(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】レドックスフロー電池およびレドックスフロー電池の制御方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20250304BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20250304BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20250304BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20250304BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/04 Z
H01M8/04537
H01M8/04858
(21)【出願番号】P 2021071955
(22)【出願日】2021-04-21
【審査請求日】2024-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 等
(72)【発明者】
【氏名】藏薗 功一
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/026655(WO,A1)
【文献】特表2002-502101(JP,A)
【文献】特開2017-174541(JP,A)
【文献】特開2015-225787(JP,A)
【文献】特開2015-207500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レドックスフロー電池であって、
電解液を貯留している電解液タンクと、
電解液タンクから供給された電解液を用いて充電および放電を行う第1電池セルと、
前記第1電池セルから排出された電解液を用いて充電および放電を行う第2電池セルと、
前記第1電池セルと、前記第2電池セルと、前記電解液タンクとの間で、電解液を循環させるポンプと、
前記第1電池セルに供給される電解液の起電力を測定することで、前記第1電池セルの充電状態を取得する第1モニターセルと、
前記第2電池セルに供給される電解液の起電力を測定することで、前記第2電池セルの充電状態を取得する第2モニターセルと、
前記第1モニターセルにより取得された前記第1電池セルの充電状態と、前記第2モニターセルにより取得された前記第2電池セルの充電状態とを用いて、前記第1電池セルと前記第2電池セルとのそれぞれにおける充電電流と放電電流との少なくとも一方を制御する制御部と、
を備
え、
前記制御部は、前記第1電池セルの充電状態と前記第2電池セルの充電状態とから求められる、前記第1電池セルと前記第2電池セルとのそれぞれの充電電圧または放電電圧が1.55V以下になるように、充電電流と放電電流との少なくとも一方を制御する、レドックスフロー電池。
【請求項2】
請求項
1に記載のレドックスフロー電池であって、
前記第1モニターセルは、前記第1電池セルの前記充電状態としての第1電圧を検出し、
前記第2モニターセルは、前記第2電池セルの前記充電状態としての第2電圧
を検出し、
前記制御部は、
前記第1電圧から前記第2電圧を差し引いた電圧差と、前記第1電池セルの充電電流Iまたは放電電流Iと、を用いて、前記第1電池セルの抵抗値Rを算出し、
算出した抵抗値Rを用いて、下記関係式(1)を満たす充電電流Iまたは放電電流Iを設定する、レドックスフロー電池。
【数1】
【請求項3】
レドックスフロー電池の制御方法であって、
電解液タンクから供給された電解液を用いて充電および放電を行う第1電池セルについて、前記第1電池セルに供給される電解液の起電力を測定することで、前記第1電池セルの充電状態を取得する第1状態取得工程と、
第1電池セルから排出された電解液を用いて充電および放電を行う第2電池セルについて、前記第2電池セルに供給される電解液の起電力を測定することで、前記第2電池セルの充電状態を取得する第2状態取得工程と、
前記第1状態取得工程により取得された前記第1電池セルの充電状態と、前記第2状態取得工程により取得された前記第2電池セルの充電状態とを用いて、前記第1電池セルと前記第2電池セルとのそれぞれにおける充電電流と放電電流との少なくとも一方を制御する制御工程と、
を備
え、
