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  • -パルプモールド成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】パルプモールド成形体
(51)【国際特許分類】
   D21J 1/00 20060101AFI20250304BHJP
   F21V 1/26 20060101ALI20250304BHJP
   F21V 7/00 20060101ALI20250304BHJP
   F21V 7/24 20180101ALI20250304BHJP
   D21J 3/00 20060101ALN20250304BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20250304BHJP
【FI】
D21J1/00
F21V1/26
F21V7/00 320
F21V7/24
D21J3/00
F21Y115:10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024165201
(22)【出願日】2024-09-24
【審査請求日】2024-10-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝男
(72)【発明者】
【氏名】三好 瑞江
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-316149(JP,A)
【文献】特開2013-161779(JP,A)
【文献】特開2010-3646(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第117072912(CN,A)
【文献】国際公開第2006/035916(WO,A1)
【文献】特開2022-27398(JP,A)
【文献】特開2000-190413(JP,A)
【文献】特開2007-233344(JP,A)
【文献】特表2020-505145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21V 7/00
F21V 1/26
D21J 1/00
D21J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長555nmでの全光線反射率が50%以上であり、
厚さが500μm以上1500μm以下であることを特徴とするパルプモールド成形体。
【請求項2】
波長555nmでの拡散反射率が50%以上であることを特徴とする請求項1に記載のパルプモールド成形体。
【請求項3】
波長555nmでの全光線透過率が1.0%以上であることを特徴とする請求項1に記載のパルプモールド成形体。
【請求項4】
密度が0.45g/cm3以上1.0g/cm3以下であることを特徴とする請求項1に記載のパルプモールド成形体。
【請求項5】
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)に対する広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)のパルプ配合(LBKP/NBKP)が、30/70以上100/0以下であることを特徴とする請求項1に記載のパルプモールド成形体。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のパルプモールド成形体は、照明用反射部材であり、ランプシェードであることを特徴とする。
【請求項7】
表面に水彩絵具等で描画することが可能な請求項に記載のランプシェード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプモールド成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックゴミによる海洋汚染等が問題となっており、脱プラスチック製品が望まれている。例えば、家具において段ボール製の棚やテーブルなど、廃棄面での手軽さも相俟って紙製品の需要がある。紙製品の中でも特に、パルプモールド製品は、成形性に優れており、環境面でも好適である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
パルプモールド製品は、従来パッケージや緩衝材として使用されているが、様々な用途として用いることも検討されている。本発明者は、パルプモールド製品が、光の方向を変え部屋を明るく照らしたりすることができ、例えば、ランプシェードなどの反射部材としての役割を果たすことに着目し、パルプモールド製品を反射部材として十分に機能させる場合に、全光線反射率が所定の数値以上であることが好ましいことを発見した。
【0004】
本発明の目的は、反射率が高く、効率良く光を拡散可能なパルプモールド成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るパルプモールド成形体は、以下の<1>~<7>の構成を有する。
<1> 波長555nmでの全光線反射率が50%以上であることを特徴とするパルプモールド成形体。
<2> 波長555nmでの拡散反射率が50%以上であることを特徴とする<1>に記載のパルプモールド成形体。
