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特許7643566ラマン-赤外分光分析複合機、およびラマン分光と赤外分光による測定方法
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  • 特許-ラマン-赤外分光分析複合機、およびラマン分光と赤外分光による測定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】ラマン-赤外分光分析複合機、およびラマン分光と赤外分光による測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20250304BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20250304BHJP
   G01N 21/35 20140101ALI20250304BHJP
   G02B 21/06 20060101ALI20250304BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
G01N21/65
G01N21/27 E
G01N21/35
G02B21/06
G02B21/36
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023545079
(86)(22)【出願日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2022019042
(87)【国際公開番号】W WO2023032352
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2021140776
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】篠山智生
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/132734(WO,A1)
【文献】特開2014-219623(JP,A)
【文献】国際公開第2019/092772(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106442401(CN,A)
【文献】特開2008-281513(JP,A)
【文献】国際公開第2020/075548(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0192462(US,A1)
【文献】特開2012-123039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00- G01N 21/956
G02B 21/00- G02B 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外分光分析用光源とラマン分光分析用光源、
サンプルを固定するプレート、
前記プレートを配置するステージ、
前記ラマン分光分析用光源からの光をサンプルに入射させラマン光を得るための対物光学素子、
前記赤外分光分析用光源からの光をサンプルに入射させ反射した赤外光を得るための対物光学素子、
可視画像を生成するための光学撮影素子を有するラマン光検出系、
および
可視画像を生成するための光学撮影素子を有する赤外光検出系、を有し、
前記プレートの位置と前記ラマン光を得るための対物光学素子および前記赤外光を得るための対物光学素子との位置関係を調整するための駆動部、
前記ラマン光検出系と前記赤外光検出系を切り替える切換え部、および
前記駆動部、前記切換え部および前記光学撮影素子を制御するための制御部、を備え、
前記プレートおよび前記ステージの少なくとも一方に前記位置関係を調整するためのマーカが付与されており、
前記制御部は、前記ラマン光検出系および前記赤外光検出系で取得された可視画像上の前記マーカの位置に基づき、前記プレートの位置と前記ラマン光を得るための対物光学素子および前記赤外光を得るための対物光学素子との位置関係を調整するように駆動部を制御するラマン-赤外分光分析複合機。
