張り出し、接地した状態として作業を行う。
【0004】
積載形トラッククレーンの定格荷重は、荷台に積載物がない状態で、かつ、側方領域内で最も安定度が悪い旋回位置での能力(空車時安定性能)と、クレーンの構造物の強度から決定される能力(クレーン強度性能)から算出される。特許文献1の図3のグラフは、このように算出された定格荷重の一例であり、特許文献1には、この定格荷重に対する吊上荷重の割合により警報が発せられたり、作動が停止させられたりする構成が開示されている。この特許文献1に記載の積載形トラッククレーンの前方領域では、定格荷重は、その構造を考慮して、クレーン装置の定格荷重の25%としている。
【0005】
上記のように前方領域での定格荷重を、クレーン装置の定格荷重の25%としているのは、積載形トラッククレーンは、構造上クレーン装置の後ろ側に荷台が設置される構造となるが、上記定格荷重はこの荷台に積荷が載置されていない状態を前提としているためである。
【0006】
これに対し、特許文献2では、リアアウトリガ装置が設けられている積載形トラッククレーンにおいて、クレーン装置の動作を規制する機能等を、リアジャッキの接地反力信号を用いて働かせるものが開示されている。これは、荷台に積荷がある場合は、前側のアウトリガ装置よりも後ろ側に荷重があるため、積載形トラッククレーンの安定性が増し、クレーン強度性能に近くなるように、前方領域での制限が緩和されるべきという考えに基づくものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-86873号公報
【文献】特開2019-156579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかるに、特許文献1の図3 のグラフでの定格荷重は、側方領域内で最も安定度が悪い旋回位置での能力を考慮して事前に算出されたものであるため、安全側への余裕代が非常に大きくなっている。さらに、積載形トラッククレーンの前方領域では、その構造を考慮してクレーン装置の定格荷重の25%としている。そうすると、積載形トラッククレーン
の定格荷重は、前方領域では特に過度に制限されているという問題がある。
【0009】
また、特許文献2ではリアアウトリガ装置のリアジャッキの接地反力信号を用いているが、この構成はリアアウトリガ装置が用いられている機種でのみ採用できる構成であり、汎用性に劣るという問題がある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、前方領域での作業能力の制限が過剰にならず、作業の安全性を確保しながら、クレーン装置の能力を最大限に引き出すことができ、さらにさまざまなタイプの積載形トラッククレーンに採用できる汎用性が高い構成を採用した積載形トラッククレーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の積載形トラッククレーンは、荷台とクレーン装置とが備えられている積載形トラッククレーンであって、該積載形トラッククレーンの車体の傾斜角度を測定する傾斜角度検出器と、該傾斜角度検出器からの傾斜信号を受ける制御装置と、該制御装置に接続されている警報器と、が備えられ、該制御装置は、前記クレーン装置を構成するブームが前方領域に位置している場合に、前記傾斜信号に基づいて、少なくとも前記クレーン装置の動作を規制する機能、または前記警報器を作動させる機能のいずれかを働かせることを特徴とする。
第2発明の積載形トラッククレーンは、第1発明において、前記傾斜角度検出器が、前記クレーン装置に設けられていることを特徴とする。
第3発明の積載形トラッククレーンは、第1発明において、前記傾斜角度検出器が、前記制御装置の筐体の内部に設けられていることを特徴とする。
第4発明の積載形トラッククレーンは、第1発明から第3発明のいずれかにおいて、前記制御装置は、前記積載形トラッククレーンのクレーン装置のブームが前方領域に位置している場合における、前記積載形トラッククレーンの後輪に付加される反力を前記傾斜信号から算出し、前記反力が、あらかじめ定められた値以下になった場合に、少なくとも前記クレーン装置の動作を規制する機能、または前記警報器を作動させる機能のいずれかを働かせることを特徴とする。
