(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】遠心反応装置及び遠心反応方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/00 20060101AFI20250304BHJP
G01N 1/38 20060101ALI20250304BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20250304BHJP
C12N 15/115 20100101ALI20250304BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20250304BHJP
C12M 1/10 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
G01N35/00 D
G01N1/38
C12N15/10 114Z
C12N15/115 Z
C12M1/00 A
C12M1/10
(21)【出願番号】P 2022580169
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 CN2020133038
(87)【国際公開番号】W WO2022115981
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】521542199
【氏名又は名称】ワン チンフン
【氏名又は名称原語表記】WANG, Chin Hung
【住所又は居所原語表記】3F.-3, No. 103, Sec. 4, Nanjing E. Rd., Songshan Dist., Taipei 10580, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【氏名又は名称】河野 広明
(72)【発明者】
【氏名】ワン チンフン
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0246797(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0308160(US,A1)
【文献】特開2011-007778(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117700(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00 - 1/42
C12N 15/00 - 15/90
G01N 1/00 - 1/44
G01N 35/00 - 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心反応装置であって、
遠心シャフトと少なくとも1つの遠心ホルダとを備える遠心ディスクであって、前記遠心ホルダが前記遠心シャフトの周りに環状に配置された遠心ディスクと、
前記遠心ホルダの少なくとも
2つの側に配置された少なくとも
2つの磁気ブロックと
を備え、
前記遠心ホルダが、少なくとも1つの反応領域と少なくとも1つの逆止弁とを備える反応管を着脱可能に保持し、該反応管が磁気ビーズを含み、
前記磁気ビーズが前記
少なくとも2つの磁気ブロックの磁力と遠心力との和の力を受けて前記反応管内を移動する、
遠心反応装置。
【請求項2】
前記
少なくとも2つの磁気ブロックと前記遠心ディスクが接続されておらず、したがって一緒に移動しない、
請求項1に記載の遠心反応装置。
【請求項3】
前記
少なくとも2つの磁気ブロックが電磁石、磁石、又はこれらの組合せである、
請求項2に記載の遠心反応装置。
【請求項4】
前記
少なくとも2つの磁気ブロックと前記遠心ディスクとが接続され、したがって一緒に移動する、
請求項1に記載の遠心反応装置。
【請求項5】
前記
少なくとも2つの磁気ブロックが電磁石である、
請求項4に記載の遠心反応装置。
【請求項6】
前記
少なくとも2つの磁気ブロックと前記遠心ディスクが0~300mmの距離だけ離隔している、
請求項1に記載の遠心反応装置。
【請求項7】
前記遠心力が1~80,000gである、
請求項1に記載の遠心反応装置。
【請求項8】
前記
少なくとも2つの磁気ブロックの前記磁力が1~15,000ガウスの大きさである、
請求項1に記載の遠心反応装置。
【請求項9】
前記反応管の前記逆止弁が、開閉するように電気的に制御され、又は磁気的に制御される、
請求項8に記載の遠心反応装置。
【請求項10】
前記磁気ビーズが、抗体、アプタマー、ペプチド又は核酸を含む生体分子でコーティングされる、
請求項1に記載の遠心反応装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の前記遠心反応装置を用いる遠心反応方法であって、
検体及び/又は反応試薬の少なくとも1つを、前記遠心反応装置内の前記反応管の前記少なくとも1つの反応領域に導入して、反応混合物を形成するステップと、
前記少なくとも1つの反応領域へ磁気ビーズを導入するステップと、
第1の遠心力を受けて前記反応管で遠心プロセスを実施して第1の反応を開始するステップであって、前記磁気ビーズが前記
少なくとも2つの磁気ブロックの磁力と遠心力との和の力を受けて前記反応管内を移動するステップと、
第2の遠心力を受けて前記反応管で遠心プロセスを実施して前記少なくとも1つの逆止弁を開き、それによって前記第1の反応の廃液を排出するステップであって、前記第2の遠心力は前記第1の遠心力よりも大きいステップと、を含み、
前記少なくとも1つの逆止弁が、前記少なくとも1つの反応領域の遠心方向に配置された
方法。
【請求項12】
不純物を除去するために洗浄緩衝液を導入するステップを更に含む、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記磁気ビーズから生成物を回収するステップを更に含む、
請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記磁気ビーズが、抗体、アプタマー、ペプチド又は核酸を含む生体分子でコーティングされる、