<3> 波長555nmでの全光線透過率が1.0%以上であることを特徴とする<1>に記載のパルプモールド成形体。
<4> 密度が0.45g/cm3以上1.0g/cm3以下であることを特徴とする<1>に記載のパルプモールド成形体。
<5> 厚さが500μm以上1500μm以下であることを特徴とする<1>に記載のパルプモールド成形体。
<6> 針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)に対する広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)のパルプ配合(LBKP/NBKP)が、30/70以上100/0以下であることを特徴とする<1>に記載のパルプモールド成形体。
<7> <1>~<6>のいずれかに記載のパルプモールド成形体は、照明用反射部材であり、ランプシェードであること。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るパルプモールド成形体によれば、反射部材として用いたときに、反射率が高くなるので、効率良く光を反射することが可能となる。また、紙製なので地球環境に配慮した廃棄やリサイクルが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係る反射部材を用いた天井照明器具の斜視図である。
図2図1に示す天井照明器具の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1および図2を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。但し、本発明は本形態の態様に限定されるものではない。
【0009】
なお、本明細書および特許請求の範囲の記載において、「パルプモールド成形体」はパルプ製の成形体であり、「反射部材」は、例えば、ランプシェード、レフ板などの光を反射させる器具を含む。
【0010】
以下、パルプモールド成形体を(照明用)反射部材の一例であるランプシェードとして使用した形態について述べる。
[構造]
図1は本発明の一実施形態に係る反射部材2を用いた天井照明器具1の斜視図であり、図2図1に示す天井照明器具1の側面図である。図2では、説明の便宜上、反射部材2を切断し、ランプ4やコード3を可視化している。
【0011】
本実施形態に係る反射部材(以下、「ランプシェード」とも言う)2は、パルプモールド成形体であって、図1および図2に示すように、天井照明器具1に用いられる。天井照明器具1は、天井の電力供給源から電力を供給するためのプラグ5と、プラグ5からの電力をランプ(例えばLEDランプ)4へ供給するためのコード3と、ランプ4と、ランプ4から投射された光を反射し拡散するための傘状のランプシェード2とを備える。ランプシェード2は、ランプ4に上部から被せるように構成され、中心にコード3を通す孔部を有する。本発明では、天井吊り下げに限られず、例えば、台に設置するランプ用の傘にも利用され得る。
【0012】
ランプシェード2の傘形状は、図1および図2に示すように、ドーム型になっており、周縁が円状になっている。本発明ではこの限りではなく、円錐形のようなものであってもよいし、ランプの種類、光の指向、光束、光度、輝度、照度などに応じて形状を設定することが可能である。例えば、棒状のランプ(例えば蛍光灯)であれば、細長の傘状とすることもできる。
【0013】
本発明では、発明の効果を奏する上で、パルプモールド成形体において、波長555nmでの全光線反射率が50%以上であることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、パルプモールド成形体を反射部材として用いたときに、反射率が高くなるので、効率良く光を反射することが可能となる。また、紙製なので地球環境に配慮した廃棄やリサイクルが可能となる。ここで全光線反射率は、明るさ(光を返す)に寄与するものといえる。
【0015】
また、この構成によれば、光源(本実施形態のにおいてはランプ)の利用効率を高くすることが可能となる。全光線反射率の調整は、パルプモールド成形体の厚さ、密度、表面粗さの変更によって達成し得る。表面粗さの調整は、パルプ配合の変更等によって達成し得る。
【0016】
なお、図1ではデザインが表されているが、ここで言う全光線反射率(および後述の拡散反射率、全光線透過率)は、無地の場合のものである。パルプモールド成形体は白色が好ましいが、後述するようにデザインを付すことも可能である。
【0017】
本発明では、発明の効果を奏する上で、パルプモールド成形体において、波長555nmでの拡散反射率が50%以上であることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、指向性の高い光を拡散して、やわらかい光を実現し、光のムラ無く、目に優しい、雰囲気(暖かみ)のある光などの自然な光とすることが可能となる。拡散反射率の調整は、パルプモールド成形体の厚さ、密度、表面粗さ等の変更によって達成し得る。ここで拡散反射率は、光のむら(均一性)に寄与するものといえる。
【0019】
本実施形態に係るランプシェード2は、内側からの光を透過させることが可能となっている。ランプシェード2は、図1に示すように、内側には花模様のデザインが施され、ランプ4から投射した光を、内側において反射しつつ、外側に向けて光を透過させ、内側のデザインを外側へ浮き出させることができる。
