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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】抗-FGF19抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/22 20060101AFI20250304BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250304BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
C07K16/22
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P35/00
C12N15/13 ZNA
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021544899
(86)(22)【出願日】2020-02-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-26
(86)【国際出願番号】 CN2020074154
(87)【国際公開番号】W WO2020156539
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/074530
(32)【優先日】2019-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517106833
【氏名又は名称】華輝安健(北京)生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スイ、ジャンフア
(72)【発明者】
【氏名】リウ、フイシ
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-525764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/22
A61K 39/395
A61P 35/00
C12N 15/13
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR1、
配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR2、
配列番号19のアミノ酸配列を有するHCDR3
を含む重鎖可変ドメイン(VH);および
配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR1、
配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、
配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR3
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)
(b)配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR1、
配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR2、
配列番号13のアミノ酸配列を有するHCDR3
を含む重鎖可変ドメイン(VH);および
配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR1、
配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、
配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR3
を含む軽鎖可変ドメイン(VL);または
(c)配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR1、
配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR2、
配列番号5のアミノ酸配列を有するHCDR3
を含む重鎖可変ドメイン(VH);および
配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR1、
配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、
配列番号8のアミノ酸配列を有するLCDR3
を含む軽鎖可変ドメイン(VL);
を含むヒト線維芽細胞増殖因子19(FGF19)に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
配列番号9、15または20のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変ドメインを含む請求項1記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項3】
配列番号10、16または21のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメインを含む請求項1記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項4】
(a)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン、および配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメイン;
(b)配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン、および配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメイン;または
(c)配列番号20のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン、および配列番号21のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメイン
を含む請求項1記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項5】
(a)配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、および配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン;
(b)配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、および配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン;または
(c)配列番号20のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、および配列番号21のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン
を含む請求項1記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項6】
配列番号11、17または22のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖を含む請求項1記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項7】
配列番号12、18または23のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖を含む請求項1記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項8】
(a)配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖、および配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖;
(b)配列番号17のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖、および配列番号18のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖;または
(c)配列番号22のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖、および配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖
を含む請求項1記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項9】
(a)配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖;
(b)配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖;または
(c)配列番号22のアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号23のアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む請求項1記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項10】
抗原結合断片が、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、一本鎖Fv(ScFv)またはジスルフィド安定化Fv(dsFv)である請求項1~のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項11】
抗体またはその抗原結合断片が、以下の特徴:(i)ヒトFGF19に表面プラズモン共鳴で測定された場合に1×10-9M~1×10-12MのKD値で結合する;(ii)カニクイザルFGF19と交差反応する;(iii)ヒトFGF19のヒトFGFR4および/またはヒトFGFR4-KLB複合体への結合を阻止する;(iv)FGF19誘導細胞増殖を抑制する;(v)FGF19の存在下、投与後のCYP7A1発現の増加が20%以下である;および(vi)FGF19の存在下、投与後の肝臓、腎臓および/または回腸におけるASBT、IBABP、CYP7A1、NTCP、OATP2、BSEP、OSTα、OSTβ、MRP2、MRP3および/またはMRP4の1個以上の発現レベルの変化が20%以下である、の少なくとも一つを有する請求項1~10のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項12】
トFGF19(配列番号1)の次の領域:アミノ酸38~45位を含むエピトープに結合する、請求項記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合断片をコードするヌクレオチドを含む単離された核酸分子。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合断片、および薬学的に許容され得る賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項15】
異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達により引き起こされる疾患または障害の予防または治療のための請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達により引き起こされる疾患または障害の再発を予防するための請求項14記載の医薬組成物。
【請求項17】
常なFGF19-FGFR4シグナル伝達により引き起こされる疾患または障害が、がんである請求項15または16記載の医薬組成物。
【請求項18】
がんが肝細胞癌腫(HCC)である請求項17記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
線維芽細胞増殖因子19(FGF19)、具体的にはFGF19のN末端の抗体のエピトープを含む主要な残基、に結合する抗体およびその抗原結合断片が本明細書に開示される。また、本明細書において、上記抗体の組成物および使用、ならびに、抗-FGF19抗体を投与することにより異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達により引き起こされるかまたはそれに関連する疾患または障害、例えばがんを治療する方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
線維芽細胞増殖因子(FGF)は、線虫からヒトまで生命体の発達において多様な機能を有するタンパク質のファミリーである。多くの正常な発達過程および生理学的過程において、FGF-FGFR(FGF受容体)シグナル伝達は非常に重要であり、その調節異常は腫瘍の発生および進行において重要な役割を有し得るということが見出された(非特許文献1)。
【0003】
ヒトにおいては、線維芽細胞増殖因子19(FGF19)は、胆汁酸生合成のための必須酵素であるコレステロール-7-a-ヒドロキシラーゼ1(CYP7A1)をコードする遺伝子の肝臓での転写を抑制するために、肝細胞発現FGF受容体4(FGFR4)およびβ-クロソ(klotho)(KLB)を結合することにより胆汁酸の代謝を調節するために機能する胆汁酸誘導および回腸由来ペプチド増殖因子である(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。その胆汁酸制御機能に加え、FGF19およびその同種受容体FGF4Rは両方、隣接する非腫瘍組織と比較して腫瘍において高度に発現されているということが臨床観察により証明された(非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献2、非特許文献10、非特許文献11)。
