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特許7643586透光性樹脂シート、投射型表示器および移動体
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  • 特許-透光性樹脂シート、投射型表示器および移動体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】透光性樹脂シート、投射型表示器および移動体
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20250304BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20250304BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20250304BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
G02B5/30
B32B7/023
B32B27/36 102
G02B27/01
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023558955
(86)(22)【出願日】2023-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2023024286
(87)【国際公開番号】W WO2024005168
(87)【国際公開日】2024-01-04
【審査請求日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2022105811
(32)【優先日】2022-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】石川 哲也
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-064771(JP,A)
【文献】特開2004-020672(JP,A)
【文献】特開2002-090546(JP,A)
【文献】特開2010-145525(JP,A)
【文献】特開2022-072753(JP,A)
【文献】特開2021-047447(JP,A)
【文献】特開2015-163952(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0336062(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の偏光光を生成する偏光子で構成された偏光層と、
該偏光層の双方の面側にそれぞれ設けられ、樹脂材料を50重量%以上含む保護層とを備える透光性樹脂シートであって、
当該透光性樹脂シートは、投射型表示器から出射される出射光を透過させる透光性カバー部材として用いられ、
当該透光性樹脂シートの前記透光性カバー部材を構成する部分における水分の含有率をA[%]とし、前記偏光層の双方の面側に設けられた2つの前記保護層の厚さの合計をB[mm]としたとき、
当該透光性樹脂シートを、温度25℃、湿度50%Rhの条件下で23時間保管した際の前記含有率Aと前記厚さの合計Bとの積の関係式A・B(1)[mm・%]は、0.46≦A・B(1)≦0.60なる関係を満足し、かつ、前記含有率Aは、0.150%以上1.800%以下であることを特徴とする透光性樹脂シート。
【請求項2】
当該透光性樹脂シートを、温度35℃、湿度20%Rhの条件下で22時間保管した際の前記含有率Aと前記厚さの合計Bとの積の関係式A・B(2)[mm・%]は、0.33≦A・B(2)≦0.40なる関係を満足する請求項1に記載の透光性樹脂シート。
【請求項3】
当該透光性樹脂シートを、温度105℃、湿度0%Rhの条件下で1000時間保管した後において、ISO11664-4に準拠して測定された、当該透光性樹脂シートの色変化がΔE13.5未満であることを満足する請求項2に記載の透光性樹脂シート。
【請求項4】
前記保護層は、前記樹脂材料を50重量%以上含む単層体であり、
前記樹脂材料は、ポリカーボネート系樹脂である請求項1または3に記載の透光性樹脂シート。
【請求項5】
前記偏光層は、その厚さが5μm以上60μm以下である請求項1に記載の透光性樹脂シート。
【請求項6】
前記保護層は、その厚さが0.07mm以上0.80mm以下である請求項1に記載の透光性樹脂シート。
【請求項7】
前記保護層と前記偏光層とは、接合層を介して接合されている請求項1に記載の透光性樹脂シート。
【請求項8】
前記接合層は、その厚さが0.005mm以上0.04mm以下である請求項7に記載の透光性樹脂シート。
【請求項9】
請求項1に記載の透光性樹脂シートを、前記透光性カバー部材として備えることを特徴とする投射型表示器。
【請求項10】
請求項9に記載の投射型表示器を備えることを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性樹脂シート、投射型表示器および移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のような移動体に搭載して用いられる投射型表示器としてヘッドアップディスプレイ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のヘッドアップディスプレイ装置は、液晶ディスプレイやCRT等の表示装置(表示部)に表示された表示画像をミラーで反射して、車両が備える、曲面形状を有するスクリーンとしてのフロントガラスに投影することで虚像を得る装置である。係るヘッドアップディスプレイ装置において、表示部を収納するハウジングは、ダッシュボード内に設けられ、このハウジングには、表示画像を出射する出射窓が形成されている。
【0004】
そして、この出射窓に、偏光光を生成する偏光子で構成された偏光層と、この偏光層の双方の面側に積層された、主として樹脂材料で構成される保護層とを備える透光性カバー部材(透光性樹脂シート)を配置(装着)することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、かかる構成の透光性カバー部材は、ハウジングが備える出射窓の形状に対応して打ち抜いた後に、中央部に凹部が形成されるように湾曲させた湾曲状態で、この出射窓に対して装着されている。
【0006】
しかしながら、この透光性カバー部材の出射窓の形状に対応した打ち抜き時や、中央部に凹部を形成するために透光性カバー部材を湾曲状態とする際に、透光性カバー部材にクラックが生じてしまうという問題があった。
