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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】座席シート
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0245 20060101AFI20250304BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20250304BHJP
   B60N 2/90 20180101ALI20250304BHJP
   B60N 2/64 20060101ALI20250304BHJP
   A47C 7/62 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
A61B5/0245 C
A61B5/02 310K
B60N2/90
B60N2/64
A47C7/62 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021159800
(22)【出願日】2021-09-29
(65)【公開番号】P2023049820
(43)【公開日】2023-04-10
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】塚田 将司
(72)【発明者】
【氏名】林 和多留
(72)【発明者】
【氏名】金田 浩二
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-092912(JP,A)
【文献】特開2014-087473(JP,A)
【文献】特開2013-111113(JP,A)
【文献】特開2020-032870(JP,A)
【文献】特開2009-226025(JP,A)
【文献】特開2007-061490(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106500826(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
B60N 2/00-2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に設けられる座席シートであって、
着座者の身体側に位置する第1面、及び当該第1面に対向する第2面を有し、前記第1面を介して前記着座者の心弾動をセンシングする圧電センサと、
前記座席シートにおける座面又は背面の少なくとも一方に形成された窪みの内部に配置されており、前記圧電センサを前記第2面から支持する支持部材と、を備え、
前記支持部材の表面と前記窪みの内壁との間の少なくとも一部には、前記表面と前記内壁とが互いに接触しないための空隙が設けられており
前記空隙の少なくとも一部には、前記支持部材を支持し、且つ前記座面又は背面から前記支持部材への振動の伝達を抑制する防振材が設けられており、
前記防振材は、空気バネであり、
前記空気バネは、前記座面又は背面と接する面と対向する面において、前記支持部材を支持する、座席シート。
【請求項2】
移動体に設けられる座席シートであって、
着座者の身体側に位置する第1面、及び当該第1面に対向する第2面を有し、前記第1面を介して前記着座者の心弾動をセンシングする圧電センサと、
前記座席シートにおける座面又は背面の少なくとも一方に形成された窪みの内部に配置されており、前記圧電センサを前記第2面から支持する支持部材と、を備え、
前記支持部材の表面と前記窪みの内壁との間の少なくとも一部には、前記表面と前記内壁とが互いに接触しないための空隙が設けられており、
前記空隙の少なくとも一部には、前記支持部材を支持し、且つ前記座面又は背面から前記支持部材への振動の伝達を抑制する防振材が設けられており、
前記防振材は、粉粒体を内包するパッケージであり、
前記パッケージは、前記座面又は背面と接する面と対向する面において、前記支持部材を支持する、座席シート。
【請求項3】
前記防振材と前記支持部材との接触面、及び、前記防振材と前記座面又は背面の窪みとの接触面のうち、少なくとも何れかは複数である、請求項1又は2に記載の座席シート。
【請求項4】
前記座席シートは、
複数の前記圧電センサ及び、複数の前記圧電センサの各々に対応する、複数の前記支持部材を備え、