前記制御工程は、前記第1電池セルの充電状態と前記第2電池セルの充電状態とから求められる、前記第1電池セルと前記第2電池セルとのそれぞれの充電電圧または放電電圧が1.55V以下になるように、充電電流と放電電流との少なくとも一方を制御する、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー電池およびレドックスフロー電池の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンの酸化還元反応を利用して充放電を行うレドックスフロー電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたレドックスフロー電池システムは、充電および放電を行う電池セルの充電状態を測定するためのモニターセルを備えている。この電池システムでは、モニターセルにより測定された充電状態を用いて、システム内に電解液を循環させるためのポンプの流量が制御されることにより、電解液の過充電または過放電が抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、電解液を利用して充電および放電(以下「充放電」とも呼ぶ)を行う電池システムでは、充放電時の電圧を、水の電気分解が起こる電圧以上にすることはできない。このため、特許文献1に記載の電池システムでは、充放電に利用されない電解液中のイオンが存在し、充放電の効率に劣るといった課題があった。また、特許文献1に記載の電池システムでは、ポンプ動力の低減等のさらなる効率化が求められている。このように、特許文献1に記載された技術では、電解液の過充電または過放電を抑制できるものの、システム全体の効率化に向上の余地がある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、レドックスフロー電池の充電または放電の効率化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。レドックスフロー電池であって、電解液を貯留している電解液タンクと、電解液タンクから供給された電解液を用いて充電および放電を行う第1電池セルと、前記第1電池セルから排出された電解液を用いて充電および放電を行う第2電池セルと、前記第1電池セルと、前記第2電池セルと、前記電解液タンクとの間で、電解液を循環させるポンプと、前記第1電池セルに供給される電解液の起電力を測定することで、前記第1電池セルの充電状態を取得する第1モニターセルと、前記第2電池セルに供給される電解液の起電力を測定することで、前記第2電池セルの充電状態を取得する第2モニターセルと、前記第1モニターセルにより取得された前記第1電池セルの充電状態と、前記第2モニターセルにより取得された前記第2電池セルの充電状態とを用いて、前記第1電池セルと前記第2電池セルとのそれぞれにおける充電電流と放電電流との少なくとも一方を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記第1電池セルの充電状態と前記第2電池セルの充電状態とから求められる、前記第1電池セルと前記第2電池セルとのそれぞれの充電電圧または放電電圧が1.55V以下になるように、充電電流と放電電流との少なくとも一方を制御する、レドックスフロー電池。そのほか、本発明は、以下の形態としても実現可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、レドックスフロー電池が提供される。このレドックスフロー電池は、電解液を貯留している電解液タンクと、電解液タンクから供給された電解液を用いて充電および放電を行う第1電池セルと、前記第1電池セルから排出された電解液を用いて充電および放電を行う第2電池セルと、前記第1電池セルと、前記第2電池セルと、前記電解液タンクとの間で、電解液を循環させるポンプと、前記第1電池セルに供給される電解液の起電力を測定することで、前記第1電池セルの充電状態を取得する第1モニターセルと、前記第2電池セルに供給される電解液の起電力を測定することで、前記第2電池セルの充電状態を取得する第2モニターセルと、前記第1モニターセルにより取得された前記第1電池セルの充電状態と、前記第2モニターセルにより取得された前記第2電池セルの充電状態とを用いて、前記第1電池セルと前記第2電池セルとのそれぞれにおける充電電流と放電電流との少なくとも一方を制御する制御部と、を備える。
【0008】
第1電池セルと第2電池セルとの少なくとも一方の充放電時において、電解液の水分解を発生させないために、第1電池セルおよび第2電池セルの電圧は、所定値以下に制御される必要がある。そのため、第1電池セルに供給される電解液中のイオンの一部は、充放電に利用されずに排出される。この点、本構成によれば、第2電池セルは、第1電池セルから排出された電解液中のイオンを利用して、充放電を行うことができる。これにより、充放電に用いられなかったイオンのうち、ポンプにより再循環するイオンの量が抑制され、ポンプ動力を低減できる。すなわち、本構成のレドックスフロー電池によれば、充放電を効率的に行うことができる。