【0007】
さらに、かかる構成をなすヘッドアップディスプレイ装置は、ダッシュボード内に設けられている。そのため、特に、夏場においてダッシュボードが高温下に曝されることに起因して、透光性カバー部材が変色し、その結果、スクリーン(フロントガラス)に形成される投影像(虚像)が設計した色調とは異なる色調としてスクリーンに投影されてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-49464号公報
【文献】特開2015-55679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、所定の形状に打ち抜いたり、さらには、湾曲状態をなすものに変形させたとしても、クラックの発生が的確に抑制または防止され、かつ、高温下に曝されたとしても、変色するのが的確に抑制または防止された透光性樹脂シート、かかる透光性樹脂シートを備える信頼性に優れた投射型表示器および移動体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記(1)~(10)に記載の本発明により達成される。
(1) 光の偏光光を生成する偏光子で構成された偏光層と、
該偏光層の双方の面側にそれぞれ設けられ、樹脂材料を50重量%以上含む保護層とを備える透光性樹脂シートであって、
当該透光性樹脂シートは、投射型表示器から出射される出射光を透過させる透光性カバー部材として用いられ、
当該透光性樹脂シートの前記透光性カバー部材を構成する部分における水分の含有率をA[%]とし、前記偏光層の双方の面側に設けられた2つの前記保護層の厚さの合計をB[mm]としたとき、
当該透光性樹脂シートを、温度25℃、湿度50%Rhの条件下で23時間保管した際の前記含有率Aと前記厚さの合計Bとの積の関係式A・B(1)[mm・%]は、0.46≦A・B(1)≦0.60なる関係を満足し、かつ、前記含有率Aは、0.150%以上1.800%以下であることを特徴とする透光性樹脂シート。
【0011】
(2) 当該透光性樹脂シートを、温度35℃、湿度20%Rhの条件下で22時間保管した際の前記含有率Aと前記厚さの合計Bとの積の関係式A・B(2)[mm・%]は、0.33≦A・B(2)≦0.40なる関係を満足する上記(1)に記載の透光性樹脂シート。
【0012】
(3) 当該透光性樹脂シートを、温度105℃、湿度0%Rhの条件下で1000時間保管した後において、ISO11664-4に準拠して測定された、当該透光性樹脂シートの色変化がΔE13.5未満であることを満足する上記(1)または(2)に記載の透光性樹脂シート。
【0013】
(4) 前記保護層は、前記樹脂材料を50重量%以上含む単層体であり、
前記樹脂材料は、ポリカーボネート系樹脂である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の透光性樹脂シート。
【0014】
(5) 前記偏光層は、その厚さが5μm以上60μm以下である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の透光性樹脂シート。
【0015】
(6) 前記保護層は、その厚さが0.07mm以上0.80mm以下である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の透光性樹脂シート。
【0016】
(7) 前記保護層と前記偏光層とは、接合層を介して接合されている上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の透光性樹脂シート。
【0017】
(8) 前記接合層は、その厚さが0.005mm以上0.04mm以下である上記(7)に記載の透光性樹脂シート。
【0019】
) 上記(ないし(8)のいずれかに記載の透光性樹脂シートを、前記透光性カバー部材として備えることを特徴とする投射型表示器。
【0020】
10) 上記()に記載の投射型表示器を備えることを特徴とする移動体。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、偏光子で構成された偏光層と、該偏光層の双方の面側にそれぞれ設けられ、主として樹脂材料で構成された保護層とを備える透光性樹脂シートを提供する。本発明では、当該透光性樹脂シートにおける水分の含有率をA[%]とし、前記偏光層の双方の面側に設けられた2つの前記保護層の厚さの合計をB[mm]としたとき、当該透光性樹脂シートを、温度25℃、湿度50%Rhの条件下で23時間保管した際の前記含有率Aと前記厚さの合計Bとの積の関係式A・B(1)[mm・%]は、0.20≦A・B(1)≦0.70なる関係を満足する。そのため、例えば、投射型表示器から出射される出射光を透過させる透光性カバー部材として、投射型表示器のハウジングが備える出射窓の形状に対応して透光性樹脂シートが打ち抜かれ、さらに、この出射窓に対応して湾曲状態で透光性樹脂シートが装着されたとしても、透光性樹脂シート(透過性カバー部材)におけるクラックの発生を的確に抑制または防止することができる。さらに、夏場のダッシュボードのように高温下に、投射型表示器が曝されたとしても、透光性樹脂シート(透過性カバー部材)が変色するのを的確に抑制または防止し得る。そのため、透光性カバー部材を透過した出射光を、スクリーンに設計通りの色調で確実に投影することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の透光性樹脂シートを、透光性カバー部材として有する、自動車のヘッドアップディスプレイ装置の実施形態を示す側面図である。
図2図2は、図1中の一点鎖線で囲まれた領域[A]を拡大した拡大断面図である。
図3図3は、図2中の透光性カバー部材に適用された本発明の透光性樹脂シートの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の透光性樹脂シート、投射型表示器および移動体を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
まず、本発明の透光性樹脂シートおよび移動体を説明するのに先立って、本発明の透光性樹脂シートを、透光性カバー部材として有する、自動車のヘッドアップディスプレイ装置(投射型表示器)について説明する。すなわち、本発明の投射型表示器が適用されたヘッドアップディスプレイ装置について説明する。
【0025】
<ヘッドアップディスプレイ装置>
