(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20250304BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
B41J2/175 201
B41J2/18
B41J2/175 121
(21)【出願番号】P 2021202956
(22)【出願日】2021-12-15
【審査請求日】2024-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸林 純
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-263996(JP,A)
【文献】特開2010-058320(JP,A)
【文献】特開2010-058319(JP,A)
【文献】特開2010-208275(JP,A)
【文献】特開2012-056248(JP,A)
【文献】特開2014-141102(JP,A)
【文献】特開2000-177144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズルが設けられたヘッド部と、
前記ヘッド部に液体を供給させる供給流路と、
前記ヘッド部から排出された液体を通過させる排出流路と、を備える液滴吐出ヘッドであって、
前記排出流路は、前記ヘッド部から排出された液体に含まれる異物を捕捉するアウトフィルターが設けられたアウトフィルター室を備え、
前記アウトフィルター室は、前記ヘッド部から排出された液体が流入する液体流入口と、前記アウトフィルター室内の液体が流出する液体流出口と、を備え、
前記アウトフィルターは、前記アウトフィルター室を、前記液体流入口を含む前室と、前記液体流出口を含む後室と、に2分するように、前記アウトフィルター室の上部の内壁部と下部の内壁部に接するように設けられ、
前記前室は、上端部における水平面での断面積が前記液体流入口の開口部の面積よりも大きいことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記排出流路を通過する液体を前記供給流路に循環させる循環流路を備えることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記供給流路は、前記ヘッド部に供給する液体に含まれる異物を捕捉するインフィルターを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ノズルの径は、前記アウトフィルターのメッシュの径以上の大きさであり、
前記アウトフィルターのメッシュの径は、前記インフィルターのメッシュの径以上の大きさであることを特徴とする請求項3に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記インフィルターの面積は、前記アウトフィルターの面積よりも大きいことを特徴とする請求項3又は4に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
前記アウトフィルターは、ノズル面に対して略垂直に設けられ、
前記前室は、前記アウトフィルターと対向する対向面が、下端部から上端部に向かうにつれて前記アウトフィルターとの離間距離が広がる形状であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記前室は、前記アウトフィルターと対向する対向面が、ノズル面に対して略垂直であり、
前記アウトフィルターは、前記ノズル面に対して、前記対向面から離れる方向に所定の角度で傾けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
前記アウトフィルターを通過する液体の流量が50ml/min以上160ml/min以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
前記ノズルから吐出される液滴の粘度が5cp以上15cp以下であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする液滴吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液滴吐出ヘッドにおいて、吐出する液体に混入した異物や気泡等によって、吐出不良が生じるのを防ぐために、液体の流路のインレット側とアウトレット側にそれぞれフィルターを設け、異物や気泡を排出できるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5531872号