第5発明の積載形トラッククレーンは、第4発明において、前記制御装置は、前記反力を、F1+k×L×sin((θ3-θ2)-θ1))(F1:前記クレーン装置の格納位置における作業状態での前記後輪の反力、k:前記後輪のシャシのばね定数、L:前記積載形トラッククレーンに備えられたアウトリガ装置の前後中心と、前記後輪の前後中心と、の平面視での距離、θ1:前記クレーン装置の格納位置における作業状態での傾斜角、θ2:前記積載形トラッククレーンの走行可能状態での傾斜角、θ3:前方領域における作業状態での傾斜角)で算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、傾斜角度検出器の傾斜信号により、制御装置が、前方領域にクレーン装置のブームが位置しているときに、クレーン装置の動作を規制する機能等を働かせることにより、前方領域での作業能力の制限が過剰にならない。これにより作業の安全性を確保しながら、クレーン装置の能力を最大限に引き出すことができる。また、傾斜角度検出器を利用するので、積載形トラッククレーンの機構が、リアジャッキ等を有する場合などに限定されることがない。
第2発明によれば、傾斜角度検出器がクレーン装置に設けられていることにより、傾斜角度検出器を汎用トラック側に設置する必要がなくなり、積載形トラッククレーンの最終組み立てメーカでの組み立ての作業工程を削減できる。
第3発明によれば、傾斜角度検出器が制御装置の筐体の内部に設けられていることにより、制御装置の筐体は防水などの耐環境性が高いため、傾斜角度検出器単独で耐環境性を上げる必要がなくなり、コストを削減できる。
第4発明によれば、クレーン装置のブームが前方領域に位置している場合における後輪の反力が傾斜信号から算出されていることにより、後輪に付加される反力の値を精度よく得ることができる。
第5発明によれば、反力が所定の計算式で計算されていることにより、より精度よく後輪に付加される反力の値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る積載形トラッククレーンの制御回路図である。
図2図1の積載形トラッククレーンの側面図である。
図3図1の積載形トラッククレーンの油圧回路図である。
図4図1の積載形トラッククレーンの作業領域の説明図である。
図5図1の積載形トラッククレーンの制御方法の説明図である。(A)はクレーン装置21の格納位置における作業状態の側方からの説明図、(B)は積載形トラッククレーンの走行可能状態の側方からの説明図、(C)は前方領域における作業状態の側方からの説明図である。
図6図1の積載形トラッククレーンの動作フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための積載形トラッククレーンを例示するものであって、本発明は積載形トラッククレーンを以下のものに特定しない。なお、各図面が示す部材の大きさまたは位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0015】
<第1実施形態>
(積載形トラッククレーン10)
図2には本発明の第1実施形態に係る積載形トラッククレーン10の側面図を示す。図2に示すように、積載形トラッククレーン10は、汎用トラック20の運転室27と荷台28との間の車両フレーム29にクレーン装置21が搭載されたものである。汎用トラック20には、左右対称に前輪22が設けられている。さらに汎用トラック20には、左右対称に後輪23が設けられている。なお、積載形トラッククレーン10の「車体」とは、汎用トラック20を意味する。
【0016】
図2に示すように、クレーン装置21は、車両フレーム29上に固定されたベース30と、ベース30に対して旋回可能に設けられたポスト31と、ポスト31の上端部に起伏可能に設けられたブーム32と、ベース30に設けられ、ベース30から左右外側へ張出すアウトリガ装置33と、を備えている。すなわちアウトリガ装置33は、側面方向から見て運転室27と荷台28との間に位置している。アウトリガ装置33の左右先端には、油圧のジャッキ38がそれぞれ設けられている(図4参照)。
【0017】
ポスト31にはウインチが内蔵されている。このウインチからワイヤロープをブーム32の先端部に導いて、ブーム32先端部の滑車を介してフック34に掛け回すことにより、フック34をブーム32の先端部から吊り下げている。
