(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】変圧器負荷予測システム、及び変圧器負荷予測方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20250304BHJP
【FI】
H02J3/00 130
H02J3/00 170
(21)【出願番号】P 2021173486
(22)【出願日】2021-10-22
【審査請求日】2024-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 秀央
(72)【発明者】
【氏名】石通 孝行
【審査官】新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-205859(JP,A)
【文献】特開2020-141478(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3968247(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサ及び記憶装置を有する情報処理装置を用いて構成され、
変圧器から電力供給を受ける需要家の夫々に設けられている主開閉器の容量別の台数を
説明変数とし、前記変圧器の最大電力を目的変数とするモデルである、負荷予測モデルを
生成し、
最大電力の予測の対象となる変圧器である予測対象変圧器から電力供給を受けている各
需要家に設けられている主開閉器の容量別の台数を説明変数として前記負荷予測モデルに
入力することにより前記目的変数を求め、求めた前記目的変数を出力する、
変圧器負荷予測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の変圧器負荷予測システムであって、
前記予測対象変圧器から電力供給を受けている需要家に設けられている主開閉器にその
容量が不明な主開閉器が存在する場合、当該容量が不明な主開閉器について、当該主開閉
器が設けられている需要家の電力供給の契約内容に基づき容量を特定する、
変圧器負荷予測システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の変圧器負荷予測システムであって、
前記負荷予測モデルを、単回帰分析、重回帰分析、DNN(Deep Neural Network)、
及びサポートベクタマシン(SVM(Support Vector Machine))のうちのいずれかによ
り生成する
変圧器負荷予測システム。
【請求項4】
請求項3に記載の変圧器負荷予測システムであって、
前記重回帰分析において、説明変数として、供給方式(単相3線式100V)の契約数
、従量電灯Bの契約電力合計、及び給湯器有の契約数のうちの少なくともいずれかを更に
用いる、
変圧器負荷予測システム。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の変圧器負荷予測システムであって、
変圧器により電力供給を受ける主開閉器の台数と変圧器の最大電力の実測値との関係を
記憶し、
前記負荷予測モデルに基づき、主開閉器の台数と変圧器の最大電力の予測値との関係を
求め、
前記主開閉器の台数と、前記予測値と前記実測値の差分との関係を示す近似式を生成し
、
生成した前記近似式を用いて求めた前記差分を示す情報を出力する、
変圧器負荷予測システム。
【請求項6】
プロセッサ及び記憶装置を有する情報処理装置が、
変圧器から電力供給を受ける需要家の夫々に設けられている主開閉器の容量別の台数を
説明変数とし、前記変圧器の最大電力を目的変数とするモデルである、負荷予測モデルを
生成するステップと、
最大電力の予測の対象となる変圧器である予測対象変圧器から電力供給を受けている各
需要家に設けられている主開閉器の容量別の台数を説明変数として前記負荷予測モデルに
入力することにより前記目的変数を求め、求めた前記目的変数を出力するステップと、
を実行する、変圧器負荷予測方法。
【請求項7】
請求項6に記載の変圧器負荷予測方法であって、
前記予測対象変圧器から電力供給を受けている需要家に設けられている主開閉器にその
容量が不明な主開閉器が存在する場合、当該容量が不明な主開閉器について、当該主開閉
器が設けられている需要家の電力供給の契約内容に基づき容量を特定するステップ
を更に実行する、変圧器負荷予測方法。
【請求項8】
請求項6に記載の変圧器負荷予測方法であって、
前記情報処理装置が、
変圧器により電力供給を受ける主開閉器の台数と変圧器の最大電力の実測値との関係を
記憶するステップと、
前記負荷予測モデルに基づき、主開閉器の台数と変圧器の最大電力の予測値との関係を
求めるステップと、
前記主開閉器の台数と、前記予測値と前記実測値の差分との関係を示す近似式を生成す
るステップと、
生成した前記近似式を用いて求めた前記差分を示す情報を出力するステップと、
を実行する、変圧器負荷予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器負荷予測システム、及び変圧器負荷予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、既設の計器を用いて精度の高い最大負荷の推定を行うことを目的とし
て構成された変圧器の負荷推定方法について記載されている。上記方法では、個々の変圧
器に接続される複数の需要家の契約容量と電気使用量を取得し、契約容量と電気使用量か
ら契約容量と推定使用量との関係を示す使用量推定関数を導出し、各々の電流計付き変圧
器の最大負荷を推定した負荷推定値を算出し、各々の電流計付き変圧器において測定した
最大負荷である負荷実測値を取得し、負荷推定値と負荷実測値との誤差を示す負荷誤差を
算出し、使用量推定関数を用いて求めた推定使用量と電気使用量との誤差を示す使用量誤
差を算出し、負荷誤差と使用量誤差からこれらの関係を示す誤差関数を導出し、誤差関数
を用いて負荷推定値を補正する。
【0003】
特許文献2には、低圧需要家の自動検針測定値を活用して需要家負荷電流に適合した柱
上変圧器の容量を算出することを目的として構成された変圧器の設計容量算出方法につい
て記載されている。上記方法では、低圧需要家を契約形態で分類し、その電力使用量をデ
ータベース化し電力使用量の標準パターンを作成し、当該標準パターンを過去にわたりデ
ータ蓄積することにより、過去から現在までの電力使用量の増加値を求める。そして、柱
上変圧器の容量を求める場合は必要とする低圧需要家契約形態と軒数を調査し、上記の電
力使用量データベースから契約形態負荷パターンを抽出し各時間帯に対し合計電力を算出
し、過去から現在までの電力使用量の増加値を乗じることにより柱上変圧器の容量を算定
する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-205859号公報
【文献】特開2010-20653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2では、変圧器の必要容量を契約種別(契約形態)や深夜電力