図1は、本発明の透光性樹脂シートを、透光性カバー部材として有する、自動車のヘッドアップディスプレイ装置の実施形態を示す側面図、図2は、図1中の一点鎖線で囲まれた領域[A]を拡大した拡大断面図、図3は、図2中の透光性カバー部材に適用された本発明の透光性樹脂シートの拡大断面図である。なお、以下では、説明の都合上、図1図3中の上側を「上」または「上方」、下側を「下」または「下方」という。また、図1図2中の左側を「前」または「前方」、右側を「後」または「後方」という。また、図3中では、理解を容易にするため、透光性カバー部材を平坦な状態で図示するとともに、厚さ方向を誇張して模式的に図示している。
【0026】
図1に示すように、ヘッドアップディスプレイ装置10(Head-Up Display)は、自動車100に搭載して用いられる。このヘッドアップディスプレイ装置10は、自動車100が有するダッシュボード101の上部に内蔵されている。
【0027】
図2に示すように、ヘッドアップディスプレイ装置10は、表示部11と、反射部材12と、収納体13とを備えている。
【0028】
表示部11は、本実施形態では、液晶ディスプレイで構成され、出射光として表示画像LSを出射するものであり、表示画像LSにおける各画素を構成する赤(R)、緑(G)、青(B)それぞれの色の光が表示部11から出射されることでフルカラーの表示画像LSが形成されるように構成されている。
【0029】
反射部材12は、例えば、ミラーで構成されており、表示部11からの表示画像LSを反射することができる。反射部材12で反射された表示画像LSは、フロントガラス102をスクリーンとして、当該フロントガラス102の裏面102a(内側の面)に投影される。そして、この投影光は、表示画像LSとして運転手Hに認識される(図1図2参照)。
【0030】
図2に示すように、収納体13(ハウジング)は、箱状をなし、その内側に、表示部11や反射部材12、その他、ヘッドアップディスプレイ装置10を構成する部品等が収納されている。また、収納体13は、フロントガラス102側に向かって開口した開口部で構成された窓部131を有している。この窓部131を介して、表示画像LSは、収納体13の外部、すなわち、フロントガラス102に向かって出射光として出射される。
【0031】
また、収納体13の窓部131には、透光性を有する透光性カバー部材1が、中央部に凹部を形成して、収納体13側が凸、フロントガラス102側が凹となるように湾曲させた湾曲状態で、当該窓部131を覆うように、設置(装着)されている。これにより、表示画像LSのフロントガラス102に向けた出射が可能となるとともに、塵や埃等の異物が窓部131を介して収納体13内に侵入するのを防止することができる。したがって、表示部11の表示画像LSや反射部材12が当該異物によって曇ったり汚れたりするのを防止することができる。また、凹部が形成された湾曲状態とすることにより、透光性カバー部材1は、太陽光を反射し易いものとなり、太陽光の収納体13内への侵入を的確に抑制することができる。また、例えば透光性カバー部材1がダッシュボード101から突出するのを防止することができ、よって、透光性カバー部材1が運転手Hの視界を遮るのを防止することができる。
【0032】
透光性カバー部材1は、光を透過させることが可能な、本発明の透光性樹脂シートで構成され、前記光の偏光光を生成する偏光子で構成された偏光層2と、この偏光層2の双方の面側にそれぞれ設けられ、主として樹脂材料で構成された保護層3A、3Bとを備えている。また、当該透光性樹脂シート(透光性カバー部材1)における水分の含有率(水分率)をA[%]とし、保護層3A、3Bの厚さの合計をB[mm]としたとき、当該透光性樹脂シート(透光性カバー部材1)を、温度25℃、湿度50%Rhの条件下で23時間保管した際の含有率Aと厚さの合計Bとの積の関係式A・B(1)[mm・%]は、0.20≦A・B(1)≦0.70なる関係を満足する。
【0033】
このように、透光性カバー部材1を、光透過性を有する、本発明の透光性樹脂シートで構成することで、透光性カバー部材1として、ヘッドアップディスプレイ装置10(投射型表示器)の収納体13(ハウジング)が備える窓部131(出射窓)の形状に対応して透光性樹脂シートが打ち抜かれる。さらに、図2に示すように、この窓部131に対応して湾曲状態で透光性樹脂シートが装着されたとしても、透光性カバー部材1において、クラックが発生するのを的確に抑制または防止することができる。さらに、夏場にダッシュボード101が高温下に曝されることに起因して、ダッシュボード101内に設けられたヘッドアップディスプレイ装置10も同様に高温下に曝されることになる。しかしながら、このように、ヘッドアップディスプレイ装置10(透光性カバー部材1)が高温下に曝されたとしても、透光性カバー部材1において変色が生じるのを的確に抑制または防止することができる。したがって、スクリーンとしてのフロントガラス102の裏面102aに、表示部11から出射された表示画像LS(出射光)を、設計通りの色調で確実に投影することができる。
【0034】
以下、この透光性カバー部材1、すなわち、本発明の透光性樹脂シートを構成する各層について説明する。
【0035】
図3に示すように、透光性カバー部材1は、光を透過させることが可能であり、本実施形態では、偏光層2と、接合層4Aおよび接合層4Bと、保護層3Aおよび保護層3Bとを備える積層板である。以下、各層について説明する。
【0036】
(偏光層2)
偏光層2は、透光性カバー部材1(透光性樹脂シート)の厚さ方向の中央に位置する中間層であり、その厚さが透光性カバー部材1の面方向に一定の部分である。
【0037】
この偏光層2は、透光性カバー部材1を通過する光から、所定の一方向に偏光面をもつ直線偏光を取り出す偏光子としての機能を有している。これにより、透光性カバー部材1を通過する光は、偏光される。
【0038】
また、偏光層2の偏光度は、可能な限り100%に近い大きさであることが望まれ、具体的には、80.0%以上98.0%以下であるのが好ましく、85.0%以上98.0%以下であるのがより好ましい。これにより、偏光層2に、偏光子としての機能を確実に発揮させることができる。
【0039】
このような偏光層2としては、上記機能を有するフィルムであれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、部分ホルマール化ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、エチレン-酢酸ビニル共重合体部分ケン価物等で構成された高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着、染色させ、一軸延伸したフィルム、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、偏光層2は、ポリビニルアルコール(PVA)を主材料とした高分子フィルムに、ヨウ素または二色性染料を吸着、染色させ、一軸延伸したフィルムが好ましい。ポリビニルアルコール(PVA)は透明性、耐熱性、染色剤であるヨウ素または二色性染料との親和性、延伸時の配向性のいずれもが優れた材料である。したがって、PVAを主材料とする偏光層2は、耐熱性に優れるとともに、偏光能に優れる。