【0018】
クレーン装置21は油圧回路40により油圧駆動される。この油圧回路40を操作するためのレバー群35がベース30の左右両側に設けられている。また、油圧回路40を電気的に制御し、作業車両を制御する制御装置12がベース30に設けられている。
【0019】
(油圧回路40)
図3には、本実施形態に係る積載形トラッククレーン10の油圧回路図を示す。図3に示すように、クレーン装置21の油圧回路40は、主に、油圧バルブユニット41と、油圧バルブユニット41にタンク42内の作動油を供給する油圧ポンプ43と、油圧ポンプ43と油圧バルブユニット41とを接続する主油路44と、油圧バルブユニット41とタンク42とを接続する戻油路45と、クレーン装置21の起伏動作またはブーム32の伸縮動作、ブーム32の旋回動作、ウインチの巻上げ巻下げなどを行うための、複数のクレーン装置用アクチュエータ46、および2つのジャッキ38を含んで構成されている。クレーン装置用アクチュエータ46およびジャッキ38は、油圧バルブユニット41に接続している。
【0020】
油圧ポンプ43はPTO(パワーテイクオフ)装置を介して汎用トラック20のエンジン36に接続されており、エンジン36により駆動される。
【0021】
油圧バルブユニット41には、ブーム伸縮用制御弁47a、ウインチ用制御弁47b、ブーム起伏用制御弁47c、ブーム旋回用制御弁47d、右側ジャッキ制御弁48a、左側ジャッキ制御弁48bが設けられている。ブーム伸縮用制御弁47aはブーム伸縮用アクチュエータ46aに、ウインチ用制御弁47bはウインチ用油圧モータ46bに、ブーム起伏用制御弁47cは、ブーム起伏用アクチュエータ46cに、ブーム旋回用制御弁47dは、ブーム旋回用アクチュエータ46dにそれぞれ接続されている。また、右側ジャッキ制御弁48aは右側に位置する右側ジャッキ38aに、左側ジャッキ制御弁48bは左側に位置する左側ジャッキ38bに、それぞれ接続されている。
【0022】
これらの切換制御弁には、それぞれレバーが取り付けられており、そのレバーを手動操作することにより、油圧ポンプ43から供給される作動油の方向および流量を切り換えることができるようになっている。制御弁に取り付けられたレバーは、レバー群35としてベース30の左右両側に設けられている(図2参照)。
【0023】
また、制御装置12は、エンジン36のECU(エンジンコントロールユニット)にも接続されており、少なくともエンジン36の回転数を制御できるよう構成されている。制御装置12は、エンジン36の回転数を制御することで油圧ポンプ43の回転数を制御でき、油圧ポンプ43の吐出量を調整できる。
【0024】
(制御回路)
図1には、本実施形態に係る積載形トラッククレーン10の制御回路図を示す。制御装置12の入力側には、傾斜角度検出器13と、ブーム長検出器15と、ブーム旋回角度検出器16と、ブーム起伏角度検出器17と、起伏支持力検出器18と、が電気的に接続されている。また、制御装置12の出力側には警報器14と、ブーム伸縮用制御弁47a、ウインチ用制御弁47b、ブーム起伏用制御弁47c、ブーム旋回用制御弁47d、右側ジャッキ制御弁48a、左側ジャッキ制御弁48bが電気的に接続されている。
【0025】
傾斜角度検出器13は、積載形トラッククレーン10の傾斜角を検出するための1軸または2軸の傾斜センサである。本実施形態では、傾斜角度検出器13は、クレーン装置21のベース30に固定されている。傾斜角度検出器13は、気泡または振り子を利用した機械的なものであってもよいし、ポテンショメータまたは磁気を利用したものであってもよい。傾斜角度検出器13としては、特に、デジタル処理しやすいように、MEMS技術を利用した傾斜センサ(ACS)または電解液の傾きを利用した傾斜センサ(AGS)を使用することが好ましい。傾斜角度検出器13として、1軸のものを使用した場合には車両前後方向の傾斜角度を計測するように方向づけられる。傾斜角度検出器13として、2軸のものを使用した場合には1つ使用するだけでよく、車両前後方向及び車両左右方向の傾斜角度を計測するように方向づけられる。
【0026】
傾斜角度検出器13は、クレーン装置21のベース30に固定されることが好ましいが、他の部分に固定されることもある。例えば、傾斜角度検出器13は、制御装置12の筐体内に固定されたり、車両フレーム29に固定されたりする。