に基づき求めている。しかし今後、電力業界における分社化が進むと、電気事業者によっ
ては需要家の売契約種別に関する情報を取得できなくなり、変圧器の容量の算定が困難に
なることが予想される。
【0006】
また、従来より、変圧器の容量の算出は、契約種別毎の戸数や電流等から契約種別毎の
最大電力を求め、それらを単純に積み上げていく方式で行われているが、こうした方法で
は必ずしも算出される最大電力の精度が十分でなく、現場に必要以上の容量の変圧器が設
置されている場合も多いと考えられる。
【0007】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、変圧器の最大電力を精度よく求
めることが可能な、変圧器負荷予測システム、及び変圧器負荷予測方法を提供することを
目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明のうちの一つは、変圧器負荷予測システムであって、
プロセッサ及び記憶装置を有する情報処理装置を用いて構成され、変圧器から電力供給を
受ける需要家の夫々に設けられている主開閉器の容量別の台数を説明変数とし、前記変圧
器の最大電力を目的変数とするモデルである、負荷予測モデルを生成し、最大電力の予測
の対象となる変圧器である予測対象変圧器から電力供給を受けている各需要家に設けられ
ている主開閉器の容量別の台数を説明変数として前記負荷予測モデルに入力することによ
り前記目的変数を求め、求めた前記目的変数を出力することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、予測対象変圧器について予測される最大電力を精度よく求めることが
できる。そのため、過負荷を確実に防ぐのに必要とされる容量の変圧器を適切に選択する
ことができる。また、不必要に過大な容量の変圧器が現場に設置されるのを防ぐことがで
き、変圧器の運用(新設、取替等)を効率よく行うことができる。
【0010】
本発明の他の一つは、上記変圧器負荷予測システムであって、前記予測対象変圧器から
電力供給を受けている需要家に設けられている主開閉器にその容量が不明な主開閉器が存
在する場合、当該容量が不明な主開閉器について、当該主開閉器が設けられている需要家
の電力供給の契約内容に基づき容量を特定することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、予測対象変圧器から電力供給を受けている需要家に設けられている主
開閉器にその容量が不明な主開閉器が存在する場合でも、予測対象変圧器について予測さ
れる最大電力を精度よく求めることができる。
【0012】
本発明の他の一つは、上記変圧器負荷予測システムであって、前記負荷予測モデルを、
単回帰分析、重回帰分析、DNN(Deep Neural Network)、及びサポートベクタマシン
(SVM(Support Vector Machine))のうちのいずれかにより生成することを特徴とす
る。
【0013】
本発明の他の一つは、上記変圧器負荷予測システムであって、前記重回帰分析において
、説明変数として、供給方式(単相3線式100V)の契約数、従量電灯Bの契約電力合
計、及び給湯器有の契約数のうちの少なくともいずれかを更に用いることを特徴とする。
【0014】
これらの説明変数を更に用いて重回帰分析を行うことで、最大電力の予測精度をより高
めることができる。
【0015】
本発明の他の一つは、上記変圧器負荷予測システムであって、変圧器により電力供給を
受ける主開閉器の台数と変圧器の最大電力の実測値との関係を記憶し、前記負荷予測モデ
ルに基づき、主開閉器の台数と変圧器の最大電力の予測値との関係を求め、前記主開閉器
の台数と、前記予測値と前記実測値の差分との関係を示す近似式を生成し、生成した前記
近似式を用いて求めた前記差分を示す情報を出力することを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、裕度(余裕度)の見積指標となる予測値と実測値の差分を精度よく求
めることができる。このため、予測した最大電力と求めた裕度とに基づき、予測対象変圧
器について必要とされる変圧器容量を精度よく決定することができる。
【0017】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、
及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、変圧器の最大電力を精度よく求めることができ、現場に設置する変圧
器として適切な容量のものを選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態の変圧器負荷予測システムの概略的な構成を示す図である。
【
図2A】変圧器、スマートメータ、主開閉器、及び負荷の関係を説明する図である。
【
図2B】変圧器の容量の決定方法を説明するグラフである。
【
図3】変圧器負荷予測装置が備える主な機能を示す図である。
【
図4】変圧器負荷予測装置のハードウェア構成の一例である。
【
図5】負荷予測モデルの例(モデルa~モデルd)である。
【
図6A】主開閉器の容量が30Aの場合の単回帰分析の例を示す図である。
【
図6B】主開閉器の容量が60Aの場合の単回帰分析の例を示す図である。
【
図6C】主開閉器の容量が100Aの場合の単回帰分析の例を示す図である。
【
図6D】主開閉器の容量が200Aの場合の単回帰分析の例を示す図である。
【
図7】説明変数の目的変数(最大電力)への影響度分析した結果を示すグラフである。
【
図9】モデル学習処理を説明するシステムフロー図である。
【
図11】負荷予測処理を説明するシステムフロー図である。
【
図13A】実測値に基づく、契約数と最大電力の関係を示すグラフである。
【
図13B】従来式により契約数と最大電力の関係を予測した結果を示すグラフである。
【
図13C】モデルaにより契約数と最大電力の関係を予測した結果を示すグラフである。
【
図13D】モデルbにより契約数と最大電力の関係を予測した結果を示すグラフである。
【
図13E】モデルcにより契約数と最大電力の関係を予測した結果を示すグラフである。
【
図13F】モデルdにより契約数と最大電力の関係を予測した結果を示すグラフである。
【
図13G】決定係数R
2を比較し易く示した表である。
【
図13H】モデルbにより契約数と最大電力の関係を予測した結果を示すグラフである。
【
図13I】モデルbの各説明変数の係数及び切片を示した表である。
【
図13J】モデルdにより契約数と最大電力の関係を予測した結果を示すグラフである。
【
図13K】モデルdの各説明変数の係数及び切片を示した表である。
【
図14A】モデルbについて、契約数毎に予測値と実測値の差分をプロットしたグラフであり、予測値の95%が入る区間の上限値を示したグラフである。
【
図14B】モデルdについて、契約数毎に予測値と実測値の差分をプロットしたグラフであり、予測値の95%が入る区間の上限値を示したグラフである。