請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記磁気ビーズが二酸化ケイ素でコーティングされる、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記生成物がデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)である、
請求項13に記載の方法。
【請求項17】
ポリメラーゼ連鎖反応が前記少なくとも1つの反応領域で実施される、
請求項11に記載の方法。
【請求項18】
核酸ハイブリダイゼーションが前記少なくとも1つの反応領域で実施される、
請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、実験目的の反応装置及び反応方法に関し、より詳細には、遠心力及び磁力下で分子生物学的アッセイをワンタッチで実行するのに有効な遠心反応装置及び遠心反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーの進歩により、生化学的(biochemical)及び分子生物学的(molecular
biological)方法(methods)でアッセイを実行することに対する需要がますます高まっている。磁気ビーズを用いて核酸抽出を実行するための既存の市販の装置は、以下の2つのカテゴリーに分類される。
1.磁気バー 磁気バーとその外側の磁気バースリーブとが反応槽内を回転しながら上下に動き、反応混合物を撹拌する。次いで、反応混合物、磁気ビーズ及び磁気バースリーブは、別の反応槽に移動して次の反応を行うために、反応槽からまとめて取り出される。磁気ビーズ及び磁気バースリーブは、連続的して反応槽に出入りしなければならず、処理プロセスが長くなり、汚染リスクにつながる。更に、反応プロセスで使用される磁気バースリーブ及び反応槽は消耗品であるため、必要に応じて交換する必要があり、それによってコストが増加する。
2.磁気ブロック 磁気ブロックを周囲に配置し、磁気ビーズをマイクロピペット内に配置した状態で、マイクロピペットは溶液を垂直方向に往復させて溶液を混合し、反応を起こさせる。反応混合物を異なる反応槽に移動させて反応させるためには、周囲の磁気ブロックによって、磁気ビーズをマイクロピペットに吸着させる必要がある。磁気ビーズ及びマイクロピペットは、連続的に反応槽に出入りしなければならず、処理プロセスが長くなり、大規模な処理が不可能になる。更に、反応プロセスで使用される特別なマイクロピペット及び反応槽は消耗品であるため、必要に応じて交換する必要があり、それによってコストが増加する。
【0003】
したがって、膨大な数の試料や検体が存在する場合には、迅速かつ効率的に動作し、コストを削減する抽出装置や分析装置を提供する必要がある。しかしながら、既存の市販の抽出装置又は分析装置は、動作に時間がかかり、大量の消耗品を含み、全ての分子生物学的反応をワンタッチで実行することはできない。
【発明の概要】
【0004】
従来技術の前述の欠点を考慮して、本開示の目的は、遠心反応装置を提供することである。磁気ブロックの設計により、遠心プロセス中、反応管内の磁気ビーズは遠心力だけでなく磁気ブロックの磁力も受ける。磁気ビーズは、磁気ブロックの磁力と遠心力との和の力を受けて反応管内を移動する。磁気ビーズの移動により、反応管内の反応混合物が様々な方向に移動し、十分に混合される。更に、遠心力で逆止弁が開き、磁気ビーズに生成物を吸着させ、廃液を排出できるような反応管の設計になっている。したがって、抽出、反応、洗浄及び/又は信号アッセイが同じ反応マイクロチューブ内で行われ、反応管に対する定量的要求が減少するという点で、遠心反応装置は有利である。
【0005】
本開示の別の目的を達成するために、本開示の一実施形態は、
遠心シャフトと少なくとも1つの遠心ホルダとを備える遠心ディスクであって、遠心ホルダは、遠心シャフトの周りに環状に配置された遠心ディスクと、
遠心ホルダの少なくとも片側に配置された少なくとも1つの磁気ブロックとを備え、
遠心ホルダは、反応管を着脱可能に保持し、反応管は磁気ビーズを含み、
磁気ビーズは、磁気ブロックの磁力と遠心力との和の力を受けて反応管内を移動する、遠心反応装置を提供する。
【0006】
好ましくは、磁気ブロックと遠心ディスクとは接続されておらず、したがって一緒に移動しない。
【0007】
好ましくは、磁気ブロックは電磁石、磁石、又はこれらの組合せである。
【0008】
好ましくは、磁気ブロックと遠心ディスクとは接続され、したがって一緒に移動する。
【0009】
好ましくは、電磁石は磁気ブロック内に配置される。
【0010】
好ましくは、磁気ブロックと遠心ホルダとは0~300mmの距離だけ離隔している。
【0011】
好ましくは、遠心力は1~80,000gである。
【0012】
好ましくは、磁気ブロックの磁力は1~15,000ガウスである。
【0013】
好ましくは、反応管は、少なくとも1つの反応領域と、少なくとも1つの逆止弁とを備える。
【0014】
好ましくは、反応管の逆止弁は、電気的に制御又は磁気的に制御されて、開閉する。
【0015】
好ましくは、磁気ビーズは、抗体、アプタマー、ペプチド及び核酸を含む生体分子(biological
molecules)でコーティングされる。
【0016】
本開示の更に別の目的のために、その一実施形態は、
検体及び/又は反応試薬を遠心反応装置内の反応管の少なくとも1つの反応領域に導入して、反応混合物を形成するステップと、
磁気ビーズを反応領域に導入するステップと、
第1の遠心力を受けて反応管で遠心プロセスを実施して第1の反応を開始するステップであって、磁気ビーズが磁気ブロックの磁力と遠心力との和の力を受けて反応管内を移動するステップと、
第1の遠心力よりも大きい第2の遠心力を受けて反応管で遠心プロセスを実施して第1の逆止弁を開き、それによって第1の反応の廃液を排出するステップとを含む遠心反応方法を提供する。
【0017】
好ましくは、本方法は不純物を除去するために洗浄緩衝液を導入するステップを更に含む。
【0018】
好ましくは、本方法は磁気ビーズから生成物を回収するステップを更に含む。