【0004】
FGF19は、すべての肝臓がん症例のおよそ90%を占める肝臓がんの最も一般的な種類である、肝細胞癌腫(HCC)の発症におけるドライバー遺伝子であると提唱されていた(非特許文献12)。肝臓がんは、世界的に6番目に多く診断されるがんであるが、世界的にがん関連死が3番目に多い症例として位置づけられている(非特許文献13)。いくつかの臨床研究は、HCCは、線維芽細胞増殖因子(FGF)19の高度に局限化された増幅を特徴付けるということを示している(非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)。FGF19および/またはFGFR4の高い発現は、腫瘍の進行を促進することが見出され、HCC患者の予後不良を予測することも可能であった(非特許文献14、非特許文献15)。トランスジェニックマウスにおいて、FGF19の過剰発現は肝細胞異形成、新生物および最終的にはHCCを引き起こすが(非特許文献16)、これはFGFR4ノックアウトマウスにおいては見られず(was abolished)(非特許文献17)、したがって、異常なFGF19/FGFR4シグナル伝達の腫瘍発生活性を機序的に確認することは、潜在的ながん治療としてFGF19/FGFR4経路を標的化する拮抗薬の開発の理論的基礎を提供する。しかしながら、HCCの治療のために開発中であるいくつかの選択的FGFR4阻害剤は、臨床前動物モデルまたは初期ヒト臨床試験のいずれかにおいて胆汁酸合成および肝毒性の増加をもたらした(非特許文献18、非特許文献19、非特許文献20、非特許文献21、非特許文献22)。HCCを治療するための治療標的としてFGF19を直接標的化する薬物の開発に努力がなされ、中和抗-FGF19抗体が得られた(特許文献1Genentech, Inc)。この抗-FGF19抗体(1A6)の治療は、FGF19を過剰発現するマウスがHCCを発症するのを防ぎ、またそのような治療は、マウスにおけるHCC異種移植片の増殖も抑制した(非特許文献6、非特許文献10)。しかし残念なことに、毒性試験においてヒト化1A6抗体のカニクイザルへの投与は、CYP7A1の肝臓での転写を増加し、胆汁酸合成を上昇させ、したがって、劇的に胆汁酸代謝が変化し、体重減少、ひどい下痢、および摂餌量の低下などの重篤な用量依存性の副作用を引き起こす(非特許文献23)。胆汁酸代謝の制御におけるFGF19の役割を考慮すれば、FGFを標的とする抗体は、この点でその正常な生理学的機能を損なう恐れがあり、受け入れがたい副作用をもたらす。これらの事実を考慮すると、抗体によるFGF19を標的とする臨床的治療は、そのような副作用に対処する必要があるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2007136893号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Turner N, Grose R. Nature Reviews Cancer, 2010, 10(2): 116, https://www.nature.com/articles/nrc2780
【文献】M. H. Xie et al., Cytokine 11, 729-735 (1999)
【文献】J. A. Holt et al., Genes & development 17, 1581-1591 (2003)
【文献】H. Kurosu et al., The Journal of biological chemistry 282, 26687-26695 (2007)
【文献】B. C. Lin et al., The Journal of biological chemistry 282, 27277-27284 (2007)
【文献】E. T. Sawey et al., Cancer Cell 19, 347-358 (2011)
【文献】K. Wang et al., Hepatology 58, 706-717 (2013)
【文献】S. M. Ahn et al., Hepatology 60, 1972-1982 (2014)
【文献】K. Schulze et al., Nat Genet 47, 505-511 (2015)
【文献】L. R. Desnoyers et al., Oncogene 27, 85-97 (2008)
【文献】Y. Li et al., Oncotarget, (2016)
【文献】J. M. Llovet et al., Nat Rev Dis Primers 2, 16018 (2016)
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【文献】M. Hagel et al., Cancer Discov 5, 424-437 (2015)
【文献】R. Kim et al., European Journal of Cancer 69, S41 (2016)
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【文献】J. J. Joshi et al., Cancer research 77, 6999-7013 (2017)
【文献】B. Ruggeri et al., Cancer research 77, 1234-1234 (2017)
【文献】R. Pai et al., Toxicological sciences: an official journal of the Society of Toxicology 126, 446-456 (2012)
【発明の概要】
【0007】
本発明は、FGF19のN-末端を特異的に標的化する抗-FGF19抗体を提供することにより、その要求を満たすものである。これはFGF19の正常な胆汁酸制御機能に悪影響は及ぼすことなく抗-HCC治療として高い有効性を示す。
【0008】
科学出版物、特許出願公報および特許公報を含むすべての参考文献は、すべての目的のためにその存在が本明細書に組み込まれる。
【0009】
本発明は、一つにはFGF19上、具体的にはFGF19のN-末端の新しい結合領域の発見、およびHCCに対して強い抗腫瘍活性を示し、かつFGF19のN-末端の該結合領域に特異的に結合することにより胆汁酸の合成のFGF19による調節に影響を与えない望ましい安全性を有する抗-FGF19抗体の同定に基づく。それにより、本発明はFGF19のN-末端上の治療的可能性のある新しい標的と、また異常なFGF19/FGFR4シグナル伝達に関連するかまたはそれにより引き起こされる病的状態、具体的にはHCCを含むがこれに限定されるものではない異常なFGF19/FGFR4シグナル伝達に関連するかまたはそれにより引き起こされるがんの診断、予防、治療および/または予後のための上記標的に特異的に結合する抗体も提供する。また、その抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸配列を含む核酸分子、発現ベクターおよび宿主細胞も提供される。本発明はまた、FGF19/FGFR4シグナル伝達経路のモジュレーションに関連した医薬組成物、方法、キット、製品および医薬用途も提供する。
【0010】
第一の態様において、本開示は、ヒト線維芽細胞増殖因子19(FGF19)に結合し、その結合がFGF19のN-末端に依存する単離された抗体またはその抗原結合断片を提供する。一実施態様において、本願の抗体または抗原結合断片は、配列番号1の38~45位のアミノ酸残基に位置するエピトープに結合する。より具体的には、そのエピトープは、ヒトFGF19(配列番号1)の次の残基:W38、D40、P41、I42、R43、L44、R45の少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個を含む。別の実施態様において、本願の抗体または抗原結合断片は、配列番号1の38~45位のアミノ酸残基およびヒトFGF19(配列番号1)の次の残基:E81、P161、L169の少なくとも1個からなるエピトープに結合する。さらなる実施態様において、抗体またはその抗原結合断片は、次の特徴:(i)ヒトFGF19に表面プラズモン共鳴(例えば、BIACORE)または同様の技術で測定された場合に約1×10-9M~約1×10-12MのKD値で結合する;(ii)カニクイザルFGF19と交差反応する;(iii)ヒトFGF19のヒトFGFR4および/またはヒトFGFR4-KLB複合体への結合を阻止する;(iv)FGF19誘導細胞増殖を抑制する;(v)FGF-抑制CYP7A1発現に影響を与えないかまたはごくわずかに影響する;および(vi)FGF19維持胆汁酸恒常性を損なわないまたはわずかに損なう、の少なくとも一つを有する。
【0011】
第一の態様のもう一つの実施態様において、本願の抗-FGF19抗体または抗原結合断片は、配列番号3、4、5、13または19のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を含む少なくとも1、2、または3個の重鎖可変(VH)ドメイン相補性決定領域(CDR)を含む。もう一つの実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、配列番号6、7、8または14のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を含む少なくとも1、2、3個の軽鎖可変(VL)ドメインCDRを含む。もう一つの実施態様において、本願の抗-FGF19抗体または抗原結合断片は、配列番号3、4、5、13または19のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を含む少なくとも1、2または3個の重鎖可変(VH)ドメインCDRと、配列番号6、7、8または14のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を含む少なくとも1、2、または3個の軽鎖可変(VL)ドメインCDRとを含む。さらなる実施態様において、抗体またはその抗原結合断片は、次の特徴:(i)ヒトFGF19に表面プラズモン共鳴(例えば、BIACORE)または同様の技術で測定された場合に約1×10-9M~約1×10-12MのKD値で結合する;(ii)カニクイザルFGF19と交差反応する;(iii)ヒトFGF19のヒトFGFR4および/またはヒトFGFR4-KLB複合体への結合を阻止する;(iv)FGF19誘導細胞増殖を抑制する;(v)FGF-抑制CYP7A1発現に影響を与えないかまたはごくわずかに影響する;および(vi)FGF19維持胆汁酸恒常性を損なわないまたはわずかに損なう、の少なくとも一つを有する。
【0012】
一実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、(a)配列番号3のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するHCDR1(重鎖相補性決定領域1)、配列番号4のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するHCDR2、および配列番号5、配列番号13、配列番号19のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;および/または(b)配列番号6のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するLCDR1(軽鎖相補性決定領域1)、配列番号7のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するLCDR2、および配列番号8、配列番号14のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含む。
【0013】
一実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、(a)配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号5、配列番号13、または配列番号19のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;および/または(b)配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号8、または配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含む。
【0014】
一実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、(a)配列番号3のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するHCDR1、配列番号4のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するHCDR2、および配列番号5のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;および/または(b)配列番号6のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するLCDR1、配列番号7のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するLCDR2、および配列番号8のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含む。より具体的な実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、(a)配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号5のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;および/または(b)配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号8のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含む。