【文献】特許第5774047号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような液滴吐出ヘッドの内部に通液を行う方法としては、液体の流路の上流側と下流側とで圧力差を設ける方法が一般的である。そのため、液体がフィルターを通過する際の圧力損失が小さくなるようにすることで、当該圧力差が減縮するのを防ぐのが好ましい。
【0005】
しかし、特許文献1の発明は、アウトレット側のフィルターがノズル面と平行になるように、流路中に設けられている。そのため、圧力損失を小さくするために、当該フィルターの面積を大きくした場合、ヘッド自体が水平方向に大きくなってしまい、ヘッドを複数並べた際につなぎ目が繋がりにくくなる、また、キャリッジが大きくなってしまう等の不都合が生じるという課題を有する。
【0006】
一方で、特許文献2の発明は、ノズル面から垂直方向にフィルターが設けられているため、ヘッドを水平方向に大きくすることなく、当該フィルターの面積を大きくすることができる。しかし、当該フィルターが配置されたチャンバが上下方向に平行な形状、あるいは上方向に向かうにつれて先細りとなる形状であるため、流路抵抗が生じ、フィルターにおける液体流量の差が上下で大きくなりやすく、液体がフィルターを通過する際に圧力損失が生じやすいという課題を有する。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ヘッドの大きさを水平方向に大きくすることなく、液体がフィルターを通過する際の圧力損失を小さくすることができる液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、
液滴を吐出するノズルが設けられたヘッド部と、
前記ヘッド部に液体を供給させる供給流路と、
前記ヘッド部から排出された液体を通過させる排出流路と、を備える液滴吐出ヘッドであって、
前記排出流路は、前記ヘッド部から排出された液体に含まれる異物を捕捉するアウトフィルターが設けられたアウトフィルター室を備え、
前記アウトフィルター室は、前記ヘッド部から排出された液体が流入する液体流入口と、前記アウトフィルター室内の液体が流出する液体流出口と、を備え、
前記アウトフィルターは、前記アウトフィルター室を、前記液体流入口を含む前室と、前記液体流出口を含む後室と、に2分するように、前記アウトフィルター室の上部の内壁部と下部の内壁部に接するように設けられ、
前記前室は、上端部における水平面での断面積が前記液体流入口の開口部の面積よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の液滴吐出ヘッドであって、
前記排出流路を通過する液体を前記供給流路に循環させる循環流路を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の液滴吐出ヘッドであって、
前記供給流路は、前記ヘッド部に供給する液体に含まれる異物を捕捉するインフィルターを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の液滴吐出ヘッドであって、
前記ノズルの径は、前記アウトフィルターのメッシュの径以上の大きさであり、
前記アウトフィルターのメッシュの径は、前記インフィルターのメッシュの径以上の大きさであることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載の液滴吐出ヘッドであって、
前記インフィルターの面積は、前記アウトフィルターの面積よりも大きいことを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッドであって、
前記アウトフィルターは、ノズル面に対して略垂直に設けられ、
前記前室は、前記アウトフィルターと対向する対向面が、下端部から上端部に向かうにつれて前記アウトフィルターとの離間距離が広がる形状であることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッドであって、
前記前室は、前記アウトフィルターと対向する対向面が、ノズル面に対して略垂直であり、
前記アウトフィルターは、前記ノズル面に対して、前記対向面から離れる方向に所定の角度で傾けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項1から7のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッドであって、