前記複数の支持部材は、単一の前記窪みの内部に配置されており、対応する前記圧電センサをそれぞれ支持する、請求項1からまでの何れか1項に記載の座席シート。
【請求項5】
移動体に設けられる座席シートであって、
着座者の身体側に位置する第1面、及び当該第1面に対向する第2面を有し、前記第1面を介して前記着座者の心弾動をセンシングする圧電センサと、
前記座席シートにおける座面又は背面の少なくとも一方に形成された窪みの内部に配置されており、前記圧電センサを前記第2面から支持する支持部材と、を備え、
前記支持部材の表面と前記窪みの内壁との間の少なくとも一部には、前記表面と前記内壁とが互いに接触しないための空隙が設けられており、
前記支持部材は、前記窪みの内壁の対向する位置同士に張られたネット上に配置されて、前記ネットに支持される、座席シート。
【請求項6】
前記圧電センサの前記第1面は、前記座面又は背面の表面と略平面を形成する、請求項1からまでの何れか1項に記載の座席シート。
【請求項7】
前記座面又は背面は、着座者の身体側に位置する第1面、及び当該第1面に対向する第2面を有し、
前記支持部材が配置された窪みは、前記座面又は背面の第1面に形成されており、
前記座面又は背面の第2面には、前記支持部材が配置された窪みと対向する領域の少なくとも一部に窪みが形成されている、請求項1からまでの何れか1項に記載の座席シート。
【請求項8】
前記移動体が備えるコントローラは、
前記圧電センサによるセンシング結果が、前記着座者の心弾動に関する所定条件を満たす場合、前記着座者の状態に関する情報を通知するための信号を出力する処理と、前記移動体の移動に関する処理とのうち、少なくとも何れかの処理を行う、請求項1からまでの何れか1項に記載の座席シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体に設けられる座席シートに関する。
【背景技術】
【0002】
身体電位を取得するセンサが設けられた、着座者の心拍を計測可能な座席シートが従来技術として知られている。特許文献1では、着座者に対格差がある場合であっても、安定して心拍を計測可能な車両用シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-220322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術は、主に車両等の移動体が移動する際の振動が心弾動のセンシングに影響し、心拍の計測精度が低下するという問題がある。
【0005】
本開示の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、移動体の座席シートに設けられた圧電センサによって着座者の心弾動をセンシングして心拍を計測する場合に、移動体において生じる振動によって計測精度が低下することを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示の態様1に係る座席シートは、移動体に設けられる座席シートであって、着座者の身体側に位置する第1面及び当該第1面に対向する第2面を有し、前記第1面を介して前記着座者の心弾動をセンシングする圧電センサと、前記座席シートにおける座面又は背面の少なくとも一方に形成された窪みの内部に配置されており、前記圧電センサを前記第2面から支持する支持部材と、を備え、前記支持部材の表面と前記窪みの内壁との間の少なくとも一部には、前記表面と前記内壁とが互いに接触しないための空隙が設けられている。
【0007】
上記の構成によれば、前記空隙において、座面又は背面から支持部材への振動が遮断される。これにより、移動体の座席シートに設けられたセンサによって着座者の心弾動をセンシングして心拍を計測する場合に、移動体において生じる振動によって計測精度が低下することを抑制することができる。
【0008】
本開示の態様2に係る座席シートは、上記態様1において、前記空隙の少なくとも一部には、前記支持部材を支持し、且つ前記座面又は背面から前記支持部材への振動の伝達を抑制する防振材が設けられている。
【0009】
上記の構成によれば、防振材によって支持部材を座席シートの窪みに固定したうえで、座席シートから支持部材へ伝達される振動を抑制することができる。
【0010】
本開示の態様3に係る座席シートは、上記態様2において、前記防振材は、空気バネであり、前記空気バネは、前記座面又は背面と接する面と対向する面において、前記支持部材を支持する。
【0011】