【0015】
一実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、(a)配列番号3のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するHCDR1、配列番号4のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するHCDR2、および配列番号13のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;および/または(b)配列番号6のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するLCDR1、配列番号7のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するLCDR2、および配列番号14のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含む。より具体的な実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、(a)配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号13のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;および/または(b)配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含む。
【0016】
一実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、(a)配列番号3のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するHCDR1、配列番号4のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するHCDR2、および配列番号19のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;および/または(b)配列番号6のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するLCDR1、配列番号7のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するLCDR2、および配列番号14のアミノ酸配列または1個または複数の保存的置換を含むその変異体を有するLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含む。より具体的な実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、(a)配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号19のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;および/または(b)配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含む。
【0017】
一つの好ましい実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、配列番号9、15または20のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する重鎖可変ドメイン;および/または配列番号10、16または21のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する軽鎖可変ドメインを含む。一つの好ましい実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、配列番号9、15または20のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメイン;および/または配列番号10、16または21のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインを含む。
【0018】
一つの好ましい実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、(a)配列番号9のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する軽鎖可変ドメイン;(b)配列番号15のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する重鎖可変ドメイン、および/または配列番号16のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する軽鎖可変ドメイン;または(c)配列番号20のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する重鎖可変ドメイン、および/または配列番号21のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する軽鎖可変ドメインを含む。一つの好ましい実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、(a)配列番号9のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメイン、および/または配列番号10のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメイン;(b)配列番号15のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメイン、および/または配列番号16のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメイン;または(c)配列番号20のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメイン、および/または配列番号21のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインを含む。
【0019】
一つの好ましい実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、配列番号11、17または22のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する重鎖;および/または配列番号12、18または23のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する軽鎖を含む。一つの好ましい実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、配列番号11、17または22のアミノ酸配列を有する重鎖;および/または配列番号12、18または23のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む。
【0020】
一つの好ましい実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、(a)配列番号11のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する重鎖、および/または配列番号12のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する軽鎖;(b)配列番号17のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する重鎖、および/または配列番号18のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する軽鎖;または(c)配列番号22のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する重鎖、および/または配列番号23のアミノ酸配列に少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有する軽鎖を含む。一つの好ましい実施態様において、本願の抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片は、(a)配列番号11のアミノ酸配列を有する重鎖、および/または配列番号12のアミノ酸配列を有する軽鎖;(b)配列番号17のアミノ酸配列を有する重鎖、および/または配列番号18のアミノ酸配列を有する軽鎖;または(c)配列番号22のアミノ酸配列を有する重鎖、および/または配列番号23のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む。
【0021】
一実施態様において、本願は、ヒトFGF19への結合について、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号5のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;および配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号8のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含む抗体と競争する抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片を提供する。より具体的な実施態様において、本願は、ヒトFGF19への結合について、配列番号9のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号10のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインを含む抗体と競争する抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片を提供する。より好ましくは、該抗体またはその抗原結合断片は、次の特徴:(i)ヒトFGF19に表面プラズモン共鳴(例えば、BIACORE)または同様の技術で測定された場合に約1×10-9M~約1×10-12MのKD値で結合する;(ii)カニクイザルFGF19と交差反応する;(iii)ヒトFGF19のヒトFGFR4および/またはヒトFGFR4-KLB複合体への結合を阻止する;(iv)FGF19誘導細胞増殖を抑制する;(v)FGF-抑制CYP7A1発現に影響を与えないかまたはごくわずかに影響する;および(vi)FGF19維持胆汁酸恒常性を損なわないまたはわずかに損なう、の少なくとも一つを有する。
【0022】
一実施態様において、本願は、ヒトFGF19への結合について、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号13のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;および配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含む抗体と競争する抗-FGF19抗体または抗原結合断片を提供する。より具体的な実施態様において、本願は、ヒトFGF19への結合について、配列番号15のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号16のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインを含む抗体と競争する抗-FGF19抗体または抗原結合断片を提供する。より好ましくは、該抗体またはその抗原結合断片は、次の特徴:(i)ヒトFGF19に表面プラズモン共鳴(例えば、BIACORE)または同様の技術で測定された場合に約1×10-9M~約1×10-12MのKD値で結合する;(ii)カニクイザルFGF19と交差反応する;(iii)ヒトFGF19のヒトFGFR4および/またはヒトFGFR4-KLB複合体への結合を阻止する;(iv)FGF19誘導細胞増殖を抑制する;(v)FGF-抑制CYP7A1発現に影響を与えないかまたはごくわずかに影響する;および(vi)FGF19維持胆汁酸恒常性を損なわないまたはわずかに損なう、の少なくとも一つを有する。
【0023】
一実施態様において、本願は、ヒトFGF19への結合について、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号19のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;および配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含む抗体と競争する抗-FGF19抗体または抗原結合断片を提供する。より具体的な実施態様において、本願は、ヒトFGF19への結合について、配列番号20のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号21のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインを含む抗体と競争する抗-FGF19抗体または抗原結合断片を提供する。より好ましくは、該抗体またはその抗原結合断片は、次の特徴:(i)ヒトFGF19に表面プラズモン共鳴(例えば、BIACORE)または同様の技術で測定された場合に約1×10-9M~約1×10-12MのKD値で結合する;(ii)カニクイザルFGF19と交差反応する;(iii)ヒトFGF19のヒトFGFR4および/またはヒトFGFR4-KLB複合体への結合を阻止する;(iv)FGF19誘導細胞増殖を抑制する;(v)FGF-抑制CYP7A1発現に影響を与えないかまたはごくわずかに影響する;および(vi)FGF19維持胆汁酸恒常性を損なわないまたはわずかに損なう、の少なくとも一つを有する。