【0019】
好ましくは、磁気ビーズは抗体、アプタマー、ペプチド又は核酸を含む生体分子でコーティングされる。
【0020】
好ましくは、磁気ビーズは二酸化ケイ素でコーティングされる。
【0021】
好ましくは、生成物はデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)である。
【0022】
好ましくは、ポリメラーゼ連鎖反応を反応領域で実施することができる。
【0023】
好ましくは、反応領域において核酸ハイブリダイゼーションを実施することができる。
【0024】
本開示の上記及び他の目的、特徴、及び利点は、以下の説明、好ましい実施形態、及び添付の図面を参照すると明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
以下の詳細な説明には、本開示の実施形態を完全に理解できるようにするための具体的な詳細が十分に含まれている。しかしながら、明らかに、具体的な詳細がない場合にも、1つ又は複数の実施形態を実施することができる。別の状況では、簡潔にするために、周知の構造及びプロセスフローが添付の図面に概略的に示されている。
【0026】
【
図1】本開示の第1の実施形態による遠心反応装置の上面図である。
【0027】
【
図2】本開示の第1の実施形態による遠心反応装置の断面図である。
【0028】
【
図3】本開示の第2の実施形態による遠心反応装置の断面図である。
【0029】
【
図4】本開示の第3の実施形態による遠心反応装置の上面図である。
【0030】
【
図5】本開示の第3の実施形態による遠心反応装置の断面図である。
【0031】
【
図6】本開示の第4の実施形態による遠心反応装置の断面図である。
【0032】
【
図7】本開示の第1の実施形態による外側磁気ブロックにおける磁石の配置方法を示す模式図である。AとA’は連結しており、外側磁気ブロックの三次元構造は円筒形である。磁石は、中実コアブロック内に配置されるが、中空コアブロック内には配置されない。磁気ビーズの移動方向を矢印で示している。
【0033】
【
図8】本開示の第1の実施形態による内側及び外側の磁気ブロックにおける磁石の配置方法を示す模式図である。外側磁気ブロックは外側を取り囲み、内側磁気ブロックは内側を取り囲む。磁石は、中実コアブロック内に配置されるが、中空コアブロック内には配置されない。磁気ビーズの移動方向を矢印で示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本開示の実施形態は、添付の図面を参照して本明細書で説明される。本実施形態は、異なる形態で実施されてもよく、これは、本開示によって請求される主題の特定の実施形態の実施又は適用に何らかの限定を加えるものと解釈してはならない。本実施形態は、特定の実施形態の特徴、並びに特定の実施形態を構築及び動作させるための方法の工程及びその順序を開示する。しかしながら、同一又は同等の機能及び工程の順序を、他の任意の特定の実施形態によって実現してもよい。本実施形態は、本開示の趣旨を当業者に十分に伝えるために、本開示を十分かつ完全に開示することを可能にする。添付の図面に示されている同様の構成要素は、同様の参照番号/符号で示されている。周知の機能及び構造は、簡潔にするために、本明細書では詳細に説明されない。
【0035】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び専門用語は、一般に当業者に理解可能である。技術用語及び専門用語の意味と当業者の技術用語及び専門用語の理解との間に矛盾がある場合には、本明細書(定義を含む)が優先するものとする。
【0036】
本明細書で使用される各単数名詞は、名詞の複数形を含むと解釈されるものとし、本明細書で使用される各複数名詞は、結果が文脈と矛盾しない限り、名詞の単数形を含むと解釈されるものとする。更に、本明細書で使用される「少なくとも1つの(at least a)」、「少なくとも1つの(at least one)」、「1つ又は複数の(one or more)」という表現は同じ意味を有し、「1つ、2つ、3つ以上(one,two,three or more)」を意味する。
【0037】
本明細書において、「から本質的になる(consisting essentially of)」という接続詞は、本明細書で明示的に規定されているもの以外の材料、工程、特徴、成分又は構成要素を含めて、組成物、方法又は装置を定義するために使用され、追加の材料、工程、特徴、成分又は構成要素が特許請求される発明の本質的かつ新規な特徴に有意に影響しない使用シナリオに限定される。「から本質的になる」という接続詞の対象の範囲は、「含む(comprises)」という接続詞の対象の範囲と「からなる(consisting of)」という接続詞の対象の範囲との間にある。
【0038】
本明細書で使用される全ての数値範囲及びパラメータは近似値であることが意図されているが、特定の実施形態で開示される関連する数値は、可能な限り正確に本明細書に提示される。しかしながら、数値は、個々の試験方法によって生じる標準偏差を本質的に必然的に伴う。本明細書で使用される「おおよその(approximate)」という形容詞は、一般に、特定の実施形態で開示される数値が、実際には特定の実施形態で開示される数値よりも最大で10%、最大で5%、最大で1%、又は最大で0.5%大きいか又は小さいという事実を指す。代替的に、本明細書で使用される「おおよその(approximate)」という形容詞は、一般に、当業者によってなされる設計選択に応じて、数値が実際に平均の許容可能な標準偏差内に入るという事実を指す。特に明記しない限り、本明細書に開示される全ての範囲、数、数値及びパーセンテージ(例えば、使用中の材料の量、期間、温度、動作基準、比率などの記述)は、近似であることを意図しており、したがって実施形態に限定されるものではない。したがって、逆に記載されている場合を除き、本明細書に開示される全ての数値及びパラメータは近似値であり、必要に応じて変更される。少なくとも、数値及びパラメータは、有効数字及び数値体系の従来の規則に準拠すると解釈されるものとする。本明細書に開示される数値範囲は、それぞれ端点から別の端点まで定義されるか、又は2つの端点間で定義される。特に明記のない限り、本明細書に開示される数値範囲はそれぞれ端点を含む。