【0041】
なお、高分子フィルムを二色性染料等で染色させた後に、この高分子フィルムを乾燥させることとなるが、この乾燥条件を適宜設定することで、比較的容易に0.20≦A・B(1)≦0.70なる関係を満足する透光性カバー部材1を得ることができる。
【0042】
また、二色性染料としては、特に限定されないが、例えば、ブリリアントブルー6B、ソロフェニルブルーFGLE220%、ソロフェニルブルーGL250%、カヤセロンブルーC-2R、クロラゾールブラックBH、ダイレクトペーパーブルー STL、Solarus Rubine BLN、TOA スカーレット 4BS、EVERPULP ORENGE 2G、ハマダイ ペーパー イエロー R 125%、ダイレクト ファースト オレンジ S コンク、ベンゾパープリン、Diacotton Fast Orange WS、Direct Fast Orange S、AIZEN Primula Scarlet GSH、JAPANSOL FAST BLACK D conc.等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
なお、本明細書中において、「主材料」とは、このものを含有する層を構成する構成材料のうち、50重量%以上含有する構成材料のことを言うこととする。
【0044】
偏光層2の厚さとしては、特に限定されず、例えば、5μm以上60μm以下であるのが好ましく、10μm以上40μm以下であるのがより好ましい。厚さが前記下限値未満であると、偏光層2が偏光子として機能が十分に図れないことがあり、また、厚さが前記上限値を超えても、それ以上の偏光子として機能の向上は望めない。
【0045】
偏光層2の屈折率としては、特に限定されず、例えば、1.50以上1.60以下であるのが好ましく、1.52以上1.55以下であるのがより好ましい。
【0046】
(保護層3A、3B)
また、図3に示すように、偏光層2の上面側には、保護層3Aが配置され、下面側には、保護層3Bが配置され、これにより、偏光層2を保護するとともに、偏光層2に水蒸気(水分)が到達するのを防止する水蒸気バリア層としての機能を発揮する。
【0047】
これら保護層3A、3Bは、特に限定されないが、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、および、トリアセチルセルロースのようなセルロース系樹脂等の樹脂材料を主材料とする単層体で構成され、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、ポリアミド系樹脂またはポリカーボネート系樹脂を主材料として構成されていることが好ましく、ポリカーボネート系樹脂を主材料として構成されていることがより好ましい。
【0048】
ポリカーボネート系樹脂は、透明性(透光性)や剛性等の機械的強度に富むため、透光性カバー部材1の透明性や耐衝撃性を向上させることができる。また、前記樹脂材料のうち、水蒸気バリア性は、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂およびセルロース系樹脂の順で優れ、ポリカーボネート系樹脂は、特に水蒸気バリア性に優れた樹脂材料であるといえることから、比較的容易に0.20≦A・B(1)≦0.70なる関係を満足する透光性カバー部材1を得ることができる。
【0049】
ポリアミド系樹脂としては、特に限定されず、各種の樹脂を用いることができ、例えば、脂環式ポリアミド、半芳香族ポリアミド等が挙げられる。脂環式ポリアミドは、耐衝撃性に優れた材料である。そのため、透光性カバー部材1に優れた耐衝撃性を発揮させることができる。また、半芳香族ポリアミドは、弾性率の高い材料である。そのため、曲げ等の応力に対して、優れた耐性を有する透光性カバー部材1とすることができる。
【0050】
なお、本明細書において、半芳香族ポリアミドとは、ポリアミドを構成するモノマーとしてのジカルボン酸、ジアミンのうちの一方が芳香族性化合物であり、他方が脂肪族化合物であるポリアミドのことを言い、具体的には、下記式(1B)で表すことができる。
【0051】
【化1】
(ただし、式(1B)中のRおよびRは、一方が2価の芳香族置換基、他方が2価の脂肪族置換基であり、nは、2以上の整数である。)
【0052】
なお、ポリアミドは、ジカルボン酸、ジアミンのうち少なくとも一方について、2種以上のモノマーを含む共重合体(ランダム共重合体、ブロック共重合体等)であってもよい。
【0053】
また、上記式(1B)中のR、Rのうちの芳香族置換基としては、下記式(2B)で表される基であるのが好ましい。
【0054】
【化2】
(ただし、式(2B)中、l、mは、それぞれ独立に0以上2以下の整数である。)
【0055】
これにより、偏光層2をより好適に保護することができるとともに、透光性カバー部材1の加工性をより向上させることができる。また、保護層3A、3Bにリタデーションを付与する場合には、保護層3A、3Bの延伸によるリタデーションの制御をより容易に行うことができる。
【0056】
上記式(1B)中のR、Rのうちの脂肪族置換基は、炭素数が4以上18以下の基であるのが好ましく、炭素数が4以上18以下の炭化水素基であるのがより好ましく、炭素数が4以上18以下の飽和炭化水素基であるのがさらに好ましい。
これにより、透光性カバー部材1の加工性をより向上させることができる。
【0057】
さらに、半芳香族ポリアミドは、芳香族ジカルボン酸と、脂肪族ジアミンとを構成モノマーとして含む化合物であるのが好ましい。これにより、偏光層2をより好適に保護することができるとともに、透光性カバー部材1の加工性をより向上させることができる。また、延伸によるリタデーションの制御をより容易に行うことができる。
【0058】
脂環式ポリアミドは、その分子内に脂環式の化学構造を有しており、主鎖構造内に脂環式の化学構造を有していてもよいし、側鎖構造内に脂環式の化学構造を有していてもよい。
【0059】
この脂環式ポリアミドとしては、例えば、ポリアミドを構成するモノマーとしてのジカルボン酸、ジアミンのうちの少なくとも一方が脂環式の化学構造を有する化合物等が挙げられ、具体的には、例えば、下記式(3B)で表すことができる。
