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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】インクジェット用インク及び被印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/328 20140101AFI20250304BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20250304BHJP
   A61K 9/44 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
C09D11/328
B41J2/01 501
A61K9/44
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021502152
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006894
(87)【国際公開番号】W WO2020171183
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2019028907
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】星野 裕一
(72)【発明者】
【氏名】福代 真
(72)【発明者】
【氏名】石川 英樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 賢俊
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-169301(JP,A)
【文献】特開2015-218268(JP,A)
【文献】特表2018-533563(JP,A)
【文献】米国特許第05273573(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0003055(US,A1)
【文献】特開2016-216675(JP,A)
【文献】特開2006-131751(JP,A)
【文献】特開昭59-168078(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189902(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11
B41J2/01
A61K9/20-9/46
B41M5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グレーまたは黒色を呈するインクジェット用インクであって、
色素として、食用染料である第1の色素と、食用染料であり、前記第1の色素とは色調が異なる第2の色素と、食用染料であり、前記第1の色素及び前記第2の色素とは色調が異なる第3の色素とのみを含み、
前記第1の色素は、赤色3号、赤色40号、赤色104号、赤色105号及び赤色106号の少なくとも1種であり、
前記第2の色素は、銅クロロフィリンナトリウムであり、
前記第3の色素は、青色1号であり、
前記第2の色素の含有量は、前記インク全体の質量に対して0.3質量%以上14.0質量%以下の範囲内であることを特徴とするインクジェット用インク。
【請求項2】
前記第3の色素の含有量は、前記第1の色素の含有量以下であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
色素として、赤色3号、赤色40号、赤色104号、赤色105号及び赤色106号からなる食用染料の群から選ばれる少なくとも1種類と、銅クロロフィリンナトリウムと、青色1号とのみを含み、
前記銅クロロフィリンナトリウムの含有量は、前記インク全体の質量に対して0.3質量%以上14.0質量%以下の範囲内であるインクジェット用インク。
【請求項4】
前記食用染料の含有量の合計は、前記インク全体の1質量%以上15質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項5】
前記第1の色素の合計含有量は、前記インク全体の質量に対して3.0質量%以上7.0質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェット用インク。
【請求項6】
前記インクの溶媒として、グリセリン、プロピレングリコール、水、エタノール及びイソプロピルアルコールの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項7】
前記インクの溶媒として、グリセリン、プロピレングリコール、水、及びエタノールを含み、且つイソプロピルアルコールを含まないことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のインクジェット用インクで印字された印字部を備えることを特徴とする被印刷物。
【請求項9】
請求項8に記載の被印刷物に備わる前記印字部の形成後140時間経過した状態における経時変色(ΔE)は、5以下であることを特徴とする固形錠剤
【請求項10】
固形錠剤であることを特徴とする請求項8に記載の被印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インク及び被印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷に用いられるインクであるインクジェット用インク(以下、単に「インクジェットインク」とも称する。)には、可食性を有するものがある。そして、可食性を有するインクジェットインクに関する技術としては、例えば、特許文献1に記載したものがある。
従来技術に係るインクジェットインクには、印刷した文字や画像等の色味(色調)が時間の経過とともに変化しやすいもの、即ち経時変色しやすいものがある。インクジェットインクにおいて印字色が経時変化すると、インク設計者が意図した印字色が表現されず、可読性の低下や色味の変化が生じ得る。特に、従来技術に係るインクジェットインクを、インクの浸透性が相対的に高い印刷対象物(被印刷物)の表面に印刷した場合には、経時変色が大きくなる傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-169301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、インクの浸透性が相対的に低い印刷対象物の表面に印刷した場合は勿論、インクの浸透性が相対的に高い印刷対象物の表面に印刷した場合であっても経時変色が小さく安定した色味で印刷可能なインクジェットインク、特にグレーまたは黒色を呈するインクジェットインク及びそのインクジェットインクで印刷した印字部を備える被印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係るグレーまたは黒色を呈するインクジェット用インクは、食用染料(可食性色素)である第1の色素と、食用染料であり、前記第1の色素とは色調が異なる第2の色素と、を少なくとも含み、前記第1の色素は、赤色3号、赤色40号、赤色104号、赤色105号及び赤色106号の少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様であれば、インクジェットインクを、インクの浸透性が相対的に低い印刷対象物の表面に印刷した場合は勿論、インクの浸透性が相対的に高い印刷対象物の表面に印刷した場合であっても、その印字色をグレーまたは黒色に保持しつつ、経時変色が小さく安定した色味を呈することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】インクジェットインクの経時変色を説明するための概念図である。