【0020】
本発明では、発明の効果を奏する上で、パルプモールド成形体において、波長555nmでの全光線透過率が1.0%以上であることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、ランプシェードに光が透過し、ランプシェードが明るく、美観がよくなり、意匠性を与え、雰囲気(暖かみ)のある光になり、部屋の雰囲気をよくすることが可能となる。全光線透過率の調整は、パルプモールド成形体の厚さ、密度の変更等によって達成し得る。
【0022】
本発明では、パルプモールド成形体において、波長555nmでの全光線透過率の上限値は、ランプシェードを用いて、手元や部屋の明るさを十分に得るため(またはランプシェードを透過する光を減らし光源の効率を高めるため)に、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは2%以下である。
【0023】
本発明者は、素材や物性を最適化することで、反射部材(ランプシェード)に適した、パルプモールド製品を見い出した。
[光学特性の測定方法]
光学的な特性として、紫外可視近赤外分光光度計V-770(日本分光株式会社製)を用いて、可視光を含む300~850nmの波長範囲で、全光線反射スペクトル、拡散反射スペクトル、全光線透過スペクトルを測定した。代表して、人間の眼が明るさを感じる感度のピーク付近である波長555nmでの値を、全光線反射率、拡散反射率、全光線透過率として用いた。測定に際して、直径60mmの積分球を使用し、標準白板にはスペクトラロンを用いた。データ取込間隔は1nm、バンド幅は紫外・可視で2nm、近赤外で8nmと設定した。それぞれの測定値は、パルプモールド製品の所定の3か所を測定した平均値になっている。
【0024】
以下、本実施形態に係るパルプモールド成形体の原料や製法などについて説明する。
[パルプ原料]
パルプモールド成形体のパルプ原料としては、木材パルプ、非木材パルプ、古紙が例示され、木材パルプ、非木材パルプが好ましく、ここで、パルプ原料は、パルプモールド成形体を構成するパルプである。
【0025】
木材パルプとしては、一般に製紙用途で使用されている木材パルプが挙げられ、その調製法の違いにより、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ;セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ;砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)、リファイナーグランドウッドパルプ(RGP)等の機械パルプ;等に分類される。
【0026】
木材パルプとしては、原料により、針葉樹パルプおよび広葉樹パルプが例示される。針葉樹パルプとしては、モミ属、マツ属等から得られるパルプが例示される。また、広葉樹パルプとしては、アカシア属、ユーカリ属、ヤマナラシ属(たとえば、ポプラ)等から得られるパルプが例示される。
【0027】
これらの中でも、木材パルプとしては、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)がより好ましい。
【0028】
本発明では、本発明の効果を奏する上で、パルプモールド成形体を構成する木材パルプにおいて、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)に対する広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)のパルプ配合(LBKP/NBKP)が、30/70以上100/0以下であることが好ましい。パルプ配合比率をこのような範囲内にすることによって、平滑度と分散性が良くなる。パルプ配合比率は、反射率・透過率・吸収率に影響する。製品の表面性の観点からLBKPが多めがより好ましい。
【0029】
本実施形態において、広葉樹パルプとしては、得られるパルプモールド成形体の平滑性の観点から、アカシア属およびユーカリ属の木材パルプが好ましい。広葉樹パルプは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
本実施形態において、パルプ原料として、針葉樹パルプを含有することにより、より強度及び耐油性に優れたパルプモールド成形体が得られる。針葉樹パルプとしては、強度と耐油性の面で、マツ属の針葉樹パルプが好ましく、ラジアータパインがより好ましく、キッチン用のランプシェードに好適である。針葉樹パルプは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
パルプ原料が木材パルプと非木材パルプとの混合パルプである場合、パルプ原料中の木材パルプの含有量は、パルプモール成形体の表面平滑性および耐油性をより向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、よりさらに好ましくは20質量%以上、よりさらに好ましくは45質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、よりさらに好ましくは55質量%以下である。
【0032】