【0009】
(2)上記態様のレドックスフロー電池において、前記制御部は、前記第1電池セルの充電状態と前記第2電池セルの充電状態とから求められる、前記第1電池セルと前記第2電池セルとのそれぞれの充電電圧または放電電圧が1.55V以下になるように、充電電流と放電電流との少なくとも一方を制御してもよい。
この構成によれば、第1電池セルと第2電池セルとの少なくとも一方の充放電中の電圧が、水の電気分解が生じない電圧に制御されるため、充放電を効率化できる。
【0010】
(3)上記態様のレドックスフロー電池において、前記第1モニターセルは、前記第1電池セルの前記充電状態としての第1電圧を検出し、前記第2モニターセルは、前記第2電池セルの前記充電状態としての第2電圧し、前記制御部は、前記第1電圧から前記第2電圧を差し引いた電圧差と、前記第1電池セルの充電電流Iまたは放電電流Iと、を用いて、前記第1電池セルの抵抗値Rを算出し、算出した抵抗値Rを用いて、下記関係式(1)を満たす充電電流Iまたは放電電流Iを設定してもよい。
【数2】
この構成によれば、制御部が算出した抵抗値Rを用いて水の電気分解が起こらない範囲で充放電時の充電電流Iまたは放電電流Iを決定する。これにより、第1電池セルと第2電池セルとの少なくとも一方の充放電中に水の電気分解が生じないため、充放電を効率化できる。
【0011】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、レドックスフロー電池、レドックスフロー電池システム、レドックスフロー電池の制御装置、レドックスフロー電池の制御方法およびこれら装置を実行するためのコンピュータプログラム、このコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、コンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態としてのレドックスフロー電池の概略ブロック図である。
【
図2】充放電時の電圧変化についての説明図である。
【
図3】充放電時の電圧変化についての説明図である。
【
図4】電解液中に含まれるイオンと電圧との関係についての説明図である。
【
図5】電解液のモル濃度変化に対する電圧と電流との関係についての説明図である。
【
図6】レドックスフロー電池の充電時の制御方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
図1は、本発明の実施形態としてのレドックスフロー電池100の概略ブロック図である。本実施形態のレドックスフロー電池100は、正極と負極とで電解液中のバナジウムイオンの価数を変化させることにより、第1電池セル1および第2電池セル2が充電および放電(以下「充放電」とも呼ぶ)を行う、いわゆるバナジウムレドックスフロー電池である。本実施形態のレドックスフロー電池100では、第1電池セルを通った電解液に含まれるバナジウムイオンを利用して、第2電池セル2の充電または放電が行われることにより、充放電が効率的に行われる。
【0014】
図1に示されるレドックスフロー電池100は、充電および放電を行う第1電池セル1および第2電池セル2と、バナジウムイオンを含む電解液を貯留している正極電解液タンク(電解液タンク)5および負極電解液タンク(電解液タンク)6と、正極電解液タンク5に貯留された電解液を第1電池セル1および第2電池セル2に循環させるための正極側ポンプ(ポンプ)7と、負極電解液タンク6に貯留された電解液を第2電池セル2に循環させるための負極側ポンプ(ポンプ)8と、正極側ポンプ7および負極側ポンプ8により循環する電解液流路を構成する循環配管9と、第1モニターセル3と、第2モニターセル4と、直流電流を交流電流に変換する直流/交流変換器20(以下、単に「変換器20」と呼ぶ)と、各部を制御する制御部10と、を備えている。なお、以降では、第1電池セル1と第2電池セル2とを合わせて「電池セル1,2」とも呼び、正極電解液タンク5と負極電解液タンク6とを合わせて「タンク5,6」とも呼び、正極側ポンプ7と負極側ポンプ8とを合わせて「ポンプ7,8」とも呼び、第1モニターセル3と第2モニターセル4とを合わせて「モニターセル3,4」とも呼ぶ。
【0015】
第1電池セル1は、タンク5,6のそれぞれから電解液が供給される。電池セル1は、
図1に図示されていない、正極側電極と、負極側電極と、正極側の電解液と負極側の電解液とを隔てるイオン交換膜と、を備えている。第1電池セル1は、正極側電極と負極側電極とのそれぞれに異なる電解液が供給される。第1電池セル1は、