【請求項2】
前記切換え部は、前記ラマン光検出系と前記赤外光検出系の切換えに対応して前記ラマン光を得るための対物光学素子と前記赤外光を得るための対物光学素子を切換える請求項1に記載のラマン-赤外分光分析複合機。
【請求項3】
前記ラマン光検出系の可視画像および前記赤外光検出系の可視画像がそれぞれ標線を有する請求項1または2のいずれかに記載のラマン-赤外分光分析複合機。
【請求項4】
前記制御部が記憶部を有し、前記記憶部は前記ラマン光検出系と前記赤外光検出系の切換え時に、前記ラマン光検出系の可視画像上および前記赤外光検出系の可視画像上で視認される前記マーカの位置と、前記ラマン光検出系の可視画像および前記赤外光検出系の可視画像の標線とのずれ量を記憶し、前記ラマン光検出系と前記赤外光検出系の切換え毎に、前記記憶部に記憶された前記ずれ量に基づき、前記制御部が前記プレートの位置と前記ラマン光を得るための対物光学素子または前記赤外光を得るための対物光学素子との位置関係を調整する請求項3に記載のラマン-赤外分光分析複合機。
【請求項5】
前記ずれ量が前記可視画像上のピクセルのずれ量である請求項4に記載のラマン-赤外分光分析複合機。
【請求項6】
前記駆動部が、前記プレートの位置と前記ラマン光を得るための対物光学素子および前記赤外光を得るための対物光学素子との位置関係を調整するために前記ステージを駆動する請求項1に記載のラマン-赤外分光分析複合機。
【請求項7】
前記マーカが前記ステージ上に付与されている請求項1に記載のラマン-赤外分光分析複合機。
【請求項8】
前記赤外光を得るための対物光学素子がカセグレン鏡である請求項1に記載のラマン-赤外分光分析複合機。
【請求項9】
ラマン光源が532nmと785nmの光を照射する請求項1に記載のラマン-赤外分光分析複合機。
【請求項10】
サンプルに光を照射し、
サンプルからのラマン光および赤外光を検出する際に、
サンプルを固定するプレートおよび前記プレートを配置するステージの少なくとも一方に付与されたマーカを可視画像上で確認し、
前記マーカのずれを確認し、
マーカがずれていたら前記プレートの位置と、ラマン光検出用の対物光学素子および赤外光検出用の対物光学素子との位置関係を調整する、
ラマン分光と赤外分光による測定方法。
【請求項11】
前記マーカのずれを、前記マーカと可視画像上に設けられた標線とのずれで確認する請求項10に記載の測定方法。
【請求項12】
ラマン光検出用の対物光学素子および赤外光検出用の対物光学素子との位置関係の調整をステージを動かして行う請求項10または11のいずれかに記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマン-赤外分光分析複合機に関する。より詳細には、本発明はラマン分光分析と赤外分光分析とを有する複合分析装置に関する。また本発明は赤外分光分析法とラマン分光分析法を用いた分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
未知の物質を分析する手法は種々、知られており、分析対象物に応じて分析手段を適宜選択することで、より精度よく未知の物質を分析することが可能となる。例えば特許文献1には、無機物と有機物が混在する分析対象物の分析を、無機物領域は回折X線および蛍光X線を用いて、有機物領域はFT-IR、蛍光分析またはラマン分析を用いて分析する分析装置が記載されている。
【0003】
特に赤外分析およびラマン分析はいずれも分子内の分子振動を測定することから、未知の有機物の分子構造を分析するための有力な手段である。また赤外分析から得られる情報とラマン分析から得られる情報は相補的な関係にあり、両分析方法を組み合わせることで、より詳細かつ高精度で未知の有機物の分子構造を解明することができる。
【0004】
最近では微小試料の分析や微小領域の分析のために顕微鏡と組み合わせた分析方法も知られている。
特許文献2には顕微鏡光学系と紫外、可視または赤外領域の吸収スペクトルとラマンスペクトルを取得する分光部を備えた観測装置が記載されている。
【0005】