上記の構成によれば、空気バネによって支持部材を座席シートの窪みに固定したうえで、座席シートから支持部材へ伝達される振動を、主に特定の振動周波数帯において抑制することができる。
【0012】
本開示の態様4に係る座席シートは、上記態様2において、前記防振材は、粉粒体を内包するパッケージであり、前記パッケージは、前記座面又は背面と接する面と対向する面において、前記支持部材を支持する。
【0013】
上記の構成によれば、粉粒体によって支持部材を座席シートの窪みに固定したうえで、座席シートから支持部材へ伝達される振動を、主に特定の振動周波数帯において抑制することができる。
【0014】
本開示の態様5に係る座席シートは、上記態様2から4までの何れかにおいて、前記防振材と前記支持部材との接触面、及び、前記防振材と前記座面又は背面の窪みとの接触面のうち、少なくとも何れかは複数である。
【0015】
上記の構成によれば、座面又は背面から支持部材へ伝達される振動が分散される。これにより、心拍の計測精度が低下することを更に抑制することができる。
【0016】
本開示の態様6に係る座席シートは、上記態様1から5までの何れかにおいて、前記座席シートは、複数の前記圧電センサ及び、複数の前記圧電センサの各々に対応する、複数の前記支持部材を備え、前記複数の支持部材は、単一の前記窪みの内部に配置されており、対応する前記圧電センサをそれぞれ支持する。
【0017】
上記の構成によれば、座席シートにおける前記窪みの数を少なくすることによって、座席シートの構造を簡略化することに寄与する。
【0018】
本開示の態様7に係る座席シートは、上記態様1において、前記支持部材は、前記窪みの内壁の対向する位置同士に張られたネット上に配置されて、前記ネットに支持される。
【0019】
上記の構成によれば、座面又は背面における支持部材の鉛直下方向から、支持部材に伝達される振動をより低減することができる。
【0020】
本開示の態様8に係る座席シートは、上記態様1から7までの何れかにおいて、前記圧電センサの前記第1面は、前記座面又は背面の表面と略平面を形成する。
【0021】
上記の構成によれば、着座者が着座した際に感じる違和感を低減することができる。
【0022】
本開示の態様9に係る座席シートは、上記態様1から8までの何れかにおいて、前記座面又は背面は、着座者の身体側に位置する第1面、及び当該第1面に対向する第2面を有し、前記支持部材が配置された窪みは、前記座面又は背面の第1面に形成されており、前記座面又は背面の第2面には、前記支持部材が配置された窪みと対向する領域の少なくとも一部に窪みが形成されている。
【0023】
上記の構成によれば、特に支持部材が座面に配置されている場合において、支持部材に伝達される振動をより低減することができる。
【0024】
本開示の態様10に係る座席シートは、上記態様1から9までの何れかにおいて、前記移動体が備えるコントローラは、前記圧電センサによるセンシング結果が、前記着座者の心弾動に関する所定条件を満たす場合、前記着座者の状態に関する情報を通知するための信号を出力する処理と、前記移動体の移動に関する処理とのうち、少なくとも何れかの処理を行う。
【0025】
上記の構成によれば、例えば前記センシング結果が、移動体の運転者が眠気を感じていることを示す場合に、音声出力によって警告を出力する制御が可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本開示の一態様によれば、移動体の座席シートに設けられた圧電センサによって着座者の心弾動をセンシングして心拍を計測する場合に、移動体において生じる振動によって計測精度が低下することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】移動体に設けられる座席シートの外観の一例を示す斜視図である。
図2】座席シートの座面の一例を示す概念図である。
図3】圧電センサのセンシング結果を示す電気信号波形の一例を示す図である。
図4】圧電センサ周辺における座面の断面図の一例を示す図である。
図5】圧電センサ周辺における座面の断面図の一例を示す図である。
図6】圧電センサ周辺における座面の断面図の一例を示す図である。
図7】防振材に伝達される振動の振動周波数と、各種の防振材における伝達率との関係の一例を示すグラフである。
図8】座席シートの座面の一例を示す製図である。
図9】座席シートの座面の一例を示す立体図である。
図10】振動ノイズの振動周波数、振動ノイズの大きさ、及びRRI正答率の関係の一例を示す図である。
