(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】ピンセット及び包埋ブロック製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/36 20060101AFI20250304BHJP
B25B 9/02 20060101ALI20250304BHJP
B25F 1/00 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
G01N1/36
B25B9/02
B25F1/00
(21)【出願番号】P 2021100298
(22)【出願日】2021-06-16
【審査請求日】2024-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 浩
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0025361(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0107922(US,A1)
【文献】特開2009-136982(JP,A)
【文献】中国実用新案第202661320(CN,U)
【文献】中国実用新案第221834146(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第105234854(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106413899(CN,A)
【文献】実開昭49-109585(JP,U)
【文献】実開昭60-183166(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/36
B25B 9/02
B25F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々先端部が先細りの形状を有し、かつ互いに開閉可能に連結された第1アーム及び第2アームを備えるピンセットであって、
前記第1アームの前記先端部に、前記第2アームの前記先端部よりも厚肉に厚さ方向外方に向かって隆起した隆起部が形成されており、
前記第1アームの前記先端部における前記隆起部の幅方向の先端角度が、前記第2アームの前記先端部の幅方向の先端角度よりも大きく、かつ前記隆起部の外面が、対象物をタンピングするタンピング面として使用されることを特徴とする
ピンセット。
【請求項2】
前記第1アームの前記先端部における前記隆起部の幅方向の先端角度が、20°以上、60°以下となるように構成されることを特徴とする
請求項1に記載のピンセット。
【請求項3】
前記第1アームの前記隆起部の厚さ方向の先端角度が、前記第2アームの前記先端部の厚さ方向の先端角度よりも大きくなるように構成されることを特徴とする
請求項1又は2に記載のピンセット。
【請求項4】
前記第1アームの前記隆起部の厚さ方向の先端角度が、10°以上、40°以下となるように構成されることを特徴とする
請求項3に記載のピンセット
【請求項5】
前記タンピング面が、前記厚さ方向外方に向かって膨らんだ曲面で構成されることを特徴とする
請求項1から4のいずれか1項に記載のピンセット。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のピンセットによって前記対象物としての組織片を挟持し、前記組織片を包埋皿に移し入れる移載工程と、
前記ピンセットの前記タンピング面で、前記組織片を前記包埋皿の底面に向けて押し付けるタンピングを行うタンピング工程と、
を有することを特徴とする包埋ブロック製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンセット及び包埋ブロック製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡での観察に供される組織片の薄い標本の作製方法として、まず、組織片をパラフィン中に埋め固めた包埋ブロックを作り、次に、その包埋ブロックを薄くスライスする手法が知られている。
【0003】
特許文献1に開示されているように、包埋ブロックは、予めパラフィンを含浸させた組織片を包埋皿に移し入れたのち、その包埋皿に液状のパラフィンを注ぎ込み、注ぎ込んだパラフィンを凝固させることで得られる。
【0004】