例えば、赤外光検出系において顕微鏡光学系の対物光学素子として対物鏡を、ラマン光検出系において顕微鏡光学系の対物光学素子として対物レンズを使用するように、赤外光検出系とラマン光検出系で用いられる対物光学素子が異なることが一般的である。したがって赤外光検出系とラマン光検出系を切り換える際に、顕微鏡光学系も切り換える必要がある。すなわち赤外光検出系とラマン光検出系を切り換える際に、同時に赤外光検出系の対物光学素子とラマン光検出系の対物光学素子を切り換える必要がある。
【0006】
しかしながら、顕微鏡光学系を切り換える際は、光学的な構成上、赤外光検出系の対物光学素子またはラマン光検出系の対物光学素子のサンプルに対する光軸中心がずれてしまう。
赤外光検出系の対物光学素子またはラマン光検出系の対物光学素子のサンプルに対する光軸中心がずれると、ラマン光の測定位置と赤外光の測定位置にずれが生じる。このずれは微小試料または微小測定領域ではより顕著となる。
【0007】
そのため連続的に一つの装置でラマン光と赤外光の測定を行うには、両者の検出系を切り替える毎に、測定者が都度、サンプルの位置合わせを行う必要が生じ、測定者に負担をかけるとともに、分析に要する時間が長くなる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-13095号公報
【文献】国際公開2013/132734号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、ラマン光検出系と赤外光検出系とを一つの装置で切り換えた際、ラマン光検出系の対物光学素子または赤外光検出系の対物光学素子のサンプルに対する光軸中心がずれた場合も、測定者に過度の負担をかけることなく、迅速に光軸のずれを修正してラマン分光分析および赤外分光分析を行なえる装置が求められていた。
【0010】
本発明は測定者に過度の負担がかからず、連続的にラマン光検出系と赤外光検出系を切り換えても、顕微鏡光学系のサンプルに対する光軸中心を調整し、素早くラマン分光分析および赤外分光分析の分析領域が一致するラマン-赤外分光分析複合機を提供することを目的とする。
さらに本発明は顕微鏡光学系のサンプルに対する光軸中心を調整することで、迅速にラマン分光分析および赤外分光分析の分析領域を一致させるラマン分光および赤外分光による分析方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、
赤外分光分析用光源とラマン分光分析用光源、
サンプルを固定するプレート、
前記プレートを配置するステージ、
前記ラマン分光分析用光源からの光をサンプルに入射させラマン光を得るための対物光学素子、
前記赤外分光分析用光源からの光をサンプルに入射させ反射した赤外光を得るための対物光学素子、
可視画像を生成するための光学撮影素子を有するラマン光検出系、および
可視画像を生成するための光学撮影素子を有する赤外光検出系、を有し、
前記プレートの位置と前記ラマン光を得るための対物光学素子および前記赤外光を得るための対物光学素子との位置関係を調整するための駆動部、
前記ラマン光検出系と前記赤外光検出系を切り替える切換え部、および
前記駆動部、前記切換え部および前記光学撮影素子を制御するための制御部、を備え、
前記プレートおよび前記ステージの少なくとも一方に前記位置関係を調整するためのマーカが付与されており、
前記制御部は、前記ラマン光検出系および前記赤外光検出系で取得された可視画像上の前記マーカの位置に基づき、前記プレートの位置と前記ラマン光を得るための対物光学素子および前記赤外光を得るための対物光学素子との位置関係を調整するように駆動部を制御するラマン-赤外分光分析複合機、
を提供する。
【0012】
また本発明は、
サンプルに光を照射し、
サンプルからのラマン光および赤外光を検出する際に、
サンプルを固定するプレートおよび前記プレートを配置するステージの少なくとも一方に付与されたマーカを可視画像上で確認し、
前記マーカのずれを確認し、
マーカがずれていたら前記プレートの位置と、ラマン光検出用のラマン光を得るための対物光学素子および赤外光検出用の赤外光を得るための対物光学素子との位置関係を調整する、