図11】RRI正答率を説明するための分布図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。図1は、移動体に設けられる座席シート1の外観の一例を示す斜視図である。座席シート1は、シートクッション11、シートバック12及びヘッドレスト13を有する。シートクッション11は、座席シート1の座面を構成し、シートバック12及びヘッドレスト13は、座席シート1の背面を構成する。
【0029】
以下、移動体は、車両であるものとして説明するが、これに限定されず、船舶又は航空機等であってもよい。また、座席シート1は、運転席に設けられる構成に限定されず、客席に設けられる構成であってもよい。
【0030】
図2は、座席シート1の座面の一例を示す概念図である。座席シート1は、座面に圧電センサ15及び防振材16を備えている。図2以降においては、圧電センサ15に接続された、センシング結果を伝送する信号線の図示を省略している。また、圧電センサ15を支持する支持部材については、図4等を参照して後述する。
【0031】
圧電センサ15は、圧力を受けると電圧を生じる圧電素子の圧電効果を利用したセンサである。圧電センサ15は、座面に着座した着座者の臀部による圧力を受け、着座者の心弾動(BCG:Ballistocardiology)をセンシングする。また、移動体が備える図示しないコントローラが、前記信号線から供給されたセンシング結果を参照して、着座者の心拍を計測する。
【0032】
防振材16は、圧電センサ15の下方に設けられており、座面から圧電センサ15に伝達される振動を、座席シート1が防振材16を備えない場合よりも低減する。座席シート1には、移動体が移動したときに、路面からの振動が伝達される。また、移動体が移動しておらずとも、移動体が備えるエンジンの振動、及び風による振動等が座席シート1に伝達され得る。以下の説明においては、座面から圧電センサ15に伝達される上述したような振動を「振動ノイズ」とも呼称する。
【0033】
図3は、圧電センサ15のセンシング結果を示す電気信号波形の一例を示す図である。図3の波形図18は、着座者の臀部における心弾動を示す電気信号波形である。図3の波形図19は、座席シート1が、本開示の振動ノイズを低減する構成を有しないと仮定した場合における振動ノイズを示す電気信号波形である。波形図18及び19において、横軸は、時間を示しており、縦軸は、心弾動又は振動ノイズの大きさを示している。既存の座席シートの構成においては、波形図18に示す振動と、波形図19に示す振動とを合わせた振動が圧電センサ15に伝達される。
【0034】
防振材16は、波形図18に示す心弾動を圧電センサ15がセンシングする場合にノイズとなる、波形図19に示す振動ノイズを低減し、圧電センサ15が心拍を計測する精度を向上させることに寄与する。
【0035】
図4は、圧電センサ15周辺における座面の断面図の一例を示す図である。図4においてパッド21とは、座席シート1のフレームを覆う、可撓性を有するクッションである。
【0036】
図4に示すように、圧電センサ15は、着座者の身体側に位置する第1面34、及び第1面34に対向する第2面35を有している。着座者の心弾動のセンシングは、圧電センサ15の第1面34を介して行われる。図4の例において、第1面34は、圧電センサ15の上面であり、第2面35は下面である。通常、パッド21の表面、及び圧電センサ15の第1面34は、座席シート1用の皮等で被覆されているが、被覆されておらずともよい。
【0037】
また、圧電センサ15の第1面34は、座面と略平面を形成するように、支持部材22が座面の窪み36の内部に配置されている。これにより、着座者が着座した際に感じる違和感を低減することができる。
【0038】
支持部材22は、圧電センサ15を第2面35から支持する。支持部材22の材質は、特定の材質に限定されず、例えばパッド21の材質と同一であってもよい。ただし、少なくとも、支持部材22において圧電センサ15に接触する上面は、高い剛性を有していることが望ましい。また、支持部材22の上面と圧電センサ15との間に高い剛性を有する板状部材が設けられていてもよい。
【0039】
また、支持部材22の表面と、座面の窪み36の内壁との間には、前記表面と前記内壁とが互いに接触しないための空隙23が設けられている。特にこの点において、本開示に係る座席シート1は、圧電センサ15が単にパッド上に配置された既存の座席シートとは構成が異なる。