【0060】
【化3】
(ただし、式(3B)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数が4以下の炭化水素基、oは、2以上14以下の整数、pは、0以上6以下の整数、nは、2以上の整数である。)
【0061】
ポリカーボネート系樹脂としては、特に限定されず、各種の樹脂を用いることができるが、中でも、芳香族系ポリカーボネート系樹脂であることが好ましい。芳香族系ポリカーボネート系樹脂は、その主鎖に芳香族環を備えており、これにより、透光性カバー部材1の強度をより向上させることができる。
【0062】
この芳香族系ポリカーボネート系樹脂は、例えば、ビスフェノールとホスゲンとの界面重縮合反応、ビスフェノールとジフェニルカーボネートとのエステル交換反応等により合成される。
【0063】
ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールAや、下記式(1A)に示すポリカーボネートの繰り返し単位の起源となるビスフェノール(変性ビスフェノール)等が挙げられる。
【0064】
【化4】
(式(1A)中、Xは、炭素数1~18のアルキル基、芳香族基または環状脂肪族基であり、RaおよびRbは、それぞれ独立して、炭素数1~12のアルキル基であり、mおよびnは、それぞれ0~4の整数であり、pは、繰り返し単位の数である。)
【0065】
なお、前記式(1A)に示すポリカーボネートの繰り返し単位の起源となるビスフェノールとしては、具体的には、例えば4,4’-(ペンタン-2,2-ジイル)ジフェノール、4,4’-(ペンタン-3,3-ジイル)ジフェノール、4,4’-(ブタン-2,2-ジイル)ジフェノール、1,1’-(シクロヘキサンジイル)ジフェノール、2-シクロヘキシル-1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、2,3-ビスシクロヘキシル-1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1’-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、2,2’-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
特に、ポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂を主成分とするのが好ましい。かかるビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂を用いることにより、透光性カバー部材1は、さらに優れた強度を発揮することができる。
【0067】
また、保護層3A、3Bには、主材料として含まれる樹脂材料以外に、他の成分が含まれていてもよい。このような成分としては、特に限定されないが、例えば、主材料以外の樹脂材料や、染料等の着色剤、充填材、配向助剤、安定剤(熱安定剤、紫外線吸収剤および酸化防止剤等)、可塑剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤および粘度調整剤等が挙げられる。
【0068】
この場合、保護層3A、3B中の樹脂材料の含有量は、特に限定されないが、保護層3A、3Bの100質量部中、75質量部以上であるのが好ましく、85質量部以上であるのがより好ましい。樹脂材料の含有量を上記範囲内とすることにより、優れた強度を有する透光性カバー部材1を得ることができる。
【0069】
なお、保護層3A、3Bを構成する構成材料は、それぞれ、同一であってもよいし、異なってもよい。
【0070】
さらに、保護層3A、3Bにリタデーション(位相差;複屈折率×厚さ)を発現させる場合、保護層3Aのリタデーションと保護層3Bのリタデーションとは、異なっているのが好ましく、保護層3Aのリタデーションは、保護層3Bのリタデーションよりも低くなっているのが好ましい。
【0071】
これにより、保護層3Bは、熱収縮により湾曲曲率が小さくなる方向に変形しやすいが、保護層3Aは、熱収縮により変形しにくくすることができる。したがって、図2に示したように、ヘッドアップディスプレイ装置10が備える透光性カバー部材1に透光性樹脂シートを適用することで、湾曲した湾曲状態で用いられることになるが、この際に、湾曲凸面側に保護層3Bが位置し、湾曲凹面側に保護層3Aが位置するように湾曲形状とするのが好ましい。この場合、保護層3Bが比較的熱収縮率が高くなるため、比較的熱変形しやすいが、透光性カバー部材1では、保護層3Aは、保護層3Bの熱変形を抑制する機能を発揮する。そのため、透光性カバー部材1全体として、熱による過剰な変形を防止することができる。その結果、夏場にダッシュボード101が高温下に曝されることに起因して、透光性カバー部材1が熱変形するのを、的確に抑制または防止することができる。
【0072】
保護層3Aのリタデーションは、0nm以上500nm以下であるのが好ましく、50nm以上350nm以下であるのがより好ましい。保護層3Bのリタデーションは、2600nm以上8000nm以下であるのが好ましく、3500nm以上6500nm以下であるのがより好ましい。これにより、保護層3Aのリタデーションを十分に低くすることができるとともに、保護層3Bのリタデーションを十分に高くすることができる。よって、保護層3Aのリタデーションを、保護層3Bのリタデーションよりも低くすることにより得られる効果を、より顕著に発揮させることができる。また、透光性カバー部材1の偏光性能を十分に高めることができる。
【0073】
なお、保護層3A、3Bのリタデーションの差異は、層中に含まれる構成材料や、厚さ、さらには、延伸倍率等を異ならせることにより発現させることができる。
【0074】
保護層3Aの延伸倍率は、特に限定されないが、前記リタデーションの大きさに設定されるように、例えば、0.95以上1.1以下であるのが好ましい。保護層3Bの延伸倍率は、特に限定されないが、前記リタデーションの大きさに設定されるように、1.5以上3.5以下であるのが好ましい。
【0075】
また、保護層3A、保護層3Bおよび偏光層2の延伸方向は、一致しているのが好ましい。これにより、透光性カバー部材1の偏光性能をさらに高めることができる。
【0076】