【0027】
傾斜角度検出器13がクレーン装置21に設けられていることにより、傾斜角度検出器13を汎用トラック20側に設置する必要がなくなり、積載形トラッククレーン10の最終組み立てメーカでの組み立ての作業工程を削減できる。
【0028】
また、傾斜角度検出器13が制御装置12の筐体の内部に設けられている場合は、制御装置12の筐体は防水などの耐環境性が高いため、傾斜角度検出器13単独で耐環境性を上げる必要がなくなり、コストを削減できる。
【0029】
ブーム長検出器15は、ブーム32の長さを検出するためのものであり、例えばコード繰出長さ検出器である。コード繰出長さ検出器は測長用コードの繰り出し長さをコード巻取器の回転変位量を検出することで検出する。
【0030】
ブーム旋回角度検出器16は、ブーム32の旋回角度を検出するためのものであり、ポスト31の根元側に配置されている。例えばブーム旋回角度検出器16はポテンショメータである。このポテンショメータの代わりにロータリエンコーダが用いられることもある。
【0031】
ブーム起伏角度検出器17は、ブーム32の起伏角度を検出するためのものであり、ブーム32の根元側に配置されている。例えばブーム起伏角度検出器17はポテンショメータである。このポテンショメータの代わりにロータリエンコーダが用いられることもある。
【0032】
警報器14は、例えば定格荷重を超えた吊り荷重となった場合など、あらかじめ定められた状態になった場合に、積載形トラッククレーン10の使用者にその状態を覚知させるためのものである。本実施形態では、警報器14は、クレーン装置21に設けられている。
【0033】
起伏支持力検出器18は、フック34に吊られた荷重を検出するために設けられている。本実施形態では、起伏支持力検出器18はブーム起伏用のシリンダに設けられた差圧計である。起伏支持力検出器18で検出された差圧は、制御装置12へ出力される。
【0034】
(作業領域)
図4は、本実施形態に係る積載形トラッククレーン10の作業領域の説明図である。図4は、積載形トラッククレーン10の平面図を表している。本実施形態では、積載形トラッククレーン10には、アウトリガ装置33がクレーン装置21近傍、すなわち運転室27と荷台28との間に備えられている。積載形トラッククレーン10の使用者は、このアウトリガ装置33を外側に十分張出した状態で積荷の上げ下ろしの作業を行う。
【0035】
積載形トラッククレーン10は、構造上クレーン装置21を構成するブーム32の水平面内の角度、すなわち旋回角度により、安全に積みおろしできる積荷の重量が異なる。一般的に積載形トラッククレーン10の定格荷重は、以下の後方領域、側方領域および前方領域の3つの領域ごとに設定されている。後方領域は、平面図においてブーム32の回転中心と、左右に二つずつある後輪23のそれぞれの左右中心(以下「右後輪中心CR」および「左後輪中心CL」と称することがある。)と、を結んだ線分の間の領域(2本の線分から構成される角度が小さい側)である。
【0036】
側方領域は、ブーム32の回転中心と右後輪中心CRとを結んだ線分、およびブーム32の回転中心と右側ジャッキ38aとを結んだ線分の間の領域(2本の線分から構成される角度が小さい側)、またはブーム32の回転中心と左後輪中心CLとを結んだ線分、およびブーム32の回転中心と左側ジャッキ38bとを結んだ線分の間の領域(2本の線分から構成される角度が小さい側)である。
【0037】
前方領域は、ブーム32の回転中心と右側ジャッキ38aとを結んだ線分、およびブーム32の回転中心と左側ジャッキ38bとを結んだ線分の間の領域(2本の線分から構成される角度が小さい側)である。なお本実施形態では3つの領域は上記のように定義されているが、この領域の定義は積載形トラッククレーン10の構成により異なることがある。また、それぞれの領域の境界はブーム旋回角度検出器16からの信号により判断するため、上記定義による位置と、厳密には異なっている場合がある。
【0038】
(傾斜角度検出器13を用いた場合の制御方法)