【0040】
圧電センサ15に対向するように図4の構成を上方から見た場合、圧電センサ15の周辺には、溝が形成されている。空隙23によって、パッド21から支持部材22への振動が遮断される。
【0041】
また、支持部材22の下方の空隙23には、支持部材22を支持し、且つ座面から支持部材22への振動の伝達を抑制する防振材16が設けられている。ここでは、防振材16が配置された支持部材22の下方についても、パッド21でも支持部材22でもないものとして、空隙23として規定している。
【0042】
防振材16は、特定の種類に限定されず、空気バネ、金属コイルスプリング、防振ゴム、ゴムパッド、綿、又はジェル状素材等によって構成されていてもよい。或いは防振材16は、多数のビーズのような粉粒体を内包するパッケージであってもよい。粉粒体の各々の粒は、振動によって位置が微細に変化して衝撃を分散し、振動の伝達を抑制する。
【0043】
図4に例示するように、空気バネ等の防振材16は、座面と接する下面と対向する上面において、支持部材22を支持する。ただし、前記パッケージ等は、外圧が加わった場合に限り、表面に平面を形成する形状であってもよい。
【0044】
なお、防振材16が支持部材22の下方以外の空隙23に設けられる構成、及び、座席シート1が防振材16を備えず、支持部材22の下方がパッド21と一体化した構成についても本開示に含まれる。
【0045】
また、防振材16は、支持部材22の下面の全面と接触していることは必須ではなく、例えば複数の接触面によって支持部材22を支持する構成であってもよい。また、防振材16と座面の窪み36との接触面も複数であってもよい。防振材16と支持部材22との接触面、及び、防振材16と座面の窪み36との接触面のうち、少なくとも何れかが複数であることによって、座面から支持部材22へ伝達される振動が分散される。
【0046】
図5及び図6は、図4とは別の態様における、圧電センサ15周辺における座面の断面図の一例を示す図である。図5において支持部材22は、座面の窪み36の内壁の対向する位置同士に張られたネット25上に配置されて、ネット25によって支持されている。つまり、支持部材22は、ネット25に対して固定されて、座面の窪み36の内部において宙吊りとなっている。図5に示す構成によれば、座面における支持部材22の鉛直下方向から、支持部材22に伝達される振動をより低減することができる。
【0047】
また、図6の断面図では、パッド21の下面においても、上面の窪み36と対向する領域に窪み37が形成されている。なお、パッド21の下面の窪み37は、必ずしも上面の窪み36と対向する領域全体に形成されておらずともよい。即ち、図6に示す構成では、座面の着座者の身体側に位置する面を第1面38とし、第1面38に対向する面を第2面39としたとき、支持部材は第1面38の窪み36に配置され、第2面39には、第1面38の窪み36と対向する領域の少なくとも一部に窪み37が形成される。図6に示す構成によれば、座面の第2面39側から支持部材22に伝達される振動をより低減することができる。なお、座面の第1面38に窪み36が形成されておらず圧電センサ15が単にパッド21上に配置されて、且つパッド21が圧電センサ15と接する第1面38の領域と対向する第2面39の領域の少なくとも一部に窪み37が形成された構成ついても本開示に含まれる。
【0048】
図7は、防振材に伝達される振動の振動周波数と、各種の防振材における伝達率との関係の一例を示すグラフである。図7において、横軸は、前記振動周波数を示しており、縦軸は、前記伝達率を示している。ここで、伝達率とは、防振材が或る物体から伝達された振動を別の物体に伝達する割合を意味する。対象となる振動周波数に対応する伝達率が1未満である場合に当該振動周波数の振動が減衰し、防振材が防振の効果を生ずる。例えば振動材が空気バネの場合、振動周波数が2*√2未満であれば振動が増幅するが、振動周波数が2*√2を超える範囲においては振動が減衰する。
【0049】
心拍の計測においては、特に10Hz弱の振動周波数の振動ノイズを低減することによって、計測精度が大きく向上する。これは、特に前記振動周波数の振動ノイズが、計測の対象となる心弾動による振動に干渉するためである。よって、図7に例示した防振材の中では、空気バネ或いは金属コイルスプリングが使用されることが望ましい。金属コイルスプリングは、40Hz以上の振動周波数の振動を、図7に例示した防振材の中で最も低減することができる。また、防振材は、一箇所の座面の窪みに対して複数種類の防振材が組み合わせて用いられる構成であってもよい。