図2】本発明の実施形態に係る錠剤(素錠)の一例を示す概略断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る錠剤(フィルムコート錠)の一例を示す概略断面図である。
図4】本発明の実施形態に係る錠剤(素錠)の印刷画像の一例である。
図5】本発明の実施形態に係る錠剤(フィルムコート錠)の印刷画像の一例である。
図6】本発明の実施形態に係る変形例におけるインクジェットインクの印刷工程を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態に係るインクジェットインクは、例えば、医療用錠剤の表面にインクジェット印刷法で施される印刷画像等の経時変色を改善することができるインクジェットインクに関するものである。以下、本発明の実施形態に係るグレーまたは黒色を呈するインクジェットインク(以下、便宜的に「グレーインク」とも称する。)及びそのグレーインクで印刷した印字部を備える錠剤(被印刷物)の構成について、詳細に説明する。
【0009】
〔グレーインクの色調〕
本実施形態に係るインクジェットインクが呈する「グレー」または「黒色」とは、以下のように定義される色味(色調)である。
まず、印刷解像度が主走査方向600dpi、副走査方向(錠剤等記録媒体の搬送方向)600dpi、トータルノズル数2,656の圧電セラミック駆動のドロップオンデマンド型インクジェットヘッドを用い、1ドロップ12plの印刷ドロップ量で、重ね打ちなしで印刷したベタ塗りの画像を被印刷物上に作成する。
【0010】
次に、X-rite社製分光濃度計「X-rite530」を、その印刷したベタ画像の上面に置き、反射光の色調(L*a*b*表色系)を測定する。なお、設定条件は、視野角が2°、光源がD50である。
上記条件で測定したL*a*b*表色系で表される色調のうち、
L* 任意(0~100)
a* -15~+15
b* -15~+15
の範囲に入る色味(色調)を、本実施形態における「グレー」または「黒色」としている。
【0011】
なお、被印刷物は、例えば、表面が白色(白色度70度以上)の錠剤が好ましい。白色度の測定は、X-rite社製分光濃度計「X-rite eXact」を、錠剤や紙などの基材の上面に置き、測定した反射光のスペクトルから求めることができる。設定条件は、米国紙パルプ技術協会(TAPPI)の定めたTAPPI-T452に準拠する。このような白色度70度以上のものであれば、被印刷物として錠剤の他、紙などを使用することも可能である。
【0012】
〔グレーインクの構成〕
本実施形態に係るグレーインクは、可食性を有するインクジェットインクであって、食用染料(可食性色素)である第1の色素と、食用染料であり、第1の色素とは色調が異なる第2の色素と、を少なくとも含んでいる。そして、第1の色素の印刷対象物に対する浸透速度と、第2の色素の印刷対象物に対する浸透速度との比(第1の色素の浸透速度/第2の色素の浸透速度)は、0.5以上1.7以下の範囲内である。ここで、「色素の浸透速度」とは、印字後一定時間(例えば140時間)経過させた状態において測定された、印刷対象物である錠剤等の表面からインク浸透部の下端(錠剤等の表面から最も離れた位置)までの距離を、印字後の経過時間(例えば140時間)で割った値を意味する。
【0013】
なお、印字後一定時間経過させた状態において測定された、印刷対象物である錠剤等の表面からインク浸透部の下端(錠剤の表面から最も離れた位置)までの距離は、一般に「浸透量」とも称される。そのため、本実施形態に係るグレーインクでは、第1の色素の印刷対象物に対する浸透量と、第2の色素の印刷対象物に対する浸透量との比(第1の色素の浸透量/第2の色素の浸透量)を0.5以上1.7以下の範囲内に設定しているともいえる。
また、上述の「第2の色素」は、本実施形態に係るグレーインクに含まれる色素のうち、最も含有量が多い色素を指す。
【0014】
本実施形態に係るグレーインクは、より具体的には、可食性を有するインクジェットインクであって、食用染料である第1の色素と、食用染料であり、第1の色素とは色調が異なる第2の色素と、を少なくとも含んでいる。そして、第1の色素は、赤色3号(Erythrosine, FDA Name: FD&C Red No.3, Color Index Name: Acid Red 51, CAS Number: 16423-68-0)、赤色40号(Allura Red AC, FDA Name: FD & C Red No.40, Color Index Name: Food Red 17, CAS Number: 25956-17-6)、赤色104号(Phloxine B, FDA Name: D & C Red No.28, Color Index Name: Acid Red 92, CAS Number: 18472-87-7)、赤色105号(Rose Bengal, Color Index Name: Acid Red 94, CAS Number: 632-69-9)及び赤色106号(Acid Red, Color Index Name: Acid Red 52, CAS Number: 3520-42-1)の少なくとも1種である。また、第2の色素は、例えば、銅クロロフィリンナトリウムである。このような構成であれば、本実施形態に係るグレーインクを、インクの浸透性が相対的に低い印刷対象物の表面に印刷した場合は勿論、インクの浸透性が相対的に高い印刷対象物の表面に印刷した場合であっても、その印字色をグレーまたは黒色に保持しつつ、インクジェットインクの経時変色を小さくすることができる。
以下、この点について、図1を参照しつつ説明する。
【0015】
図1は、インクジェットインクが有する経時変色を説明するための概念図である。図1(a)は、インクの浸透性が相対的に低い錠剤に、従来技術に係るグレーインクを用いて印字し、一定時間(例えば140時間)経過させた状態における錠剤の厚さ方向の断面図である。図1(b)は、インクの浸透性が相対的に高い錠剤に、従来技術に係るグレーインクを用いて印字し、一定時間(例えば140時間)経過させた状態における錠剤の厚さ方向の断面図である。図1(c)は、インクの浸透性が相対的に高い錠剤に、本実施形態に係るグレーインクを用いて印字し、一定時間(例えば140時間)経過させた状態における錠剤の厚さ方向の断面図である。
【0016】