このとき、組織片が凹凸状に波打った状態でパラフィン中に埋め固められてしまうと、得られる標本において組織片の断面がきちんと連続的に現れないことがある。そこで、包埋ブロックを作る過程では、組織片を包埋皿の底面に押し付けることにより組織片を平坦に均す作業、即ちタンピングが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タンピングは、タンパーと呼ばれる専用の道具を組織片に押し付けることにより行われる。具体的には、作業者は、組織片をピンセットで挟持して包埋皿に移載したのち、そのピンセットで小型のタンパーを挟持し直すか、又はそのピンセットをタンパーに持ち替えて、タンピングを行う。
【0007】
しかし、ピンセットでタンパーを挟持し直す作業、又はピンセットをタンパーに持ち替える作業には、手間がかかる。そして、この手間が、多数の包埋ブロックを次々に作製する際に作業能率を大きく低下させる要因となる。そこで、包埋ブロックを能率的に製造することができる包埋ブロック製造方法が望まれる。
【0008】
なお、仮に、組織片を包埋皿に移し入れるピンセットでタンピングも行うならば、上記手間が省かれる。しかし、従来のピンセットは先端が鋭利過ぎるため、ピンセットでタンピングを行おうとすると、組織片が傷みやすい。そこで、対象物のタンピングを行うことができ、かつタンピングの際に対象物を傷めにくいピンセットが望まれる。
【0009】
本発明の目的は、対象物のタンピングを行うことができ、かつタンピングの際に対象物を傷めにくいピンセットと、包埋ブロックを能率的に製造することができる包埋ブロック製造方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るピンセットは、
各々先端部が先細りの形状を有し、かつ互いに開閉可能に連結された第1アーム及び第2アームを備えるピンセットであって、
前記第1アームの前記先端部に、前記第2アームの前記先端部よりも厚肉に厚さ方向外方に向かって隆起した隆起部が形成されており、
前記第1アームの前記先端部における前記隆起部の幅方向の先端角度が、前記第2アームの前記先端部の幅方向の先端角度よりも大きく、かつ前記隆起部の外面が、対象物をタンピングするタンピング面として使用されることを特徴とする。
【0011】
前記第1アームの前記先端部における前記隆起部の幅方向の先端角度が、20°以上、60°以下となるように構成されてもよい。
【0012】
前記第1アームの前記隆起部の厚さ方向の先端角度が、前記第2アームの前記先端部の厚さ方向の先端角度よりも大きくなるように構成されてもよい。
【0013】
前記第1アームの前記隆起部の厚さ方向の先端角度が、10°以上、40°以下となるように構成されてもよい。
【0014】
前記タンピング面が、前記厚さ方向外方に向かって膨らんだ曲面で構成されてもよい。
【0015】
本発明に係る包埋ブロック製造方法は、
上述した本発明に係るピンセットによって前記対象物としての組織片を挟持し、前記組織片を包埋皿に移し入れる移載工程と、
前記ピンセットの前記タンピング面で、前記組織片を前記包埋皿の底面に向けて押し付けるタンピングを行うタンピング工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るピンセットによれば、隆起部がタンピング面を有するので、タンピング面で対象物のタンピングを行うことができる。また、隆起部の幅方向の先端角度が、第2アームの先端部の幅方向の先端角度よりも大きいので、広いタンピング面を確保することができる。このため、タンピングの際に対象物を傷めにくい。
【0017】
本発明に係る包埋ブロック製造方法によれば、ピンセットによって、組織片の包埋皿への移し入れと、移し入れた組織片のタンピングとを連続して行える。つまり、従来必要であった、ピンセットでタンパーを挟持し直す作業、又はピンセットをタンパーに持ち替える作業が不要となる。このため、包埋ブロックを能率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係るピンセットを示す斜視図。
【
図2】(A):第1実施形態に係るピンセットで組織片を挟持している様子を示す概念図。(B):同ピンセットで組織片のタンピングを行っている様子を示す概念図。
【
図3】(A):第1実施形態に係るピンセットのタンピング時の持ち方の一例を示す概念図。(B):同ピンセットのタンピング時の持ち方の他の例を示す概念図。
【
図4】第1実施形態に係るピンセットの先端部を示す部分拡大断面図。
【
図5】第1実施形態に係る隆起部のタンピング面を示す部分拡大側面図。
【
図6】第2実施形態に係るピンセットの先端部を示す部分拡大断面図。
【
図7】第3実施形態に係る隆起部のタンピング面を示す部分拡大側面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、上述したピンセットの一具体例として、実施形態に係るピンセットについて説明する。図中、同一又は対応する部分に同一の符号を付す。