非木材パルプは、植物の皮、茎、葉、葉鞘から採取した繊維である。具体的には、コットンリンター、木綿、リネン、大麻、ラミー、わら、エスパルト、マニラ麻、ザイザル麻、黄麻、亜麻、ケナフ、竹、バガス、がんぴ、みつまた、こうぞ、桑から得られるパルプが挙げられる。
【0033】
非木材パルプは、パルプモールド成形体の耐油性を向上させる観点から、バガスおよび竹から選択される少なくともいずれかを含むことが好ましく、バガスおよび竹から選択される少なくともいずれかであることがより好ましく、バガスであることがさらに好ましい。
【0034】
パルプ原料が木材パルプと非木材パルプとの混合パルプである場合、パルプ原料中の非木材パルプの含有量は、パルプモールド成形体の表面平滑性および耐油性をより向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、よりさらに好ましくは45質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下、よりさらに好ましくは80質量%以下、よりさらに好ましくは55質量%以下である。
【0035】
本実施形態において、パルプ原料はバージンパルプを主成分とすることが好ましい。バージンパルプを主成分とすることにより、より表面平滑性に優れるパルプモールド成形体が得られる。なお、「バージンパルプを主成分とする」とは、パルプ原料中のバージンパルプの含有量が、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、よりさらに好ましくは100質量%であることをいう。
【0036】
バージンパルプとしては、特に限定されないが、たとえば、晒しパルプ、半晒しパルプが好ましい。
【0037】
なお、未晒しパルプは、リグニンの残留量が多く、白色度が低く、全光線吸収率が上がるため反射率の低下を招き、装飾性に劣る傾向にある。したがって、パルプ原料中の未晒しパルプの含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、よりさらに好ましくは含有しないこと(0質量%)である。
【0038】
一方、強度、汚れの目立ちにくさ、自然な風合いなどが求められる用途においては、未晒しパルプを使用することが好ましい。この際、パルプ原料中の未晒しパルプの含有量は、好ましくは20質量%超、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である(上限100質量%)。この場合において、晒しパルプおよび半晒しパルプの少なくとも一方を未晒しパルプと併用してもよい。
【0039】
また、パルプ原料として、マーセルパルプ、架橋パルプを含有すると、パルプモールド成形体の強度が低下したり、密度が低下する傾向がある。したがって、パルプ原料中のマーセルパルプおよび架橋パルプの含有量は、それぞれ、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、よりさらに好ましくは含有しないこと(0質量%)である。
【0040】
古紙パルプは、インキの残留量が多く、分散性に劣る傾向がある。また、古紙の繊維は毛羽立ち、変形している傾向にある。また、古紙パルプは白色度が低く、全光線吸収率が上がるため反射率の低下を招き、インキがパルプ繊維上に残留したまま細長く黒く見える未脱墨繊維が存在し、黒ひげが発生する傾向にある。また、灰色に見えるビニール等や、黒色斑点スポットが残留しているためにチリが見られる。その結果として、得られるパルプモールド成形体の外観や、表面平滑性が低下する傾向にあることから、パルプ原料中の古紙パルプの含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、よりさらに好ましくは含有しないこと(0質量%)である。
【0041】
本実施形態において、パルプ原料のカナダ標準ろ水度(Canadian Standard Freeness:CSF)は、パルプ原料の生産性、およびパルプモールド成形体を製造時の抄紙性の観点から、好ましくは100mL以上、より好ましくは150mL以上、さらに好ましくは200mL以上であり、そして、表面平滑性の観点から、好ましくは600mL以下、より好ましくは520mL以下、さらに好ましくは450mL以下、よりさらに好ましくは400mL以下、よりさらに好ましくは300mL以下である。CSFが600mLより高いと表面性が悪くなる可能性がある。
【0042】
CSFについて、叩解を進めると透明になる、すなわち不透明度が低下する。CSFは、反射率・透過率・吸収率に影響する。
【0043】
CSFが上記範囲内となるように、叩解の程度を調整すればよい。
【0044】
CSFは、JIS P 8121-2:2012に準拠して測定される。晒しパルプについて、反射率が高いので白色が好ましい。本発明では、本発明の効果を奏する上で、パルプモールド成形体において、カッパー価が1~20であることが好ましい。
[その他の成分]
パルプモールド成形体は、上述したパルプを主原料として形成されている。パルプモールド成形体は、パルプ100%から形成されていてもよいが、パルプに加えて、各種内添助剤等の他の成分を配合してなるものでもよい。
【0045】