図5には、傾斜角度検出器13を用いた場合の制御方法の一例を説明する説明図を示す。図5(A)~(C)は、積載形トラッククレーン10を側方から見た図であり、図5(A)は、積載形トラッククレーン10が走行を停止し、アウトリガ装置33を左右方向に張出して、クレーン装置21のブーム32を後方領域の格納位置に位置させた状態を示す説明図(クレーン装置21の格納位置における作業状態の説明図)、図5(B)は、積載形トラッククレーン10が、アウトリガ装置33を格納し、走行可能な状態を示す説明図(積載形トラッククレーン10の走行可能状態の説明図)、図5(C)は、積載形トラッククレーン10が走行を停止し、アウトリガ装置33を左右外側方向に張出して、クレーン装置21のブームが前方領域に位置している状態を示す説明図(前方領域における作業状態の説明図)である。
【0039】
積載形トラッククレーン10では傾斜角度検出器13を用いて、前方領域におけるクレーン装置21の動作を規制等するために、事前にいくつかのパラメータが制御装置12に登録される。登録されるパラメータは、アウトリガ装置33の前後中心と後輪23の中心との平面視での距離L、後輪23に用いられているシャシのばね定数kが挙げられる。距離L、ばね定数kは、汎用トラック20の車種により事前に登録可能である。
【0040】
次に図5(A)の状態の後輪反力F1および第1傾斜角θ1が登録される。これらのパラメータは、汎用トラック20にクレーン装置21など、予定されているすべての機器を装着した状態において、検出された数値が登録される。これらのパラメータは、アウトリガ装置33を左右外側方向に張出して、クレーン装置21が使用可能な状態になっていることを確認した後、測定される。第1傾斜角θ1は、積載形トラッククレーン10に設置されている傾斜角度検出器13によって測定される。また後輪反力F1の測定は、後輪23を荷重測定器の上に載置して測定される。なお後輪反力F1は、後輪23の車軸に荷重検出器などが設置されている場合は、その荷重検出器からの検出値を用いることも可能である。
【0041】
第1傾斜角θ1は、図5に示すように、積載形トラッククレーン10を左方向から見て、車両フレーム29の上面と、ベース30の前後中心との交点を通る水平軸を0°とし、そこから時計回り方向へ車両フレーム29の上面が回転する方向が正の値となるように定義されている。
【0042】
次に図5(B)の状態の第2傾斜角θ2が登録される。この第2傾斜角θ2も、第1傾斜角θ1と同様、汎用トラック20にクレーン装置21など、予定されているすべての機器を装着した状態において、検出された数値が登録される。この第2傾斜角θ2は、アウトリガ装置33を格納し、積載形トラッククレーン10が走行可能となっている状態で測定される。第2傾斜角θ2も、第1傾斜角θ1と同様、積載形トラッククレーン10に設置されている傾斜角度検出器13によって測定され、積載形トラッククレーン10を左方向から見て、時計回り方向へ車両フレーム29の上面が回転する方向が正の値となるように定義されている。
【0043】
次に、図5(C)で示す、前方領域にクレーン装置21のブーム32が位置している場合における、積載形トラッククレーン10の後輪23に付加される反力F2を、傾斜角度検出器13の傾斜角を用いて算出する。具体的には、図5(C)で示す状態で、傾斜角度検出器13の第3傾斜角θ3を検出し、以下の数1を用いて、前方領域における作業状態での反力F2を算出する。なお、図5(C)では、荷台28上に積荷がない状態を示しているが、第3傾斜角θ3は、積荷が存在する状態で検出されても問題ない。特に本明細書では、ブーム32が前方領域に位置している場合について説明しているところ、荷台28上に積荷がある場合は、第3傾斜角θが大きくなり、前方領域での作業能力を上げることができることができるので、積荷が存在する状態において、第3傾斜角θ3が用いられることは重要である。第3傾斜角θ3も、第1傾斜角θ1および第2傾斜角θ2と同様、積載形トラッククレーン10を左方向から見て、時計回り方向へ車両フレーム29の上面が回転する方法が正の値となるように定義されている。
【0044】
(数1)
F2=F1+k×L×sin((θ3-θ2)-θ1))
【0045】
k:後輪23のシャシのばね定数。
L:積載形トラッククレーン10に備えられたアウトリガ装置33の前後中心と、後輪23の前後中心と、の平面視での距離。
θ1:第1傾斜角。クレーン装置21の格納位置における作業状態での傾斜角。