【0020】
[第1実施形態]
図1に示すように、本実施形態に係るピンセット100は、互いに開閉可能に連結された板状の第1アーム10及び第2アーム20と、それら第1アーム10及び第2アーム20を連結している連結部30とを有する。連結部30は、第1アーム10及び第2アーム20の端部に配置されている。
【0021】
第1アーム10の、連結部30とは反対側の端部である先端部10Tは、先細りの形状を有する。第2アーム20の、連結部30とは反対側の端部である先端部20Tも同様、先細りの形状を有する。
【0022】
本実施形態に係るピンセット100は、第1アーム10の先端部10Tが、対象物をタンピングするタンピング面15aを有する隆起部15を備える点を最大の特徴としている。以下、このピンセット100の用途の一具体例として、実施形態に係る包埋ブロック製造方法の主要部について説明する。
【0023】
図2(A)に示すように、第1アーム10の先端部10Tと、第2アーム20の先端部20Tとで、対象物としての生体の組織片200が挟持される。組織片200には、予めパラフィン等の樹脂が含侵されているものとする。まず、作業者は、このようにピンセット100で組織片200を挟持し、組織片200を包埋皿に移し入れる(移載工程)。
【0024】
図2(B)に示すように、ピンセット100によって組織片200が包埋皿300に移し入れられたのち、作業者は、同じピンセット100のタンピング面15aで、組織片200を包埋皿300の底面に向けて押し付けるタンピングを行う(タンピング工程)。これにより、組織片200が包埋皿300の底面に沿って平坦に均される。
【0025】
その後、包埋皿300に液状のパラフィン等の樹脂が注ぎ込まれる。その液状の樹脂が凝固することで、組織片200が樹脂中に埋め固められた包埋ブロックが得られる。その包埋ブロックを薄くスライスした標本が、顕微鏡での観察等に供される。組織片200のタンピングを行ったので、標本において組織片200の断面がきれいに連続的に現れる。
【0026】
図3(A)及び(B)に、上記タンピング工程でタンピングを行う際の、作業者によるピンセット100の持ち方を例示的に示す。
【0027】
図3(A)に示すように、ピンセット100で対象物を掴む場合と同じ持ち方でタンピングを行うことができる。また、
図3(B)に示すように、ナイフやメスを持つ場合と同じように人差し指を第2アーム20の外面に沿わせる持ち方でタンピングを行うこともできる。
【0028】
図3(A)及び(B)に示す持ち方によれば、包埋皿300への組織片200の移し入れと、移し入れた組織片200のタンピングとの作業の連続性が損なわれにくいため、包埋ブロックの製造を最も能率的に行える。但し、
図2(B)に示したようにタンピング面15aを対象物に押し付けることができる持ち方であれば、特に
図3(A)及び(B)に示す持ち方に限られない。
【0029】
以上のとおり、本実施形態に係る包埋ブロック製造方法によれば、ピンセット100を用いて、包埋皿300への組織片200の移し入れと、移し入れた組織片200のタンピングとを連続して行える。つまり、組織片200を包埋皿300に移し入れたのちに、従来必要であった、ピンセットでタンパーを挟持し直す作業、又はピンセットをタンパーに持ち替える作業が不要である。従って、包埋ブロックを能率的に製造することができる。
【0030】
図1に戻り、以下、本実施形態に係るピンセット100の構成を具体的に説明する。
【0031】
以下の説明を容易にするために、ピンセット100の長さ方向D1と、第1アーム10及び第2アーム20が開閉する開閉方向D2とに平行で、かつピンセット100を通る仮想平面である開閉方向仮想平面VP1を定義する。
【0032】
また、第1アーム10に沿って延在する、第1アーム10の中心軸を表す仮想中心線VL1を定義する。同様に、第2アーム20に沿って延在する、第2アーム20の中心軸を表す仮想中心線VL2を定義する。開閉方向仮想平面VP1は、仮想中心線VL1及びVL2の位置を通る。
【0033】
本明細書において、第1アーム10及び第2アーム20の各々について“幅方向”とは、開閉方向仮想平面VP1に直角な方向を指す。
【0034】
既述のとおり、第1アーム10の先端部10T及び第2アーム20の先端部20Tは、先細りの形状を有する。この“先細りの形状”とは、本実施形態では、第1アーム10の先端部10T及び第2アーム20の先端部20Tの幅方向の寸法が、各々の先端に向かうに従って次第に減少している形状を意味する。
【0035】