なお、「インクの浸透性が相対的に高い錠剤」とは、印字後140時間経過時におけるインクの浸透量がインクの種類に依らず10μm以上である錠剤を意味する。一方、「インクの浸透性が相対的に低い錠剤」とは、印字後140時間経過時におけるインクの浸透量がインクの種類に依らず5μm以下である錠剤を意味する。インクの浸透性が相対的に高い錠剤種としては、例えば、表面に空隙が多い構造である粒径の粗い素錠が挙げられる。また、インクの浸透性が相対的に低い錠剤種としては、例えば、空隙が少ないフィルムコート部を備えた錠剤、即ちフィルムコート錠が挙げられる。
【0017】
従来技術に係るグレーインクには、例えば、赤色色素として食用染料である赤色102号(ニューコクシン(Color Index Name: Acid Red 18, CAS Number: 2611-82-7))と、青色色素として食用染料である青色1号(ブリリアントブルーFCF(FDA Name: FD & C Blue No.1, Color Index Name: Food Blue 2, CAS Number: 3844-45-9))と、緑色色素として食用染料である銅クロロフィリンナトリウムとを含んだものがある。また、その他の従来技術に係るグレーインクとしては、例えば、赤色102号と、青色1号と、黄色色素として食用染料である黄色4号(タートラジン(Tartrazine, FDA Name: FD & C Yellow No.5, Color Index Name: Acid Yellow 23, CAS Number: 1934-21-0))とを含んだものがある。以下、従来技術に係るグレーインクとして、赤色102号と、青色1号と、銅クロロフィリンナトリウムとを含んだものを例に挙げて説明する。
【0018】
なお、上述の「Color Index Name」とは、American Association of Textile Chemists and Colorists(米国繊維化学技術・染色技術協会)により制定されたものである。また、上述の「FDA Name」とは、米国FDA(Food and Drug Administration、米国食品医薬品局)にて制定されたものである。なお、本実施形態では、使用可能な各色素(各物質)をCAS Numberを用いて特定したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本実施形態に記載した色素(物質)と同一の物質名ではあるが、幾何異性体、立体異性体、同位体元素を含む物質、またはそれらの塩などであるため、異なるCAS Numberが付与された色素(物質)についても勿論、本実施形態では使用可能である。また、異性体等が存在しない場合や、使用可能な色素(物質)が特定(限定)されている場合には、本実施形態に記載のCAS Numberの物質(化合物)そのものが使用可能となる。
【0019】
従来技術に係るグレーインクをインクの浸透性が低い錠剤の表面に印刷した場合には、その低いインク浸透性に起因して、赤色色素4R、青色色素4B及び緑色色素4Gの各色素の浸透速度はほぼ同じとなる。そのため、図1(a)に示すように、印字後一定時間が経過しても、赤色色素4R、青色色素4B及び緑色色素4Gはそれぞれ錠剤の表面1S近傍に残留し、印字色はグレー(黒色)を呈する。つまり、従来技術に係るグレーインクは、インクの浸透性が低い錠剤に印刷した場合には、印字後一定時間が経過しても、印字直後の色調と同じグレー(黒色)を呈することができる。
【0020】
しかしながら、従来技術に係るグレーインクをインクの浸透性が高い錠剤に印刷した場合には、その高いインク浸透性に起因して、赤色色素4R、青色色素4B及び緑色色素4Gの各色素の浸透速度に差が生じることがある。これは、赤色色素4Rの浸透速度が、一般に、青色色素4B及び緑色色素4Gの各浸透速度よりも速いためである。そのため、図1(b)に示すように、印字後、赤色色素4Rは時間の経過とともに錠剤内部に浸透(移動)するが、青色色素4B及び緑色色素4Gは時間が経過してもそれぞれ錠剤の表面1S近傍に残留する傾向がある。その結果、印字直後はグレー(黒色)を呈していた印字色は、時間の経過とともに赤色が薄まり、全体として緑色を呈するようになる。つまり、従来技術に係るグレーインクは、インクの浸透性が高い錠剤の表面に印刷した場合には、経時変色が大きくなる傾向がある。また、その傾向は、赤色色素4Rが赤色102号である場合に大きくなる。
【0021】
これに対し、本実施形態に係るグレーインクは、第1の色素と、第1の色素とは色調が異なる第2の色素と、を少なくとも含んでいる。そして、第1の色素の錠剤に対する浸透速度と、第2の色素の錠剤に対する浸透速度との比(第1の色素の浸透速度/第2の色素の浸透速度)は、0.5以上1.7以下の範囲内となっている。より具体的には、本実施形態に係るグレーインクは、第1の色素として赤色色素4Rである赤色3号、赤色40号、赤色104号、赤色105号及び赤色106号の少なくとも1種を含み、第1の色素とは色調が異なる第2の色素として緑色色素4Gである銅クロロフィリンナトリウム(銅クロロフィリンNa)を含んでいる。つまり、本実施形態に係るグレーインクは、実質的に、赤色色素4Rとして赤色102号を含んでいない。
【0022】
本実施形態で使用する赤色3号、赤色40号、赤色104号、赤色105号及び赤色106号の各赤色色素4Rの浸透速度は、上述した赤色102号の浸透速度よりも低く、他の色素である銅クロロフィリンナトリウム等の浸透速度とほぼ同じである。ここで、「浸透速度がほぼ同じ」とは、赤色色素4Rの錠剤に対する浸透速度と、緑色色素4Gの錠剤に対する浸透速度との比(赤色色素4Rの浸透速度/緑色色素4Gの浸透速度)が0.5以上1.7以下の範囲内であることをいう。
【0023】
そのため、本実施形態に係るグレーインクをインクの浸透性が高い錠剤の表面に印刷した場合であっても、赤色色素4R及び緑色色素4Gの各浸透速度はほぼ同じとなる。そのため、図1(c)に示すように、印字後、赤色色素4R及び緑色色素4Gは時間の経過とともにほぼ同じ速度で錠剤の内部に浸透する。このため、錠剤の表面に特定の色素が残留することがなくなり、印字後一定時間が経過しても印字色は印字直後とほぼ同じグレー(黒色)を呈することができる。
なお、図1(c)では、本実施形態に係るグレーインクをインクの浸透性が高い錠剤の表面に印刷した場合について説明したが、本実施形態に係るグレーインクをインクの浸透性が低い錠剤の表面に印刷した場合には、赤色色素4R及び緑色色素4Gはそれぞれ錠剤の表面1S近傍に残留するため、印字後一定時間が経過しても印字色は印字直後とほぼ同じグレー(黒色)を呈することができる。
【0024】
本実施形態に係るグレーインクは、上述のように、赤色色素として赤色3号、赤色40号、赤色104号、赤色105号及び赤色106号の少なくとも1種を含んでいればよいが、赤色3号が最も好ましい。赤色3号であれば、他の赤色色素と比べて、浸透速度が銅クロロフィリンナトリウムの浸透速度に近づくため、より経時変色が小さくなる。
また、赤色色素の含有量は、本実施形態に係るグレーインク全体の質量に対し、0.05質量%以上5.0質量%以下の範囲内が好ましく、0.1質量%以上3.0質量%以下の範囲内がより好ましい。赤色色素の含有量が上記数値範囲内であれば、グレー(黒色)の色調がより強調される。