前記アウトフィルターを通過する液体の流量が50ml/min以上160ml/min以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項1から8のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッドであって、
前記ノズルから吐出される液滴の粘度が5cp以上15cp以下であることを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載の発明は、液滴吐出装置であって、
請求項1から9のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ヘッドの大きさを水平方向に大きくすることなく、液体がフィルターを通過する際の圧力損失を小さくすることができる液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の外観を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るヘッドユニットの内部構造を示す正面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドの内部構造を示す正面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るアウトフィルター室の拡大正面図である。
【
図6A】アウトフィルターの変形例を示す拡大正面図である。
【
図6B】アウトフィルターの変形例を示す拡大正面図である。
【
図7】対向面及びアウトフィルターの変形例を示す拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。ただし、発明の範囲は図示例に限定されない。また、以下の説明において、同一の機能及び構成を有するものについては、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0021】
なお、以下の説明では、インクジェットヘッド30の短手方向をX方向、長手方向をY方向とし、X方向及びY方向に垂直な方向であって、インクジェットヘッド30においてインクを吐出する方向をZ方向として説明する。また、上端部とは、+Z方向について最も高い(Z座標が最大である)位置を意味し、下端部とは、+Z方向について最も低い(Z座標が最小である)位置を意味するものとして説明する。
【0022】
[インクジェット記録装置]
初めに、本実施形態に係る液滴吐出装置として、液滴吐出ヘッドであるインクジェットヘッド30を備えるインクジェット記録装置1の構成例を開示する。
図1は、本発明の実施形態であるインクジェット記録装置1の概略構成を示す図である。
インクジェット記録装置1は、搬送部10と、ヘッドユニット20等を備える。
【0023】
〔搬送部〕
搬送部10は、
図1のX軸方向に延びる回転軸を中心に回転する2本の搬送ローラー11、11により内側が支持された輪状の搬送ベルト12を備える。搬送部10は、搬送ベルト12の搬送面上に記録媒体Mが載置された状態で、搬送ローラー11が図示略の搬送モーターの動作に応じて回転して搬送ベルト12が周回移動することで記録媒体Mを搬送ベルト12の移動方向(X方向)に搬送する。
【0024】
〔記録媒体〕
記録媒体Mは、一定の寸法に裁断された枚葉紙や長尺のシート材である。記録媒体Mは、図示略の供給装置により搬送ベルト12上に供給され、ヘッドユニット20から吐出対象となる液体であるインクが吐出されて画像が記録された後に、搬送ベルト12から所定の排出部に排出される。
記録媒体Mとしては、普通紙や塗工紙といった紙のほか、布帛又はシート状の樹脂等、表面に着弾したインクを定着させることが可能な種々の媒体を用いることができる。
【0025】
〔ヘッドユニット〕
図2は、ヘッドユニット20の内部構成を示す図である。
本実施形態のインクジェット記録装置1では、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクにそれぞれ対応する4つのヘッドユニット20が記録媒体Mの搬送方向上流側からY、M、C、Kの色の順に所定の間隔で並ぶように配列されている。そして、各ヘッドユニット20は、インクを吐出する液滴吐出ヘッドとしてのインクジェットヘッド30を複数有し、搬送部10により搬送される記録媒体Mに対して画像データに基づいて適切なタイミングでインクを吐出して画像を記録する。
なお、ヘッドユニット20の数は3つ以下又は5つ以上であってもよい。
【0026】
〔インクジェットヘッド〕
図3は、1つのインクジェットヘッド30の内部における、インク流路の断面を正面(X方向)から見た模式図である。
