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特許7643210導出方法、導出装置、導出システム、プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】導出方法、導出装置、導出システム、プログラム
(51)【国際特許分類】
   E01D 1/00 20060101AFI20250304BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
E01D1/00 Z
E01D22/00 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021108746
(22)【出願日】2021-06-30
(65)【公開番号】P2023006239
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2024-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】小林 祥宏
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/183549(WO,A1)
【文献】特開2015-141049(JP,A)
【文献】特開2015-102329(JP,A)
【文献】特開2016-125229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
G01H 1/00-17/00
G01M 5/00- 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の移動体が編成された編成移動体が構造物を移動することによる応答として前記構造物における既定の観測点で生じる物理量を含む、時系列データを取得する取得ステップと、
前記構造物の長さである構造物長と、前記移動体の長さである移動体長と、前記移動体における前記構造物との接触部位の設置位置と、の情報を、環境情報として取得する環境情報取得ステップと、
前記時系列データに基づいて、前記編成移動体の前記構造物に対する進入時刻と退出時刻とを導出する時刻導出ステップと、
前記編成移動体に編成された前記移動体の個数を取得する個数取得ステップと、
前記個数と、前記進入時刻と、前記退出時刻と、前記環境情報と、に基づいて、前記観測点で生じる前記構造物の撓み量の指標値である第1の指標値と、前記構造物における指定された位置での撓み量の指標値である第2の指標値と、を取得する指標値取得ステップと、
前記時系列データと、前記第1の指標値と、前記第2の指標値と、に基づいて、前記位置での前記構造物の撓み量の推定値を導出する撓み導出ステップと、
を含む導出方法。
【請求項2】
前記時刻導出ステップでは、前記時系列データの基本周波数以上の周波数の振動成分を減衰するローパスフィルター処理が行われた前記時系列データに含まれる、既定の閾値を挟む連続する2つのデータに対応する2つの時刻のうちの一方の時刻以降、且つ、他方の時刻以前の期間内の時刻を取得する処理を、前記進入時刻と前記退出時刻とのそれぞれについて実施することによって、前記進入時刻および前記退出時刻を導出する請求項1に記載の導出方法。
【請求項3】
前記撓み導出ステップでは、
前記進入時刻と前記退出時刻の間で、前記第1の指標値に対応した量を引数に代入すると、前記時系列データに対応した量の近似が得られる一次関数の一次の係数及び0次の係数と、前記第2の指標値と、に基づいて、前記推定値を導出し、
前記時系列データに対応した量は、前記時系列データから前記時系列データの基本周波数以上の周波数の成分を減衰させた後の量であり、
前記第1の指標値に対応した量は、前記第1の指標値から前記第1の指標値の基本周波数以上の周波数の成分を減衰させた量である請求項1又は2に記載の導出方法。
【請求項4】
前記撓み導出ステップでは、前記第2の指標値と前記一次関数の係数とに基づいて導出される、前記推定値における前記第2の指標値に比例しない部分であるオフセットと、前記一次関数の一次の係数と前記第2の指標値との積と、の和を前記推定値として導出する請求項3に記載の導出方法。
【請求項5】
前記オフセットは、前記第2の指標値の基本周波数以上の周波数の成分を減衰させるローパスフィルター処理が施された前記第2の指標値を前記一次関数の引数として代入した値と、前記ローパスフィルター処理が施された前記第2の指標値と、の振幅比の値が既定の幅の範囲内に収まる期間における前記振幅比の平均値と前記第2の指標値との積であって、絶対値が前記一次関数の0次の係数よりも大きくなる要素について前記一次関数の0次の係数の値に丸められた値である請求項4に記載の導出方法。
【請求項6】
前記オフセットは、前記第2の指標値の基本周波数以上の周波数の成分を減衰させるローパスフィルター処理が施された前記第2の指標値の値が既定の幅の範囲内に収まる期間における前記第2の指標値の平均の振幅を、前記一次関数の引数として代入した値と、前記振幅と、の振幅比と前記第2の指標値との積であって、絶対値が前記一次関数の0次の係数よりも大きくなる要素について前記一次関数の0次の係数の値に丸められた値である請求項4に記載の導出方法。
【請求項7】
前記撓み導出ステップでは、前記第1の指標値に応じた既定の量と前記第2の指標値に応じた既定の量との比率の、前記進入時刻から前記退出時刻までの期間における平均値と、前記時系列データと、に基づいて、前記推定値を導出する請求項1に記載の導出方法。
【請求項8】
前記個数取得ステップでは、前記進入時刻から前記退出時刻までの期間と、前記時系列データの基本周波数と、の積から1を引いて整数に丸めた値を、前記個数として取得する請求項1乃至7の何れか1項に記載の導出方法。
【請求項9】
前記構造物は、橋梁である請求項1乃至8の何れか1項に記載の導出方法。
【請求項10】
前記移動体は、車輪を介して前記構造物を移動する鉄道車両である請求項1乃至9の何れか1項に記載の導出方法。
【請求項11】
前記時系列データは、加速度センサーと、衝撃センサーと、感圧センサーと、歪計と、画像測定装置と、ロードセルと、変位計と、のうちの少なくとも1つを介して検出されたデータに基づくデータである請求項1乃至10の何れか1項に記載の導出方法。
【請求項12】
前記構造物は、BWIM(Bridge Weigh in Motion)が適用可能である請求項1乃至11の何れか1項に記載の導出方法。
【請求項13】
1つ以上の移動体が編成された編成移動体が構造物を移動することによる応答として前記構造物における既定の観測点で生じる物理量を含む、時系列データを取得する取得部と、
前記構造物の長さである構造物長と、前記移動体の長さである移動体長と、前記移動体における前記構造物との接触部位の設置位置と、の情報を、環境情報として取得する環境情報取得部と、
前記時系列データに基づいて、前記編成移動体の前記構造物に対する進入時刻と退出時刻とを導出する時刻導出部と、
前記編成移動体に編成された前記移動体の個数を取得する個数取得部と、
前記個数と、前記進入時刻と、前記退出時刻と、前記環境情報と、に基づいて、前記観測点で生じる前記構造物の撓み量の指標値である第1の指標値と、前記構造物における指定された位置での撓み量の指標値である第2の指標値と、を取得する指標値取得部と、
前記時系列データと、前記第1の指標値と、前記第2の指標値と、に基づいて、前記位置での前記構造物の撓み量の推定値を導出する撓み導出部と、
を備える導出装置。
【請求項14】
導出装置と、センサーと、を備える導出システムであって、
前記導出装置は、
1つ以上の移動体が編成された編成移動体が構造物を移動することによる応答として前記構造物における既定の観測点で生じる物理量であって、前記センサーを介して計測された前記物理量を含む、時系列データを取得する取得部と、
前記構造物の長さである構造物長と、前記移動体の長さである移動体長と、前記移動体における前記構造物との接触部位の設置位置と、の情報を、環境情報として取得する環境情報取得部と、
前記時系列データに基づいて、前記編成移動体の前記構造物に対する進入時刻と退出時刻とを導出する時刻導出部と、
前記編成移動体に編成された前記移動体の個数を取得する個数取得部と、
前記個数と、前記進入時刻と、前記退出時刻と、前記環境情報と、に基づいて、前記観測点で生じる前記構造物の撓み量の指標値である第1の指標値と、前記構造物における指定された位置での撓み量の指標値である第2の指標値と、を取得する指標値取得部と、
前記時系列データと、前記第1の指標値と、前記第2の指標値と、に基づいて、前記位置での前記構造物の撓み量の推定値を導出する撓み導出部と、
を備える導出システム。
【請求項15】
コンピューターに、
1つ以上の移動体が編成された編成移動体が構造物を移動することによる応答として前記構造物における既定の観測点で生じる物理量を含む、時系列データを取得する取得ステップ、
前記構造物の長さである構造物長と、前記移動体の長さである移動体長と、前記移動体における前記構造物との接触部位の設置位置と、の情報を、環境情報として取得する環境情報取得ステップ、
前記時系列データに基づいて、前記編成移動体の前記構造物に対する進入時刻と退出時刻とを導出する時刻導出ステップ、
前記編成移動体に編成された前記移動体の個数を取得する個数取得ステップ、
前記個数と、前記進入時刻と、前記退出時刻と、前記環境情報と、に基づいて、前記観測点で生じる前記構造物の撓み量の指標値である第1の指標値と、前記構造物における指定された位置での撓み量の指標値である第2の指標値と、を取得する指標値取得ステップ、
前記時系列データと、前記第1の指標値と、前記第2の指標値と、に基づいて、前記位置での前記構造物の撓み量の推定値を導出する撓み導出ステップ、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導出方法、導出装置、導出システム、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの社会インフラが経年劣化しており、鉄道の橋梁等の社会インフラを構成する構造物の状態診断を行う手法が求められている。
特許文献1には、列車走行時の橋梁の加速度応答の観測データを用いて、橋梁の構造性能を好適に調査、評価することを可能にする鉄道橋の構造性能調査方法が開示されている。特許文献1の鉄道橋の構造性能調査方法は、列車を移動荷重列とし、橋梁を単純梁として列車走行時の鉄道橋の動的応答の理論解析モデルを定式化し、列車走行時の橋梁の加速度を測定するとともに、該加速度データから前記理論解析モデルの未知のパラメーターを逆解析法によって推計するようにしたことを特徴とする。
また、特許文献2には、特に橋梁を通過する際の走行列車の車両上下加速度応答を用いて橋梁の衝撃係数(動的応答成分)を求める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6543863号
【文献】特許第6467304号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄道列車等のように1つ以上の移動体が編成された編成移動体が橋梁等の構造物を移動する場合がある。このような場合に、構造物の診断等の目的のため、構造物における指定の位置における撓み量を求めたいという要望がある。構造物上の観測点でセンサー等を用いて撓み量を計測する場合、観測点以外の位置での撓み量を求めることができなかった。また、特許文献1、2でも、観測位置と異なる位置の撓み量を求めることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための導出方法は、1つ以上の移動体が編成された編成移動体が構造物を移動することによる応答として前記構造物における既定の観測点で生じる物理量を含む、時系列データを取得する取得ステップと、前記構造物の長さである構造物長と、前記移動体の長さである移動体長と、前記移動体における前記構造物との接触部位の設置位置と、の情報を、環境情報として取得する環境情報取得ステップと、前記時系列データに基づいて、前記編成移動体の前記構造物に対する進入時刻と退出時刻とを導出する時刻導出ステップと、前記編成移動体に編成された前記移動体の個数を取得する個数取得ステップと、前記個数と、前記進入時刻と、前記退出時刻と、前記環境情報と、に基づいて、前記観測点で生じる前記構造物の撓み量の指標値である第1の指標値と、前記構造物における指定された位置での撓み量の指標値である第2の指標値と、を取得する指標値取得ステップと、前記時系列データと、前記第1の指標値と、前記第2の指標値と、に基づいて、前記位置での前記構造物の撓み量の推定値を導出する撓み導出ステップと、を含む。