【0025】
また、緑色色素である銅クロロフィリンナトリウムの含有量は、本実施形態に係るグレーインク全体の質量に対し、0.4質量%以上15.0質量%以下の範囲内が好ましく、0.8質量%以上12.0質量%以下の範囲内がより好ましい。緑色色素の含有量が上記数値範囲内であれば、グレー(黒色)の色調がより強調される。
また、本実施形態に係るグレーインクにおいて、赤色色素の含有量は、緑色色素の含有量より少なくてもよい。赤色色素の含有量が緑色色素の含有量よりも少なければ、グレー(黒色)の色調がより強調される。
また、本実施形態に係るグレーインクは、第1の色素である赤色色素及び第2の色素である緑色色素以外に、それらとは色調が異なる第3の色素である青色色素を含んでいてもよい。第3の色素である青色色素は、例えば、食用染料である青色1号である。赤色色素及び緑色色素に青色色素を含めることで、グレー(黒色)の色調がさらに強調される。
【0026】
青色色素の含有量は、本実施形態に係るグレーインク全体の質量に対し、0.05質量%以上1.5質量%以下の範囲内が好ましく、0.1質量%以上1.2質量%以下の範囲内がより好ましい。青色色素の含有量が上記数値範囲内であれば、グレー(黒色)の色調がさらに強調される。
また、本実施形態に係るグレーインクにおいて、青色色素の含有量は、赤色色素の含有量以下であってもよい。青色色素の含有量が緑色色素の含有量以下であれば、グレー(黒色)の色調がさらに強調される。
また、本実施形態に係るグレーインクにおいて、青色色素の含有量は、赤色色素の含有量以下であってもよい。青色色素の含有量が緑色色素の含有量以下であれば、グレー(黒色)の色調がさらに強調される。
【0027】
また、本実施形態に係るグレーインクに含まれる各食用染料の含有量の合計は、インク全体の1.0質量%以上15.0質量%以下の範囲内であってもよい。各食用染料の含有量の合計が上記数値範囲内であれば、グレー(黒色)の色調がさらに強調される。なお、各食用染料の含有量の合計が1.0質量%未満であると、印字色全体が薄くなり、視認性が低下する傾向がある。また、各食用染料の含有量の合計が15.0質量%超であると、インクの粘度が高まり印刷機に備わるノズルが目詰まりするため、印字できなくなる可能性が高まる。
【0028】
(色素)
本実施形態に係るグレーインクに含まれる色素(色材)は、上述した色素以外の色素については、可食性のものであれば特に制限はない。本実施形態に係るグレーインクに添加可能な色素は、例えば、従来公知の合成食用色素、天然食用色素から適宜選択して添加することができる。
合成食用色素としては、例えば、タール系色素、天然色素誘導体、天然系合成色素等が挙げられる。タール系色素としては、例えば、赤色2号(Amaranth, FDA Name: FD & C Red No.2, Color Index Name: Acid Red 27, CAS Number: 915-67-3)、黄色4号(Tartrazine, FDA Name: FD & C Yellow No.5, Color Index Name: Acid Yellow 23, CAS Number: 1934-21-0)、黄色5号(Sunset Yellow FCF, FDA Name: FD & C Yellow No.6, Color Index Name: Food Yellow 3, CAS Number: 2783-94-0)、青色2号(Indigo Carmine, FDA Name: FD & C Blue No.2, Color Index Name: Acid Blue 74, CAS Number: 860-22-0)、赤色2号アルミニウムレーキ(FD & C Red No.2 Aluminum Lake)、赤色3号アルミニウムレーキ(FD & C Red No.3 Aluminum Lake)、赤色40号アルミニウムレーキ(FD & C Red No.40 Aluminum Lake)、黄色4号アルミニウムレーキ(FD & C Yellow No.5 Aluminum Lake)、黄色5号アルミニウムレーキ(FD & C Yellow No.6 Aluminum Lake)、青色1号アルミニウムレーキ(FD & C Blue No.1 Aluminum Lake)、青色2号アルミニウムレーキ(FD & C Blue No.2 Aluminum Lake)等が挙げられる。天然色素誘導体としては、例えば、ノルビキシンカリウム等が挙げられる。天然系合成色素としては、例えば、β-カロテン、リボフラビン等が挙げられる。
【0029】
また、天然食用色素としては、例えば、アントシアニン系色素、カロチノイド系色素、キノン系色素、クロロフィル系色素、フラボノイド系色素、ベタイン系色素、モナスカス色素、その他の天然物を起源とする色素が挙げられる。アントシアニン系色素としては、例えば、赤ダイコン色素、赤キャベツ色素、赤米色素、エルダーベリー色素、カウベリー色素、グーズベリー色素、クランベリー色素、サーモンベリー色素、シソ色素、スィムブルーベリー色素、ストロベリー色素、ダークスィートチェリー色素、チェリー色素、ハイビスカス色素、ハクルベリー色素、ブドウ果汁色素、ブドウ果皮色素、ブラックカーラント色素、ブラックベリー色素、ブルーベリー色素、プラム色素、ホワートルベリー色素、ボイセンベリー色素、マルベリー色素、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素、ムラサキヤマイモ色素、ラズベリー色素、レッドカーラント色素、ローガンベリー色素、その他のアントシアニン系色素が挙げられる。カロチノイド系色素としては、例えば、アナトー色素、クチナシ黄色素、その他のカロチノイド系色素が挙げられる。キノン系色素としては、例えば、コチニール色素、シコン色素、ラック色素、その他のキノン系色素が挙げられる。フラボノイド系色素としては、例えば、ベニバナ黄色素、コウリャン色素、タマネギ色素、その他のフラボノイド系色素が挙げられる。ベタイン系色素としては、例えば、ビートレッド色素が挙げられる。モナスカス色素としては、例えば、ベニコウジ色素、ベニコウジ黄色素が挙げられる。その他の天然物を起源とする色素としては、例えば、ウコン色素、クサギ色素、クチナシ赤色素、スピルリナ青色素などが挙げられる。
【0030】
(分散媒)
本実施形態に係るグレーインクは、上述の色素以外に、上述の色素を分散(溶解)させるために分散媒(溶媒)を含有してもよい。本実施形態に係るグレーインクに添加可能な分散媒としては、例えば、精製水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール300(平均分子量300)、1-プロパノール(n-プロピルアルコール)、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、乳酸エチルなどが挙げられる。特に配合割合は限定するものではないが、インクでのノズルでの乾燥を防止するために、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール300のいずれかを、インク中に1質量%以上30質量%以下の範囲内で含有させることがより好ましい。含有量が1質量%より少ないと、インクの乾燥が起こりやすくなりノズルの目詰まりの原因となり、30質量%を超えると医療用錠剤表面における印字表面の乾燥が遅くなりすぎ、印刷した錠剤同士が接触したときに未乾燥のインクがもう一方の錠剤に付着して汚れとなるといった不具合の原因となることがある。