【
図14C】モデルbについて、契約数毎に予測値と実測値の差分をプロットしたグラフであり、予測値の99.7%が入る区間の上限値を示したグラフである。
【
図14D】モデルdついて、契約数毎に予測値と実測値の差分をプロットしたグラフであり、予測値の99.7%が入る区間の上限値を示したグラフである。
【
図15A】
図14Aに基づき予測値の95%が入る区間の上限値を近似式で近似した結果を示すグラフである。
【
図15B】
図15Aの各近似式のパラメータ、予測値が実測値を上回る数の割合、上記差分の平均値を示す表である。
【
図15C】
図14Bに基づき予測値の95%が入る区間の上限値を近似式で近似した結果を示すグラフである。
【
図15D】
図15Cの各近似式のパラメータ、予測値が実測値を上回る数の割合、上記差分の平均値を示す表である。の平均値を示す表である。
【
図15E】
図14Cに基づき予測値の99.7%が入る区間の上限値を近似式で近似した結果を示すグラフである。
【
図15F】
図15Eの各近似式のパラメータ、予測値が実測値を上回る数の割合、上記差分の平均値を示す表である。
【
図15G】
図14Dに基づき予測値の99.7%が入る区間の上限値を近似式で近似した結果を示すグラフである。
【
図15H】
図15Gの各近似式のパラメータ、予測値が実測値を上回る数の割合、上記差分の平均値を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、一実施形態につき図面を参照しつつ説明する。以下の説明において、同一の又は
類似する構成について共通の符号を付して説明を省略することがある。
【0021】
図1に、一実施形態として説明する情報処理システム(以下、「変圧器負荷予測システ
ム1」と称する。)の概略的な構成を示している。同図に示すように、変圧器負荷予測シ
ステム1は、電力会社等の電気事業者のシステムセンタ3に設けられている、電力情報管
理装置4及び変圧器負荷予測装置(以下、「負荷予測装置100」と称する。)と、変圧
器を介して電力の供給を受ける需要家2に設けられている多数のスマートメータSMと、
を含む。システムセンタ3は、例えば、スマートグリッドのコントロールセンタや、電力
事業者における中央指令所等である。また、需要家2は、例えば、一般家庭、公共施設、
オフィスビル、各種公共施設、工場、インフラ施設である。
【0022】
電力情報管理装置4は、情報処理装置(コンピュータ)を用いて構成され、各需要家2
に設けられたスマートメータSMと通信ネットワーク5を介して無線通信又は有線通信に
より通信可能に接続されている。通信ネットワーク5は、例えば、WAN(Wide Area Ne
twork)、コンセントレータ、920Hz帯通信網、PLC(Power Line Communication
)等の通信基盤を用いて構成される。
【0023】
スマートメータSMは、送配電系統から夫々が設置されている需要家2に供給される電
力の計測値を、電力情報管理装置4に通信ネットワーク5を介して随時(30分毎等)送
信する。電力情報管理装置4は、スマートメータSMから送られてくる各種の計測値(電
圧値、電流値、有効電力、無効電力、力率、温度等)に基づき、需要家2における電力供
給の異常の有無を監視するための情報を提供する。
【0024】
負荷予測装置100は、情報処理装置を用いて構成され、システムセンタ3に設けられ
たLAN(Local Area Network)等の通信手段、もしくは通信ネットワーク5を介して、
電力情報管理装置4と通信可能に接続されている。負荷予測装置100は、電力情報管理
装置4から提供される、スマートメータSMから取得した計測値や、需要家2に関する情
報を用い、各需要家2に電力を供給している変圧器の最大電力(最大負荷)を予測する。
また、負荷予測装置100は、変圧器が過負荷となるのを防ぐために必要とされる裕度(
余裕度)を求め、求めた裕度を最大電力(最大負荷)とともにユーザに提示する。ユーザ
は、負荷予測装置100が提示する最大電力や裕度に基づき、現場に設置する変圧器とし
て、過負荷を防ぎ、かつ、過剰にならない程度の適切な容量の変圧器を効率よく選択し決
定することができる。
【0025】
図2Aは、需要家2に電力を供給する変圧器7(柱上変圧器、地中変圧器等)と、需要
家2に設けられている機器の関係を説明する図である。同図に示すように、変圧器7は、
配電系統8から送られてくる電力を変圧し、配下(当該変圧器7のバンク)に属する一つ
以上の需要家2に供給する。変圧器7には、引込線及び配電線(単相2線式、単相3線式
、三相3線式等)を介してスマートメータSMが接続し、スマートメータSMと負荷Lと
の間に主開閉器MS(ブレーカ)が設けられている。変圧器7の適正容量としては、過負
荷を防ぎ、かつ、過剰とならない程度の適切な容量のものが選択され、例えば、容量の異
なる複数種の変圧器7(5kW、10kW、20kW、30kW、50kW等)の中から
、予測される最大電力(最大負荷)に裕度を加算した値以上であり、かつ、最も容量の小
さいものが選択される。主開閉器MSの容量(30A、40A、50A、60A、75A
、100A、125A、150A等)は、需要家2と電力会社等の電力の供給側との間の
電力供給契約又は想定される最大負荷により決定される。
【0026】
図2Bは、変圧器の容量の決定方法を説明する図である。ここでは一例として
図2Aに
示す変圧器7Aの容量の決定方法について説明する。同図に示すグラフの横軸は時刻(時
間)であり、縦軸は電力である。実線P,Q,Rは、夫々、変圧器7Aから電力供給を受
けている3つの負荷L(P,Q,R)の消費電力(スマートメータSMの計測値)であり
、破線Gは、3つの負荷L(P,Q,R)の消費電力の合計値である。この例では、同グ
ラフに示す期間中、12:00前後における合計値が最大電力(7.8kW)となってい
る。変圧器7Aの容量としては、7.8kW以上の変圧器を選択する必要があり、例えば
、10kWの容量のものが選択される。
【0027】
図3は、負荷予測装置100が備える主な機能を示すブロック図である。同図に示すよ
うに、負荷予測装置100は、記憶部110、需要家情報管理部120、計測値取得部1
30、学習データ生成部135、モデル学習部140、予測対象変圧器情報取得部145
、負荷予測部150、裕度算出部155、及び結果提示部160の各機能を備える。
【0028】
上記機能のうち、記憶部110は、需要家情報111、計測値情報112、学習データ
113、負荷予測モデル114、予測対象変圧器情報115、負荷予測結果116、及び
裕度算出結果117の各情報(データ)を記憶する。
【0029】
需要家情報111は、各需要家2に関する情報(以下、「需要家情報」と称する。)を
含む。需要家情報111は、ユーザインタフェースを介してユーザから取得する他、電力
会社等の電気事業者において運用されている各種システム(配電制御システムや顧客管理
システム等)から取得される。需要家情報111は、各需要家2の最新の需要家情報と過