ラマン分光と赤外分光による測定方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、連続的にラマン光検出系と赤外光検出系を切り換えても、顕微鏡光学系のサンプルに対する光軸中心を調整し、素早くラマン分光分析および赤外分光分析の分析領域が一致するラマン-赤外分光分析複合機が提供される。
また本発明によれば、顕微鏡光学系のサンプルに対する光軸中心を調整することで、迅速にラマン分光分析および赤外分光分析の分析領域を一致させるラマン分光および赤外分光による分析方法が提供される。
前記本発明の結果、測定者がサンプルの移動や位置調整などを別途行う必要がなく、シームレスでラマン光および赤外光の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のラマン-赤外分光分析複合装置の一形態を示す模式図であり、ラマン光検出系に切換えた状態を示す。
図2】本発明のラマン-赤外分光分析複合装置の一形態を示す模式図であり、赤外光検出系に切換えた状態を示す。
図3】本発明のラマン-赤外分光分析複合装置の他の形態を示す模式図であり、ハーフミラーを用いてラマン光検出系に切換えた状態を示す。
図4】本発明のラマン-赤外分光分析複合装置の他の形態を示す模式図であり、ハーフミラーを用いて赤外光検出系に切換えた状態を示す。
図5】ステージにマーカとして円形を付与し、ラマン光検出系の光学撮影素子で生成した可視画像にてマーカを視認した時の模式図
図6】ステージにマーカとして円形を付与し、赤外光検出系の光学撮影素子で生成した可視画像にてマーカを視認した時の模式図
図7】光学撮影素子で生成した可視画像に標線を付与した模式図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を図1および図2を用いて説明するが、本発明はこれら図に限定されない。本発明のラマン-赤外分光分析複合装置1はラマン分光分析用光源A、プレート2、ステージ3、駆動部4、対物光学素子5、対物光学素子6、ラマン光検出系7、赤外光検出系8を有し、ラマン光検出系7には光学撮影素子10が、赤外光検出系8には赤外分光分析用光源B、光学撮影素子11がそれぞれ配置されている。ステージ3にはプレート2が配置されている。
【0016】
図1において光源Aから出射された光は各種光学素子(図示せず)により、顕微鏡光学系である対物光学素子5に到達する。なお図1中、矢印は光の進行方向を表す。
ラマン分光分析で用いられる光源Aから出射される光は、例えば可視もしくは近赤外域のレーザー光であり、例えば短い波長例として405nmから長い波長例である1064nmまでの波長が使用され、多くは532nmと785nmの組み合わせの波長が用いられる。
また赤外分光分析で用いられる光源Bは、セラミックヒーターから出射される赤外光であり、波長は数μmから数十μmの光である。
【0017】
対物光学素子5は凸レンズと凹レンズとを組み合わせた構成であり、対物光学素子5に入射した光はこれらレンズによりプレート2に固定された測定対象サンプル(以下、「サンプル」とも記す。)上に焦点を結ぶ。サンプルにより散乱したラマン光は各種光学素子(図示せず)によりラマン光検出系7に導かれる。
ラマン光検出系7に導かれたラマン光の一部は各種光学素子(図示せず)によりラマン光検出系7が有する光学撮影素子10へ導かれる。またラマン光検出系7に導かれたラマン光の一部は各種光学素子(図示せず)によりラマン分光計71に導かれる。
【0018】
光学撮影素子10はラマン光が散乱した領域の可視画像を生成するため、光学撮影素子10によりラマン光を測定しているサンプルの測定領域を確認することができる。
光学撮影素子10は例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等が挙げられ、サンプルの静止画あるいは動画を撮像可能に構成されている。光学撮影素子10は、対物光学素子5や透過照明(図示せず)の構成に応じて、サンプルの明視野像、暗視野像、位相差像、蛍光像、偏光顕微鏡像等の全部または少なくともいずれかを撮像することができる。光学撮影素子10は、撮像した画像を後述する制御部12あるいは他の情報処理装置等に出力する。
【0019】