他の成分としては、タルク、カオリン等の無機物、ガラス繊維やカーボン繊維等の無機繊維、ポリオレフィン等の合成樹脂の粉末または繊維、カルボキシメチルセルロース等の多糖類、サイズ剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤、耐油剤、歩留剤、濾水向上剤、嵩高剤、硫酸バンド、pH調整剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、顔料等の着色剤等が例示される。他の成分として、サイズ剤を含有することが好ましい。
【0046】
サイズ剤としては、ロジン系サイズ剤(たとえば、酸性ロジン系サイズ剤、中性ロジン系サイズ剤)、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、スチレン-(メタ)アクリレート共重合体などのスチレン含有ポリマーが挙げられ、アルキルケテンダイマーが好ましい。
【0047】
湿潤紙力増強剤としては、内添用の湿潤紙力増強剤として、ポリアミドアミン・エピクロロヒドリン樹脂、エポキシ化ポリアミドポリアミン、ジアルデヒドでんぷん、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミン-ホルムアルデヒド、ポリアクリルアミド、メチロール化ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン等が例示される。
【0048】
また、撥水剤としては、ワックスエマルジョン、金属石けん(ナトリウム、カリウム、亜鉛、リチウム、マグネシウム等のアルカリ塩)、脂肪酸クロム錯塩(ミリスチン錯塩、ステアリン酸クロミッククロライド錯塩等)、ジルコニウム撥水剤、シリコーンエマルジョン等が例示される。
【0049】
本実施形態に係るパルプモールド成形体は、非木材パルプを含有する場合、パルプ原料のみで耐油性を向上させることが可能であることから、湿潤紙力増強剤および撥水剤の添加量を減少しても、または添加しなくても、十分な耐油性を得ることが可能である。なお、より高い耐油性および耐水性を得ることを目的として、湿潤紙力増強剤または撥水剤を添加する態様を排除するものではない。
[密度]
本発明では、発明の効果を奏する上で、パルプモールド成形体の密度が0.45g/cm3以上1.0g/cm3以下であることが好ましい。
【0050】
また、パルプモールド成形体の密度は、表面平滑性および耐油性をより向上させる観点から、密度がより好ましくは0.50g/cm3以上、さらに好ましくは0.60g/cm3以上であり、そして、より好ましくは0.95g/cm3以下である。
【0051】
パルプモールド成形体の密度は、JIS P 8118:2014に準じて測定することができる。なお、JIS P 8118:2014は紙や板紙に用いる方法であり、本実施形態においては、サンプルの大きさが規定通りに取れないことがあり、その際にはサンプルサイズを適宜調整して測定に用いる。坪量はJIS P 8124:2011に準じて測定するが、サンプルサイズの調整も前記同様である。測定には成形体の平面部分を用いる。
【0052】
坪量について、ある程度有ると好ましく、透過率が下がり(不透明度が上がり)反射率が向上する。
【0053】
本発明では、本発明の効果を奏する上で、パルプモールド成形体において、坪量が1500kg/m2以下であることが好ましい。また、好ましい坪量の下限値は、200kg/m2である。
【0054】
パルプモールド成形体は、後述する抄き上げ工程を複数回行ったり、ホットプレス工程において、複数のモールド中間体をホットプレスすることにより、複数層の構成としてもよいが、表面平滑性および耐油性により優れる観点から、1層構成とすることが好ましい。
[厚さ]
本発明者は、本発明の効果を奏する上でパルプモールド成形体の厚さが500μm以上1500μm以下であることが好ましいことを発見した。
[繊維長]
本発明では、本発明の効果を奏する上で、パルプモールド成形体において、平均繊維長が0.5mm以上1.0mm以下であることが好ましい。繊維長をこの範囲内にすることによって、地合い、パルプの分散性をよくする(フロックが少なくなる)。繊維長は、反射率・透過率・吸収率に影響する。短繊維の方が好ましい。
[パルプモールド成形体の製造方法]
パルプモールド成形体の製造方法はとくに限定されないが、以下の工程1~工程3をこの順で有する製造方法により製造することが好ましい。当該製造方法で得られたパルプモールド成形体は、表面平滑性に優れるため、加飾可能であり、美粧性に優れ、表面加工を容易に施すことが可能である。加飾方法としては、特に限定されず、水彩絵具等で描画してもよい。
【0055】
工程1:パルプ懸濁液を準備するパルプ懸濁液準備工程
工程2:パルプ懸濁液から抄型を介してパルプを抄き上げてモールド中間体を得る抄き上げ工程
工程3:前記モールド中間体を第1のプレス金型と第2のプレス金型とで挟んでホットプレスするホットプレス工程。
【0056】
工程1では、パルプ原料および必要に応じてその他の成分を水に加えて、パルプ懸濁液(パルプスラリー)を調製する。該懸濁液の濃度(スラリー濃度)は、表面平滑性、寸法安定性、および生産性の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、そして、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0057】