インクジェットヘッド30は、液体収容タンク40と、ヘッド部50と、を備え、外部から供給されたインクを液体収容タンク40に収容する。そして、当該インクをヘッド部50に供給し、ヘッド部50の下面側(-Z方向側)であるノズル面5221に設けたノズルNからインクを吐出する。
【0027】
(液体収容タンク)
液体収容タンク40は、内部にインクを収容する箱体である。液体収容タンク40は、供給流路41と、排出流路42とを備え、その下面がヘッド部50の上部(+Z方向)に取り付けられる。
【0028】
{供給流路}
供給流路41は、外部のインクタンク(不図示)等から流入してきたインクをヘッド部50に供給する流路である。供給流路41は、上方(+Z方向)から順に、インレット411、インフィルター室412及び流出口413等を備える。
【0029】
{排出流路}
排出流路42は、ヘッド部50から排出されたインクをインクジェットヘッド30から排出する流路である。排出流路42は、上方(+Z方向)から順に、アウトレット421、アウトフィルター室422及び流入口423等を備える。また、インフィルター室412と排出流路42とは、脱気路43によって連通されている。
【0030】
{インレット・アウトレット}
インレット411は、外部のインクタンク等からインクジェットヘッド30内に供給されるインクの流入口である。また、アウトレット421は、ヘッド部50から排出されたインクの流出口である。
【0031】
インレット411及びアウトレット421は、例えばチューブ(不図示)とポンプ(不図示)を介して外部のインクタンクに接続される。そして、インクジェットヘッド30の使用時は、例えば当該ポンプによって、供給流路41側が正圧となるようにして、供給流路41側と排出流路42側との間に圧力差を設けることで、インクタンクとインクジェットヘッド30との間で、インクが循環して供給される。
【0032】
なお、インクジェットヘッド30としては、不図示のインクタンクとインクジェットヘッド30との間でインクが循環する形態に限られない。例えば、アウトレット421をインクタンクと接続せずに、アウトレット421からインクジェットヘッド30外へとインクを排出するものとしても構わない。
【0033】
また、供給流路41側と排出流路42側とで圧力差を設ける方法としては、インクタンクとの水頭圧を利用することで、供給流路41側を正圧となるようにしても構わない。また、供給流路41側を正圧とする方法に限られず、例えば、真空ポンプと接続することで、排出流路42側が負圧となるようにしても構わない。
【0034】
また、
図2及び
図3においては、インクジェットヘッド30の上端部にインレット411及びアウトレット421を設ける構成が図示されているが、これに限られない。
また、
図3においてはインレット411とアウトレット421の高さが等しくなるように図示しているが、これに限られない。例えば、アウトレット421の方がインレット411よりも高くなるように設けてもよく、このようにすると、浮力により気泡がアウトレット421に流れやすくなる。
【0035】
{インフィルター室}
インフィルター室412は、インレット411から流入したインクを貯留する収容部であり、当該インクを濾過するインフィルターF1を備える。
【0036】
<インフィルター>
インフィルターF1は、例えばメッシュ状の金属や樹脂の多孔質体等によって形成され、所定の大きさのメッシュを有する。
インフィルターF1は、熱融着等の手段により、ノズル面5221に略平行となるようにインフィルター室412の内壁に接着されて、インフィルター室412を上流側インフィルター室412Aと下流側インフィルター室412Bとに分割する。
【0037】
インクジェットヘッド30のXY方向に水平な方向の面積に対する、インフィルターF1のXY方向に水平な方向の面積の割合は、できるだけ大きくするのが好ましい。
通常、ノズルNからインクを吐出する際、インフィルターF1における単位面積当たりのインクの通過量が増加するため、インクがインフィルターF1を通過する時の圧力損失が大きくなってしまう。そしてその結果、ノズルNにかかる負圧が大きくなり、インクの吐出性能が低下してしまう。
これに対して、インフィルターF1の、XY方向に水平な方向の面積を大きくすると、インフィルターF1における単位面積当たりのインクの通過量が増加しにくくなる。そのため、インクがインフィルターF1を通過する時の圧力損失が小さくなり、インクの吐出性能への影響を小さくすることができる。
【0038】
{脱気路}
脱気路43は、上流側インフィルター室412Aと排出流路42を連通する流路である。
インフィルターF1により捕捉され、上流側インフィルター室412Aを滞在する気泡は、当該脱気路43及び排出流路42を通過して、アウトレット421から排出される。