去における需要家情報とを含む。尚、需要家情報の具体例については後述する。
【0030】
計測値情報112は、各需要家2についてスマートメータSMよって計測された所定時
間毎の電力値(電力情報管理装置4が各需要家2のスマートメータSMから通信ネットワ
ーク5を介して取得した計測値の時系列データ(計測値に時間情報が対応づけられたデー
タ)。以下、「計測値情報」と称する。)を含む。計測値情報112は、最新に取得され
た情報と過去に取得された情報を含む。計測値情報112において、各計測値情報はその
取得元のスマートメータSMの識別子(後述する計器ID)と対応づけて管理される。計
測値情報112の実体は、例えば、ファイルシステムにより管理されるファイル、データ
ベースのテーブル、ネットワークストレージの格納領域(例えば、URL(Uniform Reso
urce Locator)で特定される格納領域)等に管理される。
【0031】
学習データ113は、後述する負荷予測モデル114の学習に用いる学習データ(教師
データ)を含む。学習データ113は、計測値情報112、もしくは計測値情報112の
欠損情報を補間することにより得られる情報により生成される。学習データ113の詳細
については後述する。
【0032】
負荷予測モデル114は、その配下にある(電力供給を受ける(バンクに存在する))
需要家2における消費電力の最大値である最大電力の予測対象となる変圧器(以下、「予
測対象変圧器」と称する。)に関する情報(以下、「予測対象変圧器情報」と称する。)
が説明変数として入力されると、上記最大電力を目的変数として出力する機械学習モデル
である。負荷予測モデル114の実体は、例えば、調整可能なパラメータを含んだ、多項
式、行列式、数式、ベクトル等である。負荷予測モデル114の詳細については後述する
。
【0033】
予測対象変圧器情報115は、負荷予測モデル114に説明変数として入力される予測
対象変圧器情報を含む。予測対象変圧器情報は、例えば、負荷予測装置100が需要家情
報111や計測値情報112に基づき自動生成されるか、もしくは、ユーザがユーザイン
タフェースを介して入力する。
【0034】
負荷予測結果116は、上記の説明変数を負荷予測モデル114に入力することにより
負荷予測モデル114が出力する目的変数(以下、「負荷予測結果」と称する。)を含む
。
【0035】
裕度算出結果117は、裕度算出部155によって求められた裕度を含む。
【0036】
図3に示す機能のうち、需要家情報管理部120は、需要家情報111の管理(需要家
情報の取得、編集、登録、削除)を行う。需要家情報管理部120は、例えば、需要家情
報について上記管理を行うためのユーザインタフェースを提供する。
【0037】
計測値取得部130は、電力情報管理装置4から所定の時間間隔(30分毎等)で送ら
れてくる計測値情報を取得し、取得した計測値情報を計測値情報112として管理する。
【0038】
学習データ生成部135は、需要家情報111と計測値情報112に基づき学習データ
113(教師データ)を生成する。
【0039】
予測対象変圧器情報取得部145は、予測対象変圧器情報を取得する。
【0040】
負荷予測部150は、予測対象変圧器情報を説明変数として負荷予測モデル114に入
力することにより予測対象変圧器の未来の最大電力を求める。負荷予測部150が求めた
最大電力は、記憶部110が負荷予測結果116として記憶する。
【0041】
裕度算出部155は、負荷予測部150により求められた最大電力の予測値と最大電力
の実測値(計測値)に基づき裕度を求める。裕度算出部155が求めた裕度は、記憶部1
10が裕度算出結果117として記憶する。裕度の算出方法の詳細については後述する。
【0042】
結果提示部160は、負荷予測結果116や裕度算出結果117を、ユーザインタフェ
ースを介してユーザに提示する。
【0043】
図4に、負荷予測装置100の実現に用いる情報処理装置のハードウェア構成の一例を
示す。例示する情報処理装置10は、プロセッサ11、主記憶装置12、補助記憶装置1
3、入力装置14、出力装置15、及び通信装置16を備える。情報処理装置10の具体
例として、例えば、パーソナルコンピュータ、オフィスコンピュータ、各種サーバ装置、
汎用機等がある。情報処理装置10は、その全部又は一部が、例えば、クラウドシステム
によって提供される仮想サーバのように、仮想化技術やプロセス空間分離技術等を用いて
提供される仮想的な情報処理資源を用いて実現されるものであってもよい。負荷予測装置
100は、通信可能に接続された複数の情報処理装置10を用いて実現してもよい。
【0044】
同図において、プロセッサ11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、M
PU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Fie
ld Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit
)、AI(Artificial Intelligence)チップ等を用いて構成されている。
【0045】
主記憶装置12は、プログラムやデータを記憶する装置であり、例えば、ROM(Read
Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、不揮発性メモリ(NVRAM(Non
Volatile RAM))等である。
【0046】
補助記憶装置13は、例えば、SSD(Solid State Drive)、ハードディスクドライ
ブ、光学式記憶装置(CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)等)、
ストレージシステム、ICカード、SDカードや光学式記録媒体等の記録媒体の読取/書
込装置、クラウドサーバの記憶領域等である。補助記憶装置13には、記録媒体の読取装
置や通信装置16を介してプログラムやデータを読み込むことができる。補助記憶装置1
3に格納(記憶)されているプログラムやデータは主記憶装置12に随時読み込まれる。
【0047】
入力装置14は、外部からの入力を受け付けるインタフェースであり、例えば、キーボ
ード、マウス、タッチパネル、カードリーダ、ペン入力方式のタブレット、音声入力装置
等である。
【0048】
出力装置15は、処理経過や処理結果等の各種情報を出力するインタフェースである。
出力装置15は、例えば、上記の各種情報を可視化する表示装置(LCD(Liquid Cryst
al Display)、グラフィックカード等)、上記の各種情報を音声化する装置(音声出力装
置(スピーカ等))、上記の各種情報を文字化する装置(印字装置等)である。尚、例え
ば、情報処理装置10が通信装置16を介して他の装置との間で情報の入力や出力を行う
構成としてもよい。
【0049】
入力装置14及び出力装置15は、ユーザとの間で情報の受け付けや情報の提示を行う
ユーザインタフェースを構成する。
【0050】
通信装置16は、通信ネットワーク5等の通信基盤を介した他の装置との間での通信(