上記課題を解決するための導出装置は、1つ以上の移動体が編成された編成移動体が構造物を移動することによる応答として前記構造物における既定の観測点で生じる物理量を含む、時系列データを取得する取得部と、前記構造物の長さである構造物長と、前記移動体の長さである移動体長と、前記移動体における前記構造物との接触部位の設置位置と、の情報を、環境情報として取得する環境情報取得部と、前記時系列データに基づいて、前記編成移動体の前記構造物に対する進入時刻と退出時刻とを導出する時刻導出部と、前記編成移動体に編成された前記移動体の個数を取得する個数取得部と、前記個数と、前記進入時刻と、前記退出時刻と、前記環境情報と、に基づいて、前記観測点で生じる前記構造物の撓み量の指標値である第1の指標値と、前記構造物における指定された位置での撓み量の指標値である第2の指標値と、を取得する指標値取得部と、前記時系列データと、前記第1の指標値と、前記第2の指標値と、に基づいて、前記位置での前記構造物の撓み量の推定値を導出する撓み導出部と、を備える。
上記課題を解決するための導出システムは、導出装置と、センサーと、を備える導出システムであって、前記導出装置は、1つ以上の移動体が編成された編成移動体が構造物を移動することによる応答として前記構造物における既定の観測点で生じる物理量であって、前記センサーを介して計測された前記物理量を含む、時系列データを取得する取得部と、前記構造物の長さである構造物長と、前記移動体の長さである移動体長と、前記移動体における前記構造物との接触部位の設置位置と、の情報を、環境情報として取得する環境情報取得部と、前記時系列データに基づいて、前記編成移動体の前記構造物に対する進入時刻と退出時刻とを導出する時刻導出部と、前記編成移動体に編成された前記移動体の個数を取得する個数取得部と、前記個数と、前記進入時刻と、前記退出時刻と、前記環境情報と、に基づいて、前記観測点で生じる前記構造物の撓み量の指標値である第1の指標値と、前記構造物における指定された位置での撓み量の指標値である第2の指標値と、を取得する指標値取得部と、前記時系列データと、前記第1の指標値と、前記第2の指標値と、に基づいて、前記位置での前記構造物の撓み量の推定値を導出する撓み導出部と、を備える。
上記課題を解決するためのプログラムは、コンピューターに、1つ以上の移動体が編成された編成移動体が構造物を移動することによる応答として前記構造物における既定の観測点で生じる物理量を含む、時系列データを取得する取得ステップ、前記構造物の長さである構造物長と、前記移動体の長さである移動体長と、前記移動体における前記構造物との接触部位の設置位置と、の情報を、環境情報として取得する環境情報取得ステップ、前記時系列データに基づいて、前記編成移動体の前記構造物に対する進入時刻と退出時刻とを導出する時刻導出ステップ、前記編成移動体に編成された前記移動体の個数を取得する個数取得ステップ、前記個数と、前記進入時刻と、前記退出時刻と、前記環境情報と、に基づいて、前記観測点で生じる前記構造物の撓み量の指標値である第1の指標値と、前記構造物における指定された位置での撓み量の指標値である第2の指標値と、を取得する指標値取得ステップ、前記時系列データと、前記第1の指標値と、前記第2の指標値と、に基づいて、前記位置での前記構造物の撓み量の推定値を導出する撓み導出ステップ、を実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】導出システムの構成を示すブロック図である。
図2】橋梁の断面を示す図である。
図3】単位橋桁の寸法を示す図である。
図4】鉄道車両の寸法を示す図である。
図5】単位橋桁の概要を示す図である。
図6】単位橋桁における曲げモーメントを説明する図である。
図7】車輪による単位橋桁の撓みの概要を示す図である。
図8】鉄道車両による単位橋桁の撓みの概要を示す図である。
図9】鉄道列車による単位橋桁の撓みの概要を示す図である。
図10】鉄道車両による単位橋桁の撓みを示す図である。
図11】単位橋桁の撓みのFFT結果を示す図である。
図12】ハイパスフィルター処理後の鉄道列車による単位橋桁の撓みを示す図である。
図13】鉄道車両それぞれによる単位橋桁の撓みを示す図である。
図14】鉄道車両それぞれと鉄道列車による単位橋桁の撓みを示す図である。
図15】導出システムの各要素の詳細を示す図である。
図16】ローパスフィルター処理が施された時系列データを示す図である。
図17】進入時刻、退出時刻の導出処理を説明する図である。
図18】進入時刻、退出時刻の導出処理を説明する図である。
図19】導出処理を示すフローチャートである。
図20】撓み量の推定値を示す図である。
図21】指定された位置での振幅を示す図である。
図22】振幅比を示す図である。
図23】オフセットを示す図である。
図24】撓み量の推定値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)第1の実施形態
(1-1)導出システムの構成:
(1-1-1)導出システムの概要:
(1-1-2)撓みモデル:
(1-1-3)検証実験:
(1-1-4)要素の詳細:
(1-2)導出処理:
(2)第2の実施形態
(2-1)導出システムの構成:
(2-1-1)導出システムの概要:
(2-1-2)検証実験:
(2-1-3)要素の詳細:
(2-2)導出処理:
(3)他の実施形態:
【0008】
(1)第1の実施形態
(1-1)導出システムの構成:
(1-1-1)導出システムの概要:
図1は、本実施形態にかかる導出システム10の構成の一例を示すブロック図である。導出システム10は、1つ以上の鉄道車両が編成された鉄道列車6が移動する橋梁5上の既定の観測点における物理量の時系列データに基づいて、橋梁5における指定された位置である指定位置9の撓み量を導出するシステムである。鉄道列車6は、編成移動体の一例である。鉄道列車6に含まれる鉄道車両それぞれは、移動体の一例である。橋梁5は、移動体が移動する構造物の一例である。鉄道列車6の各鉄道車両は、車軸に備えられた車輪を介して橋梁5を移動する。車輪は、鉄道車両と橋梁との接触部位の一例である。本実施形態では、鉄道列車6に編成された鉄道車両それぞれは、構造が同じ鉄道車両である。図1に示すように、導出システム10は、計測装置1と、橋梁5の上部構造7に設けられる少なくとも1つのセンサー装置2と、サーバー装置3と、を備える。
【0009】
計測装置1は、各センサー装置2から出力される加速度データに基づいて、鉄道列車6の走行による上部構造7の撓み、すなわち変位を算出する。計測装置1は、例えば、橋台8bに設置される。計測装置1とサーバー装置3とは、例えば、携帯電話の無線ネットワーク及びインターネット等の通信ネットワーク4を介して、通信を行うことができる。計測装置1は、鉄道列車6の走行による上部構造7の変位の情報をサーバー装置3に送信する。サーバー装置3は、送信された変位のデータに基づいて、鉄道列車6に編成された鉄道車両の個数を導出する。
【0010】
本実施形態では、橋梁5は、鉄道橋であり、例えば、鋼橋や桁橋、RC橋等である。RCは、Reinforced-Concreteの略である。また、本実施形態では、橋梁5は、BWIM(Bridge Weigh In Motion ブリッジ・ウエイ・イン・モーション)が適用可能な構造物である。BWIMは、橋梁を「はかり」に見立て、橋梁の変形を計測することにより、橋梁を通行する移動体の重量、軸数などを測定する技術である。橋梁の変形やひずみ等の応答から通行する移動体の重量を解析可能な橋梁は、BWIMが適用可能な構造物と考えられる。そのため、橋梁への作用と応答の間の物理的なプロセスを応用するBWIMシステムにより、橋梁を移動する移動体の重量の計測することが可能である。移動体の重量の計測は、予め変位と荷重の相関係数を測定し、移動体の通過の際の橋梁の変位の測定結果から相関係数を用いて通過する移動体の荷重を導出することで行われる。
【0011】
橋梁5は、移動体が移動する部分である上部構造7と、上部構造7を支える下部構造8と、を備える。図2は、上部構造7を図1のA-A線で切断した断面図である。図1及び図2に示すように、上部構造7は、床版F、主桁G、不図示の横桁等を含む橋床7aと、支承7bと、レール7cと、枕木7dと、バラスト7eと、を含む。また、図1に示すように、下部構造8は、橋脚8aと、橋台8bと、を含む。上部構造7は、隣り合う橋台8bと橋脚8aとの間、隣り合う2つの橋台8bの間、又は、隣り合う2つの橋脚8aの間に渡された構造である。以下では、橋台8bと橋脚8aとを、支持部と総称する。本実施形態では、1組の支持部と、この1組の支持部の間に渡された上部構造7の橋桁の部分と、をまとめて1つの橋桁とする。すなわち、2つの支持部により両端が支えられた単純梁状の構造を、1つの橋桁とする。そのため、図1に示す橋梁5には、2つの橋桁が含まれる。以下では、橋梁5に含まれる各橋桁を、単位橋桁とする。
計測装置1とセンサー装置2とは、例えば、有線又は無線で接続され、CAN(Controller Area Network)等の通信ネットワークを介して通信を行う。
【0012】
センサー装置2は、上部構造7上に設定された観測点における変位(撓み)の導出に用いられる既定の物理量の測定に用いられる。本実施形態では、この既定の物理量は、加速度である。また、本実施形態では、センサー装置2は、この観測点に設置されている。また、センサー装置2は、水晶加速度センサー、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)加速度センサー等の加速度センサーを備える。センサー装置2は、観測点における移動体である鉄道列車6の移動による上部構造7の変位を導出するための加速度のデータを出力する。
【0013】
本実施形態では、センサー装置2は上部構造7の長手方向の中央部、具体的には、主桁Gの長手方向の中央部に設置されている。ただし、センサー装置2は、上部構造7の変位を算出するための加速度を検出することができればよく、その設置位置は上部構造7の中央部に限定されない。なお、センサー装置2を上部構造7の床版Fに設けると、鉄道列車6の走行によって破壊する可能性があり、また、橋床7aの局部的な変形により測定精度が影響を受ける可能性があるため、図1及び図2の例では、センサー装置2は上部構造7の主桁Gに設けられている。
【0014】
上部構造7の床版Fや主桁G等は、上部構造7を走行する鉄道列車6による荷重によって、垂直方向に撓む。各センサー装置2は、上部構造7を走行する鉄道列車6の荷重による床版Fや主桁Gの撓みの加速度を測定する。
指定位置9は、橋梁5において撓み量の推定対象の位置として指定された位置である。
【0015】
(1-1-2)撓みモデル:
ここで、1つの橋梁を鉄道列車が移動する場合における橋梁の撓みのモデルについて説明する。ここで、モデルとは、既定の情報と推定結果との対応関係を示す式等の情報である。
【0016】
また、以下では、橋梁を移動する鉄道列車に編成された鉄道車両の個数(台数)を、Nとおく。鉄道列車が橋梁に進入する時刻である進入時刻を、tとおく。ここで、鉄道列車の橋梁への進入とは、鉄道車両C(鉄道列車の先頭から1台目の鉄道車両)の1軸の車輪が橋梁に進入したことである。また、以下では、鉄道列車が橋梁から退出する時刻である退出時刻を、tとおく。ここで、鉄道列車の橋梁からの退出とは、鉄道車両C(鉄道列車の最後尾の鉄道車両)の最後尾の車軸の車輪が橋梁から退出したことである。また、以下では、鉄道列車が橋梁を通過する期間(時刻tから時刻tまでの期間)を、tとおく。以下では、N、t、t、tをまとめて、観測情報とする。
【0017】
また、以下では、橋梁の長さである橋梁長を、Lとおく。橋梁長は、構造物長の一例である。また、橋梁における長手方向の端部のうち鉄道列車が進入してくる方向側の端部から観測点までの距離を、Lとおく。図3にLとLとを示す。以下では、橋梁における長手方向の端部のうち鉄道列車が進入してくる方向側の端部を、進入端とする。また、以下では、橋梁における長手方向の端部のうち鉄道列車が退出していく方向側の端部を、退出端とする。また、鉄道列車における先頭からm台目の鉄道車両の車両長を、L(m)とおく。車両長は、移動体長の一例ある。以下では、L(1)~L(N)を、Lと総称する。また、鉄道列車における先頭からm台目の鉄道車両を、Cとおく。また、鉄道車両Cにおける車軸の数を、a(m)とおく。以下では、a(1)~a(N)を、aと総称する以下では、鉄道車両Cにおけるa(m)個の車軸を鉄道車両Cの先頭から順に1軸、2軸、3軸、・・・、a(m)軸とおく。
また、鉄道車両Cにおける進行方向前方の端部から1軸までの距離を、L(a(m、1))とおく。ここで、a(α、β)は、鉄道列車におけるα台目の鉄道車両のβ軸を示す。また、鉄道車両Cにおけるn―1軸(n:2以上の整数)からn軸までの距離を、L(a(m、n))とおく。すなわち、L(a(α、β))は、鉄道列車Cαにおけるβ軸と(β-1)軸との距離、又は、鉄道列車Cαにおけるβ軸と鉄道列車Cαの進行方向前方の端との距離を示す。以下では、L(a(1、1))~L(a(N、a(N)))を、Lと総称する。Lそれぞれは、対応する鉄道車両における対応する車軸の位置を示している。例えば、L(a(m、1))は、鉄道車両Cにおいて、先端からL(a(m、1))の距離後方に1軸が存在していることを示す。また、L(a(m、2))は、鉄道車両Cにおいて、1軸からL(a(m、2))の距離後方に2軸が存在していることを示す。
ここでは、鉄道列車には、同様の4軸構成の鉄道車両が編成されている。すなわち、a(m)(m=1、2、・・・、N)は、4である。図4に鉄道車両CにおけるL(m)、L(a(m、1))、L(a(m、2))、L(a(m、3))、L(a(m、4))を示す。