図1に示されるように変換器20に接続されている。第1電池セル1は、制御部10による充電電流または放電電流が制御されることにより、充放電を行う。第2電池セル2は、第1電池セル1と同様に、正極側電極と、負極側電極と、正極側の電解液と負極側の電解液とを隔てるイオン交換膜と、を備えている。第2電池セル2は、第1電池セル1の下流側に接続されており、第2電池セル2には、第1電池セル1から電解液が供給される。
【0016】
正極電解液タンク5に貯留された電解液は、酸化バナジウムイオン(VO2+)および二酸化バナジウムイオン(VO2
+)を含み、正極側ポンプ7により第1電池セル1の正極側へと送られる。負極電解液タンク6に貯留された電解液は、2価のバナジウムイオン(V2+)および3価のバナジウムイオン(V3+)を含み、負極側ポンプ8により第1電池セル1の負極側へと送られる。
【0017】
電池セル1,2の正極側では、下記式(2)に示される反応が生じる。電池セル1,2の負極側では、下記式(3)に示される反応が生じる。
【0018】
【0019】
循環配管9は、第1電池セル1および第2電池セル2を繋ぐ流路である。変換器20は、第1電池セル1および第2電池セル2で発電された又は放電された直流電流を交流電流に変換する。
【0020】
モニターセル3,4は、電池セル1,2と同様の構成を備えるが、
図1に示されるように、変換器20に接続されておらず、充放電に寄与しない電池セルである。電池セル1,2およびモニターセル3,4は、
図1に示されるように、電解液が送られるポンプ7,8の上流側から、第1モニターセル3,第1電池セル1,第2モニターセル4,第2電池セル2の順番で電解液が通過するように接続されている。そのため、第2電池セル2は、第1電池セル1から排出された電解液を用いて充電および放電を行う。
【0021】
第1モニターセル3は、第1電池セル1に供給される電解液の起電力を測定することにより、第1電池セル1の充電状態を取得する。また、第2モニターセル4は、第2電池セル2に供給される電解液の起電力を測定することにより、第2電池セル2の充電状態を取得する。具体的には、第1モニターセル3が第1電池セル1の開放電圧を検出し、第2モニターセル4が第2電池セル2の開放電圧を検出する。
【0022】
本実施形態の制御部10は、第1モニターセル3と第2モニターセル4とのそれぞれにより取得された電池セル1,2の充電状態および変換器20の電圧を取得する。制御部10は、取得した電池セル1,2の充電状態に応じて、充電中または放電中の電池セル1,2のそれぞれの充電電流または放電電流を制御する。具体的には、制御部10は、充電中または放電中の電池セル1,2のそれぞれの電圧が水の電気分解が始まる1.55V(ボルト)以下になるように、充電電流および放電電流を制御する。本実施形態では、制御部10は、充電電流または放電電流を電流Iとした場合に、第1モニターセル3の検出電圧(第1電圧)から第2モニターセル4の検出電圧(第2電圧)を差し引いた電圧値を電流Iで除すことにより、第1電池セル1の抵抗R1を算出する。制御部10は、算出した抵抗R1を用いて、下記関係式(4)を満たすように電流Iを制御する。
【0023】
【0024】
制御部10は、電池セル1,2の充電時に、第1電池セル1の電圧VC1が予め設定された電圧(開放電圧)に達した場合に第1電池セル1の充電を終了する。なお、本実施形態では、制御部10は、第2モニターセル4の充電電圧が1.55V以下になるように、充電電流を制御し、第1電池セル1の充電終了と同時に第2電池セル2の充電も終了する。
【0025】
図2および
図3は、充放電時の電圧変化についての説明図である。
図2には、充電から放電へと変化した場合に変換器20により検出される電圧V
C1(実線)の変化と、第1モニターセル3の検出電圧V
M1(一点鎖線)の変化と、第2モニターセル4の検出電圧V
M2(破線)の変化とが示されている。
図3には、
図2における領域AR1を拡大したグラフが示されている。充電中の電池セル1,2では、電解液中のバナジウムイオンを用いて充電が行われるため、電解液中のバナジウムイオンのイオン濃度が大きいほど、電池セル1,2の抵抗Rが小さくなる。第1モニターセル3に流入する電解液中のイオン濃度よりも、第1モニターセル3の下流側に位置する第2モニターセル4に流入するイオン濃度は小さくなる。そのため、
図2に示されるように、第2モニターセル4の検出電圧V
M2は、第1モニターセル3の検出電圧V
M1より大きくなる。充電中の第1電池セル1では、充電のための抵抗Rに起因する電圧増加分があるため、電圧V
C1は、モニターセル3,4の検出電圧V
M1,V
M2よりも大きくなる。なお、電池セル1,2の状態が充電から放電へと変化すると、放電状態の各電圧V
C1,V
M1,V
M2の大小関係は、充電状態の反対になる。
【0026】
図4は、電解液中に含まれるイオンと電圧との関係についての説明図である。