θ2:第2傾斜角。積載形トラッククレーン10の走行可能状態での傾斜角。
θ3:第3傾斜角。前方領域における作業状態での傾斜角。
【0046】
この計算式で算出された反力F2が、あらかじめ定められた閾値Ftよりも小さくなると、制御装置12は、少なくともクレーン装置21の動作を規制する機能、または警報器14を作動させる機能のいずれかを働かせる。
【0047】
クレーン装置21のブーム32が前方領域に位置している場合における後輪23の反力F2が傾斜信号から算出されていることにより、後輪23に付加される反力F2の値を精度よく得ることができる。
【0048】
反力F2が所定の計算式で計算されていることにより、より精度よく後輪23に付加される反力F2の値を得ることができる。
【0049】
(動作フロー)
図6には、本実施形態に係る積載形トラッククレーン10の動作フロー図を示す。積載形トラッククレーン10の制御装置12は、まずステップ01(以下S01のように記載する)で、ブーム旋回角度検出器16からのブーム32の旋回角度の情報を取得する。
【0050】
S02で、制御装置12は、ブーム32が前方領域に位置しているか否かを判断する。制御装置12が前方領域に位置していないと判断した場合、ブーム32は側方領域または後方領域に位置するので、制御装置12は、側方領域または後方領域での通常の動作を行う。
【0051】
S02で、制御装置12が前方領域に位置していると判断した場合、ブーム32は前方領域に位置するので、制御装置12は、S03に進む。
【0052】
S03で、制御装置12は、傾斜角度検出器13から第3傾斜角θ3の数値を取得する。S04で、制御装置12が、第3傾斜角θ3を利用して、後輪23の反力F2を算出し、この反力F2の数値が閾値Ft以下であると判断した場合、制御装置12はS05に進む。
【0053】
S05で制御装置12はブーム起伏用制御弁47cなどで、前方領域でのクレーン装置21の動作規制を行う。具体的にはブーム32の起伏動作を停止したり、ブーム32の旋回動作を停止したりする。また、制御装置12は、これらの動作速度を遅くさせる動作規制を行うこともある。この動作規制と合わせて、制御装置12は、警報器14を作動させ、積載形トラッククレーン10の使用者に、前方領域で動作規制が働いたことを覚知させる。また、警報器14のみを作動させることもある。
【0054】
S04で、制御装置12が、反力F2の数値が閾値Ftよりも大きいと判断した場合、S05で制御装置12は、前方領域でのクレーン装置21の動作規制を行わない。
【0055】
傾斜角度検出器13の傾斜信号により、制御装置12が、前方領域にクレーン装置21のブーム32があるときに、クレーン装置21の動作を規制する機能等を働かせることにより、前方領域での作業能力の制限が過剰にならない。これにより作業の安全性を確保しながら、クレーン装置21の能力を最大限に引き出すことができる。また、傾斜角度検出器13を利用するので、積載形トラッククレーン10の機構が、リアジャッキ等を有する場合などに限定されることがない。
【0056】
(他の実施形態)
第1実施形態では、傾斜角度検出器13の第3傾斜角θ3から反力F2を算出したが、傾斜角度検出器13の第3傾斜角θ3を用いた場合の制御方法は、これに限定されない。例えば、第3傾斜角θ3の値が、あらかじめ定められた値よりも小さくなった場合に、制御装置12が、所定の機能を働かせるようにすることも可能である。
【0057】
また、本発明の思想は、クレーン装置21が、汎用トラック20の運転室27と荷台28との間の設けられた積載形トラッククレーン10だけでなく、クレーン装置21が荷台28の後ろ側に設けられている積載型トラッククレーン10にも適応できる。この場合、クレーン装置21を構成するブームが後方領域にある場合に、傾斜信号に基づいて、少なくともクレーン装置21の動作を規制する機能、または警報器を作動させる機能のいずれかを働かせる。
【符号の説明】
【0058】
10 積載形トラッククレーン
12 制御装置
13 傾斜角度検出器
14 警報器
21 クレーン装置
23 後輪
27 運転室
28 荷台
32 ブーム
33 アウトリガ装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6