以下では、L、L、L、a、Lをまとめて、環境情報とする。
【0018】
は、以下の式(1)に示すように、tとtとの差分として求まる。
【0019】
【数1】
【0020】
また、鉄道列車の総車輪数Tarは、以下の式(2)で求まる。
【0021】
【数2】
【0022】
鉄道車両の先頭の鉄道車両Cの1軸から、鉄道車両のm台目の鉄道車両Cのn軸までの距離を、Dwa(a(m、n))として表す。Dwa(a(m、n))は、以下の式(3)から求まる。
【0023】
【数3】
【0024】
鉄道車両の先頭の鉄道車両Cの1軸から、鉄道車両の最後尾の鉄道車両Cの最後の軸a(N)までの距離は、Dwa(a(N、a(N)))となる。Dwa(a(N、a(N)))を用いて、橋梁を通過する鉄道列車の平均速度vは、以下の式(4)のように表される。
【0025】
【数4】
【0026】
式(3)、式(4)から以下の式(5)が成り立つ。
【0027】
【数5】
【0028】
続いて、橋梁に荷重が印加された場合に橋梁に生じる撓みについて説明する。
図5に橋梁の模式図を示す。図5には、橋梁に荷重Pが印加されている状況が示される。ここで、橋梁における荷重Pが印加される位置と進入端との距離を、aと表す。また、橋梁における荷重Pが印加される位置と退出端との距離を、bと表す。この場合、橋梁における荷重Pが印加された位置での曲げモーメントは、以下の式(6)で表される。
【0029】
【数6】
【0030】
図6に荷重Pにより橋梁の各位置で曲げモーメントを示す。図6に示すように、荷重Pにより橋梁に生じる曲げモーメントは、進入端で0であり、進入端から荷重Pが印加される位置に近づくほど比例的に増加して、荷重Pが印加される位置において、式(6)が示す値になる。また、荷重Pにより橋梁に生じる曲げモーメントは、荷重Pが印加される位置から退出端に近づくほど比例的に減少して、退出端で0となる。そのため、橋梁における任意の位置Xにおける曲げモーメントは、以下の式(7)で表される。
【0031】
【数7】
【0032】
式(7)のxは、鉄道列車の進行方向における進入端から位置Xまでの距離を示す。また、式(7)のHaは、以下の式(8)で示される値である。
【0033】
【数8】
【0034】
任意の位置Xにおける橋梁の撓みwと、曲げモーメントと、の間には、以下の式(9)で示される関係が成り立つ。
【0035】
【数9】
【0036】
式(9)のθは、位置Xにおいて水平線と撓んだ橋梁とがなす角度である。式(7)と式(9)から以下の式(10)が成り立つ。
【0037】
【数10】
【0038】
式(10)の両辺をxで2回積分することにより、位置Xにおける撓みwを表す以下の式(11)が求まる。
【0039】
【数11】
【0040】
式(11)のg1、g2は、定数項である。ここで、橋梁は、進入端、及び、退出端で支えられているため、進入端、及び、退出端の位置では撓みが生じない。すなわち、式(11)において、x=0、及び、x=Lの場合、両辺とも0となる。そのため、g1、g2は、以下の式(12)、式(13)のようになる。
【0041】
【数12】
【0042】
【数13】
【0043】
式(11)、式(12)、式(13)より、位置Xにおける撓みwを表す以下の式(14)が求まる。
【0044】
【数14】
【0045】
荷重Pが橋梁の長手方向の中央に印加される場合、荷重Pの印加により橋梁に生じる撓みのうち最大の撓みが、橋梁の長手方向の中央において生じる。この最大の撓みをw0.5lとして、w0.5lを表す式を求める。荷重Pが橋梁の長手方向の中央に印加される場合、a=b=0.5Lである。また、撓みを求める対象の位置Xは、橋梁の長手方向の中央であるため、x=0.5Lである。また、この場合、x<=aであるため式(8)より、H=0となる。x=0.5L、a=b=0.5L、H=0を式(14)に代入することで、撓みw0.5lを表す以下の式(15)が求まる。
【0046】
【数15】
【0047】
0.5lを用いて、式(14)で表される橋梁における任意の位置の撓みを規格化する。
荷重Pの位置が位置Xよりも進入端側に存在する場合、すなわち、x>aの場合、式(8)よりH=1となり、式(14)は、以下の式(16)のように表される。
【0048】
【数16】
【0049】
a=Lrとおく。ここで、rは、0以上1以下の実数である。b=L-aであるため、b=L(1-r)と表される。式(16)に、a=Lr、b=L(1-r)を代入し、w0.5lで除することで規格化すると、x>aの場合における位置Xでの規格化された撓み量wstdを示す以下の式(17)が求まる。
【0050】
【数17】
【0051】
同様に、荷重Pの位置が位置Xよりも退出端側に存在する場合、すなわち、x<=aの場合、式(8)よりH=0となり、式(14)は、以下の式(18)のように表される。
【0052】
【数18】
【0053】
a=Lrとおく。ここで、rは、0以上1以下の実数である。b=L-aであるため、b=L(1-r)と表される。式(18)に、a=Lr、b=L(1-r)を代入し、w0.5lで除することで規格化すると、x<=aの場合における位置Xでの規格化された撓み量wstdを示す以下の式(19)が求まる。
【0054】
【数19】
【0055】
式(17)と式(19)とにおけるxにLを代入することで、撓みの観測点における規格化された撓み量wstdは、rの関数として、以下の式(20)のように表される。
【0056】
【数20】
【0057】
式(20)における関数R(r)は、以下の式(21)に示される関数である。
【0058】
【数21】
【0059】
ここで、式(20)、式(21)を用いて、任意の1つの車軸a(m、n)の車輪を介して橋梁に印加される荷重により観測点で生じる撓みの時間変化を示す関数を求める。
まず、鉄道列車の1つの車軸の車輪が、進入端から観測点まで至るのにかかる期間をtxnとおく。txnは、Lとvとから、以下の式(22)で求まる。
【0060】
【数22】
【0061】
また、鉄道列車の1つの車輪が、橋梁を横断するのにかかる期間、すなわち、進入端から退出端まで至るのにかかる期間をtlnとおく。tlnは、Lとvとから、以下の式(23)で求まる。
【0062】
【数23】
【0063】
また、鉄道列車のm台目の鉄道車両のn軸a(m、n)の車輪が進入端に到達する時刻をt(m、n)とおく。t(m、n)は、tとvとDwa(a(m、n))とから、以下の式(24)で求まる。
【0064】
【数24】
【0065】
式(22)より、Lは、以下の式(25)のように表される。
【0066】
【数25】
【0067】
また、式(23)より、Lは、以下の式(26)のように表される。
【0068】
【数26】
【0069】
車軸a(m、n)の位置は、荷重位置となる。そのため、車軸a(m、n)の位置は、進入端から退出端の方向へa=Lrの距離の位置となる。また、時刻を示す変数をtとおくと、時刻tにおけるa(m、n)の進入端からの距離は、時刻t(m、n)から時刻tまでに鉄道車両が進んだ距離に等しい。そのため、以下の式(27)が成り立つ。
【0070】
【数27】
【0071】
式(27)より、rは、以下の式(28)のように表される。
【0072】
【数28】
【0073】
式(25)、式(26)、式(28)を用いて、式(20)、式(21)におけるL、L、rを置き換えることで、車軸a(m、n)の車輪を介して橋梁に印加される荷重により観測点で生じる撓みの時間変化を示すモデルとして、以下の式(29)の関数wstd(a(m、n)、t)が求まる。式(29)内の関数R(t)は、以下の式(30)で示される関数である。
【0074】
【数29】
【0075】
【数30】
【0076】
観測情報、及び、環境情報(t、t、N、L、L、L(1)~L(N)、a(1)~a(N)、L(a(1、1))~L(a(N、a(N))))が既知であると、これらの情報を用いて、wstd(a(m、n)、t)が求まる。例えば、t、tから式(1)を用いてtを求める。t、N、a、L、Lから、式(5)を用いてvが求まる。vとLとLとから、式(22)、式(23)を用いて、txn、tlnが求まる。L、L、tiから、式(3)、式(24)を用いて、t(m、n)が求まる。そして、求まったtxn、tln、t(m、n)を、式(29)、式(30)に代入することで、tの関数wstd(a(m、n)、t)が求まる。
【0077】
std(a(m、n)、t)が示す観測点における撓み量の変化の一例を、図7に示す。図7のグラフの横軸は時間、縦軸は、撓み量を示す。また、1台の鉄道車両Cの移動に応じて、a(m)個の車軸それぞれについての車輪の組が橋梁を移動することとなる。そのため、1台の鉄道車両Cの移動により観測点で生じする撓み量の時間変化を示すモデルとしての関数Cstd(m、t)は、各車軸についてのwstd(a(m、n)、t)の足し合わせとして、以下の式(31)のように求まる。
【0078】
【数31】
【0079】
(m)が4の場合、すなわち、鉄道車両Cが4軸構成である場合、関数Cstd(m、t)が示す観測点における撓み量の変化の様子を、図8に示す。図8のグラフの横軸は時間、縦軸は、撓み量を示す。また、図8における実線のグラフはCstd(m、t)を示し、点線のグラフそれぞれは各車軸についてのwstd(a(m、n)、t)を示す。
【0080】
また、鉄道列車の移動に応じて、N台の鉄道車両が橋梁を移動する。そのため、1つの鉄道列車の移動により観測点で生じする撓み量の時間変化を示すモデルとしての関数Tstd(t)は、各鉄道車両についてのCstd(m、t)の足し合わせとして、以下の式(32)のように求まる。
【0081】
【数32】
【0082】
Nが16の場合、すなわち、鉄道列車に16台の鉄道車両が編成されている場合、関数Tstd(t)が示す観測点における撓み量の変化の様子を、図9に示す。図9のグラフの横軸は時間、縦軸は、撓み量を示す。また、図9における実線のグラフはTstd(t)を示し、点線のグラフそれぞれは各鉄道車両についてのCstd(m、t)を示す。図9のグラフに示すように、通過する鉄道車両毎のたわみの加算した波形となり、連続した鉄道車両が橋梁を通過する周期での振動が生じていることがわかる。
以上が橋梁における撓みのモデルの説明である。このように、本実施形態における撓みのモデルは、単純梁状の橋梁の構造に基づく式である。
【0083】
(1-1-3)検証実験:
発明者らは、観測情報、及び、環境情報が以下に示す値とする条件における撓み量Tstd(t)を求めた。すなわち、N=4、t=7.21[秒]、t=8.777[秒]、t=1.567[秒間]、L=25[m]、L=12.5[m]、Lそれぞれ=25[m]、aそれぞれ=4、m=1~NそれぞれについてL(a(m、1))=2.5[m]、m=1~NそれぞれについてL(a(m、2))=2.5[m]、m=1~NそれぞれについてL(a(m、3))=15[m]、m=1~NそれぞれについてL(a(m、4))=2.5[m]である。
【0084】
この際の撓み量Tstd(t)を、図10に示す。図10のグラフの横軸は時間、縦軸は撓み量を示す。また、発明者らは、求めたTstd(t)を高速フーリエ変換(FFT)することで、Tstd(t)に含まれる各周波数の成分の強度を求めた。Tstd(t)に対するFFTの結果を、図11に示す。図11のグラフの横軸は周波数、縦軸は対応する周波数の成分の強度を示す。そして、発明者らは、連続する鉄道車両の移動に応じて橋梁に生じる振動の周波数として、Tstd(t)のFFTの結果からTstd(t)の基本周波数Fを求めた。ここで、基本周波数とは、信号に含まれる最も周波数の低い成分の周波数である。具体的には、発明者らは、Tstd(t)のFFTの結果から、FFTで用いられたウィンドウ関数の影響により生じるサイドローブを除いて、最も低い周波数に対応するピークを特定し、特定したピークを基本周波数として求めた。図11の例では、一点鎖線で囲んだ部分に示すように、2Hz未満の範囲に、FFTで用いられたウィンドウ関数の影響により生じるサイドローブのピークが2つ見られる。発明者らは、これらのピークを除いたピークのうち、最も周波数の低いピークとして、点線で囲んだ部分のピークを特定し、特定したピークに対応する周波数を、基本周波数Fとして求めた。発明者らは、図11のグラフから基本周波数3.1Hzを求めた。
【0085】
発明者らは、通過期間tsに含まれる基本周波数Fの波数νを、以下の式(33)を用いて求めた。
【0086】
【数33】
【0087】
この場合、ν=1.567×3.1=4.8577である。ここで、移動する鉄道列車の鉄道車両の数Nは、4である。発明者らは、通過期間tsに含まれる、基本周波数Fの波数νが、Nよりも1程度高い値となるとの特徴を見出した。以下では、この特徴を第1の特徴とする。そこで、発明者らは、鉄道列車に含まれる鉄道車両の数Nは、通過期間tsに含まれる、基本周波数Fの波数νから1を引いた値を整数に丸めた値として求められるとして、以下の式(34)を用いて求められることを見出した。round関数は、引数の四捨五入された値を返す関数である。
【0088】
【数34】
【0089】
また、発明者らは、以下の式(35)を用いて、基本周波数Fから、基本周期Tを求めた。
【0090】
【数35】
【0091】