【0024】
一実施態様において、本願は、ヒトFGF19への結合について、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号5のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;および配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号8のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含む抗体と同じヒトFGF19のエピトープに結合する抗-FGF19抗体または抗原結合断片を提供する。より具体的な実施態様において、本願は、ヒトFGF19への結合について、配列番号9のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号10のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインを含む抗体と同じヒトFGF19のエピトープに結合する抗-FGF19抗体または抗原結合断片を提供する。より好ましくは、該抗体またはその抗原結合断片は、次の特徴:(i)ヒトFGF19に表面プラズモン共鳴(例えば、BIACORE)または同様の技術で測定された場合に約1×10-9M~約1×10-12MのKD値で結合する;(ii)カニクイザルFGF19と交差反応する;(iii)ヒトFGF19のヒトFGFR4および/またはヒトFGFR4-KLB複合体への結合を阻止する;(iv)FGF19誘導細胞増殖を抑制する;(v)FGF-抑制CYP7A1発現に影響を与えないかまたはごくわずかに影響する;および(vi)FGF19維持胆汁酸恒常性を損なわないまたはわずかに損なう、の少なくとも一つを有する。
【0025】
一実施態様において、本願は、ヒトFGF19への結合について、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号13のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;および配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含む抗体と同じヒトFGF19のエピトープに結合する抗-FGF19抗体または抗原結合断片を提供する。より具体的な実施態様において、本願は、ヒトFGF19への結合について、配列番号15のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号16のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインを含む抗体と同じヒトFGF19のエピトープに結合する抗-FGF19抗体または抗原結合断片を提供する。より好ましくは、該抗体またはその抗原結合断片は、次の特徴:(i)ヒトFGF19に表面プラズモン共鳴(例えば、BIACORE)または同様の技術で測定された場合に約1×10-9M~約1×10-12MのKD値で結合する;(ii)カニクイザルFGF19と交差反応する;(iii)ヒトFGF19のヒトFGFR4および/またはヒトFGFR4-KLB複合体への結合を阻止する;(iv)FGF19誘導細胞増殖を抑制する;(v)FGF-抑制CYP7A1発現に影響を与えないかまたはごくわずかに影響する;および(vi)FGF19維持胆汁酸恒常性を損なわないまたはわずかに損なう、の少なくとも一つを有する。
【0026】
一実施態様において、本願は、ヒトFGF19への結合について、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号19のアミノ酸配列を有するHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;および配列番号6のアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含む抗体と同じヒトFGF19のエピトープに結合する抗-FGF19抗体または抗原結合断片を提供する。より具体的な実施態様において、本願は、ヒトFGF19への結合について、配列番号20のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号21のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインを含む抗体と同じヒトFGF19のエピトープに結合する抗-FGF19抗体またはその抗原結合断片を提供する。より好ましくは、該抗体またはその抗原結合断片は、次の特徴:(i)ヒトFGF19に表面プラズモン共鳴(例えば、BIACORE)または同様の技術で測定された場合に約1×10-9M~約1×10-12MのKD値で結合する;(ii)カニクイザルFGF19と交差反応する;(iii)ヒトFGF19のヒトFGFR4および/またはヒトFGFR4-KLB複合体への結合を阻止する;(iv)FGF19誘導細胞増殖を抑制する;(v)FGF-抑制CYP7A1発現に影響を与えないかまたはごくわずかに影響する;および(vi)FGF19維持胆汁酸恒常性を損なわないまたはわずかに損なう、の少なくとも一つを有する。
【0027】
一実施態様において、抗-FGF19抗体はヒト抗体である。一実施態様において、抗-FGF19抗体は、ヒトモノクローナル抗体(mAb)である。
【0028】
一実施態様において、抗-FGF19抗体は、Fab、F(ab’)2、Fv、または一本鎖Fv(ScFv)である。
【0029】
一実施態様において、抗-FGF19抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはその変異体のサブクラスの重鎖定常領域、およびカッパまたはラムダまたはその変異体の種類の軽鎖定常領域を含む。
【0030】
一実施態様において、抗-FGF19抗体は、単離された抗体である。一実施態様において、抗-FGF19抗体は、組み換え抗体である。
【0031】
好ましい実施態様において、本願の第一の態様の本抗体または抗原結合断片は、異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達によって引き起こされるかまたはそれに関連する疾患または障害を治療するためのものであり、それを必要とする対象に投与することを含む。具体的な実施態様において、疾患または障害は、異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達により引き起こされるかまたはそれに関連するがんである。より具体的な実施態様において、がんは肝細胞癌腫(HCC)である。
【0032】
第二の態様において、本開示は、本発明の第一の態様の抗-FGF19抗体または抗原結合断片、および薬学的に許容され得る賦形剤を含む組成物、例えば医薬組成物を提供する。好ましい実施態様において、医薬組成物は、治療に有効な量の抗-FGF19抗体または抗原結合断片を含む。
【0033】
第三の態様において、本開示は、本願の第一の態様の抗-FGF19抗体または抗原結合断片、または本願の第二の態様の組成物を含むキットを提供する。好ましい実施態様において、キットは、治療に有効な量の抗-FGF19抗体または抗原結合断片を含む。
【0034】
第四の態様において、本開示は、異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達により引き起こされるかまたはそれに関連する疾患または障害を予防または治療するための方法であって、それを必要とする対象に、治療に有効な量の本願の第一の態様の抗体または抗原結合断片、または本願の第二の態様の医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。具体的な実施態様において、疾患または障害は、異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達により引き起こされるかまたはそれに関連するがんである。より具体的な実施態様において、がんは肝細胞癌腫(HCC)である。
【0035】
第五の態様において、本開示は、異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達により引き起こされるかまたはそれに関連する疾患または障害の再発を予防するための方法であって、それを必要とする対象に、治療に有効な量の本願の第一の態様の抗体または抗原結合断片、または本願の第二の態様の医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。具体的な実施態様において、疾患または障害は、異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達により引き起こされるかまたはそれに関連するがんである。より具体的な実施態様において、がんは肝細胞癌腫(HCC)である。一実施態様において、疾患または障害の再発は手術後に起こる。
【0036】
第六の態様において、本開示は、本願の第一の態様の抗体または抗原結合断片、または本願の第二の態様の医薬組成物の、本明細書において説明される様々な障害または疾患を治療するための、または本明細書において説明される様々な障害または疾患の再発を予防するための使用を提供する。具体的な実施態様において、疾患または障害は、異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達により引き起こされるかまたはそれに関連する疾患または障害であり、好ましくは異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達により引き起こされるかまたはそれに関連するがんである。より具体的な実施態様において、がんは肝細胞癌腫(HCC)である。一実施態様において、疾患または障害の再発は手術後に起こる。
【0037】
第七の態様において、本開示は、本願の第一の態様の抗体または抗原結合断片、または本願の第二の態様の医薬組成物の、本明細書において説明される様々な障害または疾患を治療するための、または本明細書において説明される様々な障害または疾患の再発を予防するための医薬の製造における使用を提供する。具体的な実施態様において、疾患または障害は、異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達により引き起こされるかまたはそれに関連する疾患または障害であり、好ましくは異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達により引き起こされるかまたはそれに関連するがんである。より具体的な実施態様において、がんは肝細胞癌腫(HCC)である。一実施態様において、疾患または障害の再発は手術後に起こる。一実施態様において、疾患または障害の再発は手術後に起こる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1A】FGF19活性の仲介におけるFGF19のN-末端の欠失可能な役割を示す図である。FGF19またはFGF19ΔNT(FGF19のN-末端欠失変異体)のFGFR4またはFGFR4-KLB複合体への結合アフィニティーが示される。N-末端欠失変異体FGF19ΔNTは、FGFR4に対して結合アフィニティーの低下を示した。FGFR4-hFcは、Biacoreにおけるセンサーチップ上にリガンドとして捕捉された。リガンドFGFR4と検体FGF19またはFGF19ΔNTとの間の相互作用は、20μg/mlヘパリンの存在下で測定された。検体FGF19およびFGF19ΔNTは、1000nMから2倍連続希釈とした。
図1B】FGF19活性の仲介におけるFGF19のN-末端の欠失可能な役割を示す図である。N-末端欠失変異体FGF19ΔNTは、細胞増殖の誘導において活性の低下を示した。Hep3Bを、1%FBS含有DMEMにおいて異なる濃度のFGF19またはFGF19ΔNTと培養した。
図1C】FGF19活性の仲介におけるFGF19のN-末端の欠失可能な役割を示す図である。N-末端欠失変異体FGF19ΔNTは、インビボでCPY7A1遺伝子発現を抑制する能力を保持した。C57BL/6マウスは、示した治療で腹腔内注射をする前絶食とした。CPY7A1の肝臓の遺伝子発現は、qPCRにより分析した。各治療群は3匹の雄マウスと3匹の雌マウスにより構成された。
図2】抗体ファージディスプレイ技術を用いた抗体G1A8の産生を説明する模式図である。FGF19のN-末端ペプチドまたは全長FGF19タンパク質は、本発明者らの大規模な非-免疫抗体ファージディスプレイ・ライブラリー(D. Li et al., A potent human neutralizing antibody Fc-dependently reduces established HBV infections. Elife 6, 2017))に対して選択するための抗原として使用された。全長FGF19およびN-末端欠失変異体FGF19ΔNT両方との後のELISAスクリーニングを通して、FGF19ΔNTよりも高いアフィニティーでFGF19に結合する抗体が同定された。濃い灰色で陰影を付けたウェルは、明るい灰色で陰影をつけたウェルまたは白色のウェルと比較して高いアフィニティーを示す。一つの同定された抗体31A3およびそのアフィニティー向上抗体G1A8の重鎖および軽鎖両方のCDR3領域のタンパク質配列が平行に示され、異なるアミノ酸に下線が付されている。
図3A】G1A8の向上された結合アフィニティーおよびより高いN-末端依存性を示す図である。SPRを用いた抗-FGG19抗体31A3またはG1A8のFGF19への結合の速度論分析を示す。FGF19は100nMから2倍連続希釈とした。