ラマン分光計71は、サンプルからのラマン散乱光の1次元または2次元分光画像を生成し、その1次元または2次元分光画像からラマン散乱のスペクトル(以下、「ラマンスペクトル」とも記す。)を取得する。
ラマン分光計71は、生成した1次元または2次元分光画像のうち、観測対象物の存在しない領域のフラットなスペクトルを抽出した後、そのスペクトルと各画素のスペクトルの差を取ることでサンプルのラマンスペクトルを得ることも可能である。ラマンスペクトルは、通常、放出光の強度を波長に対してプロットしたものである。放出光は、ラマン散乱による散乱光を含んでおり、ラマン散乱による散乱光の波長遷移(ラマンシフト)は、サンプルの分子構造や結晶構造によって異なる。
【0020】
ラマン分光計71は、取得したラマンスペクトルをモニター等(図示せず)に出力し、必要であればメモリー格納部(図示せず)に格納する。
ラマン光検出系7は前記光学撮影素子10、前記ラマン分光計71に加えて、前記情報処理装置、モニター、メモリー格納部、およびその他の必要な部品を有していてもよい。
【0021】
一方、図2において赤外光検出系8に設置された光源Bから出射された光は各種光学素子(図示せず)により、顕微鏡光学系に導かれる前に赤外光検出系8が有する赤外分光計81に備えられた赤外分光器(図示せず)により分光され、顕微鏡光学系である対物光学素子6に到達する。なお図2中、矢印は図1と同様、光の進行方向を表す。
【0022】
対物光学素子6に入射した光はプレート2に固定されたサンプル上に焦点を結ぶ。サンプルにより反射した赤外光は各種光学素子(図示せず)により赤外光検出系8に導かれる。対物光学素子6は測定感度の観点から、凹面鏡と凸面鏡を組み合わせたカセグレン鏡が好ましい。
赤外光検出系8に導かれた赤外光の一部は各種光学素子(図示せず)により赤外光検出系8が有する光学撮影素子11へ導かれる。また赤外光検出系8に導かれた赤外光の一部は各種光学素子(図示せず)により赤外分光計81に導かれ、赤外検出器(図示せず)に導かれる。
【0023】
光学撮影素子11は赤外光が反射した領域の可視画像を生成するため、光学撮影素子11により赤外光を測定しているサンプルの測定領域を確認することができる。
光学撮影素子11は前記光学撮影素子10と同じ構成が例示できる。光学撮影素子11は、対物光学素子5や試料の性質によって使い分けられる透過または反射による照明(図示せず)の構成に応じて、サンプルの明視野像、暗視野像、位相差像、蛍光像、偏光顕微鏡像等の全部または少なくともいずれかを撮像することができる。光学撮影素子11は、撮像した画像を後述する制御部12あるいは他の情報処理装置等に出力する。
【0024】
赤外分光計81は、フーリエ変換赤外分光計が好ましい。赤外分光計81が有する分光器はマイケルソン干渉分光器からなるのが好ましい。サンプルで反射した光は赤外光検出系に導かれ、一部は前記光学撮影素子11へ、一部は赤外分光計81に再び導かれる。赤外分光計81には検出器(図示せず)が配置され、赤外分光計81に導かれた光は光学素子(図示せず)により検出器へ導かれる。この検出器は赤外光を検出する。
【0025】
フーリエ変換赤外分光計の場合、前記検出器にはフーリエ変換演算手段が接続されている。このフーリエ変換演算手段は、検出器で検出された赤外光強度をフーリエ変換して赤外スペクトルを算出し、さらにサンプルとバックグラウンドとのそれぞれの赤外スペクトルの差からなるサンプルの赤外スペクトルを算出するものである。
【0026】
赤外分光計81は、取得した赤外スペクトルをモニター等(図示せず)に出力し、必要であればメモリー格納部(図示せず)に格納する。
赤外光検出系8は前記光学撮影素子11、赤外分光計81に加えて、前記情報処理装置、モニター、メモリー格納部、およびその他の必要な部品を有していてもよい。
【0027】
本発明のラマン-赤外分光分析複合装置1は前記ラマン分光測定と赤外分光測定を切換え機構9により、必要に応じて切換える。ラマン分光測定と赤外分光測定の切換えの順序はラマン分光測定から赤外分光測定でも、赤外分光測定からラマン分光測定でもどちらでもよい。また切換えの回数も特に制限はなく、必要に応じて何度でも切換えてもよい。
【0028】