そして、発明者らは、基本周期Tで撓み量Tstd(t)を移動平均することで、基本周波数以上の周波数の成分を減衰させるローパスフィルター処理をTstd(t)に施した。ローパスフィルター処理は、基本周波数以上の周波数の成分を減衰させるその他のFIRフィルターをかける処理でもよい。ローパスフィルター処理を施されたTstd(t)を、Tstd_lp(t)=Tstd_lp(kΔT)とおく。ここで、kは、観測点で撓み量が周期的に観測される場合における何番目の観測であるかを示す変数である。すなわち、撓み量の観測のデータ周期(時間分解能)がΔTであるとすると、t=kΔTとなる。
以下の式(36)に示すように、基本周期TとΔTとから、データの時間分解能に調整した移動平均区間kmfが求まる。
【0092】
【数36】
【0093】
mfを用いて、Tstd_lp(t)は、以下の式(37)により求まる。
【0094】
【数37】
【0095】
発明者らは、撓み量Tstd(t)から、Tstd_lp(t)を引くことで、基本周波数未満の周波数の成分を減衰させるハイパスフィルター処理をTstd(t)に施した。ハイパスフィルター処理は、基本周波数未満の周波数の成分を減衰させるその他のFIRフィルターをかける処理でもよい。ハイパスフィルター処理を施されたTstd(t)を、Tstd_hp(t)とおく。具体的には、発明者らは、以下の式(38)に示すように、Tstd(t)から、Tstd_lp(t)を引くことで、Tstd_hp(t)を求めた。
【0096】
【数38】
【0097】
求めたTstd_hp(t)を、Tstd(t)と重畳して図12に示す。図12のグラフは、横軸は時間(t=kΔT)を示し、縦軸は撓み量を示す。図12の実線のグラフは、Tstd_hp(k)を示し、点線のグラフはTstd(t)を示す。
図12のグラフから、通過期間t(時刻tから時刻tまでの期間)におけるTstd_hp(t)の正のピークの数は、6個である。ここで、正のピークとは、Tstd_hp(t)のピークのうち、橋梁の上方向に凸なピークである。また、通過期間tにおけるTstd_hp(t)の負のピークの数は、5個である。ここで、負のピークとは、Tstd_hp(t)のピークのうち、橋梁の下方向に凸なピークである。このことから、発明者らは、通過期間tにおけるTstd_hp(t)の正のピークの数(6)が鉄道列車に含まれる鉄道車両の数N(4)よりも2つ多く、負のピークの数(5)がN(4)よりも1つ多いとの特徴を見出した。以下では、この特徴を、第2の特徴とする。
【0098】
発明者らは、観測情報、及び、環境情報を種々の値に変更しつつ、第1の特徴、及び、第2の特徴が成立するかを検証した。結果、発明者らは、L/2 < L < 3L/2を満たす場合に、第1の特徴、及び、第2の特徴が成立することを見出した。発明者らは、第1の特徴、第2の特徴に基づいて、橋梁の観測点における橋梁の変位(撓み)の時系列データから、鉄道列車6に編成された鉄道車両の個数を導出できることを見出した。以下では、橋梁の観測点における変位の時系列データを、u(t)とおく。u(t)は、既定の周期で計測された変位の離散値のデータであって、各離散値が計測時刻と対応付けられているデータである。
【0099】
発明者らは、観測情報、及び、環境情報が以下に示す値とする条件において、同様の鉄道車両が編成された鉄道列車が橋梁を通過する際に生じる撓み量Cstd(1、t)~Cstd(N、t)、Tstd(t)について考察した。すなわち、N=4、t=7.21[秒]、t=8.777[秒]、t=1.567[秒間]、L=25[m]、L=12.5[m]、Lそれぞれ=25[m]、aそれぞれ=4、m=1~NそれぞれについてL(a(m、1))=2.5[m]、m=1~NそれぞれについてL(a(m、2))=2.5[m]、m=1~NそれぞれについてL(a(m、3))=15[m]、m=1~NそれぞれについてL(a(m、4))=2.5[m]である。
【0100】
この際の鉄道列車に含まれる4台の鉄道車両それぞれによる撓み量Cstd(1、t)~Cstd(4、t)を、図13に示す。橋梁を連続して鉄道車両が通過する際に橋梁に生じる振動の周期をTとおく。橋梁を連続して鉄道車両が通過する際に橋梁に生じる振動は、鉄道車両が連続して橋梁を通過することで生じる振動である。そのため、周期Tは、橋梁を通過する連続する鉄道車両の橋梁への進入時刻の時間差となる。鉄道車両が橋梁に進入する時刻から、橋梁にはその鉄道車両による撓みが生じるため、Cstd(m、t)が示す撓みの開始時刻と、Cstd(m+1、t)が示す撓みの開始時刻と、の時間差が、周期Tとなる。図13に、鉄道列車が橋梁を通過する際に、鉄道列車の鉄道車両それぞれの通過により橋梁に生じる撓みを示す。図13のグラフの横軸は時間、縦軸は撓み量を示す。図13に示すように、前後する鉄道車両による撓みは、Tの時間差で生じている。
【0101】
周期Tは、橋梁を通過する連続する鉄道車両の橋梁への進入時刻の時間差であるため、以下の式(39)に示すように、車両長L(m)を速度vで通過する期間とみなすことができる
【0102】
【数39】
【0103】
鉄道列車の鉄道車両Cが橋梁を通過する期間を、t(m)とおく。t(m)は、移動体である鉄道車両Cが構造物である橋梁を通過する期間である移動体通過期間の一例である。t(m)は、鉄道車両Cの1軸が進入端に到達した時刻から、鉄道車両Cのa(m)軸が退出端に到達した時刻までの期間である。すなわち、t(m)は、鉄道車両Cが橋梁長Lと鉄道車両Cの最前の車軸である1軸から末尾の車軸であるa(m)軸までの距離との合計の距離を移動する期間となる。そのため、t(m)は、以下の式(40)で表される。
【0104】
【数40】
【0105】
鉄道列車による橋梁の通過の際、鉄道列車に編成された鉄道車両のうち、後続の鉄道車両が存在する鉄道車両の個数を、CTnとおく。鉄道列車に編成された鉄道車両のうち、末尾の鉄道車両以外の鉄道車両については、後続の鉄道車両が存在する。そのため、CTnは、Nよりも1小さい数となる。すなわち、以下の式(41)が成り立つ。
【0106】
【数41】
【0107】
図14に、Cstd(1、t)~Cstd(N、t)、Tstd(t)を示す。図14のグラフの横軸は時間、縦軸は撓み量を示す。図14の実線のグラフはTstd(t)を示し、点線のグラフはCstd(1、t)~Cstd(4、t)それぞれを示す。図14に示すように、通過期間tは、CTn個のTと、1台の鉄道車両Cが橋梁を通過する期間t(m)と、の合計となる。すなわち、以下の式(42)が成り立つ。
【0108】
【数42】
【0109】
式(41)、式(42)より、鉄道列車に編成された鉄道車両の個数Nは、以下の式(43)で示される。
【0110】
【数43】
【0111】
は、鉄道列車が鉄道車両1台分の車両長を移動するのにかかる期間でもある。そのため、鉄道列車が通過期間tで進む距離は、(N-1)台の鉄道車両の長さと、速度vでt(m)の期間進む距離と、の合計となる。そのため、以下の式(44)が成り立つ。
【0112】
【数44】
【0113】
式(44)から以下の式(45)が成り立つ。式(45)からも式(43)が成り立つことが確認できる。
【0114】
【数45】
【0115】
鉄道列車が橋梁を通過する際に橋梁に生じる撓み量Tstd(t)には、基本周波数Fの成分として、連続する鉄道車両の移動に応じて橋梁に生じる振動の成分が含まれると考えられる。Fは、連続する鉄道車両の移動に応じて橋梁に生じる振動の周波数でもあるため、以下の式(46)に示すように、Tの逆数と表すことができる。
【0116】
【数46】
【0117】
式(39)、式(46)より、速度vは、以下の式(47)のように、FとL(m)との積で表される。
【0118】
【数47】
【0119】
そのため、式(40)で表されるt(m)は、橋梁長Lと鉄道車両Cの最前の車軸である1軸から末尾の車軸であるa(m)軸までの距離との合計の距離を、FとL(m)との積で除した値となる。
式(43)、式(46)より、鉄道列車に編成された鉄道車両の個数Nは、鉄道列車による橋梁の通過期間tから、1台の鉄道車両Cによる橋梁の通過期間t(m)を引いた値と、基本周波数Ffと、の積に1を加えた値として表され、以下の式(48)のように表される。
【0120】
【数48】
【0121】
発明者らは、式(47)が示すように、鉄道列車の平均速度vは、基本周波数Ffと鉄道列車に含まれる1台の鉄道車両Cの長さとの積で表されることを見出した。また、発明者らは、式(40)が示すように、1台の鉄道車両Cが橋梁を通過する期間t(m)は、鉄道車両Cが橋梁の長さLと鉄道車両Cの1軸からa(m)軸までの距離との合計の距離を速度vで移動する期間として表されることを見出した。また、発明者らは、式(48)が示すように、鉄道列車に編成された鉄道車両の個数Nがtからt(m)を引いた値と基本周波数Ffとの積に1を加えた値として表されることを見出した。
そして、発明者らは、鉄道列車が移動する橋梁に設定された観測点における変位の時系列データを用いて鉄道列車に編成された鉄道車両の個数を導出する方法に想到した。
【0122】
発明者らが想到した方法は、鉄道列車が移動する橋梁に設定された観測点における変位の時系列データu(t)を取得し、LとLとLとを環境情報として取得し、時系列データu(t)に基づいて、u(t)の基本周波数Fを、鉄道列車に編成された連続する鉄道車両の通過により橋梁に生じる振動の周波数として取得し、u(t)に基づいて、鉄道列車が橋梁を通過する期間tを導出し、LとLとLとFとtとに基づいて、式(40)、式(47)、式(48)が示す関係を用いて、鉄道列車に含まれる鉄道車両の個数を導出する方法である。
【0123】
本実施形態では、導出システム10は、観測点で計測された橋梁5の撓み量の時系列データu(t)に基づいて、実験で得た知見を用いて、鉄道列車6に編成された鉄道車両の個数Nの値を導出する。そして、導出システム10は、導出したNを用いて、橋梁の撓みモデルを用いて、観測点での撓み量と、指定された位置である指定位置9における橋梁5の撓み量と、を導出する。導出システム10は、導出した観測点での撓み量に対する、指定位置での撓み量の比率と、時系列データu(t)と、の積を、指定位置9での実際の撓み量の推定値として求める。
【0124】
(1-1-4)要素の詳細:
ここで、図15を用いて、導出システム10の計測装置1、センサー装置2、サーバー装置3それぞれの詳細を説明する。
本実施形態では、導出システム10は、観測情報(鉄道列車6に編成された鉄道車両の個数N、鉄道列車6が単位橋桁に進入する時刻t、鉄道列車6が単位橋桁から退出する時刻t、鉄道列車6が単位橋桁を通過する期間tについて、計測装置1により計測されたデータに基づいて導出する。
【0125】
計測装置1は、センサー装置2を介して、観測点における撓みを計測する。本実施形態では、計測装置1は、橋台8bに設置されているが、他の位置に設置されてもよい。計測装置1は、制御部100、記憶部110、通信部120を備える。制御部100は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサー、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備える。制御部100は、ROM等に記録された種々のプログラムを、RAMに展開してCPUを介して実行することで計測装置1の各機能を実現する。記憶部110は、各種プログラム、計測された撓みのデータ等を記憶する。通信部120は、外部の装置との間での有線、又は、無線での通信に用いられる回路を備える。
【0126】
センサー装置2は、観測点における既定の物理量として加速度を検出する。センサー装置2は、制御部200、加速度センサー210、記憶部220、通信部230を備える。制御部200は、CPU等のプロセッサー、ROM、RAM等を備える。制御部200は、ROM等に記録された種々のプログラムを、RAMに展開してCPUを介して実行することでセンサー装置2の各機能を実現する。
【0127】
加速度センサー210は、互いに直交する3軸の各軸方向に生じる加速度を検出可能な、水晶加速度センサー、MEMS加速度センサー等の加速度センサーである。本実施形態では、加速度センサー210は、垂直方向の加速度をより精度よく検出するため、1つの軸を、垂直方向と平行とするように配置されている。ただし、上部構造7におけるセンサー装置2の設置場所が傾いている場合もある。計測装置1は、加速度センサー210の3つの検出軸の1軸が、垂直方向に合わせて設置されていない場合でも、3つの軸の加速度を合成して、垂直方向の加速度を検出する。
【0128】
センサー装置2の制御部200は、加速度センサー210を介して、橋梁5における観測点における上下方向の加速度を周期的に検出し、検出した加速度のデータを、計測装置1に送信する。計測装置1の制御部100は、センサー装置2から送信された加速度のデータに基づいて、加速度の検出時刻における観測点での橋梁5の上下方向の撓みを計測する。本実施形態では、制御部100は、センサー装置2から送信されたデータが示す加速度を時間について2回積分することで、観測点での橋梁5の上下方向の撓みを求める。そして、制御部100は、計測した撓みのデータを、サーバー装置3に送信する。なお、本実施形態では、センサー装置2は、既定の周期ΔTで加速度を検出する。そのため、計測装置1は、ΔT周期の撓みの時系列データを計測する。すなわち、計測される時系列データは、ΔT周期で計測された変異の離散値のデータであって、各離散値が計測時刻と対応付けられているデータである。