図3B】G1A8の向上された結合アフィニティーおよびより高いN-末端依存性を示す図である。31A3およびG1A8両方のFGF19への結合は、FGF19のN-末端に依存し、標的としてFGF19またはFGF19ΔNTを用いた場合異なる結合プロファイルによって示される。FGF19およびFGF19ΔNTへの抗体の結合活性をELISAにより分析した。
図4A】G1A8の特徴付けを示す図である。G1A8および31A3は、FGF19誘導細胞増殖の阻害を示した。Hep3Bは、20ng/mlのFGF19と100nMの抗-FGF19抗体またはアイソタイプ対照抗体と共に培養した。
図4B】G1A8の特徴付けを示す図である。G1A8は、FGF19とFGFR5との相互作用を阻害した。抗体G1A8およびアイソタイプ対照抗体は、100nMのFGFR4-Fcおよび20μg/mlのヘパリンと混合した。FGFR4のFGF19への結合阻害は、ELISAにより分析した。
図4C】G1A8の特徴付けを示す図である。G1A8は、FGF19によりダウンレギュレーションされたマウスの肝臓CYP7A1遺伝子発現を損なわなかった。C57BL/6マウスは、示した治療で腹腔内注射をする前絶食とした。肝臓CYP7A1遺伝子発現レベルは、qPCRにより分析した。各群は、3匹の雄マウスと3匹の雌マウスにより構成された。FGF19、0.1mg/kg;G1A8、FGF19の5倍モル過剰。
図5A】ヒト肝細胞癌腫異種移植片マウスモデルにおけるG1A8の抗-腫瘍活性を示す図である。G1A8は、腫瘍発達の初期の段階において腫瘍増殖を阻害した。ルシフェラーゼを安定的に発現するHep3B-ルシフェラーゼは、NOD SCIDマウスに皮下的に(s.c.)注射された。マウスを、等価平均腫瘍生物発光強度に基づき群(n=6/群)に分け、200μgのG1A8またはアイソタイプ対照抗体の治療を投与した。腫瘍増殖はカリパスにより測定した。
図5B】ヒト肝細胞癌腫異種移植片マウスモデルにおけるG1A8の抗-腫瘍活性を示す図である。G1A8は、腫瘍発達の初期の段階において腫瘍増殖を阻害した。ルシフェラーゼを安定的に発現するHep3B-ルシフェラーゼは、NOD SCIDマウスに皮下的に(s.c.)注射された。マウスを、等価平均腫瘍生物発光強度に基づき群(n=6/群)に分け、200μgのG1A8またはアイソタイプ対照抗体の治療を投与した。腫瘍増殖は生物発光により測定した。
図5C】ヒト肝細胞癌腫異種移植片マウスモデルにおけるG1A8の抗-腫瘍活性を示す図である。G1A8は、腫瘍発達の初期の段階において腫瘍増殖を阻害した。ルシフェラーゼを安定的に発現するHep3B-ルシフェラーゼは、NOD SCIDマウスに皮下的に(s.c.)注射された。マウスを、等価平均腫瘍生物発光強度に基づき群(n=6/群)に分け、200μgのG1A8またはアイソタイプ対照抗体の治療を投与した。腫瘍増殖は生物発光により測定した。
図5D】ヒト肝細胞癌腫異種移植片マウスモデルにおけるG1A8の抗-腫瘍活性を示す図である。G1A8は、腫瘍発達の末期において腫瘍増殖を阻害した。Hep3B(s.c.)腫瘍を抱えるNSGマウスを、等価平均腫瘍体積に基づき群(n=6/群)に分け、200μgのG1A8またはアイソタイプ対照抗体の治療を投与した。腫瘍増殖はカリパスにより測定した。抗体治療が投与された日を矢印で記す。
図5E】ヒト肝細胞癌腫異種移植片マウスモデルにおけるG1A8の抗-腫瘍活性を示す図である。G1A8は、腫瘍発達の末期において腫瘍増殖を阻害した。Hep3B(s.c.)腫瘍を抱えるNSGマウスを、等価平均腫瘍体積に基づき群(n=6/群)に分け、200μgのG1A8またはアイソタイプ対照抗体の治療を投与した。生存をカプラン・マイヤー生存分析により分析した。抗体治療が投与された日を矢印で記す。
図6A】カニクイザルにおけるG1A8の安全性評価を示す図である。G1A8投与および動物からの試料採取のスケジュールを説明する模式図である。4匹のカニクイザルを、対照生理食塩水(灰色)またはG1A8-hIgG1(黒)の静脈内(i.v.)投与を受ける二つの群に分けた。各群は、1匹の雄(三角)および1匹の雌(円)のサルから構成された。
図6B】カニクイザルにおけるG1A8の安全性評価を示す図である。カニクイザルの体重を示す。
図6C】カニクイザルにおけるG1A8の安全性評価を示す図である。カニクイザルの血液生化学を示す。カニクイザルの血清TBAを種々の時点で測定した。G1A8または対照生理食塩水の静脈内投与の日が矢印で記された。破線および点線は、それぞれ雄および雌のカニクイザルにおける生化学パラメータの正常な参照区間を示す。
図6D】カニクイザルにおけるG1A8の安全性評価を示す図である。カニクイザルの血液生化学を示す。カニクイザルの血清TBILを種々の時点で測定した。G1A8または対照生理食塩水の静脈内投与の日が矢印で記された。破線および点線は、それぞれ雄および雌のカニクイザルにおける生化学パラメータの正常な参照区間を示す。
図6E】カニクイザルにおけるG1A8の安全性評価を示す図である。カニクイザルの血液生化学を示す。カニクイザルの血清ALTを種々の時点で測定した。G1A8または対照生理食塩水の静脈内投与の日が矢印で記された。破線および点線は、それぞれ雄および雌のカニクイザルにおける生化学パラメータの正常な参照区間を示す。
図6F】カニクイザルにおけるG1A8の安全性評価を示す図である。カニクイザルの血液生化学を示す。カニクイザルの血清ASTを種々の時点で測定した。G1A8または対照生理食塩水の静脈内投与の日が矢印で記された。破線および点線は、それぞれ雄および雌のカニクイザルにおける生化学パラメータの正常な参照区間を示す。
図6G】カニクイザルにおけるG1A8の安全性評価を示す図である。胆汁酸代謝に関係する遺伝子発現を示す。カニクイザルの組織試料を、研究の終わりに採取した。肝臓において選択した遺伝子の発現をqPCRにより分析した。
図6H】カニクイザルにおけるG1A8の安全性評価を示す図である。胆汁酸代謝に関係する遺伝子発現を示す。カニクイザルの組織試料を、試験の終わりに採取した。い回腸において選択した遺伝子の発現をqPCRにより分析した。
図6I】カニクイザルにおけるG1A8の安全性評価を示す図である。胆汁酸代謝に関係する遺伝子発現を示す。カニクイザルの組織試料を、研究の終わりに採取した。い腎臓において選択した遺伝子の発現をqPCRにより分析した。
図6J】カニクイザルにおけるG1A8の安全性評価を示す図である。G1A8の薬物動態プロファイルを示す。1日目に10mg/kgのG1A8を投与した後のG1A8を測定した。
図6K】カニクイザルにおけるG1A8の安全性評価を示す図である。G1A8の薬物動態プロファイルを示す。16日目に30mg/kgのG1A8を投与した後のG1A8を測定した。
図6L】カニクイザルにおけるG1A8の安全性評価を示す図である。G1A8のカニクイザルFGF19への結合の速度論分析を示す。カニクイザルFGF19は、100nMから2倍連続希釈とした。
図7A】FGF19-G1A8複合体の構造分析を示す図である。直交視でのFGF-G1A8のリボン表示を示す。FGF19を、灰色のG1A8の可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)と共に、黒色で示す。FGF19のN-末端およびC-末端にラベルを付す。G1A8Fabの定常領域をわかりやすくするために除いた。
図7B】FGF19-G1A8複合体の構造分析を示す図である。FGF19-G1A8複合体の表面図を示す。構造により、一見すると完全な形状相補性がわかる。
図7C】FGF19-G1A8複合体の構造分析を示す図である。G1A8-FGF19界面の詳細な図を示す。破線は水素結合を表す。
図7D】FGF19-G1A8複合体の構造分析を示す図である。野生型FGF19およびFGF19アラニン突然変異体への50nMにおけるG1A8の結合活性をSPRを用いて分析した。
図8A】HS29の活性を示す図である。抗-FGF19抗体G1A8とHS29との間のFGF19アラニン突然変異体への結合分析はSPRを用いて行った。FGF19アラニン突然変異体は50nMで試験した。
図8B】HS29の活性を示す図である。FGF19へのHS29の結合の速度論分析を示す。FGF19は、100nMから2倍連続希釈とした。
図8C】HS29の活性を示す図である。HS29によるFGF19誘導細胞増殖の阻害を示す。Hep3Bは20mg/mlのFGF19および100nMの抗-FGF19抗体またはアイソタイプ対照抗体と培養した。
図9A】患者由来異種移植片(PDX)モデルにおけるHS29の抗-腫瘍活性の評価を示す図である。FGF19発現PDX LI6677を有するBALB/cヌードマウスを、等価平均腫瘍体積で群(n=5/群)に分け、10mg/kgのHS29を腹腔内投与するか、または対照として治療なしとした。
図9B】患者由来異種移植片(PDX)モデルにおけるHS29の抗-腫瘍活性の評価を示す図である。非FGF19発現PDX LI6646を有するBALB/cヌードマウスを、等価平均腫瘍体積で群(n=5/群)に分け、10mg/kgのHS29を腹腔内投与するか、または対照として治療なしとした。
図9C】患者由来異種移植片(PDX)モデルにおけるHS29の抗-腫瘍活性の評価を示す図である。PDXモデルにおけるFGF19mRNA発現を示す。腫瘍試料を試験の終わりに採取し、FGF19の発現をqPCRで分析した。各データ点は一つのマウス腫瘍試料を表し、Hep3B培養細胞株のFGF19mRNA発現のレベルを参照として使用した。破線はアッセイの信頼性のある検出限界を示す。
図9D】患者由来異種移植片(PDX)モデルにおけるHS29の抗-腫瘍活性の評価を示す図である。PDXを抱えるマウスの体重は試験のときに測定した。
【発明を実施するための形態】
【0039】
定義
本明細書の他の箇所で特に定義されていない限り、本明細書において使用されるすべての他の技術および科学用語は、この発明の属する技術における通常の知識を有する者により共通に理解される意味を有する。
【0040】
添付の特許請求の範囲を含め本明細書において使用される場合、「a」、「an」および「the」などの単語の単数形は、文脈で明確に指示されていない限り、対応する複数の参照を含む。
【0041】
用語「または」は、文脈で明確に指示されていない限り、用語「および/または」を意味するために使用されるか、用語「および/または」と交換可能に使用される。
【0042】
本開示の文脈において、特段の指摘がない限り、表現「含む(comprise)」、および「含む(comprises)」および「含むこと(comprising)」などのその変形は、規定された要素、例えばアミノ酸配列、ヌクレオチド配列、性質、工程またはそれらの群の包含を暗に意味するものであり、任意の他の要素、例えばアミノ酸配列、ヌクレオチド配列、性質および工程の排除を意味するものではない。本明細書において使用される場合、用語「含む(comprise)」またはその任意の変形は、用語「含有する(contain)」、「含む(include)」または時には「有する(have)」またはその等価な変形と置き換えることができる。ある実施態様において、表現「含む(comprise)」は、「からなる(consisting of)」のシナリオをも含む。
【0043】
本明細書において使用される場合、用語「FGF19」は、回腸誘導ホルモン線維芽細胞増殖因子19を意味し、それは、FGFR4(線維芽細胞増殖因子受容体4)に高いアフィニティーを有するリガンドである。上述したように、FGF19は、FGFR4/Klotho-β受容体複合体を通して肝臓におけるCYP7A1の転写を阻害することにより、とりわけ胆汁酸合成の制御において重要な役割を果たす。本願の文脈において、特段の明示がない限り、FGF19は、ヒトFGF19を意味する。マウスにおけるヒトFGF19のオルソログは、FGF15である。FGF19、例えばヒトFGF19、のアミノ酸配列およびそれをコードするヌクレオチド配列は、本技術分野において知られている。FGFは、異なるN-末端およびC-末端に挟まれた12個の逆平行β鎖により形成される相同コア領域を有する(A. Beenken and M. Mohammadi, Nature reviews. Drug discovery 8, 235-253 (2009))。種々のFGFのN-末端およびC-末端のうちの一次配列の変化は、それらの異なる生物活性の主な原因となる(N. Itoh and D. M. Ornitz, J Biochem 149, 121-130 (2011); R. Goetz and M. Mohammadi, Nat Rev Mol Cell Biol 14, 166-180 (2013))。
【0044】
抗体およびその抗原結合断片
特段の明示がない限り、本明細書において使用される場合、用語「抗体」は、それがヒトFGF19を認識しかつヒトFGF19に結合する限り、最も広い意味で、抗体ならびに抗体断片を包含する。特に、本願の抗体は、ヒトFGF19のN-末端、具体的には配列番号1のアミノ酸配列を有するFGF19のアミノ酸残基38~45に結合する。本願の抗体は、一般に、単一特異性抗体を指す。しかし、本願はまた、異種特異的(異種特異性)抗体または多重特異性抗体も検討する。抗体は、特異的結合部位により特異的な抗原決定基またはエピトープに結合する。「抗体断片」は、全長抗体の一部を意味し、通常、抗原に対する結合または可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2およびFv断片;ダイアボディ(diabodies);線状抗体(linear antibodies);一本鎖抗体分子;および抗体断片から形成される多重特異性抗体などを挙げることができる。
【0045】