工程2は、パルプ懸濁液から抄型を介してパルプを抄き上げる抄き上げ工程である。
【0058】
パルプ懸濁液中に真空引き通水性構造の金網張り金型などの成形金型を浸漬し、パルプ懸濁液を成形金型に吸引して水を排出させると同時にパルプ繊維を型に積層吸着させて立体的な湿紙を形成し、次いで、成形金型をパルプ懸濁液から引き上げ、含水した立体的な湿紙の吸引脱水または加圧脱水を行う。
【0059】
この際、成形金型面にパルプを積層吸着した成形金型は、真空吸引を続けながら、パルプ吸着面と対向させて、真空吸引をきかせた取り型(離型装置)を接近させ、パルプモールド中間体を圧縮真空吸引して脱水した後、成形金型の真空圧をゼロにして、取り型にパルプモールド中間体を吸着させた状態で取り方を引き戻して離型する。
【0060】
工程3は、前記抄き上げ工程後に得られたモールド中間体を加熱しながら第1のプレス金型と前記第1のプレス金型とは反対方向に位置する第2のプレス金型とによりホットプレスするホットプレス工程である。
【0061】
工程3は、工程2で得られた脱水後のパルプモールド中間体を、たとえば、多孔質金型からなるホットプレス用の第1のプレス金型に移し変える。前記第1のプレス金型に移し変えられたパルプモールド中間体は、第1のプレス金型と、第1のプレス金型とは反対方向に位置し、第1のプレス金型に係合するホットプレス用の第2のプレス金型とによって挟まれ、加熱、加圧されて、所定のパルプモールド成形体が得られる。
【0062】
なお、ホットプレス用の第1のプレス金型および第2のプレス金型の少なくとも1つに内部に電熱ヒーターを内蔵させ、それにより前記第1のプレス金型および第2のプレス金型の少なくとも1つを加熱することが好ましい。また、第1のプレス金型および第2のプレス金型を含む金型全体を熱風を導入した炉内に収容することによって、型の内部にも熱風が通過するようにしてもよい。
【0063】
工程3(ホットプレス工程)において、第1のプレス金型および第2のプレス金型によるプレス時の圧力は、表面平滑性に優れるパルプモールド成形体を得る観点から、好ましくは0.1MPa・s以上、より好ましくは0.3MPa以上、さらに好ましくは0.4MPa・s以上、よりさらに好ましくは0.6MPa以上であり、そして、消費電力および装置負荷の観点から、好ましくは3.0MPa・s以下、より好ましくは2.0MPa以下、さらに好ましくは1.5MPa・s以下である。
【0064】
工程3(ホットプレス工程)において、ホットプレス時の温度は、表面平滑性に優れるパルプモールド成形体を得る観点から、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは170℃以上であり、そして、消費電力、装置負荷、および変色抑制の観点から、好ましくは280℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは230℃以下である。
【0065】
なお、上記工程では、両面に平滑性に優れたパルプモールド成形を行っているが、本発明では片面のみに施す態様も許容され得る。当該パルプモールド成形では、例えば、きめ細かい網目が表面に形成され得る。
[評価]
次の表1に各実施例および比較例における、パルプ配合(NBKPに対するLBKP)(%)、CSF(mL)、ホットプレス工程(有・無)、厚さ(μm)、密度(g/cm3)、表面粗さ(平均粗さSa(μm))、表面粗さ(最大高低差Sz(μm))、波長555nmにおける、全光線反射率(%)、拡散反射率(%)、全光線透過率(%)についての評価を表す。
【0066】
反射および透過具合の評価(全光線反射率、拡散反射率、および全光線透過率の測定を含むもの)について、ランプシェードを装着し、暗室にて、光源付近のランプシェードの光り方を評価した。
【0067】
【表1】
【0068】
比較例1では、波長555nmにおいて、全光線反射率が43.6%であり、拡散反射率が39.9%であり、全光線透過率が0.0%となっている。
【0069】
比較例1は、実施例1から実施例5と比較して、反射率が低いので、十分に光を拡散させることができない。また、比較例1は、実施例1から実施例5と比較して、光を十分に透過させることができないので、照明用の器具として効果を期待できないことになる。比較例1のものは「全光線反射率」および「拡散反射率」が低く、暗く明るさムラがあり、ランプシェードとして適切でない。
【0070】
例えば、実施例5では、光源付近のランプシェード全体がほどよく明るくなり、ランプシェードの意匠性が向上し、部屋の雰囲気が良くなった。しかしながら、比較例1のような全光線透過率が1.0以下のものは、ランプシェードが暗く意匠性に変化が見られず、ランプシェードの意匠性の向上に寄与していない。
[その他]
本発明は、上述した各実施形態や、随所に述べた変形例に限られることなく、本発明の技術的思想から逸脱しない範囲で、適宜の変更や変形が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 照明器具
2 反射部材(ランプシェード)
3 コード
4 ランプ
5 プラグ
【要約】
【課題】反射率が高く、効率良く光を拡散可能なパルプモールド成形体を提供することにある。
【解決手段】本発明は、パルプモールド成形体であり、波長555nmでの全光線反射率が50%以上である。
【選択図】図1
図1
図2