【0129】
サーバー装置3は、計測装置1により計測された観測点の撓みに基づいて、鉄道列車6に含まれる鉄道車両の数を導出する。サーバー装置3は、導出装置の一例である。サーバー装置3は、制御部300、記憶部310、通信部320を備える。制御部300は、CPU等のプロセッサー、ROM、RAM等を備える。制御部300は、ROM等に記録された種々のプログラムを、RAMに展開してCPUを介して実行することで、取得部301、環境情報取得部302、時刻導出部303、個数取得部304、指標値取得部305、撓み導出部306の各機能を実現する。記憶部310は、各種プログラム、検出された撓みのデータ等を記憶する。通信部320は、外部の装置との間での有線、又は、無線での通信に用いられる回路を備える。
【0130】
取得部301は、鉄道列車6が橋梁5における橋梁それぞれを移動することによる応答として観測点で生じる撓みの時系列データを取得する機能である。制御部300は、取得部301の機能により、計測装置1から、観測点で生じる撓みの時系列データu(t)を取得する。
【0131】
環境情報取得部302は、単位橋桁の長さと、鉄道列車6に編成された鉄道車両の長さである車両長と、鉄道車両における車輪が設置された車軸の位置と、の情報を含む環境情報を取得する機能である。制御部300は、環境情報取得部302の機能により、単位橋桁の橋梁長L、鉄道列車6の各鉄道車両の車両長L、鉄道列車6の各鉄道車両についての位置を示す距離Lの情報を、環境情報として取得する。本実施形態では、予め記憶部310に環境情報が記憶されており、制御部300は、記憶部310から環境情報を取得する。ただし、制御部300は、外部の装置から環境情報を受信する等の他の方法を用いて、環境情報を取得してもよい。
【0132】
時刻導出部303は、時系列データu(t)に基づいて、鉄道列車6の単位橋桁に対する進入時刻tと退出時刻tとを導出する機能である。制御部300は、時刻導出部303の機能により、u(t)に対してFFTを実行する。制御部300は、FFT結果からピークを検出する。制御部300は、検出したピークのうち、FFTで用いられた窓関数の影響で生じるサイドローブのピークを除いた最小の周波数に対応するピークを特定する。制御部300は、特定したピークに対応する周波数を、u(t)の基本周波数Fとして導出する。
【0133】
制御部300は、以下のようにして、u(t)に基本周波数F以上の成分を減衰させるローパスフィルターを施す。まず、制御部300は、取得した基本周波数Fに基づいて、式(35)と同様に、Fの逆数を導出することで、周期Tを導出する。制御部300は、導出したTと既定の周期であるΔTとに基づいて、以下の式(49)を用いて区間kmfを導出する。
【0134】
【数49】
【0135】
制御部300は、u(t)の各値について、導出した区間kmfにおける移動平均をとることで、u(t)にローパスフィルターをかける。ローパスフィルター処理を施されたu(t)を、ulp(t)=ulp(kΔT)とおく。ここで、kは、観測点で撓み量が周期的に観測される場合における何番目の観測であるかを示す変数である。制御部300は、導出した区間kmfに基づいて、以下の式(50)を用いて、ulp(t)を導出する。ulp(t)は、複数の離散値のデータであるu(t)と同様に、複数の離散値のデータとなる。図16に、導出されたulp(t)を示す。図16のグラフの横軸は時間、縦軸は撓み量を示す。
【0136】
【数50】
【0137】
そして、制御部300は、ulp(t)から、撓み量に関する既定の閾値Cを挟む連続する2つのデータを特定する。ここで、ulp(t)の連続する2つのデータが閾値Cを挟むとは、ulp(t)に含まれる連続して計測された2つの変位のデータの値で挟まれた範囲、すなわち、これらの変位のデータのうちの小さい方の値以上、且つ、大きい方の値以下の範囲にCが含まれることを示す。本実施形態では、この閾値Cは、0以上、1以下の既定の係数と、撓み量がシフトしている期間のulp(t)の平均値と、の積であるとする。ここで、撓み量がシフトしている期間とは、鉄道列車が乗ることにより橋梁の撓み量が既定の範囲内に維持されている期間である。より具体的には、撓み量がシフトしている期間は、絶対値が既定の値よりも大きい値を中心とした既定の幅の範囲内に撓み量が収まっている期間である。制御部300は、例えば、ulp(t)から、既定の長さ(例えば、1秒、2秒等)の期間の撓み量のデータを抽出し、抽出したデータの平均値の絶対値が既定の閾値以上であり、且つ、抽出したデータのうちのの最大値と最小値との差分の絶対値が既定の幅以下である場合、抽出した期間を撓み量がシフトしている期間として決定する。また、制御部300は、サーバー装置3の操作部等を介して、撓み量がシフトしている期間の開始時刻と終了時刻との指定を受け付けてもよい。そして、制御部300は、撓み量がシフトしている期間について、ulp(t)の平均値を求め、求めた平均値と、既定の係数と、の積を、閾値Cとして導出する。
【0138】
ただし、閾値Cは、他の値であってもよい。例えば、閾値Cは、鉄道車両の先頭の1軸の車輪を進入端の近傍に置くように鉄道車両を配置した場合における橋梁の観測点の撓みの値であってもよい。また、閾値Cは、既定の重量を進入端の近傍にかけた場合における橋梁の観測点の撓み量であってもよい。また、閾値Cは、鉄道列車が橋梁を通過する際における橋梁の観測点の撓み量の最大値の既定の割合(例えば、10%、1%等)の値等としてもよい。
【0139】
図17に、ulp(t)と、閾値Cと、を示す。図17のグラフの横軸は時間(t=kΔT)を示し、縦軸は撓み量を示す。図17の実線のグラフはulp(t)を示し、点線のグラフはu(t)を示す。図17における点線の円で囲んだ部分において、ulp(k)と、閾値Cと、が交差する。また、図18に、ulp(t)とCとの交差する箇所(図17のグラフにおける左側の点線の円の部分)の拡大図を示す。図18のグラフの横軸は時間を示し、縦軸は撓み量を示す。図18の黒点それぞれは、ulp(t)に含まれる離散値のデータを示す。図18の例では、ulp(t)に含まれるデータk-1と、データkと、が閾値Cを挟んでいる様子が示される。
制御部300は、特定したCを挟む連続する2つのデータに対応する2つの時刻のうち、遅い方を特定する。図18の例では、制御部300は、データkに対応する時刻kΔTを特定する。
図17の例では、制御部300は、Cを挟む連続する2つのデータとして、図17における右側の点線の円の部分の2つのデータについても特定し、特定した2つのデータに対応する2つの時刻のうち、遅い方を特定する。
【0140】
そして、制御部300は、特定した時刻のうち早い方を、鉄道列車6の単位橋桁への進入時刻tとして導出する。また、制御部300は、特定した時刻のうち、遅い方を、鉄道列車6の単位橋桁からの退出時刻tとして導出する。図17の例では、制御部300は、進入時刻t=7.2[s]、退出時刻t=12.795[s]と導出する。このように、本実施形態では、制御部300は、ulp(t)に含まれる何れかのデータに対応付けられた時刻を、進入時刻t、退出時刻tとして導出する。
【0141】
このように、本実施形態では、制御部300は、ulp(t)に含まれる、Cを挟む連続する2つのデータに対応する2つの時刻のうち遅い方を、進入時刻t、退出時刻tとして導出する。ただし、制御部300は、他の時刻を、進入時刻t、退出時刻tとして導出してもよい。例えば、制御部300は、ulp(t)から、撓み量に関する既定の閾値Cを挟む連続する2つのデータを特定し、特定した2つのデータに対応する時刻のうちの一方の時刻以降であり、且つ、他方の時刻以前の期間に含まれる時刻を、進入時刻tと退出時刻tと導出してもよい。図18の例では、制御部300は、データk-1に対応する時刻(k-1)ΔT以降であり、データkに対応する時刻kΔT以前の時刻(例えば、時刻(k-1)ΔT、ulp(t)とCとが交差する点に対応する時刻等)を、進入時刻tとして導出してもよい。また、制御部300は、ulp(t)に含まれる各データ間を補間した曲線を求めて、求めた曲線とCとの交点に対応する時刻を、t、tとして求めてもよい。
【0142】
また、ulp(t)に含まれるCを挟む連続する2つのデータについて、一方がCと等しくなる場合が考えられる。例えば、図18の例において、データkの値がCと等しくなる場合が考えられる。その場合、制御部300は、Cを挟む連続する2つのデータとして、Cと等しいデータと1つ前のデータとの組と、Cと等しいデータと1つ後のデータとの組と、の2組を特定する。図18の例でデータkがCと等しい場合、制御部300は、Cを挟む連続する2つのデータとして、データk-1とデータkとの組と、データkとデータk+1との組と、の2つの組を特定する。このような場合、制御部300は、特定したデータの組から、何れか1つの組を選択し、選択した組に含まれる2つのデータに対応する2つの時刻間の期間内の時刻を、t又はtとして導出してもよい。
【0143】
本実施形態では、制御部300は、ulp(t)に含まれる何れかのデータに対応付けられた時刻を、進入時刻t、退出時刻tとして導出する。これにより、制御部300は、進入時刻t、退出時刻tを含むΔT間隔の計測時刻それぞれに対応するulp(t)のデータを、ulp(t)を参照することで容易に取得し、活用できる。対して、制御部300は、ulp(t)に含まれる何れのデータにも対応付けられていない時刻を、進入時刻t、退出時刻tとして導出する場合、t、tを含むΔT間隔の計測時刻それぞれに対応するulp(t)のデータを、元のulp(t)からのリサンプリング等により求めることとなり、処理の手間が増加する。
【0144】
制御部300は、基本周波数以上の振動成分が減衰されたulp(t)を用いて、進入時刻、退出時刻を導出することで、基本周波数以上の振動成分の影響を軽減し、より精度よく進入時刻、退出時刻を導出できる。
ただし、制御部300は、ulp(t)を導出しないこととしてもよい。その場合、制御部300は、例えば、u(t)と閾値Cとが交差する時刻を、t、tとして導出してもよい。
【0145】
個数取得部304は、鉄道列車6に編成された鉄道車両の個数を取得する機能である。制御部300は、個数取得部304の機能により、第1の特徴に基づいて、鉄道列車6に含まれる鉄道車両の個数を導出する。制御部300は、tとtとに基づいて、式(1)を用いて、鉄道列車6が単位橋桁を通過する通過期間tを導出する。そして、制御部300は、導出したtと、u(t)に基づいて導出した基本周波数Fと、に基づいて式(33)を用いて、通過期間tに含まれる基本周波数Fの波数νを導出する。制御部300は、導出したνに基づいて、式(34)を用いて、鉄道列車6に含まれる鉄道車両の個数Nを導出することで、Nを取得する。このように、制御部300は、tとu(t)の基本周波数Fとの積から1を引いて整数に丸めた値を、Nの値として導出する。
【0146】
ただし、制御部300は、他の方法で、Nを取得してもよい。例えば、制御部300は、第2の特徴に基づいて、以下のようにしてもよい。すなわち、制御部300は、u(t)から、ulp(t)を引くことで、基本周波数未満の周波数の成分を減衰させるハイパスフィルター処理をu(t)に施し、ハイパスフィルター処理が施されたu(t)であるuhp(t)を導出する。そして、制御部300は、uhp(t)におけるtからtまでの期間のデータから、正のピークの個数を特定する。制御部300は、特定した正のピークの数から2を引いた値を、Nの値として導出することで、Nを取得してもよい。
また、制御部300は、uhp(t)におけるtからtまでの期間のデータから、負のピークの個数を特定する。制御部300は、特定した負のピークの数から1を引いた値を、Nの値として導出することで、Nを取得してもよい。
【0147】
また、制御部300は、発明者らが想到した方法を用いて、以下のようにしてもよい。すなわち、制御部300は、環境情報が示す鉄道列車6の鉄道車両の車両長L(m)と、基本周波数Fと、に基づいて、式(47)を用いて、鉄道列車の平均速度vを導出する。制御部300は、導出したvと環境情報が示すLとLとに基づいて、式(40)を用いて、1台の鉄道車両が橋梁を通過する期間t(m)を導出する。そして、制御部300は、導出したFとtとt(m)とに基づいて、式(48)を用いて、鉄道列車6に編成された鉄道車両の個数Nを導出し、Nを取得してもよい。
ただし、制御部300は、Nの値を導出しなくてもよい。例えば、制御部300は、ユーザーによるサーバー装置3の操作部の操作に基づいて、Nの指定を受け付けて、受け付けた値をNとして取得してもよい。また、制御部300は、外部の装置からNの指定を受け付けて、受け付けた値をNとして取得してもよい。また、制御部300は、予め定められた値をNとして取得してもよい。
【0148】