【0031】
また、上述の分散媒のうち、プロピレングリコールであれば、他の分散媒と比較して、赤色3号を容易に分散させることができる。
また、上述の分散媒のうち、グリセリンであれば、他の分散媒と比較して、粘度が高くインク全体の浸透量を抑えられるため、各色素の浸透速度をほぼ同じにすることができる。その結果、本実施形態に係るグレーインクであれば、インクの浸透性が相対的に高く、一般にインクが経時変色しやすい印刷対象物に対しても、経時変色を低減しつつ印刷をすることができる。
【0032】
本実施形態における印刷対象物である医療用錠剤等に制限はないが、特に、表面がフィルムコート層で被覆されていない素錠において効果が高い傾向がある。表面がフィルムコート層で被覆されていない素錠は、表面がフィルムコート層で被覆されたフィルムコート錠と比べて、インクの浸透性が高まる傾向がある。このため、素錠においては、フィルムコート錠と比べて、各色素の浸透速度差が大きくなる傾向がある。本実施形態に係るグレーインクであればその浸透速度差を小さくすることができるため、特定の色素成分が錠剤表面に残ることがなく、印字された印字部における経時変色を小さくすることができる。なお、フィルムコート錠であっても、フィルムコート層がインクの浸透性が高い物質で形成されている場合には、本実施形態に係るグレーインクであれば各色素の浸透速度差を小さくすることができるため、特定の色素成分が錠剤表面に残ることがなく、印字された印字部における色調の変化を小さくすることができる。
【0033】
〔印刷方法〕
本実施形態に係るグレーインクは、印刷方法について特に限定されず、市販のインクジェットプリンタ等のインクジェット装置を用いた印刷が可能である。このため、本実施形態に係るインクジェットインクは、応用範囲が広く、非常に有用である。例えば、本実施形態に係るインクジェットインクは、ピエゾ素子(圧電セラミックス)をアクチュエータとする、所謂ドロップオンデマンド方式のインクジェット装置で印刷し得るし、他の方式のインクジェット装置でも印刷し得る。
【0034】
ドロップオンデマンド方式のインクジェット装置としては、例えば、微小発熱素子を瞬間的に高温(200~300℃)にすることで発生する水蒸気圧力でインクジェットインクを吐出するサーマルインクジェット方式を採用した装置や、アクチュエータを静電気振動させることでインクジェットインクを吐出する静電タイプの装置、超音波のキャビテーション現象を利用する超音波方式を採用した装置等が挙げられる。また、本実施形態に係るグレーインクが荷電性能を備えていれば、連続噴射式(コンティニュアス方式)を採用した装置を利用することも可能である。
【0035】
〔錠剤〕
本実施形態では、本実施形態に係るグレーインクを、上述の印刷方法を用いて、例えば錠剤の表面に印字、印画してもよい。つまり、本実施形態に係るグレーインクであれば、例えば、医療用錠剤の表面にインクジェット印刷法を用いて施された印字部、即ち印刷画像の変色性を向上させることができる。以下、実施形態に係るグレーインクで印刷した印刷画像を備える錠剤の構成について説明する。
本実施形態に係る錠剤は、例えば、医療用錠剤である。ここで、「医療用錠剤」とは、例えば、素錠(裸錠)、糖衣錠、腸溶錠、口腔内崩壊錠などのほか、錠剤の最表面に水溶性表面層が形成されているフィルムコート錠などを含むものである。
【0036】
図2は、印刷(印字、印画)がなされた医療用錠剤(素錠)の一例を示す概略断面図である。図2には、断面視で、錠剤の基材1の上面に文字などの印刷画像3が印刷された素錠印刷物5が示されている。
図3は、印刷(印字、印画)がなされた医療用錠剤(フィルムコート錠)の一例を示す概略断面図である。図3には、断面視で、表面にフィルムコート層7が形成された錠剤の基材1の上面に文字などの印刷画像3が印刷されたフィルムコート錠印刷物9が示されている。
なお、本実施形態では、図4に示すように、素錠印刷画像11としてベタ画像を印刷してもよく、図5に示すように、フィルムコート錠印刷画像13として二次元バーコードを印刷してもよい。
【0037】
医療用錠剤中に含有される活性成分は特に限定されない。例えば、種々の疾患の予防・治療に有効な物質(例えば、睡眠誘発作用、トランキライザー活性、抗菌活性、降圧作用、抗アンギナ活性、鎮痛作用、抗炎症活性、精神安定作用、糖尿病治療活性、利尿作用、抗コリン活性、抗胃酸過多作用、抗てんかん作用、ACE阻害活性、β-レセプターアンタゴニストまたはアゴニスト活性、麻酔作用、食欲抑制作用、抗不整脈作用、抗うつ作用、抗血液凝固活性、抗下痢症作用、抗ヒスタミン活性、抗マラリア作用、抗腫瘍活性、免疫抑制活性、抗パーキンソン病作用、抗精神病作用、抗血小板活性、抗高脂血症作用等を有する物質など)、洗浄作用を有する物質、香料、消臭作用を有する物質等を含むが、それらに限定されない。
【0038】
本実施形態に係る錠剤は、必要に応じて、活性成分とともにその用途上許容される担体を配合することができる。例えば、医療用錠剤であれば、医薬上許容される担体を配合することができる。医薬上許容される担体としては、錠剤の素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、増粘剤等が適宜適量配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の添加物を用いることもできる。
本実施形態では、錠剤として医療用錠剤を例に挙げて説明したが、本発明のこれに限定されるものではない。本実施形態に係るグレーインクの印刷対象は特に制限されず、例えば、飼料、肥料、洗浄剤、ラムネ菓子などの食品といった各種錠剤の表面に印刷してもよい。また、本実施形態に係るグレーインクは、印刷対象のサイズについても特に制限されず、種々のサイズの錠剤について適用可能である。
【0039】
〔グレー(黒色)以下の色を呈するインクジェットインクの構成〕
本実施形態では、グレーまたは黒色を呈するインクジェットインクの構成について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、銅クロロフィリンナトリウム、青色1号、赤色3号、赤色40号、赤色104号、赤色105号及び赤色106号からなる食用染料の群から選ばれる少なくとも2種類を含むインクジェットインクであれば、経時変色を小さくすることができる。これは、上述した各色素の浸透速度が、インクの浸透性が相対的に高い印刷対象物の表面に印刷した場合であってもほぼ同じ値だからである。
なお、上述したインクジェットインクにおける色素の配合量やインクの溶媒等については、グレーインクの場合と同じであるため、ここではその説明を省略する。
【0040】
〔その他の変形例〕