【0039】
一実施形態は、遠心ディスクと少なくとも1つの磁気ブロックを備える遠心反応装置を提供する。遠心ディスクは遠心シャフトと少なくとも1つの遠心ホルダとを備える。好ましい実施形態では、遠心シャフトは遠心ディスクの中心に配置される。遠心シャフトに駆動力を伝達して遠心ディスクを回転させると、遠心ディスクは安定した状態を保ち、シフトすることはない。一実施形態では、遠心ホルダは、遠心シャフトの周りに環状に配置され、遠心ディスクの回転に応じて移動する。
【0040】
一実施形態では、磁気ブロックは遠心ホルダの少なくとも1つの側面に配置される。一実施形態では、磁気ブロックは、遠心ホルダの内側、外側、上側、下側、横側、又はこれらの組合せに配置される。特定の実施形態では、遠心ホルダの内側、外側及び横側に配置された磁気ブロックは、反応管の中心を通る水平面上にあり、一方、遠心ホルダの上側及び下側に配置された磁気ブロックは、それぞれ反応管の水平面の上側及び下側にある。
【0041】
一実施形態では、遠心反応装置の遠心ホルダは、反応管を着脱可能に保持し、反応管には磁気ビーズが含まれる。一実施形態では、磁気ビーズは磁気ブロックの磁力と遠心力との和の力を受けて反応管内を移動する。したがって、磁気ビーズの移動の方向及び速度は、磁気ビーズが受ける力、即ち、磁力と遠心力との和に依存する。本明細書で用いる「磁気ビーズに向かう磁気ブロックの磁力方向」という表現は、磁気ブロックの磁界が磁気ビーズに作用する力の方向を意味する。本明細書で使用される「磁気ビーズに向かう磁気ブロックの磁力の大きさ」とは、磁気ブロックの磁界が磁気ビーズに作用する力の大きさを意味する。好ましい実施形態では、磁気ビーズに向かう磁気ブロックの磁力の方向又は大きさの変化が生じる。
【0042】
一実施形態では、反応管は、遠心ホルダに配置され、遠心ホルダと共に移動する。好ましい実施形態では、遠心ホルダは反応管を着脱可能に保持する。検体又は試薬を手動又は機械で反応管に導入し、次いで、反応管を遠心ホルダに取り付けて遠心プロセスを行う。反応が完了したときにのみ遠心プロセスが終了する。遠心プロセスの終了に続いて反応管を取り外すのではなく、生成物のアッセイ又は回収が続く。代替的に、遠心プロセスの終了に続いて、遠心ホルダから反応管を手動又は機械で取り外し、続いて生成物のアッセイ又は回収を行う。実現可能な実施形態では、反応管は各々、供給管及び分配管にそれぞれ接続された供給ポート及び分配ポートを有する。検体又は試薬は、供給管を通過した後、供給ポートを介して反応管に導入される。廃液又は生成物は、分配ポートを通過した後、分配管を介して反応管から排出される。この状況では、反応管は必ずしも遠心ホルダから取り外されない。一実施形態では、反応管は磁気ビーズを含み、磁気ビーズは遠心力及び磁力を受けて反応管内を移動する。
【0043】
本開示は、磁気ビーズの動き、遠心装置の反応及び動作が影響を受けない限り、反応管の材料、形状又は容量は制限されない。一実施形態では、反応管が作られる材料は、プラスチック、ガラス又は鋼である。反応管が作られるプラスチックとしては、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられ、好ましくはポリプロピレンである。好ましい実施形態では、反応管中の反応中間体又は最終生成物をアッセイ又は監視することを容易にするために、反応管は、光透過性で高度に透明な材料、より好ましくはほぼ透明な材料で作られる。一実施形態では、反応管は、500mL、250mL、50mL、15mL、2mL、1.5mL、0.65mL、又は0.2mLの容量を有する。一実施形態では、実験上の必要性を満たすために、反応管は、その底部の形状が異なって設計されている限り、例えば、円錐形遠心管、平底遠心管又は丸底遠心管である。
【0044】
一実施形態では、各磁気ブロックと遠心ディスクは必ずしも接続されておらず、したがって必ずしも一緒に移動するわけではない。このため、各磁気ブロックと遠心ディスクとは接続されず、遠心ディスクが回転しても磁気ブロックは移動しない。磁気ブロックは、遠心ホルダの内側、外側、上側、下側、又はこれらの組合せに配置される。本実施形態では、遠心ホルダの回転を妨げないように、遠心ホルダの横側には磁気ブロックは配置されない。一実施形態では、磁気ブロックは、電磁石、磁石、又はこれらの組合せである。本開示は、磁石又は電磁石が磁気ビーズを引き付けるのに十分に大きい磁力を発生させる限り、磁石又は電磁石のタイプ及び形状は制限されない。一実施形態では、反応管が回転して異なる方向を向いた後、磁石の数が異なる方向に均等に配置されない。例えば、反応管の中心を通る水平面を基準面とすると、磁石が水平面上にある場合、磁石の磁力の方向と水平面との間に挟角が存在し、磁気ビーズが水平面から離れて上方にシフトすることになる。逆に、磁石が水平面の下にある場合、磁石の磁力の方向と水平面との間に挟角が存在し、磁気ビーズを水平面から下方にシフトさせることになる。磁石は、遠心ディスクに対して様々な方向を向くため、水平又は垂直の位置が変化し、磁気ビーズが反応管内で垂直方向及び水平方向に移動することが可能になる。したがって、磁気ブロックの特定の位置は、磁気ビーズに向かう磁石の磁力の調整に役立ち、それによって磁気ビーズの移動の仕方を制御することができる。一実施形態では、電磁石を作動させたり、作動させなかったりすることで磁力を制御する。したがって、磁力の存在、強度、及び方向は、電流が電磁石を通過するか否か、及びその電流の大きさに依存する。電磁石は、磁石と同じ方法で磁気ビーズの移動を制御する。
【0045】
一実施形態では、各磁気ブロックと遠心ディスクとが接続され、一緒に移動する。これにより、各磁気ブロックと遠心ディスクとが接続され、遠心ディスクの回転に伴って磁気ブロックが移動する。磁気ブロックは、遠心ホルダの内側、外側、上側、下側、横側、又はこれらの組合せに配置される。磁気ブロックは、遠心ホルダの回転を妨げることなく、遠心ホルダの横側に配置される。一実施形態では、磁気ブロックは電磁石である。電磁石の動作原理及び機能は上述した。