前記切換え機構によりラマン分光測定から赤外分光測定、または赤外分光測定からラマン分光測定への切換えに応じて、駆動部4によりプレート2またはプレート2が固定されているステージ3を駆動し、前記対物光学素子5とプレート2、および前記対物光学素子6とプレート2、の位置関係を調整する。なお駆動部4はラマン分光測定および赤外分光測定において、観察位置を変更するためにプレートを移動する機能も併せて有していてもよい。
ラマン分光測定に切換えた場合は、対物光学素子5により集光された光がサンプルの所定の測定領域に集光するように対物光学素子5とプレート2の位置関係を調整する。
赤外分光測定に切換えた場合は、対物光学素子6により集光された光がサンプルの所定の測定領域に集光するように対物光学素子6とプレート2の位置関係を調整する。
【0029】
図3および図4はラマン分光測定と赤外分光測定の切換えを光学素子131から135を用いて行った場合の模式図である。本実施の態様では赤外光検出系8は前記赤外分光計81とは別に赤外検出器82を有している。
赤外分光計81は赤外分光分析用の光源Bをラマン分光分析用の光源とは別に内蔵しており、赤外分光計(図示せず)を有している。赤外分光計81が有する赤外分光計はマイケルソン干渉計が好ましい。
【0030】
図3では光学素子131および132にビームスプリッターとしてハーフミラーを用いた態様である。光源Aから出射された光は光学素子を適宜用いて対物光学素子5を通じてサンプルに照射され、散乱されたラマン光はハーフミラー132および131により、一部は光学撮影素子10へ、一部はラマン分光計71に導かれる。
【0031】
図4では光学素子135に反射鏡を用いて、赤外分光計81が内蔵するラマン分光分析用とは異なる光源Bから出射された光は赤外分光計81に導かれた後、対物光学素子6に導かれる。対物光学素子6を通じてサンプルに照射された光は、再び対物光学素子6を通り光学素子133および134にビームスプリッターとしてハーフミラーを用いて、一部は光学撮影素子11へ、一部は赤外検出器82に導かれる。
ラマン光検出系および赤外光検出系では前記のとおりラマンスペクトルおよび赤外スペクトルがそれぞれ取得される。
【0032】
図3および図4での切換え機構では、前記光学素子131から135を前記駆動部により移動させるとともに、対物光学素子5、対物光学素子6およびステージ3を駆動して、対物光学素子5または対物光学素子6を通過した光がサンプルに照射されるようにしている。
切換えは図3および図4に限定されるものではなく、例えば光源、光学素子およびステージ3を駆動させてもよく、他の手法で切換えてもよい。
【0033】
前記のとおり、ラマン光検出系と赤外光検出系とを切換えた際、ラマン光検出系の対物光学素子または赤外光検出系の対物光学素子のサンプルに対する光軸中心がずれることがあるため、ラマン分光分析と赤外分光分析とでサンプルの測定位置または測定領域が異なってくる場合がある。
このずれを修正するため、本発明のラマン-赤外分光分析複合装置では前記プレート2または前記ステージ3の少なくとも一方に、前記対物光学素子5とプレート2、および対物光学素子6とプレート2の位置関係を調整するためのマーカが付与されている。
このマーカは可視画像を生成する前記光学撮影素子10および前記光学撮影素子11により撮影画像にて視認される。したがって、前記光学撮影素子10および前記光学撮影素子11により生成した可視画像に写るぞれぞれのマーカの位置を比較することで、ラマン光検出系の対物光学素子と赤外光検出系の対物光学素子のサンプルに対する光軸中心のずれの程度を確認することができる。
【0034】
このマーカのずれから前記対物光学素子5とプレート2、および対物光学素子6とプレート2の位置関係を調整する。
マーカは例えば線、点、これらの組み合わせ、円形、矩形、三角形、十字形などの各種形状が挙げられる。これらマーカは前記プレート2または前記ステージ3の少なくとも一方に付与されていればよく、ステージ3に付与されているのがプレートの位置の影響を受けないので好ましい。
【0035】
図5はステージにマーカとして円形が付与され、前記光学撮影素子10により生成された可視画像21にてマーカ22を視認した時の模式図である。図6は前記光学撮影素子11により生成された可視画像31にてマーカ32を視認した時の模式図である。可視画像21と31の倍率を合わせておくことで、ラマン光検出系の対物光学素子または赤外光検出系の対物光学素子の光学軸がずれた場合、図5のマーカ22と図6のマーカ32の位置がずれる。