本実施形態では、「色素の浸透速度」を、印字後一定時間(例えば140時間)経過させた状態において測定された錠剤の表面からインク浸透部の下端までの距離を、印字後の経過時間で割ることで算出したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、薄層クロマトグラフィー(thin-layer chromatography, TLC)で用いられる、試料の移動度(Rf値)を用いてもよい。この移動度(Rf値)を色素の移動に要した時間で割って、「色素の浸透速度」を算出してもよい。
また、本実施形態では、表面が白色(白色度70度以上)の錠剤を被印刷物とした場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。被印刷物は、例えば、表面が赤色の錠剤であってもよい。その場合であっても経時変色を小さくすることができる。具体的には、表面が赤色の錠剤上に、銅クロロフィリンナトリウム及び青色1号を含んだインクで印字した場合、その印字色はグレーまたは黒色を呈し、且つインクの経時変色は小さくなる。
【0041】
〔測定方法〕
また、印刷した錠剤やインクの物性測定や試験の例として次のものが挙げられる。
(耐光試験)
太陽光曝露または、それと同等の結果が得られる試験機(例:キセノンウェザーメーター(東洋精機製作所 Ci4000))を用いて、累積120万ルクスの可視光を照射し、照射前後の色差ΔEで評価を行うもの。印刷した錠剤に対して行う。
(耐湿試験)
厚生労働省通知の原薬の安定性試験(加速試験)に準拠する、印字錠剤の40℃±2℃、75%RH±5%RH(RH:相対湿度)における曝露前後での色差ΔEで評価を行うもの。印刷した錠剤に対して行う。曝露方法:恒温恒湿機(例:エスペック社製 CSHシリーズ)
【0042】
(表面張力)
インクを白金プレート法により測定を行うもの。(測定器例:協和界面科学社製 DY-700)
(粘度)
インクをコーンプレート式粘度計により測定を行うもの。(測定器例:ブルックフィールド社製 DV1MCP)
(透過吸光度)
インクを分光光度計により測定を行うもの。(測定器例:島津製作所 可視紫外分光光度計 UV-2450)
【0043】
また、本実施形態では、可食性を有するインクジェットインクであって、食用染料である第1の色素と、食用染料であり、第1の色素とは色調が異なる第2の色素と、を少なくとも含んだグレーインク、即ち第1の色素と第2の色素とを予め含んだインクを、錠剤等に印字する形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第1の色素を少なくとも含む第1のインクジェットインクと、第2の色素を少なくとも含む第2のインクジェットインクとを重ね合わせるように個別に印字しても、上述した実施形態と同じ効果を得ることができる。即ち、2種類の単色のインクジェットインクを重ね合わせるように個別に印字しても、印字色をグレーまたは黒色に保持しつつ、経時変色が小さく安定した色味を呈することができる。以下、本実施形態の変形例について説明する。
【0044】
本実施形態の変形例に係る被印刷物は、インクジェット印刷により印刷面を形成した被印刷物であって、その印刷面は、グレーまたは黒色を呈し、且つその印刷面は、食用染料である第1の色素を少なくとも含む第1のインクジェットインクと、食用染料であり、前記第1の色素とは色調が異なる第2の色素を少なくとも含む第2のインクジェットインクとを重ね合わせて印刷した印刷面であり、第1の色素は、赤色3号、赤色40号、赤色104号、赤色105号及び赤色106号の少なくとも1種である。例えば、本実施形態の変形例に係る被印刷物に備わる印刷面は、図6(a)に示すように、銅クロロフィリンナトリウムを少なくとも含む第2のインクジェットインクを用いて印字した後に、図6(b)に示すように、赤色3号、赤色40号、赤色104号、赤色105号及び赤色106号の少なくとも1種を少なくとも含む第1のインクジェットインクを用いて重ね打ち(重ね印刷)してもよい。
なお、上述の印刷面は、第1のインクジェットインクを用いて印字した後に、その印字と重なるように、第2のインクジェットインクを用いて印字して形成されてもよい。つまり、上述の印刷面を形成する際、使用するインクジェットインクの順序は問わない。
【0045】
また、本実施形態の変形例に係る被印刷物は、第2の色素が銅クロロフィリンナトリウムであってもよい。
また、本実施形態の変形例に係る被印刷物は、第1の色素が赤色3号であってもよい。
また、本実施形態の変形例に係る被印刷物は、印刷面が第1のインクジェットインクと、第2のインクジェットインクと、食用染料であり、第1の色素及び第2の色素とは色調が異なる第3の色素を少なくとも含む第3のインクジェットインクとを重ね合わせて印刷した印刷面であり、第3の色素が青色1号であってもよい。例えば、本実施形態の変形例に係る被印刷物に備わる印刷面は、図6(a)に示すように、銅クロロフィリンナトリウムを少なくとも含む第2のインクジェットインクを用いて印字した後に、図6(b)に示すように、赤色3号、赤色40号、赤色104号、赤色105号及び赤色106号の少なくとも1種を少なくとも含む第1のインクジェットインクを用いて重ね打ち(重ね印刷)し、その後、青色1号を少なくとも含む第3のインクジェットインクを用いて重ね打ち(重ね印刷)してもよい(図示せず)。
【0046】
なお、上述の印刷面は、第1のインクジェットインクを用いて印字した後に、その印字と重なるように、第2のインクジェットインクを用いて印字し、その印字と重なるように、第3のインクジェットインクを用いて印字して形成されてもよい。また、上述の印刷面は、第3のインクジェットインクを用いて印字した後に、その印字と重なるように、第2のインクジェットインクを用いて印字し、その印字と重なるように、第1のインクジェットインクを用いて印字して形成されてもよい。つまり、上述の印刷面を形成する際、使用するインクジェットインクの順序は問わない。
また、本実施形態の変形例に係る被印刷物は、印刷面の形成後140時間経過した状態における経時変色(ΔE)が5以下であってもよい。
また、本実施形態の変形例に係る被印刷物は、インクに含まれる溶媒として、グリセリン、プロピレングリコール、水、エタノール及びイソプロピルアルコールの少なくとも1種を含んでいてもよい。
また、本実施形態の変形例に係る被印刷物は、インクに含まれる溶媒として、グリセリンを少なくとも含んでいてもよい。
【実施例
【0047】
(第1実施例)
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。
(インクジェットインクの製造)
まず、印刷用インクを調製した。インクジェットインクは、色素(色材)、有機溶媒、水(精製水)、レベリング剤、殺菌剤の各成分を含んでいる。調製の順序としては、最初に、水と有機溶媒とを混合して混合溶媒を得た。次に、その混合溶媒に、レベリング剤と殺菌剤とを添加して透明ベース液を得た。最後に、その透明ベース液に、色材を添加した。こうして、本実施例に係るインクを調製した。以下、具体的に各種成分について説明する。
【0048】