【0046】
一実施形態では、各磁気ブロックと遠心ホルダは、0~300mm、好ましくは0~20mm、より好ましくは0~3mmの距離だけ離隔している。各磁気ブロックと遠心ホルダとの間隔が大き過ぎると、磁力が不十分となり磁気ビーズを引き寄せることができず、磁気ビーズの可動範囲が制限される。各磁気ブロックと遠心ディスクとの間の移動モードの不一致に起因する構成要素間の接触摩擦によって引き起こされる摩耗及び破損を防止するために、各磁気ブロックは、遠心ディスクに接続されておらず、遠心ディスクと一緒に移動せず、したがって各磁気ブロックと遠心ホルダとは、好ましくは10mm未満、より好ましくは5mm未満の距離だけ離隔されている状況にある。
【0047】
遠心反応装置の遠心ディスクは、既存の市販の遠心装置とすることができる。本開示は、適切な遠心装置が必要に応じて選択され、その遠心力が調整される限り、遠心力の大きさは制限されない。一実施形態では、遠心力は、0~80,000g、好ましくは0~12,000g、より好ましくは0~6,000gである。実現可能な状況では、反応管は既存の市販の遠心管であり、なおかつ反応混合物を十分に混合することができる。好ましい実施形態では、本開示の反応管は、人手を介さずに廃液を自動的に排出するために、遠心力の大きさに応じて逆止弁を開閉するように制御される。
【0048】
遠心反応装置の磁気ビーズは、既存の市販品の形態で提供される。実現可能な実施形態では、磁気ブロックは、既存の遠心装置に追加的に配置される。磁気ブロックは、遠心分離装置に固定されているが、遠心ディスクと一緒に移動しない。代替的に、磁気ブロックは、遠心装置に固定され、遠心ディスクと一緒に移動する。一実施形態では、磁気ブロックは、1~15,000ガウス、好ましくは1~12,000ガウス、より好ましくは1~8,000ガウスの磁力を生成する。実現可能な実施形態では、磁気ブロックの磁力は同じ又は異なる大きさである。
【0049】
一実施形態では、反応管はそれぞれ、反応試薬、洗浄液及び/又は検体を含む反応混合物を収容するための少なくとも1つの反応領域と、その反応領域の遠心方向に配置された少なくとも1つの逆止弁とを備える。遠心速度又は遠心力が閾値を超えると、逆止弁が開き、反応混合物が遠心力を受けて回転軸から離れる方向に流れ、反応領域から出ることができる。遠心速度又は遠心力が閾値よりも小さいと、逆止弁が閉じ、反応混合物が元の反応領域に逆流するのを防止する。逆止弁は選択的に繰り返し開閉するので、反応の過程で複数回、廃液を排出することができる。更に、反応管は、複数の反応領域に分割されてもよく、その反応領域内で、例えば、タンパク質や核酸などの生体学的分子からなる反応物が精製、増幅及び分析などの反応を行うこともできる。
【0050】
「逆止弁」は、遠心プロセスの開始前に、反応試薬、洗浄液及び/又は検体を反応領域に制御可能に保持し、遠心プロセスの開始と同時に、反応試薬、洗浄液及び/又は検体を一方向に移動させて「逆止弁」を通過させて、別の反応領域に到達させるための逆流防止機構である。
【0051】
逆止弁は異なる原理で動作する。例えば、逆止弁は、異なる弾性定数のばねと異なる重量のボールとを備える機械的逆止弁とすることができる。機械式逆止弁は、金属製又は非金属製である。反応マイクロチューブ内の異なる弁が異なる大きさの遠心力を受けて開閉するように、遠心力の大きさが異なれば、それぞれ弾性定数が異なる弁が対応する。遠心力の大きさが様々であるため、逆止弁は、反応混合物の保持又は排出を制御することができる。更に、逆止弁は、逆止弁を開閉するように電気的に制御又は磁気的に制御することができる。
【0052】
例えば、逆止弁の開閉が圧縮ばねで制御される場合、静止状態では、遠心プロセスや遠心力によるばねの圧縮応力の発生がない場合、圧縮ばねが完全に伸び、その結果として逆止弁が完全に閉止する。遠心力がばねの圧縮応力に達すると、遠心力の大きさが徐々に大きくなることで圧縮ばねは圧縮されて徐々に短くなるため逆止弁が開くようになり、それによって反応混合物が回転軸から離れる方向に移動して、逆止弁を通過することができる。
【0053】
反応プロセス中に生成された全ての廃液は、廃液の量又は反応マイクロチューブが開口部を有するか否かに応じて、気密状態又は真空状態で回収される。一実施形態では、廃液は、遠心反応マイクロチューブが廃液領域を更に含み、かつ反応中に生成された反応混合物又は洗浄液が遠心プロセスの結果として反応領域を出て戻らずに廃液領域に到達するように、逆止弁と反応領域とが分離されている、という条件下で気密回収が行われる。
【0054】
一実施形態では、磁気ビーズは生体分子でコーティングされ、反応混合物がハイブリダイゼーション又は吸着を起こすことができるように適合される。生体分子は、抗体、アプタマー、ペプチド又は核酸を含む。
【0055】
各反応領域の外側は、実質的な接触加熱によって反応領域の温度を上昇させるための加熱モジュールに隣接している。好ましくは、加熱モジュールは、反応領域を効果的に取り囲み、それによって反応領域111の加熱を加速するために、U字形又はO字形である。反応管が複数の反応領域に分割される場合、加熱モジュールを各反応領域の少なくとも片側に配置して、各反応領域の反応温度を独立して制御することが実現可能である。実現可能な実施形態では、遠心装置は内側磁気ベースを備えるが、その外側磁気ベースは加熱モジュールに置き換えられる。
【0056】
一実施形態では、遠心反応装置は、加熱ブロック、液体(例えば、温水)、気体(例えば、高温空気)、又は遠赤外線を介して遠心反応マイクロチューブ内の反応温度を制御するための温度制御モジュールを更に備える。好ましくは、加熱プロセス中、温度制御の効率を高めるために、遠心反応マイクロチューブを取り囲むように加熱ブロックと液体をU字状又はO字状に配置される。
【0057】
一実施形態では、遠心反応装置は、遠心反応マイクロチューブの反応信号をアッセイするための信号アッセイモジュールを更に備えてもよい。例えば、信号アッセイモジュールは、蛍光、フォトルミネッセンス又は可視光写真センシングシステムである。遠心反応マイクロチューブの各反応領域での反応が完了すると、マーカー蛍光、フォトルミネッセンス又は色信号で使用するための生体分子(例えば、抗体、アプタマー、ペプチド又は核酸など)を各反応領域に添加して信号をアッセイし、それによって反応生成物の定性分析又は定量分析を実施する。