有線通信又は無線通信)を実現する装置であり、例えば、NIC(Network Interface Ca
rd)、無線通信モジュール、USBモジュール等を用いて構成される。
【0051】
情報処理装置10には、例えば、オペレーティングシステム、ファイルシステム、DB
MS(DataBase Management System)(リレーショナルデータベース、NoSQL等)、
KVS(Key-Value Store)等が導入されていてもよい。
【0052】
負荷予測装置100が備える機能は、夫々を構成する情報処理装置10のプロセッサ1
1が、夫々の主記憶装置12に格納されているプログラムを読み出して実行することによ
り、もしくは、負荷予測装置100を構成するハードウェア(FPGA、ASIC、AI
チップ等)自体の機能によって実現される。負荷予測装置100は、前述した各種の情報
(データ)を、例えば、データベースのテーブルやファイルシステムが管理するファイル
として記憶する。
【0053】
=負荷予測モデル=
本実施形態では、需要家2に設けられている主開閉器MSの容量を取得できない場合を
考慮して、負荷予測モデルを次式で表現する。
[数1]
負荷予測モデル = 最大電力(主開閉器容量が不明な需要家)
+最大電力(主開閉器容量が判明している需要家)
・・・式1
【0054】
ここで上式の第1項の最大電力は、従来の最大電力の計算式(以下、「従来式」と称す
る。)を用いることができる他、主開閉器容量を実際の(把握されている)契約内容(契
約種別等)に置き換えることにより、単回帰分析及び重回帰分析によって求めることも可
能である。一方、上式の第2項については、契約内容(契約種別等)が不明なため従来式
を用いることができず、単回帰分析及び重回帰分析のいずれかにより求める必要がある。
【0055】
そこで、本実施形態では、上式の第1項と第2項の組合せである、
図5に示す4つのモ
デル(モデルa~モデルd)の夫々について検討を行った。
【0056】
<従来式>
モデルa及びモデルcに用いる従来式の一例を次式に示す。
[数2]
P1 = a + b+ c + d ・・・ 式2
上式において、P1は想定ピーク負荷、aは定額相当分(Σ(kW))、bは従量電灯A相当分
(Σ(電流値×戸数×電圧))、cはTOU相当分(Σ(電流値×1.5×戸数×電圧))、dは
従量電灯B相当分(Σ(kW×0.7))である。Σは各需要家(契約)についての総和の意味
である。
【0057】
上式の適用に際しては、例えば、従量電灯Aの需要家2の1戸あたりの電流値を過去の
計測値に基づき同じバンク内の従量電灯Aの戸数(1戸刻み)に応じた想定値とする。本
例では、時間帯別電灯契約等については、想定した電流値を1.5倍し、従量電灯Bについ
ては契約電力(KVA)×0.7としている。
【0058】
<単回帰分析>
モデルaの第1項又はモデルbの単回帰分析については、主開閉器MSの容量別の各台
数の最大電力を説明変数として主開閉器MSの容量別の傾きと切片を求めることにより検
証を行った。
【0059】
図6A~
図6Dに、単回帰分析の一例を示す。
図5A乃至
図5Dは、夫々、主開閉器M
Sの容量が30A、60A、100A、200Aの場合について台数(契約数)と台数毎
の最大電力との関係を単回帰分析した結果の一例を示すグラフである。
【0060】
また、
図6Eは、夫々、主開閉器MSの容量が30A、40A、50A、60A、75
A、100A、125A、150A、200Aの場合について単回帰分析を行うことによ
り求めた傾きと切片である。尚、表2の傾きと切片を求める際に用いた説明変数は、
図5
A~
図5Dで用いたものとは異なるものを用いた。
【0061】
図6Eに基づき構成した、モデルaの第1項(又はモデルb)の例を次式に示す。
[数3]
モデルaの第1項(又はモデルb)
=((1.299×n+2.120)×n
30+(1.279×n+2.029)×n
40+・・・
+(4.928×n+5.501)×n
150 +(6.544×n+7.199)×n
200)/n
・・・式3
上式において、nは予測対象変圧器のバンク内の契約数の合計であり、n
xは主開閉器の
容量別の台数(xは容量[A])である。
【0062】
<重回帰分析>
モデルcの第2項又はモデルdの重回帰分析については、説明変数をパイソン(Python
(登録商標))の重回帰分析の統計モデルに入力して主開閉器容量別の台数の係数(定数
部分を含む)を求めることにより検証を行った。
【0063】
図6Fに、重回帰分析の上記統計モデルが出力する値の一例を示す。同図には、主開閉
器容量別の台数の係数(定数部分を含む)の推定値(推定量)の他、標準誤差(stderr)
、t値、p値(p>|t|)、信頼区間([0.025 0.975])、決定係数(R
2)を示している
。
【0064】
図6Fに基づき構成した、モデルcの第2項又はモデルdの例を次式に示す。
[数4]
最大電力[kW]=0.4042n
30+ 0.9847n
40+ 1.7370n
50+2.0604n
60 ・・・+ 6.5222n
200
+ 5.1914
・・・式4
上式において、n
xは各容量別の主開閉器の台数(xは容量[A])である。
【0065】
<説明変数の追加についての検証>
重回帰分析の精度向上を目的として、説明変数(特徴量)の追加について検証した。具
体的には、パイソン(Python(登録商標))のデータ解析ライブラリにおける「XGboost
」を用い、説明変数の目的変数(最大電力)への影響度のランク付けを行った。
【0066】
図7に、上記ランク付けの結果を示す。本実施形態では、同図における上位3つの説明
変数、即ち、「供給方式(単相3線式100V)の契約数」、「従量電灯Bの契約電力合
計」、「給湯器有の契約数)」を追加して重回帰分析を行い、精度への影響を確認した。
【0067】
=学習データ=
負荷予測モデル114の学習に用いる学習データ(教師データ)としては、電力情報管
理装置4から提供される、各需要家2のスマートメータSMから送られてくる計測値(3
0分値)をランダムに抽出し、抽出した計測値を説明変数として用いた。尚、データが欠
損している場合は属性が共通する契約の平均値で補間した。また、スマートメータSMか
ら送られてくる電力値(30分値)は、以下の式を用いて瞬時値(1分値)に変換した。
[数5]
瞬時値(冬ピーク)=30 分値 × 1.425 + 0.149 (kW) ・・・式5
[数6]
瞬時値(夏ピーク)=30 分値 × 1.347 + 0.050 (kW) ・・・式6
【0068】
以上により取得した情報を用いて時間毎/変圧器毎の瞬時値の合計を求め、所定期間に
おける最大値を目的変数(所定期間における変圧器毎の最大電力)として学習データを生
成した。
【0069】
=需要家情報=
図8Aに需要家情報111の一例を示す。同図に示すように、例示する需要家情報11
1は、主開閉器容量111a、計器ID111b、事業所コード111c、事業所名11
1d、変圧器柱電柱番号111e、引込柱番号f、契約種別コード111g、契約分類1