また、本明細書において、第1アーム10の“厚さ方向”とは、第1アームの仮想中心線VL1に直角で、開閉方向仮想平面VP1に平行な方向を指す。第2アーム20の“厚さ方向”とは、第2アームの仮想中心線VL2に直角で、開閉方向仮想平面VP1に平行な方向を指す。
【0036】
図4に、第1アーム10の先端部10T及び第2アーム20の先端部20Tの、厚さ方向に平行な断面を拡大して示す。既述のとおり、第1アーム10の先端部10Tに、対象物をタンピングするための隆起部15が形成されている。
【0037】
第1アーム10の先端部10Tの、第2アーム20の先端部20Tに面する内面11は、平坦に形成されている。また、第2アーム20の先端部20Tの、第1アーム10の先端部10Tに面する内面21も平坦に形成されている。このため、先端部10T及び20Tで、
図2(A)に示す組織片200を挟持するにあたり、隆起部15は邪魔にならない。
【0038】
また、第2アーム20の先端部20Tの、厚さ方向に関して内面21とは反対側の外面22も、平坦に形成されている。第1アーム10の先端部10Tにおける隆起部15を除く部分の、厚さ方向に関して内面11とは反対側の外面12も、平坦に形成されている。
【0039】
第1アーム10の先端部10Tにおいて、隆起部15は、第2アーム20の先端部20Tよりも厚肉に厚さ方向外方に向かって隆起している。ここで“厚さ方向外方”とは、
図1に示す開閉方向D2に関して、第2アーム20の先端部20Tから遠ざかる向きを指す。隆起部15の、厚さ方向に関して内面11とは反対側の外面が、対象物をタンピングするためのタンピング面15aである。
【0040】
隆起部15は、第1アーム10の先端部10Tにおける隆起部15を除く部分に比べて、局所的に厚肉に形成されている。即ち、隆起部15は、第1アーム10の先端部10Tにおける隆起部15を除く部分の外面12よりも外方に隆起している。このため、隆起部15は、タンピング面15aと外面12とをつなぐ段差面15bを有する。
【0041】
隆起部15の厚さ方向の先端角度α1は、第2アーム20の先端部20Tの厚さ方向の先端角度α2よりも大きい。ここで、“厚さ方向の先端角度”とは、
図1に示した開閉方向仮想平面VP1に沿った断面内における先端の角度を指す。
【0042】
このように、α1>α2である構成としたことにより、
図2(B)に示したように、タンピング面15aを水平又は略水平に向けてタンピングを行うに際し、ピンセット100を過度に寝かせなくて済む。これにより、ピンセット100が包理皿300のふちに接触しにくくなる。
【0043】
角度α1、α2の具体的な値について説明する。第2アーム20の先端部20Tの厚さ方向の先端角度α2は、0°を超え、10°未満、より具体的には、7°以下、典型的には5°程度である。これに対し、隆起部15の厚さ方向の先端角度α1は、タンピングの際にピンセット100を過度に寝かせなくて済むように、10°以上であることが好ましい。
【0044】
一方、隆起部15の厚さ方向の先端角度α1が大きすぎると、細かい対象物を掴む操作の容易性が損なわれる懸念がある。そこで、対象物が細かい場合であっても、その対象物を掴む操作の容易性が損なわれにくくするために、隆起部15の厚さ方向の先端角度α1は、40°以下であることが好ましい。
【0045】
一実施例では、
図3(A)及び(B)に示した持ち方で検討した結果、最も適した角度α1は、20°であった。
【0046】
図5は、タンピング面15aを厚さ方向に平行な視線でみた部分拡大側面図である。
図5に示すように、第1アーム10の先端部10Tにおける隆起部15の幅方向の先端角度β1は、第2アーム20の先端部20Tの幅方向の先端角度β2よりも大きい。
【0047】
ここで、“隆起部15の幅方向の先端角度β1”とは、隆起部15を、開閉方向仮想平面VP1に直交する幅方向仮想平面VP2に垂直投影した投影領域の、先端の角度を指す。また、“第2アーム20の先端部20Tの幅方向の先端角度β2”とは、第2アーム20の先端部20Tを、幅方向仮想平面VP2に垂直投影した投影領域の、先端の角度を指す。
【0048】
このように、β1>β2である構成としたことにより、第1アーム10の先端部10Tが第2アーム20の先端部20Tに比べて幅広となるため、タンピング面15aの面積を広く確保することができる。このため、
図2(B)に示したように、第1アーム10の先端部10Tのタンピング面15aでタンピングを行うに際し、第2アーム20の先端部20Tでタンピングを行う場合に比べて、組織片200を傷めにくい。
【0049】