指標値取得部305は、鉄道列車6に編成された鉄道車両の個数Nと、進入時刻tと、退出時刻tと、環境情報と、に基づいて、観測点で生じる構造物の撓み量の指標値である第1の指標値と、構造物における指定位置9での撓み量の指標値である第2の指標値と、を導出する機能である。本実施形態では、単位橋桁における指定位置9の位置は、進入端から退出端の方へ距離L×rxの位置である。ここで、rxは、Lに対する、単位橋桁における進入端から指定位置9までの距離の割合を示す値である。本実施形態では、rxは、0.05である。
制御部300は、指標値取得部305の機能により、鉄道列車6にNが示す個数の鉄道車両が編成されている場合における、鉄道列車6の通過により観測点で生じる規格化された撓み量の推定値を、観測点における撓み量の指標値である第1の指標値として導出する。具体的には、制御部300は、t、tから式(1)を用いてtを導出する。制御部300は、t、N、a、L、L、Lから、式(5)を用いてvを導出する。すなわち、vは、N個の鉄道車両が編成された鉄道列車における最前の車軸(最前の鉄道車両の1軸)から末尾の車軸(末尾の鉄道車両のa(N)軸))までの距離と、橋梁長Lと、の和を、進入時刻tから退出時刻tまでの期間である通過期間tで除した値として導出される。制御部300は、vとLとLとから、式(22)、式(23)を用いて、txn、tlnを導出する。また、制御部300は、L、L、tから、式(3)、式(24)を用いて、t(m、n)を導出する。そして、制御部300は、導出したtxn、tln、t(m、n)を、式(29)、式(30)に代入することで、鉄道列車6の各鉄道車両の各軸について、関数wstd(a(m、n)、t)を導出する。
制御部300は、鉄道列車6のN個の鉄道車両について、式(31)を用いて、各車軸についてのwstd(a(m、n)、t)を足し合わせることで、鉄道車両の通過による単位橋桁の撓みを示すCstd(m、t)を導出する。そして、制御部300は、式(32)を用いて、N個の鉄道車両についてのCstd(m、t)を足し合わせることで、鉄道列車の通過による単位橋桁の撓みとして、Tstd(t)を導出する。制御部300は、このようにして、観測点における規格化された撓み量Tstd(t)を、第1の指標値として取得する。以下では、第1の指標値として取得されたTstd(t)を、Tstd_R(t)とおく。
【0149】
また、制御部300は、鉄道列車6にNが示す個数の鉄道車両が編成されている場合における、鉄道列車6の通過により指定位置9で生じる撓み量の規格化された推定値を、指定位置9における撓み量の指標値である第2の指標値として導出する。具体的には、制御部300は、vとLとrxとから、LをL×rxと置き換えて、式(22)、式(23)を用いて、txn、tlnを導出する。また、制御部300は、L、L、tから、式(3)、式(24)を用いて、t(m、n)を導出する。そして、制御部300は、導出したtxn、tln、t(m、n)を、式(29)、式(30)に代入することで、鉄道列車6の各鉄道車両の各軸について、関数wstd(a(m、n)、t)を導出する。
制御部300は、鉄道列車6のN個の鉄道車両について、式(31)を用いて、各車軸についてのwstd(a(m、n)、t)を足し合わせることで、鉄道車両の通過による単位橋桁の撓みを示すCstd(m、t)を導出する。そして、制御部300は、式(32)を用いて、N個の鉄道車両についてのCstd(m、t)を足し合わせることで、鉄道列車の通過による単位橋桁の撓みとして、Tstd(t)を導出する。制御部300は、このようにして、指定位置9における規格化された撓み量Tstd(t)を、第2の指標値として取得する。以下では、第2の指標値として取得されたTstd(t)を、Tstd_rx(t)とおく。
【0150】
撓み導出部306は、時系列データu(t)と、第1の指標値Tstd_R(t)と、第2の指標値Tstd_rx(t)と、に基づいて、指定位置9での単位橋桁の撓み量の推定値を導出する機能である。
制御部300は、撓み導出部306の機能により、Tstd_R(t)、及び、Tstd_rx(t)において、撓みが生じ始めて収束するまでの期間として、撓みの値が0よりも大きくなり始めた時刻t1から撓みが収束して値が0に収束した時刻t2までの期間を特定する。
また、制御部300は、第1の指標値Tstd_R(t)に応じた既定の量と、第2の指標値Tstd_rx(t)に応じた既定の量と、の比率Rrx_R(t)を導出する。本実施形態では、第1の指標値Tstd_R(t)に応じた既定の量は、第1の指標値Tstd_R(t)である。また、第2の指標値Tstd_rx(t)に応じた既定の量は、第2の指標値Tstd_rx(t)である。そのため、本実施形態では、制御部300は、以下の式(51)を用いて、第1の指標値Tstd_R(t)と第2の指標値Tstd_rx(t)との比率Rrx_R(t)を導出する。ただし、他の例として、第1の指標値Tstd_R(t)に応じた既定の量は、第1の指標値Tstd_R(t)から第1の指標値Tstd_R(t)の基本周波数以上の周波数の成分を減衰させた量であってもよい。また、第2の指標値Tstd_rx(t)に応じた既定の量は、第2の指標値Tstd_R(t)から第2の指標値Tstd_R(t)の基本周波数以上の周波数の成分を減衰させた量であってもよい。また、制御部300は、比率Rrx_R(t)として、第2の指標値Tstd_R(t)から第2の指標値Tstd_R(t)の基本周波数以上の周波数の成分を減衰させた量を、第1の指標値Tstd_R(t)から第1の指標値Tstd_R(t)の基本周波数以上の周波数の成分を減衰させた量で除した値を導出してもよい。
【0151】
【数51】
【0152】
制御部300は、tとtとRrx_R(t)とに基づいて、以下の式(52)を用いて、時刻tから時刻tまでの期間における、第1の指標値Tstd_R(t)と第2の指標値Tstd_rx(t)との比率の平均値Ravgを導出する。
【0153】
【数52】
【0154】
ただし、制御部300は、Ravgとして、時刻tから時刻tまでの期間と異なる期間におけるTstd_R(t)とTstd_rx(t)との比率の平均値を導出してもよい。例えば、制御部300は、Ravgとして、通過期間tにおけるTstd_R(t)とTstd_rx(t)との比率の平均値を導出してもよい。その場合、制御部300は、式(52)中のtとtとをtとtと置き換えて、式(52)を用いて、Ravgを導出してもよい。
【0155】
そして、制御部300は、時系列データu(t)にRavgを乗じた値を、指定位置9における撓み量の推定値として導出する。ただし、制御部300は、時系列データu(t)に含まれるデータ毎に、対応するRrx_R(t)を乗じることで、指定位置9における撓み量の推定値として導出してもよい。
【0156】
以上のように本実施形態の構成により、導出システム10は、観測点と異なる指定位置9における単位橋桁の撓み量を導出できる。
【0157】
(1-2)導出処理:
図19を用いて、サーバー装置3が実行する指定位置9における撓み量の導出処理を説明する。サーバー装置3は、計測装置1から観測点における変位のデータが送信されたことに応じて、図19の処理を開始するが、指定されたタイミング等の任意のタイミングで図19の処理を開始してもよい。
S100において、制御部300は、取得部301の機能により、計測装置1から、観測点で生じる撓みの時系列データu(t)を取得する。S100は、取得ステップの一例である。
S105において、制御部300は、環境情報取得部302の機能により、単位橋桁の橋梁長L、鉄道列車6の各鉄道車両の車両長L、鉄道列車6の各鉄道車両についての位置を示す距離Laの情報を、環境情報として取得する。S105は、環境情報取得ステップの一例である。
【0158】
S110において、制御部300は、時刻導出部303の機能により、u(t)に対してFFTを実行し、FFT結果からピークを検出する。制御部300は、検出したピークのうち、FFTで用いられた窓関数の影響で生じるサイドローブのピークを除いた最小の周波数に対応するピークを特定する。制御部300は、特定したピークに対応する周波数を、u(t)の基本周波数Fとして導出する。制御部300は、取得した基本周波数Fに基づいて、式(35)と同様に、Fの逆数を導出することで、周期Tを導出する。制御部300は、導出したTと既定の周期であるΔTとに基づいて、式(49)を用いて区間kmfを導出する。制御部300は、導出した区間kmfに基づいて、式(50)を用いて、ulp(t)を導出する。
また、制御部300は、ulp(t)から、既定の値(例えば、1秒、2秒等)の区間を抽出し、抽出した区間における撓み量の最大値と最小値との差分の絶対値が既定の閾値以下である場合、抽出した区間を撓み量がシフトしている区間を決定する。制御部300は、撓み量がシフトしている区間について、ulp(t)の平均値を求め、求めた平均値と、既定の係数と、の積を、閾値Cとして導出する。
【0159】
そして、制御部300は、ulp(t)と、導出した閾値Cと、の交点を求める。具体的には、制御部300は、ulp(t)=Cとなるtの2つの値を求める。そして、制御部300は、求めたtの値のうち、小さいほうが示す時刻を、鉄道列車6の単位橋桁への進入時刻tとして導出する。また、制御部300は、求めたtの値のうち、大きいほうが示す時刻を、鉄道列車6の単位橋桁からの退出時刻tとして導出する。S110は、時刻導出ステップの一例である。
【0160】
S115において、制御部300は、個数取得部304の機能により、S110で導出されたtとtとに基づいて、式(1)を用いて、鉄道列車6が単位橋桁を通過する通過期間tを導出する。そして、制御部300は、導出したtと、S110で導出されたFと、に基づいて式(33)を用いて、通過期間tsに含まれる基本周波数Fの波数νを導出する。制御部300は、導出したνに基づいて、式(34)を用いて、鉄道列車6に含まれる鉄道車両の個数Nを導出することで、Nを取得する。S115は、個数取得ステップの一例である。
【0161】
S120において、制御部300は、指標値取得部305の機能により、t、N、a、L、Lから、式(5)を用いてvを導出する。制御部300は、vとLとLとから、式(22)、式(23)を用いて、txn、tlnを導出する。また、制御部300は、L、L、tから、式(3)、式(24)を用いて、t(m、n)を導出する。そして、制御部300は、導出したtxn、tln、t(m、n)を、式(29)、式(30)に代入することで、鉄道列車6の各鉄道車両の各軸について、関数wstd(a(m、n)、t)を導出する。
制御部300は、鉄道列車6のN個の鉄道車両について、式(31)を用いて、各車軸についてのwstd(a(m、n)、t)を足し合わせることで、鉄道車両の通過による単位橋桁の撓みを示すCstd(m、t)を導出する。そして、制御部300は、式(32)を用いて、N個の鉄道車両についてのCstd(m、t)を足し合わせることで、鉄道列車の通過による単位橋桁の規格化された撓み量Tstd(t)を、第1の指標値Tstd_R(t)として取得する。
【0162】
また、制御部300は、vとLとrxとから、LをL×rxと置き換えて、式(22)、式(23)を用いて、txn、tlnを導出する。また、制御部300は、L、L、tから、式(3)、式(24)を用いて、t(m、n)を導出する。そして、制御部300は、導出したtxn、tln、t(m、n)を、式(29)、式(30)に代入することで、鉄道列車6の各鉄道車両の各軸について、関数wstd(a(m、n)、t)を導出する。
制御部300は、鉄道列車6のN個の鉄道車両について、式(31)を用いて、各車軸についてのwstd(a(m、n)、t)を足し合わせることで、鉄道車両の通過による単位橋桁の撓みを示すCstd(m、t)を導出する。そして、制御部300は、式(32)を用いて、N個の鉄道車両についてのCstd(m、t)を足し合わせることで、鉄道列車の通過による単位橋桁の撓みとして、Tstd(t)を導出する。制御部300は、このようにして、指定位置9における規格化された撓み量Tstd(t)を、第2の指標値Tstd_rx(t)として取得する。S120は、指標値取得ステップの一例である。
【0163】
S125において、制御部300は、撓み導出部306の機能により、Tstd_R(t)、及び、Tstd_rx(t)において、撓みが生じ始めて収束するまでの期間として、撓みの値が0よりも大きくなり始めた時刻tから撓みが収束して値が0に収束した時刻tまでの期間を特定する。そして、制御部300は、式(51)を用いて、第1の指標値Tstd_R(t)と、第2の指標値Tstd_rx(t)と、の比率Rrx_R(t)を導出する。制御部300は、tとtとRrx_R(t)とに基づいて、式(52)を用いて、時刻tから時刻tまでの期間における、第1の指標値Tstd_R(t)と第2の指標値Tstd_rx(t)との比率の平均値Ravgを導出する。制御部300は、時系列データu(t)にRavgを乗じた値を、指定位置9における撓み量の推定値として導出する。S125は、撓み導出ステップの一例である。
【0164】
(2)第2の実施形態
(2-1)導出システムの構成:
(2-1-1)導出システムの概要:
本実施形態の導出システム10は、第1の実施形態と同様の構成である。ただし、サーバー装置3の処理が第1の実施形態と異なる。
(2-1-2)検証実験:
発明者らは、橋梁におけるある位置の実際の撓み量T(t)を、撓みモデルで導出されるその位置の撓み量Tstd(t)に比例する撓み量と、撓みモデルで導出される撓み量と相関のないToffset(t)と、の足し合わせで近似することに着想した。すなわち、発明者らは、以下の式(53)のように、T(t)を、Tstd(t)についての一次関数として近似することに着想した。式(53)のcは、一次の係数である。ここで、撓みモデルで導出される撓み量に比例する部分は、BWIMが適用可能な単位橋桁における荷重に比例する変位である。
【0165】
【数53】
【0166】
発明者らは、観測点で計測された時系列データにローパスフィルター処理が施されたulp(t)が、以下の式(54)に示すように、撓みモデルを用いて導出された観測点の規格化された撓み量Tstd_R(t)に、基本周波数以上の成分を減衰させるローパスフィルター処理が施されたTstd_R_lp(t)を変数とする一次関数であって、一次の係数がcである一次関数として近似されると着想した。式(54)のcは、0次の係数であり、橋梁上の位置によらない変位を示す。ここでは、進入時刻tから退出時刻tまでの期間において、ulp(t)を、Tstd_lp(t)についての一次関数として近似している。
【0167】
【数54】
【0168】
式(54)の左辺から右辺を引いた値を誤差として、この誤差を最小化するように最小二乗法を用いて、c、cを導出すると、以下の式(55)、式(56)のようになる。
【0169】
【数55】
【0170】
【数56】
【0171】
式(55)、式(56)におけるtは、ulp(t)をTstd_R_lp(t)で近似する対象の既定の期間の開始時刻である。本実施形態では、tは、進入時刻tとする。また、tは、ulp(t)をTstd_R_lp(t)で近似する対象の既定の期間の終了時刻である。本実施形態では、tは、退出時刻tとする。また、式(55)、式(56)におけるKは、以下の式(57)で表される値である。
【0172】
【数57】
【0173】
式(54)の右辺に示すように、Tstd_R_lp(t)、係数c、cを用いて復元された撓み量をTEstd_R_lp(t)とおく。TEstd_R_lp(t)は、以下の式(58)に示すようになる。ここで、t<t、t>tの期間において、鉄道列車が橋梁に乗っていないため、撓みがないとして、c=0とおく。
【0174】
【数58】
【0175】
Estd_R_lp(t)と、Tstd_R_lp(t)と、の振幅比Rは、以下の式(59)のように求まる。式(59)におけるkは、撓み量ulp(t)の波形がシフトしている期間において最も早く行われた撓み量の観測が、何番目の観測であるかを示す値である。また、Nは、撓み量ulp(t)の波形がシフトしている期間において最も遅く行われた撓み量の観測が何番目の観測であるかを示す値から、kを引いた値である。なわち、Nは、ulp(t)の波形がシフトしている期間において最も遅く行われた撓み量の観測は、k+N番目の観測である。
【0176】
【数59】
【0177】
発明者らは、観測点におけるオフセットToffset_R_std(t)を、以下の式(60)に示すように、RとTstd_R_lp(t)との積であって、絶対値がcよりも大きい要素についてcに丸められた値であると仮定した。すなわち、Toffset_R_std(t)は、鉄道列車の橋梁への進入から時間の経過に応じてcに近づき、値がcに到達してからはcのまま一定となり、鉄道列車の退出の際に時間の経過に応じて0に収束する撓みの成分を示す。
【0178】
【数60】
【0179】
観測点における撓み量の推定値を、TEO_R(t)とおく。発明者らは、式(54)に表された関係から、TEO_R(t)を、以下の式(61)のように、cと撓みモデルを用いた推定値Tstd_R(t)との積と、Toffset_R_std(t)と、の和として表されると考えた。
【0180】
【数61】
【0181】
図20に、実際に橋梁の観測点で計測された撓み量の時系列データu(t)と、撓みモデルにより導出された観測点での規格化された撓み量Tstd_R(t)から式(61)により導出された観測点における撓み量の推定値TEO_R(t)と、を示す。図20のグラフの横軸は時間、縦軸は撓み量を示す。図20の実線のグラフは、TEO_R(t)を示す。また、点線のグラフは、u(t)を示す。図20を確認すると、推定値TEO_R(t)は、u(t)を精度よく復元していることが確認された。
【0182】
このことから、発明者らは、指定された位置における撓み量を導出するための以下のような方法に想到した。
ここで、撓み量を導出する位置として、橋梁上の進入端から退出端の方へ距離Lの位置が指定されているとする。ここで、r=0.05とする。ここで、撓みモデルを用いて導出された指定された位置における規格化された撓み量をTstd_rx(t)とおく。また、基本周波数以上の周波数の成分を減衰させるローパスフィルター処理が施されたTstd_rx(t)を、Tstd_rx_lp(t)とおく。
すなわち、Tstd_rx_lp(t)と係数cとの積にcを加えることで復元される撓み量TEstd_rx_lp(t)とおくと、発明者らは、Tstd_rx_lp(t)、係数c、cを用いて、TEstd_rx_lp(t)と、Tstd_rx_lp(t)と、の振幅比を式(59)と同様に求め、求めた振幅比とTstd_rx_lp(t)とから式(60)と同様にオフセットを求め、式(61)と同様にTstd_rx(t)とcとの積に求めたオフセットを加えることで、指定された位置における撓み量を導出する方法に想到した。
【0183】
以下では、発明者らが行ったこの方法の手順を説明する。
発明者らは、Tstd_rx(t)を取得し、取得したTstd_rx(t)について、基本周波数以上の成分を減衰させるローパスフィルター処理を施すことでTstd_rx_lp(t)を取得した。
そして、発明者らは、以下の式(62)を用いて、Tstd_rx_lp(t)の振幅hrxを導出した。図21に導出された振幅hrxを示す。
【0184】
【数62】
【0185】
式(62)におけるt、tは、それぞれ、橋梁に鉄道列車の通過による振動が生じている期間内における任意の期間の開始時刻、終了時刻である。本実施形態では、t、tは、それぞれ、Tstd_rx_lp(t)がシフトしている期間内に設定された期間の開始時刻、終了時刻とする。すなわち、t、tは、それぞれ、Tstd_rx_lp(t)の値が絶対値が既定の値よりも大きい値を中心とした既定の幅の範囲内に収まっている期間である。例えば、t、tは、それぞれ、通過期間t(進入時刻tから退出時刻tまでの期間)の中央の既定の幅(例えば、1秒、2秒等)の期間の開始時刻、終了時刻であってもよい。また、t、tは、それぞれ、進入時刻tから既定の期間(例えば、通過期間tの既定の割合(1割、3割等)の長さの期間)だけ経過した時刻、退出時刻toから既定の期間(例えば、通過期間tの既定の割合(1割、3割等)の長さの期間)だけ過去の時刻であってもよい。
このように、発明者らは、式(62)を用いて、tからtまでの期間におけるTstd_rx_lp(t)の平均値を、振幅hrxとして導出した。
【0186】
発明者らは、時系列データu(t)に基本周波数以上の成分を減衰させるローパスフィルター処理が施されたulp(t)と、撓みモデルを用いて導出された観測点での規格化された撓み量の推定値Tstd_R(t)に、基本周波数以上の成分を減衰させるローパスフィルター処理が施されたTstd_R_lp(t)と、に基づいて、式(55)、式(56)を用いて、係数c、cを導出した。
【0187】
Estd_rx_lp(t)の振幅について検討する。TEstd_rx_lp(t)は、式(53)に示す一次関数において、引数として、Tstd_R_lp(t)の代わりにTstd_rx_lp(t)を代入した値、すなわち、Tstd_rx_lp(t)と係数cとの積にcを加えた値である。そのため、TEstd_rx_lp(t)とTstd_rx_lp(t)との振幅比を示す時間関数Rr_rx(t)は、以下の式(63)のようになる。
【0188】
【数63】
【0189】
関数Rr_rx(t)を、図22に示す。ここで、Tstd_rx_lp(t)は、tからtまでの期間においてシフトしているため、tからtまでの期間において式(63)の右辺の分母、分子は、それぞれ、ほぼ一定値となり、Rr_rx(t)の値もほぼ一定となる。すなわち、tからtまでの期間は、Rr_rx(t)が示す各時刻の振幅比の値が絶対値が既定の値以上の値を中心とした既定の幅の範囲内に収まっている期間である。ここで、tからtまでの期間におけるRr_rx(t)の平均の振幅比を、Rr_rxとおく。振幅比Rr_rxは、以下の式(64)のように表される。
【0190】
【数64】
【0191】
また、TEstd_rx_lp(t)の振幅は、Tstd_rx_lp(t)の振幅hrxとcとの積にcを加えた値となる。よって、振幅比Rr_rxは、TEstd_rx_lp(t)の振幅とTstd_rx_lp(t)の振幅hrxとの比率として以下の式(65)のようにも表される。
【0192】
【数65】
【0193】
発明者らは、t、t、Rr_rx(t)に基づいて、式(64)を用いて、振幅比Rr_rxを導出した。ただし、hrx、c、cに基づいて、式(65)を用いることでも、振幅比Rr_rxの導出は可能である。そして、発明者らは、以下の式(66)を用いて、Tstd_rx_lp(t)に、Rr_rxを乗じた撓み量Tr_rxを導出した。
【0194】
【数66】
【0195】
また、式(65)のRr_rxを、TEstd_rx_lp(t)(Tstd_rx_lp(t)と係数cとの積にcを加えた値)と、Tstd_rx_lp(t)と、の比率に置き換えて導出される以下の式(66)を用いて撓み量Tr_rxを導出することができる。
【0196】
【数67】
【0197】
また、進入時刻tよりも前、退出時刻tよりも後においてc=0として、Tr_rxを以下の式(68)のようにおいてもよい。
【0198】
【数68】
【0199】
そして、発明者らは、式(69)を用いて、導出したTr_rxに基づいて、指定された位置における撓み量のオフセットToffset_rx(t)を導出した。すなわち、発明者らは、絶対値がcよりも大きくなる要素についてcに丸めたTr_rxを、Toffset_rx(t)として導出した。
【0200】
【数69】
【0201】
図23に、導出されたToffset_rx(t)を示す。図23のグラフの横軸は時間、縦軸は撓み量を示す。図23の実線のグラフは、Toffset_rx(t)を示す。また、点線のグラフは、Tr_rx(t)を示す。図23には、Toffset_rx(t)の値が、鉄道列車の橋梁への進入から時間の経過に応じてcに近づき、一定期間cのまま一定となり、鉄道列車の退出の際に時間の経過に応じて0に収束する様子が示されている。
そして、発明者らは、以下の式(70)を用いて、係数cとTstd_rx(t)との積に、Toffset_rx(t)を加えることで、橋梁上の指定された位置における撓み量の推定値TEO_rx(t)を導出した。図24に、導出された値TEO_rx(t)と、式(61)で導出された観測点における撓み量の推定値TEO(t)と、を示す。図24のグラフの横軸は時間、縦軸は撓み量を示す。
【0202】
【数70】
【0203】
本実施形態の導出システム10は、発明者らの想到した方法に基づいて、指定位置9における単位橋桁の撓み量を導出する。
【0204】
(2-1-3)要素の詳細:
本実施形態の計測装置1、センサー装置2は、第1の実施形態と同様である。また、本実施形態のサーバー装置3は、撓み導出部306の機能以外は、第1の実施形態と同様である。以下で、本実施形態の撓み導出部306の詳細について説明する。
【0205】
撓み導出部306は、第1の実施形態と同様に、時系列データu(t)と、第1の指標値Tstd_R(t)と、第2の指標値Tstd_rx(t)と、に基づいて、指定位置9での単位橋桁の撓み量の推定値を導出する機能である。
制御部300は、撓み導出部306の機能により、第2の指標値Tstd_rx(t)に対して、基本周波数以上の成分を減衰させるローパスフィルター処理を施すことで、ローパスフィルター処理が施された第2の指標値であるTstd_rx_lp(t)を求める。具体的には、制御部300は、Tstd_rx(t)に対してFFTを行い、FFTの結果からFFTで用いられた窓関数の影響で生じるサイドローブのピークを除いた最小の周波数に対応するピークを特定する。そして、制御部300は、特定したピークに対応する周波数を基本周波数Fとおき、式(36)を用いて区間kmfを導出する。制御部300は、導出したkmfに基づいて、Tstd(t)をTstd_rx(t)に置き換えて、Tstd_lp(t)をTstd_rx_lp(t)に置き換えて、式(37)を用いて、Tstd_rx_lp(t)を導出する。ただし、制御部300は、基本周波数以上の成分を減衰させる他のFIRフィルターをTstd_rx(t)にかけることで、Tstd_rx_lp(t)を求めてもよい。
【0206】