【0036】
マーカ22とマーカ32のずれは可視画像21と可視画像31を比較することで定量することができる。また前記光学撮影素子10および前記光学撮影素子11が可視画像を生成する際に、図7で模式的に示したように、前記可視画像21および前記可視画像31に標線41が付与されるようにしてもよい。可視画像に標線を付与することで、マーカ22とマーカ32の位置と標線を比較すれば、マーカのずれを定量することができる。図7で模式的に示したように、マーカ22とマーカ32の中心にドットを付与し、一方、標線41の中心にもドットを付与し、ドットの位置の距離をずれとしてもよい。
定量の方法は例えば可視画像をピクセルで分割し、各マーカの位置をピクセルで表して両者のずれを求めてもよいし、前記標線とのずれをピクセルで表してもよい。
【0037】
定量された前記ずれに基づき、前記制御部12により前記駆動部4が前記対物光学素子5とプレート2、および対物光学素子6とプレート2の位置関係を調整するように制御する。
制御部12は記憶部を有し、前記方法により定量された前記標線41と前記マーカ22およびマーカ32とのずれを記憶し、ラマン光検出系と赤外光検出系を切換える毎に、前記記憶に基づき、前記対物光学素子5とプレート2、および対物光学素子6とプレート2の位置関係をそれぞれ調整するように制御部12により駆動部4を制御するのが、測定者の負担の観点から好ましい。
【0038】
また本発明は、サンプルに光を照射し、サンプルからのラマン散乱光および赤外光を検出する際に、サンプルを固定するプレートおよび前記プレートを配置するステージの少なくとも一方に付与されたマーカを可視画像上で確認し、前記マーカのずれを確認し、マーカがずれていたら前記プレートの位置と、ラマン光検出用の対物光学素子および赤外光検出用の対物光学素子との位置関係を調整する、ラマン分光と赤外分光による測定方法である。
マーカおよびマーカのずれは前記のとおりである。またはマーカのずれは前記標線にて確認し、前記と同様にして定量できる。
ずれの定量は前記のとおりである。
前記ずれの定量に基づき前記対物光学素子5とプレート2、および対物光学素子6とプレート2の位置関係をそれぞれ調整し、ラマン分光と赤外分光を測定する。位置関係の調整はプレートが配置されたステージを動かして行うのが好ましい。
【0039】
本発明のラマン分光と赤外分光による測定方法は前記ラマン-赤外分光分析複合機を用いて行うことができる。
【0040】
[態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0041】
[1]赤外分光分析用光源とラマン分光分析用光源、
サンプルを固定するプレート、
前記プレートを配置するステージ、
前記ラマン分光分析用光源からの光をサンプルに入射させラマン光を得るための対物光学素子、
前記赤外分光分析用光源からの光をサンプルに入射させ反射した赤外光を得るための対物光学素子、
可視画像を生成するための光学撮影素子を有するラマン光検出系、および
可視画像を生成するための光学撮影素子を有する赤外光検出系、を有し、
前記プレートの位置と前記ラマン光を得るための対物光学素子および前記赤外光を得るための対物光学素子との位置関係を調整するための駆動部、
前記ラマン光検出系と前記赤外光検出系を切り替える切換え部、および
前記駆動部、前記切換え部および前記光学撮影素子を制御するための制御部、を備え、
前記プレートおよび前記ステージの少なくとも一方に前記位置関係を調整するためのマーカが付与されており、
前記制御部は、前記ラマン光検出系および前記赤外光検出系で取得された可視画像上の前記マーカの位置に基づき、前記プレートの位置と前記ラマン光を得るための対物光学素子および前記赤外光を得るための対物光学素子との位置関係を調整するように駆動部を制御するラマン-赤外分光分析複合機。
【0042】
前記[1]の発明によれば、連続的にラマン光検出系と赤外光検出系を切り換えても、顕微鏡光学系のサンプルに対する光軸中心を調整し、素早くラマン分光分析および赤外分光分析の分析領域が一致するラマン-赤外分光分析複合機が提供される。