11h、契約電力(従B)111i、供給方式コード111j、供給方式111k、電気
給湯器有無111l、電気給湯器容量(ヒートポンプ)111m、電気給湯器台数(ヒー
トポンプ)111n、温水器容量111o、温水器台数111p、再エネ有無111q、
緯度111r、経度111s、使用場所111t等の各項目の情報を含む複数のレコード
(エントリ)で構成される。需要家情報111の一つのレコードは一つの需要家(一つの
計測器(スマートメータ)又は一つの主開閉器MS)に対応している。
【0070】
このうち主開閉器容量111aには、当該需要家2に設置されている主開閉器MSの容
量を示す情報が格納される。主開閉器容量111aは、例えば、新設や取替、検査等を行
った際に取得される。また、主開閉器容量111aとして、例えば、需要家2に電力を供
給している引込線の材料から推定される容量を用いてもよい。
【0071】
計器ID111bには、当該需要家2に設置されている電力計測器(スマートメータS
M)の識別子である計器IDが格納される。
【0072】
事業所コード111cには、当該需要家2への電力供給を行っている電力会社等の電気
事業者の事業所の識別子である事業所コードが格納される。事業所名111dには、上記
事業所の名称が格納される。
【0073】
変圧器柱電柱番号111eには、当該需要家2に電力を供給している変圧器柱の識別子
である変圧器柱電柱番号が格納される。引込柱番号fには、当該需要家2への引込線が繋
がる引込柱の番号が格納される。
【0074】
契約種別コード111gには、当該需要家2が電力会社等の電力供給事業者と締結して
いる契約の分類を示す情報である契約種別コードが格納される。契約分類111hには、
分類された契約の種類を示す情報である契約分類が格納される。契約電力(従B)111
iには、契約分類が「従量電灯B」である場合の契約電力が格納される。
【0075】
供給方式コード111jには、当該需要家2への電力の供給方式を示すコードである供
給方式コード(1:単相2線式、2:単相3線式等)が格納される。供給方式111kに
は、供給方式を示す情報(単相2線式又は単相3線式等)が格納される。
【0076】
電気給湯器有無111lには、当該需要家2に電気給湯器が設置されているか否かを示
す情報(有無)が格納される。電気給湯器容量(ヒートポンプ)111mには、当該需要
家2に設置されている、ヒートポンプ式の電気給湯器の容量を示す情報が格納される。電
気給湯器台数(ヒートポンプ)111nには、当該需要家2に設置されている、ヒートポ
ンプ式の電気給湯器の台数が格納される。
【0077】
温水器容量111oには、当該需要家2に設置されている温水器の容量を示す情報が格
納される。温水器台数111pには、当該需要家2に設置されている温水器の台数が格納
される。
【0078】
再エネ有無111qには、当該需要家2における、再生可能エネルギー利用の発電機の
有無を示す情報が格納される。
【0079】
緯度111rと経度111sには、夫々、当該需要家2への引込線が繋がる引込柱の緯
度と経度が格納される。使用場所111tには、当該需要家2への引込線が繋がる引込柱
の所在を示す情報が格納される。
【0080】
図8Bに、計測値情報112の一例を示す。同図に示すように、計測値情報112は、
計器ID1121、計測日時1122、電力値1123等の項目を有する複数のレコード
で構成される。計測値情報112の一つのレコードは、あるスマートメータSMから送ら
れてくるある計測日時における計測値に対応している。
【0081】
上記項目のうち、計器ID1121には、スマートメータSMの計器IDが格納される
。計測日時1122には、当該計測値が計測された日時が格納される。電力値1123に
は、当該スマートメータSMにより計測された電力値(30分値)が格納される。
【0082】
=裕度について=
前述したように、変圧器7の過負荷を回避するには、負荷予測モデル114により予測
した予測値について適切な裕度を設定する必要がある。本実施形態では、予測値と実測値
の差分について、計測値の95%が入る区間の上限値(平均値+標準偏差σ×2)、及び
、計測値の99.7%が入る区間の上限値(平均値+標準偏差σ×3)を求め、求めた各
上限値の近似式(変圧器7毎の、契約数(需要家2数)と上記差分との関係)を生成して
裕度の決定に用いた。上記近似式についての具体的な検討結果については後述する。
【0083】
=モデルの学習=
図9は、負荷予測装置100の学習データ生成部135及びモデル学習部140が、学
習データの生成と、生成した学習データを用いた負荷予測モデル114の学習(従来式に
おける係数や定数の学習、単回帰分析や重回帰分析における係数や定数の学習を含む。)
に際して行う処理(以下、「モデル学習処理S900」と称する。)を説明するフローチ
ャートである。
【0084】
尚、モデル学習処理S900を実行するタイミングは必ずしも限定されないが、例えば
、負荷予測装置100は、新たに学習データ113が生成されたことや、ユーザインタフ
ェースを介してユーザから明示的な実行指示を受け付けたこと等を契機として、モデル学
習処理S900を実行する。以下、同図とともにモデル学習処理S900について説明す
る。
【0085】
まず学習データ生成部135が、ユーザから、学習データとして用いる計測値の範囲(
地域区分、対象期間、変圧器(バンク)等)の指定(抽出条件)を受け付け、受け付けた
範囲に対応する計測値に基づき学習データを生成し、生成した学習データを学習データ1
13として記憶する(S911)。
【0086】
図10Aに、学習データ生成部135が、上記指定を受け付ける際にユーザインタフェ
ースを介してユーザに提示する画面(以下、「学習データ設定画面1000」と称する。
)の一例を示す。同図に示すように、例示する学習データ設定画面1000は、地域区分
の指定欄1010、対象期間の指定欄1020、変圧器(バンク)の指定欄1030、及
び設定ボタン1050を有する。
【0087】
地域区分の指定欄1010には、変圧器が設けられている地域を指定する情報である地
域区分を設定する。地域区分の指定欄1010はプルダウンメニュー形式になっており、
ユーザは、全地域を指定する「ALL」の他、例えば、
図10Bに例示する一つ以上の地
域区分を指定することができる。
【0088】
対象期間の指定欄1010には、計測値の期間を指定する。対象期間の指定欄1010
はプルダウンメニュー形式になっており、ユーザは、全期間を指定する「ALL」の他、
一つ以上の期間を指定することができる。
【0089】
変圧器(バンク)の指定欄1030には、変圧器(バンク)を特定する情報(本例では
変圧器柱電柱番号)を指定することができる。変圧器(バンク)の指定欄1030はプル
ダウンメニュー形式になっており、ユーザは、全ての変圧器(バンク)を指定する「AL
L」の他、一つ以上の変圧器(バンク)の識別子(変圧器柱電柱番号等)を指定すること
ができる。
【0090】
ユーザが設定ボタン1050を操作すると、学習データ生成部135は、当該画面で受