また、制御部300は、Tstd_R(t)に対して、基本周波数以上の成分を減衰させるローパスフィルター処理を施すことで、Tstd_R_lp(t)を求める。具体的には、制御部300は、Tstd_R(t)に対してFFTを行い、FFTの結果からFFTで用いられた窓関数の影響で生じるサイドローブのピークを除いた最小の周波数に対応するピークを特定する。そして、制御部300は、特定したピークに対応する周波数を基本周波数Fとおき、式(36)を用いて区間kmfを導出する。制御部300は、導出したkmfに基づいて、Tstd(t)をTstd_R(t)に置き換えて、Tstd_lp(t)をTstd_R_lp(t)に置き換えて、式(37)を用いて、Tstd_R_lp(t)を導出する。ただし、制御部300は、基本周波数以上の成分を減衰させる他のFIRフィルターをTstd_R(t)にかけることで、Tstd_R_lp(t)を求めてもよい。
【0207】
制御部300は、式(62)を用いて、Tstd_rx_lp(t)のtからtまでの期間における平均値である振幅hrxを導出する。t、tは、それぞれ、通過期間t(進入時刻tから退出時刻tまでの期間)の中央の既定の幅(例えば、1秒、2秒等)の期間の開始時刻、終了時刻であるとするが、他の期間であってもよい。
【0208】
制御部300は、ulp(t)と、Tstd_R_lp(t)と、t(t)と、t(t)と、に基づいて、式(55)、式(56)を用いて、係数c、cを導出する。すなわち、制御部300は、式(54)が示す、Tstd_R_lp(t)を引数とし、ulp(t)を返す一次関数の係数c、cを導出する。Tstd_R_lp(t)は、第1の指標値Tstd_R(t)に対応した量の一例である。ulp(t)は、時系列データu(t)に対応する量の一例である。制御部300は、cとcとhrxとに基づいて、式(63)を用いて、式(53)に示す一次関数に引数としてTstd_R_lp(t)の代わりにTstd_rx_lp(t)を代入した値であるTEstd_rx_lp(t)と、Tstd_rx_lp(t)と、の振幅比の関数Rr_rx(t)を導出する。すなわち、制御部300は、Tstd_rx_lp(t)と係数cとの積にcを加えることで復元される撓み量TEstd_rx_lp(t)と、Tstd_rx_lp(t)と、の振幅比の関数Rr_rx(t)を導出する。そして、制御部300は、t、t、Tstd_rx_lp(t)に基づいて、式(64)を用いて、tからtまでの期間におけるRr_rx(t)の平均の振幅比Rr_rxを導出する。式(64)を用いて導出されるRr_rxは、ローパスフィルター処理が施された第2の指標値であるTstd_rx_lp(t)を一次係数c、0次係数cの一次関数の引数として代入した値と、Tstd_rx_lp(t)と、の振幅比の値が既定の幅の範囲内に収まる期間における、この振幅比の平均値である。
ただし、制御部300は、cとcとhrxとに基づいて、式(65)を用いて、振幅比Rr_rxを導出してもよい。式(65)を用いて導出されるRr_rxは、ローパスフィルター処理が施された第2の指標値であるTstd_rx_lp(t)の値が既定の幅の範囲内となる期間における平均の振幅である。
制御部300は、式(66)を用いて、Tstd_rx_lp(t)に、Rr_rxを乗じた撓み量Tr_rxを導出する。ただし、制御部300は、Tstd_rx_lp(t)とcとcとに基づいて、式(67)を用いて撓み量Tr_rxを導出してもよい。また、制御部300は、進入時刻tよりも前、退出時刻tよりも後においてc=0として、Tr_rxを式(68)のように求めてもよい。
【0209】
そして、制御部300は、導出したTr_rxに基づいて、式(69)を用いて、指定位置9における撓み量のオフセットToffset_rx(t)を導出する。すなわち、制御部300は、絶対値がcよりも大きくなる要素についてcに丸めたTr_rxを、オフセットToffset_rx(t)として導出する。制御部300は、式(70)を用いて、係数cとTstd_rx(t)との積に、オフセットToffset_rx(t)を加えることで、橋梁上の指定された位置における撓み量の推定値TEO_rx(t)を導出する。
【0210】
以上のように本実施形態の構成により、導出システム10は、観測点と異なる指定位置9における単位橋桁の撓み量を導出できる。
【0211】
(2-2)導出処理:
本実施形態の導出システム10の処理は、第1の実施形態における図19の処理のうち、S125の処理を除いて、第1の実施形態と同様である。本実施形態の処理のうち、第1の実施形態と異なる点を説明する。
S125において、制御部300は、撓み導出部306の機能により、Tstd_rx(t)に対して、基本周波数以上の成分を減衰させるローパスフィルター処理を施すことで、Tstd_rx_lp(t)を求める。また、制御部300は、Tstd_R(t)に対して、基本周波数以上の成分を減衰させるローパスフィルター処理を施すことで、Tstd_R_lp(t)を求める。
【0212】
制御部300は、式(62)を用いて、Tstd_rx_lp(t)の振幅hrxを導出する。制御部300は、ulp(t)と、Tstd_R_lp(t)と、t(t)と、t(t)と、に基づいて、式(55)、式(56)を用いて、係数c、cを導出する。制御部300は、TEstd_rx_lp(t)すなわちcstd_rx_lp(t)+cとTstd_rx_lp(t)とに基づいて、式(63)を用いて振幅比の関数Rr_rx(t)を導出する。そして、制御部300は、式(64)を用いて、Rr_rxを導出する。
制御部300は、式(66)を用いて、Tstd_rx_lp(t)に、Rr_rxを乗じた撓み量Tr_rxを導出する。制御部300は、導出したTr_rxに基づいて、式(69)を用いて、指定位置9における撓み量のオフセットToffset_rx(t)を導出する。そして、制御部300は、式(70)を用いて、係数cとTstd_rx(t)との積に、Toffset_rx(t)を加えることで、橋梁上の指定された位置における撓み量の推定値TEO_rx(t)を導出する。
【0213】
(3)他の実施形態:
以上の実施形態は、本発明を実施するための一例であり、他にも種々の実施形態を採用可能である。以上の実施形態のように観測点における変位から指定位置の撓み量を導出する手法は、プログラムの発明、方法の発明としても実現可能である。
【0214】
さらに、サーバー装置3の機能が複数の装置によって実現される構成が採用されてもよい。サーバー装置3の各機能が複数の装置に分散されて実装されてもよい。また、サーバー装置3の各機能が他の装置に実装されるとしてもよい。例えば、計測装置1に、取得部301、環境情報取得部302、時刻導出部303、個数取得部304、指標値取得部305、撓み導出部306の各機能が実装されてもよい。サーバー装置3が複数の装置に分散して存在する構成等であってもよい。さらに、上述の実施形態は一例であり、一部の構成が省略されたり、他の構成が追加されたりする実施形態が採用され得る。
【0215】
上述の実施形態1、2では、導出システム10は、1つ以上の鉄道車両が編成された鉄道列車6が通過する橋梁の撓み量数を導出する。ただし、導出システム10は、他の編成移動体が移動する橋梁の撓み量を導出してもよい。例えば、導出システム10は、1つ以上のトロッコが連結された編成トロッコ、複数の車両が連結されたトレーラー等が通過する橋梁の撓み量を導出してもよい。また、導出システム10は、線路を支える土台等の橋梁と異なる構造物の撓み量を導出してもよい。
【0216】
また、上述の実施形態1、2では、導出システム10に含まれるセンサー装置2の個数は、2つであるとしたが、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0217】
また、上述の実施形態1、2では、制御部300は、時系列データu(t)として、加速度センサー210を介して検出された加速度から計測された変位(撓み)のデータを取得する。ただし、制御部300は、u(t)として、衝撃センサー、感圧センサー、歪計、画像測定装置、ロードセル、変位計等のセンサーを介して検出された物理量から導出された橋梁の変位のデータを取得してもよい。例えば、制御部300は、画像測定装置を介して橋梁5の観測点に配置された既定のオブジェクトの周期的な撮影を行うことで、観測点の変位を検出し、検出した変位のデータを取得してもよい。また、制御部300は、u(t)として、橋梁の変位と異なる物理量のデータを取得してもよい。例えば、制御部300は、u(t)として、画像測定装置を介して撮影された画像内における橋梁5の観測点に配置された既定のオブジェクトの変位量を示すピクセル数を取得してもよい。
【0218】
また、上述の実施形態1、2では、制御部300は、取得部301の機能により取得された時系列データu(t)に対するFFTの結果から、FFTで用いられたウィンドウ関数の影響により生じるサイドローブを除いて、最も低い周波数に対応するピークを特定し、特定したピークを基本周波数Fとして求めた。ただし、制御部300は、u(t)に対するFFTの結果に生じたノイズの影響を考慮して、基本周波数Fを求めてもよい。例えば、制御部300は、u(t)に対するFFTの結果から、FFTで用いられたウィンドウ関数の影響により生じるサイドローブを除いて、最も低い周波数に対応する既定の閾値以上のピークを特定し、特定したピークを基本周波数Fとして求めてもよい。
【0219】
また、上述の実施形態1では、制御部300は、第1の指標値Tstd_R(t)と第2の指標値Tstd_rx(t)との比率の平均値Ravgに、時系列データu(t)を乗じた値を、指定位置9における撓み量の推定値として導出する。ただし、制御部300は、他の方法で、指定位置9における撓み量の推定値を導出してもよい。
例えば、制御部300は、第1の指標値Tstd_R(t)にRavgを乗じた値を、指定位置9における撓み量の推定値として導出してもよい。
【0220】
また、制御部300は、以下のようにして、指定位置9における撓み量の推定値として導出してもよい。制御部300は、実施形態2と同様に、Tstd_R_lp(t)、係数c、cそれぞれを導出する。そして、制御部300は、Tstd_R_lp(t)とcとcとに基づいて、式(58)を用いて、TEstd_R_lp(t)を導出する。
制御部300は、ulp(t)から、既定の長さ(例えば、1秒、2秒等)の期間の撓み量のデータを抽出し、抽出したデータの平均値の絶対値が既定の閾値以上であり、且つ、抽出したデータのうちのの最大値と最小値との差分の絶対値が既定の幅以下である場合、抽出した期間を撓み量がシフトしている期間として決定する。また、制御部300は、サーバー装置3の操作部等を介して、撓み量がシフトしている期間の開始時刻と終了時刻との指定を受け付けてもよい。そして、制御部300は、撓み量がシフトしている期間における最も早い撓み量の観測の順番を、kとおく。また、制御部300は、撓み量がシフトしている期間における最も遅い撓み量の観測の順番からkを引いた値をNとおく。そして、制御部300は、kとNとTstd_R_lp(t)とTEstd_R_lp(t)とに基づいて、式(59)を用いて、振幅比Rを導出する。
制御部300は、振幅比RとTstd_R_lp(t)とに基づいて、式(60)を用いて、観測点におけるオフセットToffset_R_std(t)を導出する。制御部300は、cとTstd_R(t)とToffset_R_std(t)とに基づいて、式(61)を用いて、観測点における撓み量の推定値TEO_R(t)を導出する。そして、制御部300は、TEO_R(t)にRavgを乗じた値を、指定位置9における撓み量の推定値として導出してもよい。
【0221】
時系列データは、編成移動体の移動により構造物に生じることが想定される振動の周波数の2倍以上のデータレートで取得されたデータであればよい。
【0222】
さらに本発明は、コンピューターが実行するプログラムや、方法としても適用可能である。また、以上のようなプログラム、方法は、単独の装置として実現される場合もあれば、複数の装置が備える部品を利用して実現される場合もあり、各種の態様を含むものである。また、一部がソフトウェアであり一部がハードウェアであったりするなど、適宜、変更可能である。さらに、プログラムの記録媒体としても発明は成立する。むろん、そのプログラムの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし半導体メモリー等であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体においても全く同様に考えることができる。
【符号の説明】
【0223】
1…計測装置、2…センサー装置、3…サーバー装置、4…通信ネットワーク、5…橋梁、6…鉄道列車、7…上部構造、7a…橋床、7b…支承、7c…レール、7d…枕木、7e…バラスト、F…床版、G…主桁、8…下部構造、8a…橋脚、8b…橋台、10…導出システム、100…制御部、110…記憶部、120…通信部、200…制御部、210…加速度センサー、220…記憶部、230…通信部、300…制御部、301…取得部、302…環境情報取得部、303…時刻導出部、304…個数取得部、305…指標値取得部、306…撓み導出部、310…記憶部、320…通信部
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