図4には、第1電池セル1に正極電解液タンク5から供給される電解液中の4価のバナジウムイオンの割合(%)に応じて変化し、ネルンスト(Nernst)の式から算出される充電時の電位Ve(電圧)が示されている。
図4に示されるように、充電時では、4価のバナジウムイオンの濃度が高いほど、第1電池セル1の電圧が高くなる。本実施形態のレドックスフロー電池100では、例えば、第2電池セル2の電圧が1.42Vの場合には、第2電池セル2が充電可能なバナジウムイオンが電解液中に50%ほど残っている。第2電池セル2の電圧が1.47Vの場合には、第2電池セル2が充電可能なバナジウムイオンが電解液中に70%ほど残っている。そのため、第2電池セル2では、第1電池セル1の充電で用いられなかったバナジウムイオンが充電に利用される。
【0027】
図5は、電解液のモル濃度変化に対する電圧と電流との関係についての説明図である。
図5には、充電時の第1電池セル1に対して異なるモル濃度の電解液が供給された場合に、制御部10により制御される充電電流の電流密度(A/m
2)と、第1電池セル1に加わる電圧(V)との関係が示されている。具体的には、バナジウムイオンのモル濃度が500mol/m
3の電圧変化が黒丸と実線とにより示され、モル濃度が850mol/m
3の電圧変化が白抜きの三角と破線とにより示され、モル濃度が1600mol/m
3の電圧変化が白抜きの四角と一点鎖線とにより示されている。なお、ポンプ7,8により制御される電解液の流量は、6.3ml/minである。
【0028】
図5に示されるように、電解液のモル濃度に関わらず、制御部10による充電電流が増加すると、第1電池セル1の電圧も増加する。また、電解液のモル濃度が高いほど、充電時の抵抗が低くなるため、同じ充電電流であっても、第1電池セル1の電圧が低くなる。本実施形態の制御部10は、電池セル1,2のそれぞれの電圧が1.55Vを超えないように、充電電流を制御する。
【0029】
図6は、レドックスフロー電池100の充電時の制御方法のフローチャートである。
図6に示されるように、レドックスフロー電池100の充電時の制御フローでは、初めに、制御部10は、ポンプ7,8を稼働させて、電池セル1,2のそれぞれに充電電流を流し始めて充電を開始する(ステップS1)。本実施形態では、レドックスフロー電池100を事前に稼働させることにより、充電時に第1電池セル1に流す初期の充電電流I
10と、第2電池セル2に流す初期の充電電流I
20とが設定されている。なお、初期の充電電流I
10,I
20は、予めレドックスフロー電池100を稼働させることにより得られたデータを用いて、電池セル1,2のそれぞれの電圧が1.55Vを超えない範囲の電流値に設定されている。
【0030】
制御部10は、モニターセル3,4を用いてそれぞれに流入する電解液の電圧を検出する状態取得工程を行う(ステップS2)。第1モニターセル3の検出電圧VM1は、第1電池セル1に流入する電解液の電圧と同じである。同じように、第2モニターセル4により検出される電解液の検出電圧VM2は、第2電池セル2の電圧と同じである。以降では、モニターセル3,4は、電解液の電圧を検出し続ける。なお、ステップS2の状態取得工程は、第1状態取得工程および第2状態取得工程に相当する。
【0031】
制御部10は、検出されたモニターセル3,4のそれぞれの電圧VM1,VM2と、電池セル1,2のそれぞれの充電電流I10,I20とを用いて、第1電池セル1の抵抗R1と、第2電池セル2の抵抗R2とを算出する(ステップS3)。制御部10は、算出した電池セル1,2の抵抗R1,R2と、検出されたモニターセル3,4のそれぞれの電圧VM1,VM2とを、式(4)に代入することにより、電池セル1,2のそれぞれの電圧が1.55V以下となるそれぞれの充電電流を算出する(ステップS4)。制御部10は、電池セル1,2の充電電流I10,I20を算出した充電電流に変更する(ステップS5)。なお、ステップS3からステップS5までの処理は、制御工程に相当する。
【0032】
制御部10は、レドックスフロー電池100の充電を終了するか否かを判定する(ステップS6)。本実施形態では、制御部10は、第1電池セル1の電圧が予め設定された電圧に達したか否かにより充電の終了判定を行う。制御部10は、第1電池セル1の電圧が予め設定された電圧に達していないと判定した場合には(ステップS6:NO)、ステップS3以降の処理を繰り返す。制御部10は、第1電池セル1の電圧が予め設定された電圧に達したと判定した場合には、レドックスフロー電池100の充電時の制御フローを終了する。
【0033】