保護層3A、3Bの厚さは、例えば、0.07mm以上0.80mm以下であるのが好ましく、0.10mm以上0.50mm以下であるのがより好ましく、0.12mm以上0.35mm以下であるのがさらに好ましい。かかる範囲内に保護層3A、3Bの厚さが設定されることにより、保護層3A、3Bに偏光層2を保護する機能を確実に発揮させることができる。したがって、透光性カバー部材1を湾曲させた湾曲状態で、収納体13の窓部131を覆うように装着した際に、透光性カバー部材1に窓部131を覆うカバー部材としての機能を確実に発揮させることができる。また、比較的容易に0.20≦A・B(1)≦0.70なる関係を満足する透光性カバー部材1を得ることができる。
【0077】
また、保護層3Aおよび保護層3Bの厚さは、透光性カバー部材1が0.20≦A・B(1)≦0.70なる関係を満足すれば、一致していても異なっていてもよい。
【0078】
さらに、保護層3A、3Bの屈折率は、特に限定されないが、例えば、1.45以上1.66以下であるのが好ましく、1.48以上1.60以下であるのが好ましい。
【0079】
なお、保護層3A、3Bは、本実施形態では、それぞれ、樹脂材料を主材料とする単層体で構成されることとしたが、これに限定されず、保護層3A、3Bは、それぞれ、例えば、樹脂材料を主材料とする第1層と第2層とを有し、これら第1層と第2層とが接合層で接合された構成をなす積層体で構成されていてもよい。
【0080】
(接合層4A、4B)
また、偏光層2と保護層3Aとは、接合層4Aを介して接合され、偏光層2と保護層3Bとは、接合層4Bを介して接合されている。
【0081】
接合層4Aおよび接合層4Bは、ウレタン接着剤、エポキシ接着剤、アクリル接着剤、アクリル粘着剤等の各種接着剤または粘着剤である。これにより、各層同士の接合を確実に行なうことができ、長期間の使用に耐え得る透光性カバー部材1を得ることができる。
【0082】
接合層4A、4Bの厚さとしては、特に限定されず、例えば、0.005mm以上0.04mm以下であるのが好ましく、0.006mm以上0.015mm以下であるのがより好ましい。接合層4A、4Bの厚さが前記下限値未満であると、接着力の低下を招くことがあり、また、接合層4A、4Bの厚さが前記上限値を超えると、接着剤または粘着剤の種類によっては、接合層4A、4Bの硬化・収縮に起因して、透光性カバー部材1にひずみが生じるおそれがある。また、接合層4A、4Bの厚さは、それぞれ、異なっていてもよいが、同じであるのが好ましい。
【0083】
接合層4A、4Bの屈折率としては、特に限定されず、例えば、1.46以上1.55以下であるのが好ましく、1.461以上1.545以下であるのがより好ましい。
【0084】
かかる構成をなしている透光性カバー部材1(透光性樹脂シート)において、前述した背景技術の通り、以下に示すような問題点があった。
【0085】
すなわち、ヘッドアップディスプレイ装置10(投射型表示器)の収納体13(ハウジング)が備える窓部131(出射窓)の形状に対応した透光性カバー部材1(透光性樹脂シート)の打ち抜き時や、中央部に凹部を形成するために透光性カバー部材1を湾曲状態とする際に、透光性カバー部材1にクラックが生じてしまうという問題があった。さらには、ヘッドアップディスプレイ装置10は、自動車100が有するダッシュボード101内に設けられており、特に、夏場においてダッシュボード101が高温下に曝されることに起因して、透光性カバー部材1も同様に加熱されるために、透光性カバー部材1が変色し、その結果、スクリーンとしてのフロントガラス102の裏面102aに形成される表示画像LS(投影像)が設計した色調とは異なる色調として裏面102aに投影されてしまうという問題があった。
【0086】
かかる問題点を解決することを目的に、本発明者が鋭意検討を行ったところ、これらの問題点は、透光性カバー部材1、特に、偏光層2に含まれる水分量に関連することが判ってきた。より具体的には、透光性カバー部材1(偏光層2)に含まれる水分量が少な過ぎると、透光性カバー部材1に前記クラックが生じてしまい、透光性カバー部材1(偏光層2)に含まれる水分量が多過ぎると、透光性カバー部材1が高温下に曝された際に、透光性カバー部材1に前記変色が生じてしまうことが判ってきた。
【0087】
そして、本発明者は、透光性カバー部材1(偏光層2)に含まれる水分量について、さらなる検討を行った結果、透光性カバー部材1(特に偏光層2)における長期間に亘る水分量は、透光性カバー部材1全体としての水分量と、保護層3A、3Bの厚さとに密接に関連していることを見出した。具体的には、透光性カバー部材1(透光性樹脂シート)における水分の含有率をA[%]とし、保護層3A、3Bの厚さの合計をB[mm]としたとき、透光性カバー部材1(透光性樹脂シート)を、温度25℃、湿度50%Rhの条件下で23時間保管した際の含有率Aと厚さの合計Bとの積の関係式A・B(1)[mm・%]が、0.20≦A・B(1)≦0.70なる関係を満足することで、前記問題点を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0088】
すなわち、関係式A・B(1)[mm・%]が0.20≦A・B(1)なる関係を満足することで、ヘッドアップディスプレイ装置10(投射型表示器)の収納体13(ハウジング)が備える窓部131(出射窓)の形状に対応した透光性カバー部材1(透光性樹脂シート)の打ち抜き時や、中央部に凹部を形成するために透光性カバー部材1を湾曲状態とする際に、透光性カバー部材1にクラックが生じてしまうのを的確に抑制または防止することができる。
【0089】
さらに、夏場にダッシュボード101が高温下に曝されることに起因して、ダッシュボード101内に設けられたヘッドアップディスプレイ装置10も同様に高温下に曝されることになる。しかしながら、関係式A・B(1)[mm・%]がA・B(1)≦0.70なる関係を満足することで、このようにヘッドアップディスプレイ装置10(透光性カバー部材1)が高温下に曝されたとしても、透光性カバー部材1において変色が生じるのを的確に抑制または防止することができる。したがって、スクリーンとしてのフロントガラス102の裏面102aに、表示部11から出射された表示画像LS(出射光)を、設計通りの色調で確実に投影することができる。
【0090】
なお、偏光層2に対する水蒸気バリアを考慮した場合、偏光層2に積層された、保護層3A、3Bの厚さだけではなく、接合層4A、4Bの厚さも含めて、偏光層2に対する水蒸気バリアに関連すると推察されるが、前述した保護層3A、3Bおよび接合層4A、4Bに含まれる構成材料、さらには保護層3A、3Bおよび接合層4A、4Bの厚さの関係から考えて、接合層4A、4Bの厚さを除外して、保護層3A、3Bの厚さの合計をB[mm]として、関係式A・B(1)の大きさを規定することは、パラメータ設定の根拠としては妥当な判断であると考えられる。
【0091】