【0039】
{流出口、流入口}
流出口413及び流入口423は、共に液体収容タンク40の下端部に設けられ、ヘッド部50の開口部と連通する。
流出口413及び流入口423が設けられていることで、液体収容タンク40とヘッド部50の間でインクを流入出させることが可能となる。
【0040】
{アウトフィルター室}
図4は、アウトフィルター室422を正面(X方向)から見た拡大断面図である。
アウトフィルター室422は、ヘッド部50から流入し、アウトレット421から排出されるインクを濾過する空間である。
【0041】
アウトフィルター室422は、具体的には、アウトフィルター室422の下端部に設けられた液体流入口4221と、アウトフィルター室422の上端部に設けられた液体流出口4222と、液体流入口4221からアウトフィルター室422に流入したインクを濾過するアウトフィルターF2とを備える。
【0042】
<アウトフィルター>
アウトフィルターF2は、インフィルターF1と同様に、例えばメッシュ状の金属や樹脂の多孔質体等によって形成され、所定の大きさのメッシュを有する。そしてアウトフィルターF2は、熱融着等の手段により、アウトフィルター室422の内壁の上端部と下端部に当接するように、上下方向(Z方向)に延在するように接着されて、アウトフィルター室422を前室422Aと後室422Bとに分割する。
【0043】
インクジェットヘッド30の排出流路42にアウトフィルターF2を設けることで、ヘッド部50から排出されて外部のインクタンクへと戻されるインクに異物が混入するのを防ぐことができる。また、排出流路42でインクが逆流した際にも、ノズルNから吐出されるインクに異物が混入するのを防ぐことができる。また、インクジェットヘッド30を取り付ける時、あるいは交換する時に、内部に異物が混入するのを防ぐことができる。
【0044】
なお、アウトフィルターF2としては、インフィルターF1よりも面積が小さいものを設けるのが好ましい。
上述したように、液体がインフィルターF1を通過する際の圧力損失が大きいと、ノズルNの吐出性能が低下してしまうため、インフィルターF1の面積を大きくすることでこれを抑制する必要がある。一方で、アウトフィルターF2の面積を小さくして、液体がアウトフィルターF2を通過する際の圧力損失が大きくなったとしても、アウトレット421における負圧を大きくすれば、供給流路41側と排出流路42側との圧力差が保たれて、ノズルNの吐出性能には影響を与えないからである。
【0045】
ただし、アウトレット421における負圧を大きくすると、インクジェット記録装置1にかかる要求が増えることとなる。そのため、液体がアウトフィルターF2を通過する際の圧力損失も、できるだけ小さくするのが好ましい。
【0046】
そこで、このようにアウトフィルターF2を上下方向(Z方向)に延在するように設けると、インクがアウトフィルターF2を通過する時の圧力損失を小さくするために、アウトフィルターF2の面積を大きくしても、インクジェットヘッド30の面積が水平方向に大きくなりにくくなるため、好ましい。
【0047】
また、本実施形態に係るアウトフィルターF2は、前室422Aが液体流入口4221を、後室422Bが液体流出口4222をそれぞれ含み、かつ、前室422Aの上端部におけるXY平面での断面積Hが、液体流入口4221の開口部の面積よりも大きくなるように、アウトフィルター室422に取り付けられる。
【0048】
アウトフィルターF2がこのように設けられていることによる効果について説明する。
前室422Aの上端部の断面積Hが、液体流入口4221の開口部の面積よりも大きいと、前室422Aの流路抵抗が小さくなる。
したがって、インクが当該液体流入口4221から前室422A内に流入した際に、当該インクの流速が落ちにくくなり、容易に前室422Aの上端部まで到達するようになる。
すなわち、アウトフィルターF2の上下部分における、液体流量の差が付きにくくなり、液体がアウトフィルターF2を通過する際の圧力損失を小さくすることができる。
【0049】
なお、本実施形態に係る液滴吐出装置1から吐出される液体は、インクに限られないが、アウトフィルターF2を通過するインクの流量は50ml/min以上160ml/min以下であるのが好ましい。また、インクの粘度は5cp以上15cp以下であるのが好ましい。
【0050】
(ヘッド部)
図3に戻って、ヘッド部50について説明する。
ヘッド部50は、例えば上側(+Z方向)から順に、貯留室(マニホールド)51、配線基板(不図示)、当該配線基板の端部に接続され、吐出を制御する駆動回路を備えるFPC(Flexible Printed Circuit:フレキシブル基板(不図示))、ヘッドチップ52等を備える。