最も一般的に見られる抗体の基本構造は、四量体である。各四量体は、ポリペプチド鎖の二つの同一の対を含み、各対は1個の「軽鎖」と表される小さな鎖(約25kDa)と1個の「重鎖」と表される大きな鎖(約50~70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端には、主に抗原認識に関与する約100~110またはそれより多くのアミノ酸からなる可変ドメインを含む。重鎖のカルボキシ末端部分は、エフェクター機能に関与する定常領域と定義され得る。典型的には、ヒト抗体の軽鎖はカッパおよびラムダ軽鎖に分類される。さらに、ヒト抗体の重鎖は、典型的にはα、δ、ε、γ、またはμに分類され、抗体のアイソタイプをそれぞれIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMと、ならびにそのサブクラス、例えばIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4と定義する。各軽/重鎖の可変領域/ドメイン(VL/VH)対は抗体結合部位を形成する。それにより、完全な抗体は通常二つの結合部位を有する。
【0046】
用語「超可変ドメイン」は、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を意味する。超可変ドメインは「相補鎖決定領域(CDR)」(すなわち、軽鎖可変ドメインにおけるLCDR1、LCDR2およびLCDR3ならびに重鎖可変ドメインにおけるHCDR1、HCDR2およびHCDR3)由来のアミノ酸残基を含む。典型的には、重鎖および軽鎖両方の可変ドメインは、3つの超可変ドメイン、すなわちCDRを含み、相対的に保存された「フレームワーク領域」または「FR」の間に位置する。CDRは、通常、フレームワーク領域によりアラインされ、特異的エピトープへの結合を可能にする。通常、N-末端からC-末端へ、軽鎖および重鎖両可変ドメインはFR-1(またはFR1)、CDR-1(またはCDR1)、FR-2(FR2)、CDR-2(CDR2)、FR-3(FR3)、CDR-3(CDR3)、およびFR-4(FR4)を含む。Kabatナンバリングシステムは、特に明記しない限り抗体のアミノ酸残基について使用される(Kabat et al., Sequence of proteins of immunological interest, 5th ed., Public Health Service, National Institute of Health, Bethesda, MD (1991))。
【0047】
特に明記しない限り、「抗体断片」、「標的結合断片」および「抗原結合断片」は、本願の文脈において言い換え可能であり、全長抗体により結合される抗原(FGF19、または特にFGF19のN-末端)に特異的に結合する能力を保持する抗体断片、例えば1個以上のCDR領域を保持する抗体断片を意味する。抗原結合断片の例としては、特に限定されるものではないが、Fab、Fab’、F(ab’)2およびFv断片;ダイアボディ(diabodies);線状抗体(linear antibodies);一本鎖抗体分子、例えば一本鎖Fv(ScFv);ナノボディ;および抗体断片から形成される多重特異性抗体などが挙げられる。
【0048】
「特異的結合」または「特異的に結合する」とは、抗体は、他のタンパク質と比較して特定の標的への優先的結合を示すことを意味するが、この特異性は、絶対的な結合特異性を必要としない。抗体は、その結合が、例えば、擬陽性などの望まない結果を生み出すことなく、試料中の標的タンパク質の存在を決定するものである場合、その意図する標的に対して「特異的」とみなされる。本発明の抗体またはその抗原結合断片は、標的タンパク質に、非標的タンパク質とのアフィニティーよりも、少なくとも2倍、好ましくは少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも20倍、そして最も好ましくは少なくとも100倍強いアフィニティーで結合するであろう。代替的に、または追加的に、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、その標的タンパク質に対して、1×10-8Mより低い、1×10-9M(1nM)より低い、1×10-10Mより低い、1×10-11Mより低い、または1×10-12M(1pM)よりさらに低いKD値により表される結合アフィニティーを有するであろう。本願の抗体は、所定のアミノ酸配列、例えば成熟したヒトFGF19のアミノ酸配列、またはヒトFGF19のN-末端残基38~45を含むポリペプチドに結合するが、その配列を欠いたタンパク質には結合しない場合、所定のアミノ酸配列、例えば成熟したヒトFGF19のアミノ酸配列、またはヒトFGF19のN-末端残基38~45を含むポリペプチドに特異的に結合すると言われる。
【0049】
本明細書において使用される場合、用語「ヒト抗体」は、ヒト免疫グロブリンタンパク質配列のみを含む抗体を意味する。ヒト抗体は、マウス、マウス細胞、またはマウス細胞由来のハイブリドーマにおいて生産される場合、マウスの炭水化物鎖を含んでもよい。同様に、「マウス抗体」または「ラット抗体」は、それぞれマウスまたはラットのみの免疫グロブリンタンパク質配列を含む抗体を意味する。
【0050】
本明細書において使用される場合、用語「モノクローナル抗体」または「mAb」または「Mab」は、実質的に均一な抗体の集団を指し、これは、その集団に含まれる抗体分子が、若干存在し得る起こり得る自然発生突然変異を除いてアミノ酸配列が同一であるということを意味する。「モノクローナル」とは、抗体の実質的に均一な集団から得られる物である抗体の特徴を示し、その抗体がある特定の方法により産生されることを必要とするものと解釈されるものではない。モノクローナル抗体(mAb)は、本技術分野において既知の従来の方法により得ることができる。例えば、Kohler G et al., Nature 1975 256:495-497;米国特許第4,376,110号明細書;Ausubel FM et al., CURRENT PROTPCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY 1992; Harlow E et al., ANTIBODIES: A LABORATORY MANUAL, Cold spring Harbor Laboratory 1988;およびColligan JE et al., CURRENT PROTPCOLS IN IMMUNOLOGY 1993を参照。
【0051】
一実施態様において、ヒトFGF19に特異的に結合する本発明の抗体は、ヒトFGF19のカニクイザルオルソログと交差反応性も示す。本明細書において使用される場合、用語「交差反応性」は、他の種由来のホモログまたはオルソログと反応する抗体の能力を指す。抗体の交差反応性は、当技術分野において既知の任意の方法を用いて決定することができる。例えば、表面プラズモン共鳴(例えば、BIACORE)または同様の技術(例えば、KinExaまたはOCTET)による結合アフィニティーの測定により決定することができる。
【0052】
いくつかの実施態様において、本願の抗体または抗原結合断片は、FGF19抑制CYP7A1発現に影響しないかまたはわずかに影響する。言い換えれば、CYP7A1発現は、抗体または抗原結合断片を投与するとFGF19によりかなり阻害される。より具体的には、CYP7A1発現レベルの変化、または具体的には増加は、FGF19の存在下、抗体または抗原結合断片を投与した後、5%、10%、15%または20%以下である。
【0053】
いくつかの実施態様において、本願の抗体または抗原結合断片は、FGF19維持胆汁酸生合成を損なわないまたはわずかに損なう。安定な胆汁酸恒常性は、関連組織における胆汁酸代謝に関与する1個以上の遺伝子の転写または発現レベルをモニターすることにより決定することができる。例えば、該遺伝子は、胆汁酸トランスポータータンパク質をコードする遺伝子であり得る。測定される具体的な遺伝子は、肝臓、腎臓および/または回腸におけるASBT、IBABP、CYP7A1、NTCP、OATP2、BSEP、OSTα、OSTβ、MRP2、MRP3および/またはMRP4であり得る。肝臓、腎臓および/または回腸におけるASBT、IBABP、CYP7A1、NTCP、OATP2、BSEP、OSTα、OSTβ、MRP2、MRP3および/またはMRP4の1個以上の発現レベルの変化は、FGF19存在下、抗体または抗原結合断片を投与した後、例えば5%、10%、15%、または20%以下に制限される。
【0054】
本願の抗体は、精製プロセスにかけ、望ましくない材料を除去し、精製された抗体を得ることができる。抗体を精製するための従来の方法は、本技術分野において周知のカラムクロマトグラフィー法を含むが、これに限定されるものではない。
【0055】
本発明の抗体または抗原結合断片は、単離された抗体であり得る。用語「単離された」とは、抗体または抗原結合断片は、少なくとも部分的にそれらを生産する細胞、細胞培養物、成長培地、発現系由来の他の生物学的材料または非生物学的材料を含まないということを意味する。該材料は、核酸、タンパク質、脂質、炭水化物、緩衝剤、塩、または細胞デブリおよび成長培地などの他の材料を含む。
【0056】
本願はまた、抗体または抗原結合断片がFGF19に結合し、本明細書において説明する抗体の少なくとも一つの性質を有する限り、1個以上の保存的置換を含む抗体またはその抗原結合断片も検討する。アミノ酸の「保存的置換」は、本技術分野においてよく知られており、あるアミノ酸残基の、構造または機能において同様の側鎖を有する別のアミノ酸残基への変更を指す。例えば、保存的置換の例示的なリストを以下の表に提供する。
【0057】
本願はまた、本願の抗体またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸配列も提供する。「単離された核酸」または「単離されたポリヌクレオチド」とは、単離されたポリヌクレオチドが天然に見出されるポリヌクレオチドの全てまたは一部から除去されるか、または単離されたポリヌクレオチドが天然には結合されていないポリヌクレオチドに結合されているDNAまたはRNAを意味する。特定のヌクレオチド配列を「含む(comprising)」単離された核酸分子は、その指定された配列に加え、列挙された核酸配列のコード領域を制御する動作可能に結合された調節配列を含んでもよい。コドン縮退のため、当業者は、特定のアミノ酸配列が異なるヌクレオチド配列によりコードされ得ることを理解することができる。
【0058】
治療使用
本開示は、異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達により引き起こされるかまたはそれに関連する疾患または障害の予防、治療または再発予防のための方法であって、それを必要とする対象に治療的に有効な量の本願の第一の態様の抗体または抗原結合断片、または本願の第二の態様の医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。具体的な実施態様において、疾患または障害は、異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達により引き起こされるかまたはそれに関連するがんである。より具体的な実施態様において、がんは、肝細胞癌種(HCC)である。
【0059】
本明細書において使用される場合、用語「投与(administration)」、「投与する(administering)」、「治療する(treating)」および「治療(treatment)」は、対象、例えばヒトを含む動物に、または細胞、組織、器官、または生体液に適用する場合、外因性の医薬品、治療薬、診断薬または組成物の、対象、細胞、組織、器官、または生体液への接触を意味する。細胞の治療は、試薬の細胞への接触、ならびに試薬の液体への接触(ここでその液体は細胞と接触している)を包含する。用語「投与」および「治療」はまた、インビトロおよびエクソビボ治療、例えば細胞の、試薬、診断、結合化合物または別の細胞による治療を含む。
【0060】
本明細書において使用される場合、用語「治療的に有効な量」は、疾患、または疾患または障害の少なくとも一つの臨床的症状を治療するために対象に投与する場合、疾患、障害または症状のためのそのような治療をもたらすのに十分である抗体の量を指す。「治療的に有効な量」は、抗体、疾患、障害、および/または疾患または障害の症状、疾患、障害、および/または疾患または障害の症状の重症度、治療される対象の年齢、および/または治療される対象の体重によって変化し得る。任意の事例での適切な量は、陶業差hに明らかであり得るか、または常法の実験により決定され得る。併用療法の場合、「治療的に有効な量」は、疾患、障害または状態の効果的な治療のための組合せ対象の総量を示す。
【0061】
本願の文脈において、「対象(subject)」とは、動物、好ましくは哺乳類、例えば霊長類、好ましくは高等霊長類、例えばヒトを指す。
【0062】
本明細書において用語「がん」または「腫瘍」は、上方調節された細胞増殖により典型的に特徴づけられる哺乳類における生理学的状態を意味するかまたは説明する。好ましい実施態様において、がんは異常なFGF19-FGFR4シグナル伝達に関連付けられる。本願の抗体または抗原結合断片は、本願の抗-FGF19抗体が、例えば、乳がん、前立腺がん、結腸がん、肺がん、および胃がんを治療するために使用することができると考えることができる。
【実施例
【0063】
材料および方法
以下の材料および方法が実施例において使用される。
【0064】
細胞株
ヒト肝細胞癌種細胞株Hep3Bは、北京大学健康科学センターのFengming Lu博士の研究室から贈られた。Hep3細胞は、10%ウシ胎仔血清を追加したDMEM培地(ギブコ、DMEM、C11965500BT)で培養された。細胞は、5%CO2雰囲気、37℃で加湿インキュベータ内で培養された。
【0065】
蛍ルシフェラーゼリポーター遺伝子を発現するHep3-Luc23安定細胞株は、レンチウイルス形質導入により生成され、ピューロマイシンで選択された。
【0066】
FreeStyle 293-F細胞株は、FreeStyle(商標)293発現培地(細胞株および培地の双方はサーモフィッシャーサイエンティフィックから)中で、37℃、8%CO2雰囲気下、加湿されたオービタル振とう台(orbital shaker platform)において培養された。