また、透光性カバー部材1における水分の含有率Aは、例えば、0.150%以上1.800%以下であることが好ましく、0.200%以上1.200%以下であることがより好ましく、0.400%以上1.000%以下であることがさらに好ましい。これにより、比較的容易に0.20≦A・B(1)≦0.70なる関係を満足する透光性カバー部材1を得ることができる。
【0092】
なお、透光性カバー部材1における水分の含有率A(水蒸気含有率)[%]は、例えば、水分率測定装置(アイ・ティー・エスジャパン社製、「AQUATRACK 3E」)を用いて測定することができる。
【0093】
また、関係式A・B(1)[mm・%]は、0.20≦A・B(1)≦0.70なる関係を満足すればよいが、0.23≦A・B(1)≦0.52なる関係を満足するのが好ましく、0.23≦A・B(1)≦0.38なる関係を満足するのがより好ましい。A・B(1)が前記範囲内に設定されることにより、前記効果をより顕著に発揮させることができる。なお、高温曝露時での透光性カバー部材1において変色を実用性耐え得るレベルに抑えつつ、透光性カバー部材1成形時のクラックを最低限に抑制したい場合は、0.42≦A・B(1)≦0.65なる関係が好ましく、より両者のバランスを考慮した場合は、0.46≦A・B(1)≦0.60なる関係がより好ましい。
【0094】
さらに、透光性カバー部材1を、温度35℃、湿度20%Rhの条件下で22時間のように異なる条件下で保管した際の水分の含有率Aと厚さの合計Bとの積の関係式A・B(2)[mm・%]は、0.10≦A・B(2)≦0.42なる関係を満足するのが好ましく、0.17≦A・B(2)≦0.30なる関係を満足するのがより好ましい。A・B(2)が前記範囲内に設定されることにより、A・B(1)を前記範囲内に設定することにより得られる前記効果を、より顕著に発揮させることができる。なお、高温曝露時での透光性カバー部材1において変色を実用性耐え得るレベルに抑えつつ、透光性カバー部材1成形時のクラックを最低限に抑制したい場合は、0.32≦A・B(2)≦0.41なる関係が好ましく、より両者のバランスを考慮した場合は、0.33≦A・B(2)≦0.40なる関係がより好ましい。
【0095】
また、関係式A・B(1)[mm・%]が前記関係を満足することで、透光性カバー部材1が高温下に曝されたとしても、その変色を的確に抑制または防止することができるが、具体的には、透光性カバー部材1(透光性樹脂シート)を、温度105℃、湿度0%Rhの条件下で1000時間保管した後において、ISO11664-4に準拠して測定された、透光性カバー部材1の色変化が、好ましくはΔE13.5未満、より好ましくはΔE12.0未満、さらに好ましくはΔE10.6未満であることを満足する。これにより、透光性カバー部材1が高温下に曝されたとしても、その変色が的確に抑制または防止されているということができる。
【0096】
なお、透光性カバー部材1の色変化[ΔE]は、ISO11664-4(JIS Z 8781-4)に準拠し、D65光源を使用して、視野角2°で測定された色値(L)に基づいて算出することができる。
【0097】
以上、本発明の透光性樹脂シート、投射型表示器および移動体について説明したが、本発明は、これらに限定されない。
【0098】
例えば、本発明の投射型表示器および移動体を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成と置換することができる。
【0099】
また、本発明の透光性樹脂シートは、前記実施形態では、偏光層2と、この偏光層2に積層された保護層3A、3Bとを有し、偏光層2と保護層3A、3Bとが接合層4A、4Bを介して接合されている場合について説明したが、これに限定されず、例えば、透光性樹脂シートは、偏光層2と接合層4A、4Bとの間、および、保護層3A、3Bと接合層4A、4Bとの間の少なくとも一方に設けられた中間層を備えてもよいし、保護層3A、3Bの少なくとも一方に積層された、ハードコート層のような最外層を備えてもよい。中間層は保護層とは別の材料を使用することができる。
【0100】
さらに、前記実施形態では、本発明の投射型表示器を、移動体としての自動車100が備えるヘッドアップディスプレイ装置10に適用する場合について説明したが、ヘッドアップディスプレイ装置10が適用される移動体としては自動車100に限らず、例えば、船舶、鉄道車両、飛行機、バス、オートバイ、自転車、フォークリフト、工事現場等で所定の作業をする作業車、ゴルフカート等が挙げられる。
また、本発明の透光性樹脂シートは、上述したヘッドアップディスプレイ装置の透光性カバー部材としての用途に限られず、眼鏡、サングラスのようなアイウエアが備えるレンズに適用することもできる。例えば、本発明の透光性樹脂シートをレンズの形状に打ち抜き、さらに、係るレンズに対応して湾曲状態とした透光性樹脂シートをレンズ表面に装着して用いることができる。
【実施例
【0101】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されない。
【0102】
1.各種フィルムの準備
まず、各実施例および各比較例の透光性樹脂シートの製造に用いた各種フィルムを以下に示す。
【0103】
(PVAフィルム)
PVA(ポリビニルアルコール)フィルムとして、クラレビニロン#7500(クラレ社製)を用意した。
【0104】
(保護用フィルム1)
保護用フィルム1として、ポリカーボネート樹脂シート(厚さ:0.325mm)を用意した。
【0105】
(保護用フィルム2)
保護用フィルム2として、ポリカーボネート樹脂シート(厚さ:0.250mm)を用意した。
【0106】
(保護用フィルム3)
保護用フィルム3として、ポリカーボネート樹脂シート(厚さ:0.125mm)を用意した。
【0107】
(保護用フィルム4A)
保護用フィルム4Aとして、ポリアミド樹脂シート(厚さ:0.400mm)を用意した。
【0108】
(保護用フィルム4B)
保護用フィルム4Bとして、ポリアミド樹脂シート(厚さ:0.200mm)を用意した。
【0109】
(保護用フィルム5)
保護用フィルム5として、トリアセチルセルロース樹脂シート(厚さ:0.080mm)を用意した。
【0110】
2.透光性樹脂シートの製造
(実施例1)
<1> まず、膨潤槽、染色槽、架橋槽、乾燥機を具備する染色装置にて、PVAフィルムを延伸させながら二色性染料を溶解させた水溶液(ブリリアントブルー6Bが4g/L、ベンゾパープリンが2g/L、JAPANSOL FAST BLACK D conc.が1g/L)中において40℃の条件で10分間染色し、硼酸架橋した後に、80℃、0%Rhの条件で5分間乾燥させることで、偏光層2を形成した。