【0051】
{貯留室}
貯留室51は、合成樹脂材料等からなり、Y方向に延在した横長の箱型に形成される。
貯留室51の上端部には、少なくとも2つの開口部が設けられている。そして、一の開口部は、流出口413を介して供給流路41と連通しており、液体収容タンク40から移送されたインクが貯留室51内に貯留される。また、他の開口部は、流入口423を介して排出流路42と連通しており、貯留室51内のインクをアウトレット421から排出する。
【0052】
{ヘッドチップ}
ヘッドチップ52は、上側(+Z方向)から順に、圧力室基板521と、ノズル基板522とを備える。
圧力室基板521には、Z方向に貫通形成された圧力室としてのチャネルCが複数形成されている。また、ノズル基板522には、底面側(-Z方向側)であるノズル面5221に、Z方向に沿った貫通孔からなる複数のノズルNの開口が千鳥格子状に形成されている。
【0053】
圧力室基板521の底面側(-Z方向側)にノズル基板522が接合された状態において、各チャネルCはノズル基板522の各ノズルNとそれぞれ連通するように設けられている。すなわち、貯留室51のインクは、各チャネルCを介して、各ノズルNに送られる。
そして、配線基板及びフレキシブル基板に形成された配線電極を通じて駆動信号を印加することで、チャネルCに供給されたインクに圧力変化が与えられて、ノズルNからインクを吐出する。
【0054】
{個別排出路、共通排出路}
また、チャネルCとノズルNとの間(ノズルNの開口の手前)には、各々個別排出路53が分岐しており、これら複数の個別排出路53は、それぞれ1つの共通排出路54に連通している。そして、共通排出路54は、ヘッド部50の排出流路42側の端部で上方(+Z方向)に屈曲して、流入口423とアウトフィルター室422とを繋ぐ流路に連通する。
【0055】
チャネルCに供給されたインクのうち、ノズルNから排出されなかったインクの一部は、このような個別排出路53及び共通排出路54を介して、アウトレット421から排出される。
このようにインクを還流させることで、インクに含まれる各種粒子の沈降を抑制することができる。また、チャネルCやノズルN内の異物や気泡をインクとともに外部へと排出することができる。
【0056】
また、これと同様に、貯留室51からヘッドチップ52に送られなかったインクの一部は、貯留室51の他の開口部及び排出流路42を介してアウトレット421から外部へ排出される。
このとき、液体収容タンク40の流出口413及び流入口423と連通する、貯留室51の2つの開口部は、貯留室51の上端部のうち、Y方向略両端部に配置されているのが好ましい。このようにすることで、流出口413から供給されたインクを流入口423へ排出する際、貯留室51内の全体に亘ってインクが流れることとなる。結果、貯留室51内にインクが滞留する部位が形成されにくくなり、インク中の気泡を効率よく排除することができるようになる。
【0057】
なお、
図3においては、ノズルNの断面が略矩形状である場合に図示しているが、これに限られない。例えば、インク吐出側の開口部に近付くにつれて、断面積が小さくなるようなテーパー形状を有していても構わない。
【0058】
また、インフィルターF1及びアウトフィルターF2のメッシュ径と、ノズルNのノズル径の関係は、ノズルNのノズル径≧アウトフィルターF2のメッシュ径≧インフィルターF1のメッシュ径、となるように構成するのが好ましい。
【0059】
これは、インフィルターF1のメッシュ径は、ノズルNに粒子等の異物が詰まらないようにするために、ノズルNのノズル径よりも充分に小さくする必要があるからである。
また、アウトフィルターF2のメッシュ径は、外部からの異物を防ぐことができれば充分であるため、ノズルNのノズル径以下という範囲内で、できるだけ径を大きくすることで、液体が通過する際の圧力損失を小さくする方が好ましいからである。
【0060】
なお、ノズルNのノズル径は、具体的には18μm~40μmとすることができるが、例えばノズルNのノズル径を20μmとした場合、インフィルターF1のメッシュ径を10μm、アウトフィルターF2のメッシュ径を20μmとすることができる。
【0061】
[発明の効果]
以上に示すように、本実施形態に係る液滴吐出ヘッド30は、ヘッド部50から排出された液体を通過させる排出流路42に、当該液体に含まれる異物を捕捉するアウトフィルターF2が設けられたアウトフィルター室422を備える。そして、アウトフィルター室422は、ヘッド部50から排出された液体が流入する液体流入口4221と、アウトフィルター室422内の液体が流出する液体流出口4222と、を備える。そして、アウトフィルターF2は、アウトフィルター室422を、液体流入口4221を含む前室422Aと、液体流出口4222を含む後室422Bと、に2分するように、アウトフィルター室422の上壁の内壁部と下壁の内壁部に接するように設けられる。また、前室422Aは、上端部における水平面での断面積Hが液体流入口4221の開口部の面積よりも大きい。