【0050】
図8は、座席シート1の座面の一例を示す製図である。図8の例において、座席シート1は、空隙23となる溝によって囲まれる領域に複数の圧電センサ15及び図示しない支持部材22を備える構成を複数有している。即ち、図8の座席シート1は、複数の支持部材22が単一の窪み36の内部に配置されて、対応する圧電センサ15をそれぞれ支持する構成を複数有している。
【0051】
図8に例示する構成において、移動体が備えるコントローラは、複数の圧電センサ15のセンシング結果を参照して着座者の心拍を計測してもよい。例えばコントローラは、複数の圧電センサ15の各々においてセンシングされた心弾動の回数の平均値を用いて、着座者の心拍を算出してもよい。また、座面の窪み36の形状は、特定の形状に限定されず、座面に正対して見たときに、例えば矩形となる形状であってもよいし、楕円形となる形状であってもよい。
【0052】
図9の立体図31及び32は、座席シート1の座面の一例をしめしている。立体図31は、座面の上面である第1面38を示しており、図8の製図に対応する。立体図32は、座面の下面である第2面39を示しており、図6の断面図に対応する。
【0053】
なお、圧電センサ15及び支持部材22は、座席シート1の座面に設けられる構成に限定されず、背面に設けられる構成であってもよいし、座面と背面との双方に設けられる構成であってもよい。別の側面から言えば、本開示に係る座席シート1の座面に関する説明においては、「座面」を「背面」或いは「座面又は背面」と読み替えて適用してもよい。
【0054】
また、圧電センサ15が座席シート1の背面に設けられる構成において、防振材16は、支持部材22の鉛直下方向と、着座者の身体側に位置する面とは対向する面方向との一方又は双方に設けられていてもよい。
【0055】
また、座席シート1が座面と背面との双方を有する構成は必須ではなく、一方のみを有する構成であってもよい。また、座席シート1と同様に、図4に例示する構成を有するベッド又はマット等についても本開示に含まれる。
【0056】
図10は、振動ノイズの振動周波数、振動ノイズの大きさ、及びRRI正答率の関係の一例を示す図である。図10の横軸は、振動ノイズの振動周波数を示しており、縦軸は、振動ノイズの大きさを示している。また、図11は、RRI正答率を説明するための分布図の一例である。図11の横軸は、所定期間における心弾動のRRI(R-R Interval)の平均値(平均RRI)に対する各RRIの比の値を示しており、縦軸は、それぞれの比の値となった回数を示している。別の側面から言えば、図11は「rri/mean(rri)」の分布を示している。ここで、分母の「mean(rri)」は、所定期間におけるRRIの平均値を意味しており、分子の「rri」は、対象となる各RRIの値を意味している。また、上述した所定時間は、特定の時間に限定されず、例えば5分であってもよいし、30分であってもよい。
【0057】
前記比の値が1付近となった場合、対象となるRRIの値が平均値に近いため信頼性が高く、前記比の値が1と大きく異なる場合、対象となるRRIの値の信頼性が低い。心拍の計測においては、信頼性が低い値のRRIの値を除外又は調整することによって、計測精度を向上させることが可能となる。
【0058】
RRI正答率とは、所定期間に計測されたRRIについて、前記比の値が所定範囲に収まる割合を意味する。通常、前記所定範囲は、前記比の値の1を中心とする一定範囲が規定される。また、図11における枠27は、前記所定範囲の一例であり、前記比の値が0.95~1.05である範囲を示している。
【0059】
例えば図11において、RRI正答率が50%であるとは、所定期間に計測されたRRIの50%の回数に対応する前記比の値が枠27の範囲に収まることを意味している。
【0060】
また、コントローラは、着座者の心拍を算出するときに、対象となるRRIの値が前記所定範囲内であれば、当該RRIの値をそのまま使用し、対象となるRRIが前記所定範囲外であれば、直近に計測されたRRIの値を使用してもよい。
【0061】
なお、別の態様として、コントローラがRRI正答率を算出する場合に用いる比の値は、直近に計測されたRRIに対する、今回計測されたRRIの比の値が用いられる構成であってもよい。当該構成においては、図11に相当する分布図が「rri(k)/rri(k-1)」の分布を示す。ここで、分母の「rri(k-1)」は、或るk回目の直近であるk-1回目に計測されたRRIの値を意味しており、分子の「rri(k)」は、今回であるk回目に計測されたRRIの値を意味している。