【0058】
一実施形態では、磁気ビーズに力を加えるための様々な選択肢があり、磁気ビーズに磁力のみ、遠心力のみ、又は磁力と遠心力の両方を加えることが含まれる。例示目的のために、関連する特定の状況を以下で説明する。
● 遠心ディスクは回転せず、磁気ブロックは磁気ビーズ専用の磁力を発生する。
● 遠心ディスクが回転し、磁気ブロックは、磁気ビーズが遠心力のみを受ける状態で、大きさが0に近いか又は無視できる程度の磁力を発生させる。
● 遠心ディスクは回転し、磁気ブロックは磁力を発生し、磁気ビーズは磁力と遠心力の両方を受ける。
一実施形態では、磁気ビーズに力を加えるための選択肢は、タイミングに依存する。一実施形態では、遠心ディスクは、上方に移動し、下方に移動し、磁気ブロックに対して回転して、磁気ブロックに対するその位置を変化させる。一実施形態では、遠心ディスクは回転せず、場合によっては上方又は下方に移動し、磁気ブロックは回転して上方又は下方に移動する状態で、磁気ビーズを駆動して反応混合物を移動及び混合し、次いで遠心ディスクが回転して遠心力が発生し、その遠心力を受けて逆止弁が開き、それによって廃液を排出する。
【0059】
別の実施形態では、本開示は、検体及び反応試薬を遠心反応装置内の反応管の少なくとも1つの反応領域に導入して反応混合物を形成するステップを含む遠心反応方法を提供する。好ましい実施形態では、検体は、新鮮又は凍結した全血、血清、血漿、骨髄、臍帯血、細胞、尿、死体、組織及び細胞培養物を含む。一実施形態では、反応試薬は、溶解緩衝液、結合緩衝液、洗浄緩衝液又は溶出緩衝液である。
【0060】
遠心式反応方法は、磁気ビーズを反応領域に導入するステップと、第1の反応が起きるように、第1の遠心力を受けて反応管で遠心プロセスを実施するステップであって、磁気ブロックの磁力と遠心力との和の力を受けて、磁気ビーズが反応管内を移動するステップとを含む。好ましい実施形態では、第1の反応は、細胞又は組織中の核酸を溶解緩衝液で曝露することを含む。好ましい実施形態では、反応方法は、磁気ビーズへの核酸の結合を促進するために結合緩衝液を導入するステップを更に含む。好ましい実施形態では、反応方法は、核酸、磁気ビーズ及び結合物質をリンスするだけでなく、塩及び不純物も除去するために洗浄緩衝液を導入するステップを更に含む。遠心ホルダに作用する磁力の方向の変動のために、磁気ビーズは反応管内を移動して十分な混合を促進し、混合プロセスをスピードアップする。
【0061】
遠心反応方法は、第2の遠心力を受けて反応管で遠心プロセスを実施し、逆止弁を開かせ、それによって第1の反応の廃液を排出するステップを更に含む。反応管に溝が配置された状態では、磁気ビーズは、溝の中に落下するため、廃液と一緒に開状態の逆止弁を介して反応管から排出されない。実現可能な実施形態では、第2の遠心力は第1の遠心力よりも大きい。
【0062】
遠心反応方法は、磁気ビーズから生成物を回収するステップを更に含む。好ましい実施形態では、反応方法は、磁気ビーズから生成物をリンスし、抽出するための洗浄緩衝液を導入するステップを更に含む。一実施形態では、生成物は磁気ビーズからリサイクルされる。一実施形態では、生成物から分離された磁気ビーズは、反応管から取り出されるのではなく、磁気ブロックに吸着され、したがって反応管の特定の領域で回収される。好ましい実施形態では、生成物の濃度は、遠心反応装置内の分光光度計を用いてアッセイされる。
【0063】
実験上の必要性を満たすために、遠心反応法で使用するための磁気ビーズは、抗体、アプタマー、ペプチド又は核酸を含む生体分子でコーティングされる。好ましい実施形態では、磁気ビーズは二酸化ケイ素でコーティングされる。実現可能な実施形態では、遠心反応法で生成される生成物は、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)である。実行可能な実施形態では、ポリメラーゼ連鎖反応又は核酸ハイブリダイゼーションが反応領域で実施される。
【0064】
遠心反応装置の特定の実施形態
【0065】
図1に示すように、実施形態1において、遠心反応装置1は遠心ディスク11と磁気ブロック12とを備える。遠心ディスク11は遠心シャフト111と遠心ホルダ112とを備える。遠心シャフト111は遠心ディスク11の中心に配置される。遠心プロセスを開始するために、遠心シャフト111は、遠心ディスク11を回転駆動するための回転軸として機能する。遠心ホルダ112は、遠心ディスク上に配置され、遠心シャフト111を中心として遠心シャフト111を環状かつ対称的に取り囲むように配置される。磁気ブロック12は遠心ホルダ112の少なくとも片側に配置される。遠心ホルダ112の内側に配置され、遠心シャフトに近接して位置する磁気ブロック12は、内側磁気ブロック121である。遠心ホルダ112の外側に配置され、遠心シャフトよりも先端側に位置する磁気ブロック12は、外側磁気ブロック122である。第1の実施形態では、磁気ブロック12は遠心ディスク11と一緒に移動しない。したがって、遠心プロセス中、磁気ブロック12は遠心ディスク11の回転に応じて移動しない。遠心反応装置1は、反応管13と少なくとも1つの磁気ビーズ14とを更に備えてもよい。好ましくは、反応管13は遠心ホルダ112上に着脱可能に配置される。遠心プロセス中、遠心ホルダ112上に配置された反応管13は、遠心ディスク11の回転に応じて移動する。少なくとも一つの磁気ビーズ14は反応管内に配置される。遠心プロセス中、反応管13が遠心ディスク11と一緒に回転することにより、反応管13内に配置された磁気ビーズが移動する。
【0066】
図2は、
図1の一点鎖線に沿った断面図である。
図2に示すように、第1の実施形態では、磁気ブロック12は、上側磁気ブロック123と下側磁気ブロック124とを更に備える。遠心ホルダ112の水平面の上側に配置された磁気ブロック12が、上側磁気ブロック123である。遠心ホルダ112の水平面の下側に配置された磁気ブロック12が、下側磁気ブロック124である。第1の実施形態では、磁気ブロック12は遠心ディスク11と一緒に移動しない。このため、遠心プロセス中、上側磁気ブロック123と下側磁気ブロック124は、遠心ディスク11と一緒に回転しない。