【0067】
タンパク質の発現および精製
ヒトFGF19(配列番号1)、およびN-末端欠失変異体FGF19ΔNT(配列番号1のArg43~Lys216に対応するアミノ酸配列を有する)およびFGF19アラニン置換突然変異体を含むその変異体について、タンパク質のコード配列を、C-末端His-Aviタグを有する哺乳類細胞発現ベクターにクローニングし、これらを一時的にFreeStyle293-F細胞(フィッシャーサイエンティフィック)に、単独で、またはE.Coli BirA ビオチン-タンパク質リガーゼのタンパク質配列をコードする発現ベクターと1:1の比率で同時トランスフェクトした。トランスフェクション後3~5日で、細胞上清を回収し、タンパク質またはビオチン化タンパク質をNi-NTAアフィニティークロマトグラフィー(キアゲン)を用いて精製した。
【0068】
全長ヒトIgG1抗体生成については、VHおよびVLのコード配列を、ヒトIgG1重鎖(HC)哺乳細胞発現ベクターおよび軽鎖(LC)哺乳細胞発現ベクターにそれぞれクローニングした。FreeStyle293-F細胞を二つの発現ベクタープラスミド(HCおよびLC)により1:1の比率で一時的に同時トランスフェクトした。トランスフェクション後3~5日で、細胞培養上清を、タンパク質Aビーズを備えたアフィニティークロマトグラフィー(GEヘルスケアライフサイエンス)を用いるヒトIgG抗体の精製のために回収した。
【0069】
FGF19についての抗体ライブラリーのスクリーニング
FGF19N-末端の残基Arg23~Ile42とそれに続くC末端にビオチン修飾を有する5つのアミノ酸(SGSGK)を含むFGF19N-末端ペプチド(配列番号24)を、Scilight-peptide(北京、中国)により純度95%超で合成した。N-末端FGF19ペプチドまたはビオチン化全長FGF19タンパク質を、標的タンパク質としてストレプトアビジン-結合磁気M-280 Dynabeads(登録商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック)上に捕捉し、その後、93人の健常者ドナーの末梢血単核細胞から構築されたヒト非免疫抗体ファージディスプレイ・ライブラリー(サイズ:1.0×1010)から調製された5×1012ファージ-scFv(可変ドメインの一本鎖断片)粒子でインキュベートした。セレクションを2ラウンド行った。第2ラウンドのセレクションについては、使用する標的タンパク質を減らし、広範な洗浄工程を適用した。従来の塩基性トリエタノールアミン溶液を用い、標的タンパク質への特異的結合を示すファージを溶離した。
【0070】
その後、単一クローンを採取し、回収して(rescue)細菌培養上清においてファージ-scFvsを生成し;これらは、酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)において全長FGF19への結合をFGF19のN-末端欠失バージョン(FGF19ΔNT)と比較することにより、FGF19のN-末端への特異的結合についてスクリーニングした。FGF19ΔNTよりも高いアフィニティーでFGF19に結合するクローンを、FGF19のN-末端への特異的結合を有する候補として選抜し、これらのクローンの重鎖の可変領域(VH)および軽鎖の可変領域(VL)の遺伝子を配列決定した。選抜されたクローンの対応するアミノ酸配列をアラインさせて重複するクローンを排除し、それにより、さらなる特徴付けについて独自の抗体を同定した。
【0071】
アフィニティー向上のための31A3抗体サブ-ライブラリー構築およびセレクション
CDR3-標的ランダム化を用いて抗体31A3のアフィニティーを向上させるために、31A3のHCDR3およびLCDR3についてのランダム変異導入法を伴うサブ-ライブラリーをNNK縮退コドンにより構築した。構築した抗体サブ-ライブラリーのサイズは1.23×108であった。抗体サブ-ライブラリーセレクションおよびスクリーニングは、FGF19についての抗体ライブラリーのスクリーニングに関して上述したものと同様になされた。磁気ビーズから高アフィニティーヒットを得るために、31A3との競争溶出を用いた。その後、単一クローンを採取し、回収して細菌培養上清においてファージ-scFvsを生成し、FGF19への結合についてスクリーニングした。31A3よりも高い結合アフィニティーを有するヒットのみを確保した。
【0072】
ELISAアッセイ
2μg/mLのNeutrAvidin(シグマアルドリッチ)リン酸鑑賞生理食塩水(PBS)を、96ウェルのU底プレート(ヌンク(Nunc)、MaxiSorp(商標))上にウェル当たり100μLでコートし、4℃で一晩インキュベートした。その後、ウェル当たり100μLで、2μg/mLのビオチン化FGF19またはFGF変異体を、30℃、0.5~1時間のインキュベーションによりプレート上に捕捉した。FGF19またはFGF19変異体も96ウェルのU底プレート上に直接ウェル当たり100μLでコートし、4℃で一晩インキュベートした。hIgG1抗体に基づくELISAのために、2%の無脂肪乳を含むPBSに3倍連続希釈された抗体をウェル当たり100μL加えた。競争ELISAについて、試験抗体を3倍連続希釈とし、競争相手のFGFR4-hFcと混合した。その後、結合した抗体をHRP-共役ヤギ抗-hFc抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて検出した。
【0073】
表面プラズモン共鳴分析(SPR)アッセイによる結合速度論分析
本願の抗-FGF19ヒトIgG1抗体の速度論分析は、Biacore T200(GEヘルスケアライフサイエンス)を用いて25℃で行われた。抗-hFc抗体(GEヘルスケアライフサイエンス)をCM5センサーチップ上にアミン-結合キット(GEヘルスケアライフサイエンス)を用いて固定した。本願の抗-FGF19ヒトIgG1抗体を、リガンドとしてセンサーチップ上に捕捉し、続いて分析物FGF19(100nMから2倍連続希釈で)またはFGF19アラニン突然変異体(50nM)を各フローセルに注入した。陰性対照としてバッファー(0.5%Tween20および0.3mM EDTAを有するHBS)の注入が供された。各結合および解離サイクル間の再生バッファーとして3M MgCl2を用いた。結合速度(ka)、解離速度(kd)、およびアフィニティー定数(KD)を、BiacoreT200評価ソフトウェアを用いて計算した。
【0074】
細胞増殖アッセイ
ヒトHCC細胞株Hep3を、1%ウシ胎仔血清を補足したDMEM中の種々の濃度のFGF19またはFGF19変異体で処理し、過剰な細胞増殖を誘導した。抗-FGF19抗体によるFGF19-誘導細胞増殖に対する阻害活性の評価のため、15μg/ml(100nM)hIgG1抗体を細胞培養培地に加えた。72時間後、細胞増殖をCell Counting Kit-8(ドージンドーモレキュラーテクノロジーズ)を用いて製造業者の製品取扱説明書に従って測定した。
【0075】
肝臓におけるCYP7A1の発現
5~6週齢のC57BL/6マウスを、2μgの(1)FGF19、(2)FGF19変異体、または(3)FGF19と60μg抗FGF19抗体の腹腔内(i.p.)注射の前、一晩断食させた。マウスをi.p.注射の3時間後に安楽死させ、肝臓を採取した。続くCYP7A1 mRNA発現レベルの分析のため、肝臓の総RNAをTRIzol試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて抽出し、相補DNA(cDNA)を、Prime Script RT-PCR Kit(タカラ)を用いて逆転写により作成した。ABI Fast 7500リアルタイム装置(アプライドバイオシステムズ)を用いるqPCRにより、CYP7A1 mRNA発現レベル(GAPDHと比較して)を評価した。
【0076】
動物実験
NOD SCIDおよびNSGマウスを、抗-FGF19抗体の抗-腫瘍活性を評価するために用いた。6~8週齢のマウスの右側腹部に、5×106Hep3細胞(マウス当たり100μl)を皮下注射した。マウスを、等価平均腫瘍生物発光強度または腫瘍体積に基づき3つの群(群当たりn=6)に分け、200μgのG1A8または対照IgGを週2回腹腔内(i.p.)注射した。インビボで、腫瘍を抱えるマウスの腫瘍生物発光強度を、15mg/kgのD-ルシフェリン(パーキンエルマー)のi.p.注射の後、IVIS Lumina III In Vivo Imaging System(パーキンエルマー)を用いて測定した。腫瘍体積は電子カリパスを用いて測定し、式3.14×L×W2/6を用いて計算した(式中、LおよびWはそれぞれ最大および最小の測定された直径である)。全ての動物プロトコルは、中国の実験動物の収容および飼養のための国内ガイドラインにより実施され、NIBSでIACUCよりの承認のうえ、組織の規制に従い行われた。BALB/cヌードマウスでの患者由来の異種移植片における抗体の抗-腫瘍効果を評価するための研究は、クラウンバイオサイエンス社(Crown Bioscience Inc.)で承認されたIACUCプロトコルのもとで実施された。
【0077】
本願の抗体、具体的には、G1A8の安全性評価は、JOINN研究所(北京)において実施された。体重~3kgの3~4歳の健常な実験に使われたことのないカニクイザルに、30mg/kg体重の量でG1A8抗体を、対照として30mg/kg体重の量で16日目に生理食塩水を、静脈内注射した。臨床観察、体重、体温、血液化学、および解剖病理を評価した。G1A8の薬物動態分析のため、血液試料を種々の時点(1日目、8日目、15日目、23日目、および30日目)で採取した。肝臓、回腸、および腎臓試料を、胆汁酸代謝に関連する遺伝子のRNA分析のための研究の終わりに採取した。
【0078】
FGF19-G1A8複合体の結晶化および構造決定
FGF19およびG1A8-Fabは、FreeStyle 293-F細胞において別々に発現され、Ni-NTAフローサイトメトリー(キアゲン)により独立して精製した。FGF19-G1A8複合体を得るため、FGF19およびG1A8-Fabは、1:1モル比で混合し、4℃で一晩インキュベートし、さらに、Superdex S200 10/300カラム(GE ヘルスケア)により10mMのTris-HCl、pH8.0、および500mMのNaClを含むバッファーで精製した。生成したFGF19-G1A8複合体は、その後、18mg/mLに濃縮し、20℃で、1μLのタンパク質と、0.2Mの硫酸リチウム一水和物、0.1MのBis-Tris pH6.9、26%w/vのポリエチレングリコール3350を含む1μLの貯留溶液とを混合することによってハンギングドロップ上記拡散法を用いて結晶化した。四辺形形状の結晶が7日で現れた。結晶を液体窒素中で急速冷凍した。
【0079】
X線回折データを、上海シンクロトロン放射光施設(Shanghai Synchrotron Radiatin Facility)(SSRF)ビームラインBL17Uで収集した。データをHKL2000およびXDSで加工した。結晶はP2111空間群に属し、非対称ユニット当たりFGF19-G1A8複合体の二つのコピーを含む。構造は、サーチモデルとして次の構造:FGF19(PDB ID:2P23)および抗-ステロイドFab5F2構造(PDB ID:3KDM)を用いてPhenixのPhaserを用いて分子置換により決定した。モデルをCootに反復的に構築し、PHENIXにおいて精緻化した。
【0080】
統計学的分析
すべての分析は、GraphPad Prism バージョン6.00を用いて行った。通常の一元配置分散分析(one-way ANOVA)または対応のないスチューデントt検定を群間の比較のために使用した。二元配置分散分析(two-way ANOVA)およびチューキーの多重比較検定を連続型変数の評価のために使用した。カプラン・マイヤー生存分析およびログ・ランク検定を生存分析のために使用した。
【0081】
実施例1.FGF19のN-末端での結合標的の同定
本発明者らは、機能的な違いが全FGF19とそのN-末端欠失バージョンとの間に存在するかどうかを調査するために多様なアッセイを行った。
【0082】
全長FGF19と比較して、FGF19ΔNT変異体(FGF19ΔNTは、配列番号1の残基Arg43~Lys216に相当するアミノ酸配列を有する)は、FGFR4に対して有意に弱い結合アフィニティーを有し、インビトロアッセイにおいて腫瘍細胞増殖を誘導するための活性に有意な低下を発揮した(図1Aおよび図1B)。
【0083】
さらに、全長FGF19と上記N-末端欠失変異体FGF19ΔNTの胆汁酸制御機能を検査した。外因性FGF19が、ヒトFGFR4と90%のアミノ酸同一性を共有するマウス受容体FGFR4に結合によりその胆汁酸制御機能を発揮し、CYP7A1のマウス肝臓転写を抑制するため、この検査においてマウスモデルを使用した(M. Zhou et al., 2014, 上記; R. Goetz et al., Molecular and cellular biology 27, 3417-3428 (2007))。FGF19またはFGF19ΔNTの腹腔内注射の後、これらのマウスにおいて肝臓のCYP7A1遺伝子発現レベルを評価した。統計学的な有意差は、肝臓のCYP7A1遺伝子発現レベルの抑制による胆汁酸制御機能において、全長およびN-末端欠失変異体FGF19ΔNTとの間に観察されなかった(図1C)。この結果を踏まえれば、FGF19のN-末端を標的とする治療剤が潜在的にその腫瘍原生活性をその胆汁酸制御生理学的機能に悪影響を及ぼすことなく阻害できるということが合理的に期待できる。
【0084】
実施例2.ヒトFGF19のN-末端を特異的に標的化する抗体の産生
配列番号1または配列番号24を結合標的として用いる次の二つの異なるセレクション戦略が、FGF19のN-末端を特異的に標的化する抗体を同定するために設計された(図2)。抗体セレクションは、FGF19N-末端ペプチド(配列番号24)または全長FGF19(配列番号1)のいずれかを結合標的として用いることにより実施され、大きな非免疫ヒト抗体ファージディスプレイ・ライブラリー(D. Li et al., Elife 6, 2017, 上記)が選択された。FGF19のN-末端断片と全長FGF19の両方に結合アフィニティーを示す抗体を次のスクリーニング工程のために選択した。