以上説明したように、本実施形態のレドックスフロー電池100では、第2電池セル2は、第1電池セル1から排出された電解液を用いて充電および放電を行う。第1モニターセル3は、第1電池セル1に供給される電解液の起電力を測定することにより、第1電池セル1の充電状態を取得する。第2モニターセル4は、第2電池セル2に供給される電解液の起電力を測定することにより、第2電池セル2の充電状態を取得する。制御部10は、取得した電池セル1,2の充電状態に応じて、充電中または放電中の電池セル1,2のそれぞれの充電電流または放電電流を制御する。第1電池セル1の充放電時において、電解液の水分解を発生させないために、第1電池セル1の電圧は、1.55V以下に制御される必要がある。そのため、第1電池セル1に供給される電解液中のバナジウムイオンの一部は、充電に利用されずに排出される。本実施形態では、第2電池セル2は、第1電池セル1から排出された電解液中のバナジウムイオンを利用して、充電できる。これにより、充電に用いられなかったバナジウムイオンのうち、ポンプ7,8により再循環するバナジウムイオンの量が抑制され、ポンプ動力を低減できる。すなわち、本実施形態のレドックスフロー電池100によれば、充電または放電を効率的に行うことができる。
【0034】
また、本実施形態の制御部10は、充電中または放電中の電池セル1,2のそれぞれの電圧が水の電気分解が始まる1.55V(ボルト)以下になるように、充電電流および放電電流を制御する。これにより、電池セル1,2の充放電中に水の電気分解が生じないため、充放電を効率化できる。
【0035】
また、本実施形態の制御部10は、充電電流または放電電流を電流Iとした場合に、第1モニターセル3の検出電圧(第1電圧)から第2モニターセル4の検出電圧(第2電圧)を差し引いた電圧値を電流Iで除すことにより、第1電池セル1の抵抗R1を算出する。制御部10は、算出した抵抗R1を用いて、上記関係式(4)を満たすように電流Iを制御する。すなわち、制御部10は、算出した抵抗R1を用いて水の電気分解が起こらない範囲で充放電時の電流Iを決定できる。これにより、電池セル1,2の充放電中に水の電気分解が生じないため、充放電を効率化できる。
【0036】
<上記実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0037】
上記実施形態では、レドックスフロー電池100の一例として、バナジウムレドックスフロー電池を挙げたが、レドックスフロー電池は、バナジウムイオン以外のイオンを用いる周知のレドックスフロー電池であってもよい。レドックスフロー電池が備える構成および実行する制御については、
図1に示される構成のレドックスフロー電池100に示される電池に限られず変形可能である。例えば、レドックスフロー電池100は、3つ以上の電池セルを備えていてもよく、電池セルの数に合わせたモニターセルを備えていてもよい。
【0038】
本実施形態の制御部10は、充電時および放電時の電池セル1,2のそれぞれの電流を、電池セル1,2の充放電時の電圧が1.55V以下になるように制御したが、異なる制御を行ってもよい。例えば、制御部10は、充電時の第1電池セル1のみの電流を制御してもよい。この場合に、制御部10は、第2電池セル2の充電電流を、第1電池セル1の充電電流と同じに設定してもよい。制御部10は、上記関係式(1)を用いることにより抗値R1を算出した上で第1電池セル1の電流を制御したが、異なる制御により第1電池セル1の充電電流を制御してもよい。例えば、制御部10は、予め作成された、第1モニターセル3の検出電圧と、第1電池セル1の電圧が1.55V以下になる電流との対応マップを備えており、当該対応マップを用いて充電電流を制御してもよい。
【0039】
上記実施形態のレドックスフロー電池100は、電池セル1,2のそれぞれの充電状態を取得するための構成としてのモニターセル3,4を備えていたが、他の構成により充電状態を取得してもよい。電池セル1,2の充電状態は、電圧計が測定した電解液の電位により取得されてもよいし、分光光度計が測定した電解液の色相、透明度、および吸光度により取得されてもよい。
【0040】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0041】
1…第1電池セル
2…第2電池セル
3…第1モニターセル
4…第2モニターセル
5…正極電解液タンク(電解液タンク)
6…負極電解液タンク(電解液タンク)
7…正極側ポンプ(ポンプ)
8…負極側ポンプ(ポンプ)
9…循環配管
10…制御部
20…直流/交流変換器
100…レドックスフロー電池
AR1…領域
I…電流
I10…第1電池セルの初期の充電電流
I20…第2電池セルの初期の充電電流
R1…第1電池セルの抵抗
R2…第2電池セルの抵抗
VC1…直流/交流変換器の電圧
VM1…第1モニターセルの検出電圧
VM2…第2モニターセルの検出電圧