【0062】
また、コントローラは、心拍の算出に用いるRRIの値として、今回のRRIの計測値y(k)と、直近の推定値x(k-1)とを用いて、下記式によって算出した新たな推定値x(k)を用いてもよい。
x(k)=w*y(k)+(1-w)*x(k-1)
ここで、wは、分布図における分散値等に応じた重み係数であって、0≦w≦1の値を取り得る。また、推定値xの基となる初期値x(0)の値は、コントローラが例えばケプストラム解析によって算出してもよい。また、コントローラは、初期値x(0)の値を、移動体の主電源が起動する度にリセットしてもよいし、所定期間毎にリセットしてもよい。
【0063】
図10に示すように、何れの周波数帯においても、圧電センサ15に伝達される振動ノイズを低減することによって、RRI正答率が上昇する。即ち、コントローラに入力される電位であって、振動ノイズに対応する圧電センサ15の電位を低減させることによって、心弾動の電気信号波形の分離が容易となり、RRIの特徴量の抽出精度が向上して心拍の計測精度が改善する。
【0064】
また、コントローラは、圧電センサ15によるセンシング結果に基づいて算出した着座者の心拍が、着座者に異常が生じていることを示している場合、そのことを着座者へ通知する処理等の所定処理を行う。広義には、コントローラは、圧電センサ15によるセンシング結果が、着座者の心弾動に関する所定条件を満たす場合に前記所定処理を行う。ここで、圧電センサ15によるセンシング結果が前記所定条件を満たす場合とは、例えば所定時間における着座者の心拍の回数が、下限値以下若しくは上限値以上である場合、又は、基準値以上変化した場合等であってもよい。
【0065】
また、コントローラは、前記所定処理として、着座者の状態に関する情報を通知するための信号の出力を伴う、以下に例示する処理を行ってもよい。
・着座者に眠気、興奮又は疲労等が生じていることを通知するために、音声、映像、光又はテキストを出力する処理
・着座者に眠気、興奮又は疲労等が生じていることを通知するために、制御信号を出力して、座席シート、又は移動体が備えるその他の可動部分を稼働させる処理
・着座者に異常が生じたことを示す情報を、電波通信等によって所定の連絡先へ送信する処理
また、コントローラは、前記所定処理として、移動体の移動に関する、以下に例示する処理を行ってもよい。
・移動体を路肩等に停止させる処理
・移動体のスピードを低下させる処理
・移動体を病院又は自宅等の所定場所に移動させる処理
また、コントローラは、着座者の心弾動に関する所定条件が満たされた場合、前記所定処理として、着座者の状態に関する情報を通知するための信号を出力する上述した処理と、移動体の移動に関する上述した処理との双方を行ってもよい。
【0066】
〔ソフトウェアによる実現例〕
本開示に係る移動体が備えるコントローラ(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロックとしてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0067】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0068】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0069】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本開示の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0070】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0071】
本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 座席シート
15 圧電センサ
16 防振材
22 支持部材
23 空隙
25 ネット
34 圧電センサの第1面
35 圧電センサの第2面
36、37 窪み
38 座面の第1面
39 座面の第2面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11