【0085】
ELISAアッセイを使用する次のスクリーニング工程において、全長FGF19およびN-末端欠失変異体FGF19ΔNTの両方を結合標的として使用し、全長FGF19に結合することができるがFGF19ΔNTには結合できないかあるいは弱く結合する抗体を同定した。多くの同定した抗体のなかでも、相対的に高い結合アフィニティーを示し、FGF19のN-末端を特異的に認識する31A3と指定した抗体をさらなる分析のために選択した(図2および3)。
【0086】
実施例3.FGF19の腫瘍原生活性に対する31A3の阻害効果のインビトロ評価
インビトロでFGF19の腫瘍原生活性を阻害する31A3の能力を評価するために抗-増殖アッセイを実施した。31A3が、FGF19により特異的に誘導されるHCC細胞増殖を阻害することができるかどうかを評価するために、HCC細胞株Hep3を外因性FGF19の存在下、31A3で処理した。図4Aに示すように、31A3は、Hep3細胞のFGF19誘導性増殖を阻害した。
【0087】
実施例4.向上された結合アフィニティーを有する31A3誘導突然変異体の作出
FGF19のN-末端に対する31A3のアフィニティーを向上させるために、部位特異的アラニンスキャニング突然変異誘発法を、31A3のHCDR3およびLCDR3領域内で行った。これは、4つのアミノ酸残基、すなわちHCDR3のV96およびW97ならびにLCDR3のY91およびT95が、他のアミノ酸との置換により結合アフィニティーを向上するための潜在的な候補となることを示している。本発明者らは、ついで、HCDR3およびLCDR3領域の上記4つの位置で無作為突然変異を有する31A3誘導抗体を含む抗体ファージディスプレイ・ライブラリーを構築した。この31A3誘導サブライブラリーセレクションのあいだ、31A3-hIgG1タンパク質を、FGF19に対するより高い結合アフィニティーを有する結合剤を排除するための競争相手として使用した。ストリンジェントなバイオパニング選択工程の後、アフィニティーの向上した抗体の小さなパネルが得られた。結果得られた抗体の一つであるG1A8は、3つのアミノ酸が31A3とは異なっており、親の抗体31A3よりも27倍のアフィニティーの増加と、60倍遅い解離速度と、より強い抗-増殖活性を示した(図2図3A図3B、および図4A)。
【0088】
もう一つの変異体抗体HS29は、上記パニングから得られた抗体の小さなパネルの配列分析に基づいて作出された。HS29は、G1A8と同様の結合エピトープ、抗-増殖活性、および結合アフィニティーを有する(図8)。
【0089】
実施例5.インビトロおよびインビボでの有効性
活性のインビトロ試験において、G1A8は、1.39nMのIC50値でFGF19-FGFR4相互作用を遮断した(図4B)。さらに、G1A8はまた、外因性FGF19処置Hep3細胞で強い抗-増殖効果を発揮した(図4A)。
【0090】
その後、インビボでのその抗-腫瘍活性を、異種移植片マウスモデルを用いて評価した(図5)。本発明者らは、まず、ルシフェラーゼを安定に発現するHep3B-Luc23細胞株を確立し、それによりインビボで生物発光イメージングを用いて腫瘍増殖の定量を可能とした。マウスにこれらHep3B-Luc23細胞を右側腹部に皮下注射し、その後、等価平均腫瘍生物発光強度を有する3群に分け、その後、4週間、週に2回の抗体治療(G1A8またはアイソタイプ対照200μg)の腹腔内注射を投与した。腫瘍体積および相対的腫瘍細胞生物発光強度を測定することによる経時的な腫瘍増殖のモニタリングにより、G1A8はアイソタイプ対照抗体と比較して有意に腫瘍増殖を抑制したということが示された(図5A図5C)。
【0091】
移植された野生型Hep3B細胞から形成された異種移植片腫瘍に対する抗-腫瘍有効性も評価した。抗体治療は、腫瘍体積が約100mm3のサイズに達したところで開始した。Hep3Bを有するマウスを等価平均主要堆積で3群に分け、週に2回の抗体(200μgのG1A8またはアイソタイプ対照抗体)の腹腔内注射を3週間受けた。Hep3B-Luc23異種移植片に関する上記結果と同様に、G1A8は、Hep3B腫瘍進行を有意に阻害した(図5D)。さらに、G1A8での治療は、アイソタイプ対照群と比較してマウスの生存を有意に延長した(図5E)。
【0092】
HS29は、G1A8と同様に強い抗-増殖活性を示した(図8C)。HS29の抗-腫瘍活性は、患者由来異種移植片(PDX)腫瘍モデルにおいて試験した(図9A)。HS29の治療は、平均腫瘍堆積が約150mm3に達したところで開始した。10mg/kgのHS29を腹腔内注射で投与されたマウスは、対照マウスと比較して停止した腫瘍増殖を示した。特に、対照マウスは、腫瘍が増殖し続けるあいだ有意な体重減少を示し、それらのうちの2匹は腫瘍の進行による生理学的条件の不良のために死亡したが;一方、HS29治療マウスは、一定の体重を維持し、健康を保持した(図9D)。これらのデータから、インビトロおよびインビボ両方でのHS29の抗-腫瘍活性を確認した。
【0093】
実施例6.マウスおよびカニクイザルにおける安全性評価
本願の抗体、特にG1A8は、FGF19とたった49%のアミノ酸配列同一性を共有するマウスFGF15(ヒトFGF19のオルソログ)と交差反応性を示さないということを見出した(T. J. Wright et al., Dev Biol 269, 264-275 (2004))。この見解を考慮すれば、上述のマウス腫瘍異種移植片モデルは、G1A8治療の安全性プロファイルを評価するためには適切でないおそれがある。それにもかかわらず、ヒトFGF19が、肝臓CYP7A1転写を抑制するためのマウスFGFR4を介してマウスにおいてその胆汁酸制御機能を発揮することを思い出し(M. Zhou et al., 2014, 上記; R. Goetz et al., 2007, 上記)(図1C)、このマウスモデルは、G1A8が肝臓のCYP7A1転写に影響を与えるかどうかを評価するために使用された。驚くべきことに、G1A8は、肝臓のCYP7A1転写のFGF19誘導抑制に影響を与えず(図4C)、これはG1A8がFGF19の胆汁酸制御機能をおそらく妨げないことを示した。
【0094】
先の研究(非特許文献23)は、カニクイザルにおけるヒト化抗-FGF19抗体(1A6)の投与が、体重減少、摂餌量の低下、ひどい下痢およびなどの臨床的兆候と共にFGF19機能の妨害およびCYP7A1遺伝子発現の増加による胆汁酸代謝の崩壊を引き起こし、最終的には10および30mg/kg治療群におけるすべての動物の予定外の安楽死という結果となったことを示した。カニクイザルのFGF19のアミノ酸配列とヒトFGF19のアミノ酸配列とはほぼ同一であった(98%のアミノ酸同一性を共有)。本発明者らはまた、本願の抗体の交差反応性を試験し、G1A8がカニクイザルFGF19およびヒトFGF19の両方に同様の結合アフィニティーで結合することを立証した(図3Aおよび図6L)。したがって、カニクイザルは、G1A8の安全性プロファイル、特にそれがFGF19の胆汁酸制御機能を損なうかどうかを評価するための良好なモデルであることが決定された。
【0095】
4匹の治療を受けていないカニクイザルを無作為に2群に分け、対照生理食塩水、または10mg/kgのG1A8を1日目に、そして30mg/kgのG1A8を16日目に静脈内投与した。各群は1匹の雄と1匹の雌を含んでいた。血液試料を試験期間の初めから終わりまで採取した(図6A)。
【0096】
すべてのサルは2回のG1A8投与で治療を完了し、それらはいずれも、体重減少、摂餌量の低下、液状の糞便または下痢などの1A6(FGF19のC-末端に結合する)について報告されているいかなる臨床的な副作用も示さなかった(図6B)。サルにおける1A6治療(1回投与)の先の研究は、血清総胆汁酸(TBA)レベル、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、およびアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)の顕著な増加を報告した(非特許文献23)。G1A8治療群のサルは当初、G1A8(10mg/kg)治療後15日目(第1回目の検査時点)で血清TBA濃度のわずかな増加を示したが、次のより高用量の30mg/kgの第2回目の投与の16日目ではさらなる増加は観察されず、むしろ減少が観察された(図6C)。この知見は、15日目に観察された血清TBAレベルのわずかな増加は、動物における正常な生理学的変化によって説明できそうであるということを示唆する。総ビリルビン(TBIL)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、およびアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)の血清レベルは、対照生理食塩水またはG1A8のいずれかで処理されたマウスにおいて有意差は示されず、G1A8の投与によって肝臓障害が生じないことを示唆した(図6G図6I)。
【0097】
本発明者らはまた、胆汁酸代謝に影響を与えることが知られている複数の遺伝子の発現レベルを評価するために、胆汁酸リサイクルに関与する器官(肝臓、回腸、および腎臓)からサルの組織試料を採取した(図6D図6F)。G1A8で治療した動物の肝臓において、CYP7A1遺伝子発現に増加は見られず、胆汁酸輸送タンパク質をコードする他の遺伝子の発現は対照群の動物に比べて有意な増加は示さなかった(図6D)。腎臓および回腸において、胆汁酸輸送体の遺伝子の発現は、G1A8治療群と対照群との間で違いはなく(図6E図6F)、胆汁酸のリサイクルおよび代謝は、正常な生理学的レベルで維持されたことを示した。二つの異なるG1A8投与量に関する血清濃度-時間プロファイルにより、10mg/kgおよび30mg/kgで投与されたカニクイザルにおいてそれぞれ174.29時間および188.38時間のG1A8についての同様の終末相半減期が明らかとなった(図6Jおよび図6K)。
【0098】
総合すると、カニクイザルにおけるこれらの安全性評価実験は、G1A8の投与により胆汁酸関連毒性を伴わないことを証明し、したがって、治療的設定におけるG1A8の治療は、胆汁酸の有意な吸収不良または他の胆汁酸関連副作用を引き起こす可能性は低いことが示唆された。
【0099】
実施例7.FGF19-G1A8複合体の構造的分析
FGF19との複合体におけるG1A8のFabバージョンの構造は、本願の抗体とFGF19との間の相互作用の分子基盤を理解するためにX-線結晶学により2.6Å分解能で決定した。抗体G1A8がこの分析のために選択された。
【0100】
構造は、分子置換法により解かれ、良好な配置を有する0.216/0.278のRwork/Rfreeに精緻化された(表1、以下参照)。FGF19およびG1A8の構造において、明確に定義された電子密度を示すFGF19の残基37~172をモデルとした。FGF19およびG1A8の構造は、一見したところ完全な形状相補性を示し、合計983Å2の表面を覆っている。G1A8の可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)に関する覆われた表面領域ほぼ同一である(495Å2対488Å2)。G1A8のエピトープを含む主要な残基は、FGF19のN-末端および配列番号1のアミノ酸残基38~45からなる断片(配列番号2)内にあり、VHおよびVLの間の割れ目の上に位置している(図7Aおよび図7B)。この知見は、上述したようにFGF19のN-末端を特異的に標的化するG1A8の指定された特徴と一致している。
【0101】
【表1】
【0102】
具体的には、FGF19の38~45位までの8個の残基は、図7Cおよび表2により示されるように、疎水性および極性接触の混合によりG1A8のVHおよびVL両方由来の6個すべての相補性決定領域(CDR)ループとの広範な相互作用を保証する(engage)。FGF19のN-末端の残基Trp38の側鎖は、HCDR1~3のAla33、Ser52、Ser57、Tyr59、Gln102およびLeu104により形成される疎水性ポケットに固定され、一方でFGF19のArg45は、それぞれHCDR3およびLCDR2のGlu103およびAsp52と塩架橋相互作用を保証する(図7C)。FGF19/Trp38Ala突然変異体は、G1A8に対して結合アフィニティーの低下を示し、Arg45のAlaへの突然変異が結果として完全な結合の喪失となり(図7D)、これらの相互作用が必要不可欠であることを確認した。FGF19のArg45はまた、HCDR3のAsn100と付加的な水素結合相互作用をなす(図7C)。G1A8の親の抗体31A3は、この同じ位置にValを有するが、この違いはG1A8よりも31A3のアフィニティーが低い原因であるようである(図2および図3A)。G1A8-FGF19複合体構造はまた、FGF19のC-末端の残基168~172がFGF19およびG1A8の相互作用界面でN-末端とごく接近しているということを明らかにした。FGF19のN-末端に沿ってC-末端で残基Leu169は、LCDR2のTyr51およびPro57と疎水性相互作用を形成する。Try51とFGF19/Pro167の骨格カルボニル基との間の水素結合は、FGF19のC-末端相互作用をさらに安定化する。Leu169のAlaへの突然変異は、結果として解離速度が速くなることにより抗体に対する結合アフィニティーを減少させる結果となる(図7D)。
【0103】
【表2】
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図6I
図6J
図6K
図6L
図7A-7B】
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図9D
【配列表】
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