【0067】
図3に示すように、第2の実施形態では、遠心反応装置1の磁気ブロック12は、必ずしも遠心ディスク11の上側、下側、内側、及び外側に配置されていなくてもよい。反応管13内で磁気ビーズ14を移動させる方法を正確かつ繊細に制御するために、磁気ブロック12は、遠心ホルダ112上に配置され、遠心ホルダ112を中心に必要に応じて遠心ホルダの異なる方向に位置決めされる。実現可能な実施形態では、遠心ホルダ112上に配置された6つの前記磁気ブロック12は、遠心ホルダ112と回転軸とを結ぶ線に沿った断面から見て、遠心ホルダ112の中心の周りに互いに60度離間している。
【0068】
図4に示すように、第3の実施形態では、遠心反応装置1は遠心ディスク11と磁気ブロック12とを備える。遠心ディスク11は遠心シャフト111及び遠心ホルダ112を備える。遠心シャフト111は遠心ディスク11の中心に配置される。遠心プロセスを開始するために、遠心シャフト111は、遠心ディスク11を回転駆動するための回転軸として機能する。遠心ホルダ112は、遠心ディスク11上に配置され、遠心シャフト111を中心として遠心シャフト111を環状に取り囲む。磁気ブロック12は遠心ホルダ112の少なくとも片側に配置される。遠心ホルダ112の内側に配置され、遠心シャフトに近接して位置する磁気ブロック12が、内側磁気ブロック121である。遠心ホルダ112の外側に配置され、遠心シャフト111よりも先端側に位置する磁気ブロック12が、外側磁気ブロック122である。遠心ホルダ112の横側に配置される磁気ブロック12が、横側磁気ブロック125である。第4の実施形態では、磁気ブロック12は、遠心ディスク11と一緒に移動する。したがって、遠心プロセス中、磁気ブロック12は、遠心ディスク11の回転に応じて移動する。遠心反応装置1は、反応管13と、少なくとも1つの磁気ビーズ14とを更に備える。反応管13は、遠心ホルダ112に着脱可能に設けられ遠心プロセス中、遠心ホルダ112上に配置された反応管13は、遠心ディスク11の回転に応じて移動する。少なくとも1つの磁気ビーズ14は、反応管13内に配置される。遠心プロセス中、反応管13が遠心ディスク11と一緒に回転することにより、反応管13内に配置された磁気ビーズが移動する。
【0069】
図5は、
図4の一点鎖線に沿った遠心反応装置の断面図である。
図5に示すように、第3の実施形態では、磁気ブロック12は、上側磁気ブロック123と下側磁気ブロック124とを更に備える。遠心ホルダ112の水平面の上側に配置された磁気ブロック12が、上側磁気ブロック123である。遠心ホルダ112の水平面の下側に配置された磁気ブロック12が、下側磁気ブロック124である。本実施形態では、磁気ブロック12は遠心ディスク11と一緒に移動する。そのため、遠心プロセス中、上側磁気ブロック123及び下側磁気ブロック124は、遠心ディスク11の回転に応じて移動する。
【0070】
図6に示すように、第4の実施形態では、遠心反応装置1の磁気ブロック12は、必ずしも遠心ホルダ112の上側、下側、内側、外側、及び横側に配置されなくてもよい。反応管13内で磁気ビーズ14を移動させる方法を正確かつ繊細に制御するために、磁気ブロック12は、遠心ホルダ112上に配置され、遠心ホルダ112を中心に必要に応じて遠心ホルダの異なる方向に位置決めされる。実現可能な実施形態では、遠心ホルダ112に配置された6つの前記磁気ブロック12は、遠心ホルダ112と回転シャフトとを結ぶ線に対して垂直な平面から見たときに、遠心ホルダ112の中心の周りに互いに60度離隔している。
【0071】
本実施形態では、磁気ブロック12は磁石である。実現可能な実施形態では、内側磁気ブロック121又は外側磁気ブロック122に配置された磁石は、水平方向8行及び垂直方向3列に配置され、「行m列n」(m-n)として反時計回りの順序で番号付けされる。特定の実施形態では、外側磁気ブロックの行1列1(1-1)、行3列3(3-3)、行5列1(5-1)、及び行7列3(7-3)、並びに内側磁気ブロックの行2列2(2-2)、行4列2(4-2)、行6列2(6-2)、及び行8列2(8-2)に磁石を配置し、他の磁気ブロックには磁石を配置しない。反応管13内に配置された磁気ビーズ14は、反応管13及び遠心ホルダの反時計回りの回転に応じて移動する。反応管13が異なる方向を向くように回転すると、磁気ビーズ14は、異なる方向を向く内側及び外側の磁気ブロック内の磁石に吸引される。具体的には、遠心ホルダ112が反時計回りに回転すると、磁気ビーズ14は外側磁気ブロックの行1列1(1-1)の磁石を通過する。例えば、磁石(1-1)が発生する磁力の方向と水平面との挟角は+30度であり、これにより磁気ビーズは外側上方に移動することができる。そして、磁気ビーズ14は、内側磁気ブロックの行2列2(2-2)の磁石を通過する。磁石(2-2)が発生する磁力の方向は水平面と平行であるため、磁石(2-2)が発生する磁力の方向と水平面との挟角が0度となり、磁気ビーズは内側下方に移動して水平面に近づくことができる。次いで、磁気ビーズ14は、外側磁気ブロックの行3列3(3-3)の磁石を通過する。磁石(3-3)が発生す磁力の向きと水平面との挟角は-30度であり、磁気ビーズは外側下方に移動することができる。同様に、磁気ビーズは、通過する磁石と一緒に、上方、下方、内側、及び外側に移動する。反応管13が1回転して元の位置に戻った後、磁気ビーズ14は、内側と外側との間で往復運動を4回行い、上側と下側との間で往復運動を2回行う。前述の状況における磁気ブロック内に配置された磁石の具体的な配置を
図7及び
図8に示す。
【0072】