【0111】
<2> 次に、得られた偏光層2の両面に一液型湿気硬化型ポリウレタン系接着剤を介して、保護用フィルム1を保護層3A、3Bとして圧着することで総厚0.7mmの実施例1の透光性樹脂シートを作製した。
【0112】
(実施例2~5、8、9)
前記工程<2>において、保護層3A、3Bとして圧着する保護用フィルムの組み合わせについて、表1に示す層構成としたこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例2~5、8、9の透光性樹脂シートを得た。
【0113】
(実施例6、7、比較例1、2)
前記工程<1>において、乾燥させることで偏光層2を得る際の条件を、表1に示す条件としたこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例6、7、比較例1、2の透光性樹脂シートを得た。
【0114】
(実施例10)
前記工程<1>における、偏光層2の乾燥を省略したこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例10の透光性樹脂シートを得た。
【0115】
3.評価
各実施例および各比較例の透光性樹脂シートを、以下の方法で評価した。
【0116】
<A>関係式A・B(1)の算出
まず、各実施例および各比較例の透光性樹脂シートについて、それぞれ、温度25℃、湿度50%Rhの条件下で23時間保管した。
【0117】
次いで、この条件下で保管された後の透光性樹脂シートについて、水分率測定装置(アイ・ティー・エスジャパン社製、「AQUATRACK 3E」)を用いて、透光性樹脂シートにおける水分の含有率(水分率)Aを測定した。
【0118】
そして、得られた水分の含有率Aと、透光性樹脂シートが備える保護層3A、3Bの厚さの合計Bとに基づいて、A・B(1)の大きさを求めた。
【0119】
<B>関係式A・B(2)の算出
まず、各実施例および各比較例の透光性樹脂シートについて、それぞれ、温度35℃、湿度20%Rhの条件下で22時間保管した。
【0120】
次いで、この条件下で保管された後の透光性樹脂シートについて、水分率測定装置(アイ・ティー・エスジャパン社製、「AQUATRACK 3E」)を用いて、透光性樹脂シートにおける水分の含有率(水分率)Aを測定した。
【0121】
そして、得られた水分の含有率Aと、透光性樹脂シートが備える保護層3A、3Bの厚さの合計Bとに基づいて、A・B(2)の大きさを求めた。
【0122】
<C>湾曲試験の評価
まず、各実施例および各比較例の透光性樹脂シートについて、それぞれ、打ち抜くことで5cm角の試験片とし、その後、これらの試験片を、140℃に加熱しつつ、熱曲げ加工を行うことで、曲率半径が80mmである湾曲状態に形成した。そして、この湾曲状態とされた試験片の形成を、各実施例および各比較例の透光性樹脂シートについて、それぞれ、20個ずつ行い、各試験片の外観を目視にて観察することにより、試験片におけるクラックの発生の有無を確認した。
【0123】
<D>耐熱性試験の評価
各実施例および各比較例の透光性樹脂シートについて、それぞれ、温度105℃、湿度0%Rhの条件下で1000時間保管した後における色変化(ΔE)を、ISO11664-4(JIS Z 8781-4)に準拠し、D65光源を使用して、視野角2°で保管前後において測定された色値(L)に基づいて算出した。
【0124】
以上のようにして得られた各実施例および各比較例の透光性樹脂シートにおける評価結果を、それぞれ、下記の表1に示す。
【0125】
【表1】
【0126】
表1に示したように、各実施例における透光性樹脂シートでは、関係式A・B(1)[mm・%]が0.20≦A・B(1)≦0.70なる関係を満足していた。その結果、透光性樹脂シートを湾曲形状に形成したとしても、透光性樹脂シートにおいて、クラックが発生するのを的確に抑制または防止することができ、かつ、透光性樹脂シートが高温下に曝されたとしても、透光性樹脂シートにおける変色の発生を的確に抑制または防止することができる結果を示した。
【0127】
これに対して、比較例1における透光性樹脂シートでは、関係式A・B(1)[mm・%]が0.20未満を示し、0.20≦A・B(1)≦0.70なる関係を満足していなかった。その結果、透光性樹脂シートを湾曲形状に形成すると、透光性樹脂シートにおいて、クラックが生じてしまう結果を示した。また、比較例2における透光性樹脂シートでは、関係式A・B(1)[mm・%]が0.70超示し、0.20≦A・B(1)≦0.70なる関係を満足しておらず、その結果、透光性樹脂シートが高温下に曝されると、透光性樹脂シートにおいて、変色が認められる結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明によれば、偏光子で構成された偏光層と、該偏光層の双方の面側にそれぞれ設けられ、主として樹脂材料で構成された保護層とを備える透光性樹脂シートを提供する。本発明では、当該透光性樹脂シートにおける水分の含有率をA[%]とし、前記偏光層の双方の面側に設けられた2つの前記保護層の厚さの合計をB[mm]としたとき、当該透光性樹脂シートを、温度25℃、湿度50%Rhの条件下で23時間保管した際の前記含有率Aと前記厚さの合計Bとの積の関係式A・B(1)[mm・%]は、0.20≦A・B(1)≦0.70なる関係を満足する。そのため、例えば、投射型表示器から出射される出射光を透過させる透光性カバー部材として、投射型表示器のハウジングが備える出射窓の形状に対応して透光性樹脂シートが打ち抜かれ、さらに、この出射窓に対応して湾曲状態で透光性樹脂シートが装着されたとしても、透光性樹脂シート(透過性カバー部材)におけるクラックの発生を的確に抑制または防止することができる。さらに、夏場のダッシュボードのように高温下に、投射型表示器が曝されたとしても、透光性樹脂シート(透過性カバー部材)が変色するのを的確に抑制または防止し得る。そのため、透光性カバー部材を透過した出射光を、スクリーンに設計通りの色調で確実に投影することができる。したがって、本発明は、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0129】
1 透光性カバー部材
2 偏光層
3A 保護層
3B 保護層
4A 接合層
4B 接合層
10 ヘッドアップディスプレイ装置(Head-Up Display)
11 表示部
12 反射部材
13 収納体
131 窓部
100 自動車
101 ダッシュボード
102 フロントガラス
102a 裏面(内側の面)
H 運転手
LS 表示画像
図1
図2
図3