角度β1、β2の具体的な値について説明する。第2アーム20の先端部20Tの幅方向の先端角度β2は、0°を超え、10°以下、より具体的には、7°以下、典型的に5°程度である。これに対し、隆起部15の幅方向の先端角度β1は、広いタンピング面15aを確保するために、20°以上であることが好ましい。
【0050】
一方、隆起部15の幅方向の先端角度β1が大きすぎると、細かい対象物を掴む操作の容易性が損なわれる懸念がある。そこで、対象物が細かい場合であっても、その対象物を掴む操作の容易性が損なわれにくくするために、隆起部15の幅方向の先端角度β1は、60°以下であることが好ましい。
【0051】
一実施例では、
図3(A)及び(B)に示した持ち方で検討した結果、最も適した角度β1は、30°であった。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係るピンセット100によれば、隆起部15がタンピング面15aを有するので、タンピング面15aで対象物のタンピングを行うことができる。また、隆起部15の幅方向の先端角度β1が、第2アーム20の先端部20Tの幅方向の先端角度β2よりも大きいので、広いタンピング面15aを確保することができる。このため、タンピングの際に対象物を傷めにくい。
【0053】
また、隆起部15の厚さ方向の先端角度α1が、第2アーム20の先端部20Tの厚さ方向の先端角度α2よりも大きいので、タンピングを行うに際し、ピンセット100を過度に寝かせなくて済む。このため、作業者の手首に負担がかかりにくい。
【0054】
[第2実施形態]
図4には、タンピング面15aが平坦、即ち平面状に形成された構成を例示したが、タンピング面15aは曲面であってもよい。以下、その具体例を述べる。
【0055】
図6に示すように、本実施形態に係るタンピング面15aは、外方に向かって膨らんだ曲面で構成されている。このため、タンピング面15aの縁の部分、具体的には、先端部10Tの長さ方向の縁の部分及び幅方向の縁の部分で対象物が傷められにくい。また、作業者は、タンピング面15aが対象物の表面上で転がるように手首を揺り動かすことでタンピングを行うこともできる。
【0056】
また、本実施形態に係る隆起部15は、タンピング面15aと段差面15bとの境界部分に、接続面15cを有する。接続面15cは、タンピング面15aと段差面15bとを滑らかにつなぐ曲面状をなす。このため、タンピング面15aと段差面15bとの境界部分で対象物が傷められにくい。
【0057】
[第3実施形態]
図5には、開閉方向仮想平面VP1に対して面対称に配置されたタンピング面15aを例示した。このタンピング面15aは、開閉方向仮想平面VP1に対して面対称であるため、先端部10Tにおける隆起部15を除く部分(以下、本体部という。)の幅方向一方の端面13よりも幅方向外方に突出しており、かつ本体部の幅方向他方の端面14よりも幅方向外方に突出している。
【0058】
このようなピンセット100は、作業者が右利きである場合と左利きである場合とで、構成を共通化できるという利点をもつ。但し、タンピング面15aは、開閉方向仮想平面VP1に対して非対称に配置してもよい。以下、その具体例を述べる。
【0059】
図7に示すように、本実施形態に係るタンピング面15aは、先端部10Tの本体部における幅方向一方の端面13よりも幅方向外方には突出しているが、先端部10Tの本体部における幅方向他方の端面14よりは幅方向外方に突出していない。
【0060】
このような構成によれば、対象物を挟持する際に、端面14の側において対象物を視認し易い。このため、対象物を掴む操作の容易性の向上に寄与する。
【0061】
以上、第1-第3実施形態について説明した。第1実施形態では、ピンセット100の用途として包埋ブロックの製造を例示したが、本開示に係るピンセット100の用途は、包埋ブロックの製造に限られない。
【0062】
本明細書において“タンピング”の概念には、包埋ブロックの製造過程で組織片200を押し付ける操作のみならず、半導体、切手、各種の部品、その他の組織片200以外の対象物を基礎となる面に向けて押し付ける操作も含まれるものとする。
図3(A)及び(B)に例示した持ち方は、組織片200以外の対象物のタンピングにも適用できる。なお、組織片200の概念からは、人体より採取されたものが除かれてもよい。
【符号の説明】
【0063】
10…第1アーム、
10T…先端部、
11…内面、
12…外面、
13…端面、
14…端面、
15…隆起部、
15a…タンピング面、
15b…段差面、
15c…接続面、
20…第2アーム、
20T…先端部、
21…内面、
22…外面、
30…連結部、
100…ピンセット、
200…組織片(対象物)、
300…包埋皿、
VL1…仮想中心線、
VL2…仮想中心線、
VP1…開閉方向仮想平面、
VP2…幅方向仮想平面。