【0062】
この構成によれば、ヘッド部50から排出された液体は、相対的に狭い液体流入口4221によって流速が高められて前室422Aに流入する。そして、前室422Aの上端部における水平面での断面積Hが、液体流入口4221よりも相対的に広いため、前室422Aの流路抵抗及び液体の流速の低下量が低減し、前室422Aの奥側(+Z方向側)まで流れやすくなっている。
結果、アウトフィルターF2の上下部分における、液体流量の差が付きにくくなり、液体がアウトフィルターF2を通過する際の圧力損失が小さくなる。そのため、供給流路41側と排出流路42側との圧力差が減縮して、ノズルNの吐出性能が低下しまうのを防ぐことができる。
【0063】
また、
図4に示すように、アウトフィルターF2は、アウトフィルター室422の内壁の上端部と下端部に接するように、上下方向(Z方向)に延在して設けられている。
この構成によれば、液体がアウトフィルターF2を通過する際の圧力損失を更に小さくするために、当該アウトフィルターF2の面積を大きくしたとしても、インクジェットヘッド30が水平方向(XY平面に水平な方向)に大きくなりにくい。そのため、インクジェットヘッド30を複数並べた際につなぎ目が繋がりにくくなったり、インクジェットヘッド30のキャリッジが大きくなったりするような不都合が生じにくくなる。
【0064】
[対向面又はアウトフィルターの変形例]
なお、
図4は、前室422Aの上端部における水平面での断面積Hが、液体流入口4221の開口部の面積よりも大きくなるようにアウトフィルター室422を設ける場合の一例に過ぎない。そのため、
図4に示した構造以外にも、以下に示す構造でもよい。
【0065】
ここで、アウトフィルターF2と対向する前室422Aの面を対向面4223とする。
例えば、下端部から上端部に向かうにつれて、アウトフィルターF2との離間距離が広がるような対向面4223の変形例としては、
図5Aに示すような階段状の対向面4223、
図5Bに示すような曲線状の対向面4223、あるいは、
図5Cに示すようなノズル面5221に対して略垂直な部分と、ノズル面5221に対して垂直でない部分を共に備える対向面4223等が挙げられる。
【0066】
また、対向面4223を、ノズル面5221に対して略垂直に設けた上で、対向面4223との離間距離が広がるように、アウトフィルターF2を所定の角度に傾けて設けることで、前室422Aの上端部における水平面での断面積Hが、液体流入口4221の開口部の面積よりも大きくなる構成としてもよい。
このようなアウトフィルターF2の変形例としては、
図6Aに示すような直線状のアウトフィルターF2、あるいは
図6Bに示すような曲線状のアウトフィルターF2等が挙げられる。
【0067】
また、上記においては対向面4223とアウトフィルターF2のうち、少なくともいずれかをノズル面5221に対して略垂直に設けた場合のみを図示したが、これに限られない。例えば
図7に示すように、アウトフィルターF2と対向面4223の両方を、互いに離間距離が広がるように傾けて設けるものとしてもよい。
【0068】
また、上方に向かうにつれて対向面4223とアウトフィルターF2の離間距離が徐々に広がる構成に限られず、少なくとも、前室422Aの上端部における水平面での断面積Hが、液体流入口4221の開口部の面積よりも大きければ、前室422Aの流路抵抗は小さくなるので構わない。
そのため、例えば対向面4223又はアウトフィルターF2がくびれを有する形状であって、前室422Aの上端部を除いた一部における水平面の断面積が、液体流入口4221の開口部の面積よりも小さくなるような形状であっても構わない。
【0069】
その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0070】
1 インクジェット記録装置(液滴吐出装置)
30 インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)
41 供給流路
42 排出流路
422 アウトフィルター室
422A 前室
422B 後室
4221 液体流入口
4222 液体流出口
4223 対向面
50 ヘッド部
5221 ノズル面
F1 インフィルター
F2 アウトフィルター
N ノズル
H 断面積