【0043】
[2]前記切換え部は、前記ラマン光検出系と前記赤外光検出系の切換えに対応して前記ラマン光を得るための対物光学素子と前記赤外光を得るための対物光学素子を切換える前記[1]に記載のラマン-赤外分光分析複合機。
【0044】
[3]前記ラマン光検出系の可視画像および前記赤外光検出系の可視画像がそれぞれ標線を有する前記[1]または[2]のいずれかに記載のラマン赤外分光分析複合機。
[4]前記制御部が記憶部を有し、前記記憶部は前記ラマン光検出系と前記赤外光検出系の切換え時に、前記ラマン光検出系の可視画像上および前記赤外光検出系の可視画像上で視認される前記マーカの位置と、前記ラマン光検出系の可視画像および前記赤外光検出系の可視画像の標線とのずれ量を記憶し、前記ラマン光検出系と前記赤外光検出系の切換え毎に、前記記憶部に記憶された前記ずれ量に基づき、前記制御部が前記プレートの位置と前記ラマン光を得るための対物光学素子または前記赤外光を得るための対物光学素子との位置関係を調整する前記[3]に記載のラマン-赤外分光分析複合機。
【0045】
[5]前記ずれ量が前記可視画像上のピクセルのずれ量である前記[4]に記載のラマン-赤外分光分析複合機。
[6] 前記駆動部が、前記プレートの位置と前記ラマン光を得るための対物光学素子および前記赤外光を得るための対物光学素子との位置関係を調整するために前記ステージを駆動する前記[1]から[5]のいずれか一項に記載のラマン-赤外分光分析複合機。
[7] 前記マーカが前記ステージ上に付与されている前記[1]から[6]のいずれかに記載のラマン-赤外分光分析複合機。
[8] 前記赤外光を得るための対物光学素子がカセグレン鏡である前記[1]から[7]のいずれかに記載のラマン-赤外分光分析複合機。
[9] ラマン光源が532nmと785nmの光を照射する前記[1]から[8]に記載のいずれかに記載のラマン-赤外分光分析複合機。
【0046】
前記[2]から[]の発明によれば、連続的にラマン光検出系と赤外光検出系を切り換えても、より迅速に顕微鏡光学系のサンプルに対する光軸中心を調整し、測定者の負担がより軽減されたラマン-赤外分光分析複合機が提供される。
【0047】
また本発明は、
10] サンプルに光を照射し、
サンプルからのラマン光および赤外光を検出する際に、
サンプルを固定するプレートおよび前記プレートを配置するステージの少なくとも一方に付与されたマーカを可視画像上で確認し、
前記マーカのずれを確認し、
マーカがずれていたら前記プレートの位置と、ラマン光検出用の対物光学素子および赤外光検出用の対物光学素子との位置関係を調整する、
ラマン分光と赤外分光による測定方法。
【0048】
前記[10]の発明によれば、顕微鏡光学系のサンプルに対する光軸中心を調整することで、迅速にラマン分光分析および赤外分光分析の分析領域を一致させるラマン分光および赤外分光による分析方法が提供される。
【0049】
11]前記マーカのずれを、前記マーカと可視画像上に設けられた標線とのずれで確認する前記[10]に記載の測定方法。
12] ラマン光検出用のラマン光を得るための対物光学素子および赤外光 検出用の赤外光を得るための対物光学素子との位置関係調整をステージを動かして行う前記[10]または[11]のいずれかに記載の測定方法。
【0050】
前記[11]および[12]の発明によれば、より迅速に顕微鏡光学系のサンプルに対 する光軸中心を調整でき、ラマン分光分析および赤外分光分析の分析領域を簡便に一致させるラマン分光および赤外分光による分析方法が提供される。
【符号の説明】
【0051】
1:赤外・ラマン複合機
2:プレート
3:ステージ
4:駆動部
5:対物光学素子
6:対物光学素子
7:ラマン光検出系
71:ラマン分光計
8:赤外光検出系
81:赤外分光計
82:赤外検出器
9:切替え機構
10、11:光学撮影素子
12:制御部
131から135:光学素子
21、22:可視画像
31、32:マーカ
41:標線
A:ラマン分光分析光源
B:赤外分光分析用光源

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7