け付けた指定内容に対応する計測値を計測値情報112から取得(抽出)して学習データ
を生成する。生成された学習データは、記憶部110が学習データ113として記憶する
。尚、同図に示す指定欄は一例に過ぎず、他の条件を指定できるようにしてもよい。
【0091】
図9に戻り、続いて、モデル学習部140が、学習データ113に基づき負荷予測モデ
ル114を学習する(S912)。尚、モデル学習部140が、例えば、学習済の負荷予
測モデル114について予測精度の検証を行うようにしてもよい。その場合、例えば、学
習データ113を学習用のデータと検証用のデータに予め分類しておき、負荷予測モデル
114の学習に際しては学習用のデータを用いて学習し、負荷予測モデル114の検証に
際しては検証用のデータを用いて検証を行うようにする。
【0092】
図11は、負荷予測装置100が最大電力の予測と裕度の算出を行い、それらの結果を
ユーザに提示する処理(以下、「負荷予測処理S1100」と称する。)を説明するフロ
ーチャートである。負荷予測処理S1100は、所定のタイミング(定期的、スケジュー
ルされた日時、ユーザから実行指示を受け付けた場合等)で実行される。以下、同図とと
もに負荷予測処理S1100について説明する。
【0093】
まず予測対象変圧器情報取得部145が、需要家情報111及び計測値情報112から
、負荷予測モデル114に入力する説明変数である予測対象変圧器情報115を取得する
(S1111)。尚、説明変数として、需要家から取得した情報(同図に示す変圧器新設
情報118)を入力するようにしてもよい。変圧器新設情報118には、例えば、団地や
マンション、アパート等の新築に伴い変圧器を新設する時に想定される負荷(主開閉器容
量別の契約数等)が説明変数として登録される。また、変圧器新設情報118には、例え
ば、既設の変圧器から住宅や店舗へ新規に供給を行う場合に、新規に供給する需要家の情
報が説明変数として登録される。尚、その場合、既設の契約を含めて変圧器の所要容量が
推定され、それによる負荷の予測結果は、例えば、既設の変圧器の容量増の要否の判定に
用いられる。
【0094】
続いて、負荷予測部150が、予測対象変圧器情報115を負荷予測モデル114に入
力し、その出力として最大電力を取得する(S1112)。
【0095】
続いて、裕度算出部155が裕度を算出する(S1113)。
【0096】
続いて、結果提示部160が、S1112で求めた最大電力とS1113で求めた裕度
を記載した画面(以下、「結果提示画面1200」と称する。)を出力装置15(表示装
置)に出力(表示)する(S1114)。
【0097】
図12に結果提示画面1200の一例を示す。例示する結果提示画面1200は、変圧
器柱電柱番号の表示欄1210、最大電力(予測値)の表示欄1220、裕度の表示欄1
230、及び推奨変圧器容量の表示欄1240を有する。
【0098】
変圧器柱電柱番号の表示欄1210には、予測対象変圧器の変圧器柱電柱番号(予測対
象変圧器を特定する情報)が表示される。最大電力(予測値)の表示欄1220には、負
荷予測部150が予測した、予測対象変圧器の最大電力の予測値が表示される。裕度の表
示欄1230には、裕度算出部155によって求められた裕度が表示される。推奨変圧器
容量の表示欄1240には、選択可能な変圧器容量のうち、最大電力(予測値)の表示欄
1220に表示される最大電力の予測値に、裕度の表示欄1230に表示される裕度の予
測値を加えた値以上であり、かつ、当該値に最も近い変圧器容量が自動選択されて表示さ
れる。尚、自動選択ではなく、候補となる変圧器容量を提示してユーザに変圧器容量を手
動で選択もしくは決定させてもよい。
【0099】
以上詳細に説明したように、本実施形態の変圧器負荷予測システム1によれば、負荷予
測モデル114を用いて精度よく予測対象変圧器について予測される最大電力を求めるこ
とができる。また、裕度算出部155により精度よく裕度を求めることができる。そして
、予測した最大電力と求めた裕度とに基づき、予測対象変圧器について必要とされる変圧
器容量を精度よく決定することができる。このため、過負荷を確実に防ぐために必要とさ
れる容量の変圧器を精度よく適切に選択することが可能になる。また、不必要に過大な容
量の変圧器が現場に設置されるのを防ぐことができ、変圧器の運用(新設、取替等)を効
率よく行うことが可能になる。
【0100】
=検証結果=
続いて、以上に説明した変圧器負荷予測システム1について行った各種の検証結果につ
いて説明する。
【0101】
<モデルの比較検証>
表1に示した4つの負荷予測モデル114(モデルa~モデルd)の夫々について、主
開閉器容量及び契約内容(契約種別等)とスマートメータSMから取得される電力値とに
基づく学習データを用いて学習した4つの負荷予測モデル114を生成し、夫々の予測結
果を比較した。
【0102】
図13A及び
図13Bはいずれも比較例であり、このうち
図13Aは、計測値(実測値
)に基づく、契約数と最大電力の関係を示すグラフ、
図13Bは、従来式に基づき契約数
と最大電力の関係を予測したグラフである。尚、
図13Bには、決定係数R
2も表示して
いる。尚、決定係数R
2の最大値は1.0である。決定係数R
2の値が1.0に近い程、モデル
の精度が良い(予測値が実測値を良く表している)ことを示す。
【0103】
図13C~
図13Fは、負荷予測モデル114により契約数と最大電力の関係を予測し
た結果を示すグラフである。このうち
図13Cはモデルa(従来式+単回帰分析)による
予測結果を、
図13Dはモデルb(単回帰分析)による予測結果を、
図13Eはモデルc
(従来式+重回帰分析)による予測結果を、
図13Fはモデルd(重回帰分析)による予
測結果を、夫々示す。
【0104】
図13C~
図13Fの決定係数R
2を比較し易く示した表を
図13Gに示す。各モデル
の決定係数R
2の値から、モデルb(単回帰分析)及びモデルd(重回帰分析)について
高い精度が得られていることがわかる。
【0105】
<モデルbとモデルdの検証>
モデルb(単回帰分析)及びモデルd(重回帰分析)の夫々について、より広い期間の
計測値に基づく学習データを用いて負荷予測モデル114を学習し、夫々の予測結果を再
度検証した。
【0106】
図13Hは、上記学習データを用いて学習したモデルb(単回帰分析)による予測結果
を示すグラフであり、
図13Iは、上記モデルbの各説明変数の係数及び切片を示した表
である。この例では決定係数R
2は0.715となり、高い精度が得られることを確認した。
【0107】
図13Jは、上記学習データを用いて学習したモデルd(重回帰分析)による予測結果
を示すグラフであり、
図13Kは、モデルdにおける各説明変数の係数及び切片を示した
表である。この例では決定係数R
2は0.810となり、モデルbよりも更に精度が高くなっ
た。同図に示すように、本事例では、目的変数への影響度の高い前述の3つの説明変数(
供給方式(単相3線式100V)の契約数、従量電灯Bの契約電力合計、給湯器有の契約