別の実現可能な実施形態では、外側磁気ブロック又は内側磁気ブロックに配置された磁石は、水平方向6行及び垂直方向3列に配置され、「行m列n」(m-n)として反時計回りの順序で番号付けされる。特定の実施形態では、外側磁気ブロックの行1列3(1-3)、行3列2(3-2)、及び行5列1(5-1)、並びに内側磁気ブロックの行2列3(2-3)、行4列2(4-2)、及び行6列1(6-1)に磁石を配置するが、他の磁気ブロックには磁石を配置しない。反応管13内に配置された磁気ビーズ14は、反応管13及び遠心ホルダの反時計回りの回転に応じて移動する。反応管13が異なる方向を向くように回転すると、磁気ビーズ14は、異なる方向を向く内側及び外側の磁気ブロック内の磁石に吸引される。具体的には、遠心ホルダ112が反時計回りに回転すると、磁気ビーズ14は、外側磁気ブロックの行1列3(1-3)の磁石を通過する。例えば、磁石(1-3)が発生する磁力の方向と水平面との間の挟角は-30度であり、磁気ビーズは外側下方に移動することができる。次いで、磁気ビーズ14は、内側磁気ブロックの行2列3(2-3)の磁石を通過する。磁石(2-3)によって発生する磁力の方向と水平面との間の挟角は-30度であり、磁気ビーズは内側に移動するが、反応管13の中央部及び下部に留まることができる。次いで、磁気ビーズ14は、外側磁気ブロックの行3列2(3-2)の磁石を通過する。磁石(3-2)が発生する磁力の方向は水平面と平行であるため、磁石(3-2)が発生する磁力の方向と水平面との挟角は0度であり、磁気ビーズは外側上方に移動して水平面に近づくことができる。同様に、磁気ビーズは、通過する磁石と一緒に、上方、下方、内側、及び外側に移動する。反応管13が1回転して元の位置に戻った後、磁気ビーズ14は内側と外側との間で往復運動を3回行い、上側と下側との間で往復運動を1回行う。上記では、磁気ブロック内での水平方向の行及び垂直方向の列の磁石の配置について説明したが、当業者は、水平方向の行及び垂直方向の列の数及び位置を調整することを含めて、必要に応じて磁気ブロック内の磁石の配置を調整することができ、これによって前述の説明に限定されることはない。
【0073】
また、上記第3又は第4の実施形態では、反応管と一緒に移動する磁気ブロックを用いて、電磁石を磁気ブロック12内に配置することが好ましい。したがって、本実施形態は、電磁石の磁力の有無を制御して、遠心ホルダが回転して異なる方向を向くにつれて磁力の方向を変えることができるという点で有効である。
【0074】
遠心反応法の具体的実施形態
1)1~200μLのアッセイ対象の検体(例えば、培養細胞試料)を検体チャンバ(例えば、1.5mL遠心チューブ又は96ウェルプレート)から取り出し、1~200μLのアッセイ対象の検体を反応管に添加する。
2)1~200μLの溶解緩衝液を試薬リザーバー(例えば、1.5mL遠心チューブ)から取り出し、1~200μLの溶解緩衝液を反応管に添加する。
3)低速(例えば、0.05~10gの遠心力下)で遠心プロセスを実行し、検体と溶解緩衝液を反応領域で混合させ、それによって逆止弁を閉じることができる。
4)1~20μLの磁気ビーズを試薬リザーバー(例えば、1.5mL遠心チューブ)から取り出し、1~20μLの磁気ビーズを反応管に添加する。
5)1~200μLの結合緩衝液を試薬リザーバー(例えば、1.5mL遠心チューブ)から取り出し、1~200μLの結合緩衝液を反応管に添加する。
6)検体から遊離した核酸と磁気ビーズとが反応領域内の結合緩衝液で混合され、それによって逆止弁が閉じることができるように、低速(例えば、0.05~10gの遠心力下)で遠心プロセスを実行する。
7)磁気ブロックに吸着した磁気ビーズを反応管の溝に落下させた後、高速(例えば、100~500gの遠心力下)で遠心プロセスを実行し、逆止弁を開き、混合物中の不純物やバッファーを反応領域から排出する。
8)1~200μLの洗浄緩衝液を試薬リザーバー(例えば、1.5mL遠心チューブ)から取り出し、1~200μLの洗浄緩衝液を反応管に添加する。
9)核酸が結合した磁気ビーズと洗浄緩衝液が反応領域で混合され、それによって逆止弁が閉じることができるように、低速(例えば、遠心力0.05~10g)で遠心プロセスを実行する。
10)磁気ブロックに吸着した磁気ビーズを反応管の溝に落下させた後、高速(例えば、100~500gの遠心力下)で遠心プロセスを実行し、逆止弁を開き、混合物中の不純物やバッファーを反応領域から排出する。
11)溶出緩衝液1~200μLを試薬リザーバー(例えば、1.5mL遠心チューブ)から取り出し、溶出緩衝液1~200μLを反応管に添加する。
12)核酸が結合した磁気ビーズ及び溶出緩衝液が反応管の溝内で混合され、それによって逆止弁が閉じたままであるように、低速(例えば、0.05~10gの遠心力下)で遠心プロセスを実行する。
13)磁気ビーズが磁気ブロックに引き付けられることを可能にし、それによって磁気ビーズが反応管内に集まり、遠心シャフトに近接して配置され、適所に固定されることを可能にする。
14)遠心反応装置内の分光光度計で核酸濃度を測定する。
【0075】
したがって、本開示の遠心反応装置及びその遠心反応方法は、分子生物学的な反応(molecular biological
reaction)をワンタッチで実行するのに有効である。遠心力と磁力を受けて、磁気ビーズが駆動されて移動し、短時間で反応混合物を十分に混合することができる。遠心力及び反応管は、エネルギーを節約し、スペースを節約し、アッセイプロセスを大幅に短縮するために、分子生物学的アッセイ装置(molecular
biological assay machine)の小型化に役立つ。更に、反応プロセスにより、使い勝手を向上させ、迅速かつ安全な操作を確実にし、エネルギーを節約し、アッセイ精度を高め、費用対効果を達成し、汚染を防止するために、異なる機器間での手間のかかる切替えが不要になる。
【0076】
本開示の前述の実施形態は本開示を限定するものではなく例示である。本開示の趣旨を逸脱しない範囲で当業者が好ましい実施形態に対して行った同等の修正又は変更は、本開示の特許請求の範囲に含まれるとみなされなければならない。
【符号の説明】
【0077】
1 遠心反応装置
11 遠心ディスク
111 遠心シャフト
112 遠心ホルダ
12 磁気ブロック
121 内側磁気ブロック
122 外側磁気ブロック
123 上側磁気ブロック
124 下側磁気ブロック
125 横側磁気ブロック
13 反応管
14 磁気ビーズ