レベリング剤は、インクジェットヘッドからの吐出ドロップが良好に形成できるように、インクの表面張力を調整する材料である。インクの表面張力は、具体的には、24mN/m~34mN/mの範囲内にあると好ましい。但し、錠剤の表層での濡れ性や内部への浸透性を考慮すると、なるべく小さな表面張力値、すなわち濡れ性の良い表面張力値を選択する必要がある。そこで、本実施例では、24mN/m~28mN/mの表面張力になるようにインクを調製した。なお、表面張力値は小さければ小さいほどよいわけではない。例えば、表面張力値が24mN/m未満では液滴にならず、ミスト不良やスプラッシュ現象(吐出の玉割れ)等、吐出不良を引き起こすことがある。
本実施例では、インクを構成する水(精製水)としてイオン交換水を用いた。また、有機溶媒には、グリセリン、プロピレングリコール及びエタノールの少なくとも1種を用いた。
【0049】
前述の水と有機溶媒とを混合した混合溶媒に、殺菌剤としてエチルパラベンを、続いてレベリング剤としてグリセリン脂肪酸エステル(製品名:「A-121E」太陽化学社製)を加え、1時間程度撹拌して透明ベース液を得た。
前述の透明ベース液に異なる割合で色材を加え、実施例1~22及び比較例1~2のインクを得た。それぞれのインクの組成を表1に示す。なお、表1中に示す「空欄」は、その色素を添加していないことを意味する。なお、実施例1~16、20~22及び比較例1~2のインクの色調は、グレー(黒色)である。また、実施例17のインクの色調は青緑色であり、実施例18のインクの色調は紅色であり、実施例19のインクの色調は紫色である。
ここで、「青緑色」とは、視野角が2°、光源がD50の条件で測定したL*a*b*表色系で表される色調のうち、
L* 30~90
a* -80~0
b* -50~0
の範囲に入り、前記「グレー」「黒」の範囲に入らない色味(色調)をいう。
【0050】
また、「紅色」とは、視野角が2°、光源がD50の条件で測定したL*a*b*表色系で表される色調のうち、
L* 30~90
a* +15~+100
b* -10~+15
の範囲に入り、前記「グレー」「黒」の範囲に入らない色味(色調)をいう。
【0051】
また、「紫色」とは、視野角が2°、光源がD50の条件で測定したL*a*b*表色系で表される色調のうち、
L* 30~90
a* 0~+80
b* -50~-10
の範囲に入り、前記「グレー」「黒」「青緑色」「紅色」の範囲に入らない色味(色調)をいう。
【0052】
【表1】
【0053】
前述の実施例1~22及び比較例1~2の各インクを、それぞれメンブレンフィルターを通過させることによって液中の固体異物を除去した。具体的には、口径5.0μmのメンブレンフィルター(酢酸セルロース膜)を1回透過させ、続いて口径0.8μmのメンブレンフィルター(酢酸セルロース膜)を1回透過させることで精製インクをそれぞれ得た。
【0054】
(印刷)
上記精製インクを用いて、ベンディングモードピエゾ式インクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンタにて、表面の白色度が70度以上であるテスト用錠剤A~Dに円形のベタ画像(直径4.0mm)の印刷を行なった。この結果、実施例1~22及び比較例1~2の各インクで印刷された素錠及びフィルムコート錠をそれぞれ得た。
なお、テスト用錠剤A~Dの成分等は、以下の通りである。
・テスト用錠剤A
錠剤の種類:素錠
成分:乳糖(タブレトース80、メグレ社製)80%、セルロース20%
・テスト用錠剤B
錠剤の種類:徐放性素錠
成分:乳糖(タブレトース80、メグレ社製)50%、グリセリルベヘネート15%、セルロース35%
・テスト用錠剤C
錠剤の種類:ホワイトフィルムコート錠
基材成分:乳糖(タブレトース80、メグレ社製)80%、セルロース20%
表面コート成分:ヒプロメロース70%、酸化チタン20%、タルク10%
・テスト用錠剤D
錠剤の種類:クリアフィルムコート錠
基材成分:乳糖(タブレトース80、メグレ社製)75%、セルロース25%
表面コート成分:ヒプロメロース100%
【0055】
(経時変色ΔEの測定について)
<印字後のテスト用錠剤の保管方法>
印字後のテスト用錠剤を、遮光アルミパウチにそれぞれ封入し、室温25℃の部屋で保管した。また、印字されたテスト用錠剤は、経時変色ΔEを測定する際にのみ(印字後24・72・140時間後)に取り出し、測定後直ちに(1分以内に)遮光アルミパウチ内に戻した。なお、本実施例で経時変色ΔEを測定する際に「140時間後」を選択した理由を以下簡単に説明する。
経時変色は色素が経時で錠剤等の内部に浸透することで発生するが、前述の実施例1~22及び比較例1~2の各インク全てについて、印字後の経過時間が100時間~140時間の間で色(色調)の変化が飽和することを確認できた。そこで、印字後140時間を経過した時点で最終的な経時変色ΔEを測定することとした。
【0056】
<測定方法及び測定装置>
テスト用錠剤上に、実施例1~22及び比較例1~2の各インクを用いて円形のベタ画像(直径4.0mm)を印字した。次に、その印字したベタ画像の上面に、X-rite社製分光濃度計「X-rite530」を置き、反射光の色調(L*a*b*表色系)を測定した。設定条件は、視野角を2°とし、光源をD50とした。
【0057】
<経時変色の評価>
経時変色の評価は、印字直後の色調と印字後140時間経過後における色調との差、即ち印字後140時間経過後における経時変色ΔEの値に基づいて決定した。なお、経時変色ΔEの値が小さい程、経時変色が小さいことを意味する。
◎:3未満
○:3以上4未満
△:4以上5未満
×:5以上
なお、経時変色ΔEの評価が「◎」、「○」及び「△」であれば、使用上何ら不都合がないため、合格とした。
【0058】
以下、テスト用錠剤A~Dの表面に、実施例1~22及び比較例1~2の各インクを用いて印字した印字部における経時変色ΔEの結果を表2~5に示す。ここで、各表中の「初期色」とは、印字直後の色調を意味している。また、「初期色」の欄に記載された数値は、印字直後に測定した、「L*」、「a*」及び「b*」の各値である。
なお、表2には、錠剤としてテスト用錠剤Aを用いた結果を示している。
また、表3には、錠剤としてテスト用錠剤Bを用いた結果を示している。
また、表4には、錠剤としてテスト用錠剤Cを用いた結果を示している。
また、表5には、錠剤としてテスト用錠剤Dを用いた結果を示している。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
(浸透量の測定について)
本実施例では、実施例1~22及び比較例1~2で用いた各色素の浸透量についても測定した。以下、実施例1~22及び比較例1~2で用いた各色素の浸透量について、簡単に説明する。
まず、実施例1~22及び比較例1~2で用いた色素を1種類のみ含んだインクジェットインク、即ち単色のインクジェットインクを製造した。次に、そのインクジェットインクを用いて印字した後140時間経過させたテスト用錠剤Aをパラフィンでそれぞれ包埋し、ミクロトームを使用して断面が見えるように切り出した。次に、カメラ付き光学顕微鏡を用いて2000倍に拡大し観察して、テスト用錠剤Aの断面画像を撮影した。
【0064】
最後に、撮影した断面画像において、テスト用錠剤Aの表面からインク浸透部の下端(テスト用錠剤の表面から最も離れた位置)までの距離を測定した。この測定を10サンプルに対して行い平均化することで、実施例1~22及び比較例1~2で用いた各色素の浸透量を決定した。