数)を追加して重回帰分析を行っており、これらの説明変数を追加したことも精度の向上
に寄与しているものと推察される。また、このように目的変数への影響度の高い少数の説
明変数を追加するだけで、処理負荷(計算負荷)を抑えて効率よく精度を改善することが
できることがわかる。
【0108】
<裕度の算出方法の検証>
続いて、裕度を適切に設定するため、
図5に示した各モデルについて、契約数と差分(
予測値と実測値の差分)との関係を検証した。
【0109】
図14Aは、モデルb(単回帰分析)について、主開閉器の台数(もしくは契約者数)
毎に、上記の差分をプロットしたグラフである。同図には、予測値の95%が入る区間の
上限値(平均値+標準偏差σ×2)を、他のプロットとは模様の異なるプロットで示して
いる。尚、予測値が実測値よりも大きい割合は57%であった。
【0110】
図14Bは、モデルd(重回帰分析)について、主開閉器の台数(もしくは契約者数)
毎に、上記の差分をプロットしたグラフである。同図には、予測値の95%が入る区間の
上限値(平均値+標準偏差σ×2)を模様の異なるプロットで示している。尚、予測値が
実測値よりも大きい割合は59%であった。
【0111】
図14Cは、モデルb(単回帰分析)について、主開閉器の台数(もしくは契約者数)
毎に、上記の差分をプロットしたグラフである。同図には、予測値の99.7%が入る区
間の上限値(平均値+標準偏差σ×3)を、他のプロットとは模様の異なるプロットで示
している。尚、予測値が実測値よりも大きい割合は57%であった。
【0112】
図14Dは、モデルd(重回帰分析)について、主開閉器の台数(もしくは契約者数)
毎に、上記の差分をプロットしたグラフである。同図には、予測値の99.7%が入る区
間の上限値(平均値+標準偏差σ×3)を、他のプロットとは模様の異なるプロットで示
している。尚、予測値が実測値よりも大きい割合は59%であった。
【0113】
続いて、
図14A~
図14Dに示したグラフに基づき、予測値の95%が入る区間の上
限値を、4種の近似式(線形近似、指数近似、累乗近似、対数近似)で近似した。
【0114】
図15Aは、
図14Aに基づき予測値の95%が入る区間の上限値を近似式で近似した
結果を示すグラフである。また、
図15Bは、上記結果につき、各近似式のパラメータ、
予測値が実測値を上回る数の割合、上記差分の平均値を表形式で示したものである。
【0115】
図15Bに示すように、予測値が実測値を上回る割合は、従来方式については95%で
あり、各近似式の区間平均では94%と、両者は同等の割合となった。一方、差分の平均
については、近似式を用いない場合(以下、「従来方式」と称する。)は5.58kWで
あるのに対し、近似式を用いた場合はいずれも約3.7kWとなっており、近似式を用い
ることで精度が向上することがわかる。
【0116】
図15Cは、
図14Bに基づき予測値の95%が入る区間の上限値を近似式で近似した
結果を示すグラフである。また
図15Dは、上記結果につき、各近似式のパラメータ、予
測値が実測値を上回る数の割合、上記差分の平均値を表形式で示したものである。
【0117】
図15Dに示すように、予測値が実測値を上回る割合は、従来方式については95%で
あり、各近似式の区間平均では94%と、両者は同等の割合となった。一方、差分の平均
については、従来方式が5.58kWであるのに対し、近似式を用いた場合はいずれも約
3.0kWとなっており、近似式を用いることで精度が向上することがわかる。
【0118】
図15Eは、
図14Cに基づき予測値の99.7%が入る区間の上限値を近似式で近似
した結果を示すグラフである。また
図15Fは、上記結果につき、各近似式のパラメータ
、予測値が実測値を上回る数の割合、上記差分の平均値を表形式で示したものである。
【0119】
図15Fに示すように、予測値が実測値を上回る割合は、従来方式については95%に
対して、各近似式の区間平均では98%となり、近似式が従来方式を上回る割合となった
。一方、差分の平均については、従来方式が5.58kWであるのに対し、近似式を用い
た場合はいずれも約6.0kWとなっており、近似式を用いたほうが精度が低くなった。
【0120】
図15Gは、
図14Dに基づき予測値の99.7%が入る区間の上限値を近似式で近似
した結果を示すグラフである。また
図15Hは、上記結果につき、各近似式のパラメータ
、予測値が実測値を上回る数の割合、上記差分の平均値を表形式で示したものである。
【0121】
図15Hに示すように、差分の平均については、従来方式と各近似式は同程度であるが
、予測値が実測値を上回る割合は、従来方式の95%に対して各近似式の区間平均では9
8%となり、近似式を用いた場合のほうがより多くのケースをカバーすることができるこ
とがわかる。
【0122】
以上より、主開閉器の台数と、実測値に対する予測値の差分との関係を示す近似式を生
成することで、
図15Fの場合を除き、基本的に裕度の目安とすることができる上記差分
を精度よく求めることができることが確認された。
【0123】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、以上の説明は、本発明の理解を容易にす
るためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱すること
なく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例
えば、上記の実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであ
り、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また上記実施
形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。
【0124】
例えば、以上では、負荷予測モデル114が
図5に示すモデルである場合を例として説
明したが、負荷予測モデル114は、例えば、DNN(Deep Neural Network)、サポー
トベクタマシン(SVM(Support Vector Machine))等の他の種類のモデルにより実現
してもよい。
【符号の説明】
【0125】
1 変圧器負荷予測システム、2 需要家、3 システムセンタ、4 電力情報管理装置
、5 通信ネットワーク、7 変圧器、8 配電系統、SM スマートメータ、MS 主
開閉器、L 負荷、100 負荷予測装置、110 記憶部、111 需要家情報、11
2 計測値情報、113 学習データ、114 負荷予測モデル、115 予測対象変圧
器情報、116 負荷予測結果、117 裕度算出結果、118 変圧器新設情報、12
0 需要家情報管理部、130 計測値取得部、135 学習データ生成部、140 モ
デル学習部、145 予測対象変圧器情報取得部、150 負荷予測部、155 裕度算
出部、160 結果提示部、S900 モデル学習処理、1000 学習データ設定画面
、S1100 負荷予測処理、1200 結果提示画面