こうして得た、実施例1~22及び比較例1~2で用いた各色素の浸透量を表6に示す。
なお、上記方法により測定した距離(浸透量)を、印字後の経過時間(140時間)で割ることで、実施例1~22及び比較例1~2で用いた各色素の「浸透速度」を算出することもできる。
【0065】
【表6】
【0066】
表6の結果から明らかなように、赤色3号、赤色40号、赤色104号、赤色105号、赤色106号及び青色1号の浸透量(浸透速度)は、銅クロロフィリンナトリウムの浸透量(浸透速度)の0.5倍以上1.7倍以下の範囲内となっている。
また、赤色102号の浸透量(浸透速度)は、銅クロロフィリンナトリウムの浸透量(浸透速度)の2.8倍となっている。
【0067】
表2~6の結果から明らかなように、グレーインクが第1の色素と第2の色素とを少なくとも含み、グレーインクに含まれる色素のうち、最も含有量が多い色素を第2の色素とした場合、第1の色素の印刷対象物である錠剤に対する浸透速度と、第2の色素の印刷対象物である錠剤に対する浸透速度との比(第1の色素の浸透速度/第2の色素の浸透速度)が0.5以上1.7以下の範囲内となっていれば、インクの浸透性が相対的に高い印刷対象物である素錠の表面に印刷した場合であっても、インクの浸透性が相対的に低い印刷対象物であるフィルムコート錠の表面に印刷した場合と同様に、経時変色を小さくすることができる。
【0068】
また、グレー(黒色)以外の色調のインクであっても、第1の色素と第2の色素とを少なくとも含み、そのインクに含まれる色素のうち、最も含有量が多い色素を第2の色素とした場合、第1の色素の印刷対象物である錠剤に対する浸透速度と、第2の色素の印刷対象物である錠剤に対する浸透速度との比(第1の色素の浸透速度/第2の色素の浸透速度)が0.5以上1.7以下の範囲内となっていれば、インクの浸透性が相対的に高い印刷対象物である素錠の表面に印刷した場合であっても、インクの浸透性が相対的に低い印刷対象物であるフィルムコート錠の表面に印刷した場合と同様に、経時変色を小さくすることができる。
【0069】
また、グレーインクが第1の色素と第2の色素とを少なくとも含み、第1の色素が、赤色3号、赤色40号、赤色104号、赤色105号、及び赤色106号の少なくとも1種であれば、インクの浸透性が相対的に高い印刷対象物である素錠の表面に印刷した場合であっても、インクの浸透性が相対的に低い印刷対象物であるフィルムコート錠の表面に印刷した場合と同様に、経時変色を小さくすることができる。
また、グレー(黒色)以外の色調のインクであっても、第1の色素と第2の色素とを少なくとも含み、第1の色素が、赤色3号、赤色40号、赤色104号、赤色105号、及び赤色106号の少なくとも1種であれば、インクの浸透性が相対的に高い印刷対象物である素錠の表面に印刷した場合であっても、インクの浸透性が相対的に低い印刷対象物であるフィルムコート錠の表面に印刷した場合と同様に、経時変色を小さくすることができる。
【0070】
(第2実施例)
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。
(インクジェットインクの製造)
まず、印刷用インクを調製した。インクジェットインクは、色素(色材)、有機溶媒、水(精製水)、レベリング剤、殺菌剤の各成分を含んでいる。調製の順序としては、最初に、水と有機溶媒とを混合して混合溶媒を得た。次に、その混合溶媒に、レベリング剤と殺菌剤とを添加して透明ベース液を得た。最後に、その透明ベース液に、色材を添加した。こうして、本実施例に係るインクを調製した。なお、有機溶媒、水(精製水)、レベリング剤、殺菌剤の各成分については、第1実施例で説明したものと同じものを用いた。そのため、本実施例では、有機溶媒、水(精製水)、レベリング剤、殺菌剤の各成分についての説明は省略する。
【0071】
前述の水と有機溶媒とを混合した混合溶媒に、殺菌剤としてエチルパラベンを、続いてレベリング剤としてグリセリン脂肪酸エステル(製品名:「A-121E」太陽化学社製)を加え、1時間程度撹拌して透明ベース液を得た。
前述の透明ベース液に色材を加え、実施例23~28及び比較例3のインクを得た。それぞれのインクの組成を表7に示す。なお、表7中に示す「空欄」は、その色素を添加していないことを意味する。
【0072】
【表7】
【0073】
前述の実施例23~28及び比較例3の各インクを、それぞれメンブレンフィルターを通過させることによって液中の固体異物を除去した。具体的には、口径5.0μmのメンブレンフィルター(酢酸セルロース膜)を1回透過させ、続いて口径0.8μmのメンブレンフィルター(酢酸セルロース膜)を1回透過させることで精製インクをそれぞれ得た。
【0074】
(印刷)
上記精製インクを用いて、ベンディングモードピエゾ式インクジェットヘッドを3個搭載したインクジェットプリンタにて、表8に記載した各インクを用いて、いわゆる「重ね印刷」を行った。
本実施例で用いたプリンタは、ヘッドA、ヘッドB、ヘッドCがそれぞれ並行に並び、ヘッドを載せたテーブルが移動することで同じ被印刷物上に重ね打ち(重ね印刷)ができるようになっている。
表8に記載した組合せにて各ヘッドに各インクを充填し、各ヘッドからの吐出量を一律12pLとし、600dpiにて印刷を行った。なお、印刷は、テスト用錠剤Aに円形のベタ画像(直径4.0mm)の印刷を行なった。この結果、実施例23~28及び比較例3の各インクで印刷された素錠をそれぞれ得た。
なお、テスト用錠剤Aの成分等は、第1実施例で説明した通りである。
【0075】
【表8】
【0076】
(経時変色ΔEの測定について)
<印字後のテスト用錠剤の保管方法>
印字後のテスト用錠剤を、遮光アルミパウチにそれぞれ封入し、室温25℃の部屋で保管した。また、印字されたテスト用錠剤は、経時変色ΔEを測定する際にのみ(印字後24・72・140時間後)に取り出し、測定後直ちに(1分以内に)遮光アルミパウチ内に戻した。
【0077】
<経時変色の評価>
経時変色の評価は、印字直後の色調と印字後140時間経過後における色調との差、即ち印字後140時間経過後における経時変色ΔEの値に基づいて決定した。なお、経時変色ΔEの値が小さい程、経時変色が小さいことを意味する。
◎:3未満
○:3以上4未満
△:4以上5未満
×:5以上
なお、経時変色ΔEの評価が「◎」、「○」及び「△」であれば、使用上何ら不都合がないため、合格とした。
以上のように、本実施例で説明した単色のインクを同じ被印刷物上に重ね打ち(重ね印刷)した場合であっても、単色のインクを混合させて形成したインクを用いた場合と同様(第1実施例と同様に)に、経時変色を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0078】
1:錠剤の基材
1S:錠剤の基材表面
3:印刷画像
4R:赤色色素
4G:緑色色素
4B:青色色素
5:素錠印刷物
7:フィルムコート層
9:フィルムコート錠印刷物
11:素錠印刷画像(ベタ画像)
13:フィルムコート錠印刷画像(二次元バーコード)
図1
図2
図3
図4
図5
図6